説明

高密度リポタンパク質様ペプチド−リン脂質足場(「HPPS」)ナノ粒子

本発明は、非天然存在高密度リポタンパク質様ペプチド−リン脂質足場(「HPPS」)ナノ粒子を提供する。より詳細には、本発明は:(a)少なくとも1つのリン脂質;(b)少なくとも1つの不飽和脂質、好ましくは不飽和ステロールエステル、さらに好ましくは不飽和コレステロールエステル、さらに好ましくはオレイン酸コレステリル;および(c)少なくとも1つの両親媒性αらせんを形成可能なアミノ酸配列を含む、少なくとも1つのペプチドを含み;構成要素a)、b)およびc)が会合して、ペプチド−リン脂質ナノ足場を形成する、非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を提供する。本発明の態様において、細胞表面受容体リガンドはHPPS内に取り込まれる。1つの態様において、細胞表面受容体リガンドは、HPPSナノ粒子のペプチド足場に共有結合する。他の態様において、細胞表面受容体リガンドは脂質アンカーにカップリングし、そしてHPPSナノ粒子のリン脂質単層内への脂質アンカーの取り込みによってHPPSナノ粒子表面上にディスプレイされる。本発明はまた、HPPSナノ粒子を含む薬学的配合物およびHPPSナノ粒子を作製する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌および他の疾患の検出および治療のための活性剤のターゲティング化送達を可能にする、ペプチドを安定化させる極小ナノ粒子に基づく薬剤送達系に関する。活性剤は、ナノプラットフォームのコアまたは表面に位置してもよく、一方、細胞表面受容体リガンドは、ナノプラットフォームの表面に付着している。
【背景技術】
【0002】
ナノプラットフォーム
ナノプラットフォームは、多機能診断および療法デバイスの多様なセットを生成する一般的なプラットフォームとして設計されたナノスケール構造である。こうしたナノスケールデバイスは、典型的には、100nmより小さい寸法を有し、そしてしたがってそのサイズは他の生物学的実体に匹敵する。これらはヒト細胞(ヒト細胞は直径10,000〜20,000nmである)および細胞小器官より小さく、そしてそのサイズは酵素および受容体などの大きな生物学的巨大分子と類似である。ヘモグロビンは、例えば、直径およそ5nmであり、一方、細胞を取り巻く脂質二重層は約6nm厚である。50nmより小さいナノスケールデバイスは、大部分の細胞に容易に進入可能であり、一方、20nmより小さいものは、血管の外に通過可能である(NIH/NCI Cancer Nanotechnology. NIH Publication No 04−5489(2004))。その結果、ナノデバイスは、しばしば、細胞表面上および細胞内の両方の生体分子の振る舞いおよび生化学的特性を改変しない方式で、これらの分子と容易に相互作用可能である。したがって、ナノデバイスは、基本的な生物学的経路およびプロセスを見て、そして操作する、完全にユニークな見晴らしのよい点を提供する。これまでに報告された多機能ナノプラットフォームの大部分は、デンドリマー(球状分枝ポリマー)(Quintana, A.ら Journal of the American Chemical Society. 2003 125(26):7860−5)、ポリマー性(Xu, Η., Aylott, J.W.およびKopelman, R. Analyst. 2002 Nov;127(11):1471−7、Pan, D., Turner, J.L.およびWooley, K.L. Chemical Communications, 2400−2401(2003))およびセラミック(Kasili, P.M., Journal of the American Chemical Society. 2004 126(9):2799−806、Ruoslahti, E. Cancer Cell. 2002;2(2):97−8)ナノ粒子、パーフルオロカーボン・エマルジョン(Anderson, S.A.ら, Magnetic Resonance in Medicine. 2000 Sep;44(3):433−9)ならびに架橋リポソーム(Hood, J.D.ら, Science. 2002;296(5577):2404−7、Li, L.ら, International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics. 2004 15;58(4):1215−27)などの合成ナノ構造で作製されている。
【0003】
これらの合成ナノプラットフォーム設計の中の1つの一般的な懸念は、生体適合性の問題であり、これは短期および長期毒性と緊密に関連する。天然ナノ構造は、この生体適合性問題に対する解決法を提供しうる。しかし、天然存在ナノ構造で作製されるナノプラットフォームは稀である。
【0004】
理想的なナノプラットフォームのいくつかの特徴は以下の通りである:1)均一なサイズ分布(<100nm);2)大きなペイロード;3)高い結合アフィニティのための多価;4)モジュール方式および多官能性を介したプラットフォーム技術;5)安定でそして長い循環時間;ならびに6)生体適合性、生物分解性および非毒性。現存する合成ナノプラットフォームのいくつかはこれらの基準のいくつかを満たすが、これらのナノプラットフォーム設計の中の1つの一般的な懸念は生体適合性の問題であり、これは短期および長期毒性と緊密に関連する。天然ナノ構造は、この生体適合性問題に対する解決法を提供しうる。しかし、天然存在ナノ構造で作製されるナノプラットフォームは稀である。1つの例において、ササゲ(cowpea)モザイクウイルスおよびフロックハウスウイルス由来の空のRNAウイルス莢膜が、潜在的なナノデバイスとして働いた(Raja K. S.ら, Biomacromolecules 2003;4(3):472−6)。60コピーのコートタンパク質が組み立てられて、機能するウイルス莢膜になり、該コートタンパク質が、ホーミング分子、例えばモノクローナル抗体または癌細胞特異的受容体アンタゴニスト、およびレポーター分子、例えば磁気共鳴画像(MRI)造影剤を莢膜表面に付着させ、そして療法剤を莢膜内部に装填するのに使用可能な、広範囲の化学的官能性を提供することが前提である。ヒトの体は植物起源のウイルスには非常に耐性を示すが;不運なことに、これらのナノデバイスに関連する免疫学的影響は望ましくない。
【0005】
別の例では、リポタンパク質ナノプラットフォームを、活性剤のターゲティング化送達に用いる(PCT出願公報第WO 2006/073419号(公開日:2006年7月13日))。
【0006】
ターゲティング化送達
特定の病変の影響は、しばしば、罹患したヒトの体全体に現れるが、一般的に、根底にある病変は、単一の臓器または組織のみに影響しうる。しかし、薬剤または他の治療が、疾患臓器または組織のみをターゲティングすることは稀である。より一般的には、治療は、例えば患者の体全体への全身毒性効果のため、望ましくない副作用を生じる。例えばターゲット臓器または組織と関連する疾患の治療のため、臓器または組織を選択的にターゲティングすることが望ましい。正常な組織に対して、体の癌性組織を選択的にターゲティングすることもまた望ましい。
【0007】
大部分の療法物質は、循環を通じてターゲット臓器または組織に送達される。血管の内部表面を裏打ちする内皮は、ターゲット臓器または組織中を療法物質が循環することによって出会う最初の細胞種である。これらの細胞は、臓器または組織に、療法を選択的に導くためのターゲットを提供する。
【0008】
内皮は、異なる組織において、別個の形態および生化学的マーカーを有しうる。リンパ系の血管は、例えば、リンパ球ホーミングを導くように働く多様な接着タンパク質を発現する。例えば、リンパ節中に存在する内皮細胞は、L−セレクチンに対するリガンドである細胞表面マーカーを発現し、そしてパイエル板細静脈中の内皮細胞は、αβインテグリンに対するリガンドを発現する。これらのリガンドは、それぞれのリンパ臓器への特定のリンパ球ホーミングに関与する。したがって、L−セレクチンまたはαβインテグリンに薬剤を連結すると、これらの分子がかなりの数の他の臓器または組織中に存在する類似のリガンドに結合しない限り、薬剤を、それぞれ、疾患リンパ節またはパイエル板にターゲティングするための手段が提供されうる。リンパ球循環のある観察によって、臓器および組織特異的内皮マーカーが存在することが示唆される。同様に、腫瘍細胞の特定のタイプの、特定の臓器または組織へのホーミングまたは転移によって、臓器および組織特異的マーカーが存在することが示唆される。
【0009】
癌性組織を含む特定の組織へのターゲティング化送達は、非特異的な送達に関連する望ましくない副作用を排除するために必要である。
【0010】
所望の組織を特異的にターゲティングする送達ビヒクルが緊急に必要とされることを認識して、本出願の発明者らは、多用途性であることから多様な適用に有用である、ペプチドを安定化させる極小ナノ粒子に基づくユニークな薬剤送達系を開発した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】PCT出願公報第WO 2006/073419号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】NIH/NCI Cancer Nanotechnology. NZH Publication No 04−5489(2004)
【非特許文献2】Quintana, A.ら Journal of the American Chemical Society. 2003 125(26):7860−5
【非特許文献3】Xu, Η., Aylott, J.W.およびKopelman, R. Analyst. 2002 Nov; 127(11):1471−7
【非特許文献4】Pan, D., Turner, J.L.およびWooley, K.L. Chemical Communications, 2400−2401(2003)
【非特許文献5】Kasili, P.M., Journal of the American Chemical Society. 2004 126(9):2799−806
【非特許文献6】Ruoslahti, E. Cancer Cell. 2002;2(2):97−8
【非特許文献7】Anderson, S.A.ら, Magnetic Resonance in Medicine. 2000 Sep;44(3):433−9
【非特許文献8】Hood, J.D.ら, Science. 2002;296(5577):2404−7
【非特許文献9】Li, L.ら, International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics. 2004 15;58(4):1215−27
【非特許文献10】Raja K. S.ら, Biomacromolecules 2003; 4(3):472−6
【発明の概要】
【0013】
1つの側面にしたがって、少なくとも1つのリン脂質、少なくとも1つの不飽和脂質(好ましくは不飽和ステロールエステル、さらに好ましくは不飽和コレステロールエステル、さらに好ましくはオレイン酸コレステリル)、および少なくとも1つの両親媒性αらせんを形成可能なアミノ酸配列を含む、少なくとも1つのペプチドを含み;前述の構成要素が会合して、ペプチド−リン脂質ナノ足場(nano scaffold)を形成する、非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を提供する。特定の態様において、ペプチドは、クラスA、H、LおよびM両親媒性αらせん、その断片、ならびにクラスA、H、LおよびM両親媒性αらせんまたはその断片の逆ペプチド配列を含むペプチドからなる群より選択される。
【0014】
好ましくは、ペプチド−脂質ナノ足場は、少なくとも1つのホーミング分子をさらに含む。1つの側面において、ホーミング分子は、少なくとも1つのペプチドに(好ましくは、アミノ酸、特にリジンで、あるいは両親媒性αらせんの親水性面および疎水性面の間の移行部分またはその近傍のアミノ酸で)および少なくとも1つの脂質の1つに、共有結合していてもよい。別の側面において、ペプチド−脂質ナノ足場は、少なくとも1つの活性剤を含む。
【0015】
1つの側面において、少なくとも1つのホーミング分子は、少なくとも1つの活性細胞表面受容体リガンドである。
【0016】
さらなる側面にしたがって、本明細書に記載する非天然存在ペプチド−脂質を含む薬学的配合物を提供する。
【0017】
さらなる側面にしたがって、本明細書に記載する非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を作製する方法であって、ペプチド−脂質ナノ足場を形成するのに適した条件下で、その構成要素を合わせる工程を含む、前記方法を提供する。
【0018】
さらなる側面にしたがって、少なくとも1つのリン脂質、少なくとも1つの不飽和ステロールエステル(好ましくは不飽和コレステロールエステル、さらに好ましくはオレイン酸コレステリル)、少なくとも1つのペプチド、少なくとも1つのホーミング分子、および二本鎖RNAを含む少なくとも1つの活性剤を含み;活性細胞表面受容体リガンドが、少なくとも1つのペプチドに共有結合し、そして前述の構成要素が会合してペプチド−リン脂質ナノ足場を形成する、非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を提供する。1つの側面において、二本鎖RNAはsiRNAである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ペプチドを安定化させる極小ナノ粒子に基づく本発明の薬剤送達系の態様の概略図。
【図2】診断および/または療法的適用のため、HPPSナノ粒子内に取り込まれるために用いられる化合物。
【図3】EGFp−(DiR−BOA)−HPPS(1型EGFRターゲティング化HPPS)の調製のための合成プロトコル。
【図4】(DiR−BOA)HPPS(2型EGFRターゲティング化HPPS)の調製のための合成プロトコル。
【図5】非ターゲティング化DiR−BOA装填HPPSのFPLC、DLSおよびCD。
【図6】EGFp(DIR−BOA)−HPPSのFPLCプロフィールおよびTEM。
【図7】HPPSサイズに対するDiR−BOA装填の影響。A:調製#1および#2のFPLCプロフィール; B: FPLCから収集された分画。C: HPPSサイズおよびカーゴ・ペイロードの間の相関(R=0.91)。
【図8】4Fおよび−4Fで形成される(DiR−BOA)HPPSの(a)FPLCプロフィールおよび(b)TEM。
【図9】EGFp(DiR−BOA)−HPPSの共焦点画像化研究。
【図10】フローサイトメトリーによるEGFp(DiR−BOA)−HPPSの時間依存性取り込み。
【図11】EGFp(DiR−BOA)HPPSの阻害研究。
【図12】EGFp(DiR−BOA)−HPPSのin vivo画像化研究。
【図13】フローサイトメトリーによるA549対H520細胞におけるEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの時間依存性取り込み。
【図14】異なるレベルのEGFR発現を伴う細胞株における、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの時間依存性取り込みのフローサイトメトリー研究。
【図15】EGFpによるEGFp(DiR−BOA)HPPSおよびEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの取り込み阻害のフローサイトメトリー研究。
【図16】MTTおよびフローサイトメトリーによって研究したEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの予備的毒性研究。a)HPPS対照(すべての先のin vitro研究で用いられる標準的用量)の6倍であっても毒性がないことを示す、MTTアッセイによる細胞生存度;b)HPPS対照の6倍で毒性がないことを示す、フローサイトメトリーによって研究された細胞生存度;c)HPPS対照(標準的用量)の2倍で取り込み飽和を示す、フローサイトメトリーによって研究されたHPPS細胞取り込み。
【図17】EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPS(i.v.)でのMT1腫瘍異種移植片のin vivo画像化。矢印は腫瘍を示す。
【図18】EGFRターゲティング特異性を立証する、ヒト肺原発性腫瘍異種移植片を持つマウスにおける、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのin vivo画像化。
【図19】KB(葉酸受容体陽性)およびHT1080(葉酸受容体陰性)癌細胞における、葉酸受容体ターゲティング化HPPSを用いた共焦点画像化研究。注:緑色はDiR−BOA蛍光由来であり、そして青色はDAPI核染色由来である。
【図20】多構成要素蛍光標識。HPPS粒子の各構成要素(ペプチド、リン脂質、コア・カーゴ)を、詳細な粒子性質決定および粒子分解の評価のため、蛍光標識でタグ化してもよい。
【図21】(a)ldlA(mSR−B1)およびLdLA7細胞のSR−B1受容体含量のウェスタンブロット分析。 (b)SR−B1受容体の(DiR−BOA)HPPSの特異性。共焦点画像は、SR−B1陽性細胞(ldlA(mSR−B1))においては(DiR−BOA)HPPSの強い取り込みがあるが、SR−B1陰性細胞(LDLA7)にはないことを示す。さらに、過剰なHDLは、ldlA(mSR−B1)細胞において(DiR−BOA)HPPSを効果的に阻害するが、LDLA7における取り込みには影響がない。
【図22】FITC−脂質(DiR−BOA)HPPSおよびFITC−(−4F)(DiR−BOA)HPPSおよびldlA(mSR−B1)細胞を用いた共焦点画像化研究。
【図23】FITC−(−4F)(DiR−BOA)HPPSおよびldlA(mSR−B1)細胞を用いた共焦点画像化研究。
【図24】フローサイトメトリー研究を用いて、SR−B1およびSR−B1細胞株における(DiR−BOA)HPPS取り込みを評価した。
【図25】フローサイトメトリー研究を用いて、SR−B1細胞株における(DiR−BOA)HPPSの濃度依存性取り込みを評価した。
【図26】フローサイトメトリー研究を用いて、SR−B1細胞株における(DiR−BOA)HPPS取り込みのHDL濃度依存性阻害を評価した。
【図27】フローサイトメトリー研究を用いて、SR−B1およびSR−B1細胞株における(DiR−BOA)HPPSの示差取り込み、ならびにSR−B1細胞株におけるHDLによる(DiR−BOA)HPPS取り込みの阻害を評価した。
【図28】フローサイトメトリーを用いて、ldlA(mSR−B1)細胞による、(−4F)(DiR−BOA)HPPS対(4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みを評価した。
【図29】ヒトKB(SR−BI)腫瘍異種移植片を所持するヌードマウスに対して、in vivo画像化を実行して、−4F(DiR−BOA)HPPSの局在を研究した。
【図30】(a)共焦点研究を実行して、A549およびH520細胞における、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSおよび(−4F)(DiR−BOA)HPPSの示差取り込みを評価した。 (b)A549およびH520細胞の表面受容体プロフィールのウェスタンブロット分析。
【図31】フローサイトメトリーを用いて、H520、A549およびEGFR−GFP−A549細胞による(DiR−BOA)HPPSおよびEGF(DiR−BOA)HPPS(1.0μM)の取り込みを評価した。
【図32】EGFR−緑色蛍光タンパク質(GFP)の融合遺伝子でトランスフェクションしたLDLA7細胞において、EGF−HPPS研究を行った。この実験は、EGF−HPPSの細胞取り込みにSR−B1が行いうるいかなる寄与も除去する。(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSと3時間インキュベーションした後、EGFR−GFP−LDLA7細胞は、サイトゾル内にDiR−BOAの強いシグナルを示し、EGFRを通じたEGF−HPPSの貪欲な取り込みが示された。EGFRのGFPシグナルは、外部形質膜上で視覚化された。
【図33】共焦点研究を実行して、EGFR−GFP−LDLA7細胞における、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みに対するHDLの影響を評価した。
【図34】EGF(DiR−BOA)HPPSとインキュベーションしたEGFR−GFP−A549およびH520細胞の共焦点画像化。
【図35】共焦点研究を行って、A549およびH520細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みに対するHDLの影響を評価した。
【図36】二重腫瘍(A549およびH520)を所持するヌードマウスに対して、in vivo画像化を行って、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのターゲティング能を決定した。
【図37】(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのin vivo検証。in vivo画像化(A)および生体分布(B)によって、HPPSの改善された送達特異性および有効性が示される。C)HPPSは、HDLの長い循環時間(t1/2〜14時間)にマッチする。D)腫瘍組織におけるHPPS蛍光シグナル(DiRBOA)の集積は、腫瘍細胞蛍光(赤色蛍光タンパク質でトランスフェクションされる)とマッチする。
【図38】KB腫瘍およびH520腫瘍における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの細胞性取り込み。白色バーは組織mgあたりの蛍光単位を示し、そして黒色バーは百万細胞あたりの蛍光単位を示す。データは、2匹の腫瘍所持マウスからの平均を反映する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の態様を示す。具体的には、図1は、癌および他の疾患の検出および治療のための活性剤のターゲティング化送達を可能にする、ペプチドを安定化させる極小ナノ粒子に基づく、「HPPS」(高密度リポタンパク質様ペプチド−リン脂質足場)と呼ばれる薬剤送達系を例示する。HPPSナノ粒子は、3つの構成要素:1)極小ナノキャリア(5〜25nm)を形成する特異的両親媒性サイズ制御ペプチド(scPep)およびリン脂質、2)ナノキャリア上のscPepに直接コンジュゲート化され、ナノキャリアの表面リン脂質にコンジュゲート化されていてもよい、疾患特異的ターゲティングリガンド、あるいはscPepまたはリン脂質にコンジュゲート化されることなく、ナノキャリア内に取り込まれていてもよい、タンパク質またはその断片などの疾患特異的ターゲティングリガンド(図1には示されていない)、および3)ナノキャリアコア内に装填されるか、またはナノキャリア表面上にディスプレイされるようにナノキャリア内に取り込まれている、診断剤または療法剤を含む。好ましい球状ナノ粒子を形成するため、不飽和ステロールエステルもまたこれらと組み合わせる。ペプチド表面上に曝露された、Lys残基などのコンジュゲート化可能アミノ酸に、腫瘍ホーミング分子(例えば葉酸)などの特定のターゲティングリガンドをコンジュゲート化することによって、多様なターゲティングを達成可能である。したがって、HPPSナノ粒子は、癌および/または特定の組織の所望の細胞表面マーカー、すなわち癌細胞または組織の多様なタイプで選択的に過剰発現されている分子に向けられる。特定の態様において、HPPSナノ粒子は、限定されるわけではないが、診断剤、画像化剤および/または療法剤を含む活性剤のターゲティング化送達を提供する。
【0021】
こうした剤には、限定されるわけではないが、磁気共鳴画像化(MRI)剤、近赤外蛍光(NIRF)プローブおよび光線力学療法(PDT)剤が含まれる。
【0022】
特定の態様において、HPPS脂質コア内部のコレステロールエステルは、親油性剤と交換される。さらなる態様において、活性剤は、本発明のHPPSナノ粒子の表面に付着される。
【0023】
したがって、ターゲット細胞中のMRI/NIRFプローブの集積は、MRI/NIRF検出可能シグナルの増幅のための容易な機構を提供し、そしてMRI(高解像度/解剖学的)およびNIRF(高感度)の両方の力を組み合わせる機会を提供する一方、これらの経路を介した、腫瘍へのPDT剤の選択的送達もまた、検出および治療の間の容易な移行を提供する。最後に、HPPSナノ粒子は、免疫原性であるとは予期されず、そして細網内皮系による認識を回避するはずであり、したがってHPPSプラットフォームは、大部分の合成ナノデバイスに関連する一般的な問題、すなわち生体適合性および毒性に対する解決策を提供する。
【0024】
用語「ナノ粒子」、「ナノプラットフォーム」および「ナノ足場」は、本明細書において、交換可能に用いられる。
【0025】
本発明は、ホスファチジルコリン(例えばDMPC(好ましくは1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン)、POPC(1−パルミトイル−1−オレオイル−ホスファチジルコリン)およびEYPC(卵黄ホスファチジルコリン))、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジル−エタノールアミン、ホスファチジルセリン、およびホスファチジルイノシトールなどの脂質を含むHPPSナノ粒子を提供する。
【0026】
天然存在リポタンパク質粒子は、各々、特徴的なアポタンパク質、ならびにある割合のタンパク質、トリアシルグリセロール、リン脂質およびコレステロールを有する。VLDL粒子は、約10%のタンパク質、約60%のトリアシルグリセロール、約18%のリン脂質および約15%のコレステロールを含有してもよい。LDL粒子は、約25%のタンパク質、約10%のトリアシルグリセロール、約22%のリン脂質および約45%のコレステロールを含有してもよい。HDL粒子は、約50%のタンパク質、約3%のトリアシルグリセロール、約30%のリン脂質および約18%のコレステロールを含有してもよい。同様に、本発明のHPPSナノ粒子は、異なる割合の上記構成要素を含有する。HPPSナノ粒子はまた、1以上のトリアシルグリセロールも含有してもよい。HPPSナノ粒子は、さらに、ステロール、ステロールエステル、またはその組み合わせを含有してもよい。他の態様において、ステロールまたはステロールエステルは、コレステロール、オレイン酸コレステロールおよび不飽和コレステロールエステルからなる群より選択される。
【0027】
特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、癌細胞において過剰発現される受容体をターゲティングする、細胞表面受容体リガンドを含有する。他の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、心臓血管斑において過剰発現される受容体に対するリガンドである細胞表面受容体リガンドを含有する。
【0028】
さらなる態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、特定の組織上の受容体をターゲティングする細胞表面受容体リガンドを含有する。
【0029】
特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、HPPSナノ粒子のコア中の親油性化合物を含有する。
【0030】
特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、HPPSナノ粒子の表面上に(部分的に)位置する親油性および親水性構成要素を含む分子である活性剤を含有する。
【0031】
特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、診断剤、画像化剤または療法剤である活性剤を含有する。好ましくは、画像化剤または診断剤は、造影剤、放射性標識および/または蛍光標識である。
【0032】
特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は抗癌剤を含有する。こうした活性剤は、化学療法剤、光線力学的療法剤、ホウ素中性子捕獲療法剤または放射線療法用の放射性核種であってもよい。態様において、抗癌剤は、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、アロマターゼ阻害剤、ビスホスホネート、シクロ−オキシゲナーゼ阻害剤、エストロゲン受容体調節剤、葉酸アンタゴニスト、無機ヒ酸塩、微小管阻害剤、修飾剤、ニトロソ尿素、ヌクレオシド類似体、破骨細胞阻害剤、白金含有化合物、レチノイド、トポイソメラーゼ1阻害剤、キナーゼ阻害剤(例えば限定されるわけではないが、チロシンキナーゼ阻害剤)、抗血管形成剤、上皮増殖因子阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤からなる群より選択される。
【0033】
さらなる態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、抗緑内障薬剤、抗血餅剤、抗炎症薬剤、抗喘息剤、抗生物質、抗真菌または抗ウイルス薬剤からなる群より選択される療法剤を含有する。
【0034】
さらなる態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、限定されるわけではないが、鎮痛剤、麻酔剤、抗狭心症剤、抗関節炎剤、抗不整脈剤、抗喘息剤、抗細菌剤、抗BPH剤、抗癌剤、抗コリン剤、抗凝固剤、抗痙攣剤、抗鬱剤、抗糖尿病剤、止痢剤、抗癲癇剤、抗真菌剤、抗痛風剤、抗蠕虫剤、抗ヒスタミン剤、抗高血圧剤、抗炎症剤、抗マラリア剤、抗偏頭痛剤、抗ムスカリン剤、制嘔吐剤、抗新生物剤、抗肥満剤、抗骨粗鬆剤、抗パーキンソン病剤、抗原生動物剤、抗掻痒剤、抗精神病剤、解熱剤、鎮痙剤、抗甲状腺剤、抗結核剤、鎮咳剤、抗潰瘍剤、抗尿失禁剤、抗ウイルス剤、抗不安剤、食欲抑制剤、注意欠陥障害(ADD)および注意欠陥多動性障害(ADHD)薬剤、カルシウムチャネルブロッカー、心臓変力剤、ベータ−ブロッカー、細胞接着阻害剤、中枢神経系刺激剤、認知増進剤、コルチコステロイド、COX−2阻害剤、サイトカイン受容体活性調節剤、鬱血除去剤、利尿剤、勃起不全改善剤、必須脂肪酸、胃腸剤、遺伝物質、ヒスタミン受容体アンタゴニスト、抗ホルモン剤(hormonolytics)、催眠剤、血糖降下剤、免疫抑制剤、角質溶解剤、ロイコトリエン阻害剤、脂質制御剤、マクロライド、有糸分裂阻害剤、筋弛緩剤、麻薬アンタゴニスト、神経遮断剤、ニコチン、硝酸塩、非必須脂肪酸、非ステロイド抗喘息剤、栄養油、オピオイド鎮痛剤、副交感神経遮断剤、鎮静剤、性ホルモン、刺激剤、交感神経模倣剤、精神安定剤、血管拡張剤、ビタミン、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される療法剤を含有する。
【0035】
本発明はまた、本発明のHPPSナノ粒子を含む薬学的配合物も提供する。
【0036】
本発明はさらに、HPPSナノ粒子を作製する方法を提供する。
【0037】
リポタンパク質粒子
リポタンパク質粒子は、天然存在ナノ構造の一種である。コレステロールおよびトリアシルグリセロールは、リポタンパク質粒子の形で、体液中で、輸送される。各粒子は、さらなる極性脂質およびタンパク質のシェルによって囲まれた、疎水性脂質のコアからなる。これらの巨大分子凝集物のタンパク質構成要素は、2つの役割を有する:これらは疎水性脂質を可溶化し、そして細胞ターゲティングシグナルを含有する。リポタンパク質粒子は、密度増加にしたがって分類される:カイロミクロン、カイロミクロンレムナント、極低密度リポタンパク質(VLDL)、中間密度リポタンパク質(IDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、および高密度リポタンパク質(HDL)(表1を参照されたい)。したがって、これらは各々、サイズが異なり、そしてこれらの大部分は、カイロミクロンおよびカイロミクロンレムナントを例外として、ナノ構造(<100nm)を有する。
【0038】
表1.リポタンパク質のサイズおよびクラス
【0039】
【表1】

【0040】
低密度リポタンパク質(LDL)粒子
LDLは、ヒト血漿中のコレステロールの主なキャリアであり、そしてLDLR(低密度リポタンパク質受容体)を介したエンドサイトーシスによって、外因性コレステロールを細胞に送達する。LDL粒子は、典型的には〜22nmの直径を持つ天然存在ナノ構造である。該粒子は、約1500のエステル化コレステロール分子およびトリグリセリドの脂質コアを含有する。リン脂質および非エステル化コレステロールのシェルがこの非常に疎水性のコアを取り巻く。シェルはまた、LDLRによって認識されるアポB−100(分子量550kDa)の単一コピーも含有する。
【0041】
高密度リポタンパク質(HDL)粒子
血漿HDLは、小さな球状の高密度リポタンパク質複合体であり、およそ半分が脂質であり、そして半分がタンパク質である。脂質構成要素は、リン脂質、遊離コレステロール、コレステリルエステル、およびトリグリセリドからなる。タンパク質構成要素には、アポA−I(分子量、28,000ダルトン)およびアポA−II(分子量17,000ダルトン)が含まれる。他の少ないが重要なタンパク質は、アポE、ならびにアポC−I、アポC−II、およびアポC−IIIを含む、アポCである。
【0042】
HDL粒子は不均質である。これらは、より大きくより低密度のHDL2またはより小さいより高密度のHDL3と分類可能である。通常、血漿HDLの大部分はHDL3に見られる。HDLは、粒子あたり4つのアポリポタンパク質で構成される。HDLは、アポA−IおよびアポA−IIの両方で、またはアポA−Iのみで構成されてもよい。HDL2は主にアポA−Iのみであり、そしてHDL3はアポA−IおよびアポA−IIの両方で作製される。HDL2より低密度のHDL粒子にはアポEが豊富である。
【0043】
HPPSナノ粒子
したがって、本発明は、多様な異なるペプチド足場から作製可能な、異なるサイズの一連のナノプラットフォームを提供する。HPPSナノ粒子の産生に適したペプチド構成要素を以下に記載する。
【0044】
HPPSナノ粒子は、多様な受容体にターゲティング化可能である。さらに、特定の態様において、HPPS疎水性コアおよびリン脂質単層の両方を修飾して、診断剤および/または療法剤の多量のペイロードを運搬させて、非常に優れた多機能ナノプラットフォームとすることも可能である。特定の態様において、本発明のHPPSナノ粒子は、1以上のホーミング分子を含有する。HPPSナノ粒子はまた、1以上の活性剤のペイロードを運搬してもよい。HPPSナノ粒子はまた、細胞死センサーも含有してもよく、したがってこうしたHPPSナノ粒子は、診断、治療ならびに療法応答監視機能を同時に実行可能である。
【0045】
本発明は、以下に記載するような特定の特性を有する、ペプチドに基づく非天然存在ナノプラットフォームを提供する。用語「非天然存在」は、ヒト体内に生得的には存在しないナノプラットフォームを指す。こうした非天然存在HPPSナノ粒子は、天然存在リポタンパク質粒子の1以上の構成要素を含有してもよい。例えば、天然存在LDLおよびHDL粒子のコア中に存在するコレステロールエステルを、活性剤と交換してもよい。同様に、天然存在リポタンパク質粒子中で見られるようなコアは、損なわれていない(intact)ままでもよく、活性剤をHPPSナノ粒子表面に付着させる。
【0046】
いくつかの態様において、ターゲティング化送達にHPPSナノ粒子を用いるといくつかの別個の利点がある。いくつかの態様において、本発明のHPPSナノ粒子の1つの利点は、これらが宿主免疫系と完全に適合すると予期され、そしてこれらがまた生体分解性であることである。これらはまた、受容体が仲介するエンドサイトーシスを利用する、ターゲット細胞への多量の診断剤または療法剤の集積のためのリサイクリング系も提供する。本発明のHPPSナノ粒子は、免疫原性であるとは予期されず、そして細網内皮系(RES)による認識を回避するはずである。
【0047】
他の利点には:1)本発明のHPPSナノ粒子は、理想的なサイズ範囲を有する点で、生理学的キャリアーに対して類似点を所持し、このサイズは、腎クリアランスを回避するのに十分に大きいが、細網内皮系(RES)取り込みを軽減するのに十分に小さく、したがって、薬剤/プローブの血清半減期は、これらのナノ粒子内への取り込みによって延長されうる;2)脂質コア空間における薬剤/プローブ隔絶は、血清酵素および水からの保護を提供する;3)HPPSナノ粒子のアレイが入手可能であることから、5nm〜80nmのサイズ範囲の一連のナノプラットフォームが提供される。
【0048】
好ましくは、本発明の非天然存在HPPSナノ粒子は、(増加する好ましさで)直径5nm〜50nm、直径5nm〜40nm、直径5nm〜30nm、直径5nm〜25nm、直径5nm〜20nm、および直径10nm〜15nmである。
【0049】
HPPSナノ粒子の出発物質はまた、例えば粒子の外層上にある、少なくとも1つの脂質も含有する。本発明のHPPSナノ粒子で有用な脂質には、限定されるわけではないが、両親媒性脂質が含まれる。本発明で有用なリン脂質には、限定されるわけではないが、ホスファチジルコリン(好ましくはDMPC(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、POPC(1−パルミトイル−1−オレオイル−ホスファチジルコリン)およびEYPC(卵黄ホスファチジルコリン))、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールおよび前述のものの組み合わせが含まれる。
【0050】
足場ペプチド
HPPSナノ粒子を形成する際に使用するのに適した足場ペプチドは、少なくとも1つの両親媒性αらせんを形成可能なアミノ酸配列を含む。
【0051】
好ましい態様において、両親媒性αらせんまたはペプチドは、(増加する好ましさで)6〜30アミノ酸、8〜28アミノ酸、10〜24アミノ酸、11〜22アミノ酸、4〜21アミノ酸、16〜20アミノ酸および18アミノ酸の範囲の長さである。
【0052】
推定上の両親媒性らせん構造を持つタンパク質ドメインを検出し、そして性質決定するための方法が、その内容が本明細書に援用される、Segrest, J. P.ら PROTEINS: Structure, Function, and Genetics(1990) 8:103−117中に示される。Segrestらは7つの異なるクラスの両親媒性らせんを同定し、そして各クラスと関連するペプチド/タンパク質を同定した。7つの異なるクラスの内、4つの脂質会合両親媒性らせんクラス(A、H、L、およびM)がある。これらのうち、クラスAはアポリポタンパク質クラスと称され、リン脂質に基づく粒子を形成するのに最適な特性を所持する。
【0053】
クラスA、H、LおよびM αらせんまたはその断片からなる群より、適切な足場ペプチドを選択してもよい。適切な足場ペプチドはまた、クラスA、H、LおよびM両親媒性αらせんまたはその断片の逆ペプチド配列も含んでもよく、これは、両親媒性αらせんを形成する特性が、ペプチド配列内のアミノ酸残基の相対的な位置によって決定されるためである。
【0054】
1つの態様において、足場ペプチドは、好ましくはアポB−100、アポB−48、アポC、アポEおよびアポAからなる群より選択されるアポタンパク質の連続アミノ酸を含む、アミノ酸配列を有する。
【0055】
本発明で用いられる「アミノ酸」、ならびに明細書および請求項で用いられるようなこの用語には、一般的な三文字略語および一文字略語によって称される、既知の天然存在タンパク質アミノ酸が含まれる。一般的には、11〜24ページに示される本文および表を含めて、本明細書にその解説が援用される、Synthetic Peptides: A User’s Guide, G A Grant監修, W.H. Freeman & Co., New York, 1992を参照されたい。上述のように、用語「アミノ酸」にはまた、天然存在タンパク質アミノ酸の立体異性体および修飾、非タンパク質アミノ酸、翻訳後修飾アミノ酸、酵素的に合成されたアミノ酸、誘導体化アミノ酸、アミノ酸を模倣するように設計された構築物または構造等も含まれる。修飾されたおよび普通でないアミノ酸は、そのすべての解説が本明細書に援用される、上記に引用するSynthetic Peptides: A User’s Guide; Hruby V J, Al−obeidi FおよびKazmierski W: Biochem J 268:249−262,1990;ならびにToniolo C: Int J Peptide Protein Res 35:287−300,1990に一般的に記載される。
【0056】
「アルファらせん」は、本明細書において、タンパク質の二次構造中の一般的なモチーフを指す。アルファらせん(αらせん)は、コイルを巻いた、バネに似たコンホメーションであり、この中で、すべての主鎖N−H基は、4残基前のアミノ酸の主鎖C=O基に水素結合を与える。典型的には、天然存在アミノ酸から作製されるアルファらせんは右巻きであるが、左巻きコンホメーションもまた知られる。
【0057】
「両親媒性」は、親水性および疎水性特性の両方を所持する化学的化合物を記述する用語である。両親媒性アルファらせんは、生物学的活性ペプチドおよびタンパク質にしばしば見られる二次構造モチーフであり、そしてらせんの長軸に沿って配向される、向かい合った極性面および非極性面を含むアルファらせんを指す。
【0058】
アポA〜Iの脂質結合特性の多くを所持する小さい両親媒性らせんペプチドの例には、2つのフェニルアラニンアミノ酸残基を含む18アミノ酸ペプチド配列である2Fが含まれる(D−W−L−K−A−F−Y−D−K−V−A−E−K−L−K−E−A−F)(Ananthaaramaiahら JBC. 1985; 260:10248−10255)。各研究は、この配列が強い脂質会合を示し、そして安定な円盤状のリン脂質粒子を形成可能であることを示した。続いて、2つのさらなるF残基を取り込むと(全部で4F; D−W−F−K−A−F−Y−D−K−V−A−E−K−F−K−E−A−F)、ペプチドの脂質会合特性がさらに増進することを示す実験が行われた(Ananthaaramaiahら Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2005; 25:1325−1331)。
【0059】
ホーミング分子
本明細書において、用語「ホーミングする」または「選択的にホーミングする」は、特定の分子が、被験体への投与後、特定の臓器または組織中に存在する分子に、比較的特異的に結合することを意味する。一般的に、選択的ホーミングは、部分的に、対照臓器または組織と比較した際、臓器または組織への分子の少なくとも2倍大きい選択的結合が検出されることによって特徴付けられる。特定の態様において、選択的結合は、対照臓器または組織に比較した際、少なくとも3倍または4倍大きい。
【0060】
腫瘍ホーミング分子の場合、こうした分子は、特定の癌組織中に選択的に過剰発現される受容体に結合する。過剰発現によって、正常な組織に比較して腫瘍組織において、少なくとも1.5倍高発現であることを意味する。態様において、発現は、非腫瘍に比較した際、腫瘍において少なくとも5倍高い。
【0061】
本発明の態様において、ホーミング分子は、本発明のHPPSナノ粒子のペプチドに付着し、これが特定の組織および腫瘍をターゲティングする。「ホーミング分子」は、本発明の組成物とともにin vitroまたはin vivoで組織および/または受容体のターゲティングを促進可能な任意の材料または物質を指す。ターゲティング部分は、合成、半合成、または天然存在であってもよい。ターゲティング部分は、タンパク質、ペプチド、オリゴヌクレオチド、または他の有機分子であってもよい。1つの態様において、ターゲティング部分は、細胞表面受容体に対する内因性リガンド(またはその部分)であってもよい。ターゲティング部分は、抗体であってもよい(この用語は、結合領域または超可変領域を保持する抗体断片および一本鎖抗体を含む)。ターゲティング部分として働きうる材料または物質には、限定されるわけではないが、表2に列挙される物質が含まれる:
表2
【0062】
【表2−1】

【0063】
【表2−2】

【0064】
【表2−3】

【0065】
腫瘍ホーミング分子
腫瘍ホーミング分子は、同じタイプの正常組織に対して腫瘍組織に選択的に結合する。こうした分子は一般に、腫瘍組織において過剰発現される細胞表面受容体のリガンドである。正常組織に対して癌組織で過剰発現される細胞表面受容体には、限定されるわけではないが、組織非形成性甲状腺癌、結腸直腸癌、頭部および頸部の癌、卵巣癌、腎細胞癌、ならびに乳房および肺腫瘍で過剰発現される上皮増殖因子受容体(EGFR)、乳頭状甲状腺癌で過剰発現されるメタスチン、乳癌のかなりのサブセットで過剰発現されるErbBファミリー受容体チロシンキナーゼ、乳癌で過剰発現されるヒト上皮増殖因子受容体−2(Her2/neu)、肉腫様腎癌で過剰発現されるチロシンキナーゼ受容体(c−Kit)、食道腺癌で過剰発現されるHGF受容体c−Met、乳癌で過剰発現されるCXCR4およびCCR7、前立腺癌で過剰発現されるエンドセリン−A受容体、大部分の結腸直腸癌腫瘍で過剰発現されるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体デルタ(PPAR−デルタ)、卵巣癌で過剰発現されるPDGFR A、多様な肺癌で過剰発現されるBAG−1、膵臓癌で過剰発現される可溶性II型TGFベータ受容体、葉酸、ならびにインテグリン(例えばαvβ)が含まれる。
【0066】
葉酸受容体は、ビタミン、葉酸に高アフィニティを持つ、グリコシルホスファチジルイノシトール係留糖タンパク質である(Kd〜10−9M)(Leamon, C.P.ら, Biochemical Journal. 1993 May 1; 291(Pt. 3):855−60)。葉酸受容体は、卵巣、結腸直腸、および乳癌などの上皮悪性腫瘍上の正常組織に比較して、上昇したレベルで発現される腫瘍マーカーと同定されてきている(Wang, S.ら, Journal of Controlled Release. 1998 Apr 30;53(l−3):39−48)。葉酸がそのg−カルボキシル部分を介して単一分子または分子の集まりのいずれかに共有結合している場合、細胞表面受容体へのアフィニティは、本質的に改変されないことが示されてきている。エンドサイトーシスおよび小胞輸送後、多くの物質は細胞質内に放出される。次いで、非連結型葉酸受容体は細胞表面にリサイクルされ;こうした各葉酸受容体は、多くの葉酸コンジュゲートを細胞内に持ち込みうる。
【0067】
臓器または組織ホーミング分子
本発明は、肺、皮膚、血液、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓、乳房、消化器系または腎組織を含む、多様な臓器または組織に選択的にホーミングする分子の使用を提供する。例えば、本発明は、ペプチドCGFECVRQCPERCおよびCGFELETCを含む、GFEモチーフを含有するものなどの肺ホーミングペプチド; CVALCREACGEGCなどの皮膚ホーミングペプチド;ペプチドSWCEPGWCRなどの膵臓ホーミングペプチド;ならびに、ペプチドCSCFRDVCCおよびCRDVVSVICを含む、RDVモチーフを含有するものなどの網膜ホーミングペプチドの使用を提供する。
【0068】
本発明はまた、本発明の臓器ホーミング分子を用いて、病変を有するかまたは有すると推測される被験体の選択される臓器または組織にホーミングする分子を含むHPPSを投与することによって、肺、皮膚、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓または腸の病変を診断するかまたは治療する方法も提供する。例えば、肺、皮膚、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓または腸の病変は、療法剤に連結された適切な臓器ホーミング分子を含むHPPSナノ粒子を、病変を有する被験体に投与することによって、治療可能である。同様に、検出可能剤に連結された適切な臓器ホーミング分子を含むHPPSナノ粒子を、被験体に投与することによって、選択される臓器または組織を同定するか、あるいは選択される臓器における病変を診断する方法を提供する。
【0069】
本発明のHPPSナノ粒子を、選択される臓器または組織に部分をターゲティングする、臓器および組織ホーミング分子とともに用いてもよい。本発明で使用するホーミング分子には、肺、皮膚、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓または腸を含む多様な正常臓器または組織に、そして肺腫瘍を所持する肺および膵臓腫瘍を所持する膵臓を含めて、腫瘍を所持する臓器に、ホーミングするペプチドが含まれる。例えば、本発明には、各々、3ペプチドGFEモチーフを含有する、ペプチドCGFECVRQCPERCおよびCGFELETC、ならびにペプチドGIGEVEVCを含む肺ホーミングペプチドの使用が含まれる。本発明にはまた、ペプチドCVALCREACGEGCなどの皮膚ホーミングペプチド;ペプチドSWCEPGWCRなどの膵臓ホーミングペプチド、ならびに、各々、3ペプチドRDVモチーフを含有するペプチドCSCFRDVCCおよびCRDVVSVICなどの網膜ホーミングペプチドの使用も含まれる。前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓および腸にホーミングするペプチドの例もまた提供される(以下の表3を参照されたい)。1つの態様において、ホーミング分子は、全長EGFタンパク質(EGF)またはその断片などのEGFR特異的ペプチドであってもよい。
【0070】
便宜上、用語「ペプチド」は、本明細書において、広く、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質およびタンパク質の断片を意味するように用いられ、そして例えば一本鎖ペプチドを含む。本発明で有用な他の分子には、ペプトイド、ペプチド模倣体等が含まれる。本発明の臓器または組織ホーミングペプチドに関して、化学的に修飾されたペプチド、非天然存在アミノ酸を含有するペプチド様分子、ペプトイド等を含むペプチド模倣体は、ペプチド模倣体が由来する臓器ホーミングペプチドの結合活性を有する(例えば、本明細書に援用される、「Burger’s Medicinal Chemistry and Drug Discovery」 第5版, 第1巻〜第3巻(M. E. Wolff監修; Wiley Interscience 1995)を参照されたい)。ペプチド模倣体は、ペプチドに勝る多様な利点を提供し、これには、ペプチド模倣体が、被験体に投与された際、例えば消化管の通過中、安定なままであり、そしてしたがって経口投与に有用である可能性もあることが含まれる。
【0071】
ペプチド模倣体を同定するための方法が当該技術分野に周知であり、そしてこれには、例えば、潜在的なペプチド模倣体のライブラリーを含有するデータベースのスクリーニングが含まれる。例えば、ケンブリッジ構造データベースは、既知の結晶構造を有する300,000を超える化合物のコレクションを含有する(Allenら, Acta Crystallogr. Section B, 35:2331(1979))。この構造保管所は、新規結晶構造が決定されると同時に連続してアップデートされ、そして例えば、臓器または組織ホーミング分子と同じ形状、ならびに臓器または組織ホーミングペプチドによって結合されるターゲット分子への潜在的な幾何学的および化学的相補性を有する化合物に関してスクリーニング可能である。ホーミングペプチド、あるいは臓器または組織ホーミング分子が結合するターゲット分子の結晶構造が入手不能な場合、例えばプログラムCONCORD(Rusinkoら, J. Chem. Inf. Comput. Sci. 29:251(1989))を用いて構造を生成してもよい。別のデータベース、利用可能化学薬品ディレクトリ(Molecular Design Limited, Informations Systems;カリフォルニア州サンリーンドロ)は、商業的に入手可能な約100,000の化合物を含有し、そしてこれを検索して、臓器または組織ホーミング分子の潜在的なペプチド模倣体を同定することもまた可能である。
【0072】
選択される臓器または組織への分子の選択的ホーミングは、該分子による、臓器または組織中の細胞上に存在する細胞表面タンパク質などの特定の細胞ターゲット分子の選択的認識によってもよい。ホーミングの選択性は、分子が1つまたは少数の臓器または組織をホーミングするように、1つまたは少数の異なる細胞種上にのみ発現される特定のターゲット分子に依存する。これに関連して、大部分の異なる細胞種、特に臓器または組織に特有の細胞種が、ユニークなターゲット分子を発現しうる。
【0073】
特定の臓器または組織へのホーミングに有用であると同定されているペプチドモチーフの例には、表3に列挙するものが含まれる。
【0074】
表3
【0075】
【表3−1】

【0076】
【表3−2】

【0077】
本発明には、GFEモチーフを共有するCGFECVRQCPERCおよびCGFELETC; CTLRDRNC;およびCGFELETC中に存在するELEモチーフと類似のEVEモチーフを含有するCIGEVEVCなどの肺ホーミングペプチドの使用が含まれる。
【0078】
好ましくは、本発明はまた、CVALCREACGEGCなどの皮膚ホーミングペプチドも使用してもよい。本発明はさらに、SWCEPGWCRなどの膵臓ホーミングペプチドを含むHPPSナノ粒子を提供する。CSCFRDVCCおよびCRDVVSVICなどの網膜ホーミングペプチドもまた、本発明のHPPSナノ粒子と組み合わせて使用可能である。SMSIARLおよびVSFLEYRなどの前立腺ホーミングペプチドもまた、本発明のHPPSナノ粒子と組み合わせて使用可能である。RVGLVARおよびEVRSRLSなどの卵巣ホーミングペプチドもまた提供する。本発明はまた、LPRモチーフを共有するLMLPRADおよびLPRYLLS、またはモチーフLAGGを共有するR(Y/F)LLAGGおよびRYPLAGGなどの副腎ホーミングペプチドも使用可能である。さらに、AGCSVTVCGなどのリンパ節ホーミングペプチドが、本発明と組み合わせて使用可能である。本発明はまた、YSGKWGKおよびYSGKWGWなどの腸ホーミングペプチドも使用可能である。
【0079】
心臓血管斑ホーミング分子
アテローム性動脈硬化症斑は、CX3CL1などの特定の受容体を過剰発現することが知られる。本発明には、したがって、こうした斑上で過剰発現される受容体のリガンドが含まれる。
【0080】
感染組織ホーミング分子
ウイルス、寄生虫、および/または細菌(例えばHIV、マラリア等)などの多様な感染性病原体に感染した組織は、典型的には、細胞表面マーカー/受容体(例えばタンパク質)を発現する(または過剰発現する)。したがって、本発明のホーミング分子には、こうした感染組織上に発現される前記細胞表面マーカー/受容体のリガンドが含まれる。
【0081】
活性剤
活性剤を修飾し、そしてLDL内にパッケージングする方法が、これに関連してその内容が本明細書に援用される、Krieger, M. Methods Enzymol.(1986)128:608−13に記載される。本発明と組み合わせて同様の方法を使用可能である。
【0082】
親油性化合物
本発明のHPPSナノ粒子を介して、多様な活性剤が送達可能である。態様において、活性剤は、一般的には親油性であるHPPSナノ粒子のコア中に位置付けられる。したがって、親油性化合物は、本発明のHPPSナノ粒子を介して送達可能である。本発明のHPPSナノ粒子を、本質的に親油性である活性剤とともに用いてもよいし、または以下により詳細に論じる化学的修飾によって、親油性にしてもよい。
【0083】
用語「親油性化合物」または「親油性薬剤」は、非イオン化型で、水よりも脂質または脂肪中でより可溶性である化合物または薬剤と定義される。親油性化合物の例には、限定されるわけではないが、アセトアニリド、アニリド、アミノキノリン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、環状ペプチド、ジベンザゼピン、ジギタリスグリコシド、麦角アルカロイド、フラボノイド、イミダゾール、キノリン、マクロライド、ナフタレン、オピエート(またはモルフィナン)、オキサジン、オキサゾール、フェニルアルキルアミン、ピペリジン、ポリ環状芳香族炭化水素、ピロリジン、ピロリジノン、スチルベン、スルホニル尿素、スルホン、トリアゾール、トロパン、およびビンカアルカロイドが含まれる。
【0084】
多様な試験を用いて、親油性を決定してもよい。一般的な試験プロトコルは、オクタノール−水分配係数(POW、KOW)の測定であり、これは、オクタン−1−オールおよび水の間の平衡分布の決定による親油性の評価基準である。親油性薬剤は、好ましくは、オクタノール構成要素に分配される薬剤である。
【0085】
本発明のターゲティング化薬剤送達複合体に取り込まれてもよい薬学的活性親油性薬剤には、癌および緑内障の治療のための薬剤、免疫活性剤、抗新生物剤、抗コリン剤およびコリン作用剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン剤および抗不整脈剤、抗高血圧剤、抗炎症薬剤、抗生物質薬剤、抗真菌薬剤、ステロイド、抗ヒスタミン剤、抗喘息剤、鎮静剤、抗癲癇剤、麻酔剤、催眠剤、抗精神病剤、神経遮断剤、抗鬱剤、抗不安剤、抗痙攣剤、ニューロン遮断剤、麻薬アンタゴニスト、鎮痛剤、抗増殖剤、抗ウイルス薬剤、ホルモン、および栄養剤が含まれる。
【0086】
抗癌薬剤の例には、限定されるわけではないが、パクリタキセル、ドコサヘキサエン酸(DHA)−パクリタキセル・コンジュゲート、シクロホスホラミド、ベツリン酸、およびドキソルビシンが含まれる(例えば、Strelchenokに対する米国特許第6,197,809号を参照されたい)。
【0087】
抗緑内障薬剤の例には、限定されるわけではないが、チモロールに基づくもの、ベタキソロール、アテノロール、レボブノロール(livobunolol)などのβ−ブロッカー、エピネフリン、ジピバリル、オキソノロール、アセタゾラミドに基づくものおよびメタゾラミド(methzolamide)が含まれる。
【0088】
抗炎症薬剤の例には、限定されるわけではないが、コルチゾンおよびデキサメタゾンなどのステロイド性薬剤、ならびにピロキシカム、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、イブプロフェンおよびジクロフェナク酸などの非ステロイド性抗炎症薬剤(NSAID)が含まれる。抗喘息剤には、限定されるわけではないが、プレドニゾロンおよびプレドニゾンが含まれる(米国特許第6,057,347号もまた参照されたい)。
【0089】
抗生物質薬剤の例には、限定されるわけではないが、クロラムフェニコールが含まれる。抗真菌薬剤の例には、限定されるわけではないが、ニスタチン、アンホテリシンB、およびミコナゾールが含まれる。抗ウイルス薬剤の例には、限定されるわけではないが、AcyclovirTM(Glaxo Wellcome、英国)が含まれる。
【0090】
ステロイドの例には、限定されるわけではないが、テストステロン、エストロゲン、およびプロゲステロンが含まれる。抗アレルギー薬剤の例には、限定されるわけではないが、フェニラミド誘導体が含まれる。鎮静剤の例には、限定されるわけではないが、ジアゼパムおよびプロポフォールが含まれる。
【0091】
通常は親油性でない送達すべき化合物を、1以上の親油性分子と融合させるかまたは共有結合させて、両親媒性化合物を生じることによって、こうした化合物を本発明で使用することも可能である。こうした親油性分子は、好ましくは、例えば、シス二重結合によって屈曲しているか、または少なくとも1つの側鎖によって分枝しているかいずれかの、少なくとも1つの炭化水素長鎖(>C10)を含有する。こうした分子には、限定されるわけではないが、オレイン酸コレステロール、オレイン酸塩、ラウリン酸コレステロールまたはフィトールが含まれる。ステロールおよび脂肪酸もまた使用可能である。
【0092】
核酸と陽イオン性脂質を複合体化して、次いで粒子コア内に取り込み可能であるか、または本発明のリン脂質と別の方式で会合可能である、親油性複合体を形成することによって、siRNAなどの核酸、ならびに核酸およびペプチドアプタマーの両方を、「親油性」化合物として送達してもよい。また、以下に記載するように、脂質アンカーへの共有結合を介して、核酸をHPPSナノ粒子内に取り込んでもよい。
【0093】
脂質アンカーを含む剤
親油性であり、そして本発明のHPPSナノ粒子のコア内に装填可能である活性剤に加えて、本発明にはまた、本発明のHPPSの表面上に装填可能な活性剤も含まれる。こうした活性剤は、脂質アンカーを伴って親水性であってもよい。また、本発明のHPPSナノ粒子を修飾して、親油性キレート剤を含むようにしてもよく、こうした親油性キレート剤が周知である。例えば、標準的技術を用いて、親油性キレート剤、DTPA Bis(ステアリルアミン)をHPPSナノ粒子内に取り込んでもよい。同様に、LDLリン脂質単層内に介入することが知られる脂質係留カルボシアニンに基づく光学プローブとして、1,1−ジオクタデシル−3,3,3,3−テトラメチルインドカルボシアニン過塩素酸塩(DiI)を用いてもよく、そして本発明のHPPSナノ粒子中で用いてもよい。
【0094】
同様に、近赤外(「NIR」)蛍光体であるトリカルボシアニン色素などのNIRプローブを修飾して、こうしたプローブが本発明のHPPSナノ粒子に係留されることを可能にする脂質−キレートアンカーを含ませてもよい。任意のこうした脂質−キレートアンカーを用いてもよく、例えば、ラウリン酸コレステリル部分をNIRプローブに付着させて、これらを本発明のHPPSナノ粒子に係留してもよい(Zhengら, Bioorg. & Med. Chem Lett. 12:1485−1488(2002))。
【0095】
上述のように、やはり、コレステロール部分を用いて、siRNA(およびさらにアプタマー)および他の活性剤をHPPSナノ粒子のコア内に係留してもよい。コレステロール・コンジュゲート化siRNAは、in vivoで遺伝子発現をサイレンシングすることも可能であり、そしてこれらのコンジュゲートがLDLおよびHDL粒子に結合することが確立されてきている(Wolfrum, C.ら Nature Biotech, オンラインで2007年9月16日に公開)。活性剤に適したアンカーには、オレイン酸および不飽和コレステロールエステル部分が含まれる。当業者に知られる合成法を用いて、こうしたアンカーを活性剤に共有結合させてもよい。1つの態様において、エステル連結を介して、アンカーを活性剤に共有結合させてもよい。
【0096】
画像化剤/診断剤
1つの態様において、活性剤は、放射性核種または画像化剤などの検出可能な剤であってもよく、これは、選択される臓器または組織の検出または視覚化を可能にする。したがって、本発明は、肺、皮膚、血液、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓または腸ホーミング分子を含むHPPSナノ粒子を提供する。選択される検出可能剤のタイプは、適用に応じるであろう。例えば、被験体におけるin vivoの肺の診断画像化研究のため、被験体に投与した際に、被験体外部から検出可能である剤を含むHPPSナノ粒子に、肺ホーミング分子を連結してもよい。こうした内部臓器または組織、例えば前立腺の検出のため、インジウム−113、インジウム−115またはテクネチウム−99などのガンマ線放出放射性核種を、前立腺ホーミング分子に連結されたHPPSナノ粒子とコンジュゲート化してもよく、そして被験体への投与後、固体シンチレーション検出装置を用いて視覚化可能である。あるいは、被験体の外表面または外表面近くの臓器または組織、例えば網膜に関しては、検眼鏡および適切な光学系を用いて、網膜の内皮構造が視覚化可能であるように、フルオレセイン標識網膜ホーミング分子を用いてもよい。
【0097】
臓器または組織における病理学的病変に選択的にホーミングする分子を本発明のHPPSナノ粒子中で用いて、病変のサイズおよび分布を視覚化可能であるように、適切な検出可能剤を送達してもよい。例えば、臓器または組織ホーミング分子が、正常な臓器または組織にホーミングするが、臓器または組織中の病理学的病変にホーミングしない場合、病理学的病変の存在を、臓器または組織の異常なまたは典型的でない画像、例えば病変領域における検出可能な剤の非存在を同定することによって、検出してもよい。
【0098】
検出可能な剤はまた、in vitroでの検出を容易にする剤であってもよい。例えば、ホーミング分子、および例えば適切な基質が存在する場合、可視シグナルを生じる酵素を含むHPPSナノ粒子は、ホーミング分子が向けられている臓器または組織または細胞の存在を検出可能である。例えば、アルカリホスファターゼまたはルシフェラーゼ等を含んでもよいこうしたHPPSナノ粒子は、免疫組織化学などの方法において有用でありうる。また、こうしたHPPSナノ粒子を用いて、例えばターゲット分子の精製中、試料中で臓器ホーミング分子が結合するターゲット分子の存在を検出してもよい。
【0099】
さらなる診断剤には、造影剤、放射性標識および蛍光標識が含まれる。好ましい造影剤は光学造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、X線造影剤および放射性核種である。
【0100】
療法剤
療法剤は、選択される臓器または組織の部位でその機能を発揮する任意の生物学的に有用な剤、例えば先に言及した活性剤および親油性化合物であってもよい。例えば、療法剤は小さい有機分子であってもよく、該分子は、連結された臓器ホーミング分子によってターゲット細胞に結合した際、その機能を発揮しうる細胞によって内部移行される。療法剤は、選択される臓器または組織において、望ましいように、細胞生存、細胞増殖または細胞死の刺激または阻害に関与するタンパク質をコードする核酸分子であってもよい。例えば、アポトーシスを阻害するBcl−2などのタンパク質をコードする核酸分子は、細胞生存を促進するのに使用可能であり、一方、アポトーシスを刺激するBaxなどのタンパク質をコードする核酸分子は、ターゲット細胞の細胞死を促進するのに使用可能である。
【0101】
細胞死を刺激する特に有用な療法剤はリシンであり、これを本発明の臓器ホーミング分子を含むHPPSに連結すると、過剰増殖障害、例えば癌を治療するのに有用でありうる。本発明の臓器ホーミング分子、および例えばアンピシリンなどの抗生物質またはリバビリンなどの抗ウイルス剤を含むHPPSナノ粒子は、選択される臓器または組織において、細菌またはウイルス感染を治療するのに有用でありうる。
【0102】
療法剤はまた、発現または不全が病変と関連する生物学的分子の産生または活性を阻害するかまたは促進することも可能である。したがって、プロテアーゼ阻害剤は、臓器ホーミング分子を含むHPPSに連結された際、選択される臓器または組織、例えば膵臓で、プロテアーゼ活性を阻害しうる療法剤でありうる。選択される臓器または組織において、タンパク質の産生を補充するかまたは回復しうるcDNAなどの遺伝子またはその機能的同等物もまた、病変の重症度を改善するのに有用な療法剤でありうる。療法剤はまた、その発現が有害なタンパク質の産生を阻害するアンチセンス核酸分子であってもよいし、あるいは有害なタンパク質の活性を阻害しうるドミナントネガティブタンパク質またはその断片をコードする核酸分子であってもよい。上述のように、核酸、ならびに核酸およびペプチドアプタマーは、核酸を陽イオン性脂質と複合体化して、次いで粒子コア内に取り込み可能であるか、または本発明のリン脂質と別の方式で会合可能である、親油性複合体を形成することによって、核酸、ならびに核酸およびペプチドアプタマーを、「親油性」化合物として送達してもよい。また、コレステロール部分または他の脂質アンカーを用いて、これらおよび他の活性剤をHPPSナノ粒子のコア内に係留してもよい。
【0103】
光線力学的療法(PDT)剤
PDTは、光および光増感剤の組み合わせを伴う、有望な癌治療である。各因子はそれ自体では無害であるが、一緒に組み合わせると、これらは、腫瘍細胞を殺傷する致死性反応性酸素種を生じる(Dougherty, T.J.ら Journal of the National Cancer Institute. 90, 889−905(1998))。一重項酸素()は、強力でかなり無差別なオキシダントであり、多様な生物学的分子および集合体と反応する。は、PDTが誘導する腫瘍壊死の重要な剤であることが一般的に認識されている(Niedre, M.ら Photochemistry & Photobiology. 75, 382−391(2002))。の拡散範囲は、細胞培地中、およそ45nmに制限される(Moan, J. Photochem. Photobiol. 53, 549−553(1991))。したがって、Oの主な生成部位は、どの細胞内構造がアクセスされそして攻撃されうるかを決定する。言い換えると、光増感剤が腫瘍細胞中に優先的に局在するならば、PDTが誘導する細胞損傷は、非常に腫瘍特異的である。
【0104】
好ましい光線力学的療法剤は、ポルフィリン、ポルフィリン異性体、および拡張ポルフィリンである。
【0105】
態様において、光線力学療法剤は、tert−ブチルシリコンナフタロシアニンビソレエート(SiNc−BOA)、tert−ブチルシリコンフタロシアニンビソレエート(SiPc−BOA)、およびピロフェオホルビド−コレステロールエステル(Pyro−CE)からなる群より選択される。SiNc−BOA、SiPc−BOA、およびPyro−CEは、光線力学療法のための毒性酸素種を生じる光増感化合物である。
【0106】
蛍光画像化剤およびPDT剤用の近赤外(NIR)色素
NIR蛍光画像化(NIRF)は、非放射性で高感度であり、そして安価な癌検出様式であり(Weissleder, R.ら Nature Medicine 9, 123−128(2003), Frangioni, J.V. Current Opinion in Chemical Biology 7, 626−634(2003))、蛍光の相違に基づいて、腫瘍および健康な組織の非侵襲性区別を可能にする。NIR色素は、現在、癌検出のためのNIRFプローブとして、そしてPDTによる癌治療のための光増感剤として、かなりの興味を集めている。NIR色素の魅力は、600nm〜900nmの間のスペクトルウィンドウにある、組織光学特性にある。こうした波長のため、組織吸収計数は比較的低く;したがって、光の伝播は主に、散乱事象によって支配され、そして数センチの浸透深度が達成可能である。したがって、NIR色素のユニークな能力によって、乳癌を含む表面下の腫瘍の蛍光画像化およびPDT治療が可能になる。
【0107】
NIRFおよびPDT様式両方の現在の制限は、NIRFでは偽陰性につながり、そしてPDTでは不適切な腫瘍対正常組織療法比につながる、腫瘍への色素の送達の比較的非特異的な性質のため、これらが十分な腫瘍対組織の対比を欠くことである。したがって、「癌サイン」、すなわち癌細胞において選択的に集積する分子をターゲティングする剤が特に魅力的である。本発明は、より高いプローブ/タンパク質モル比および腫瘍特異性が達成されるように、コア内にNIRF/PDT剤をロックする腫瘍ターゲティングHPPSナノ粒子を提供する。
【0108】
磁気共鳴画像化剤
MRIは、現在、利用可能な多様な診断方式の中の傑出した方法論であり、これはin vivoで水プロトンの量、流れ、および環境をサンプリングすることによって、柔組織における構造および機能をマッピングする強力な方法を提供するためであることが現在、よく確立されている。本来備わっている対比は、造影剤の使用によって増大しうる。ターゲティング化MRI剤は、概念的には非常に魅力的であるが、いくつかの潜在的に有用な例にのみ存在する。感度が限定されるため、効率的な認識には、単純なターゲティング化Gd(ガドリニウム)キレートで見られるのに十分な量で存在する、フィブリンのような非常に大容量のターゲット、あるいはGdクラスター、ポリマーまたは鉄粒子と結合可能な、血流にアクセス可能なターゲットを必要とする。これは、現在、非常に限定されるターゲットセットである。さらに、MRI検出限界に必要なMRI剤の最少濃度は、細胞外ターゲティング閾値(40μlV1)よりはるかに高い(〜1mM)ため、細胞内MRI画像化は、特に困難である(Aime, S.ら Journal of Magnetic Resonance Imaging. 2002 16(4):394−406、Nunn, A.D.ら Quarterly Journal of Nuclear Medicine. 1997 41(2):155−62)。1つの重要な試みが、Wienerらによって1995年に報告された(Wiener, E.C.ら Investigative Radiology. 1997 Dec,−32(12):748−54)。葉酸コンジュゲート化DTPAに基づくデンドリマーを用いて、Wienerらは、葉酸受容体の存在に関連する腫瘍細胞による取り込みを達成した。Wienerらはまた、注射24時間後、17%のMRI対比増進も得た。本発明は、MRIおよびNIRF/PDT剤両方を送達するHPPSナノ粒子を提供する。
【0109】
本発明の特定の態様において、MRI造影剤は、酸化鉄およびランタニドに基づくもの、例えばガドリニウム(Gd3+)金属である。
【0110】
神経系において活性である剤
神経系に対して活性である薬剤もまた、本発明のHPPSナノ粒子を介して送達してもよい。こうした薬剤には、抗精神病剤、刺激剤、鎮静剤、麻酔剤、オピエート、精神安定剤、抗鬱剤、例えばMAO阻害剤、三環系および四環系、選択的セロトニン再取り込み阻害剤およびブプロピオン(burpropion)が含まれる。神経系において活性である薬剤にはまた神経ペプチドも含まれる。ペプチド薬剤の送達は、代謝安定性が低く、肝臓によるクリアランスが高く、そして血液脳関門が存在するため、脳への生物学的利用能が劣っていることによって限定される。本発明のHPPSナノ粒子は、中枢神経系へのこうした薬剤の送達を可能にする。
【0111】
薬学的組成物
被験体に投与される際、本発明のナノプラットフォームは、例えばHPPSナノ粒子および薬学的に許容されうるキャリアーを含有する薬学的組成物として投与される。薬学的に許容されうるキャリアーは当該技術分野に周知であり、そしてこれには、例えば、水または生理学的緩衝生理食塩水などの水溶液、あるいはグリコール、グリセロールなどの他の溶媒またはビヒクル、オリーブ油などの油または注射可能有機エステルが含まれる。
【0112】
薬学的に許容されうるキャリアーは、例えば複合体を安定化するかまたはその吸収を増加させるよう作用する、生理学的に許容されうる化合物を含有しうる。こうした生理学的に許容されうる化合物には、例えば、炭水化物、例えばグルコース、スクロースまたはデキストラン、酸化防止剤、例えばアスコルビン酸またはグルタチオン、キレート剤、低分子量タンパク質あるいは他の安定化剤または賦形剤が含まれる。当業者は、その中の任意の生理学的に許容されうる化合物を含めて、薬学的に許容されうるキャリアの選択が、例えば、薬学的組成物の投与経路に応じることを知っている。薬学的組成物はまた、癌療法剤、または親油性化合物、脂質アンカーを含む剤、画像化剤/診断剤、療法剤、光線力学療法(PDT)剤、蛍光画像化剤およびPDT剤用の近赤外(NIR)色素、磁気共鳴画像化剤、ならびに神経系において活性である剤を含む、望ましいような他の活性剤をさらに含むHPPSナノ粒子も含有してもよい。
【0113】
上述のように、本発明のナノプラットフォームを生理学的または薬学的に許容されうるキャリア中で提供してもよいし、あるいは続く使用のために凍結乾燥型で提供してもよい。組成物は、非経口投与等が意図される際には、場合によって無菌であるが、いくつかの局所適用が意図される際には、常に無菌である必要はない。限定されるわけではないが、水性キャリアを含む、任意の薬学的に許容されうるキャリアを用いてもよい。非経口注射のための水性キャリアには、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁物が含まれ、生理食塩水および緩衝媒体が含まれる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲル・デキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または不揮発性油が含まれる。静脈内ビヒクルには、液体および栄養補充剤、電解質補充剤(リンゲル・デキストロースに基づくものなど)等が含まれる。保存剤および他の添加物、例えば抗微生物剤、酸化防止剤、キレート剤、および不活性ガス等もまた存在してもよい。
【0114】
当業者は、例えば経口または非経口的、例えば静脈内を含む多様な経路によって、本発明のHPPSナノ粒子を含有する薬学的組成物を、被験体に投与してもよいことを知っている。注射によってまたは挿管によって薬学的組成物を投与してもよい。
【0115】
本明細書に開示するような診断法、画像化法または療法を実行する際、本発明のHPPSナノ粒子の療法的に有効な量を被験体に投与しなければならない。「療法的に有効な量」は、所望の効果を生じるHPPSナノ粒子の量である。有効な量は、例えば、活性剤および意図される使用に応じるであろう。例えば、細胞死が望ましい療法目的のために投与される放射標識分子の量に比較して、画像化に関しては、より少ない量の放射標識HPPSナノ粒子しか必要でない可能性もある。特定の目的のための特定のHPPSナノ粒子の療法的有効量は、当業者に周知の方法を用いて決定可能である。
【0116】
原則として、本発明のHPPSナノ粒子の一部としての臓器ホーミング分子は、該分子の投与が直接の生物学的効果を提供するように、生得的な生物学的特性を有しうる。例えば、臓器ホーミング分子は、天然リガンドの活性を模倣するのに十分に、ターゲット分子の天然存在リガンドに類似であってもよい。こうした臓器ホーミング分子は、天然リガンドの活性を有する療法剤として有用でありうる。例えば、臓器ホーミング分子が、選択される臓器または組織によって発現される受容体に結合する増殖因子の活性を模倣する場合、例えば上皮増殖因子の活性を模倣する皮膚ホーミング分子などの場合、臓器ホーミング分子の投与は、臓器または組織における細胞増殖を生じうる。本発明の臓器ホーミング分子のこうした生得的な生物学的活性は、選択される臓器または組織の細胞とホーミング分子を接触させ、そして生物学的効果の証拠、例えば細胞増殖、または生得的な活性が毒性効果である場合は細胞死に関して細胞を調べることによって、同定可能である。
【0117】
さらに、本発明のHPPSナノ粒子の一部としての臓器ホーミング分子は、対応するリガンドが受容体に結合不能であるように、特定のターゲット分子に結合する生得的な活性を有してもよい。例えば、多様なタイプの癌細胞が特定の臓器または組織に転移することが知られ、これは、癌細胞が、転移する臓器中のターゲット分子に結合するリガンドを発現することを示す。したがって、肺ホーミング分子の、例えば肺に転移している腫瘍を有する被験体への投与は、潜在的に転移性である癌細胞が肺に確立されることを防止する手段も提供しうる。しかし、一般的に、本発明の臓器ホーミング分子は、選択される臓器または組織にHPPPSナノ粒子をターゲティングするのに特に有用である。したがって、本発明は、病変を有する被験体に、本発明のHPPSナノ粒子を投与することによって、選択される臓器または組織における病変を治療する方法を提供する。
【0118】
例えば、肺ホーミング分子および療法剤を含むHPPSナノ粒子を被験体に投与することによって、肺の特定の障害を治療してもよい。肺ホーミング分子は肺の毛細血管および肺胞に局在可能であるため、これらの領域と関連する障害は、肺ホーミング分子を含むコンジュゲートでの治療に特に受け入れられる。例えば、細菌性肺炎は、しばしば、肺の肺胞および毛細血管で生じる(RubinおよびFarber, Pathology 第2版, (Lippincott Co., 1994))。したがって、肺ホーミング分子および適切な抗生物質を含むHPPSナノ粒子を被験体に投与して、本発明のHPPSナノ粒子を介して肺炎を治療してもよい。同様に、嚢胞性線維症は、CFTRにおける欠陥のため、肺に病理学的病変を引き起こしうる。したがって、肺ホーミング分子およびCFTRをコードする核酸分子を含むHPPSナノ粒子の投与によって、in vivo遺伝子療法治療法として、肺に核酸分子を導くための手段が提供される。
【0119】
本発明はまた、皮膚ホーミング分子および療法剤を含むHPPSナノ粒子を、病変を有する被験体に投与することによって、皮膚の病変を治療する方法も提供する。例えば、やけど被害者に、皮膚ホーミング分子および上皮増殖因子または血小板由来増殖因子を含むHPPSナノ粒子を投与して、増殖因子が皮膚に局在し、そこで上皮およびその下の真皮の再生または修復を加速しうるようにしてもよい。さらに、本発明の方法は、細菌感染、特に皮下組織および真皮を通じて広がるまたはこれらの領域に局在する感染によって引き起こされる皮膚病変を、皮膚ホーミング分子および抗生物質を含むHPPSナノ粒子を被験体に投与することによって、治療するのに有用でありうる。
【0120】
本発明はまた、膵臓ホーミング分子および療法剤を含むHPPSナノ粒子を、病変を有する被験体に投与することによって、膵臓の病変を治療する方法も提供する。特に、本発明の膵臓ホーミング分子は、膵外分泌部に局在可能であるため、膵外分泌部に関連する病変を治療可能であり、そしていくつかの場合、膵内分泌部に不都合に影響を及ぼさない可能性もある。本発明の方法は、分泌されるプロテアーゼが臓器を損傷することによって引き起こされる膵外分泌部の炎症状態である、急性膵炎を治療するのに特に有用でありうる。膵臓ホーミング分子およびプロテアーゼ阻害剤を含むHPPSナノ粒子を用いて、プロテアーゼが仲介する組織の破壊を阻害し、したがって病変の重症度を減少させることも可能である。こうしたHPPSナノ粒子で有用な適切なプロテアーゼ阻害剤は、例えば、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼおよび膵臓リパーゼの阻害剤を含む、膵炎に関連する酵素を阻害するものである。また、本発明の方法を用いて、膵臓にホーミングする分子に連結された療法剤を含むHPPSナノ粒子を被験体に投与することによって、膵臓癌、例えば膵管腺癌を有する被験体を治療してもよい。
【0121】
また、本発明の方法を用いて、病変を有する被験体に、網膜ホーミング分子および療法剤を含むHPPSナノ粒子を投与することによって、目、特に網膜の病変を治療してもよい。例えば、増殖性網膜疾患は、例えば糖尿病による網膜虚血症に反応した網膜の新血管形成と関連する。したがって、アポトーシスを刺激する遺伝子、例えばBaxに連結された網膜ホーミング分子を含むコンジュゲートの投与を用いて、増殖性網膜疾患を治療してもよい。同様に、本発明の方法を用い、本明細書に開示するような適切な臓器または組織ホーミング分子を用いて、前立腺、血管、卵巣、乳房、リンパ節、副腎、肝臓、または腸病変を診断するかまたは治療してもよい。
【0122】
本発明はさらに、ウイルス、寄生虫、および/または細菌(例えばHIV、マラリア等)などの多様な感染性病原体に感染した組織を治療するための方法を提供する。HPPSナノ足場で用いられるホーミング分子には、典型的には、感染組織で発現される(または過剰発現される)細胞表面マーカー/受容体(例えばタンパク質)に対するリガンドが含まれるであろう。
【0123】
本発明は、被験体、ターゲット組織または臓器に、親油性化合物、診断剤または薬剤を送達する方法であって、本発明の方法にしたがった前記親油性薬剤と複合体を形成するのに十分な量の脂質と会合した親油性薬剤を含むHPPSの薬学的配合物を調製し、そして前記ターゲット組織に薬学的配合物の療法的有効量を投与する工程を含む、前記方法をさらに提供する。本発明の薬学的配合物を、静脈内、動脈内、鼻内、例えばエアロゾル投与、噴霧化、吸入、または吹送によって、気管内、関節内、経口、経皮、皮下、直腸、または局所投与してもよい。
【0124】
「有効」または「療法的に有効」な量は、患者において疾患または状態の1以上の症状を軽減する(ある程度まで)量を意味する。さらに、「療法的に有効な量」は、状態と関連するかまたは状態の原因となる、生理学的または生化学的パラメーターを、部分的にまたは完全にのいずれかで正常に戻す量を意味する。さらに、有効量は、いくつかの他の意図される目的、例えば臓器または組織への放射性画像化剤または他の診断剤の送達を達成するのに十分なものであってもよい。
【0125】
さらに、本発明は、選択される臓器または組織を同定するか、あるいは選択される臓器または組織において、病変を診断する方法であって、本発明の方法にしたがって、適切なターゲティング部分、および診断剤と粒子を形成するのに十分な量の脂質と会合した前記診断剤を含むHPPSの薬学的配合物を調製し、そして被験体の前記ターゲット臓器または組織に薬学的配合物を投与する工程を含む、前記方法を提供する。
【0126】
「診断剤」は、患者の内部領域を画像化し、そして/または患者における疾患の存在または非存在を診断するための方法と関連して使用可能な任意の剤を指す。例示的な診断剤には、例えば、患者の超音波画像化、磁気共鳴画像化またはコンピュータ断層撮影画像化と関連して使用するための、放射性および蛍光標識、ならびに造影剤が含まれる。診断剤にはまた、画像化方法論が使用されていてもまたはいなくても、患者における疾患または他の状態の診断を促進するのに有用な任意の他の剤も含まれてもよい。
【0127】
本発明はまた、本発明の方法にしたがった任意の組成物が、局所適用によってこうした治療が必要な被験体に投与される、皮膚癌、乾癬、座瘡、湿疹、酒さ、日光角化症、脂漏性皮膚炎、および先天性角化障害からなる群より選択される障害を患う被験体を治療する方法も提供する。
【0128】
本発明のHPPSナノ粒子は、上述のように、局所適用に使用可能である。したがって、本発明は、乾燥肌、光線性皮膚障害、年齢による染み、加齢皮膚、角質層柔軟性の増加、しわ、細い線、光線性の染み、皮膚変色(dyschromias)、および魚鱗癬からなる群より選択される皮膚の1以上の状態を治療する方法であって、前記の1以上の状態を有する皮膚に、本発明の方法にしたがった任意の組成物を適用する工程を含み、送達される化合物がこうした状態を治療するための既知の化合物であり、そしてこうした状態を治療するための既知の量で送達される方法をさらに提供する。用語「局所適用」は、本明細書において、皮膚表面上に、本発明の組成物を適用するかまたは広げることを意味する。
【0129】
本発明の局所組成物中で送達される化合物は、皮膚活性成分を含んでもよい。こうした皮膚活性成分の限定されない例には、本明細書にその全体が援用される、Oblongらに対する1997年10月30日公表のPCT出願WO 97/39733に記載されるものなどのビタミンB3化合物;フラボノイド化合物;サリチル酸などのヒドロキシ酸;双性イオン性界面活性剤などの剥離または落屑(desquamatory)剤;2−エチルヘキシル−p−メトキシシンナメート、4,4’−t−ブチルメトキシジベンゾイル−メタン、オクトクリレン、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸などの日焼け止め;酸化亜鉛および二酸化チタンなどの日焼け止めクリーム;抗炎症剤;トコフェロールおよびそのエステルなどの酸化防止剤/ラジカルスカベンジャー;金属キレート剤、特に鉄キレート剤;レチノール、パルミチン酸レチニル、酢酸レチニル、プロピオン酸レチニル、およびレチナールなどのレチノイド;N−アセチル−L−システインおよびその誘導体;グリコール酸などのヒドロキシ酸;ピルビン酸などのケト酸;ベンゾフラン誘導体;脱毛剤(例えばスルフィドリル化合物);皮膚美白剤(例えばアルブチン、コウジ酸、ヒドロキノン、アスコルビン酸およびリン酸アスコルビル塩などの誘導体、胎盤抽出物等);抗セルライト剤(例えばカフェイン、テオフィリン);湿潤剤;抗微生物剤;抗アンドロゲン剤;および皮膚保護剤が含まれる。任意の上述の皮膚活性剤の混合物もまた用いてもよい。これらの活性成分のより詳細な説明は、Blankらに対する米国特許第5,605,894号に見られる。好ましい皮膚活性成分には、サリチル酸などのヒドロキシ酸、日焼け止め、酸化防止剤およびその混合物などが含まれる。何らかの美容的、予防的、療法的または他の利点のため、皮膚上に放置することが意図される、スキンローション、クリーム、ジェル、エマルジョン、スプレー、コンディショナー、化粧品、リップスティック、爪磨き等の形で、本発明の組成物を適用することによって、局所適用を実行してもよい。
【0130】
本発明のHPPSナノ粒子を作製する方法
ナノプラットフォームコア装填
本発明は、本発明のHPPSナノ粒子を作製する方法を提供する。LDLおよびHDL粒子内に剤を取り込むための先行技術の方法は、その内容が本明細書に援用される、Zhengらに対するPCT出願公報第WO 2006/073419号(公開日: 2006年7月13日; PCT出願第PCT/US2005/011289号)に概略される。
【0131】
好ましい態様において、HPPSナノ粒子は、例えばトルエン、ベンゼン、ジクロロメタン、および好ましくはクロロホルムなどの有機溶媒中の不飽和コレステロール−エステルと適切なリン脂質を合わせ、その後、溶媒を蒸発させて、そして真空乾燥させることによって、調製される。緩衝液を添加した後、約40〜60℃で超音波処理すると、エマルジョンが生じる。上述のような適切な足場ペプチドをエマルジョンに添加すると、球状HPPSナノ粒子の好ましい形成が生じる。HPPSナノ粒子のコア装填が望ましい場合、コア内に装填すべき剤をまず、リン脂質およびオレイン酸コレステロールと合わせ、そして同じ方法を続ける。
【0132】
細胞表面受容体リガンドの付着
HPPSナノ粒子コアに活性剤を装填した後、HPPSナノ粒子の表面を修飾して、細胞表面受容体リガンドを付着させてもよい。あるいは、活性剤を装填するのと同時に細胞表面受容体リガンドもまた取り込んでもよい。いくつかの態様において、細胞表面受容体リガンドを本発明のHPPSナノ粒子の足場ペプチドに共有結合させる。
【0133】
本発明のHPPSナノ粒子への細胞表面受容体リガンドの付着は、標準的技術を介して起こりうる。HPPSナノ粒子の足場ペプチドは、リジン、システイン、スレオニンなどのコンジュゲート化可能アミノ酸残基を含有してもよい。1つの態様において、リジン残基が存在し、そして既知の化学反応を用いて、細胞表面受容体リガンドにカップリングされる。例えば、緩衝液、すなわちNaHPO/HBO緩衝液に対してHPPSナノ粒子を透析することによってpHを増加させることで、リジン含有足場ペプチドを有するHPPSナノ粒子に、リガンド、葉酸を付着させてもよい。次いで、葉酸−N−ヒドロキシスクシンイミドエステルをHPPSナノ粒子と室温で10時間反応させる。反応完了の際、混合物を遠心分離して、いかなる分解HPPSナノ粒子も取り除く。最終工程において、未精製HPPS−FAをEDTA緩衝液に対して透析して、pHを7.4に調整してもよい。
【0134】
驚くべきことに、葉酸およびEGFR特異的ペプチドなどの細胞表面受容体リガンドをHPPSナノ粒子の足場ペプチドにコンジュゲート化しても、リン脂質と会合し、そしてナノキャリアを形成する能力には影響がなかった。また、好ましくは、足場ペプチドのリジン残基に葉酸およびEGFR特異的ペプチドをコンジュゲート化すると、ホーミング分子は、両親媒性αらせんの親水性面および疎水性面の間の移行部分またはその近傍に配置される。
【0135】
別の態様において、HPPSナノ粒子の足場ペプチドへの細胞表面受容体リガンドの共有結合に加えて、細胞表面受容体リガンドはまた、HPPSナノ粒子のリン脂質単層内に取り込まれる脂質にこれらの細胞表面受容体リガンドを係留することを介して、HPPSナノ粒子の表面上にディスプレイされてもよい。1つの態様において、脂質アンカーは、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[葉酸(ポリエチレングリコール)−2000](DSPE−PEG(2000); Avanti)であってもよい。
【0136】
別の態様において、HPPSナノ粒子は、SR−B1受容体が仲介する経路を通じて細胞に取り込まれる。HDLはSR−B1(1型スカベンジャー受容体、HDL受容体としても知られる)をターゲティングし、そして理論によって束縛されることなく、HPPSはHDLのSR−B1特異性を模倣すると考えられる。特定のタイプの癌(例えば乳癌)は、SR−B1受容体を有意に過剰発現するため、HPPSは悪性細胞を選択的にターゲティングする潜在能力を有する。さらに、HPPSナノ粒子を用いて、HDLに基づくGd−MRIプローブと同じ方式で、脆弱な斑を画像化してもよい(Fayad group, Mt. Sinai New York: Friasら J. Am. Chem. Soc. 2004; 126:16316−7; Friasら Nano Lett. 2006; 6:220−4)。
【0137】
以下の実施例は、SR−B1が仲介する経路を通じて、in vitroおよびin vivoの両方での、細胞によるHPPSナノ粒子の取り込みを例示する。HPPS内部移行を伴わないカーゴ輸送の最初の証拠によって、HPPSナノキャリアが癌診断剤および療法剤の直接サイトゾル送達に特に有用であることが示唆される。
【0138】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。以下の調製および実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、そして実行することを可能にするために提示される。しかし、本発明は、本発明の単一の側面の例示としてのみ意図される、例示態様によって範囲を限定されず、そして機能的に同等である方法が本発明の範囲内である。実際、本明細書に記載するものに加えて、本発明の多様な修飾が、以下の説明および付随する図から、当業者には明らかとなるであろう。こうした修飾は、付随する請求項の範囲内に属すると意図される。
【0139】
本明細書に引用する参考文献は各々、その全体が本明細書に援用される。
【実施例】
【0140】
実施例1
出発物質の調製
1)サイズ制御ペプチド(scPep)
商業的に入手可能なN−α−Fmoc保護アミノ酸、固体支持体としてのSieberアミド樹脂、およびカルボキシル基活性化剤としてのHBTU/HOBtを用いて、Fmoc固相ペプチド合成(SPPS)プロトコル(Novabiochem, Resource for peptide synthesis: http://www.emdbiosciences.com/g.asp?f=NBC/ peptideres.htm)を用いることによって、Ac−DWLKAFYDKVAEKLKEAF(「2F」)、Ac−DWFKAFYDKVAEKFKEAF(「4F」、本明細書において、「+4F」ともまた称される))、およびAc−FAEKFKEAVKDYFAKFWD(−4F)を、ペプチド合成装置PS−3(Protein Technologies, Inc.)上で合成した。保護された配列の合成後、ペプチド−樹脂のN末端Fmocを、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中の20%ピペリジンで除去して、末端アミンを曝露させた。次いで、10%無水酢酸を含むテトラヒドロフラン中の10%ピリジンで、NH−ペプチド−樹脂をキャッピングした。Ac−ペプチド−樹脂を、95%トリフルオロ酢酸および5%トリイソプロピルシランによってさらに処理して、ペプチド配列上の保護基を除去し、そして固体支持体を切断した。切断した固体樹脂をろ過によって取り除いた後、ろ過物を濃縮し、そして無水エーテルを添加することによって沈殿させてscPepを得た。トリプトファン(W)の蛍光を用いて、HPPSのscPep含量を決定した。当業者に知られる他の方法、例えばアミノ酸分析を用いて、HPPSのペプチド含量を決定してもよい。ターゲティングリガンドをコンジュゲート化するため、未結合側鎖アミン基を有するリジン(K)を用いた。
【0141】
2)EGFRに対するターゲティングリガンドとしてのEGFR特異的ペプチド(EGFp)
ペプチド配列、Fmoc−YHWYGYTPQNVIを合成した。最後のFmoc除去後、N末端NH基を含むペプチド、NH−YHWYGYTPQNVIを固体支持体から切断した。次いで、3モル当量のスベリン酸ビス−(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)(Sigma Aldrich)をDMSO中のEGFpのN末端にコンジュゲート化して、EGFp−NHSを形成した。
【0142】
3)リン脂質にコンジュゲート化されたEGFp(EGFp−脂質)。
【0143】
最初のEGFpを、DIPEAの存在下、無水ジメチルスルホキシド(DMSO)中、1:5のモル比で、スベリン酸ビス(N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)と反応させて、EGFp−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EGFp−NHS)を産生した。次いで、産物EGFp−NHSを、DMSO中、1:2のモル比で、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000]アミン(DSPE−PEG(2000)アミン、Avanti)とインキュベーションした。室温で穏やかに混合しながら6時間インキュベーションした後、試料を過剰なジエチルエーテルで洗浄した。沈殿物をさらに3回、ジエチルエーテルで洗浄して、いかなる未反応DSPE−PEG(2000)アミンも除去した。最終産物を含有する沈殿物を乾燥させて、そしてメタノール中で再懸濁した。
【0144】
4)診断および/または療法適用のため、HPPSナノ粒子内に取り込むのに適した化合物を図2に示し、そしてこれには近赤外蛍光(NIRF)画像化プローブDiR−BOA(1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物ビス−オレエート)およびDIR(1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物)が含まれる。DiR−BOAおよびDIRを、HPPSのため、それぞれコア装填および表面装填NIRFプローブとして合成してもよい。これらの2つの色素は、類似の吸収および放出波長励起を有する(励起748nm、放出782nm)。
【0145】
5)リン脂質
HPPS調製に適したリン脂質には、限定されるわけではないが、DMPC(l,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、POPC(1−パルミトイル−1−オレオイル−ホスファチジルコリン)およびEYPC(卵黄ホスファチジルコリン)が含まれる。すべてのリン脂質をAvanti Polar Lipids Inc.(米国アラバマ州アラバスター)より購入した。
【0146】
実施例2
HPPSナノ粒子調製法
HPPSは、tris−生理食塩水(10mM tris−HCl、150mM NaCl、1mM EDTA、pH7.5)などの水性緩衝液中で完全に可溶性である巨大分子複合体である。以下に概略する実験すべてにおいて、HPPSの溶媒として、Tris−生理食塩水緩衝液を用いた。
【0147】
1)HPPS: 試験管中、0.5mLのクロロホルム中に、3μmolのDMPCおよび0.3μmolのオレイン酸コレステリルを溶解した。Nを用いて、溶媒をゆっくりと蒸発させ、そして高真空によってさらに乾燥させた。その後、1mLの緩衝液(0.1M KCl、1mM EDTAを含有する10mM Tris−HCl、pH8.0)を、乾燥した試験管に添加し、そして50℃で1時間超音波処理して、エマルジョンを形成した。scPep 0.8μmolを溶液に添加して、HPPS粒子を形成した。次いで、迅速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)によって粒子を精製した。FPLC法を以下に記載する。
【0148】
2)DiR−BOAコア装填HPPS((DiR−BOA)HPPS): 試験管中、0.5mLのクロロホルム中に、3μmolのDMPCおよび0.3μmolのオレイン酸コレステリルおよび0.25μmolのDiR−BOAを溶解した。Nを用いて、溶媒をゆっくりと蒸発させることによって、溶媒を除去し、そして高真空によってさらに乾燥させた。次いで、1mLの緩衝液(0.1M KCl、1mM EDTAを含有する10mM Tris−HCl、pH8.0)を、乾燥した試験管に添加し、そして50℃で1時間超音波処理して、エマルジョンを形成した。scPep 0.8μmolを溶液に添加して、(DiR−BOA)HPPS粒子を組み立てた。次いで、FPLCによって粒子を精製した。
【0149】
3)DiR表面標識HPPS(DiR−HPPS): Pitasら[J. Cell Biol. 1985, 100, 103−117]に記載される元来の方法に基づく修飾法を用いて、HPPSを、親油性近赤外色素DiR(1,1’−ジオクタデシル−3,3,3’,3’−テトラメチルインドトリカルボシアニンヨウ化物)(励起748nm、放出782nm)(Molecular Probes, Inc.、オレゴン州ユージーン)で標識した。簡潔には、1mLジメチルスルホキシド(DMSO)中に3mg(3.2μmol)のDiRを溶解することによってDiRのストック溶液を調製し; 0.1mLのストックを0.5mLのHPPS溶液(30μM)に添加して、40のDiR対1の粒子の最終モル比を得た。この混合物を暗所、37℃で18時間インキュベーションした後、超遠心(49,000rpm、20時間、4℃、Beckman 50Tiローター)によって、DiR表面標識HPPS(DiR−HPPS)を単離し、0.01%EDTAを含有する生理食塩水に対して透析し、そしてろ過滅菌した(0.45μm、Water Millex HV装置)。HPPS濃度(320nmでのトリプトファン蛍光に基づくペプチド濃度)およびDiR濃度(782nmでのDiR蛍光に基づく)をチェックすることによって、DiR−HPPS中のDiR装填を決定した。
【0150】
4)(DiR−BOA)HPPS用のターゲティングリガンドとしてのEGFpコンジュゲート化scPep、EGFp−(DiR−BOA)−HPPS(1型EGFRターゲティング化HPPS): 図3に示すプロトコルにしたがって、EGFpコンジュゲート化DiR−BOAコア装填HPPS((DiR−BOA)HPPS)を合成した。簡潔には、3μmolのDMPC、0.2μmolのオレイン酸コレステリルおよび0.40μmolのDiR−BOAを試験管中のクロロホルム中に溶解した。Nでゆっくりと蒸発させることによって溶媒を除去し、そしてさらに高真空で乾燥させた。その後、1mLの緩衝液を、乾燥した試験管に添加し、そして50℃で1時間超音波処理して、エマルジョンを形成した。次いで、scPepを溶液に添加して、(DiR−BOA)HPPS粒子を組み立てた。4℃で、それぞれ、0.1M NaHPO、0.1M HBO緩衝液、pH=9.0、10.0、10.9に対して透析することによって、この粒子溶液のpHを8.0から10.9に段階的に増加させた。次いで、活性リガンド分子(1.8μmol)、例えば無水DMSO中のEGFp−NHSまたはFA−NHSを粒子溶液に添加して、そして反応混合物を室温で振盪装置上に置いた。6時間反応させた後、混合物を4℃、500rpmで遠心分離して、いかなる沈殿物も除去しそして続いてEDTA緩衝液(0.3mM EDTA、0.9%NaCl、pH7.4)に対して4℃で一晩透析した。透析の経過に渡って、EGFp−(DiR−BOA)−HPPSのpHを7.4に戻し、そして未反応リガンド出発物質を除去した。分光光学的に検出可能な遊離リガンドが存在しなくなるまで、この透析法を反復した。次いで、粒子をFPLCによって精製した(FPLC法を以下に説明する)。
【0151】
5)(DiR−BOA)HPPS用のターゲティングリガンドとしてのEGFp−脂質、EGFp−脂質(DiR−BOA)−HPPS(2型EGFRターゲティング化HPPS): 図4に示すように、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSを調製する方法は、(DiR−BOA)HPPSのものと類似である。唯一の違いは、ナノ粒子配合物中、0.18μmolのEGFp−脂質(EGFペプチドコンジュゲート化リン脂質)を3μmolのDMPCに添加することであった。
【0152】
6)(DiR−BOA)HPPS用のターゲティングリガンドとしての葉酸コンジュゲート化scPep、FA−(DiR−BOA)−HPPS(1型FRターゲティング化HPPS): 図3に記載するプロトコル(EGFpを葉酸−NHSと交換する)にしたがって、FA−(DiR−BOA)−HPPSを合成した。
【0153】
7)(DiR−BOA)HPPS用のターゲティングリガンドとしての葉酸−脂質、FA−脂質(DiR−BOA)−HPPS(2型FRターゲティング化HPPS): 図4に記載するプロトコル(EGFp−脂質を葉酸−脂質と交換する)にしたがって、FA−脂質(DiR−BOA)−HPPSを合成した。
【0154】
8)(DiR−BOA)HPPS用のターゲティングリガンドとしての全長EGF、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS: 全長組換えヒトEGFをR&D Systems, Inc.(米国ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000]マレイミド(DSPE−PEG(2000)マレイミド)としてリン脂質含量30%で、HPPSを上述のように配合した。EGFをTraut試薬(2−イミノチオラン塩酸)(Sigma)とpH9.0でインキュベーションして、EGFに反応性スルフィドリル基を導入した。次いで、スルフィドリル−EGF(16nmol)をHPPS(DSPE−PEG(2000)マレイミド)(0.1μmol)と、反応体積1mL中、室温で24時間反応させた。インキュベーション期間後、EGF−HPPSをFPLCによって精製した。
【0155】
実施例3
4Fを用いて調製されたHPPSナノ粒子の性質決定
1.粒子およびペイロード安定性: 粒子およびペイロード安定性は、ナノ粒子に基づくすべての薬剤送達系に必須である。慣用的な脂質に基づくナノキャリア(例えばリポソームおよび脂質エマルジョン)は、極小サイズ(<25nm)では安定性を維持しえない。本発明のHPPSナノキャリア系は、驚くべき安定性を示す。表4に示すように、動的光散乱(以下を参照されたい)および蛍光分光測定によって決定すると、1ヶ月に渡って、HPPSはそのサイズおよびDiR−BOAペイロードを維持する。4℃で保存した後、ペイロード漏洩は観察されなかった。以下の表中のパーセントは、示すサイズを有するナノ粒子集団の比率を示すことに注目されたい。
【0156】
表4.粒子安定性
【0157】
【表4】

【0158】
注:表は、平均サイズ、組成パーセントおよびDiR−BOA蛍光強度を示す。
【0159】
EGFペプチド、全長EGF、およびFAをターゲティングリガンドとして用いた際、3つの配合物すべての安定性は、1ヶ月に渡って同程度であるようであった。
【0160】
2.粒子性質決定:4つの方法を用いて、HPPSナノキャリアを性質決定した:1)迅速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、2)動的光散乱(DLS)(ナノサイズ決定装置)、3)透過型電子顕微鏡(TEM)および4)円二色性(CD)。
【0161】
方法
電子顕微鏡研究。デジタル画像獲得系を装備した最新のHitachi H−7000透過型電子顕微鏡を用いて、HPPSナノ粒子の水性分散の形態およびサイズを決定した。5マイクロリットルのHPPSナノ粒子懸濁物を炭素コーティング200メッシュ銅グリッド上に置き、そして5分間放置した。過剰な試料をレンズペーパーで取り除き、そして5μLの2%飽和水性酢酸ウラニルを適用し、そして20秒間放置した。次いで、ろ紙で染色剤を吸い取り、そしてグリッドを空気乾燥した後、デジタル画像を撮影した。すべての電子顕微鏡サプライを、Electron Microscopy Sciences(ペンシルバニア州フォートワシントン)より購入した。
【0162】
動的光散乱。633nmおよび90°の検出装置角度で稼働する4.0mW He−Neレーザーを利用して、光散乱光子相関分光法(Zetasizer Nano−ZS90; Malvern Instruments、英国マルバーン)によって、HPPS粒子の粒子サイズ分布を測定した。球状粒子がブラウン運動を経ると仮定して、データをモデリングした。
【0163】
迅速タンパク質液体クロマトグラフィー。粒子形成後、Akta迅速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)系(Amersham Biosciences、ペンシルバニア州ピッツバーグ)とともにSuperdex 200カラム(60x16cm)を用いたゲルろ過クロマトグラフィーによって、所望のサイズのHPPS粒子を精製した。流速1mL/分のTris緩衝生理食塩水(0.15M NaCl、1mM EDTAを含有する10mM Tris−HCl、pH7.5)を用いて粒子を溶出させた。その保持時間を、既知の直径を持つタンパク質:サイログロブリン(17.0nm)、アポフェリチン(12.2nm)、カタラーゼ(10.4nm)、ウシ血清アルブミン(7.1nm)、アルファ−キモトリプシン(4.2nm)、およびリボヌクレアーゼA(3.8nm)の保持時間と比較することによって、溶出粒子サイズを決定した。
【0164】
円二色性(CD)分光法。Jasco J−815 CD分光計を用いて、HPPS粒子の遠紫外CDスペクトルを記録した。260〜190nmまで、1nm段階サイズ、25℃でCDスペクトルを記録した。連続5スキャンに渡ってデータを収集し、そして平均した。222nmの楕円率の変化によって、ScPepのアルファらせん二次構造を監視した。
【0165】
図5は、4Fを用いて調製した非ターゲティング化DiR−BOA装填HPPSのFPLC、DLSおよびCDを示す。FPLC(図5A)から、図5Bに示すように、HPPS粒子の異なる集団を収集してもよい。FPLC分画のCD分析によって、scPep(アルファらせんサインの存在)の強い関連が明らかになる。より小さい粒子に関しては、アルファらせんがより高い含量に向かう傾向があることがわかる。図6は、FPLC測定がTEMと一致することを示す。TEMは、粒子が60分で溶出することを示す。FPLCは、狭い分布の高収量の粒子を示す。TEMは、HPPS粒子が、単分散球状形態を有することを確認する。FPLC、TEMおよびDLSデータ(未提示)によって、EGFpコンジュゲート化HPPS粒子が、直径11〜14nmの範囲であることが示される。
【0166】
3. HPPSサイズに対するDiR−BOA装填およびターゲティングリガンドの影響: HPPSのサイズをDiR−BOAペイロードによって調節可能であることが見出された。ここに例を挙げる:2つのHPPS配合物を以下に示すように調製した。
【0167】
【表5】

【0168】
図7に示すように、各調製に関して、FPLCプロフィールの個々の分画を収集した。DIR−BOAがより低い装填で含まれる配合物(#1)は、より小さいHPPS粒子をより均一な分布で生じた。配合物#2は、より高いDiR−BOAペイロード(収集された分画のより強い青色着色によって示されるもの)および粒子のより不均一な集団を有する。これらのHPPS粒子のサイズは、配合物#1のものより大きかった。これらの発見によって、HPPS粒子のサイズをカーゴ(DIR−BOA)装填によって調節/調整可能であることが示唆される。
【0169】
粒子をより高い用量のDiR−BOAと配合すると、HPPS粒子サイズが増加することを考慮すれば、配合物に添加するコア構成要素(DiR−BOAおよびコレステロール−エステル)の量を調節することによって、HPPS「最終産物」のサイズに対して、ある程度の制御を達成可能である。したがって、コア構成要素の用量を増加/減少させると、HPPS粒子のサイズ増加/減少が生じるであろう。これは図7Cに立証される。HPPSのサイズおよびそのDiRBOAペイロード間には、強い陽性相関係数が決定される(R=0.91)。
【0170】
HPPSのターゲティングリガンドとしてEGFペプチドおよび全長EGFを用いた場合、形成されるHPPS粒子は、FAで調製されるものよりわずかにより小さかった(3〜5nm)。該ペプチドおよび全長EGFは、HPPSのサイズを収縮するようであった。
【0171】
4. 4Fおよび−4Fで形成される(DiR−BOA)HPPSの比較:
上述のように、3.0μmol DMPC、0.2μmolオレイン酸コレステリル、0.2μmol DiR−BOA、および2mgの4Fまたは−4Fのいずれかを用いて、(DiR−BOA)HPPSナノ粒子を調製した。
【0172】
図8(a)に示すように、FPLCプロフィールは、−4F(DiR−BOA)HPPSに関しては1つのピークのみ、そして4F(DiR−BOA)HPPSに関しては2つのピークを示す。したがって、4Fおよび−4Fはどちらも、均一なナノ粒子を形成するのに使用可能である。
【0173】
図8(b)に示すように、TEM画像化によって、−4Fで形成される(DiR−BOA)HPPSの球状形状が4Fで形成される(DiR−BOA)HPPSよりもより均質であることが明らかになる。
【0174】
実施例4
HPPSのin vitroおよびin vivo評価
別に示さない限り、これらの研究で用いるscPepは、4Fであった。
【0175】
HPPSの濃度を以下に記載する場合、これらは、HPPSによって運搬されるDiR−BOAの濃度を指す。[DiR−BOA]を決定するため、DiR−BOA濃度に対してDiR−BOA蛍光の標準曲線をプロットした。クロロホルム−メタノール(2:1、v:v)で、HPPS粒子からDiR−BOAを抽出した。抽出を2回反復し、そしてクロロホルム層をプールして、そして高速真空で乾燥させた。残渣を1mLのクロロホルム−メタノール(2:1、v:v)に再懸濁し、そして蛍光計上で蛍光を読み取った。蛍光読み取りから、HPPS粒子中のDiR−BOA濃度を標準曲線より決定可能であった。
【0176】
また、ペプチド濃度に基づいて、HPPS濃度を決定してもよい。Bradfordアッセイキット(Bio−Rad Laboratories, Inc.、カリフォルニア州ハーキュルス)によって、HPPSのペプチド濃度を決定してもよい。こうした計算において、各HPPS粒子が22ペプチドを含有すると仮定された。
【0177】
in vivo実験に関しては、HPPSを投与するのに用いた緩衝液はtris−生理食塩水であった。注射体積は典型的には250〜350μLであった。
【0178】
実験動物および異所性腫瘍の誘導。多様な腫瘍異種移植モデルを以下に記載する。ここで、本発明者らは、腫瘍異種移植片を所持するマウスを用意するのに用いる一般的な方法を提示する。成体雌ヌードマウス(8〜12週齢)には、研究期間中、自由に食物および水へのアクセスを与えた。癌細胞(典型的にはPBS中、3x10)をヌードマウスの右脇腹内に皮下接種した。腫瘍接種1〜3週間後、マウス(およそ5mmの腫瘍サイズを持つ)を、指定された研究に用いた。
【0179】
A. EGFp(DiR−BOA)HPPS(1型EGFRターゲティング化HPPS)のin vitro研究: 異なるEGFR発現レベルを持つ癌細胞(A549およびMT1:高発現、HepG:中程度の発現、H520:低発現)に対して、共焦点顕微鏡研究を用いて、EGFp(DiR−BOA)HPPSのEGFRターゲティング特異性を調べた。Olympus FV1000レーザー走査型共焦点顕微鏡を用いて、共焦点研究を行った。A549、MT1およびH520細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中、3μMのEGFp(DiR−BOA)HPPS(ここに提示する濃度、ならびに以下のin vitroおよびin vivo実験中の濃度は、DiRの濃度である)とインキュベーションした。図9に示すように、5時間および24時間のインキュベーション後、A549およびMT1細胞は、H520細胞より、より高いEGFp(DiR−BOA)HPPS取り込みを有することが示され、HPPSのEGFRターゲティング特異性が示される。
【0180】
フローサイトメトリー研究を用いて、EGFp(DiR−BOA)HPPSのEGFR特異性をさらに確認した。これらの研究において、細胞をEGFp(DiRBOA)HPPSと3〜24時間インキュベーションし、そして次いで、FV500フローサイトメーター上で分析した。図10は、1.1μMのEGFp(DiR−BOA)HPPSとインキュベーションした後、H520細胞に対してMT−1細胞でHPPS取り込みがより高いことを示す。図11は、競合的阻害剤として過剰なEGFp(10μM)を用いると、MT−1細胞におけるHPPSの取り込みが減少したことを例示する。
【0181】
B. EGFp(DiR−BOA)HPPSのin vivo研究
in vivo NIR蛍光画像化。EGFp(DiR−BOA)HPPSを、250μL tris−生理食塩水中、5.2nmolの濃度で、尾静脈注射によって、マウスに投与した。注射前、注射1時間後、5時間後、および24時間後に、in vivo蛍光画像化を行った。蛍光画像は、CRI MaestroTM in vivo画像化系で得られた。マウスをケタミン/アセプロマジン(50/5mg/kg i.p.)で麻酔し、そしてMaestroイメージャーの光を通さないチャンバー内にうつぶせに入れた。深紅のフィルター(励起=671〜705nm、放出=750nm長光路(10nm段階で730〜950))および150m秒の曝露時間で蛍光画像を得た。代表的な画像を図12に示す。24時間までに、MT1腫瘍内の蛍光強度は、明らかに可視であり、EGFR発現腫瘍によってHPPSが優先的に取り込まれることが示される。
【0182】
生体分布研究のため、マウス(EGFp(DiR−BOA)HPPSの注射24時間後)の臓器/組織(MT−1腫瘍、肝臓、脾臓、心臓、筋肉、腎臓および副腎)を採取し、重量測定し、そしてPBS中でホモジナイズした。次いで、ホモジネートを、3倍過剰のCHCl:MeOH(2:1)混合物と合わせ、そして2分間ボルテックスした。続いて、溶液を3,000rpmで2分間遠心分離した。Horiba JobinYvon Fluoromax−4分光蛍光計を用いて、多様な試料の蛍光強度を測定した(励起748nm;放出782nm)。試料重量に対して蛍光シグナルを標準化し、そして筋肉および腫瘍組織に対して比を示す(図12を参照されたい)。
【0183】
C. EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPS(2型EGFRターゲティング化HPPS)のin vitro研究: Cytomics FC 500シリーズ・フローサイトメトリー系(Beckman Coulter, Inc.、カナダ・オンタリオ州ミソソーガ)で一連のフローサイトメトリー実験を行って、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのEGFR特異性を評価した。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI1640細胞培地0.2mL中で細胞培養実験を行った。まず、図13に示すように、1.1μMのEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSと3時間インキュベーションした後、A549細胞は、H520細胞に比較して、HPPSのはるかにより高い取り込みを有した。これらの結果によって、A549細胞におけるEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのEGFR特異的集積が示唆される。異なるEGFR発現レベルを含む細胞株におけるHPPSの時間依存性取り込みを示す図14において、EGFR特異性がさらに立証された。
【0184】
EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのEGFR特異性のさらなる証拠を図15に示した。9倍過剰のEGFpを使用すると、高レベルまたは中程度のレベルのEGFRを発現している細胞において、この2型EGFRターゲティング化HPPSの取り込みが明らかに阻害され(右)、これは、1型EGFRターゲティング化HPPSから得られる結果(左)と一致する。
【0185】
D. EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのin vitro予備的毒性研究: これらの生体適合性ナノキャリアが実際に非毒性であることを確認するため、MTTおよびフローサイトメトリーアッセイを用いて、in vitro毒性研究を行った。毒性を評価するため、フローサイトメトリーによって、A549細胞における濃度依存性HPPS取り込みを研究した。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中で、細胞培養実験を行った。すべての先の研究で用いたEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの標準的薬剤用量は1.1μMであるため、薬剤用量を増加させることによって、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの細胞内取り込みを調べた。図16cに示すように、標準的用量の2倍(2.2μM)で取り込み飽和が生じた。したがって、毒性評価のため、6倍用量(6.6μM)までを用いることが決定された。図16a(MTTアッセイ)および15b(フローサイトメトリーアッセイ)で見られうるように、MTTおよびフローサイトメトリー実験の両方で毒性はまったく観察されなかった。
【0186】
E. EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのin vivo研究: EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSのin vivo性能を評価するため、いくつかの腫瘍モデルを調べた。
【0187】
1)MT1腫瘍異種移植: 1.8nmol(250μl tris−生理食塩水)のEGFp−脂質(DiR−BOA)HPPSの静脈内注射後のいくつかの時点で、CRI MaestroTMイメージャーによって、MT1腫瘍を持つ雌ヌードマウスを調べた(図17)。画像化法に関しては、in vivo EGFp(DIR−BOA)HPPS研究セクション4Bを参照されたい。時間経過に渡って、MT1腫瘍異種移植片において、ナノ粒子が優先的に集積することが示され、24〜48時間で最大に達した。72時間で、HPPSは腫瘍領域から一掃され始めた。
【0188】
2)ヒト肺初代腫瘍異種移植: EGFRを発現する初代腫瘍異種移植片において、EGFp−脂質(DiR−BOA)HPPS(1.8nmol)のin vivo性能もまた評価した。図18に示すように、上列は、腎臓上の初代腫瘍を示し、一方、下列は、胸部上の初代腫瘍を示した。in vivoリアルタイムNIR蛍光画像化を用いると、HPPS粒子は、注射後24時間の期間に渡って、両方の初代腫瘍部位に集積することが明らかである。切除組織および腫瘍を画像化することによってもまた結果を検証した。全動物画像化に類似の方式で、ex vivo組織/腫瘍画像化を行った(深紅のフィルター(励起=671〜705nm、放出=750nm長光路(10nm段階で730〜950))および150m秒の曝露時間を用いて、Maestroイメージャー上で蛍光画像を獲得した)。
【0189】
F. FA(DiR−BOA)HPPSのin vitro研究: FA(DiR−BOA)HPPSの葉酸受容体(FR)ターゲティングを検証するため、HPPSを、FRを発現する細胞(KB細胞、ヒト類表皮癌細胞)およびFRを欠く細胞(HT−1080細胞、ヒト線維肉腫細胞)とインキュベーションした。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中で細胞培養実験を行った。共焦点画像化研究(図19)によって、FA(DiR−BOA)HPPS(1100ng/mL)と4時間インキュベーションした後、KB細胞細胞質全体に強いDiR−BOA蛍光が見られ、FRターゲティング化HPPSナノ粒子の高い取り込みが示された(上列)。FRが仲介するFA(DiR−BOA)HPPSの取り込みを、さらなる対照実験によって確認した。まず、KB細胞を過剰なFAと一緒にFA(DiR−BOA)HPPSとインキュベーションすると、FA(DiR−BOA)HPPSの取り込みは、FAによって競合的に阻害された(中列)。第二に、HT−1080細胞(FR陰性)には有意な蛍光は存在せず、FA(DiR−BOA)HPPSの貪欲な取り込みは、FRが仲介するプロセスに依存すると示唆される(下列)。総合すると、これらの知見は、FA(DiR−BOA)HPPSがFRに有効にターゲティングされた強い証拠を提供する。
【0190】
G. −4Fで形成される(DiR−BOA)HPPS(「(−4F)(DiR−BOA)HPPS」)のin vitro研究: HDLは、SR−B1(1型スカベンジャー受容体、HDL受容体としても知られる)をターゲティングし、そしてこれに結合する。HPPSがHDLのSR−B1特異性を模倣可能であり、そしてHPPSのコア構成要素は、SR−B1受容体が仲介する経路によって細胞に取り込まれうると考えられた。
【0191】
(−4F)(DiR−BOA)HPPSナノ粒子を、実施例3、パート4に示すように調製した。2つの細胞株: ldlA(mSR−B1)として知られるSR−B1+細胞株およびLDLA7(Krieger、MIT)として知られるSR−B1−細胞株を用いて、HPPSのコア物質(DiRBOA)がSR−B1経路を通じて細胞によって取り込まれるという仮説を検証した。カルボキシフルオレセイン標識リン脂質(DSPE−PEG−CF)(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[ポリ(エチレングリコール)2000−N’−カルボキシフルオレセイン])を用いて、SR−B1に結合した後のHPPSのリン脂質構成要素の運命を追跡した。同様に、フルオレセイン標識4Fペプチドを用いて、ペプチド構成要素の運命を追跡した(図20)。
【0192】
DSPE−PEG−CFをAvanti Lipidsから購入した。製造者の指示によって示唆されるように、HPPSのフルオレセイン標識を行った。簡潔には、上述のようにHPPSを調製し、そして0.1M炭酸ナトリウム緩衝液、pH9に対して透析した。FITC(Sigma)を1mg/mLの濃度で無水DMSOに溶解した。次いで、FITCを1:1(FITC:HPPSペプチド)のモル比でHPPSに添加した。HPPS溶液を穏やかにそして連続して攪拌しながら、FITCを非常にゆっくり添加した。HPPS−FITC溶液を暗所でインキュベーションして、そして反応を4℃で8時間続けた。この反応期間後、HPPSをTris緩衝生理食塩水に対して透析し、そしてFPLCによって未結合FITCを除去した。
【0193】
その間に、カーゴの運命を追跡するため、オレイン酸コレステリルを含むHPPS内に近赤外蛍光プローブDIR−BOAをコア装填した。HDLに基づく競合的阻害を用いて、フローサイトメトリーによって、SR−B1細胞によるHPPSカーゴの特異的取り込みを定量化した。共焦点画像化によって、各HPPS構成要素の細胞内運命を視覚化した。共焦点顕微鏡によって生成された三次元画像は、各標識構成要素が細胞の表面上にあってもまたは内部(細胞内区画)にあっても、その運命を位置決定することを可能にする。
【0194】
図21は、SR−B1受容体の(DiR−BOA)HPPSの特異性を立証する。簡潔には、SR−B1陽性および陰性細胞(それぞれ、ldlA(mSR−B1)およびLDLA7)、各々20,000を、LDLA7に関してはHams F−12培地(1%Penn/strep、2mM L−グルタミンおよび5%FBS)中で、そしてldlA(mSR−B1)に関してはHams F−12および+300μg/mL G418中で培養した。次いで、これらの細胞を(DiR−BOA)HPPS粒子(1100ng/mL)と3時間インキュベーションした。さらなる阻害実験において、細胞を(DiR−BOA)HPPSおよびHDL(50モル濃度過剰;400μg;2.2x10−4M)に曝露した。3時間インキュベーションした後、共焦点画像は、SR−B1陽性細胞(ldlA(mSR−B1))中で(DiR−BOA)HPPSの強い取り込みを示すが、SR−B1陰性細胞(LDLA7)中では示さない。さらに、過剰なHDLは、ldlA(mSR−B1)細胞における(DiR−BOA)HPPS取り込みを有効に阻害する。
【0195】
図22は、SR−B1に結合した後のHPPSの各構成要素の運命を例示する。同様に、10%ウシ胎児血清を含むRPMI 1640細胞培地中で20,000細胞(ldlA(mSR−B1))を培養した。FITC−脂質またはFITC−(−4F)(DiRBOA)HPPS(1100ng/mL)を細胞と1時間インキュベーションした。
【0196】
その後、共焦点画像化を用いて、ldlA(mSR−B1)細胞とのインキュベーション後のFITC−脂質(DiR−BOA)HPPSおよびFITC−(−4F)(DiR−BOA)HPPSの各構成要素の細胞内局在を同定した。HPPSは、SR−B1と結合可能であり、そしてサイトゾル内にDiR−BOAを直接放出する一方、大部分の標識−4Fペプチドおよびリン脂質は、細胞表面上にあるままであることが見出された。
【0197】
HPPSナノ粒子からのDiR−BOAの放出を図23にさらに示す。ldlA(mSR−B1)と(DiR−BOA)HPPSを3時間インキュベーションした後、DiR−BOAからの蛍光シグナルは、未洗浄細胞のサイトゾル内でのみ観察可能である。DiR−BOAはHPPSの小さいコア中で自己消光効果を経験するため、細胞外ではほとんどまたはまったくDiR−BOAシグナルは見られない。(DiR−BOA)HPPSがひとたびSR−B1に結合して、そしてターゲット細胞においてDiR−BOAを放出したならば、DiR−BOAシグナルのシグナル強度が増加する。細胞の細胞内体積がはるかに大きいため、DIR−BOA分子がサイトゾル全体に分散することが可能になり、そしてしたがって、自己消光効果が克服される。
【0198】
フローサイトメトリー研究を用いて、SR−B1およびSR−B1細胞株における(−4F)(DiR−BOA)HPPS取り込みを評価した。5x10細胞/ウェルを12ウェルプレート中で2〜3日間培養した。10%FBSを含むRPMI 1640培地を細胞培地として用いた。多様な条件下で細胞を5時間処理した。FC500を用いて、細胞蛍光強度を測定した。
【0199】
粒子の取り込みに対する−4Fペプチドの影響を研究するため、SR−B1およびSR−B1細胞株において、DiR−BOA、DMPCおよび−4Fから作製されるHPPSを、DiR−BOAおよびDMPCから作製されるエマルジョンと比較した。DiR−BOAの最終濃度は1,100ng/mLであった。
【0200】
図24は、(DiR−BOA)HPPS粒子の効率的な細胞取り込みのため、−4Fが必要であることを示す。(DiR−BOA)HPPSの1100ng/mL溶液およびDiR−BOAのペプチド不含エマルジョンをldlA(SR−B1)およびLDLA7細胞に3時間曝露した。LDLA7に関してはHams F−12培地(1%Penn/strep、2mM L−グルタミンおよび5%FBS)中で、そしてldlA(mSR−B1)に関してはHams F−12および+300μg/mL G418中で、細胞培養実験を行った。インキュベーション期間後、フローサイトメトリーによって細胞を調べた。SR−B1陽性細胞(ldlA(mSR−B1))は、DiR−BOAエマルジョンよりはるかに高いレベルの(DiR−BOA)HPPS(3.5x)を内部移行した。LDLA7(SR−B1陰性細胞)は、(DiR−BOA)HPPSまたはエマルジョンのいずれでも最小限の量しか取り込まなかった。
【0201】
図25は、ldlA(mSR−B1)細胞における−4F(DiR−BOA)HPPSの濃度依存取り込みを示す。ldlA(mSR−B1)に関して、0.2mLのHams F−12および+300μg/mL G418中で細胞培養実験を行った。SR−B1陽性細胞(ldlA(mSR−B1))を、13.8〜1100ng/mLの範囲の多様な濃度の−4F(DiR−BOA)HPPSと3時間インキュベーションした。フローサイトメトリー分析によって、−4F(DiR−BOA)HPPSの取り込みは、粒子のインキュベーション用量に比例することが明らかになった。増加する量の−4F(DiR−BOA)HPPSは、ldlA(mSR−B1)細胞で増加する量のDiR−BOAを生じた。ldlA(mSR−B1)細胞における−4F(DiR−BOA)HPPSの取り込み飽和は、440ng/mLで起こった。
【0202】
HDLは、(−4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みを用量依存方式で阻害する(図26)。ldlA(mSR−B1)に関して、0.2mLのHams F−12および+300μg/mL G418中で細胞培養実験を行った。ldlA(mSR−B1)細胞をHDLおよび(−4F)(DiR−BOA)HPPS(0:1〜50:1の範囲のモル比; HDL濃度は9.0x10−7〜2.2x10−4モル濃度の範囲であった)と3時間インキュベーションした。増加する濃度のHDLは、増加する有効性で、ldlA(mSR−B1)細胞における(−4F)(DiR−BOA)HPPS取り込みを阻害した。HDLの50:1モル濃度過剰で(−4F)(DiR−BOA)HPPS細胞取り込みのほぼ完全な阻害が観察された。これらの結果は、(−4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みをSR−B1が仲介することをさらに確認する。
【0203】
図27は、SR−B1細胞における(−4F)(DiR−BOA)HPPSの選択的取り込みならびにHDLによるこの取り込みの阻害をさらに例示する。2x10細胞/ウェルのSR−B1およびSR−B1細胞を、8ウェルカバースライドチャンバー中で2〜3日間培養した。10%FBSを含むRPMI 1640培地を細胞培地として用いた。共焦点研究の1日前、細胞培地を、FBSを含まないRPMI 1640培地に交換した。多様な条件下で細胞を5時間処理した。
【0204】
走査型共焦点顕微鏡もまた用いて、細胞における(−4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みを評価した(図27)。LDLA7に関してはHams F−12培地(1%Penn/strep、2mM L−グルタミンおよび5%FBS)中で、そしてldlA(mSR−B1)に関してはHams F−12および+300μg/mL G418中で、細胞培養実験を行った。簡潔には、2.39μg/mLの(−4F)(DiR−BOA)HPPSをldlA(mSR−B1)およびLDLA7細胞と3時間インキュベーションした。インキュベーション期間後、顕著な蛍光シグナルがldlA(mSR−B1)では観察されたが、LDLA7では観察されなかった。同様の阻害研究において、HDL(50倍過剰;2.2x10−4M)を(−4F)(DiR−BOA)HPPSと一緒にインキュベーションした。3時間インキュベーションした後、ldlA(mSR−B1)において蛍光は検出されず、HDLがldlA(mSR−B1)において(−4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みを完全に遮断したことを示した。LDLA7細胞では蛍光はまったく検出されなかった。
【0205】
図28は、ldlA(mSR−B1)細胞における(4Fおよび−4F)(DiR−BOA)HPPS取り込みの有効性を示す。ldlA(mSR−B1)に関して、0.2mLのHams F−12および+300μg/mL G418中で、細胞培養実験を行った。14〜220ng/mLの(4Fおよび−4F)(DiR−BOA)HPPSをldlA(mSR−B1)細胞と3時間インキュベーションした。フローサイトメトリーによって、HPPSのどちらの配合物も、用量依存方式で、ldlA(mSR−B1)細胞に取り込まれることが明らかになった。(−4F)(DiR−BOA)HPPSは、その4F対応物に比較して、わずかにより高い細胞取り込みを示した。
【0206】
H. −4Fで形成された(DiR−BOA)HPPS(「(−4F)(DiR−BOA)HPPS」)のin vivo研究: ヒトKB(SR−BI)腫瘍異種移植片を所持するヌードマウスに対して、Maestro系を用いたin vivo画像化を行った(図29)。−4F(DiR−BOA)HPPS(5.2nmol; 350μL tris−生理食塩水)の注射72時間後まで、光学画像を収集した。DiR−BOA蛍光シグナルは、早くも注射8時間後にKB腫瘍異種移植片中に選択的に局在することを見出すことが可能である。切除された臓器の蛍光画像もまた示す。
【0207】
I. (−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(ターゲティングリガンドとしての全長EGF)のin vitro研究: 異なるEGFR発現レベルを持つ癌細胞(A549:高発現、H520:低発現)に対して、共焦点顕微鏡研究を用いて、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのEGFRターゲティング特異性を調べた。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中で細胞培養実験を行った。簡潔には、1.0μMの(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSとインキュベーションしたA549およびH520細胞に対して共焦点研究を行った(ここに提示する濃度、ならびに以下のin vitroおよびin vivo実験中の濃度はDiR濃度である)。図30(a)は、A549細胞が、H520細胞よりも高い(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS取り込みを有することを示す。しかし、(−4F)(DiR−BOA)HPPSの取り込みもまた、H520細胞よりもA549細胞で高かったことに注目すべきである。A549およびH520の多様な表面受容体タンパク質のウェスタンブロット分析を行った(図30b)。EGFRは、H520細胞に比較して、A549細胞で過剰発現されていた。SR−B1発現は2つの細胞株間で同程度である一方、葉酸受容体レベルは、A549に比較してH520で過剰発現されているようである。
【0208】
(−4F)(DiR−BOA)HPPSおよび(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(1.0μM)を、H520、A549およびEGFR−GFP−A549細胞と3時間インキュベーションした。先に記載するように、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中で、細胞培養実験を行った。フローサイトメトリーデータによって、(−4F)(DiR−BOA)HPPSは、3つの細胞すべてに同等に取り込まれたことが示される。HDL(400μg)はまた、これらの細胞におけるこれらの粒子の取り込みを同等に阻害した(図31を参照されたい)。A549およびEGFR−GFP−A549における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みは、H520のものを非常に上回っていた。HDLの存在は、3つの細胞株において、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みを減少させたが排除はしなかった。A549およびEGFR−GFP−A549細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの残りの取り込みは、EGFR/SR−B1陽性細胞において、EGFRが仲介するこの粒子の取り込みを反映する。
【0209】
SR−B1の役割がEGF−HPPSの取り込みにどのように寄与しているのかを決定するため、SR−B1陰性細胞、LDLA7をEGFRおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子で同時トランスフェクションした。この実験は、SR−B1がEGF−HPPSの細胞取り込みに与えうるいかなる寄与も取り除く。先に記載するように、Hams F−12培地(1%Penn/strep、2mM L−グルタミンおよび5%FBS)中で、細胞培養実験を行った。(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(1.0μM)と3時間インキュベーションした後、EGFR−GFP−LDLA7細胞は、サイトゾル内でDiR−BOAの強いシグナルを示す一方、EGFRのGFPシグナルは、外部形質膜上に視覚化された(図32)。共焦点研究を行って、EGFR−GFP−LDLA7細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みに対するHDLの効果を評価した(図33)。GFPチャネルで見られるように、EGFRおよびGFPのトランスフェクションに成功したLDLA7細胞は、恒常的に蛍光を発現する。(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(1.0μM)で処理した後、DiRBOAシグナルは細胞内で検出可能である(DiRチャネル)。(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSでの処理中、過剰なHDL(400μg)を添加した際、DiRBOA由来の蛍光シグナルはなお、処理細胞全体で見られうる。EGFR−GFP−LDLA7細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS取り込みの度合いは、HDL競合を伴うものおよび伴わないもので類似である。したがって、HDLは、EGFR−GFP−LDLA7細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みに影響がない。これらの知見は、EGFR−GFP−LDLA7細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのEGFRが仲介する特異的な取り込みを立証する。
【0210】
EGFR−GFP−A549およびH520細胞を1.0μMの(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSと3時間インキュベーションした。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中で細胞培養実験を行った。3時間のインキュベーション期間後、共焦点画像化は、EGFR−GFP−A549細胞において強い蛍光を示した(図34)。過剰なHDLの存在は、これらの細胞において、蛍光シグナルをわずかに減少させた。過剰なHDLおよびEGFの組み合わせは、EGFR−GFP−A549細胞における蛍光シグナルを、細胞のみの対照で見られるものと類似のレベルまで顕著に減少させた。H520処理群はいずれもDiR−BOA蛍光を示さなかった。これは、H520がいかなる(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSも取り込まなかったことを示す。
【0211】
図35において、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(1.0μM)をA549およびH520細胞とインキュベーションした。10%ウシ胎児血清(FBS)を含むRPMI 1640細胞培地0.2mL中、細胞培養実験を行った。このインキュベーション期間中にHDL(400μg)もまた添加して、SR−B1が有しうる、取り込みプロセスに対するいかなる寄与も無効にした。HPPS曝露1時間、3時間および6時間後、細胞を監視した。HDLの存在下で、A549はH520よりもはるかに高い(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みを示したが、HDLの非存在下では(挿入図)、A549およびH520の間の蛍光シグナルの相違は顕著に減少した。これらの知見によって、SR−B1は、SR−B1/EGFR陽性細胞における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの取り込みに寄与することが示唆される。
【0212】
J. (−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(ターゲティングリガンドとしての全長EGF)のin vivo研究: 図36は、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(tris−生理食塩水中、5.2nmol)静脈内注射後の多様な時点で、A549およびH520腫瘍異種移植片を所持するヌードマウスのin vivo光学画像を示す。初期の注射後期間には、蛍光シグナルは動物全体で見られる。22時間までに、A549およびH520で局所的なシグナルが見られ、一方、体の残りの蛍光シグナルは非常に減少する。この強い蛍光シグナルは、研究期間全体でA549腫瘍で保持される;しかし、第3日までに、H520腫瘍中のシグナルは洗い流された。これらの結果によって、A549腫瘍におけるEGFRが、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSを集積させ、そして保持する一方、H520における取り込みは非特異的であり、そして一過性であったことが示唆される。
【0213】
K. KB腫瘍異種移植片における(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのin vivo研究: 図37Aは、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(tris−生理食塩水中、5.2nmol)のi.v.注射後、多様な時点での、KB腫瘍異種移植片を所持するヌードマウスのin vivo光学画像を示す。腫瘍組織のみがDiR−BOA蛍光によって増進され、48時間で最大に到達する。図37Bにおいて、(−4F)(DiR−BOA)HPPS(HPPS)(tris−生理食塩水中、5.2nmol)、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(EGF−HPPS)(tris−生理食塩水中、5.2nmol)およびEGF−HPPS+HDL(tris−生理食塩水中、5.2nmolおよび0.14μmol)粒子の生体分布を、KB異種移植片を所持するマウスにおいて評価した。生体分布プロフィールは、すべて、肝臓を除くすべての他の正常臓器に勝る、腫瘍におけるDiR−BOAの高い取り込みを示す。EGF−HPPSの腫瘍取り込みは、HPPSまたはEGF−HPPS+HDLのものより大きかった。図37Cにおいて、HPPS、(−4F)PEG(DiR−BOA)HPPS(PEG−HPPS)(PEG−HPPSは、図3に記載するプロトコルにしたがって合成された(EGFpを1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−2000](DSPE−PEG(2000)と交換した))およびEGF−HPPSを正常ヌードマウスにおいて決定した。すべての動物は、tris−生理食塩水中のそれぞれのナノ粒子5.2nmolを静脈内注射された。ナノ粒子注射前および注射後の多様な時点で、血液試料を収集した。DiR−BOAを血液試料から抽出し、そしてその蛍光を蛍光計上で決定した。循環半減期はおよそ14時間と決定され、現在の最適に設計されたナノキャリアと匹敵した。最後に、図37Dは、赤色蛍光タンパク質で安定にトランスフェクションされた二重KB腫瘍異種移植片を所持するマウスを示す。EGF−HPPS(tris−生理食塩水中、5.2nmol)の注射後、DiR−BOAの蛍光が赤色蛍光タンパク質のシグナルと緊密に重なることがわかる。これらの結果は、EGF−HPPSナノ粒子が、EGFRを発現する腫瘍を有効にターゲティング可能であることを示す。
【0214】
L. 非特異的組織集積に対する、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSのEGFRが仲介する特異的細胞取り込みのin vivo検証。
【0215】
KB(EGFR+)およびH520(EGFR−)腫瘍異種移植片を所持するヌードマウスに、天然HDL(tris−生理食塩水中、0.14μmol)、その直後に(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS(tris−生理食塩水中、5.2nmol)を、静脈内同時注射した。注射48時間後、マウスを屠殺し、そして腫瘍を切除した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で組織を洗浄し、そして次いで、40mgの各組織を続いて、「組織分析」に用いた。同様に、150mgの各組織を「細胞分析」に用いた。
【0216】
組織分析。セクションB(「EGFp(DiR−BOA)HPPSのin vivo研究」)に上述するように、組織試料をPBS中でホモジナイズし、その後、クロロホルム:メタノール抽出した。抽出物の組織蛍光を測定し、そして単位(mg)組織あたりの蛍光として提示した。
【0217】
細胞分析。ホモジナイズ後、ナイロンメッシュ(孔サイズ70μm)で試料をろ過して破片を取り除いた。次いで、ろ過試料(遊離細胞)をPBSで2回洗浄し、そして赤血球溶解緩衝液(0.1%重炭酸カリウム、0.8%塩化アンモニウム、0.1mM EDTA)で10分間処理して、赤血球を除去した。倒立顕微鏡を用いて、血球計数板で細胞を計数した。その後、細胞をクロロホルム:メタノールで抽出した(上述のとおり)。細胞抽出物の蛍光を測定し、そして百万細胞あたりの蛍光として提示した。
【0218】
組織および細胞レベルでの(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPS取り込みの比較を図38に提示する。組織レベルから見ると、KBおよびH520腫瘍異種移植片は、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSを同等の度合いまで集積する。逆に、細胞レベルで調べると、KB細胞は、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSをH520より高い度合いで(2x)取り込む。
【0219】
(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSの組織集積は、浸透性の増進および保持機構による粒子の細胞外捕捉、ならびに上皮細胞における粒子の細胞内取り込みの複合を反映する。細胞を単離し、そして細胞外因子からの寄与を取り除くと、異なる知見が現れる。EGFRが仲介するHPPSの取り込みのより明らかな概念が現れる。さらに、天然HDLの同時注射によって、HPPS取り込みに対するSRBIの寄与もまた最小限になる。総合すると、これらの知見は、(−4F)EGF(DiR−BOA)HPPSナノ粒子のEGFRターゲティング特異性を立証する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つのリン脂質;
b)少なくとも1つの不飽和脂質、好ましくは不飽和ステロールエステル、さらに好ましくは不飽和コレステロールエステル、さらに好ましくはオレイン酸コレステリル;および
c)少なくとも1つの両親媒性αらせんを形成可能なアミノ酸配列を含む、少なくとも1つのペプチド
を含み、
構成要素a)、b)およびc)が会合して、ペプチド−リン脂質ナノ足場を形成する
非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項2】
d)少なくとも1つのホーミング分子
をさらに含み;そして
構成要素a)、b)、c)およびd)が会合して、ペプチド−リン脂質ナノ足場を形成する
請求項1のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項3】
少なくとも1つのホーミング分子が、少なくとも1つのリン脂質に共有結合している、請求項2のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項4】
少なくとも1つのホーミング分子が少なくとも1つのペプチドに共有結合している、請求項2のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項5】
少なくとも1つのホーミング分子が、両親媒性αらせんの親水性面および疎水性面の間の移行部分またはその近傍のアミノ酸で、ペプチドに結合している、請求項4のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項6】
ホーミング分子に結合するペプチドのアミノ酸が、リジン、システイン、スレオニンおよびセリンからなる群より選択される、好ましくはリジンである、請求項5のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項7】
少なくとも1つのホーミング分子が、少なくとも1つの活性細胞表面受容体リガンドである、請求項2〜6のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項8】
e)少なくとも1つの活性剤
をさらに含み;そして
構成要素a)、b)、c)、d)およびe)が会合して、ペプチド−脂質ナノ足場を形成する
請求項7のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項9】
ペプチドが、クラスA、H、LおよびM両親媒性αらせん、その断片、ならびに前記クラスA、H、LおよびM両親媒性αらせんまたはその断片の逆ペプチド配列を含むペプチドからなる群より選択される、請求項8のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項10】
ペプチドが、2F、4F、2Fの逆配列および4Fの逆配列からなる群より選択される、請求項8のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項11】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、6〜30アミノ酸の間の長さである、請求項8〜10のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項12】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、8〜28アミノ酸の間の長さである、請求項11のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項13】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、10〜24アミノ酸の間の長さである、請求項12のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項14】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、11〜22アミノ酸の間の長さである、請求項13のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項15】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、14〜21アミノ酸の間の長さである、請求項14のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項16】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、16〜20アミノ酸の間の長さである、請求項15のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項17】
少なくとも1つの両親媒性αらせんまたはペプチドが、18アミノ酸の長さである、請求項16のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項18】
リン脂質が、ホスファチジルコリン(好ましくはDMPC(1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、POPC(1−パルミトイル−1−オレオイル−ホスファチジルコリン)およびEYPC(卵黄ホスファチジルコリン))、リゾホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールおよび前述のものの組み合わせからなる群より選択される、請求項8〜17のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項19】
直径5〜50nmの間である、請求項8〜18のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項20】
直径5〜40nmの間である、請求項19のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項21】
直径5〜30nmの間である、請求項20のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項22】
直径5〜25nmの間である、請求項21のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項23】
直径5〜20nmの間である、請求項22のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項24】
直径10〜15nmの間である、請求項23のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項25】
少なくとも1つの活性剤が少なくとも1つの脂質アンカーに結合している、請求項8〜24のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項26】
少なくとも1つの活性剤が、エステル結合によって、少なくとも1つの脂質アンカーに結合している、請求項25のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項27】
少なくとも1つの脂質アンカーが、オレイン酸コレステロール部分、ラウリン酸コレステリル部分、フィトール部分、ならびに好ましくはオレイン酸部分および不飽和コレステロール−エステル部分からなる群より選択される、請求項25および26のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項28】
細胞表面受容体リガンドが、癌細胞において過剰発現される受容体のリガンドである、請求項8〜27のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項29】
細胞表面受容体リガンドが、心臓血管斑において過剰発現される受容体のリガンドである、請求項8〜27のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項30】
細胞表面受容体リガンドが、葉酸、Her−2/neu、インテグリン、EGFR、メタスチン、ErbB、c−Kit、c−Met、CXR4、CCR7、エンドセリン−A、PPAR−デルタ、PDGFR A、BAG−i、およびTGFベータからなる群より選択される受容体のリガンドである、請求項28のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項31】
インテグリン受容体がvl33である、請求項30のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項32】
細胞表面受容体リガンドが葉酸受容体リガンドである、請求項30のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項33】
細胞表面受容体が特定の組織をターゲティングする、請求項8〜27のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項34】
組織が、肺、皮膚、血液、膵臓、網膜、前立腺、卵巣、リンパ節、副腎、肝臓、乳房、消化器系、および腎臓である、請求項33のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項35】
ホーミング分子が、ペプチド、アプタマー、抗体および抗体断片からなる群より選択される、請求項8のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項36】
細胞表面受容体リガンドが抗体断片であり、そしてFab領域を含む、請求項35のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項37】
活性剤が親油性化合物である、請求項8〜36のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項38】
親油性化合物が、アセトアニリド、アニリド、アミノキノリン、ベンズヒドリル化合物、ベンゾジアゼピン、ベンゾフラン、カンナビノイド、環状ペプチド、ジベンザゼピン、ジギタリスグリコシド、麦角アルカロイド、フラボノイド、イミダゾール、キノリン、マクロライド、ナフタレン、オピエート(またはモルフィナン)、オキサジン、オキサゾール、フェニルアルキルアミン、ピペリジン、ポリ環状芳香族炭化水素、ピロリジン、ピロリジノン、スチルベン、スルホニル尿素、スルホン、トリアゾール、トロパン、およびymcaアルカロイドからなる群より選択される、請求項37のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項39】
親油性化合物が、少なくとも10の炭素を含む少なくとも1つの炭化水素鎖を含み、該炭化水素鎖が、少なくとも1つのシス二重結合を含むか、または少なくとも1つの側鎖によって分枝する、請求項38のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項40】
親油性化合物が、少なくとも1つのオレイン酸部分、オレイン酸コレステロール部分、ラウリン酸コレステリル部分またはフィトール部分を含む、請求項38のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項41】
活性剤が、親油性および親水性構成要素を含む分子である、請求項8〜36のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項42】
活性剤が、診断剤、画像化剤または療法剤である、請求項8〜36のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項43】
活性剤が診断剤である、請求項42のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項44】
診断剤が、造影剤、放射性標識および蛍光標識からなる群より選択される、請求項43のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項45】
診断剤が造影剤である、請求項44のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項46】
造影剤が、光学造影剤、MRI造影剤、超音波造影剤、X線造影剤および放射性核種からなる群より選択される、請求項45のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項47】
造影剤が光学造影剤である、請求項46のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項48】
造影剤がMRI造影剤である、請求項46のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項49】
MRI造影剤が酸化鉄またはランタニドに基づく、請求項48のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項50】
MRI造影剤がランタニドに基づく、請求項49のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項51】
ランタニドに基づくものがガドリニウム(Gd3)金属である、請求項50のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項52】
活性剤が療法剤である、請求項42のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項53】
療法剤が抗癌剤である、請求項52のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項54】
抗癌剤が、化学療法剤、光線力学的療法剤、ホウ素中性子捕獲療法剤または放射線療法用の放射性核種からなる群から選択される、請求項53のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項55】
抗癌剤が光線力学的療法剤である、請求項54のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項56】
光線力学的療法剤が、ポルフィリン、ポルフィリン異性体、および拡張ポルフィリンからなる群より選択される、請求項55のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項57】
光線力学的療法剤が、SiNc−BOA、SiPc−BOA、およびピロフェオホルビド−コレステロールエステル(Pyro−CE)からなる群より選択される、請求項56のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項58】
抗癌剤が化学療法剤である、請求項54のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項59】
抗癌剤が、アルキル化剤、アントラサイクリン、抗生物質、アロマターゼ阻害剤、ビスホスホネート、シクロ−オキシゲナーゼ阻害剤、エストロゲン受容体調節剤、葉酸アンタゴニスト、無機ヒ酸塩、微小管阻害剤、修飾剤、ニトロソ尿素、ヌクレオシド類似体、破骨細胞阻害剤、白金含有化合物、レチノイド、トポイソメラーゼ1阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、上皮増殖因子阻害剤およびヒストン脱アセチル化酵素阻害剤からなる群より選択される、請求項53のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項60】
化学療法剤が、パクリタキセル、シクロホスホラミド、ドコサヘキサエン酸(DHA)−パクリタキセル・コンジュゲート、ベツリン酸、およびドキソルビシンからなる群より選択される、請求項58のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項61】
療法剤が、抗緑内障薬剤、抗血餅剤、抗炎症薬剤、抗喘息剤、抗生物質、抗真菌または抗ウイルス薬剤である、請求項52のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項62】
療法剤が抗緑内障薬剤である、請求項61のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項63】
抗緑内障薬剤が、チモロールに基づくもの、ベタキソロール、アテノロール、レボブノロール(livobunolol)などのβ−ブロッカー、エピネフリン、ジピバリル、オキソノロール、アセタゾラミドに基づくものおよびメタゾラミド(methzolamide)からなる群より選択される、請求項62のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項64】
療法剤が抗炎症薬剤である、請求項61のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項65】
抗炎症薬剤がステロイド性薬剤である、請求項64のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項66】
ステロイド性薬剤がコルチゾンまたはデキサメタゾンである、請求項65のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項67】
抗炎症薬剤が非ステロイド性薬剤である、請求項64のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項68】
非ステロイド性抗炎症薬剤(NTHE)が、ピロキシカム、インドメタシン、ナプロキセン、フェニルブタゾン、イブプロフェンおよびジクロフェナク酸からなる群より選択される、請求項67のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項69】
療法剤が抗喘息剤である、請求項61のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項70】
抗喘息剤がプレドニゾロンまたはプレドニゾンである、請求項69のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項71】
療法剤が抗生物質である、請求項61のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項72】
抗生物質がクロラムフェニコールである、請求項71のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項73】
抗生物質が、ニスタチン、アンホテリシンB、ミコナゾール、AcyclovirTMからなる群より選択される、請求項71のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項74】
アミノ酸配列が、順方向または逆方向で、アポタンパク質の連続するアミノ酸を含む、請求項1〜73のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項75】
アポタンパク質が、アポB−100、アポB−48、アポC、アポEおよびアポAからなる群より選択される、請求項74のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項76】
少なくとも1つの活性剤がアプタマーである、請求項8〜28のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項77】
少なくとも1つの活性剤が二本鎖RNAである、請求項8〜36のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項78】
少なくとも1つの活性剤がsiRNAである、請求項77のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項79】
1以上のトリアシルグリセロールをさらに含む、請求項1〜78のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項80】
ステロール、ステロールエステル、またはその組み合わせをさらに含む、請求項1〜78のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項81】
ステロールまたはステロールエステルが、コレステロール、オレイン酸コレステロールおよび不飽和コレステロールエステルからなる群より選択される、請求項80のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項82】
請求項1〜81のいずれか一項の非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を含む、薬学的配合物。
【請求項83】
ペプチド−脂質ナノ足場を形成するのに適した条件下で、構成要素a)〜e)を合わせる工程を含む、請求項8〜82のいずれか一項の非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場を作製する方法。
【請求項84】
a)少なくとも1つのリン脂質;
b)少なくとも1つの不飽和脂質、好ましくは不飽和ステロールエステル、さらに好ましくは不飽和コレステロールエステル、さらに好ましくはオレイン酸コレステリル;
c)少なくとも1つのペプチド;
d)少なくとも1つのホーミング分子;および
e)二本鎖RNAを含む少なくとも1つの活性剤
を含み、活性細胞表面受容体リガンドが、少なくとも1つのペプチドに共有結合し、そして構成要素a)、b)、c)、d)およびe)が会合して、ペプチド−リン脂質ナノ足場を形成する
非天然存在ペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項85】
二本鎖RNAがsiRNAである、請求項84のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項86】
二本鎖RNAが、オレイン酸コレステロール部分、ラウリン酸コレステリル部分、フィトール部分、ならびに好ましくはオレイン酸部分および不飽和コレステロール−エステル部分からなる群より選択される少なくとも1つの脂質アンカーに結合している、請求項85のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項87】
少なくとも1つのペプチドが、両親媒性αらせんを形成可能なアミノ酸配列を含む、請求項84〜86のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項88】
少なくとも1つのペプチドがアポタンパク質であり、そして活性細胞表面受容体リガンドが低密度リポタンパク質受容体リガンドまたは高密度リポタンパク質受容体リガンドではない、請求項84〜86のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項89】
細胞表面受容体リガンドがHIV感染細胞において発現される受容体のリガンドである、請求項8〜27のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項90】
活性剤がsiRNAである、請求項89のペプチド−脂質ナノ足場。
【請求項91】
疾患を防止するかまたは治療する方法であって、請求項52〜73のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場の療法量を投与する工程を含み、該疾患が、該療法剤で防止可能または治療可能である、前記方法。
【請求項92】
疾患を防止するかまたは治療するための請求項52〜73のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場の使用であって、該疾患が該療法剤で防止可能または治療可能である、前記使用。
【請求項93】
疾患を防止するかまたは治療するための薬剤調製における、請求項52〜73のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場の使用であって、該疾患が該療法剤で防止可能または治療可能である、前記使用。
【請求項94】
被験体において疾患を診断する方法であって、請求項43〜51のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場を被験体に投与する工程を含む、前記方法。
【請求項95】
被験体において疾患を診断するための、請求項43〜51のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場の使用。
【請求項96】
請求項1のペプチド−脂質ナノ足場を投与することを含む、SR−B1受容体の過剰発現と関連する疾患を防止するかまたは治療する方法であって、該ペプチド−脂質ナノ足場がさらに療法剤を含み、そして該疾患が該療法剤で防止可能または治療可能である、前記方法。
【請求項97】
疾患が癌、好ましくは乳癌である、請求項96の方法。
【請求項98】
SR−B1受容体の過剰発現と関連する疾患を防止するかまたは治療するための請求項1のペプチド−脂質ナノ足場の使用であって、該ペプチド−脂質ナノ足場がさらに療法剤を含み、そして該疾患が該療法剤で防止可能または治療可能である、前記使用。
【請求項99】
SR−B1受容体の過剰発現と関連する疾患を防止するかまたは治療するための薬剤製造における、請求項1のペプチド−脂質ナノ足場の使用であって、該ペプチド−脂質ナノ足場がさらに療法剤を含み、そして該疾患が該療法剤で防止可能または治療可能である、前記使用。
【請求項100】
疾患が癌、好ましくは乳癌である、請求項98または99の方法。
【請求項101】
少なくとも1つの活性剤が遺伝子またはその機能的同等物である、請求項8〜36のいずれか一項のペプチド−脂質ナノ足場。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図10】
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【図13】
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【図14】
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【図25】
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【図26】
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【図38】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公表番号】特表2011−507807(P2011−507807A)
【公表日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537225(P2010−537225)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【国際出願番号】PCT/CA2008/002203
【国際公開番号】WO2009/073984
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(510166124)ユニバーシティ・ヘルス・ネットワーク (3)
【Fターム(参考)】