説明

シリコン化合物、紫外線吸収体、多層配線装置の製造方法および多層配線装置

【課題】低誘電率で信頼性の高い積層絶縁膜構造体および多層配線を得ることができる。また、この多層配線により、特に半導体装置等の応答速度の高速化に寄与することができる。
【解決手段】基板上に多孔質絶縁膜前駆体の層を形成し、特定のシリコン化合物の層を形成し、必要に応じてそのシリコン化合物の層をプリキュアし、シリコン化合物の層またはプリキュア層を介して多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多層配線装置およびその絶縁膜構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、絶縁膜の寄生容量増大による信号伝播速度の低下が知られていたが、半導体デバイスの配線間隔が1μmを超える世代では配線遅延のデバイス全体への影響は少なかった。
しかし、配線間隔が1μm以下ではデバイス速度への影響が大きくなり、特に今後0.1μm以下の配線間隔で回路を形成すると、配線間の寄生容量がデバイス速度に大きく影響を及ぼすようになってくる。
【0003】
具体的には、半導体集積回路の集積度の増加および素子密度の向上に伴い、特に半導体素子の多層化への要求が高まって来るにつれ、高集積化に伴い配線間隔は狭くなり、配線間の容量増大による配線遅延が問題となってきている。配線遅延(T)は、配線抵抗(R)と配線間の容量(C)により影響を受け、下記の式(3)で示される。
【0004】
T∝CR・・・・・・・・(3)
なお、式(1)において、ε(誘電率)とCの関係を式(4)に示す。
【0005】
C=ε0εrS/d・・・・・・・(4)
(Sは電極面積、ε0は真空の誘電率、εrは絶縁膜の誘電率、dは配線間隔。)
したがって、配線遅延を小さくするためには、絶縁膜の低誘電率化が有効な手段となる。
【0006】
現在、半導体装置等の多層配線装置の多層配線構造における絶縁膜としては、低誘電率塗布型絶縁膜、プラズマCVDにより形成されたエッチングストッパ層および拡散バリア絶縁膜が主要なものである。
【0007】
従来、これらの絶縁材料としては、二酸化珪素(SiO2)、窒化珪素(SiN)、燐珪酸ガラス(PSG)等の無機膜または、ポリイミド等の有機系高分子が用いられてきた。しかし、半導体デバイスで最も頻繁に用いられているCVD−SiO2膜では比誘電率が約4程度と高い。また、低誘電率CVD膜として検討されているSiOF膜は比誘電率が約3.3〜3.5であるが、吸湿性が高く、誘電率が上昇するという問題がある。更に、近年、低誘電率被膜として加熱により蒸発または分解する有機樹脂等を低誘電率被膜形成用材料に添加して、成膜時の加熱により多孔質化する多孔質被膜があるが、多孔質のため一般的に機械的強度が小さい。また、現状では空孔サイズが10nm以上と大きいことから、誘電率を低減するために空隙率を高くすると、吸湿による誘電率上昇や膜強度の低下が生じ易い。
【0008】
この課題に対し、成膜後に紫外線やプラズマ、電子線により絶縁膜を硬化し、高強度化する手法が検討されているが、いずれの手法においても有機基(主にCH3基)の脱離として観察されるSi−C結合の切断による絶縁膜の誘電率上昇および膜減りが生じることから、十分な課題の解決には至っていない。多孔質絶縁膜では誘電率を低減するために空隙率を高くすると、吸湿性が上がり、Si−C結合の切断による絶縁膜の誘電率上昇がより目立つようになる傾向が生じる。
【0009】
また、これらのダメージを抑制し、低誘電率を維持したまま膜強度を向上させる試み(特許文献1,2参照。)として多孔質絶縁膜上に高密度絶縁膜を形成し、その上から紫外線,プラズマ,電子線を照射する手法も検討され、効果が確認されているが、デバイス適用に向けては更なる高強度化が必要とされている。
【特許文献1】特願2004−356618号(請求の範囲)
【特許文献2】特願2005−235850号(請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記に示したいくつかの問題点を解消して、低誘電率で信頼性の高い積層絶縁膜構造体を形成することにある。更に具体的には、従来の多孔質絶縁膜形成方法に比べ、半導体装置等の多層配線装置の信頼性や誘電率に影響を及ぼすことなく高強度化が可能であり、高速で信頼性の高い半導体装置等を提供することにある。本発明の更に他の目的および利点は、以下の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、下記式1で示されるポリカルボシランまたは下記式2で示されるポリシラザンまたはそれらの混合物からなるシリコン化合物のR〜Rの少なくとも一部が他の基で置換された構造を有し、当該非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物が提供される。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
(式1において、R、Rは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すか、もしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、nは10〜1000である。また、式2において、R、RおよびRは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すかもしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、但し、置換基R、RおよびRのうちの少なくとも1個は水素原子であり、そしてnは、当該シラザン型重合体が100〜50,000の数平均分子量を有するのに必要な繰り返し単位の数である。なお、式1と式2との記号は互いに独立している。)
【0015】
非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いこの特定のシリコン化合物は、180〜210nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率1と、210〜350nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率2との比が、(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5であることが好ましい。
【0016】
本発明おける他の基としては、ベンジル基、カルボニル基、カルボキシル基、アクロイル基、ジアゾ基、アジド基、シンナモイル基、アクリレート基、シンナミリデン基、シアノシンナミリデン基、フリルペンタジエン基、p−フェニレンジアクリレート基からなる群から選ばれたものが好ましい。
【0017】
本発明の他の一態様によれば、上記の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高い特定シリコン化合物を含んでなる紫外線吸収体が提供される。
【0018】
本発明の更に他の一態様によれば、多層配線装置の製造方法において、基板上に多孔質絶縁膜前駆体の層を形成し、上記の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物の層を形成し、必要に応じて当該シリコン化合物の層をプリキュアし、当該シリコン化合物の層またはプリキュア層を介して当該多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射することを含む、多層配線装置の製造方法が提供される。
【0019】
この場合、前記多孔質絶縁膜前駆体が塗布型のシリカクラスター前駆体を用いて形成されることが好ましく、前記塗布型のシリカクラスター前駆体が4級アルキルアミンにより加水分解して形成したものであることが特に好ましい。
【0020】
紫外線の光源としては、200〜800nmの範囲の波長を有する光源であることが好ましく、より具体的には、前記200〜800nmの範囲の波長を有する光源が、高圧水銀ランプ,オゾンレス高圧水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,重水素ランプのいずれかであることが好ましい。
【0021】
紫外線照射の条件としては、分光放射照度計を使用した場合における、ウエハ面における254nmの紫外線照度が1mW/cm以上であることや、50〜470℃の間の温度で加熱しつつ紫外線を照射することが好ましい。この場合の分光放射照度計としては、ウシオ電機社製のUSR−40Dが好ましい。
【0022】
本発明の更に他の一態様によれば、上記製造方法を用いて作製された多層配線装置が提供される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、低誘電率で信頼性の高い積層絶縁膜構造体および多層配線を得ることができる。また、この多層配線により、特に半導体装置等の応答速度の高速化に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明の実施の形態を図、表、実施例等を使用して説明する。なお、これらの図、表、実施例等および説明は本発明を例示するものであり、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本発明の範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0025】
半導体装置等の多層配線装置における絶縁膜は、通常、成膜後に紫外線によりキュアされ、高強度化される。しかしながら、使用する紫外線による、Si−C結合の切断による誘電率上昇が懸念されている。これを抑制するため紫外線フィルタを使用して特定波長域の紫外線を使用しようとすると、照度が低下し機械的強度が向上しないという問題が生ずる。特に、多孔質絶縁膜は低誘電率を与える点で注目されているが、多孔質である分機械的強度が低くなるのでこの問題の影響が大きい。
【0026】
なお、Si−C結合の切断は、具体的には、Siに結合した有機基(主にCH基)の切断として観察される。
【0027】
この問題に対し、本発明で示す紫外線キュア手法では、多孔質絶縁膜前駆体上のフィルターとして、210nm以下の紫外線を吸収する特定のシリコン化合物を使用することで、紫外線源と多孔質絶縁膜前駆体の膜との間にこのシリコン化合物の層または、必要に応じてこのシリコン化合物の層をプリキュアした層を設ければ、多孔質絶縁膜前駆体に210nmよりも長波長の紫外線を選択的に到達させることで、Si−C結合の切断を抑制し、また、吸湿によって誘電率を上昇させる原因になるシラノールの脱水縮合を促進させることが可能となる。
【0028】
更に、この特定のシリコン化合物の層がキュアされれば、多孔質絶縁膜への湿気の侵入も抑制できる。従って、これらにより、低誘電率を維持したまま膜強度を向上させることが可能となり、信頼性の高い高速回路基板の形成が可能となる。本発明に係る特定のシリコン化合物の層またはそれをプリキュアした層は、210nm以下の紫外線を効率的に吸収し、かつ210nmよりも長波長の紫外線を無駄に吸収しないため、従来の紫外線用フィルターに比し、照度の低下がなく、あるいは照度の低下を小さく抑えることができる。
【0029】
上記特定のシリコン化合物は、具体的には、下記式1で示されるポリカルボシランまたは下記式2で示されるポリシラザンまたはそれらの混合物からなるシリコン化合物のR〜Rの少なくとも一部が他の基で置換された構造を有し、当該非置換シリコン化合物に比して、210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物である。以下、この特定のシリコン化合物を「置換シリコン化合物」と呼称する。
【0030】
【化5】

【0031】
【化6】

【0032】
式1において、R、Rは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すか、もしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、nは10〜1000である。また、式2において、R、RおよびRは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すかもしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、但し、置換基R、RおよびRのうちの少なくとも1個は水素原子であり、そしてnは、当該シラザン型重合体が100〜50,000の数平均分子量を有するのに必要な繰り返し単位の数である。なお、式1と式2との記号は互いに独立している。
【0033】
非置換シリコン化合物、すなわち、「本発明に係る式1または2で表される、他の基で置換されていないシリコン化合物」、に比して、210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物である条件は、ある紫外線を照射した場合における、210nm以下の全波長成分の吸収率を比較することによって決めることができる。また、あるピーク波長の吸収率のみを比較する方法によってもよい場合も多い。本発明においてはそのいずれか一方の方法を満足すれば十分である場合が多いが、特に前者を満足することが好ましく、両者を満足することがより好ましい。
【0034】
更により具体的な判断方法としては、180〜210nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率1と、210〜350nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率2との比が、(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5であることが好ましい。このようにすると本発明に係る置換シリコン化合物の効果を客観的に評価でき、種々の化合物の中から適切な置換シリコン化合物を容易に選択できるようになる。なお、上記の判断基準について使用する紫外線の種類は任意的に定めることができるが、使用する紫外線によって数値的に若干の相違が生じる場合もあり得るので、種々の化合物を比較評価する場合には同一の紫外線源を使用した方がよい。この紫外線源としては、本発明において使用するのに適したものとして後述する種類のものをそのまま使用することができる。
【0035】
上記で、非置換シリコン化合物は、210nm以下の紫外線をほとんど吸収しないので、210nm以下の紫外線の吸収率の増大は、210nm以下の紫外線の吸収の発現と言いかえて差し支えない場合が多い。すなわち、「非置換シリコン化合物に比して、210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物」は、非置換シリコン化合物と異なり、210nm以下の紫外線を吸収し得るシリコン化合物と言いかえてもよい場合が多い。
【0036】
本置換シリコン化合物の層またはそのプリキュア層を紫外線源と多孔質絶縁膜前駆体の層との間に設ければ、210nmよりも長波長の紫外線を選択的に多孔質絶縁膜前駆体に到達させることで、そのSi−C結合の切断を抑制でき、また、Si−C結合の切断を心配せずにシラノールの脱水縮合を促進させることが可能になることが見出された。これにより、低誘電率を維持したまま膜強度を向上させることが可能となり、信頼性の高い高速回路基板の形成が可能となる。本置換シリコン化合物をキュアした層は、水分の侵入を防止できるので、その点でも多孔質絶縁膜の保護に役立つ。
【0037】
なお、上記において「プリキュア」とは、置換シリコン化合物の層の膜状態として安定性を向上させるために、必要に応じて、たとえば加熱により、共存する溶媒を逃散させたり、架橋構造を導入したりすることを意味する。このような操作は一般にはキュアと呼ばれるが、本発明ではこの後に紫外線照射によるキュアが行われるので、それと区別するためにプリキュア(すなわち事前キュア)と表現したものである。本発明においては、差し支えなければ置換シリコン化合物の層をプリキュアせずに、紫外線を照射してもよいが、取り扱い上不便である等の理由があればプリキュア層を造ってから紫外線を照射してもよい。上記における「必要に応じて」とはその謂である。
【0038】
上記において、「R〜Rの少なくとも一部が他の基で置換された」とは、式1で示されるポリカルボシランのみを使用する場合には、式1のRとRとの少なくとも一部が他の基で置換されたことを意味し、式2で示されるポリシラザンのみを使用する場合には、式2のR〜Rの少なくとも一部が他の基で置換されたことを意味し、式1で示されるポリカルボシランと式2で示されるポリシラザンとの混合物を使用する場合には、式1のRとRと式2のR〜Rとの少なくとも一部が他の基で置換されたことを意味する。置換すべき他の基は一種である必要はなく、複数種使用してもよい。「少なくとも一部」とは、R〜Rの内の一つの基(すなわちRまたはRまたはR)の全てを置換することを意味してもよいが、必ずしもそうである必要はない。どの程度置換するかは、所望の210nm以下の紫外線吸収率に応じて適宜選択し得る。
【0039】
非置換シリコン化合物、すなわち、本発明に係る他の基で置換されていないシリコン化合物、における上記制限(式1におけるR,R,n、式2におけるR〜R,n)は入手の容易性や取扱いの容易性によって決まる性質のものである。たとえば、nの下限を外れると粘度が低すぎ、上限を外れると粘度が高すぎるため膜形成が困難になりやすい。
【0040】
本発明における「他の基」は、上記置換の結果、置換シリコン化合物の210nm以下の紫外線の吸収率が非置換シリコン化合物の210nm以下の紫外線の吸収率に比して増大することになるものであればどのようなものでもよく、試行錯誤で見出すことが可能である。
【0041】
「他の基」としては、特に、ベンジル基、カルボニル基、カルボキシル基、アクロイル基、ジアゾ基、アジド基、シンナモイル基、アクリレート基、シンナミリデン基、シアノシンナミリデン基、フリルペンタジエン基、p−フェニレンジアクリレート基からなる群から選ばれたものが好ましいことが判明した。
【0042】
これらの基の置換方法については特に制限はなく、公知の方法を使用できる。非置換シリコン化合物を一旦作製し、その置換基を本発明に係る「他の置換基」で置換してもよく、原料または反応の中間段階で本発明に係る「他の置換基」を導入できるようにしてもよい。前者としては、後述するようなグリニヤール試薬による方法を挙げることができる。
【0043】
本発明に係る置換シリコン化合物からなる層を作製する場合には、置換シリコン化合物そのものが十分な流動性を有している場合には、そのまま膜化してもよい。流動性がないか不足している場合には溶媒を使用し、その後溶媒を加熱等により適宜逃散させてもよい。膜化には塗布等の公知の任意の方法を使用し得る。この膜は通常多孔質ではない。
【0044】
本発明において使用される紫外線の種類については特に制限はない。210nm以下の波長成分の吸収を実現するものであるという本発明の効果を十分発揮させるという観点からは、200〜800nmの間にブロードな波長を有する紫外線源を使用することができる。このような紫外線源はブロード波長を有する光源と呼ばれることもある。このような200〜800nmの範囲の波長を有する光源としては、具体的には、高圧水銀ランプ,オゾンレス高圧水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,重水素ランプを挙げることができる。これらの光源は、Xeエキシマレーザ等に比べ照度が高いというメリットを有する。また、210nm以下の波長成分も少ないというメリットも有する。
【0045】
紫外線照射処理における照射条件には特に制限はなく、実情に応じて適宜定めてもよい。照射環境は真空下または減圧下または常圧下で紫外線照射を行えば特に限定されないが、照射効率上は真空中にて照射することが好ましい。なお、紫外線照射の際、圧力調整や改質のために窒素、アルゴン等の不活性ガスを流してもよい。
【0046】
紫外線照度については、照射面における254nmの紫外線照度が1mW/cm以上であることが、キュアを素早く完了でき、かつ、Si−C結合の切断を抑制したまま、吸湿によって誘電率を上昇させる原因になるシラノールの脱水縮合を促進させることが可能となるため好ましい。この場合の照度は使用する照度計によって若干変わり得る。本発明では、分光放射照度計(USR−40D,ウシオ電機)を使用した。
【0047】
環境温度については、上記紫外線照射において、50〜470℃の間の温度で加熱しつつ紫外線を照射することも有用である。このことによりキュアを促進し、膜強度の向上が図れるとともに、下地絶縁膜との密着性が強化されるためである。また、残存する溶媒を更に除去することも容易になる。
【0048】
この場合の温度は単一である必要はなく、直線状または曲線状または段階状に変えることが好ましい場合もある。なお、この温度は本発明に係る置換シリコン化合物の層またはそのプリキュア層の表面温度として決めることができる。
【0049】
本発明に係る置換シリコン化合物は、基板上に多孔質絶縁膜前駆体の層を形成し、本発明に係る置換シリコン化合物の層を形成し、必要であれば当該シリコン化合物の層をプリキュアし、この置換シリコン化合物の層またはプリキュア層を介して多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射することで、多層配線装置の製造方法に適用することができる。ここで、本発明における多孔質絶縁膜前駆体とは、本発明に係る紫外線照射によってキュアされる前の状態のものであることを意味している。多孔質絶縁膜前駆体は、この段階で既に多孔質であることが一般的であるが、この段階で多孔質でないものも本発明から排除されているわけではない。
【0050】
多孔質絶縁膜前駆体の層の形成と置換シリコン化合物層の形成とは、いずれが先であってもよく、場合によってはその間に他の層が介在してもよい。また、紫外線の照射は紫外線が直接置換シリコン化合物層に当たるようにすることが好ましい場合が多いが、紫外線源と置換シリコン化合物層との間に他の層が介在する場合を排除するものではない。
【0051】
より具体的には、基板上に多孔質絶縁膜前駆体の層を形成し、その上に本発明に係る置換シリコン化合物の層を形成し、必要であれば当該シリコン化合物の層をプリキュアし、その後この置換シリコン化合物の層またはプリキュア層を介して多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射するやり方を挙げることができる。この場合、多孔質絶縁膜前駆体と置換シリコン化合物とが直接接触することになるので、互いが混じり合わないように、多孔質絶縁膜前駆体がある程度固化したものであることが必要である。この固化にはどのような方法が採用されてもよいが、加熱が実用的であり好ましい。この固化もプリキュアと呼ぶことができる。
【0052】
本発明において、絶縁膜は、多層配線装置で使用される絶縁性の膜または層を意味し、その名称の如何に左右されるものではない。絶縁目的で使用される場合が多いがその他の主目的または副次的目的を有する場合もある。これらは、絶縁膜、絶縁層、層間膜、層間絶縁膜、層間絶縁層等と呼ばれることが多い。
【0053】
本発明に係る多孔質絶縁膜は、上記の内多孔質のものを意味する。本発明において多孔質絶縁膜に限定されるのは、多孔質絶縁膜が低誘電率を与える点で有利である一方、多孔質である分機械的強度が低くなるので、本発明の効果が特に好ましく発揮されるからである。
【0054】
本発明に係る多孔質絶縁膜前駆体の紫外線照射処理後に得られる多孔質絶縁膜は、膜内部に空孔を有していれば特に限定されない。このような膜としては気相成長法により形成されたCarbon Doped SiO膜や前記Carbon Doped SiO膜に熱分解性化合物を添加して多孔を形成したPorous Carbon Doped SiO膜、スピンコート法により形成された多孔質シリカ、有機多孔質膜が挙げられる。なお、前記の内、多孔の制御や密度制御の観点から、スピンコート法で形成された多孔質シリカが好ましい。
【0055】
このようなスピンコート法で形成された多孔質シリカとしては、例えば、テトラアルコキシシラン,トリアルコキキシシラン,メチルトリアルコキシシラン,エチルトリアルコキシシラン,プロピルトリアルコキシシラン,フェニルトリアルコキシシラン,ビニルトリアルコキシシラン,アリルトリアルコキシシラン,グリシジルトリアルコキシシラン,ジアルコキキシシラン,ジメチルジアルコキシシラン,ジエチルジアルコキシシラン,ジプロピルジアルコキシシラン,ジフェニルジアルコキシシラン,ジビニルジアルコキシシラン,ジアリルジアルコキシシラン,ジグリシジルジアルコキシシラン,フェニルメチルジアルコキシシラン,フェニルエチルジアルコキシシラン,フェニルプロピルトリアルコキシシラン,フェニルビニルジアルコキシシラン,フェニルアリルジアルコキシシラン,フェニルグリシジルジアルコキシシラン,メチルビニルジアルコキシシラン,エチルビニルジアルコキシシラン,プロピルビニルジアルコキシシラン等の加水分解/縮重合で形成したポリマに熱分解性の有機化合物等を添加して加熱により細孔を形成したものがある。
【0056】
また、塗布型のシリカクラスター前駆体(クラスタ状のシリカを含む絶縁膜材料)を用いて形成される多孔質シリカも好ましい。これは、空孔サイズが小さく、均一な空孔を有しているためである。塗布型のシリカクラスター前駆体とは、例えば、触媒化成工業株式会社製のナノクラスタリングシリカ(NCS)であり、これを対象物に塗布後加熱、もしくは加熱しながら紫外線を照射することにより、比誘電率が2.25程度の多孔質シリカを得ることができる。なお、シリカクラスター前駆体の形成にあたっては、4級アルキルアミンを触媒として用いることが好ましい。
【0057】
なお、本発明に係る多孔質絶縁膜を作製する際には溶媒が使用される場合もある。この溶媒は、多孔質絶縁膜前駆体を作成する段階で加熱等によって逃散により除去するのが一般的である。
【0058】
本発明における置換シリコン化合物の層またはそのプリキュア層に紫外線を照射して得られる層は、本発明の紫外線を吸収するという目的にのみ設けてもよい。この意味からは本発明における置換シリコン化合物を、一般的な意味で紫外線を吸収する物体である紫外線吸収体として使用することができる。
【0059】
また、絶縁性を有することや硬い表面を実現することができることから、他の用途を合わせ持ってもよい。具体的には上記絶縁膜として、あるいはエッチングストッパ膜等のストッパ膜としても使用できる場合が多い。このようにストッパ膜としても使用できる点から本発明に係る置換シリコン化合物の層またはそのプリキュア層をハードマスクと呼ぶこともできる。
【0060】
このようにして作製された多層配線装置は、低誘電率で信頼性の高いものとなり、特に半導体装置等の応答速度の高速化に寄与することができる。
【実施例】
【0061】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0062】
[実施例1〜6]
(1)本発明における実施例を図1〜8を用いて説明する。
【0063】
なお、本発明においては、置換または非置換シリコン化合物層、そのプリキュア層、多孔質前駆体層といった定義がなされているが、以下の説明では、簡略化のため、そのような言葉は使用せず、「層間絶縁膜」に、置換または非置換シリコン化合物層やそのプリキュア層の状態のものを含め、「多孔質層絶縁膜」に多孔質前駆体層の状態のものを含めてある。以下においては、プリキュア層や多孔質前駆体層の形成方法については記載を省略してある。
【0064】
以下において、紫外線照射の条件は次のようにした。
【0065】
(紫外線照射条件)
図9に示す発光スペクトルを有する高圧水銀ランプ(UVL−7000H4−N、ウシオ電機)を用いて紫外線硬化を行った。なお、紫外線の照度、スペクトル分布は分光放射照度計(USR−40D,ウシオ電機)にて測定した。
【0066】
分光放射照度計(USR−40D,ウシオ電機)にて測定した、254nmの紫外線照度は2.8mW/cmであった。紫外線を照射したときの本発明に係るシリコン化合物の膜および対応する比較例のシリコン化合物の表面温度は350〜400℃であった。
【0067】
なお、実施例で使用した全てのシリコン化合物が比較例で使用した全てのシリコン化合物より210nm以下の紫外線の吸収率が高いこと、および、実施例で使用した全てのシリコン化合物について(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5であることを別途確認した(実施例7,表2参照)。
【0068】
なお、180〜210nmの間にある紫外線ピークや210〜350nmの間にある紫外線ピークは複数ある場合もある。その場合は、それらのピークの全体についての吸収率について比を求めた。
【0069】
(2)まず、図1に示すように、半導体基板10に、LOCOS(Local Oxidation of Silicon)法により素子分離膜12を形成した。素子分離膜12により、素子領域14が画定される。半導体基板10としては、シリコン基板を用いた。
【0070】
(3)次に、素子領域14上に、ゲート絶縁膜16を介してゲート電極18を形成した。次に、ゲート電極18の側面に、サイドウォール絶縁膜20を形成した。次に、サイドウォール絶縁膜20およびゲート電極18をマスクとして半導体基板10内にドーパント不純物を導入することにより、ゲート電極18の両側の半導体基板10内にソース/ドレイン拡散層22を形成した。こうして、ゲート電極18とソース/ドレイン拡散層22とを有するトランジスタ24が形成された(図1(a)参照)。
【0071】
(4)次に、全面にCVD法により、テトラエトキシシラン(TEOS)を用いてシリコン酸化膜よりなる層間絶縁膜26を形成した。
【0072】
(5)次に、層間絶縁膜26上に、膜厚50nmのストッパ膜28を形成した。ストッパ膜28の材料としては、プラズマCVD法により形成したSiN膜を用いた。ストッパ膜28は、後述する工程においてCMP法によりタングステン膜34等を研磨する際にストッパとして機能する。また、ストッパ膜28は、後述する工程において層間絶縁膜38等に溝46を形成する際に、エッチングストッパとしても機能する。
【0073】
(6)次に、フォトリソグラフィ技術を用い、ソース/ドレイン拡散層22に達するコンタクトホール30を形成した(図1(b)参照)。
【0074】
(7)次に、全面にスパッタ法により、膜厚50nmのTiN膜よりなる密着層32を形成した。密着層32は、後述する導体プラグの下地に対する密着性を確保するためのものである。
【0075】
(8)次に、全面に、CVD法により膜厚1μmのタングステン膜34を形成した。
【0076】
(9)次に、CMP法によりストッパ膜28の表面が露出するまで、密着層32およびタングステン膜34を研磨した。こうして、コンタクトホール内に、タングステンよりなる導体プラグ34が埋め込まれた(図1(c)参照)。
【0077】
(10)次に、図2(a)に示すように、CVD法により膜厚30nmの層間絶縁膜36{SiC:O:H膜(SiC以外にO,Hを含む膜)}を形成した。
【0078】
(11)次に、図2(a)に示すように、全面に多孔質層間絶縁膜38(本発明に係る多孔質層絶縁膜)を形成した。多孔質層間絶縁膜38としては、多孔質シリカよりなる層間絶縁膜(多孔質シリカ膜)を形成した。多孔質層間絶縁膜38の膜厚は160nmとした。
【0079】
(12)次に、図2(b)に示すように、多孔質層間絶縁膜38が形成された半導体基板10上の全面に、表1に示す条件で置換基を付与したシリコン化合物(本発明に係る置換シリコン化合物)を塗布し層間絶縁膜40を形成した(図2(b)参照)。なお、膜厚は30nmとした。
【0080】
(13)次に、層間絶縁膜40上から紫外線を照射し、多孔質層間絶縁膜のキュアを行った。
【0081】
(14)次に、全面にスピンコート法により、フォトレジスト膜42を形成した。
【0082】
(15)次に、フォトリソグラフィ技術を用い、フォトレジスト膜42に開口部44を形成した。開口部44は、第1層目の配線(第1金属配線層)50を形成するためのものである。配線幅が100nm、配線間隔が100nmとなるように、開口部44をフォトレジスト膜42に形成した。
【0083】
(16)次に、フォトレジスト膜42をマスクとして、絶縁膜40、層間絶縁膜38および絶縁膜36をエッチングした。エッチングを行う際には、CFガスおよびCHFガスを原料としたフッ素プラズマを用いてエッチングを行った。この際、ストッパ膜28が、エッチングストッパとして機能した。こうして、絶縁膜40、層間絶縁膜38および絶縁膜36に、配線を埋め込むための溝(トレンチ)46が形成された(図3(a)参照)。導体プラグ34の上面は、溝内46に露出した状態となる。この後、フォトレジスト膜42を剥離した。
【0084】
(17)次に、全面に、スパッタ法により膜厚10nmのTaNよりなるバリア膜(図示せず)を形成した。バリア膜は、後述する配線中のCuが絶縁膜中に拡散するのを防止するためのものである。次に、全面に、スパッタ法により膜厚10nmのCuよりなるシード膜(図示せず)を形成した。シード膜は、電気めっき法によりCuよりなる配線を形成する際に、電極として機能するものである。こうして、バリア膜とシード膜とからなる積層膜48が形成された。
【0085】
(18)次に、電気めっき法により膜厚600nmのCu膜50を形成した。
【0086】
(19)次に、CMP法により絶縁膜の表面が露出するまで、Cu膜50および積層膜48を研磨した。こうして、溝内にCuよりなる配線50が埋め込まれた。このような配線50の製造プロセスは、シングルダマシン法と称される。
【0087】
(20)次に、図3(b)に示すように、CVD法により膜厚30nmの層間絶縁膜52(SiC:O:H膜)を形成した。
【0088】
(21)次に、図4(a)に示すように、全面に多孔質層間絶縁膜54(本発明に係る多孔質層絶縁膜)を形成した。多孔質層間絶縁膜54の形成方法は、上述した多孔質層間絶縁膜38の形成方法と同様とした。多孔質層間絶縁膜54の膜厚は180nmとした。
【0089】
(22)次に、図4(b)に示すように、多孔質層間絶縁膜54が形成された半導体基板10上の全面に、表1に示す条件で置換基を付与したシリコン化合物(本発明に係る置換シリコン化合物)を塗布し層間絶縁膜56を形成した。層間絶縁膜56の形成方法は、上述した層間絶縁膜40の形成方法と同様とした。なお、膜厚は30nmとした。
【0090】
(23)次に、層間絶縁膜56上から紫外線を照射し、多孔質層間絶縁膜のキュアを行った。
【0091】
(24)次に、図5(a)に示すように、多孔質層間絶縁膜58(本発明に係る多孔質層絶縁膜)を形成した。多孔質層間絶縁膜58の形成方法は、上述した多孔質層間絶縁膜38の形成方法と同様とした。層間絶縁膜58の膜厚は160nmとした。
【0092】
(25)次に、図5(b)に示すように多孔質層間絶縁膜58が形成された半導体基板10上の全面に、表1に示す条件で置換基を付与したシリコン化合物(本発明に係る置換シリコン化合物)を塗布し層間絶縁膜60を形成した。層間絶縁膜60の形成方法は、上述した層間絶縁膜40の形成方法と同様とした。なお、膜厚は30nmとした。
【0093】
(26)次に、層間絶縁膜60上から紫外線を照射し、多孔質層間絶縁膜のキュアを行った。
【0094】
(27)次に、全面にスピンコート法によりフォトレジスト膜62を形成した。
【0095】
(28)次に、図6に示すように、フォトリソグラフィ技術を用い、フォトレジスト膜62に開口部64を形成した。開口部64は、配線50に達するコンタクトホール64を形成するためのものである。
【0096】
(29)次に、フォトレジスト膜62をマスクとして、絶縁膜60、層間絶縁膜58、絶縁膜56、層間絶縁膜54および絶縁膜52をエッチングした。エッチングを行う際には、CFガスおよびCHFガスを原料としたフッ素プラズマを用いてエッチングを行った。エッチングガスの組成比やエッチングの際の圧力等を適宜変化させることにより、絶縁膜60、層間絶縁膜58、絶縁膜56、層間絶縁膜54および絶縁膜52をエッチングすることが可能である。こうして、配線50に達するコンタクトホール66が形成された。この後、フォトレジスト膜62を剥離した。
【0097】
(30)次に、全面にスピンコート法により、フォトレジスト膜68を形成した。
【0098】
(31)次に、図7に示すように、フォトリソグラフィ技術を用い、フォトレジスト膜68に開口部70を形成した。この開口部70は、第2層目の配線(第2金属配線層)76aを形成するためのものである。
【0099】
(32)次に、フォトレジスト膜68をマスクとして、絶縁膜60、層間絶縁膜58および絶縁膜56をエッチングした。エッチングを行う際には、CFガスおよびCHFガスを原料としたフッ素プラズマを用いてエッチングを行った。こうして、絶縁膜60、層間絶縁膜58および絶縁膜56に、配線76aを埋め込むための溝72が形成された。溝72は、コンタクトホール66と繋がった状態となる。
【0100】
(33)次に、全面に、スパッタ法により、膜厚10nmのTaNよりなるバリア膜(図示せず)を形成した。バリア膜は、後述する配線76aおよび導体プラグ76b中のCuが拡散するのを防止するためのものである。次に、全面にスパッタ法により、膜厚10nmのCuよりなるシード膜(図示せず)を形成した。シード膜は、電気めっき法によりCuよりなる配線76aおよび導体プラグ76bを形成する際に、電極として機能するものである。こうして、バリア膜とシード膜とからなる積層膜74が形成された。
【0101】
(34)次に、電気めっき法により、膜厚1400nmのCu膜76を形成した。
【0102】
(35)次に、CMP法により、絶縁膜60の表面が露出するまで、Cu膜76および積層膜74を研磨した。こうして、コンタクトホール66内にCuよりなる導体プラグ76bが埋め込まれるとともに、溝72内にCuよりなる配線76aが埋め込まれた。導体プラグ76bと配線76aとは一体に形成される。このように導体プラグ76bと配線76aとを一括して形成する製造プロセスは、デュアルダマシン法と称される。
【0103】
(36)次に、図8に示すようにCVD法により膜厚30nmの層間絶縁膜78を形成した。
【0104】
(37)この後、上記と同様の工程を適宜繰り返すことにより、図示しない第3層目の配線(第3金属配線層)が形成された。
【0105】
(38)このようにして、実施例1〜6のそれぞれについて表1の置換シリコン化合物をそれぞれ使用して半導体装置を形成し、形成された半導体装置について、100万個の導体プラグが電気的に直列に接続されるように配線および導体プラグを形成し、歩留り測定等の評価を行った。結果を表1,2に示す。歩留りは89.5〜93.1%であった。
【0106】
(39)また、配線間の実効的な比誘電率を算出したところ、2.6〜2.7であった。なお、実効的な比誘電率とは、配線の周囲に、多孔質層間絶縁膜のみならず、他の絶縁膜も存在している状態において測定される比誘電率のことである。比誘電率の低い多孔質層間絶縁膜のみならず、比誘電率が比較的高い絶縁膜も配線の周囲に存在している状態で測定されるため、実効的な比誘電率は、多孔質層間絶縁膜の比誘電率より大きい値となる。
【0107】
(40)また、200℃で3000時間放置した後に配線の抵抗を測定したところ、抵抗の上昇は確認されなかった。
【0108】
(41)また、紫外線照射後の多孔質絶縁膜のC濃度をX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)により測定したところ、いずれも11〜12原子%と紫外線照射前と同等であり、C濃度の減少は見られなかった。
【0109】
(42)表1には膜強度についてのデータも示されている。表1より、低い比誘電率にもかかわらず良好な膜強度が得られていることが理解される。これに比して、従来技術であればこのような低い比誘電率を得ようとすると膜強度が大幅に低下してしまう。
【0110】
[比較例1,2]
本発明に係る置換シリコン化合物に代えて表1に示す非置換シリコン化合物を使用した以外は実施例1〜6と同様にした。
【0111】
このようにして、比較例1,2のそれぞれについて表1の非置換シリコン化合物をそれぞれ使用して半導体装置を形成し、形成された半導体装置について、100万個の導体プラグが電気的に直列に接続されるように配線および導体プラグを形成し、歩留りを測定したところ、歩留りは59.2〜63.2%であり、配線間の実効的な比誘電率を算出したところ、3.1〜3.2であった。また、200℃で3000時間放置した後に配線の抵抗を測定したところ、抵抗の上昇が確認された。これらに比べて実施例1がいずれもよい結果を与えたのは、本発明に係る置換シリコン化合物の使用により210nm以下の紫外線をカットできた効果と考えることができる。これは210nm以下の紫外線をカットすることにより多孔質絶縁膜のSi−C結合切断による吸湿を抑制できたためであろう。
【0112】
また、多孔質絶縁膜のC濃度をXPSにより測定したところ、6〜7原子%でありC濃度の減少が確認された。これに対し、実施例1においてC濃度の減少が観察されなかったのは、Si−C結合の切断によりメチル基等の逃散が実質的になかったことを意味するものと考えられる。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【0115】
なお、表1中、非置換シリコン化合物(ポリカルボシラン)におけるR,RはHであり、nは213であった。また、非置換シリコン化合物(ポリシラザン)におけるR〜RはHであり、nは264であった(式の定義に合う記載をお願いします。
【0116】
また、上記R,RまたはR〜Rの水素の数に対して、実施例1,4のベンジル基は27%、実施例2,5のカルボニル基は15%、実施例3,6のカルボキシル基は21%であった。
【0117】
「実施例7]
石英基板上に本発明に係るシリコン化合物の膜あるいは比較用の膜を成膜し真空紫外分光器(SGV−157、島津製作所)にて180〜350nmの紫外線吸収スペクトルを測定することで、本発明に係るシリコン化合物の膜については、180〜210nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率1と、210〜350nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率2との比が、(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5であることを確認した。結果は表2に示されている。同様にして210nm以下の紫外線の吸収率も測定した。
【0118】
「実施例8]
下記式1で示されるR1及びR2がHであるポリカルボシランのR1もしくはRをハロゲン化し、ベンジル基を含むGrignard試薬と反応させることにより当該非置換ポリカルボシランに比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いベンジル基を有するポリカルボしランを作製することができる。
【0119】
なお、上記に開示した内容から、下記の付記に示した発明が導き出せる。
【0120】
(付記1) 下記式1で示されるポリカルボシランまたは下記式2で示されるポリシラザンまたはそれらの混合物からなるシリコン化合物のR〜Rの少なくとも一部が他の基で置換された構造を有し、当該非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物。
【0121】
【化7】

【0122】
【化8】

【0123】
(式1において、R、Rは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すか、もしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、nは10〜1000である。また、式2において、R、RおよびRは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すかもしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、但し、置換基R、RおよびRのうちの少なくとも1個は水素原子であり、そしてnは、当該シラザン型重合体が100〜50,000の数平均分子量を有するのに必要な繰り返し単位の数である。なお、式1と式2との記号は互いに独立している。)
【0124】
(付記2) 180〜210nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率1と、210〜350nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率2との比が、(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5である、付記1に記載のシリコン化合物。
【0125】
(付記3) 前記他の基が、ベンジル基、カルボニル基、カルボキシル基、アクロイル基、ジアゾ基、アジド基、シンナモイル基、アクリレート基、シンナミリデン基、シアノシンナミリデン基、フリルペンタジエン基、p−フェニレンジアクリレート基からなる群から選ばれたものである、付記1または2に記載のシリコン化合物。
【0126】
(付記4) 多層配線装置の製造方法において、
基板上方に多孔質絶縁膜前駆体層を形成し、
付記1〜3のいずれかに記載の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物層を形成し、
当該シリコン化合物層を介して当該多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射する
ことを含む、多層配線装置の製造方法。
【0127】
(付記5) 前記多孔質絶縁膜前駆体層が塗布型のシリカクラスター前駆体を用いて形成される、付記4に記載の多層配線装置の製造方法。
【0128】
(付記6) 前記塗布型のシリカクラスター前駆体が4級アルキルアミンにより加水分解して形成したものである、付記5に記載の多層配線装置の製造方法。
【0129】
(付記7) 前記紫外線の光源が200〜800nmの範囲の波長を有する光源である、付記4〜6のいずれかに記載の多層配線装置の製造方法。
【0130】
(付記8) 前記200〜800nmの範囲の波長を有する光源が、高圧水銀ランプ,オゾンレス高圧水銀ランプ,メタルハライドランプ,キセノンランプ,重水素ランプのいずれかである、付記7に記載の多層配線装置の製造方法。
【0131】
(付記9) 前記紫外線照射において、分光放射照度計を使用した場合における、ウエハ面における254nmの紫外線照度が1mW/cm以上である、付記4〜8のいずれかに記載の多層配線装置の製造方法。
【0132】
(付記10) 前記紫外線照射において、50〜470℃の間の温度で加熱しつつ紫外線を照射する、付記4〜9のいずれかに記載の多層配線装置の製造方法。
【0133】
(付記11) 付記に記載の製造方法を用いて作製された多層配線装置。
【0134】
(付記12) 多層配線装置の製造方法において、基板上方に多孔質絶縁膜前駆体層を形成し、
付記1〜3のいずれかに記載の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物層を形成し、
当該シリコン化合物層を介して当該多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射する
ことを含む、多層配線装置の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0135】
【図1】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図2】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図3】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図4】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図5】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図6】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図7】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図8】半導体装置の製造過程を示す模式図である。
【図9】高圧水銀ランプ(UVL−7000H4−N、ウシオ電機)の発光スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0136】
10 半導体基板 12 素子分離膜
14 素子領域 16 ゲート絶縁膜
18 ゲート電極 20 サイドウォール絶縁膜
22 ソース/ドレイン拡散層 24 トランジスタ
26 層間絶縁膜 28 ストッパ膜
30 コンタクトホール 32 密着層
34 導体プラグ 36 層間絶縁膜
38 多孔質層間絶縁膜 40 層間絶縁膜
42 フォトレジスト膜 44 開口部
46 溝 48 積層膜
50 Cu膜 52 層間絶縁膜
54 多孔質層間絶縁膜 56 層間絶縁膜
58 多孔質層間絶縁膜 60 層間絶縁膜
62 フォトレジスト膜 64 開口部
66 コンタクトホール 68 フォトレジスト膜
70 開口部 72 溝
74 積層膜 76a 配線
76b 導体プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式1で示されるポリカルボシランまたは下記式2で示されるポリシラザンまたはそれらの混合物からなるシリコン化合物のR〜Rの少なくとも一部が他の基で置換された構造を有し、当該非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物。
【化1】

【化2】

(式1において、R、Rは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すか、もしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、nは10〜1000である。また、式2において、R、RおよびRは、互いに同一もしくは異なっていてもよく、それぞれ、水素原子を表すかもしくは置換もしくは非置換の、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基またはアリール基を表し、但し、置換基R、RおよびRのうちの少なくとも1個は水素原子であり、そしてnは、当該シラザン型重合体が100〜50,000の数平均分子量を有するのに必要な繰り返し単位の数である。なお、式1と式2との記号は互いに独立している。)
【請求項2】
180〜210nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率1と、210〜350nmの間にある紫外線ピークについての前記シリコン化合物の紫外線吸収率2との比が、(紫外線吸収率1)/(紫外線吸収率2)≧2.5である、請求項1に記載のシリコン化合物。
【請求項3】
前記他の基が、ベンジル基、カルボニル基、カルボキシル基、アクロイル基、ジアゾ基、アジド基、シンナモイル基、アクリレート基、シンナミリデン基、シアノシンナミリデン基、フリルペンタジエン基、p−フェニレンジアクリレート基からなる群から選ばれたものである、請求項1または2に記載のシリコン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物を含んでなる紫外線吸収体。
【請求項5】
多層配線装置の製造方法において、
基板上に多孔質絶縁膜前駆体の層を形成し、
請求項1〜3のいずれかに記載の非置換シリコン化合物に比して210nm以下の紫外線の吸収率が高いシリコン化合物の層を形成し、
必要に応じて当該シリコン化合物の層をプリキュアし、
当該シリコン化合物の層またはプリキュア層を介して当該多孔質絶縁膜前駆体に紫外線を照射する
ことを含む、多層配線装置の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質絶縁膜前駆体が塗布型のシリカクラスター前駆体を用いて形成される、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記紫外線の光源が200〜800nmの範囲の波長を有する光源である、請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記紫外線照射において、分光放射照度計を使用した場合における、ウエハ面における254nmの紫外線照度が1mW/cm以上である、請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記紫外線照射において、50〜470℃の間の温度で加熱しつつ紫外線を照射する、請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項に記載の製造方法を用いて作製された多層配線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−44057(P2009−44057A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209505(P2007−209505)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】