説明

車両駆動装置のための制御装置

【課題】車両状態によって影響されるクラッチ摩擦係数など用いることなく、フリクショントルクを推定することができる、車両駆動装置のための制御装置を提供すること。
【解決手段】内燃機関の回転速度を取得する回転速度取得部と、内燃機関の燃焼停止状態での内燃機関の回転速度の変化に基づいて回転変化率を算定し、内燃機関のイナーシャと回転変化率とに基づいて内燃機関のフリクショントルクを演算するフリクショントルク演算部と、内燃機関を停止させる際に、回転速度取得部で取得された回転速度と当該回転速度に基づいてフリクショントルク演算部により演算されたフリクショントルクとの関係を学習し、回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部を学習の結果に基づいて構築する管理部とが備えられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に、前記入力部材の側から、係合装置、回転電機の順に設けられた車両駆動装置のための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述したような構成の車両は、パラレルハイブリッド車両と呼ばれ、回転電機のみを動力源として走行するモータ走行モードと、内燃機関を少なくとも付加的に動力源として走行する内燃機関走行モードとのいずれかの走行モードを、走行状態に応じて自動的に切り替えることで燃費の向上を図っている。さらに、車両の停止時に燃内燃機関の運転を停止する、いわゆるアイドルストップを行なうことでも燃費の向上を図ることができる。
また、動力伝達経路における負荷要素として内燃機関のフリクショントルクがあり、車両駆動装置の制御においては、このフリクショントルクの値も重要である。
【0003】
内燃機関と、電動モータ(回転電機)と、電動モータと内燃機関を接続するクラッチとを備え、クラッチの締結と、電動モータによる内燃機関のクランキングとを並行して行ない、クラッチが締結を完了するまでの所定区間の電動モータの消費電力に基づき内燃機関のフリクショントルクを推定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。その際、電動モータの消費電力は、駆動分とクランキング分と摩擦熱分の合計とし、さらにこの摩擦熱分は、クラッチ圧と、クラッチ面積と、モータ回転速度とエンジン回転速度との差と、クラッチ摩擦係数との乗算によって求められている。
しかしながら、クラッチ摩擦係数は、温度やモータ/エンジン回転速度差などの車両状態によって大きく変化することから、上述したようなフリクショントルク推定技術では、正確に摩擦熱分を算出するのが困難である。また、クラッチ圧を計測するには油圧センサが必要となるコスト上の問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−280049号公報(段落番号0012−0028、図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記実情に鑑み、車両状態によって大きく影響されるクラッチ摩擦係数などを用いることなく、内燃機関のフリクショントルクを推定することができる、車両駆動装置のための制御装置が要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に、前記入力部材の側から、係合装置、回転電機の順に設けられた車両駆動装置のための制御装置の特徴構成は、前記内燃機関の回転速度を取得する回転速度取得部と、前記内燃機関の燃焼停止状態での前記内燃機関の回転速度の変化に基づいて回転変化率を算定し、前記内燃機関のイナーシャと回転変化率とに基づいて前記内燃機関のフリクショントルクを演算するフリクショントルク演算部と、前記内燃機関を停止させる際に、前記回転速度取得部で取得された回転速度と当該回転速度に基づいて前記フリクショントルク演算部により演算されたフリクショントルクとの関係を学習し、前記内燃機関の回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部を前記学習の結果に基づいて構築し、管理する管理部とを備えた点にある。
【0007】
この特徴構成は、内燃機関の燃焼停止状態での内燃機関の回転速度の変化である回転変化率と内燃機関のイナーシャとから所定の演算式を用いて内燃機関のフリクショントルクを求めることができるとともに、当該フリクショントルクを回転速度に関連付けて学習させることにより、回転速度からフリクショントルクを導出することができるという本願発明者の知見に基づいている。この知見に基づき、内燃機関を停止させる際に、回転速度取得部で取得された回転速度と当該回転速度に基づいてフリクショントルク演算部により演算されたフリクショントルクとの関係を学習し、内燃機関の回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部を前記学習の結果に基づいて構築し、管理する。このように構築され管理されるフリクショントルク導出部に対して、回転速度を入力パラメータとして与えることで、推定フリクショントルクを容易に得ることができる。ここでは、車両状態によって大きく影響されるクラッチ摩擦係数などが用いられていないので、その推定フリクショントルクの信頼性が高いものとなる。
【0008】
なお、「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
本願において、「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
【0009】
ハイブリッド車両においては頻繁に発生する車両走行中の内燃機関停止プロセスにおいて、所定の回転速度に維持した内燃機関を燃焼停止状態にしてその回転速度が低下していく過程が回転速度とフリクショントルクとを関連付ける本発明における学習にとって好都合な状況となる。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記管理部は、車両走行中に前記内燃機関を停止させる際に、まず前記内燃機関の出力トルクをゼロに設定して前記内燃機関の回転速度を維持し、前記係合装置を解放した後に前記内燃機関を燃焼停止状態とし、前記内燃機関の回転速度が低下する過程で上記学習を行うように構成される。これにより、車両走行中に頻繁に行うことができる上記学習を通じて、フリクショントルク導出部の再構築あるいは更新を頻繁に行うことができ、フリクショントルク導出部の信頼性を向上させることができる。
【0010】
内燃機関のフリクショントルクは内燃機関の潤滑油の油温によって影響を受ける。潤滑油の油温は、直接測定することも可能であるが、自動車にはほぼ必須となっている冷却水の水温を測定する水温センサの測定値を流用することも可能である。従って、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記内燃機関の油温を代表する値である油温代表値を取得する油温代表値取得部を更に備え、前記管理部は、前記油温代表値に関連付けて前記学習を行い、前記フリクショントルク導出部は、前記内燃機関の回転速度とフリクショントルクとの関係を規定したフリクショントルクマップを、前記油温代表値に関連付けて備えている。ここでいうフリクショントルクマップは、回転速度を入力パラメータとしてフリクショントルクを引き出すデータテーブルのような形態、回転速度を変数値としてフリクショントルクを引き出す関数式のような形態、if〜thenルールのような条件ルール形態なども含む広義の用語として用いられている。例えば、フリクショントルクマップが上記のデータテーブルのような場合、油温代表値別に回転速度/フリクショントルクテーブルとして、あるいは、油温代表値と回転速度とフリクショントルクとからなる三次元テーブルとして構築することができる。
【0011】
本発明のさらに別な好適実施形態として、前記回転電機を制御する回転電機制御ユニットをさらに備え、前記回転電機制御ユニットは、前記回転速度取得部で取得された回転速度に応じて前記フリクショントルク導出部により導出されるフリクショントルクを用いて、前記回転電機の出力トルクを制御するような構成を採用することも可能である。この構成によれば、内燃機関の燃焼停止中におけるフリクショントルクを正確に考慮した回転電機の制御が可能となる。そのため、例えば、回転電機に内燃機関のフリクショントルクを適切に模擬させてエンジンブレーキ挙動を行わせることができ、運転者に違和感を与えることなしに車両走行中に係合装置を解放して内燃機関を出力部材から分離することができる。また、例えば、係合装置を係合したまま内燃機関を燃焼停止状態とする場合にも、内燃機関のフリクショントルクを考慮して正確に運転者要求トルクを回転電機により出力し、出力部材に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】内燃機関の回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部を構築するための基本的な学習プロセスを説明する模式図である。
【図2】油温別で回転数からフリクショントルクを導出するマップの一例を示すグラフである。
【図3】本実施形態に係る変速制御装置の構成を示す模式図である。
【図4】本実施形態に係るAT制御ユニットの構成を示す機能ブロック図である。
【図5】フリクショントルク学習プロセスのタイミングチャートである。
【図6】フリクショントルク学習プロセスの流れを示すフローチャートである。
【図7】擬似エンジンブレーキ制御のタイミングチャートである。
【図8】擬似エンジンブレーキ制御の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の重要な特徴である、内燃機関の回転速度からフリクショントルクを導出するマップや関数などの形態をもつフリクショントルク導出部を構築するための基本的な学習プロセスを図1に基づいて説明する。
内燃機関と回転電機とを係合装置を介して連結した動力伝達経路を有する車両の走行中において、この学習プロセスに入るためには、回転している内燃機関に対して内部的及び外部的な駆動作用を中断して、内燃機関フリクショントルクによる回転低下を検知する必要がある。このため、ここでは、この学習プロセスの開始条件として、以下の3つの条件が採用されている。
(1)内燃機関の出力トルクを「0」とする(#1)。
(2)係合装置の伝達トルクを「0」とする(#2)。
(3)内燃機関の燃焼を停止する(#3)。
ところで、内燃機関からの動力(トルク)伝達が行われている時に係合装置による動力伝達を遮断すると内燃機関に対する外部負荷がなくなるため、内燃機関の回転速度が急上昇する。これを避けるため(1)の条件が採用されており、係合装置による動力伝達遮断の前に、内燃機関からの出力トルクをゼロとし、係合装置による動力伝達が遮断されても、内燃機関が自己の回転速度を一定に維持する状態とする。次に、(2)の条件で、回転電機や車輪側からの動力伝達が遮断される。これにより、内燃機関の外部的な駆動作用は及ばなくなる。最後に(3)の条件で、内燃機関の燃焼が停止することになり内燃機関の内部的な駆動作用はなくなる。これにより、内燃機関の回転速度は、内燃機関のフリクションの影響下で低下し始めるので、内燃機関フリクショントルクを求める前提条件が成立し、内燃機関フリクショントルクの実質的な学習プロセスが開始される(#4)。
【0014】
この学習プロセスでは、まず回転速度が取得される(#5)。図1では、所定の時間経過に伴って各時点:t(t、t、・・t)の内燃機関の回転速度:n(n、n、・・・n)(rad/s)が取得(検出)される。次に、取得された回転速度nとその前に取得された回転速度nk-1との差分から回転変化率:r(r、r、・・・r)(rad/s2)を算定する(#6)。回転体の回転変化率が求まると、これに回転体のイナーシャを乗算することでフリクショントルクが得られることが知られている。本発明はこの事実を利用する。内燃機関のイナーシャ:I(kg/m2)は、内燃機関の設計データから予め求めることができるので、このイナーシャの値を不揮発性メモリに格納しておくことで、必要に応じて読み出すことができる(#7)。従って、回転変化率:rが算定される毎に、次式を用いて、
F=I×r、
内燃機関フリクショントルク(以下フリクショントルクと略称する):F(F、F、・・・F)(N・m)を演算する(#8)。
このように、低下していく回転速度:nを検出しながら、その回転速度がゼロになるまで、フリクショントルク:Fを求めていくことで、回転速度:nとフリクショントルク:Fの相関関係が得られ、フリクショントルク:Fと回転速度:nとの関係を求めることができる(#9)。この関係をマップ化し、あるいはこの関係に基づいて既に構築されているマップを更新することでこの学習プロセスが終了する。なお、このマップをフリクショントルク:Fと回転速度:nとの関数:f(F=f(n))として構築してもよい。
【0015】
なお、フリクショントルクは、内燃機関の潤滑油の粘度に影響され、潤滑油の粘度は潤滑油の温度(以下油温と略称する)に影響される。フリクショントルクを導出するための入力パラメータとして油温を採用することは重要なので、図1にも示されているが、この学習プロセスまたはそのマップ化は、油温別に行われる。従って、この学習プロセスにおいて油温:Tが取得され、上述した回転速度とフリクショントルクとの関係に加えて、例えばこれらと油温:Tとの関係も求められる(#10)。例えば、回転速度からフリクショントルクを導出するマップは、油温:T別に構築される。なお、回転速度(rad/s)は、回転数(rpm)に置き換えることができ、図2に、回転数からフリクショントルクを導出す油温別のマップをグラフ化した例が示されている。なお、このマップをこのマップをフリクショントルク:Fと回転速度:nと油温:Tとの関数:f(F=f(n,T))として構築してもよい。
【0016】
このようにして構築又は更新されたフリクションマップの利用することで、取得した油温:Tと内燃機関の回転速度(rad/s)あるいは回転数(rpm)から最新の内燃機関の状態に対応したフリクショントルク(N・m)を簡単に導出することができる。内燃機関のフリクショントルクは、固体差があるとともに経時変化、環境変化もあるので、このような車両走行中にフリクションマップを更新できるシステムは好都合である。
【0017】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態においては、本発明に係る制御装置をハイブリッド車両用の車両駆動装置の制御装置に適用した場合を例として説明する。図3は、本実施形態に係る変速制御装置を含む車両駆動装置の駆動伝達系、変速制御系、油圧制御系の構成を示す模式図である。この図に示すように、本実施形態に係る車両駆動装置は、概略的には、内燃機関11及び回転電機13を駆動力源として備え、内燃機関11又は回転電機13あるいはその両方に駆動連結される入力部材21と車輪に駆動連結される出力部材22とを結ぶ動力伝達経路が形成され、駆動力源の駆動力は変速装置20を介して車輪16へ伝達される。内燃機関11と回転電機13との間にはこの実施形態では油圧クラッチである係合装置12が、前記内燃機関11の側から、係合装置12、回転電機13の順となるように介装されている。さらに、車両駆動装置は、係合装置12の係合要素に所定油圧の作動油を供給するためのバルブユニット12bや変速装置20等の各部に所定油圧の作動油を供給するためのバルブユニット32を含む油圧回路30を備えている。以下さらに、この車両駆動装置を詳しく説明する。
【0018】
図3に示すように、変速装置20は、内燃機関11及び回転電機13からなる駆動力源から出力された動力を、そのままあるいは必要に応じて変速して入力して出力用差動ギヤ機構15に出力する。変速装置20における動力伝達を担う動力伝達軸群は、内燃機関11及び回転電機13と実質的な変速要素群(変速用摩擦係合要素としてのクラッチ及びブレーキ、一方向クラッチやギヤ群)との間の動力伝達を行う入力部材21(以後単に動力の伝達挙動を表す場合には入力側と称することがある)と、当該変速要素群と出力用差動ギヤ機構15の間の動力伝達を行う出力部材22(以後単に動力の伝達挙動を表す場合には出力側と称することがある)とに区分けすることができる。つまり、入力部材21は駆動力源に駆動連結されており、出力部材22は出力用差動ギヤ機構15を介して車輪16に駆動連結されている。そして変速要素群からなる変速機構20Aにより、入力部材21と出力部材22の間の回転数とトルクの変更を伴う変速動力伝達が行われる。
【0019】
内燃機関11(以下単にエンジンと称する)は、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジン11のクランクシャフト等の出力回転軸が、係合装置12を介して下流側に伝達される。この係合装置12は、油圧式摩擦クラッチとして構成されており、供給される油圧に応じて伝達トルクを可変することができ、以下、摩擦クラッチまたは単にクラッチと称することにする。
【0020】
回転電機13は、それ自体公知であり、図示しないケースに固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータとを有している。この回転電機13のロータは、クラッチ12の一方側に接続されている軸に一体回転するように連結されている。回転電機13は、蓄電装置としてのバッテリ52とインバータユニット51を介して接続されている。この回転電機13は、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能である。すなわち、回転電機13は、バッテリ52からの電力供給を受けて力行し、或いはエンジン11や車輪16から伝達される回転駆動力により発電した電力をバッテリ52に蓄電する機能を有する。なお、バッテリ52は蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。
【0021】
この車両駆動装置では、エンジン11又は回転電機13あるいは両方の回転駆動力を車輪16に伝達して車両を走行させることができる。その際、回転電機13は、バッテリ52の充電状態により、バッテリ52から供給される電力により駆動力を発生する状態と、エンジン11の回転駆動力により発電する状態と、のいずれともなり得る。また、車両の減速時(減速要求があった時)には、回転電機13は、回生トルクを発生させて車輪16から伝達される回転駆動力により発電する状態となる。回転電機13で発電された電力はバッテリ52に蓄電される。車両の停止状態では、クラッチ12は解放状態とされ、エンジン11及び回転電機13は停止状態とされる。
【0022】
変速機構20Aは、複数の変速段を有する有段のオートマチックトランスミッションとして構成されており、本実施形態においては、変速機構20Aは変速比(減速比)の異なる4つの変速段(第1速段、第2速段、第3速段、及び第4速段)を備えている。これらの変速段を構成するため、変速機構20Aは、遊星歯車機構等の歯車機構と、複数の摩擦係合要素とを備えて構成されている。図1には、複数の摩擦係合要素の一例として、クラッチC1及びブレーキB1が模式的に示されている。これら複数の摩擦係合要素の係合及び解放が油圧回路30を通じて制御される油圧により、4つの変速段が切り替えられる。
【0023】
変速段の切り替えを行う際には、変速前において係合している摩擦係合要素のうちの一つを解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つを係合させる。これにより、歯車機構が有する複数の回転要素の回転状態が切り替えられて、変速前の変速段から変速後の変速段に移行する。変速機構20Aは、各変速段について設定された所定の変速比で、入力側の動力の回転速度を変速すると共にそのトルクを変換して出力側動力として差動ギヤ装置15へ伝達する。
【0024】
次に、上述した車両駆動装置の油圧制御系について説明する。このブロック図では、クラッチ12に組み込まれているシリンダピストンに対するバルブユニット12bを含む油圧回路と変速装置20のための油圧回路30とが区分けされているが、これらの油圧回路は一体的に構成することができる。ここでは、油圧制御系は、駆動用と変速用に分けられている。変速用油圧制御系においては、油圧回路30を構成する電動オイルポンプ(以下EOPと略称する)31やバルブユニット32に油圧機器ドライバ33を介して制御信号を送る油圧制御機能部はオートマチックトランスミッション(以下ATと略称する)制御ユニット6に構築されている。AT制御ユニット6で生成された制御信号は油圧機器ドライバ33によって油圧機器駆動信号に変換され、油圧回路30を構成する電動オイルポンプ(以下EOPと略称する)31やバルブユニット32に送られる。なお、この油圧回路30には、エンジン11または回転電機13あるいはその両方の駆動力で動作する機械式ポンプ(以下MOPと略称する)34も組み込まれている。但し、MOP34はその動力構成上車両の停止中などでエンジン11と回転電機13が停止している間は駆動しない。EOP31はそのような状況下でMOP34を補助する役割を持つ。駆動用油圧制御系においては、バルブユニット12bに油圧機器ドライバ12cを介して制御信号を送る油圧制御機能部が駆動源制御ユニット4に構築されている。
【0025】
なお、油圧回路30は、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、クラッチ12、及び変速機構20Aの複数の摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される。
【0026】
図3で示すように、この車両駆動装置のための制御装置には、駆動源制御ユニット4と、AT制御ユニット6と、センサ評価ユニット9と、ブレーキ制御ユニット7と、学習制御ユニット8とが備えられている。駆動源制御ユニット4には、エンジン11を制御するエンジン制御ユニット4a、クラッチ11を制御するクラッチ制御ユニット4b、回転電機13を制御する回転制御ユニット5が含まれている。ブレーキ制御ユニット7は、ブレーキペダルの操作変位を検出するブレーキペダルセンサ95からの信号に基づいてブレーキ制御を行う。センサ評価ユニット9は、各種センサからの検出信号を評価して、必要な検出情報を各制御ユニット4、6、7、8に供給する。これらの制御ユニットは車載LAN100で接続されており、相互データ交換可能となっている。各制御ユニットは、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えると共に、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている(不図示)。そして、ROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、あるいはそれらの両方により、種々の機能をつくりだしている。
【0027】
エンジン制御ユニット4aは、エンジン動作点を決定し、当該エンジン動作点でエンジン11を動作させるように制御する処理を行う。ここで、エンジン動作点は、エンジン11の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、エンジン動作点は、車両要求出力(車両要求トルク及びエンジン回転速度に基づいて定まる)と最適燃費とを考慮して決定されるエンジン11の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。クラッチ制御ユニット4bはクラッチ12の伝達トルクを調整することにより、エンジン11の出力トルクの出力部材22側への伝達、あるいは出力部材22や回転電機13からエンジン11へのトルクの伝達を制御する。
【0028】
回転電機制御ユニット5は、回転電機13の動作制御をインバータ51を介して行なう機能部である。回転電機制御ユニット5は、回転電機動作点を決定し、当該回転電機動作点で回転電機13を動作させるように制御する処理を行う。ここで、回転電機動作点は、回転電機13の制御目標点を表す制御指令値であって、回転速度及びトルクにより定まる。より詳細には、回転電機動作点は、車両要求出力とエンジン動作点とを考慮して決定される回転電機13の制御目標点を表す指令値であって、回転速度指令値とトルク指令値により定まる。回転電機制御ユニット5は、バッテリ52から供給される電力により回転電機13に駆動力を発生させる状態と、エンジン11の回転駆動力等により回転電機13に発電させる状態とを切り替える制御も行なう。
ここで、トルク指令値が正の場合には回転電機13は回転方向と同方向の駆動トルクを出力して駆動力を発生させ、トルク指令値が負の場合には回転電機13は回転方向とは反対方向の回生トルクを出力して発電する。いずれの場合においても、回転電機13の出力トルク(駆動トルク及び回生トルクを含む)は、回転電機制御ユニット5からのトルク指令値により定まることになる。回転電機制御ユニット5により決定された回転電機13のトルク指令値の情報は、AT制御ユニット6にも伝送される。ブレーキ制御ユニット7は、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサ95の検出信号を入力し、この検出信号を評価して車輪のブレーキシステムを制御する。また、ブレーキ制御ユニット7は、ブレーキペダルセンサ95の検出信号に基づいてブレーキ操作データを回転電機制御ユニット5に送り、回転電機13の回生トルクと協調した車輪のブレーキ制御を実現する。
【0029】
AT制御ユニット6には、エンジン11の回転速度(回転数)を検知するエンジン回転速度センサ91、変速装置20の入力側の回転速度を検知する入力側回転速度センサ93、変速装置20の出力側回転速度に対応する車速センサ(出力側回転速度センサ)92、エンジン冷却水の水温を検出する温度センサ94、アクセルペダルの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するアクセル開度検出センサ96、ブレーキペダルの操作量を検出するブレーキペダルセンサ95などの検出情報が、センサ評価ユニット9を介して送られてくる。
【0030】
AT制御ユニット6は、説明を簡単にするために、摩擦係合要素制御モジュール6A、管理モジュール6B、データ入出力部6Dに区分けして図示されているが、その区分けは本願発明を限定するものではなく、プログラム仕様等に応じて自由に変更可能である。摩擦係合要素制御モジュール6Aは、変速機構20Aを構成しているブレーキやクラッチなどの摩擦係合要素の油圧を制御するための指令圧を生成する。指令圧の生成アルゴリズムはよく知られているので、ここでの説明は省略するが、例えば、摩擦係合要素毎にマップ化された指令圧テーブルに基づいて指令圧を生成して、データ入出力部6Dを介して油圧機器ドライバ33に送り出す。データデータ入出力部6Dは、このAT制御ユニット6の入出力インターフェースであり、上述した各種センサ等からの信号の入力、油圧機器ドライバ33等への制御信号の出力、さらには車載LANを通じての各種データの入出力を行う。
【0031】
摩擦係合要素制御モジュール6Aは、変速プロセスに関連する各摩擦係合要素の油圧制御のための制御信号を生成するが、ここでは、ある変速段への変速プロセスにおける係合される側の摩擦係合要素の制御のための第1制御部60aと解放される側の摩擦係合要素の制御のための第2制御部60bだけを示しておく。
【0032】
管理モジュール6Bは、この車両における各種の変速制御プロセスの設定や実行を管理する機能を構築しており、変速指令生成部61、変速プロセス実行部62が含まれている。変速指令生成部61は、車両のアクセル開度及び車速等に基づいて変速機構20Aにおける目標変速段を決定し、決定された目標変速段に応じてバルブユニット32の動作を制御することにより、変速機構20Aの変速段を切り替える変速指令を生成する。このような目標変速段を生成するため、変速マップを参照する。
【0033】
変速機構20Aにおける目標変速段が決定されると、当該決定された目標変速段に応じた変速指令が生成され、最終的に対応する摩擦係合要素が油圧供給を受けて係合状態となり、当該目標変速段が形成される。車速及びアクセル開度が変化して、変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速指令生成部61は、車両のアクセル開度及び車速に基づいて新たな目標変速段を決定し、当該決定された目標変速段に応じた変速指令が生成される。変速プロセス実行部62は、変速指令生成部61によって生成された変速指令に基づいて、変速前において係合していた摩擦係合要素のうちの一つを解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つを係合させる変速プロセスの実行を管理する。例えば、変速機構20Aおける変速段が第3速段から第4速段へとアップシフトされる際には、第一クラッチC1が解放されると共に第一ブレーキB1が係合され、変速段が第4速段から第3速段へとダウンシフトされる際には、第一ブレーキB1が解放されると共に第一クラッチC1が係合される。なお、ここでは、上述したように、摩擦係合要素への制御信号は摩擦係合要素制御モジュール6Aにおいて生成される。
【0034】
学習制御ユニット8は、フリクショントルク管理部69、評価モジュール6Cを備えている。フリクショントルク管理部(以下単に管理部と称する)69は、図1を用いて説明したエンジン回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部としてのフリクショントルクマップ68を構築するための基本的な学習プロセスを管理する。さらに、フリクショントルク管理部69は、構築されたフリクショントルクマップ68を用いてエンジン回転速度からフリクショントルクを読み出し、このフリクショントルクを必要とする機能部、例えば回転電機制御ユニット5に転送する。この管理部69と、後述するマップ構築部67とにより、本願発明に係る「管理部」が構成される。
【0035】
評価モジュール6Cは、各種センサからの入力信号や他の制御モジュールから受け取ったデータに基づいて、変速プロセスで取り扱われる伝達動力の状態(回転数、トルクなど)や環境条件(油温や油温に関係付けられる水温や吸気温等)を算定、評価する機能を有する。特に本発明に関係する機能として、回転速度取得部64、油温代表値取得部65、フリクショントルク演算部66、マップ構築部67、フリクショントルクマップ68が挙げられる。
【0036】
回転速度取得部64は、エンジン回転速度センサ91の検出信号に基づく情報をセンサ評価ユニット9から受けて、エンジン回転速度、ここではエンジン回転数(rpm)を取得する。油温代表値取得部65は、エンジン11の潤滑油の油温を代表する油温代表値を取得する。この実施形態では、油温代表値取得部65はエンジン冷却水の水温を検出する温度センサ94の検出信号に基づく情報をセンサ評価ユニット9から受けて、必要な場合には補正を行って油温代表値を取得する。もちろん、直接油温を検出するセンサが装着されている場合は、その検出信号を用いてもよいし、その他のセンサの検出信号をもちいてもよい。
【0037】
フリクショントルク演算部66は、エンジン11の燃焼停止状態でのエンジン回転数(回転速度)の変化に基づいて回転変化率を算定し、このエンジン11のイナーシャと当該回転変化率とに基づいてエンジン11のフリクショントルクを演算する。エンジン11のイナーシャは予め求められ、不揮発性メモリなどのデータ格納部に格納されており、必要に応じ読み出される。この実施形態では、図1を用いて説明した方法と同様に、フリクショントルク:F(N・m)は、次式
F=I×r、
但し、rは回転変化率、Iはエンジン11のイナーシャ、
で求められる。
【0038】
マップ構築部67は、この実施形態では、学習部67aと更新部67bとを含んでいる。学習部67aは、管理部69の管理下で、フリクショントルク演算部66によって演算されたフリクショントルクと当該フリクショントルクの演算に用いられたエンジン回転数との関係に基づいて、エンジン回転数(回転速度)からフリクショントルクを導出するフリクショントルクマップ68を構築する。更新部67aは、既に構築されたフリクショントルクマップ68の内容を学習部67aによる学習結果に基づいて少なくとも部分的に更新する。毎回の学習プロセスによってフリクショントルクマップ68を新規構築するような構成では更新部67aの機能は省略される。
【0039】
評価モジュール6Cに実装されている上記機能部によるフリクショントルク学習プロセスは、走行中の、車両駆動装置の状況、特にエンジン11の運転状況に合わせて行われる。そこで、管理部69は、ここでは駆動源制御ユニット4に対する制御指令を行い、駆動源制御ユニット4の管理を行う。つまり、管理部69は、エンジン11を停止させる際に、回転速度取得部64で取得された回転数(回転速度)と当該回転数に基づいてフリクショントルク演算部66により演算されたフリクショントルクとの関係をマップ構築部67に学習させ、フリクショントルクマップを構築させる。より、具体的には、管理部69は、車両走行中にエンジン11を停止させる際に、エンジン制御ユニット4aに指令して、まずエンジン11の出力トルクをゼロに設定してエンジン11の回転速度を維持する。さらに、クラッチ制御ユニット4bに指令して、クラッチ12を解放させた後に、さらにエンジン制御ユニット4aに指令してエンジン11を燃焼停止状態とする。これにより、エンジン11の回転速度が低下する過程で、上述したフリクショントルク学習プロセスを行う。
【0040】
上述のように構成された制御装置における、フリクショントルク学習プロセスの流れを、図5のタイミングチャートと図6のフローチャートとを用いて説明する。
車両の走行中にエンジン停止要求が出され、エンジン停止プロセスが始まると(#22)、まず管理部69により、エンジントルクを「ゼロ」にする指令がエンジン制御ユニット4aに対して出される(#24;t01)。エンジントルクが「0」になったことをエンジン制御ユニット4aが確認するまで、スロットル開度の低減や燃料噴射量の低減等によるエンジントルクの減少処理が続けられる(t01〜t02)。なお、このエンジントルクの減少処理に合わせて、このトルク減少を補償するように、モータトルクを上昇させる処理が回転電機制御ユニット5によって行われる。
【0041】
エンジントルクが「0」になれば(#26Yes分岐:t02)、管理部69は、クラッチ制御ユニット4bに対してクラッチ12の解放処理を指令する(#28)。これによりクラッチ12のトルク容量は、所定の傾きをもって「0」に向かう(t02〜t03)。この解放処理は、エンジントルクが「0」になった後に行われるので、このクラッチ12の解放処理によって、エンジン11の回転速度が上昇することはなく、回転速度が維持される。クラッチ12のトルク容量が「0」になれば(#30Yes分岐;t03)、管理部69はエンジン制御ユニット4aに対してエンジン11の燃焼を停止させるエンジン燃焼停止処理の実行を指令する(#32)。なお、クラッチトルク容量が「0」になるまで待つステップ#30は、クラッチ圧指令をチェックするのではなく、タイマーによって行うことも可能である。
【0042】
このエンジン燃焼停止処理によって、エンジン回転数は「0」に向かうが(t03〜t05)、クラッチ12が解放されていることから、エンジン11との動力伝達関係が遮断されている回転電機(ここではモータとして機能している)13は、その回転数及び出力トルクを一定に維持している。本例では、これにより、車両の走行状態が保たれる。一方、エンジン回転数の低下が、クラッチ12におけるエンジン側と回転電機側との部材の差回転の発生により確認される(#34:t04)。ここでクラッチ42の差回転はエンジン回転速度センサ91と入力側回転速度センサ93とのそれぞれにより検出する回転速度の差に基づいて検出される。クラッチ12に差回転が発生すると(#34Yes分岐)、エンジン回転数の低下が始まったとみなされ、前述した、実質的なフリクショントルク学習プロセスが行われる(#36:t04〜t05)。つまり、フリクショントルク演算部66が、経時的に検知したエンジン回転数から回転変化率を算定し、この回転変化率と、エンジン11のイナーシャとからフリクショントルクを演算する。この演算結果に基づいて、マップ構築部67がエンジン回転数とフリクショントルクの相関関係を求め、フリクショントルクマップ68の内容を構築していく。本実施形態では、フリクショントルク学習プロセスは、管理部69の管理下で、エンジン回転数が「0」になるまで行われ、エンジン回転数が「0」になった段階で(#38Yes分岐:t05)、このエンジンフリクション学習が終了となり、エンジン停止が完了となる(#40)。
【0043】
なお、図6のフローチャートでは示していないが、フリクショントルク学習プロセスにおいては、前述したように、油温代表値が取得されるので、予め設定された油温レベル毎にフリクショントルクマップ68は構築されることになる。
【0044】
次に、このように構築されたフリクショントルクマップ68を利用した駆動制御の一例として、車両走行中にクラッチ12を解放することによりエンジン11を分離するとともにエンジン11のフリクショントルク相当するトルクを回転電機13が出力する擬似エンジンブレーキ制御を図7のタイミングチャートと図8のフローチャートとを用いて説明する。
【0045】
アクセル開度検出センサ96により、アクセル開度が所定値(例えば5%)以下となったことが検出されると(#01Yes分岐)、エンジンへの燃料供給がストップされる(#02)。これは、一般的なエンジン11の燃料カット制御と同じである。その状態のまま所定時間が経過すると(#03Yes分岐)、エンジン11を完全に停止させて、擬似エンジンブレーキ制御に移行する。そのためにまず、クラッチ12の解放処理が実行される(#04:t11)。クラッチ12の解放処理の初期ではまだクラッチ12にスリップが生じていないのでエンジン11の回転数は実質的に維持されており、燃料供給が停止されたエンジン11からは、いわゆるエンジンブレーキと称される負トルクが出力されている。その後、クラッチ12にスリップが生じているかどうかが、クラッチ12におけるエンジン側と回転電機側との部材との間の差回転の発生により確認される(#06)。クラッチ12に差回転が発生すると(#06Yes分岐:t12)、エンジン11から出力部材22側へ伝達される負トルクが減少する。すなわちエンジンブレーキが減少するので、回転電機13により負トルクを出力して駆動伝動系に与えることでエンジンブレーキを模擬する。つまり、回転電機トルクによりエンジン11のフリクショントルクを模擬する。そこで管理部69は、現時点のエンジン回転数と油温とに基づいてフリクショントルクマップ68からフリクショントルクを読み出す。そして、読み出したフリクショントルクからクラッチ12のクラッチトルク容量を引いた値を回転電機13のトルク指令値として回転電機制御ユニット5に指令する(#08)。このように、回転電機13のトルク指令値を負方向に増加していく処理は、クラッチ11が完全に解放されるまで、つまりクラッチトルク容量が「0」になるまで行われる(t12〜t13)。
クラッチトルク容量が「0」になると(#10Yes分岐:t13)、回転電機13のトルク指令値が、フリクショントルクマップ68に基づくフリクショントルク値に一致する(#12:t13)。これにより、回転電機13がエンジン11のフリクショントルクの全部を模擬する状態(擬似エンジンブレーキ状態)となる。その後も、エンジン11の回転数はさらに減少化し、最終的に「0」となり(t14)、エンジン11が完全に停止する。このような擬似エンジンブレーキ制御中は、回転電機13は負トルクを出力するので、その間は回転電機13が発電する。よって、車両のエネルギー効率を高めることができる。
【0046】
〔その他の実施形態〕
(1)上記実施の形態では、係合装置12は伝達トルク容量が可変の油圧式の摩擦係合装置として形成されていたが、これに代えて、例えば、ドッグクラッチや電磁クラッチ等のような、エンジン11と回転電機との間の動力伝達を遮断するその他の種々のクラッチないしは遮断装置を採用することができる。
【0047】
(2)上記実施の形態では、フリクショントルク学習を行う各種機能部やフリクショントルクマップ68などは、学習制御ユニット8内に構築されていたが、駆動源制御ユニット4内に構築してもよいし、AT制御ユニット6内やその他の制御ユニット内に構築してもよい。図3及び図4で示されている機能ブロックは説明目的で区分けされており、その機能の区分けは本発明で限定されているわけではなく、自由に統合、分割可能である。
【0048】
(3)上記実施の形態では、回転変化率は、経時的に取得される複数の回転速度(回転数)からフリクショントルク演算部によって算定されるとしたが、例えば、センサ評価ユニット9などの他の制御ユニットによって算定されたものを利用するような構成を採用しても良い。
【0049】
(4)上記実施形態では、学習により構築されたフリクショントルクマップ68を、回転電機13による擬似エンジンブレーキに利用する場合について説明したが、このような利用は一例に過ぎない。例えば、係合装置12を係合したままエンジンの燃焼を停止して回転電機13のトルクのみにより車両を走行させる場合に、回転電機13のトルク指令を、車両要求トルクとフリクショントルクマップ68から導出したフリクショントルクの合計値に相応する指令とするような制御にも好適に利用可能である。このように回転電機13を制御することにより、エンジン11の引きずりの影響を除外し、車両要求トルクに忠実なトルクを出力部材22に伝達することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、内燃機関と回転電機とを係合装置を仲介して動力伝達可能に連結している車両駆動装置において内燃機関のフリクショントルクを回転数から推定する技術に適用可能である。
【符号の説明】
【0051】
4:駆動源制御ユニット
4a:エンジン制御ユニット
4b:クラッチ制御ユニット
5:回転電機制御ユニット
11:内燃機関(エンジン)
12:係合装置(クラッチ)
13:回転電機
20:変速装置
20A:変速機構
6:AT制御ユニット
6A:摩擦係合要素制御モジュール
6B:管理モジュール
8:学習制御ユニット
6C:評価モジュール
61:変速指令生成部
62:変速プロセス実行部
64:回転速度取得部
65:油温代表値取得部
66:フリクショントルク演算部
67:マップ構築部
67a:学習部
67b:更新部
68:フリクショントルクマップ(フリクショントルク導出部)
69:フリクショントルク管理部(管理部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に駆動連結される入力部材と車輪に駆動連結される出力部材とを結ぶ動力伝達経路上に、前記入力部材の側から、係合装置、回転電機の順に設けられた車両駆動装置のための制御装置であって、
前記内燃機関の回転速度を取得する回転速度取得部と、
前記内燃機関の燃焼停止状態での前記内燃機関の回転速度の変化に基づいて回転変化率を算定し、前記内燃機関のイナーシャと回転変化率とに基づいて前記内燃機関のフリクショントルクを演算するフリクショントルク演算部と、
前記内燃機関を停止させる際に、前記回転速度取得部で取得された回転速度と当該回転速度に基づいて前記フリクショントルク演算部により演算されたフリクショントルクとの関係を学習し、前記内燃機関の回転速度からフリクショントルクを導出するフリクショントルク導出部を前記学習の結果に基づいて構築し、管理する管理部と、
を備えた制御装置。
【請求項2】
前記管理部は、車両走行中に前記内燃機関を停止させる際に、まず前記内燃機関の出力トルクをゼロに設定して前記内燃機関の回転速度を維持し、前記係合装置を解放した後に前記内燃機関を燃焼停止状態とし、前記内燃機関の回転速度が低下する過程で前記学習を行う請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の油温を代表する値である油温代表値を取得する油温代表値取得部を
更に備え、前記管理部は、前記油温代表値に関連付けて前記学習を行い、
前記フリクショントルク導出部は、前記内燃機関の回転速度とフリクショントルクとの関係を規定したフリクショントルクマップを、前記油温代表値に関連付けて備えている請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機を制御する回転電機制御ユニットをさらに備え、前記回転電機制御ユニットは、前記回転速度取得部で取得された回転速度に応じて前記フリクショントルク導出部により導出されるフリクショントルクを用いて、前記回転電機の出力トルクを制御する請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−67734(P2012−67734A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215683(P2010−215683)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】