説明

MEMS共振器、その製造方法、およびMEMS発振器

本発明は、可動素子(48)を有するMEMS共振器に関し、可動素子(48)は、第1ヤング率および第1ヤング率の第1温度係数を持つ第1部分(A)を有し、さらに可動素子(48)は、第2ヤング率および第2ヤング率の第2温度係数を持つ第2部分(B)を有し、少なくともMEMS共振器の動作条件下では、第2温度係数の符号は第1温度係数の符号と反対であり、第1部分(A)の断面積および第2部分(B)の断面積は、第1部分(A)のヤング率の絶対温度係数に第1部分(A)の断面積をかけた値が、第2部分(B)のヤング率の絶対温度係数に第2部分(B)の断面積をかけた値から、20%以上逸脱することなく、これら断面積は局部的におよび可動素子(48)に対して直交する断面で測定したものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償特性を有するMEMS共振器に関する。同様に、本発明は、このMEMS共振器の製造方法に関する。さらに、本発明は、MEMS共振器を有するMEMS発振器、およびこのMEMS発振器を有する集積回路に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS共振器は、特許文献1(米国特許出願公開2005/0162239号)に記載されている。この文献は、熱膨張係数が異なる複数の材料(例えばシリコンおよび酸化ケイ素)のビーム(梁状体)を有するMEMS共振器を開示している。このビームの両端部に各個に設けた2個のアンカーにより、ビームを基板上に支持し、基板はビームと異なる熱膨張係数を持つ。固定ポイントとして機能するアンカーによって、基板とビームとの間における熱膨張係数の差が、ビーム中に引張ひずみ、または圧縮ひずみを誘発する。圧縮ひずみは、ビームの共振周波数を減少させ、引張ひずみは共振周波数を増大させる。したがって、これらを測定することによって、共振周波数における熱補償効果が既知のMEMS共振器において得られる。
【0003】
既知のMEMS共振器の欠点は、その構造が比較的複雑なことである。共振周波数の熱補償には、ビームの両端に支固定ポイントが必要になる。
【特許文献1】米国特許出願公開2005/0162239号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、冒頭で述べた種類のMEMS共振器の代案として、より簡素であり、また共振周波数のよりよい熱補償効果が得られるMEMS共振器を提供することである。本発明を独立請求項によって定義する。従属請求項は有利な実施形態を定義する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的を達成する本発明は、可動素子を有するMEMS共振器であって、可動素子は第1ヤング率および第1ヤング率の第1温度係数を持つ第1部分を有し、可動素子は、さらに第2ヤング率おとび第2ヤング率の第2温度係数を持つ第2部分を有し、少なくともMEMS共振器の動作条件では、第2温度係数の符号が第1温度係数の符号と反対であり、第1部分の断面積および第2部分の断面積は、第1部分のヤング率の絶対温度係数に第1部分の断面積をかけた値が、第2部分のヤング率の絶対温度係数に第2部分の断面積をかけた値から20%以上逸脱することなく、これら断面積は局部的におよび可動素子に対して直交する断面で測定するものとする。
【0006】
MEMS共振器の可動素子は、一般にヤング率の負の温度係数を持つ材料により構成する。例えば、シリコンにおけるヤング率の温度係数は、通常−88ppm/Kである。この結果、シリコンベースの共振器における共振周波数は、−45ppm/Kまでもドリフトするが、このドリフトは例えば、基準発振器の用途には通常は大きすぎる。本発明は、ヤング率の反対の(ここでは正の)温度係数を持つ第2材料を有する可動素子を設けることを目的とする。こうして、可動素子の有効絶対温度係数は減少し、その結果、共振周波数のさらに低い温度ドリフトを持つMEMS共振器となる。
【0007】
換言すれば、本発明によるMEMS共振器において、可動素子に圧縮ひずみまたは引張ひずみが加わることなく、MEMS共振器の設計者に対して、可動素子のアンカーを、どこにまたどのように実装するかを決定するより高い自由度を与える。例えば、本発明によるMEMS共振器において、可動素子のアンカーをMEMS共振器の中央部に実装すると、縦(長手)モード共振器に極めて有利になる。用語「バルクモード共振器」は、このようなMEMS共振器に用いる。
【0008】
本発明はさらに、ヤング率の方が熱膨張よりも温度補償に用いるのにはるかに有益な状態量であるという洞察による。例えば、ヤング率に関するシリコンと酸化ケイ素との差は、200ppm/K以上である。熱膨張の差は、2ppm/K〜3ppm/Kに過ぎない。換言すれば、本発明によるMEMS共振器における熱補償メカニズムは、はるかに効果的である。
【0009】
本発明によるMEMS共振器において、有効温度係数を、可動素子の第1部分におけるヤング率の温度係数と可動素子の第2部分におけるヤング率の温度係数との間にすることが可能である。実際、ゼロに近似する有効温度係数が最も有利である。この係数をゼロにチューニングする精度に影響を与える因子は、可動素子の第1部分の初期断面積および可動素子の第2部分における断面積の精度である。
【0010】
本発明者の他の洞察によれば、可動素子の第1部分および第2部分の双方の断面積は、可動素子におけるヤング率の絶対有効温度係数を許容レベルまで、およびゼロに近似する値にまでチューニングできる設計パラメータである。
【0011】
本発明によるMEMS共振器の有利な実施形態は、可動素子の第1部分の断面積を可動素子の第2部分の断面積で割った比が、可動素子の第2部分におけるヤング率の負の温度係数を可動素子の第1部分におけるヤング率の温度係数でさらに割った他の比と、ほぼ等しいものとする。このMEMS共振器の利点は、絶対有効温度係数が最適に減少する点である。
【0012】
本発明によるMEMS共振器の他の実施形態において、第1部分または第2部分のうち一方をシリコン、他方を酸化ケイ素とする。酸化ケイ素のヤング率は+175ppm/Kの温度ドリフトを持つことが既知である。MEMS共振器の可動素子における構成材料として酸化ケイ素をシリコンに結合させることで、温度ドリフトを相殺することができる。さらに、酸化ケイ素は標準的なプロセスに極めて適合し、したがって生産が容易である。
【0013】
本発明によるMEMS共振器のいくつかの実施形態において、第2部分は、可動素子に対して直交する少なくとも一つ方向に、第1部分を埋設する。この対称性が可動素子の共振挙動を改善する。
【0014】
本発明によるMEMS共振器の他の実施形態において、可動素子に対して直交する平面で第2部分が第1部分を完全に包囲する構成とする。本発明によるMEMS共振器の他の実施形態において、可動素子に対して直交する平面で第1部分が第2部分を完全に包囲する構成とする。双方の実施形態において、可動素子に対して直交する平面における振動は同一有効ヤング率および温度係数(弾性)に曝されるため、共振挙動を一層改善する。
【0015】
本発明は、同様にMEMS共振器の製造方法にも関する。本発明方法は以下のステップ、すなわち、
基板層、この基板層上に設けた犠牲層、およびこの犠牲層上に設けた頂部層を有する半導体基体を準備するステップであって、頂部層は可動素子の第1部分を形成する第1材料を有し、この第1部分は第1ヤング率および第1ヤング率の第1温度係数を持つものとした該半導体基体準備ステップと、
可動素子を画定するために頂部層をパターン形成するステップと、
基板層から可動素子を部分的に切り離すよう選択的に犠牲層を除去するステップと、
可動素子の第2部分を形成するよう可動素子上に第2材料を設ける第2材料準備ステップであって、第2部分は第2ヤング率および第2ヤング率の第2温度係数を有し、少なくともMEMS共振器の作動条件では、第2温度係数の符号は第1温度係数の符号と反対であり、第1部分の断面積および第2部分の断面積は、第1部分のヤング率の絶対温度係数に第1部分の断面積をかけた値は、第2部分のヤング率の絶対温度係数に第2部分の断面積をかけた値から20%以上逸脱することがなく、断面積は局部的におよび可動素子に対して直交する方向に測定するものとした該第2材料準備ステップと、
を有するものとする。
【0016】
本発明によるMEMS共振器の製造方法は、ヤング率の温度係数が異なる第1部分および第2部分を有する可動素子の便利な製造方法を提供する。本発明による方法において、ステップの順序は変更できることに留意されたい。例えば、第2材料は、犠牲層の選択的に除去する前に、可動素子上に設けることができる。エッチング、堆積、CMPといった従来のステップを、この目的のために用いることができる。
【0017】
本発明による方法の有利な実施形態は、半導体基体準備ステップ中に、シリコンを有する犠牲層上に頂部層を設けるものとする。シリコンは標準的な処理プロセスに適合し、したがって、他のデバイスおよび回路と一体化するのが容易な材料である。
【0018】
本発明の上述した実施形態による改良において、第2材料準備ステップは、酸化ステップであって、可動素子の少なくとも1個の側壁における少なくともシリコンを酸化ケイ素に変化させる該酸化ステップを有するものとする。酸化(例えば、熱酸化)は、結果としてできた酸化ケイ素の層厚をとても正確に制御できる。したがって、ヤング率の有効熱係数は、適した層厚の酸化ケイ素層を形成するシリコンの酸化を通して、容易にゼロにチューニングできる。熱酸化の間、可動素子のシリコンが消耗する。すなわち、可動素子の第2部分の体積が増加するとともに、シリコンを含む可動素子の第1部分の体積は減少する。
【0019】
本発明はさらに、MEMS共振器を有するMEMS発振器に関する。本発明によるMEMS共振器の利点は、受動的(パッシブ)補償技術を有することである。したがって、MEMS共振器およびMEMS発振器は、いかなるフィードバックまたは制御も必要とせず、より簡素である。能動的(アクティブ)温度補償技術においては、温度を測定し、また信号を制御回路にフィードバックし、このことがMEMS共振器およびMEMS発振器をより複雑なものにする。
【0020】
本発明はさらに、このMEMS発振器を有する集積回路に関する。シリコン共振器上に酸化ケイ素層を形成することは、集積回路の処理フローに適合する。したがって、本発明によるMEMS共振器は、モノシリック集積MEMS発振器との比較的単純な一体化を可能にする。
【0021】
付加的な特徴を、互いにおよび上述の態様のうち任意な態様とも組み合わせることができる。他の利点は、当業者には明らかであろう。本発明の特許請求の範囲から逸脱することなく、多くの変更および修正を加えることができる。したがって、本明細書は単なる例示であり、本発明の範囲を限定することを意図するものではないと、明確に理解されたい。
【0022】
以下に本発明の具体的実施例を、添付図面につき説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、特定の図面につき、とくに実施形態に関して説明するが、これは限定的な意味に解釈すべきものではなく、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲における参照符号は、その範囲を限定するように解釈すべきではない。記載した図面は略図に過ぎず、非限定的である。図面において、素子の若干は寸法を誇張し、例示目的であり、縮尺通りには描いていない。説明および請求項において用いられる用語「備える(有する)」は、他の部分またはステップを除外しない。単数名詞に関する際、例えば“a”または“an”,“the”といった不明確または明確な冠詞が用いられるが、これはとくに明記しない限り複数名詞を含むものとする。
【0024】
さらに、説明および請求項における用語第1、第2、第3、等は、類似した要素を区別するために用いられ、必ずしも順次のまたは時系列の順番を説明するためではない。このように用いられる用語は適切な条件下では互換性があり、ここに説明された本発明の実施形態はここで説明されたまたは描かれていない順で操作することが可能である。
【0025】
ヤング率は、剛性を示す材料特性であり、MEMS共振器の可動素子の最も重要な材料特性の一つである。ヤング率および密度は、共振器の共振周波数を決定する二つの材料特性である。材料のヤング率は次式で与えられる。
【数1】

ここで、EはMEMS共振器の動作条件下のヤング率、αは温度係数、ΔTは温度変化である。
【0026】
図1a〜図1eは、本発明による方法の一実施形態に従った製造プロセスの異なる段階におけるMEMS共振器を示す。
【0027】
図1aは、製造プロセスの一段階であり、半導体基体10を用意する。半導体基体10は、基板層20、基板層20上に設けた犠牲層30、犠牲層30上に設けた頂部層40を有する。頂部層40は、本発明の一実施形態においてシリコンを有するが、例えば、ゲルマニウム(Ge)、ガリウム−ヒ素(GaAs)のようなIII‐V半導体化合物、リン化インジウム(InP)のようなII‐V半導体化合物、および他の材料とすることもできる。犠牲層30には、二酸化ケイ素(SiО)を使用するが、他の材料も可能である。頂部層40の材料としてシリコンを使用し、犠牲層30の材料として酸化ケイ素(または他の絶縁材料)を使用する場合も、やはり用語「シリコン・オン・インシュレータ(SОI)」が用いられる。シリコン・オン・インシュレータの基板/ウエハは、市場において広く利用可能で、安く容易な方法で製造できる。図1a〜図1eにおいて図示した実施例においては、SOI基板10を使用し、頂部層40はシリコンを有し、絶縁(犠牲)層は二酸化ケイ素を有する。
【0028】
図1bおよび図1cは、製造プロセスの他の段階を示す。図1bにおいて、開口55を有するように、パターン形成したマスク層50を設ける。マスク層50は、例えば、普通の光リソグラフィを使用してパターン形成することができるが、他の技術、例えば電子ビームリソグラフィ、イオンビームリソグラフィ、およびx線リソグラフィも使用することができる。これらの技術において、パターン形成は、マスク層50上に直接書き込むことができる。この特定の実施例においては、フォトリソグラフィを使用する。このとき、マスク層50はフォトレジスト層とすることができるが、代案として、ハードマスク、例えば酸化ケイ素または窒化ケイ素とすることもできる。図1cにおいて、頂部層40を、マスク層50内の開口55に貫通してパターン形成する。ここで、開口45が、マスク層50内の開口55に対応して最上層40に形成される。これは、例えば、ドライエッチングステップ(例えばDRIEエッチング)を使用することで行う。エッチング技術は、当業者には既知である。開口45は、頂部層40の下側の犠牲層30を露出するよう形成する。同様にギャップ46,47を形成し、これらギャップは、製造すべきMEMS共振器の可動素子48を画定する。
【0029】
図1dにおいて、製造プロセスの他の段階を示し、犠牲層30を局部的に除去して(少なくとも可動素子の下側を)、可動素子48を部分的に切り離す。このことは、例えば選択的ウェットエッチングステップを使用して行うことができる。選択的エッチングストップも、当業者には既知である。可動素子には、クランプ領域(図示せず)を設ける。この特定の実施例において、可動素子48は(少なくとも)ギャップ46,47の側壁に直交する方向に可動である。しかし、縦(長手)モード共振器のような、他のタイプのMEMS共振器も同様に存在する。
【0030】
MEMS共振器の可動素子は、一般的に、ヤング率の負の温度係数を持つ材料により構成する。例えば、シリコンに対するヤング率の温度係数は、代表的には−88ppm/Kである。この結果、シリコンベース共振器の共振周波数は、多くとも−45ppm/Kまでドリフトし、これは例えば基準発振器のような用途にとっては一般に大きすぎる。
【0031】
図1eは、本発明による方法の一実施形態に従ったMEMS共振器の製造プロセスにおける他の段階を示す。この実施形態において、可動素子48に酸化ケイ素層60を設ける。その間、ヤング率の負の温度係数を持つ(シリコンの)可動素子48の第1部分Aを形成し、ヤング率の正の温度係数を持つ(酸化ケイ素の)可動素子48の第2部分Bを形成する。第1部分Aおよび第2部分Bの断面積は、当業者が可動素子の絶対有効温度係数を小さい値またはゼロに調整するために用いるパラメータである。図1eに示した実施例において、酸化ケイ素層60をある所定の厚さに形成することは、適切な温度補償(ヤング率の温度係数を小さい値またはゼロにする)を達成するため必要である。
【0032】
酸化ケイ素の形成は、様々な方法で実施することができ、そのうちの一つは熱酸化である。熱酸化は、当業者には既知の処理である。シリコンの熱酸化の場合、図示した実施例の場合と同様に、酸化は、一般にОあるいはHОを含む環境下で約1000゜Cの温度で行う。酸化(例えば熱酸化)は、結果としてできる酸化ケイ素の層厚を極めて正確に制御できる。したがって、可動素子48のヤング率の有効熱係数は、適切な層厚の酸化ケイ素層60を形成するシリコンの酸化を通して、容易にゼロに調整される。熱酸化中、可動素子48のシリコンは消耗し、したがって、可動素子48の第2部分Bの体積が増加するとともに、シリコンで構成される可動素子の第1部分Aの体積は減少する。熱酸化に関するさらなる情報は、非特許文献1に記載されている。
【非特許文献1】「シリコンプロセッシング(Silicon Processing)」第1巻、第198〜241頁におけるS.ウルフ(S. Wolf)氏の記事
【0033】
図1eにおいて、二酸化ケイ素SiО(誘電体)は、とくに可動素子48上のシリコンがカバーされていないすべての場所で成長する。しかし、二酸化ケイ素の成長は、局部的なキャッピング層を設けるまたは保護層を設けることにより、特定の場所において妨げられる。代案として、異なる材料をシリコンに加えて頂部層に使用し、これにより、シリコンのみが酸化される。この原理を用いた既知のアイソレーション(隔離)技術は、LOCOS(Local Oxidation Of Silicon/局部的シリコン酸化)と呼ばれる。LOCOSにおいては、窒化ケイ素(Si)層を使用して、酸化を回避する。したがって、この技術により、可動素子の特定の部分上にのみ誘電体を設けることができる。
【0034】
代案として、酸化の代わりに、誘電体(例えば酸化ケイ素)を可動素子48上に堆積することができる。この堆積を行うには、自動層堆積(ALD)および低圧化学蒸着(LPCVD)といったいくつかの技術がある。誘電体を確実に可動素子48の側壁上に堆積するため、傾斜/シャドー堆積技術を用いる。陰影堆積技術についてのさらなる情報は、非特許文献2に記載されている。
【非特許文献2】「シリコンプロセッシング(Silicon Processing)」第1巻、第374頁におけるS.ウルフ(S. Wolf)氏の記事
【0035】
現在、シリコンおよび酸化ケイ素が最も標準的なプロセスに適応すると思われる。しかし、当業者は、反対符号の温度係数を持つ他の材料を選択することもできる。この変更は、本発明の範囲から逸脱するものではない。さらに、堆積をする場合、可動素子48の第1部分Aおよび第2部分Bに用いる材料の選択に関して、ほんの僅かな制限しかない。
【0036】
図1eに示した段階の前後に、製品を仕上げるいくつかの他のステップを実行する。例えば、
・成長した/堆積した酸化物の部分的除去ステップ、
・電極の形成ステップ、
・ボンドパッドの形成ステップ、
・付加的回路の形成ステップ
などである。上述したステップは、当業者には既知である。
【0037】
図2および図3につき説明すると、これは本発明を実証するシミュレーションを行ったものである。図2はこれらシミュレーションに用いるモデルを示し、図3は結果を示す。図2は、(可動素子48の第2部分を形成する)酸化ケイ素層60をその表面に有する、縦(長手)モードMEMS共振器の可動素子48を示す。この実施例において可動素子48の第1部分(内部)Aはシリコンを含む。縦(長手)モードMEMS共振器は、可動素子48が長手方向(図示しない電極に接近および離間する方向)に運動する共振器である。したがって、可動素子48の長さは時間によって変化する。これら運動を、図2に2つの矢印D1,D2で示す。可動素子48は、中央に位置する2つのアンカー70,80によって支持する。
【0038】
酸化ケイ素層60の厚さは、シミュレーションのためのパラメータとして用いる。例えば、長手モードMEMS共振器の共振周波数の温度ドリフトは3つの異なる条件下でシミュレートする。
1) 酸化ケイ素なし(図3グラフP1)
2) 300nm酸化ケイ素(図3グラフP2)
3) 500nm酸化ケイ素(図3グラフP3)
【0039】
図3において、MEMS共振器の正規化した共振周波数を、3つの異なる状況でプロットした。図3から、300nmの酸化ケイ素を設けたとき、温度ドリフトは−44ppm/K(グラフP1)から−13ppm/K(グラフP2)まで減少することが推定される。さらに酸化ケイ素の層厚を500nmまで増加させると、正の温度ドリフト+3.5ppm/K(グラフ3)も得られる。したがって、これはヤング率の正の有効温度係数が達成されたことを意味する。図3から、この特定の実施例によって、300nmから500nmの範囲における層厚の酸化ケイ素は、(温度係数がゼロとなる)適切な温度補償を達成できることが結論付けられた。この結果は本発明の有効性を実証する。
【0040】
明らかなことに、この温度補償が起こる箇所の厚さは、様々な設計パラメータ(長さ、厚さ、幅、材料など)に基づく。しかし、当業者はごく僅かな実験だけで適切な酸化物の層厚を発見することができる。
【0041】
温度係数の最小化は以下のようにして達成される。第1部分Aおよび第2部分Bに対するヤング率は次式で与えられる。
【数2】

【0042】
2個の部分A,Bを有する可動素子の場合、可動素子の有効温度係数は次式で与えられる。
【数3】

ただし、Aは第1部分Aの断面積、Aは第2部分Bの断面積であり、またαは可動素子の第1部分におけるヤング率の温度係数で、αは可動素子の第2部分におけるヤング率の温度係数である。
【0043】
本発明によるMEMS共振器において、有効温度係数を、可動素子の第1部分におけるヤング率の温度係数と可動素子の第2部分におけるヤング率の温度係数との間にすることが可能である。実際、ゼロに近い有効温度係数が最も有利である。この係数をゼロにチューニングする精度に影響を与える因子は、可動素子の第1部分における初期断面積および可動素子の第2部分における断面積の精度である。
【0044】
以下の条件を満足するとき、有効温度係数はゼロに等しくなる(また、したがって最小化される)。
【数4】

断面積比は以下の必要条件を満たすべきものとする。
【数5】

【0045】
一度必要な断面積比がわかれば、必要な酸化層の層厚は容易に計算できる。
【0046】
本発明の変更例において、MEMS共振器に、第3温度係数と共に第3ヤング率を持つ第3部分を有する可動素子を設ける。このようなMEMS共振器において、第1、第2または第3部分のうち少なくとも一つにおけるヤング率の温度係数は、他の部分の温度係数と反対の符号を有するものとしなければならない。このきとき、有効温度係数の等式は次式で与えられる。
【数6】

ただし、A は第3部分の断面積、α は可動素子の第3部分におけるヤング率の温度係数である。
【0047】
そして、以下の条件を満たす場合、有効温度係数はゼロに等しい。
【数7】

【0048】
したがって、本発明は、共振周波数の良好な温度補償を持ち、従来技術のMEMS共振器より複雑ではない、訴求力のあるMEMS共振器を提供する。本発明は、さらにMEMS共振器の製造方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1a】本発明による一実施形態に従ったMEMS共振器の製造方法を示す図である。
【図1b】本発明による一実施形態に従ったMEMS共振器の製造方法を示す図である。
【図1c】本発明による一実施形態に従ったMEMS共振器の製造方法を示す図である。
【図1d】本発明による一実施形態に従ったMEMS共振器の製造方法を示す図である。
【図1e】本発明による一実施形態に従ったMEMS共振器の製造方法を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に従ったMEMS共振器の可動素子を示す図である。
【図3】本発明の有効性を実証するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動素子を有するMEMS共振器であって、可動素子は第1ヤング率および第1ヤング率の第1温度係数を持つ第1部分を有し、さらに前記可動素子は第2ヤング率および第2ヤング率の第2温度係数を持つ第2部分を有し、少なくともMEMS共振器の動作条件下では、第2温度係数の符号が第1温度係数の符号と反対であり、第1部分の断面積および第2部分の断面積は、第1部分のヤング率の絶対温度係数に第1部分の断面積をかけた値が、第2部分のヤング率の絶対温度係数に第2部分の断面積をかけた値から、20%以上逸脱することなく、これら断面積は局部的におよび可動素子に対して直交する断面で測定するものとした、ことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMS共振器において、前記可動素子の第1部分の断面積を可動素子の第2部分の断面積で割った比が、前記可動素子の第2部分におけるヤング率の負の温度係数を可動素子の第1部分におけるヤング率の温度係数で割った他の比とほぼ等しいものとしたことを特徴とする、MEMS共振器。
【請求項3】
請求項1または2に記載のMEMS共振器において、前記第1部分または第2部分のうち一方をシリコン、他方を酸化ケイ素としたことを特徴とする、MEMS共振器。
【請求項4】
MEMS共振器の製造方法において、
基板層、この基板層上に設けた犠牲層、およびこの犠牲層上に設けた頂部層を有する半導体基体を準備するステップであって、前記頂部層は可動素子の第1部分を形成する第1材料を含み、この第1部分は第1ヤング率および第1ヤング率の第1温度係数を持つものとした該半導体基体準備ステップと、
可動素子を画定するために前記頂部層をパターン形成するステップと、
前記基板層から前記可動素子を部分的に切り離すよう選択的に前記犠牲層を除去するステップと、
前記可動素子の第2部分を形成するよう前記可動素子上に第2材料を設ける第2材料準備ステップであって、前記第2部分は第2ヤング率および第2ヤング率の第2温度係数を有し、少なくともMEMS共振器の動作条件では、第2温度係数の符号は第1温度係数の符号と反対であり、前記第1部分の断面積および第2部分の断面積は、第1部分のヤング率の絶対温度係数に第1部分の断面積をかけた値は、第2部分のヤング率の絶対温度係数に第2部分の断面積をかけた値から20%以上逸脱することがなく、前記断面積は局部的におよび可動素子に対して直交する方向に測定するものとした該第2材料準備ステップと、
を有するものとしたことを特徴とする、MEMS共振器の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のMEMS共振器の製造方法において、前記半導体基体準備ステップ中に、前記頂部層を、シリコンを含む犠牲層上に設けるものとした、MEMS共振器の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のMEMS共振器の製造方法において、前記第2材料準備ステップは、酸化ステップであって、前記可動素子の少なくとも1個の側壁における少なくともシリコンを酸化ケイ素に変化させる該酸化ステップを有するものとしたことを特徴とする、MEMS共振器の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のMEMS共振器を有することを特徴とした、MEMS発振器。
【請求項8】
請求項7に記載のMEMS発振器を有することを特徴とした、集積回路。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−521176(P2009−521176A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546790(P2008−546790)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/IB2006/054931
【国際公開番号】WO2007/072409
【国際公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【Fターム(参考)】