エンジンの制御装置
【課題】実VVT遅角の応答遅れが生じてもプリイグニッションの発生を抑制することが出来るエンジンの制御装置を提供する。
【解決手段】本発明によるエンジンの制御装置は、吸気バルブ22をVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構70を備え、この可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定するスロットル弁開度設定手段と、を有する。
【解決手段】本発明によるエンジンの制御装置は、吸気バルブ22をVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構70を備え、この可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定するスロットル弁開度設定手段と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に係り、特に、アイドル時にVVTを進角し、オフアイドル時にVVTを遅角するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮行程の上死点付近で過早着火する、いわゆる、プリイグニッションは、主に、筒内温度や筒内圧力を減少させることで、その発生が抑制される。
ここで、吸気バルブタイミングの開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構(以下、VVT機構)が知られている。このVVTにより、VVT遅角、即ち、吸気バルブの閉じタイミングを遅くすることにより、筒内の有効圧縮比を下げ、その結果、断熱圧縮を生じにくくし、筒内圧力を減少させて、プリイグニッションの発生を抑制することが出来ることが知られている。
【0003】
特許文献1には、低回転/高負荷時、吸気弁の開閉時期を遅角して有効圧縮比を低下させ、過早着火を抑制するエンジンの制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−076466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アイドル時から、ドライバーがスロットルペダルを踏み込み、オフアイドル時へと移行する状況は、筒内に比較的急激に空気量が増大すると共に筒内圧力が上昇することなどに起因して、最もプリイグニッションが生じやすい状況である。このようなプリイグにションは、エンジンの信頼性に影響を与えるので、このようなアイドル時からオフアイドル時への移行時に、VVT機構により吸気バルブをVVT遅角させ、プリイグニッションの発生を抑制する必要がある。
【0006】
ここで、VVT機構には、主に、油圧式と、電動モータ式のものがある。電動モータ式のものは、油圧式に比べて応答速度が速く、正確にVVT遅角速度及び進角量を得ることが出来るものとされている。
しかしながら、本発明者らは、実験、開発過程において、電動モータを使用したVVT機構においても、アイドル時からオフアイドル時への移行時、プリイグニッションを抑制するための目標とする所定のVVT遅角に対して、実際に得られるVVT遅角に応答遅れが生じることを見出した。この応答遅れは、吸気バルブの閉じタイミングが、目標とするタイミングより早いタイミングとなるものであり、その結果、筒内の有効圧縮比並びに筒内圧力などを十分に減少させることが出来ず、プリイグニッションの発生を抑制することが出来ないという問題を本発明者らは見出した。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、実VVT遅角の応答遅れが生じてもプリイグニッションの発生を抑制することが出来るエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、吸気バルブをVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構を備えたエンジンの制御装置であって、可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第1限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第1スロットル弁開度設定手段と、を有することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、アイドル時からオフアイドル時への移行時、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算し、その演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。また、演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、一律にスロットル開度になましをかけることなく、プリイグニッションの発生を抑制しつつ可及的速やかにスロットル弁を開いて、車両の発進性を確保することが出来る。即ち、一律にスロットル開度になましをかけると、プリイグニッションの発生に余裕があるような空気量でもスロットル弁が閉じ気味となり、発進性が犠牲になるが、本発明においては、限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、このようなことを防止することが出来る。
【0009】
本発明において、好ましくは、さらに、低回転時において、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションの限界空気量を演算する第2限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第2スロットル弁開度設定手段と、を有する。
このように構成された本発明においては、低回転時、プリイグニッション限界空気量以上にならないようにスロットル弁の(最大)開度が設定されるので、アイドル時からオフアイドル時への移行し、車両が発進した後の低回転時にも、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【0010】
本発明において、好ましくは、第1限界空気量演算手段及び/又は第2限界空気量演算手段によるプリイグニッションの限界空気量の演算は、先ず、実インマニ圧から所定の多項式モデルを使用してプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、次に、VVTの実位相から所定の多項式モデルの逆関数を使用してプリイグニッションが生じる限界空気量を演算する。
このように構成された本発明においては、所定の多項式モデルを用いて、実インマニ圧からプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、さらに、所定の多項式モデルの逆関数を用いて、VVTの実位相からプリイグニッションが生じる限界空気量を演算するので、実VVT遅角の応答が目標VVT遅角より遅れても、効果的に、プリイグニッションが生じる限界空気量を求めることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるエンジンの制御装置によれば、実VVT遅角の応答遅れが生じてもプリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す一部断面側面図である。
【図3】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す正面図である。
【図4】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置により実行される制御の制御フローを示すフローチャートである。
【図6】図5の制御フロー内で実行される演算内容を説明するための図である。
【図7】インマニ圧/限界空気量と有効圧縮比/VVT実位相とに対する有効圧縮比限界/VVT進角限界を示す線図である。
【図8】アイドル時からオフアイドル時の移行時における実VVT遅角の応答遅れを説明するための実VVT進角量と目標VVT進角量とを示す線図である。
【図9】アイドル時からオフアイドル時の移行時におけるスロットル開度とインマニ圧との関係を示す線図である。
【図10】図5の制御フローで実行される演算結果の一例を説明するための目標空気量を示す線図である。
【図11】図5の制御フローで実行される制御結果の一例を説明するためのインマニ圧及びスロットル開度を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。
先ず、図1により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成を説明する。図1は本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【0014】
先ず、図1に示すように、エンジン1は、燃焼室2aを形成するシリンダ2と、このシリンダ2内で往復運動するピストン4と、このピストン4に一端が連結されたコネクティングロッド6と、このコネクティングロッド6の他端が連結されたクランクシャフト8と、燃焼室2aに燃料を供給する燃料供給装置10とを有する。
【0015】
また、エンジン1の燃焼室2aに空気を供給する吸気系統には、吸気を浄化するエアクリーナ12と、このエアクリーナ12から吸気ポート20まで延びる吸気通路13とが設けられ、吸気通路13には、エアクリーナ12を介して吸入された空気の温度及び流量を検出する吸気温/流量センサ14と、吸入空気量を変化させる電子制御スロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度を検出するスロットルバルブ開度センサ18とが設けられている。これらの吸気系統を介して吸入された空気は、燃焼室2aの吸気開口に連通した吸気ポート20及びその吸気開口を開閉する吸気バルブ22を介して、燃焼室2a内に流入する。また、エンジン1は、燃焼室2a内に流入した空気に燃料を噴射することによって得られる混合気を燃焼させる点火プラグ23を有する。
【0016】
燃焼室2a内で燃焼された排気ガスは、燃焼室2aの排気開口に連通した排気ポート24及び排気開口を開閉する排気弁26を介して、エンジン1の排気系統に排出される。エンジン1の排気ガスを排気する排気系統には、リニアO2センサ28と、第1触媒30と、ラムダO2センサ32と、第2触媒34とが設けられている。
【0017】
また、エンジン1は、クランクシャフト8の回転角を検出するクランク角センサ36と、エンジンのシリンダブロックのウォータージャケットを流れるエンジン冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ38とを有する。
【0018】
次に、図1に示すように、燃料供給装置10は、燃料を貯留する燃料タンク40と、この燃料タンク40内の燃料を圧送する低圧燃料ポンプ42と、この低圧燃料ポンプ42によって圧送された燃料を濾過する燃料フィルタ44と、低圧燃料ポンプによる加圧圧力を一定にする圧力レギュレータ46と、低圧燃料ポンプ42から圧送された燃料を加圧する高圧燃料ポンプ48と、高圧燃料ポンプ48によって加圧された燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ50と、高圧燃料ポンプ48によって加圧された燃料を燃焼室2a内に噴射する燃料噴射弁であるインジェクタ52と、このインジェクタ52に供給される圧力が所定の圧力以上になったとき、加圧された燃料を高圧燃料ポンプ48の上流側に戻す第2燃料圧力調整手段であるリリーフ弁54とを有する。
【0019】
次に、図1に示すように、エンジン1は、そのシリンダヘッドの上部に、吸気側カムシャフト60と、排気側カムシャフト62を有する。これらの吸気側カムシャフト60及び排気側カムシャフト62には、カムシャフト60、62の回転に伴って回転し、吸気バルブ22及び排気弁26を作動させ、その作動により吸気ポート20の吸気開口を所定のタイミングで開閉し、また、排気ポート24の排気開口を所定のタイミングで開閉するように構成された吸気カム64及び排気カム66が設けられている。
【0020】
また、エンジン1は、カムシャフト60の回転位相を検出する吸気カム角センサ68を有する。吸気カム角センサ68は、エンコーダであり、カムシャフト60が所定単位角度回転する毎に1パルスづつタイミングパルスを出力するよう構成されている。
【0021】
また、エンジン1は、吸気バルブ22の開閉タイミングの位相を変化させる可変バルブタイミング機構70を有する。この可変バルブタイミング機構70を図2及び図3により説明する。図2は本発明の実施形態による制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す一部断面側面図であり、図3は本発明の実施形態による制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す正面図である。
【0022】
図2に示すように、可変バルブタイミング機構70は、吸気側カムシャフト60の一側端部に設けられている。
この可変バルブタイミング機構70は、回転自在なケース72と、吸気側カムシャフト60の一側端部にボルト等により締結固定された回転体74と、ケース72に固定された電動モータ76と、吸気バルブ22が所定のバルブタイミング量進角し或いは遅角する(以下、「VVT進角(量)」、「VVT遅角(量)」という)よう、電動モータ76の所定の回転量を回転体74に伝達する動力伝達機構(図示せず)等から構成されている。
動力伝達機構は、外歯歯車のサンギアと、サンギアに対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギアと、これらのサンギアとリングギアとに噛合するピニオンギアを自転且つ公転自在に保持するキャリアとを回転要素とする歯車機構である。
【0023】
図3に示すように、ケース72の外周面には、クランクシャフト8により駆動されるタイミングチェーン78に係合可能な歯が形成された環状のスプロケット80が設けられ、クランクシャフト8の回転動力は、ケース72、電動モータ76、動力伝達機構、回転体74を介して吸気側カムシャフト60に伝達されるよう構成されている。
【0024】
次に、ケース72の内周面には、吸気側カムシャフト60の軸心方向に突出する突出部72a及び突出部72bが設けられている。突出部72aは吸気側カムシャフト60に対して進角側に設けられ、突出部72bは吸気側カムシャフト60に対して遅角側に設けられている。一方、回転体74の外周側には、放射方向へ突出する突部82が設けられている。
【0025】
回転体74は、電動モータ76の作動により動力伝達機構を介して、ケース72に対して相対的に回転可能に形成され、吸気バルブ22が開閉するバルブタイミングを変更可能に構成されている。即ち、例えば、図3の矢印Aに示すように、回転体74がケース72に対して相対的に遅角側に回転するよう電動モータ76を作動させると、吸気側カムシャフト62の回転のクランクシャフト8の回転に対する位相を遅らせて、吸気バルブ22を遅角させることが出来る。突部82と突出部72bが当接する位置が、最遅角位置である。
【0026】
次に、図4により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。図4は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態によるエンジン1は、各センサの検出信号に基づいてエンジン1を制御するエンジン制御ユニット(ECU)90を有する。エンジン制御ユニット90は、具体的には、マイクロプロセッサ、メモリ及びそれらを作動させるプログラム等(以上、図示せず)から構成され、所定の条件下で吸気バルブ22が開閉するバルブタイミングを制御するために、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御するVVT進角/遅角制御手段92、及び、所定の条件下で電子制御スロットルバルブ16の開度を制御するスロットルバルブ開度制御手段94を有する。
【0027】
エンジン制御ユニット90には、吸気温/流量センサ14により検出された吸気通路13内の空気温度及び空気量の各値、スロットルバルブ開度センサ18により検出されたスロットル開度の値、クランク角センサ36により検出されたクランクシャフト8の回転数の値、エンジン水温センサ38により検出されたエンジン水温の値、吸気カム角センサ68により検出された吸気バルブ22のバルブタイミング進角量或いは遅角量の値がそれぞれ入力される。エンジン制御ユニット90は、これらの値に基づいて、VVT進角/遅角制御手段92、及び、スロットルバルブ開度制御手段92により、電動モータ76、電子制御スロットルバルブ16を制御するよう構成されている。
【0028】
次に、図5乃至図11により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の制御内容を説明する。図5は本発明の実施形態によるエンジンの制御装置により実行される制御の制御フローを示すフローチャートであり、図6は図5の制御フロー内で実行される演算内容を説明するための図であり、図7は、インマニ圧/限界空気量と有効圧縮比/VVT実位相とに対する有効圧縮比限界/VVT進角限界を示す線図であり、図8はアイドル時からオフアイドル時の移行時における実VVT遅角の応答遅れを説明するための実VVT進角量と目標VVT進角量とを示す線図であり、図9はアイドル時からオフアイドル時の移行時におけるスロットル開度とインマニ圧との関係を示す線図であり、図10は図5の制御フローで実行される演算結果の一例を説明するための目標空気量を示す線図であり、図11は図5の制御フローで実行される制御結果の一例を説明するためのインマニ圧を示す線図である。図5においてSは各ステップを示す。
【0029】
以下では、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の制御を、車両停止時からドライバーがアクセルを踏み込み、エンジン回転数が、アイドリング状態から上昇し始める場合(アイドル時からオフアイドル時へと移行する場合)に適用した例を説明する。
【0030】
先ず、図5に示すように、S1において、アイドル時からオフアイドル時、VVT遅角させる。即ち、本実施形態では、ドライバーによるスロットル操作により、スロットル開度が立ち上がる場合、プリイグニッションを抑制するために、VVT進角量(以下、本実施形態では、「VVT進角量」とは「最遅角位置に対する進角量」を表すものとする)を図6に示すように遅角するように目標を設定(図6の破線で示す目標VVT進角)し、そのような目標VVT進角が得られるよう、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御する。目標VVT進角量は、現時点でのエンジン運転状態での目標トルクなどから決定される。
【0031】
ここで、S1の制御を行った場合における、本実施形態の可変バルブタイミング機構70の特性を図6により説明すると共に、比較例として、本実施形態におけるエンジンの制御装置による制御(図5)を実行しない場合にプリイグニッションが発生し易いことを図7により説明する。
上述したように、S1では、VVT進角量を図6に示すように遅角するように目標を設定し、そのような目標VVT進角が得られるよう電動モータ76を制御するが、実際には、図6の破線で示す実VVT進角で示すように、VVT遅角に応答遅れが生じ、吸気バルブ22の閉じタイミングが、目標とするタイミングより早くなる。このような応答遅れに伴い、図7に示すように、スロットルバルブ16の開度の上昇に対して吸気通路13の吸気圧力(以下、「インマニ圧」という)の上昇の応答が早くなり、図6及び図7のAで示すような時期範囲でプリイグニッションが発生し、或いは、発生し易くなってしまう。なお、図7に示すスロットル開度の線図は、ドライバーのアクセル要求に対応したスロットル開度である。本実施形態によるエンジンの制御装置による制御(図5)では、このような時期範囲Aのプリイグニッションを抑制するよう、以下のようにS2以降の処理を実行する。
【0032】
本実施形態によるエンジンの制御装置の制御内容の説明に戻る。
S1において、VVT遅角させた後、S2において、現時点でのエンジン運転状態、より詳細には、現時点でのクランク角における、有効圧縮比限界を演算する。本実施形態における有効圧縮比限界とは、プリイグニッションが生じない有効圧縮比の限界である。
図8(a)に示すように、有効圧縮比限界(y)は、インマニ圧(x)を変数とし、有効圧縮比限界多項式モデルを使用して演算される。
【0033】
この演算内容を具体的に説明する。
先ず、有効圧縮比限界多項式モデルとは、最も簡単に表すと「有効圧縮比(y)=ax2+bx+c」のような2次式で表されるモデル(y=f(x))であり、このモデルにおいて、変数xはインマニ圧、a、b、cは定数である。実際に使用される2次式のモデルは、有効圧縮比限界をより正確に予測するために、より複雑な式となる。定数には、図8(a)に示すように、燃料噴射時期、エンジン回転数、吸気バルブを閉じた時点での筒内温度、燃料のオクタン価が代入される。
【0034】
燃料噴射時期は、S2の処理時点でのエンジン運転状態に応じた燃料噴射時期の値がエンジン制御ユニット90から出力され、上記モデルの定数として代入される。
エンジン回転数は、S2の処理時点においてクランク角センサ36により検出された値が、上記モデルの定数として代入される。
筒内温度は、S2の処理時点において、吸気温/流量センサ14により検出された吸気通路13内の空気温度、及び、エンジン水温センサ38により検出されたエンジン水温の値より推定され、上記モデルの定数として代入される。なお、吸気バルブを閉じた時点は、吸気カム角センサ68により検出される。
燃料のオクタン価は、エンジン制御ユニット90のメモリに学習されたオクタン価が、上記モデルの定数として代入される。
【0035】
S2による演算結果は、図9のように、インマニ圧(x)と、有効圧縮比(y)との関係として得られる。
【0036】
次に、S3に進み、VVT進角限界を演算する。本実施形態におけるVVT進角限界とは、プリイグニッションが生じないVVT進角量の限界である。
このS3では、S2により演算され得られた限界有効圧縮比を基に、可変バルブタイミング機構70のVVT進角限界を演算する。即ち、可変バルブタイミング機構70のVVT進角量の増大による吸気バルブ22の閉じタイミングの早期化と、それに伴う有効圧縮比の増大との関係から、VVT進角限界を演算する。このS3で演算されたVVT進角限界も、図9に示すように、S2で演算された限界有効圧縮比限界と同様の2次曲線となる。
【0037】
次に、S4に進み、上述した目標VVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいか否かを判定する。目標VVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいと判定された場合には、S5に進み、S1で設定した目標VVT進角量を、S3で演算されたVVT進角限界に制限する。即ち、S5では、VVT進角量が、プリイグニッションが生じるようなVVT進角量とならないよう目標VVT進角量を設定し、そのようなVVT進角量が得られるよう、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御する。
【0038】
次に、S5の処理がなされた後、或いは、S4において、目標VVT進角量がS3で演算されたVVT進角限界以下であると判定された場合、S6に進み、現時点でのVVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいか否かを判定する。このS6において、現時点でのVVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいと判定された場合には、S7に進み、限界インマニ圧を演算する。
【0039】
このS7における限界インマニ圧の演算について、図8(b)及び図9により、具体的に説明する。
S7において、現時点でのVVT進角量を、吸気カム角センサ68により検出された吸気バルブ22のバルブ閉じタイミングを基に演算し、それを変数yとする。そして、S2で使用した有効圧縮比限界多項式モデル(2次式)の逆関数「x=g(y)」により、インマニ圧xを求める。なお、現時点での有効圧縮比を変数yとして、限界インマニ圧を演算しても良い。ここで、現時点でのVVT進角量yから、有効圧縮比限界多項式モデルの逆関数を使用してインマニ圧を演算しているので、その演算されたインマニ圧xは、現時点での、プリイグニッションが生じない限界インマニ圧である。
【0040】
このS7の処理を図9により説明する。上述したようにS2及びS3において、有効圧縮比限界多項式モデルを使用して、図9に示すような有効圧縮比限界/VVT進角限界の2次曲線を既に得ているので、S7では、図9の破線で示すように、VVT進角限界の2次曲線に対し、現時点でのVVT進角量yから限界のインマニ圧を演算する。
【0041】
ここで、有効圧縮比限界多項式モデルの逆関数(x=g(y))は、上述した最も簡単な2次式に対応して説明すると、「ax2+bx+(c−y)=φ」で表され、この式に、有効圧縮比yの値を代入として、インマニ圧x(「x=(−b±√(b2−4ac))/2a」)が得られる。上述したように、実際に使用される2次式のモデルは、有効圧縮比限界をより正確に予測するためにより複雑な式を使用するため、これは最も簡単な例である。定数a、b、cに代入される値は、S2で説明したものと同様である。
【0042】
S7で限界インマニ圧が演算された後、S8に進み、S7で演算された限界インマニ圧に相当する限界空気充填効率(吸気負圧)Ceを演算する。ここで、VVT進角量が同じ条件下では、吸気負圧Ce(空気量をエンジン回転数で割った1回転当たりの空気充填率)は、インマニ圧と比例関係にあり、このS8では、そのような比例関係を利用すると共に、現時点でのVVT進角量に応じて限界空気充填効率を演算する。
【0043】
S8で限界空気充填効率が演算された後、S9に進み、そのような限界空気充填効率と同等の空気充填効率となるように、電子制御スロットルバルブ16の開度を制限する。
【0044】
そして、S1〜S9の処理を繰り返す。
S1〜S9の処理の繰り返しにより、S8においては、図10に示すように、クランク角に応じた限界空気充填効率が演算され、このような図10のような限界空気充填効率に従って、S9でスロットル開度が調整され、図11に示すように電子制御スロットルバルブ16の開度が制御され、それに応じて、図11に示すような、インマニ圧の応答が得られる。
【0045】
即ち、S1〜S9の処理の繰り返しにより、VVT遅角の応答が上述したように遅れる場合、且つ、ドライバーのアクセル要求がプリイグニッションを生じるようなものである場合、例えば、アイドル時からオフアイドル時の発進時や低速走行時に、アクセルを短時間で大きく踏み込むような場合、電子制御スロットルバルブ16の開度により得られる空気充填効率が、限界空気充填効率となるように、電子制御スロットルバルブ16を徐々に開くように制御される。即ち、一律にスロットル開度になましをかけることなく、エンジン1の運転状態及び可変バルブタイミング機構70のVVT遅角状態に応じて、エンジンクランク角が回転する時点で常に、限界有効圧縮比を求めるなどのS1〜S9の処理を繰り返し実行して、スロットル開度を調整し、インマニ圧を得るようにしている。そして、図11に示すように、プリイグニッションが生じる領域Aにおいてインマニ圧の応答が抑制されるように、電子制御スロットルバルブ16の開度が制御される。
【0046】
また、本実施形態では、基本的に、VVTの応答遅れがなくなる時点(目標VVTに追いつく時点)までS1〜S9の処理を繰り返すことにより、図9の実線の矢印で示すように、プリイグニッションが発生する領域に入らないようにして、有効圧縮比を下げる、即ち、VVT遅角を行うようにしている。一方、図9の二点鎖線の矢印で示すように、従来技術、或いは、本実施形態による制御を行わない場合には、図7において説明したように、スロットル開度に対してインマニ圧の応答が早く、プリイグニッション発生領域に入る。
【0047】
なお、上述した制御内容は、主に、発進時にアイドル時からオフアイドル時にVVT遅角させる場合について説明したが、本実施形態によるエンジンの制御装置は、発進後、エンジン回転数が低回転数となり、ドライバーがアクセルを踏むような場合にVVT遅角させる場合にも適用可能である。
【0048】
次に、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の主な作用効果を説明する。
本実施形態によれば、アイドル時からオフアイドル時への移行時、検出されるVVT進角量(VVTの実位相)に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算し、その演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、VVTの応答遅れに伴う期間Aでのプリイグニッションの発生を抑制することが出来る(図6、図7、図11参照)。
【0049】
また、本実施形態によれば、演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、一律にスロットル開度になましをかけることなく、プリイグニッションの発生を抑制しつつ可及的速やかにスロットル弁を開いて、車両の発進性を確保することが出来る。即ち、一律にスロットル開度になましをかけると、プリイグニッションの発生に余裕があるような空気量でもスロットル弁が閉じ気味となり、発進性が犠牲になるが、本実施形態においては、エンジン運転状態に応じて、その都度、演算処理を繰り返し、その運転状態に応じた限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、このようなことを防止することが出来る。
【0050】
また、本実施形態によれば、エンジン低回転時にも、プリイグニッションが発生する限界空気量以上にならないようにスロットルバルブ16の開度が設定されるので、アイドル時からオフアイドル時への移行し、車両が発進した後の低回転時にも、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【0051】
また、本実施形態によれば、有効圧縮比多項式モデルを用いて、検出されるインマニ圧(実インマニ圧)からプリイグニッションが生じる限界有効圧縮比限界を演算し、さらに、有効圧縮比多項式モデルの逆関数を用いて、検出されるVVT進角量(VVTの実位相)からプリイグニッションが生じる限界空気量を演算するので、実VVT遅角の応答が目標VVT遅角より遅れても(VVT遅角をさせようとする場合、電動モータ76で制御される実際のVVT進角量(最遅角位置に対する進角量)に、目標とするVVT進角量に対する応答遅れが生じても)、効果的に、プリイグニッションが生じる限界空気量を求めることが出来る。
【符号の説明】
【0052】
1 多気筒直噴式エンジン
14 吸気温/流量センサ
16 電子制御スロットルバルブ
18 スロットルバルブ開度センサ
36 クランク角センサ
38 エンジン水温センサ
68 吸気カム角センサ
70 可変バルブタイミング機構
76 可変バルブタイミング機構のVVT進角用或いはVVT遅角用の電動モータ
90 エンジン制御ユニット
92 VVT進角/遅角制御手段
94 スロットルバルブ開度制御手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に係り、特に、アイドル時にVVTを進角し、オフアイドル時にVVTを遅角するエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮行程の上死点付近で過早着火する、いわゆる、プリイグニッションは、主に、筒内温度や筒内圧力を減少させることで、その発生が抑制される。
ここで、吸気バルブタイミングの開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構(以下、VVT機構)が知られている。このVVTにより、VVT遅角、即ち、吸気バルブの閉じタイミングを遅くすることにより、筒内の有効圧縮比を下げ、その結果、断熱圧縮を生じにくくし、筒内圧力を減少させて、プリイグニッションの発生を抑制することが出来ることが知られている。
【0003】
特許文献1には、低回転/高負荷時、吸気弁の開閉時期を遅角して有効圧縮比を低下させ、過早着火を抑制するエンジンの制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−076466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、アイドル時から、ドライバーがスロットルペダルを踏み込み、オフアイドル時へと移行する状況は、筒内に比較的急激に空気量が増大すると共に筒内圧力が上昇することなどに起因して、最もプリイグニッションが生じやすい状況である。このようなプリイグにションは、エンジンの信頼性に影響を与えるので、このようなアイドル時からオフアイドル時への移行時に、VVT機構により吸気バルブをVVT遅角させ、プリイグニッションの発生を抑制する必要がある。
【0006】
ここで、VVT機構には、主に、油圧式と、電動モータ式のものがある。電動モータ式のものは、油圧式に比べて応答速度が速く、正確にVVT遅角速度及び進角量を得ることが出来るものとされている。
しかしながら、本発明者らは、実験、開発過程において、電動モータを使用したVVT機構においても、アイドル時からオフアイドル時への移行時、プリイグニッションを抑制するための目標とする所定のVVT遅角に対して、実際に得られるVVT遅角に応答遅れが生じることを見出した。この応答遅れは、吸気バルブの閉じタイミングが、目標とするタイミングより早いタイミングとなるものであり、その結果、筒内の有効圧縮比並びに筒内圧力などを十分に減少させることが出来ず、プリイグニッションの発生を抑制することが出来ないという問題を本発明者らは見出した。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、実VVT遅角の応答遅れが生じてもプリイグニッションの発生を抑制することが出来るエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために本発明は、吸気バルブをVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構を備えたエンジンの制御装置であって、可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第1限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第1スロットル弁開度設定手段と、を有することを特徴としている。
このように構成された本発明においては、アイドル時からオフアイドル時への移行時、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算し、その演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。また、演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、一律にスロットル開度になましをかけることなく、プリイグニッションの発生を抑制しつつ可及的速やかにスロットル弁を開いて、車両の発進性を確保することが出来る。即ち、一律にスロットル開度になましをかけると、プリイグニッションの発生に余裕があるような空気量でもスロットル弁が閉じ気味となり、発進性が犠牲になるが、本発明においては、限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度(変化)を設定するので、このようなことを防止することが出来る。
【0009】
本発明において、好ましくは、さらに、低回転時において、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションの限界空気量を演算する第2限界空気量演算手段と、この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第2スロットル弁開度設定手段と、を有する。
このように構成された本発明においては、低回転時、プリイグニッション限界空気量以上にならないようにスロットル弁の(最大)開度が設定されるので、アイドル時からオフアイドル時への移行し、車両が発進した後の低回転時にも、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【0010】
本発明において、好ましくは、第1限界空気量演算手段及び/又は第2限界空気量演算手段によるプリイグニッションの限界空気量の演算は、先ず、実インマニ圧から所定の多項式モデルを使用してプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、次に、VVTの実位相から所定の多項式モデルの逆関数を使用してプリイグニッションが生じる限界空気量を演算する。
このように構成された本発明においては、所定の多項式モデルを用いて、実インマニ圧からプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、さらに、所定の多項式モデルの逆関数を用いて、VVTの実位相からプリイグニッションが生じる限界空気量を演算するので、実VVT遅角の応答が目標VVT遅角より遅れても、効果的に、プリイグニッションが生じる限界空気量を求めることが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるエンジンの制御装置によれば、実VVT遅角の応答遅れが生じてもプリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す一部断面側面図である。
【図3】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す正面図である。
【図4】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態によるエンジンの制御装置により実行される制御の制御フローを示すフローチャートである。
【図6】図5の制御フロー内で実行される演算内容を説明するための図である。
【図7】インマニ圧/限界空気量と有効圧縮比/VVT実位相とに対する有効圧縮比限界/VVT進角限界を示す線図である。
【図8】アイドル時からオフアイドル時の移行時における実VVT遅角の応答遅れを説明するための実VVT進角量と目標VVT進角量とを示す線図である。
【図9】アイドル時からオフアイドル時の移行時におけるスロットル開度とインマニ圧との関係を示す線図である。
【図10】図5の制御フローで実行される演算結果の一例を説明するための目標空気量を示す線図である。
【図11】図5の制御フローで実行される制御結果の一例を説明するためのインマニ圧及びスロットル開度を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。
先ず、図1により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成を説明する。図1は本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を備えたエンジンの概略構成図である。
【0014】
先ず、図1に示すように、エンジン1は、燃焼室2aを形成するシリンダ2と、このシリンダ2内で往復運動するピストン4と、このピストン4に一端が連結されたコネクティングロッド6と、このコネクティングロッド6の他端が連結されたクランクシャフト8と、燃焼室2aに燃料を供給する燃料供給装置10とを有する。
【0015】
また、エンジン1の燃焼室2aに空気を供給する吸気系統には、吸気を浄化するエアクリーナ12と、このエアクリーナ12から吸気ポート20まで延びる吸気通路13とが設けられ、吸気通路13には、エアクリーナ12を介して吸入された空気の温度及び流量を検出する吸気温/流量センサ14と、吸入空気量を変化させる電子制御スロットルバルブ16と、このスロットルバルブ16の開度を検出するスロットルバルブ開度センサ18とが設けられている。これらの吸気系統を介して吸入された空気は、燃焼室2aの吸気開口に連通した吸気ポート20及びその吸気開口を開閉する吸気バルブ22を介して、燃焼室2a内に流入する。また、エンジン1は、燃焼室2a内に流入した空気に燃料を噴射することによって得られる混合気を燃焼させる点火プラグ23を有する。
【0016】
燃焼室2a内で燃焼された排気ガスは、燃焼室2aの排気開口に連通した排気ポート24及び排気開口を開閉する排気弁26を介して、エンジン1の排気系統に排出される。エンジン1の排気ガスを排気する排気系統には、リニアO2センサ28と、第1触媒30と、ラムダO2センサ32と、第2触媒34とが設けられている。
【0017】
また、エンジン1は、クランクシャフト8の回転角を検出するクランク角センサ36と、エンジンのシリンダブロックのウォータージャケットを流れるエンジン冷却水の温度を検出するエンジン水温センサ38とを有する。
【0018】
次に、図1に示すように、燃料供給装置10は、燃料を貯留する燃料タンク40と、この燃料タンク40内の燃料を圧送する低圧燃料ポンプ42と、この低圧燃料ポンプ42によって圧送された燃料を濾過する燃料フィルタ44と、低圧燃料ポンプによる加圧圧力を一定にする圧力レギュレータ46と、低圧燃料ポンプ42から圧送された燃料を加圧する高圧燃料ポンプ48と、高圧燃料ポンプ48によって加圧された燃料の圧力を検出する燃料圧力センサ50と、高圧燃料ポンプ48によって加圧された燃料を燃焼室2a内に噴射する燃料噴射弁であるインジェクタ52と、このインジェクタ52に供給される圧力が所定の圧力以上になったとき、加圧された燃料を高圧燃料ポンプ48の上流側に戻す第2燃料圧力調整手段であるリリーフ弁54とを有する。
【0019】
次に、図1に示すように、エンジン1は、そのシリンダヘッドの上部に、吸気側カムシャフト60と、排気側カムシャフト62を有する。これらの吸気側カムシャフト60及び排気側カムシャフト62には、カムシャフト60、62の回転に伴って回転し、吸気バルブ22及び排気弁26を作動させ、その作動により吸気ポート20の吸気開口を所定のタイミングで開閉し、また、排気ポート24の排気開口を所定のタイミングで開閉するように構成された吸気カム64及び排気カム66が設けられている。
【0020】
また、エンジン1は、カムシャフト60の回転位相を検出する吸気カム角センサ68を有する。吸気カム角センサ68は、エンコーダであり、カムシャフト60が所定単位角度回転する毎に1パルスづつタイミングパルスを出力するよう構成されている。
【0021】
また、エンジン1は、吸気バルブ22の開閉タイミングの位相を変化させる可変バルブタイミング機構70を有する。この可変バルブタイミング機構70を図2及び図3により説明する。図2は本発明の実施形態による制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す一部断面側面図であり、図3は本発明の実施形態による制御装置を備えたエンジンの可変バルブタイミング機構の構成を示す正面図である。
【0022】
図2に示すように、可変バルブタイミング機構70は、吸気側カムシャフト60の一側端部に設けられている。
この可変バルブタイミング機構70は、回転自在なケース72と、吸気側カムシャフト60の一側端部にボルト等により締結固定された回転体74と、ケース72に固定された電動モータ76と、吸気バルブ22が所定のバルブタイミング量進角し或いは遅角する(以下、「VVT進角(量)」、「VVT遅角(量)」という)よう、電動モータ76の所定の回転量を回転体74に伝達する動力伝達機構(図示せず)等から構成されている。
動力伝達機構は、外歯歯車のサンギアと、サンギアに対して同心円上に配置された内歯歯車のリングギアと、これらのサンギアとリングギアとに噛合するピニオンギアを自転且つ公転自在に保持するキャリアとを回転要素とする歯車機構である。
【0023】
図3に示すように、ケース72の外周面には、クランクシャフト8により駆動されるタイミングチェーン78に係合可能な歯が形成された環状のスプロケット80が設けられ、クランクシャフト8の回転動力は、ケース72、電動モータ76、動力伝達機構、回転体74を介して吸気側カムシャフト60に伝達されるよう構成されている。
【0024】
次に、ケース72の内周面には、吸気側カムシャフト60の軸心方向に突出する突出部72a及び突出部72bが設けられている。突出部72aは吸気側カムシャフト60に対して進角側に設けられ、突出部72bは吸気側カムシャフト60に対して遅角側に設けられている。一方、回転体74の外周側には、放射方向へ突出する突部82が設けられている。
【0025】
回転体74は、電動モータ76の作動により動力伝達機構を介して、ケース72に対して相対的に回転可能に形成され、吸気バルブ22が開閉するバルブタイミングを変更可能に構成されている。即ち、例えば、図3の矢印Aに示すように、回転体74がケース72に対して相対的に遅角側に回転するよう電動モータ76を作動させると、吸気側カムシャフト62の回転のクランクシャフト8の回転に対する位相を遅らせて、吸気バルブ22を遅角させることが出来る。突部82と突出部72bが当接する位置が、最遅角位置である。
【0026】
次に、図4により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。図4は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の概略構成を示すブロック図である。
図4に示すように、本実施形態によるエンジン1は、各センサの検出信号に基づいてエンジン1を制御するエンジン制御ユニット(ECU)90を有する。エンジン制御ユニット90は、具体的には、マイクロプロセッサ、メモリ及びそれらを作動させるプログラム等(以上、図示せず)から構成され、所定の条件下で吸気バルブ22が開閉するバルブタイミングを制御するために、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御するVVT進角/遅角制御手段92、及び、所定の条件下で電子制御スロットルバルブ16の開度を制御するスロットルバルブ開度制御手段94を有する。
【0027】
エンジン制御ユニット90には、吸気温/流量センサ14により検出された吸気通路13内の空気温度及び空気量の各値、スロットルバルブ開度センサ18により検出されたスロットル開度の値、クランク角センサ36により検出されたクランクシャフト8の回転数の値、エンジン水温センサ38により検出されたエンジン水温の値、吸気カム角センサ68により検出された吸気バルブ22のバルブタイミング進角量或いは遅角量の値がそれぞれ入力される。エンジン制御ユニット90は、これらの値に基づいて、VVT進角/遅角制御手段92、及び、スロットルバルブ開度制御手段92により、電動モータ76、電子制御スロットルバルブ16を制御するよう構成されている。
【0028】
次に、図5乃至図11により、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の制御内容を説明する。図5は本発明の実施形態によるエンジンの制御装置により実行される制御の制御フローを示すフローチャートであり、図6は図5の制御フロー内で実行される演算内容を説明するための図であり、図7は、インマニ圧/限界空気量と有効圧縮比/VVT実位相とに対する有効圧縮比限界/VVT進角限界を示す線図であり、図8はアイドル時からオフアイドル時の移行時における実VVT遅角の応答遅れを説明するための実VVT進角量と目標VVT進角量とを示す線図であり、図9はアイドル時からオフアイドル時の移行時におけるスロットル開度とインマニ圧との関係を示す線図であり、図10は図5の制御フローで実行される演算結果の一例を説明するための目標空気量を示す線図であり、図11は図5の制御フローで実行される制御結果の一例を説明するためのインマニ圧を示す線図である。図5においてSは各ステップを示す。
【0029】
以下では、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の制御を、車両停止時からドライバーがアクセルを踏み込み、エンジン回転数が、アイドリング状態から上昇し始める場合(アイドル時からオフアイドル時へと移行する場合)に適用した例を説明する。
【0030】
先ず、図5に示すように、S1において、アイドル時からオフアイドル時、VVT遅角させる。即ち、本実施形態では、ドライバーによるスロットル操作により、スロットル開度が立ち上がる場合、プリイグニッションを抑制するために、VVT進角量(以下、本実施形態では、「VVT進角量」とは「最遅角位置に対する進角量」を表すものとする)を図6に示すように遅角するように目標を設定(図6の破線で示す目標VVT進角)し、そのような目標VVT進角が得られるよう、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御する。目標VVT進角量は、現時点でのエンジン運転状態での目標トルクなどから決定される。
【0031】
ここで、S1の制御を行った場合における、本実施形態の可変バルブタイミング機構70の特性を図6により説明すると共に、比較例として、本実施形態におけるエンジンの制御装置による制御(図5)を実行しない場合にプリイグニッションが発生し易いことを図7により説明する。
上述したように、S1では、VVT進角量を図6に示すように遅角するように目標を設定し、そのような目標VVT進角が得られるよう電動モータ76を制御するが、実際には、図6の破線で示す実VVT進角で示すように、VVT遅角に応答遅れが生じ、吸気バルブ22の閉じタイミングが、目標とするタイミングより早くなる。このような応答遅れに伴い、図7に示すように、スロットルバルブ16の開度の上昇に対して吸気通路13の吸気圧力(以下、「インマニ圧」という)の上昇の応答が早くなり、図6及び図7のAで示すような時期範囲でプリイグニッションが発生し、或いは、発生し易くなってしまう。なお、図7に示すスロットル開度の線図は、ドライバーのアクセル要求に対応したスロットル開度である。本実施形態によるエンジンの制御装置による制御(図5)では、このような時期範囲Aのプリイグニッションを抑制するよう、以下のようにS2以降の処理を実行する。
【0032】
本実施形態によるエンジンの制御装置の制御内容の説明に戻る。
S1において、VVT遅角させた後、S2において、現時点でのエンジン運転状態、より詳細には、現時点でのクランク角における、有効圧縮比限界を演算する。本実施形態における有効圧縮比限界とは、プリイグニッションが生じない有効圧縮比の限界である。
図8(a)に示すように、有効圧縮比限界(y)は、インマニ圧(x)を変数とし、有効圧縮比限界多項式モデルを使用して演算される。
【0033】
この演算内容を具体的に説明する。
先ず、有効圧縮比限界多項式モデルとは、最も簡単に表すと「有効圧縮比(y)=ax2+bx+c」のような2次式で表されるモデル(y=f(x))であり、このモデルにおいて、変数xはインマニ圧、a、b、cは定数である。実際に使用される2次式のモデルは、有効圧縮比限界をより正確に予測するために、より複雑な式となる。定数には、図8(a)に示すように、燃料噴射時期、エンジン回転数、吸気バルブを閉じた時点での筒内温度、燃料のオクタン価が代入される。
【0034】
燃料噴射時期は、S2の処理時点でのエンジン運転状態に応じた燃料噴射時期の値がエンジン制御ユニット90から出力され、上記モデルの定数として代入される。
エンジン回転数は、S2の処理時点においてクランク角センサ36により検出された値が、上記モデルの定数として代入される。
筒内温度は、S2の処理時点において、吸気温/流量センサ14により検出された吸気通路13内の空気温度、及び、エンジン水温センサ38により検出されたエンジン水温の値より推定され、上記モデルの定数として代入される。なお、吸気バルブを閉じた時点は、吸気カム角センサ68により検出される。
燃料のオクタン価は、エンジン制御ユニット90のメモリに学習されたオクタン価が、上記モデルの定数として代入される。
【0035】
S2による演算結果は、図9のように、インマニ圧(x)と、有効圧縮比(y)との関係として得られる。
【0036】
次に、S3に進み、VVT進角限界を演算する。本実施形態におけるVVT進角限界とは、プリイグニッションが生じないVVT進角量の限界である。
このS3では、S2により演算され得られた限界有効圧縮比を基に、可変バルブタイミング機構70のVVT進角限界を演算する。即ち、可変バルブタイミング機構70のVVT進角量の増大による吸気バルブ22の閉じタイミングの早期化と、それに伴う有効圧縮比の増大との関係から、VVT進角限界を演算する。このS3で演算されたVVT進角限界も、図9に示すように、S2で演算された限界有効圧縮比限界と同様の2次曲線となる。
【0037】
次に、S4に進み、上述した目標VVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいか否かを判定する。目標VVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいと判定された場合には、S5に進み、S1で設定した目標VVT進角量を、S3で演算されたVVT進角限界に制限する。即ち、S5では、VVT進角量が、プリイグニッションが生じるようなVVT進角量とならないよう目標VVT進角量を設定し、そのようなVVT進角量が得られるよう、可変バルブタイミング機構70の電動モータ76を制御する。
【0038】
次に、S5の処理がなされた後、或いは、S4において、目標VVT進角量がS3で演算されたVVT進角限界以下であると判定された場合、S6に進み、現時点でのVVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいか否かを判定する。このS6において、現時点でのVVT進角量が、S3で演算されたVVT進角限界より大きいと判定された場合には、S7に進み、限界インマニ圧を演算する。
【0039】
このS7における限界インマニ圧の演算について、図8(b)及び図9により、具体的に説明する。
S7において、現時点でのVVT進角量を、吸気カム角センサ68により検出された吸気バルブ22のバルブ閉じタイミングを基に演算し、それを変数yとする。そして、S2で使用した有効圧縮比限界多項式モデル(2次式)の逆関数「x=g(y)」により、インマニ圧xを求める。なお、現時点での有効圧縮比を変数yとして、限界インマニ圧を演算しても良い。ここで、現時点でのVVT進角量yから、有効圧縮比限界多項式モデルの逆関数を使用してインマニ圧を演算しているので、その演算されたインマニ圧xは、現時点での、プリイグニッションが生じない限界インマニ圧である。
【0040】
このS7の処理を図9により説明する。上述したようにS2及びS3において、有効圧縮比限界多項式モデルを使用して、図9に示すような有効圧縮比限界/VVT進角限界の2次曲線を既に得ているので、S7では、図9の破線で示すように、VVT進角限界の2次曲線に対し、現時点でのVVT進角量yから限界のインマニ圧を演算する。
【0041】
ここで、有効圧縮比限界多項式モデルの逆関数(x=g(y))は、上述した最も簡単な2次式に対応して説明すると、「ax2+bx+(c−y)=φ」で表され、この式に、有効圧縮比yの値を代入として、インマニ圧x(「x=(−b±√(b2−4ac))/2a」)が得られる。上述したように、実際に使用される2次式のモデルは、有効圧縮比限界をより正確に予測するためにより複雑な式を使用するため、これは最も簡単な例である。定数a、b、cに代入される値は、S2で説明したものと同様である。
【0042】
S7で限界インマニ圧が演算された後、S8に進み、S7で演算された限界インマニ圧に相当する限界空気充填効率(吸気負圧)Ceを演算する。ここで、VVT進角量が同じ条件下では、吸気負圧Ce(空気量をエンジン回転数で割った1回転当たりの空気充填率)は、インマニ圧と比例関係にあり、このS8では、そのような比例関係を利用すると共に、現時点でのVVT進角量に応じて限界空気充填効率を演算する。
【0043】
S8で限界空気充填効率が演算された後、S9に進み、そのような限界空気充填効率と同等の空気充填効率となるように、電子制御スロットルバルブ16の開度を制限する。
【0044】
そして、S1〜S9の処理を繰り返す。
S1〜S9の処理の繰り返しにより、S8においては、図10に示すように、クランク角に応じた限界空気充填効率が演算され、このような図10のような限界空気充填効率に従って、S9でスロットル開度が調整され、図11に示すように電子制御スロットルバルブ16の開度が制御され、それに応じて、図11に示すような、インマニ圧の応答が得られる。
【0045】
即ち、S1〜S9の処理の繰り返しにより、VVT遅角の応答が上述したように遅れる場合、且つ、ドライバーのアクセル要求がプリイグニッションを生じるようなものである場合、例えば、アイドル時からオフアイドル時の発進時や低速走行時に、アクセルを短時間で大きく踏み込むような場合、電子制御スロットルバルブ16の開度により得られる空気充填効率が、限界空気充填効率となるように、電子制御スロットルバルブ16を徐々に開くように制御される。即ち、一律にスロットル開度になましをかけることなく、エンジン1の運転状態及び可変バルブタイミング機構70のVVT遅角状態に応じて、エンジンクランク角が回転する時点で常に、限界有効圧縮比を求めるなどのS1〜S9の処理を繰り返し実行して、スロットル開度を調整し、インマニ圧を得るようにしている。そして、図11に示すように、プリイグニッションが生じる領域Aにおいてインマニ圧の応答が抑制されるように、電子制御スロットルバルブ16の開度が制御される。
【0046】
また、本実施形態では、基本的に、VVTの応答遅れがなくなる時点(目標VVTに追いつく時点)までS1〜S9の処理を繰り返すことにより、図9の実線の矢印で示すように、プリイグニッションが発生する領域に入らないようにして、有効圧縮比を下げる、即ち、VVT遅角を行うようにしている。一方、図9の二点鎖線の矢印で示すように、従来技術、或いは、本実施形態による制御を行わない場合には、図7において説明したように、スロットル開度に対してインマニ圧の応答が早く、プリイグニッション発生領域に入る。
【0047】
なお、上述した制御内容は、主に、発進時にアイドル時からオフアイドル時にVVT遅角させる場合について説明したが、本実施形態によるエンジンの制御装置は、発進後、エンジン回転数が低回転数となり、ドライバーがアクセルを踏むような場合にVVT遅角させる場合にも適用可能である。
【0048】
次に、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の主な作用効果を説明する。
本実施形態によれば、アイドル時からオフアイドル時への移行時、検出されるVVT進角量(VVTの実位相)に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算し、その演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、VVTの応答遅れに伴う期間Aでのプリイグニッションの発生を抑制することが出来る(図6、図7、図11参照)。
【0049】
また、本実施形態によれば、演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、一律にスロットル開度になましをかけることなく、プリイグニッションの発生を抑制しつつ可及的速やかにスロットル弁を開いて、車両の発進性を確保することが出来る。即ち、一律にスロットル開度になましをかけると、プリイグニッションの発生に余裕があるような空気量でもスロットル弁が閉じ気味となり、発進性が犠牲になるが、本実施形態においては、エンジン運転状態に応じて、その都度、演算処理を繰り返し、その運転状態に応じた限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットルバルブ16の開度を制限するので、このようなことを防止することが出来る。
【0050】
また、本実施形態によれば、エンジン低回転時にも、プリイグニッションが発生する限界空気量以上にならないようにスロットルバルブ16の開度が設定されるので、アイドル時からオフアイドル時への移行し、車両が発進した後の低回転時にも、プリイグニッションの発生を抑制することが出来る。
【0051】
また、本実施形態によれば、有効圧縮比多項式モデルを用いて、検出されるインマニ圧(実インマニ圧)からプリイグニッションが生じる限界有効圧縮比限界を演算し、さらに、有効圧縮比多項式モデルの逆関数を用いて、検出されるVVT進角量(VVTの実位相)からプリイグニッションが生じる限界空気量を演算するので、実VVT遅角の応答が目標VVT遅角より遅れても(VVT遅角をさせようとする場合、電動モータ76で制御される実際のVVT進角量(最遅角位置に対する進角量)に、目標とするVVT進角量に対する応答遅れが生じても)、効果的に、プリイグニッションが生じる限界空気量を求めることが出来る。
【符号の説明】
【0052】
1 多気筒直噴式エンジン
14 吸気温/流量センサ
16 電子制御スロットルバルブ
18 スロットルバルブ開度センサ
36 クランク角センサ
38 エンジン水温センサ
68 吸気カム角センサ
70 可変バルブタイミング機構
76 可変バルブタイミング機構のVVT進角用或いはVVT遅角用の電動モータ
90 エンジン制御ユニット
92 VVT進角/遅角制御手段
94 スロットルバルブ開度制御手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気バルブをVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構を備えたエンジンの制御装置であって、
上記可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、
アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第1限界空気量演算手段と、
この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第1スロットル弁開度設定手段と、を有することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
さらに、低回転時において、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第2限界空気量演算手段と、
この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第2スロットル弁開度設定手段と、を有する請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
上記第1限界空気量演算手段及び/又は上記第2限界空気量演算手段によるプリイグニッションの限界空気量の演算は、先ず、実インマニ圧から所定の多項式モデルを使用してプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、次に、VVTの実位相から上記所定の多項式モデルの逆関数を使用して上記プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する請求項1又は請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【請求項1】
吸気バルブをVVT遅角させ或いはVVT進角させてその開閉タイミングを可変にする可変バルブタイミング機構を備えたエンジンの制御装置であって、
上記可変バルブタイミング機構を、アイドル時にVVT進角させ、オフアイドル時に、そのVVT進角位置からVVT遅角させるVVT遅角制御手段と、
アイドル時からオフアイドル時への移行時、その移行時のVVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第1限界空気量演算手段と、
この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第1スロットル弁開度設定手段と、を有することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
さらに、低回転時において、VVTの実位相に基づいて、プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する第2限界空気量演算手段と、
この演算された限界空気量以上に実空気量が増加しないようにスロットル弁開度を設定する第2スロットル弁開度設定手段と、を有する請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
上記第1限界空気量演算手段及び/又は上記第2限界空気量演算手段によるプリイグニッションの限界空気量の演算は、先ず、実インマニ圧から所定の多項式モデルを使用してプリイグニッションが生じる有効圧縮比限界を演算し、次に、VVTの実位相から上記所定の多項式モデルの逆関数を使用して上記プリイグニッションが生じる限界空気量を演算する請求項1又は請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−52472(P2012−52472A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195851(P2010−195851)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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