説明

車両用転舵装置とその装置を用いた車両の駐車方法及び車両

【課題】駐車用の制動装置を設けることなく、車両駐車時に車輪をロック状態に維持できるようにする。
【解決手段】各操舵輪15に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータ10を備えるとともに、そのアクチュエータ10の舵角を独立して制御する転舵制御手段11を備える。そして、前記制御手段11が操舵輪15の転舵アクチュエータ10を制御して、駐車の際、前記車輪15を車両の左右方向に向ける。こうすることで、転舵させた車輪と路面との間に摩擦を生じさせて車輪をロックし、車両を制動することにより、駐車用の制動装置を設けることなく、車両駐車時に車輪をロック状態に維持できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駐車中の制動装置として車輪を使用する車両用転舵装置とその装置を用いた車両の駐車方法及び車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車などの車両では、駐車時に、車両の停車状態を維持させるために制動装置が必要である。
例えば、「特許文献1」には、駐車時の制動装置として電気自動車のパーキングロック装置が記載されている。
この電気自動車は、車輪のハブ内部に設けられたモータが、駆動軸を介して車輪と一体に結合するというインホイールモータ方式のものである。そのため、ロック装置は、図7に示すように、モータ1の駆動軸に取り付けられるロックギヤ2と、ロックギヤ2と歯合するロックピン3とで構成されており、前記ロックギヤ2の外周には、4つのノッチ2´が形成されている。また、前記ロックピン3は、一端がモータ1のハウジングにピン4で回動自在に取り付けられており、ロック装置の作動中は、図示しないアクチュエータが、ロックピン3を図の矢印のように回動させて、ロックピン3の突起をノッチ2´に挿入する。一方、ロック装置を解除する場合は、アクチュエータが、ロックピン3を矢印と逆方向に回動し、ロックピン3の突起をノッチ2´から外す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−168076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のロック装置では、ロックピンとロックギヤをモータに取り付けるため、モータの重量が増加する。このように、モータの重量が増加すると、その重量の増加により路面に対する追従性が悪化する。そのため、操作性が低下し、乗り心地も悪くなる。特に、全輪駆動の場合は、重量が増しコストも掛かる。
【0005】
そこで、この発明の課題は、例えば、重量が増加するような駐車用の制動装置を設けることなく、車両駐車時に車輪をロック状態に維持できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、この発明では、各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、その各輪のアクチュエータの舵角を独立して制御する転舵制御手段を備え、前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つの転舵アクチュエータを制御して、駐車の際、前記車輪を車両の左右方向に向けるように転舵させる構成を採用したのである。
【0007】
このような構成を採用することにより、操舵輪の1つを左右方向へ向けることにより、車体の前後方向(車両の進行方向に)に対して抗するようにしたため、転舵させた車輪と路面との間に大きな摩擦を生じさせることができる。このため、車輪をロックして車両を制動することができる。
ちなみに、操舵輪が2輪の場合は、左右の前輪のいずれか一方を転舵させる。また、操舵輪が全輪の場合は、全輪のいずれか1つを転舵させる。
【0008】
このとき、上記制御手段が複数の操舵輪の転舵アクチュエータを制御して、前記車輪を車体の左右方向へ向けて転舵させる構成を採用することができる。
【0009】
このような構成を採用することにより、複数(全ての車輪も含む)の車輪が路面との間に大きな摩擦を生じるため、大きな制動力を得ることができる。
【0010】
また、このとき、上記転舵させた複数の車輪が各々異なる向きであることという構成を採用することができる。
【0011】
このような構成を採用することにより、各々異なる向きに転舵させた車輪は、路面との間に生じる摩擦力により、前後左右及び斜め方向に対して制動力を得ることができる。
【0012】
また、上記車輪の転舵角が、車両の前後方向に対して、±30度〜±75度とした構成を採用することができる。
【0013】
このような構成を採用することにより、±30度以下では、前後方向の摩擦力が小さく車両の重量によっては十分な制動力が得られないと考えられる。同様に、±75度以上では、前後方向の摩擦力は大きいが、左右方向の摩擦力が十分でなくなると考えられるため、±30度〜±75度の角度を採用するのが好ましいと考えられる。ここで転舵角を±としたのは、前後方向の軸を中心として左右の転舵角を示したものである。
【0014】
また、上記の課題を解決するため、各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、その各輪のアクチュエータの舵角を独立して制御する転舵制御手段を備え、前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つを車体の左右方向に向け転舵し、駐車するようにした方法を採用すれば、転舵させた車輪と路面との間に大きな摩擦を生じさせて、駐車中の車両を制動することができる。
このとき、上記制御手段が複数の操舵輪を左右方向に向け転舵させ、駐車するようにした方法を採用すれば、複数の転舵させた車輪と路面との間に大きな摩擦を生じさせて、駐車中の車両を制動することができる。
また、このとき、上記制御手段が複数の車輪の各々を異なる方向へ転舵させ、駐車するようにした方法を採用すれば、異なる方向に転舵させた車輪と路面との間に生じる摩擦により、前後、左右、斜め方向に対する制動力を得ることができる。
さらに、上記制御手段が転舵角を車両の前後方向に対して、±30度〜±75度として転舵させ、駐車するようにした方法を採用すれば、前後左右方向に対して十分な摩擦力を得られる。
【0015】
また、上記の課題を解決するため、各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、その各アクチュエータの舵角を独立して制御する転舵制御手段を備えた転舵装置付インホイールモータ式車両において、前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つの転舵アクチュエータを制御して、駐車の際、前記車輪を車両の左右方向に向け転舵させるという構成を採用することができる。
また、このとき、上記車輪の複数を車両の左右方向に向け転舵させるという構成を採用したり、上記転舵した複数の操舵輪が各々異なる向きであるという構成を採用したり、上記転舵角を±30度〜±75度とした構成を採用したりすることができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明は、上記のような構成を採用したことにより、車両を停車または駐車できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態のブロック図
【図2】転舵装置の正面図
【図3】転舵アクチュエータの横断面図
【図4】図3の縦断面図
【図5】(a)、(b)、(c)実施形態の作用説明図
【図6】(a)、(b)実施形態の作用説明図
【図7】従来例の作用説明図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、この発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
この形態の転舵装置は、4輪転舵装置付きインホイールモータ式車両(電気自動車)に適用したもので、図1に示すように、転舵アクチュエータ10と転舵制御手段11で構成されている。
すなわち、図1は、インホイールモータ式車両の操舵系を模式的に示したブロック図で、操舵系は、転舵入力装置12、転舵装置13、ステアリング制御装置14、操舵輪15で構成され、各操舵輪15は、アッパーアーム16とロアアーム17からなるダブルウイッシュボーン形式のサスペンションを介して車台18に取り付けられている。
【0019】
転舵入力装置12は、ステアリングホイール(ハンドル)12a、操舵角センサ12b、操舵トルクセンサ12c、操舵反力モータ12dで構成され、ハンドル12aに操舵角センサ12b、操舵トルクセンサ12c、操舵反力モータ12dを連結する構成となっている。
操舵角センサ12bは、ハンドル12aの転舵角を検出するセンサで、センサ出力はステアリング制御装置14に接続されている。
操舵トルクセンサ12cは、ハンドル12aに作用するトルクを検出するセンサでセンサ出力はステアリング制御装置14に接続されている。
操舵反力モータ12dは、ハンドル12aに反力トルクを付与するためのモータで、前記モータ12dは、ステアリング制御装置14の出力と接続されており、ステアリング制御装置(トルク制御機能)14が、操舵トルクセンサ12cからの出力に基づいて所定の反力トルクを付与するように制御する。
また、ステアリング制御装置14は、車両全体の制御を行うECU(電子制御ユニット)の一翼を担うもので、操舵角センサ12bからの出力に基づき転舵制御手段11として転舵装置13を制御する。
【0020】
前記転舵装置13は、図2に示すように、サスペンションのアッパーアーム16に自在継ぎ手19を介在させて転舵軸20の先端に設けられた転舵アクチュエータ10と、サスペンションのロアアーム17にボールジョイント21を介して取り付けられたナックル部材22とで構成され、前記転舵アクチュエータ10とナックル部材22をブラケット23で接続した構成となっており、ナックル部材22の内側にはインホイールモータ装置24が固定されるようになっている。
ここで、ナックル部材22に取り付けられたインホイールモータ装置24は、モータと減速機及び車輪用軸受けをハウジング内に組み付けたもので、前記モータと減速機及び車輪用軸受けの一部または全体がホイール内に配置される。
【0021】
転舵アクチュエータ10は、図3及び図4に示すように、転舵機構25と、前記機構25を収容するギヤケース26で構成されている。
転舵機構25は、固定ギヤ27と前記ギヤ27を回動させる駆動機構28で構成されており、固定ギヤ27は、例えば、ウォームホイールなどの歯車で転舵軸20に固定されている。
駆動機構28は、転舵モータ29とウォームギヤ30とで構成され、転舵モータ29の駆動軸は、例えば、減速機やカップリングを介してウォームギヤ30と接続されている。
また、前記モータ29には、角度センサ付DCモータなどの転舵角度が検出できるものが使用される。
さらに、この転舵機構と固定ギヤは、図4のようにギヤケース26に収容され、固定キヤと転舵機構のウォームギヤ30が歯合するようになっている。
【0022】
一方、ギヤケース26は、図2のように、ブラケット23を介してナックル部材22に固定されており、ナックル部材22に固定されたギヤケース26によって、間接的に転舵モータ29はナックル部材22に固定されることになる。
そのため、転舵モータ29を駆動してウォームギヤ30を回動すると、ウォームギヤ30と歯合する固定ギヤ27が回動され、その回動力が固定ギヤ27に固定された転舵軸20に伝達される。この回動力は、転舵軸20を固定したアッパーアーム16を経て車体に達すると、逆に、その反力がアッパーアーム16、転舵軸20、固定ギヤ27、ウォームギヤ30へ伝達される。そして、この伝達された反力は、ウォームギヤ30を支持するギヤケース26へ伝達され、ギヤケース26、ナックル部材22及び操舵輪15が一体となって転舵軸20の回りを回動することになる。
したがって、転舵モータ29を所定量回動させることにより、操舵輪に一定の舵角を付与することができるのである。
なお、ここでは、ウォームギヤ30を固定ギヤ27に歯合させたが、ウォームギヤに替えてボールネジを使用することもできる。
【0023】
この形態は上記のように構成されており、次に、この転舵装置を用いた駐車方法について図5、図6を用いて説明する。
ここで、説明に使用する車両は、先に述べた転舵装置13を備えた図5(a)に示すような転舵装置付インホイールモータ式車両である。
すなわち、車両は、前後左右の操舵輪15に転舵装置付きインホイールモータ装置24を備えたもので、転舵制御手段(ステアリング制御装置14)11が各輪15の転舵アクチュエータ10を制御して、全輪を独立して転舵させることができる構成である。そのため、直進走行、横向走行、回転走行などか可能である。
したがって、前記機能を用いて、駐車時に車両に制動を掛ける。
いま、図5(a)のように、操舵輪15を進行方向に向けたまま駐車すると、進行方向に対して制動がかからないため、車両は簡単に動く。
そこで、まず、図5(b)に示すように、一つの操舵輪15を転舵させる(ここでは、左前輪FLを転舵させたが、これに限定されるものではない。また、図では左前輪FLを外向きに転舵させているが、破線の用に内向きに転舵させても良い)。この場合、転舵をさせるためのスイッチなどを操舵系に設けることで、容易に実現できる。
こうすることにより、車両は転舵させた操舵輪(タイヤ)15と路面の摩擦により制動が得られるため駐車することができる。
その際、転舵角αは、車体の前後方向に対して、30度〜75度とすることにより、前後方向に抗する摩擦力を得ることができる。
これは、例えば、転舵角を30度以下とすると、前後方向の力に対して操舵輪15の傾斜角が小さくなるため、摩擦力が低下する。一方、転舵角を75度以上とすると左右方向の力に対して操舵輪15の傾斜角が小さくなるため、摩擦力が低下するからである。
このように一輪を転舵した場合でも、平坦な場所では転舵角を30度〜75度にすれば、駐車に対する十分な制動力を得ることができる。
【0024】
次に、例えば、図5(c)に示すように、左前方の路面「イ」が傾斜している場合は、傾斜によって操舵輪15の制動力が低下するため、図5(c)のように、右前輪FRを左前輪FLに対して逆方向へ転舵させる。こうすることで、左前方「イ」への動きに制動を掛ける。
この場合、右前輪FRに替えて後輪の一方を転舵することによっても同様の作用効果を得られる筈である。なお、転舵角αは、30度〜75度で理由は、先述の通りである。
【0025】
さらに、傾斜した左カーブなどに駐車する場合は、図6(a)のように3つの操舵輪15を転舵させれば、制動力を得ることができる。例えば、右カーブに駐車する場合は、右後輪BRを転舵させる。左カーブの場合は逆に左後輪BLを転舵させる。
【0026】
また、図6(b)のように、全輪を転舵させれば、前後、左右、斜め方向に対して制動力を得られるので、上り坂、下り坂でも左右のカーブがあっても駐車できる。
このように、転舵する車輪を多くすれば、大きな制動力をえることができる。
【0027】
以上のように、駐車用の制動装置を設けなくても車輪だけで制動を掛けられるので、軽量化が図れ、コストも掛からない。
【0028】
なお、ここでは操舵輪15が4輪のものについて述べたが、これ以外にも操舵輪15が2輪の場合でも図5(b)、(c)のように適用可能である。また、車両の車輪数は4輪以外の6輪、8輪・・・・に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0029】
10 転舵アクチュエータ
11 転舵制御手段
15 操舵輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、そのアクチュエータによる舵角を独立して制御する転舵制御手段を備え、
前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つの転舵アクチュエータを制御して、駐車の際、前記車輪を車両の左右方向に向けるように転舵させることを特徴とする車両用転舵装置。
【請求項2】
上記制御手段が複数の操舵輪の転舵アクチュエータを制御して、前記車輪を車両の左右方向へ向けて転舵させることを特徴とする請求項1に記載の車両用転舵装置。
【請求項3】
上記転舵させた複数の操舵輪が各々異なる向きであることを特徴とする請求項2に記載の車両用転舵装置。
【請求項4】
上記車輪の転舵角が車両の前後方向に対して、±30度〜±75度であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の車両用転舵装置。
【請求項5】
各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、そのアクチュエータの舵角を独立して制御する転舵制御手段を備え、
前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つの転舵アクチュエータを制御し、前記車輪を車両の左右方向に向け転舵させ、駐車するようにした車両の駐車方法。
【請求項6】
上記制御手段が複数の操舵輪の転舵アクチュエータを制御し、前記車輪を車体の左右方向に向け転舵させ、駐車するようにした請求項5に記載の自動車の駐車方法。
【請求項7】
上記制御手段が複数の操舵輪の各々を異なる方向へ転舵させ、駐車するようにした請求項6に記載の車両の駐車方法。
【請求項8】
上記制御手段が転舵角を車両の前後方向に対して、±30度〜±75度として転舵させ、駐車する請求項5乃至7のいずれかに記載の車両用転舵装置による駐車方法。
【請求項9】
各操舵輪に車輪の舵角を変える転舵アクチュエータを備えるとともに、そのアクチュエータによる舵角を独立して制御する転舵制御手段を備えた転舵装置付インホイールモータ式車両において、
前記制御手段が操舵輪の少なくとも1つの転舵アクチュエータを制御して、駐車の際、車両の左右方向に向けて転舵させることを特徴とする転舵装置付インホイールモータ式車両。
【請求項10】
上記制御手段が、複数の操舵輪の転舵アクチュエータを制御して、前記車輪を車両の左右方向に向け転舵させることを特徴とする請求項9に記載の転舵装置付インホイールモータ式車両。
【請求項11】
上記転舵させた複数の操舵輪が各々異なる向きであることを特徴とする請求項10に記載の転舵装置付インホイールモータ式車両。
【請求項12】
上記車輪の転舵角が車両の前後方向に対して、±30度〜±75度であることを特徴とする請求項9乃至11のいずれかに記載の転舵装置付インホイールモータ式車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−67260(P2013−67260A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207044(P2011−207044)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】