モータ駆動装置及びモータ駆動方法
【課題】一方の極性の電流しか検出できないスイッチング素子に内蔵される検出用素子により電流を検出してモータを制御する場合、力行状態と回生状態とを判定して通電を制御することで脱調を回避する。
【解決手段】グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に電流検出機能付きのIGBT4X〜4Zを用いてインバータ回路3を構成する。極性検出部は、IGBTを全てオンしてモータ1の各相巻線2U,2V,2Wが短絡されているときにセンスIGBT7X,7Y,7Zを介して流れる電流に基づきU,V相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化極性検出部は、U,V相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。電流極性検出回路11がW相電流の極性を判定すると、力行・回生判定部は、W相電流の極性に応じてモータが力行状態か回生状態かを判定し、起動処理部は、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
【解決手段】グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に電流検出機能付きのIGBT4X〜4Zを用いてインバータ回路3を構成する。極性検出部は、IGBTを全てオンしてモータ1の各相巻線2U,2V,2Wが短絡されているときにセンスIGBT7X,7Y,7Zを介して流れる電流に基づきU,V相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化極性検出部は、U,V相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。電流極性検出回路11がW相電流の極性を判定すると、力行・回生判定部は、W相電流の極性に応じてモータが力行状態か回生状態かを判定し、起動処理部は、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動装置及びモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三相モータの全相の巻線が短絡される際に、相電流がゼロとなるタイミングでの誘起電圧が相電流の変化量により定まる点に着目し、モータの全相が短絡されるときに各相電流がゼロとなるタイミングと、その相電流の変化がゼロとなるタイミングとを一致させることで各相の誘起電圧と電流とのゼロクロスタイミングを一致させ、位置センサレス制御により正弦波通電を行う技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、モータが回生状態なることを考慮した場合に力行制御時と回生制御時とで指令電圧を同様に設定すると、相電流がゼロとなるタイミングと相電流の変化がゼロとなるタイミングとを一致させることができない。特許文献2は、その問題を解決するため、モータの各相電流をインバータ回路の下アーム側に挿入したシャント抵抗を介して検出し、所定のタイミングにおける相電流の極性を判定することで力行制御時と回生制御時とを判定し、それぞれのケースについて指令電圧を適切に設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−102350号公報
【特許文献2】特開2009−089600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献2では、シャント抵抗を用いて各相電流を検出しているため部品点数が増加することになる。また、シャント抵抗には直流母線の電流を流す必要があるため、抵抗素子が大型化することも問題となる。部品点数の増加を抑制するには、特許文献2にも開示があるように、インバータ回路を構成するスイッチング素子に電流検出用の素子を設け(例えばスイッチング素子がIGBTであれば、電流検出用IGBTを並列に設ける)、その検出用素子に一定比率で分流させた電流を検出することが考えられる(図47参照)。
【0006】
検出用素子を介して電流を検出する場合は、当該スイッチング素子がオンしている期間に流れる極性の電流しか検出することができず、特許文献2のようにモータの力行制御時と回生制御時とを判定するためには、スイッチング素子がオフしている期間に、フライホイールダイオードを介して流れる逆極性の相電流も検出しなければならない。しかしながら、特許文献2には、上記のように電流を検出するための具体的な構成が開示されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は一方の極性の電流しか検出できないスイッチング素子に内蔵される検出用素子を介して電流を検出してモータを制御する場合でも、力行状態と回生状態とを判定して通電を制御することで脱調を回避できるモータ駆動装置及びモータ駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のモータ駆動装置によれば、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に検出機能付きスイッチング素子を用いてインバータ回路を構成する。そして、電流ゼロクロス検出手段は、検出機能付きスイッチング素子を全てオンして三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化量ゼロクロス検出手段は、相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。
【0009】
また、極性判定手段が、前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づき前記電流の極性を判定すると、駆動状態判定手段は、前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する。指令電圧設定手段は、力行状態と判定されると三相モータに印加する電圧の指令値を設定し、制御手段は、指令値に基づきインバータ回路のスイッチング素子をスイッチング制御するが、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
すなわち、三相モータにおける相間電流のゼロクロスタイミング付近における前記相間以外の相に流れる電流の極性を判定すれば、三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定できる。そして、制御手段は、回生状態と判定されるとインバータ回路のスイッチング制御を停止するので、制御を継続して脱調状態に至ることを回避できる。
【0010】
請求項2記載のモータ駆動装置によれば、半導体スイッチング素子及び検出機能付きスイッチング素子をIGBTとする。すなわち、IGBTは、耐圧及びオン抵抗値の特性上、例えば電源電圧が200V〜450V程度となるような高電圧仕様のインバータ回路を構成するスイッチング素子として最適である。
【0011】
請求項3記載のモータ駆動装置によれば、極性判定手段は、検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて電流の極性を判定する。すなわち、相電流極性が負を示す場合は、半導体スイッチング素子に逆並列接続されているフライホイールダイオードを介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0012】
請求項4記載のモータ駆動装置によれば、極性判定手段は、電流検出用素子を介して電流が流れているか否かにより電流の極性を判定する。すなわち、相電流極性が正を示す場合は、電流検出用素子を介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0013】
請求項5記載のモータ駆動装置によれば、制御手段は、スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、スイッチング制御を再開する。すなわち、モータが回生状態となっている場合は、外力等の影響を一時的に受けている状態が想定されるので、直ぐに制御を再開すると、指令された回転数と外力とが均衡すると無負荷状態となり、制御の実行と停止とを繰り返すハンチング状態に至ることがある。したがって、所定時間が経過することにより外力等の影響がなくなったと推定される時点であれば、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【0014】
請求項6記載のモータ駆動装置によれば、制御手段は、スイッチング制御を停止させた後、回転数検出手段により検出されるモータの回転数が、外部より与えられているモータの回転数指令よりも低くなるとスイッチング制御を再開する。この場合も請求項5と同様に、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例であり、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】電流極性検出回路の具体構成を示す図
【図3】制御部のPWM信号生成処理部分を示す機能ブロック図
【図4】力行・回生判定部の処理内容を示すフローチャート
【図5】起動処理部による処理内容を中心に示すフローチャート
【図6】極性検出部及び変化極性検出部の処理内容を示すフローチャート
【図7】位相設定部の処理内容を示すフローチャート
【図8】モータが力行状態で回転している場合の各相電流波形を示す図
【図9】(a)は図8の一部相当図、(b)はモータが回生状態となった場合の(a)相当図
【図10】図9(a)に対応するU,V相電流波形と、電流極性検出回路において検出されるW相電流に相当する検出電圧とを示す図
【図11】第2実施例を示す図2相当図
【図12】第3実施例を示す各相対応の図2相当図
【図13】第4実施例を示す図12相当図
【図14】第5実施例を示す図2相当図
【図15】図9相当図
【図16】第6実施例を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施例)
以下、第1実施例について図1ないし図10を参照しつつ説明する。図1は、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。図示されるモータ1(三相モータ)は埋め込み磁石式同期モータ(ブラシレスDCモータ)であり、車載エアコンディショナのブロアモータである。モータ1の各相巻線2U、2V、2Wには、インバータ回路3の各相出力端子が接続されている。このインバータ回路3は、6個のIGBT(半導体スイッチング素子)4U,4V,4W,4X,4Y,4Zを三相ブリッジ接続して構成されている。また、各IGBT4U〜4W,4X〜4Zのコレクタ,エミッタ間には、フライホイールダイオード5U〜5W,5X〜5Zが接続されている。
【0017】
インバータ回路3の下アーム側に位置するIGBT4X〜4Zには、電流検出用のセンスIGBT6X〜6Z(電流検出素子)が、エミッタに検出抵抗7X〜7Zを挿入して並列に接続されている。すなわち、IGBT4X〜4Zは「検出機能付きスイッチング素子」に相当する。センスIGBT6X〜6Zは、IGBT4X〜4Zに流れるコレクタ電流を例えば1/100程度の比率で流すようになっており、デバイスとしてはIGBT4X〜4Zと一体に構成されている。
【0018】
インバータ回路3の直流入力端子には、バッテリ8(電源)の正側端子,負側端子が接続されている。また、バッテリ8の端子電圧VBは、制御部9によりモニタされる。制御部9は、外部より与えられるモータ1の回転数指令に応じてPWM信号を生成すると、ゲート駆動回路10を介して、インバータ回路3を構成するIGBT4U〜4W,4X〜4Zのゲートにゲート駆動信号を出力する。
【0019】
制御部9の入力端子には、インバータ回路3のU相,V相出力端子の電圧U1,V1が入力されており、また、センスIGBT6X,6Y,6Zのエミッタが接続されている。制御部9は、検出抵抗7X,7Y,7Zの端子電圧ru,rv,rwをモニタすることで各相電流を検出する。電流極性検出回路11(極性判定手段)は、端子電圧rwをモニタすることでW相の電流極性を検出し極性信号signWを制御部9に出力する。
【0020】
図3は、制御部9が行う処理のうち、特にIGBT4の各ゲートに出力するPWM信号の生成に関する処理部分を示す機能ブロック図である。尚、この図は、特許文献2の図17に開示されている構成を基本としたものであり、以下は特許文献2と異なる部分のみ説明する。
【0021】
モータ1に対する速度指令値ωdは、起動処理部60(制御手段)を介して速度偏差算出部52に出力される。また、起動処理部60には、回転速度算出部50(回転数検出手段)により算出されるモータ1の電気角速度ωも入力されている。力行・回生判定部61(駆動状態判定手段)には、電流極性検出回路11より出力される極性信号signWが入力されると共に、極性検出部42より検出される線間電流の極性信号が入力されている。そして、力行・回生判定部61は、回生フラグを起動処理部60に出力する。また、回転速度算出部50には、インバータ回路3のU相,V相出力端子の電圧U1,V1が入力されている。
【0022】
図2は、電流極性検出回路11の具体構成を示す。電流極性検出回路11は、コンパレータ12を中心に構成され、コンパレータ12の非反転入力端子は抵抗素子13を介してインバータ回路3のW相出力端子に接続されていると共に、基準電位を付与するためのツェナーダイオード14を介してグランドに接続されている。また、反転入力端子は、抵抗素子15を介してグランド、すなわちIGBT4Zのエミッタに接続されている。電流極性検出回路11は、W相電流が負極性を示し、フライホイールダイオード5Zを介して流れると、反転入力端子におけるエミッタ電位よりも非反転入力端子の電位が低下するので、コンパレータ12はsignW信号をLレベルにする。
【0023】
次に、本実施例の作用について図4ないし図10を参照して説明する。尚、図6及び図7は、極性検出部42,変化極性検出部44及び位相設定部34の処理内容を示す特許文献2の図10及び図11相当図であるから、説明は省略する。尚、図11に示すステップS40,S42,が「第1,第2ステップ」に対応する。
図8(a)〜(c)は、モータ1が力行状態で回転している場合の各相電流(電圧として検出される)を2相ずつに分けて(U,V/V,W/W,U)示している。また、図8(d)は、U,V,Wの各相電流波形と、U,V相間電流波形とを併せて示しているが、これらは、図8(a)〜(c)に示す波形を反転したものとなっている。そして、図9(a)は、図8(a),(b)の一部を示し、図9(b)はモータ1が回生状態となった場合の図9(a)相当図である。
【0024】
図9(a)は、U,V相間電流のゼロクロスタイミング(図中の○「検出」)において、W相電流極性が負を示していれば(signW=L)モータ1が力行状態にあることを示している。また、図9(b)は、U,V相間電流のゼロクロスタイミングにおいて、W相電流極性が正を示していれば(signW=H)モータ1が回生状態にあることを示している。更に、図10は、図9(a)に対応するU,V相電流波形と、電流極性検出回路11において検出されるW相電流に相当する検出電圧とを示す。
尚、ここで言う「回生状態」とは、実際のモータ1の回転数が指令回転数ωdを上回った状態であり、モータ1が発電作用をなすことで発生した電力をバッテリ8側に回生させることを意味するものではない。
【0025】
図4は、力行・回生判定部61の処理内容を示すフローチャートである。先ず、極性検出部42の出力を参照してU,V相間の線間電流極性が反転したか否かを判断し(ステップS1)、極性が反転した場合は(YES)、その極性の反転が正から負への反転か否かを判断する(ステップS2;第3ステップ)。正から負への反転であれば(YES)、その時のW相電流の極性が負か、すなわち電流極性検出回路11より出力されるsignW信号がローレベルか否かを判断する(ステップS3;第4ステップ)。
【0026】
ステップS3においてsignW信号がローレベルであれば(YES)、モータ1は力行状態で回転していることになるが(ステップS4)、この場合は通常制御となる。すなわち、位相設定部34がステップS44において設定した位相φに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1(モータ1に印加する電圧の指令値)を設定してデューティ信号生成部36に出力すると、PWM信号生成部40を介してインバータ回路3にPWM信号を出力してモータ1を駆動制御する。
【0027】
一方、ステップS3においてsignW信号がハイレベルであれば(NO)、W相電流の極性は正であり、モータ1は回生状態で回転していることになるので、回生フラグをセットする(ステップS6)。また、ステップS2において、U,V相間の線間電流極性が負から正への反転であり(NO)、ステップS5においてsignW信号がハイレベルである場合も(YES)、モータ1はやはり回生状態で回転していることになるのでステップS6に移行する。
【0028】
図5は、起動処理部60による処理内容を中心に示すフローチャートである。先ず、回生フラグがセットされているか否かを判断し(ステップS11)、セットされていれば(YES)、ステップS5において「回生判定」を行った時点から所定時間(インターバル)が経過したか否かを判断する(ステップS12)。ここで所定時間が経過していなければ(NO)PWM信号生成部40に通電OFF指令を出力し、インバータ回路3のスイッチング制御を停止する(ステップS17;第5ステップ)。
【0029】
一方、ステップS12において所定時間が経過している場合は(YES)、回転速度算出部50が算出しているモータ1の回転数(角速度)ωを読み込み(ステップS13)、その回転数ωが、指令値ωd未満であるか否かを判断する(ステップS14)。ここで(ω<ωd)であれば(YES)回生フラグをクリアし(ステップS15)、ステップS17で設定した「通電OFF」を解除してモータ1を起動する(ステップS16)。
【0030】
以上のように本実施例によれば、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に電流検出機能付きのIGBT4X〜4Zを用いてインバータ回路3を構成する。そして、極性検出部42は、IGBT4X〜4Zを全てオンしてモータ1の各相巻線が2U,2V,2Wが短絡されているときに(ステップS22;電圧ベクトルV0)、センスIGBT7X,7Y,7Zを介して流れる電流に基づきU,V相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化極性検出部44は、U,V相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。
【0031】
また、電流極性検出回路11がW相電流の極性を判定すると、力行・回生判定部61は、W相電流の極性に応じて、モータ1が力行状態か回生状態かを判定する。指令電圧設定部32(指令電圧設定手段)は、力行状態と判定されるとモータ1に印加する電圧の指令値を設定し、起動処理部60は、指令値に基づきインバータ回路3のIGBT4をスイッチング制御するが、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
すなわち、モータ1におけるU,V相間電流のゼロクロスタイミング付近におけるW相電流の極性を判定すれば、モータ1が力行状態であるか、回生状態であるかを判定できる。そして、起動処理部60は、回生状態と判定されるとインバータ回路3のスイッチング制御を停止するので、制御を継続して脱調状態に至ることを回避できる。
【0032】
また、IGBT4は、耐圧及びオン抵抗値の特性上、インバータ回路3が例えば電源電圧が200V〜450V程度であるような高電圧仕様の場合に、使用するスイッチング素子として最適である。更に、電流極性検出回路11は、IGBT4Zに並列接続されているフライホイールダイオード5Zを介して流れる電流に基づいて電流の極性を判定する。すなわち、W相電流極性が負を示す場合は、フライホイールダイオード5Zを介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0033】
また、起動処理部60は、スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過し、且つモータ1の回転数ωが、外部より与えられているモータの回転数指令ωdよりも低くなるとスイッチング制御を再開するようにした。すなわち、モータ1が回生状態となっている場合は、外力等の影響を一時的に受けている状態が想定されるので、直ぐに制御を再開すると、指令された回転数と外力とが均衡すると無負荷状態となり、制御の実行と停止とを繰り返すハンチング状態に至ることがある。したがって、所定時間が経過し、且つ(ω<ωd)となることで外力等の影響がなくなったと推定される時点であれば、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【0034】
(第2実施例)
図11は第2実施例であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図11は図2相当図であり、第2実施例の電流極性検出回路(極性判定手段)21は、コンパレータ12の反転入力端子が、抵抗素子15を介してグランドではなく、電源Vccとグランドとの間に接続されている抵抗素子22及び23の共通接続点に接続されている。すなわち、コンパレータ12の反転入力端子には、電源Vccを抵抗素子22及び23の抵抗比で分圧した0Vよりも大なる基準電圧Vrefが与えられている。尚、第1実施例の図10には、上記基準電圧Vrefを示している。この場合、基準電圧Vrefは、少なくともIGBT4Zのコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vsatよりも高いレベルとなるように設定する。
【0035】
以上のように第2実施例によれば、電流極性検出回路21は、コンパレータ12の反転入力端子Vrefを、コレクタ−エミッタ間飽和電圧Vsatよりも高いレベルとなるように設定してW相電流の極性を判定するので、ノイズ等の影響をより受け難い状態で確実に判定を行うことができる。
【0036】
(第3,第4実施例)
図12,図13は第3,第4実施例である。図12に示す第3実施例は、第1実施例の電流極性検出回路11を、U,V,Wの各相に対応した配置した構成を示す。また、図13に示す第4実施例は、第2実施例の電流極性検出回路21を、同様にU,V,Wの各相に対応した配置した構成を示す。このように構成される第3,第4実施例によれば、相間電流のゼロクロスタイミングの検出や相電流の極性判定を、より多くのタイミングで実行できる。すなわち、第1,第2実施例におけるU,V相間電流のゼロクロスタイミングとW相電流の極性判定のみならず、V,W相間電流のゼロクロスタイミングとU相電流の極性判定、W,U相間電流のゼロクロスタイミングVW相電流の極性判定も行うことができる。
【0037】
(第5実施例)
図14及び図15は第5実施例であり、第2実施例と異なる部分について説明する。第5実施例は、第2実施例の電流極性検出回路21を用いてW相電流の極性を検出するが、コンパレータ12の非反転入力端子は、抵抗素子13を介してセンスIGBT6Zのエミッタに接続されている。図15は、図9相当図であり、センスIGBT6Zのエミッタに接続されている検出抵抗7Zには極性が正のW相電流が流れるが、極性が負を示す場合は電流が流れないので極性信号signWはローレベルを示す。
【0038】
したがって、第1実施例の図4に示すフローチャートが同様に適用でき、U,V相間電流の極性が判定した場合の極性信号signWがハイレベルを示していれば、モータ1は回生状態にあると判定できる。以上のように第5実施例によれば、電流極性判定回路21により、センスIGBT6Zを介して電流が流れているか否かによりW相電流の極性を判定できる。
【0039】
(第6実施例)
図16は第6実施例であり、第5実施例と異なる部分のみ説明する。第6実施例の電流極性検出回路31(極性判定手段)は、電流極性検出回路21よりツェナーダイオード214,抵抗素子22及び23を削除し、抵抗素子13,15の他端を、検出抵抗7Zの両端にそれぞれ直結した構成となっている。このように構成した場合も、センスIGBT6Zを介して検出抵抗7Zに流れる電流の有無に応じて、W相電流の極性を判定できる。
尚、第6実施例の場合、コンパレータ12に替えてオペアンプを使用し、差動増幅回路を構成しても良い。
【0040】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
図5において、ステップS12,S14の何れか一方の判断のみを行っても良い。
半導体スイッチング素子は、IGBTに限ることなく、バイポーラトランジスタを用いても良い。
モータ1としては、車載エアコンディショナに設けられるものに限らず、例えば車載冷却ファンに設けられるものであっても良い。
【符号の説明】
【0041】
図面中、1はモータ(三相モータ)、3はインバータ回路、4はIGBT(半導体スイッチング素子)、4X〜4XはIGBT(検出機能付き半導体スイッチング素子)、6はセンスIGBT(電流検出素子)、7は検出抵抗、8はバッテリ(電源)、11,21,31は電流極性検出回路(極性判定手段)、32は指令電圧設定部(指令電圧設定手段)、50は回転速度算出部(回転数検出手段)、60は起動処理部(制御手段)、61は力行・回生判定部(駆動状態判定手段)を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動装置及びモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、三相モータの全相の巻線が短絡される際に、相電流がゼロとなるタイミングでの誘起電圧が相電流の変化量により定まる点に着目し、モータの全相が短絡されるときに各相電流がゼロとなるタイミングと、その相電流の変化がゼロとなるタイミングとを一致させることで各相の誘起電圧と電流とのゼロクロスタイミングを一致させ、位置センサレス制御により正弦波通電を行う技術が開示されている。
【0003】
しかしながら、モータが回生状態なることを考慮した場合に力行制御時と回生制御時とで指令電圧を同様に設定すると、相電流がゼロとなるタイミングと相電流の変化がゼロとなるタイミングとを一致させることができない。特許文献2は、その問題を解決するため、モータの各相電流をインバータ回路の下アーム側に挿入したシャント抵抗を介して検出し、所定のタイミングにおける相電流の極性を判定することで力行制御時と回生制御時とを判定し、それぞれのケースについて指令電圧を適切に設定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−102350号公報
【特許文献2】特開2009−089600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献2では、シャント抵抗を用いて各相電流を検出しているため部品点数が増加することになる。また、シャント抵抗には直流母線の電流を流す必要があるため、抵抗素子が大型化することも問題となる。部品点数の増加を抑制するには、特許文献2にも開示があるように、インバータ回路を構成するスイッチング素子に電流検出用の素子を設け(例えばスイッチング素子がIGBTであれば、電流検出用IGBTを並列に設ける)、その検出用素子に一定比率で分流させた電流を検出することが考えられる(図47参照)。
【0006】
検出用素子を介して電流を検出する場合は、当該スイッチング素子がオンしている期間に流れる極性の電流しか検出することができず、特許文献2のようにモータの力行制御時と回生制御時とを判定するためには、スイッチング素子がオフしている期間に、フライホイールダイオードを介して流れる逆極性の相電流も検出しなければならない。しかしながら、特許文献2には、上記のように電流を検出するための具体的な構成が開示されていない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は一方の極性の電流しか検出できないスイッチング素子に内蔵される検出用素子を介して電流を検出してモータを制御する場合でも、力行状態と回生状態とを判定して通電を制御することで脱調を回避できるモータ駆動装置及びモータ駆動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のモータ駆動装置によれば、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に検出機能付きスイッチング素子を用いてインバータ回路を構成する。そして、電流ゼロクロス検出手段は、検出機能付きスイッチング素子を全てオンして三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化量ゼロクロス検出手段は、相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。
【0009】
また、極性判定手段が、前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づき前記電流の極性を判定すると、駆動状態判定手段は、前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する。指令電圧設定手段は、力行状態と判定されると三相モータに印加する電圧の指令値を設定し、制御手段は、指令値に基づきインバータ回路のスイッチング素子をスイッチング制御するが、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
すなわち、三相モータにおける相間電流のゼロクロスタイミング付近における前記相間以外の相に流れる電流の極性を判定すれば、三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定できる。そして、制御手段は、回生状態と判定されるとインバータ回路のスイッチング制御を停止するので、制御を継続して脱調状態に至ることを回避できる。
【0010】
請求項2記載のモータ駆動装置によれば、半導体スイッチング素子及び検出機能付きスイッチング素子をIGBTとする。すなわち、IGBTは、耐圧及びオン抵抗値の特性上、例えば電源電圧が200V〜450V程度となるような高電圧仕様のインバータ回路を構成するスイッチング素子として最適である。
【0011】
請求項3記載のモータ駆動装置によれば、極性判定手段は、検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて電流の極性を判定する。すなわち、相電流極性が負を示す場合は、半導体スイッチング素子に逆並列接続されているフライホイールダイオードを介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0012】
請求項4記載のモータ駆動装置によれば、極性判定手段は、電流検出用素子を介して電流が流れているか否かにより電流の極性を判定する。すなわち、相電流極性が正を示す場合は、電流検出用素子を介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0013】
請求項5記載のモータ駆動装置によれば、制御手段は、スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、スイッチング制御を再開する。すなわち、モータが回生状態となっている場合は、外力等の影響を一時的に受けている状態が想定されるので、直ぐに制御を再開すると、指令された回転数と外力とが均衡すると無負荷状態となり、制御の実行と停止とを繰り返すハンチング状態に至ることがある。したがって、所定時間が経過することにより外力等の影響がなくなったと推定される時点であれば、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【0014】
請求項6記載のモータ駆動装置によれば、制御手段は、スイッチング制御を停止させた後、回転数検出手段により検出されるモータの回転数が、外部より与えられているモータの回転数指令よりも低くなるとスイッチング制御を再開する。この場合も請求項5と同様に、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1実施例であり、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図
【図2】電流極性検出回路の具体構成を示す図
【図3】制御部のPWM信号生成処理部分を示す機能ブロック図
【図4】力行・回生判定部の処理内容を示すフローチャート
【図5】起動処理部による処理内容を中心に示すフローチャート
【図6】極性検出部及び変化極性検出部の処理内容を示すフローチャート
【図7】位相設定部の処理内容を示すフローチャート
【図8】モータが力行状態で回転している場合の各相電流波形を示す図
【図9】(a)は図8の一部相当図、(b)はモータが回生状態となった場合の(a)相当図
【図10】図9(a)に対応するU,V相電流波形と、電流極性検出回路において検出されるW相電流に相当する検出電圧とを示す図
【図11】第2実施例を示す図2相当図
【図12】第3実施例を示す各相対応の図2相当図
【図13】第4実施例を示す図12相当図
【図14】第5実施例を示す図2相当図
【図15】図9相当図
【図16】第6実施例を示す図2相当図
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1実施例)
以下、第1実施例について図1ないし図10を参照しつつ説明する。図1は、モータ制御装置の構成を示す機能ブロック図である。図示されるモータ1(三相モータ)は埋め込み磁石式同期モータ(ブラシレスDCモータ)であり、車載エアコンディショナのブロアモータである。モータ1の各相巻線2U、2V、2Wには、インバータ回路3の各相出力端子が接続されている。このインバータ回路3は、6個のIGBT(半導体スイッチング素子)4U,4V,4W,4X,4Y,4Zを三相ブリッジ接続して構成されている。また、各IGBT4U〜4W,4X〜4Zのコレクタ,エミッタ間には、フライホイールダイオード5U〜5W,5X〜5Zが接続されている。
【0017】
インバータ回路3の下アーム側に位置するIGBT4X〜4Zには、電流検出用のセンスIGBT6X〜6Z(電流検出素子)が、エミッタに検出抵抗7X〜7Zを挿入して並列に接続されている。すなわち、IGBT4X〜4Zは「検出機能付きスイッチング素子」に相当する。センスIGBT6X〜6Zは、IGBT4X〜4Zに流れるコレクタ電流を例えば1/100程度の比率で流すようになっており、デバイスとしてはIGBT4X〜4Zと一体に構成されている。
【0018】
インバータ回路3の直流入力端子には、バッテリ8(電源)の正側端子,負側端子が接続されている。また、バッテリ8の端子電圧VBは、制御部9によりモニタされる。制御部9は、外部より与えられるモータ1の回転数指令に応じてPWM信号を生成すると、ゲート駆動回路10を介して、インバータ回路3を構成するIGBT4U〜4W,4X〜4Zのゲートにゲート駆動信号を出力する。
【0019】
制御部9の入力端子には、インバータ回路3のU相,V相出力端子の電圧U1,V1が入力されており、また、センスIGBT6X,6Y,6Zのエミッタが接続されている。制御部9は、検出抵抗7X,7Y,7Zの端子電圧ru,rv,rwをモニタすることで各相電流を検出する。電流極性検出回路11(極性判定手段)は、端子電圧rwをモニタすることでW相の電流極性を検出し極性信号signWを制御部9に出力する。
【0020】
図3は、制御部9が行う処理のうち、特にIGBT4の各ゲートに出力するPWM信号の生成に関する処理部分を示す機能ブロック図である。尚、この図は、特許文献2の図17に開示されている構成を基本としたものであり、以下は特許文献2と異なる部分のみ説明する。
【0021】
モータ1に対する速度指令値ωdは、起動処理部60(制御手段)を介して速度偏差算出部52に出力される。また、起動処理部60には、回転速度算出部50(回転数検出手段)により算出されるモータ1の電気角速度ωも入力されている。力行・回生判定部61(駆動状態判定手段)には、電流極性検出回路11より出力される極性信号signWが入力されると共に、極性検出部42より検出される線間電流の極性信号が入力されている。そして、力行・回生判定部61は、回生フラグを起動処理部60に出力する。また、回転速度算出部50には、インバータ回路3のU相,V相出力端子の電圧U1,V1が入力されている。
【0022】
図2は、電流極性検出回路11の具体構成を示す。電流極性検出回路11は、コンパレータ12を中心に構成され、コンパレータ12の非反転入力端子は抵抗素子13を介してインバータ回路3のW相出力端子に接続されていると共に、基準電位を付与するためのツェナーダイオード14を介してグランドに接続されている。また、反転入力端子は、抵抗素子15を介してグランド、すなわちIGBT4Zのエミッタに接続されている。電流極性検出回路11は、W相電流が負極性を示し、フライホイールダイオード5Zを介して流れると、反転入力端子におけるエミッタ電位よりも非反転入力端子の電位が低下するので、コンパレータ12はsignW信号をLレベルにする。
【0023】
次に、本実施例の作用について図4ないし図10を参照して説明する。尚、図6及び図7は、極性検出部42,変化極性検出部44及び位相設定部34の処理内容を示す特許文献2の図10及び図11相当図であるから、説明は省略する。尚、図11に示すステップS40,S42,が「第1,第2ステップ」に対応する。
図8(a)〜(c)は、モータ1が力行状態で回転している場合の各相電流(電圧として検出される)を2相ずつに分けて(U,V/V,W/W,U)示している。また、図8(d)は、U,V,Wの各相電流波形と、U,V相間電流波形とを併せて示しているが、これらは、図8(a)〜(c)に示す波形を反転したものとなっている。そして、図9(a)は、図8(a),(b)の一部を示し、図9(b)はモータ1が回生状態となった場合の図9(a)相当図である。
【0024】
図9(a)は、U,V相間電流のゼロクロスタイミング(図中の○「検出」)において、W相電流極性が負を示していれば(signW=L)モータ1が力行状態にあることを示している。また、図9(b)は、U,V相間電流のゼロクロスタイミングにおいて、W相電流極性が正を示していれば(signW=H)モータ1が回生状態にあることを示している。更に、図10は、図9(a)に対応するU,V相電流波形と、電流極性検出回路11において検出されるW相電流に相当する検出電圧とを示す。
尚、ここで言う「回生状態」とは、実際のモータ1の回転数が指令回転数ωdを上回った状態であり、モータ1が発電作用をなすことで発生した電力をバッテリ8側に回生させることを意味するものではない。
【0025】
図4は、力行・回生判定部61の処理内容を示すフローチャートである。先ず、極性検出部42の出力を参照してU,V相間の線間電流極性が反転したか否かを判断し(ステップS1)、極性が反転した場合は(YES)、その極性の反転が正から負への反転か否かを判断する(ステップS2;第3ステップ)。正から負への反転であれば(YES)、その時のW相電流の極性が負か、すなわち電流極性検出回路11より出力されるsignW信号がローレベルか否かを判断する(ステップS3;第4ステップ)。
【0026】
ステップS3においてsignW信号がローレベルであれば(YES)、モータ1は力行状態で回転していることになるが(ステップS4)、この場合は通常制御となる。すなわち、位相設定部34がステップS44において設定した位相φに基づき、指令電圧Vuc1,Vvc1,Vwc1(モータ1に印加する電圧の指令値)を設定してデューティ信号生成部36に出力すると、PWM信号生成部40を介してインバータ回路3にPWM信号を出力してモータ1を駆動制御する。
【0027】
一方、ステップS3においてsignW信号がハイレベルであれば(NO)、W相電流の極性は正であり、モータ1は回生状態で回転していることになるので、回生フラグをセットする(ステップS6)。また、ステップS2において、U,V相間の線間電流極性が負から正への反転であり(NO)、ステップS5においてsignW信号がハイレベルである場合も(YES)、モータ1はやはり回生状態で回転していることになるのでステップS6に移行する。
【0028】
図5は、起動処理部60による処理内容を中心に示すフローチャートである。先ず、回生フラグがセットされているか否かを判断し(ステップS11)、セットされていれば(YES)、ステップS5において「回生判定」を行った時点から所定時間(インターバル)が経過したか否かを判断する(ステップS12)。ここで所定時間が経過していなければ(NO)PWM信号生成部40に通電OFF指令を出力し、インバータ回路3のスイッチング制御を停止する(ステップS17;第5ステップ)。
【0029】
一方、ステップS12において所定時間が経過している場合は(YES)、回転速度算出部50が算出しているモータ1の回転数(角速度)ωを読み込み(ステップS13)、その回転数ωが、指令値ωd未満であるか否かを判断する(ステップS14)。ここで(ω<ωd)であれば(YES)回生フラグをクリアし(ステップS15)、ステップS17で設定した「通電OFF」を解除してモータ1を起動する(ステップS16)。
【0030】
以上のように本実施例によれば、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に電流検出機能付きのIGBT4X〜4Zを用いてインバータ回路3を構成する。そして、極性検出部42は、IGBT4X〜4Zを全てオンしてモータ1の各相巻線が2U,2V,2Wが短絡されているときに(ステップS22;電圧ベクトルV0)、センスIGBT7X,7Y,7Zを介して流れる電流に基づきU,V相間電流のゼロクロスタイミングを検出し、変化極性検出部44は、U,V相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する。
【0031】
また、電流極性検出回路11がW相電流の極性を判定すると、力行・回生判定部61は、W相電流の極性に応じて、モータ1が力行状態か回生状態かを判定する。指令電圧設定部32(指令電圧設定手段)は、力行状態と判定されるとモータ1に印加する電圧の指令値を設定し、起動処理部60は、指令値に基づきインバータ回路3のIGBT4をスイッチング制御するが、回生状態と判定されるとスイッチング制御を停止する。
すなわち、モータ1におけるU,V相間電流のゼロクロスタイミング付近におけるW相電流の極性を判定すれば、モータ1が力行状態であるか、回生状態であるかを判定できる。そして、起動処理部60は、回生状態と判定されるとインバータ回路3のスイッチング制御を停止するので、制御を継続して脱調状態に至ることを回避できる。
【0032】
また、IGBT4は、耐圧及びオン抵抗値の特性上、インバータ回路3が例えば電源電圧が200V〜450V程度であるような高電圧仕様の場合に、使用するスイッチング素子として最適である。更に、電流極性検出回路11は、IGBT4Zに並列接続されているフライホイールダイオード5Zを介して流れる電流に基づいて電流の極性を判定する。すなわち、W相電流極性が負を示す場合は、フライホイールダイオード5Zを介して電流が流れるので、当該電流の有無により電流極性を判定することができる。
【0033】
また、起動処理部60は、スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過し、且つモータ1の回転数ωが、外部より与えられているモータの回転数指令ωdよりも低くなるとスイッチング制御を再開するようにした。すなわち、モータ1が回生状態となっている場合は、外力等の影響を一時的に受けている状態が想定されるので、直ぐに制御を再開すると、指令された回転数と外力とが均衡すると無負荷状態となり、制御の実行と停止とを繰り返すハンチング状態に至ることがある。したがって、所定時間が経過し、且つ(ω<ωd)となることで外力等の影響がなくなったと推定される時点であれば、ハンチング状態に至ることを回避してスイッチング制御を再開できる。
【0034】
(第2実施例)
図11は第2実施例であり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、以下異なる部分について説明する。図11は図2相当図であり、第2実施例の電流極性検出回路(極性判定手段)21は、コンパレータ12の反転入力端子が、抵抗素子15を介してグランドではなく、電源Vccとグランドとの間に接続されている抵抗素子22及び23の共通接続点に接続されている。すなわち、コンパレータ12の反転入力端子には、電源Vccを抵抗素子22及び23の抵抗比で分圧した0Vよりも大なる基準電圧Vrefが与えられている。尚、第1実施例の図10には、上記基準電圧Vrefを示している。この場合、基準電圧Vrefは、少なくともIGBT4Zのコレクタ−エミッタ間飽和電圧Vsatよりも高いレベルとなるように設定する。
【0035】
以上のように第2実施例によれば、電流極性検出回路21は、コンパレータ12の反転入力端子Vrefを、コレクタ−エミッタ間飽和電圧Vsatよりも高いレベルとなるように設定してW相電流の極性を判定するので、ノイズ等の影響をより受け難い状態で確実に判定を行うことができる。
【0036】
(第3,第4実施例)
図12,図13は第3,第4実施例である。図12に示す第3実施例は、第1実施例の電流極性検出回路11を、U,V,Wの各相に対応した配置した構成を示す。また、図13に示す第4実施例は、第2実施例の電流極性検出回路21を、同様にU,V,Wの各相に対応した配置した構成を示す。このように構成される第3,第4実施例によれば、相間電流のゼロクロスタイミングの検出や相電流の極性判定を、より多くのタイミングで実行できる。すなわち、第1,第2実施例におけるU,V相間電流のゼロクロスタイミングとW相電流の極性判定のみならず、V,W相間電流のゼロクロスタイミングとU相電流の極性判定、W,U相間電流のゼロクロスタイミングVW相電流の極性判定も行うことができる。
【0037】
(第5実施例)
図14及び図15は第5実施例であり、第2実施例と異なる部分について説明する。第5実施例は、第2実施例の電流極性検出回路21を用いてW相電流の極性を検出するが、コンパレータ12の非反転入力端子は、抵抗素子13を介してセンスIGBT6Zのエミッタに接続されている。図15は、図9相当図であり、センスIGBT6Zのエミッタに接続されている検出抵抗7Zには極性が正のW相電流が流れるが、極性が負を示す場合は電流が流れないので極性信号signWはローレベルを示す。
【0038】
したがって、第1実施例の図4に示すフローチャートが同様に適用でき、U,V相間電流の極性が判定した場合の極性信号signWがハイレベルを示していれば、モータ1は回生状態にあると判定できる。以上のように第5実施例によれば、電流極性判定回路21により、センスIGBT6Zを介して電流が流れているか否かによりW相電流の極性を判定できる。
【0039】
(第6実施例)
図16は第6実施例であり、第5実施例と異なる部分のみ説明する。第6実施例の電流極性検出回路31(極性判定手段)は、電流極性検出回路21よりツェナーダイオード214,抵抗素子22及び23を削除し、抵抗素子13,15の他端を、検出抵抗7Zの両端にそれぞれ直結した構成となっている。このように構成した場合も、センスIGBT6Zを介して検出抵抗7Zに流れる電流の有無に応じて、W相電流の極性を判定できる。
尚、第6実施例の場合、コンパレータ12に替えてオペアンプを使用し、差動増幅回路を構成しても良い。
【0040】
本発明は上記し又は図面に記載した実施例にのみ限定されるものではなく、以下のような変形又は拡張が可能である。
図5において、ステップS12,S14の何れか一方の判断のみを行っても良い。
半導体スイッチング素子は、IGBTに限ることなく、バイポーラトランジスタを用いても良い。
モータ1としては、車載エアコンディショナに設けられるものに限らず、例えば車載冷却ファンに設けられるものであっても良い。
【符号の説明】
【0041】
図面中、1はモータ(三相モータ)、3はインバータ回路、4はIGBT(半導体スイッチング素子)、4X〜4XはIGBT(検出機能付き半導体スイッチング素子)、6はセンスIGBT(電流検出素子)、7は検出抵抗、8はバッテリ(電源)、11,21,31は電流極性検出回路(極性判定手段)、32は指令電圧設定部(指令電圧設定手段)、50は回転速度算出部(回転数検出手段)、60は起動処理部(制御手段)、61は力行・回生判定部(駆動状態判定手段)を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動装置において、
前記インバータ回路を構成し、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子が、当該素子を介して流れる電流を分流させる電流検出用素子を備える検出機能付きスイッチング素子として構成され、
前記インバータ回路において前記検出機能付きスイッチング素子が全てオンされることで、前記三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、前記電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出する電流ゼロクロス検出手段と、
前記全相の巻線が短絡されているときの前記相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する変化量ゼロクロス検出手段と、
前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づいて、前記電流の極性を判定する極性判定手段と、
前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、前記三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する駆動状態判定手段と、
この駆動状態判定手段により前記力行状態と判定されると、前記電流ゼロクロス検出手段及び前記変化量ゼロクロス検出手段の検出値に基づいて、前記三相モータに印加する電圧の指令値を設定する指令電圧設定手段と、
前記指令値に基づき前記インバータ回路のスイッチング素子をスイッチング制御し、前記駆動状態判定手段により前記回生状態と判定されると、前記スイッチング制御を停止する制御手段とを備えたことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチング素子及び前記検出機能付きスイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されることを特徴とする請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記極性判定手段は、前記検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記極性判定手段は、前記電流検出用素子を介して電流が流れているか否かに基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段を備え、
前記制御手段は、前記スイッチング制御を停止させた後、前記回転数検出手段により検出される回転数が、外部より与えられている前記モータの回転数指令よりも低くなると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動方法において、
前記インバータ回路を構成し、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に、当該素子を介して流れる電流を分流させる電流検出用素子を備える検出機能付きスイッチング素子を使用し、
前記インバータ回路において前記検出機能付きスイッチング素子が全てオンされることで、前記三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、前記電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出する第1ステップと、
前記全相の巻線が短絡されているときの前記相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する第2ステップと、
前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づいて、前記電流の極性を判定する第3ステップと、
前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、前記三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する第4ステップと、
前記回生状態と判定すると、前記スイッチング制御を停止する第5ステップとを有することを特徴とするモータ駆動方法。
【請求項8】
前記半導体スイッチング素子及び前記検出機能付きスイッチング素子に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることを特徴とする請求項7記載のモータ駆動方法。
【請求項9】
前記第3ステップにおいて、前記検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項7又は8記載のモータ駆動方法。
【請求項10】
前記第3ステップにおいて、前記電流検出用素子を介して電流が流れているか否かに基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項7又は8記載のモータ駆動方法。
【請求項11】
前記スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項7ないし10の何れかに記載のモータ駆動方法。
【請求項12】
前記第5ステップにおいて、前記スイッチング制御を停止させた後、前記モータの回転数を検出し、前記回転数が、外部より与えられている前記モータの回転数指令よりも低くなると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項7ないし11の何れかに記載のモータ駆動方法。
【請求項1】
インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動装置において、
前記インバータ回路を構成し、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子が、当該素子を介して流れる電流を分流させる電流検出用素子を備える検出機能付きスイッチング素子として構成され、
前記インバータ回路において前記検出機能付きスイッチング素子が全てオンされることで、前記三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、前記電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出する電流ゼロクロス検出手段と、
前記全相の巻線が短絡されているときの前記相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する変化量ゼロクロス検出手段と、
前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づいて、前記電流の極性を判定する極性判定手段と、
前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、前記三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する駆動状態判定手段と、
この駆動状態判定手段により前記力行状態と判定されると、前記電流ゼロクロス検出手段及び前記変化量ゼロクロス検出手段の検出値に基づいて、前記三相モータに印加する電圧の指令値を設定する指令電圧設定手段と、
前記指令値に基づき前記インバータ回路のスイッチング素子をスイッチング制御し、前記駆動状態判定手段により前記回生状態と判定されると、前記スイッチング制御を停止する制御手段とを備えたことを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記半導体スイッチング素子及び前記検出機能付きスイッチング素子は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)で構成されることを特徴とする請求項1記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記極性判定手段は、前記検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記極性判定手段は、前記電流検出用素子を介して電流が流れているか否かに基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項1ないし4の何れかに記載のモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータの回転数を検出する回転数検出手段を備え、
前記制御手段は、前記スイッチング制御を停止させた後、前記回転数検出手段により検出される回転数が、外部より与えられている前記モータの回転数指令よりも低くなると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載のモータ駆動装置。
【請求項7】
インバータ回路を介して三相モータを駆動するモータ駆動方法において、
前記インバータ回路を構成し、グランド側に接続される各相の半導体スイッチング素子に、当該素子を介して流れる電流を分流させる電流検出用素子を備える検出機能付きスイッチング素子を使用し、
前記インバータ回路において前記検出機能付きスイッチング素子が全てオンされることで、前記三相モータの全相の巻線が短絡されているとき、前記電流検出用素子を介して流れる電流に基づき任意の相間電流のゼロクロスタイミングを検出する第1ステップと、
前記全相の巻線が短絡されているときの前記相間電流の変化量のゼロクロスタイミングを検出する第2ステップと、
前記任意の相間以外の相に流れる電流の状態に基づいて、前記電流の極性を判定する第3ステップと、
前記任意の相間以外の相電流の極性に応じて、前記三相モータが力行状態であるか、回生状態であるかを判定する第4ステップと、
前記回生状態と判定すると、前記スイッチング制御を停止する第5ステップとを有することを特徴とするモータ駆動方法。
【請求項8】
前記半導体スイッチング素子及び前記検出機能付きスイッチング素子に、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を用いることを特徴とする請求項7記載のモータ駆動方法。
【請求項9】
前記第3ステップにおいて、前記検出機能付きスイッチング素子に並列接続されているフライホイールダイオードを介して流れる電流に基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項7又は8記載のモータ駆動方法。
【請求項10】
前記第3ステップにおいて、前記電流検出用素子を介して電流が流れているか否かに基づいて前記電流の極性を判定することを特徴とする請求項7又は8記載のモータ駆動方法。
【請求項11】
前記スイッチング制御を停止させてから所定時間が経過すると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項7ないし10の何れかに記載のモータ駆動方法。
【請求項12】
前記第5ステップにおいて、前記スイッチング制御を停止させた後、前記モータの回転数を検出し、前記回転数が、外部より与えられている前記モータの回転数指令よりも低くなると、前記スイッチング制御を再開することを特徴とする請求項7ないし11の何れかに記載のモータ駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2013−21830(P2013−21830A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153835(P2011−153835)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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