光発振装置及び記録装置
【課題】簡易な構成で所望のパルス光周波数が容易に得られる光発振装置、記録装置を提供することを目的とする。
【解決手段】GaInN/GaN/AlGaN材料による二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部2と、ゲイン電流を注入するゲイン部3を含む自励発振半導体レーザ1と、自励発振半導体レーザ1から出射した発振光の位相とマスタークロック信号との位相差に基づいて、自励発振半導体レーザ1の過飽和吸収体部2に印加する負のバイアス電圧を制御する制御部45を含んで光発振装置及び記録装置を構成する。そして、発振期間では、負のバイアス電圧として所望の周期で変動する周期電圧を過飽和吸収体部2に印加する。
【解決手段】GaInN/GaN/AlGaN材料による二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部2と、ゲイン電流を注入するゲイン部3を含む自励発振半導体レーザ1と、自励発振半導体レーザ1から出射した発振光の位相とマスタークロック信号との位相差に基づいて、自励発振半導体レーザ1の過飽和吸収体部2に印加する負のバイアス電圧を制御する制御部45を含んで光発振装置及び記録装置を構成する。そして、発振期間では、負のバイアス電圧として所望の周期で変動する周期電圧を過飽和吸収体部2に印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、レーザ光を出射する光発振装置、及びこの光発振装置を用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会のIT化が進むにつれ、大容量化、高速化がより要求されるようになっている。このため、情報を伝播する媒体としては、無線通信のような例えば2.4GHz帯、5GHz帯の電磁波だけでなく、例えば波長が1.5μm帯の光から、周波数が数百THz領域の光が用いられるようになり、光通信技術が急速に普及している。
【0003】
また、光による情報の伝播は、例えば光ファイバのような光通信だけでなく、記録媒体への情報の記録、再生手段としても用いられるなど、光情報技術は、今後の情報化社会の発展を支える重要な基盤となっている。
【0004】
このような光による情報の伝送、記録には、特定のパルスを発振する光源が必要とされる。特に通信、記録・再生の大容量化、高速化には、高出力かつ短パルスの光源が不可欠であり、これらを満たす光源として様々な半導体レーザが研究・開発されている。
【0005】
例えば、シングルモードレーザを用いて光ディスクに記録された情報の再生を行う場合には、光学系の干渉によるノイズが生じるだけでなく、温度変化によっても発振波長が変化し、出力変動やノイズが発生する。
このため、外部から高周波重畳回路による変調を行うことで、レーザをマルチモード化し、温度変化や光ディスクからの戻り光による出力変動を抑制することが行われている。ところが、この方法では、高周波重畳回路を付加する分だけ装置が大きくなり、またコストも増大する。
【0006】
これに対して、自励発振半導体レーザでは、高周波で点滅しながら直接マルチモード発振するため、高周波重畳回路が無くても、出力変動を抑えることができる。
【0007】
例えば、自励発振のGaN青紫色半導体レーザによって、1GHzの周波数においてパルス幅15ps、10Wの発振出力が可能な光源を実現している(非特許文献1を参照)。
この半導体レーザは、過飽和吸収体部(Saturable absorber section)と、過飽和吸収大部を挟むように設けられる二つのゲイン部(Gain section)と、によって構成されるTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザである。
【0008】
この半導体レーザでは、過飽和吸収体部に逆バイアスの電圧を加える。そしてこの時、二つのゲイン部に対して電流を注入することにより、例えば波長407nmのレーザ光が出射される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hideki Watanabe, Takao Miyajima, Masaru Kuramoto, Masao Ikeda, and Hiroyuki Yokoyama、Applied Physics Express 3,(2010)052701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした高出力かつパルス幅の短い光源は、例えば二光子吸収記録媒体への記録光源や、非線形光学生体イメージング、マイクロマシニング等、様々な分野への応用が期待される。
【0011】
他にも近年においては、信号転送の高速化のために、シリコン電子デバイス間を光配線で接続し、光で信号転送を行う光回路も提案されている。将来、光回路による演算処理を可能とするためには、電子回路のマスタークロックとして光発振子が必要となる。
こうした光発振子として自励発振型のレーザを用いる場合には、用途に応じて特定の周波数のものを用意しなければならない。
また、記録再生装置においては、光記録媒体から読み取ったウォルブ信号や、光記録媒体を回転させるスピンドルモータからの回転同期信号に同期させた記録信号を光源から出射させる必要がある。
【0012】
しかし、自励発振型のレーザは、一般的にその構造によって特有のパルス光周波数に決まってしまう。このため、用途毎にそれぞれ製造する必要がある上に、非常に高い製造精度も必要とする。したがって、コストは高くなる。
【0013】
上述の点を鑑みて、本技術は、簡易な構成で所望のパルス光周波数が容易に得られる光発振装置、記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本技術の光発振装置は二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザを含む。また、自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、分離された一方の発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズとを含む。また、光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部とを含む。また、マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、マスタークロック信号とパルスとの位相差を算出する位相比較部とを含む。
【0015】
さらに、本技術の光発振装置は、マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部を含む。また、記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する負のバイアス電圧を制御する制御部であって、自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期電圧を出力する制御部を含む。ここで、周期電圧とは、所望の周期で変動する電圧と定義する。
【0016】
また、本技術による記録装置は、上述の光発振装置において、信号生成部の代わりに記録信号を生成する記録信号生成部を設け、さらに、上述の光分離部によって分離されたもう一方の発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズを配置したものである。
【0017】
本技術の光発振装置及び記録装置によれば、自励発振半導体レーザの過飽和吸収体部に印加する周期電圧を制御することにより、発振光の発振周波数を制御することができる。
このため、任意の発振周波数で、容易に自励発振半導体レーザを発光させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本技術の光発振装置及び記録装置によれば、任意の発振周波数の発振光を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自励発振半導体レーザを示す概略構成図である。
【図2】自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光の発振周波数の関係を示す図である。
【図3】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光の発振周波数の関係を示す図である。
【図4】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図5】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図6】自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図7】図7Aは、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図7Bは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図8】図8Aは、二値信号を示す図であり、図8Bは、このときに自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図8Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図9】図9Aは、自励発振半導体レーザから出射した発振光の波形を示す図であり、図9Bは、自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧を示す図である。
【図10】図10Aは、二値信号を示す図であり、図10Bは、このときに自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図10Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図11】本技術の一実施形態に係る記録装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本技術の実施形態に係る記録装置、及びその記録装置に用いる自励発振半導体レーザの一例を、図を参照しながら説明する。本技術の実施形態は以下の順で説明する。なお、本技術は以下の例に限定されるものではない。
1.自励発振半導体レーザの構成
2.記録装置の構成
【0021】
〈1.自励発振半導体レーザの構成〉
まず、本技術の記録装置に用いる自励発振半導体レーザ1の構成について説明する。
図1は、本技術における自励発振半導体レーザ1を示す概略構成図である。この自励発振半導体レーザ1は、上述の非特許文献1において示されている自励発振半導体レーザである。
【0022】
自励発振半導体レーザ1は、過飽和吸収体部(Saturable absorber section)2と、第1のゲイン部(Gain section)3と、第2のゲイン部4とによって構成されるTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザである。
図1に示すように、過飽和吸収体部2は、第1のゲイン部3と、第2のゲイン部4に挟まれるように位置する。
過飽和吸収体部2を設けると、吸収体に入射する光の強度が大きくなるにつれて吸収体の吸収率が低下し、強度の大きいパルスしか吸収体を透過できないため、より狭いパルスが得られる。
また、第1のゲイン部3及び第2のゲイン部4にはゲイン電流が注入される。
【0023】
n型GaN基板6の(0001)面上には、GaInN/GaN/AlGaN材料による二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造が形成されている。
すなわち、n型GaN基板6上に、下層から順に、n型GaN層7、n型AlGaNクラッド層8、n型GaNガイド層9、二重量子井戸活性層10が形成される。さらに、二重量子井戸活性層10上に、下層から順に、GaInNガイド層11、p型AlGaN層12、p型AlGaN障壁層13、p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14が形成される。
【0024】
このヘテロ構造は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって形成することができる。
【0025】
このp型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14の中央部には、図1に示すようにリッジ構造が形成され、リッジ上面には、p型GaNコンタクト層16が形成される。また、リッジ側面や、p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14のリッジが形成されていない部分の上には、SiO2/Si絶縁層15が形成される。
【0026】
p型GaNコンタクト層16及びSiO2/Si絶縁層15上には、p型電極である第1の主電極17、第2の主電極18並びに副電極19がオーミックコンタクトにより形成される。
すなわち、第1のゲイン部3上には第1の主電極17が形成され、過飽和吸収体部2上には副電極19が形成される。また、第2のゲイン部4上には、第2の主電極18が形成される。これらの電極は、溝状の分離部20によって分離されており、互いに電気的に分離される。
また、n型GaN基板6のn型GaN層とは反対側の面には、n型の下部電極5がオーミックコンタクトにより形成される。
【0027】
図1に示すように、この自励発振半導体レーザ1では、副電極19によって、過飽和吸収体部2に負のバイアス電圧(以下、逆バイアス電圧)を加える。そしてこの時、第1のゲイン部3及び第2のゲイン部4に対して第1の主電極17及び第2の主電極18から電流(ゲイン電流)を注入することにより、レーザ光が出射される。
【0028】
本提案者らは、この自励発振半導体レーザ1に対し、上述の逆バイアス電圧の変化よって発振光を変調し、かつ、自励発振半導体レーザ1の発振期間における逆バイアス電圧の値、及び周期を変化させることにより発振周波数を制御できることを見出した。また、ゲイン電流の値を変化させることで、発振期間内の発振周波数をパルス毎に制御できることを見出した。
すなわち、本技術において、発振光の変調と発振周波数の制御は、逆バイアス電圧を制御することで行う。また、発振期間内に発振されるパルス光の間隔の調整は、ゲイン電流の値を変化させることで行う。
【0029】
以下に、本技術の自励発振半導体レーザ1の特性を調べた実験結果を示す。
図2は、本技術による自励発振半導体レーザ1において、発振時の逆バイアス電圧(直流電圧)を一定にし、ゲイン電流を変化させたときにおける発振光の発振周波数の測定結果である。図2の横軸はゲイン電流(Igain)であり、縦軸は、発振周波数である。ここでは、逆バイアス電圧(Vsa)は、0Vから−6.0Vまで、1.0V刻みで変化させ、それぞれの電圧値における発振周波数の変化を調べた。
【0030】
図2に示すように、逆バイアス電圧(Vsa)が一定であるとき、ゲイン電流(Igain)を大きくすると、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の発振周波数は大きくなることがわかる。したがって、自励発振半導体レーザ1の発振時において、ゲイン電流(直流電流)の値を変化させることで、発振周波数を制御することが可能である。
【0031】
図3は、ゲイン電流(Igain)を一定にし、自励発振半導体レーザ1の発振時における逆バイアス電圧(発振時において直流電圧)の変化に対する発振周波数の変化を調べたものである。図3の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸は、発振周波数である。ここでは、ゲイン電流は、80mAから200mAまで、20mA刻みでそれぞれの電流値における発振周波数の変化を調べた。
【0032】
図3に示すように、ゲイン電流(Igain)が一定であるとき、逆バイアス電圧(Vsa)を負の方向に大きくすると、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の発振周波数は小さくなることがわかる。すなわち、自励発振半導体レーザ1の発振時(発振期間)において、逆バイアス電圧(直流電圧)の値を変化させることで、発振周波数を制御することが可能である。
【0033】
図4は、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧(Vsa)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係を示す図である。図4の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸は、ピークパワーである。
図4からわかるように、逆バイアス電圧(Vsa)をゼロから負の方向に大きくすると、ピークパワーが大きくなる。さらに、逆バイアス電圧(Vsa)を、所定の電圧よりも負の方向に大きくすると、ピークパワーは小さくなっていき、最終的には発振が停止する。このように、逆バイアス電圧によって、ピークパワーの値が変化するので、逆バイアス電圧によりピークパワーを制御することが可能である。
【0034】
また、図5は、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧(Vsa)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係において、ゲイン電流(Igain)が200mA以上の場合を調べたものである。図5の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸はピークパワーである。ゲイン電流(Igain)は、200mAから235mAまで、5mA刻みでそれぞれの電流値におけるピークパワーの変化を調べた。
【0035】
図5に示すように、このゲイン電流(Igain)の範囲では、逆バイアス電圧(Vsa)が約−7Vよりも負の方向に大きくなると、自励発振半導体レーザ1の発振が停止する。したがって、例えば、図5の線L1に示す逆バイアス電圧(Vsa)が−5.5Vの時を自励発振半導体レーザ1のオン(発振)状態とし、線L2に示す逆バイアス電圧(Vsa)が−7.5Vの時を自励発振半導体レーザ1のオフ(非発振)状態とすることができる。すなわち、例えば逆バイアス電圧(Vsa)を、−5.5Vと−7.5Vとで切り替えを行うことにより、自励発振半導体レーザ1のオン(発振)とオフ(非発振)を制御することができる。
【0036】
このように、逆バイアス電圧の制御を行うことで、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の変調を行うことが可能である。また、逆バイアス電圧を最大値が−7.5V、最小値が−5Vの周期電圧とすることにより、自励発振半導体レーザから出射する発振光の周波数を制御することができる。
【0037】
また、図6は、自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流(Igain)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係を示す図である。図6の横軸はゲイン電流(Igain)であり、縦軸は、ピークパワーである。
図6からわかるように、ゲイン電流を大きくする程、発振光のピークパワーが大きくなることがわかる。したがって、ゲイン電流)によって自励発振半導体レーザ1の発振光のピークパワーを制御することが可能である。
なお、この図4,5,6で示すピークパワー値は光出力の平均パワーモニター値と高速フォトディテクタ(40GHz)で測定したパルス幅から換算している。ディテクタの帯域不足で実際の最小パルス幅15psに対して40ps程度までしか検出できていないため、ピーク値が低めに表示されている。
【0038】
自励発振半導体レーザ1の上述した特性は、図7A、図7Bを用いて以下のように説明できる。
図7Aは、自励発振半導体レーザ1に注入したゲイン電流と、電流の注入により自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度の関係を示す図であり、図7Bは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射される光の波形を示す図である。なお、このとき、逆バイアス電圧は一定の値としている。
【0039】
図7Aにおいて、特性L3は、自励発振半導体レーザ1に注入した電流値であり、特性L4は、そのときに自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度である。また、特性L5は、逆バイアス電圧Vsaで決まる発光閾値である。
【0040】
矢印A1に示すように、ゲイン電流を大きくしていくと、自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度が高くなる。そして、この電荷密度が特性L5に示す発光閾値に到達すると、図7Bに示すパルス光Pu1が放出される。このとき、パルス光の放出により電荷が消費され、矢印A2に示すように、自励発振半導体レーザ1内の電荷密度は低下する。
そして再びゲイン電流によって自励発振半導体レーザ1内に電荷が蓄積され、電荷密度が特性L5の発光閾値に到達するとパルス光を放出する。こうした過程を繰り返すことによって、自励発振半導体レーザ1はパルス光の連続発振を行う。
【0041】
また、特性L5に示す電荷密度に対する発光閾値は、自励発振半導体レーザ1に印加するバイアス電圧の値によって変化する。
例えば、バイアス電圧を負の方向に大きくすると、特性L5に示す電荷密度に対する発光閾値は、矢印A3に示すように大きくなる。このため、電荷密度が発光閾値に到達するまでの時間が長くなるので、パルス光が放出される間隔は長くなり、自励発振半導体レーザ1の発振周波数は小さくなる。
すなわち、この原理により、自励発振半導体レーザ1の発振周波数を逆バイアス電圧によって制御することができる。
【0042】
また、バイアス電圧を負の方向に大きくすることにより発光閾値が大きくなると、レーザ光の発振に必要とされる電荷密度が大きくなり、発振時に消費される電荷量も大きくなるので、放出されるパルス光のエネルギーも大きくなる。このため、バイアス電圧によって、自励発振半導体レーザ1の発振光のピークパワーを制御することができる。
【0043】
また一方で、自励発振半導体レーザ1に蓄積された電荷は、パルス光の放出によって消費される以外に、自励発振半導体レーザ1から自然に流出する(消費される)ことでも失われる。このため、自励発振半導体レーザ1に蓄積させることのできる電荷量(電荷密度)には限界がある。
したがって、バイアス電圧Vsaの値を負の方向に大きくし過ぎると、蓄積可能な電荷密度に対して発光閾値が大きくなり過ぎ、発光閾値にまで、電荷密度を高めることができなくなる。このため、図4に示したように、バイアス電圧Vsaを負の方向に所定の値にまで大きくすると、自励発振半導体レーザ1は発振しなくなる。
【0044】
このように、バイアス電圧Vsaには、負の値の領域において、自励発振半導体レーザ1が発振しなくなる閾値が存在する。したがって、自励発振半導体レーザ1のオン・オフの切り替えを行う際には、オフ時のバイアス電圧を、この閾値よりも負の方向に大きい値に設定することが好ましい。言い換えると、こうした設定を行った自励発振半導体レーザ1では、レーザ光の発振が停止された非発振期間におけるバイアス電圧が、レーザ光の発振が行われる発振期間におけるバイアス電圧よりも負の方向に大きくなる。
このような設定を行うことにより、精度良く、自励発振半導体レーザ1のオン・オフの切り替えを行うことができる。
【0045】
また、バイアス電圧の制御によって、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の変調と発振周波数の制御が可能となる原理について、図8A〜図8Cをもとに以下に説明する。
【0046】
図8Aに示すように、例えば自励発振半導体レーザ1の発振光に対して、0、1、1、0、0の順に二値信号を載せる場合を考える。図8Bは、このときに印加する逆バイアス電圧(特性L6)、それに対応した発光閾値(特性L7)、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流の波形(特性L8)、自励発振半導体レーザ1に蓄えられる電荷密度(特性L9)を示す図である。また、図8Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の波形(特性L10)を示す図である。
なお、図8Cに示すように、自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光2個分が、二値信号の‘1’に対応するものとする。また、ゲイン電流は全期間にわたって一定値とする。
【0047】
まず、二値信号の‘0’を自励発振半導体レーザ1によって表現するときには、図8Bに示す期間T1において、特性L9に示す電荷密度が、特性L7に示す発光閾値を超えないように発光閾値の値を設定する。したがって、期間T1においては、自励発振半導体レーザ1は発振しない(非発振期間)。
【0048】
一方、二値信号の‘1’を自励発振半導体レーザ1によって表現するときには、図8Bに示す期間T2において、特性L6に示す逆バイアス電圧を、その電圧の大きさが負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とする。これにより、特性L7に示す発光閾値が期間T2において周期的に低下し、特性L9に示す電荷密度が発光閾値に到達するようになる。その結果、図8Cに示すパルス光Pu2が放出される。
【0049】
パルス光Pu2の一回の放出により電荷が消費されることで、図8Bの矢印A4に示すように、電荷密度は低下する。一方、特性L8に示すゲイン電流は、期間T1(非発振期間)及び期間T2(発振期間)の両方において値が一定である直流電流なので、再び自励発振半導体レーザ1には電荷が蓄えられ、矢印A5に示すように電荷密度が上昇する。このとき、期間T2における特性L6に示す逆バイアス電圧は、負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とされる。このため、特性L7に示す発光閾値も周期的に変化しており、周期的に発光閾値が低下する。この周期的に変化する発光閾値に、自励発振半導体レーザ内で再び増加している電荷密度が到達したときに、図8Cに示すパルス光Pu3が放出される。そして、このパルス光Pu3が放出されたときに、二値信号の‘1’が表現される。
【0050】
また、二値信号の‘1’から‘0’へ切り替わるときには、図8Bの期間T3(非発振期間)に示すように、特性L6の逆バイアス電圧を負の方向に大きくし、その値で一定にする。これにより、期間T3において、特性L7に示す発光閾値が上昇し、特性L9に示す電荷密度が発光閾値に到達しなくなる。このため、自励発振半導体レーザは発振せずに停止状態となり、二値信号の‘0’が表現される。
【0051】
このように、発振期間である期間T2において、逆バイアス電圧を周期的に変化する周期電圧とすることで発光閾値を周期的に変化させ、周期的に変化する閾値に応じてパルス光を発光させることができる。すなわち、逆バイアス電圧の周期に応じてパルス光を発光させることができるため、逆バイアス電圧の周期で発振周波数を制御することができると共に、逆バイアス電圧の周期で発光されるパルス光の個数を制御することができる。
【0052】
図9A〜図9Cに、図8A〜図8Cに示した変動動作の確認実験を行った結果を示す。図9Aは、自励発振半導体レーザ1から出射した発振光の波形を示す図であり、図9Bは、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧を示す図である。また、図9Cは、ゲイン電流を165mA、又は170mAと一定にした場合の、逆バイアス電圧に対する出力パワーを示した図である。
【0053】
確認実験では、逆バイアス電圧は、−5.5Vから−7Vに周期的に変化する周期2nsecの周期電圧とした。また、ゲイン電流は、170mAの一定の電流値とした。図9Bでは、周期電圧とした逆バイアス電圧の波形が矩形パルスとなっていないが、これは信号の反射等に起因するものであり、実際には、矩形パルスが印加されている。また、図9Bにおいて、逆バイアス電圧が−7Vでほぼ一定となる期間T4は、図9Aのパルス光が発光していない期間T4に相当する。図9Aと図9Bとの時間軸のずれは、検出器によって発生する遅延によるものであり、パルス光を光検出した後、そのパルス光を電気変換して出力するまでに要する時間等に起因するものである。実際には、図9Aの期間T4と図9Bの期間T4はほぼ同時刻であり、また、図9Aに示すパルス光の発光は、逆バイアス電圧が−5.5Vとされた時刻に対応して発振されている。
【0054】
図9A及び図9Bからわかるように、逆バイアス電圧が−7Vである期間に自励発振半導体レーザ1は発振せず、逆バイアス電圧が−5.5Vになるとほぼ同時に自励発振半導体レーザ1が発振していることがわかる。図9Cより、ゲイン電流170mA、逆バイアス電圧−5.5Vのときのパルス光のピークパワーは5W程度であることがわかる。また、逆バイアス電圧が−7Vで一定とされた期間T4では、パルス光は発振せず、図9Cより、逆バイアス電圧が−7Vのときはパルス光のピークパワーはほぼゼロであることがわかる。
【0055】
このことから、自励発振半導体レーザ1では、逆バイアス電圧によりパルス光の変調が可能であり、発振期間において逆バイアス電圧を−5.5Vと−7Vとで切り替える周期電圧とすることにより、パルス光を強制的に発振させることが可能であることがわかる。そして、発振期間における発振周波数及び発振するパルス光の個数は、周期電圧の周期によって制御することが可能であることがわかる。
【0056】
ここで、パルス光の発振後、電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも、逆バイアス電圧の周期が短い場合、電荷の蓄積が追いつかず、発振期間における逆バイアス電圧の一周期分の期間にパルス光が発光されなくなってしまう。このため、図9Aに示したように、逆バイアス電圧の周期に合わせてパルス光を発生させるためには、発振期間における逆バイアス電圧の周期が、電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも長く設定される必要がある。
【0057】
したがって、発振期間における逆バイアス電圧の一周期分の期間において一回のパルス光を強制的に発生させるため、逆バイアス電圧の周期を電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも長く設定することが好ましい。その他、発光閾値の値をより低い値に設定したり、ゲイン電流の値を調整して電荷密度の発光閾値に到達するまでの時間を早くしたりすることで、逆バイアス電圧の周期毎に一回のパルス光が強制的に発光されるように調整することができる。このような発振期間における逆バイアス電圧の周期や電荷密度の増加特性の調整は、発振周波数や出力パワーとの関係で最適な値を決定することが好ましい。
【0058】
ところで、ゲイン電流の値が大きくなると、電荷密度が発光閾値に到達するまでの時間が短くなる。そうすると、図7Aに示すように閾値電圧が一定の場合、パルス光が放出される間隔は短くなり、自励発振半導体レーザ1の発振周波数は大きくなる。
この原理を利用して、図8A〜図8Cに示した特性を有する自励発振半導体レーザ1において、発振期間内で発振されるパルス光の間隔を調整することができる。
【0059】
逆バイアス電圧を周期的に変動する周期電圧とし、その周期に合わせてパルス光を発振させる自励発振半導体レーザ1において、発振期間内で発振されるパルス光の間隔の調整が可能となる原理について、図10A〜図10Cをもとに以下に説明する。図10A〜図10Cにおいて、図8A〜図8Cに対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0060】
図10Aに示すように、例えば自励発振半導体レーザ1の発振光に対して、0、1、1、0、0の順に二値信号を載せる場合を考える。図10Bは、このときに印加する逆バイアス電圧(特性L6)、それに対応した発光閾値(特性L7)、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流の波形(特性L11)、自励発振半導体レーザ1に蓄えられる電荷密度(特性L12)を示す図である。また、図10Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の波形(特性L13)を示す図である。
なお、図10Cに示すように、自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光2個分が、二値信号の‘1’に対応するものとする。
【0061】
ここでは、図10Cに示すパルス光の間隔、すなわちパルス光の振幅を調整するため、ゲイン電流の特性L11を、一定期間だけその値が大きくなるようなプロファイルとしている。ゲイン電流の値が大きくされた期間では、パルス光の発振後、再度電荷密度が発光閾値に到達するまでに蓄積される電荷量が増える。
【0062】
例えば、図10Bでは、図8Bに示した図に比較して、2番目のパルス光Pu4と3番目のパルス光Pu5が発光する期間で、ゲイン電流の値を大きくしている。これにより、2番目のパルス光Pu4と3番目のパルス光Pu5の振幅が高くなる。このように、発振期間内においてゲイン電流の値を変えることにより、発振期間内に発振されるパルス光の振幅をパルス光毎に微調整することが可能となる。
【0063】
このように、パルス光の発振期間において逆バイアス電圧を周期電圧とし、この周期電圧に同期させてパルス光の発振を行う場合において、ゲイン電流のプロファイルを制御することにより、発振期間内におけるパルス光の振幅を調整することができる。このような構成により、記録媒体に合わせた記録補償処理のための振幅の微調整が可能となる。
【0064】
〈2.記録装置の構成)
上述の特性を有する自励発振半導体レーザ1を用いて構成した記録装置について、以下に説明する。
図11は、本技術の一実施形態に係る記録装置100を示す概略構成図である。本実施形態の記録装置100は、光発振装置である光発振部210と、光発振部210から出射した発振光を光記録媒体43上に集光する対物レンズ41と、を有する。
【0065】
光発振部210は、光源として上述の自励発振半導体レーザ1と、自励発振半導体レーザ1からの光をコリメートするコリメータレンズ31と、コリメータレンズ31を透過した光を分離する光分離部32を備える。
また、光発振部210は、光分離部32によって分離された一方の光を集光する集光レンズ33と、集光レンズ33によって集光された光を受光する受光素子34を備える。
【0066】
さらに、光発振部210は、受光素子34によって受光された光を検出するパルス検出部35と、マスタークロック信号を生成する基準信号生成部36を備える。また、パルス検出部35によって検出された光の位相とマスタークロック信号の位相とを比較する位相比較部37を備える。
【0067】
また、本実施形態の光発振部210は、自励発振半導体レーザ1に注入する逆バイアス電圧及びゲイン電流を制御する制御部45を備える。
また、本実施形態の光発振部210は、マスタークロック信号にタイミングを合わせて、記録信号を生成する記録信号生成部39を備える。
【0068】
まず、記録信号生成部39は、基準信号生成部36によって生成されるマスタークロックのタイミングに合わせて、例えば光ディスク等の光記録媒体に記録する記録信号(二値信号)を生成する。
【0069】
制御部45は、記録信号生成部39で生成された記録信号に基づいて、自励発振半導体レーザ1に印加する逆バイアス電圧を制御する。このとき、既述のように、自励発振半導体レーザ1の非発振期間(二値信号の‘0’)における逆バイアス電圧は、負の値で一定に保持される。また、発振期間(二値信号の‘1’)における逆バイアス電圧は、非発振期間における逆バイアス電圧の値から、負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とする。これにより、発振期間においては、自励発振半導体レーザ1から逆バイアス電圧の周期に応じたパルス光が発光される。これにより、発振期間における逆バイアス電圧の周期を記録信号に応じて制御し、自励発振半導体レーザから出射する発振光を、記録信号に応じて変調することができる(図8A〜図8C参照)。
【0070】
記録信号に応じて変調された自励発振半導体レーザ1からの発振光は、コリメータレンズ31によってコリメートされた後、光分離部32に入射する。
光分離部32は、例えばビームスプリッタ等によって構成され、自励発振半導体レーザ1から出射した光を二つの光束に分離する。二つに分離された光束のうち、例えば、光分離部32によって反射された光束は、集光レンズ33によって受光素子34上に集光される。この受光素子34には、例えばフォトダイオード等が用いられる。
また、パルス検出部35は、コンデンサ44を介して受光素子34に接続され、受光素子34によって受光された光のパルスを検出する。
【0071】
位相比較部37は、基準信号生成部36において生成されたマスタークロックと、パルス検出部35において検出されたパルスの位相とを比較し、両者の位相差を算出する。そして、位相比較部37において求められた位相差に基づいて、制御部45により自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流のプロファイルを制御し、自励発振半導体レーザ1から発振するパルス光の周波数をパルス光毎に調整する。これにより、発振期間内におけるパルス光の間隔を微調整する(図10A〜図10C)。
【0072】
一方で、光分離部32を透過した自励発振半導体レーザ1からの発振光は、ミラー40に入射する。そして、この発振光はミラー40によって反射されて光路を変え、対物レンズ41に入射する。
対物レンズ41に入射した発振光は、光記録媒体43上に集光される。光記録媒体43は、スピンドルモータ42によって光記録面の面内方向に回転する。また、レーザ光の集光スポットは、図示しないスレッドモータ等によって光記録媒体43の径方向に随時移動する。これにより、自励発振半導体レーザ1からの発振光は、光記録媒体43の光記録面に対して渦巻き状、もしくは同心円状に照射され、発振光に載せられた記録情報が、光記録媒体43に順次記録される。
【0073】
このように、本実施形態の記録装置100では、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光を、自励発振半導体レーザ1に印加する逆バイアス電圧によって変調し、かつ、逆バイアス電圧の周期によって発振光の周波数を任意に設定することができる。この逆バイアス電圧は、記録信号に対応して自励発振半導体レーザ1に印加されるので、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光に対して、記録情報を載せることができる。
【0074】
また、本実施形態の記録装置100では、発振期間内における発振光のパルス間隔の微調整を、自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流によって制御することができる。このため、光記録媒体への情報の記録を精度良く行うことが可能である。
【0075】
また、自励発振半導体レーザ1からの発振光に載せる信号は、記録信号に限らず任意の信号であってよい。すなわち、記録信号生成部39の代わりに、任意の信号を生成する信号生成部を設けることにより、任意の信号が載った発振光を出射する光発振装置として光発振部210を構成することも可能である。
また、ここでは自励発振半導体レーザ1には、二つのゲイン部を有するTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザを用いたが、ゲイン部が一つであるbi-Sectional型の自励発振半導体レーザを用いても、同様の作用、効果を得ることができる。
【0076】
以上、本技術による光発振装置及び記録装置について説明した。本技術は上記実施の形態にとらわれることなく、特許請求の範囲に記載した本技術の要旨を逸脱しない限りにおいて、なお考えられる種々の形態を含むものであることは言うまでもない。
【0077】
また、本技術は以下の構成をとることができる。
(1)
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、
前記分離された一方の前記発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部と、
前記記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む記録装置。
(2)
前記制御部は、前記位相差に基づいて、前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの間隔を調整する
(1)に記載の記録装置。
(3)
前記自励発振半導体レーザは、活性層、GaInNガイド層、p型AlGaN障壁層、p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及びp型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層を備え、
前記活性層の一方の表面上に、前記GaInNガイド層、前記p型AlGaN障壁層、前記p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及び前記p型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層がこの順に積層された
(1)又は(2)に記載の記録装置。
(4)
前記自励発振半導体レーザは、活性層の他方の表面上に順に積層されたn型GaNガイド層、n型AlGaNクラッド層、n型GaN層を備える
(1)〜(3)のいずれかに記載の記録装置。
(5)
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を分離する光分離部と、
前記光分離部によって分離された一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による所定の信号を生成する信号生成部と、
前記信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む光発振装置。
(6)
前記制御部は、前記位相差に基づいて、前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの振幅を調整する
(5)に記載の光発振装置。
【符号の説明】
【0078】
1・・・自励発振半導体レーザ、2・・・過飽和吸収体部、3・・・第1のゲイン部、4・・・第2のゲイン部、5・・・下部電極、6・・・n型GaN基板、7・・・n型GaN層、8・・・n型AlGaNクラッド層、9・・・n型GaNガイド層、10・・・二重量子井戸活性層、11・・・GaInNガイド層、12・・・p型AlGaN層、13・・・p型AlGaN障壁層、14・・・p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層、15・・・SiO2/Si絶縁層、15ps・・・パルス幅、16・・・p型GaNコンタクト層、17・・・第1の主電極、18・・・第2の主電極、19・・・副電極、20・・・分離部、31・・・コリメータレンズ、32・・・光分離部、33・・・集光レンズ、34・・・受光素子、35・・・パルス検出部、36・・・基準信号生成部、37・・・位相比較部、39・・・記録信号生成部、40・・・ミラー、41・・・対物レンズ、42・・・スピンドルモータ、43・・・光記録媒体、44・・・コンデンサ、45・・・制御部、100・・・記録装置、210・・・光発振部
【技術分野】
【0001】
本技術は、レーザ光を出射する光発振装置、及びこの光発振装置を用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会のIT化が進むにつれ、大容量化、高速化がより要求されるようになっている。このため、情報を伝播する媒体としては、無線通信のような例えば2.4GHz帯、5GHz帯の電磁波だけでなく、例えば波長が1.5μm帯の光から、周波数が数百THz領域の光が用いられるようになり、光通信技術が急速に普及している。
【0003】
また、光による情報の伝播は、例えば光ファイバのような光通信だけでなく、記録媒体への情報の記録、再生手段としても用いられるなど、光情報技術は、今後の情報化社会の発展を支える重要な基盤となっている。
【0004】
このような光による情報の伝送、記録には、特定のパルスを発振する光源が必要とされる。特に通信、記録・再生の大容量化、高速化には、高出力かつ短パルスの光源が不可欠であり、これらを満たす光源として様々な半導体レーザが研究・開発されている。
【0005】
例えば、シングルモードレーザを用いて光ディスクに記録された情報の再生を行う場合には、光学系の干渉によるノイズが生じるだけでなく、温度変化によっても発振波長が変化し、出力変動やノイズが発生する。
このため、外部から高周波重畳回路による変調を行うことで、レーザをマルチモード化し、温度変化や光ディスクからの戻り光による出力変動を抑制することが行われている。ところが、この方法では、高周波重畳回路を付加する分だけ装置が大きくなり、またコストも増大する。
【0006】
これに対して、自励発振半導体レーザでは、高周波で点滅しながら直接マルチモード発振するため、高周波重畳回路が無くても、出力変動を抑えることができる。
【0007】
例えば、自励発振のGaN青紫色半導体レーザによって、1GHzの周波数においてパルス幅15ps、10Wの発振出力が可能な光源を実現している(非特許文献1を参照)。
この半導体レーザは、過飽和吸収体部(Saturable absorber section)と、過飽和吸収大部を挟むように設けられる二つのゲイン部(Gain section)と、によって構成されるTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザである。
【0008】
この半導体レーザでは、過飽和吸収体部に逆バイアスの電圧を加える。そしてこの時、二つのゲイン部に対して電流を注入することにより、例えば波長407nmのレーザ光が出射される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hideki Watanabe, Takao Miyajima, Masaru Kuramoto, Masao Ikeda, and Hiroyuki Yokoyama、Applied Physics Express 3,(2010)052701
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうした高出力かつパルス幅の短い光源は、例えば二光子吸収記録媒体への記録光源や、非線形光学生体イメージング、マイクロマシニング等、様々な分野への応用が期待される。
【0011】
他にも近年においては、信号転送の高速化のために、シリコン電子デバイス間を光配線で接続し、光で信号転送を行う光回路も提案されている。将来、光回路による演算処理を可能とするためには、電子回路のマスタークロックとして光発振子が必要となる。
こうした光発振子として自励発振型のレーザを用いる場合には、用途に応じて特定の周波数のものを用意しなければならない。
また、記録再生装置においては、光記録媒体から読み取ったウォルブ信号や、光記録媒体を回転させるスピンドルモータからの回転同期信号に同期させた記録信号を光源から出射させる必要がある。
【0012】
しかし、自励発振型のレーザは、一般的にその構造によって特有のパルス光周波数に決まってしまう。このため、用途毎にそれぞれ製造する必要がある上に、非常に高い製造精度も必要とする。したがって、コストは高くなる。
【0013】
上述の点を鑑みて、本技術は、簡易な構成で所望のパルス光周波数が容易に得られる光発振装置、記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本技術の光発振装置は二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザを含む。また、自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、分離された一方の発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズとを含む。また、光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部とを含む。また、マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、マスタークロック信号とパルスとの位相差を算出する位相比較部とを含む。
【0015】
さらに、本技術の光発振装置は、マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部を含む。また、記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する負のバイアス電圧を制御する制御部であって、自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期電圧を出力する制御部を含む。ここで、周期電圧とは、所望の周期で変動する電圧と定義する。
【0016】
また、本技術による記録装置は、上述の光発振装置において、信号生成部の代わりに記録信号を生成する記録信号生成部を設け、さらに、上述の光分離部によって分離されたもう一方の発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズを配置したものである。
【0017】
本技術の光発振装置及び記録装置によれば、自励発振半導体レーザの過飽和吸収体部に印加する周期電圧を制御することにより、発振光の発振周波数を制御することができる。
このため、任意の発振周波数で、容易に自励発振半導体レーザを発光させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本技術の光発振装置及び記録装置によれば、任意の発振周波数の発振光を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自励発振半導体レーザを示す概略構成図である。
【図2】自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光の発振周波数の関係を示す図である。
【図3】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光の発振周波数の関係を示す図である。
【図4】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図5】自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図6】自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、この自励発振半導体レーザから出射した発振光のピークパワーの関係を示す図である。
【図7】図7Aは、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図7Bは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図8】図8Aは、二値信号を示す図であり、図8Bは、このときに自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図8Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図9】図9Aは、自励発振半導体レーザから出射した発振光の波形を示す図であり、図9Bは、自励発振半導体レーザに印加した逆バイアス電圧を示す図である。
【図10】図10Aは、二値信号を示す図であり、図10Bは、このときに自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流と、電荷密度と、発光閾値の関係を示す図であり、図10Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光の波形を示す図である。
【図11】本技術の一実施形態に係る記録装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本技術の実施形態に係る記録装置、及びその記録装置に用いる自励発振半導体レーザの一例を、図を参照しながら説明する。本技術の実施形態は以下の順で説明する。なお、本技術は以下の例に限定されるものではない。
1.自励発振半導体レーザの構成
2.記録装置の構成
【0021】
〈1.自励発振半導体レーザの構成〉
まず、本技術の記録装置に用いる自励発振半導体レーザ1の構成について説明する。
図1は、本技術における自励発振半導体レーザ1を示す概略構成図である。この自励発振半導体レーザ1は、上述の非特許文献1において示されている自励発振半導体レーザである。
【0022】
自励発振半導体レーザ1は、過飽和吸収体部(Saturable absorber section)2と、第1のゲイン部(Gain section)3と、第2のゲイン部4とによって構成されるTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザである。
図1に示すように、過飽和吸収体部2は、第1のゲイン部3と、第2のゲイン部4に挟まれるように位置する。
過飽和吸収体部2を設けると、吸収体に入射する光の強度が大きくなるにつれて吸収体の吸収率が低下し、強度の大きいパルスしか吸収体を透過できないため、より狭いパルスが得られる。
また、第1のゲイン部3及び第2のゲイン部4にはゲイン電流が注入される。
【0023】
n型GaN基板6の(0001)面上には、GaInN/GaN/AlGaN材料による二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造が形成されている。
すなわち、n型GaN基板6上に、下層から順に、n型GaN層7、n型AlGaNクラッド層8、n型GaNガイド層9、二重量子井戸活性層10が形成される。さらに、二重量子井戸活性層10上に、下層から順に、GaInNガイド層11、p型AlGaN層12、p型AlGaN障壁層13、p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14が形成される。
【0024】
このヘテロ構造は、例えばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって形成することができる。
【0025】
このp型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14の中央部には、図1に示すようにリッジ構造が形成され、リッジ上面には、p型GaNコンタクト層16が形成される。また、リッジ側面や、p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層14のリッジが形成されていない部分の上には、SiO2/Si絶縁層15が形成される。
【0026】
p型GaNコンタクト層16及びSiO2/Si絶縁層15上には、p型電極である第1の主電極17、第2の主電極18並びに副電極19がオーミックコンタクトにより形成される。
すなわち、第1のゲイン部3上には第1の主電極17が形成され、過飽和吸収体部2上には副電極19が形成される。また、第2のゲイン部4上には、第2の主電極18が形成される。これらの電極は、溝状の分離部20によって分離されており、互いに電気的に分離される。
また、n型GaN基板6のn型GaN層とは反対側の面には、n型の下部電極5がオーミックコンタクトにより形成される。
【0027】
図1に示すように、この自励発振半導体レーザ1では、副電極19によって、過飽和吸収体部2に負のバイアス電圧(以下、逆バイアス電圧)を加える。そしてこの時、第1のゲイン部3及び第2のゲイン部4に対して第1の主電極17及び第2の主電極18から電流(ゲイン電流)を注入することにより、レーザ光が出射される。
【0028】
本提案者らは、この自励発振半導体レーザ1に対し、上述の逆バイアス電圧の変化よって発振光を変調し、かつ、自励発振半導体レーザ1の発振期間における逆バイアス電圧の値、及び周期を変化させることにより発振周波数を制御できることを見出した。また、ゲイン電流の値を変化させることで、発振期間内の発振周波数をパルス毎に制御できることを見出した。
すなわち、本技術において、発振光の変調と発振周波数の制御は、逆バイアス電圧を制御することで行う。また、発振期間内に発振されるパルス光の間隔の調整は、ゲイン電流の値を変化させることで行う。
【0029】
以下に、本技術の自励発振半導体レーザ1の特性を調べた実験結果を示す。
図2は、本技術による自励発振半導体レーザ1において、発振時の逆バイアス電圧(直流電圧)を一定にし、ゲイン電流を変化させたときにおける発振光の発振周波数の測定結果である。図2の横軸はゲイン電流(Igain)であり、縦軸は、発振周波数である。ここでは、逆バイアス電圧(Vsa)は、0Vから−6.0Vまで、1.0V刻みで変化させ、それぞれの電圧値における発振周波数の変化を調べた。
【0030】
図2に示すように、逆バイアス電圧(Vsa)が一定であるとき、ゲイン電流(Igain)を大きくすると、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の発振周波数は大きくなることがわかる。したがって、自励発振半導体レーザ1の発振時において、ゲイン電流(直流電流)の値を変化させることで、発振周波数を制御することが可能である。
【0031】
図3は、ゲイン電流(Igain)を一定にし、自励発振半導体レーザ1の発振時における逆バイアス電圧(発振時において直流電圧)の変化に対する発振周波数の変化を調べたものである。図3の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸は、発振周波数である。ここでは、ゲイン電流は、80mAから200mAまで、20mA刻みでそれぞれの電流値における発振周波数の変化を調べた。
【0032】
図3に示すように、ゲイン電流(Igain)が一定であるとき、逆バイアス電圧(Vsa)を負の方向に大きくすると、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の発振周波数は小さくなることがわかる。すなわち、自励発振半導体レーザ1の発振時(発振期間)において、逆バイアス電圧(直流電圧)の値を変化させることで、発振周波数を制御することが可能である。
【0033】
図4は、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧(Vsa)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係を示す図である。図4の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸は、ピークパワーである。
図4からわかるように、逆バイアス電圧(Vsa)をゼロから負の方向に大きくすると、ピークパワーが大きくなる。さらに、逆バイアス電圧(Vsa)を、所定の電圧よりも負の方向に大きくすると、ピークパワーは小さくなっていき、最終的には発振が停止する。このように、逆バイアス電圧によって、ピークパワーの値が変化するので、逆バイアス電圧によりピークパワーを制御することが可能である。
【0034】
また、図5は、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧(Vsa)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係において、ゲイン電流(Igain)が200mA以上の場合を調べたものである。図5の横軸は逆バイアス電圧(Vsa)であり、縦軸はピークパワーである。ゲイン電流(Igain)は、200mAから235mAまで、5mA刻みでそれぞれの電流値におけるピークパワーの変化を調べた。
【0035】
図5に示すように、このゲイン電流(Igain)の範囲では、逆バイアス電圧(Vsa)が約−7Vよりも負の方向に大きくなると、自励発振半導体レーザ1の発振が停止する。したがって、例えば、図5の線L1に示す逆バイアス電圧(Vsa)が−5.5Vの時を自励発振半導体レーザ1のオン(発振)状態とし、線L2に示す逆バイアス電圧(Vsa)が−7.5Vの時を自励発振半導体レーザ1のオフ(非発振)状態とすることができる。すなわち、例えば逆バイアス電圧(Vsa)を、−5.5Vと−7.5Vとで切り替えを行うことにより、自励発振半導体レーザ1のオン(発振)とオフ(非発振)を制御することができる。
【0036】
このように、逆バイアス電圧の制御を行うことで、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の変調を行うことが可能である。また、逆バイアス電圧を最大値が−7.5V、最小値が−5Vの周期電圧とすることにより、自励発振半導体レーザから出射する発振光の周波数を制御することができる。
【0037】
また、図6は、自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流(Igain)と、自励発振半導体レーザ1からの発振光のピークパワーとの関係を示す図である。図6の横軸はゲイン電流(Igain)であり、縦軸は、ピークパワーである。
図6からわかるように、ゲイン電流を大きくする程、発振光のピークパワーが大きくなることがわかる。したがって、ゲイン電流)によって自励発振半導体レーザ1の発振光のピークパワーを制御することが可能である。
なお、この図4,5,6で示すピークパワー値は光出力の平均パワーモニター値と高速フォトディテクタ(40GHz)で測定したパルス幅から換算している。ディテクタの帯域不足で実際の最小パルス幅15psに対して40ps程度までしか検出できていないため、ピーク値が低めに表示されている。
【0038】
自励発振半導体レーザ1の上述した特性は、図7A、図7Bを用いて以下のように説明できる。
図7Aは、自励発振半導体レーザ1に注入したゲイン電流と、電流の注入により自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度の関係を示す図であり、図7Bは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射される光の波形を示す図である。なお、このとき、逆バイアス電圧は一定の値としている。
【0039】
図7Aにおいて、特性L3は、自励発振半導体レーザ1に注入した電流値であり、特性L4は、そのときに自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度である。また、特性L5は、逆バイアス電圧Vsaで決まる発光閾値である。
【0040】
矢印A1に示すように、ゲイン電流を大きくしていくと、自励発振半導体レーザ1内に蓄積された電荷の密度が高くなる。そして、この電荷密度が特性L5に示す発光閾値に到達すると、図7Bに示すパルス光Pu1が放出される。このとき、パルス光の放出により電荷が消費され、矢印A2に示すように、自励発振半導体レーザ1内の電荷密度は低下する。
そして再びゲイン電流によって自励発振半導体レーザ1内に電荷が蓄積され、電荷密度が特性L5の発光閾値に到達するとパルス光を放出する。こうした過程を繰り返すことによって、自励発振半導体レーザ1はパルス光の連続発振を行う。
【0041】
また、特性L5に示す電荷密度に対する発光閾値は、自励発振半導体レーザ1に印加するバイアス電圧の値によって変化する。
例えば、バイアス電圧を負の方向に大きくすると、特性L5に示す電荷密度に対する発光閾値は、矢印A3に示すように大きくなる。このため、電荷密度が発光閾値に到達するまでの時間が長くなるので、パルス光が放出される間隔は長くなり、自励発振半導体レーザ1の発振周波数は小さくなる。
すなわち、この原理により、自励発振半導体レーザ1の発振周波数を逆バイアス電圧によって制御することができる。
【0042】
また、バイアス電圧を負の方向に大きくすることにより発光閾値が大きくなると、レーザ光の発振に必要とされる電荷密度が大きくなり、発振時に消費される電荷量も大きくなるので、放出されるパルス光のエネルギーも大きくなる。このため、バイアス電圧によって、自励発振半導体レーザ1の発振光のピークパワーを制御することができる。
【0043】
また一方で、自励発振半導体レーザ1に蓄積された電荷は、パルス光の放出によって消費される以外に、自励発振半導体レーザ1から自然に流出する(消費される)ことでも失われる。このため、自励発振半導体レーザ1に蓄積させることのできる電荷量(電荷密度)には限界がある。
したがって、バイアス電圧Vsaの値を負の方向に大きくし過ぎると、蓄積可能な電荷密度に対して発光閾値が大きくなり過ぎ、発光閾値にまで、電荷密度を高めることができなくなる。このため、図4に示したように、バイアス電圧Vsaを負の方向に所定の値にまで大きくすると、自励発振半導体レーザ1は発振しなくなる。
【0044】
このように、バイアス電圧Vsaには、負の値の領域において、自励発振半導体レーザ1が発振しなくなる閾値が存在する。したがって、自励発振半導体レーザ1のオン・オフの切り替えを行う際には、オフ時のバイアス電圧を、この閾値よりも負の方向に大きい値に設定することが好ましい。言い換えると、こうした設定を行った自励発振半導体レーザ1では、レーザ光の発振が停止された非発振期間におけるバイアス電圧が、レーザ光の発振が行われる発振期間におけるバイアス電圧よりも負の方向に大きくなる。
このような設定を行うことにより、精度良く、自励発振半導体レーザ1のオン・オフの切り替えを行うことができる。
【0045】
また、バイアス電圧の制御によって、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の変調と発振周波数の制御が可能となる原理について、図8A〜図8Cをもとに以下に説明する。
【0046】
図8Aに示すように、例えば自励発振半導体レーザ1の発振光に対して、0、1、1、0、0の順に二値信号を載せる場合を考える。図8Bは、このときに印加する逆バイアス電圧(特性L6)、それに対応した発光閾値(特性L7)、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流の波形(特性L8)、自励発振半導体レーザ1に蓄えられる電荷密度(特性L9)を示す図である。また、図8Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の波形(特性L10)を示す図である。
なお、図8Cに示すように、自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光2個分が、二値信号の‘1’に対応するものとする。また、ゲイン電流は全期間にわたって一定値とする。
【0047】
まず、二値信号の‘0’を自励発振半導体レーザ1によって表現するときには、図8Bに示す期間T1において、特性L9に示す電荷密度が、特性L7に示す発光閾値を超えないように発光閾値の値を設定する。したがって、期間T1においては、自励発振半導体レーザ1は発振しない(非発振期間)。
【0048】
一方、二値信号の‘1’を自励発振半導体レーザ1によって表現するときには、図8Bに示す期間T2において、特性L6に示す逆バイアス電圧を、その電圧の大きさが負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とする。これにより、特性L7に示す発光閾値が期間T2において周期的に低下し、特性L9に示す電荷密度が発光閾値に到達するようになる。その結果、図8Cに示すパルス光Pu2が放出される。
【0049】
パルス光Pu2の一回の放出により電荷が消費されることで、図8Bの矢印A4に示すように、電荷密度は低下する。一方、特性L8に示すゲイン電流は、期間T1(非発振期間)及び期間T2(発振期間)の両方において値が一定である直流電流なので、再び自励発振半導体レーザ1には電荷が蓄えられ、矢印A5に示すように電荷密度が上昇する。このとき、期間T2における特性L6に示す逆バイアス電圧は、負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とされる。このため、特性L7に示す発光閾値も周期的に変化しており、周期的に発光閾値が低下する。この周期的に変化する発光閾値に、自励発振半導体レーザ内で再び増加している電荷密度が到達したときに、図8Cに示すパルス光Pu3が放出される。そして、このパルス光Pu3が放出されたときに、二値信号の‘1’が表現される。
【0050】
また、二値信号の‘1’から‘0’へ切り替わるときには、図8Bの期間T3(非発振期間)に示すように、特性L6の逆バイアス電圧を負の方向に大きくし、その値で一定にする。これにより、期間T3において、特性L7に示す発光閾値が上昇し、特性L9に示す電荷密度が発光閾値に到達しなくなる。このため、自励発振半導体レーザは発振せずに停止状態となり、二値信号の‘0’が表現される。
【0051】
このように、発振期間である期間T2において、逆バイアス電圧を周期的に変化する周期電圧とすることで発光閾値を周期的に変化させ、周期的に変化する閾値に応じてパルス光を発光させることができる。すなわち、逆バイアス電圧の周期に応じてパルス光を発光させることができるため、逆バイアス電圧の周期で発振周波数を制御することができると共に、逆バイアス電圧の周期で発光されるパルス光の個数を制御することができる。
【0052】
図9A〜図9Cに、図8A〜図8Cに示した変動動作の確認実験を行った結果を示す。図9Aは、自励発振半導体レーザ1から出射した発振光の波形を示す図であり、図9Bは、自励発振半導体レーザ1に印加した逆バイアス電圧を示す図である。また、図9Cは、ゲイン電流を165mA、又は170mAと一定にした場合の、逆バイアス電圧に対する出力パワーを示した図である。
【0053】
確認実験では、逆バイアス電圧は、−5.5Vから−7Vに周期的に変化する周期2nsecの周期電圧とした。また、ゲイン電流は、170mAの一定の電流値とした。図9Bでは、周期電圧とした逆バイアス電圧の波形が矩形パルスとなっていないが、これは信号の反射等に起因するものであり、実際には、矩形パルスが印加されている。また、図9Bにおいて、逆バイアス電圧が−7Vでほぼ一定となる期間T4は、図9Aのパルス光が発光していない期間T4に相当する。図9Aと図9Bとの時間軸のずれは、検出器によって発生する遅延によるものであり、パルス光を光検出した後、そのパルス光を電気変換して出力するまでに要する時間等に起因するものである。実際には、図9Aの期間T4と図9Bの期間T4はほぼ同時刻であり、また、図9Aに示すパルス光の発光は、逆バイアス電圧が−5.5Vとされた時刻に対応して発振されている。
【0054】
図9A及び図9Bからわかるように、逆バイアス電圧が−7Vである期間に自励発振半導体レーザ1は発振せず、逆バイアス電圧が−5.5Vになるとほぼ同時に自励発振半導体レーザ1が発振していることがわかる。図9Cより、ゲイン電流170mA、逆バイアス電圧−5.5Vのときのパルス光のピークパワーは5W程度であることがわかる。また、逆バイアス電圧が−7Vで一定とされた期間T4では、パルス光は発振せず、図9Cより、逆バイアス電圧が−7Vのときはパルス光のピークパワーはほぼゼロであることがわかる。
【0055】
このことから、自励発振半導体レーザ1では、逆バイアス電圧によりパルス光の変調が可能であり、発振期間において逆バイアス電圧を−5.5Vと−7Vとで切り替える周期電圧とすることにより、パルス光を強制的に発振させることが可能であることがわかる。そして、発振期間における発振周波数及び発振するパルス光の個数は、周期電圧の周期によって制御することが可能であることがわかる。
【0056】
ここで、パルス光の発振後、電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも、逆バイアス電圧の周期が短い場合、電荷の蓄積が追いつかず、発振期間における逆バイアス電圧の一周期分の期間にパルス光が発光されなくなってしまう。このため、図9Aに示したように、逆バイアス電圧の周期に合わせてパルス光を発生させるためには、発振期間における逆バイアス電圧の周期が、電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも長く設定される必要がある。
【0057】
したがって、発振期間における逆バイアス電圧の一周期分の期間において一回のパルス光を強制的に発生させるため、逆バイアス電圧の周期を電荷密度が発光閾値となるまでの時間よりも長く設定することが好ましい。その他、発光閾値の値をより低い値に設定したり、ゲイン電流の値を調整して電荷密度の発光閾値に到達するまでの時間を早くしたりすることで、逆バイアス電圧の周期毎に一回のパルス光が強制的に発光されるように調整することができる。このような発振期間における逆バイアス電圧の周期や電荷密度の増加特性の調整は、発振周波数や出力パワーとの関係で最適な値を決定することが好ましい。
【0058】
ところで、ゲイン電流の値が大きくなると、電荷密度が発光閾値に到達するまでの時間が短くなる。そうすると、図7Aに示すように閾値電圧が一定の場合、パルス光が放出される間隔は短くなり、自励発振半導体レーザ1の発振周波数は大きくなる。
この原理を利用して、図8A〜図8Cに示した特性を有する自励発振半導体レーザ1において、発振期間内で発振されるパルス光の間隔を調整することができる。
【0059】
逆バイアス電圧を周期的に変動する周期電圧とし、その周期に合わせてパルス光を発振させる自励発振半導体レーザ1において、発振期間内で発振されるパルス光の間隔の調整が可能となる原理について、図10A〜図10Cをもとに以下に説明する。図10A〜図10Cにおいて、図8A〜図8Cに対応する部分には同一符号を付し、重複説明を省略する。
【0060】
図10Aに示すように、例えば自励発振半導体レーザ1の発振光に対して、0、1、1、0、0の順に二値信号を載せる場合を考える。図10Bは、このときに印加する逆バイアス電圧(特性L6)、それに対応した発光閾値(特性L7)、自励発振半導体レーザに注入したゲイン電流の波形(特性L11)、自励発振半導体レーザ1に蓄えられる電荷密度(特性L12)を示す図である。また、図10Cは、このときに自励発振半導体レーザ1から出射する発振光の波形(特性L13)を示す図である。
なお、図10Cに示すように、自励発振半導体レーザ1から出射するパルス光2個分が、二値信号の‘1’に対応するものとする。
【0061】
ここでは、図10Cに示すパルス光の間隔、すなわちパルス光の振幅を調整するため、ゲイン電流の特性L11を、一定期間だけその値が大きくなるようなプロファイルとしている。ゲイン電流の値が大きくされた期間では、パルス光の発振後、再度電荷密度が発光閾値に到達するまでに蓄積される電荷量が増える。
【0062】
例えば、図10Bでは、図8Bに示した図に比較して、2番目のパルス光Pu4と3番目のパルス光Pu5が発光する期間で、ゲイン電流の値を大きくしている。これにより、2番目のパルス光Pu4と3番目のパルス光Pu5の振幅が高くなる。このように、発振期間内においてゲイン電流の値を変えることにより、発振期間内に発振されるパルス光の振幅をパルス光毎に微調整することが可能となる。
【0063】
このように、パルス光の発振期間において逆バイアス電圧を周期電圧とし、この周期電圧に同期させてパルス光の発振を行う場合において、ゲイン電流のプロファイルを制御することにより、発振期間内におけるパルス光の振幅を調整することができる。このような構成により、記録媒体に合わせた記録補償処理のための振幅の微調整が可能となる。
【0064】
〈2.記録装置の構成)
上述の特性を有する自励発振半導体レーザ1を用いて構成した記録装置について、以下に説明する。
図11は、本技術の一実施形態に係る記録装置100を示す概略構成図である。本実施形態の記録装置100は、光発振装置である光発振部210と、光発振部210から出射した発振光を光記録媒体43上に集光する対物レンズ41と、を有する。
【0065】
光発振部210は、光源として上述の自励発振半導体レーザ1と、自励発振半導体レーザ1からの光をコリメートするコリメータレンズ31と、コリメータレンズ31を透過した光を分離する光分離部32を備える。
また、光発振部210は、光分離部32によって分離された一方の光を集光する集光レンズ33と、集光レンズ33によって集光された光を受光する受光素子34を備える。
【0066】
さらに、光発振部210は、受光素子34によって受光された光を検出するパルス検出部35と、マスタークロック信号を生成する基準信号生成部36を備える。また、パルス検出部35によって検出された光の位相とマスタークロック信号の位相とを比較する位相比較部37を備える。
【0067】
また、本実施形態の光発振部210は、自励発振半導体レーザ1に注入する逆バイアス電圧及びゲイン電流を制御する制御部45を備える。
また、本実施形態の光発振部210は、マスタークロック信号にタイミングを合わせて、記録信号を生成する記録信号生成部39を備える。
【0068】
まず、記録信号生成部39は、基準信号生成部36によって生成されるマスタークロックのタイミングに合わせて、例えば光ディスク等の光記録媒体に記録する記録信号(二値信号)を生成する。
【0069】
制御部45は、記録信号生成部39で生成された記録信号に基づいて、自励発振半導体レーザ1に印加する逆バイアス電圧を制御する。このとき、既述のように、自励発振半導体レーザ1の非発振期間(二値信号の‘0’)における逆バイアス電圧は、負の値で一定に保持される。また、発振期間(二値信号の‘1’)における逆バイアス電圧は、非発振期間における逆バイアス電圧の値から、負の範囲内において周期的に正の方向に大きくなるような周期電圧とする。これにより、発振期間においては、自励発振半導体レーザ1から逆バイアス電圧の周期に応じたパルス光が発光される。これにより、発振期間における逆バイアス電圧の周期を記録信号に応じて制御し、自励発振半導体レーザから出射する発振光を、記録信号に応じて変調することができる(図8A〜図8C参照)。
【0070】
記録信号に応じて変調された自励発振半導体レーザ1からの発振光は、コリメータレンズ31によってコリメートされた後、光分離部32に入射する。
光分離部32は、例えばビームスプリッタ等によって構成され、自励発振半導体レーザ1から出射した光を二つの光束に分離する。二つに分離された光束のうち、例えば、光分離部32によって反射された光束は、集光レンズ33によって受光素子34上に集光される。この受光素子34には、例えばフォトダイオード等が用いられる。
また、パルス検出部35は、コンデンサ44を介して受光素子34に接続され、受光素子34によって受光された光のパルスを検出する。
【0071】
位相比較部37は、基準信号生成部36において生成されたマスタークロックと、パルス検出部35において検出されたパルスの位相とを比較し、両者の位相差を算出する。そして、位相比較部37において求められた位相差に基づいて、制御部45により自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流のプロファイルを制御し、自励発振半導体レーザ1から発振するパルス光の周波数をパルス光毎に調整する。これにより、発振期間内におけるパルス光の間隔を微調整する(図10A〜図10C)。
【0072】
一方で、光分離部32を透過した自励発振半導体レーザ1からの発振光は、ミラー40に入射する。そして、この発振光はミラー40によって反射されて光路を変え、対物レンズ41に入射する。
対物レンズ41に入射した発振光は、光記録媒体43上に集光される。光記録媒体43は、スピンドルモータ42によって光記録面の面内方向に回転する。また、レーザ光の集光スポットは、図示しないスレッドモータ等によって光記録媒体43の径方向に随時移動する。これにより、自励発振半導体レーザ1からの発振光は、光記録媒体43の光記録面に対して渦巻き状、もしくは同心円状に照射され、発振光に載せられた記録情報が、光記録媒体43に順次記録される。
【0073】
このように、本実施形態の記録装置100では、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光を、自励発振半導体レーザ1に印加する逆バイアス電圧によって変調し、かつ、逆バイアス電圧の周期によって発振光の周波数を任意に設定することができる。この逆バイアス電圧は、記録信号に対応して自励発振半導体レーザ1に印加されるので、自励発振半導体レーザ1から出射する発振光に対して、記録情報を載せることができる。
【0074】
また、本実施形態の記録装置100では、発振期間内における発振光のパルス間隔の微調整を、自励発振半導体レーザ1に注入するゲイン電流によって制御することができる。このため、光記録媒体への情報の記録を精度良く行うことが可能である。
【0075】
また、自励発振半導体レーザ1からの発振光に載せる信号は、記録信号に限らず任意の信号であってよい。すなわち、記録信号生成部39の代わりに、任意の信号を生成する信号生成部を設けることにより、任意の信号が載った発振光を出射する光発振装置として光発振部210を構成することも可能である。
また、ここでは自励発振半導体レーザ1には、二つのゲイン部を有するTriple-Sectional型の自励発振半導体レーザを用いたが、ゲイン部が一つであるbi-Sectional型の自励発振半導体レーザを用いても、同様の作用、効果を得ることができる。
【0076】
以上、本技術による光発振装置及び記録装置について説明した。本技術は上記実施の形態にとらわれることなく、特許請求の範囲に記載した本技術の要旨を逸脱しない限りにおいて、なお考えられる種々の形態を含むものであることは言うまでもない。
【0077】
また、本技術は以下の構成をとることができる。
(1)
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、
前記分離された一方の前記発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部と、
前記記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む記録装置。
(2)
前記制御部は、前記位相差に基づいて、前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの間隔を調整する
(1)に記載の記録装置。
(3)
前記自励発振半導体レーザは、活性層、GaInNガイド層、p型AlGaN障壁層、p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及びp型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層を備え、
前記活性層の一方の表面上に、前記GaInNガイド層、前記p型AlGaN障壁層、前記p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及び前記p型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層がこの順に積層された
(1)又は(2)に記載の記録装置。
(4)
前記自励発振半導体レーザは、活性層の他方の表面上に順に積層されたn型GaNガイド層、n型AlGaNクラッド層、n型GaN層を備える
(1)〜(3)のいずれかに記載の記録装置。
(5)
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を分離する光分離部と、
前記光分離部によって分離された一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による所定の信号を生成する信号生成部と、
前記信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む光発振装置。
(6)
前記制御部は、前記位相差に基づいて、前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの振幅を調整する
(5)に記載の光発振装置。
【符号の説明】
【0078】
1・・・自励発振半導体レーザ、2・・・過飽和吸収体部、3・・・第1のゲイン部、4・・・第2のゲイン部、5・・・下部電極、6・・・n型GaN基板、7・・・n型GaN層、8・・・n型AlGaNクラッド層、9・・・n型GaNガイド層、10・・・二重量子井戸活性層、11・・・GaInNガイド層、12・・・p型AlGaN層、13・・・p型AlGaN障壁層、14・・・p型AlGaN/GaN超格子第一クラッド層、15・・・SiO2/Si絶縁層、15ps・・・パルス幅、16・・・p型GaNコンタクト層、17・・・第1の主電極、18・・・第2の主電極、19・・・副電極、20・・・分離部、31・・・コリメータレンズ、32・・・光分離部、33・・・集光レンズ、34・・・受光素子、35・・・パルス検出部、36・・・基準信号生成部、37・・・位相比較部、39・・・記録信号生成部、40・・・ミラー、41・・・対物レンズ、42・・・スピンドルモータ、43・・・光記録媒体、44・・・コンデンサ、45・・・制御部、100・・・記録装置、210・・・光発振部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、
前記分離された一方の前記発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部と、
前記記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記位相差に基づいて前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの間隔を調整する
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記自励発振半導体レーザは、活性層、GaInNガイド層、p型AlGaN障壁層、p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及びp型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層を備え、
前記活性層の一方の表面上に、前記GaInNガイド層、前記p型AlGaN障壁層、前記p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及び前記p型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層がこの順に積層された
請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記自励発振半導体レーザは、活性層の他方の表面上に順に積層されたn型GaNガイド層、n型AlGaNクラッド層、n型GaN層を備える
請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を分離する光分離部と、
前記光分離部によって分離された一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による所定の信号を生成する信号生成部と、
前記信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む光発振装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記位相差に基づいて前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの振幅を調整する
請求項5に記載の光発振装置。
【請求項1】
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を二つに分離する光分離部と、
前記分離された一方の前記発振光を光記録媒体上に集光する対物レンズと、
前記光分離部によって分離されたもう一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による記録信号を生成する記録信号生成部と、
前記記録信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む記録装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記位相差に基づいて前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの間隔を調整する
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記自励発振半導体レーザは、活性層、GaInNガイド層、p型AlGaN障壁層、p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及びp型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層を備え、
前記活性層の一方の表面上に、前記GaInNガイド層、前記p型AlGaN障壁層、前記p型GaN/AlGaN超格子第一クラッド層及び前記p型GaN/AlGaN超格子第二クラッド層がこの順に積層された
請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記自励発振半導体レーザは、活性層の他方の表面上に順に積層されたn型GaNガイド層、n型AlGaNクラッド層、n型GaN層を備える
請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
二重量子井戸分離閉じ込めヘテロ構造を有し、負のバイアス電圧を印加する過飽和吸収体部と、ゲイン電流を注入するゲイン部を含む自励発振半導体レーザと、
前記自励発振半導体レーザからの発振光を分離する光分離部と、
前記光分離部によって分離された一方の発振光を受光する受光素子と、
前記受光素子が受光した発振光のパルスを検出するパルス検出部と、
マスタークロック信号を生成する基準信号生成部と、
前記マスタークロック信号と前記パルスとの位相差を算出する位相比較部と、
前記マスタークロック信号のタイミングに合わせて負の電圧による所定の信号を生成する信号生成部と、
前記信号に基づき、過飽和吸収体部に印加する前記負のバイアス電圧を制御する制御部であって、前記自励発振半導体レーザの非発振期間においては直流電圧を出力し、前記自励発振半導体レーザの発振期間においては所望の周期で変動する周期電圧を出力する制御部と、
を含む光発振装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記位相差に基づいて前記自励発振半導体レーザの前記ゲイン部に注入する前記ゲイン電流を制御し、前記発振期間内におけるパルスの振幅を調整する
請求項5に記載の光発振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図11】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−25836(P2013−25836A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158323(P2011−158323)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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