説明

フィルム状異方導電性接着剤

【課題】 接合時の加熱温度を下げても、接続信頼性、リペア性、接着強度が損なわれない、フィルム状異方導電性接着剤を提供する。
【解決手段】 (A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤、及び(E)導電性粒子を含む。前記(C)熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、前記(C)熱可塑性エラストマーの樹脂全量に対する含有率は、2〜30質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCDのガラスパネルとフレキシブルプリント配線板(FPC)のような回路基板同士の接合等に使用されるフィルム状異方導電性接着剤に関し、特にリペア性と接着強度のバランスを兼ね備えたフィルム状異方導電性接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
LCDのガラスパネルとフレキシブルプリント配線板(FPC)のような回路基板同士の電機的接続を保持しつつ、接合させる接着剤として、絶縁性の樹脂組成物中に導電性粒子が分散されたフィルム状異方導電性接着剤が用いられる。例えば、図1に示すように、電極1a、1a…が所定間隔をあけて並置されたLCDガラスパネル1と、電極2a、2aが所定間隔をあけて並置されたフレキシブルプリント配線板(FPC)2との間に、フィルム状異方導電性接着剤3を載置し、押圧ツール5(クッション材4を介在させてもよい)で、加熱、加圧すると、接着剤中の樹脂が流動し、各回路基板1,2上に形成された電極間の隙間(1a,1a間、2a,2a間)に埋入されると同時に、導電性粒子の一部が対峙する電極間(1a−2a間)に噛みこまれて電気的接続が達成される。従って、フィルム状異方導電性接着剤は、加熱加圧により各回路基板上の電極間(1aと2a間)間隙に流入できる流動性と、接合体において、相対峙する接続された電極間(1aと2a間)の電気的接続を保持するという接続信頼性及び接着強度が求められる。
【0003】
フィルム状導電性接着剤の載置位置が適切でなかったり、加熱加圧工程の調節不備等により接合、電気的接続が不備な不良品が作製された場合、回路基板の接合部を引き剥がし、回路基板を再利用することが行われている。
【0004】
接合不良となった回路基板の再利用(リペア性)を可能にするフィルム状異方導電性接着剤としては、例えば、特開平5−117419号公報(特許文献1)に、エポキシ樹脂、イミダゾール系潜在性硬化剤、導電性粒子を組合せた導電性接着剤に、ポリビニルブチラールを添加することが提案されている。このフィルム状異方導電性接着剤は、熱圧着により接合した接合体であっても、加熱により接合部が軟化することで、被着体を破損することなく、剥離できる。
【0005】
さらに、特開2008−94908号公報(特許文献2)では、熱硬化性樹脂として、ビスフェノール型固形エポキシ樹脂とナフタレン型エポキシ樹脂の混合物を用いて、硬化物のガラス転移温度を90℃以上とすることにより、リペア性を保持しつつ、接続信頼性を確保するできることが示されている。
【0006】
一方、回路基板を再利用するにあたっては、加熱による引きはがしだけでは不十分であり、ひきはがし面に残存する接着剤を、溶剤等でふき取り、再び清浄面とする必要がある。従って、リペア性を満足するためには、溶剤によるふき取り容易であることも重要となる。
【0007】
特開2009−84307号公報(特許文献3)には、ふき取り性を考慮したフィルム状導電性接着剤として、ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、潜在性硬化剤を含有するフィルム状導電性接着剤が提案されている。この接着剤の硬化物は、剥離後、基板表面に残存していても、N−メチル−2−ピロリドンで容易にふき取ることができることが開示されている。しかしながら、溶剤のN−メチル−2−ピロリドンは人体に有害であることから、アルコール系、ケトン系等の汎用溶剤で容易にふき取り作業が行えることが求められる。
【0008】
一方、特許2629490号公報(特許文献4)に、アクリル系重合体、ビスフェノール型固形エポキシ樹脂、及び導電性粒子、潜在性硬化剤を含有する導電性接着剤において、カルボキシル基含有量、重量平均分子量を特定範囲としたアクリル樹脂を添加することで、SP値8.0〜12.0の溶剤(トルエン、アセトン)で、基板に付着している接着剤をふき取るのに要する時間が短くて済み、リペア性を満足できることが示されている。
【0009】
また、特開平6−256746号公報(特許文献5)では、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂とともに、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エポキシ基といった官能基を有するアクリル樹脂を用いることで、溶剤によるふき取り時間を容易にできることが開示されている。
【0010】
アクリル樹脂を用いることで、汎用溶剤によるふき取りが可能となることが提案されているが、一般にアクリル樹脂添加により、得られる接合体の接着強度が低下することが知られている。このため、アクリル樹脂を用いないでも、汎用溶剤で、残存接着剤のふき取り性を確保できることが求められる。
【0011】
特開平9−143252号公報(特許文献6)では、フェノキシ樹脂としてビスフェノールA、F共重合型フェノキシ樹脂を用いることで、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた場合と比べて、汎用溶剤を用いた補修に要する時間が短くなるということが開示されている。
【0012】
入手容易なビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いた導電性接着剤については、特開2009−132798号公報(特許文献7)に、分子量100000〜700000で、水酸基濃度を20〜40mol%としたポリビニルブチラールを用いることで、吸湿による接続信頼性の低下を防止するとともに、接着性に必要な凝集力と多様な溶剤溶解性を損なうことがないようにして、ふき取りを容易に出来ることが提案されている。実施例では、ふき取り溶剤として、メチルエチルケトンとエタノールの混合溶剤を用いている。
【0013】
さらに、特開2010−102859号公報(特許文献8)では、ガラス転移点が100℃以上のポリビニルブチラール及び90℃以下のポリビニルブチラールの2種類のポリビニルブチラールを用いることで、ケトン系溶剤を用いたふき取りを可能とするとともに、最小ピッチを150μm以下とする電極の更なるファインピッチ化に対応できる、耐熱性の高い異方導電性フィルムを提供できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−11741号公報
【特許文献2】特開2008−94908号公報
【特許文献3】特開2009−84307号公報
【特許文献4】特許2629490号公報
【特許文献5】特開平6−256746号公報
【特許文献6】特開平9−143252号公報
【特許文献7】特開2009−132798号公報
【特許文献8】特開2010−102859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のように、硬化後、引きはがした回路基板上に残存した接着剤を、汎用溶剤を用いてふき取るというリペア容易性の観点から、種々改良、提案がなされている。
一方、近年、生産性、省エネルギー性の観点から、接合時の加熱温度を下げたいという要望が、異方導電性接着剤のユーザーから高まってきている。しかしながら、接合時の加熱温度を下げると、加圧が不十分になり、接合体の接着強度が低下する等の理由から、接合不良品の発生率が高くなるといった別の問題を惹起することになる。
【0016】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、フィルム状異方導電性接着剤において、接合時の加熱温度を下げても、接続信頼性、リペア性、接着強度が損なわれない、フィルム状異方導電性接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤、及び(E)導電性粒子を含む。
【0018】
前記(C)熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、前記(C)熱可塑性エラストマーの樹脂全量に対する含有率は、2〜30質量%であることが好ましい。
【0019】
前記(A)フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂であることが好ましく、前記(B)エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂、さらに好ましくはビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、接合時の加熱温度を下げても、接続信頼性、リペア性、接着強度を保持した接合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】フィルム状異方導電性接着剤を用いた回路基板同士の接合について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、今回、開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
〔フィルム状異方導電性接着剤〕
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤、及び(E)導電性粒子を含有するフィルム状異方導電性接着剤である。
【0024】
(A)フェノキシ樹脂
フェノキシ樹脂とは、高分子量のエポキシ樹脂に該当し、重合度(n)が100程度以上のものをいう。本発明に用いられるフェノキシ樹脂は、GPCにより測定される重量平均分子量が3万以上のもの、好ましくは4万以上のもの、より好ましくは45000以上である。このような高分子量のエポキシ樹脂に該当するフェノキシ樹脂は、通常、軟化点80〜150℃程度であり、常温で固体である。熱可塑性樹脂として挙動することから、フィルム形成性がよい。
【0025】
本発明で使用するフェノキシ樹脂の種類は特に限定しない。例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型フェノキシ樹脂、ビスフェノールA型とビスフェノールF型の共重合体型フェノキシ樹脂、その蒸留品、ナフタレン型フェノキシ樹脂、ノボラック型フェノキシ樹脂、ビフェニル型フェノキシ樹脂、シクロペンタジエン型フェノキシ樹脂などを用いることができる。これらのうち、フィルム形成性、耐熱性の点から、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0026】
フェノキシ樹脂は、樹脂全量の15〜50質量%含有することが好ましく、より好ましくは、20〜40質量%である。15質量%未満では、組成物全体としての固形性を保持することが困難になり、フィルム状異方導電性接着剤を作製することが困難になる傾向にある。ここで、樹脂全量とは、(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤、さらに後述する他の樹脂(F)を含む場合には、他の樹脂を加えた合計量をいう(以下、同様である)。
【0027】
(B)エポキシ樹脂
エポキシ樹脂は、分子中にエポキシ基をもつポリマーであればよく、重合度、分子量、種類などは特に限定しない。例えば、重合度が1以下、重量平均分子量が700以下で、常温で液状を示す液状エポキシ樹脂、重合度が1超の固形エポキシ樹脂、結晶性エポキシ樹脂など、いずれを用いることもできる。
【0028】
また、エポキシ樹脂の種類としても、特に限定しないが、例えば、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、その蒸留品、ナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、アルコキシ含有シラン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂等の変性エポキシ樹脂を用いることができる。
【0029】
これらのエポキシ樹脂は、単独又は必要に応じて、分子量、反応性、軟化点などが異なる複数種類のエポキシ樹脂と組み合わせて用いてもよい。好ましくは、常温で液状を示す液状エポキシ樹脂と室温で固体である固形エポキシ樹脂とを組み合わせて使用する。液状エポキシ樹脂は、常温で液状を示すことから、加熱開始とともに速やかに粘度が下がって硬化剤と混ざり合い、素早く反応を進めることができる。固形エポキシ樹脂は、液状エポキシ樹脂の加熱開始に伴う急激な粘度低下、これに伴う反応の進行を緩める働きがある。すなわち、液状エポキシ樹脂による急激な粘度低下を抑制し、粘度調整に役立つ。具体的には、ビスフェノールA型及びナフタレン型エポキシ樹脂を含むことが好ましく、さらにビスフェノールF型エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0030】
接着剤用組成物に含まれる樹脂全量中のエポキシ樹脂の含有率は、接着強度の点から、通常、40〜80質量%程度であり、好ましくは40〜70質量%程度である。
なお、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤が、例えば、エポキシ樹脂に分散させた分散剤タイプの硬化剤として提供される場合には、当該硬化剤の分散媒に由来するエポキシ樹脂も上記エポキシ樹脂の含有率に算入される。
【0031】
(C)熱可塑性エラストマー
熱可塑性エラストマーとは、加熱により軟化して流動性を示し、常温ではゴム状弾性体として挙動できるものである。熱可塑性エラストマーは、高温になるほど、溶融粘度が下がる傾向にあるので、加熱加圧により、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂の硬化反応の進行により接着剤組成物の流動性が低下していく中、溶融流動して、対向電極間のギャップ(図1中の1a、2a間)縮小に寄与することができる。そして、エポキシ樹脂やフェノキシ樹脂の熱硬化収縮による接着界面や接着剤内部に発生する残留応力を緩和するとともに、硬化後は、そのゴム状弾性に基づき、接合部において変形等により生じる応力緩和材として作用できるので、接着強度の増大に寄与できる。また、溶剤に可溶であることから、ふき取り容易性にも寄与できる。
【0032】
本発明で用いられる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどを用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
本発明で用いられる熱可塑性エラストマーの分子構造は特に限定せず、トリブロック共重合型、テトラブロック共重合型、マルチブロック共重合型、星型ブロック共重合型などいずれであってもよい。
【0033】
これらのうち、主成分(マトリックス樹脂)となるフェノキシ樹脂、エポキシ樹脂との相溶性の点、被着体であるフレキシブルプリント配線板に用いられるポリイミドに対する接着性、アルコール系、ケトン系溶剤に対する溶解性に優れているという点から、ポリアミド系エラストマーが好ましく用いられる。
【0034】
ポリアミド系エラストマーとは、ナイロンをハードセグメントとし、ポリエステル及び/又はポリオールをソフトセグメントとするブロックコポリマーで、その種類は特に限定しないが、重合脂肪酸ベースのポリアミドをハードセグメントとし、ポリエーテルエステル及びポリエステルをソフトセグメントとするポリアミドエラストマーが好ましく用いられる。このようなポリアミドエラストマーは、熱可塑性であることから、フィルム状異方導電性接着剤の加熱において、早期に溶融流動できることから、加熱温度200℃未満としても、同一基板上の電極間間隙に流入できる流動性、加圧により対向する電極間距離を狭小化できる柔軟性を有する。また、比重が1.0〜1.2程度であり、エポキシ樹脂の比重と同程度であることから、分離しにくく、樹脂組成物中に、均質的に分散されやすい。
【0035】
熱可塑性エラストマーは、接着剤組成物中の樹脂全量の2〜30質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜20質量%である。熱可塑性エラストマーの含有率が高くなりすぎると、接合部の耐熱性、ひいては接続信頼性の低下の原因となり、含有率が少なすぎると、接着強度の増大、ふき取り容易性の効果が得られにくくなる。
【0036】
(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤
マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、イミダゾール系誘導体を核とし、当該核を膜で被覆したもので、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する。
【0037】
核となるイミダゾール系誘導体は、通常、常温で固体の粉末であり、エポキシ化合物とイミダゾール化合物あるいはイミダゾール化合物のカルボン酸塩との付加物を、適当な粒度に粉砕したものが好ましく用いられる。
【0038】
上記イミダゾール誘導体としては、イミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−エチル−5−メチルイミダゾール、2−フェニル−3−メチル5−ヒドロキシメチルイミダゾールなどが挙げられる。上記エポキシ化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF及びブロム化ビスフェノールA等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ダイマー酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0039】
被覆膜としては、エポキシ樹脂との相性が良好であるという理由から、通常、ウレタン結合を有する被膜が好ましく用いられる。具体的には、硬化剤本体である粉体表面のOH基に、イソシアネート基を有する化合物を重合反応させて得られる被膜が好ましく用いられる。
【0040】
上記イソシアネート化合物としては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。これらのイソシアネート化合物を、常温にて、イミダゾール化合物の表面で重合することにより、被膜が形成される。
【0041】
以上のようなマイクロカプセル型潜在性硬化剤は、通常、平均粒子径1〜10μmであることが好ましい。ここで、平均粒子径の測定は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS)を用いて、キシレン有機溶剤により固形分として取り出したマイクロカプセル粒子を測定し、体積積算平均粒子径を平均粒子径とした。
【0042】
以上のような構成を有するマイクロカプセル型潜在性硬化剤としては、マイクロカプセル粒子単独でなく、液状エポキシ樹脂などに分散させた状態で用いられてもよい。また、市販品を用いてもよく、例えば、旭化成イーマテリアルズ社製のノバキュアシリーズが挙げられる。
【0043】
マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤は、樹脂全量に対するイミダゾール系硬化剤(例えば、上記液状エポキシなどの樹脂分散媒に分散された状態で配合する場合においては、当該樹脂分散媒の量は算入されない)の含有率として、8〜20質量%であることが好ましく、使用するエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、熱可塑性エラストマーの種類、配合量により適宜選択される。
【0044】
(E)導電性粒子
導電性粒子としては、導電性を有する粒子であればよく、例えば、半田粒子、ニッケル粒子、金メッキニッケル粉、銅粉末、銀粉末、ナノサイズの金属結晶、金属の表面を他の金属で被覆した粒子等の金属粒子;スチレン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂等の樹脂粒子に金、ニッケル、銀、銅、半田などの導電性薄膜で被覆した粒子等が使用できる。このような導電性粒子の粒径は特に限定しないが、通常、平均粒径0.1〜5μmである。
【0045】
これらのうち、導電性粒子を所定方向(本発明においてはフィルムの厚み方向)に配向させやすいという点から、磁性を有する粒子が好ましく用いられる。また、導電性粒子を厚み方向に配向させやすいという観点から、アスペクト比5以上の導電性粒子が好ましく用いられる。具体的には、微細な金属粒が直鎖状につながった形状、あるいは、針状粒子が好ましく用いられる。このような導電性粒子は、フィルム成形の際に磁場の作用により、厚み方向に配向させることができる。
【0046】
導電性粒子の含有量は、用途により異なるが、回路基板の接合に用いられる異方導電性接着剤では、同一面上に並置された隣接する電極間間隙を導通させるには不十分な量で、且つ相対する電極間を導通させることができる量であり、具体的には、導電性接着剤の全体積に対して、0.01〜10体積%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1体積%である。
【0047】
(F)その他の添加剤
本発明のフィルム状異方性導電性接着剤には、上記成分の他、必要に応じて、補強材、充填剤、カップリング剤、硬化促進剤、難燃化剤などを含有してもよい。
【0048】
また、ふき取り容易性を損なわない範囲内(具体的には、樹脂全量の20質量%未満)であれば、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂以外の樹脂、例えば、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂等の他の熱硬化性樹脂や、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂などを、必要に応じて適宜含有してもよい。
【0049】
〔フィルム状異方導電性接着剤の製造〕
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、以上のような成分を含有する接着剤用組成物をフィルム状に成形したものである。フィルム状異方導電性接着剤の製造方法は特に限定しないが、通常、以下のような方法で製造される。
【0050】
上記(A)(B)(C)(D)(E)、さらに必要に応じて(F)成分を所定量配合し、溶剤に溶解して、接着剤溶液を調製する。溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、芳香族炭化水素などが挙げられる。また、フィルム状異方導電性接着剤が、導電性粒子として針状粒子(例えばアスペクト比5以上の導電性粒子)を用いている場合、乾燥中に、導電性粒子が厚み方向に配向できるような揮発速度を有する溶剤が好ましく用いられる。具体的には、PGMEA、PMA、セロソルブアセテート等のエステル系が好ましく用いられる。
前記接着剤溶液の固形分率としては、特に限定しないが、40〜70質量%であることが好ましい。
【0051】
調製した接着剤溶液を、基材フィルム上に塗工、流延、加熱乾燥してフィルム状とする。
フィルム状異方導電性接着剤を製造するための乾燥温度は、使用する有機溶剤により異なるが、通常、60〜80℃程度である。
【0052】
フィルム状異方導電性接着剤が、(E)成分として、磁性を有する粒子又はアスペクト比5以上の導電性粒子を含有する場合、加熱乾燥前または同時に、磁場を通過させて、導電性粒子を厚み方向に整列させておくことが好ましい。
フィルム状異方導電性接着剤の厚みは、特に限定しないが、通常10〜50μmであり、好ましくは15〜40μmである。
【0053】
〔回路基板接合体の製造方法〕
次に本発明のフィルム状異方導電性接着剤を用いて、回路基板同士を接続することについて説明する。
【0054】
具体的には、図1に示すように、複数の電極が並置された2つの回路基板を、前記電極が対向するように向かい合わせ、前記回路基板の間に、上記本発明のフィルム状異方導電性接着剤を介在させ、以下に示す条件で加熱加圧する。
【0055】
加熱加圧方法は、特に限定しないが、通常、所定温度に加熱したプレス機、押圧部材等の加圧ツールを用いて行う。被着体となる回路基板と加圧ツールとの間には、適宜クッション材を介在させてもよい。
【0056】
加熱温度は、150〜220℃、好ましくは170〜200℃、より好ましくは、180〜200℃である。上述のように、熱可塑性エラストマーの融点、軟化点は、従来、ふき取り容易性確保のために配合していたポリビニルブチラールやポリイミド樹脂と比べて低いことから、200℃未満の加熱温度でも、必要十分な流動性を発揮することができる。
【0057】
ここで、加熱温度とは、フィルム状異方導電性接着剤が到達すべき温度であり、例えば、細径の熱電対をフィルム状異方導電性接着剤中に埋め込み、ガラスパネル1とフレキシブルプリント配線板2の間に挟み込んで実測する方法が用いられる。
【0058】
加圧圧力は、1〜7MPa、好ましくは1〜5MPaである。加圧時間は、加熱温度、接着性樹脂組成物の組成により適宜決められるが、生産性の観点からは短いほど好ましい。通常、20秒未満、好ましくは15秒以下である。
【0059】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、加熱加圧により軟化溶融して、同一平面上の電極間間隙に流入するとともに、接合しようとする電極間距離は1μm以下にまで狭められて硬化する。特に熱可塑性エラストマーは、融点が低いので、加熱初期から軟化溶融して、加圧による電極間距離の狭小化に寄与し、さらに高温では液状となることにより、硬化反応の進行により粘度が上昇していても樹脂の流動、電極間距離の狭小化に寄与でき、ひいては接着強度の向上に役立つ。
【0060】
得られた接合体は、接着強度、接続性、高温高湿度保存後であっても、接続信頼性を保持できる。特に、200℃未満、180℃程度の加熱加圧であっても、熱可塑性エラストマーが溶融流動するので、接合不良の発生を防止できる。
接合体においては、エラストマー性により、応力緩和に働くことができるので、接続信頼性が高い。
さらに、接合不良を生じた場合に、硬化物を加熱して剥がした後に被着体上に残存する接着剤を、ケトン系、アルコール系といった汎用溶剤で容易にふき取ることが可能である。
【実施例】
【0061】
本発明を実施するための最良の形態を実施例により説明する。実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0062】
〔評価測定方法〕
(1)接着強度(N/cm)
後述する実施例で作製した接合体1(または2)について、引張試験機(島津製作所株式会社製、商品名オートグラフAGS−500G)を使用して、ガラスエポキシ基板の表面に対して、90°の方向から、フレキシブルプリント配線板を剥離し、フレキシブルプリント配線板と接着剤の界面のピール強度(N/cm)を測定することにより、接着力を測定した。
【0063】
(2)リペア性(ふき取り容易性)
作製した接合体1を、200℃に加熱した状態で、ガラスエポキシ基板からフレキシブルプリント配線板を剥離し、ガラスエポキシ基板の銅電極上に残存している接着剤を、アセトンを浸漬させた綿棒でふき取り、ガラスエポキシ基板の銅電極上に残存している接着剤を除去した。
ガラスエポキシ基板の銅電極上に残存する接着剤を、全て除去できた場合をリペア性良好として「○」、10分間綿棒で擦過しても接着剤が残存しているものをリペア性不良として「×」と評価した。
【0064】
(3)初期接続抵抗(Ω)
作製した接合体1において、接続された124か所の抵抗値を四端子法により求め、その値を124で除することで、1か所当たりの接続抵抗値を算出した。
【0065】
(4)耐熱・耐湿性
作製した接合体1を、85℃、85%Rhに設定した高温・高湿槽内に投入し、500時間経過後に取り出して、(3)の方法により接続抵抗値を求めた。
【0066】
〔フィルム状異方導電性接着剤No.1−6の調製及び評価〕
フェノキシ樹脂として、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート1256、重量平均分子量5万)、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製のエピコート1010、重量平均分子量5500)及びナフタレン型エポキシ樹脂(大日本インキ化学工業製のエピクロン4032D、重量平均分子量270)、熱可塑性エラストマーとしてポリアミド系熱可塑性エラストマー(富士化成製TPAE826)、ポリビニルブチラールとして、積水化学社のエスレックBM−1(ガラス転移点67℃)、ゴムとしてニトリルゴム(日本ゼオン社のNipol1072J)、硬化剤として、旭化成エポキシ社製のマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤である「ノバキュアHX3941」を、表1に示す割合(質量部)で配合し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート及びイソホロンの混合溶剤に溶解して、固形分50質量%である接着剤溶液を得た。
【0067】
なお、上記「ノバキュアHX3941」は、液状エポキシ樹脂中にマイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤を分散させたもので、マイクロカプセル型イミダゾール系硬化剤の含有率が35質量%、エポキシ樹脂(分散媒)の含有率が65質量%(ビスフェノールA型エポキシ樹脂13質量%、及びビスフェノールF型エポキシ樹脂52質量%)である。
【0068】
この接着剤溶液に、溶剤を除いた成分に対して、0.05体積%となるように、直鎖状ニッケル粒子を均一に分散して、導電性接着剤組成物を調製した。
調製した導電性接着組成物を、離型処理したPETフィルム上に塗布し、磁束密度100mTの磁場中で、70℃、40分間で、乾燥固化させることにより、膜厚方向に直鎖状Ni粒子が配向した、厚み35μmのフィルム状導電性接着剤を作製した。
【0069】
金メッキが施された銅電極(幅100μm、高さ18μm)が100μm間隔で50個配列されたフレキシブルプリント配線板と、金メッキが施された銅電極(幅100μm、高さ35μm)が100μm間隔で50個配列されたガラスエポキシ基板との間に、作製したフィルム状異方導電性接着剤を挟み、200℃に加熱しながら、2MPaの圧力で15秒間加圧して接着させ、フレキシブルプリント配線板とガラスエポキシ基板との接合体1を得た。加熱温度を180℃に変えた以外は同様して、接合体2を得た。
【0070】
この接合体1(又は2)を用いて、上記測定評価方法に基づき、接着強度、リペア性、初期接続抵抗、耐熱・耐湿性を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
No.1−3は熱可塑性エラストマーを含有する場合である。200℃で接合した場合、180℃で接合した場合、いずれも接着強度は、8.0N/cm以上であり、接合のための加熱加圧を180℃で行っても問題ないことがわかる。また、初期及び高温・高湿保存後も、絶縁抵抗は60mΩ以下で、接続信頼性に問題なかった。さらに、リペア性を満足できた。
【0073】
一方、熱可塑性エラストマーを含有しない場合(No.4)には、接続信頼性は、熱可塑性エラストマーを含有する場合と同程度であったが、接着強度が低く、リペア性も満足できなかった。さらに、接合作業の加熱温度を180℃に下げた場合、接着強度が5.8N/cmと大幅に低下し、200℃未満での接合作業はできないことがわかる。
【0074】
熱可塑性エラストマーに代えて、ポリビニルブチラールを含有させた場合(No.5)、熱可塑性エラストマーを用いた場合と比べて、リペア性、接続信頼性は同程度であった。しかしながら、200℃で接合した場合の接合体の接着強度が若干劣っており(8.0N/cm未満)、180℃で接合した接合体では、さらに接着強度が低下するため、接合時の加熱温度を200℃未満に下げることはできないことがわかる。
【0075】
また、熱可塑性エラストマーに代えて、ニトリルゴムを含有させた場合(No.6)、180℃で接合しても、接着強度7.0N/cm以上であり、接合温度を200℃未満とすることは可能であるが、溶剤溶解性が不十分なため、リペア性を満足できなかった。また、溶融流動性が低いため、接続信頼性が悪く、特に高温高湿仕様での接続信頼性の低下(接続抵抗の増大)が著しかった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のフィルム状異方導電性接着剤は、接続信頼性、接着強度を損なうことなく、リペア性を確保でき、さらに接合時の加熱温度を下げることも可能となるので、ユーザーにとって、接合作業現場の省エネルギー、接合不良の回路基板の再利用が容易となり、経済的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)フェノキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂、(C)熱可塑性エラストマー、(D)マイクロカプセル型イミダゾール系潜在性硬化剤、及び(E)導電性粒子を含むフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項2】
前記(C)熱可塑性エラストマーは、ポリアミド系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項3】
前記(C)熱可塑性エラストマーの樹脂全量に対する含有率は、2〜30質量%である請求項1又は2に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項4】
前記(A)フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項5】
前記(B)エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びナフタレン型エポキシ樹脂を含む請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム状異方導電性接着剤。
【請求項6】
前記(B)エポキシ樹脂は、さらにビスフェノールF型エポキシ樹脂を含む請求項5に記載のフィルム状異方導電性接着剤。

【図1】
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【公開番号】特開2013−60479(P2013−60479A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197861(P2011−197861)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【復代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
【Fターム(参考)】