説明

ダイヤモンド半導体及び作製方法

【課題】従来技術と比較して、室温で十分に高いキャリア濃度を有するダイヤモンド半導体及び作製方法を提供すること。
【解決手段】ダイヤモンド基板11(図5(a))上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド薄膜12を1ミクロン積層する(図5(b))。ダイヤモンド薄膜12にイオン注入装置を用い、不純物1(VI族又はII族元素)を打ち込む(図5(c))。その後、不純物2(III族又はV族元素)を打ち込んだが(図5(d))、注入条件は、打ち込んだ不純物がそれぞれ表面から0.5ミクロンの厚さの範囲内で、1×1017cm-3となるようにシミュレーションにより決定した。その後、2種類のイオンが注入されたダイヤモンド薄膜13をアニールすることにより(図5(e))、イオン注入された不純物の活性化を行い、ダイヤモンド半導体薄膜15を得た(図5(f))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド半導体及び作製方法に関し、より詳細には、ドナーアクセプター複合体を有するダイヤモンド半導体及び作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、物質中最高の熱伝導率(22W/cmK)と高い絶縁破壊電界(>10MV/cm)、高いキャリア移動度(電子:4500cm2/Vs、ホール:3800cm2/Vs)を兼ね備えた半導体である。高効率ドーピングが実現し、室温で十分高い正孔、電子濃度を有するダイヤモンド半導体が得られれば、Si、GaAs、SiC、GaN等の既存の半導体を陵駕する高周波高出力で動作するトランジスタを実現することが可能である。
【0003】
ここで、ダイヤモンド半導体は、P型不純物としてホウ素、N型不純物としてリンをドープすることにより得られるが、ホウ素やリンの活性化エネルギーは高いため(ホウ素:0.37eV、リン:0.57eV)、室温でキャリアがほとんど活性化せず、デバイス構造にしてもほとんど電流を得ることができない。
【0004】
この問題を解決するため、特許文献1には同時ドーピング法が提案されている。これは、ダイヤモンド中にシングルドナー(以下「D」とも標記する。)とシングルアクセプター(以下「A」とも標記する。)の同時ドーピングを行い、D−A−D(またはA−D−A)のようなドナーアクセプター比率が1:2であるシングルドナーシングルアクセプター複合体を形成させ、これをドーパントとして機能させる手法である。特許文献1では、ドナーとしてリン、砒素、または窒素を、アクセプターとして水素を挙げており、P−H−P、As−H−As、またはN−H−N複合体がドナーとして振舞うとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3568394号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Kato, S. Yamasaki and H. Okushi, "Carrier compensation in(001) n-type diamond by phosphorus doping," Diamond and Related Materials, Netherlands, Elsevier Science, 2007, Vol. 16, pp. 796-799
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1ではリン−水素(P−H)複合体はN型ダイヤモンド中で安定に存在するが、水素はリンを補償するため、電気的に不活性な複合体となることを指摘している。
【0008】
実際、リンドープダイヤモンドをマイクロ波プラズマCVD法で作製する場合、水素で希釈したメタンを炭素源、ホスフィンガスをドーパント供給源(不純物源)として用いるため(図6参照)、結果としてダイヤモンドの結晶成長中にリンと水素の同時供給が行われる。しかし、リンドープダイヤモンドで得られる0.57eVの活性化エネルギーはダイヤモンドの格子位置に入ったリンによるものであり、リン−水素複合体によるものではない。
【0009】
このように、ダイヤモンドの場合、CVD成長中にリンと水素のようなシングルドナーとシングルアクセプターを含む不純物源を2:1〜3:1の割合で同時に供給しても、ダイヤモンド格子内でD−A−Dという形で配列したドナー−アクセプター複合体を形成させるのは極めて難しい。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来技術と比較して、室温で十分に高いキャリア濃度を有するダイヤモンド半導体及び作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体であって、前記ドナー及び前記アクセプターの一方と前記ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価で、前記ドナー及び前記アクセプターの他方と前記炭素との間の価数の差が1価であり、前記ドナー及び前記アクセプターのうちの前記価数の差が2価である不純物により伝導型が定まることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記ドナーはVI族元素のダブルドナーで、前記アクセプターはIII族元素のシングルアクセプターであることにより、前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記伝導型はN型であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の第3の態様は、第1の態様において、前記ドナーはV族元素のシングルドナーで、前記アクセプターはII族元素のダブルアクセプターであることにより、前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、前記伝導型はP型であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第4の態様は、第1〜第3のいずれかの態様において、前記ドナー及び前記アクセプターのうちの前記価数の差が2価である不純物の濃度が前記ドナー及び前記アクセプターの他方の濃度を上回るようにドーピングされていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の第5の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのCVD成長中に、VI族元素のダブルドナーを含むガス又は固体ソース、及び、III族元素のシングルアクセプターを含む有機金属または固体ソースを導入するステップを含み、前記VI族元素のダブルドナーを含むガス又は固体ソースは、酸素、硫化水素、固体セレン、ジメチルセレン、及び、ジターシャルブチルセレンのいずれかであり、前記III族元素のシングルアクセプターを含む有機金属または固体ソースは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルエチルアミンアラン、ジエチルアルミニウムエトキシド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルガリウム、固体イットリウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)イットリウム、トリス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)イットリウム、固体スカンジウム、及び、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)スカンジウムのいずれかであり、前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の第6の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのCVD成長中に、II族元素のダブルアクセプターを含む有機金属又は固体ソース、及び、V族元素のシングルドナーを含む有機金属またはガスを導入するステップを含み、前記II族元素のダブルアクセプターを含む有機金属又は固体ソースは、固体ベリリウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、ジメチル亜鉛トリエチルアミン、及び、ジメトキシカルシウムのいずれかであり、前記V族元素のシングルドナーを含む有機金属またはガスは、窒素、アンモニア、ホスフィン、ジエチルホスフィン、トリエチルリン、ターシャリブチルホスフィン、アルシン、トリメチル砒素、トリエチル砒素、トリスジメチルアミノアルシン、ターシャリブチルアルシン、トリメチルアンチモン、及び、トリエチルアンチモンのいずれかであり、前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はP型であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第7の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのマイクロ波プラズマCVD成長中に、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、硫化アルミニウム、硫化ガリウム、硫化インジウム、硫化スカンジウム、硫化イットリウム、セレン化アルミニウム、セレン化ガリウム、セレン化インジウム、セレン化スカンジウム、及び、セレン化イットリウムのいずれかをプラズマ中に導入して、VI族元素のダブルドナー及びIII族元素のシングルアクセプターをドーピングするステップを含み、前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第8の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、イオン注入により、VI族元素のダブルドナー及びIII族元素のシングルアクセプターのドーピングを行うステップを含み、前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第9の態様は、ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、イオン注入により、II族元素のダブルアクセプター及びV族元素のシングルドナーのドーピングを行うステップを含み、前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、前記伝導型はP型であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第10の態様は、第5〜9のいずれかの態様において、前記ドナー及び前記アクセプターのうち、前記ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価である不純物の濃度が前記ドナー及び前記アクセプターの他方の濃度を上回るようにドーピングされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ドーピングされたドナー及びアクセプターの一方が、ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価で、他方がその炭素との間の価数の差が1価であり、これらのドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶に有することにより、従来技術と比較して室温で十分に高いキャリア濃度を有するダイヤモンド半導体を提供することができる。
【0022】
また、本発明に係るダイヤモンド半導体の作製方法によれば、このような従来技術と比較して室温で十分に高いキャリア濃度を有するダイヤモンド半導体を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ダイヤモンド半導体の作製方法の実施例1を説明するための図である。
【図2】酸素とアルミニウムの双方を1:1の比率でドープしたダイヤモンド薄膜での電子濃度の温度依存性の測定結果を示す図である。
【図3】酸素とアルミニウムをドープしたダイヤモンド半導体膜中の酸素及びアルミニウム濃度と極性の関係を示す図である(図中○印はN型半導体となった領域、×印はP型半導体となった領域を示す)。
【図4】ダイヤモンド半導体の作製方法の実施例2を説明するための図である。
【図5】ダイヤモンド半導体の作製方法の実施例3を説明するための図である。
【図6】従来技術によるダイヤモンド半導体の作製方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
(ダイヤモンド半導体の構成)
本発明のダイヤモンド半導体は、ダイヤモンドに、ダイヤモンドに対してダブルアクセプターであるII型元素およびシングルドナーであるV族元素、または、ダイヤモンドに対してダブルドナーであるVI族元素およびシングルアクセプターであるIII型元素を組み合せてドーピングすることにより形成される、II族元素およびV族元素で構成されたシングルドナーダブルアクセプター複合体、または、VI族元素およびIII族元素で構成されたダブルドナーシングルアクセプター複合体を結晶中に有する。これらの複合体がダイヤモンド中でドーパントとして機能し、それぞれ単体でドーピングする場合より活性化エネルギーが低くなるため、キャリア濃度が上昇する。これにより、室温で十分に高い正孔濃度または電子濃度を有するP型またはN型ダイヤモンド半導体を得ることができる。ここで、本発明のダイヤモンド半導体の伝導型は、ドナーアクセプター複合体を形成するドナー及びアクセプターのうち、ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価である不純物により定まっている。
【0025】
(実施例)
実施例1
本発明の実施例1によるダイヤモンド半導体の作製方法について図1を用いて説明する。ダブルドナーとしてVI族元素の酸素(O)、シングルアクセプターとしてIII族元素のアルミニウム(Al)をドーピングする例を示すが、この場合、Al源としてトリメチルアルミニウム(TMA)、酸素源として酸素ガスを使用した。Al源としてTMAを使用しているが、これは、極めて高純度のTMAが市販されており、容易に手に入るためである。また、Al源としては、トリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルエチルアミンアラン、ジエチルアルミニウムエトキシドのようなAlを含む他の有機金属を使用してもよい。
【0026】
他の不純物をドープする際には、不純物源として次に示すような有機金属、ガス、固体ソースを用いた。
VI族元素:硫黄源−H2Sガス、Se源−Se固体ソース
III族元素:Ga源−トリメチルGa、In源−トリメチルIn、Sc源−Sc固体ソース、Y源−Y固体ソース
II族元素:Be源−Be固体ソース、Mg源−ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、Ca源−Ca固体ソース、Zn源−トリメチル亜鉛
V族元素:窒素源−窒素ガス、リン源−ホスフィンガス、砒素源−トリメチル砒素、Sb源−トリメチルSb
上記の不純物源に加えて、III族元素として、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)イットリウム、トリス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)イットリウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)スカンジウム、II族元素として、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、トリエチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、ジメチル亜鉛トリエチルアミン、ジメトキシカルシウム、VI族元素として、ジメチルセレン、ジターシャルブチルセレン、V族元素として、アンモニア、ジエチルホスフィン、トリエチルリン、ターシャリブチルホスフィン、アルシン、トリメチル砒素、トリエチル砒素、トリスジメチルアミノアルシン、ターシャリブチルアルシン、トリエチルアンチモンのような物も使用できるが、市販品、で取り扱いが容易で、かつ高純度の物が得られるという観点から、本実施例においては、上述の材料を不純物源として選択した。
【0027】
マイクロ波プラズマCVD装置を用い、水素で希釈したメタン([CH4]/[H2]=3%)を原料ガスとして使用した。ダイヤモンド基板上に基板温度700℃でダイヤモンド薄膜を積層する。その際、Al及びOのドーピングのためにメタン−水素混合ガスに加えて酸素およびTMAの双方の導入を行ったが、膜中の酸素及びアルミニウムの原子濃度がそれぞれ、1×1017cm-3になるように、酸素濃度およびTMA濃度を制御した。5時間のCVD成長後、アルミニウム及び酸素の双方がドーピングされたダイヤモンド薄膜が得られた。
【0028】
同様の手法を用い、有機金属、ガス、固体ソースの組み合わせを様々に変えることにより、様々の不純物を組み合わせドーピングしたダイヤモンド薄膜を作製することができた。これらのダイヤモンド薄膜のホール測定を行い、極性、キャリア濃度、移動度を求めた。VI族及びIII族元素をドープした薄膜ではN型ダイヤモンド薄膜が、II族及びV族元素をドープした薄膜ではP型ダイヤモンド薄膜が得られた。表1−1、1−2に、様々の不純物を組み合わせドーピングしたダイヤモンド半導体薄膜のドナー及びアクセプター濃度、活性化エネルギー、室温での移動度、キャリア濃度を示す。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1−1及び1−2から分かるように、II型元素(ダブルアクセプター)及びV族元素(シングルドナー)、または、VI族元素(ダブルドナー)及びIII族元素(シングルアクセプター)を組み合せてドーピングすることにより、両者の複合体が活性化エネルギーの低いドーパントとして機能し、室温で十分に高い正孔または電子濃度を有するN型またはP型ダイヤモンド半導体が得られた。
【0032】
図2に、酸素とアルミニウムの双方を1:1の比率でドープしたダイヤモンド薄膜での電子濃度の温度依存性の測定結果を示す。電子密度の温度依存性のフィッティングから、ダイヤモンド薄膜中のドナー濃度(ND)、アクセプター濃度(NA)、活性化エネルギー(Ea)を求めると、それぞれ、ND=1×1017cm-3、NA=5×1016cm-3、Ea=0.32eVとなった。また、SIMS(二次イオン質量分析計)測定により求めたダイヤモンド薄膜中の酸素濃度およびアルミニウム濃度は双方ともに5×1016cm-3となった。これらの測定結果から、ダイヤモンド薄膜中の酸素濃度とアルミニウム濃度が等しく、また、ドナー濃度がアクセプター濃度の2倍になっていることがわかり、酸素とアルミニウムがダブルドナーシングルアクセプター複合体を形成し、0.32eVのドナーとして振る舞っていることが実験的に明らかとなった。
【0033】
また、ダイヤモンドの結晶成長時に供給する酸素及びTMAの濃度を変化させることにより、薄膜中の酸素及びアルミニウムの濃度を様々に変化させ、電気伝導に及ぼす影響を調べた。図3に、ダイヤモンド薄膜中の酸素濃度及びアルミニウム濃度と極性の関係を示す。酸素濃度がアルミニウム濃度以上になるところで、N型の電気伝導性が現れた。したがって、酸素濃度がアルミニウム濃度以上となるように、より好ましくはアルミニウム濃度を上回るように不純物の供給を行ってドナーアクセプター複合体を作製することがこの手法によりN型ダイヤモンド薄膜を得るための重要なポイントであることが明らかとなった。
【0034】
実施例2
図4を参照して、本発明の実施例2によるダイヤモンド半導体の作製方法について説明する。
【0035】
マイクロ波プラズマCVD法により、ダイヤモンド基板上に基板温度700℃でダイヤモンド薄膜を積層する。その際、CVD成長中に、表2に示すようなIII族元素の酸化物、III族元素の硫化物、またはIII族元素のセレン化物からなる固体ソースをプラズマ内に挿入することにより、III族元素(アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、又はイットリウム)及びVI族元素(酸素、硫黄、又はセレン)双方のドーピングを行った。固体ソースがプラズマにより叩かれて、反応ガス内に混入し、III族及びVI族元素がダイヤモンドに取り込まれる。5時間の成長後、III族元素とVI族元素の双方がドーピングされたダイヤモンド薄膜が得られた。これらの薄膜のホール測定を行ったところ、全ての薄膜でN型の電気電導性が現れた。表2に、これらのダイヤモンド半導体薄膜の不純物濃度、活性化エネルギー、室温での移動度、キャリア濃度を示す。
【0036】
【表3】

【0037】
表2から分かるように、III族元素の酸化物、III族元素の硫化物、又はIII族元素のセレン化物からなる固体ソースを用いてドーピングすることにより、III族元素とVI族元素の複合体がダイヤモンド中で安定に形成され、活性化エネルギーの低いドーパントとなり、室温で十分高い電子濃度を有するN型ダイヤモンド半導体が得られた。
【0038】
実施例3
図5を参照して、本発明の実施例3によるダイヤモンド半導体の作製方法について説明する。
【0039】
ダイヤモンド基板11(図5(a))上にマイクロ波プラズマCVD装置を用い、メタンを反応ガスとし、基板温度700℃でダイヤモンド薄膜12を1ミクロン積層する(図5(b))。本実施例ではマイクロ波プラズマCVD法を用いているが、ダイヤモンドが形成できる手法であれば方法は問わない。また、市販の、高温高圧合成により作製された又はCVD法により作製されたダイヤモンド単結晶を用いてもよい。ダイヤモンド薄膜12にイオン注入装置を用い、不純物1(VI族又はII族元素)を打ち込む(図5(c))。その後、不純物2(III族又はV族元素)を打ち込んだが(図5(d))、注入条件は、打ち込んだ不純物がそれぞれ表面から0.5ミクロンの厚さの範囲内で、1×1017cm-3となるようにシミュレーションにより決定した。その後、2種類のイオンが注入されたダイヤモンド薄膜13をアニールすることにより(図5(e))、イオン注入された不純物の活性化を行い、ダイヤモンド半導体薄膜15を得た(図5(f))。これらダイヤモンド薄膜のホール測定を行い、極性、キャリア濃度、移動度を求めた。VI族及びIII族元素をイオン注入した薄膜ではN型ダイヤモンド薄膜が、II族及びV族元素をイオン注入した薄膜ではP型ダイヤモンド薄膜が得られた。表3−1及び3−2に、作製したダイヤモンド半導体薄膜の各ドーパントに対する極性、室温での移動度、キャリア濃度を示す。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
表3−1及び3−2から分かるように、VI族元素(ダブルドナー)及びIII族元素(シングルアクセプター)、または、II型元素(ダブルアクセプター)及びV族元素(シングルドナー)を組み合せてイオン注入を行うことにより、両者の複合体が活性化エネルギーの低いドーパントとして機能し、室温で十分に高い正孔または電子濃度を有するP型またはN型ダイヤモンド半導体が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体であって、
前記ドナー及び前記アクセプターの一方と前記ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価で、前記ドナー及び前記アクセプターの他方と前記炭素との間の価数の差が1価であり、
前記ドナー及び前記アクセプターのうちの前記価数の差が2価である不純物により伝導型が定まることを特徴とするダイヤモンド半導体。
【請求項2】
前記ドナーはVI族元素のダブルドナーで、前記アクセプターはIII族元素のシングルアクセプターであることにより、前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、
前記伝導型はN型であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド半導体。
【請求項3】
前記ドナーはV族元素のシングルドナーで、前記アクセプターはII族元素のダブルアクセプターであることにより、前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、
前記伝導型はP型であることを特徴とする請求項1に記載のダイヤモンド半導体。
【請求項4】
前記ドナー及び前記アクセプターのうちの前記価数の差が2価である不純物の濃度が前記ドナー及び前記アクセプターの他方の濃度を上回るようにドーピングされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダイヤモンド半導体。
【請求項5】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、
前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのCVD成長中に、VI族元素のダブルドナーを含むガス又は固体ソース、及び、III族元素のシングルアクセプターを含む有機金属または固体ソースを導入するステップを含み、
前記VI族元素のダブルドナーを含むガス又は固体ソースは、酸素、硫化水素、固体セレン、ジメチルセレン、及び、ジターシャルブチルセレンのいずれかであり、
前記III族元素のシングルアクセプターを含む有機金属または固体ソースは、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、ジメチルアルミニウムハイドライド、トリイソブチルアルミニウム、ジメチルエチルアミンアラン、ジエチルアルミニウムエトキシド、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルインジウム、トリエチルガリウム、固体イットリウム、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)イットリウム、トリス(1−メトキシ−2−メチル−2−プロポキシ)イットリウム、固体スカンジウム、及び、トリス(2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト)スカンジウムのいずれかであり、
前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする作製方法。
【請求項6】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、
前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのCVD成長中に、II族元素のダブルアクセプターを含む有機金属又は固体ソース、及び、V族元素のシングルドナーを含む有機金属またはガスを導入するステップを含み、
前記II族元素のダブルアクセプターを含む有機金属又は固体ソースは、固体ベリリウム、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム、トリメチル亜鉛、トリエチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジメチル亜鉛、ジメチル亜鉛トリエチルアミン、及び、ジメトキシカルシウムのいずれかであり、
前記V族元素のシングルドナーを含む有機金属またはガスは、窒素、アンモニア、ホスフィン、ジエチルホスフィン、トリエチルリン、ターシャリブチルホスフィン、アルシン、トリメチル砒素、トリエチル砒素、トリスジメチルアミノアルシン、ターシャリブチルアルシン、トリメチルアンチモン、及び、トリエチルアンチモンのいずれかであり、
前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はP型であることを特徴とする作製方法。
【請求項7】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、
前記ダイヤモンド半導体を構成するダイヤモンドのマイクロ波プラズマCVD成長中に、酸化アルミニウム、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化スカンジウム、酸化イットリウム、硫化アルミニウム、硫化ガリウム、硫化インジウム、硫化スカンジウム、硫化イットリウム、セレン化アルミニウム、セレン化ガリウム、セレン化インジウム、セレン化スカンジウム、及び、セレン化イットリウムのいずれかをプラズマ中に導入して、VI族元素のダブルドナー及びIII族元素のシングルアクセプターをドーピングするステップを含み、
前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする作製方法。
【請求項8】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、
イオン注入により、VI族元素のダブルドナー及びIII族元素のシングルアクセプターのドーピングを行うステップを含み、
前記ドナーアクセプター複合体はダブルドナーシングルアクセプター複合体であり、前記ダイヤモンド半導体の伝導型はN型であることを特徴とする作製方法。
【請求項9】
ドーピングされたドナー及びアクセプターが形成するドナーアクセプター複合体を結晶中に有するダイヤモンド半導体の作製方法であって、
イオン注入により、II族元素のダブルアクセプター及びV族元素のシングルドナーのドーピングを行うステップを含み、
前記ドナーアクセプター複合体はシングルドナーダブルアクセプター複合体であり、前記伝導型はP型であることを特徴とする作製方法。
【請求項10】
前記ドナー及び前記アクセプターのうち、前記ダイヤモンド半導体を構成する炭素との間の価数の差が2価である不純物の濃度が前記ドナー及び前記アクセプターの他方の濃度を上回るようにドーピングされていることを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189208(P2010−189208A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33277(P2009−33277)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、総務省、「ダイヤモンド・高周波電力デバイスの開発とマイクロ波・ミリ波帯電力増幅器への応用に関する研究開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】