説明

ハブ一体軸、これを備えた流体動圧軸受装置、及びスピンドルモータ

【課題】流体動圧軸受装置に組み込まれるロータハブの材料の歩留まり及び生産性を高める。
【解決手段】ハブ一体軸9のハブ部3を焼結金属で形成することにより、ハブ部3を削り出しで形成する場合のように多量の切削屑が生じないため、ハブ部3の材料の歩留まり及び生産性が高められる。また、ハブ部3を焼結金属で形成することで、鍛造加工と比べて高い寸法精度で仕上げることができるため、後加工による加工量が低減され、生産性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブ一体軸、これを備えた流体動圧軸受装置、及びスピンドルモータに関する。
【背景技術】
【0002】
流体動圧軸受装置は、軸受部材の内周面と軸部の外周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑油の動圧作用により、軸部を相対回転自在に支持するものである。流体動圧軸受装置は、優れた回転精度および静粛性を有するため、例えば、各種ディスク駆動装置(HDDの磁気ディスク駆動装置や、CD−ROM等の光ディスク駆動装置等)のスピンドルモータ用、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ用、あるいはプロジェクタのカラーホイールモータ用として好適に使用されている。
【0003】
例えばHDD用スピンドルモータや光ディスク用スピンドルモータに組み込まれる流体動圧軸受装置では、軸部材に固定されたロータハブに回転体(磁気ディスクあるいは光ディスク)が搭載される。このようなロータハブは、棒材からの削り出し(例えば特許文献1参照)や、鍛造加工(例えば特許文献2参照)で製作されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−226523号公報
【特許文献2】特開2009−264571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ロータハブを削り出しで作ると、多量の切り屑が発生するため材料の歩留まりが低くなり、加工時間も長くかかってしまう。また、加工量が多いために工具交換頻度も高くなり、設備停止時間が長くなって生産性が低下すると共に工具費用が高くなる。
【0006】
これに対し、ロータハブを鍛造で製作すれば、切り屑が発生しないため、材料の歩留まりは高められる。しかし、ロータハブは、軸部から外径に突出し、且つ、ディスク等の回転体が搭載される回転体搭載面を有する複雑な形状を成しているため、鍛造で精度良く成形するのは非常に困難である。このため、鍛造を多数回に分けて行う必要があり、加工時間が長くなる。また、ロータハブの回転体搭載面は回転体の回転精度に影響するため、高い寸法精度が要求されるが、鍛造による成形精度はそれ程高くないため、後加工による加工量が多くなる。
【0007】
本発明の解決すべき課題は、流体動圧軸受装置に組み込まれるロータハブの材料の歩留まり及び生産性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明は、軸部と、軸部から外径に突出して設けられ、軸方向と直交する回転体搭載面を有するハブ部とを備え、軸部の外周面がラジアル軸受隙間に面する流体動圧軸受装置用のハブ一体軸であって、少なくともハブ部が焼結金属で形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
このように、ハブ部を焼結金属で形成することにより、削り出しで製作する場合と比べて、切り屑が発生することが無いため材料の歩留まりが向上すると共に、加工時間が短縮されて生産性が向上する。また、焼結金属製のハブ部は、金属粉末を圧縮成形(型成形)した圧粉体を焼結して得られるため、金属材料を塑性流動させて成形する鍛造加工と比べて成形性が高く、優れた寸法精度が得られる。これにより、後加工が不要となるか、あるいは後加工による加工量を低減できるため、鍛造で成形する場合と比べてもハブ一体軸の生産性が向上する。
【0010】
ところで、最近、ネットブックに代表されるノートパソコン等の情報機器の薄型化が進み、これらに使用される2.5インチHDD用のスピンドルモータにも薄型化が要求されている。これに伴い、スピンドルモータに組み込まれる流体動圧軸受装置の小型化(軸方向寸法の縮小)が要求され、その対策としてハブ部が薄肉化される傾向にある。ハブ部を薄肉化すると、軸部材との締結面積が縮小されるため、両者の締結強度不足が問題となる。
【0011】
上記のような不具合を解消するためには、例えば、軸部とハブ部とを焼結拡散接合により固定すれば良い。具体的には、金属粉末を圧縮成形してハブ部と同形状の圧粉体を形成し、この圧粉体に軸部を圧入して一体化した状態で焼結することにより、ハブ部と軸部とが拡散接合により固定される。拡散接合は、圧入や接着などと比べて高い締結強度を得ることができるため、ハブ部を薄肉化して軸部との締結面積が縮小された場合でも、軸部とハブ部とを十分な強度で固定することができる。
【0012】
上記のようなハブ一体軸では、軸部とハブ部とで要求される特性が異なる。すなわち、軸部の外周面は、ラジアル軸受隙間に面するため高い寸法精度及び耐摩耗性が要求される。このため、軸部は高硬度の材料で形成することが好ましい。一方、ハブ部は、回転体を固定するクランパ等により曲げ応力が加わることが多く、硬度が高すぎると割れが発生する恐れがあるため、軸部と比べて硬度が若干低い材料で形成することが好ましい。従って、軸部とハブ部とを別体に形成することで、軸部及びハブ部を、それぞれに要求される特性を満たす材料で形成することができる。具体的には、ハブ部を焼結金属で形成する一方で、軸部を機械加工品としたり、あるいは軸部をハブ部とは別体の焼結金属品としたりすることができる。
【0013】
また、上記の不具合を解消するために、軸部とハブ部とを焼結金属で一体成形しても良い。具体的には、金属粉末を圧縮成形してハブ一体軸と同形状の圧粉体を形成し、この圧粉体を焼結することにより、焼結金属製のハブ一体軸が成形される。この場合、ハブ部と軸部との境界は存在しないため、ハブ部を薄肉化した場合でも軸部との間で十分な締結強度が得られる。
【0014】
焼結金属製のハブ部の端面がスラスト軸受隙間に面する場合、焼結金属の表面の微小凹部に保持された潤滑流体がスラスト軸受隙間に供給されることで、スラスト軸受隙間を介して対向するハブ部と相手材との潤滑性が向上し、耐摩耗性及び耐焼き付き性が良好となる。
【0015】
軸部の外周面の面精度はラジアル軸受隙間の精度に直結するため、なるべく高精度に仕上げる必要がある。このため、軸部の外周面には研削仕上げを施すことが好ましい。特に、ハブ部の回転体搭載面を基準として軸部の外周面に研削仕上げを施すと、軸部の外周面に対する回転体搭載面の相対的な位置精度が高められるため、回転体の回転精度の向上が期待できる。
【0016】
軸部の外周面には、ラジアル軸受隙間の潤滑流体に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部を形成することができる。特に、軸部を焼結金属で形成する場合、軸部の外周面に転造加工によりラジアル動圧発生部を形成すれば、転造加工したときの材料の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収することができるため、転造加工による軸部表面の盛り上がりが防止され、ラジアル動圧発生部を精度良く形成することができる。
【0017】
上記のようなハブ一体軸は、ハブ一体軸と、ハブ一体軸の軸部が挿入される軸受部材と、軸部の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で軸部を相対回転可能に支持するラジアル軸受部とを備えた流体動圧軸受装置に組み込むことができる。また、このような流体動圧軸受装置は、HDD用スピンドルモータや光ディスク用スピンドルモータに組み込むことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、ハブ部を焼結金属で形成することで、ハブ一体軸の材料の歩留まり及び生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】HDD用スピンドルモータの断面図である。
【図2】上記スピンドルモータに組み込まれた流体動圧軸受装置の断面図である。
【図3】(a)〜(d)は、上記流体動圧軸受装置に組み込まれた本発明の一実施形態に係るハブ一体軸の製造工程を示す断面図である。
【図4】上記流体動圧軸受装置の軸受スリーブの断面図である。
【図5】上記軸受スリーブの上面図である。
【図6】上記軸受スリーブの下面図である。
【図7】(a)〜(d)は、他の実施形態に係るハブ一体軸の製造工程を示す断面図である。
【図8】(a)〜(c)は、他の実施形態に係るハブ一体軸の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1に、例えば2.5インチHDDのディスク駆動装置に用いられるスピンドルモータを示す。このスピンドルモータは、本発明の一実施形態に係るハブ一体軸9を回転自在に支持する流体動圧軸受装置1と、流体動圧軸受装置1が取り付けられたブラケット6と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル4およびロータマグネット5とを備えている。ステータコイル4はブラケット6に取り付けられ、ロータマグネット5はハブ一体軸9にヨーク10を介して取り付けられる。ハブ一体軸9には、回転体としてのディスクDが所定の枚数(図示例では1枚)保持される。ステータコイル4に通電すると、ステータコイル4とロータマグネット5との間の電磁力でロータマグネット5が回転し、これによりハブ一体軸9及びディスクDが一体となって回転する。
【0022】
流体動圧軸受装置1は、図2に示すように、軸部2及びハブ部3を有するハブ一体軸9と、ハブ一体軸9を回転自在に支持する軸受部材とで構成される。本実施形態では、ハブ一体軸9の軸部2及びハブ部3が別体に形成される。また、本実施形態では、軸受部材が、内周にハブ一体軸9の軸部2を挿入した軸受スリーブ8と、内周に軸受スリーブ8を保持する有底筒状のハウジング7とで構成される。ハブ一体軸9の軸部2の下端には、抜け止め部材11が設けられる。尚、以下では、説明の便宜上、軸方向でハウジング7の開口側を上側、閉塞側を下側とする。
【0023】
軸部2は、外径が2〜4mm程度の略円筒状に形成される。本実施形態では、軸部2は金属(溶製材、例えば鉄系金属、特にステンレス鋼)の機械加工(例えば旋削加工)により形成される。軸部2は、凹凸の無いストレートな円筒面状の大径外周面2aと、大径外周面2aの上側に設けられた小径外周面2bと、これらの間に形成された軸方向と直交する肩面2cとを有する。軸部2の大径外周面2aは、ラジアル軸受隙間に面するラジアル軸受面として機能する。軸部2の軸心には軸方向の貫通穴2dが設けられ、貫通穴2dの内周面にはネジ溝が形成される。
【0024】
ハブ部3は、軸部2の上端部から外径に延び、軸方向と直交する回転体搭載面を備えている。本実施形態のハブ部3は、ハウジング7の開口部を覆う円盤部3aと、円盤部3aの外径端から軸方向下方に延びた円筒部3bと、円筒部3bの下端部からさらに外径に延びた鍔部3cとで構成される。円盤部3aの下側端面3a1は、スラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能する。鍔部3cの上側端面には、回転体搭載面としてのディスク搭載面3dが形成され、円筒部3bの外周面には、ディスク嵌合面3eが形成される。ディスクDをディスク嵌合面3eに嵌合すると共にディスク搭載面3dの上に載置し、この状態で図示しないクランパによってディスクDの上面を押さえてディスク搭載面3d上に押し付けることにより、ディスクDがハブ部3に保持される。軸部2の貫通穴2dの上部は、クランパを固定するためのネジ穴として機能する。
【0025】
ハブ部3は、焼結金属(例えば鉄を主成分とする焼結金属)で形成される。具体的には、まず、図3(a)に示すように、金属粉末を圧縮成形してハブ部3と同一形状の円盤部3a’、円筒部3b’、及び鍔部3c’を有するハブ圧粉体3’を形成する。そして、図3(b)に示すように、ハブ圧粉体3’の内周面3a3’に軸部2の小径外周面2bを軽圧入すると共に、ハブ圧粉体3’の円盤部3a’の下側端面3a1’を軸部2の肩面2cに当接させ、軸部2とハブ圧粉体3’とを一体化する。この一体品を焼結炉に投入し、所定の焼結温度で加熱することにより(図3(c)参照)、ハブ圧粉体3’が焼結されてハブ部3が形成されると共に、ハブ部3の内周面3a3と軸部2の小径外周面2bとが拡散接合される。これにより、軸部2とハブ部3とが焼結拡散接合により固定されたハブ一体軸9が得られる(図3(d)参照)。このように、軸部2とハブ部3とを焼結拡散接合で固定することで、ハブ部3を薄肉化した場合(例えば肉厚を1mm以下とした場合)でも、十分な締結強度を得ることができる。
【0026】
ところで、上記のように軸部2をハブ圧粉体3’に圧入する際、両者の嵌合面の圧力を大きくすれば、すなわち、軸部2の小径外周面2bとハブ圧粉体3’の内周面3a3’との圧入代を大きくすれば、その後の軸部2とハブ部3との拡散接合による締結強度を高めることができる。しかし、ハブ圧粉体3’は、焼結前の強度が低い状態であるため、軸部2との圧入代を大きくし過ぎるとハブ圧粉体3’に変形や損傷が生じる恐れがある。特に、ハブ部3を薄肉化した場合、圧入によりハブ圧粉体3’に変形や損傷が生じる恐れが高い。従って、軸部2とハブ圧粉体3’との圧入代は、ハブ圧粉体3’に変形や損傷が生じることなく、且つ、軸部2とハブ部3との拡散接合により十分な締結強度が得られるように設定され、本実施形態では圧入代が5〜15μmの範囲内(例えば10μm程度)に設定される。
【0027】
また、ハブ部3は、流体動圧軸受装置1の内部に満たされた潤滑流体(本実施形態では潤滑油)と接触するため、焼結金属の内部気孔を介して潤滑油が外部に漏れだすことを防止する必要がある。例えば、焼結金属の密度を高めて内部気孔が全て独立気孔となるようにしたり、ハブ部3の表面(例えば潤滑油と接触する面、特にスラスト軸受面)に研磨やコーティング等の封孔処理を施したりすることで、油漏れを防止することができる。
【0028】
また、ハブ一体軸9を形成した後、特に高精度が要求される面に研削仕上げを施してもよい。本実施形態では、軸部2の大径外周面2a(ラジアル軸受面)に研削仕上げが施される。これに加えて、円盤部3aの下側端面3a1(スラスト軸受面)や、スラスト軸受隙間の精度に影響する軸部2の下端面2eに研削仕上げを施しても良い。さらには、ハブ部3のディスク搭載面3d及びディスク嵌合面3eに研削仕上げを施してもよい。本実施形態では、まず、ハブ部3のディスク搭載面3d及びディスク嵌合面3eに研削仕上げを施し、その後、これらの研削仕上げされた面を基準として(例えば、研削仕上げされた面に治具を当接させてハブ一体軸9を回転させながら)、軸部2の大径外周面2a及び下端面2eと円盤部3aの下側端面3a1とに研削仕上げが施される。これにより、ラジアル軸受面及びスラスト軸受面に対するディスク搭載面3d及びディスク嵌合面3eの位置精度が高精度に設定されるため、ディスクDの回転精度が高められる。
【0029】
このようにハブ一体軸9のハブ部3に研削仕上げを施す場合でも、焼結金属製のハブ部3が高い寸法精度で成形されているため、研削仕上げによる加工量が抑えられ、加工時間の短縮、及び工具コストの低減が図られる。
【0030】
抜け止め部材11は金属や樹脂で形成され、円盤形状のフランジ部11aと、フランジ部11aの軸心から上方に延びた固定部11bとを有する。固定部11bの外周にはネジ溝が形成され、軸部2の貫通穴2dの内周面に形成されたネジ穴の下端にネジ固定される。フランジ部11aは軸部2の大径外周面2aよりも外径に突出し、その上側端面11a1が軸部2の下端面2eと当接している。フランジ部11aは、軸受スリーブ8の下側端面8cとハウジング7の底部7bの上側端面7b1との軸方向間に配される。軸部2の下端に固定されたフランジ部11aと軸受スリーブ8とが軸方向で係合することにより、軸部2の軸受スリーブ8からの抜け止めが行われる。
【0031】
フランジ部11aの上側端面11a1は、スラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能する。軸部2の下端面2eは研削仕上げにより高精度な平坦面とされているため、フランジ部11aの上側端面11a1が軸部2の下端面2eの全面と良好に密着し、これにより、軸部2に対してフランジ部11aを高精度に位置決めすることができる。また、フランジ部11aの上側端面11a1と軸部2の下端面2eとを全周で密着させることにより、軸部2の貫通穴2dへの潤滑油の侵入を抑えることができるため、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油が貫通穴2dを介して外部に漏れだす恐れを低減できる。
【0032】
軸受スリーブ8は、金属や樹脂で円筒状に形成され、本実施形態では、例えば銅を主成分とする焼結金属で形成される。軸受スリーブ8の内周面8aは、ラジアル軸受隙間に面するラジアル軸受面として機能する。この面には、図4に示すように、ラジアル動圧発生部として、例えば軸方向に離隔した2つの領域にヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2がそれぞれ形成される(クロスハッチングは丘部)。図示例では、上側の動圧溝8a1は軸方向非対称に形成されており、具体的には、軸方向中央部mより上側の領域の軸方向寸法X1が、下側の領域の軸方向寸法X2よりも大きくなっている(X1>X2)。下側の動圧溝8a2は軸方向対称に形成されている。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が軸方向全長にわたって形成され、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向に等配される。
【0033】
軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cは、それぞれスラスト軸受隙間に面するスラスト軸受面として機能する。これらの面には、図5及び図6に示すように、それぞれスラスト動圧発生部として、例えばポンプインタイプのスパイラル形状の動圧溝8b1,8c1が形成される(クロスハッチングは丘部)。軸受スリーブ8の外周面8dには、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の本数は任意であり、例えば3本の軸方向溝8d1が円周方向等間隔に配される。
【0034】
ハウジング7は、金属や樹脂で形成され、本実施形態では例えば樹脂の射出成形で形成される。ハウジング7は、図2に示すように、側部7a及び底部7bを一体に有する有底円筒状に形成される。側部7aの内周面7a1は、ストレートな円筒面状に形成される。側部7aの外周面の上端には、図2に示すように、上方に向かって漸次拡径するテーパ状のシール面7a3が形成される。このシール面7a3は、ハブ部3の円筒部3bの内周面3b1との間に、上方に向けて半径方向寸法が漸次縮小した環状のシール空間Sを形成する。シール空間Sは、ハブ一体軸9の回転時、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1とハウジング7の上端面7a2との間の隙間を介して、第1のスラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間の外径側、及び、軸方向溝8d1の上端と連通している。このシール空間Sの毛細管力により、ハウジング7の内部に充満された潤滑油の漏れ出しを防止する。
【0035】
上記の部材からなる流体動圧軸受装置1は、以下のようにして組み立てることができる。まず、軸受スリーブ8の内周にハブ一体軸9の軸部2を挿入し、この状態で軸部2の貫通穴2dの下端に抜け止め部材11の固定部11bをネジ固定して仮アッシ品を構成する。このとき、フランジ部11aの上側端面11a1と軸部2の下端面2eとを当接させることにより、フランジ部11aの軸部2に対する位置決めが行われる。この仮アッシ品の状態で、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1とフランジ部11aの上側端面11a1との間の軸方向寸法L2(図2参照)が決定されるため、この軸方向寸法L2と、軸受スリーブ8の両端面8b,8c間の軸方向寸法L1との差(L2−L1)により、第1及び第2スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の合計量が設定される。
【0036】
このとき、ハブ一体軸9の軸部2の下端面2e及びハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1が、何れもディスク搭載面3dを基準として研削仕上げが施されているため、これらの間の軸方向寸法は高精度に設定されている。従って、軸部2の下端面2eにフランジ部11aの上側端面11a1を当接させることで、フランジ部11aの上側端面11a1とハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1との軸方向寸法L2が高精度に設定される。一方、軸受スリーブ8は、成形性に優れた焼結金属で形成されるため、両端面8b,8cの間の軸方向寸法L1は高精度に設定される。従って、これらの軸方向寸法の差(L2−L1)で設定される第1及び第2スラスト軸受部T1,T2のスラスト軸受隙間の合計量が高精度に設定される。
【0037】
こうして、スラスト軸受隙間が設定された仮アッシ品の軸受スリーブ8をハウジング7の内周に挿入し、軸受スリーブ8の外周面8dをハウジング7の内周面7a1に隙間接着、圧入、接着剤介在下の圧入等により固定する。そして、軸受スリーブ8の内部気孔を含めたハウジング7の内部の空間に潤滑油を充満させることにより、図2に示す流体動圧軸受装置1が完成する。このとき、油面はシール空間Sの内部に保持される。
【0038】
ハブ一体軸9が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aと軸部2の大径外周面2aとの間にラジアル軸受隙間が形成されると共に、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1,8a2)により上記ラジアル軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)によりハブ一体軸9をラジアル方向に回転自在に非接触支持するラジアル軸受部R1,R2が構成される。
【0039】
これと同時に、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1と軸受スリーブ8の上側端面8bとの間、及び、フランジ部11aの上側端面11a1と軸受スリーブ8の下側端面8cとの間にそれぞれスラスト軸受隙間が形成されると共に、スラスト動圧発生部(動圧溝8b1,8c1)により各スラスト軸受隙間に満たされた潤滑油の圧力が高められ、この圧力(動圧作用)によりハブ一体軸9をスラスト方向一方(持ち上げる方向)に回転自在に非接触支持する第1のスラスト軸受部T1と、ハブ一体軸9をスラスト方向他方(押し下げる方向)に回転自在に非接触支持する第2のスラスト軸受部T2とが構成される。
【0040】
このとき、軸受スリーブ8が焼結金属で形成されているため、軸受スリーブ8の内部気孔に含浸された潤滑油が内周面8a及び上下端面8b,8cからラジアル軸受隙間及びスラスト軸受隙間に供給され、ラジアル軸受部R1,R2及びスラスト軸受部T1,T2における潤滑性が高められる。また、ハブ部3が焼結金属で形成されているため、ハブ部3の内部気孔に含浸された潤滑油がスラスト軸受隙間に供給される。尚、たとえハブ部3の表面に封孔処理が施されている場合でも、通常、ハブ部3の表面は完全に平滑化されることはなく、表面に無数の微小凹部が形成されるため、この微小凹部に保持された潤滑油がスラスト軸受隙間に供給される。これにより、第1スラスト軸受部T1における潤滑性がより一層高められ、ハブ部3及び軸受部材(本実施形態では軸受スリーブ8)の耐摩耗性や耐焼き付き性がさらに向上する。特に、ハブ部3に加わる下向きの負荷が大きい場合(例えば複数枚のディスクDが搭載される場合)は、上記のように第1スラスト軸受部T1のスラスト軸受隙間を介して対向するハブ部3及び軸受スリーブ8を何れも焼結金属製として潤滑性を高めることが有効となる。
【0041】
また、軸受スリーブ8の外周面8dに形成された軸方向溝8d1により、潤滑油が流通可能な連通路が形成される。この連通路により、ハウジング7の内部に満たされた潤滑油に局部的な負圧が発生する事態を防止できる。特に本実施形態では、図3に示すように、軸受スリーブ8の内周面8aに形成された上側の動圧溝8a1が軸方向非対称な形状に形成されているため、ハブ一体軸9の回転に伴ってラジアル軸受隙間の潤滑油が下方に押し込まれ、上記の連通路を介して潤滑油が循環し、これにより局部的な負圧の発生を確実に防止できる。
【0042】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の機能を有する箇所には同一の符号を付して重複説明を省略する。
【0043】
上記の実施形態では、軸部2が溶製材の機械加工で形成された場合を示したが、これに限らず、例えば図7に示すように、軸部2を、ハブ部3とは別体の焼結金属品としてもよい。この場合、まず、ハブ部3と同一形状のハブ圧粉体3’を形成し(図7(a)参照)、このハブ圧粉体3’の内周面3a3’に、軸部2と同一形状の軸圧粉体2’の小径外周面2b’を圧入すると共に、ハブ圧粉体3’の円盤部3a’の下側端面3a1’を軸圧粉体2’の肩面2c’に当接させて一体化する(図7(b)参照)。この一体品を焼結することにより(図7(c)参照)、軸圧粉体2’及びハブ圧粉体3’が焼結されて軸部2及びハブ部3が形成されると同時に、軸部2の小径外周面2bとハブ部3の内周面3a3とが拡散接合により固定される(図7(d)参照))。軸部2及びハブ部3は、それぞれに要求される特性を満たす焼結材料で形成することができる。例えば、軸部2を銅を主成分とする焼結金属で形成し、ハブ部3を鉄を主成分とする焼結金属で形成することができる。これに限らず、軸部2及びハブ部3を同じ材料で形成してもよい。
【0044】
また、上記の実施形態では、焼結していないハブ圧粉体3’に軸部2を圧入し(図3参照)、あるいは焼結していない圧粉体3’に焼結していない軸圧粉体2’を圧入している(図7参照)が、これに限られない。例えば、ハブ圧粉体3’や軸圧粉体2’を仮焼結して強度を高めてから圧入して一体化し、この一体品をさらに焼結してもよい(図示省略)。
【0045】
また、上記の実施形態では、ハブ一体軸9の軸部2とハブ部3とを別体に形成しているが、これに限らず、例えば図8に示すように、軸部2とハブ部3とを焼結金属で一体成形してもよい。この場合、ハブ一体軸9の軸部2及びハブ部3と同一形状の軸部2’及びハブ部3’を有する圧粉体9’を形成し(図8(a)参照)、この圧粉体9’を焼結することにより(図8(b)参照)、軸部2及びハブ部3を有する焼結金属製のハブ一体軸9が一体成形される(図7(d)参照))。この場合、軸部2及びハブ部3は同一材料で形成されるため、必要に応じて、ハブ一体軸9に表面硬化処理やコーティング処理を施してもよい。例えば、軸部2の大径外周面2a(ラジアル軸受面)や、ハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1(スラスト軸受面)に、表面硬化処理等を施してもよい。
【0046】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部(動圧溝8a1,8a2)が軸受スリーブ8の内周面8aに形成される場合を示したが、これに限らず、例えば軸部2の大径外周面2aにラジアル動圧発生部を形成してもよい(図示省略)。特に、図7や図8に示すように軸部2を焼結金属で形成する場合、ラジアル動圧発生部を転造加工で形成すれば、転造をしたときの軸部2の材料の塑性流動を焼結金属の内部気孔で吸収することができるため、軸部2の大径外周面2aが盛り上がらず、ラジアル動圧発生部を精度よく形成することができる。
【0047】
また、上記の実施形態では、ラジアル動圧発生部としてヘリングボーン形状の動圧溝8a1,8a2が形成されているが、これに限らず、スパイラル形状等の他の動圧溝、多円弧軸受、ステップ軸受などでラジアル動圧発生部を構成してもよい。あるいは、ラジアル動圧発生部を設けず、軸部2の大径外周面2a及び軸受スリーブ8の内周面8aをいずれも平滑な円筒面としてもよい。
【0048】
また、上記の実施形態では、スラスト動圧発生部(動圧溝8b1,8c1)が軸受スリーブ8の上側端面8b及び下側端面8cに形成されているが、これに限らず、これらとスラスト軸受隙間を介して対向するハブ部3の円盤部3aの下側端面3a1や、抜け止め部材11のフランジ部11aの上側端面11a1にスラスト動圧発生部を形成してもよい。
【0049】
また、上記の実施形態では、スラスト動圧発生部としてスパイラル形状の動圧溝8b1,8c1で形成されているが、これに限らず、ヘリングボーン形状の動圧溝やステップ軸受などでスラスト動圧発生部を構成してもよい。
【0050】
また、上記の実施形態では、潤滑流体が潤滑油である場合を示しているが、これに限らず、例えば磁性流体や空気等の流体を使用することも可能である。
【0051】
また、上記の実施形態では、本発明に係るハブ一体軸9をHDD用スピンドルモータの流体動圧軸受装置に組み込んだ例を示しているが、これに限られない。例えば、CDやDVD等の光ディスク用スピンドルモータの流体動圧軸受装置や、ポリゴンスキャナモータの流体動圧軸受装置、あるいはカラーホイールモータの流体動圧軸受装置に本発明のハブ一体軸を適用することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1 流体動圧軸受装置
2 軸部
2’ 軸圧粉体
3 ハブ部
3’ ハブ圧粉体
4 ステータコイル
5 ロータマグネット
6 ブラケット
7 ハウジング
8 軸受スリーブ
9 ハブ一体軸
9’ 圧粉体
10 ヨーク
11 抜け止め部材
D ディスク
R1,R2 ラジアル軸受部
T1,T2 スラスト軸受部
S シール空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部と、前記軸部から外径に突出して設けられ、軸方向と直交する回転体搭載面を有するハブ部とを備え、前記軸部の外周面がラジアル軸受隙間に面する流体動圧軸受装置用のハブ一体軸であって、
少なくとも前記ハブ部が焼結金属で形成されたことを特徴とするハブ一体軸。
【請求項2】
前記軸部と前記ハブ部とが焼結拡散接合により固定された請求項1のハブ一体軸。
【請求項3】
前記軸部を機械加工品とした請求項2のハブ一体軸。
【請求項4】
前記軸部を、前記ハブ部とは別体の焼結金属品とした請求項2のハブ一体軸。
【請求項5】
前記軸部及び前記ハブ部が焼結金属で一体成形された請求項1のハブ一体軸。
【請求項6】
前記ハブ部の端面がスラスト軸受隙間に面する請求項1〜5何れかのハブ一体軸。
【請求項7】
少なくとも前記軸部の外周面に研削仕上げが施された請求項1〜6何れかのハブ一体軸。
【請求項8】
前記ハブ部の回転体搭載面を基準として、前記軸部の外周面に研削仕上げが施された請求項7のハブ一体軸。
【請求項9】
前記軸部の外周面に、ラジアル軸受隙間の潤滑流体に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部が形成された請求項1〜8何れかのハブ一体軸。
【請求項10】
前記軸部の外周面に、ラジアル軸受隙間の潤滑流体に動圧作用を発生させるラジアル動圧発生部が転造加工により形成された請求項4または5のハブ一体軸。
【請求項11】
請求項1〜10何れかのハブ一体軸と、前記ハブ一体軸の軸部が挿入される軸受部材と、前記軸部の外周面と前記軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間に生じる潤滑流体の動圧作用で前記軸部を相対回転可能に支持するラジアル軸受部とを備えた流体動圧軸受装置。
【請求項12】
請求項11の流体動圧軸受装置を備えたHDD用スピンドルモータ。
【請求項13】
請求項11の流体動圧軸受装置を備えた光ディスク用スピンドルモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−225385(P2012−225385A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−92034(P2011−92034)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】