説明

予混合圧縮着火機関

【課題】火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換時において、スロットルを開いたときに生じる過度のリーン化を抑制して失火の発生を防止できる予混合圧縮着火機関を提供する。
【解決手段】本発明の予混合圧縮着火機関は、負のオーバーラップ期間を有し、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り換えて運転を行なう。スロットルは吸気量を調整し、燃料弁は吸気通路へ供給される燃料の供給量を調整する。ECUは、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間において、スロットルの開度が、火花点火燃焼の定常運転時における開度から予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度まで増大するようにスロットルを制御し((A)参照)、且つ、吸気通路へ供給される燃料の供給量が、火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように、燃料弁を制御する((B)参照)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り換えて運転を行ない、予混合圧縮着火燃焼運転時に負のオーバーラップ期間を有する予混合圧縮着火機関に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内燃機関の分野では、良好な燃費及び熱効率が得られる予混合圧縮着火機関が注目されており、様々な研究がなされている。大方の予混合圧縮着火機関では、吸気通路上にて燃料と空気とを混合し、生成した混合気を燃焼室に供給する構成となっている。そして、燃焼室内に閉じ込められた混合気は、圧縮工程時、ピストン上昇による高温高圧化に伴い自着火する。前述の構成では、実用化に向けた課題の一つとして、予混合圧縮着火燃焼(HCCI、Homogeneous Charge Compression Ignition)を安定して制御できる運転領域がまだ狭い、という問題が知られている。そのため、前述の問題を回避する目的で、常用される運転領域が比較的狭い定置型エンジン、例えばGHP(ガスヒートポンプ)用ガスエンジン等にて、まず実用化しようとする動きがある。また、多用される中回転中負荷付近では予混合圧縮着火燃焼を、低回転及び高回転側或いは低負荷及び高負荷側の領域では火花点火燃焼(SI、Spark Ignition)を、行うように適宜運転を切り換えるものも提案されている。火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り換えて運転を行なう予混合圧縮着火機関は、例えば、特許文献1、2に開示されているような制御方法により制御される。
【0003】
特許文献1の技術においては、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換の際に、スロットルを徐々に開くことによって、予混合圧縮着火燃焼のときの吸気量を火花点火燃焼のときの吸気量よりも増量させている。このようにすることで、予混合圧縮着火燃焼のときの空燃比が火花点火燃焼のときよりも大きくなり、予混合圧縮着火燃焼時の空燃比がリーンとなり、燃費や熱効率が向上する。
【0004】
また、特許文献2の技術においては、火花点火燃焼から圧縮着火焼への切換時に、スロットル開度を、火花点火燃焼の開度と予混合圧縮着火燃焼の開度との中間開度に一時的に固定することで、ドライバビリティを維持しつつ、ポンピングロスを低減して燃費を向上させている。
【特許文献1】特開2000−220458公報
【特許文献2】特開2004−293471公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼に切り換える際には、運転領域よりスロットル開度が閉じ角を有することになり、スロットルを境として、吸気通路内部には差圧が生じている。具体的には、スロットルよりも燃焼室側では負圧となり(吸入負圧)、燃焼室とは反対側ではほぼ大気圧となっている。上記の特許文献1、2の技術を用いるためにスロットルを開くと、この差圧に起因して、スロットル前後の空気の流量が急激に増大し、スロットル付近に燃料供給部が存在した場合、混合気が過度にリーン化される。混合気が過度にリーン化された結果、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間に失火やエンジンの停止が発生するおそれがある。特に、混合気の供給にミキサやキャブレタを用いる場合には、スロットルバルブの直前上流側に燃料を供給することになるため、スロットルの開閉により混合気の空燃比(空気過剰率)が大きく影響を受ける。
【0006】
このように、混合気がリーン化されたとしても、予混合圧縮着火燃焼に求められる混合気の空気過剰率が高い場合には過度に大きな問題とはならない。しかし、予混合圧縮着火燃焼時に負のオーバーラップ期間を有し、内部EGRを用いる予混合圧縮着火機関の場合には、予混合圧縮着火燃焼時に、燃焼室に供給される混合気の空燃比を比較的リッチにする(空気過剰率が低い状態にする)必要があり、このような場合には、上記のように混合気がリーン化されることは、顕著な問題となる。特に、低燃費・低NOx排出量を図るため、火花点火燃焼時にリーン燃焼をするような場合には、火花点火燃焼時の空気過剰率の方が予混合圧縮着火燃焼時よりもリーン側となることがあり、上記の問題はさらに顕著なものとなる。
【0007】
そして、このような差圧による吸気量の急激な増大は、スロットルの開き始めでの感度(レスポンスの良さ)が最も高い。すなわち、吸気量は、スロットルの開き始めにおいて最も急激に増加する。そのため、上記の特許文献1、2の技術を用いて、スロットル開度を制御して吸気量を調整(徐開調整)することのみによっては、このような急激な吸気量の増加(及びそれにより引き起こされる過度のリーン化)を抑制することは困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換時において、スロットルを開いたときに生じる過度のリーン化を抑制して失火の発生を防止できる予混合圧縮着火機関を提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の予混合圧縮着火機関は、燃焼室と、当該燃焼室へ連通する吸気通路と、を有し、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り換えて運転を行ない、予混合圧縮着火燃焼運転時に負のオーバーラップ期間を有する予混合圧縮着火機関である。そして、前記燃焼室へ供給される吸気量を調整するスロットルと、前記吸気通路へ供給される燃料の供給量を調整する燃料供給量調整手段と、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間において、前記スロットルの開度が、前記火花点火燃焼の定常運転時における開度から前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度まで増大するように前記スロットルを制御し、且つ、前記吸気通路へ供給される燃料の供給量が、前記火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように、前記燃料供給量調整手段を制御する制御手段と、を有する。
【0010】
この構成によると、スロットルを開くと共に燃料供給量を増大することによって、急激な吸気量の増加に伴う混合気の過度のリーン化を抑制できる。そのため、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換時において、スロットルを開いたときに生じる過度のリーン化を抑制して失火の発生を防止できる。また、トルク段差やHC、COの増加及びそれに伴う燃費の悪化を防止できる。
【0011】
なお、負のオーバーラップ期間とは、排気上死点付近において、排気弁及び吸気弁の両方が閉じている期間であって、排気弁が排気上死点に至る前に閉じているものである。
【0012】
前記吸気通路へ連通し前記燃料の通路となる燃料供給路をさらに有し、前記燃料供給量調整手段は、前燃料供給路に設けられた燃料弁であり、前記切換期間において、前記スロットルの開度は、前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度にまで段階的に増大してもよい。上記のように、スロットルを境とする差圧に起因して、スロットルの開き始めの吸気量の増加が最も急激となる。そこで、このように段階的にスロットルを開くことによって、吸気量の急激な上昇を抑え、過度のリーン化を抑制できる。
【0013】
前記切換期間における前記スロットルの開度の二段階目以降の増大量には、一段階目の増大量よりも大きいものが含まれていてもよい。これによると、特にスロットルの開き始め(一段階目)においてスロットルを小さく開くことで、吸気量の急激な上昇をより確実に抑え、過度のリーン化を抑制できる。
【0014】
前記燃料はガス燃料であり、前記吸気通路の途中に配置され、吸入された空気と前記燃料とが混合されるミキサと、前記ミキサへの燃料供給路である第1燃料供給路と、前記第1燃料供給路の途中から分岐し、前記吸気通路へと連通する第2燃料供給路と、をさらに有し、前記燃料供給量調整手段は、前記第2燃料供給路に設けられた開閉弁であってもよい。これによると、ガス燃料を用いるエンジンにおいて、一定量の燃料がミキサとは別に吸気通路へ供給されるので、簡易な構成により、過度のリーン化を抑制できる。
【0015】
前記スロットルの開度が、前記圧縮着火期間の定常運転時における開度になるまで、前記吸気通路への燃料の供給量が前記火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように前記制御手段が前記燃料供給量調整手段を制御し、前記スロットルの開度が、前記圧縮着火期間の定常運転時における開度になった後は、前記吸気通路への燃料の供給量が、前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における供給量となるように、前記制御手段が前記燃料供給量調整手段を制御してもよい。これによると、過度なリーン化が問題となる切換期間においてのみ燃料の供給量を増大させることで、一時的なリーン化を効率的に抑止しつつ、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へとスムーズに移行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(全体構成)
図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る予混合圧縮着火機関の全体構成について説明する。図1は、本実施形態に係る予混合圧縮着火機関1の全体概略図である。
【0018】
図1に示すように、予混合圧縮着火機関1は、燃焼室10、燃焼室10へ連通する吸気通路11p、吸気バルブ11v、排気バルブ12v、排気通路12p、を有しており、運転条件(負荷及び機関回転数)に応じて、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを適宜切り換えて運転を行なうものである。このように、運転条件に応じて予混合圧縮着火燃焼と火花点火燃焼とを切り換えることで、予混合圧縮着火燃焼による低燃費と火花点火燃焼による高出力とを両立させることができる。また、予混合圧縮着火機関1は、吸気通路11pの途中にミキサ4を有しており、当該ミキサ4へは、ミキサ4へ連通する燃料供給路2pを通って、ガス燃料が供給される(すなわち、燃料供給路2pは、ガス燃料の通路となり、吸気通路11pへと連通している)。そして、ミキサ4において空気と燃料とが混合される。なお、本実施形態においては、燃料としてガス燃料(都市ガス、LPG等)が用いられているが、燃料はガス燃料でなくてもよい。また、本実施形態においては、燃料と空気とをミキサ4において混合しているが、混合に用いられるのはミキサ以外であってもよく、例えばキャブレタ・インジェクタであってもよい。
【0019】
また、予混合圧縮着火機関1は、予混合圧縮着火燃焼運転時に負のオーバーラップ期間を有しており、内部EGRを利用して予混合圧縮着火燃焼を行なう。ここで、負のオーバーラップ期間とは、排気上死点付近において、排気弁及び吸気弁の両方が閉じている期間であって、排気弁が排気上死点に至る前に閉じているものである。これにより、既燃焼ガス(内部EGRガス)の一部を燃焼室内に残留させ、次回燃焼に持ち越すことができる。負のオーバーラップ期間を設け、内部EGRを利用することで、高温の内部EGRガスが、新たに燃焼室10内に供給された混合気と混合され、筒内温度を上昇させるため、予混合圧縮着火燃焼時の着火性が向上する。このため、負のオーバーラップ期間の長さを制御することで、着火時期をある程度制御することが可能となる。このように、予混合圧縮着火機関1では内部EGRを用いているので、予混合圧縮着火燃焼時に、燃焼室10に供給される混合気の空燃比を比較的リッチにする(空気過剰率が低い状態にする)必要がある(内部EGRガスと混合気とを混合したときに、燃焼室10内を予混合圧縮着火燃焼時の要求空燃比になるようにするため)。
【0020】
また、予混合圧縮着火機関1は、スロットル3、燃料弁2v(燃料供給量調整手段)を有して構成されている。さらに、予混合圧縮着火機関1はECU(Electronic Control Unit、制御手段に相当)5を有しており、ECU5には、燃料弁2v、スロットル3、吸気弁11v、点火プラグ60c、排気弁12vが、制御用ケーブル5a〜5eを介して電気的に接続されている。そして、ECU5は、燃料弁2v、スロットル3、吸気弁11v、点火プラグ60c、排気弁12vの動作を制御するように構成されている。より詳細には、吸気弁11v、排気弁12vは、それぞれカム11c、12cを有しており、ECU5がカム11c、12cの動作を制御することで吸気弁11v及び排気弁12vの開閉が制御される。また、点火プラグ60cは火花点火燃焼時に用いられる。
【0021】
(スロットル)
スロットル3は、図1に示すように、軸3c、弁部3v、軸3cを駆動するステップモータ(図示せず)を有して構成され、弁部3vは、軸3cを中心として回転可能となっている。そして、ECU5がステップモータを制御することで、弁部3vの開度が調整され、それにより、吸気通路11pを通って燃焼室10へ供給される吸気量が調整される。
【0022】
(燃料弁)
燃料弁2vは、燃料供給路2pの途中に設けられている。そして、ECU5が燃料弁2vを制御することで、燃料弁2vの開度が調整され、それにより、吸気通路11pへ供給される燃料の供給量が調整される。
【0023】
(動作)
次に、予混合圧縮着火機関1の動作について、図2を参照しながら説明する。図2は、横軸を燃焼サイクル数としたときの、予混合圧縮着火機関1のスロットル開度、燃料弁開度、ミキサ通過流量、空気過剰率を示したチャートである。ここで、スロットル開度、燃料弁開度は、ECU5による制御状態を表わしており、ミキサ通過流量、空気過剰率は、その制御によって得られる結果を表わしている。また、図2は、予混合圧縮着火燃焼において内部EGRを用いることを前提としたものである(すなわち、予混合圧縮着火燃焼の定常運転時におけるスロットル開度、燃料弁開度、ミキサ通過流量、空気過剰率は、内部EGRを用いた場合の量(値)となっている)。
【0024】
なお、本発明のような予混合圧縮着火機関においては、図3(運転領域を示す概略図)に例として示すように、エンジン負荷、エンジン回転数によって予混合圧縮着火燃焼と火花点火燃焼とが切り換えられる。従って、「火花点火燃焼(SI)から予混合圧縮着火燃焼(HCCI)への切換」といっても、図3の矢印のように、その切換のパターンは多様である。ここで、図2のチャートは、このような多様な切換パターンの中からの、本実施形態における一例であり、このようなものには限られない。また、本実施形態に係る予混合圧縮着火機関1のECU5は、図2のようなチャートを切換時の制御パターンとして有しているが、図2以外にも、図3のような(SIからHCCIへの)多様な切換パターンに対応する、多様な制御パターンを有している。
【0025】
図2において「スロットル開度」は、スロットル3の開度を示しており、図2での上がより開いた状態、下がより閉じた状態を示している。予混合圧縮着火燃焼(HCCI)の定常運転時には、スロットル開度は全開となる(図2参照)。また、「燃料弁開度」は、燃料弁2vの開度を示しており、図2において、上がより開いた状態、下がより閉じた状態を示している。
【0026】
また、図2において、「ミキサ通過流量」は、ミキサ4を通過する混合気の流量であり、上がより流量大の状態、下がより流量小の状態を示している。また、図2において、「空気過剰率」は、吸気通路11pを通って燃焼室10へと供給される混合気の空燃比を理論空燃比で割った値である。ここで、より詳細には、ここでの空気過剰率は、図1のセンサ50の位置(スロットル3と燃焼室10との間)において測定される空燃比から求められる値である。図2では、上がよりリーンの状態を示している。
【0027】
なお、参考として、図2には、スロットル開度を(段階的に増大させずに)直接全開状態にまで増大させ、且つ、燃料弁開度を(一旦増大させずに)予混合圧縮着火燃焼の要求開度にまで直接変更した場合のチャートを破線で示している。
【0028】
上記のように、スロットル3を境として、吸気通路内部11pには差圧が生じている。具体的には、スロットル3よりも燃焼室10側では負圧となり(吸入負圧)、燃焼室10とは反対側ではほぼ大気圧となっている。火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間(以下、切換期間と記す)において、図2の破線に示すように、スロットル開度を制御して、スロットル開度を全開状態にまで直接増大させ(図2の(1)参照)、且つ、燃料弁開度を予混合圧縮着火燃焼の要求開度(予混合圧縮着火燃焼の定常運転時の開度)にまで直接低減させた(図2の(2)参照)場合、上記の差圧によりミキサ通過流量が急激に増大し(図2の(3)参照)、それに伴い、切換期間における空気過剰率が急激に増大する(図2の(4)参照)。その結果、吸気量が急激に増加し、混合気が過度にリーン化される結果、失火やエンジンの停止を引き起こすおそれがある。
【0029】
ここで、上記のように、予混合圧縮着火機関1においては、圧縮着火運転時に内部EGRが用いられ、混合気の空燃比を比較的リッチにする必要があるために、このように混合気がリーン化される(図2の(4)参照)ことは、顕著な問題となる(失火等の発生が顕著となる)。特に、低燃費・低NOx排出量を図るため、火花点火燃焼時にリーン燃焼をするような場合には、火花点火燃焼時の空気過剰率の方が予混合圧縮着火燃焼時よりもリーン側となることがあり、上記の問題はさらに顕著なものとなる。
【0030】
一方、本発明に係る予混合圧縮着火機関1においては、ECU5は、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間(切換期間)において、スロットル3の開度が、火花点火燃焼の定常運転時における開度から予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度まで増大するようにスロットル3を制御する(図2の(A)参照)。そして、ECU5は、当該切換期間において、吸気通路11pへ供給される燃料の供給量が、火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように、燃料弁2vを制御する(図2の(B)参照)。この結果、ミキサ通過量の急激な増加が抑制され(図2のC参照)、切換期間において空気過剰率が急激に増大することなく、火花点火燃焼時の空気過剰率から、予混合圧縮着火燃焼時の空気過剰率へと、穏やかに移行する(図2の(D)参照)。そのため、混合気の過度のリーン化を抑制できる。
【0031】
また、このとき、切換期間において、スロットル3の開度は、予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度にまで段階的に増大するようにECU5によって制御される(図2の(A)参照)。また、切換期間におけるスロットル3の開度の二段階目以降の増大量には、一段階目の増大量よりも大きいものが含まれる(図2の(A)参照。一段階目(a)よりも、二段階目(b)、三段階目(c)の増大量が大きくなっている)。
【0032】
このような段階制御に伴い、ミキサ通過流量における数段階のピーク位置は、スロットル3を開いた直後の位置となっていることが分かる(図2の(C)参照)。なお、スロットル3の開度は、このように段階的に制御されなくてもよい。そして、例えば、火花点火燃焼時のスロットル開度から予混合圧縮着火燃焼時への開度へ、単調増加してもよい。この場合、燃焼サイクル数に対する開度の増加率を小さくしてもよい。
【0033】
また、ECU5は、スロットル3の開度が、圧縮着火期間の定常運転時における開度になるまでの間は、吸気通路11pへの燃料の供給量が火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように、燃料弁2vを制御する。また、ECU5は、スロットル3の開度が、圧縮着火期間の定常運転時における開度になった後は、吸気通路11pへの燃料の供給量が、予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における供給量となるように、燃料弁2vを制御する(図2の(A)(B)参照)。これによると、過度なリーン化が問題となる切換期間においてのみ燃料の供給量を増大させることで、一時的なリーン化を効率的に抑止しつつ、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へとスムーズに移行できる。
【0034】
この構成によると、スロットル3を開くと共に燃料供給量を増大することによって、急激な吸気量の増加に伴う混合気の過度のリーン化を抑制できる。そのため、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換時において、スロットル3を開いたときに生じる過度のリーン化を抑制して失火の発生を防止できる。また、トルク段差やHC、COの増加及びそれに伴う燃費の悪化を防止できる。
【0035】
また、切換期間において、スロットル3の開度は、(ECU5に制御されることにより)予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度にまで段階的に増大するため、吸気量の急激な上昇を抑え、過度のリーン化を抑制できる。
【0036】
また、切換期間におけるスロットル3の開度の二段階目以降の増大量には、一段階目の増大量よりも大きいものが含まれているため、特にスロットル3の開き始め(一段階目)においてスロットル3を小さく開くことで、吸気量の急激な上昇をより確実に抑え、過度のリーン化を抑制できる。なお、このような制御には限られない。
【0037】
また、高負荷運転になるほど、火花点火燃焼時のスロットル開度が開き気味となるので、高負荷運転になるほど、スロットル開度の段階制御における段階数を少なくし、一段階当たりの開度変化量を増加させることが望ましい。また、高負荷運転になるほど、燃料弁開度の増加量を減少させることが望ましい。
【0038】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る予混合圧縮着火機関の第2実施形態について、図4、5を参照しながら、上記の実施形態と異なる部分を中心に説明する。図4は第2実施形態に係る予混合圧縮着火機関の全体概略図を示し、図5は、横軸を燃焼サイクル数としたときの、第2実施形態に係る予混合圧縮着火機関のスロットル開度、燃料弁開度、ミキサ通過流量、空気過剰率を示したものである。なお、上記の実施形態と同様の部分については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
本実施形態に係る予混合圧縮着火機関100においては、ガス燃料が燃料として用いられる。また、図4に示すように、吸気通路111pの途中には、ミキサ4が配置され、ミキサ4においては、ミキサ4に吸入された空気と燃料とが混合される。また、ミキサ4には、燃料供給路である第1燃料供給路102pが連通接続されている(上記の実施形態における燃料供給路2pに対応している)。また、第1燃料供給路102pの(燃料弁2vよりも上流側における)途中からは、第2燃料供給路4pが分岐しており、第2燃焼供給路4pは、吸気通路111pへと連通している。すなわち、第1燃料供給路102pにおける燃料供給路4pの分岐点と、ミキサ4との間に、燃料弁2vが設けられている。ここで、第2燃料供給路4pの内部と第1燃料供給路102pの内部とは連通している。
【0040】
また、第2燃料供給路4pの途中には、開閉弁(燃料供給量調整手段)4vが設けられている。また、ECU105には、開閉弁4vが、制御用ケーブル5fを介して電気的に接続されている。そして、ECU105は、燃料弁2v、スロットル3、吸気弁11v、点火プラグ60c、排気弁12v、開閉弁4vの動作を制御するように構成されている。
【0041】
次に、図5を用いて、予混合圧縮着火機関100の動作について説明する。図5において、「開閉弁 開/閉」は、開閉弁4vの開閉状態を示しており、図5には、開いた状態と閉じた状態の二つの状態のみ示している。また、図5において、上が開いた状態、下が閉じた状態である。開閉弁4vは、少なくとも、火花点火燃焼(SI)及び予混合圧縮着火燃焼(HCCI)の定常運転時には、閉状態となっている(図5参照)。このように、予混合圧縮着火機関100は、開閉弁4vの開閉により、一定量の燃料がミキサ4とは別に吸気通路111pへ供給されるように構成されている。
【0042】
なお、参考として、図5には、開閉弁4vの開閉を行なわない場合(開閉弁4vが無い場合、又は開閉弁4vの制御を行なわない場合)のチャートを破線で示している。
【0043】
上記のように、スロットル3を境として、吸気通路111p内部には差圧が生じている。具体的には、スロットル3よりも燃焼室10側では負圧となり(吸入負圧)、燃焼室10とは反対側ではほぼ大気圧となっている。火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間(切換期間)において、スロットル開度を徐開制御して、スロットル開度を全開状態にまで直接増大させ(図5の(E)参照。図2の破線(1)と同様)、且つ、開閉弁4vの開閉を行なわない場合(開閉弁4vが無い場合、又は開閉弁4vの制御を行なわない場合。図5の(5)参照)には、上記の差圧により、ミキサ通過流量が急激に増大し(図5の(G)参照。図2の(3)と同様)、それに伴い、切換期間における空気過剰率が増大する(図5の(6)参照)。その結果、吸気量が急激に増加し、混合気が過度にリーン化される結果、失火やエンジンの停止を引き起こすおそれがある。
【0044】
なお、ここでは、図2の(2)と同様に、燃料弁2vの開度(燃料弁開度)は、予混合圧縮着火燃焼の要求開度(予混合圧縮着火燃焼の定常運転時の開度)にまで直接低減させているものとして説明している。
【0045】
一方で、予混合圧縮着火機関100においては、ECU105は、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間(切換期間)において、スロットル3の開度が、火花点火燃焼の定常運転時における開度から予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度まで増大するようにスロットル3を制御する(図5の(E)参照)。このとき、上記の差圧により、ミキサ通過流量が急激に増大する(図5の(G)参照。図2の(3)と同様)。そして、ECU105は、当該切換期間の、特にミキサ通過流量が急激に増大する期間において(図5の(G)参照)、開閉弁4vを開状態となるように制御する(図5の(F)参照)。この結果、切換期間において空気過剰率が急激に増大することなく、火花点火燃焼時の空気過剰率から、予混合圧縮着火燃焼時の空気過剰率へと、穏やかに移行する(図5の(H)参照)。そのため、混合気の過度のリーン化を抑制できる。
【0046】
なお、図5には図示していないが、予混合圧縮着火機関100においても、図2の(2)と同様に、燃料弁2vの開度(燃料弁開度)は、予混合圧縮着火燃焼の要求開度(予混合圧縮着火燃焼の定常運転時の開度)にまで直接低減させている。
【0047】
以上のように予混合圧縮着火機関100によると、ガス燃料を用いるエンジンにおいて、一定量の燃料がミキサ4とは別に吸気通路111pへ供給されるので、簡易な構成により、過度のリーン化を抑制できる。
【0048】
また、ECU105は、スロットル3の開度が、圧縮着火期間の定常運転時における開度になるまでの間は、吸気通路111pへの燃料の供給量が火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように(すなわち開状態に)開閉弁4vを制御する。また、ECU105は、スロットル3の開度が、圧縮着火期間の定常運転時における開度になった後は、吸気通路111pへの燃料の供給量が、予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における供給量となるように(すなわち閉状態に)燃料弁2vを制御する(図5の(1)、(E)参照)。これによると、過度なリーン化が問題となる切換期間においてのみ燃料の供給量を増大させることで、一時的なリーン化を効率的に抑止しつつ、火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼へとスムーズに移行できる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の第1実施形態に係る予混合圧縮着火機関の全体概略図。
【図2】図1の予混合圧縮着火機関の、スロットル開度、燃料弁開度、ミキサ通過流量、空気過剰率を示したチャート。
【図3】予混合圧縮着火機関におけるSI、HCCIの運転領域の一例を示す概略図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る予混合圧縮着火機関の全体概略図。
【図5】図4の予混合圧縮着火機関の、スロットル開度、燃料弁開度、ミキサ通過流量、空気過剰率を示したチャート。
【符号の説明】
【0051】
1、100 予混合圧縮着火機関
10 燃焼室
2v 燃料弁(燃料供給量調整手段)
102p 第1燃料供給路
3 スロットル
4 ミキサ
4p 第2燃料供給路
4v 開閉弁(燃料供給量調整手段)
5、105 ECU(制御手段)
11p、111p 吸気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼室と、当該燃焼室へ連通する吸気通路と、を有し、火花点火燃焼と予混合圧縮着火燃焼とを切り換えて運転を行ない、予混合圧縮着火燃焼運転時に負のオーバーラップ期間を有する予混合圧縮着火機関において、
前記燃焼室へ供給される吸気量を調整するスロットルと、
前記吸気通路へ供給される燃料の供給量を調整する燃料供給量調整手段と、
火花点火燃焼から予混合圧縮着火燃焼への切換期間において、前記スロットルの開度が、前記火花点火燃焼の定常運転時における開度から前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度まで増大するように前記スロットルを制御し、且つ、前記吸気通路へ供給される燃料の供給量が、前記火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように、前記燃料供給量調整手段を制御する制御手段と、を有することを特徴とする予混合圧縮着火機関。
【請求項2】
前記吸気通路へ連通し前記燃料の通路となる燃料供給路をさらに有し、
前記燃料供給量調整手段は、前燃料供給路に設けられた燃料弁であり、
前記切換期間において、前記スロットルの開度は、前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における開度にまで段階的に増大することを特徴とする請求項1に記載の予混合圧縮着火機関。
【請求項3】
前記切換期間における前記スロットルの開度の二段階目以降の増大量には、一段階目の増大量よりも大きいものが含まれることを特徴とする請求項2に記載の予混合圧縮着火機関。
【請求項4】
前記燃料はガス燃料であり、
前記吸気通路の途中に配置され、吸入された空気と前記燃料とが混合されるミキサと、
前記ミキサへの燃料供給路である第1燃料供給路と、
前記第1燃料供給路の途中から分岐し、前記吸気通路へと連通する第2燃料供給路と、をさらに有し、
前記燃料供給量調整手段は、前記第2燃料供給路に設けられた開閉弁であることを特徴とする請求項1に記載の予混合圧縮着火機関。
【請求項5】
前記スロットルの開度が、前記圧縮着火期間の定常運転時における開度になるまで、前記吸気通路への燃料の供給量が前記火花点火燃焼の定常運転時における供給量よりも多くなるように前記制御手段が前記燃料供給量調整手段を制御し、
前記スロットルの開度が、前記圧縮着火期間の定常運転時における開度になった後は、前記吸気通路への燃料の供給量が、前記予混合圧縮着火燃焼の定常運転時における供給量となるように、前記制御手段が前記燃料供給量調整手段を制御することを特徴とする請求項1乃至4に記載の予混合圧縮着火機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−121601(P2008−121601A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−307818(P2006−307818)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】