説明

車両駆動システムの制御装置

【課題】内燃機関の出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムにおいて、内燃機関の熱効率と動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表されるシステム効率が最大となる回転数まで内燃機関の回転数を速やかに変化させる。
【解決手段】回転数の許容最大変化量を出力に関連付けて記憶装置に記憶しておく。要求出力に応じた許容最大変化量を記憶装置から読み出し、予め設定された動作線上の回転数を初期値として許容最大変化量で回転数を変化させていく。そして、回転数が変更される度に、内燃機関の熱効率と動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表されるシステム効率を計算し、システム効率が最大となる回転数を特定する。そして、システム効率が最大となる回転数を最適回転数として確定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムの制御装置に関し、特に、動力循環が起こりうるハイブリッドシステムに用いて好適な車両駆動システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関が発生させる動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構に無段変速機を用いた車両駆動システムが知られている。特開2009−154724号公報には、そのような車両駆動システムの一例が開示されている。この公報に開示されているシステムは、内燃機関と無段変速機との間に電気式差動機構を備え、内燃機関の燃焼効率が最適となるように無段変速機の変速比を制御しながら、差動状態の制御によって伝達効率も高めることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−154724号公報
【特許文献2】特開平11−257112号公報
【特許文献3】特開2003−161185号公報
【特許文献4】特開2004−232487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両の燃費を向上させるには、車両駆動システムのシステム全体の効率(以下、システム効率)を高めることが重要である。システム効率は、内燃機関において燃料から動力が作り出され、その動力が駆動輪に伝達されるまでの各効率の乗算値で表すことができる。より具体的には、内燃機関の熱効率と動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表すことができる。このため、システム効率の向上のためには熱効率と伝達効率の双方を最大にすることが理想的であるが、必ずしもそのようにできるとは限らない。一般に、内燃機関の熱効率も動力伝達機構の伝達効率も回転数に依存するが、動力伝達機構の構成によっては、熱効率を高めることと伝達効率を高めることとが背反する場合がある。この場合、回転数を変化させながらシステム効率が最大となる回転数を探し出す作業が必要とされるが、燃費の向上の観点からは、その作業に費やす時間は可能な限り短くしたい。一方、あまりにも急激に回転数を変化させてしまうと、それにより生じる内燃機関のトルク変動によって乗員に違和感を与えてしまうおそれがある。
【0005】
本発明は上述のような課題に鑑みなされたもので、内燃機関の出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムにおいて、内燃機関の熱効率と動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表されるシステム効率が最大となる回転数まで内燃機関の回転数を速やかに変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、第1の発明の車両駆動システムの制御装置は、
内燃機関と前記内燃機関が発生させる動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構とを有し、前記内燃機関の出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムの制御装置において、
回転数の許容最大変化量を出力に関連付けて記憶した記憶手段と、
要求出力に応じた許容最大変化量を前記記憶手段から読み出し、予め設定された動作線上の回転数を初期値として、前記許容最大変化量で回転数を変化させていく回転数変更手段と、
前記回転数変更手段によって回転数が変更される度に、前記内燃機関の熱効率と前記動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表されるシステム効率を計算するシステム効率計算手段と、
前記システム効率が最大となる回転数を特定し、その回転数を最適回転数として確定する最適回転数確定手段と、
を備えることを特徴としている。
【0007】
第2の発明の車両駆動システムの制御装置は、第1の発明の車両駆動システムの制御装置において、
前記内燃機関の出力を一定にしながら機関回転数を変化させる場合において、
前記内燃機関のトルク変動量が許容値を超えない機関回転数の最大変化量を当該出力における許容最大変化量として学習する学習手段、
をさらに備えることを特徴としている。
【0008】
第3の発明の車両駆動システムの制御装置は、第1又は第2の発明の車両駆動システムの制御装置において、
前記内燃機関はターボチャージャ付きの内燃機関であって、
前記制御装置は、
前記回転数変更手段によって回転数が変更される度に、排気エネルギの増加量を計算する排気エネルギ増加量計算手段と、
排気エネルギの増加量が基準値を超える場合には、前記回転数変更手段による回転数の変化量を小さくする回転数変化量補正手段と、
をさらに備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の車両駆動システムの制御装置によれば、要求出力に応じた許容最大変化量で回転数を変化させることで、システム効率が最大となる回転数まで内燃機関の回転数を速やかに変化させることができる。
【0010】
第2の発明の車両駆動システムの制御装置によれば、トルク変動量を基準値以下に抑えながら、システム効率が最大となる回転数まで内燃機関の回転数を速やかに変化させることができる。
【0011】
第3の発明の車両駆動システムの制御装置によれば、排気エネルギの増大に伴うターボチャージャの過過給を防止しながら、システム効率が最大となる回転数まで内燃機関の回転数を速やかに変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1の制御装置が適用されるハイブリッドシステムの構成を示す図である。
【図2】図1のハイブリッドシステムにおける動力の流れを示す図である。(A)は通常走行時の動力の流れを示し、(B)は動力循環時の動力の流れを示している。
【図3】エンジンの動作点の決定に用いるマップのイメージを示す図である。
【図4】動力循環率と伝達効率との関係を示す図である。
【図5】図1に示すハイブリッドシステムの共線図である。
【図6】回転数とエンジン熱効率、伝達効率及びシステム効率との各関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1の制御装置による回転数制御のルーチンを示すフローチャートである。
【図8】出力に許容最大回転数変化量を関連付けるマップのイメージを示す図である。
【図9】本発明の実施の形態1の制御装置による回転数制御の効果について説明するための図である。
【図10】本発明の実施の形態1の制御装置により実行される回転数制御のためのルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
本発明の実施の形態1について図1乃至図9の各図を参照して説明する。
【0014】
本発明の実施の形態1では、本発明をハイブリッドシステムの制御装置に適用している。図1は、本実施の形態にかかるハイブリッドシステムの構成を示す図である。本実施の形態にかかるハイブリッドシステムは、内燃機関2、第1モータジェネレータ(MG1)4、第2モータジェネレータ(MG2)6、動力分割機構8、インバータ10、減速機12及び電子制御ユニット(ECU)20を備えている。第1モータジェネレータ4、第2モータジェネレータ6、動力分割機構8、インバータ10及び減速機12は、内燃機関2が発生させる動力を駆動輪14L,14Rに伝達する動力伝達機構18を構成している。また、本実施の形態の制御装置は、電子制御ユニット20が実行するプログラムによって実現される。電子制御ユニット20は、エンジン2の運転を制御するとともに、インバータ10を介して第1モータジェネレータ4及び第2モータジェネレータ6の各運転も制御している。
【0015】
本実施の形態にかかる内燃機関(以下、エンジンという)2の種別には限定はない。火花点火式エンジン、圧縮着火式エンジン、4ストロークエンジン、2ストロークエンジン、レシプロエンジン、ロータリーエンジン、単気筒エンジン、多気筒エンジン、自然吸気エンジン、ターボエンジン等、様々な種別のエンジンを用いることができる。なお、エンジン2の少なくとも1つの気筒には筒内圧センサが設けられている。
【0016】
エンジン2が発生させる動力は、動力伝達機構18を構成する動力分割機構8によって2経路に分割される。動力分割機構8はプラネタリギヤによって構成されている。そのキャリア軸にはエンジン2が接続され、太陽歯車には第1モータジェネレータ4が接続され、また、内歯歯車には減速機12及び第2モータジェネレータ6が接続されている。動力分割機構8により分割される一方の経路は、減速機12を介して駆動輪14L,14Rへ動力を供給する経路であり、もう一方の経路は、第1モータジェネレータ4へ動力を供給する経路である。
【0017】
第1モータジェネレータ4及び第2モータジェネレータ6は、いずれも三相交流同期電動発電機である。第1モータジェネレータ4は、動力分割機構8を介して供給されるエンジン2の駆動力によって発電機として機能する。第1モータジェネレータ4が発電した電力は、インバータ10を介して第2モータジェネレータ6に供給される。その電力を受けて第2モータジェネレータ6はモータとして機能し、動力を発生する。第2モータジェネレータ6が発生させる動力は、動力分割機構8で分割されたエンジン2の動力とともに減速機12を介して駆動輪14L,14Rに伝達される。
【0018】
以上説明した動力伝達機構18内の動力の流れを図で表すと、図2の(A)のようになる。これは、車両の通常走行時における動力の流れを示している。この場合の動力伝達機構18の伝達効率は、エンジン2の回転数によらずほぼ一定とみなすことができる。したがって、図2の(A)に示すケースにおいてシステム効率を高めるためには、エンジン2の熱効率が高くなる動作点でエンジン2を運転すればよい。
【0019】
図3は、エンジンの動作点の決定に用いるマップのイメージを示す図である。エンジンの動作点はトルクと回転数とにより特定される。図3には等出力線と等熱効率線とが引かれている。各出力における動作点を連続的につなげたものが図3中に示す動作線である。動作線は各等出力線上においてエンジン2の熱効率が高い点の付近を通るように設定されている。図2の(A)に示すような通常走行時には、この動作線に従って要求出力に対応する回転数が決定される。
【0020】
ところが、車両の運転状況やシステムの状況によっては、図2の(B)に示すように、動力伝達機構18の内部で動力の循環が生じる場合がある。この場合、第2モータジェネレータ6が発電機として機能し、第1モータジェネレータ4が電動機として機能している。このような動力の循環は損失を増加させ、伝達効率を低下させることになる。ここで、エンジン2が発生させる動力に対する第1モータジェネレータ4が消費する電力の比を動力循環率として定義する。すると、動力循環率と動力伝達機構18の伝達効率との関係は図4のようになる。図4からは、動力伝達機構18の伝達効率を高めたいならば、動力循環率を低く抑えることが必要であることが確認できる。
【0021】
図5は図1に示すハイブリッドシステムの共線図である。この共線図では、エンジン(E/G)2の回転数と、第1モータジェネレータ(MG1)4の回転数と、出力部(OUT PUT)である減速機12の回転数との関係が示されている。エンジン1の熱効率にのみ着目するならば、図5中の破線のように、エンジン2の回転数は低く抑えるほうが好ましい。しかし、その場合、第1モータジェネレータ4の回転数は逆方向に大きくなる。このため、第1モータジェネレータ4が発生させる動力は大きくなり、その分、動力循環による損失も大きくなる。
【0022】
動力循環による損失を低くしたいのであれば、図5中の実線のようにエンジン2の回転数を高めればよい。そうすることで、第1モータジェネレータ4の逆回転数を低く抑えることができるからである。ところが、エンジン2の熱効率に関していえば、エンジン2の回転数を高くすることでその熱効率は低下してしまう。つまり、エンジン2の熱効率を高めることと動力伝達機構18の伝達効率を高めることとは、回転数に関して背反の関係にある。
【0023】
図6は、動力循環時における回転数と熱効率、伝達効率及びシステム効率との各関係を示す図である。図6に示すように、エンジン2の熱効率と動力伝達機構18の伝達効率との乗算値であるシステム効率は、ある回転数において極大となる。そのような回転数は、システム効率を計算しながら回転数を変化させていくことで探索することができる。その際、回転数の変化量を大きくとるほど、探索に要する時間を短縮してシステム効率を速やかに最大まで高めることができる。しかし、回転数の変化量が大きすぎる場合には、エンジン2のトルク変動量の増大によって乗員が違和感を覚えてしまうおそれがある。
【0024】
そこで、本実施の形態では、電子制御ユニット20によって次のような回転数制御が実施される。図7は、本実施の形態において電子制御ユニット20により実行される回転数制御のルーチンを示すフローチャートである。
【0025】
最初のステップS2では、車両の走行状態が定常走行かどうか判定される。その判定は、例えば、等アクセル開度が所定期間継続したかどうか、或いは、最大筒内圧のサイクル間の変動率が所定値以内かどうか、若しくは、最大筒内圧クランク角のサイクル間の変動率が所定値以内かどうか等の観点で行われる。
【0026】
車両の走行状態が定常走行である場合、ステップS4の処理が行われる。ステップS4では、現在の要求出力をキーにしてメモリが検索され、要求出力に対応する許容最大変化量ΔNemaxが読み出される。回転数の変化量が大きくなるにつれてエンジン2のトルク変動量も大きくなる。許容最大変化量ΔNemaxは、エンジン2のトルク変動量が許容値を超えない最大の回転数変化量である。電子制御ユニット20は、許容最大変化量ΔNemaxをエンジン2の出力に関連付けて学習し、その学習値をメモリに記憶している。図8は、エンジン2の出力に許容最大回転数変化量ΔNemaxを関連付けるマップのイメージを示す図である。高出力(高回転)ほど許容最大回転数変化量ΔNemaxが小さくなっているのは、高回転ほど内部EGRの変動が大きくなり、それに伴ってトルク変動量も大きくなるためである。
【0027】
ステップS4では、次に、読み出した許容最大変化量ΔNemaxがゼロかどうか判定される。許容最大変化量ΔNemaxの学習が完了していない場合、メモリから読み出される値はゼロとなる。
【0028】
許容最大変化量ΔNemaxがゼロではない場合、次に、ステップS8の処理が行われる。一方、許容最大変化量ΔNemaxがゼロの場合には、ステップS6の処理を行ってから、ステップS8の処理が行われる。ステップS6では、許容最大変化量ΔNemaxの値にて所定値ΔNe1が入力される。所定値ΔNe1は仮の許容最大変化量であり、予想される許容最大変化量よりも大きめの値に設定されている。
【0029】
ステップS8では、回転数、負荷、燃料噴射量、動力循環量等のシステム状態量が参照される。動力循環量としては、具体的には、第1モータジェネレータ4で消費される電力が参照される。
【0030】
次のステップS10では、エンジン2の図示効率と動力伝達機構18の伝達効率とがそれぞれ取得される。そして、図示効率と伝達効率との乗算値がシステム効率ηsysとして算出される。
【0031】
伝達効率の取得には、図4に示すような伝達効率と動力循環率との関係を規定したマップが用いられる。ステップS8で参照した動力循環量から動力循環率が計算され、その動力循環率に対応する伝達効率がマップから読み出される。
【0032】
一方、エンジン2の図示効率は、以下の式1によって算出される。式1においてQは供給された全燃料の熱発生量であって、燃料噴射量から算出される。Qは理論サイクル仕事であって、以下の式2によって算出することができる。Lはポンプ損失であって、前サイクルのP−V線図から算出することができる。Lexは排気損失であって、排気温度と既燃ガスの比熱と排気マニホールド容積との乗算値に比例する。排気温度は排気弁が開いたときの筒内圧センサの出力値を用いて計算で求めることができる。
【数1】

【数2】

【0033】
ステップS12では、パラメータηbaseにステップS10で算出されたシステム効率ηsysの値が代入される。また、ステップS14では、パラメータηparaにもステップS10で算出されたシステム効率ηsysの値が代入される。
【0034】
次のステップS16では、パラメータηparaの値がパラメータηbaseの値以上かどうか判定される。本ステップの最初の実行時には2つのパラメータηpara,ηbaseの値は同値であるので、本ステップの判定結果は肯定となる。その場合、ステップS18以降の処理が行われる。
【0035】
ステップS18では、許容最大変化量ΔNemaxに補正係数Tを掛けた量だけエンジン2の回転数Neを上昇させることが行われる。回転数Neの初期値は、図3に示す動作線上の回転数であって、要求出力に対応して決定される。補正係数Tの初期値は1であって、そのときは許容最大変化量ΔNemaxがそのまま回転数Neに加算される。また、このとき、エンジン2の出力が変化しないように、すなわち、エンジン2の動作点が等出力線に沿って変化するようにスロットル等のアクチュエータによるトルク制御が行われる。
【0036】
次のステップS20では、動作変更後のシステム状態量に基づいてシステム効率ηsysの再計算が行われる。ステップS22では、ステップS20で算出された動作変更後のシステム効率ηsysの値がパラメータηparaに代入される。もう1つのパラメータηbaseには、動作変更前のシステム効率ηsysの値が代入される。
【0037】
次のステップS24では、筒内圧などのエンジン状態量からトルク変動量Tが算出される。そして、トルク変動量Tが所定の基準値よりも小さいかどうか判定される。トルク変動量Tが所定値よりも小さければ、現時点の回転数変化量、すなわち、許容最大変化量ΔNemaxに補正係数Tを掛けた量は、トルク変動の観点において適切な値であると判断することができる。その場合、許容最大変化量ΔNemaxの学習値として現時点の回転数変化量(ΔNemax×T)がメモリに記憶される。一方、トルク変動量Tが所定値以上であれば、現時点の回転数変化量はトルク変動の観点において不適切な値であると判断することができる。その場合はステップS26の処理が行われて、補正係数Tの値が所定値aだけ減算される。
【0038】
ステップS24或いはS26の後、再びステップS16に戻って判定が行われる。2回目以降のステップS16の判定では、パラメータηparaに代入されている動作変更後のシステム効率ηsysの値と、パラメータηbaseに代入されている動作変更前のシステム効率ηsysの値とが比較されることになる。パラメータηparaのほうがパラメータηbaseよりも大きい場合には、システム効率ηsysをさらに上昇させる余地があると判断することができる。
【0039】
パラメータηparaがパラメータηbaseよりも小さくなるまでは再びステップS18に進み、許容最大変化量ΔNemaxに補正係数Tを掛けた量だけエンジン2の回転数Neをさらに上昇させることが行われる。ステップS26にて補正係数Tが減算されている場合には、その減算された補正係数Tを用いて回転数変化量(ΔNemax×T)の計算が行われる。そして、ステップS20にて、動作変更後のシステム状態量に基づいてシステム効率ηsysの再計算が行われる。以降、前回と同様にステップS22、S24、S26の処理が行われ、新たなパラメータηpara,ηbaseの値を用いてステップS16の判定が再び行われる。
【0040】
そして、ステップS16の判定結果が否定となった場合、つまり、動作変更後のシステム効率ηsysの値が動作変更前のシステム効率ηsysの値よりも小さくなった場合には、そのときの回転数Neがシステム効率ηsysを最大にする最適回転数として確定される。そして、ステップS28の処理の後に本ルーチンは終了される。ステップS28では、補正係数Tの値が初期化されて1に戻される。なお、先のステップS2の判定の結果、車両の走行状態が定常走行でなかった場合にもステップS28の処理の後に本ルーチンは終了される。
【0041】
図9は、本実施の形態の回転数制御を行った場合(実線で示す)と回転数変化量を低く抑えた場合(破線で示す)とで、エンジン回転数Neと回転数変化量ΔNeの各時間変化を比較して示すチャートである。この図からも分かるように、本実施の形態において実行される回転数制御によれば、要求出力に応じた許容最大変化量ΔNemaxで回転数Neを変化させることで、トルク変動量を基準値以下に抑えながら、システム効率が最大となる回転数までエンジン2の回転数を速やかに変化させることができる。
【0042】
実施の形態2.
次に、図10を参照して本発明の実施の形態2について説明する。
【0043】
本発明の実施の形態2の制御装置が適用されるハイブリッドシステムの構成は、実施の形態1と同様、図1のように示される。ただし、本実施形態にかかるハイブリッドシステムは、実施の形態1とは異なり、エンジン2の構成に限定がある。本実施形態にかかるエンジン2は、ターボチャージャを備えたターボ付エンジンである。ターボ付エンジンでは、回転数や負荷が変化した場合に排気エネルギが変化する。排気エネルギの増減はタービンの回転数に影響するため、排気エネルギが急激に増大したような場合には、過過給によってエンジン2の制御性が損なわれるおそれがある。
【0044】
そこで、本実施の形態では、電子制御ユニット20によって次のような回転数制御が実施される。図10は、本実施の形態において電子制御ユニット20により実行される回転数制御のルーチンを示すフローチャートである。図10において実施の形態1で実行される回転数制御と共通する処理については、同一のステップ番号を付している。以下では、本実施の形態で実行される回転数制御に特有の処理について重点的に説明する。
【0045】
本実施の形態では、ステップS12及びステップS14の処理の後、或いは、それらの処理と並行して、ステップS30の処理が行われる。ステップS30では、パラメータLex1に現時点における排気損失の値が代入される。排気損失は排気温度に比例し、排気温度は排気弁が開いたときの筒内圧センサの出力値を用いて計算で求めることができる。
【0046】
本実施の形態では、ステップS30の処理の後にステップS16の判定が行われる。ステップS16の判定の結果、パラメータηparaの値がパラメータηbaseの値以上であれば、続いてステップS18の処理が行われる。ステップS18では、許容最大変化量ΔNemaxに補正係数Tを掛けた量だけエンジン2の回転数Neを上昇させることが行われると同時に、エンジン2の動作点が等出力線に沿って変化するようにスロットル等のアクチュエータによるトルク制御が行われる。
【0047】
そして、次のステップS20では、動作変更後のシステム状態量に基づいてシステム効率ηsysの再計算が行われる。続くステップS22では、動作変更後のシステム効率ηsysの値がパラメータηparaに代入されるとともに、パラメータηbaseには動作変更前のシステム効率ηsysの値が代入される。
【0048】
本実施の形態では、次に、ステップS32の処理が行われる。ステップS32では、パラメータLex2に現時点における排気損失の値、すなわち、動作変更後の排気損失の値が代入される。ステップS18でエンジンの回転数が上昇さしめられたことにより、排気損失の値は動作変更前の値よりも大きくなっている。
【0049】
次のステップS34では、パラメータLex2とパラメータLex1との差の絶対値が計算され、その値と所定の基準値ΔLexとの比較が行われる。パラメータLex2とパラメータLex1との差の絶対値は、回転数の上昇に伴う排気エネルギの増加量に相当する。一方、基準値ΔLexは過過給が生じうる限界の排気エネルギ増加量に対応して設定されている。したがって、パラメータLex2とパラメータLex1との差の絶対値が基準値ΔLexを超えるのであれば、排気エネルギの過剰な上昇によって過過給が生じる可能性が高いと判断することができる。
【0050】
ステップS34の判定の結果、パラメータLex2とパラメータLex1との差の絶対値が基準値ΔLexを超えている場合には、ステップS36の処理が行われる。ステップS36では、許容最大変化量ΔNemaxに補正係数bを掛けた量だけエンジン2の回転数Neを低下させることが行われる。エンジン2の回転数Neの上昇を抑えることで排気エネルギの過剰な上昇を抑制し、過過給の発生を防止するためである。なお、補正係数bは補正係数Tよりも小さい値であって、例えば、補正係数Tと1未満の所定値との乗算値とすることもできる。ステップS36の処理の後は、ステップS24の判定が行われる。一方、前記差の絶対値が基準値ΔLex以下の場合には、回転数Neを低下させることなくそのままステップS24の判定が行われる。
【0051】
ステップS24或いはS26の後、再びステップS16に戻って判定が行われる。2回目以降のステップS16の判定では、パラメータηparaに代入されている動作変更後のシステム効率ηsysの値と、パラメータηbaseに代入されている動作変更前のシステム効率ηsysの値とが比較されることになる。
【0052】
パラメータηparaがパラメータηbaseよりも小さくなるまでは再びステップS18に進み、続けてステップS20、S22、S32、S34、S36、S24、S26の処理が行われる。ステップS32の処理の2回目以降の実行時には、動作変更前の排気損失の値がパラメータLex1に代入されるとともに、現時点における排気損失の値、すなわち、動作変更後の排気損失の値がパラメータLex2に代入される。そして、パラメータLex2とパラメータLex1との差の絶対値が基準値ΔLexを超えた場合には、ステップS18で上昇させたエンジン2の回転数Neを少し抑えるように、ステップS36において回転数Neの補正が行われる。以降、排気エネルギの急激な増大を招かない程度にエンジン2の回転数Neの上昇を抑えながら、システム効率ηsysが最大となる回転数に向けて回転数を上昇させていくことが行われる。
【0053】
以上説明したように、本実施の形態において実行される回転数制御によれば、排気エネルギの急激な増大を招くような回転数の急増は防止される。これにより、排気エネルギの増大に伴うターボチャージャの過過給を防止しながら、システム効率が最大となる回転数までエンジン2の回転数を速やかに変化させることができる。
【0054】
その他.
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、上記実施の形態では本発明をハイブリッドシステムに適用しているが、無段変速機のようにエンジンの出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムであれば、本発明を適用することは可能である。また、本発明をハイブリッドシステムに適用する場合においても、本発明を適用可能なハイブリッドシステムの構成は図1には限定されない。ただし、本発明の効果の観点からは、動力循環が起こりうるシステムへの適用が最も効果的である。
【符号の説明】
【0055】
2 エンジン
4 第1モータジェネレータ
6 第2モータジェネレータ
8 動力分割機構
10 インバータ
12 減速機
14L,14R 駆動輪
18 動力伝達機構
20 電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と前記内燃機関が発生させる動力を駆動輪に伝達する動力伝達機構とを有し、前記内燃機関の出力を一定にしながら回転数を変更することが可能な車両駆動システムの制御装置において、
回転数の許容最大変化量を出力に関連付けて記憶した記憶手段と、
要求出力に応じた許容最大変化量を前記記憶手段から読み出し、予め設定された動作線上の回転数を初期値として、前記許容最大変化量で回転数を変化させていく回転数変更手段と、
前記回転数変更手段によって回転数が変更される度に、前記内燃機関の熱効率と前記動力伝達機構の伝達効率との乗算値で表されるシステム効率を計算するシステム効率計算手段と、
前記システム効率が最大となる回転数を特定し、その回転数を最適回転数として確定する最適回転数確定手段と、
を備えることを特徴とする車両駆動システムの制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力を一定にしながら機関回転数を変化させる場合において、前記内燃機関のトルク変動量が許容値を超えない機関回転数の最大変化量を当該出力における許容最大変化量として学習する学習手段、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の車両駆動システムの制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関はターボチャージャ付きの内燃機関であって、
前記制御装置は、
前記回転数変更手段によって回転数が変更される度に、排気エネルギの増加量を計算する排気エネルギ増加量計算手段と、
排気エネルギの増加量が基準値を超える場合には、前記回転数変更手段による回転数の変化量を小さくする回転数変化量補正手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両駆動システムの制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−251615(P2011−251615A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126046(P2010−126046)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】