説明

車両用駆動装置

【課題】モータ走行中における制動力を利用して効率的に発電を行なうことが可能な車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ7で回生しつつ5th EVモードから3rd EVモードへシフトダウンする間、エンジン6を始動して第2変速用シフター52で第4速用駆動ギヤ24aを選択した状態で第2クラッチ42を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関と電動機とを備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から伝達効率の高い手動変速機の変速動作を自動化した変速装置をベースとして変速時のトルク中断によるショックを防止するため、2つの入力軸は歯車群を有し夫々クラッチを介してエンジンに連結可能とし、一方の入力軸をモータジェネレータで駆動可能としたツインクラッチ式変速機を備えたハイブリッド車両の車両用駆動装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1の車両用駆動装置200は、図15に示すように、2つの入力軸201、202は夫々クラッチC1、C2を介してエンジンEngに連結されており、さらに入力軸202にモータジェネレータMGが連結されている。そして、入力軸202はドグクラッチ205を締結することで低速側ギヤ列206を介してカウンタ軸207に連結され、入力軸201はドグクラッチ208を締結することで高速側ギヤ列209を介してカウンタ軸207に連結されている。
【0004】
モータジェネレータMGはカウンタ軸207による駆動力により被駆動されて回生による発電が可能であるとともに、クラッチC2が締結された際には、エンジンEngにより被駆動されることによっても発電が可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−147312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この車両用駆動装置200においては、モータ走行中における制動力をどのように発生させるか何ら記載されていない。一般的にハイブリッド車両においては、車両の制動力を利用して効率よくモータで発電することが重要な課題となっている。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたもので、モータ走行中における制動力を利用して効率的に発電を行なうことが可能な車両用駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
内燃機関(例えば、後述の実施形態のエンジン6)と電動機(例えば、後述の実施形態のモータ7)とを備える車両用駆動装置(例えば、後述の実施形態の車両用駆動装置1、1A)であって、
前記内燃機関から動力が出力される内燃機関出力軸(例えば、後述の実施形態のクランク軸6a)と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段(例えば、後述の実施形態の第1クラッチ41)によって選択的に前記内燃機関出力軸と結合される第1入力軸(例えば、後述の実施形態の第1主軸11)と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段(例えば、後述の実施形態の第2クラッチ42)によって選択的に前記内燃機関出力軸に結合される第2入力軸(例えば、後述の実施形態の第2中間軸16)と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、被駆動部(例えば、後述の実施形態の駆動輪DW,DW)に動力を出力する出入力軸(例えば、後述の実施形態のカウンタ軸14)と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置(例えば、後述の実施形態の第1変速用シフター51、51A、第3変速用シフター51B)を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第3速用駆動ギヤ23a、第5速用駆動ギヤ25a、第7速用駆動ギヤ97a、)よりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置(例えば、後述の実施形態の第2変速用シフター52、52A、第4変速用シフター52B)を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第2速用駆動ギヤ22a、第4速用駆動ギヤ24a、第6速用駆動ギヤ96a)よりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ郡のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共有して噛合する複数のギヤ(例えば、後述の実施形態の第1共用従動ギヤ23b、第2共用従動ギヤ24b、第3共用従動ギヤ96b)よりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第1ギヤ群の高速側ギヤを選択してEV走行中に車両を減速する場合に、前記電動機で回生しつつ前記高速側ギヤから低速側ギヤにシフトダウンする間、前記内燃機関を始動するとともに前記第2同期装置で前記第2ギヤ群のギヤを選択した状態で前記第2断接手段を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保することを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、減速要求を推定し、前記第1ギヤ群の高速側ギヤで回生中に前記第1ギヤ群の低速側ギヤへの減速要求があった場合、一旦、前記第2ギヤ群のギヤを選択した状態でエンジンブレーキを行い、前記第2ギヤ群のギヤにて走行中に前記第1ギヤ群の高速側ギヤから低速側ギヤにプレシフトすることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加えて、前記第1同期装置はシンクロクラッチであることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明の構成に加えて、前記低速側ギヤを選択して回生することにより車速が所定値(例えば、後述の実施形態の車速Vf)まで下がったときには、回生を停止し、前記低速側ギヤよりもさらに低速側ギヤを選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の車両用駆動装置によれば、EV走行中において減速する場合、シフトダウン時における制動力をエンジンブレーキで補うことで、機械式ブレーキにより熱エネルギーとして放出していたエネルギーを回生エネルギーとして有効に利用することができる。また、車速に応じて減速するので、車両の再加速時にスムーズな加速を行うことができる。
【0013】
請求項2の車両用駆動装置によれば、EV走行中において減速する場合、エンジンブレーキを利用しながらシフトダウンを行なうことで、エネルギーの利用効率を向上させることができる。
【0014】
請求項3の車両用駆動装置によれば、シフトチェンジをスムーズに行うことができる。そして、シンクロクラッチを用いることによる回生トルク(制動力)の抜けをエンジンブレーキで補うことにより回生エネルギーとして有効に利用することができる。
【0015】
請求項4の車両用駆動装置によれば、電動機の回生により車速が回生不可速度まで下がったときにはさらに低速側ギヤを選択して待機することで車両の再加速時又は発進時にスムーズな加速又は発進を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態の車両用駆動装置を示す概略図である。
【図2】1st EVモードにおける図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図3】3rd EVモードにおける図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図4】3rd EVモードの回生時における図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図5】5th EVモードにおける図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図6】5th EVモードの回生時における図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図7】車両の運転点と各EVモードにおける回生可能領域の関係を示すグラフである。
【図8】EV走行中の車両の減速に応じてシフトダウンしたときの制動力と車速の関係を示すグラフである。
【図9】EV走行中の車両の減速に応じてシフトダウンしたときエンジンブレーキを用いた場合の制動力と車速の関係を示すグラフである。
【図10】図9における制御フロー図である。
【図11】5th EVモードから3rd EVモードへのシフトダウン時にエンジンブレーキを利用した場合を示す図であり、(a)は速度線図であり、(b)は車両用駆動装置のトルクの伝達状況を示す図である。
【図12】(a)はブレーキシステムの一例を示す模式図であり、(b)は車速とペダル踏力との関係を示すグラフ、(c)は制動力分布を示すグラフである。
【図13】(a)はブレーキシステムの他の例を示す模式図であり、(b)は車速とペダル踏力との関係を示すグラフ、(c)は制動力分布を示すグラフである。
【図14】本発明の第2実施形態の車両用駆動装置を示す概略図である。
【図15】特許文献1に記載の車両用駆動装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の車両用駆動装置の各実施形態ついて図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
第1実施形態の車両用駆動装置1は、図1に示すように、車両(図示せず)の駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DW(被駆動部)を駆動するためのものであり、駆動源である内燃機関(以下「エンジン」という)6と、電動機(以下「モータ」という)7と、動力を駆動輪DW,DWに伝達するための変速機20と、変速機20の一部を構成する差動式減速機としての遊星歯車機構30と、を備えている。
【0018】
エンジン6は、例えばガソリンエンジンであり、このエンジン6のクランク軸6aには、変速機20の第1クラッチ41(第1断接手段)と第2クラッチ(第2断接手段)が設けられている。
【0019】
モータ7は、3相ブラシレスDCモータであり3n個の電機子71aで構成されたステータ71と、このステータ71に対向するように配置されたロータ72とを有している。各電機子71aは、鉄芯71bと、この鉄芯71bに巻き回されたコイル71cで構成されており、不図示のケーシングに固定され、回転軸を中心に周方向にほぼ等間隔で並んでいる。3n個のコイル71cは、n組のU相、V相,W相の3相コイルを構成している。
【0020】
ロータ72は、回転軸を中心にほぼ等間隔で並んだn個の永久磁石72aを有しており、隣り合う各2つの永久磁石72aの極性は、互いに異なっている。各永久磁石72aを固定する固定部72bは、軟磁性体(例えば鉄)で構成された中空円筒状を有し、後述する遊星歯車機構30のリングギヤ35の外周側に配置され、遊星歯車機構30のサンギヤ32に連結されている。これにより、ロータ72は、遊星歯車機構30のサンギヤ32と一体に回転するように構成されている。
【0021】
遊星歯車機構30は、サンギヤ32と、このサンギヤ32と同軸上に配置され、かつ、このサンギヤ32の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ35と、サンギヤ32とリングギヤ35に噛合されたプラネタリギヤ34と、このプラネタリギヤ34を自転可能、かつ、公転可能に支持するキャリア36とを有している。このようにして、サンギヤ32とリングギヤ35とキャリア36が、相互に差動回転自在に構成されている。
【0022】
リングギヤ35には、同期機構(シンクロナイザー機構)を有しリングギヤ35の回転を停止(ロック)可能に構成されたシンクロ機構61(ロック機構)が設けられている。
【0023】
変速機20は、前述した第1クラッチ41と第2クラッチ42と、遊星歯車機構30と、後述する複数の変速ギヤ群を備えた、いわゆるツインクラッチ式変速機である。
【0024】
より具体的に、変速機20は、エンジン6のクランク軸6aと同軸(回転軸線A1)上に配置された第1主軸11(第1の入力軸)と、第2主軸12と、連結軸13と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線B1を中心として回転自在なカウンタ軸14(出入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線C1を中心として回転自在な第1中間軸15と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線D1を中心として回転自在な第2中間軸16(第2の入力軸)と、回転軸線A1と平行に配置された回転軸線E1を中心として回転自在なリバース軸17を備えている。
【0025】
第1主軸11には、エンジン6側に第1クラッチ41が設けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のサンギヤ32とモータ7のロータ72が取り付けられている。従って、第1主軸11は、第1クラッチ41によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結されるとともにモータ7と直結され、エンジン6及び/又はモータ7の動力がサンギヤ32に伝達されるように構成されている。
【0026】
第2主軸12は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、第2主軸12には、エンジン6側に第2クラッチ42が設けられ、エンジン6側とは反対側にアイドル駆動ギヤ27aが一体に取り付けられている。従って、第2主軸12は、第2クラッチ42によって選択的にエンジン6のクランク軸6aと連結され、エンジン6の動力がアイドル駆動ギヤ27aへ伝達されるように構成されている。
【0027】
連結軸13は、第1主軸11より短く中空に構成されており、第1主軸11のエンジン6側とは反対側の周囲を覆うように相対回転自在に配置されている。また、連結軸13には、エンジン6側に第3速用駆動ギヤ23aが一体に取り付けられ、エンジン6側とは反対側に遊星歯車機構30のキャリア36が一体に取り付けられている。従って、プラネタリギヤ34の公転により連結軸13に取り付けられたキャリア36と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するように構成されている。
【0028】
さらに、第1主軸11には、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aとの間に、第1主軸11と相対回転自在に第5速用駆動ギヤ25aが設けられるとともに第1主軸11と一体に回転するリバース従動ギヤ28bが取り付けられている。さらに第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間には、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第1変速用シフター51が設けられている。そして、第1変速用シフター51が第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが一体に回転し、第1変速用シフター51がニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。なお、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが一体に回転するとき、第1主軸11に取り付けられたサンギヤ32と第3速用駆動ギヤ23aに連結軸13で連結されたキャリア36が一体に回転するとともに、リングギヤ35も一体に回転し、遊星歯車機構30が一体となる。
【0029】
第1中間軸15には、第2主軸12に取り付けられたアイドル駆動ギヤ27aと噛合する第1アイドル従動ギヤ27bが一体に取り付けられている。
【0030】
第2中間軸16には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第2アイドル従動ギヤ27cが一体に取り付けられている。第2アイドル従動ギヤ27cは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第1アイドルギヤ列27Aを構成している。また、第2中間軸16には、第1主軸11周りに設けられた第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aと対応する位置にそれぞれ第2中間軸16と相対回転可能な第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとが設けられている。さらに第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第2変速用シフター52が設けられている。そして、第2変速用シフター52が第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aとが一体に回転し、第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとが一体に回転し、第2変速用シフター52がニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0031】
カウンタ軸14には、エンジン6側とは反対側から順に第1共用従動ギヤ23bと、第2共用従動ギヤ24bと、パーキングギヤ21と、ファイナルギヤ26aとが一体に取り付けられている。
ここで、第1共用従動ギヤ23bは、連結軸13に取り付けられた第3速用駆動ギヤ23aと噛合して第3速用駆動ギヤ23aと共に第3速用ギヤ対23を構成し、第2中間軸16に設けられた第2速用駆動ギヤ22aと噛合して第2速用駆動ギヤ22aと共に第2速用ギヤ対22を構成する。
第2共用従動ギヤ24bは、第1主軸11に設けられた第5速用駆動ギヤ25aと噛合して第5速用駆動ギヤ25aと共に第5速用ギヤ対25を構成し、第2中間軸16に設けられた第4速用駆動ギヤ24aと噛合して第4速用駆動ギヤ24aと共に第4速用ギヤ対24を構成する。
ファイナルギヤ26aは差動ギヤ機構8と噛合して、差動ギヤ機構8は、駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに連結されている。従って、カウンタ軸14に伝達された動力はファイナルギヤ26aから差動ギヤ機構8、駆動軸9,9、駆動輪DW,DWへと出力される。
【0032】
リバース軸17には、第1中間軸15に取り付けられた第1アイドル従動ギヤ27bと噛合する第3アイドル従動ギヤ27dが一体に取り付けられている。第3アイドル従動ギヤ27dは、前述したアイドル駆動ギヤ27aと第1アイドル従動ギヤ27bとともに第2アイドルギヤ列27Bを構成している。また、リバース軸17には、第1主軸11に取り付けられた後進用従動ギヤ28bと噛合する後進用駆動ギヤ28aがリバース軸17と相対回転自在に設けられている。後進用駆動ギヤ28aは、後進用従動ギヤ28bとともに後進用ギヤ列28を構成している。さらに後進用駆動ギヤ28aのエンジン6側とは反対側にリバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとを連結又は開放する後進用シフター53が設けられている。そして、後進用シフター53が後進用接続位置でインギヤするときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが一体に回転し、後進用シフター53がニュートラル位置にあるときには、リバース軸17と後進用駆動ギヤ28aとが相対回転する。
【0033】
なお、第1変速用シフター51、第2変速用シフター52、後進用シフター53は、接続する軸とギヤの回転数を一致させる同期機構(シンクロナイザー機構)を有するクラッチ機構を用いている。
【0034】
このように構成された変速機20は、2つの変速軸の一方の変速軸である第1主軸11上に第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aからなる奇数段ギヤ群(第1ギヤ群)が設けられ、2つの変速軸の他方の変速軸である第2中間軸16上に第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aからなる偶数段ギヤ群(第2ギヤ群)が設けられる。
【0035】
以上の構成により、本実施形態の車両用駆動装置1は、以下の第1〜第5の伝達経路を有している。
(1)第1伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。ここで、遊星歯車機構30の減速比は、第1伝達経路を介して伝達されるエンジントルクが第1速相当となるように設定されている。即ち、遊星歯車機構30の減速比と第3速用ギヤ対23の減速比をかけ合わせた減速比が第1速相当となるように設定されている。
(2)第2伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第1アイドルギヤ列27A(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第2アイドル従動ギヤ27c)、第2中間軸16、第2速用ギヤ対22(第2速用駆動ギヤ22a、第1共用従動ギヤ23b)又は第4速用ギヤ対24(第4速用駆動ギヤ24a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
(3)第3伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第1主軸11、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、遊星歯車機構30を介さずに、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
(4)第4伝達経路は、モータ7が、遊星歯車機構30又は第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)又は第5速用ギヤ対25(第5速用駆動ギヤ25a、第2共用従動ギヤ24b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
(5)第5伝達経路は、エンジン6のクランク軸6aが、第2主軸12、第2アイドルギヤ列27B(アイドル駆動ギヤ27a、第1アイドル従動ギヤ27b、第3アイドル従動ギヤ27d)、リバース軸17、後進用ギヤ列28(後進用駆動ギヤ28a、後進用従動ギヤ28b)、遊星歯車機構30、連結軸13、第3速用ギヤ対23(第3速用駆動ギヤ23a、第1共用従動ギヤ23b)、カウンタ軸14、ファイナルギヤ26a、差動ギヤ機構8、駆動軸9,9を介して、駆動輪DW,DWに連結される伝達経路である。
【0036】
また、本実施形態の車両用駆動装置1において、モータ7は、その動作を制御するパワーコントロールユニット(以下、PDUという。)2を介してバッテリ3に接続され、バッテリ3からの電力供給と、バッテリ3へのエネルギー回生がPDU2を介して行われるようになっている。即ち、モータ7は、バッテリ3からPDU2を介して供給された電力によって駆動され、また、減速走行時における駆動輪DW,DWの回転やエンジン6の動力により回生発電を行って、バッテリ3の充電(エネルギー回収)を行うことが可能である。さらに、PDU2は、電気制御ユニット(以下、ECUという。)5に接続されている。ECU5は、車両全体の各種制御をするための制御装置であり、ECU5には加速要求、制動要求、エンジン回転数、モータ回転数、モータ温度、第1,第2主軸11、12の回転数、カウンタ軸14等の回転数、車速、シフトポジション、SOCなどが入力される一方、ECU5からは、エンジン6を制御する信号、モータ7を制御する信号、バッテリ3における発電状態・充電状態・放電状態などを示す信号、第1,第2変速シフター51、52、後進用シフター53を制御する信号、シンクロ機構61のロックを制御する信号などが出力される。
【0037】
このように構成された車両用駆動装置1は、第1及び第2クラッチ41、42の断接を制御するとともに第1変速用シフター51、第2変速用シフター52および後進用シフター53の接続位置を制御することにより、エンジン6で第1〜第5速走行および後進走行を行うことができる。また、走行中にモータ7でアシストしたり回生したり、さらにアイドリング中にエンジン6をモータ7で始動したりバッテリ3を充電することもできる。
【0038】
また、車両用駆動装置1はモータ7を利用してEV走行を行なうこともできる。 車両用駆動装置1は3つのEV走行モードを備えている。なお、以下の説明において特に規定した場合を除いて、第1及び第2クラッチ41、42は切断されており、第1、第2及び後進用シフター51〜53はニュートラル位置にあり、シンクロ機構61はリングギヤ35の回転を許容するロックオフ状態(SYN ロックOFF)にあるものとする。以下、この状態を初期状態と呼ぶ。図2(a)の速度線図は、モータ7の停止位置を0、上方を正転方向、下方を逆転方向とし、サンギヤ32を「S」、キャリア36を「C」、リングギヤ35を「R」でそれぞれ表している。このことは、後述する速度線図においても同様である。また、図2(b)はトルクの伝達状況を示す図であり、ハッチング付の太い矢印はトルクの流れを表し、矢印中のハッチングはそれぞれの速度線図のトルクを示す矢印のハッチングと対応している。また、モータ7の正転方向とは駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに前進方向のトルクを伝達する方向をいい、逆転方向とは駆動軸9,9を介して駆動輪DW,DWに後進方向のトルクを伝達する方向をいう。
【0039】
1つ目のEV走行は、初期状態からシンクロ機構61をロック状態(SYN ロックON)にすることによりなされる1st EVモードである。
この状態で、モータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)すると、図2(a)に示すように、ロータ72に連結された遊星歯車機構30のサンギヤ32が正転方向に回転する。このとき、図2(b)に示すように、第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはない。そして、シンクロ機構61のロックがなされているため、サンギヤ32に伝達されたモータトルクがキャリア36に伝達され、遊星歯車機構30を通る第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。このとき、リングギヤ35がロックされているため、遊星歯車機構30の特性によりサンギヤ32は図2(a)に示す共線関係を維持しながらキャリア36よりも高い回転数で回転する。即ち、モータトルクが遊星歯車機構30で減速して伝達される。
【0040】
2つ目のEV走行は、初期状態から第1変速用シフター51をニュートラル位置から第3速用接続位置でインギヤすることによりなされる3rd EVモードである。前述したように第1変速用シフター51を第3速用接続位置にインギヤすることで、遊星歯車機構30は一体となっている。
この状態で、モータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)すると、図3(a)に示すように、ロータ72に連結された遊星歯車機構30は一体で正転方向に回転する。このとき、第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはない。そして、モータトルクが第3速用ギヤ対23を通る第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。
【0041】
この3rd EV走行モードで走行中に回生する場合、図4に示すように、モータ7にロータ72の回転数を下げる方向、即ち、逆転方向に回生トルクを印加することで、車両に制動力を付加しつつモータ7で発電し、バッテリ3を充電することができる。
【0042】
3つ目のEV走行は、初期状態から第1変速用シフター51をニュートラル位置から第5速用接続位置でインギヤすることによりなされる5th EVモードである。
この状態で、モータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)すると、図5(a)に示すように、ロータ72に連結された遊星歯車機構30のサンギヤ32が正転方向に回転する。このとき、図5(b)に示すように、第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはない。そして、モータトルクが第5速用ギヤ対25を通る第4伝達経路を介して駆動輪DW,DWに伝達される。このとき、サンギヤ32はモータ7の回転数で回転し、キャリア36は第3速用ギヤ対23を介してカウンタ軸14と連結して回転するため、サンギヤ32とキャリア36には所定の差回転が生じ、遊星歯車機構30の特性によりリングギヤ35は図5(a)に示す共線関係を維持しながらキャリア36よりも高い回転数で回転する。
【0043】
この5th EV走行モードで走行中に回生する場合、図6に示すように、モータ7にロータ72の回転数を下げる方向、即ち、逆転方向に回生トルクを印加することで、車両に制動力を付加しつつモータ7で発電し、バッテリ3を充電することができる。
【0044】
続いてEV走行時における回生制御について説明する。
図7に示すように、5th EVモードの回生可能領域は低トルク高回転領域に位置し、3rd EVモードにおける回生可能領域は高トルク低回転領域に位置し、1st EVモードにおける回生可能領域はさらに高トルク低回転領域に位置する。従って、車両が上述した5th EVモードで高速走行した状態から停車するとき、5th EVモードでは車両が所定速度まで減速した後には、モータ7により回生発電することができず、回生エネルギーを有効に利用してモータ7で回生発電することができない状態となる。
【0045】
そこで、5th EVモードにおける回生可能領域から外れる領域については、後述する機械式ブレーキ105による制動力で車両を減速することが考えられるが、この場合制動エネルギーを有効に利用することができないばかりか、再加速時には5th EVモードでの加速となるため必要な駆動トルクが得られずもたつきが生じることとなる。一方で、車速に応じて、5th EVモードから3rd EVモード、1st EVモードへとシフトダウンすることが考えられる。この車両用駆動装置1における5th EVモードから3rd EVモードへのシフトダウンは、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤした状態から第3速用接続位置でインギヤする間にモータ7のゼロトルク制御を行なう必要があり、さらに3rd EVモードから1st EVモードへとシフトダウンは、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤした状態からニュートラル位置に移すとともにシンクロ機構61をロックOFF状態からロックON状態にする間にモータ7のゼロトルク制御を行なう必要がある。しかしながら、このシフトダウンによれば、図8に示すように、モータ7のゼロトルク制御中は車両の制動力を確保することができないという問題がある。
【0046】
そこで、本実施形態の車両用駆動装置1においては、5th EVモードから3rd EVモードへとシフトダウンする際、一度エンジン6を始動して第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤした状態から第3速用接続位置でインギヤする間の制動力をエンジンブレーキで確保している。
【0047】
図9及び図10を参照しながらこの変速制御を具体的に説明すると、5th EVモードでEV走行中に、不図示のアクセルペダルがOFFになった状態で5th EVモードで回生を行なう(S01)。そして、車速がVaまで下がったときに回生しながら第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動する(S02)。エンジン6を始動した後、第1クラッチ41を切断するとともに第2変速用シフター52をニュートラル位置から第4速用接続位置でインギヤする(S03)。なお、この状態では第1及び第2クラッチ41、42が切断しているためエンジン6は切り離されている。そして、制動力を維持するように回生量を減少させながら第2クラッチ42を除々に締結しエンジンブレーキを作用させる(S04)。図11(a)は、この第1クラッチ41が切断され第2クラッチ42が接続されるとともに、第1変速用シフター51が第5速用接続位置でインギヤしまま第2変速用シフター52が第4速用接続位置でインギヤした状態で、エンジンブレーキを作用させている状態を示している。そして、第2クラッチ42が完全に締結した後、第1変速用シフター51を第5速用接続位置でインギヤした状態から第3速用接続位置でインギヤ(プレシフト)することによりシフトダウンする(S05)。図11(b)は、図11(a)の状態から第1変速用シフター51を第5速用接続位置から第3速用接続位置でインギヤした状態を示している。続いて、制動力を維持するように3rd EVモードで回生量を増大させながら締結していた第2クラッチ42を除々に切断する(S06)。そして、第2クラッチ42が完全に切断した後、エンジン6を停止し3rd EVモードで回生を続ける(S07)。さらに車速がVbまで下がったときに、除々にモータ7の回生トルクを抜いてゼロトルク制御を行なう(S08)。なお、車速Vfは3rd EVモードで回生が取りきれない車速であり、車速Vf以降の制動については、1st EVモードにシフトダウンしても回生ではとりきれないため運転者の意思により必要に応じて後述する機械式ブレーキ105による制動力で車両を停止させる。この間、第1変速用シフター51を第3速用接続位置でインギヤした状態からニュートラル位置に移すとともにシンクロ機構61をロックOFF状態からロックON状態にすることにより、再加速に備え1st EVモードへとシフトダウンする。
【0048】
続いて、本実施形態の車両用駆動装置1に用いられるブレーキシステムの一例について図12を参照して説明する。
このブレーキシステム100は、図12(a)に示すように、ブレーキペダル101と、ブレーキペダル101の踏み込みを検出するブレーキスイッチ103と、ブレーキペダル101から入力されるブレーキ操作量に応じて制動用の油圧を作用せしめるタンデム型のマスタシリンダ104と、機械式ブレーキ105と、マスタシリンダ104の油圧を機械式ブレーキ105に供給するブレーキ系統106と、を備えて構成される。機械式ブレーキ105はディスクブレーキやドラムブレーキ等の油圧により制御される公知の機械式ブレーキから構成され、ブレーキ系統106にはABS機構107が設けられブレーキにより各車輪がロックするのを防止している。
【0049】
このブレーキシステム100において、エンジン走行中の車両を停止させる場合、図12(b)および(c)に示すように、乗員がアクセルペダル(不図示)を離した時点でエンジンフリクションによるエンジンブレーキと、所定量のブレーキOFF回生がモータ7でなされ制動力が発生する。そして、乗員がブレーキペダル101を踏み込むと、ブレーキスイッチ103が踏み込みを検出し、予め定められた所定量のブレーキON回生がモータ7でなされ制動力が発生するとともに、踏み込み量に応じた制動用の油圧が機械式ブレーキ105に供給され機械式ブレーキ105が作動する。そして、車両が所定速度Vcになるとモータ7の回生トルクが除々に抜かれ、さらに減速して所定速度Vdになると第1及び第2クラッチ41、42(発進クラッチ)が切断される。最後は、機械式ブレーキ105による摩擦ブレーキにより車両が停止する。
【0050】
次に、本実施形態の車両用駆動装置1に用いられるブレーキシステムの他の例について図13を参照して説明する。
このブレーキシステム100Aは、図13(a)に示すように、ブレーキペダル101と、ブレーキペダル101の踏み込みを検出するブレーキスイッチ103と、ブレーキペダル101から入力されるブレーキ操作量に応じて制動用の油圧を作用せしめるタンデム型のマスタシリンダ104と、マスタシリンダ104の油圧を検出するマスタシリンダ圧センサ108と、機械式ブレーキ105と、マスタシリンダ104の油圧を機械式ブレーキ105に供給するブレーキ系統106と、を備えて構成される。上述したブレーキシステム1と同様に、機械式ブレーキ105はディスクブレーキやドラムブレーキ等の油圧により制御される公知の機械式ブレーキから構成され、ブレーキ系統106にはABS機構107が設けられブレーキによる各車輪のロックを防止している。
【0051】
このブレーキシステム100Aにおいて、エンジン走行中の車両を停止させる場合、図13(b)および(c)に示すように、乗員がアクセルペダル(不図示)を離した時点でエンジンフリクションによるエンジンブレーキと、所定量のブレーキOFF回生がモータ7でなされ制動力が発生し車速が下がる点は上述したブレーキシステム100と同じである。しかし、本ブレーキシステム100Aは、ブレーキスイッチ103がブレーキペダル101の踏み込みを検出すると、マスタシリンダ圧センサ108の検出したマスタシリンダ圧に応じて予め定められた回生量が上乗せされた所定量のブレーキON回生がモータ7でなされるとともに、踏み込み量に応じた制動用の油圧が機械式ブレーキ105に供給され機械式ブレーキ105が作動する。そして、車両が所定速度Vcになるとモータ7の回生トルクが除々に抜かれ、さらに減速して所定速度Vdになると第1及び第2クラッチ41、42が切断される。最後は、機械式ブレーキ105による摩擦ブレーキより車両が停止する。
【0052】
なお、本ブレーキシステム100Aでは、マスタシリンダ圧センサ108の検出したマスタシリンダ圧に応じて予め定められた回生量が上乗せされた所定量のブレーキON回生がモータ7でなされたが、これに限らずマスタシリンダ圧センサ108の代わりにストロークセンサを用いてストロークセンサの検出したストロークに応じて予め定められた回生量を上乗せしてもよい。
【0053】
以上説明した本実施形態の車両用駆動装置1によれば、第5速用駆動ギヤ25aを選択して5th EVモードで走行中に車両を減速する場合に、モータ7で回生しつつ第1変速用シフター51で第5速用駆動ギヤ25aから第3速用駆動ギヤ23aにシフトダウンする間、即ち、モータ7で回生しつつ5th EVモードから3rd EVモードへシフトダウンする間、エンジン6を始動して第2変速用シフター52で第4速用駆動ギヤ24aを選択した状態で第2クラッチ42を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保することができる。従って、従来、機械式ブレーキの制動力により熱エネルギーとして放出していたエネルギーを回生エネルギーとして効率的に利用することができる。また、車速に応じて減速するので、車両の再加速時にスムーズな加速を行うことができる。
【0054】
また、第3速用駆動ギヤ23aで回生した後、回生がとりきれなくなったときに3rd EVモードから1st EVモードにシフトダウンして待機することにより再加速時にスムーズな加速を行うことができる。
【0055】
<第2実施形態>
次に第2実施形態の車両用駆動装置について図14を参照して説明する。車両用駆動装置1Aは、変速機20Aにおいて遊星歯車機構30と、第2〜第5速用ギヤ対22〜25に加えて、第6速用ギヤ対96と第7速用ギヤ対97を備えている点で車両用駆動装置1と相違している。以下、この車両用駆動装置1Aについて、上述した車両用駆動装置1との相違点のみを説明する。
【0056】
第1主軸11には、第3速用駆動ギヤ23aと第5速用駆動ギヤ25aとの間に第1主軸11と相対回転自在に第7速用駆動ギヤ97aが設けられている。また、第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aとの間に、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23a又は第7速用駆動ギヤ97aとを連結又は開放する第1変速用シフター51Aが設けられ、第7速用駆動ギヤ97aと第5速用駆動ギヤ25aとの間に、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aとを連結又は開放する第3変速用シフター51Bが設けられている。そして、第1変速用シフター51Aが第3速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第3速用駆動ギヤ23aが連結して一体に回転し、第7速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第7速用駆動ギヤ97aが一体に回転し、第1変速用シフター51Aがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第3速用駆動ギヤ23aと第7速用駆動ギヤ97aに対し相対回転する。また、第3変速用シフター51Bが第5速用接続位置でインギヤするときには、第1主軸11と第5速用駆動ギヤ25aが連結して一体に回転し、第3変速用シフター51Bがニュートラル位置にあるときには、第1主軸11は第5速用駆動ギヤ25aに対し相対回転する。
【0057】
第2中間軸16には、第2速用駆動ギヤ22aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に第2中間軸16と相対回転自在に第6速用駆動ギヤ96aが設けられている。また、第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aとの間に、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22a又は第6速用駆動ギヤ96aとを連結又は開放する第2変速用シフター52Aが設けられ、第6速用駆動ギヤ96aと第4速用駆動ギヤ24aとの間に、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aとを連結又は開放する第4変速用シフター52Bが設けられている。そして、第2変速用シフター52Aが第2速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第2速用駆動ギヤ22aが連結して一体に回転し、第6速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第6速用駆動ギヤ96aが一体に回転し、第2変速用シフター52Aがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第2速用駆動ギヤ22aと第6速用駆動ギヤ96aに対し相対回転する。また、第4変速用シフター52Bが第4速用接続位置でインギヤするときには、第2中間軸16と第4速用駆動ギヤ24aが連結して一体に回転し、第4変速用シフター52Bがニュートラル位置にあるときには、第2中間軸16は第4速用駆動ギヤ24aに対し相対回転する。
【0058】
カウンタ軸14には、第1共用従動ギヤ23bと第2共用従動ギヤ24bとの間に、第3共用従動ギヤ96bがカウンタ軸14に一体に取り付けられている。
ここで、第3共用従動ギヤ96bは、第1主軸11に設けられた第7速用駆動ギヤ97aと噛合して第7速用駆動ギヤ97aと共に第7速用ギヤ対97を構成し、第2中間軸16に設けられた第6速用駆動ギヤ96aと噛合して第6速用駆動ギヤ96aと共に第6速用ギヤ対26を構成する。
【0059】
そして、第2変速用シフター52Aが第6速用接続位置でインギヤした状態で第2クラッチ42を締結することで第6速走行を行うことができ、また、第1変速用シフター51Aが第7速用接続位置でインギヤした状態で第1クラッチ41を締結することで第7速走行を行うことができ、それぞれモータ7でアシスト又は充電することができる。
【0060】
このように構成された車両用駆動装置1Aにおいては、1st EVモード、3rd EVモード、5th EVモードに加えて、7th EVモードでEV走行することができる。
具体的には、7th EVモードは、初期状態から第1変速用シフター51Aをニュートラル位置から第7速用接続位置でインギヤすることによりなされる。
この状態で、モータ7を駆動(正転方向にトルクを印加)すると、ロータ72に連結された遊星歯車機構30のサンギヤ32が正転方向に回転する。このとき第1及び第2クラッチ41、42が切断されているため、サンギヤ32に伝達された動力は第1主軸11からエンジン6のクランク軸6aに伝達されることはなく、モータトルクが第7速用ギヤ対27を通って駆動輪DW,DWに伝達される。
【0061】
この7th EVモードで走行中に減速する場合、上述した5th EVモードから3rd EVモードへとシフトダウンと同様に、7th EVモードから5th EVモードへのシフトダウン時の制動力をエンジンブレーキで確保する。
【0062】
即ち、7th EVモードでEV走行中に不図示のアクセルペダルがOFFになった状態で7th EVモードで回生を行なう。そして、車速が所定値まで下がったときに回生しながら第1クラッチ41を締結してエンジン6を始動する。エンジン6を始動した後、第1クラッチ41を切断するとともに第2変速用シフター52Aをニュートラル位置から第6速用接続位置でインギヤする。そして、第2クラッチ42を除々に締結しエンジンブレーキを作用させる。そして、第2クラッチ42が完全に締結した後、第1変速用シフター51Aを第7速用接続位置からニュートラル位置に戻すとともに第3変速用シフター51Bをニュートラル位置から第5速用接続位置でインギヤすることによりシフトダウンを行なう。続いて、5th EVモードで回生するとともに締結していた第2クラッチ42を除々に切断する。そして、第2クラッチ42が完全に切断した後、エンジン6を停止する。さらに車速が所定値まで下がったときに、5th EVモードから3rd EVモードへとシフトダウンがなされる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の車両用駆動装置1Aによれば、第7速用駆動ギヤ97aを選択して7th EVモードで走行中に車両を減速する場合に、モータ7で回生しつつ第1変速用シフター51Aと第3変速用シフター51Bで第7速用駆動ギヤ97aから第5速用駆動ギヤ25aにシフトダウンする間、即ち、モータ7で回生しつつ7th EVモードから5th EVモードへシフトダウンする間、エンジン6を始動して第2変速用シフター52Aで第6速用駆動ギヤ96aを選択した状態で第2クラッチ42を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保することができる。
また、さらに車両の減速に伴ってモータ7で回生しつつ5th EVモードから3rd EVモードへシフトダウンする間、エンジン6を始動して第4変速用シフター52Bで第4速用駆動ギヤ24aを選択した状態で第2クラッチ42を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保することができる。
従って、本実施形態の車両用駆動装置1Aにおいても、従来、機械式ブレーキの制動力により熱エネルギーとして放出していたエネルギーを回生エネルギーとして効率的に利用することができる。
【0064】
尚、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1、1A 車両用駆動装置
6 エンジン(内燃機関)
6a クランク軸(内燃機関出力軸)
7 モータ(電動機)
9 駆動軸
11 第1主軸(第1入力軸)
12 第2主軸
13 連結軸
14 カウンタ軸(出入力軸)
15 第1中間軸
16 第2中間軸(第2入力軸)
20、20A 変速機
22 第2速用ギヤ対
22a 第2速用駆動ギヤ
23 第3速用ギヤ対
23a 第3速用駆動ギヤ
23b 第1共用従動ギヤ
24 第4速用ギヤ対
24a 第4速用駆動ギヤ
24b 第2共用従動ギヤ
25 第5速用ギヤ対
25a 第5速用駆動ギヤ
26a ファイナルギヤ
27A 第1アイドルギヤ列
27B 第2アイドルギヤ列
27a アイドル駆動ギヤ
27b 第1アイドル従動ギヤ
27c 第2アイドル従動ギヤ
27d 第3アイドル従動ギヤ
30 遊星歯車機構
32 サンギヤ(第1要素)
35 リングギヤ(第3要素)
36 キャリア(第2要素)
41 第1クラッチ(第1断接手段)
42 第2クラッチ(第2断接手段)
51,51A 第1変速用シフター
51B 第3変速用シフター
52,52A 第2変速用シフター
52B 第4変速用シフター
53 後進用シフター
61 シンクロ機構(ロック機構)
96 第6速用ギヤ対
96a 第6速用駆動ギヤ
96b 第3共用従動ギヤ
97 第7速用ギヤ対
97a 第7速用駆動ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と電動機とを備える車両用駆動装置であって、
前記内燃機関から動力が出力される内燃機関出力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第1断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸と結合される第1入力軸と、
前記内燃機関出力軸に平行に配置され、第2断接手段によって選択的に前記内燃機関出力軸に結合される第2入力軸と、
前記内燃機関出力軸と平行に配置され、被駆動部に動力を出力する出入力軸と、
前記第1入力軸上に配置され、第1同期装置を介して前記第1入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第1ギヤ群と、
前記第2入力軸上に配置され、第2同期装置を介して前記第2入力軸に選択的に連結される複数のギヤよりなる第2ギヤ群と、
前記出入力軸上に配置され、前記第1ギヤ郡のギヤと前記第2ギヤ群のギヤとが共有して噛合する複数のギヤよりなる第3ギヤ群と、を備え、
前記第1ギヤ群の高速側ギヤを選択してEV走行中に車両を減速する場合に、前記電動機で回生しつつ前記高速側ギヤから低速側ギヤにシフトダウンする間、前記内燃機関を始動するとともに前記第2同期装置で前記第2ギヤ群のギヤを選択した状態で前記第2断接手段を締結することにより、エンジンブレーキを利用してシフトダウン時の制動力を確保することを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
減速要求を推定し、前記第1ギヤ群の高速側ギヤで回生中に前記第1ギヤ群の低速側ギヤへの減速要求があった場合、一旦、前記第2ギヤ群のギヤを選択した状態でエンジンブレーキを行い、前記第2ギヤ群のギヤにて走行中に前記第1ギヤ群の高速側ギヤから低速側ギヤにプレシフトすることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記第1同期装置はシンクロクラッチであることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記低速側ギヤを選択して回生することにより車速が回生不可速度まで下がったときには、回生を停止し、前記低速側ギヤよりもさらに低速側ギヤを選択することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−79379(P2011−79379A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231617(P2009−231617)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】