説明

車両走行制御装置

【課題】自動走行制御を不可能にしてしまうような異常の検知
【解決手段】車両の車速の調整を行うエンジン100を目標制御量に基づいて制御する第1ECU(エンジンECU9)と、車速が目標車速となるように目標制御量を算出して第1ECUへと出力する第2ECU(自動走行制御ECU8)と、を備え、その第1ECUは、エンジン100の回転数又は発生する制御量が所定値を超えた際に目標制御量に基づくエンジン100の制御を禁止させるべき異常状態にあるとの判定を行う異常判定部(システム限界判定部91)を設けること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両走行制御装置に関し、更に詳しくは、自動走行制御を不可能にしてしまうような異常を判定させる車両走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両には、運転者による車両の運転操作を軽減するものとして、車両の車速が目標車速となるように一定車速制御を行う定速走行制御や、先行車両に対して自車両を追従走行させるように追従走行制御を行う追従走行制御、すなわちアダプティブクルーズコントロール(ACC)などの自動走行制御を行う車両走行制御装置が搭載されている。この車両走行制御装置では、自動走行制御ECUにより車両の車速が目標車速となるように目標制御量としての目標駆動力が算出される。そして、この車両走行制御装置においては、その算出された目標駆動力がエンジンECUに出力され、このエンジンECUが目標駆動力に基づいて車両の車速を調整する車速調整装置としてのエンジンを制御する。従来の車両走行制御装置では、運転者による制動操作があると、自動走行制御を停止することとしていた。
【0003】
ところで、近年、低車速、例えば10km/h程度で自動走行制御を行う要望がある。従来の車両走行制御装置では、車両が自動走行制御によって低車速で坂路を自動走行しているときに運転者による制動操作があると、その自動走行制御が停止してしまうこととなる。そして、車両が低車速で坂路を自動走行しているときに自動走行制御が停止してしまった場合には、運転者による制動操作により発生する制動力によって車両を坂路で停止させることができなければ、車両の位置を維持することができず、登坂中においては車両がずり下がるなど、車両の挙動が変化してしまう虞がある。
【0004】
そこで、従来の車両走行制御装置では、運転者による制動操作があっても自動走行制御を停止させない技術が提案されている。例えば特許文献1では、運転者による制動操作があっても自動走行制御を停止させず、自動走行制御ECUが目標車速を減少して、この減少した目標車速となるように目標駆動力を算出し、エンジンECUが自動走行制御ECUにより算出された目標駆動力に基づいてエンジンを制御することで車速を小さくする技術が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−90679号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両の自動走行制御においては、目標車速に応じて車速調整装置の制御パラメータたる目標制御量(目標駆動力)を求め、この目標制御量となるように車速調整装置の制御を行う。その際、この車両においては、その車速調整装置たるエンジンから出力された目標駆動力が夫々の駆動輪に伝達されて目標車速が保たれる。ここで、その車両が例えば差動装置(所謂リミテッドスリップデフ)の搭載されていない2輪駆動車である場合には、車速調整装置からの目標駆動力が前軸側(又は後軸側)の左右の駆動輪に分散して伝達される。また、その車両が例えばセンターデフフリーの4輪駆動車である場合には、車速調整装置からの目標駆動力が全ての車輪(駆動輪)に分散して伝達される。
【0007】
しかしながら、その車両の駆動系に正確なエンジンから出力された駆動力の伝達を妨げるような異常が発生したりした場合には、以下のような不都合が生じてしまう。ここで言う駆動系の異常とは、2輪駆動車においては2本の駆動輪の内の1本に対してエンジンから出力された駆動力を正確に伝えることのできない状態のことであり、4輪駆動車においては全ての車輪(駆動輪)の内の少なくとも1本に対してエンジンから出力された駆動力を正確に伝えることのできない状態のことである。このような駆動系の異常が発生した場合には、そのエンジンから出力された駆動力が異常のある側の駆動輪に集中的に伝えられて空回りする一方、正常な側の駆動輪に掛かる駆動力が低下し、車両を減速させてしまう。そして、このような状況になったときには車両の車速が目標車速を下回るので、自動走行制御ECUは、その目標車速を満たすべくエンジンから出力させる目標駆動力を増加させる。それにもかかわらず、この車両においては、その増加分によって異常のある側の駆動輪の空転が速くなるだけで車速は低下していき、いずれ停止してしまう。つまり、駆動系にそのような異常が生じた場合には、エンジンに過剰な負荷を与えるのみで、自動走行制御が不可能になってしまう。
【0008】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、自動走行制御を不可能にしてしまうような異常が発生したときに、その異常を検知することのできる車両走行制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、車両の車速の調整を行うエンジンを目標制御量に基づいて制御する第1ECUと、車速が目標車速となるように目標制御量を算出して第1ECUへと出力する第2ECUと、を備える車両走行制御装置において、その第1ECUは、エンジンの回転数又は発生する制御量が所定値を超えた際に目標制御量に基づくエンジンの制御を禁止させるべき異常状態にあるとの判定を行う異常判定部を設けている。
【0010】
ここで、その所定値は、請求項2記載の発明の如く、目標制御量でエンジンを作動させた際の当該エンジンの回転数又は発生する制御量よりも高回転側に又は大きくしたものである。
【0011】
また、第1ECUは、請求項3記載の発明の如く、異常判定部が異常状態にあるとの判定を行った際に目標制御量に基づいたエンジンの制御を禁止させるよう構成する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る車両走行制御装置は、自動走行制御をこれ以上継続させることが不可能な異常状態、例えば上述した駆動系の異常を検出することができる。そして、この車両走行制御装置は、その異常状態が検出されたときに、目標制御量に基づいたエンジンの制御を禁止させ、自動走行制御を停止させることによって、そのエンジンの過負荷を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明に係る車両走行制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
本発明に係る車両走行制御装置の実施例1を図1から図4に基づいて説明する。
【0015】
最初に、本実施例1の車両走行制御装置の構成について図1を用いて説明する。この図1の符号1−1は、本実施例1の車両走行制御装置を示す。この車両走行制御装置1−1は、図示しない車両に搭載されるものであり、車両の車速が目標車速となるように自動走行制御を行うものである。本実施例1の車両走行制御装置1−1は、自動走行制御スイッチ2と、車速センサ3と、Gセンサ4と、ブレーキスイッチ5と、アクセルセンサ6と、クランク角センサ7と、自動走行制御ECU8と、エンジンECU9と、ブレーキECU10と、を備えている。
【0016】
ここで、本実施例1の車両には、車速を調整する車速調整装置が設けられている。そして、この車両には、車両に作用させる駆動力を増減制御することによって車速の調整を行う図1に示すエンジン100や、車両に作用させる制動力を増減制御することによって車速の調整を行う図1に示すブレーキ装置200が車速調整装置として用意されている。そのエンジン100は、エンジンECU9により設定された目標制御量としての目標駆動力に基づいて作動させられる。一方、ブレーキ装置200は、ブレーキECU10により設定された目標制御量としての目標制動力に基づいて作動させられる。また、このブレーキ装置200は、運転者による制動操作、すなわち運転者による図示しないブレーキペダルの踏み込み操作に基づいて制動力を発生するものでもある。
【0017】
以下に、この車両走行制御装置1−1を成す自動走行制御スイッチ2,車速センサ3,Gセンサ4,ブレーキスイッチ5,アクセルセンサ6,クランク角センサ7,自動走行制御ECU8,エンジンECU9およびブレーキECU10について詳述する。
【0018】
まず、自動走行制御スイッチ2は、制御開始トリガーである。具体的に、この自動走行制御スイッチ2は、図示しない車両の室内に設けられており、運転者の操作によってONされるものである。また、この自動走行制御スイッチ2は、自動走行制御ECU8と接続されており、運転者の操作によってONされると、ON信号を自動走行制御ECU8に出力する。これにより、この自動走行制御スイッチ2は、自動走行制御ECU8が自動走行制御を開始する際の制御開始トリガーとなる。
【0019】
車速センサ3は、図示しない車両の車速Vを検出するものである。この車速センサ3は、自動走行制御ECU8と接続されており、検出された車両の車速Vが自動走行制御ECU8に出力される。ここで、この車速センサ3としては、例えば、車両の図示しない各車輪に設けられた車輪速センサを利用することができる。この場合は、自動走行制御ECU8が車速センサ3としてのそれぞれの車輪速センサで検出した各車輪の速度に基づいて車両の車速Vを算出する。
【0020】
Gセンサ4は、走行している路面についての勾配検出手段である。このGセンサ4は、図示しない車両の傾きを検出するものである。つまり、このGセンサ4は、車両が現在走行している路面の勾配θを検出するものである。ここで、このGセンサ4は、自動走行制御ECU8と接続されており、検出された勾配θが自動走行制御ECU8に出力される。
【0021】
ブレーキスイッチ5は、制動操作検出手段である。このブレーキスイッチ5は、運転者による制動操作を検出するものである。このブレーキスイッチ5は、図示しない車両の室内に設けられているブレーキペダルが運転者により踏み込まれるとONされるものである。ここで、このブレーキスイッチ5は、自動走行制御ECU8と接続されており、運転者によりブレーキペダルが踏み込まれてONされると、ON信号を自動走行制御ECU8に出力する。これにより、運転者による制動操作が行われたか否かについて自動走行制御ECU8で判断することができる。
【0022】
アクセルセンサ6は、加速操作量検出手段である。このアクセルセンサ6は、運転者による加速操作量Sを検出する。このアクセルセンサ6は、図示しない車両の室内に設けられているアクセルペダルが運転者により踏み込まれた際の踏み込み量を加速操作量Sとして検出するものである。ここで、このアクセルセンサ6は、エンジンECU9と接続されており、運転者による加速操作量SをエンジンECU9に出力する。
【0023】
クランク角センサ7は、エンジン回転数検出手段である。このクランク角センサ7は、図示しないクランクシャフトの回転角度を検出するものである。ここで、このクランク角センサ7は、エンジンECU9と接続されており、検出したクランクシャフトの回転角度をエンジンECU9に出力する。このエンジンECU9においては、その回転角度とその回転に要した時間(例えば検出時間)に基づいてエンジン回転数Neを求める。
【0024】
自動走行制御ECU8は、第2ECUである。この自動走行制御ECU8は、車速Vが予め又は運転者によって設定された目標車速Voとなるように目標制御量としての目標駆動力Foを算出し、エンジンECU9に出力するものである。また、この自動走行制御ECU8は、車速Vが予め設定された目標車速Voとなるように目標制御量としての目標制動力Boを算出し、ブレーキECU10に出力するものでもある。
【0025】
ここで、その目標車速Voは、車両走行制御装置1−1がどの様な自動走行制御を行うのか否かによって異なる値になる。つまり、この車両走行制御装置1−1が定速走行制御を行う場合には、例えば、10km/h程度の低車速、高速走行時ならば100km/hなどの高車速に目標車速Voが設定される。また、この車両走行制御装置1−1が追従走行制御を行う場合には、先行車両の車速を目標車速Voとして設定する。
【0026】
更に、この自動走行制御ECU8は、エンジンECU9を介して目標駆動力Foとなるようにエンジン100を制御させるとともに、ブレーキECU10を介して目標制動力Boとなるようにブレーキ装置200を制御させるものでもある。つまり、この自動走行制御ECU8は、エンジン100とブレーキ装置200とを協調制御させるものである。ここで、本実施例1の自動走行制御ECU8は、自動走行制御判定部81と、駆動力算出部82と、制動力算出部83と、を有する。なお、この自動走行制御ECU8のハード構成は、既に公知であるので説明は省略する。
【0027】
自動走行制御判定部81は、運転者による自動走行制御の開始の意志を判定するものである。この自動走行制御判定部81は、自動走行制御スイッチ2からのON信号が検出されたか否かを観ることによって自動走行制御の開始要否を判定する。例えば、その自動走行制御スイッチ2が運転者によって操作されることでONされて、この自動走行制御スイッチ2からON信号が出力されるので、その際の自動走行制御判定部81は、自動走行制御の開始が要求されているとの判定を行う。
【0028】
駆動力算出部82は、エンジン100に出力させる自動走行制御時の目標駆動力Foを算出するものである。この駆動力算出部82では、車両の車速Vが予め又は運転者によって設定された自動走行制御時の目標車速Voとなるように目標駆動力Foを算出する。例えば、この駆動力算出部82は、その目標車速Voと車速センサ3により検出された現在の車速VとGセンサ4により検出された走行路の勾配θとに基づいて、その目標車速Voを自動走行制御中に維持することの可能な目標駆動力Foの算出を行う。この駆動力算出部82は、ブレーキスイッチ5がOFFでありON信号が出力されなければ、その目標駆動力Foの情報を求めた後エンジンECU9に出力する。
【0029】
ここで、自動走行制御ECU8は、ブレーキスイッチ5がONとされてON信号が出力される、すなわち運転者による制動操作を検出した場合、自動走行制御を禁止させるように構成してもよい。また、この自動走行制御ECU8は、アクセルセンサ6からの信号(加速操作量S)が検出される、すなわち運転者によるアクセル操作を検出した場合にも、自動走行制御を禁止させるように構成してもよい。これらの場合、本実施例1においては、駆動力算出部82に自動走行制御禁止時の目標駆動力Foを算出させる。その自動走行制御禁止時の目標駆動力Foとは、0N又はエンジン100にて実際には出力不可能な値(例えば、Fo=−15000N)、つまりエンジン100の実際の出力が0Nとなる値のことである。なお、このエンジン100は、−15000N以下の駆動力については実際に出力させることができず、−15000Nよりも大きな駆動力については実際に出力できるものとする。また、駆動力算出部82は、そのような場合に自動走行制御時の目標駆動力Foの算出を行わせない、又はその目標駆動力Foの算出を行ったとしてもエンジンECU9へと出力させないように構成してもよい。
【0030】
ところで、自動走行制御スイッチ2は、単なるONとOFFの切り換えだけでなく、複数の自動走行制御条件の切り換えを行うものであってもよい。つまり、この自動走行制御スイッチ2は、複数段の切換スイッチとしてもよい。例えば、この種の自動走行制御スイッチ2において運転者により1段目が選択された場合には、自動走行制御判定部81が自動走行制御スイッチ2からのON信号を検出して自動走行制御の開始要求ありと判定し、駆動力算出部82が車両の車速Vを1段目に該当する第1目標車速Voaとなるように目標駆動力Foを算出する。また、この自動走行制御スイッチ2の2段目が選択された場合には、自動走行制御判定部81が自動走行制御スイッチ2からのON信号を検出して自動走行制御の開始要求ありと判定し、駆動力算出部82が車両の車速Vを2段目に該当する第2目標車速Vob(≠Voa)となるように目標駆動力Foを算出する。
【0031】
制動力算出部83は、ブレーキ装置200に出力させる自動走行制御時の目標制動力Boを算出するものである。この制動力算出部83では、車両の車速Vが予め又は運転者によって設定された目標車速Voとなるように目標制動力Boを算出する。例えば、この制動力算出部83は、その目標車速VoとGセンサ4により検出された走行路の勾配θとに基づいて、その目標車速Voを自動走行制御中に維持することの可能な目標制動力Boの算出を行う。この制動力算出部83は、ブレーキスイッチ5がOFFでありON信号が出力されなければ、その目標制動力Boの情報を求めた後ブレーキECU10に出力する。
【0032】
ここで、運転者による制動操作を検出した際に自動走行制御を禁止させるならば、その制動力算出部83には、自動走行制御禁止時の目標制動力Boを算出させることとする。その自動走行制御禁止時の目標制動力Boとは、0N、つまりブレーキ装置200の実際の出力が0Nとなる値のことである。また、制動力算出部83は、この場合に自動走行制御時の目標制動力Boの算出を行わせない、又はその目標制動力Boの算出を行ったとしてもブレーキECU10へと出力させないように構成してもよい。
【0033】
また、上述した駆動力算出部82と制動力算出部83は、車両の車速Vが予め又は運転者によって設定された目標車速Voとなるように目標駆動力Foと目標制動力Boを算出することも可能である。つまり、その目標駆動力Foと目標制動力Boを車両に対して同時に働かせることによって、その車両の車速Vを予め又は運転者によって設定された目標車速Voにすることも可能である。その際の目標駆動力Foと目標制動力Boは、目標車速Voと現在の車速Vと走行路の勾配θに基づいて求める。
【0034】
エンジンECU9は、第1ECUである。このエンジンECU9は、目標駆動力Foに基づいてエンジン100を制御するものである。ここで、このエンジンECU9は、自動走行制御ECU8と接続されており、自動走行制御ECU8により算出され、出力された目標駆動力Foに基づいてエンジン100を制御する。ここで、本実施例1のエンジンECU9は、システム限界判定部91と、バックアップ制御部92と、を有する。
【0035】
システム限界判定部91は、車両走行制御装置1−1の自動走行制御におけるシステムとしての限界(以下、「システム限界」という。)を見極めるための異常判定部である。ここで言うシステム限界とは、何らかの異常を原因にしてエンジン100が過負荷となり、目標駆動力Foに基づいたエンジン100の制御を禁止させるべき異常状態のことを表している。つまり、このシステム限界とは、自動走行制御の実行が不可能になってしまうシステム上の自動走行制御不能状態のことをいう。ここで、その原因となる異常とは、例えば、前述した駆動系の異常、つまり2輪駆動車ならば2本の図示しない駆動輪の内の1本に対してエンジン100からの駆動力を正確に伝えることのできない状態のことをいい、4輪駆動車においては図示しない全ての車輪(駆動輪)の内の少なくとも1本に対してエンジンからの駆動力を正確に伝えることのできない状態のことをいう。従って、本実施例1の車両としては、差動装置の搭載されていない2輪駆動車やセンターデフフリーの4輪駆動車などが該当する。
【0036】
ここで、システム限界になっているときにはエンジン回転数Neが上昇していくことによってエンジン100が過負荷になるので、システム限界判定部91は、そのエンジン回転数Neがシステム限界判定閾値たる所定のシステム限界判定回転数Nelimを超えた際にシステム限界との判定が行われるように構成しておく。
【0037】
その所定値としてのシステム限界判定回転数Nelimは、目標制御量Foでエンジン100を作動させた際のエンジン回転数Neよりも高回転側に設定したものである。そして、このシステム限界判定回転数Nelimは、予め実験やシミュレーションを行って設定しておいたものであってもよく、判定毎に目標車速Vo,現在の車速Vおよび勾配θに基づいて求めたものであってもよい。また、このシステム限界判定回転数Nelimは、その目標車速Voなどに加えて夫々の駆動輪の平均速度や車両状態をも考慮に入れて判定毎に設定させてもよい。
【0038】
バックアップ制御部92は、自動走行制御におけるバックアップ制御をエンジン100に実行させるものである。そのバックアップ制御とは、自動走行制御中にシステム限界と判定された場合に通常の自動走行制御の替わりに行う制御であり、判定後の目標駆動力Foを0Nになるまで減少させるものである。つまり、このシステム限界時バックアップ制御とは、目標駆動力Foを減少させることによって実行中の自動走行制御を停止させるための制御のことである。これが為、このバックアップ制御部92には、自動走行制御中にシステム限界と判定された後の目標駆動力Foを算出させる機能が設けられている。ここでは、その目標駆動力Foを徐々に0Nまで減少させていく。
【0039】
ブレーキECU10は、目標制動力Boに基づいてブレーキ装置200を制御するものである。ここで、このブレーキECU10は、自動走行制御ECU8と接続されており、自動走行制御ECU8により算出され、出力された目標制動力Boに基づいてブレーキ装置200を制御する。
【0040】
次に、本実施例1の車両走行制御装置1−1を用いた車両走行制御方法について図2および図3のフローチャートに基づき説明する。その車両走行制御装置1−1による自動走行制御としては、エンジン100の駆動力のみを増減させることによって行われるもの、ブレーキ装置200の制動力のみを増減させることによって行われるもの、エンジン100の駆動力とブレーキ装置200の制動力の双方を協調制御することによって行われるものが考えられる。ここでは、その車両走行制御装置1−1による自動走行制御がエンジン100の駆動力のみを増減させることによって行われるものとして例示する。なお、車両走行制御装置1−1による自動走行制御は、この車両走行制御装置1−1の制御周期ごとに行われる。
【0041】
最初に、自動走行制御ECU8側の演算処理動作について図2のフローチャートを用いて説明する。
【0042】
まず、自動走行制御ECU8は、各種スイッチや各種センサから送られてきた信号についての入力処理を行う(ステップST101)。ここでは、少なくとも自動走行制御スイッチ2のON/OFF状態に係る信号、車速センサ3により検出された車速Vに係る信号、Gセンサ4により検出された勾配θに係る信号などが自動走行制御ECU8に入力される。
【0043】
次に、この自動走行制御ECU8の自動走行制御判定部81は、自動走行制御スイッチ2がONであるか否かを判定する(ステップST102)。つまり、ここでは、運転者による自動走行制御の開始の意志の有無についての判定を行っている。かかる判定は、上記ステップST101で取得された自動走行制御スイッチ2のON/OFF状態に係る信号に基づいて、具体的には自動走行制御スイッチ2からのON信号が入力されたのか否かに基づいて行う。
【0044】
ここで、自動走行制御スイッチ2がONであると判定された場合、この自動走行制御ECU8の駆動力算出部82は、目標車速Voに応じた自動走行制御時の目標駆動力Foを求めて設定する(ステップST103)。つまり、ここでは、予め又は運転者によって設定された目標車速Voと、上記ステップST101で車速センサ3から取得した現在の車速Vと、上記ステップST101でGセンサ4から取得した走行路の勾配θと、に基づいて、その目標車速Voを自動走行制御中に維持することの可能な目標駆動力Foが算出される。
【0045】
また、上記ステップST102で自動走行制御スイッチ2がOFFであると判定された場合、この駆動力算出部82は、自動走行制御禁止時の目標駆動力Foを算出して設定する(ステップST104)。つまり、ここでは、運転者による自動走行制御の開始の意志がない場合、すなわち自動走行制御が行われていない場合、エンジン100が自動走行制御ECU8からの目標駆動力Foによって駆動力を出力しないように目標駆動力Foを設定する。例えば、本実施例1においては、上述したエンジン100の実際の出力が0Nとなる値(0N又はエンジン100にて実際には出力不可能な−15000N)が求められる。
【0046】
上記の如くして目標駆動力Foの設定を行った後、本実施例1の自動走行制御ECU8は、その設定した目標駆動力FoをエンジンECU9に出力する(ステップST105)。なお、この自動走行制御ECU8は、その目標駆動力FoをエンジンECU9に出力すると、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0047】
次に、エンジンECU9側の演算処理動作について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0048】
まず、エンジンECU9は、各種スイッチや各種センサ、自動走行制御ECU8から送られてきた信号についての入力処理を行う(ステップST111)。ここでは、少なくともアクセルセンサ6により検出された加速操作量Sに係る信号、クランク角センサ7により検出されたクランクシャフトの回転角度に係る信号、自動走行制御ECU8の出力した目標駆動力Foに係る信号などがエンジンECU9に入力される。また、このステップST111においては、そのクランクシャフトの回転角度に基づいてエンジン回転数Neの演算も行っている。
【0049】
このエンジンECU9は、自動走行制御が要求されているのか否かについての判定を行う(ステップST112)。かかる判定は、自動走行制御ECU8から受け取った目標駆動力Foが0N以外でかつ所定値(ここでは、−15000N)よりも大きいのか否かによって行う。つまり、その目標駆動力Foが0N以外でかつ所定値よりも大きい場合には、自動走行制御要求有りとの判定を行う。また、ここでは、自動走行制御スイッチ2をエンジンECU9にも接続し、この自動走行制御スイッチ2のON信号が入力された際に自動走行制御要求有りと判定させてもよい。
【0050】
ここで、自動走行制御要求有りとの判定が為された場合、このエンジンECU9のシステム限界判定部91は、システム限界フラグHが立っているのか否か(つまり、H=1か否か)の判定を行う(ステップST113)。
【0051】
そして、システム限界フラグHが立てられていない(H=0)との判定が為された場合、このシステム限界判定部91は、ステップST111で求めたエンジン回転数Neが上述したシステム限界判定回転数Nelimを超えているのか否かについての判定を行う(ステップST114)。
【0052】
このステップST114でエンジン回転数Neがシステム限界判定回転数Nelimを超えていないとの判定が為された場合、エンジンECU9は、自動走行制御ECU8から受け取った目標駆動力Foに基づいてエンジン100を制御する(ステップST115)。
【0053】
一方、そのステップST114でエンジン回転数Neがシステム限界判定回転数Nelimを超えているとの判定が為された場合、システム限界判定部91は、車両走行制御装置1−1がシステム限界の状態にあるとの判断を行って、システム限界フラグHを立てる(H=1)(ステップST116)。そして、エンジンECU9のバックアップ制御部92は、上述したシステム限界時バックアップ制御を実行する(ステップST117)。つまり、このバックアップ制御部92は、徐々に0Nへと近づくように目標駆動力Foを求めて設定し、この目標駆動力Foに基づいてエンジン100を制御する。また、このバックアップ制御部92は、上記ステップST113でシステム限界フラグHが立っている(H=1)と判定された場合にも、そのステップST117に進んでシステム限界時バックアップ制御を行う。
【0054】
従って、本実施例1の車両走行制御装置1−1は、図4に示す如く、自動走行制御中に前述したような駆動系の異常が発生した際に、車速Vが低下していっているにも拘わらず増加している目標駆動力Foをシステム限界検出時に減少させ、徐々に自動走行制御を停止させていく。
【0055】
エンジンECU9は、上記ステップST112で自動走行制御要求無しとの判定が為された場合、加速操作量Sに基づいたエンジン100の制御(つまり、通常のエンジン制御)を行う(ステップST118)。
【0056】
ところで、本実施例1においては目標駆動力Foを徐々に0Nまで減少させるバックアップ制御について例示したが、このバックアップ制御は、一気に0Nまで目標駆動力Foを減少させるものであってもよい。つまり、目標駆動力Foが徐々に減少していこうと一気に減少していこうと、エンジン100は徐々にその駆動力が小さくなっていくので、かかるバックアップ制御の場合にも上記と同様の効果を奏することができる。
【0057】
また、本実施例1においてはエンジン100の駆動力のみでバックアップ制御を行うものとして例示したが、このバックアップ制御は、ブレーキ装置200の制動力を併用させてもよく、これにより車両を更に安定させた状態で停止させることができるようになる。
【0058】
更に、本実施例1においてはエンジン回転数Neを観ながらシステム限界か否かの判定を行っているが、この判定に用いるパラメータとしては、必ずしもそのエンジン回転数Neに限定するものではない。例えば、かかる判定は、そのエンジン回転数Neに替えて、これと同等のものを示す図示しない自動変速機のタービン回転数などを利用してもよい。
【0059】
また、かかる判定は、そのエンジン回転数Neやタービン回転数に替えて、エンジン100の発生する制御量を利用してもよい。これが為、この場合には、その制御量が所定値を超えた際にシステム限界と判定し、その制御量を小さくしていって自動走行制御を停止させる。この際の所定値は、目標制御量Foでエンジン100を作動させた際のエンジン100の制御量よりも大きくしたものである。ここでは、そのエンジン100が目標駆動力Foに基づいて制御されているので、その制御量として駆動力を適用することができる。他方、そのエンジン100は、目標駆動力Foではなく、目標駆動トルクや目標エンジン出力などに基づいて制御することも可能である。従って、その場合には、つまり目標駆動トルクに基づく制御を行うならば駆動トルクを制御量として用い、目標エンジン出力に基づく制御を行うならばエンジン出力を制御量として用いればよい。
【0060】
ここで、上述したが如く運転者による制動操作又はアクセル操作を検出した場合に自動走行制御を禁止させるならば、そもそも自動走行制御が行われなくなるので、システム限界判定部91は、システム限界判定を実行しないように構成してもよい。
【0061】
以上のように、本実施例1の車両走行制御装置1−1は、自動走行制御をこれ以上継続させることが不可能なシステム限界の状態を検出することができる。そして、この車両走行制御装置1−1は、そのシステム限界の状態が検出されたときに、システム限界時バックアップ制御へと切り換えることによって自動走行制御を停止させ、エンジン100の過負荷を防ぐことができる。
【実施例2】
【0062】
次に、本発明に係る車両走行制御装置の実施例2を図5に基づいて説明する。
【0063】
例えば、凸凹の路面を走行している場合には、駆動系に異常が無くても駆動輪が路面から浮き上がってシステム限界の状態にあるとの判定が行われる可能性がある。これが為、前述した実施例1において図2および図3の制御動作を一巡したのみでは、システム限界の状態にあるとの判定が駆動輪の浮き上がりによるものなのか、駆動系の異常によるものなのかを判別することができない。
【0064】
そこで、本実施例2においては、システム限界の状態にあるとの判定が駆動輪の浮き上がりによるものなのか、駆動系の異常によるものなのかを選別できるように構成する。例えば、本実施例2においては、システム限界判定についての監視時間を設定し、少なくともその監視時間の間だけはシステム限界判定動作を繰り返し実行して、本当にシステム限界なのか否かを識別させる。
【0065】
具体的に、本実施例2においては、エンジンECU9側の演算処理動作を図5のフローチャートに示す如く変更すればよい。
【0066】
まず、エンジンECU9は、実施例1のときと同様に、各種スイッチや各種センサ、自動走行制御ECU8から送られてきた信号についての入力処理を行い(ステップST121)、自動走行制御が要求されているのか否かについての判定を行う(ステップST122)。
【0067】
ここで、自動走行制御要求有りとの判定が為された場合、本実施例2のエンジンECU9のシステム限界判定部91は、システム限界検知回数Lが所定回数Lo以上になったのか否かを判定する(ステップST123)。ここでは、その所定回数Loがシステム限界判定についての監視時間に相当する。
【0068】
そして、このシステム限界判定部91は、システム限界検知回数Lが所定回数Loに達していないと判定した場合、エンジン回転数Neがシステム限界判定回転数Nelimを超えているのか否かについての判定を行う(ステップST124)。かかる判定は、実施例1のステップST114と同じである。
【0069】
このステップST124でエンジン回転数Neがシステム限界判定回転数Nelimを超えていないとの判定が為された場合、本実施例2のエンジンECU9は、システム限界検知回数Lをリセット(L=0)して(ステップST125)、自動走行制御ECU8から受け取った目標駆動力Foに基づいてエンジン100を制御する(ステップST126)。
【0070】
一方、そのステップST124でエンジン回転数Neがシステム限界判定回転数Nelimを超えているとの判定が為された場合、本実施例2のシステム限界判定部91は、システム限界検知回数Lを1つ繰り上げる(L=L+1)(ステップST127)。
【0071】
ここで、このエンジンECU9が再び自動走行制御ECU8から目標駆動力Foを受け取り、そのステップST127に進んだ場合には、システム限界検知回数Lがまた1つ繰り上がる。そして、これが繰り返されてシステム限界検知回数Lが所定回数Loに達したときに、本実施例2のエンジンECU9のバックアップ制御部92は、実施例1のときと同様にしてシステム限界時バックアップ制御を実行する(ステップST128)。
【0072】
エンジンECU9は、上記ステップST122で自動走行制御要求無しとの判定が為された場合、加速操作量Sに基づいたエンジン100の制御を行う(ステップST129)。
【0073】
このように、本実施例2の車両走行制御装置1−1は、システム限界の状態にあると1度だけ検知されたからといって即座にこれを確定させず、自動走行制御中に少なくとも所定回数Loだけ連続してシステム限界の状態にあるとの検知が為されなければ真にシステム限界の状態にあると判定させない。従って、この車両走行制御装置1−1は、そのシステム限界の状態にあるとの判定が駆動輪の浮き上がりによる一時的なものなのか、駆動系の異常による恒久的なものなのかを明確にすることができるようになる。つまり、この車両走行制御装置1−1は、システム限界についての誤判定を防ぐことができ、正確にシステム限界を検知できるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明に係る車両走行制御装置は、自動走行制御を不可能にしてしまうような異常を検知させる技術に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る車両走行制御装置の構成の一例について示す図である。
【図2】自動走行制御ECU側の演算処理動作の一例について示すフローチャートである。
【図3】実施例1のエンジンECU側の演算処理動作の一例について示すフローチャートである。
【図4】本発明に係る車両走行制御装置の動作の一例について示す図である。
【図5】実施例2のエンジンECU側の演算処理動作の一例について示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0076】
1−1 車両走行制御装置
2 自動走行制御スイッチ
3 車速センサ
4 Gセンサ
5 ブレーキスイッチ
6 アクセルセンサ
7 クランク角センサ
8 自動走行制御ECU(第2ECU)
9 エンジンECU(第1ECU)
10 ブレーキECU
81 自動走行制御判定部
82 駆動力算出部
83 制動力算出部
91 システム限界判定部
92 バックアップ制御部
100 エンジン
200 ブレーキ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車速の調整を行うエンジンを目標制御量に基づいて制御する第1ECUと、
前記車速が目標車速となるように前記目標制御量を算出して前記第1ECUへと出力する第2ECUと、
を備える車両走行制御装置において、
前記第1ECUは、前記エンジンの回転数又は発生する制御量が所定値を超えた際に前記目標制御量に基づく前記エンジンの制御を禁止させるべき異常状態にあるとの判定を行う異常判定部を設けたことを特徴とする車両走行制御装置。
【請求項2】
前記所定値は、前記目標制御量で前記エンジンを作動させた際の当該エンジンの回転数又は発生する制御量よりも高回転側に又は大きくすることを特徴とした請求項1に記載の車両走行制御装置。
【請求項3】
前記第1ECUは、前記異常判定部が異常状態にあるとの判定を行った際に前記目標制御量に基づいた前記エンジンの制御を禁止させるよう構成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−62897(P2009−62897A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232073(P2007−232073)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】