ハイブリッド電気自動車の制御装置
【課題】電動運転モードからエンジン運転モードへの移行時に、駆動輪におけるトルク変動を有効に抑制し得るハイブリッド電気自動車の制御装置を提供する。
【解決手段】自動車10の変速機16は、エンジン12が停止時には、ドライブ・ギアからニュートラル・ギアにシフトする。エンジンが回転上昇する際には、エンジン12のクランクシャフト18は所望の回転速度まで回転させられ、変速機16はニュートラル・ギアから、シフト・スケジュールに基づく適切な変速ギアにシフトする。変速機16の目標入力速度は、電動運転モードからスムーズに離脱すべく、同期速度にオフセット値を加えた速度となるように指令される。
【解決手段】自動車10の変速機16は、エンジン12が停止時には、ドライブ・ギアからニュートラル・ギアにシフトする。エンジンが回転上昇する際には、エンジン12のクランクシャフト18は所望の回転速度まで回転させられ、変速機16はニュートラル・ギアから、シフト・スケジュールに基づく適切な変速ギアにシフトする。変速機16の目標入力速度は、電動運転モードからスムーズに離脱すべく、同期速度にオフセット値を加えた速度となるように指令される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車の制御装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車(HEV)は、内燃機関(エンジン)によって生成された機械的動力及び電気モーターによって生成された電気的動力を用いて動く。HEVは、一般的な自動車に比べて、燃料経済性を改善し得る。HEVにおいて燃料経済性を改善する技術の一つは、エンジンが自動車を駆動する必要がない状況において、エンジンを停止することにある。このような状況においては、電気モータが、自動車を駆動すべく電気的動力を供給する。エンジンは、その後、必要とされるときに始動する。自動車が電気モータによる電気的動力で駆動されているときに、エンジンを始動すると、自動車の動力伝達系に顕著なトルク変動が生じる場合がある。
【0003】
自動車におけるエンジン始動を制御する種々の方法が知られている。特許文献1には、そのようなエンジン始動の制御方法の例が記載されている。特許文献1においては、エンジンがどの程度スムーズに始動する必要があるのかを判定するために、スムーズ度係数が算出される。エンジン動作変数(operating variable)が、選択された車両運転状態に適するように(算出された)スムーズ度係数に基づいて、エンジン始動イベントにおけるエンジン動作のスムーズ度を調節する。
【0004】
また、特許文献2にも、そのようなエンジン始動の制御方法の例が記載されている。特許文献2においては、自動車は、モータ/ジェネレータと、エンジンとモータ/ジェネレータとの間に配置された切断クラッチと、モータ/ジェネレータと駆動輪との間に配置された変速機とを備える。その変速機は、モータ/ジェネレータと駆動輪との間でトルクを伝達すべく、選択的に締結可能な入力クラッチを含む。エンジン始動が要求されるとき、モータ/ジェネレータが作動され、そして多くの車両パラメータに基づいてエンジンの始動モードが決定される。エンジン始動時に駆動輪をエンジンから(トルク伝達に関して)少なくとも部分的に分離すべく、変速機の入力クラッチが半解放される。その後、切断クラッチが締結され、エンジンに燃料が供給されて、エンジンによるトルクが生成される。
【特許文献1】米国特許第7,013,213号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/137,921号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、各々エンジン制御又はクラッチ制御によってトルク変動を抑制しようとするものであるため、その制御応答性が劣り、トルク変動を有効に抑制することが不可能である。本発明は、このような問題に鑑みて、電動運転(モード)から(エンジン運転モードへ)の移行時に、駆動輪におけるトルク変動を有効に抑制し得る(すなわち、スムーズな移行を可能とし得る)ハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ハイブリッド電気自動車を駆動すべく、機械的動力が用いられ得る。クランクシャフトの目標回転速度が設定され、電気機械は、エンジンのクランクシャフトがその目標回転速度にて回転するように作動する。クランクシャフトと駆動輪との間の機械的経路が、それらの間で変速機を介して機械的動力を伝達すべく、選択的に形成される。その後、機械的動力は、自動車を駆動するのに使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ニュートラル状態に移行する、又は、ニュートラル状態から抜け出すときの、ハイブリッド電気自動車(HEV)の電気モータ及び変速機の制御ストラテジーが記載されている。1つの例において、エンジンの運転効率が悪い状態のときにはエンジンが停止される。電動アクスル駆動装置が、(前輪及び/又は後輪の)アクスルに連結され、トルクを直接的に駆動輪に供給し得る。エンジンが停止するときに、電動運転(エンジンを停止した上で、電動アクスル駆動装置のみによって自動車を駆動)しているときに回転損失及びポンプ損失が生じないように、変速機は、ドライブ・ギア(変速ギア)からニュートラル・ギアに移行(シフト)することになる。また、エンジンのクランクシャフトは所望の回転速度に回転させられると共に、変速機はニュートラル・ギアからシフト・スケジュールに基づく適切な変速ギアに移行(シフト)することになる。変速機の目標入力回転速度は、同期速度にオフセット値を加えた速度に指令される。このオフセット値は、プラスの値となる場合も、マイナスの値となる場合もある。これによって、電動運転から(エンジン運転へ)のスムーズな移行(離脱)を確実に行うことが可能になる。
【0008】
図1に示す例示的な後輪駆動方式のHEVシステム10は、エンジン12と、クランク一体型のスタータ/ジェネレータ(CISG)14と、変速機16と、制御器34とを備えている。それ以外の車両構成も実施可能である。一例として、前輪駆動方式のHEVシステムが、エンジンと、ベルト一体型のスタータ/ジェネレータと、変速機とを含む場合もある。
【0009】
エンジン12は、クランクシャフト18を有している。CISG14は、クランクシャフト18に機械的に連結される。制御器34は、詳しくは後述するが、自動車を駆動するのに電気的動力を使用し、且つ、自動車を駆動するのに機械的動力を使用すべく、クランクシャフト18の目標回転速度を設定するように構成されている。
【0010】
また、HEVシステム10は、電動リア・アクスル駆動装置(ERAD)20と、一対の駆動輪22及び24とを備えている。ERAD20は、自動車を電動運転(エンジン12を停止した上で、ERAD20のみによって自動車を駆動)しているとき、及び、自動車を加速運転しているときに、トルクを駆動輪22及び24に供給する。また、ERAD20は、回生制動を行ない、駆動輪22及び24からエネルギーを回収する。
【0011】
変速機16は、変速機入力部25と、トルク・コンバータ(不図示)と、クラッチ入力軸26と、出力軸28とを含んでいる。クラッチ入力軸26は、トルク・コンバータ、変速機入力部25及びCISG14を介して、エンジン12に機械的に連結される。出力軸28は、ERAD20に機械的に連結される。また、変速機16は、第1クラッチ30と第2クラッチ32とを含む。クラッチ30及び32は、選択的に締結され、変速機16の変速状態を変更する。一例として、クラッチ30及び32が締結解除されて、変速機16をニュートラル・ギアに変速する場合がある。別の例として、クラッチ30及び32は(協働して、又は、単独で)締結され、変速機16を所望の変速ギアにシフトする場合もある。他の例においては、変速機16は、単一のクラッチを含む場合があり、或いは、2つ以上のクラッチを含む場合もある。
【0012】
1つ又は複数の制御器34(例えば自動車システム制御器)が、エンジン12、CISG14、変速機16及びERAD20と通信し、それらの動作を制御する。一例として、制御器34が、変速機16のクラッチ30及び32に、作動コマンドを送信する場合がある。別の例として、制御器34が、ERAD20のトルクを低減させると共にエンジンのトルクを増大させるコマンドを送信する場合もある。さらに別の例として、制御器34が、車速、変速機16の所望変速ギア及びオフセット値に基づいて、クランクシャフト18の目標回転速度を決定して、ERAD20からエンジン12への動力源のスムーズな移行を達成する場合もある。
【0013】
<発進時のエンジンの回転始動>
ERAD20は、電気的動力を提供し得る。変速機16は、自動車を電動運転しているときには、それに伴って生じる回転損失及びポンプ損失を回避すべく、ニュートラル・ギア(すなわち、ニュートラル状態)に設定されている。運転者がアクセル・ペダル(不図示)を踏んだときには、エンジン12が運転者の動力要求を満たすのに必要とされるならば、エンジンの回転が始動され、エンジンの回転が上昇することになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望変速ギアにシフトすることが必要となる。自動車は、電動運転からのスムーズな移行を確実に行なうためには、略同一の加速度で加速し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもプラス方向にオフセットされる。
【0014】
図2〜5を参照して、エンジン12を始動した後、ERAD20からエンジン12に駆動輪トルクを伝達するストラテジー制御について説明する。発進時のエンジンの回転始動イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。T1においては、自動車は、運転者の動力要求に応じて、僅かに加速している(図5参照)。変速機16はニュートラル・ギアとされていて、これにより、クラッチ入力軸26の回転速度は実質的にゼロとなっている(図2参照)。変速機16及びクラッチ30,32に油圧を供給する油圧ライン(不図示)における圧力は低い(図3参照)。自動車がERAD20によって電気的に駆動されるため、CISG14、エンジン12及び出力軸28から供給されるトルクは低いものの、ERAD20から供給されるトルクは高い(図4参照)。
【0015】
T2においては、運転者による動力要求が、ERAD20及び/又はバッテリ(不図示)の動力限界値を上回る。CISG14は、エンジン12を速度制御しながら始動するように指令される(図4参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失、及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図2参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図3参照)。
【0016】
T3においては、エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクは、T3の初期段階においてCISG14のトルク値まで増加する(図4参照)。エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクがある変化率で増大する。CISG14は速度制御されているので、エンジンのトルクが増大する結果として、CISG14のトルクは(エンジン12のトルクの変化率と)同様の変化率で低下する。そのため、エンジン始動は、CISGのトルク低下によって判定され得る。エンジン始動が判定されると、変速機入力部25は速度制御され続け、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度が変速機16の同期速度に対して正のオフセット値を加えた速度となるように指令される。同期速度は、アクセル・ペダルの入力値、車速及び変速機16の変速比に基づいて決定される。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな加速が確実に達成され得る(図2参照)。正のオフセット値は、クラッチ30,32が締結するときに、動力伝達系におけるトルク反転を防止するように設定される。そのオフセット値は、自動車の設計検討に応じて変更される場合がある。
【0017】
T4においては、クラッチ30,32がロックされ、ニュートラル状態から締結状態への移行が完了する(図3参照)。クラッチ30,32の作動は、指令された変速ギアについてのシフト・スケジュールから判定される(図3参照)。エンジンのトルクは、変速機16が完全に締結されるので、増加し得る(図4参照)。エンジンのトルクは、駆動輪22,24のトルクを一定に維持するために、ERADのトルクの低減と略等しい変化率で増大する。
【0018】
<減速時のエンジンの回転上昇>
惰性運転等の減速状態においては、エンジン12は停止され、回生制動によってエネルギーが回収され得る。ただし、バッテリ(不図示)の充電状態が高い場合には、バッテリの過充電を防止すべく、エンジンの回転を上昇させることになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望の変速ギアにシフトする必要がある。自動車は、エンジンの回転上昇へのスムーズな移行を確実に行なうために、略同一の減速度で減速し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもマイナス方向にオフセットされる。
【0019】
図6〜図9を参照して、回生制動中にエンジン12の回転を上昇させるストラテジー制御について説明する。減速時のエンジンの回転上昇イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。
【0020】
T1においては、自動車は減速し、ERAD20は回生制動モードとなる(図9参照)。その結果として、ERADのトルクはマイナスの値となる(図8参照)。
【0021】
T2においては、CISG14は、エンジン12の回転を速度制御しながら上昇させるように指令される(図8参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図6参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図7参照)。
【0022】
T3においては、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな減速が確実に達成され得る(図6参照)。負のオフセット値は、クラッチ30,32の締結時における慣性効果に打ち勝つように設定される。CISG14への速度指令の(増加から減少への)変化のために、CISG14のトルクは低下する。
【0023】
T4においては、クラッチ30,32がロックされ、ニュートラル状態から締結状態への移行が完了する(図7参照)。クラッチ30,32の作動は、指令された変速ギアについてのシフト・スケジュールから判定される(図7参照)。第2クラッチ32が締結した後に、CISG14はトルク制御に切換えられ、ERAD20のトルクがゼロに上昇するとき(すなわち、ERAD20が回生制動モードを終了するとき)に、CISGのトルクは略ゼロに維持される。
【0024】
<道路負荷に起因するエンジンの回転始動>
ERAD20は、道路負荷が存在しているときには、電気的動力を提供し得る。変速機16は、自動車を電動運転しているときには、それに伴って生じる回転損失及びポンプ損失を回避すべく、ニュートラル・ギア(すなわちニュートラル状態)に設定されている。運転者がアクセル・ペダル(不図示)を軽く且つ絶えず踏んだときには、エンジン12が運転者の動力要求を満たすのに必要とされるならば、エンジンの回転が始動され、エンジンの回転が上昇することになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望変速ギアにシフトすることが必要となる。自動車がエンジン始動前に一定速度で走行しているならば、自動車は、電動運転からのスムーズな移行を確実に行なうためには、ERAD20からエンジン12に動力源を変更するときに、一定速度で走行し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもプラス方向にオフセットされる。その移行の後に、アクセル・ペダルの入力値が依然として一定であるならば、エンジンのトルクは、電動運転時と同一の駆動輪トルクを維持するように制御されることになる。
【0025】
図10〜13を参照して、エンジン12の回転を始動させ且つその回転を上昇させ、その後に駆動輪へのトルク源をERAD20からエンジン12へ移行するストラテジー制御を説明する。道路負荷に起因するエンジンの回転始動イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。T1においては、自動車は一定のアクセル・ペダル入力のもとで走行しており、ERAD20はトルクを駆動輪22,24に供給している(図12参照)。
【0026】
T2においては、エンジン12は、例えばバッテリ(不図示)の低い充電状態のために、又は、他の動力要求によって、始動するように指令される。CISG14は、エンジン12を速度制御しながら始動するように指令される(図12参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図10参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図11参照)。
【0027】
T3においては、エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクは、T3の初期段階においてCISG14のトルク値まで増加する(図12参照)。エンジン始動は、速度制御されているCISG14のトルク低下によって判定され得る。エンジン始動が判定されると、変速機入力部25は速度制御され続け、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度が変速機16の同期速度に対して正のオフセット値を加えた速度となるように指令される。同期速度は、アクセル・ペダルの入力値、車速及び変速機16の変速比に基づいて決定される。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな加速が確実に達成され得る(図10参照)。正のオフセット値は、クラッチ30,32が締結するときに、動力伝達系におけるトルク反転を防止するように設定される。
【0028】
T4においては、エンジンのトルクは上昇させられ、CISG14によって生成されるマイナス方向の充電トルクを相殺する。エンジンのトルク及び充電トルクは、変速機16からの出力トルクが一定に維持されるように調整される。
【0029】
<エンジンの回転上昇のストラテジー制御>
制御器34は、図14に示されるように、ブロック50において、エンジンの回転を上昇させる要求を受ける。この要求は、パワートレイン制御モジュールによって送信され得ると共に、バッテリの充電状態及び運転者による動力要求のような要因に基づき得る。ブロック52において、クランクシャフトの目標回転速度が設定される。その目標回転速度は、車速、所望の変速ギア及びオフセット値等の要因に基づき得る。例えば、変速機の出力トルクが正の値であるならば、オフセット値も正の値である。その一方で、変速機の出力トルクが負の値であるならば、オフセット値も負の値である。ステップ54において、変速機の第1クラッチを作動させて、変速機がトルクを伝達する準備を行なう。ブロック56において、エンジン速度が、目標回転速度を達成するように制御される。ブロック58において、変速機の第2クラッチを作動させて、変速機がトルクを伝達する準備を更に行なう。ブロック60において、電動運転からの移行(離脱)が実行される。
【0030】
図15に示されるように、ブロック62において、CISGがトルク制御にて調整される。ブロック64において、駆動輪トルクを一定に維持するように、(ERADのトルクからエンジンのトルクへの)動力源の移行が調整される。
【0031】
本発明の実施形態を示し、記述してきたが、これらの実施形態は、本発明の実行可能な形態の全てを示し、そして記述することを意図したものではない。また、明細書中で使用される単語は、限定というよりも寧ろ説明するためのものであり、本明細書の技術思想と範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされ得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る例示的な後輪駆動方式のハイブリッド電気自動車の概略図である。
【図2】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図3】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図4】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図5】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図6】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図7】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図8】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図9】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図10】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図11】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図12】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図13】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図14】本発明の実施形態に係るハイブリッド電気自動車において、エンジンの回転上昇を行なう制御ストラテジーのフローチャートである。
【図15】本発明の実施形態に係る電動運転からの移行を行なう制御ストラテジーのフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
10 HEVシステム
12 エンジン
14 CISG
16 変速機
18 クランクシャフト
20 ERAD
22、24 駆動輪
30 第1クラッチ
32 第2クラッチ
34 制御器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド電気自動車の制御装置に関連する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド電気自動車(HEV)は、内燃機関(エンジン)によって生成された機械的動力及び電気モーターによって生成された電気的動力を用いて動く。HEVは、一般的な自動車に比べて、燃料経済性を改善し得る。HEVにおいて燃料経済性を改善する技術の一つは、エンジンが自動車を駆動する必要がない状況において、エンジンを停止することにある。このような状況においては、電気モータが、自動車を駆動すべく電気的動力を供給する。エンジンは、その後、必要とされるときに始動する。自動車が電気モータによる電気的動力で駆動されているときに、エンジンを始動すると、自動車の動力伝達系に顕著なトルク変動が生じる場合がある。
【0003】
自動車におけるエンジン始動を制御する種々の方法が知られている。特許文献1には、そのようなエンジン始動の制御方法の例が記載されている。特許文献1においては、エンジンがどの程度スムーズに始動する必要があるのかを判定するために、スムーズ度係数が算出される。エンジン動作変数(operating variable)が、選択された車両運転状態に適するように(算出された)スムーズ度係数に基づいて、エンジン始動イベントにおけるエンジン動作のスムーズ度を調節する。
【0004】
また、特許文献2にも、そのようなエンジン始動の制御方法の例が記載されている。特許文献2においては、自動車は、モータ/ジェネレータと、エンジンとモータ/ジェネレータとの間に配置された切断クラッチと、モータ/ジェネレータと駆動輪との間に配置された変速機とを備える。その変速機は、モータ/ジェネレータと駆動輪との間でトルクを伝達すべく、選択的に締結可能な入力クラッチを含む。エンジン始動が要求されるとき、モータ/ジェネレータが作動され、そして多くの車両パラメータに基づいてエンジンの始動モードが決定される。エンジン始動時に駆動輪をエンジンから(トルク伝達に関して)少なくとも部分的に分離すべく、変速機の入力クラッチが半解放される。その後、切断クラッチが締結され、エンジンに燃料が供給されて、エンジンによるトルクが生成される。
【特許文献1】米国特許第7,013,213号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/137,921号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1及び特許文献2は、各々エンジン制御又はクラッチ制御によってトルク変動を抑制しようとするものであるため、その制御応答性が劣り、トルク変動を有効に抑制することが不可能である。本発明は、このような問題に鑑みて、電動運転(モード)から(エンジン運転モードへ)の移行時に、駆動輪におけるトルク変動を有効に抑制し得る(すなわち、スムーズな移行を可能とし得る)ハイブリッド電気自動車の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ハイブリッド電気自動車を駆動すべく、機械的動力が用いられ得る。クランクシャフトの目標回転速度が設定され、電気機械は、エンジンのクランクシャフトがその目標回転速度にて回転するように作動する。クランクシャフトと駆動輪との間の機械的経路が、それらの間で変速機を介して機械的動力を伝達すべく、選択的に形成される。その後、機械的動力は、自動車を駆動するのに使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
ニュートラル状態に移行する、又は、ニュートラル状態から抜け出すときの、ハイブリッド電気自動車(HEV)の電気モータ及び変速機の制御ストラテジーが記載されている。1つの例において、エンジンの運転効率が悪い状態のときにはエンジンが停止される。電動アクスル駆動装置が、(前輪及び/又は後輪の)アクスルに連結され、トルクを直接的に駆動輪に供給し得る。エンジンが停止するときに、電動運転(エンジンを停止した上で、電動アクスル駆動装置のみによって自動車を駆動)しているときに回転損失及びポンプ損失が生じないように、変速機は、ドライブ・ギア(変速ギア)からニュートラル・ギアに移行(シフト)することになる。また、エンジンのクランクシャフトは所望の回転速度に回転させられると共に、変速機はニュートラル・ギアからシフト・スケジュールに基づく適切な変速ギアに移行(シフト)することになる。変速機の目標入力回転速度は、同期速度にオフセット値を加えた速度に指令される。このオフセット値は、プラスの値となる場合も、マイナスの値となる場合もある。これによって、電動運転から(エンジン運転へ)のスムーズな移行(離脱)を確実に行うことが可能になる。
【0008】
図1に示す例示的な後輪駆動方式のHEVシステム10は、エンジン12と、クランク一体型のスタータ/ジェネレータ(CISG)14と、変速機16と、制御器34とを備えている。それ以外の車両構成も実施可能である。一例として、前輪駆動方式のHEVシステムが、エンジンと、ベルト一体型のスタータ/ジェネレータと、変速機とを含む場合もある。
【0009】
エンジン12は、クランクシャフト18を有している。CISG14は、クランクシャフト18に機械的に連結される。制御器34は、詳しくは後述するが、自動車を駆動するのに電気的動力を使用し、且つ、自動車を駆動するのに機械的動力を使用すべく、クランクシャフト18の目標回転速度を設定するように構成されている。
【0010】
また、HEVシステム10は、電動リア・アクスル駆動装置(ERAD)20と、一対の駆動輪22及び24とを備えている。ERAD20は、自動車を電動運転(エンジン12を停止した上で、ERAD20のみによって自動車を駆動)しているとき、及び、自動車を加速運転しているときに、トルクを駆動輪22及び24に供給する。また、ERAD20は、回生制動を行ない、駆動輪22及び24からエネルギーを回収する。
【0011】
変速機16は、変速機入力部25と、トルク・コンバータ(不図示)と、クラッチ入力軸26と、出力軸28とを含んでいる。クラッチ入力軸26は、トルク・コンバータ、変速機入力部25及びCISG14を介して、エンジン12に機械的に連結される。出力軸28は、ERAD20に機械的に連結される。また、変速機16は、第1クラッチ30と第2クラッチ32とを含む。クラッチ30及び32は、選択的に締結され、変速機16の変速状態を変更する。一例として、クラッチ30及び32が締結解除されて、変速機16をニュートラル・ギアに変速する場合がある。別の例として、クラッチ30及び32は(協働して、又は、単独で)締結され、変速機16を所望の変速ギアにシフトする場合もある。他の例においては、変速機16は、単一のクラッチを含む場合があり、或いは、2つ以上のクラッチを含む場合もある。
【0012】
1つ又は複数の制御器34(例えば自動車システム制御器)が、エンジン12、CISG14、変速機16及びERAD20と通信し、それらの動作を制御する。一例として、制御器34が、変速機16のクラッチ30及び32に、作動コマンドを送信する場合がある。別の例として、制御器34が、ERAD20のトルクを低減させると共にエンジンのトルクを増大させるコマンドを送信する場合もある。さらに別の例として、制御器34が、車速、変速機16の所望変速ギア及びオフセット値に基づいて、クランクシャフト18の目標回転速度を決定して、ERAD20からエンジン12への動力源のスムーズな移行を達成する場合もある。
【0013】
<発進時のエンジンの回転始動>
ERAD20は、電気的動力を提供し得る。変速機16は、自動車を電動運転しているときには、それに伴って生じる回転損失及びポンプ損失を回避すべく、ニュートラル・ギア(すなわち、ニュートラル状態)に設定されている。運転者がアクセル・ペダル(不図示)を踏んだときには、エンジン12が運転者の動力要求を満たすのに必要とされるならば、エンジンの回転が始動され、エンジンの回転が上昇することになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望変速ギアにシフトすることが必要となる。自動車は、電動運転からのスムーズな移行を確実に行なうためには、略同一の加速度で加速し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもプラス方向にオフセットされる。
【0014】
図2〜5を参照して、エンジン12を始動した後、ERAD20からエンジン12に駆動輪トルクを伝達するストラテジー制御について説明する。発進時のエンジンの回転始動イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。T1においては、自動車は、運転者の動力要求に応じて、僅かに加速している(図5参照)。変速機16はニュートラル・ギアとされていて、これにより、クラッチ入力軸26の回転速度は実質的にゼロとなっている(図2参照)。変速機16及びクラッチ30,32に油圧を供給する油圧ライン(不図示)における圧力は低い(図3参照)。自動車がERAD20によって電気的に駆動されるため、CISG14、エンジン12及び出力軸28から供給されるトルクは低いものの、ERAD20から供給されるトルクは高い(図4参照)。
【0015】
T2においては、運転者による動力要求が、ERAD20及び/又はバッテリ(不図示)の動力限界値を上回る。CISG14は、エンジン12を速度制御しながら始動するように指令される(図4参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失、及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図2参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図3参照)。
【0016】
T3においては、エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクは、T3の初期段階においてCISG14のトルク値まで増加する(図4参照)。エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクがある変化率で増大する。CISG14は速度制御されているので、エンジンのトルクが増大する結果として、CISG14のトルクは(エンジン12のトルクの変化率と)同様の変化率で低下する。そのため、エンジン始動は、CISGのトルク低下によって判定され得る。エンジン始動が判定されると、変速機入力部25は速度制御され続け、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度が変速機16の同期速度に対して正のオフセット値を加えた速度となるように指令される。同期速度は、アクセル・ペダルの入力値、車速及び変速機16の変速比に基づいて決定される。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな加速が確実に達成され得る(図2参照)。正のオフセット値は、クラッチ30,32が締結するときに、動力伝達系におけるトルク反転を防止するように設定される。そのオフセット値は、自動車の設計検討に応じて変更される場合がある。
【0017】
T4においては、クラッチ30,32がロックされ、ニュートラル状態から締結状態への移行が完了する(図3参照)。クラッチ30,32の作動は、指令された変速ギアについてのシフト・スケジュールから判定される(図3参照)。エンジンのトルクは、変速機16が完全に締結されるので、増加し得る(図4参照)。エンジンのトルクは、駆動輪22,24のトルクを一定に維持するために、ERADのトルクの低減と略等しい変化率で増大する。
【0018】
<減速時のエンジンの回転上昇>
惰性運転等の減速状態においては、エンジン12は停止され、回生制動によってエネルギーが回収され得る。ただし、バッテリ(不図示)の充電状態が高い場合には、バッテリの過充電を防止すべく、エンジンの回転を上昇させることになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望の変速ギアにシフトする必要がある。自動車は、エンジンの回転上昇へのスムーズな移行を確実に行なうために、略同一の減速度で減速し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもマイナス方向にオフセットされる。
【0019】
図6〜図9を参照して、回生制動中にエンジン12の回転を上昇させるストラテジー制御について説明する。減速時のエンジンの回転上昇イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。
【0020】
T1においては、自動車は減速し、ERAD20は回生制動モードとなる(図9参照)。その結果として、ERADのトルクはマイナスの値となる(図8参照)。
【0021】
T2においては、CISG14は、エンジン12の回転を速度制御しながら上昇させるように指令される(図8参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図6参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図7参照)。
【0022】
T3においては、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな減速が確実に達成され得る(図6参照)。負のオフセット値は、クラッチ30,32の締結時における慣性効果に打ち勝つように設定される。CISG14への速度指令の(増加から減少への)変化のために、CISG14のトルクは低下する。
【0023】
T4においては、クラッチ30,32がロックされ、ニュートラル状態から締結状態への移行が完了する(図7参照)。クラッチ30,32の作動は、指令された変速ギアについてのシフト・スケジュールから判定される(図7参照)。第2クラッチ32が締結した後に、CISG14はトルク制御に切換えられ、ERAD20のトルクがゼロに上昇するとき(すなわち、ERAD20が回生制動モードを終了するとき)に、CISGのトルクは略ゼロに維持される。
【0024】
<道路負荷に起因するエンジンの回転始動>
ERAD20は、道路負荷が存在しているときには、電気的動力を提供し得る。変速機16は、自動車を電動運転しているときには、それに伴って生じる回転損失及びポンプ損失を回避すべく、ニュートラル・ギア(すなわちニュートラル状態)に設定されている。運転者がアクセル・ペダル(不図示)を軽く且つ絶えず踏んだときには、エンジン12が運転者の動力要求を満たすのに必要とされるならば、エンジンの回転が始動され、エンジンの回転が上昇することになる。このとき、変速機16は、ニュートラル・ギアから所望変速ギアにシフトすることが必要となる。自動車がエンジン始動前に一定速度で走行しているならば、自動車は、電動運転からのスムーズな移行を確実に行なうためには、ERAD20からエンジン12に動力源を変更するときに、一定速度で走行し続ける必要がある。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の目標回転速度は、このスムーズな移行を達成すべく、同期速度よりもプラス方向にオフセットされる。その移行の後に、アクセル・ペダルの入力値が依然として一定であるならば、エンジンのトルクは、電動運転時と同一の駆動輪トルクを維持するように制御されることになる。
【0025】
図10〜13を参照して、エンジン12の回転を始動させ且つその回転を上昇させ、その後に駆動輪へのトルク源をERAD20からエンジン12へ移行するストラテジー制御を説明する。道路負荷に起因するエンジンの回転始動イベントは、四つの時間間隔T1、T2、T3、及びT4に区分されている。T1においては、自動車は一定のアクセル・ペダル入力のもとで走行しており、ERAD20はトルクを駆動輪22,24に供給している(図12参照)。
【0026】
T2においては、エンジン12は、例えばバッテリ(不図示)の低い充電状態のために、又は、他の動力要求によって、始動するように指令される。CISG14は、エンジン12を速度制御しながら始動するように指令される(図12参照)。CISG14は、エンジン12における静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失に打ち勝つのに十分なトルクを生成する。クランクシャフト18は、回転しているものの、如何なるプラス方向のトルクも伝達していないため、エンジン12のトルクは、これらの静止摩擦力、慣性力、熱損失及びポンプ損失によって低下する。クラッチ入力軸26の回転速度は、増加し始める(図10参照)。変速機16及び/又は補助オイル・ポンプ(不図示)に入力されるCISG14の回転によって、変速ギアの締結に備えて第1クラッチ30の作動を開始すべく、油圧ラインに圧力が供給される(図11参照)。
【0027】
T3においては、エンジン12はトルク制御され、エンジンのトルクは、T3の初期段階においてCISG14のトルク値まで増加する(図12参照)。エンジン始動は、速度制御されているCISG14のトルク低下によって判定され得る。エンジン始動が判定されると、変速機入力部25は速度制御され続け、変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度が変速機16の同期速度に対して正のオフセット値を加えた速度となるように指令される。同期速度は、アクセル・ペダルの入力値、車速及び変速機16の変速比に基づいて決定される。変速機入力部25(及びクラッチ入力軸26)の回転速度を、目標変速ギアにおける同期速度に一致させることによって、ニュートラル・ギアから該目標変速ギアにシフトするときに、自動車のスムーズな加速が確実に達成され得る(図10参照)。正のオフセット値は、クラッチ30,32が締結するときに、動力伝達系におけるトルク反転を防止するように設定される。
【0028】
T4においては、エンジンのトルクは上昇させられ、CISG14によって生成されるマイナス方向の充電トルクを相殺する。エンジンのトルク及び充電トルクは、変速機16からの出力トルクが一定に維持されるように調整される。
【0029】
<エンジンの回転上昇のストラテジー制御>
制御器34は、図14に示されるように、ブロック50において、エンジンの回転を上昇させる要求を受ける。この要求は、パワートレイン制御モジュールによって送信され得ると共に、バッテリの充電状態及び運転者による動力要求のような要因に基づき得る。ブロック52において、クランクシャフトの目標回転速度が設定される。その目標回転速度は、車速、所望の変速ギア及びオフセット値等の要因に基づき得る。例えば、変速機の出力トルクが正の値であるならば、オフセット値も正の値である。その一方で、変速機の出力トルクが負の値であるならば、オフセット値も負の値である。ステップ54において、変速機の第1クラッチを作動させて、変速機がトルクを伝達する準備を行なう。ブロック56において、エンジン速度が、目標回転速度を達成するように制御される。ブロック58において、変速機の第2クラッチを作動させて、変速機がトルクを伝達する準備を更に行なう。ブロック60において、電動運転からの移行(離脱)が実行される。
【0030】
図15に示されるように、ブロック62において、CISGがトルク制御にて調整される。ブロック64において、駆動輪トルクを一定に維持するように、(ERADのトルクからエンジンのトルクへの)動力源の移行が調整される。
【0031】
本発明の実施形態を示し、記述してきたが、これらの実施形態は、本発明の実行可能な形態の全てを示し、そして記述することを意図したものではない。また、明細書中で使用される単語は、限定というよりも寧ろ説明するためのものであり、本明細書の技術思想と範囲から逸脱することなく、種々の変更がなされ得ることを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る例示的な後輪駆動方式のハイブリッド電気自動車の概略図である。
【図2】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図3】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図4】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図5】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示す例示的なプロット図である。
【図6】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図7】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図8】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図9】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示す別の例示的なプロット図である。
【図10】図1の自動車に関する、エンジン速度及びクラッチ入力軸の回転速度と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図11】図1の自動車に関する、油圧ラインの圧力及びクラッチの圧力と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図12】図1の自動車に関する、ERADのトルク、CISGのトルク、エンジンのトルク及び出力軸のトルクと、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図13】図1の自動車に関する、車速と、時間との関係を示すさらに別の例示的なプロット図である。
【図14】本発明の実施形態に係るハイブリッド電気自動車において、エンジンの回転上昇を行なう制御ストラテジーのフローチャートである。
【図15】本発明の実施形態に係る電動運転からの移行を行なう制御ストラテジーのフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
10 HEVシステム
12 エンジン
14 CISG
16 変速機
18 クランクシャフト
20 ERAD
22、24 駆動輪
30 第1クラッチ
32 第2クラッチ
34 制御器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪及びクランクシャフトを有するエンジンを備えたハイブリッド電気自動車の制御システムであって、
機械的動力を生成又は消費すべく、上記クランクシャフトを目標回転速度にて回転させるように構成された第1電気機械と、
上記クランクシャフトと上記駆動輪との間の機械的経路を選択的に形成し、該クランクシャフトと該駆動輪との間で該機械的経路を介して機械的動力を伝達するように構成された変速機と、
自動車を駆動するための電気的動力を生成するように構成された第2電気機械と、
上記目標回転速度を設定し、上記自動車を駆動するのに上記電気的動力を使用し、また、上記自動車を駆動するのに上記機械的動力を使用するように構成された少なくとも一つの制御器とを備える制御システム。
【請求項2】
上記変速機は、ニュートラル状態から締結状態に選択的に移行することによって、上記クランクシャフトと上記駆動輪との間の機械的経路を選択的に形成する、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
上記変速機は、クラッチを有すると共に、ニュートラル状態から該クラッチが作動している締結状態に選択的に移行される、請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
上記機械的動力は、上記クランクシャフトから上記駆動輪に伝達される、請求項1乃至3の何れかに記載の制御システム。
【請求項5】
上記機械的動力は、上記駆動輪から上記クランクシャフトに伝達される、請求項1乃至4の何れかに記載の制御システム。
【請求項6】
上記少なくとも一つの制御器は、上記自動車を駆動するのに使用される上記電気的動力を低減させるように構成されている、請求項1乃至5の何れかに記載の制御システム。
【請求項7】
上記少なくとも一つの制御器は、上記自動車を駆動するのに使用される上記電気的動力を第1変化率で低減させ、上記自動車を駆動するのに使用される上記機械的動力を第2変化率で増大させるように構成されており、
上記第1変化率は、上記第2変化率と略等しい、請求項1乃至6の何れかに記載の制御システム。
【請求項8】
上記目標回転速度は、車速、変速機における所望変速ギア及びオフセット値に基づいている、請求項1乃至7の何れかに記載の制御システム。
【請求項9】
上記オフセット値は、機械的動力が上記クランクシャフトから上記駆動輪に伝達されるか、又は、機械的動力が該駆動輪から該クランクシャフトに伝達されるかに基づいている、請求項8に記載の制御システム。
【請求項1】
駆動輪及びクランクシャフトを有するエンジンを備えたハイブリッド電気自動車の制御システムであって、
機械的動力を生成又は消費すべく、上記クランクシャフトを目標回転速度にて回転させるように構成された第1電気機械と、
上記クランクシャフトと上記駆動輪との間の機械的経路を選択的に形成し、該クランクシャフトと該駆動輪との間で該機械的経路を介して機械的動力を伝達するように構成された変速機と、
自動車を駆動するための電気的動力を生成するように構成された第2電気機械と、
上記目標回転速度を設定し、上記自動車を駆動するのに上記電気的動力を使用し、また、上記自動車を駆動するのに上記機械的動力を使用するように構成された少なくとも一つの制御器とを備える制御システム。
【請求項2】
上記変速機は、ニュートラル状態から締結状態に選択的に移行することによって、上記クランクシャフトと上記駆動輪との間の機械的経路を選択的に形成する、請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
上記変速機は、クラッチを有すると共に、ニュートラル状態から該クラッチが作動している締結状態に選択的に移行される、請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
上記機械的動力は、上記クランクシャフトから上記駆動輪に伝達される、請求項1乃至3の何れかに記載の制御システム。
【請求項5】
上記機械的動力は、上記駆動輪から上記クランクシャフトに伝達される、請求項1乃至4の何れかに記載の制御システム。
【請求項6】
上記少なくとも一つの制御器は、上記自動車を駆動するのに使用される上記電気的動力を低減させるように構成されている、請求項1乃至5の何れかに記載の制御システム。
【請求項7】
上記少なくとも一つの制御器は、上記自動車を駆動するのに使用される上記電気的動力を第1変化率で低減させ、上記自動車を駆動するのに使用される上記機械的動力を第2変化率で増大させるように構成されており、
上記第1変化率は、上記第2変化率と略等しい、請求項1乃至6の何れかに記載の制御システム。
【請求項8】
上記目標回転速度は、車速、変速機における所望変速ギア及びオフセット値に基づいている、請求項1乃至7の何れかに記載の制御システム。
【請求項9】
上記オフセット値は、機械的動力が上記クランクシャフトから上記駆動輪に伝達されるか、又は、機械的動力が該駆動輪から該クランクシャフトに伝達されるかに基づいている、請求項8に記載の制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−120189(P2009−120189A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289441(P2008−289441)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】
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