説明

マニピュレータ用関節部

【課題】組立てが容易でコストの低減化を図り、高精度のマニピュレータ動作を行うことができる小型のマニピュレータ用関節部を提供する。
【解決手段】基部アーム及び回動アームの端部同士を連結し、端部を支点として前記回動アームを回動させるマニピュレータ用関節部である。マニピュレータ用関節部は、基部アームの端部に配設された関節軸と、回動アームの端部に形成されたユニット装着孔に嵌合する円筒状のハウジングと、該ハウジングの内部に配設され回動アームを関節軸に対して回転自在に支持する複列の転がり軸受と、を有する軸受ユニットと、を備える。ハウジングには、軸方向一方側の外周面に外径側に突出する鍔部が形成され、軸方向他方側の外周面に雄ネジ部が形成され、雄ネジ部にナットを螺合させることにより、回動アームが鍔部とナットに挟まれて軸受ユニットに固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人間の指に似た動作を機械的に行うマニピュレータにおいて複数のアームを回動自在に連結するマニピュレータ用関節部に関する。
【背景技術】
【0002】
産業機械の加工ライン、組立てライン等では、省力化、自動化のために種々のロボットアームを使用している。
ロボットアームは、複数のアームを関節部を介して連結した装置であり、関節部の構成部材として、複列の転がり軸受を組み込んだ装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の関節部に組み込まれている転がり軸受は、軸受の軸方向断面幅と半径方向断面高さの比を所定値に設定することで内輪及び外輪の厚さ寸法を増大させ、高剛性、高回転精度、低トルク、低発熱を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006―329420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ロボットアームのような大型の装置ではなく、人間の指に似た動作を機械的に行うマニピュレータの技術開発も行われているが、マニピュレータの関節部に、前述した特許文献1に記載のロボットアーム用転がり軸受を採用することはできない。
すなわち、内輪及び外輪の厚さ寸法を増大させる特許文献1の転がり軸受の諸元を適用するとマニピュレータ用の転がり軸受が大型になってしまうので、小型化が必要なマニピュレータ用関節に採用することはできない。
【0006】
また、特許文献1は、転がり軸受の構成部材である外輪及び内輪が、固定部品(外輪押さえ、内輪押さえ等)を介して関節部に固定されており、固定部品の組み込みに多くの手間と時間を要し、しかも、複列の転がり軸受を組み込まなければならないので、関節部の組立てコストの面で問題がある。
【0007】
また、転がり軸受の構成部品である外輪及び内輪が、接着剤又は圧入により関節部に固定することも行なわれているが、予圧調整が難しく、その雰囲気温度、使用条件によっては軸受の早期剥離などの不具合が発生することが知られており、人に身近な存在であるパートナーロボット、家事ロボットに使用される妨げになることが想定される。
【0008】
そこで、本発明は、組立てが容易な転がり軸受を採用することで組立てコストの低減化を図ることができるとともに、高精度のマニピュレータ動作を行うことができる小型のマニピュレータ用関節部を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は以下の構成により達成される。
(1)基部アーム及び回動アームの端部同士を連結し、前記端部を支点として前記回動アームを回動させるマニピュレータ用関節部であって、
前記基部アームの前記端部に配設される関節軸と、
前記回動アームの前記端部に形成されたユニット装着孔に嵌合する円筒状のハウジングと、該ハウジングの内部に配設され前記回動アームを前記関節軸に対して回転自在に支持する複列の転がり軸受と、を有する軸受ユニットと、を備え、
前記ハウジングには、軸方向一方側の外周面に外径側に突出する鍔部が形成され、軸方向他方側の外周面に雄ネジ部が形成され、
前記雄ネジ部にナットを螺合させることにより、前記回動アームが前記鍔部と前記ナットに挟まれて前記軸受ユニットに固定されることを特徴とするマニピュレータ用関節部。
(2)前記軸受ユニットは、前記複列の転がり軸受の内輪に嵌合され、前記関節軸が同軸上に固定されるスリーブをさらに備えていることを特徴とする(1)記載のマニピュレータ用関節部。
(3)前記複列の転がり軸受は、前記外輪と前記内輪との間に転動自在に配置した複数の転動体と、複数のポケットを周方向に形成して該ポケット内で前記転動体を保持する保持器を備えているとともに、前記保持器の隣接するポケットの間に所定量の潤滑剤が乗せられていることを特徴とする(1)又は(2)記載のマニピュレータ用関節部。
(4)前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構をさらに備え、
前記駆動機構は、前記軸受ユニットの外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に掛け渡した線状部材と、当該線状部材に張力を付与して前記回動アームを前記関節軸回りに回動させる張力付与装置とを備えていることを特徴とする(1)乃至(3)の何れかに記載のマニピュレータ用関節部。
(5)前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構をさらに備え、
前記駆動機構は、前記軸受ユニットの外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に、前記関節軸の軸心を円弧中心として円弧形状に形成した入力ギヤと、前記基部アームに配置した回転モータと、この回転モータの出力軸に固定されて前記入力ギヤに噛合しており、前記回転モータの正逆方向の回転駆動力を前記入力ギヤに伝達する出力ギヤとを備えていることを特徴とする(1)乃至(3)の何れかに記載のマニピュレータ用関節部。
(6)前記基部アーム及び回動アームは、前記軸受の内輪及び外輪の材料よりも線膨張係数の大きな材料からなり、
前記関節軸は、前記スリーブの材料よりも線膨張係数の大きな材料からなることを特徴とする(2)乃至(5)のいずれかに記載のマニピュレータ用関節部。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、回動アームの端部に形成されたユニット装着孔に嵌合する円筒状のハウジングと、該ハウジングの内部に配設された複列の転がり軸受と、を有する軸受ユニットによって回動アームを関節軸に対して回転自在に支持するので、マニピュレータ用関節部を小型化することができる。
また、本発明のマニピュレータ用関節部は、ユニット化された軸受ユニットを構成部材としており、さらに回動アームがハウジングの鍔部とナットに挟まれて軸受ユニットに固定されるので組立てが容易であり、組立てコストの低減化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るマニピュレータ用関節部を有するマニピュレータの概略を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態のマニピュレータ用関節部を示す要部断面図である。
【図3】ハウジングへのナットの締め付けを説明する説明図である。
【図4】第2実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【図5】第3実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のマニピュレータ用関節部の各実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明に係るマニピュレータ用関節部を有するマニピュレータの概略を示す斜視図、図2は第1実施形態のマニピュレータ用関節部を示す要部断面図、図3はハウジングへのナットの締め付けを説明する説明図、図4は第2実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図、図5は第3実施形態のマニピュレータ用関節部の要部断面図である。
【0013】
マニピュレータ1は、図1に示すように、中空円筒形状の第1アーム2と、小径部3a及び大径部3bからなる中空円筒形状の第2アーム3と、一端側を中空円筒形状とし、他端部を球面形状とした中空円筒形状の第3アーム4と、第1アーム2の一端部及び第2アーム3の一端部を連結している第1関節部5と、第2アーム3の他端部及び第3アーム4の一端部を連結している第2関節部6とを備えている。
【0014】
(第1実施形態のマニピュレータ用関節部)
第2アーム3及び第3アーム4を連結している第2関節部6は、図1及び図2に示すように、第3アーム4の一端に形成した連結板4cを貫通するユニット装着孔7に嵌合する軸受ユニット8と、この軸受ユニット8の回転中心P位置に装着され、第2アーム3の一端に形成した連結板3cに配設される連結ネジ9と、軸受ユニット8の外周に掛け渡されており、軸受ユニット8を介して第3アーム4を連結ネジ9(回転中心P)回りに回動させる駆動ワイヤ10と、軸受ユニット8を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する駆動力伝達装置11と、を備えている。
【0015】
ユニット装着孔7は、第3アーム4の長手方向に対して直交する方向に円形に開口して形成されている。軸受ユニット8は、2組の玉軸受12,13と、単一のハウジング14と、単一のスリーブ15とを一体化した部品である。
2組の玉軸受のうち一方の玉軸受12は、外輪12a及び内輪12bと、外輪12aの軌道溝及び内輪12bの軌道溝間に転動自在に配設された多数の玉12cと、外輪12a及び内輪12bの間の軸方向の両端部を閉塞する環状シール体12dとを備えている。また、他方の玉軸受13も、一方の玉軸受12と同一形状の外輪13a及び内輪13bと、外輪13aの軌道溝及び内輪13bの軌道溝間に転動自在に配設された多数の玉13cと、外輪13a及び内輪13bの間の軸方向の両端部を閉塞する環状シール体13dとを備えている。
【0016】
外輪12a,13a、内輪12b,13b及び玉12c,13cの材料は、標準的な使用条件では軸受鋼(例えば、SUJ2、SUJ3など)とするが、使用環境に応じて、耐食材料であるステンレス系材料(例えば、SUS440C等のマルテンサイト系ステンレス鋼材やSUS304等のオーステナイト系ステンレス鋼材、SUS630等の析出硬化系ステンレス鋼材など)、チタン合金やセラミック系材料(例えば、Si34 、SiC、Al2 3、ZrO2 等)を採用してもよい。
【0017】
ハウジング14は、2組の玉軸受12,13の外輪12a,13aを内嵌し、第3アーム4のユニット装着孔7の内周部に嵌合する円筒形状の部材である。より具体的に、ハウジング14は、その内部が延出方向に沿って中空を成す円筒状に構成されており、その内周面の略中央部に周方向に沿って環状凸部14aが設けられている。また、外周面には、軸方向一方側(図2中下側)端部に外径側に突出する鍔部14bが形成されるとともに、軸方向他方側(図2中上側)端部に雄ネジ部14cが形成される。そして、図3に示すように、雄ネジ部14cに六角ナット40が締め付けられる。
なお、図2に示すように、六角ナット40が取り付けられるハウジング14の軸方向他方側(図2中上側)の内周部には、空間が設けられているが、ハウジング14の内周面に金属製のシールド板を設けてもよい。
【0018】
スリーブ15は、玉軸受12,13の内輪12b,13bの内周部に嵌合する円筒形状の部材であり、内周面には連結ネジ9が螺合する雌ネジ部が形成され、外周面には、軸方向一方側(図2中下側)に外径側に突出する鍔部15aが形成されている。なお、鍔部15aは必ずしも設ける必要はないが、鍔部15aを設けることで玉軸受13を位置決めすることができる。
【0019】
第2アーム3及び第3アーム4は、その材料として、軸受12、13の外輪12a,13a及び内輪12b,13bの材料よりも線膨張係数の大きな材料が使用される。また、連結ネジ9はスリーブ15の材料よりも線膨張係数の大きな材料が使用される。これにより、運転中の軸受12、13から発生する熱により軸受12、13の内外輪12b,13b、12a,13aが膨張しても剛性を確保することができる。
【0020】
駆動ワイヤ10は、その先端部がハウジング14の外周に固定されたワイヤ止め部材16に係止されているとともに、第2アーム3を構成する大径部3bの内部空間を通過し、小径部3aの内部空間に配置したプーリ17に係合した後に、第1アーム2の内部空間に延在し、第1アーム2の外部に配置した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0021】
次にこのように構成された第2関節部6の組み付け方法について説明する。
まず、2つの軸受12、13の外輪12a,13a間に環状凸部14aを介在させて、ハウジング14の内周面に各外輪12a,13aを圧入固定した状態で、軸方向一方側(図2中下側)から内輪12b,13bにスリーブ15を内嵌させて軸受ユニット8を組み付ける。このとき、軸受13の内輪13bは、スリーブ15の鍔部15aに当接する。そして、第3アーム4のユニット装着孔7に軸受ユニット8を軸方向一方側(図2中下側)から挿入する。この状態でハウジング14の雄ネジ部14cに六角ナット40を締め付けることで、第3アーム4の軸方向一方側の連結板4cはハウジング14の鍔部14bに当接しており、第3アーム4の軸方向他方側の連結板4cは六角ナット40に当接する。即ち、第3アーム4の連結板4cがハウジング14の鍔部14bと六角ナット40に挟まれることで、軸受ユニット8に第3アーム4が固定される。
続いて、第2アーム3の連結板3c間に第3アーム4を配置し、連結ネジ9を締め付けることで、連結ネジ9が軸受ユニット8のスリーブ15に形成された雌ネジに螺合し、第2アーム3に対し第3アーム4が回動可能に固定される。
【0022】
第1アーム2及び第2アーム3を連結している第1関節部5も、詳細には説明しないが、第2アーム3の小径部3aに形成したユニット装着孔に嵌合する2組の玉軸受12,13を内蔵した軸受ユニット18と、この軸受ユニット18の回転中心位置に装着され、第1アーム2の一端に形成した連結板2cに配設される連結ネジ19と、軸受ユニット18の外周に掛け渡され、軸受ユニット18を介して第2アーム3を連結ネジ19回りに回動させる駆動ワイヤ20とを備えており、駆動ワイヤ20は、前述した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0023】
ここで、図1に示すマニピュレータ1には、詳細には図示しないが、第1関節部5には、駆動ワイヤ20の引張力により軸受ユニット18が回動する方向に対して軸受ユニット18を逆方向(図1の符号Y1で示す方向)に回動させようとする力を発生させる反力部材(例えばバネ等の弾性部材)が内蔵されているとともに、第2関節部6にも、駆動ワイヤ10の引張力により軸受ユニット8が回動する方向に対して軸受ユニット8を逆方向(図1の符号Y2で示す方向)に回動させようとする力を発生させる反力部材(例えばバネ等の弾性部材)が内蔵されているものとする。
【0024】
なお、本発明の基部アームが第1アーム2及び本発明の回動アームが第2アーム3に対応し、本発明の基部アームが第2アーム3及び本発明の回動アームが第3アーム4に対応し、本発明の複列の転がり軸受が2組の玉軸受12,13に対応し、本発明のマニピュレータ用関節部が第1関節部5及び第2関節部6に対応し、本発明の関節軸が連結ネジ9,19に対応し、本発明のナットが、六角ナット40に対応し、本発明の転動体が玉12c,13cに対応し、本発明の線状部材が駆動ワイヤ10に対応し、本発明の張力付与装置が駆動力伝達装置11に対応している。
【0025】
上記構成のマニピュレータ1は、駆動力伝達装置11の駆動により駆動ワイヤ20に引張力を付与すると、軸受ユニット18の2組の玉軸受12,13に支持されたハウジング14がスムーズに連結ネジ19回りに回動するので、第2アーム3が、図1に示すY1方向に対して逆方向に所定角度まで高精度に回動する。また、駆動力伝達装置11の駆動により駆動ワイヤ10に引張力を付与すると、軸受ユニット8の2組の玉軸受12,13に支持されたハウジング14がスムーズに連結ネジ9回りに回動するので、第3アーム4が、図1に示すY2方向に対して逆方向に所定角度まで高精度に回動する。また、駆動力伝達装置11の駆動を解除して駆動ワイヤ20を所定量だけ戻すと、第2アーム3は反力部材の力によりY1方向に所定角度まで回動する。さらに、駆動力伝達装置11の駆動を解除して駆動ワイヤ10を所定量だけ戻すと、第2アーム4は反力部材の力によりY2方向に所定角度まで回動する。
【0026】
したがって、本実施形態は、軸受ユニット8,18に小型の2組の玉軸受12,13を配置して第2アーム3及び第3アーム4を回動させることができるので、マニピュレータ用関節部(第1関節部5及び第2関節部6)を小型化することができる。
また、第1関節部5及び第2関節部6は、ユニット化された軸受ユニット18,8で構成し、且つ、軸受ユニット18,8と第3アーム4又は第2アーム3の組み付けがハウジング14の軸方向一方側に形成された鍔部14bと軸方向他方側から螺合する六角ナット40による固定でなされるので、組立てが容易であり、組立てコストの低減化を図ることができる。従って、接着剤固定、圧入固定に比べて予圧調整が容易となる。
【0027】
また、軸受ユニット8,18は、単一のハウジング14と単一のスリーブ15との間に2組の玉軸受12,13が組み込まれた部材であり、マニピュレータ1の組立て作業時には玉軸受12,13の難しい取付けが不要となるので、さらに組立てコストの低減化を図ることができる。また、故障時又はメンテナンス時の軸受12、13の交換が容易である。
さらに、本実施形態は、軸受ユニット8,18に掛け渡した駆動ワイヤ10,20に駆動力伝達装置11から引張力が付与されると、連結ネジ9,19の軸心を回転中心として第2アーム3、第3アーム4がスムーズに回動するので、高精度のマニピュレータ動作を実現することができる。
【0028】
(第2実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第2実施形態のマニピュレータ用関節部について、図4を参照して説明する。なお、本実施形態の関節部は、図1で示した第2アーム3の他端部及び第3アーム4の一端部を連結する関節部として使用されるものとして説明する。また、本実施形態の関節部は、図1で示した第1アーム2の一端部及び第2アーム3の一端部を連結する関節部として使用してもよい。
【0029】
本実施形態の関節部21は、第3アーム4の一端側に形成したユニット装着孔22に嵌合する軸受ユニット23と、この軸受ユニット23の回転中心P位置に装着され、第2アーム3の一端に形成した連結板3cにねじ固定される連結ネジ24と、ユニット装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周に掛け渡されており、第3アーム4を連結ネジ24(回転中心P)回りに回動させる駆動ワイヤ10と、第3アーム4を所定角度まで回転させる引張力を駆動ワイヤ10に伝達する駆動力伝達装置11(図1参照)と、を備えている。
【0030】
軸受ユニット23は、互いに隣接配置した2組の玉軸受26,27と、単一のハウジング28と、単一のスリーブ29とを一体化した部品である。
2組の玉軸受のうち一方の玉軸受26は、外輪26a及び内輪26bと、外輪26aの軌道溝及び内輪26bの間に転動自在に配設された多数の玉26cと、外輪26a及び内輪26bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体26dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉26cを配置している保持器26eとを備えている。また、他方の玉軸受27も、一方の玉軸受26と同一形状の外輪27a及び内輪27bと、外輪27aの軌道溝及び内輪27bの軌道溝間に転動自在に配設された多数の玉27cと、外輪27a及び内輪27bの間の軸方向の一方の端部を閉塞する環状シール体27dと、全体が円環状若しくは円筒状をなして複数のポケットを周方向にわたって間欠的に形成し、各ポケット内に玉27cを配置している保持器27eとを備えている。
【0031】
これら2組の玉軸受26,27の保持器26e,27eの隣接するポケットの間には、所定量の潤滑剤が乗せられている。潤滑剤は、鉱油系グリースや合成油系(例えば、リチウム系、ウレア系等)のグリースや油であり、高温環境用途などではフッ素系グリースまたはフッ素系の油、あるいはフッ素樹脂、MoS2 などの固体潤滑剤である。但し、固体潤滑剤は玉26c,27cや外輪26a,27a、内輪26b,27bの軌道溝に直接塗布する。
【0032】
また、ハウジング28は、2組の玉軸受26,27の外輪26a,27aを内嵌し、第3アーム4のユニット装着孔22の内周部に嵌合する円筒形状の部材である。より具体的に、ハウジング28は、その内部が延出方向に沿って中空を成す円筒状に構成されており、外周面には、軸方向一方側(図4中下側)端部に雄ネジ部28bが形成され、軸方向他方側(図4中上側)端部に外径側に突出する鍔部28aが形成される。そして、雄ネジ部28bに六角ナット40が締め付けられる。
スリーブ29は、玉軸受26,27の内輪26b,27bの内周部に嵌合する円筒形状の部材であり、連結ネジ24が挿通する一端側の内周面にはテーパ面29aが形成されているとともに、テーパ面29aに連続して軸心位置に貫通孔29bが形成されている。
【0033】
そして、上記構成の軸受ユニット23を、ワイヤ係合部25が形成されているユニット装着孔22の開口部側から挿入し、他方側から六角ナット40を雄ネジ部28bに締め付けて、ハウジング28の鍔部28aをユニット装着孔22の開口周縁のワイヤ係合部25に当接させて軸受ユニット23に第3アーム4を固定する。続いて、スリーブ29の貫通孔29bに挿通した連結ネジ24を連結板3cに形成した雌ネジ3c1にねじ込んでいき、連結ネジ24のテーパ面形状の頭部をスリーブ29のテーパ面29aに当接させることで第2アーム3の連結板3cに軸受ユニット23が固定され、第2アーム3に対し第3アーム4が回動可能に固定される。ここで、軸受ユニット23及び第2アーム3の連結板3cに固定された連結ネジ24の頂部には、玉軸受26を閉塞する閉塞板30が接合されている。
【0034】
駆動ワイヤ10は、その先端部がユニット装着孔22の開口周縁から環状に突出しているワイヤ係合部25の外周のワイヤ止め部材16に固定された後に、ワイヤ係合部25に掛け渡され、図1に示すように、第2アーム3を構成する大径部3bの内部空間を通過し、小径部3aの内部空間に配置したプーリ17に係合した後に、第1アーム2の内部空間に延在し、第1アーム2の外部に配置した駆動力伝達装置11に連結されている。
【0035】
上記構成の関節部21を使用したマニピュレータ1においても、第1実施形態と同様の作用・効果が得られる。
【0036】
さらに、軸受ユニット23を構成する2組の玉軸受26,27の保持器26e,27eの隣接するポケットの間には所定量の潤滑剤が乗せられており、連結ネジ24の軸心を回転中心として玉軸受26,27が回転する際のトルクが抑制されるので、駆動ワイヤ10に小さな引張力を付与するだけで関節部21をスムーズに可動させることができる。
【0037】
(第3実施形態のマニピュレータ用関節部)
次に、本発明に係る第3実施形態のマニピュレータ用関節部について、図5を参照して説明する。なお、図4で示した構成と同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本実施形態の関節部31は、第2実施形態のように第3アーム4の一端側(ワイヤ係合部25)に駆動ワイヤ10を掛け渡さず、第3アーム4の一端の外周に、連結ネジ24の軸心(回転中心P)を中心とした円弧形状に第3アームギヤ32が形成されている。
また、第2アーム3の他端側には回転モータ33が配置されており、この回転モータ33の出力軸34に同軸に固定したはすば歯車(ヘリカルギヤ)35が第3アームギヤ32に噛合している。
【0039】
なお、本発明の入力ギヤが第3アームギヤ32に対応し、本発明のはすば歯車35が出力ギヤに対応している。
上記構成の関節部31を使用したマニピュレータ1は、回転モータ33の正逆方向の駆動によりはすば歯車35が正逆方向に回転すると、このはすば歯車35に第3アームギヤ32が噛合している第3アーム4が、図1に示したY2方向、或いはY2方向に対して逆方向に回動する。
【0040】
したがって、本実施形態は、第2実施形態と同様の作用・効果を奏することができるとともに、回転モータ33が正逆方向に駆動すると、はすば歯車35及び第3アームギヤ32を介して第3アームギヤ32が連結ネジ24の軸心を回転中心としてスムーズに回動するので、高精度のマニピュレータ動作を実現することができる。
なお、上記各実施形態の関節部で使用した転がり軸受は、外輪、内輪、転動体、保持器等の構成は、上記各態様の実施の形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 マニピュレータ
2 第1アーム(基部アーム)
3 第2アーム(基部アーム、回動アーム)
4 第3アーム(回動アーム)
5 第1関節部(マニピュレータ用関節部)
6 第2関節部(マニピュレータ用関節部)
8、18、23 軸受ユニット
9、19、24 連結ネジ(関節軸)
10、20 駆動ワイヤ(線状部材)
11 駆動力伝達装置(張力付与装置)
12、13、26、27 玉軸受(転がり軸受)
12b、13b、26b、27b 内輪
12a 、13a、26a、27a 外輪
12c 、13c、26c、27c 玉(転動体)
14、28 ハウジング
14b、28a 鍔部
14c、28b 雄ネジ部
15、29 スリーブ
26e、27e 保持器
32 第3アームギヤ(入力ギヤ)
33 回転モータ
34 出力軸
35 はすば歯車(出力ギヤ)
40 六角ナット(ナット)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部アーム及び回動アームの端部同士を連結し、前記端部を支点として前記回動アームを回動させるマニピュレータ用関節部であって、
前記基部アームの前記端部に配設される関節軸と、
前記回動アームの前記端部に形成されたユニット装着孔に嵌合する円筒状のハウジングと、該ハウジングの内部に配設され前記回動アームを前記関節軸に対して回転自在に支持する複列の転がり軸受と、を有する軸受ユニットと、を備え、
前記ハウジングには、軸方向一方側の外周面に外径側に突出する鍔部が形成され、軸方向他方側の外周面に雄ネジ部が形成され、
前記雄ネジ部にナットを螺合させることにより、前記回動アームが前記鍔部と前記ナットに挟まれて前記軸受ユニットに固定されることを特徴とするマニピュレータ用関節部。
【請求項2】
前記軸受ユニットは、前記複列の転がり軸受の内輪に嵌合され、前記関節軸が同軸上に固定されるスリーブをさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項3】
前記複列の転がり軸受は、外輪と内輪との間に転動自在に配置した複数の転動体と、複数のポケットを周方向に形成して該ポケット内で前記転動体を保持する保持器を備えているとともに、前記保持器の隣接するポケットの間に所定量の潤滑剤が乗せられていることを特徴とする請求項1又は2記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項4】
前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構をさらに備え、
前記駆動機構は、前記軸受ユニットの外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に掛け渡した線状部材と、当該線状部材に張力を付与して前記回動アームを前記関節軸回りに回動させる張力付与装置とを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項5】
前記回動アームに前記関節軸回りの回動を伝達する駆動機構をさらに備え、
前記駆動機構は、前記軸受ユニットの外周、或いは前記回動アームの前記端部外周に、前記関節軸の軸心を円弧中心として円弧形状に形成した入力ギヤと、前記基部アームに配置した回転モータと、この回転モータの出力軸に固定されて前記入力ギヤに噛合しており、前記回転モータの正逆方向の回転駆動力を前記入力ギヤに伝達する出力ギヤとを備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマニピュレータ用関節部。
【請求項6】
前記基部アーム及び回動アームは、前記軸受の内輪及び外輪の材料よりも線膨張係数の大きな材料からなり、
前記関節軸は、前記スリーブの材料よりも線膨張係数の大きな材料からなることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のマニピュレータ用関節部。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−131298(P2011−131298A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291212(P2009−291212)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】