AlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法
【課題】結晶性を向上するAlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法を提供する。
【解決手段】AlN結晶10の製造方法は、AlN下地基板11を準備する工程と、AlN下地基板11上にAlN結晶10を成長する工程と、AlN結晶10からAlN下地基板11を分離する工程とを備えている。AlN下地基板11およびAlN結晶10の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上である。AlN下地基板11およびAlN結晶10の他方は、220nm以上280nm以下の波長の少なくとも一部の波長域の光に対して吸収係数が100cm-1未満である。上記分離する工程では、AlN下地基板11およびAlN結晶10のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する。
【解決手段】AlN結晶10の製造方法は、AlN下地基板11を準備する工程と、AlN下地基板11上にAlN結晶10を成長する工程と、AlN結晶10からAlN下地基板11を分離する工程とを備えている。AlN下地基板11およびAlN結晶10の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上である。AlN下地基板11およびAlN結晶10の他方は、220nm以上280nm以下の波長の少なくとも一部の波長域の光に対して吸収係数が100cm-1未満である。上記分離する工程では、AlN下地基板11およびAlN結晶10のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はAlN(窒化アルミニウム)結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN結晶は、6.2eVのエネルギバンドギャップ、約3.3WK-1cm-1の熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、光デバイスや電子デバイスなどの基板材料として注目されている。
【0003】
このようなAlN結晶を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法が、たとえば特表2007−536732号公報(特許文献1)に開示されている。具体的には、炭化珪素(SiC)基板上にInGaN(窒化インジウムガリウム)などよりなるリフトオフ層を形成し、このリフトオフ層上にIII族窒化物半導体結晶としてのエピタキシャル層を形成している。その後、SiC基板またはIII族窒化物半導体結晶には吸収されず、かつリフトオフ層に吸収させる光をリフトオフ層に照射する。リフトオフ層に光を吸収させて、リフトオフ層が加熱および消失することで、SiC基板とIII族窒化物半導体結晶とを分離している。このように、下地基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させて、下地基板を除去することにより、III族窒化物半導体結晶を製造している。
【特許文献1】特表2007−536732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、SiCとIII族窒化物との結晶格子整合が近いので、SiC基板を用いることで一般的に高品質なIII族窒化物半導体結晶を製造できることが開示されている。しかしながら、SiCとAlNとは材料が異なるので、SiCとAlNとの結晶格子整合は一致しない。このため、SiC基板上にAlN結晶を成長させると、AlN結晶の結晶性は十分でないという問題がある。
【0005】
そこで、AlN基板上にAlN結晶を成長させる技術が考えられる。しかし、この技術に上記特許文献1に開示の光を照射する技術を適用すると、AlN基板とAlN結晶とには同様に光が吸収されるので、AlN基板のみに光を吸収させることは困難である。このため、下地基板を除去できないという問題がある。
【0006】
さらに別の技術として、AlN基板上にAlN結晶を成長させた後、スライス、研磨などの機械的な方法で下地基板を除去する方法が考えられる。しかし、機械的な方法で下地基板を除去すると、AlN結晶に応力が加えられる。このため、AlN結晶が割れやすく、AlN結晶にクラックが生じるなどAlN結晶の結晶性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶性を向上するAlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、AlN結晶の結晶性を向上するために、下地基板としてAlN基板を用いたときに、光を照射することによりAlN下地基板とAlN結晶とを分離する条件について鋭意研究した。その結果、AlNの吸収係数が100cm-1以上の場合に、AlNに光を照射すると、AlN中のA(アルミニウム)原子とN(窒素)原子とが効果的に分解しやすいことを見い出した。
【0009】
そこで、本発明のAlN結晶の製造方法は、AlN下地基板を準備する工程と、AlN下地基板上にAlN結晶を成長する工程と、AlN結晶からAlN下地基板を分離する工程とを備えている。AlN下地基板およびAlN結晶の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上である。AlN下地基板およびAlN結晶の他方は、220nm以上280nm以下の波長の光の少なくとも一部の波長域において吸収係数が100cm-1未満である。上記分離する工程では、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する。
【0010】
本発明のAlN結晶の製造方法によれば、AlN下地基板上にAlN結晶を成長させている。下地基板と成長させる結晶とが同じ組成であるため、結晶格子整合の差によるAlN結晶の結晶性の低下を抑制することができる。
【0011】
さらに、AlN下地基板およびAlN結晶の一方の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上である。吸収係数が100cm-1以上のAlN下地基板およびAlN結晶の一方に光を照射すると、この一方には光が吸収される。これにより、この一方の温度が上昇して、Al原子とN原子との結合が解除され、N原子がAlNから解離する。また、AlN下地基板およびAlN結晶の他方の220nm以上280nm以下の波長の光の少なくとも一部の領域における吸収係数が100cm-1未満である。これにより、吸収係数が100cm-1未満の他方に光を照射しても、光の吸収が抑制され、温度の上昇が抑制される。このため、この他方では、Al原子とN原子との結合が解除されることが抑制されるので、結晶性の劣化を抑制できる。したがって、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方(220nm以上280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるAlN下地基板およびAlN結晶の他方)側から吸収係数が高い一方(280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるAlN下地基板およびAlN結晶の他方)側に向けて光を照射することにより、一方における他方との界面近傍でNの解離を促進することができる。その結果、AlN下地基板およびAlN結晶の界面近傍で、互いに分離することができる。よって、応力を加えずにAlN結晶からAlN下地基板を分離することができるので、製造するAlN結晶の結晶性の低下を抑制することができる。
【0012】
以上より、結晶性を向上したAlN結晶から、応力を加えずにAlN下地基板を分離することができる。よって、結晶性を向上したAlN結晶を製造することができる。
【0013】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、上記分離する工程では、300nm以下の波長の光を照射する。
【0014】
これにより、AlN下地基板またはAlN結晶のうち、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上である一方のAl原子とN原子とを、より効果的に分解しやすい。このため、AlN下地基板とAlN結晶とをより容易に分離することができるので、結晶性を向上したAlN結晶をより容易に製造することができる。
【0015】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、上記成長する工程では、1×107cm-2以下の転位密度を有するAlN結晶を成長する。
【0016】
本発明では、AlN下地基板上にAlN結晶を成長しているので、格子不整合を抑制することができる。このため、上記のように転位密度の低いAlN結晶を成長することができる。
【0017】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、AlN下地基板およびAlN結晶の一方は、2ppm以上の14族元素を含む。
【0018】
これにより、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるAlN下地基板またはAlN結晶を実現することができる。
【0019】
なお、本明細書において、「14族」とは、旧IUPAC(The International Union of Pure and Applied Chemistry)方式のIVA族を意味する。すなわち、14族元素とは、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Zn)、鉛(Pb)およびウンウンクアジウム(Uuq)の少なくとも1つの元素を含む。
【0020】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、準備する工程では、200μm以上の厚みを有する下地基板を準備する。
【0021】
これにより、下地基板の結晶性を向上することができる。このため、この下地基板上に成長するAlN結晶の結晶性をより向上することができる。
【0022】
本発明のAlN基板の製造方法は、上記いずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、異種基板上にこのAlN結晶を形成する工程とを備えている。
【0023】
本発明のAlN基板の製造方法によれば、異種基板上に結晶性を向上したAlN結晶を形成している。このため、異種基板として安価な基板を用いると、コストを低減し、かつ結晶性を向上したAlN結晶を備えたAlN基板を製造することができる。
【0024】
本発明の圧電振動子の製造方法は、上記AlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、AlN結晶に電極層を形成する工程とを備えている。
【0025】
本発明の圧電振動子の製造方法によれば、結晶性を向上したAlN結晶を用いている。これにより、電気機械結合係数kt2および音響品質係数(Q値)が優れた圧電振動子を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のAlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法によれば、AlN結晶と同じ組成の下地基板を用いているため、結晶性の低下を抑制したAlN結晶を成長することができる。また、吸収係数が10cm-1未満であるAlN下地基板およびAlN結晶のの他方側から、吸収係数が10cm-1以上であるAlN下地基板およびAlN結晶の一方へ光を照射することにより、結晶性の劣化を抑制して、AlN下地基板とAlN結晶とを分離することができる。よって、結晶性を向上したAlN結晶、AlN基板および圧電振動子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶10について説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態におけるAlN結晶10は、300nm以下の波長の光に対する吸収係数が10cm-1未満であり、7cm-1以下であることが好ましい。
【0030】
なお、上記吸収係数は、たとえば紫外可視分光光度計にて透過率を測定してAlN結晶の厚みより算出される値である。
【0031】
AlN結晶10は、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有している。この場合、このAlN結晶10を用いてデバイスを作製したときに特性を向上することができる。
【0032】
なお、上記転位密度は、たとえば溶融KOH(水酸化カリウム)中のエッチングによりできるピットの個数を数えて、単位面積で割るという方法によって測定することができる。
【0033】
AlN結晶10の形状は特に限定されないが、たとえば200μm以下の厚みを有する薄膜であり、200μm以上のバルク結晶の場合もより好ましく用いることができる。
【0034】
図2は、本実施の形態におけるAlN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶10の製造方法について説明する。
【0035】
図3は、本実施の形態における下地基板を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、AlN下地基板11を準備する(ステップS1)。本実施の形態では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上、好ましくは1000cm-1以上、より好ましくは10000cm-1以上であるAlN下地基板11を準備する。また好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有しているAlN下地基板11を準備する。この場合、このAlN下地基板11上に、転位密度の低いAlN結晶10を成長することができる。
【0036】
具体的には、AlN下地基板11を成長させるための下地基板を準備する。この下地基板はAlNであってもよく、AlN以外の材料よりなる異種基板であってもよい。この下地基板上にAlN下地基板11を成長させる。成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などを採用することができる。このAlN下地基板11から必要に応じて下地基板を除去する。
【0037】
100cm-1以上の吸収係数を有するAlN下地基板11を準備するために、2ppm以上の14族元素を含むようにAlN下地基板11を成長することが好ましい。たとえばAlN下地基板11を成長させる際に、原料中のAlNに対して2ppm以上の14族元素を添加した原料を準備する。原料に含まれる14族元素の上限はたとえば0.1%である。14族元素の供給源としては、SiおよびCの少なくとも一方が好適に用いられ、SiCを原料のAlNに混合させることが好ましい。
【0038】
また、AlN下地基板11を成長させる際には、好ましくは200μm以上、より好ましくは1mm以上の厚みH11を有するように成長する。200μm以上の厚みH11を有するようにAlN下地基板11を成長させると、AlN下地基板11の結晶性を向上することができ、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するAlN結晶とすることができる。なお、200μm以上の厚みを有するAlN結晶を成長させて、所定の厚みH11を有するAlN下地基板11を切り出してもよい。
【0039】
また、AlN下地基板11の主表面11aは、たとえば2インチ以上の大きさを有している。これにより、大口径のAlN結晶10を成長させることができる。
【0040】
なお、AlN下地基板11を準備する方法は、これに特に限定されず、任意の方法で準備される。
【0041】
図4は、本実施の形態においてAlN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図4に示すように、AlN下地基板11の主表面11a上にAlN結晶10を成長する(ステップS2)。このステップS2では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満、好ましくは7cm-1以下のAlN結晶10を成長する。
【0042】
AlN結晶10の成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE法、MBE法、MOCVD法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などを採用することができる。100cm-1未満の吸収係数を有するAlN結晶10を成長するために、たとえば高い純度を有する原料を準備することが好ましい。
【0043】
成長するステップS2では、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するようにAlN結晶10を成長する。本実施の形態では、成長するAlN結晶10とAlN下地基板11との格子不整合率の違いにより転位密度が高くなることを抑制することができるので、このように転位密度の低いAlN結晶10を成長することができる。なお、転位密度は低いほど好ましいが、製造が容易である観点から、転位密度の下限値はたとえば1×102cm-2程度である。
【0044】
また成長するステップS2では、好ましくは光の透過率が50%以上、特に280nm以下の波長の光の透過率が50%以上になるようにAlN結晶10を成長する。このような透過率を有するために、たとえば成長するAlN結晶10の膜厚を調整することが好ましい。
【0045】
本実施の形態では、成長させるステップS2では、コスト低減の観点および透過率を高める観点から、薄膜のAlN結晶10を成長する。
【0046】
図5は、本実施の形態においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。図6は、本実施の形態においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2、図5および図6に示すように、AlN下地基板11からAlN結晶10を分離する(ステップS3)。このステップS3では、AlN下地基板11およびAlN結晶10のうち吸収係数が低い他方側であるAlN結晶10側から、吸収係数が高い一方側であるAlN下地基板11に向けて光を照射している。本実施の形態では、AlN結晶10の成長表面の上方から、AlN結晶10とAlN下地基板11との全ての界面に向けて光を照射している。
【0047】
照射する光は、好ましくは300nm以下、より好ましくは266nm以下の波長を有している。このような光を照射するための光源として、たとえばレーザが用いられる。
【0048】
このように吸収係数の低いAlN結晶10側から光を照射すると、AlN結晶10の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるので、AlN結晶10では光がほとんど吸収されず、透過される。このため、AlN結晶10へ光を照射しても、AlN結晶10の良好な結晶性への影響を低減できる。一方、AlN下地基板11の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるので、AlN結晶10を透過した光は、AlN結晶10との界面に位置するAlN下地基板11で吸収される。これにより、AlN下地基板11においてAlN結晶10との界面近傍の領域の温度が上昇して、AlN下地基板11中のAl原子とN原子との結合が解除され、N原子が解離する。その結果、AlN下地基板11とAlN結晶10とが分離する。つまり、機械的な応力を加えずに、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去することができる。
【0049】
以上のステップS1〜S3を実施することにより、図1に示すAlN結晶10を製造することができる。なお、AlN結晶10と分離したAlN下地基板11を、別のAlN結晶10を成長させるための下地基板として再利用して、上述したステップS2およびS3を実施することにより、1枚のAlN下地基板11から複数枚のAlN結晶10を製造することができる。
【0050】
このように製造されたAlN結晶10は、AlN下地基板11上に成長しているので、結晶性を向上できる。さらに、AlN結晶10は機械的な応力が加えられずに製造されているので、AlN下地基板11の除去に伴うAlN結晶10の結晶性の劣化を抑制できる。したがって、本実施の形態によれば、結晶性を向上したAlN結晶10を実現できる。
【0051】
また、本実施の形態では、研磨、スライスなどの機械的な加工の場合のように、除去する厚みを上乗せしてAlN結晶を成長する必要がない。このため、除去するAlN結晶の材料費を削減できる。したがって、本実施の形態におけるAlN結晶10の製造方法は、コスト面においても有利である。
【0052】
このように結晶性を向上し、かつコストを低減して減製造されたAlN結晶10は、たとえば発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、圧電アクチュエータ等のデバイス用の基板などに好適に用いることができる。
【0053】
(実施の形態2)
図7は、本実施の形態におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。図7を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶15について説明する。
【0054】
図1に示すように、本実施の形態におけるAlN結晶15は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であり、1000cm-1以上であることが好ましい。
【0055】
AlN結晶15の転位密度は、実施の形態1と同様で、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下である。また、AlN結晶10の形状は特に限定されないが、たとえば実施の形態1と同様に薄膜である。
【0056】
続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶15の製造方法について説明する。本実施の形態におけるAlN結晶15の製造方法は、基本的には実施の形態1におけるAlN結晶10の製造方法と同様であるが、AlN結晶15は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上(一方)であり、AlN下地基板16は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満である(他方)点において、実施の形態1と異なっている。つまり、本実施の形態では、AlN結晶15の吸収係数がAlN下地基板16の吸収係数よりも低く、AlN下地基板16(他方)側から光を照射している点において異なっている。
【0057】
具体的には、まず、AlN下地基板16を準備する(ステップS1)。本実施の形態では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満、好ましくは7cm-1以下であるAlN下地基板16を準備する。AlN下地基板16を準備する方法は、たとえば含まれる不純物の濃度を低く、つまり原料の純度を高めた原料を用いて製造される点において実施の形態1と異なる。
【0058】
また、準備するステップS1では、好ましくは光の透過率が50%以上、特に280nm以下の波長の光の透過率が50%以上になるようにAlN下地基板11を準備することが好ましい。
【0059】
次に、AlN下地基板16上にAlN結晶15を成長する(ステップS2)。このステップS2では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上、好ましくは1000cm-1以上のAlN結晶15を成長する。
【0060】
このようなAlN結晶15を成長する方法として、2ppm以上の14族元素を含むようにAlN結晶15を成長することが好ましい。たとえばAlN結晶15を成長させる際に、AlN結晶15が2ppm以上の14族元素を含むように、AlN結晶15の原料を準備する。原料に含まれる14族元素の上限はたとえば0.1%である。14族元素の供給源としては、SiおよびCの少なくとも一方が好適に用いられ、SiCを原料のAlNに混合させることが好ましい。この不純物の場合、100cm-1以上の吸収係数を有するAlN結晶15を成長できるとともに、成長したAlN結晶15の転位密度を低く維持できる。
【0061】
成長するステップS2では、実施の形態1と同様に、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するようにAlN結晶10を成長する。また、成長させるステップS2では、実施の形態1と同様に、コスト低減の観点から、薄膜のAlN結晶10を成長する。
【0062】
図8は、本実施の形態においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。図8は、本実施の形態においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図8に示すように、AlN下地基板16からAlN結晶15を分離する(ステップS3)。このステップS3では、AlN下地基板16およびAlN結晶15のうち吸収係数が低い他方側であるAlN下地基板16側から、吸収係数の高い一方側であるAlN結晶15へ光を照射している。照射する光は、実施の形態1と同様に、好ましくは300nm以下、より好ましくは266nm以下の波長を有している。
【0063】
このようにAlN下地基板16側から光を照射すると、AlN下地基板16の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるので、AlN下地基板16では光がほとんど吸収されず、透過される。AlN結晶15の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるので、AlN下地基板16を透過した光は、AlN下地基板16との界面に位置するAlN結晶15で吸収される。これにより、AlN下地基板16との界面近傍のAlN結晶15の温度が上昇して、Al原子とN原子との結合が解除され、N原子が解離する。その結果、AlN下地基板16とAlN結晶15とが分離する。つまり、機械的な応力を加えずに、AlN結晶15からAlN下地基板16を除去することができる。
【0064】
以上のステップS1〜S3を実施することにより、図7に示すAlN結晶15を製造することができる。
【0065】
(実施の形態3)
図9は、本実施の形態におけるAlN基板を概略的に示す断面図である。図9を参照して、本実施の形態におけるAlN基板20を説明する。
【0066】
図9に示すように、AlN基板20は、異種基板21と、この異種基板21上に形成された接続層22と、この接続層22上に形成されたAlN結晶10とを備えている。
【0067】
AlN結晶10は、実施の形態1のAlN結晶10と同様である。なお、AlN結晶10の代わりに、実施の形態2のAlN結晶15を用いてもよい。異種基板21はAlNと異なる材料であり、AlNよりもコストが低い材料であることが好ましく、たとえばSi基板、サファイア基板などが好適に用いられる。
【0068】
続いて、本実施の形態におけるAlN基板20の製造方法について説明する。
まず、実施の形態1のAlN結晶10の製造方法にしたがって、AlN結晶10を製造する。なお、実施の形態2のAlN結晶15の製造方法にしたがって、AlN結晶15を製造してもよい。
【0069】
次に、上述した材料の異種基板21を準備する。そして、異種基板21とAlN結晶10とを上述した材料の接続層22により接続する。この接続層22はたとえば半田であり、異種基板21とAlN結晶10とを半田接続する。これにより、AlN結晶10を異種基板21上にウエハボンディングすることができる。
【0070】
以上のステップを実施することにより、図9に示すAlN基板20を製造することができる。AlN結晶10の厚みが薄い場合であっても、上述したような用途の基板として用いることができる。このため、結晶性を向上し、かつコストを低減したAlN基板20を製造することができる。
【0071】
(実施の形態4)
図10は、本実施の形態における圧電振動子を概略的に示す断面図である。図10を参照して、本実施の形態における圧電振動子30について説明する。
【0072】
図10に示すように、圧電振動子30は、AlN結晶10と、AlN結晶10の下面に形成された電極層31と、AlN結晶10の上面に形成された電極層32とを備えている。
【0073】
AlN結晶10は、実施の形態1のAlN結晶10と同様である。AlN結晶10は、板状である。なお、AlN結晶10の代わりに、実施の形態2のAlN結晶15を用いてもよい。一対の電極層31、32は、AlN結晶10の両面を挟んでいる。電極層31、32は、厚み方向の導電抵抗が小さい異方導電性材料、金属などを用いることができる。
【0074】
続いて、本実施の形態における圧電振動子30の製造方法について説明する。
まず、実施の形態1のAlN結晶10の製造方法にしたがって、AlN結晶10を製造する。必要に応じてAlN結晶10を圧電振動部材としての所定の形状に加工する工程をさらに実施する。なお、実施の形態2のAlN結晶15の製造方法にしたがって、AlN結晶15を製造してもよい。
【0075】
次に、AlN結晶10の下面に電極層31を形成し、上面に電極層32を形成する。電極層31、32の形成方法は特に限定されず、たとえば蒸着法などにより形成することができる。
【0076】
以上のステップを実施することにより、図10に示す圧電振動子を製造することができる。このように製造された圧電振動子は結晶性を向上したAlN結晶を圧電振動部材として用いているので、電気機械結合係数kt2および音響品質係数(Q値)の優れた圧電振動子を製造することができる。
【実施例】
【0077】
本実施例では、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から、吸収係数が高い一方側へ光を照射することによる効果について調べた。
【0078】
具体的には、図11に示す結晶成長装置100を用いて、昇華法によりAlN結晶を成長した。なお、図11は、本実施例に用いた結晶成長装置を示す概略図である。
【0079】
図11に示すように、結晶成長装置100は、坩堝115と、加熱体119と、反応容器122と、高周波加熱コイル123とを主に備えている。坩堝115の周りには、坩堝115の内部と外部との通気を確保するように加熱体119が設けられている。この加熱体119の周りには、反応容器122が設けられている。この反応容器122の外側中央部には、加熱体119を加熱するための高周波加熱コイル123が設けられている。また、反応容器122の上部および下部には、坩堝115の上方および下方の温度を測定するための放射温度計121a、121bが設けられている。
【0080】
なお、上記結晶成長装置100は、上記以外の様々な要素を含んでいてもよいが、説明の便宜上、これらの要素の図示および説明は省略する。
【0081】
まず、AlN下地基板11を準備するステップS1では、以下のように行なった。具体的には、AlN下地基板11を成長するための下地基板としてSiC基板を準備した。この下地基板を、反応容器122内の坩堝115の上部に載置した。AlN下地基板11の原料17として、AlN粉末と、このAlN粉末に対して3質量%のSiC粉末とからなる原料を準備した。この原料17を坩堝115の下部に収容した。その後、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、SiC下地基板の温度を1900℃、原料17の温度を2000℃にして原料17を昇華させ、SiC下地基板上で再結晶化させて、成長時間を30時間として、SiC下地基板上に5mmの厚みを有するAlN結晶を成長した。
【0082】
なお、AlN下地基板11を構成するAlN結晶の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガスの排気量を制御した。
【0083】
得られたAlN結晶の両面を鏡面研磨し、AlN下地基板11を準備した。このAlN下地基板11について、紫外可視分光光度計にて300K、波長280nmでの吸収係数を測定した結果、200cm-1以上であった。その転位密度を評価したところ、8×105cm-2と測定された。
【0084】
次に、AlN下地基板11上にAlN結晶10を成長するステップS2では、以下のように行なった。具体的には、AlN下地基板11を、反応容器122内の坩堝115の上部に載置した。AlN結晶10の原料17として、高純度のAlN粉末を準備した。この原料17を坩堝115の下部に収容した。その後、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、AlN下地基板11の温度を1800℃、原料17の温度を2000℃にして原料17を昇華させ、AlN下地基板11上で再結晶化させて、成長時間を3時間として、AlN下地基板11上に300μmの厚みを有するAlN結晶10を成長した。
【0085】
なお、AlN結晶10の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガスの排気量を制御した。
【0086】
得られたAlN結晶10について、その転位密度を評価したところ、1×106cm-2と測定された。また紫外可視分光光度計にて300K、波長280nmでの吸収係数を測定した結果、25cm-1以下であった。
【0087】
次に、AlN結晶10からAlN下地基板11を分離するステップS3では、以下のように行なった。具体的には、図5に示すように、AlN下地基板11と、AlN結晶10とが積層された状態で、AlN結晶10の成長表面側からAlN下地基板11に向けて、Nd(ネオジウム)−YAGレーザの高調波(波長266nm)を照射した。
【0088】
その結果、AlN結晶10とAlN下地基板11との界面で、AlN結晶10とAlN下地基板11とが剥離した。これにより、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去することができた。
【0089】
以上より、本実施例によれば、良好な結晶性のAlN結晶10を成長させるために、AlN下地基板11を用いた場合であっても、AlN結晶10の波長の光に対する吸収係数が10cm-1未満で、AlN下地基板11の波長の光に対する吸収係数が10cm-1以上の場合、吸収係数が低い他方側(AlN結晶10側)から光を照射することにより、機械的な応力を加えずに、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去できることが確認できた。
【0090】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAlN結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における下地基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1においてAlN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3におけるAlN基板を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態4における圧電振動子を概略的に示す断面図である。
【図11】実施例に用いた結晶成長装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
10,15 AlN結晶、11,16 AlN下地基板、11a 主表面、17 原料、20 AlN基板、21 異種基板、22 接続層、30 圧電振動子、31,32 電極層、100 結晶成長装置、115 坩堝、119 加熱体、121a,121b 放射温度計、122 反応容器、123 高周波加熱コイル。
【技術分野】
【0001】
本発明はAlN(窒化アルミニウム)結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlN結晶は、6.2eVのエネルギバンドギャップ、約3.3WK-1cm-1の熱伝導率および高い電気抵抗を有しているため、光デバイスや電子デバイスなどの基板材料として注目されている。
【0003】
このようなAlN結晶を含むIII族窒化物半導体結晶の製造方法が、たとえば特表2007−536732号公報(特許文献1)に開示されている。具体的には、炭化珪素(SiC)基板上にInGaN(窒化インジウムガリウム)などよりなるリフトオフ層を形成し、このリフトオフ層上にIII族窒化物半導体結晶としてのエピタキシャル層を形成している。その後、SiC基板またはIII族窒化物半導体結晶には吸収されず、かつリフトオフ層に吸収させる光をリフトオフ層に照射する。リフトオフ層に光を吸収させて、リフトオフ層が加熱および消失することで、SiC基板とIII族窒化物半導体結晶とを分離している。このように、下地基板上にIII族窒化物半導体結晶を成長させて、下地基板を除去することにより、III族窒化物半導体結晶を製造している。
【特許文献1】特表2007−536732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、SiCとIII族窒化物との結晶格子整合が近いので、SiC基板を用いることで一般的に高品質なIII族窒化物半導体結晶を製造できることが開示されている。しかしながら、SiCとAlNとは材料が異なるので、SiCとAlNとの結晶格子整合は一致しない。このため、SiC基板上にAlN結晶を成長させると、AlN結晶の結晶性は十分でないという問題がある。
【0005】
そこで、AlN基板上にAlN結晶を成長させる技術が考えられる。しかし、この技術に上記特許文献1に開示の光を照射する技術を適用すると、AlN基板とAlN結晶とには同様に光が吸収されるので、AlN基板のみに光を吸収させることは困難である。このため、下地基板を除去できないという問題がある。
【0006】
さらに別の技術として、AlN基板上にAlN結晶を成長させた後、スライス、研磨などの機械的な方法で下地基板を除去する方法が考えられる。しかし、機械的な方法で下地基板を除去すると、AlN結晶に応力が加えられる。このため、AlN結晶が割れやすく、AlN結晶にクラックが生じるなどAlN結晶の結晶性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶性を向上するAlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、AlN結晶の結晶性を向上するために、下地基板としてAlN基板を用いたときに、光を照射することによりAlN下地基板とAlN結晶とを分離する条件について鋭意研究した。その結果、AlNの吸収係数が100cm-1以上の場合に、AlNに光を照射すると、AlN中のA(アルミニウム)原子とN(窒素)原子とが効果的に分解しやすいことを見い出した。
【0009】
そこで、本発明のAlN結晶の製造方法は、AlN下地基板を準備する工程と、AlN下地基板上にAlN結晶を成長する工程と、AlN結晶からAlN下地基板を分離する工程とを備えている。AlN下地基板およびAlN結晶の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上である。AlN下地基板およびAlN結晶の他方は、220nm以上280nm以下の波長の光の少なくとも一部の波長域において吸収係数が100cm-1未満である。上記分離する工程では、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する。
【0010】
本発明のAlN結晶の製造方法によれば、AlN下地基板上にAlN結晶を成長させている。下地基板と成長させる結晶とが同じ組成であるため、結晶格子整合の差によるAlN結晶の結晶性の低下を抑制することができる。
【0011】
さらに、AlN下地基板およびAlN結晶の一方の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上である。吸収係数が100cm-1以上のAlN下地基板およびAlN結晶の一方に光を照射すると、この一方には光が吸収される。これにより、この一方の温度が上昇して、Al原子とN原子との結合が解除され、N原子がAlNから解離する。また、AlN下地基板およびAlN結晶の他方の220nm以上280nm以下の波長の光の少なくとも一部の領域における吸収係数が100cm-1未満である。これにより、吸収係数が100cm-1未満の他方に光を照射しても、光の吸収が抑制され、温度の上昇が抑制される。このため、この他方では、Al原子とN原子との結合が解除されることが抑制されるので、結晶性の劣化を抑制できる。したがって、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方(220nm以上280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるAlN下地基板およびAlN結晶の他方)側から吸収係数が高い一方(280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるAlN下地基板およびAlN結晶の他方)側に向けて光を照射することにより、一方における他方との界面近傍でNの解離を促進することができる。その結果、AlN下地基板およびAlN結晶の界面近傍で、互いに分離することができる。よって、応力を加えずにAlN結晶からAlN下地基板を分離することができるので、製造するAlN結晶の結晶性の低下を抑制することができる。
【0012】
以上より、結晶性を向上したAlN結晶から、応力を加えずにAlN下地基板を分離することができる。よって、結晶性を向上したAlN結晶を製造することができる。
【0013】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、上記分離する工程では、300nm以下の波長の光を照射する。
【0014】
これにより、AlN下地基板またはAlN結晶のうち、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上である一方のAl原子とN原子とを、より効果的に分解しやすい。このため、AlN下地基板とAlN結晶とをより容易に分離することができるので、結晶性を向上したAlN結晶をより容易に製造することができる。
【0015】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、上記成長する工程では、1×107cm-2以下の転位密度を有するAlN結晶を成長する。
【0016】
本発明では、AlN下地基板上にAlN結晶を成長しているので、格子不整合を抑制することができる。このため、上記のように転位密度の低いAlN結晶を成長することができる。
【0017】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、AlN下地基板およびAlN結晶の一方は、2ppm以上の14族元素を含む。
【0018】
これにより、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるAlN下地基板またはAlN結晶を実現することができる。
【0019】
なお、本明細書において、「14族」とは、旧IUPAC(The International Union of Pure and Applied Chemistry)方式のIVA族を意味する。すなわち、14族元素とは、炭素(C)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Zn)、鉛(Pb)およびウンウンクアジウム(Uuq)の少なくとも1つの元素を含む。
【0020】
上記AlN結晶の製造方法において好ましくは、準備する工程では、200μm以上の厚みを有する下地基板を準備する。
【0021】
これにより、下地基板の結晶性を向上することができる。このため、この下地基板上に成長するAlN結晶の結晶性をより向上することができる。
【0022】
本発明のAlN基板の製造方法は、上記いずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、異種基板上にこのAlN結晶を形成する工程とを備えている。
【0023】
本発明のAlN基板の製造方法によれば、異種基板上に結晶性を向上したAlN結晶を形成している。このため、異種基板として安価な基板を用いると、コストを低減し、かつ結晶性を向上したAlN結晶を備えたAlN基板を製造することができる。
【0024】
本発明の圧電振動子の製造方法は、上記AlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、AlN結晶に電極層を形成する工程とを備えている。
【0025】
本発明の圧電振動子の製造方法によれば、結晶性を向上したAlN結晶を用いている。これにより、電気機械結合係数kt2および音響品質係数(Q値)が優れた圧電振動子を製造することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のAlN結晶の製造方法、AlN基板の製造方法および圧電振動子の製造方法によれば、AlN結晶と同じ組成の下地基板を用いているため、結晶性の低下を抑制したAlN結晶を成長することができる。また、吸収係数が10cm-1未満であるAlN下地基板およびAlN結晶のの他方側から、吸収係数が10cm-1以上であるAlN下地基板およびAlN結晶の一方へ光を照射することにより、結晶性の劣化を抑制して、AlN下地基板とAlN結晶とを分離することができる。よって、結晶性を向上したAlN結晶、AlN基板および圧電振動子を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には、同一の参照符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。図1を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶10について説明する。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態におけるAlN結晶10は、300nm以下の波長の光に対する吸収係数が10cm-1未満であり、7cm-1以下であることが好ましい。
【0030】
なお、上記吸収係数は、たとえば紫外可視分光光度計にて透過率を測定してAlN結晶の厚みより算出される値である。
【0031】
AlN結晶10は、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有している。この場合、このAlN結晶10を用いてデバイスを作製したときに特性を向上することができる。
【0032】
なお、上記転位密度は、たとえば溶融KOH(水酸化カリウム)中のエッチングによりできるピットの個数を数えて、単位面積で割るという方法によって測定することができる。
【0033】
AlN結晶10の形状は特に限定されないが、たとえば200μm以下の厚みを有する薄膜であり、200μm以上のバルク結晶の場合もより好ましく用いることができる。
【0034】
図2は、本実施の形態におけるAlN結晶の製造方法を示すフローチャートである。続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶10の製造方法について説明する。
【0035】
図3は、本実施の形態における下地基板を概略的に示す断面図である。図2および図3に示すように、まず、AlN下地基板11を準備する(ステップS1)。本実施の形態では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上、好ましくは1000cm-1以上、より好ましくは10000cm-1以上であるAlN下地基板11を準備する。また好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有しているAlN下地基板11を準備する。この場合、このAlN下地基板11上に、転位密度の低いAlN結晶10を成長することができる。
【0036】
具体的には、AlN下地基板11を成長させるための下地基板を準備する。この下地基板はAlNであってもよく、AlN以外の材料よりなる異種基板であってもよい。この下地基板上にAlN下地基板11を成長させる。成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy:ハイドライド気相成長)法、MBE(Molecular Beam Epitaxy:分子線エピタキシ)法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属化学気相堆積)法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などを採用することができる。このAlN下地基板11から必要に応じて下地基板を除去する。
【0037】
100cm-1以上の吸収係数を有するAlN下地基板11を準備するために、2ppm以上の14族元素を含むようにAlN下地基板11を成長することが好ましい。たとえばAlN下地基板11を成長させる際に、原料中のAlNに対して2ppm以上の14族元素を添加した原料を準備する。原料に含まれる14族元素の上限はたとえば0.1%である。14族元素の供給源としては、SiおよびCの少なくとも一方が好適に用いられ、SiCを原料のAlNに混合させることが好ましい。
【0038】
また、AlN下地基板11を成長させる際には、好ましくは200μm以上、より好ましくは1mm以上の厚みH11を有するように成長する。200μm以上の厚みH11を有するようにAlN下地基板11を成長させると、AlN下地基板11の結晶性を向上することができ、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するAlN結晶とすることができる。なお、200μm以上の厚みを有するAlN結晶を成長させて、所定の厚みH11を有するAlN下地基板11を切り出してもよい。
【0039】
また、AlN下地基板11の主表面11aは、たとえば2インチ以上の大きさを有している。これにより、大口径のAlN結晶10を成長させることができる。
【0040】
なお、AlN下地基板11を準備する方法は、これに特に限定されず、任意の方法で準備される。
【0041】
図4は、本実施の形態においてAlN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図4に示すように、AlN下地基板11の主表面11a上にAlN結晶10を成長する(ステップS2)。このステップS2では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満、好ましくは7cm-1以下のAlN結晶10を成長する。
【0042】
AlN結晶10の成長方法は特に限定されず、昇華法、HVPE法、MBE法、MOCVD法などの気相成長法、フラックス法、高窒素圧溶液法などの液相法などを採用することができる。100cm-1未満の吸収係数を有するAlN結晶10を成長するために、たとえば高い純度を有する原料を準備することが好ましい。
【0043】
成長するステップS2では、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するようにAlN結晶10を成長する。本実施の形態では、成長するAlN結晶10とAlN下地基板11との格子不整合率の違いにより転位密度が高くなることを抑制することができるので、このように転位密度の低いAlN結晶10を成長することができる。なお、転位密度は低いほど好ましいが、製造が容易である観点から、転位密度の下限値はたとえば1×102cm-2程度である。
【0044】
また成長するステップS2では、好ましくは光の透過率が50%以上、特に280nm以下の波長の光の透過率が50%以上になるようにAlN結晶10を成長する。このような透過率を有するために、たとえば成長するAlN結晶10の膜厚を調整することが好ましい。
【0045】
本実施の形態では、成長させるステップS2では、コスト低減の観点および透過率を高める観点から、薄膜のAlN結晶10を成長する。
【0046】
図5は、本実施の形態においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。図6は、本実施の形態においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2、図5および図6に示すように、AlN下地基板11からAlN結晶10を分離する(ステップS3)。このステップS3では、AlN下地基板11およびAlN結晶10のうち吸収係数が低い他方側であるAlN結晶10側から、吸収係数が高い一方側であるAlN下地基板11に向けて光を照射している。本実施の形態では、AlN結晶10の成長表面の上方から、AlN結晶10とAlN下地基板11との全ての界面に向けて光を照射している。
【0047】
照射する光は、好ましくは300nm以下、より好ましくは266nm以下の波長を有している。このような光を照射するための光源として、たとえばレーザが用いられる。
【0048】
このように吸収係数の低いAlN結晶10側から光を照射すると、AlN結晶10の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるので、AlN結晶10では光がほとんど吸収されず、透過される。このため、AlN結晶10へ光を照射しても、AlN結晶10の良好な結晶性への影響を低減できる。一方、AlN下地基板11の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるので、AlN結晶10を透過した光は、AlN結晶10との界面に位置するAlN下地基板11で吸収される。これにより、AlN下地基板11においてAlN結晶10との界面近傍の領域の温度が上昇して、AlN下地基板11中のAl原子とN原子との結合が解除され、N原子が解離する。その結果、AlN下地基板11とAlN結晶10とが分離する。つまり、機械的な応力を加えずに、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去することができる。
【0049】
以上のステップS1〜S3を実施することにより、図1に示すAlN結晶10を製造することができる。なお、AlN結晶10と分離したAlN下地基板11を、別のAlN結晶10を成長させるための下地基板として再利用して、上述したステップS2およびS3を実施することにより、1枚のAlN下地基板11から複数枚のAlN結晶10を製造することができる。
【0050】
このように製造されたAlN結晶10は、AlN下地基板11上に成長しているので、結晶性を向上できる。さらに、AlN結晶10は機械的な応力が加えられずに製造されているので、AlN下地基板11の除去に伴うAlN結晶10の結晶性の劣化を抑制できる。したがって、本実施の形態によれば、結晶性を向上したAlN結晶10を実現できる。
【0051】
また、本実施の形態では、研磨、スライスなどの機械的な加工の場合のように、除去する厚みを上乗せしてAlN結晶を成長する必要がない。このため、除去するAlN結晶の材料費を削減できる。したがって、本実施の形態におけるAlN結晶10の製造方法は、コスト面においても有利である。
【0052】
このように結晶性を向上し、かつコストを低減して減製造されたAlN結晶10は、たとえば発光ダイオード、レーザダイオードなどの発光素子、整流器、バイポーラトランジスタ、電界効果トランジスタ、HEMT(High Electron Mobility Transistor;高電子移動度トランジスタ)などの電子素子、温度センサ、圧力センサ、放射線センサ、可視−紫外光検出器などの半導体センサ、SAWデバイス(Surface Acoustic Wave Device;表面弾性波素子)、振動子、共振子、発振器、MEMS(Micro Electro Mechanical System)部品、圧電アクチュエータ等のデバイス用の基板などに好適に用いることができる。
【0053】
(実施の形態2)
図7は、本実施の形態におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。図7を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶15について説明する。
【0054】
図1に示すように、本実施の形態におけるAlN結晶15は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であり、1000cm-1以上であることが好ましい。
【0055】
AlN結晶15の転位密度は、実施の形態1と同様で、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下である。また、AlN結晶10の形状は特に限定されないが、たとえば実施の形態1と同様に薄膜である。
【0056】
続いて、図2を参照して、本実施の形態におけるAlN結晶15の製造方法について説明する。本実施の形態におけるAlN結晶15の製造方法は、基本的には実施の形態1におけるAlN結晶10の製造方法と同様であるが、AlN結晶15は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上(一方)であり、AlN下地基板16は、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満である(他方)点において、実施の形態1と異なっている。つまり、本実施の形態では、AlN結晶15の吸収係数がAlN下地基板16の吸収係数よりも低く、AlN下地基板16(他方)側から光を照射している点において異なっている。
【0057】
具体的には、まず、AlN下地基板16を準備する(ステップS1)。本実施の形態では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満、好ましくは7cm-1以下であるAlN下地基板16を準備する。AlN下地基板16を準備する方法は、たとえば含まれる不純物の濃度を低く、つまり原料の純度を高めた原料を用いて製造される点において実施の形態1と異なる。
【0058】
また、準備するステップS1では、好ましくは光の透過率が50%以上、特に280nm以下の波長の光の透過率が50%以上になるようにAlN下地基板11を準備することが好ましい。
【0059】
次に、AlN下地基板16上にAlN結晶15を成長する(ステップS2)。このステップS2では、280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上、好ましくは1000cm-1以上のAlN結晶15を成長する。
【0060】
このようなAlN結晶15を成長する方法として、2ppm以上の14族元素を含むようにAlN結晶15を成長することが好ましい。たとえばAlN結晶15を成長させる際に、AlN結晶15が2ppm以上の14族元素を含むように、AlN結晶15の原料を準備する。原料に含まれる14族元素の上限はたとえば0.1%である。14族元素の供給源としては、SiおよびCの少なくとも一方が好適に用いられ、SiCを原料のAlNに混合させることが好ましい。この不純物の場合、100cm-1以上の吸収係数を有するAlN結晶15を成長できるとともに、成長したAlN結晶15の転位密度を低く維持できる。
【0061】
成長するステップS2では、実施の形態1と同様に、好ましくは1×107cm-2以下、より好ましくは1×106cm-2以下の転位密度を有するようにAlN結晶10を成長する。また、成長させるステップS2では、実施の形態1と同様に、コスト低減の観点から、薄膜のAlN結晶10を成長する。
【0062】
図8は、本実施の形態においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。図8は、本実施の形態においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。次に、図2および図8に示すように、AlN下地基板16からAlN結晶15を分離する(ステップS3)。このステップS3では、AlN下地基板16およびAlN結晶15のうち吸収係数が低い他方側であるAlN下地基板16側から、吸収係数の高い一方側であるAlN結晶15へ光を照射している。照射する光は、実施の形態1と同様に、好ましくは300nm以下、より好ましくは266nm以下の波長を有している。
【0063】
このようにAlN下地基板16側から光を照射すると、AlN下地基板16の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1未満であるので、AlN下地基板16では光がほとんど吸収されず、透過される。AlN結晶15の280nm以下の波長の光に対する吸収係数が100cm-1以上であるので、AlN下地基板16を透過した光は、AlN下地基板16との界面に位置するAlN結晶15で吸収される。これにより、AlN下地基板16との界面近傍のAlN結晶15の温度が上昇して、Al原子とN原子との結合が解除され、N原子が解離する。その結果、AlN下地基板16とAlN結晶15とが分離する。つまり、機械的な応力を加えずに、AlN結晶15からAlN下地基板16を除去することができる。
【0064】
以上のステップS1〜S3を実施することにより、図7に示すAlN結晶15を製造することができる。
【0065】
(実施の形態3)
図9は、本実施の形態におけるAlN基板を概略的に示す断面図である。図9を参照して、本実施の形態におけるAlN基板20を説明する。
【0066】
図9に示すように、AlN基板20は、異種基板21と、この異種基板21上に形成された接続層22と、この接続層22上に形成されたAlN結晶10とを備えている。
【0067】
AlN結晶10は、実施の形態1のAlN結晶10と同様である。なお、AlN結晶10の代わりに、実施の形態2のAlN結晶15を用いてもよい。異種基板21はAlNと異なる材料であり、AlNよりもコストが低い材料であることが好ましく、たとえばSi基板、サファイア基板などが好適に用いられる。
【0068】
続いて、本実施の形態におけるAlN基板20の製造方法について説明する。
まず、実施の形態1のAlN結晶10の製造方法にしたがって、AlN結晶10を製造する。なお、実施の形態2のAlN結晶15の製造方法にしたがって、AlN結晶15を製造してもよい。
【0069】
次に、上述した材料の異種基板21を準備する。そして、異種基板21とAlN結晶10とを上述した材料の接続層22により接続する。この接続層22はたとえば半田であり、異種基板21とAlN結晶10とを半田接続する。これにより、AlN結晶10を異種基板21上にウエハボンディングすることができる。
【0070】
以上のステップを実施することにより、図9に示すAlN基板20を製造することができる。AlN結晶10の厚みが薄い場合であっても、上述したような用途の基板として用いることができる。このため、結晶性を向上し、かつコストを低減したAlN基板20を製造することができる。
【0071】
(実施の形態4)
図10は、本実施の形態における圧電振動子を概略的に示す断面図である。図10を参照して、本実施の形態における圧電振動子30について説明する。
【0072】
図10に示すように、圧電振動子30は、AlN結晶10と、AlN結晶10の下面に形成された電極層31と、AlN結晶10の上面に形成された電極層32とを備えている。
【0073】
AlN結晶10は、実施の形態1のAlN結晶10と同様である。AlN結晶10は、板状である。なお、AlN結晶10の代わりに、実施の形態2のAlN結晶15を用いてもよい。一対の電極層31、32は、AlN結晶10の両面を挟んでいる。電極層31、32は、厚み方向の導電抵抗が小さい異方導電性材料、金属などを用いることができる。
【0074】
続いて、本実施の形態における圧電振動子30の製造方法について説明する。
まず、実施の形態1のAlN結晶10の製造方法にしたがって、AlN結晶10を製造する。必要に応じてAlN結晶10を圧電振動部材としての所定の形状に加工する工程をさらに実施する。なお、実施の形態2のAlN結晶15の製造方法にしたがって、AlN結晶15を製造してもよい。
【0075】
次に、AlN結晶10の下面に電極層31を形成し、上面に電極層32を形成する。電極層31、32の形成方法は特に限定されず、たとえば蒸着法などにより形成することができる。
【0076】
以上のステップを実施することにより、図10に示す圧電振動子を製造することができる。このように製造された圧電振動子は結晶性を向上したAlN結晶を圧電振動部材として用いているので、電気機械結合係数kt2および音響品質係数(Q値)の優れた圧電振動子を製造することができる。
【実施例】
【0077】
本実施例では、AlN下地基板およびAlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から、吸収係数が高い一方側へ光を照射することによる効果について調べた。
【0078】
具体的には、図11に示す結晶成長装置100を用いて、昇華法によりAlN結晶を成長した。なお、図11は、本実施例に用いた結晶成長装置を示す概略図である。
【0079】
図11に示すように、結晶成長装置100は、坩堝115と、加熱体119と、反応容器122と、高周波加熱コイル123とを主に備えている。坩堝115の周りには、坩堝115の内部と外部との通気を確保するように加熱体119が設けられている。この加熱体119の周りには、反応容器122が設けられている。この反応容器122の外側中央部には、加熱体119を加熱するための高周波加熱コイル123が設けられている。また、反応容器122の上部および下部には、坩堝115の上方および下方の温度を測定するための放射温度計121a、121bが設けられている。
【0080】
なお、上記結晶成長装置100は、上記以外の様々な要素を含んでいてもよいが、説明の便宜上、これらの要素の図示および説明は省略する。
【0081】
まず、AlN下地基板11を準備するステップS1では、以下のように行なった。具体的には、AlN下地基板11を成長するための下地基板としてSiC基板を準備した。この下地基板を、反応容器122内の坩堝115の上部に載置した。AlN下地基板11の原料17として、AlN粉末と、このAlN粉末に対して3質量%のSiC粉末とからなる原料を準備した。この原料17を坩堝115の下部に収容した。その後、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、SiC下地基板の温度を1900℃、原料17の温度を2000℃にして原料17を昇華させ、SiC下地基板上で再結晶化させて、成長時間を30時間として、SiC下地基板上に5mmの厚みを有するAlN結晶を成長した。
【0082】
なお、AlN下地基板11を構成するAlN結晶の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガスの排気量を制御した。
【0083】
得られたAlN結晶の両面を鏡面研磨し、AlN下地基板11を準備した。このAlN下地基板11について、紫外可視分光光度計にて300K、波長280nmでの吸収係数を測定した結果、200cm-1以上であった。その転位密度を評価したところ、8×105cm-2と測定された。
【0084】
次に、AlN下地基板11上にAlN結晶10を成長するステップS2では、以下のように行なった。具体的には、AlN下地基板11を、反応容器122内の坩堝115の上部に載置した。AlN結晶10の原料17として、高純度のAlN粉末を準備した。この原料17を坩堝115の下部に収容した。その後、反応容器122内に窒素ガスを流しながら、高周波加熱コイル123を用いて坩堝115内の温度を上昇させ、AlN下地基板11の温度を1800℃、原料17の温度を2000℃にして原料17を昇華させ、AlN下地基板11上で再結晶化させて、成長時間を3時間として、AlN下地基板11上に300μmの厚みを有するAlN結晶10を成長した。
【0085】
なお、AlN結晶10の成長中においては、反応容器122内に窒素ガスを流し続け、反応容器122内のガス分圧が10kPa〜100kPa程度になるように、窒素ガスの排気量を制御した。
【0086】
得られたAlN結晶10について、その転位密度を評価したところ、1×106cm-2と測定された。また紫外可視分光光度計にて300K、波長280nmでの吸収係数を測定した結果、25cm-1以下であった。
【0087】
次に、AlN結晶10からAlN下地基板11を分離するステップS3では、以下のように行なった。具体的には、図5に示すように、AlN下地基板11と、AlN結晶10とが積層された状態で、AlN結晶10の成長表面側からAlN下地基板11に向けて、Nd(ネオジウム)−YAGレーザの高調波(波長266nm)を照射した。
【0088】
その結果、AlN結晶10とAlN下地基板11との界面で、AlN結晶10とAlN下地基板11とが剥離した。これにより、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去することができた。
【0089】
以上より、本実施例によれば、良好な結晶性のAlN結晶10を成長させるために、AlN下地基板11を用いた場合であっても、AlN結晶10の波長の光に対する吸収係数が10cm-1未満で、AlN下地基板11の波長の光に対する吸収係数が10cm-1以上の場合、吸収係数が低い他方側(AlN結晶10側)から光を照射することにより、機械的な応力を加えずに、AlN結晶10からAlN下地基板11を除去できることが確認できた。
【0090】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、各実施の形態および実施例の特徴を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の実施の形態1におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるAlN結晶の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態1における下地基板を概略的に示す断面図である。
【図4】本発明の実施の形態1においてAlN結晶を成長させた状態を概略的に示す断面図である。
【図5】本発明の実施の形態1においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。
【図6】本発明の実施の形態1においてAlN結晶とAlN下地基板とが分離した状態を概略的に示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態2におけるAlN結晶を概略的に示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態3においてAlN結晶側から光を照射している状態を概略的に示す断面図である。
【図9】本発明の実施の形態3におけるAlN基板を概略的に示す断面図である。
【図10】本発明の実施の形態4における圧電振動子を概略的に示す断面図である。
【図11】実施例に用いた結晶成長装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
10,15 AlN結晶、11,16 AlN下地基板、11a 主表面、17 原料、20 AlN基板、21 異種基板、22 接続層、30 圧電振動子、31,32 電極層、100 結晶成長装置、115 坩堝、119 加熱体、121a,121b 放射温度計、122 反応容器、123 高周波加熱コイル。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlN下地基板を準備する工程と、
前記AlN下地基板上にAlN結晶を成長する工程と、
前記AlN結晶から前記AlN下地基板を分離する工程とを備え、
前記AlN下地基板および前記AlN結晶の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上であり、前記AlN下地基板および前記AlN結晶の他方は、220nm以上280nm以下の波長の少なくとも一部の波長域の光に対して吸収係数が100cm-1未満であり、
前記分離する工程では、前記AlN下地基板および前記AlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する、AlN結晶の製造方法。
【請求項2】
前記分離する工程では、300nm以下の波長の前記光を照射する、請求項1に記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項3】
前記成長する工程では、1×107cm-2以下の転位密度を有する前記AlN結晶を成長する、請求項1または2に記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項4】
前記AlN下地基板および前記AlN結晶の一方は、14族元素を2ppm以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項5】
前記準備する工程では、200μm以上の厚みを有する前記下地基板を準備する、請求項1〜4のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、
異種基板上に前記AlN結晶を形成する工程とを備えた、AlN基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、
前記AlN結晶に電極層を形成する工程とを備えた、圧電振動子の製造方法。
【請求項1】
AlN下地基板を準備する工程と、
前記AlN下地基板上にAlN結晶を成長する工程と、
前記AlN結晶から前記AlN下地基板を分離する工程とを備え、
前記AlN下地基板および前記AlN結晶の一方は、280nm以下の波長の光に対して吸収係数が100cm-1以上であり、前記AlN下地基板および前記AlN結晶の他方は、220nm以上280nm以下の波長の少なくとも一部の波長域の光に対して吸収係数が100cm-1未満であり、
前記分離する工程では、前記AlN下地基板および前記AlN結晶のうち吸収係数が低い他方側から光を照射する、AlN結晶の製造方法。
【請求項2】
前記分離する工程では、300nm以下の波長の前記光を照射する、請求項1に記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項3】
前記成長する工程では、1×107cm-2以下の転位密度を有する前記AlN結晶を成長する、請求項1または2に記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項4】
前記AlN下地基板および前記AlN結晶の一方は、14族元素を2ppm以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項5】
前記準備する工程では、200μm以上の厚みを有する前記下地基板を準備する、請求項1〜4のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、
異種基板上に前記AlN結晶を形成する工程とを備えた、AlN基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のAlN結晶の製造方法によりAlN結晶を製造する工程と、
前記AlN結晶に電極層を形成する工程とを備えた、圧電振動子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−42950(P2010−42950A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207230(P2008−207230)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノエレクトロニクス半導体新材料・新構造技術開発−窒化物系化合物半導体基板・エピタキシャル成長技術の開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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