説明

内燃機関の排気浄化装置

【課題】 本発明は、運転者等の手動操作によりPM強制再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、運転者等の不用意な若しくは誤った操作によるPM強制再生処理の中断や車両の急発進等を防止することを課題とする。
【解決手段】本発明は、手動によりPM強制再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、PM強制再生処理実行中は運転者等の車両走行操作を制限し、運転者等がPM強制再生処理の実行中断要求を入力した場合に限りPM強制再生処理の実行を中断するとともに車両走行操作の制限を解除するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレートフィルタのPM捕集能力を再生する内燃機関の排気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両などに搭載される内燃機関、特に圧縮着火式の内燃機関では、排気中のパティキュレート(以下、PMと記す)を捕集するパティキュレートフィルタを備えた排気浄化装置が普及してきている。このような排気浄化装置としては、アイドリング停車条件(機関回転数が所定回転数以下、アクセルがオフ、ギヤがニュートラル、且つクラッチがオフ)が成立しているときに運転者が再生ボタンを操作することにより、パティキュレートフィルタに捕集されたPMを強制的に燃焼除去するPM強制再生処理を実行するものが提案されている(たとえば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−155914号公報
【特許文献2】特開平10−18834号公報
【特許文献3】特許第3004324号公報
【特許文献4】特開平10−77826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、従来の技術では、PM強制再生処理実行中にアイドリング停車条件が不成立になるとPM強制再生処理が直ちに中止されて内燃機関が通常運転状態へ復帰するが、運転者の不用意な操作や誤操作によってアイドル停車条件が不成立となる場合がある。そのような場合には、車両の急発進や、PM強制再生処理の不要な中断が発生する可能性がある。
【0004】
本発明は、上記した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、内燃機関および/または車両の状態が所定の再生条件を満たしている時にPM強制再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、PM強制再生処理実行中の運転者等の不用意な操作や誤操作による車両の急発進やパティキュレートフィルタの再生効率悪化を抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記した課題を解決するために以下のような手段を採用した。本発明の特徴は、内燃機関および/または車両の状態が所定の再生条件を満たしている時にパティキュレートフィルタのPM強制再生処理を実行する内燃機関の排気浄化装置において、PM強制再生処理実行中は車両を走行させるための操作(以下、車両走行操作と記す)を制限する手段と、PM強制再生処理実行中に手動によりPM強制再生処理の実行中断要求を入力する手段とを備え、実行中断要求が入力された場合に限りPM強制再生処理の実行を中断するとともに車両走行操作の制限を解除する点にある。
【0006】
具体的には、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタと、内燃機関および/または内燃機関を搭載した車両の状態が所定の再生条件を満たしている時に前記パティキュレートフィルタのPM捕集能力を強制的に再生するPM強制再生処理を実行する再生処理手段と、PM強制再生処理実行時に車両走行操作を制限する制限手段と、PM強制再生処理の実行中断要求を手動により入力する中断要求入力手段と、中断要求入力手段が実行中断要求を入力した時にPM強制再生処理の実行を中断するとともに前記制限手段による制限を解除する再生中断手段と、を
備える。
【0007】
このように構成された内燃機関の排気浄化装置では、PM強制再生処理が実行されているときは、中断要求入力手段が実行中断要求を入力しない限りPM強制再生処理が継続されるとともに車両走行操作が制限されることになる。
【0008】
すなわち、PM強制再生処理実行中に車両の運転者等が車両走行操作を行おうとしても、中断要求入力手段が実行中断要求を入力しない限りPM強制再生処理が継続されるとともに車両走行操作が制限されることになる。
【0009】
従って、PM強制再生処理実行中に運転者等が不用意に或いは誤って車両走行操作を行おうとしても、車両が走行することなくPM強制再生処理が続行される。その結果、車両の急発進やPM強制再生処理の不用意な中断が防止されるようになる。一方、車両の運転者等は、実行中断要求を入力することにより車両走行操作の制限を解除することができるため、PM強制再生処理の実行途中であっても必要に応じて車両を走行させることができる。
【0010】
尚、本発明における中断要求入力手段は、車両走行操作以外の操作を実行中断要求として入力するものとする。このような中断要求入力手段としては、車両に設けられた専用のボタンやスイッチ等を例示することができる。また、本発明における再生条件としては、停車アイドル状態を例示することができる。
【0011】
本発明において、再生中断手段は、中断要求入力手段が実行中断要求を入力した時に、先ず再生処理手段によるPM強制再生処理の実行を中断し、次いでPM強制再生処理実行中断から所定期間経過後に車両走行操作の制限を解除するようにしてもよい。
【0012】
PM強制再生処理の実行が中断されたときに車両走行操作の制限が同時に解除されると、車両が急発進する場合がある。例えば、PM強制再生処理の実行時にアイドルアップ制御が行われる排気浄化装置においては、PM強制再生処理の実行中断と同時に車両走行操作の制限が解除されると、アイドル回転数が下がりきらない内に車両走行操作がなされて車両が急発進する可能性がある。
【0013】
これに対し、PM強制再生処理の実行が中断された時点から所定期間が経過するまで車両走行操作の制限解除が遅延されるようにすれば、車両の急発進を抑制することが可能となる。
【0014】
尚、PM強制再生処理の実行中断と車両走行操作の制限解除とに時間差が設けられた場合は、PM強制再生処理の実行中断要求が入力されても車両を直ちに走行させることができないため、運転者等に違和感を与える可能性がある。
【0015】
そこで、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、前記した所定期間の長さを運転者等へ知らせる通知手段を更に備えるようにしてもよい。通知手段は、例えば、スピーカなどの音声出力装置を介して所定期間の長さを出力するように構成されてもよく、ディスプレイなどの表示装置を介して所定期間の長さを出力するように構成されてもよい。
【0016】
また、本発明にかかる内燃機関の排気浄化装置は、PM強制再生処理実行時にパティキュレートフィルタに残存するPM量を演算する演算手段を更に備え、演算手段の演算値に応じてPM強制再生処理の実行方法及び実行中断方法を変更するようにしてもよい。
【0017】
例えば、演算手段の演算値が所定値を超えている間は再生処理手段が内燃機関のアイド
ル回転数を高めるアイドルアップ制御を実行するとともに制限手段が車両走行操作を制限し、演算手段の演算値が所定値以下となった後は再生処理手段がアイドルアップ制御を終了するとともに制限手段が車両走行操作の制限を解除するようにしてもよい。
【0018】
この場合、再生中断手段は、アイドルアップ制御が実行されている間は実行中断要求を入力した場合に限りPM強制再生処理の実行を中断するとともに制限手段による制限を解除し、アイドルアップ制御が終了した後は実行中断要求を入力した場合及び車両走行操作がなされた場合にPM強制再生処理の実行を中断する。
【0019】
この場合、パティキュレートフィルタに残存するPM量が少なくなると、運転者等が車両走行操作を行うだけで直ちに車両を走行させることが可能となる。その際、アイドルアップ制御が終了しているため、車両の急発進が抑制される。この結果、運転者等に対する利便性を高めることが可能となる。
【0020】
本発明にかかる制限手段は、シフト操作とクラッチ操作とアクセル操作の少なくとも一つを制限するようにしてもよい。
【0021】
制限手段がシフト操作を制限する方法としては、シフトポジションをニュートラルポジション又はパーキングポジションに固定する方法を例示することができる。この方法によれば、PM強制再生処理実行中にシフトポジションがニュートラルポジションやパーキングポジションから動力伝達可能なポジションへ操作されることがなくなるため、車両の急発進が防止される。
【0022】
制限手段がクラッチ操作を制限する方法としては、クラッチの切断を規制する方法を例示することができる。この方法によれば、PM強制再生処理実行中にクラッチを切断することができなくなるため、シフト操作が困難なる。その結果、シフト操作を間接的に制限することが可能となる。
【0023】
制限手段がアクセル操作を制限する方法としては、アクセル開度の増加を規制する方法、或いはアクセル開度の変化に対応した燃料噴射量の変化を規制する方法等を例示することができる。これらの方法によれば、内燃機関の機関回転数が無負荷状態で上昇するレーシング(空吹かし)が抑制されるため、パティキュレートフィルタへ流入する排気量が不要に急増することがなくなる。その結果、パティキュレートフィルタの過昇温を抑制することが可能となる。
【0024】
また、本発明は、内燃機関を搭載した車両が停車アイドル状態にある時に車両の運転者等が手動により再生要求を入力することを条件としてPM強制再生処理を行う内燃機関の排気浄化装置に好適である。これは、内燃機関および/または車両が再生条件を満たしていることを条件に自動的にPM強制再生処理および車両走行操作の制限が開始されると、車両の利便性が低下する可能性があるからである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、内燃機関および/または車両の状態が所定の再生条件を満たしている時にパティキュレートフィルタのPM強制再生処理を行う内燃機関の排気浄化装置において、PM強制再生処理実行中に運転者等がPM強制再生処理の実行中断要求を入力しない限り車両の走行が制限されるとともにPM強制再生処理が継続して続行されるため、運転者等の不用意な操作や誤操作による車両の急発進やパティキュレートフィルタの再生効率悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る内燃機関の排気浄化装置の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0027】
先ず、本発明の第1の実施例について図1〜図2に基づいて説明する。図1は、本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図である。
【0028】
図1において、内燃機関1は、軽油を燃料として運転される圧縮着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)である。内燃機関1は、複数のシリンダ2を有し、各シリンダ2にはシリンダ2内へ直接燃料を噴射する燃料噴射弁3が設けられている。
【0029】
内燃機関1には吸気通路4が接続されている。吸気通路4には遠心過給器(ターボチャージャ)5のコンプレッサハウジング50が配置されている。コンプレッサハウジング50より上流の吸気通路4にはエアフローメータ12が配置されている。コンプレッサハウジング50より下流の吸気通路4には給気冷却器(インタークーラ)6が配置されている。インタークーラ6より下流の吸気通路4には吸気絞り弁13が配置されている。
【0030】
また、内燃機関1には排気通路7が接続されている。排気通路7の途中には、ターボチャージャ5のタービンハウジング51が配置されている。タービンハウジング51より下流の排気通路7にはパティキュレートフィルタ8が配置されている。パティキュレートフィルタ8は、排気中のPMを捕集するフィルタの担体に酸化触媒が担持されたものである。
【0031】
タービンハウジング51より上流の排気通路7には、該排気通路7内を流れる排気中へ燃料を添加する燃料添加弁9が配置されている。パティキュレートフィルタ8より下流の排気通路7には排気温度センサ10が配置されている。
【0032】
このように構成された内燃機関1には、ECU11が併設されている。ECU11は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等から構成される算術論理演算回路である。
【0033】
ECU11は、上記した排気温度センサ10やエアフローメータ12等の各種センサに加え、再生ボタン14、中断ボタン15、アクセルポジションセンサ16、及びシフトポジションセンサ17と電気的に接続されている。
【0034】
再生ボタン14は、内燃機関1を搭載する車両の運転者等が手動PM強制再生処理を行うときに操作するボタンである。
【0035】
中断ボタン15は、運転者等がPM強制再生処理の実行を中断するときに操作するボタンであり、本発明にかかる中断要求入力手段の一実施態様である。尚、再生ボタン14と中断ボタン15は一つのボタンで兼用されてもよい。例えば、PM強制再生処理が実行されていないときに再生ボタン14が操作されると該再生ボタン14がオン信号を出力し、PM強制再生処理実行中に再生ボタン14が操作されると該再生ボタン14がオフ信号を出力するようにしてもよい。
【0036】
また、ECU11は、燃料噴射弁3、燃料添加弁9、吸気絞り弁13等に加え、報知ランプ18、表示装置19、及びシフトロック機構20と電気的に接続されている。
【0037】
報知ランプ18は、車両の運転席近傍に設けられ、パティキュレートフィルタ8のPM強制再生処理を手動により行う必要があるときに点灯するランプである。尚、報知ランプ
18は、再生ボタン14を点灯させるように構成されてもよい。
表示装置19は、車両の運転席近傍に設けられ、手動PM強制再生処理に関わる情報を表示する装置である。この表示装置19は、本発明にかかる通知手段の一実施態様である。
【0038】
シフトロック機構20は、手動PM強制再生処理の実行時にシフトポジションをニュートラルポジション又はパーキングポジションに固定する機構であり、本発明にかかる制限手段の一実施態様である。このシフトロック機構20は、シフトレバーを機械的にニュートラルポジション或いはパーキングポジションに固定する機構であってもよく、あるいはシフトレバーがニュートラルポジション又はパーキングポジション以外へ操作されたときに変速機の変速動作を電気的に制限する機構であってもよい。
【0039】
このように構成された内燃機関1では、ECU11が燃料噴射制御等の既知の制御に加え、本実施例の要旨となる手動再生制御を実行する。
【0040】
手動再生制御では、ECU11は、先ずパティキュレートフィルタ8のPM捕集量を演算する。PM捕集量を演算する方法としては、パティキュレートフィルタ8の前後差圧をPM捕集量に換算する方法、機関負荷と機関回転数をパラメータとして内燃機関1から排出されるPM量を求めそのPM量を積算することによりPM捕集量を算出する方法等を例示することできる。
【0041】
ECU11は、PM捕集量が所定量以上であるか否かを判別する。PM捕集量が所定量以上である場合には、ECU11は報知ランプ18を点灯させることにより、パティキュレートフィルタ8のPM強制再生処理を実行する必要がある旨を運転者等に報知する。
【0042】
報知ランプ18の点灯中であって所定の再生条件が成立しているときに再生ボタン14が操作されると、ECU11は、PM強制再生処理を実行する。前記した再生条件としては、機関回転数が所定回転数(例えば、800rpm程度)以下である、シフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションにある、アクセル開度が零である等の条件を例示することができる。
【0043】
PM強制再生処理では、ECU11は、吸気絞り弁13の開度を小さくし、アイドル回転数を所定のアイドルアップ回転数(例えば、1200rpm程度)まで高めるべく燃料噴射量を増量補正する制御(所謂、アイドルアップ制御)を行い、更に燃料添加弁9から排気中へ燃料を添加させる。
【0044】
吸気絞り弁13の開度が小さくされると、内燃機関1の吸入空気量が減少するため、それに応じて内燃機関1から排出される排気量も減少する。排気量が減少すると、排気の温度が上昇するとともに排気の流速が低下する。
【0045】
アイドルアップ制御が行われると、燃料噴射弁3から噴射される燃料量が増加するため、それに応じて内燃機関1から排出される熱量が増加する。このような熱量の増加は、吸気絞り弁13による排気量の減少に相乗して排気温度を一層上昇させる。
【0046】
燃料添加弁9から排気中へ燃料が添加されると、添加燃料及び排気がパティキュレートフィルタ8へ流入する。パティキュレートフィルタ8へ流入した添加燃料は、パティキュレートフィルタ8に担持された触媒によって酸化される。その際、排気の流速低下により触媒の空間速度が低くなるため、添加燃料の酸化率が高くなる。添加燃料の酸化率が高くなると、添加燃料の酸化反応熱が増加する。
【0047】
従って、パティキュレートフィルタ8は、少量且つ高温な排気によって加熱されると同時に添加燃料の酸化反応熱によっても加熱されることとなり、速やかにPM酸化可能温度域まで昇温するようになる。
【0048】
また、ECU11は、PM強制再生処理実行時にパティキュレートフィルタ8に残存するPM量を演算する。例えば、ECU11は、パティキュレートフィルタ8において酸化されたPMの総量(PM酸化量)を演算する。パティキュレートフィルタ8において単位時間当たりに酸化されるPM量はパティキュレートフィルタ8の温度によって変化する。このため、パティキュレートフィルタ8の温度やPM強制再生処理の実行時間とをパラメータとしてPM酸化量を求めることができる。このようにしてPM酸化量が算出されると、ECU11は、該PM酸化量がPM強制再生処理実行開始時に算出されたPM捕集量以上であるか否かを判別する。
【0049】
前記PM酸化量が前記PM捕集量未満である場合には、ECU11は、PM強制再生処理を続行する。前記PM酸化量が前記PM捕集量以上である場合には、ECU11は、PM強制再生処理の実行を終了し、報知ランプ18を消灯させる。
【0050】
ところで、PM強制再生処理実行中に運転者等が不用意に又は誤ってアクセル操作やシフト操作を行う場合がある。PM強制再生処理実行中にアクセル操作やシフト操作が行われると、PM強制再生処理が不要に中断されてしまい、パティキュレートフィルタ8の再生処理を完了させることができなくなる可能性がある。
【0051】
また、PM強制再生処理実行中はアイドルアップ制御が実行されるため、運転者等のシフト操作によりシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションから動力伝達可能なポジションへ変更されると、車両が急発進してしまう可能性もある。
【0052】
更に、PM強制再生処理実行中に運転者等のアクセル操作によってレーシング(空吹かし)等が行われると、パティキュレートフィルタ8に捕集されたPMが急激に燃焼してパティキュレートフィルタ8を過熱させる可能性もある。
【0053】
これに対し、本実施例の手動再生制御では、ECU11は、PM強制再生処理実行中は、中断ボタン15が操作されない限りシフト操作やアクセル操作等の車両走行操作が制限されるようにした。
【0054】
このような制御によれば、PM強制再生処理実行中に車両の運転者等がシフト操作やアクセル操作を行ってもPM強制再生処理が継続されるとともに車両の走行が制限されることになる。
【0055】
従って、PM強制再生処理実行中に運転者等が不用意に或いは誤ってシフト操作やアクセル操作を行っても、車両の急発進やパティキュレートフィルタ8の過熱等を防止しつつPM強制再生処理を続行することが可能となる。また、車両の運転者等は、中断ボタン15を操作することによってPM強制再生処理の実行中断及び車両走行操作の制限解除を任意に行うことができる。
【0056】
以下、本実施例の手動再生制御について図2に沿って詳しく説明する。図2は、手動再生制御ルーチンを示すフローチャートである。手動再生制御ルーチンは、ECU11が所定の間隔で繰り返し実行するルーチンである。
【0057】
手動再生制御ルーチンでは、ECU11は先ずS101においてパティキュレートフィルタ8のPM捕集量ΣPMを演算する。
【0058】
S102では、ECU11は前記S101で算出されたPM捕集量ΣPMが所定量Apm以上であるか否かを判別する。
【0059】
前記S102において前記PM捕集量ΣPMが所定量Apmより少ないと判定された場合は、ECU11は、本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0060】
前記S102において前記PM捕集量ΣPMが所定量Apm以上であると判定された場合は、ECU11は、S103へ進み、報知ランプ18を点灯させる。
【0061】
S104では、ECU11は、再生ボタン14がオンであるか否かを判別する。このS104において再生ボタン14がオンではないと判定された場合は、ECU11は本ルーチンの実行を一旦終了する。
【0062】
一方、S104において再生ボタン14がオンであると判定された場合は、ECU11はS105へ進む。S105では、ECU11は、再生条件が成立しているか否かを判別
する。具体的には、ECU11は、S105において、機関回転数が所定回転数以下であり、アクセルポジションセンサ16の出力信号が零(アクセル開度が零)であり、且つシフトポジションセンサ17の出力信号がニュートラルポジション又はパーキングポジションを示しているか否かを判別する。
【0063】
前記S105において否定判定された場合は、ECU11は本ルーチンの実行を一旦終了する。一方、前記S105において肯定判定された場合は、ECU11はS106へ進む。
【0064】
S106では、ECU11は、車両走行操作を制限する。具体的には、ECU11は、シフトロック機構20を作動させるとともに、アクセルポジションセンサ16の出力信号に基づく燃料噴射量の増減を停止する。この場合、シフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションに固定されるとともに、アクセル開度が増減しても燃料噴射量が変化しなくなる。
【0065】
S107では、ECU11はPM強制再生処理を実行する。PM強制再生処理では、ECU11は、吸気絞り弁13の開度を減少させ、アイドル回転数をアイドルアップ回転数まで上昇させるべく燃料噴射量を増量補正し、更に燃料添加弁9から排気中へ燃料を添加させる。
【0066】
S108では、ECU11は、中断ボタン15がオフであるか否かを判別する。このS108において中断ボタン15がオフであると判定された場合は、ECU11はS109へ進む。S109では、ECU11は、PM酸化量ΣOpmを演算する。
【0067】
S110では、ECU11は、前記S109で算出されたPM酸化量ΣOpmが前記S101で算出されたPM捕集量ΣPM以上であるか否かを判別する。
【0068】
前記110において前記PM酸化量ΣOpmが前記PM捕集量ΣPM未満であると判定された場合は、ECU11は前記S106以降の処理を再度実行する。
【0069】
前記110において前記PM酸化量ΣOpmが前記PM捕集量ΣPM以上である判定された場合は、ECU11は前記S111へ進む。S111では、ECU11はPM強制再生処理を終了する。すなわち、ECU11は、吸気絞り弁13の開度を通常の開度に戻し、燃料噴射量を通常のアイドル回転数に対応した量に戻し、更に燃料添加弁9からの燃料
添加を停止する。
【0070】
S112では、ECU11は、車両走行操作の制限を解除する。すなわち、ECU11は、シフトロック機構20の作動を停止させるとともに、アクセルポジションセンサ16の出力信号に基づく燃料噴射量の増減を再開する。
【0071】
ECU11は、S113において報知ランプ18を消灯させた後、本ルーチンの実行を終了する。
【0072】
また、上記したS108において中断ボタン15がオンであると判定された場合は、ECU11はS114へ進む。S114では、ECU11はPM強制再生処理の実行を終了する。
【0073】
S115では、ECU11は、タイマTを起動する。タイマTは所定時間をカウントダウンするタイマであり、所定時間はPM強制再生処理の実行が終了された時点から機関回転数が通常のアイドル回転数へ低下する時点までに要する時間であり、予め実験的に求められている。
【0074】
S116では、ECU11は、タイマTの計時時間Tを表示装置19から出力させる。この場合、運転者等は表示装置19が出力した時間Tを見ることにより、車両走行操作の制限が解除されるまでに要する時間を認識することができる。
【0075】
S117では、ECU11は、タイマTの計時時間Tが“0”であるか否かを判別する。このS117において計時時間Tが“0”ではないと判定された場合は、ECU11は前記S116以降の処理を再度実行する。一方、前記S117において計時時間Tが“0”であると判定された場合は、ECU11はS118へ進む。
【0076】
S118では、ECU11は、車両走行操作の制限を解除する。この場合、機関回転数が通常のアイドル回転数まで低下した後に車両走行操作の制限が解除されるため、車両の急発進を防止することが可能となる。
【0077】
このようにECU11が手動再生制御ルーチンを実行することにより、PM強制再生処理実行中は中断ボタン15が操作されない限りシフトポジションがニュートラルポジション又はパーキングポジションに固定され且つアクセル操作に対応した燃料噴射量の増減が禁止されるため、内燃機関1及び車両の状態は再生条件を満足する状態に維持される。その結果、運転者等が不用意に或いは誤ってシフト操作やアクセル操作を行おうとしてもPM強制再生処理が好適に継続されることとなる。
【0078】
PM強制再生処理実行中のシフト操作が制限されると、アイドルアップ制御が実行された状態でシフト操作されることがなくなるため、車両の急発進を防止することもできる。また、PM強制再生処理実行中のアクセル操作が制限されると、レーシング(空吹かし)等が発生しないため、パティキュレートフィルタ8の過熱を防止することもできる。
【0079】
一方、運転者等はPM強制再生処理実行中に中断ボタン15を操作することにより、PM強制再生処理の実行を中断することができるとともにシフト操作及びアクセル操作の制限を解除することができる。その際、先ずPM強制再生処理の実行が中断され、次いで機関回転数が通常のアイドル回転数まで低下した時点でシフト操作及びアクセル操作の制限が解除されるため、車両の急発進を防止することが可能となる。
【0080】
更に、中断ボタン15が操作されてからシフト操作及びアクセル操作の制限が解除され
るまでの所要時間が表示装置19によって出力されるため、運転者等に与える違和感を軽減することができる。
【0081】
尚、本実施例では、中断ボタン15が操作された時点から機関回転数が通常のアイドル回転数(例えば、700rpm程度)へ低下する時点まで車両走行操作の制限が継続されるようにしているが、機関回転数が通常のアイドル回転数へ低下する前であっても燃料噴射量が通常のアイドル回転数に対応した噴射量へ減量される時まで制限が継続されれば足りる。
【0082】
これは、燃料噴射量が通常のアイドル回転数に対応した噴射量へ減量されていれば、機関回転数が通常のアイドル回転数より高くとも、内燃機関1が発生するトルクは通常のアイドル回転時のトルクと同等となるため、車両の急発進を抑制することができるからである。
【0083】
また、本実施例では、PM強制再生処理実行中のシフト操作を制限しているが、クラッチ操作を制限することにより、シフト操作を間接的に制限するようにしてもよい。
【実施例2】
【0084】
次に、本発明の第2の実施例について図3に基づいて説明する。本実施例と前述した実施例1との差違は、実施例1では中断ボタン15が操作されない限りシフト操作及びアクセル操作が制限される例について述べたが、本実施例では中断ボタン15が操作されない場合であってもパティキュレートフィルタ8に残存するPM量が所定量未満となった時点でアイドルアップ制御を終了するとともにシフト操作及びアクセル操作の制限を解除する点にある。
【0085】
以下、本実施例における手動再生制御について図3に沿って説明する。図3は、手動再生制御ルーチンを示すフローチャートである。この手動再生制御ルーチンにおいて、S201〜S209は前述した図2のS101〜S109と同一の処理であり、S218〜S222はS114〜S118と同一の処理であるため、説明を省略する。
【0086】
S210では、ECU11は、S201にて算出されたPM捕集量ΣPMからS209にて算出されたPM酸化量ΣOpmを減算した値が所定量△PM以下であるか否かを判別する。
【0087】
前記S210において否定判定された場合は、ECU11はS206以降の処理を再度実行する。
【0088】
前記S210において肯定判定された場合は、ECU11はS211においてアイドルアップ制御の実行を終了する。
【0089】
S212では、ECU11は、車両走行操作の制限を解除する。すなわち、ECU11は、シフトロック機構20の作動を停止するとともに、アクセルポジションセンサ16の出力信号に基づく燃料噴射量の増減を許容する。
【0090】
S213では、ECU11は、アクセルポジションセンサ16及びシフトポジションセンサ17の出力信号に基づいて、運転者等がシフト操作或いはアクセル操作を行ったか否かを判別する。
【0091】
前記S213において運転者等がシフト操作或いはアクセル操作を行っていないと判定された場合は、ECU11はS214へ進み、PM酸化量ΣOpmを再度演算する。
【0092】
S215では、ECU11は、前記S201で算出されたPM捕集量ΣPMから前記S214で算出されたPM酸化量ΣOpmを減算した値が“0”であるか否かを判別する。
【0093】
前記S215において否定判定された場合は、ECU11は前述したS211以降の処理を再度実行する。
【0094】
前記S215において肯定判定された場合は、ECU11はS216へ進み、PM強制再生処理の実行を終了する。
【0095】
ECU11は、S217において報知ランプ18を消灯させた後、本ルーチンの実行を終了する。
【0096】
尚、前記S213において運転者等がシフト操作或いはアクセル操作を行ったと判定された場合は、ECU11は、S214及びS215をスキップしてS216以降の処理を実行する。
【0097】
この場合、運転者等は中断ボタン15を操作しなくともシフト操作やアクセル操作を行うだけで直ちに車両を走行させることが可能となるため、運転者等に対する利便性が向上する。更に、シフト操作やアクセル操作によって車両が直ちに走行可能となっても、アイドルアップ制御が既に終了しているため、車両の急発進を抑制することが可能となる。
【0098】
以上述べた実施例では、パティキュレートフィルタ8に残存するPM量が多い時には、アイドルアップ制御を利用したPM強制再生処理が実行されるとともに車両走行操作が制限されるため、パティキュレートフィルタ8の再生効率を高めることが可能になるとともに、PM強制再生処理の不要な中断、車両の急発進、及びパティキュレートフィルタ8の過昇温を抑制することが可能となる。更に、パティキュレートフィルタ8に残存するPM量が少なくなった時には、アイドルアップ制御が終了されるとともに車両走行操作の制限が解除されるため、運転者等は車両走行操作を行うだけで直ちに車両を走行させることが可能となる。
【0099】
従って、本実施例によれば、前述した実施例1と同様の効果を得ることが可能になるとともに、運転者等の利便性を高めることが可能となる。
【0100】
また、上記した所定量△PMが車両走行中に自動的に行われるPM強制再生処理の適用範囲内となるように定められれば、運転者等の車両走行操作によって手動PM強制再生処理が中断されても車両走行時にパティキュレートフィルタ8を再生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明を適用する内燃機関の概略構成を示す図
【図2】実施例1における手動再生制御ルーチンを示すフローチャート
【図3】実施例2における手動再生制御ルーチンを示すフローチャート
【符号の説明】
【0102】
1・・・・・内燃機関
8・・・・・パティキュレートフィルタ
9・・・・・燃料添加弁
11・・・・ECU
14・・・・再生ボタン(再生要求入力手段)
15・・・・中断ボタン(中断要求入力手段)
19・・・・表示装置(通知手段)
20・・・・シフトロック機構(制限手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられたパティキュレートフィルタと、
前記内燃機関および/または前記内燃機関を搭載した車両が所定の再生条件を満たしている時に、前記パティキュレートフィルタのPM捕集能力を強制的に再生するPM強制再生処理を実行する再生処理手段と、
PM強制再生処理実行時に前記内燃機関を搭載した車両を走行させるための操作を制限する制限手段と、
PM強制再生処理の実行中断要求を手動により入力する中断要求入力手段と、
前記中断要求入力手段が実行中断要求を入力した時に、PM強制再生処理の実行を中断するとともに前記制限手段による制限を解除する再生中断手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項2】
請求項1において、前記再生中断手段は、PM強制再生処理の実行を中断した時点から所定期間経過後に前記制限手段による制限を解除することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項3】
請求項2において、前記所定期間の長さを知らせる通知手段を更に備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一において、PM強制再生処理実行時にパティキュレートフィルタに残存するパティキュレートの量を演算する演算手段を更に備え、
前記再生処理手段は、前記演算手段の演算値が所定値を超えている間は前記内燃機関のアイドル回転数を高めるアイドルアップ制御を実行し、前記演算値が所定値以下となった後はアイドルアップ制御を終了し、
前記制限手段は、前記演算手段の演算値が所定値を超えている間は車両を走行させるための操作を制限し、前記演算値が所定値以下となった後は車両を走行させるための操作を許容し、
前記再生中断手段は、前記演算手段の演算値が所定値を超えている間は前記中断要求入力手段が実行中断要求を入力した場合にPM強制再生処理の実行を中断するとともに前記制限手段による制限を解除し、前記演算値が所定値以下となった後は前記中断要求入力手段が実行中断要求を入力した場合及び前記車両を走行させるための操作がなされた場合にPM強制再生処理の実行を中断することを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一において、前記制限手段は、シフト操作とクラッチ操作とアクセル操作の少なくとも一つを制限することを内燃機関の排気浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−83828(P2006−83828A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−271892(P2004−271892)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】