説明

プレーナ型電磁アクチュエータ及びその製造方法

【課題】捩れ運動が繰返されるトーションバー部分に設けた引出し配線の金属疲労を低減する。
【解決手段】固定部に可動部を揺動可能に軸支するトーションバー3に、可動部側の駆動コイルと固定部側の電極端子を接続する引出し配線6を設ける構成のプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、シリコン基板で形成しその上面に引出し配線6を設けたトーションバー下層部3A上に、ガラス材で形成したトーションバー上層部3Bを陽極接合することにより、捩り応力の小さいトーションバー中心位置に引出し配線6を設ける構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造技術を利用して製造するプレーナ型電磁アクチュエータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のプレーナ型電磁アクチュエータとして、半導体基板を異方性エッチングして、枠状の固定部と、可動部と、固定部に可動部を揺動可能に軸支するトーションバーとを一体形成し、可動部に駆動コイルを設け、トーションバーの軸方向と平行な可動部両端縁部の駆動コイル部分に静磁界を作用させる静磁界発生手段(例えば永久磁石)を設ける構成のものがある。この電磁アクチュエータは、外部の駆動回路から駆動コイルに電流を供給すると、駆動コイルを流れる電流と永久磁石の静磁界との相互作用により発生する駆動力(ローレンツ力)が可動部に作用し、可動部がトーションバーの軸回りに駆動する。そして、回動動作する可動部の駆動コイルへの電流供給は、トーションバー上に配線した引出し配線により、外部駆動回路との接続用に設ける固定部側の電極端子と駆動コイルとを電気的に接続するようにしている。しかし、トーションバーの表面に引出し配線を配線しているため、可動部の揺動に伴うトーションバーの捩れ運動の繰返しにより、引出し配線に過度の捩り応力が作用し、金属疲労を起こし易いという問題があった。
【0003】
かかる問題を解消するため、特許文献1に記載されたようなプレーナ型電磁アクチュエータが提案されている。このプレーナ型電磁アクチュエータは、トーションバーに溝を形成し、この溝内に引出し配線を埋め込む構成とすることで、引出し配線に作用する捩り応力を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−51224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように溝内に引出し配線を埋め込む構成では、トーションバーの捩れ運動によって溝の側面が外側に広がろうとする。このため、例えば高い共振周波数で可動部を駆動させるために、トーションバーが剛性の高いシリコンやシリコンを主成分とする材料で形成されている場合、溝の底部のエッジ部分に応力集中が起こり、その応力集中部分から割れが発生し易く、トーションバーの強度が低下するという問題が発生する。
【0006】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、トーションバーの強度を低下させることなく、引出し配線の金属疲労を低減するようにしたプレーナ型電磁アクチュエータを提供することを目的とする。また、このプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、請求項1に記載の本発明は、枠状の固定部と、可動部と、該可動部を前記固定部に揺動可能に軸支するトーションバーとを有し、前記可動部に設けた駆動コイルと前記固定部に配置した電極端子とを電気的に接続する引出し配線を、前記トーションバー部分を介して配線し、前記駆動コイルに電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、シリコン又はシリコンを主成分とする材料で形成した前記トーションバーの略中心位置に、前記引出し配線を設ける構成としたことを特徴とする。
【0008】
具体的には、請求項2のように、少なくとも前記トーションバー部分を、前記引出し配線を設けた下層部と、トーションバーの略中心位置に前記引出し配線が位置するように前記下層部上に接合する上層部とで構成した。
【0009】
かかる構成では、トーションバーの捩れ運動に伴う下層部と上層部のそれぞれの変形動作が互いに拘束されるようになり、変形動作に起因するトーションバーの割れの発生を防止できるようになる。
【0010】
請求項3のように、互いに接合する前記下層部と前記上層部のどちらか一方の接合面に凹部を形成し、他方の接合面に接合時に前記凹部と嵌合可能な凸部を形成する構成とするとよい。
かかる構成では、下層部と上層部の接合面積が多くなり、より高い接合力を得ることができるようになる。
【0011】
請求項4のように、前記下層部は、平坦状の上面略中央位置に前記引出し配線を設ける構成とするとよい。この場合、請求項5のように、前記上層部は、前記引出し配線と対応する部位に溝部を有する構成とするとよい。
【0012】
請求項6のように、下層部は、上面略中央位置に溝部を形成し、この溝部に前記引出し配線を設ける構成としてもよい。
【0013】
請求項7のように、前記固定部、可動部及びトーションバーの各部分を、シリコン又はシリコンを主成分とする材料で一体形成し少なくとも前記電極端子及び引出し配線を設けた下層部と、同じくシリコン又はシリコンを主成分とする材料で一体形成し前記下層部上面に接合する上層部とからなる積層構造とし、前記駆動コイルを、前記下層部及び上層部のどちらか一方の上面に設ける構成とするとよい。この場合、請求項8のように、前記下層部側に前記駆動コイルを設けるとき、下層部側の前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する前記上層部の部位に、貫通穴を設ける構成とするとよい。
【0014】
請求項9のように、前記下層部側に前記駆動コイルを設け、前記下層部が上面略中央位置に形成した溝部に前記引出し配線を設ける構成であるときに、前記上層部は、前記引出し配線と対応する部位を平坦状に形成する一方、前記駆動コイルに対応する部位に溝部を形成し、前記電極端子と対応する部位に貫通穴を設ける構成とするとよい。
【0015】
請求項10のように、前記下層部と前記上層部との間に、少なくとも前記電極端子及び前記引出し配線に対応する部位に貫通穴を形成した中間層を介在させる構成とするとよい。
【0016】
請求項11のように、前記中間層は、前記下層部側に前記駆動コイルを設けるとき、下層部側の前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する部位に、貫通穴を設ける構成とするとよい。
【0017】
請求項12のように、前記下層部上面と前記中間層上面に跨って前記駆動コイルを形成し、前記中間層下面の駆動コイルと対応する部位及び前記上層部下面の駆動コイルと対応する部位にそれぞれ溝部を形成する構成とするとよい。
【0018】
請求項13に記載の発明は、枠状の固定部と、可動部と、該可動部を前記固定部に揺動可能に軸支するトーションバーとを有し、前記可動部に設けた駆動コイルと前記固定部に配置した電極端子とを電気的に接続する引出し配線を、前記トーションバーの略中心位置に設け、前記駆動コイルに電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、シリコン又はシリコンを主成分とする材料からなる前記トーションバーの下層部に、前記引出し配線を形成し、前記トーションバーの下層部上にトーションバーの上層部を接合して、前記引出し配線をトーションバーの略中心に位置させるようにしたことを特徴とする。
【0019】
請求項14のように、前記トーションバー下層部の平坦上面に前記引出し配線を形成し、引出し配線形成領域と対応する部位に溝部又は貫通穴を設けた前記トーションバー上層部を接合するようにしてもよく、請求項15のように、前記トーションバー下層部の上面に溝部を形成し、この溝部に前記引出し配線を形成し、前記トーションバー上層部を接合するようにしてもよい。
【0020】
請求項16のように、前記トーションバー下層部と一体形成した固定部下層部と可動部下層部上に、前記トーションバー上層部と一体形成した固定部上層部と可動部上層部を接合するようにするとよい。
【0021】
請求項17のように、前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線を形成し、前記各下層部の電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する前記固定部、可動部及びトーションバーの各上層部の部位に貫通穴を形成し、前記下層部上に前記上層部を接合するようにするとよい。また、請求項18のように、前記可動部及びトーションバーの各上層部に、前記貫通穴に代えて溝部を形成するようにしてもよい。
【0022】
請求項19のように、前記下層部と前記上層部を、陽極接合により接合してもよく、請求項20のように、前記下層部と前記上層部を、常温接合により接合してもよい。
【0023】
請求項21のように、前記固定部及びトーションバーの各下層部に、前記電極端子及び引出し配線を一体形成し、前記可動部上層部の上面に前記駆動コイルを形成し、前記下層部上に前記上層部を接合し、下層部側の引出し配線と上層部側の駆動コイルとを導電材料で電気的に接続するようにするとよい。
【0024】
請求項22のように、前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線を形成し、前記下層部上に、前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する部位に貫通穴を形成した中間層を接合し、該中間層上に前記上層部を接合するようにするとよい。
【0025】
請求項23のように、前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、引出し配線及び駆動コイルの一部を形成し、前記電極端子及び引出し配線と対応する部位に貫通穴を形成し駆動コイルの一部に対応する部位に溝部を形成し上面に前記駆動コイルの残り部分を形成した中間層を、前記下層部上に接合し、下層部側の駆動コイル部と中間層側の駆動コイル部を導通部材で接続し、前記中間層に形成した駆動コイルと対応する部位に溝部を形成した前記上層部を、前記中間層上に接合するようにするとよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のプレーナ型電磁アクチュエータによれば、シリコン又はシリコンを主成分とする材料のような剛性の高い材料で形成したトーションバーの略中心位置に引出し配線を設ける構成としたので、配線に作用する捩り応力を低減でき、引出し配線の金属疲労による引出し配線の寿命の低下を防止できる。具体的には、トーションバーの引出し配線を設けた下層部に、トーションバーの略中心位置に前記引出し配線が位置するように上層部を接合する構成とすることで、トーションバーの捩れ運動に伴う下層部と上層部のそれぞれの変形動作が互いに拘束され、変形動作に起因するトーションバーの割れの発生を防止できる。従って、剛性の高い材料で形成したトーションバーの強度低下を防止でき、しかも、引出し配線の金属疲労による引出し配線の寿命の低下を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態を示す平面図。
【図2】第1実施形態における下層部の平面図。
【図3】第1実施形態における上層部の平面図。
【図4】図1のA−A矢視断面図。
【図5】第1実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図6】第1実施形態の変形例におけるトーションバー部分の断面図。
【図7】図6の変形例における上層部の平面図。
【図8】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態を示す平面図。
【図9】第2実施形態における上層部の平面図。
【図10】図8のB−B矢視断面図。
【図11】第2実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図12】図11に続く製造工程の説明図
【図13】第2実施形態の各変形例におけるトーションバー部分の断面図。
【図14】本発明を2次元駆動タイプのプレーナ型電磁アクチュエータに適用した場合の上層部の一例を示す平面図
【図15】本発明の第3実施形態を示す概略平面図。
【図16】本発明の第4実施形態を示す概略平面図。
【図17】各実施形態における下層部と上層部の接合面の別の構成例を示す断面図。
【図18】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第5実施形態を示す平面図。
【図19】第5実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図20】第5実施形態の上層部の製造工程の説明図。
【図21】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第6実施形態を示す平面図。
【図22】第6実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程の説明図。
【図23】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第7実施形態を示す分解斜視図。
【図24】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第8実施形態を示す分解斜視図。
【図25】本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの左右の分割構造例を示すトーションバー部分の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第1実施形態の平面図を示す。
図1において、本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ1は、1次元駆動タイプであり、枠状の固定部2に一対のトーションバー3,3を介して平板状の可動部4を回動可能に軸支する。固定部2、トーションバー3,3及び可動部4は、例えば半導体基板である例えばSOI(Silicon-on-insulator)基板を用いて一体に形成される図2に示すような上面平坦状の下層部1Aと、下層部1Aと略同じ形状で下層部1A上に接合される図3に示すような上層部1Bとで構成されている。
【0029】
図2に示すように、下層部1Aには、可動部下層部4A上の周縁部に電流を供給する駆動コイル5が形成され、この駆動コイル5の両端は、各トーションバー下層部3A,3A上に形成した引出し配線6を介して固定部下層部2A上に形成した一対の電極端子7,7に電気的に接続される。
【0030】
一方、図3に示すように、上層部1Bの接合面側には、駆動コイル形成領域に対応する可動部上層部4Bの部位及び引出し配線形成領域に対応する各トーションバー上層部3B,3Bの部位に、図3に破線で示すような溝部8を形成してある。また、電極端子形成領域に対応する固定部上層部2Bの部位には、電極端子7をワイヤーボンディングにより外部の駆動回路と電気的に接続するための貫通穴9を形成してある。
【0031】
そして、例えば従来の略半分の厚さの下層部1Aに略同じ厚さの上層部1Bを接合することにより、図1のA−A矢視断面図である図4に示すようにシリコン又はシリコンを主成分とする材料(例えば窒化シリコン等)で形成するトーションバー3,3の略中心に引出し配線6が位置するようになる。
【0032】
また、トーションバー3,3の軸方向と平行な可動部対辺部と対面する固定部2の外方に、従来と同様に前記可動部対辺部の駆動コイル5部分に静磁界を作用する一対の例えば永久磁石10,10が、互いに反対磁極を対向して配置される。ここで、駆動コイル5を流れる電流と永久磁石10,10の静磁界との相互作用により駆動力(ローレンツ力)が発生して可動部4を駆動する。尚、永久磁石に代えて電磁石を用いてもよい。
【0033】
下層部1Aと上層部1Bの接合方法は、陽極接合や常温接合で行う。陽極接合の場合、上層部1Bにアルカリイオン(例えばナトリウムイオン等)を含んだガラス材料を用い、シリコンの下層部1Aに対して直接接触させて接合処理(加熱・電圧印加)する。また、上層部1Bにシリコンを用いるときは、下層部1Aと上層部1Bのどちらか一方の接合面側に、アルカリイオン(例えばナトリウムイオン等)を含んだガラス成分層(例えばSiO2層)をスパッタリング等で形成し接合処理すればよい。尚、下層部1A側に前記ガラス成分層を形成する場合は下層部1Aの上面全域に形成すればよい。また、上層部1B側に前記ガラス成分層を形成する場合、溝部8を含めて上層部1Bの下面全域に形成してもよく、下層部1A上面と直接接合する溝部8以外の接合面のみに形成するようにしてもよい。また、常温接合する場合は、上層部1Bはシリコンの下層部1Aに対して常温接合可能な材料であればよく、下層部1のシリコンと熱膨張係数が略同じである材料であればより好ましい。
【0034】
かかる本実施形態の構成によれば、可動部4の揺動動作時にトーションバー3,3に作用する捩り応力が小さいトーションバー中心位置に引出し配線6を設けたので、引出し配線6に作用する捩り応力を低減でき、金属疲労に起因する引出し配線6の寿命低下を防止できる。また、引出し配線6がトーションバー3,3内に埋め込まれているので、引出し配線6に銅やアルミニウムを使用した場合には腐食も防止できる。更に、駆動コイル5や引出し配線6を上層部1Bで覆った封止構造によって、駆動コイル5や引出し配線6を外気と遮断できるので、銅やアルミニウムを使用した駆動コイル5や引出し配線6の腐食をより一層抑制できるという効果を有する。従って、プレーナ型電磁アクチュエータ1の寿命を向上することができる。
【0035】
次に、上記第1実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程を図5に基づいて説明する。尚、図5は、図1のX−O−Yに沿った断面を示す。
工程(a)では、SOI基板100を準備する。SOI基板100は、例えばシリコン活性層100aと、埋め込み酸化膜100bと、シリコン支持基板層100cを積層した構造である。このSOI基板100の両面に、例えば1μm程度の熱酸化膜(SiO2膜)101a,101bを形成する。
【0036】
次に、工程(b)において、駆動コイル5、引出し配線6及び電極端子7を形成する。熱酸化膜101aの略全面に良電導性の金属として例えばアルミニウムの薄膜を1μm程度の厚さでスパッタリング等により形成する。その後、駆動コイル、引出し配線、電極端子及びコンタクト部にそれぞれ相当する部分を、ポジ型レジストでマスクしてアルミニウム薄膜をエッチングした後、ポジ型レジストを除去する。これにより、1層目の電極端子部、駆動コイル部、引出し配線部、コンタクト部を形成する。更に、無機や有機の絶縁物質を塗布し、1層目の駆動コイル部分をマスクした後、絶縁物質を除去する。これにより、1層目の駆動コイル部分を覆う層間絶縁膜102を形成する。更に、1層目と同様の形成方法により、2層目の電極端子部、駆動コイル部、引出し配線部、コンタクト部を形成する。これにより、電極端子7、引出し配線6、1層目と2層目がコンタクト部5aで接続された駆動コイル5が形成される。尚、必要に応じてこれら電気配線上に保護膜を形成してもよい。
【0037】
次に、工程(c)において、ガラス材(アルカリイオンを含む)を予め加工して形成した図3の上層部1Bの接合領域のSiO2膜101aを除去した後、前記上層部1Bを陽極接合する。その後、電極端子7がエッチングされないようにレジストでマスクし、裏面側のSiO2膜101bとシリコン支持基板層100cをエッチング除去する。
【0038】
次に、工程(d)において、裏面の埋め込み酸化膜100bを除去し、固定部2、可動部4及びトーションバー3,3の各下層部領域を除いた領域のシリコン活性層100aをエッチングして除去する。これにより、図1の電磁アクチュエータ1が製造される。
【0039】
その後、例えば、可動部4の上下面の両方又はどちらか一方に、金等の反射ミラーを成膜し、このアクチュエータチップを基板に取付け、ワイヤーボンディングで外部回路と電気的に接続し、更に、ヨーク及び永久磁石10,10を取付けることにより、光走査用のプレーナ型電磁アクチュエータを提供できる。
【0040】
尚、上記第1実施形態の変形例として、図6のように溝部8に代えて貫通穴21を設けてもよい。この場合、図7に示すように、下層部1Aの電極端子、引出し配線及び駆動コイルの形成領域に対応する上層部1Bの部位に連続した貫通穴21を形成する。
【0041】
次に、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態について説明する。
図8は、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第2実施形態の平面図、図9はアクチュエータの上層部の平面図、図10は、図8のB−B矢視断面図である。
本第2実施形態の電磁アクチュエータ31も、第1実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ1と同様に、枠状の固定部32、一対のトーションバー33,33及び平板状の可動部34を備える。固定部32、トーションバー33,33及び可動部34は、例えば半導体基板である例えばSOI(Silicon-on-insulator)基板を用いて一体に形成される下層部31Aと、下層部31Aと略同じ形状で下層部31A上に接合される図9に示す上層部31Bとで構成され、第1実施形態と同様に、陽極接合或いは常温接合によって接合されている。尚、静磁界発生手段としての一対の永久磁石は図示を省略してある。
【0042】
第2実施形態の電磁アクチュエータ31では、図10に示すようにトーションバー下層部33Aの略中央位置に溝部41を形成し、この溝部41に引出し配線36を設ける一方、下層部33Aに接合するトーションバー上層部33Bの接合面を平坦状に形成していることが第1実施形態のアクチュエータ1と異なる。
【0043】
尚、図9に示すように、上層部31Bには、下層部31Aの駆動コイル形成領域や電極端子形成領域にそれぞれ対応する可動部上層部34Bの部位や固定部上層部32Bの部位に、溝部38や貫通穴39が形成されていることは第1実施形態の上層部1Bと同様である。また、下層部31Aは、駆動コイル35、一対の電極端子37,37が第1実施形態と同様に形成されており、トーションバー下層部33Aに前記溝部41を形成すること以外は第1実施形態の下層部1Aと同じ構成である。
【0044】
かかる第2実施形態も第1実施形態と同様に、引出し配線36に作用する捩り応力の低減により、金属疲労に起因する引出し配線36の寿命低下を防止できると共に、駆動コイル35や引出し配線36を上層部31Bで覆った封止構造によって、銅やアルミニウムを使用した駆動コイルや引出し配線の腐食を抑制できるので、プレーナ型電磁アクチュエータ1の寿命を向上することができる。また、トーションバー下層部33Aの溝部41の両側に接合しているトーションバー上層部33Bが、トーションバー33に捩り応力が作用した場合でも溝部41両側が外側へ広がろうとするのを妨げるので、溝部41底部のエッジ部分で発生する割れ現象を防止できる。従って、シリコン或いはシリコンを主成分とする材料のような剛性の高い材料で形成されたトーションバーの強度低下を抑制できる。
【0045】
次に、上記第2実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程を図11及び図12に基づいて説明する。尚、図11及び図12は、図8のX−O−Yに沿った断面を示す。
【0046】
工程(a)では、第1実施形態と同じである。例えばシリコン活性層100aと、埋め込み酸化膜100bと、シリコン支持基板層100cを積層した構造のSOI基板100を準備し、SOI基板100の両面に、例えば1μm程度の熱酸化膜(SiO2膜)101a,101bを形成する。
【0047】
次に、工程(b)において、SOI基板100のトーションバー下層部形成領域における引出し配線形成領域の熱酸化膜(SiO2膜)をエッチング除去し、更に、ドライエッチング或いはウェットエッチングでシリコン活性層100aを例えば5μm程度エッチングして溝部41を形成する。
【0048】
次に、工程(c)において、引出し配線36とシリコン活性層100aとを絶縁するために再度熱酸化して溝部41に熱酸化膜を形成した後、スパッタリング、蒸着或いはメッキ等の従来公知の技術を用いて溝部41にアルミニウムの引出し配線36を形成する。尚、引出し配線36は、アルミニウムに限らず銅或いは金等の電気抵抗が小さく形成し易い金属であればよい。また、引出し配線形成後に、表面を平坦化するためにCMP(Chemical Mechanical Polishing)を行ってもよい。
【0049】
工程(d)では、駆動コイル35及び電極端子37を、引出し配線36と電気的に接続するよう形成する。この工程は、第1実施形態の工程(b)と略同様である。即ち、略全面にアルミニウムの薄膜をスパッタリング等により形成する。その後、駆動コイル、電極端子及びコンタクト部にそれぞれ相当する部分を、ポジ型レジストでマスクしてアルミニウム薄膜をエッチングした後、ポジ型レジストを除去して1層目の電極端子部、駆動コイル部、コンタクト部を形成する。更に、無機や有機の絶縁物質を塗布し、1層目の駆動コイル部分をマスクした後、絶縁物質を除去して、1層目の駆動コイル部分を覆う層間絶縁膜102を形成する。更に、1層目と同様の形成方法により、2層目の電極端子部、駆動コイル部、コンタクト部を形成し、引出し配線36に電気的に接続した電極端子37及び駆動コイル35が形成される。尚、図中、35aはコンタクト部である。また、必要に応じてこれら電気配線上に保護膜を形成してもよい。
【0050】
次に、工程(e)において、第1実施形態と同様にして、ガラス材(アルカリイオンを含む)を予め加工して形成した図9の上層部31Bの接合領域のSiO2膜101aを除去した後、前記上層部31Bを陽極接合する。その後、電極端子37がエッチングされないようにレジストでマスクし、裏面側のSiO2膜101bとシリコン支持基板層100cをエッチング除去する。
【0051】
次に、工程(f)において、第1実施形態と同様にして、裏面の埋め込み酸化膜100bを除去し、固定部32、可動部34及びトーションバー33,33の各下層部領域を除いた領域のシリコン活性層100aをエッチングして除去する。これにより、図8の電磁アクチュエータ31が製造される。
【0052】
その後、前述したように反射ミラーを成膜し、基板に取付け、ワイヤーボンディングで外部回路と電気的に接続し、更に、ヨーク及び永久磁石を取付けることにより、光走査用のプレーナ型電磁アクチュエータを提供できる。
【0053】
尚、上記第2実施形態の変形例として、図13(A)に示すように、トーションバー33B部分に溝部8を形成した第1実施形態と同じ形状の上層部31Bを接合するようにしてもよく、同図(B)に示すように図7と同じ貫通穴21を形成した上層部31Bを接合するようにしてもよい。
【0054】
上記各実施形態は、1次元駆動タイプの電磁アクチュエータについて説明したが、2次元駆動タイプの電磁アクチュエータにも適用できる。
2次元駆動タイプは、枠状の固定部に外側トーションバーを介して回動可能に軸支される枠状の外側可動部と、外側トーションバーと軸方向が直交する内側トーションバーを介して外側可動部の内側に回動可能に軸支される内側可動部とを備え、内側可動部を二次元駆動できる構成である。
【0055】
かかる構成の2次元駆動タイプにおいて、下層部全面に上層部を接合する場合の上層部の一例を図14に示す。
図14において、2Bは枠状の固定部上層部、3B−1は外側トーションバー上層部、3B−2は内側トーションバー上層部、4B−1は外側可動部上層部、4B−2は内側可動部上層部を示す。2次元駆動タイプの場合、外側可動部に設ける外側駆動コイルと内側可動部に設ける内側駆動コイルが存在する。このため、固定部には4つの電極端子が存在するので、図14に示すように枠状の固定部上層部2Bに4つの貫通穴9を形成する。また、外側トーションバーに内外駆動コイルのそれぞれの引出し配線が平行して配線されるので、第1実施形態のようにトーションバー部分に溝部8を形成する場合には、外側トーションバー上層部3B−1には2つの溝部を平行して形成する。
【0056】
上記各実施形態では、電磁アクチュエータの全面に上層部を接合する構成を説明したが、図15の第3実施形態や図16の第4実施形態のように1次元駆動タイプや2次元駆動タイプにおいて、アクチュエータ下層部1A,31A,51Aのトーションバー部分のみに、上層部60を接合する構成としてもよい。尚、図15及び図16では、図の簡略のために可動部上の駆動コイル部分は図示を省略してある。
【0057】
上述のようにトーションバー部分のみ上層部を設ける構成では、全面に上層部を設ける場合と比較して可動部を軽量化できるので、駆動周波数(共振周波数)を高くできる。ただし、全面に上層部を設ける構成では、多数の下層部と上層部をそれぞれ形成した各ウエハを互いに接合した後に、チップ単位に分割することが可能であるので、製造工程が容易であるという利点がある。
【0058】
上述した各実施形態では、上層部と下層部の接合面を平坦としたが、図17(A)に示すように、下層部1Aの接合面に凹部25を形成し、上層部1Bの接合面に凸部26を形成し、下層部1Aと上層部1Bを接合したときに、同図(B)に示すように凹部25と凸部26が互いに嵌合するように構成するとよい。かかる構成により、接合強度をより一層高めることができる。
【0059】
尚、下層部1A側に凸部26を形成し、上層部1B側に凹部25を形成するようにしてもよい。図17では、第1実施形態を例に説明したが、他の実施形態でも同様に構成することができることは言うまでもない。
【0060】
上述の各実施形態では、駆動コイルを下層部側に形成する構成について示したが、上層部側に形成するようにしてもよく、図18にその一例を示す。
図18は、本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第5実施形態を示す平面図である。
図18において、第5実施形態の電磁アクチュエータ71は、上層部71B上面の可動部部分に駆動コイル75を形成した以外は、第1実施形態と同様の構成であり、枠状の固定部72、一対のトーションバー73,73及び平板状の可動部74を備え、例えばSOI基板を用いて一体に形成される下層部71Aと、下層部71A上に接合される上層部71Bとで構成される。下層部71Aと上層部71Bは、陽極接合或いは常温接合によって接合されている。図中の斜線部分は、駆動コイル75を覆う絶縁性の保護膜80を示す。また、81は、上層部71B側の駆動コイル75と下層部71A側の引出し配線76を電気的に接続する後述する例えば導電性樹脂等の導電部材を示す。尚、静磁界発生手段としての一対の永久磁石は図示を省略してある。
【0061】
次に、第5実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程を図19及び図20に基づいて説明する。尚、図19及び図20は、図18のX−O−Yに沿った断面を示す。
【0062】
図19において、工程(a)では、例えばシリコン活性層100aと、埋め込み酸化膜100bと、シリコン支持基板層100cを積層した構造のSOI基板100を準備し、SOI基板100の両面に、例えば1μm程度の熱酸化膜(SiO2膜)101a,101bを形成する。
【0063】
次に、工程(b)において、第1実施形態と同様の方法で引出し配線76及び電極端子77を形成する。熱酸化膜101aの略全面に例えばアルミニウムの薄膜を、スパッタリング、蒸着或いはメッキ等の従来公知の技術を用いて形成する。その後、引出し配線及び電極端子にそれぞれ相当する部分を、ポジ型レジストでマスクしてアルミニウム薄膜をエッチングした後、ポジ型レジストを除去する。これにより、電極端子77及び引出し配線76を形成する。更に、無機や有機の絶縁物質を塗布し、引出し配線部を、その駆動コイル接続端部を除いてマスクした後、絶縁物質を除去することにより、引出し配線76を覆う絶縁膜102を形成する。
【0064】
次に、工程(c)において、図20に示すように予め駆動コイル75を形成し加工した上層部71Bの接合領域のSiO2膜101aを除去した後、前記上層部71Bを陽極接合する。その後、電極端子77がエッチングされないようにレジストでマスクし、裏面側のSiO2膜101bとシリコン支持基板層100cをエッチング除去する。
【0065】
次に、工程(d)において、裏面の埋め込み酸化膜100bを除去し、固定部72、可動部74及びトーションバー73,73の各下層部領域を除いた領域のシリコン活性層100aをエッチングして除去する。その後、下層部71Aの引出し配線76と上層部71Bの駆動コイル75を電気的に接続するため、導電性樹脂等の導電部材81を上層部71Bに形成した貫通穴82(図20に示す)に充填する。これにより、図18の電磁アクチュエータ71が製造される。
【0066】
図20に示す上層部71Bの製造工程については、工程(a)で、例えば厚さ400μmのガラス材200を準備する。
【0067】
次に、工程(b)で、ガラス材200の上面に、駆動コイルを形成する。ガラス材200の略全面に例えばアルミニウムの薄膜を、スパッタリング、蒸着或いはメッキ等の従来公知の技術を用いて形成する。その後、駆動コイル75及びコンタクト部75aにそれぞれ相当する部分を、ポジ型レジストでマスクしてアルミニウム薄膜をエッチングした後、ポジ型レジストを除去する。これにより、1層目の駆動コイル部及びコンタクト部を形成する。更に、無機や有機の絶縁物質を塗布し、1層目の駆動コイル部分をマスクした後、絶縁物質を除去する。これにより、1層目の駆動コイル部分を覆う層間絶縁膜を形成する。更に、1層目と同様の形成方法により、2層目の電極端子部及びコンタクト部を形成する。その後、引出し配線76と接続する駆動コイル端部を除いて保護膜80を形成する。
【0068】
工程(c)で、ガラス材200を所望の厚さ(例えば100μm)にエッチング又は研磨する。その後、引出し配線76に対応する部位をエッチングし、その後、貫通穴79、82を貫通エッチングする。これにより、駆動コイル75を上面に設けた上層部71Bが形成される。
【0069】
図21は、第2実施形態の上下層部において駆動コイルを上層部側に形成した本発明のプレーナ型電磁アクチュエータの第6実施形態を示す平面図である。尚、第5実施形態と同一要素には同一符号を付してある。
【0070】
図21において、第6実施形態の電磁アクチュエータ91は、上層部91B上面の可動部部分に駆動コイル95を形成した以外は、第2実施形態と同様の構成であり、枠状の固定部92、一対のトーションバー93,93及び平板状の可動部94を備え、下層部91Aと、下層部91A上に接合される上層部91Bとで構成される。図中の斜線部分は、駆動コイル95を覆う第5実施形態で説明した絶縁性保護膜80を示す。また、81は、上層部91B側の駆動コイル95と下層部91A側の引出し配線96を電気的に接続する第5実施形態と同様の導電部材である。尚、静磁界発生手段としての一対の永久磁石は図示を省略してある。
【0071】
次に、第6実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータの製造工程を図22に基づいて説明する。尚、図22は、図21のX−O−Yに沿った断面を示す。
【0072】
図22において、工程(a)では、例えばシリコン活性層100aと、埋め込み酸化膜100bと、シリコン支持基板層100cを積層した構造のSOI基板100を準備し、SOI基板100の両面に、例えば1μm程度の熱酸化膜(SiO2膜)101a,101bを形成する。
【0073】
次に、工程(b)において、第2実施形態と同様に、SOI基板100のトーションバー下層部形成領域における引出し配線形成領域の熱酸化膜(SiO2膜)をエッチング除去し、更に、ドライエッチング或いはウェットエッチングでシリコン活性層100aを例えば5μm程度エッチングして溝部41を形成する。
【0074】
次に、工程(c)において、引出し配線96とシリコン活性層100aとを絶縁するために再度熱酸化して溝部41に熱酸化膜を形成した後、スパッタリング、蒸着或いはメッキ等の従来公知の技術を用いて溝部41にアルミニウムの引出し配線96及び電極端子97を形成する。更に、無機や有機の絶縁物質を塗布し、電極端子及び引出し配線部の駆動コイル接続端部を除いてマスクした後、絶縁物質を除去することにより、引出し配線96を覆う絶縁膜102を形成する。これにより、下層部91Aが完成する。尚、引出し配線96及び電極端子97の形成後に、表面を平坦化するためにCMP(Chemical Mechanical Polishing)を行ってもよい。
【0075】
次に、工程(d)において、予め駆動コイル95を形成し加工した上層部91Bの接合領域のSiO2膜101aを除去した後、前記上層部91Bを陽極接合した後、電極端子97がエッチングされないようにレジストでマスクし、裏面側のSiO2膜101bとシリコン支持基板層100cをエッチング除去する。尚、前記上層部91Bの製造工程は、図20で説明した第5実施形態と略同様であり、引出し配線96に対応する部位をエッチングしないことが異なるだけであるので、ここでは説明を省略する。
【0076】
次に、工程(e)において、裏面の埋め込み酸化膜100bを除去し、固定部92、可動部94及びトーションバー93,93の各領域を除いた領域のシリコン活性層100aをエッチングして除去する。その後、第5実施形態と同様に、下層部91Aの引出し配線96と上層部91Bの駆動コイル95を電気的に接続するため、導電性樹脂等の導電部材81を上層部91Bに形成した貫通穴82に充填する。これにより、図21の電磁アクチュエータ91が製造される。
【0077】
上述の各実施形態は、下層部と上層部の2層構造であるが、この場合、電気配線部分との干渉をさけるために少なくともどちらか一方の層に溝加工を行う必要がある。溝加工ではその深さ等の制御が面倒である。かかる問題を解消するため、図23に示す第7実施形態のように、下層部と上層部との間に中間層を介在させた3層構造とするとよい。
【0078】
図23は、中間層を介在させた3層構造とした本発明の第7実施形態を示す分解斜視図を示す。
図23において、本実施形態のプレーナ型電磁アクチュエータ301は、駆動コイル305、引出し配線306及び電極端子307を形成した下層部301Aと、前記駆動コイル305、引出し配線306及び電極端子307に対応する部位に貫通穴310を形成し前記下層部301A上に接合する中間層301Cと、電極端子307と外部回路を電気的に接続するためのワイヤーボンディング用の貫通穴309を形成し中間層301C上に接合する略平板状に形成した上層部301Bと、を設けた3層構造である。
【0079】
かかる構成によれば、中間層301C及び上層部301Bに対して、深さ制御等が面倒な溝加工よりも加工が容易な貫通エッチングによる貫通穴加工を行えばよく、製造が容易になる。
【0080】
尚、第5及び第6実施形態のように、上層部301の可動部形成領域に引出し配線と駆動コイルとを接続するための貫通穴を設け、上層部301B上面に駆動コイルを形成するようにしてもよい。この場合、中間層301Cは、引出し配線及び電極端子に対応する部位だけに貫通穴310を形成すればよい。
【0081】
また、図24に示す第8実施形態のように、駆動コイル305が下層部301A上面と中間層301C上面に跨るように、下層部301Aの上面に駆動コイル305の一部を形成し、中間層301Cの可動部領域上面を平面状に形成して駆動コイル305の残りの部分を形成する構成としてもよい。この場合、下層部301A側の駆動コイル部305aに対応する中間層301C下面部位及び中間層301C側の駆動コイル部305bに対応する上層部301Bの下面部位には、駆動コイル部305a、305bと干渉しないようにそれぞれ溝部(図示せず)形成する。尚、図23の実施形態と同一要素には同一符号を付してある。
【0082】
図24の第8実施形態の場合、下層部301Aに、予め駆動コイル部305aを形成し、中間層301Cに、予め駆動コイル部305bを形成すると共に下層部301A側の駆動コイル部305a及び引出し配線306との接続領域に貫通穴を形成し、下層部301A上に中間層301Cを接合し、その後、例えば、導電性樹脂等の導電部材(図示せず)を貫通穴に充填して駆動コイル部305aと305b及び駆動コイル部305bと引出し配線306を互いに導通させて製造するようにすればよい。尚、中間層301Cは、一層に限らず複数層設け、それぞれの中間層に駆動コイル部を配置するようにしてもよい。
【0083】
上述の各実施形態では、固定部、トーションバー及び可動部の各部分を上下に分割形成することで、トーションバーの略中心位置に引出し配線を配置させる構成としたが、トーションバーの略中心軸に沿って固定部、トーションバー及び可動部の各部分を左右に分割形成することにより、図25に示すように、トーションバー320の略中心位置に引出し配線321を配置させる構成としてもよい。図25の(A)は、左右に分割した分割部材のトーションバー領域320A、320Bのいずれか一方の接合面に溝部322を形成して引出し配線321を設ける構成を示す。また、同図(B)は、分割部材のトーションバー領域320A、320Bの接合面を互いに段付形状に形成し、段付部分に引出し配線321を配置する構成である。
【0084】
尚、上層部上面に駆動コイルを設ける構成や、中間層を介在させる構成は、2次元駆動タイプの電磁アクチュエータにも適用可能である。また、図17に示すように、下層部の接合面と上層部1Bの接合面のどちらか一方に凸部26を形成し他方に凹部25を形成する構成に関しても適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0085】
1、31、71、91、301 電磁アクチュエータ
1A、31A、51A、71A、91A、301A 下層部
1B、31B、60、71B、91B、301B 上層部
2、32、72、92 固定部
3、33、73、93 トーションバー
4、34、74、94 可動部
5、35、75、95、305(305a、305b) 駆動コイル
6、36、76、96、306 引出し配線
7、37、77、97、307 電極端子
8、38、41 溝部
9、21、39、79、82、99、309、310 貫通穴
25 凹部
26 凸部
80 保護膜
82 導電部材
301C 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の固定部と、可動部と、該可動部を前記固定部に揺動可能に軸支するトーションバーとを有し、前記可動部に設けた駆動コイルと前記固定部に配置した電極端子とを電気的に接続する引出し配線を、前記トーションバー部分を介して配線し、前記駆動コイルに電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータにおいて、
シリコン又はシリコンを主成分とする材料で形成した前記トーションバーの略中心位置に、前記引出し配線を設ける構成としたことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項2】
少なくとも前記トーションバー部分を、前記引出し配線を設けた下層部と、トーションバーの略中心位置に前記引出し配線が位置するように前記下層部上に接合する上層部とで構成したことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項3】
互いに接合する前記下層部と前記上層部のどちらか一方の接合面に凹部を形成し、他方の接合面に接合時に前記凹部と嵌合可能な凸部を形成する構成である請求項2に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項4】
前記下層部は、平坦状の上面略中央位置に前記引出し配線を設ける構成である請求項2又は3に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項5】
前記上層部は、前記引出し配線と対応する部位に溝部を有する構成である請求項4に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項6】
前記下層部は、上面略中央位置に溝部を形成し、この溝部に前記引出し配線を設ける構成である請求項2又は3に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項7】
前記固定部、可動部及びトーションバーの各部分を、シリコン又はシリコンを主成分とする材料で一体形成し少なくとも前記電極端子及び引出し配線を設けた下層部と、同じくシリコン又はシリコンを主成分とする材料で一体形成し前記下層部上面に接合する上層部とからなる積層構造とし、前記駆動コイルを、前記下層部及び上層部のどちらか一方の上面に設ける構成とした請求項2〜6のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項8】
前記下層部側に前記駆動コイルを設けるとき、下層部側の前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する前記上層部の部位に、貫通穴を設ける構成とした請求項7に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項9】
前記下層部側に前記駆動コイルを設け、前記下層部が上面略中央位置に形成した溝部に前記引出し配線を設ける構成であるときに、前記上層部は、前記引出し配線と対応する部位を平坦状に形成する一方、前記駆動コイルに対応する部位に溝部を形成し、前記電極端子と対応する部位に貫通穴を設ける構成とした請求項7に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項10】
前記下層部と前記上層部との間に、少なくとも前記電極端子及び前記引出し配線に対応する部位に貫通穴を形成した中間層を介在させる構成とした請求項7に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項11】
前記中間層は、前記下層部側に前記駆動コイルを設けるとき、下層部側の前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する部位に、貫通穴を設ける構成とした請求項10に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項12】
前記下層部上面と前記中間層上面に跨って前記駆動コイルを形成し、前記中間層下面の駆動コイルと対応する部位及び前記上層部下面の駆動コイルと対応する部位にそれぞれ溝部を形成する構成とした請求項10に記載のプレーナ型電磁アクチュエータ。
【請求項13】
枠状の固定部と、可動部と、該可動部を前記固定部に揺動可能に軸支するトーションバーとを有し、前記可動部に設けた駆動コイルと前記固定部に配置した電極端子とを電気的に接続する引出し配線を、前記トーションバーの略中心位置に設け、前記駆動コイルに電流を供給することにより発生する電磁力により前記可動部を駆動するプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法において、
シリコン又はシリコンを主成分とする材料からなる前記トーションバーの下層部に、前記引出し配線を形成し、前記トーションバーの下層部上にトーションバーの上層部を接合して、前記引出し配線をトーションバーの略中心に位置させるようにしたことを特徴とするプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項14】
前記トーションバー下層部の平坦上面に前記引出し配線を形成し、引出し配線形成領域と対応する部位に溝部又は貫通穴を設けた前記トーションバー上層部を接合するようにした請求項13に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項15】
前記トーションバー下層部の上面に溝部を形成し、この溝部に前記引出し配線を形成し、前記トーションバー上層部を接合するようにした請求項13に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項16】
前記トーションバー下層部と一体形成した固定部下層部と可動部下層部上に、前記トーションバー上層部と一体形成した固定部上層部と可動部上層部を接合するようにした請求項13〜15のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項17】
前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線を形成し、前記各下層部の電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する前記固定部、可動部及びトーションバーの各上層部の部位に貫通穴を形成し、前記下層部上に前記上層部を接合するようにした請求項16に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項18】
前記可動部及びトーションバーの各上層部に、前記貫通穴に代えて溝部を形成するようにした請求項17に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項19】
前記下層部と前記上層部を、陽極接合により接合する請求項13〜18のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項20】
前記下層部と前記上層部を、常温接合により接合する請求項13〜18のいずれか1つに記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項21】
前記固定部及びトーションバーの各下層部に、前記電極端子及び引出し配線を一体形成し、前記可動部上層部の上面に前記駆動コイルを形成し、前記下層部上に前記上層部を接合し、下層部側の引出し配線と上層部側の駆動コイルとを導電材料で電気的に接続するようにした請求項16に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項22】
前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線を形成し、前記下層部上に、前記電極端子、駆動コイル及び引出し配線と対応する部位に貫通穴を形成した中間層を接合し、該中間層上に前記上層部を接合するようにした請求項16に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。
【請求項23】
前記固定部、可動部及びトーションバーの各下層部に前記電極端子、引出し配線及び駆動コイルの一部を形成し、前記電極端子及び引出し配線と対応する部位に貫通穴を形成し駆動コイルの一部に対応する部位に溝部を形成し上面に前記駆動コイルの残り部分を形成した中間層を、前記下層部上に接合し、下層部側の駆動コイル部と中間層側の駆動コイル部を導通部材で接続し、前記中間層に形成した駆動コイルと対応する部位に溝部を形成した前記上層部を、前記中間層上に接合するようにした請求項16に記載のプレーナ型電磁アクチュエータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−88292(P2010−88292A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204329(P2009−204329)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】