説明

車両駆動装置

【課題】モータにおけるコイルエンド全体の冷却能力を維持し、レゾルバハーネスの損傷を防止することが可能なレゾルバハーネスの固定具と、レゾルバハーネスが遮ることの無い冷却経路と、を有する車両駆動装置を提供する。
【解決手段】車両駆動装置1を構成するモータ部には、モータケース10と、モータカバー23と、ステータ20と、ロータ24と、ロータシャフト25と、ロータ24の回転角度を検出するレゾルバ15と、ステータコイル21の温度を検出する温度センサ12と、ロータシャフト25を支持するロータ軸受け17と、コイルエンドからのU相、V相、W相の端子を接続すると共にレゾルバハーネス14と温度センサハーネス13とを接続する端子台11と、レゾルバハーネス14を保持するクランプ部35を有すると共に冷却油をコイルエンドに送出する送出パイプ30と、が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
車両を駆動するモータと、モータケースに配置され、ロータの回転角を検出するレゾルバと、ステータのコイルエンドへ冷却油を供給する複数の冷却油経路と、を有する車両駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車又はハイブリッド自動車等では、モータとトランスミッションとの間に配置されるレゾルバの配置、及び、レゾルバハーネスの固定方法を改善することにより、駆動装置軸長の短縮が図られている。例えば、特許文献1には、駆動装置軸長を短縮するためにハーネスプロテクタによってハーネスを固定し、モータとトランスミッションとの間に配索されたレゾルバハーネスの通線スペースを最小限に抑える技術が示されている。また、この技術は、モータからの熱によるハーネスの伸縮に柔軟に対応することも可能である。
【0003】
永久磁石を有するロータと、コイルを有するステータと、を備えたモータでは、コイル通電によりコイルが発熱し、ロータやステータ自身もその内部を貫通する磁束の影響により発熱する。一般的にモータは、発熱に伴う温度上昇によりその運転効率が低下する。このことからモータには適切な冷却が必要となる。
【0004】
そこで、特許文献2には、冷却油をモータのコイルエンドに供給する技術に関し、モータケースの大型化及び構造の複雑化を招くことなく、モータのコイルエンドに対して冷却油を効率的に供給可能な技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2005−254855号公報
【特許文献2】特開2006−33939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されるレゾルバハーネスを用いることにより、通線スペースを最小限に抑えることが可能となるが、逆に、コイルエンド側面へ冷却油を送出する冷却油経路をレゾルバハーネスが遮ることになる。そこで、レゾルバハーネスを避けてコイルエンド側面からではなく、特許文献2に示されるようにコイルエンド上部から冷却油経路を配管すると、コイルエンド上部の冷却は促進されるが、コイルエンド側面から供給される冷却油の減少により、コイルエンド全体の冷却性能を維持することが難しい。
【0007】
また、モータケース上面に設けられた端子台にレゾルバハーネスを接続するためには、端子側又はレゾルバ側にある程度の余長が必要となり、特許文献1のようにレゾルバハーネス全体にわたりハーネスプロテクタを設けると、例えば、レゾルバハーネス接続後にハーネスプロテクタを装着することになり、組み立て工数の増加となる。
【0008】
逆に、ハーネスプロテクタの代わりに複数点による点固定では、レゾルバハーネスの余長により、他部品の取り付け時にレゾルバハーネスのかみ込み、又は、ロータとの接触によるレゾルバハーネスの損傷等のおそれがある。
【0009】
そこで、本発明は、コイルエンド全体の冷却能力を維持し、レゾルバハーネスの損傷を防止することが可能なレゾルバハーネスの固定具と、レゾルバハーネスが遮ることの無い冷却経路と、を有する車両駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような目的を達成するために、本発明に係る車両駆動装置は、車両を駆動するモータと、モータケースに配置され、ロータの回転角を検出するレゾルバと、ステータのコイルエンドへ冷却油を供給する複数の冷却油経路と、を有する車両駆動装置において、少なくとも1つの冷却油経路は、冷却油をモータ上部のコイルエンドに送出するために、ロータ軸に直交する方向へ屈曲した送出パイプによって形成され、その冷却油経路を避けてレゾルバハーネスをモータケースに配索したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る車両駆動装置において、送出パイプはモータケースに固定され、レゾルバハーネスは送出パイプに形成されたクランプ部で保持されることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る車両駆動装置において、送出パイプには、レゾルバハーネスのロータ側への振れを抑えるためのガイド部が設けられ、送出パイプに形成されたクランプ部は、一端が開放されたU字状の保持部材であることを特徴とする。
【0013】
さらに、本発明に係る車両駆動装置において、クランプ部は送出パイプに一体形成されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る車両駆動装置において、送出パイプとクランプ部とは、金属材料で形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る車両駆動装置を用いることにより、コイルエンド全体の冷却能力を維持することが可能な冷却経路を実現できるという効果がある。また、冷却経路に形成された送出パイプにクランプ部と振れを抑えるための湾曲部とを設けてレゾルバハーネスを固定することで、レゾルバハーネスの損傷を防止することが可能な冷却経路とする効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)を、図面に従って説明する。
【実施例】
【0017】
図1には車両駆動装置1におけるモータ部の断面図が示されている。車両駆動装置1を構成するモータ部には、モータケース10と、モータカバー23と、ステータ20と、ロータ24と、ロータシャフト25と、ロータシャフト25を支持するロータ軸受け17と、が設けられている。また、モータ部の内部には、ロータ24の回転角度を検出するレゾルバ15と、ステータコイル21の温度を検出する温度センサ12と、コイルエンドからのU相、V相、W相の端子を接続すると共にレゾルバハーネス14と温度センサハーネス13とを接続する端子台11と、レゾルバハーネス14を保持するクランプ部35を有すると共に冷却油をコイルエンドに送出する送出パイプ30と、が設けられている。
【0018】
図2はモータケース10の裏側を示す斜視図である。モータケース10には、レゾルバ15と、レゾルバハーネス14を保持する送出パイプ30と、端子台11と、冷却油の送出口(31,32,33,34)が示されている。なお、図中の矢印(A〜D)は冷却油の送出方向を示し、送出パイプ30の送出方向Bはモータ回転方向、かつ、コイルエンド上部に向けられている。また、説明を簡略化するため温度センサ、温度センサハーネス等は省略した。
【0019】
本実施形態で特徴的な事項の一つは、モータケース10の側面の設けられた冷却油の送出口31,33,34は、ロータ軸方向に送出され、コイルエンドに吹き付けられるのに対し、送出口32はレゾルバハーネス14に遮られない位置に配置され、コイルエンドの上部にロータ軸と直交方向に吹き付けられることである。また、他の事項の一つは、送出パイプにレゾルバハーネス14の保持具を設け、送出口32の屈曲部の下部にレゾルバハーネスを配索したことである。
【0020】
図3は冷却油を送出する送出パイプ30とレゾルバハーネス14の位置関係を示す正面図(A)、底面図(B)及び側面図(C)である。図3(A)に示すように、送出パイプ30には、ブラケット部36と、冷却油を送出する送出口32と、モータケースの冷却油送出口に圧入される圧入部38とを有するパイプ体39と、レゾルバハーネス14を保持するクランプ部35と、モータケース10に送出パイプを固定するためのネジによる固定穴37と、が示されている。
【0021】
また、図3(B)と図3(C)に示すように、レゾルバハーネス14は、クランプ部35と、パイプ体39の湾曲部の肩部にガイドされロータ側への移動が制限されている。なお、ブラケット36の一端にはクランプ部35が設けられ、ブラケット36の他端は補強のためと、組み立て時のレゾルバハーネスの引っ掛かりを防止するために折り曲げられている。
【0022】
図1のモータ部の断面図に示すように、レゾルバハーネス14は、送出パイプ30のクランプ部35で保持され、さらに、パイプ体の湾曲部の肩部にガイドされ、端子台11に接続されている。これにより端子側又はレゾルバ側にある程度の余長により、レゾルバハーネス接続が円滑に実施可能となり、送出パイプ30の送出口をレゾルバハーネスが遮ることなく、組み立て作業が可能となる。
【0023】
図4には、図1のモータケースに設けられた送出口31〜34に対応する吹き付け方向A〜Dによるコイルエンドにおける冷却油吹き付け状況が示されている。吹き付け方向A,C,Dはロータ軸方向に送出された冷却油の跡であり、吹き付け方向Bは、送出パイプ30から吹き付けられた冷却油の跡である。吹き付け方向Bには、コイルエンドから端子台11に伸びるU相,V相,W相の結線が伸びており、冷却油経路が遮られることなく、ステータのコイル円周方向に広く吹き付けられる。図4に示すように、ステータのコイルエンド20上部からコイルエンドの隅々まで冷却油が吹き付けられ、コイルエンドを流れた冷却油が冷却油受け41で回収される。
【0024】
以上、上述したように、本実施形態に係る車両駆動装置を用いることにより、コイルエンド側面へ冷却油を送出する冷却油経路をレゾルバハーネスが遮ることなく、コイルエンド側面全体を冷却することが可能となる。また、レゾルバハーネスの余長を適切に保持又は支持することにより組み立て時におけるレゾルバハーネスのかみ込みや、レゾルバハーネスとロータとの接触による損傷を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る車両駆動装置におけるモータ部の断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両駆動装置におけるモータケースの斜視図である。
【図3】本発明の実施形態に係る冷却油を送出する送出パイプとレゾルバハーネスとの位置関係を説明する説明図である。
【図4】本実施形態のコイルエンドにおける冷却油吹き付け状況を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 車両駆動装置、10 モータケース、11 端子台、12 温度センサ、13 温度センサハーネス、14 レゾルバハーネス、15 レゾルバ、17 ロータ軸受け、20 コイルエンド、20 ステータ、21 ステータコイル、23 モータカバー、24 ロータ、25 ロータシャフト、30 送出パイプ、31,32,33,34 送出口、35 クランプ部、36 ブラケット、37 固定穴、38 圧入部、39 パイプ体、41 冷却油受け。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を駆動するモータと、モータケースに配置され、ロータの回転角を検出するレゾルバと、ステータのコイルエンドへ冷却油を供給する複数の冷却油経路と、を有する車両駆動装置において、
少なくとも1つの冷却油経路は、冷却油をモータ上部のコイルエンドに送出するために、ロータ軸に直交する方向へ屈曲した送出パイプによって形成され、その冷却油経路を避けてレゾルバハーネスをモータケースに配索したことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両駆動装置において、
送出パイプはモータケースに固定され、レゾルバハーネスは送出パイプに形成されたクランプ部で保持されることを特徴とする車両駆動装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の車両駆動装置において、
送出パイプには、レゾルバハーネスのロータ側への振れを抑えるためのガイド部が設けられ、送出パイプに形成されたクランプ部は、一端が開放されたU字状の保持部材であることを特徴とする車両駆動装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
クランプ部は送出パイプに一体形成されたことを特徴とする車両駆動装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の車両駆動装置において、
送出パイプとクランプ部とは、金属材料で形成されていることを特徴とする車両駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−142056(P2009−142056A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315420(P2007−315420)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】