説明

電力変換回路の駆動回路

【課題】電圧制御形のパワースイッチング素子Sに過度の電流が流れることを回避する処理を行う場合、サージが大きくなるおそれがあること。
【解決手段】パワースイッチング素子Sのセンス端子STから出力される電流による抵抗体52での電圧降下量は、コンパレータ54によって、閾値電圧Vrefと大小関係が比較される。これにより、パワースイッチング素子Sを流れる電流(コレクタ電流)が閾値を超えるか否かを判断する。そして、閾値を超えると判断される場合、スイッチング素子56をオンすることで、パワースイッチング素子Sのゲートの電圧をツェナーダイオード58のブレークダウン電圧程度に制限する。ツェナーダイオード58のカソード及びパワースイッチング素子Sのゲート間には、放電用抵抗体42が接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子をオン・オフ駆動する電力変換回路の駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動回路としては、例えば下記特許文献1に見られるように、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)のエミッタ及びゲート間に、ゲートの電圧を所定電圧にクランプするためのツェナーダイオードとバイポーラトランジスタとを接続し、IGBTのコレクタ電流が規定値以上となる場合にバイポーラトランジスタをオン状態とするものも提案されている。これによれば、IGBTのコレクタ電流が、その信頼性の低下を招きかねない値となる場合に、ゲートの電圧を低下させることができ、ひいてはコレクタ電流を制限することができる。
【特許文献1】特開平5−218836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、電力変換回路は、一般に寄生インダクタ等のインダクタンス成分を有する。このため、上記バイポーラトランジスタがオンとされることでコレクタ電流が急激に減少すると、上記インダクタンス成分に応じた逆起電力が大きくなり、ひいては大きなサージが生じるおそれがある。このため、本来、スイッチング素子の信頼性を維持することを意図してゲートの電圧を低下させたにもかかわらず、サージによってスイッチング素子の信頼性の低下を招くおそれもある。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子に過度の電流が流れることを回避する処理を行う場合であっても、サージを好適に抑制することのできる電力変換回路の駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0006】
請求項1記載の発明は、電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流が規定値以上となることで、前記スイッチング素子をオン状態に維持しつつも前記スイッチング素子の導通制御端子に印加される電圧を基準電圧に規制する規制手段を備える電力変換回路の駆動回路において、前記導通制御端子及び前記規制手段間を抵抗体を介して接続することを特徴とする。
【0007】
上記発明では、導通制御端子及び規制手段間に抵抗体が接続されているため、規制手段によってスイッチング素子をオン状態とするための電荷が導通制御端子から引き抜かれる際、その電荷の引き抜き速度を制限することができる。このため、導通制御端子の電圧の変化速度を緩和することができ、ひいてはスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流の減少速度が過度に大きくなることを回避することができる。このため、スイッチング素子に過度の電流が流れることを回避する処理を行う場合であっても、サージを好適に抑制することができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記抵抗体は、前記スイッチング素子をオン状態とすべく前記導通制御端子に電荷を充電するための充電経路とは別に備えられるものであることを特徴とする。
【0009】
上記発明では、スイッチング素子をオン状態とするための電荷を導通制御端子に充電する際の要求によって、上記抵抗体の抵抗値が制約を受けることを回避することができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記スイッチング素子をオン状態とするための電荷を前記導通制御端子から放電させる放電経路に抵抗体を備え、前記導通制御端子及び前記規制手段間に接続される抵抗体と前記放電経路に備えられる抵抗体とを同一としたことを特徴とする。
【0011】
上記発明では、導通制御端子の電圧の低下速度が過度に大きくならないようにするための機能を付与するために、新たに抵抗体を追加することを回避することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記放電経路は、前記スイッチング素子をオン・オフ駆動する際に用いられる経路であることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記放電経路は、前記入力端子及び前記出力端子間に所定時間に渡って所定以上の電流が流れる場合に前記スイッチング素子を強制的にオフ状態とするための経路であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記規制手段は、前記導通制御端子及び前記出力端子間に備えられるツェナーダイオードと、前記導通制御端子及び前記出力端子間を接続する経路であって且つ前記ツェナーダイオードを備える電気経路を開閉する手段とを備えることを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の発明は、請求項3〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記規制手段を、前記放電経路を閉状態とする手段とともに1チップ化された集積回路内に形成したことを特徴とする。
【0016】
上記発明では、放電経路を開閉する手段と規制手段とのそれぞれをスイッチング素子の導通制御端子に接続するための端子を、上記集積回路の単一の端子とすることができる。このため、集積回路の端子数を低減することができる。
【0017】
請求項8記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、前記導通制御端子に前記規制手段が接続されるスイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0018】
上記発明では、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子が直列接続されるために、これらを貫通する電流が流れる異常時には、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流を制限することが望まれる。このため、規制手段を備えることのメリットが特に大きい。
【0019】
請求項9記載の発明は、電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子をオン・オフ駆動する電力変換回路の駆動回路において、前記スイッチング素子の導通制御端子に一方の端子が接続される抵抗体と、該抵抗体の他方の端子に単一の端子が接続される1チップ化された集積回路とを備え、前記集積回路は、前記スイッチング素子をオン状態とするための電荷を前記抵抗体を介して前記単一の端子側へと引き抜くことで前記スイッチング素子をオフ状態とする機能と、前記スイッチング素子の入出力端子間に流れる電流が規定値以上となる際に前記スイッチング素子をオン状態に維持しつつも前記導通制御端子に印加される電圧を規制すべく前記導通制御端子から前記電荷の一部を前記抵抗体を介して前記単一の端子側へと引き抜く機能とを備えることを特徴とする。
【0020】
上記発明では、上記単一の端子及び導通制御端子間に抵抗体が接続されているため、スイッチング素子をオン状態とするための電荷が導通制御端子から引き抜かれる際、その電荷の引き抜き速度を制限することができる。このため、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流が規定値以上となることにより導通制御端子から電荷の一部を引き抜く際、電圧の変化速度を緩和することができる。このため、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流の減少速度が過度に大きくなることを回避することができる。このため、スイッチング素子に過度の電流が流れることを回避する処理を行う場合であっても、サージを好適に抑制することができる。
【0021】
更に、本実施形態では、スイッチング素子をオフ状態とすべく導通制御端子から上記電荷を引き抜く際と、導通制御端子に印加される電圧を規制するために導通制御端子から上記電荷を引き抜く際とで、集積回路の単一の端子を用いている。このため、集積回路の端子数を低減することができる。
【0022】
請求項10記載の発明は、請求項9記載の発明において、前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、前記導通制御端子に前記抵抗体が接続されるスイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0023】
上記発明では、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子が直列接続されるために、これらを貫通する電流が流れる異常時には、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流を制限することが望まれる。このため、導通制御端子に印加される電圧を規制する上記機能を備えることのメリットが特に大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる電力変換回路の駆動回路をハイブリッド車に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に、本実施形態にかかるモータジェネレータの制御システムの全体構成を示す。モータジェネレータ10は、インバータIV及び昇圧コンバータCVを介して高圧バッテリ12に接続されている。ここで、昇圧コンバータCVは、コンデンサCと、コンデンサCに並列接続された一対のパワースイッチング素子Scp,Scnと、一対のパワースイッチング素子Scp,Scnの接続点と高圧バッテリ12の正極とを接続するリアクトルLとを備えている。そして、パワースイッチング素子Scp,Scnのオン・オフによって、高圧バッテリ12の電圧(例えば「288V」)を所定の電圧(例えば「666V」)を上限として昇圧するものである。一方、インバータIVは、パワースイッチング素子Sup,Sunの直列接続体と、パワースイッチング素子Svp,Svnの直列接続体と、パワースイッチング素子Swp,Swnの直列接続体とを備えており、これら各直列接続体の接続点がモータジェネレータ10のU,V,W相にそれぞれ接続されている。これらパワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnとして、本実施形態では、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられている。そして、これらにはそれぞれ、ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが逆並列に接続されている。
【0026】
制御装置16は、低圧バッテリ14を電源とする制御装置である。制御装置16は、モータジェネレータ10を制御対象とし、その制御量を所望に制御すべく、インバータIVやコンバータCVを操作する。詳しくは、コンバータCVのパワースイッチング素子Scp,Scnを操作すべく、操作信号gcp、gcnをドライバユニットDUに出力する。また、インバータIVのパワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnを操作すべく、操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwnをドライバユニットDUに出力する。ここで、高電位側の操作信号gcp,gup,gvp,gwpと、対応する低電位側の操作信号gcn,gun,gvn,gwnとは、互いに相補的な信号となっている。換言すれば、高電位側のパワースイッチング素子Scp,Sup,Svp,Swpと、対応する低電位側のパワースイッチング素子Scn,Sun,Svn,Swnとは、交互にオン状態とされる。
【0027】
図2に、上記ドライバユニットDUの構成を示す。なお、以下では、パワースイッチング素子Sup,Sun,Svp,Svn,Swp,Swnをパワースイッチング素子Sと総括して記載し、操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwn, gcp、gcnを操作信号gと総括して表記する。
【0028】
図示されるように、ドライバユニットDUは、1チップ化された半導体集積回路であるカスタムIC20を備えている。カスタムIC20の端子T1は、ゲートの充電速度を調節するための充電用抵抗体30、及びバランス抵抗体32を介して、パワースイッチング素子Sのゲートに接続されている。一方、カスタムIC20は、パワースイッチング素子Sをオン状態とすべく導通制御端子(ゲート)を充電するための電荷を供給する電源26を備えている。そして、電源26は、抵抗体28及びスイッチング素子24の入力端子及び出力端子を介して、端子T1に接続されている。ちなみに、上記バランス抵抗体32は、LC共振を抑制するための抵抗値の調整用の抵抗体である。
【0029】
更に、カスタムIC20の端子T2は、ゲートの放電速度を調節するための放電用抵抗体42、及びバランス抵抗体32を介して、パワースイッチング素子Sのゲートに接続されている。一方、カスタムIC20は、パワースイッチング素子Sのエミッタに接続される端子T5と端子T2との間を開閉するスイッチング素子40を備えている。
【0030】
更に、カスタムIC20は、パワースイッチング素子Sを駆動する駆動回路22を備えている。駆動回路22では、図示しないフォトカプラ等の絶縁手段を介して、ドライバユニットDUに入力される上記操作信号gに基づき、スイッチング素子24、40をオン・オフすることでパワースイッチング素子Sを駆動する。すなわち、操作信号gが論理「H」となることで、パワースイッチング素子Sをオン状態とする旨が指示される場合、スイッチング素子24をオンして且つスイッチング素子40をオフすることで、パワースイッチング素子Sのゲートに正の電荷を充電する。また、操作信号gが論理「L」となることで、パワースイッチング素子Sをオフ状態とする旨が指示される場合、スイッチング素子24をオフして且つスイッチング素子40をオンすることで、パワースイッチング素子Sのゲートから正の電荷を放電させる。
【0031】
パワースイッチング素子Sのゲート及びエミッタ間には、ゲートコンデンサ46と、安定化抵抗体48とが並列接続されている。ゲートコンデンサ46は、充電用抵抗体30と協働で、パワースイッチング素子Sがオフ状態からオン状態へと切り替わる速度を調節するためのものである。安定化抵抗体48は、パワースイッチング素子Sをオフ状態とする状況下(操作信号gを論理「L」とする状況下)、ゲートの電位をエミッタ電位まで確実に引き下げるためのものである。このため、安定化抵抗体48は、充電用抵抗体30や放電用抵抗体42と比較して、その抵抗値が十分に大きい値に設定されている。
【0032】
パワースイッチング素子Sは、その入力端子(コレクタ)及び出力端子(エミッタ)間に流れる電流(コレクタ電流)と相関を有する微少電流を出力するセンス端子STを備えている。そして、センス端子STは、抵抗体50,52の直列接続体を介してエミッタに電気的に接続されている。これにより、センス端子STから出力される電流によって抵抗体52に電圧降下が生じるため、抵抗体52による電圧降下量を、パワースイッチング素子Sの入力端子及び出力端子間を流れる電流と相関を有する電気的な状態量とすることができる。
【0033】
上記抵抗体52による電圧降下量は、端子T4を介して、コンパレータ54の非反転入力端子に取り込まれる。一方、コンパレータ54の反転入力端子には、閾値電圧Vrefが印加されている。これにより、コレクタ電流が閾値以上となることで、コンパレータ54が論理「L」から論理「H」に反転する。コンパレータ54の論理「H」の信号は、フェール信号FLとして、ディレイ60に取り込まれる。ディレイ60は、入力信号が所定時間に渡って論理「H」となることで、パワースイッチング素子Sを強制的にオフ状態とすべく、論理「H」の信号をスイッチング素子62のゲートに出力するとともに、停止信号AEを駆動回路22に出力するものである。ここで、停止信号AEは、駆動回路22によるスイッチング素子24、40の駆動を停止させるための信号である。
【0034】
一方、上記スイッチング素子62の出力端子は、端子T5に接続され、入力端子は、端子T3、ソフト遮断用抵抗体64、及びバランス抵抗体32を介して、パワースイッチング素子Sのゲートに接続される。これにより、コレクタ電流が閾値以上となる状態が所定時間以上継続することで、スイッチング素子62がオンとされ、ソフト遮断用抵抗体64を介して、パワースイッチング素子Sのゲートの電荷が放電される。ここで、ソフト遮断用抵抗体64は、その抵抗値が放電用抵抗体42よりも高抵抗とされるものである。これは、コレクタ電流が過大である状況下にあっては、パワースイッチング素子Sをオン状態からオフ状態へと切り替える速度、換言すればコレクタ及びエミッタ間の遮断速度を大きくすると、サージが過大となるおそれがあることに鑑みたものである。このため、コレクタ電流が閾値以上となると判断される状況下にあっては、放電用抵抗体42を備える放電経路よりも抵抗値の大きい経路によってパワースイッチング素子Sのゲートを放電させる。
【0035】
上記コンパレータ54の出力信号は、更に、NチャネルMOS型電界効果トランジスタ(スイッチング素子56)のゲートに印加される。スイッチング素子56は、その一方の端子がパワースイッチング素子Sのエミッタに接続され、他方の端子がツェナーダイオード58のアノード側に接続される。ツェナーダイオード58のカソード側は、端子T2に接続される。これにより、コンパレータ54の出力信号が論理「H」となると、スイッチング素子56がオン状態となるため、パワースイッチング素子Sのゲートの電圧は、ツェナーダイオード58のブレークダウン電圧程度に制限されることとなる。これにより、コレクタ電流が制限される。
【0036】
ここで、本実施形態では、ツェナーダイオード58とパワースイッチング素子Sのゲートとが、放電用抵抗体42を介して接続されるため、コンパレータ54の出力信号が論理「H」に反転することで、図3に示すように、パワースイッチング素子Sのゲートの電圧が上記ブレークダウン電圧程度まで低下する低下速度を低減することができる。図3(a)は、パワースイッチング素子Sの操作信号gの推移を示し、図3(b)は、パワースイッチング素子Sのゲート電圧の推移を示し、図3(c)は、フェール信号FLの推移を示し、図3(d)は、停止信号AEの推移を示し、図3(e)は、スイッチング素子24の状態の推移を示す。
【0037】
図中、実線にて示されるように、フェール信号が立ち上がることで、ゲート電圧は、上記ブレークダウン電圧程度まで緩やかに低下する。これに対し、図中、1点鎖線は、ツェナーダイオード58とゲート(詳しくは、バランス抵抗体32)との間に、抵抗体を備えない場合を示す。この場合、フェール信号FLの立ち上がりに伴い、ゲート電圧が迅速に低下する。そして、ゲート電圧が迅速に低下する場合、コレクタ電流が急激に減少することから、インバータIVやコンバータCVに生じるサージが大きくなる。これに対し、本実施形態のように、ツェナーダイオード58のカソードとパワースイッチング素子Sのゲートとの間に放電用抵抗体42を備えることで、フェール信号FLの立ち上がり時のゲート電圧の低下速度を低減することができ、ひいてはサージ電圧を好適に低減することができる。
【0038】
ちなみに、図中、所定時間Tは、ディレイ60の出力を論理「H」とするために要求される入力信号の論理「H」の継続時間である。所定時間Tが経過すると、上記スイッチング素子62がオン状態とされることでパワースイッチング素子Sのゲートの電荷が強制的に放電される。そしてこの際には、停止信号AEが論理「L」に反転するため、スイッチング素子24がオフ状態とされ、パワースイッチング素子Sのゲートに新たに電荷の供給がなされることもない。このため、パワースイッチング素子Sは強制的にオフ状態とされる。
【0039】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0040】
(1)パワースイッチング素子Sのゲート及びツェナーダイオード58のカソード間を抵抗体を介して接続した。これにより、パワースイッチング素子Sに過度の電流が流れることを回避する処理を行う場合であっても、サージを好適に抑制することができる。
【0041】
(2)パワースイッチング素子Sのゲート及びツェナーダイオード58のカソード間を接続するための抵抗体を、放電用抵抗体42とした。これにより、パワースイッチング素子Sの電圧の低下速度が過度に大きくならないようにするための機能を付与するために、新たに抵抗体を追加することを回避することができる。
【0042】
(3)パワースイッチング素子Sをオン状態とするための電荷を充電するための充電経路の抵抗体(充電用抵抗体30)と、同電荷を放電させる放電経路の抵抗体(放電用抵抗体42)とを別部材とした。これにより、ゲートの充電速度及び放電速度を調節するための自由度を高めることができる。
【0043】
(4)パワースイッチング素子Sをオン状態とするための電荷を充電するための充電経路の抵抗体(充電用抵抗体30)と、パワースイッチング素子Sのゲート及びツェナーダイオード58のカソード間を接続するための抵抗体とを別部材とした。これにより、ゲートの充電速度を調節するための自由度を高めることができる。
【0044】
(5)ツェナーダイオード58及びスイッチング素子40,56を、カスタムIC20内に形成した。これにより、パワースイッチング素子Sのゲート及びツェナーダイオード58のカソード間を接続するための抵抗体を、放電用抵抗体42とすることで、カスタムIC20の端子の数を低減することができる。
【0045】
(6)放電用抵抗体42を、カスタムIC20とは別に、ディスクリート部品によって構成した。これにより、カスタムIC20の仕様が決定した後であっても、また、カスタムIC20が製造された後であっても、ゲートの放電速度を好適に調節することができる。
【0046】
(7)過電流保護対象とするパワースイッチング素子Sを、インバータIVやコンバータCVを構成する高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子とした。これにより、これら高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子間を貫通する電流が流れる異常時には、スイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流を制限することが望まれる。このため、ツェナーダイオード58等を備えることのメリットが特に大きい。
【0047】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0048】
図4に、本実施形態にかかるドライバユニットDUの構成を示す。
【0049】
図示されるように、本実施形態では、パワースイッチング素子Sのゲート及びツェナーダイオード58のカソード間を接続するための抵抗体を、ソフト遮断用抵抗体64とする。これによっても、上記第1の実施形態の上記(1)〜(7)の効果に準じた効果を得ることができる。
【0050】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0051】
・上記第1の実施形態では、ツェナーダイオード58によってゲート電圧を規制する際のゲート電圧の低下速度を緩和するための抵抗体を、放電用抵抗体42と共有したがこれに限らず、これらを各別の抵抗体としてもよい。
【0052】
・上記実施形態では、ツェナーダイオード58や、スイッチング素子56、コンパレータ54等をカスタムIC20内部の回路として構成したが、これに限らず、これらをカスタムIC20外部において、ディスクリート部品にて構成してもよい。
【0053】
・上記各実施形態では、充電用抵抗体30と放電用抵抗体42とを別部材としたが、これに限らず、ゲート抵抗として互いに同一としてもよい(共有化してもよい)。
【0054】
・上記各実施形態では、充電用抵抗体30や放電用抵抗体42を、ディスクリート部品にて構成したが、これに限らず、カスタムIC20内に構成されるものとしてもよい。
【0055】
・パワースイッチング素子をオン状態に維持しつつもパワースイッチング素子の導通制御端子に印加される電圧を基準電圧に規制する規制手段としては、ツェナーダイオード58及びスイッチング素子56を備えて構成されるものに限らない。例えば、ツェナーダイオード58に代えて、パワースイッチング素子Sのゲート側をアノードとする複数のダイオードの直列接続体を用いてもよい。
【0056】
・パワースイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流と相関を有する電気的な状態量を検出する手段としては、センス端子STの出力する電流を検出する手段に限らない。例えば、入力端子及び出力端子間の電圧を検出する手段であってもよい。
【0057】
・上記実施形態では、インバータIVとして、各相の各アームのパワースイッチング素子を単一のパワースイッチング素子にて構成したが、これに限らず、複数のパワースイッチング素子にて構成してもよい。この場合、パワースイッチング素子Sのゲートとツェナーダイオード58とを接続する抵抗体を放電用抵抗体42やソフト遮断用抵抗体64とは別に設ける場合には、電力変換システム全体としての部品点数の増大がいっそう深刻になる。このため、上記各実施形態で例示したように、パワースイッチング素子Sのゲートとツェナーダイオード58とを接続する抵抗体を放電用抵抗体42やソフト遮断用抵抗体64と共有化することが特に有効である。
【0058】
・ドライバユニットDUの構成としては、上記実施形態及びその変形例で例示したものに限らず、例えばゲートコンデンサ46やバランス抵抗体32、安定化抵抗体48を備えない構成としてもよい。
【0059】
・電力変換回路のパワースイッチング素子としては、車載回転機とバッテリとの間に接続されるインバータIVやコンバータCVに限らない。例えば、車載高圧バッテリの電力を低圧バッテリに供給すべく、高圧バッテリの電圧を降圧するDCDCコンバータを構成するパワースイッチング素子であってもよい。
【0060】
・電力変換回路のパワースイッチング素子としては、IGBTに限らず、例えばMOS型電界効果トランジスタであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるドライバユニットの回路構成を示す回路図。
【図3】同実施形態の効果を示すタイムチャート。
【図4】第2の実施形態にかかるドライバユニットの回路構成を示す回路図。
【符号の説明】
【0062】
42…放電用抵抗体、56…スイッチング素子、58…ツェナーダイオード、S…パワースイッチング素子、IV…インバータ、CV…コンバータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子の入力端子及び出力端子間を流れる電流が規定値以上となることで、前記スイッチング素子をオン状態に維持しつつも前記スイッチング素子の導通制御端子に印加される電圧を基準電圧に規制する規制手段を備える電力変換回路の駆動回路において、
前記導通制御端子及び前記規制手段間を抵抗体を介して接続することを特徴とする電力変換回路の駆動回路。
【請求項2】
前記抵抗体は、前記スイッチング素子をオン状態とすべく前記導通制御端子に電荷を充電するための充電経路とは別に備えられるものであることを特徴とする請求項1記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項3】
前記スイッチング素子をオン状態とするための電荷を前記導通制御端子から放電させる放電経路に抵抗体を備え、
前記導通制御端子及び前記規制手段間に接続される抵抗体と前記放電経路に備えられる抵抗体とを同一としたことを特徴とする請求項1又は2記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項4】
前記放電経路は、前記スイッチング素子をオン・オフ駆動する際に用いられる経路であることを特徴とする請求項3記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項5】
前記放電経路は、前記入力端子及び前記出力端子間に所定時間に渡って所定以上の電流が流れる場合に前記スイッチング素子を強制的にオフ状態とするための経路であることを特徴とする請求項3記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項6】
前記規制手段は、前記導通制御端子及び前記出力端子間に備えられるツェナーダイオードと、前記導通制御端子及び前記出力端子間を接続する経路であって且つ前記ツェナーダイオードを備える電気経路を開閉する手段とを備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項7】
前記規制手段を、前記放電経路を閉状態とする手段とともに1チップ化された集積回路内に形成したことを特徴とする請求項3〜6のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項8】
前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、
前記導通制御端子に前記規制手段が接続されるスイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動回路。
【請求項9】
電力変換回路の備える電圧制御形のスイッチング素子をオン・オフ駆動する電力変換回路の駆動回路において、
前記スイッチング素子の導通制御端子に一方の端子が接続される抵抗体と、
該抵抗体の他方の端子に単一の端子が接続される1チップ化された集積回路とを備え、
前記集積回路は、前記スイッチング素子をオン状態とするための電荷を前記抵抗体を介して前記単一の端子側へと引き抜くことで前記スイッチング素子をオフ状態とする機能と、前記スイッチング素子の入出力端子間に流れる電流が規定値以上となる際に前記スイッチング素子をオン状態に維持しつつも前記導通制御端子に印加される電圧を規制すべく前記導通制御端子から前記電荷の一部を前記抵抗体を介して前記単一の端子側へと引き抜く機能とを備えることを特徴とする電力変換回路の駆動回路。
【請求項10】
前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、
前記導通制御端子に前記抵抗体が接続されるスイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする請求項9記載の電力変換回路の駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−34746(P2010−34746A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193273(P2008−193273)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】