説明

風力発電装置

【課題】プラネタリ型遊星増速機の遊星軸受部に生じる片当たりを解消し、遊星軸受部を長寿命化及びコンパクト化して風力発電装置の軽量化とともに信頼性を向上させる。
【解決手段】風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、遊星増速機が遊星ピン25を中心に自転しながら公転する遊星歯車31を備え、遊星ピン25と遊星歯車31との間に配設される遊星軸受部50が、遊星ピン25の外周に固着された静止側の内輪51と遊星歯車31と一体に自転する外輪55との間にコロ60を備え、内輪51が、接触面に球面座52を形成してピン側内輪部53とコロ側内輪部54とに分割されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然エネルギーの風を回転力に変換する風車を用いて発電を行う風力発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自然エネルギーである風力を利用して発電を行う風力発電装置が知られている。この種の風力発電装置は、支柱上に設置されたナセルに、風車翼を取り付けたロータヘッドと、このロータヘッドと一体に回転するよう連結された主軸と、風車翼に風力を受けて回転する主軸を連結した増速機と、増速機の軸出力によって駆動される発電機とを設けたものである。このように構成された風力発電装置においては、風力を回転力に変換する風車翼を備えたロータヘッド及び主軸が回転して軸出力を発生し、主軸に連結された増速機を介して回転数を増速した軸出力が発電機に伝達される。このため、風力を回転力に変換して得られる軸出力を発電機の駆動源とし、発電機の動力として風力を利用した発電を行うことができる。
【0003】
このような風力発電装置において、ロータヘッド及び主軸の低速回転を増速して発電機を高速回転させる増速機は、大トルクの伝達と大きな増速比が求められることから、一般的にプラネタリ型の遊星増速機が使用されている。しかし、風力発電装置に使用される遊星増速機は、公転する遊星歯車の軸部を自転可能に支持している遊星軸受部において、大きなトルク及び荷重を受けて遊星ピンが撓むように変形するため、ピン軸方向の入力側から出力側へ向けて変形量が大きくなる。
すなわち、風力発電装置に使用される遊星増速機は、遊星ピンの変形量が大きい出力側において、遊星軸受部に偏った荷重が作用する片当たりを生じるため、片当たりを生じた摺動部分の摩耗が促進されて軸受寿命を短くするという問題を有している。
【0004】
軸受の片当たりを防止する技術としては、軸受メタルの裏金端部にスリット部等を設けることにより、軸に傾きが生じた場合にもメタル端面に高圧面が発生しないようにして、メタル端面の偏摩耗を低減することが提案されている。(たとえば、特許文献1参照)
また、油圧ポンプモータの主軸すべり軸受において、回転軸と片当たりする側の軸受ブッシュの一部に複数本のスリットを入れるなどして、焼付きや摩耗を防止することが提案されている。(たとえば、特許文献2参照)
また、遊星歯車減速機の軸受装置において、ピニオンシャフトの変形による片当たりを軽減し、針状ころ軸受とピニオンシャフトとの接触部での応力集中を緩和する技術が提案されている。(たとえば、特許文献3参照)
【特許文献1】特開平7−167149号公報
【特許文献2】特開平8−312648号公報
【特許文献3】特開平8−338481号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した風力発電装置の遊星増速機は、遊星部軸受における早期寿命の問題を解消するため、片当たりを見込んで軸受サイズを決定するということが行われている。このため、摩耗代を大きく確保することで軸受サイズが大きくなり、増速機重量を増す原因となる。ちなみに、プラネタリ型の遊星増速機は、全重量において約40〜50%が遊星部の重量であるから、この部分の重量増大は、増速機全体の重量増大に大きな影響を及ぼすこととなる。
また、増速機の重量増大は、支柱上の高所に設置されるナセルの全体重量を増大させることになるので、支柱や基礎等の設計条件が厳しくなる。
【0006】
このような背景から、風力発電装置に用いられるプラネタリ型の遊星増速機は、遊星軸受部における片当たりの問題を解決し、遊星軸受部の長寿命化及びコンパクト化を達成することが望まれる。そして、プラネタリ型の遊星増速機を小型・軽量化することにより、これを用いた風力発電装置の信頼性を向上させることが望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プラネタリ型遊星増速機の遊星軸受部に生じる片当たりの問題を解決し、遊星軸受部の長寿命化及びコンパクト化を達成することにより、風力発電装置の軽量化とともに信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る風力発電装置は、風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、前記内輪が、接触面に球面座を形成してピン側内輪部とコロ側内輪部とに分割されていることを特徴とするものである。
【0008】
このような風力発電装置によれば、プラネタリ型の遊星増速機は、遊星ピンと遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、内輪が接触面に球面座を形成してピン側内輪部とコロ側内輪部とに分割されているので、運転時に大きなトルク及び荷重を受ける遊星ピンが変形しても、球面座により片当たりを吸収することができる。すなわち、球面座にはピン軸方向に略均等な荷重(面圧)が作用するので、片当たりすることはない。
この場合の球面座は、ピン軸中心から外向きに凸の曲面とされ、ピン軸方向の略中心位置から入力側及び出力側の両方向へ下がる凸曲面としてもよいし、あるいは、入力軸側を最も高くして出力側へ下がる凸曲面としてもよい。
【0009】
上記の発明において、前記内輪部はピン軸方向の入力側へ延長されていることが好ましく、これにより、遊星ピンが変形しても内輪と外輪との咬み合いを維持できる。
また、上記の発明において、前記球面座に油溝を設けることが好ましく、これにより、自然の風を利用して発電する風力発電装置に特有の不規則なトルク変動に対応し、球面座を確実に潤滑することができる。
【0010】
本発明に係る風力発電装置は、風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、前記内輪と前記外輪との間に形成されるコロ設置空間内の周方向隙間寸法が、前記遊星ピンの運転時変形量を増すピン軸方向へ向けて段階的に小さくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0011】
このような風力発電装置によれば、プラネタリ型の遊星増速機は、遊星ピンと遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、内輪と外輪との間に形成されるコロ設置空間内の周方向隙間寸法を、遊星ピンの運転時変形量を増すピン軸方向へ向けて段階的に小さくなるように設定したので、遊星ピンが変形してもピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはない。
この場合、同じコロを用いて外輪側に形成されるコロ設置空間を段階的に変化させてもよいし、あるいは、外輪側に形成されるコロ設置空間を同じにしてコロの径を段階的に変化させてもよい。
【0012】
本発明に係る風力発電装置は、風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、前記遊星ピンが、運転時の変形方向と逆向きに予め傾斜させた状態で取付けられていることを特徴とするものである。
【0013】
このような風力発電装置によれば、プラネタリ型の遊星増速機は、遊星ピンと遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、遊星ピンを運転時の変形方向と逆向きに予め傾斜させた状態で取付けるようにしたので、運転時に遊星ピンが変形した状態で略水平になるため、ピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはない。
【0014】
本発明に係る風力発電装置は、風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、前記遊星ピンのばね定数が、ピン軸方向で入力側から出力側へ大きくなるように設定されていることを特徴とするものである。
【0015】
このような風力発電装置によれば、プラネタリ型の遊星増速機は、遊星ピンと遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、遊星ピンのばね定数が、ピン軸方向で入力側から出力側へ大きくなるように設定されているので、遊星ピンの入力側(根元)ほど剛性が小さいため全体が略水平状態を維持する。従って、運転時の遊星ピンは、ピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはない。
この場合、遊星ピンのばね定数をピン軸方向へ変化させる構造としては、下記のいずれでもよい。
【0016】
1)たとえばゴムのような弾性体や軟材を遊星ピン(鋼製等)の表面部に入れ、その厚さが入力部側ほど厚くなるようにピン軸方向へ変化させる。
2)ばね定数の大きい素材(硬い素材)を遊星ピン(鋼製等)の表面部に入れ、その厚さが入力部側ほど薄くなるようにピン軸方向へ変化させる。
3)遊星ピンの外周面に周方向のスリットを入れ、入力側の剛性が低く(柔らかく)なるようにピン軸方向へ変化させる。このとき、入力軸側のスリット密度を変えて剛性を変化させてもよいし、あるいは、密度を一定にしてスリット幅を変えて剛性を変化させてもよい。
4)遊星ピンの内部に入力側ほど径の大きい略円錐形状の中空穴を設ける。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明によれば、風力発電装置に用いられるプラネタリ型の遊星増速機において、遊星軸受部に生じていた片当たりの問題を解決し、遊星軸受の長寿命化及びコンパクト化が可能となる。従って、プラネタリ型の遊星増速機を軽量化することができ、しかも耐久性や信頼性も向上するので、風力発電装置全体としての信頼性も向上する。
また、増速機の小型・軽量化は、支柱の上部に設置されるナセル全体の重量低減に貢献するので、支柱や基礎等の設計条件が緩和されるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る風力発電装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図8において、風力発電装置1は、基礎6上に立設される支柱2と、支柱2の上端に設置されるナセル3と、略水平な軸線周りに回転可能にしてナセル3に設けられるロータヘッド4とを有している。
ロータヘッド4には、その回転軸線周りに放射状にして複数枚の風車翼5が取り付けられている。この結果、ロータヘッド4の回転軸線方向から風車翼5に当たった風の力が、ロータヘッド4を回転軸線周りに回転させる動力に変換されるようになっている。
【0019】
ナセル3の内部には、たとえば図9に示すように、ロータヘッド4と同軸の増速機20を介して連結された発電機11を具備してなる駆動・発電機構が収納設置されている。すなわち、ロータヘッド4の回転を増速機20で増速して発電機11を駆動させることにより、発電機11より発電機出力Wが得られるようになっている。なお、図9に示す符号12はトランス、13はコントローラ、14はインバータ、15はインバータクーラ、16は潤滑油クーラである。
【0020】
図10に示す増速機20は、プラネタリ型の遊星増速機である。この増速機20は、ハウジング21内に収納された遊星歯車及び平歯車等を組み合わせた増速機構により、入力軸22の回転数を増速して出力軸23から出力する装置である。
入力軸22は、ロータヘッド4の主軸(不図示)と連結されている。入力軸22の他端側には、遊星増速機構30が設けられている。図示の遊星増速機構30は、入力軸22と一体に回転する保持板24に、複数(図示の構成例では3組)の遊星歯車31が遊星軸受部50を介して支持されている。各遊星歯車31は、保持板24から突出して固定され、円周方向へ等ピッチに配設されている遊星ピン25に取り付けた遊星軸受部50の外周に嵌合させることで、回動可能に支持されている。
【0021】
上述した遊星歯車31は、内周側(軸中心側)が遊星出力軸32に形成された太陽歯車33と噛合し、外周側が内歯歯車34と噛合している。なお、図中の符号27は、入力軸22及び保持板24を回転可能に支持する軸受である。
この遊星増速機構30は、遊星歯車31が自転しながら公転することにより、入力軸22の回転数を増速して遊星出力軸32に出力する。この場合の増速比は、遊星歯車31の歯数、太陽歯車33の歯数及び内歯歯車34の歯数により定まる。
【0022】
遊星出力軸32は、平歯車増速機構40に連結されている。平歯車増速機構40は、第1平歯車41の第1回転軸42が遊星出力軸32と連結されており、入力軸22と同一軸線上で一体に回転可能となるように、第1回転軸42の2箇所が軸受26により支持されている。
第1平歯車41は、第2回転軸43に設けられた第2平歯車44と噛合している。この場合、第1平歯車41の歯数が第2平歯車44の歯数より多いため、第2回転軸43の回転数は第1回転軸42の回転数が増速されたものとなる。なお、図中の符号28は、第2回転軸43を回転可能に支持する軸受である。
【0023】
上述した第2回転軸43には、第2平歯車44と一体に回転する第3平歯車45が取り付けられている。この第3平歯車45は、出力軸23に取り付けられた第4平歯車46と噛合している。この場合、第3平歯車45の歯数が第4平歯車46の歯数より多いため、出力軸23の回転数は第2回転軸43の回転数が増速されたものとなる。なお、図中の符号29は、出力軸23を回転可能に支持する軸受である。
この結果、入力軸22の回転数は、遊星増速機構30のギア比、第1平歯車41及び第2平歯車44のギア比、そして、第3平歯車45及び第4平歯車46のギア比により、3段階の増速を経て出力軸23から出力される。すなわち、ロータヘッド4は、増速機20を介して3段階に増速された回転数により発電機11を駆動する。
なお、図中の符号47は、遊星増速機構30の潤滑油を溜めるオイルバスである。
【0024】
<第1の実施形態>
上述した遊星増速機構30において、遊星歯車31を支持する遊星軸受部50は、内輪と外輪との間にコロを介在させた構成とされる。以下、この遊星軸受部50に係る第1の実施形態を図1に基づいて説明する。
図示の遊星軸受部50は、遊星ピン25を中心に自転しながら公転する遊星歯車31を備え、遊星ピン25と遊星歯車31との間に配設される軸受であり、遊星ピン25の外周に固着された静止側の内輪51と、遊星歯車31と一体に自転する外輪55との間にコロ60を備えている。この場合の内輪51は、接触面に球面座52を形成してピン側内輪部53とコロ側内輪部54とに分割されている。なお、図示の遊星軸受部50は、大きな荷重およびトルクに対応するため、コロ60を軸方向に2個配設した複列円筒コロ軸受が並列に2組使用されている。
【0025】
すなわち、遊星ピン25の外周に嵌合して固定される静止側の内輪51は、遊星ピン25のピン軸中心から外向きに凸の曲面がピン側内輪部53の接触面に形成されて球面座52となり、この球面座52と密着するようにして、コロ側内輪部54の接触面には凹曲面が形成されている。
また、図示の球面座52は、ピン軸方向の略中心位置から入力軸22が存在する入力側及び第1回転軸42が存在する出力軸側の両方向へ下がる凸曲面であるが、たとえば図2に示す変形例の遊星軸受部50Aのように、入力軸側を最も高くして出力側へ下がる凸曲面を有する球面座52Aとしてもよい。すなわち、この場合の内輪51Aは、接触面に入力軸側から出力軸側へ下がる凸曲面を有する球面座52Aを形成してピン側内輪部53Aとコロ側内輪部54Aとに分割されている。
【0026】
このように構成された遊星軸受部50は、静止側の内輪51が接触面に球面座52を形成してピン側内輪部53とコロ側内輪部54とに分割されているので、風力発電装置1の運転時に大きな荷重及びトルクを受ける遊星ピン25が変形すると、接触面が曲面の球面座52にはピン軸方向に略均等な荷重(面圧)が作用する。このため、ピン軸方向に複数並んでいるコロ60に作用する荷重は略均等になり、変形量が大きくなる出力側のコロ60に大きな荷重が集中して摩耗が促進されるという片当たりを防止することができる。すなわち、遊星軸受部50においては、球面座52が片当たりを吸収するので、ピン軸方向の荷重が不均一になって片当たりすることを防止または抑制でき、局所的な破損の促進を防止して軸受寿命を向上させる。
また、局所的な摩耗促進による軸受寿命対策としてサイズの大きい軸受を選択する必要もなくなるので、遊星軸受部50及びこの遊星軸受部50を用いた増速機20の長寿命化及びコンパクト化が可能となる。
【0027】
ところで、上述した内輪部については、たとえば図2に示すように、ピン軸方向の入力側へ延長しておくことが好ましい。すなわち、内輪51Aの軸方向寸法は、外輪55よりも入力軸22が存在する方向へ長く延長しておくことが望ましい。
このような構成とすれば、運転時に遊星ピン25が変形しても、内輪51Aと外輪55との正常な咬み合いを維持することができる。なお、このような構成は、図1に示す内輪51にも適用可能である。
【0028】
また、上述した実施形態及び変形例において、球面座51,51Aに油溝を設けておくことが好ましい。すなわち、静止側の内輪51において、ピン側内輪部53とコロ側内輪部54とに分割されて接触面となる球面座52に油溝を設けておくと、自然の風を利用して発電する風力発電装置1に特有の不規則なトルク変動を受けても、球面座52を確実に潤滑することができる。従って、大荷重が作用する球面座52に焼き付き等が生じることを防止でき、耐久性や信頼性の向上に有効となる。
【0029】
<第2の実施形態>
続いて、本発明に係る風力発電装置の遊星軸受部について、第2の実施形態を図3及び図4に基づいて説明する。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態の場合、遊星ピン25の外周に固着された静止側の内輪51と、遊星歯車31と一体に自転する外輪55Aとの間にコロ60を備えている遊星軸受部50Bにおいて、内輪51と外輪55Aとの間に形成されるコロ設置空間内の周方向隙間寸法が、遊星ピン25の運転時変形量を増すピン軸方向へ向けて、段階的に小さくなるように設定されている。
【0030】
具体的に説明すると、図3に示す実施形態では、全てのコロ60について形状及び大きさが同じものを用いている。そして、外輪55A側に形成されるコロ設置空間の高さhについては、出力軸側のh1から入力軸側のh4まで段階的に変化させている。すなわち、運転時に変形する遊星ピン25は、その変形量がピン軸方向の出力軸側ほど大きくなるので、最も出力軸側となる高さh1を最も小さく設定するとともに、h2,h3,h4の順に入力軸側へ段階的に大きくしている。この結果、コロ60の径dが全て同じであることから、コロ設置空間の高さ寸法hとの差により定義される周方向隙間寸法は、遊星ピン25の運転時変形量を増すピン軸方向へ段階的に小さくなる。
【0031】
また、この実施形態の変形例では、たとえば図4に示す遊星軸受部50Cのように、外輪55側に形成されるコロ設置空間を同じにして、すなわち、コロ設置空間の高さhを全て同じにして、コロ60の径dをピン軸方向へ段階的に変化させてもよい。この場合、コロ60の径は、運転時に変形する遊星ピン25の変形量がピン軸方向の出力軸側ほど大きくなるので、最も出力軸側となる高さd1を最も大きく設定するとともに、d2,d3,d4の順に入力軸側へ段階的に小さくしている。この結果、コロ設置空間の高さ寸法hが全て同じであることから、コロ60の径dとの差により定義される周方向隙間寸法は、遊星ピン25の運転時変形量を増すピン軸方向へ段階的に小さくなる。
【0032】
このような構成の遊星軸受部50B,50Cとすれば、内輪51と外輪55との間に形成されるコロ設置空間内の周方向隙間寸法が、遊星ピン25の運転時変形量を増すピン軸方向へ向けて段階的に小さくなるので、遊星ピン25が変形してもピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはない。従って、遊星軸受部50B、50Cにおいては、ピン軸方向の荷重が不均一になって片当たりすることを防止または抑制できるので、局所的に破損が促進されることの防止により軸受寿命が向上する。
【0033】
<第3の実施形態>
続いて、本発明に係る風力発電装置の遊星軸受部について、第3の実施形態を図5に基づいて説明する。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態では、上述した実施形態の遊星ピン25が保持板24から水平に突出しているのに対して、運転時に変形することを見込んで取り付けられた遊星ピン25Aが採用されている。すなわち、本実施形態の遊星ピン25Aは、運転時の変形方向と逆向きに予め傾斜させた状態に取り付けられており、その傾斜は、運転時に変形して略水平になる程度とすればよい。なお、本実施形態では、従来と同じ構造の遊星軸受部50が採用されており、コロ60については、遊星ピン25Aの変形状態を誇張して明確に示すため、図示が省略されている。
【0034】
このような構成とすれば、運転時に遊星ピン25Aが変形することにより略水平になるため、ピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはない。従って、遊星軸受部50においては、ピン軸方向の荷重が不均一になって片当たりすることを防止または抑制できるので、局所的に破損が促進されることの防止により軸受寿命が向上する。なお、遊星ピン25Aを傾斜させて取り付ける場合、保持板24側に形成する取付穴を傾斜させるだけであり、製造上の困難性はない。
【0035】
<第4の実施形態>
続いて、本発明に係る風力発電装置の遊星軸受部について、第4の実施形態を図6及び図7に基づいて説明する。なお、上述した実施形態と同様の部分には同じ符号を付し、その詳細な説明は省略する。
この実施形態では、遊星ピン25のばね定数が、ピン軸方向で入力側から出力側へ大きくなるように設定されている。
【0036】
図6に示す第1具体例の遊星ピン25Bは、表面部に弾性調整部材70を入れることにより、ばね定数をピン軸方向に変化させている。この場合の弾性調整部材70は、たとえばゴムのような弾性体や軟材が有効であり、鋼製部材の遊星ピン25Bに異なる部材の領域を形成している。
弾性調整部材70は、遊星ピン25Bの素材(鋼等)より柔らかいゴム等を採用した場合、表面部に入れる厚さが入力部側ほど厚くなるようにする。この結果、遊星ピン25Bのばね定数は、根元の入力側が最も小さく出力側が最も大きくなるように、ピン軸方向へ変化する。すなわち、図6に示す遊星ピン25Bは、入力側の剛性が小さくなるように構成されている。
【0037】
このように、遊星ピン25Bのばね定数は、ピン軸方向で入力側から出力側へ大きくなるように設定されることにより、遊星ピン25Bの入力側(根元)ほど剛性が小さくなるので、負荷を受ける運転時には、ピン全体が略水平状態を維持する。従って、運転時の遊星ピン25Bは、ピン軸方向に略均等な荷重(面圧)を受けて片当たりすることはないので、局所的に破損が促進されることの防止により軸受寿命が向上する。
【0038】
また、上述した第1具体例の変形例では、ピン素材よりもばね定数の大きい素材(硬い素材)を遊星ピン25Bの表面部に入れ、その厚さが入力側ほど薄くなるようにピン軸方向へ変化させてもよい。このようにしても、入力側の剛性が相対的に小さくなるので、負荷を受ける運転時には、ピン全体が略水平状態を維持する。
【0039】
また、図7に示す第2具体例の遊星ピン25Cは、外周面に周方向のスリット80を入れることで、入力側の剛性が低く(柔らかく)なるようにピン軸方向へ変化させる。このとき、入力軸側のスリット密度を変えて剛性を変化させてもよいし、あるいは、密度を一定にしてスリット幅を変えることで剛性を変化させてもよい。
すなわち、スリット80が同じ幅であれば、入力軸側に形成するスリット80の密度を高くして剛性を下げる。また、スリット80の密度を一定にする場合、入力軸側のスリット幅を大きくして剛性を下げる。なお、スリット密度及びスリット幅の両方をともに変化させて、入力軸側の剛性を下げることも可能である。
【0040】
また、図示を省略した第3具体例では、遊星ピンの内部に入力側ほど径の大きい略円錐形状の中空穴を設ける。この結果、遊星ピンの入力側ほど肉厚が薄くなるので、入力軸側の剛性を下げることができる。
【0041】

上述した本発明によれば、遊星軸受部に生じていた片当たりの問題が解決され、遊星軸受の長寿命化及びコンパクト化が可能となる。従って、プラネタリ型の遊星増速機を軽量化することができ、しかも耐久性や信頼性も向上するので、風力発電装置全体としての信頼性も向上する。また、増速機の小型・軽量化は、支柱の上部に設置されるナセル全体の重量低減に貢献するので、支柱や基礎等の設計条件が緩和される。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の風力発電装置において、遊星増速機構の遊星歯車を支持する遊星軸受部に係る第1の実施形態を示す要部断面図である。
【図2】図1に示す遊星軸受部の変形例を示す要部断面図である。
【図3】本発明の風力発電装置において、遊星増速機構の遊星歯車を支持する遊星軸受部に係る第2の実施形態を示す要部断面図である。
【図4】図3に示す遊星軸受部の変形例を示す要部断面図である。
【図5】本発明の風力発電装置において、遊星増速機構の遊星歯車を支持する遊星軸受部に係る第3の実施形態を示す要部断面図である。
【図6】本発明の風力発電装置において、遊星増速機構の遊星歯車を支持する遊星軸受部に係る第4の実施形態(第1具体例)を示す要部断面図である。
【図7】本発明の風力発電装置において、遊星増速機構の遊星歯車を支持する遊星軸受部に係る第4の実施形態(第2具体例)を示す要部断面図である。
【図8】風力発電装置の全体構成例を示す図である。
【図9】ナセルの内部構成例を示す斜視図である。
【図10】プラネタリ型遊星増速機の構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0043】
1 風力発電装置
20 増速機(プラネタリ型の遊星増速機)
22 入力軸
23 出力軸
24 保持板
25,25A〜25C 遊星ピン
30 遊星増速機構
31 遊星歯車
50,50A〜50C 遊星軸受部
51,51A 内輪
52,52A 球面座
53,53A ピン側内輪部
54,54A コロ側内輪部
55 外輪
60 コロ
70 弾性調整部材
80 スリット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、
前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、
前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、
前記内輪が、接触面に球面座を形成してピン側内輪部とコロ側内輪部とに分割されていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項2】
前記内輪部がピン軸方向の入力側へ延長されていることを特徴とする請求項1に記載の風力発電装置。
【請求項3】
前記球面座に油溝が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の風力発電装置。
【請求項4】
風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、
前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、
前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、
前記内輪と前記外輪との間に形成されるコロ設置空間内の周方向隙間寸法が、前記遊星ピンの運転時変形量を増すピン軸方向へ向けて段階的に小さくなるように設定されていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項5】
風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、
前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、
前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、
前記遊星ピンが、運転時の変形方向と逆向きに予め傾斜させた状態で取付けられていることを特徴とする風力発電装置。
【請求項6】
風車翼を取り付けたロータヘッドと一体に回転する主軸がプラネタリ型の遊星増速機を介して増速され、該遊星増速機の軸出力により発電機を駆動して発電する風力発電装置において、
前記遊星増速機が遊星ピンを中心に自転しながら公転する遊星歯車を備え、
前記遊星ピンと前記遊星歯車との間に配設される遊星軸受部が、前記遊星ピンの外周に固着された静止側の内輪と前記遊星歯車と一体に自転する外輪との間にコロを備え、
前記遊星ピンのばね定数が、ピン軸方向で入力側から出力側へ大きくなるように設定されていることを特徴とする風力発電装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−144532(P2009−144532A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320171(P2007−320171)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】