説明

ハイブリッド車およびその制御方法

【課題】より適正に二次電池などの蓄電装置の昇温制御を実行する。
【解決手段】バッテリの昇温要請がなされているときに、駆動輪の空転によるスリップの可能性がないときには積極的なバッテリの充放電によるバッテリの昇温制御を行なうために充電用の充放電要求パワー設定用マップと放電用の充放電要求パワー設定用マップとを用いて充放電要求パワーPb*を設定して(S150,S160)、エンジンやモータMG1,MG2を制御し、駆動輪の空転によるスリップの可能性があるときにはバッテリの昇温制御を行なわずに通常用の充放電要求パワー設定用マップを用いて充放電要求パワーPb*を設定して(S130)、エンジンやモータMG1,MG2を制御する。これにより、予期しない駆動輪の空転によるスリップにより過大な電力によるバッテリ50の放電を抑制することができ、より適正にバッテリの昇温制御を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッド車としては、駆動輪のスリップ状態を検出した時は、モータジェネレータクラッチMGC及びエンジンクラッチECを解放し、シリーズクラッチSCを締結するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このハイブリッド車では、こうした制御を行なうことにより、駆動用のモータジェネレータの過回転を防止してバッテリの過放電を防止している。
【0003】
また、モータ走行中に駆動輪のいずれかに空転によるスリップが生じたときには、モータの回転軸の回転角加速度に基づいて設定されるトルク上限値によりモータからのトルクを制限することによりスリップを抑制すると共にエンジンを始動し、エンジンの始動が完了したのを確認してスリップを生じている駆動輪にブレーキにより制動力を作用させることによってスリップを抑制するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このハイブリッド車では、こうした制御により、バッテリ50の過大な電力による放電を伴うことなく運転者の要求する駆動力を出力している。
【特許文献1】特開2006−193841号公報
【特許文献2】特開2006−044536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハイブリッド車では、低温時には、バッテリを十分に機能させるために積極的にバッテリを充放電して昇温することも行なわれているが、積極的にバッテリを放電している最中に駆動輪の空転によるスリップが生じると、過大な電力がバッテリから放電され、バッテリを破損したり劣化させたりする場合が生じる。この場合、上述の特許文献1のように、駆動用のモータをクラッチにより切り離せばよいが、クラッチなしにモータを接続している場合には対処できない。また、上述の特許文献2のように、スリップ抑制制御を実行すればよいが、センサ異常や通信異常のために駆動輪の空転によるスリップを正常に検出できないときには対処できない。さらに、運転者の趣味に供するためにスリップ抑制制御を行なわないようにするスイッチが取り付けられている車両では、このスイッチが操作されて駆動輪の空転によるスリップが許容される場合もあり、この場合にも対処できない。
【0005】
本発明のハイブリッド車およびその制御方法は、より適正に二次電池などの蓄電装置の昇温制御を実行することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のハイブリッド車およびその制御方法は、少なくとも上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のハイブリッド車は、
内燃機関と、
前記内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と、
駆動輪に動力を出力する電動機と、
前記発電機および前記電動機と電力のやりとりを行なう蓄電手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記駆動輪の空転によるスリップの可能性の有無を判定するスリップ可能性判定手段と、
前記蓄電手段の昇温要請がなされたとき、前記スリップ可能性判定手段により前記駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには前記蓄電手段を充電または放電することによって該蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って前記設定された要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御し、前記スリップ可能性判定手段により前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには前記昇温制御を伴わずに前記設定された要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明のハイブリッド車では、蓄電手段の昇温要請がなされたときに駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには、蓄電手段を充電または放電することによって蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って走行に要求される要求駆動力により走行するよう内燃機関とこの内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と駆動輪に動力を出力する電動機とを制御する。これにより、蓄電手段を昇温しながら要求駆動力により走行することができる。一方、駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには、昇温制御を伴わずに要求駆動力により走行するよう内燃機関と発電機と電動機とを制御する。これにより、蓄電手段を昇温するために放電している最中に駆動輪の空転によるスリップに伴う蓄電手段の過放電(過大な電力による放電)を抑制することができる。これらにより、蓄電手段の昇温をより適正に行なうことができる。ここで、昇温制御としては、蓄電手段の許容充放電電力の範囲内で充電と放電とを繰り返す制御であるものとすることもできる。
【0009】
こうした本発明のハイブリッド車において、前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するスリップ抑制手段と、前記スリップ抑制手段によるスリップの抑制を停止する指示を行なうスリップ抑制停止スイッチと、を備え、前記スリップ可能性判定手段は、前記スリップ抑制停止スイッチにより前記スリップ抑制手段によるスリップの抑制の停止が指示されているときに前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定する手段である、ものとすることもできるし、前記駆動輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出手段を備え、前記スリップ可能性判定手段は、前記車輪回転速度検出手段に異常が生じているときに前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定する手段である、ものとすることもできる。
【0010】
本発明のハイブリッド車の制御方法は、
内燃機関と、前記内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と、駆動輪に動力を出力する電動機と、前記発電機および前記電動機と電力のやりとりを行なう蓄電手段と、を備えるハイブリッド車の制御方法であって、
前記蓄電手段の昇温要請がなされたときには、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性の有無を判定し、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには前記蓄電手段を充電または放電することによって該蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って走行に要求される要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御し、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには前記昇温制御を伴わずに前記要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御する、
ことを特徴とする。
【0011】
この本発明のハイブリッド車の制御方法では、蓄電手段の昇温要請がなされたときに駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには、蓄電手段を充電または放電することによって蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って走行に要求される要求駆動力により走行するよう内燃機関とこの内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と駆動輪に動力を出力する電動機とを制御する。これにより、蓄電手段を昇温しながら要求駆動力により走行することができる。一方、駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには、昇温制御を伴わずに要求駆動力により走行するよう内燃機関と発電機と電動機とを制御する。これにより、蓄電手段を昇温するために放電している最中に駆動輪の空転によるスリップに伴う蓄電手段の過放電(過大な電力による放電)を抑制することができる。これらにより、蓄電手段の昇温をより適正に行なうことができる。ここで、昇温制御としては、蓄電手段の許容充放電電力の範囲内で充電と放電とを繰り返す制御であるものとすることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための最良の形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、動力分配統合機構30に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続されたモータMG2と、駆動輪39a,39bや図示しない従動輪のブレーキを制御するためのブレーキアクチュエータ92と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0014】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、エンジンECU24は、クランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいてクランクシャフト26の回転数、即ちエンジン22の回転数Neも演算している。
【0015】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aを介して減速ギヤ35がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32側に出力する。リングギヤ32に出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構37およびデファレンシャルギヤ38を介して、最終的には車両の駆動輪39a,39bに出力される。
【0016】
モータMG1およびモータMG2は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2のいずれかで発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1,MG2により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からの信号に基づいてモータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2も演算している。
【0017】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度
Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52は、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)を演算したり、演算した残容量(SOC)と電池温度Tbとに基づいてバッテリ50の入出力制限Win,Woutを演算したりしている。バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、電池温度Tbに基づいて入出力制限Win,Woutの基本値を設定し、バッテリ50の残容量(SOC)に基づいて出力制限用補正係数と入力制限用補正係数とを設定し、設定した入出力制限Win,Woutの基本値に補正係数を乗じることにより設定することができる。図2に電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示し、図3にバッテリ50の残容量(SOC)と入出力制限Win,Woutの補正係数との関係の一例を示す。
【0018】
ブレーキアクチュエータ92は、ブレーキペダル85の踏み込みに応じて生じるブレーキマスターシリンダ90の圧力(ブレーキ圧)と車速Vとにより車両に作用させる制動力におけるブレーキの分担分に応じた制動トルクが駆動輪39a,39bや図示しない従動輪に作用するようブレーキホイールシリンダ96a〜96dの油圧を調整したり、ブレーキペダル85の踏み込みに無関係に、駆動輪39a,39bや従動輪に制動トルクが作用するようブレーキホイールシリンダ96a〜96dの油圧を調整したりすることができるように構成されている。以下、ブレーキアクチュエータ92の作動により駆動輪39a,39bや図示しない従動輪に制動力を作用させる場合を油圧ブレーキと称する。ブレーキアクチュエータ92は、ブレーキ用電子制御ユニット(以下、ブレーキECUという)94により制御されている。ブレーキECU94は、図示しない信号ラインにより、駆動輪39a,39bや従動輪に取り付けられた図示しない車輪速センサからの車輪速や図示しない操舵角センサからの操舵角などの信号を入力して、運転者がブレーキペダル85を踏み込んだときに駆動輪39a,39bや従動輪のいずれかがロックによりスリップするのを抑制するアンチロックブレーキシステム機能(ABS)や運転者がアクセルペダル83を踏み込んだときに駆動輪39a,39bのいずれかが空転によりスリップするのを抑制するトラクションコントロール(TRC),車両が旋回走行しているときに姿勢を保持する姿勢保持制御(VSC)なども行なう。ブレーキECU94は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってブレーキアクチュエータ92を駆動制御したり、必要に応じてブレーキアクチュエータ92の状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,駆動輪39a,39bの回転軸に取り付けられた車輪速センサ89b,89cからの車輪速Vl,Vr,運転席近傍に設けられたトラクションコントロール(TRC)や姿勢保持制御(VSC)をオフするTRCオフスイッチ89aからのTRCオフ信号などが入力ポートを介して入力されている。ここで、運転者によりトラクションコントロール(TRC)や姿勢保持制御(VSC)をオフにする指示がなされる場合としては、例えば、スタックしている車両を脱出させるときや運転者が駆動輪を空転させて俊敏な加速を要求しているときや運転者が駆動輪を空転させることにより車両の姿勢をコントロールしたいときなどがある。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52,ブレーキECU94と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0020】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0021】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、低温時にバッテリ50を昇温しながら駆動する際の動作について説明する。ここで、バッテリ50の昇温は、例えば、温度センサ51により検出された温度が所定温度(例えば、−10℃や−20℃など)以下のときや図示しない外気温センサにより検出された外気温が所定温度(例えば、−20℃)以下のときなどに、バッテリECU52からバッテリ50の昇温要請がなされることにより行なわれ、バッテリ50の温度Tbが所定温度(例えば、−5℃や0℃など)に至ったときに終了する。図4はハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるバッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、バッテリ50の昇温要請がなされているときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0022】
バッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、アクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Accや車速センサ88からの車速V,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,TRCオフスイッチ89aからのTRCオフ信号,車輪速センサ89b,89cなどのセンサ異常信号,バッテリ50の残容量(SOC),バッテリ50の入出力制限Win,Woutなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。また、センサ異常信号は、図示しない異常判定処理により判定された結果を図示しないRAM76の所定アドレスなどに記憶しておき、その結果をRAM76の所定アドレスから入力するものとした。なお、センサ異常としては、センサ自体の異常だけでなく、通信異常によりセンサからの信号を受信できないものも含まれる。さらに、バッテリ50の残容量(SOC)と入出力制限Win,Woutとについては、バッテリ50の充放電電流の積算値に基づいて演算したものとバッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものとをバッテリECU52から通信により入力するものとした。
【0023】
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪39a,39bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図5に要求トルク設定用マップの一例を示す。
【0024】
続いて、入力したTRCオフ信号やセンサ異常信号に基づいて駆動輪39a,39bが空転によるスリップを生じる可能性を判定する(ステップS120)。実施例では、TRCオフスイッチ89aがオンされているとき、即ち、トラクションコントロール(TRC)や姿勢保持制御(VSC)をオフにする指示がなされているときや車輪速センサ89b,89cに異常が生じていたり通信異常が生じているときに駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定し、TRCオフスイッチ89aがオフされており且つセンサ異常が生じていないときに駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性はないと判定する。駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときにはバッテリ50の残容量(SOC)と通常用の充放電要求パワー設定用マップとに基づいて充放電要求パワーPb*を設定し(ステップS130)、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには、バッテリ50を充電中か否かを判定し(ステップS140)、バッテリ50を充電中のときにはバッテリ50の残容量(SOC)と充電用の充放電要求パワー設定用マップとに基づいて充放電要求パワーPb*を設定し(ステップS150)、バッテリ50を充電中ではないときにはバッテリ50の残容量(SOC)と放電用の充放電要求パワー設定用マップとに基づいて充放電要求パワーPb*を設定する(ステップS160)。図6に通常用の充放電要求パワー設定用マップの一例を示し、図7に充電用の充放電要求パワー設定用マップの一例を示し、図8に放電用の充放電要求パワー設定用マップの一例を示す。図6に示すように、通常用の充放電要求パワー設定用マップでは、バッテリ50の残容量(SOC)が制御中心残容量SOCmid(例えば、60%など)を含む所定範囲(例えば、10%)を不感帯として、それより大きいときには放電用の電力(正の値の電力)が充放電要求パワーPb*に設定され、それより小さいときには充電用の電力(負の値の電力)が充放電要求パワーPb*に設定される。図7に示すように、充電用の充放電要求パワー設定用マップでは、バッテリ50の残容量(SOC)が満充電(100%)より少し小さい高残容量SOChi以下の範囲で充電用の電力(負の値の電力)が充放電要求パワーPb*に設定され、図8に示すように、放電用の充放電要求パワー設定用マップでは、バッテリ50の残容量(SOC)が完全放電(0%)より少し高い低残容量SOClow以上の範囲で放電用の電力(正の値の電力)が充放電要求パワーPb*に設定される。このように、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときに充電用の充放電要求パワー設定用マップと放電用の充放電要求パワー設定用マップとを用いて充放電要求パワーPb*を設定するのは、積極的にバッテリ50の充放電を行ない、この充放電によるロスによりバッテリ50を昇温する昇温制御を実行するためである。一方、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときに通常用の充放電要求パワー設定用マップを用いて充放電要求パワーPb*を設定するのは、昇温制御を行なわないためであり、これは、昇温制御の実行によりバッテリ50を積極的に放電している最中に駆動輪39a,39bの空転によるスリップによってモータMG2の回転数Nm2が急上昇することによる予期しないモータMG2の電力消費により、過大な電力によってバッテリ50が放電されるのを抑止するためである。
【0025】
こうして充放電要求パワーPb*を設定すると、要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nrを乗じたものからバッテリ50が要求する充放電要求パワーPb*を減じると共にこれにロスLossを加えてエンジン22に要求される要求パワーPe*を設定し(ステップS170)、エンジン22が運転中であるか否かを判定する(ステップS180)。ここで、リングギヤ軸32aの回転数Nrは、車速Vに換算係数kを乗じること(Nr=k・V)によって求めたり、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで割ること(Nr=Nm2/Gr)によって求めることができる。
【0026】
エンジン22が運転中のときには、要求パワーPe*をエンジン22を間欠運転する際のエンジン停止用の閾値Pstopと比較し(ステップS190)、要求パワーPe*が閾値Pstop以上のときには、エンジン22の運転を継続すると判断して、エンジン22を効率よく動作させる動作ラインと要求パワーPe*が一定となる曲線との交点として得られる回転数とトルクを目標回転数Ne*と目標トルクTe*として設定する(ステップS200)。エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子を図9に示す。
【0027】
次に、設定した目標回転数Ne*とリングギヤ軸32aの回転数Nr(Nm2/Gr)と動力分配統合機構30のギヤ比ρとを用いて次式(1)によりモータMG1の目標回転数Nm1*を計算すると共に計算した目標回転数Nm1*と現在の回転数Nm1とに基づいて式(2)によりモータMG1のトルク指令Tm1*を計算する(ステップS210)。ここで、式(1)は、動力分配統合機構30の回転要素に対する力学的な関係式である。エンジン22を運転している状態のときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図10に示す。図中、左のS軸はモータMG1の回転数Nm1であるサンギヤ31の回転数を示し、C軸はエンジン22の回転数Neであるキャリア34の回転数を示し、R軸はモータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35のギヤ比Grで除したリングギヤ32の回転数Nrを示す。式(1)は、この共線図を用いれば容易に導くことができる。なお、R軸上の2つの太線矢印は、モータMG1から出力されたトルクTm1がリングギヤ軸32aに作用するトルクと、モータMG2から出力されるトルクTm2が減速ギヤ35を介してリングギヤ軸32aに作用するトルクとを示す。また、式(2)は、モータMG1を目標回転数Nm1*で回転させるためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)中、右辺第2項の「k1」は比例項のゲインであり、右辺第3項の「k2」は積分項のゲインである。
【0028】
Nm1*=Ne*・(1+ρ)/ρ-Nm2/(Gr・ρ) (1)
Tm1*=前回Tm1*+k1(Nm1*-Nm1)+k2∫(Nm1*-Nm1)dt (2)
【0029】
こうしてモータMG1の目標回転数Nm1*とトルク指令Tm1*とを計算すると、バッテリ50の入出力制限Win,Woutと計算したモータMG1のトルク指令Tm1*に現在のモータMG1の回転数Nm1を乗じて得られるモータMG1の消費電力(発電電力)との偏差をモータMG2の回転数Nm2で割ることによりモータMG2から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを次式(3)および式(4)により計算すると共に(ステップS220)、要求トルクTr*とトルク指令Tm1*と動力分配統合機構30のギヤ比ρを用いてモータMG2から出力すべきトルクとしての仮モータトルクTm2tmpを式(5)により計算し(ステップS230)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値としてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する(ステップS240)。このようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定することにより、駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力する要求トルクTr*を、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で制限したトルクとして設定することができる。なお、式(5)は、前述した図10の共線図から容易に導き出すことができる。
【0030】
Tmin=(Win-Tm1*・Nm1)/Nm2 (3)
Tmax=(Wout-Tm1*・Nm1)/Nm2 (4)
Tm2tmp=(Tr*+Tm1*/ρ)/Gr (5)
【0031】
こうしてエンジン22の目標回転数Ne*や目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定すると、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS310)、駆動制御ルーチンを終了する。目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを受信したエンジンECU24は、エンジン22が目標回転数Ne*と目標トルクTe*とによって示される運転ポイントで運転されるようにエンジン22における燃料噴射制御や点火制御などの制御を行なう。また、トルク指令Tm1*,Tm2*を受信したモータECU40は、トルク指令Tm1*でモータMG1が駆動されると共にトルク指令Tm2*でモータMG2が駆動されるようインバータ41,42のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を伴ってエンジン22を効率よく運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができ、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときには通常のバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22を効率よく運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができる。
【0032】
ステップS190で要求パワーPe*が閾値Pstop未満であると判定されたときには、エンジン22の運転を停止すると共に(ステップS260)、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定し(ステップS270)、バッテリ50の入出力制限Win,WoutをモータMG2の回転数Nm2で割ることによりトルク制限Tmin,Tmaxを計算すると共に(ステップS280)、要求トルクTr*を減速ギヤ35のギヤ比Grで除して仮モータトルクTm2tmpを計算し(ステップS290)、計算したトルク制限Tmin,Tmaxで仮モータトルクTm2tmpを制限した値としてモータMG2のトルク指令Tm2*を設定し(ステップS300)、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS310)、駆動制御ルーチンを終了する。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でエンジン22を停止した状態で駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができる。エンジン22の運転を停止している状態のときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図を図11に示す。
【0033】
ステップS180でエンジン22は運転中ではない、即ちエンジン22の運転を停止していると判定されたときには、要求パワーPe*をエンジン22を間欠運転する際のエンジン始動用の閾値Pstartと比較し(ステップS250)、要求パワーPe*が閾値Pstart未満のときには、エンジン22を始動すべきでないと判断して、エンジン22の運転停止を継続すると共に(ステップS260)、上述したエンジン22の運転を停止したときの処理によりモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し(ステップS270〜S300)、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS310)、駆動制御ルーチンを終了する。こうした制御により、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内でエンジン22を停止した状態を継続して駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができる。
【0034】
ステップS250で要求パワーPe*が閾値Pstart以上のときには、エンジン22を始動すると共にエンジン22が運転中のときの処理によりエンジン22の目標回転数Ne*,目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し(ステップS200〜S240)、エンジン22の目標回転数Ne*と目標トルクTe*についてはエンジンECU24に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*についてはモータECU40にそれぞれ送信して(ステップS310)、駆動制御ルーチンを終了する。こうした制御により、エンジン22を始動し、バッテリ50の入出力制限Win,Woutの範囲内で、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を伴ってエンジン22を効率よく運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができ、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときには通常のバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22を効率よく運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができる。
【0035】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20によれば、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を行なうために充電用の充放電要求パワー設定用マップと放電用の充放電要求パワー設定用マップとを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2の制御に用いることにより、積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を伴ってエンジン22を間欠運転しながら駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができ、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときにはバッテリ50の昇温制御を行なうことなく通常用の充放電要求パワー設定用マップを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2の制御に用いることにより、予期しない駆動輪39a,39bの空転によるスリップにより過大な電力によるバッテリ50の放電を抑制しながら、必要なバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22を間欠運転して駆動軸としてのリングギヤ軸32aに要求される要求トルクTr*を出力して走行することができる。これらにより、より適正にバッテリ50の昇温制御を実行することができる。
【0036】
実施例のハイブリッド自動車20では、ブレーキアクチュエータ92を備え、アンチロックブレーキシステム機能(ABS)やトラクションコントロール(TRC),姿勢保持制御(VSC)を行なう車両において、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性をTRCオフスイッチ89aからのTRCオフ信号やセンサ異常信号に基づいて判定するものとしたが、これらに限定されるものではなく、例えば、トラクションコントロール(TRC),姿勢保持制御(VSC)を行なわない車両では走行路面の摩擦係数が閾値より小さいと判定されたときに駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があるとするなど、他の手法を用いて駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性を判定するものとしてもよい。
【0037】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を減速ギヤ35により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図12の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力をリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図12における車輪39c,39dに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0038】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図13の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ232と駆動輪39a,39bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。また、図14の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力の全てを用いて発電する発電機330からの電力によりバッテリ50を充電すると共にバッテリ50や発電機330からの電力を用いて走行用の動力を出力するモータMGを備える、いわゆるシリーズハイブリッド車としても構わない。この他、内燃機関と、この内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と、駆動輪に動力を出力する電動機と、発電機および電動機と電力のやりとりを行なう二次電池などの蓄電装置と、を備えるハイブリッド車であれば、如何なる構成としても構わない。
【0039】
実施例では、ハイブリッド自動車20の形態として説明したが、本発明を自動車以外の車両に適用するものとしてもよく、ハイブリッド車の制御方法の形態としてもよいのは勿論である。
【0040】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「内燃機関」に相当し、モータMG1が「発電機」に相当し、モータMG2が「電動機」に相当し、バッテリ50が「蓄電手段」に相当し、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて要求トルクTr*を設定する図4のバッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンのステップS110の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「要求駆動力設定手段」に相当し、TRCオフスイッチ89aからのTRCオフ信号やセンサ異常信号に基づいて駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性を判定する図4のバッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンのステップS120の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70が「スリップ可能性判定手段」に相当し、バッテリ50の昇温要請がなされているときに、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を行なうために充電用の充放電要求パワー設定用マップと放電用の充放電要求パワー設定用マップとを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22の目標回転数Ne*,目標トルクTe*やモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定し、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときにはバッテリ50の昇温制御を行なわずに通常用の充放電要求パワー設定用マップを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22の目標回転数Ne*,目標トルクTe*やモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する図4のバッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンのステップS120〜S310の処理を実行するハイブリッド用電子制御ユニット70と目標回転数Ne*および目標トルクTe*に基づいてエンジン22を制御するエンジンECU24とトルク指令Tm1*,Tm2*に基づいてモータMG1,MG2を制御するモータECU40とが「制御手段」に相当する。また、ブレーキアクチュエータ92やブレーキホイールシリンダ96a〜96dが「スリップ抑制手段」に相当し、TRCオフスイッチ89aが「スリップ抑制停止スイッチ」に相当する。さらに、車輪速センサ89b,89cが「車輪回転速度検出手段」に相当する。
【0041】
「内燃機関」としては、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関に限定されるものではなく、水素エンジンなど如何なるタイプの内燃機関であっても構わない。「発電機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG1に限定されるものではなく、誘導電動機など、動力を入出力可能なものであれば如何なるタイプの発電機としても構わない。「電動機」としては、同期発電電動機として構成されたモータMG2に限定されるものではなく、誘導電動機など、駆動軸に動力を入出力可能なものであれば如何なるタイプの電動機であっても構わない。「蓄電手段」としては、二次電池としてのバッテリ50に限定されるものではなく、キャパシタなど、発電機と電力のやりとりが可能であれば如何なるものとしても構わない。「要求駆動力設定手段」としては、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて要求トルクTr*を設定するものに限定されるものではなく、アクセル開度Accだけに基づいて要求トルクを設定するものや走行経路が予め設定されているものにあっては走行経路における走行位置に基づいて要求トルクを設定するものなど、駆動軸に要求される要求駆動力を設定するものであれば如何なるものとしても構わない。「スリップ可能性判定手段」としては、TRCオフスイッチ89aからのTRCオフ信号やセンサ異常信号に基づいて駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性を判定するものに限定されるものではなく、駆動輪の空転によるスリップの可能性の有無を判定するものであれば如何なるものとしても構わない。「制御手段」としては、ハイブリッド用電子制御ユニット70とエンジンECU24とモータECU40とからなる組み合わせに限定されるものではなく単一の電子制御ユニットにより構成されるなどとしてもよい。また、「制御手段」としては、バッテリ50の昇温要請がなされているときに、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには積極的なバッテリ50の充放電によるバッテリ50の昇温制御を行なうために充電用の充放電要求パワー設定用マップと放電用の充放電要求パワー設定用マップとを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2を制御し、駆動輪39a,39bの空転によるスリップの可能性があると判定されたときにはバッテリ50の昇温制御を行なわずに通常用の充放電要求パワー設定用マップを用いて充放電要求パワーPb*を設定してエンジン22やモータMG1,MG2を制御するものに限定されるものではなく、蓄電手段の昇温要請がなされたとき、スリップ可能性判定手段により駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには蓄電手段を充電または放電することによって蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って要求駆動力により走行するよう内燃機関と発電機と電動機とを制御し、スリップ可能性判定手段により駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには昇温制御を伴わずに要求駆動力により走行するよう内燃機関と発電機と電動機とを制御するものであれば如何なるものとしても構わない。
【0042】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための最良の形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0043】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、ハイブリッド車の製造産業などに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】電池温度Tbと入出力制限Win,Woutとの関係の一例を示す説明図である。
【図3】バッテリ50の残容量(SOC)と入出力制限Win,Woutの補正係数との関係の一例を示す説明図である。
【図4】実施例のハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるバッテリ昇温要請時駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】要求トルク設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】通常時の充放電要求パワー設定用マップの一例を示す説明図である。
【図7】充電時の充放電要求パワー設定用マップの一例を示す説明図である。
【図8】放電時の充放電要求パワー設定用マップの一例を示す説明図である。
【図9】エンジン22の動作ラインの一例と目標回転数Ne*と目標トルクTe*とを設定する様子の一例を示す説明図である。
【図10】エンジン22を運転している状態のときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図11】エンジン22の運転を停止している状態のときの動力分配統合機構30の回転要素における回転数とトルクとの力学的な関係を示す共線図の一例を示す説明図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図13】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図14】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【符号の説明】
【0046】
20,120,220,320 ハイブリッド自動車、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 動力分配統合機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 キャリア、35 減速ギヤ、39a,39b 駆動輪、39c,39d 車輪、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43,44 回転位置検出センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)、54 電力ライン、37 ギヤ機構、38 デファレンシャルギヤ、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、72 CPU、74 ROM、76 RAM、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、89a TRCオフスイッチ、89b,89c 車輪速センサ、90 ブレーキマスターシリンダ、92 ブレーキアクチュエータ、94 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、96a〜96d ブレーキホイールシリンダ、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ 234 アウターロータ,330 発電機、MG1,MG2,MG モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と、
駆動輪に動力を出力する電動機と、
前記発電機および前記電動機と電力のやりとりを行なう蓄電手段と、
走行に要求される要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段と、
前記駆動輪の空転によるスリップの可能性の有無を判定するスリップ可能性判定手段と、
前記蓄電手段の昇温要請がなされたとき、前記スリップ可能性判定手段により前記駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには前記蓄電手段を充電または放電することによって該蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って前記設定された要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御し、前記スリップ可能性判定手段により前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには前記昇温制御を伴わずに前記設定された要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御する制御手段と、
を備えるハイブリッド車。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド車であって、
前記駆動輪の空転によるスリップを抑制するスリップ抑制手段と、
前記スリップ抑制手段によるスリップの抑制を停止する指示を行なうスリップ抑制停止スイッチと、
を備え、
前記スリップ可能性判定手段は、前記スリップ抑制停止スイッチにより前記スリップ抑制手段によるスリップの抑制の停止が指示されているときに前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定する手段である、
ハイブリッド車。
【請求項3】
請求項1記載のハイブリッド車であって、
前記駆動輪の回転速度を検出する車輪回転速度検出手段を備え、
前記スリップ可能性判定手段は、前記車輪回転速度検出手段に異常が生じているときに前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定する手段である、
ハイブリッド車。
【請求項4】
前記昇温制御は、前記蓄電手段の許容充放電電力の範囲内で充電と放電とを繰り返す制御である請求項1ないし3いずれか一つの請求項に記載のハイブリッド車。
【請求項5】
内燃機関と、前記内燃機関からの動力を用いて発電する発電機と、駆動輪に動力を出力する電動機と、前記発電機および前記電動機と電力のやりとりを行なう蓄電手段と、を備えるハイブリッド車の制御方法であって、
前記蓄電手段の昇温要請がなされたときには、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性の有無を判定し、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性がないと判定されたときには前記蓄電手段を充電または放電することによって該蓄電手段を昇温する昇温制御を伴って走行に要求される要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御し、前記駆動輪の空転によるスリップの可能性があると判定されたときには前記昇温制御を伴わずに前記要求駆動力により走行するよう前記内燃機関と前記発電機と前記電動機とを制御する、
ことを特徴とするハイブリッド車の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−83586(P2009−83586A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253837(P2007−253837)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】