説明

車両用物体検知装置

【課題】レーダ装置の検知領域を有効に活用する。
【解決手段】レーダ装置15と、自車軌跡推定部31と、レーダ装置15の検知結果および自車軌跡推定部31の推定結果に基づいて自車両の制御対象とすべき物体を決定する制御対象決定部36と、を備えた車両用物体検知装置1において、物体の中心位置を算出する中心位置算出手段と、物体の一部がレーダ装置15の検知領域の左端または右端に位置するか否かを判定する領域端判定手段と、運転者の加速抑制意志または減速意志を検知する運転意志判断部34と、を備え、制御対象決定部36は、物体が検知領域の左端または右端に位置すると判定され且つ物体の中心位置算出条件を満たしていない場合には該物体を制御対象から除外するが、運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、物体の中心位置算出条件を満たしていない場合であっても該物体を制御対象とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用物体検知装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両に搭載されたレーダなどを用いて自車両の直前を走行する車両(先行車両)を認識し、先行車両との車間制御を行う車両制御装置、および、運転者が設定した走行速度で定速走行制御を行う車両制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この車両制御装置では、運転者が車両内部に設けられたスイッチなどを用いて、車両制御装置をON、自車両の設定速度、先行車両までの距離モード等を設定すると、車両制御装置はその設定に基づいて、先行車両との車間距離を一定に保つ車両制御(以下、車間制御付きクルーズコントロールという)を行う。この車両制御の実現にあたっては、自車両の追従対象となる先行車両を確実に認識することが重要である。
【0003】
特に、渋滞などにより低速域で追従車両制御を実行する場合には、追従距離が比較的に近くなるため、近距離領域において迅速且つ正確に先行車両を認識する必要がある。また、車両に搭載されるレーダ装置の検知領域(検知角度範囲)には限りがあるので、その限られた検知領域を有効に活用することが要求される。
ところで、先行車両の中心位置を算出する方法として、複数の走査領域(以下、チャンネルという)に分割された検知領域をレーダ装置で走査し、先行車両からの反射波の受信レベルが最大となったチャンネルを先行車両の中心位置として算出する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−173500号公報
【特許文献2】特開平11−64500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した先行車両の中心位置算出方法では、図4において他車両VT1で示すように先行車両が検知領域内に収まっていて、連続して隣り合うチャンネルの反射波の受信レベル(以下、検知レベルという)が図5(A)に示すように三角山形になった場合(以下、山形パターンという)にはその最大検知レベルのチャンネルを他車両VT1の中心位置として算出する。
しかしながら、図4において他車両VT2,VT3で示すように先行車両が検知領域の端部に存在するため検知レベルが山形パターンにならず、図5(B)、(C)に示すように検知領域の端部に位置するチャンネル(端チャンネル)の検知レベルが最大となった場合(以下、非山形パターン)には、最大検知レベルのチャンネルが他車両VT2,VT3の中心位置か否か疑わしく、また、車両制御に必要な検知データか否か疑わしいので、この場合には誤検知防止のため中心位置を算出しない。
なお、図5において、実線で検知レベルが示されているチャンネルは実際に反射波が検知されたチャンネルを表し、破線で検知レベルが示されているチャンネルは、レーダ装置の検知領域が広ければ反射波が検知されるはずのチャンネルを表している。
【0005】
そして、従来の車両制御装置では、前述のように中心位置が算出された先行車両に対しては追従車両制御の制御対象とするが、中心位置が算出されなかった先行車両に対しては追従車両制御の制御対象としていなかった。
そのため、結果的に、特に低速域で追従距離が比較的に近くなった場合に、レーダ装置の検知領域を有効に活用できないという課題があった。
そこで、この発明は、自車両から近い領域においてもレーダ装置の検知領域を有効に活用することができる車両用物体検知装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る車両用物体検知装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、自車両の進行方向の検知領域に向けて電磁波を発信し該電磁波が前記検知領域内に存在する物体により反射された反射波を受信して前記物体を検知する物体検知手段(例えば、後述する実施例におけるレーダ装置15)と、自車両の走行軌跡を推定する走行軌跡推定手段(例えば、後述する実施例における自車軌跡推定部31)と、前記物体検知手段の検知結果および前記走行軌跡推定手段の推定結果に基づいて自車両の制御対象とすべき物体を決定する制御対象決定手段(例えば、後述する実施例における制御対象決定部36)と、を備えた車両用物体検知装置(例えば、後述する実施例における車両用物体検知装置1)において、前記物体からの反射波および中心位置算出条件に基づいて物体の中心位置を算出する中心位置算出手段(例えば、後述する実施例における物体検知特性確認部33)と、前記物体からの反射波に基づいて該物体の一部が前記検知領域の左端または右端に位置するか否かを判定する領域端判定手段(例えば、後述する実施例における物体検知特性確認部33)と、運転者の加速抑制意志または減速意志を検知する減速意志検知手段(例えば、後述する実施例における運転意志判断部34)と、を備え、前記制御対象決定手段は、前記領域端判定手段により物体が検知領域の左端または右端に位置すると判定され且つ前記中心位置算出手段による中心位置算出条件を満たしていない場合には該物体を制御対象から除外するが、前記領域端判定手段により物体が検知領域の左端または右端に位置すると判定され且つ前記減速意志検知手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、前記中心位置算出手段による中心位置算出条件を満たしていない場合であっても該物体を制御対象とすることを特徴とする。
このように構成することにより、物体が検知領域の端部に位置し、且つ中心位置算出条件を満たしていない場合であっても、減速意志検知手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には該物体に対する運転者の注目度、重要度が高いと推測し、該物体を制御対象とするので、レーダ装置の検知領域を有効に活用することが可能になる。また、検知領域の端部から自車両に接近する物体に対し、該物体を制御対象として認識するタイミングを迅速化させることが可能になる。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記検知領域は複数の走査領域に分割され、前記物体検知手段は複数の走査領域に分割される検知領域を走査することにより物体を検知し、前記中心位置算出手段は、前記検知領域の端部に位置する走査領域に物体が検知され、且つ、該走査領域に対して前記検知領域の中心側に隣接する走査領域に物体が検知されていない場合には、中心位置算出条件を満たしていないとして処理することを特徴とする。
このように構成することにより、検知領域の端部の走査領域でのみ物体が検知されている場合には、物体の中心位置算出精度が低く、信頼性が低いので、中心位置算出条件を満たしていないとして処理するが、このような場合であっても、運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、該物体を制御対象とすることができる。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の発明において、前記検知領域は複数の走査領域に分割され、前記物体検知手段は複数の走査領域に分割される検知領域を走査することにより物体を検知し、前記中心位置算出手段は、前記検知領域の端部に位置する走査領域を含む連続して隣り合う複数の走査領域で物体が検知され、且つ、前記端部に位置する走査領域の検知レベルが他の連続して隣り合う走査領域の検知レベルよりも大きい場合には、中心位置算出条件を満たしていないとして処理することを特徴とする。
このように構成することにより、検知領域の端部に向かって検知レベルが上昇している場合には、物体の中心位置算出精度が低く、信頼性が低いので、中心位置算出条件を満たしていないとして処理するが、このような場合であっても、運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、該物体を制御対象とすることができる。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項2または請求項3に記載の発明において、前記中心位置算出手段は、連続して隣接する複数の前記走査領域で物体が検知され、且つ、前記検知領域の端部に位置していない走査領域の検知レベルが他の連続して隣り合う走査領域の検知レベルよりも大きい場合には、この検知レベルの大きい走査領域を物体の中心位置として算出することを特徴とする。
このように構成することにより、検知領域の端部以外で検知レベルの最大値が検出されている場合には、最大検知レベルが検知された走査領域を物体の中心位置として算出し、この物体を制御対象とすることができる。
【0010】
請求項5に係る発明は、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記中心位置算出手段は、連続して隣り合う複数の走査領域で物体が検知されたときには該複数の物体を纏めて1つの物体として認識し、纏められた1つの物体の中心位置を算出することを特徴とする。
このように構成することにより、複数の走査領域で検知された物体を1つの物体として認識し、中心位置を算出することができる。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記減速意志検知手段は、アクセルペダルまたはブレーキペダルまたは加減速操作スイッチ(例えば、後述する実施例における設定スイッチ20)の操作状態に基づいて運転者の加速抑制意志または減速意志を検知することを特徴とする。
このように構成することにより、運転者の加速抑制意志または減速意志を迅速且つ適切に判断することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
請求項1から請求項5に係る発明によれば、物体が検知領域の端部に位置し、且つ中心位置算出条件を満たしていない場合であっても、減速意志検知手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には該物体に対する運転者の注目度、重要度が高いと推測し、該物体を制御対象とするので、レーダ装置の検知領域を有効に活用することが可能になる。また、検知領域の端部から自車両に接近する物体に対し、該物体を制御対象として認識するタイミングを迅速化させることが可能になる。
請求項6に係る発明によれば、運転者の加速抑制意志または減速意志を迅速且つ適切に判断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明に係る車両用物体検知装置の実施例を図1から図5の図面を参照して説明する。
この発明に係る車両用物体検知装置1は、図1の機能ブロック図に示すように、ヨーレートセンサ11、舵角センサ12、車速センサ13、ナビゲーション装置14、レーダ装置(物体検知手段)15、アクセルセンサ16、ブレーキセンサ17、音声認識装置18、タッチパネル19、設定スイッチ(加減速操作スイッチ)20、減速アクチュエータ21、加速アクチュエータ22、制御状態告知装置23、制御装置30とを備えた車両に搭載されている。この車両用物体検知装置1は、例えば自車両の直前を走行する先行車両に基づいて自車両の車両制御(例えば車間制御付きクルーズコントロールなど)を行う際に、先行車両の検出に使用される。なお、この実施例では、前記車両制御として車間制御付きクルーズコントロールを例にして説明する。
【0014】
ヨーレートセンサ11は自車両のヨーレートを検出し、舵角センサ12は自車両の操舵角を検出し、車速センサ13は自車両の車速を検出して、それぞれ検出結果に応じた検出信号を制御装置30へ出力する。
ナビゲーション装置14は、例えば装置内部で記憶する地図データに対して、GPS(Global Positioning System)やD−GPS(Differential GPS)等を利用して得た現在位置情報に基づいてマップマッチングを行うことで自車両の現在位置を算出し、算出した現在位置に基づいて目的地までの経路探索や経路誘導等の処理を行い、自車両の現在位置等の情報を制御装置30へ出力する。
【0015】
レーダ装置15(物体検知手段)は、例えばレーザ光やミリ波等の電磁波を自車両の進行方向前方の検知領域に向けて発信すると共に、この発信した電磁波が前記検知領域内に存在する物体(例えば、先行車両)によって反射されたときにその反射波を受信し、発信した電磁波と受信した電磁波(反射波)とを混合してビート信号を生成し、制御装置30へ出力する。なお、レーダ装置15の検知領域は複数の走査領域(以下、チャンネルという)に分割されており、レーダ装置15は複数のチャンネルに分割された検知領域を走査する。
【0016】
アクセルセンサ16はアクセルペダルの変位量(踏み込み量)を検出し、ブレーキセンサ17はブレーキペダルの変位量(踏み込み量)を検出して、それぞれ検出結果に応じた検出信号を制御装置30へ出力する。
音声認識装置18は、運転者の発話内容から車両制御システムへの指示内容を識別し、その指示内容に応じた指令信号を制御装置30へ出力する。
タッチパネル19は、運転者が車両制御システムへの指示内容を設定するパネル型スイッチ群であり、指令内容に応じた指令信号を制御装置30へ出力する
設定スイッチ20は、運転者が車両制御システムへの指示内容を設定する各種スイッチ(例えば、車間制御付きクルーズコントロールON/OFFスイッチや、クルーズコントロール時の設定車速を増減する加減速操作スイッチ等)であり、指令内容に応じた指令信号を制御装置30へ出力する。
【0017】
減速アクチュエータ21は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度やブレーキ液圧を制御し、自車両を減速するものである。
加速アクチュエータ22は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度を制御し、自車両を加速するものである。
制御状態告知装置23は、制御装置30から入力した情報をメータ等の表示手段を用いて運転者に報知するものである。
【0018】
制御装置30は、自車軌跡推定部(走行軌跡推定手段)31、制御対象領域設定部32、物体検知特性確認部(中心位置算出手段、領域端判定手段)33、運転意志判断部(減速意志検知手段)34、制御対象決定部(制御対象決定手段)36、制御目標値決定部37、車両制御部38とを備えて構成されている。
自車軌跡推定部31には、ヨーレートセンサ11、舵角センサ12、車速センサ13の検出信号、およびナビゲーション装置14で算出した自車両の現在位置等の情報が入力され、自車軌跡推定部31は、これら入力に基づいて自車両の走行軌跡を推定し制御対象領域設定部32へ出力する。
制御対象領域設定部32は、自車軌跡推定部31から入力した自車両の走行軌跡に基づいて自車線を決定し、設定した自車線の垂直方向に一定の距離範囲内を制御対象とする範囲(以下、制御対象領域という)に設定し、設定した制御対象領域を制御対象決定部36へ出力する。ここで、自車線とは、自車両の進行方向を示す直線である。
【0019】
物体検知特性確認部33は、レーダ装置15から入力されるビート信号に基づいて物体を検知する。ここで、物体検知特性確認部33は、連続して隣り合う複数のチャンネルで物体が検知されたときにはこれら複数の物体を纏めて1つの物体として認識し、纏められた1つの物体の中心位置を算出する。
また、物体検知特性確認部33は、物体からの反射波に基づいて該物体の一部が検知領域の左端または右端に位置しているか否かを判定し、判定結果を制御対象決定部36へ出力する。ここで、検知領域の端部に位置するチャンネル(以下、端チャンネルと称す)で物体からの反射波が検知された場合には、該物体の一部が検知領域の左端または右端に位置していると判定する。
さらに、物体検知特性確認部33は、物体からの反射波の検知レベルのパターンを検出し、検出された検知レベルのパターンが図5(A)の如く山形パターンである場合(すなわち、連続して隣接する複数のチャンネルで反射波が検知され、且つ、検知領域の端部に位置していないチャンネルの検知レベルが他の連続して隣り合うチャンネルの検知レベルよりも大きい場合)には、中心位置算出条件を満足しているとして、最大の検知レベルが検出されたチャンネル位置を物体の中心位置として算出し、該物体と自車両との相対距離、相対速度を算出して制御対象決定部36へ出力する。
【0020】
また、物体検知特性確認部33は、検知レベルのパターンが非山形パターンである場合(すなわち、端チャンネルでのみ反射波が検知され、この端チャンネルに隣接する検知領域中心側のチャンネルでは反射波を検知しない場合、または、図5(B),(C)の如く端チャンネルを含む連続して隣り合う複数のチャンネルで反射波が検知され、且つ、この端チャンネルの検知レベルが他の連続して隣り合うチャンネルの検知レベルよりも大きい場合)には、中心位置算出条件を満足していないとして、物体の中心位置を算出することなく、該物体と自車両との相対距離、相対速度を算出して制御対象決定部36へ出力する。
なお、この実施例においては、物体検知特性確認部33によって、中心位置算出手段、領域端判定手段が実現される。
【0021】
運転意志判断部34には、アクセルセンサ16、ブレーキセンサ17の検出信号、および音声認識装置18、タッチパネル19、設定スイッチ20の指令信号が入力され、運転意志判断部34はこれら入力に基づいて運転者の加速抑制意志または減速意志の有無および強さを検出し、制御対象決定部36へ出力する。例えば、アクセルセンサ16の踏み込み量が減少した場合、あるいは、ブレーキセンサ17のON信号が検出された場合、あるいは、音声認識装置18、タッチパネル19、設定スイッチ20による加速抑制指令あるいは減速指令が検知された場合には、加速抑制意志あるいは減速意志があると判定する。なお、この実施例においては、運転意志判断部34によって減速意志検知手段が実現される。
【0022】
制御対象決定部36は、レーダ装置15によって検知された物体の検知データの中から、制御対象領域設定部32で設定された制御対象領域、運転意志判断部34により判断された運転意志情報、および、物体検知特性確認部33により判断された物体の検知特性に基づいて、制御対象とすべき物体(すなわち、先行車両)を決定する。
また、制御対象決定部36は、制御対象とすべき先行車両を決定した際に、その先行車両との相対距離、相対速度等の情報を制御目標値決定部37へ出力する。
【0023】
制御目標値決定部37は、制御対象決定部36から入力される自車両と先行車両との相対距離、相対速度等の情報に基づいて、車両制御に必要な制御目標値、すなわち車間制御付きクルーズコントロールの場合には目標車速、目標加減速度等を決定する。
車両制御部38は、制御目標値決定部37で決定された制御目標値(目標車速や目標加減速度等)に基づいて、加速アクチュエータ22および減速アクチュエータ21を制御するとともに、現在の制御状態を制御状態告知装置23へ出力する。
【0024】
ところで、従来の車両用物体検知装置の場合には、先行車両がレーダ装置15の検知領域の端部に位置し、且つ、検知レベルのパターンが山形パターンではない場合には、誤検知防止のため該先行車両を制御対象としていなかったが、この実施例の車両用物体検知装置1では、このような場合であっても、運転者が加速抑制意志または減速意志があるときには、運転者の前記先行車両に対する注目度または重要度が高いものであると推測して、前記先行車両を制御対象とした。
【0025】
次に、この実施例における制御対象決定処理を図2のフローチャートに従って説明する。図2のフローチャートに示す制御対象決定処理ルーチンは制御装置30によって一定時間毎に繰り返し実行される。
まず、ステップS101において、レーダ装置15により障害物(先行車両)を検知する。
次に、ステップS102に進み、レーダ装置15の検出データに基づき障害物の物体検知特性(すなわち、検知レベルのパターン等)を確認する。
次に、ステップS103に進み、自車両の走行軌跡に基づいて制御対象領域を設定する。
次に、ステップS104に進み、レーダ装置15により検知された障害物が制御対象領域内に存在するか否かを判定する。
ステップS104における判定結果が「NO」(存在しない)である場合には、ステップS105に進み、制御対象とせず、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0026】
ステップS104における判定結果が「YES」(存在する)である場合には、ステップS106に進む。
ステップS106においては、障害物の検知レベルのパターンから、端チャンネルを含む連続して隣り合う複数のチャンネルで反射波が検知され且つこの端チャンネルの検知レベルが他の連続して隣り合うチャンネルの検知レベルよりも大きいか、あるいは、端チャンネルでのみ反射波が検知されているか、を判定する。なお、このステップS106の処理を実行することにより、障害物の一部が検知領域の左端または右端に位置しているか否かも同時に判定することになる。
【0027】
ステップS106における判定結果が「NO」である場合、すなわち、連続して隣接する複数のチャンネルで反射波が検知され、且つ、端チャンネル以外のチャンネルの検知レベルが他の連続して隣り合うチャンネルの検知レベルよりも大きい場合には、ステップS107に進み、障害物を制御対象とし、本ルーチンの実行を一旦終了する。つまり、この場合には、検知レベルのパターンが山形パターンであり、障害物の中心位置算出条件を満たしているので、この障害物を制御対象として設定する。
【0028】
一方、ステップS106における判定結果が「YES」である場合(すなわち、端チャンネルを含む連続して隣り合う複数のチャンネルで反射波が検知され且つこの端チャンネルの検知レベルが他の連続して隣り合うチャンネルの検知レベルよりも大きい場合、あるいは、端チャンネルでのみ反射波が検知されている場合)には、ステップS108に進み、運転者に加速抑制意志あるいは減速意志があるか否かを判定する。
【0029】
ステップS108における判定結果が「YES」(加速抑制意志あるいは減速意志あり)である場合には、ステップS107に進み、障害物を制御対象とし、本ルーチンの実行を一旦終了する。つまり、この場合には、検知レベルのパターンが非山形パターンであり、障害物の中心位置算出条件を満たしていないが、運転者が加速抑制意志または減速意志があることから、運転者の障害物に対する注目度または重要度が高いものであると推測して、この障害物を制御対象として設定する。
【0030】
一方、ステップS108における判定結果が「NO」(加速抑制意志および減速意志なし)である場合には、ステップS105に進み、障害物を制御対象とせず、本ルーチンの実行を一旦終了する。つまり、この場合には、検知レベルのパターンが非山形パターンであり、障害物の中心位置算出条件を満たしておらず、しかも、運転者に加速抑制意志および減速意志がないことから、運転者の障害物に対する注目度または重要度が低いものであると推測して、この障害物を制御対象には設定しない。
【0031】
図3は、レーダ装置15の検知領域外から他車両が自車両の直ぐ前方に接近してくる場合を(A)から(E)の順に時系列的に示したものであり、図3(A)〜(E)において左側は自車両と他車両の相対位置関係を示し、図3(A)〜(E)において右側は各チャンネルでの他車両に対する検知レベルを示している。なお、図3において、実線で検知レベルが示されているチャンネルは実際に反射波が検知されたチャンネルを表し、破線で検知レベルが示されているチャンネルは、レーダ装置15の検知領域が広ければ反射波が検知されるはずのチャンネルを表している。
図3(A)は、他車両が制御対象領域外に存在しており、進行方向右側の端チャンネルでのみ他車両が検知されている場合である。このときには、他車両の中心位置は端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断される。この場合、この他車両を制御対象としない。
【0032】
図3(B)は、前記他車両が図3(A)の状態から自車両側に若干横移動してきて、この他車両が制御対象領域内に入り始めた場合である。このときには、進行方向右側の端チャンネルを含む複数のチャンネルで他車両が検知されるが、検知レベルのパターンが非山形パターンであるため、この他車両の中心位置は端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断される。このとき、加速抑制意志あるいは減速意志が検知されない場合には、この他車両を制御対象としない。
【0033】
図3(C)は、前記他車両が図3(B)の状態からさらに自車両側に横移動してきて、この他車両の一部が制御対象領域内に入った場合である。このときには、進行方向右側の端チャンネルを含む複数のチャンネルで他車両が検知されるが、検知レベルのパターンが非山形パターンであるため、この他車両の中心位置は端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断される。しかしながら、この車両用物体検知装置1では、このときに運転者の加速抑制意志あるいは減速意志が検知された場合には、この他車両を制御対象とする。
なお、従来は、このように他車両の中心位置が端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断された場合には、運転者の加速抑制意志あるいは減速意志の有無に関わらず、この他車両を制御対象としていなかった。
【0034】
図3(D)は、前記他車両が図3(C)の状態からさらに自車両側に横移動してきて、この他車両の車幅方向略半分が制御対象領域内に入った場合である。このときには、進行方向右側の端チャンネルを含む複数のチャンネルで他車両が検知されるが、検知レベルのパターンが非山形パターンであるため、この他車両の中心位置は端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断される。しかしながら、この車両用物体検知装置1では、このときに運転者の加速抑制意志あるいは減速意志が検知された場合には、この他車両を制御対象とする。つまり、前記他車両を制御対象として継続する。
なお、従来は、このように他車両の中心位置が端チャンネルよりも検知領域外側にあると判断された場合には、運転者の加速抑制意志あるいは減速意志の有無に関わらず、この他車両を制御対象としていなかった。
【0035】
図3(E)は、前記他車両が図3(D)の状態からさらに自車両側に横移動してきて、この他車両の車幅方向過半が制御対象領域内に入った場合である。このときには、進行方向右側の端チャンネルを含む複数のチャンネルで他車両が検知され、且つ、検知レベルのパターンが山形パターンになるため、最大の検知レベルとなったチャンネルの位置がこの他車両の中心位置であると判断される。この場合には、運転者の加速抑制意志あるいは減速意志の検知の有無に関わらず、この他車両を制御対象とする。つまり、前記他車両を制御対象として継続する。
【0036】
以上説明するように、この実施例の車両用物体検知装置1によれば、物体が検知領域の端部に位置し、且つ中心位置算出条件を満たしていない場合であっても、減速意志判断部34により運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、該物体に対する運転者の注目度、重要度が高いと推測して、該物体を制御対象とするので、レーダ装置15の検知領域を有効に活用することが可能になる。また、検知領域の端部から自車両に接近する物体(例えば先行車両となる他車両)に対し、該物体を制御対象として認識するタイミングを従来よりも迅速化させることが可能になる。
【0037】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、前述した実施例では、制御対象を車間制御付きクルーズコントロールの場合における制御対象としたが、他の車両制御における制御対象であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】この発明に係る車両用物体検知装置の実施例における機能ブロック図である。
【図2】実施例の車両用物体検知装置における制御対象決定処理のフローチャートである。
【図3】レーダ装置の検知領域外から他車両が自車両の直ぐ前方に接近してくる場合を時系列的に示した図である。
【図4】レーダ装置の検知領域と他車両の位置関係の一例を示す図である。
【図5】検知レベルのパターンを示す図である。
【符号の説明】
【0039】
1 車両用物体検知装置
15 レーダ装置(物体検知手段)
16 アクセルセンサ
17 ブレーキセンサ
20 設定スイッチ(加減速操作スイッチ)
31 自車軌跡推定部(走行軌跡推定手段)
33 物体検知特性確認部(中心位置算出手段、領域端判定手段)
34 運転意志判断部(減速意志検知手段)
36 制御対象決定部(制御対象決定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の進行方向の検知領域に向けて電磁波を発信し該電磁波が前記検知領域内に存在する物体により反射された反射波を受信して前記物体を検知する物体検知手段と、
自車両の走行軌跡を推定する走行軌跡推定手段と、
前記物体検知手段の検知結果および前記走行軌跡推定手段の推定結果に基づいて自車両の制御対象とすべき物体を決定する制御対象決定手段と、
を備えた車両用物体検知装置において、
前記物体からの反射波および中心位置算出条件に基づいて物体の中心位置を算出する中心位置算出手段と、
前記物体からの反射波に基づいて該物体の一部が前記検知領域の左端または右端に位置するか否かを判定する領域端判定手段と、
運転者の加速抑制意志または減速意志を検知する減速意志検知手段と、
を備え、前記制御対象決定手段は、前記領域端判定手段により物体が検知領域の左端または右端に位置すると判定され且つ前記中心位置算出手段による中心位置算出条件を満たしていない場合には該物体を制御対象から除外するが、前記領域端判定手段により物体が検知領域の左端または右端に位置すると判定され且つ前記減速意志検知手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検知された場合には、前記中心位置算出手段による中心位置算出条件を満たしていない場合であっても該物体を制御対象とすることを特徴とする車両用物体検知装置。
【請求項2】
前記検知領域は複数の走査領域に分割され、
前記物体検知手段は複数の走査領域に分割される検知領域を走査することにより物体を検知し、
前記中心位置算出手段は、前記検知領域の端部に位置する走査領域に物体が検知され、且つ、該走査領域に対して前記検知領域の中心側に隣接する走査領域に物体が検知されていない場合には、中心位置算出条件を満たしていないとして処理することを特徴とする請求項1に記載の車両用物体検知装置。
【請求項3】
前記検知領域は複数の走査領域に分割され、
前記物体検知手段は複数の走査領域に分割される検知領域を走査することにより物体を検知し、
前記中心位置算出手段は、前記検知領域の端部に位置する走査領域を含む連続して隣り合う複数の走査領域で物体が検知され、且つ、前記端部に位置する走査領域の検知レベルが他の連続して隣り合う走査領域の検知レベルよりも大きい場合には、中心位置算出条件を満たしていないとして処理することを特徴とする請求項1に記載の車両用物体検知装置。
【請求項4】
前記中心位置算出手段は、連続して隣接する複数の前記走査領域で物体が検知され、且つ、前記検知領域の端部に位置していない走査領域の検知レベルが他の連続して隣り合う走査領域の検知レベルよりも大きい場合には、この検知レベルの大きい走査領域を物体の中心位置として算出することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用物体検知装置。
【請求項5】
前記中心位置算出手段は、連続して隣り合う複数の走査領域で物体が検知されたときには該複数の物体を纏めて1つの物体として認識し、纏められた1つの物体の中心位置を算出することを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の車両用物体検知装置。
【請求項6】
前記減速意志検知手段は、アクセルペダルまたはブレーキペダルまたは加減速操作スイッチの操作状態に基づいて運転者の加速抑制意志または減速意志を検知することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−40603(P2008−40603A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−211089(P2006−211089)
【出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】