説明

内燃機関

【課題】内燃機関の停止期間中にクランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制する。
【解決手段】内燃機関は、クランクケースに対してシリンダブロックを相対移動させる圧縮比可変機構と、クランクケースの内部を換気するブローバイガス還元装置と、機関吸気通路の圧力を低下させる圧力低下手段とを備える。クランクケースとシリンダブロックとの間にはシール部材が配置されている。内燃機関は、停止要求を検出した場合に、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて機関吸気通路の圧力を低下させ、クランクケースの内部の気体の換気流量を増大させる停止時制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室においては、空気および燃料の混合気が圧縮された状態で燃焼する。混合気を圧縮するときの圧縮比は、出力されるトルクおよび燃料消費量に影響を与えることが知られている。圧縮比を高くすることにより出力されるトルクを大きくしたり、燃料消費量を少なくしたりすることができる。一方で、圧縮比を高くしすぎると、ノッキング等の異常燃焼が生じることが知られている。従来の技術においては、運転期間中に圧縮比を変更することができる圧縮比可変機構を備える内燃機関が知られている。
【0003】
特開2009−114989号公報においては、クランクケースに対してシリンダブロックを相対変位させることにより圧縮比を変更する可変圧縮比エンジンが開示されている。この可変圧縮比エンジンにおいては、クランクケースの内面とシリンダブロックの側面との間に、クランクケースとシリンダブロックとの間の間隙をシールするためのシール材が設けられている。シリンダブロックには、シール材の下方部分にサクションホールが形成されており、このサクションホールと吸気管(スロットルの下流部分)とがサクションパイプにて繋がれることが開示されている。
【0004】
内燃機関においては、ピストンに配置されているピストンリングとシリンダブロックの穴部との間から気筒内の気体がクランクケースの内部に漏れることが知られている。気筒内からクランクケースの内部に漏れるブローバイガスは、燃焼せずに残留している未燃ガスと既に燃焼した既燃ガスとを含んでいる。従来の技術の内燃機関においては、クランクケースの内部の気体を機関吸気通路に戻して、再び燃焼室に供給することが知られている。
【0005】
特開2004−285890号公報においては、エンジンとモータとを備えるハイブリッド自動車において、エンジンの吸気系の負圧を利用してブローバイガスを換気するシステムが開示されている。また、この公報には、エンジンとモータによる走行からモータ単独による走行に変更する際、エンジンを所定時間に亘ってアイドリング運転してから停止させることにより、ブローバイガスを効果的に換気することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−114989号公報
【特許文献2】特開2009−114947号公報
【特許文献3】特開2004−285890号公報
【特許文献4】特開2010−096033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気筒内からクランクケースの内部に流出するブローバイガスには多くの未然ガスが含まれる。このために、クランクケースの内部の気体を外部に流出させないことが好ましい。ブローバイガスは、クランクケースの内部の空間に貯留する他に、クランクケースの底部に貯留されている潤滑油に溶け込む場合がある。潤滑油に溶け込んだブローバイガスは、後に潤滑油から蒸発してクランクケースの内部の気体になる場合がある。
【0008】
上記の特開2009−114989号公報に開示されているように、クランクケースに対してシリンダブロックが相対的に移動することにより、圧縮比を可変にすることができる。クランクケースに対してシリンダブロックが相対的に移動する圧縮比可変機構においては、クランクケースとシリンダブロックとが摺動する部分が存在する。
【0009】
内燃機関の停止期間中には、クランクケースの内部の気体がクランクケースとシリンダブロックとの摺動する部分を通って外部に流出する虞がある。このために、クランクケースとシリンダブロックとの間にはシール部材が配置されるが、シール部材を透過してクランクケースの内部の気体が外部に流出するという問題があった。
【0010】
本発明は、内燃機関の停止期間中にクランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の内燃機関は、クランクケースを含み、クランクシャフトを支持する支持構造物に対して、シリンダブロックが相対移動するように形成され、圧縮比を調整可能な圧縮比可変機構と、クランクケースの内部の気体を機関吸気通路のスロットル弁よりも下流に供給する供給通路を含み、クランクケースの内部を換気する換気手段と、機関吸気通路の圧力を低下させる圧力低下手段とを備える。支持構造物とシリンダブロックとの間には、クランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制するシール部材が配置されている。内燃機関は、内燃機関の停止要求を検出した場合に、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて、圧力低下手段により機関吸気通路の圧力を低下させ、クランクケースの内部の気体の換気流量を増大させる停止時制御を行う。
【0012】
上記発明においては、吸気弁の閉弁時期を調整可能な可変動弁機構を備え、圧力低下手段は、停止時制御において、吸入空気量がほぼ一定に維持された状態で機関吸気通路の圧力を低下させるように、スロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角させることができる。
【0013】
上記発明においては、吸気弁の閉弁時期を調整可能な可変動弁機構を備え、圧力低下手段は、停止時制御において、吸入空気量が増加すると共に機関吸気通路の圧力を低下させるように、スロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角し、更に点火時期を遅角させることができる。
【0014】
上記発明においては、圧力低下手段は、内燃機関の停止要求を検出した場合に、スロットル弁の開度を増大した後に、吸気弁の閉弁時期を進角すると共に、スロットル弁の開度を停止要求の検出時の開度よりも小さくすることができる。
【0015】
上記発明においては、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて、停止時制御の継続時間を設定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内燃機関の停止期間中にクランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態における内燃機関の概略図である。
【図2】実施の形態における可変動弁機構の作用の説明図である。
【図3】実施の形態の内燃機関において、機械圧縮比が高圧縮比の時のシリンダブロックおよびクランクケースの部分の概略断面図である。
【図4】実施の形態の内燃機関において、機械圧縮比が低圧縮比の時のシリンダブロックおよびクランクケースの部分の概略断面図である。
【図5】実施の形態における内燃機関の通常運転時の制御の説明図である。
【図6】実施の形態における内燃機関を停止する時の運転制御のフローチャートである。
【図7】実施の形態における第1停止時制御のタイムチャートである。
【図8】実施の形態における第2停止時制御のタイムチャートである。
【図9】実施の形態における第3停止時制御のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から図9を参照して、実施の形態における内燃機関について説明する。本実施の形態においては、車両に配置されている内燃機関を例に取り上げて説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態における内燃機関の概略図である。本実施の形態における内燃機関は、火花点火式である。内燃機関は、機関本体1を備える。機関本体1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド4とを含む。シリンダブロック2に形成された穴部には、ピストン3が配置されている。ピストン3は、コネクティングロッド23を介してクランクシャフト24に接続されている。ピストン3がシリンダブロック2の穴部の内部にて往復運動することにより、クランクシャフト24が回転する。
【0020】
本実施の形態においては、ピストン3が圧縮上死点に到達した時のピストン3の冠面、シリンダブロック2の穴部、およびシリンダヘッド4に囲まれる気筒内の空間を燃焼室5と称する。燃焼室5には、機関吸気通路および機関排気通路が接続されている。機関吸気通路は、燃焼室5に空気または燃料と空気との混合気を供給するための通路である。機関排気通路は、燃料の燃焼により生じた排気を燃焼室5から排出するための通路である。
【0021】
シリンダヘッド4には、吸気ポート7および排気ポート9が形成されている。吸気弁6は吸気ポート7の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関吸気通路を開閉可能に形成されている。排気弁8は、排気ポート9の端部に配置され、燃焼室5に連通する機関排気通路を開閉可能に形成されている。シリンダヘッド4には、点火装置としての点火プラグ10が固定されている。
【0022】
本実施の形態における内燃機関は、燃焼室5に燃料を供給するための燃料噴射弁11を備える。本実施の形態における燃料噴射弁11は、吸気枝管13の内部に燃料を噴射するように配置されている。燃料噴射弁11は、この形態に限られず、燃焼室5に燃料を供給できるように配置されていれば構わない。たとえば、燃料噴射弁は、燃焼室に直接的に燃料を噴射するように配置されていても構わない。燃料噴射弁は、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプを介して燃料タンクに接続されている。
【0023】
各気筒の吸気ポート7は、対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結されている。サージタンク14は、吸気ダクト15を介してエアクリーナ12に連結されている。吸気ダクト15の内部には、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ16が配置されている。吸気ダクト15の内部には、ステップモータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置されている。一方、各気筒の排気ポート9は、対応する排気枝管19に連結されている。排気枝管19は、三元触媒20に連結されている。三元触媒20は、排気管22に連結されている。
【0024】
本実施の形態における内燃機関は、電子制御ユニット31を備える。本実施の形態における電子制御ユニット31は、デジタルコンピュータを含む。電子制御ユニット31は、双方向バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を含む。
【0025】
エアフローメータ16の出力信号は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。アクセルペダル40には、負荷センサ41が接続されている。負荷センサ41は、アクセルペダル40の踏込量に比例した出力電圧を発生する。この出力電圧は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。負荷センサ41の出力により要求負荷を検出することができる。
【0026】
クランク角センサ42は、クランクシャフト24が、例えば所定の角度を回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスは入力ポート36に入力される。クランク角センサ42の出力により、機関回転数を検出することができる。また、クランク角センサ42の出力により、クランク角度を検出することができる。三元触媒20の上流には、三元触媒20に流入する排気に含まれる未燃燃料に対する空気の比(排気ガスの空燃比)を検出する空燃比センサ43が配置されている。圧力センサ65は、スロットル弁18より下流の機関吸気通路内の圧力を検出する。空燃比センサ43の出力および圧力センサ65の出力は、対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
【0027】
電子制御ユニット31の出力ポート37は、それぞれの対応する駆動回路39を介して燃料噴射弁11および点火プラグ10に接続されている。本実施の形態における電子制御ユニット31は、燃料噴射制御や点火制御を行うように形成されている。すなわち、燃料を噴射する時期および燃料の噴射量が電子制御ユニット31により制御される。更に点火プラグ10の点火時期が電子制御ユニット31により制御されている。また、出力ポート37は、対応する駆動回路39を介して、スロットル弁18を駆動するステップモータ17に接続されている。スロットル弁18は、電子制御ユニット31により制御されている。
【0028】
吸気弁6は、吸気カム51が回転することにより開閉するように形成されている。排気弁8は、排気カムが回転するようことにより開閉するように形成されている。本実施の形態における内燃機関は、可変動弁機構を備える。本実施の形態における可変動弁機構は、吸気弁6の開閉時期を変更する可変バルブタイミング装置53を含む。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気カム51の回転軸に接続されている。可変バルブタイミング装置53は、電子制御ユニット31により制御されている。
【0029】
図2に、本実施の形態における可変バルブタイミング装置の機能の説明図を示す。横軸はクランク角度であり、縦軸は弁の移動量である。吸気弁の移動を示す実線は、可変バルブタイミング装置により、吸気カムの回転軸の位相が最も進角されている状態を示している。一方で、吸気弁の移動を示す破線は、吸気カムの回転軸の位相が最も遅角されている状態を示している。本実施の形態における可変バルブタイミング装置53は、吸気弁6が開き始めてから閉じ終わるまでの作動角がほぼ一定で、作動角の中心の位相が変更可能に形成されている。本実施の形態において、吸気弁の閉弁時期は、矢印Cで示す範囲内の任意のクランク角度に設定することができる。可変動弁機構としては、この形態に限られず、吸気弁の閉弁時期が変更可能に形成されていれば構わない。
【0030】
本実施の形態における内燃機関は、圧縮比可変機構を備える。内燃機関の圧縮比は、ピストンが圧縮上死点に達したときの燃焼室の容積等に依存して定まる。本実施の形態における圧縮比可変機構は、燃焼室の容積を変更することにより圧縮比を変更するように形成されている。燃焼室における実際の圧縮比である実圧縮比は、(実圧縮比)=(燃焼室の容積+吸気弁が閉じている期間のピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)で示される。
【0031】
図3に、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の第1の概略断面図を示す。図3は、圧縮比可変機構により高圧縮比になったときの概略図である。図4に、本実施の形態における内燃機関の圧縮比可変機構の第2の概略断面図を示す。図4は、圧縮比可変機構により低圧縮比になったときの概略図である。
【0032】
図1、図3および図4を参照して、本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79を含む支持構造物と、支持構造物の上側に配置されているシリンダブロック2とが互いに相対移動する。本実施の形態における支持構造物は、圧縮比可変機構を介してシリンダブロック2を支持している。また、本実施の形態における支持構造物は、クランクシャフト24を1つの回転軸にて回転可能に支持している。
【0033】
シリンダブロック2の両側の側壁の下方には複数個の突出部80が形成されている。突出部80には、断面形状が円形のカム挿入孔が形成されており、カム挿入穴の内部には円形カム86が回転可能に配置されている。クランクケース79には、複数個の突出部82が形成されている。突出部82には、断面形状が円形のカム挿入孔が形成されており、カム挿入穴の内部には円形カム88が回転可能に配置されている。シリンダブロック2の突出部80は、クランクケース79の突出部82同士の間に嵌合する。
【0034】
シリンダブロック2の突出部80に挿入されている円形カム86と、クランクケース79の突出部82に挿入されている円形カム88とは、偏心軸87を介して互いに連結されている。複数の円形カム86と複数の円形カム88とが、偏心軸87を介して連結されることにより、カムシャフト84,85が構成されている。本実施の形態においては、一対のカムシャフト84,85が形成されている。本実施の形態における圧縮比可変機構は、一対のカムシャフト84,85を互いに反対方向に回転させる回転装置を含む。円形カム88は、カムシャフト84,85の回転軸線と同軸状に配置されている。円形カム86は、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心している。また、偏心軸87は、カムシャフト84,85の回転軸線に対して偏心している。
【0035】
図3を参照して、それぞれのカムシャフト84,85上に配置されている円形カム88を、矢印97に示すように互いに反対方向に回転させると、偏心軸87が円形カム88の上端に向けて移動する。シリンダブロック2を支持している円形カム86は、カム挿入孔の内部において、矢印96に示すように円形カム88と反対方向に回転する。シリンダブロック2は、矢印98に示すように、クランクケース79から離れる向きに移動する。
【0036】
図4に示されるように偏心軸87が円形カム88の上端まで移動すると、円形カム88の中心軸が偏心軸87よりも下方に移動する。図3および図4を参照して、クランクケース79とシリンダブロック2との相対位置は、円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離によって定まる。円形カム86の中心軸と円形カム88の中心軸との距離が大きくなるほど、シリンダブロック2はクランクケース79から離れる向きに移動する。シリンダブロック2がクランクケース79から離れる向きに移動するほど、燃焼室5の容積が大きくなる。
【0037】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、クランクケースに対してシリンダブロックが相対的に移動することにより、燃焼室の容積が可変に形成されている。本実施の形態においては、下死点から上死点までのピストンの行程容積と燃焼室の容積のみから定まる圧縮比を機械圧縮比と言う。機械圧縮比は、吸気弁の閉弁時期に依存せずに、(機械圧縮比)=(燃焼室の容積+ピストンの行程容積)/(燃焼室の容積)にて示される。
【0038】
図3に示す状態では、燃焼室5の容積が小さくなっており、吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が高くなる。この状態は、機械圧縮比が高い状態である。これに対して、図4に示す状態では、燃焼室5の容積が大きくなっており、吸入空気量が常時一定の場合には圧縮比が低くなる。この状態は、機械圧縮比が低い状態である。このように、本実施の形態における内燃機関は、運転期間中に圧縮比を変更することができる。たとえば、内燃機関の運転状態に応じて、圧縮比可変機構により圧縮比を変更することができる。
【0039】
本実施の形態における圧縮比可変機構は、回転軸を偏心させた円形カムを回転させることにより、クランクケースに対してシリンダブロックを相対的に移動させているが、この形態に限られず、クランクケースに対してシリンダブロックを相対的に移動させる任意の機構を採用することができる。
【0040】
本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79とシリンダブロック2とが互いに接触して摺動する部分を有する。本実施の形態におけるクランクケース79は、クランクケース79の突出部82およびシリンダブロック2の突出部80を覆うように形成されている覆い部61を含む。また、覆い部61は、シリンダブロック2の側面を取り囲むように形成されている。覆い部61は、シリンダブロック2の側面に接触している。
【0041】
本実施の形態における内燃機関では、クランクケース79の覆い部61とシリンダブロック2とが摺動する。覆い部61は、シリンダブロック2がクランクケース79に対して相対移動している期間中にも、クランクケース79の内部を密閉する機能を有する。覆い部61とシリンダブロック2とが互いに摺動する部分には、シール部材60が配置されている。本実施の形態におけるシール部材60は、シリンダブロック2の側面に形成された凹部の内部に配置されている。クランクケース79を含む支持構造物とシリンダブロック2との間にシール部材60を配置することにより、クランクケース79の内部の気体が内燃機関の外部に流出することを抑制できる。
【0042】
本実施の形態におけるシール部材60は、シリンダブロック2の側面を取り囲むように環状に形成されている。本実施の形態におけるシール部材は、ゴムまたは樹脂にて形成されている。シール部材としては、この形態に限られず、封止機能を有する任意の部材を採用することができる。また、本実施の形態におけるシール部材は、シリンダブロックの側面に配置されているが、この形態に限られず、クランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制するように、クランクケースを含む支持構造物とシリンダブロックとの間に配置することができる。
【0043】
図1を参照して、本実施の形態における内燃機関は、クランクケース79の内部を換気する換気手段を備える。本実施の形態における換気手段は、ブローバイガス還元装置を含む。クランクケース79の内部の空間には、燃焼室5を含む気筒の内部からブローバイガスが流出する。また、クランクケース79の底部には潤滑油が貯留されており、ブローバイガスの一部が潤滑油の内部に溶け込む場合がある。このように、クランクケース79の内部には、ブローバイガスを含む気体が存在している。
【0044】
本実施の形態におけるブローバイガス還元装置は、クランクケース79の内部の気体を燃焼室5に供給する。ブローバイガス還元装置は、クランクケース79の内部の空間と機関吸気通路とを接続する供給通路としての戻り管63を含む。本実施の形態における戻り管63は、吸気ダクト15において、スロットル弁18よりも下流に接続されている。戻り管63の途中には、PCV弁64が配置されている。PCV弁64は、クランクケース79の内部の圧力と吸気ダクト15の内部の圧力との差が、予め定められた圧力差よりも大きくなったときに、開弁するように形成されている。
【0045】
内燃機関の運転中にスロットル弁18の開度を全開よりも小さくすることにより、スロットル弁18よりも下流の機関吸気通路において、圧力が大気圧よりも小さくなる。すなわち負圧になる。このために、クランクケース79の内部の気体を、戻り管63を介して機関吸気通路に吸引することができる。本実施の形態において、クランクケース79の内部のブローバイガスを含む気体は、矢印66に示すように、戻り管63を通って機関吸気通路に吸引される。機関吸気通路に供給された気体は、機関吸気通路を通って再び燃焼室5に供給される。ブローバイガスに含まれる未燃ガスは、燃焼室5にて燃焼する。クランクケースに流出したブローバイガスに含まれる未然ガスを燃焼させて排気浄化装置に送ることができる。また、ブローバイガスに含まれる既燃ガスについても燃焼室5を介して排気浄化装置に送ることができる。
【0046】
本実施の形態におけるブローバイガス還元装置は、クランクケース79の内部に未燃ガスおよび既燃ガスを含まない空気を供給するための空気導入管62を含む。本実施の形態における空気導入管62は、吸気ダクト15においてスロットル弁18よりも上流側に接続されている。空気導入管62は、クランクケース79の内部に空気を供給するようにクランクケース79に接続されている。空気は、矢印67に示すように、吸気ダクト15からクランクケース79の内部に供給される。
【0047】
クランクケース79の内部の空気が機関吸気通路に吸引されると、クランクケース79の内部が負圧になる。クランクケース79の内部の圧力が低下することにより、矢印67に示すように、空気導入管62を通ってクランクケース79の内部に空気が導入される。このように、クランクケース79の内部を換気することができる。本実施の形態におけるブローバイガス還元装置は、クランクケースの内部の気体を再び燃焼室に供給することができる。
【0048】
換気手段としては、上記のブローバイガス還元装置に限られず、クランクケースの内部の気体を機関吸気通路に供給し、クランクケースの内部を換気する任意の装置を採用することができる。
【0049】
次に、図5を参照して、本実施の形態における運転制御例について説明する。図5は、超高膨張比制御の一般的な運転制御全般について概略的に説明するグラフである。図5には或る機関回転数における負荷に応じた要求吸入空気量、吸気弁の閉弁時期、膨張比(機械圧縮比)、実圧縮比およびスロットル弁の開度の各変化が示されている。
【0050】
内燃機関の高負荷運転時には、機械圧縮比が低く制御される。また、スロットル弁の開度は全開に保持されており、吸気弁の閉弁時期は早められることにより、吸入空気量が多くなっている。スロットル弁の開度は全開に保持されているためにポンピング損失を抑制することができる。
【0051】
燃焼室内に供給される吸入空気量は、吸気弁の閉弁時期を変えることによって制御されている。内燃機関の負荷が低下すると、吸入空気量を減少するために吸気弁の閉弁時期が遅くされる。また、このときには実圧縮比がほぼ一定に保持されるように負荷が低くなるにつれて機械圧縮比が増大される。従って負荷が低くなるにつれて膨張比も増大される。このときにもスロットル弁は全開の状態にて保持されている。
【0052】
このように高負荷運転状態から負荷が低くなるときには、実圧縮比がほぼ一定のもとで吸入空気量が減少するにつれて機械圧縮比が増大される。即ち、吸入空気量の減少に比例して燃焼室の容積が減少する。
【0053】
内燃機関の負荷が更に低くなると機械圧縮比は更に増大する。内燃機関の負荷がやや低負荷寄りの中負荷L1まで低下すると、機械圧縮比は燃焼室の構造上限界となる限界機械圧縮比(上限機械圧縮比)に達する。機械圧縮比が限界機械圧縮比に達したときの負荷L1よりも負荷の低い領域では機械圧縮比が限界機械圧縮比に保持される。従って低負荷側の中負荷運転時および低負荷運転時には即ち、低負荷運転側では機械圧縮比は最大となり、膨張比も最大となる。別の言い方をすると低負荷運転側では最大の膨張比が得られるように機械圧縮比が最大にされる。
【0054】
一方、図5に示される実施例では負荷がL1まで低下すると吸気弁の閉弁時期が燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期となる。吸気弁の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの負荷L1よりも負荷の低い領域では吸気弁の閉弁時期が限界閉弁時期に保持される。吸気弁の閉弁時期が限界閉弁時期に達したときの負荷L1よりも負荷の低い領域ではスロットル弁によって燃焼室内に供給される吸入空気量が制御され、負荷が低くなるほどスロットル弁の開度は小さくされる。このように、本実施の形態における吸気弁の閉弁時期は、高負荷から負荷が低くなるにつれて、燃焼室内に供給される吸入空気量を制御しうる限界閉弁時期まで吸気下死点BDCから離れる方向に移動されることになる。
【0055】
本実施の形態の内燃機関においては、負荷の小さな運転状態では吸気弁の閉弁時期を遅く設定している。このために、負荷L1よりも小さな負荷の領域においても、吸気弁の閉弁時期を遅くする制御を行わない内燃機関よりもスロットル弁の開度を大きくすることができる。すなわち、ポンピング損失を小さくすることができる。
【0056】
ところが、本実施の形態における内燃機関の負荷の小さな運転状態では、機関吸気通路のスロットル弁18よりも下流の圧力が十分に低下せずに、ブローバイガス還元装置によりクランクケース79の内部の気体を十分に吸引できない場合が生じる。たとえば、内燃機関の停止前のアイドリングの運転状態においては、クランクケース79の内部の気体の換気流量が小さくなる場合が生じる。クランクケース79の内部に多くのブローバイガスが残留した状態で内燃機関を停止すると、停止期間中にクランクケース79の内部の気体がシール部材60を透過して、内燃機関の外部に流出する場合がある。また、本実施の形態においては、支持構造物とシリンダブロックとが摺動する部分にシール部材が配置されているために、シール部材を強く圧縮することができずに、支持構造物とシリンダブロックとが摺動する部分から外部に気体が流出する場合がある。
【0057】
本実施の形態の内燃機関は、停止要求を検出した場合に、圧力低下手段により機関吸気通路の圧力を低下させ、クランクケースの内部の気体の換気流量を増大させる停止時制御を行えるように形成されている。本実施の形態における内燃機関は、機関吸気通路の圧力を低下させる圧力低下手段を備える。本実施の形態における圧力低下手段は、スロットル弁18および可変バルブタイミング装置53を含む。圧力低下手段としては、この形態に限られず、機関吸気通路の圧力を低下させることができる任意の装置や制御を採用することができる。
【0058】
図6に、本実施の形態における内燃機関の運転制御のフローチャートを示す。図6に示す運転制御は、例えば、予め定められた時間間隔ごとに繰り返して行うことができる。本実施の形態の運転制御においては、クランクケースの内部の気体の状態を推定し、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて停止時制御を行う。本実施の形態においては、クランクケースの内部の気体の状態として、クランクケースの内部において要求される換気量である要求換気量を推定する。本実施の形態においては、要求換気量が許容値よりも大きくなった場合に、要求換気量に応じた停止時制御を行う。
【0059】
たとえば、クランクケース内部のブローバイガスの貯留量が大きくなるほど、要求換気量は大きくなり、クランクケースの内部の換気流量が大きくなるように停止時制御を行うことができる。なお、クランクケースから機関吸気通路に供給する気体である戻りガスには、ブローバイガスが含まれている。戻りガスには、クランクケースの内部の空間に貯留していた気体およびクランクケースの内部の潤滑油から蒸発した気体を含む。
【0060】
ステップ101においては、内燃機関の運転期間中に、内燃機関の運転状態を検出する。図1を参照して、本実施の形態においては、負荷センサ41により内燃機関の要求負荷を検出する。クランク角センサ42により機関回転数を検出する。また、圧力センサ65により、機関吸気通路の圧力を検出する。
【0061】
次に、ステップ102においては、要求換気量を算出する。本実施の形態においては、要求負荷と機関回転数とを関数にするブローバイガスの発生量のマップが、予め電子制御ユニット31に記憶されている。検出した要求負荷および機関回転数に基づいて、ブローバイガスの発生量を推定することができる。
【0062】
次に、ブローバイガス還元装置により、クランクケースの内部において換気されている換気量を推定する。本実施の形態においては、機関吸気通路の圧力および機関回転数を関数にするクランクケースの内部の換気量のマップが、予め電子制御ユニットに記憶されている。検出した機関吸気通路の圧力および機関回転数に基づいて、クランクケースの内部の換気量を推定することができる。
【0063】
次に、推定したブローバイガスの発生量と、推定したクランクケースの内部の換気量とに基づいて要求換気量を推定する。本実施の形態においては、ブローバイガスの発生量とクランクケースの内部の換気量とを関数にする要求換気量のマップが、予め電子制御ユニット31に記憶されている。推定したブローバイガスの発生量と、推定したクランクケースの内部の換気量とに基づいて、要求換気量を設定することができる。
【0064】
次に、ステップ103において、内燃機関の停止要求を検出する。本実施の形態においては、運転者が内燃機関を停止する操作を行ったことを検出する。たとえば、始動スイッチがオンの状態からオフの状態に変化したことを検出する。ステップ103において、内燃機関の停止要求が検出されない場合には、この制御を終了する。ステップ103において、内燃機関の停止要求が検出された場合にはステップ104に移行する。
【0065】
ステップ104においては、ステップ102において設定した要求換気量が、予め定められた許容値以下か否かを判別する。ステップ104においては、本実施の形態における停止時制御を行なうべき状態か否かを判別する。ステップ104において、要求換気量が許容値以下の場合にはステップ105に移行する。この場合には、クランクケースの内部に貯留するブローバイガスの量が極めて少なく、本実施の形態における停止時制御は不要と判別することができる。
【0066】
ステップ105においては、通常の停止時制御を行って内燃機関を停止する。通常の停止時制御としては、例えば、即時に燃料カット信号を発信して燃料の供給を停止し、その後に機関回転数が零になる制御を行うことができる。また、例えば、スロットル弁の開度をほぼ零にし、吸気弁の閉弁時期を進角させる制御を行うことができる。
【0067】
ステップ104において、要求換気量が許容値を超えている場合には、ステップ106に移行する。クランクケースの内部の気体に含まれるブローバイガスの量が本実施の形態における停止時制御を行うべき量よりも多いと判別することができる。この場合には、本実施の形態における停止時制御を行なう。
【0068】
本実施の形態における内燃機関は、複数の停止時制御を行うことができるように形成されている。また、停止時制御の種類を選定するための第1判定値および第2判定値が予め定められている。第1判定値は、許容値よりも大きく設定されている。第2判定値は、第1判定値よりも大きく設定されている。本実施の形態においては、要求換気量の大きさに応じて停止時制御の種類を変更する。
【0069】
ステップ106においては、要求換気量が第1判定値未満であるか否かを判別する。ステップ106において、要求換気量が第1判定値未満である場合には、ステップ107に移行する。ステップ107においては、本実施の形態における停止時制御のうち第1停止時制御を行う。
【0070】
図7に、本実施の形態における第1停止時制御のタイムチャートを示す。本実施の形態の第1停止時制御においては、スロットル弁の開度を小さくするとともに、吸気弁の閉弁時期を進角する制御を行う。また、第1停止時制御においては、吸入空気量をほぼ一定に維持しながら機関吸気通路の圧力が低下するように制御する。
【0071】
時刻t1まではアイドリングの運転状態である。時刻t1においては、始動スイッチがオンの状態からオフの状態に移行している。すなわち時刻t1において内燃機関の停止要求を検出している。時刻t1において停止要求を検出しているが、予め定められた時間は内燃機関の運転を継続している。内燃機関の停止要求から燃料カット信号の発信まで所定の遅れを生じさせている。
【0072】
本実施の形態の第1停止時制御では、時刻t1において、スロットル弁の開度(TA)を小さくする制御を行っている。図1を参照して、スロットル弁18の開度を小さくすることにより、スロットル弁18よりも下流の機関吸気通路の圧力を低下させることができる。時刻t1において、機関吸気通路内の圧力(PM)が減少している。このために、クランクケース79の内部の気体をより多く吸引することができる。クランクケース79から機関吸気通路に流入する戻りガスの流量を大きくすることができる。このため、クランクケース79の内部の気体の換気流量を増大させることができる。
【0073】
また、時刻t1において吸気弁の閉弁時期(IVC)を進角させる制御を行う。図5を参照して、吸気弁の閉弁時期を進角することにより、スロットル弁の開度の減少に伴う吸入空気量の低下を補うことができる。本実施の形態においては、スロットル弁の開度を小さくしても、吸入空気量がほぼ一定の状態を維持するように吸気弁の閉弁時期を進角させている。
【0074】
燃料噴射弁からの燃料の噴射を停止する燃料カット信号(FC)は、時刻t1から予め定められた時間の経過後の時刻t2において発信している。すなわち、時刻t2までは、燃料噴射弁からの燃料の噴射を継続し、時刻t2において燃料の供給を停止している。機関回転数は、燃料カット信号の発信後の所定時間の経過後に零になり、内燃機関が停止する。
【0075】
このように、時刻t1から時刻t2までの期間において、機関吸気通路の圧力が下がった状態で運転を継続することにより、クランクケース内の換気を促進することができる。クランクケース79の内部に貯留するブローバイガスを機関吸気通路に供給して、燃焼室5において燃焼させることができる。内燃機関の停止時にクランクケースの内部に貯留するブローバイガスの量を低減することができる。このため、内燃機関の停止期間中に、ブローバイガスに含まれる未燃ガスや既燃ガスがクランクケースの内部から内燃機関の外部に流出することを抑制することができる。
【0076】
また、吸入空気量がほぼ一定になるように、吸気弁の閉弁時期とスロットル弁の開度とを制御することにより、時刻t1において内燃機関の出力の変動を抑制することができる。本実施の形態における第1の停止時制御においては、内燃機関の出力の変動を抑制しながらクランクケースの内部の換気を促進することができる。
【0077】
図6を参照して、ステップ106において、要求換気量が第1判定値以上である場合には、ステップ108に移行する。ステップ108においては、要求換気量が第2判定値未満であるか否かを判別する。ステップ108において、要求換気量が第2判定値未満である場合にはステップ109に移行する。ステップ109においては、本実施の形態における第2停止時制御を行う。
【0078】
図8に、本実施の形態における第2停止時制御のタイムチャートを示す。図8には、第2停止時制御が実線にて記載されている。また、本実施の形態における第1停止時制御が破線にて記載されている。時刻t1において内燃機関の停止要求を検出し、予め定められた時間の間、内燃機関の運転を継続した後に、時刻t2において燃料カット信号を発信し、燃料供給を停止することは第1停止時制御と同様である。
【0079】
第2停止時制御においては、時刻t3から時刻t2までの期間において、停止要求の検出時よりもスロットル弁の開度を小さくすると共に、吸気弁の閉弁時期を進角する制御を行うが、停止要求の検出時よりも吸入空気量を増加させる制御を行う。
【0080】
例えば、内燃機関の停止前のアイドリングの運転状態において、第1停止時制御を行うと、燃焼室に流入する気体における戻りガスの影響が大きくなる場合がある。燃料噴射弁11から噴射される燃料の量は、例えば、エアフローメータ16にて検出される空気流量および予め定められている空燃比に基づいて制御される。アイドリング等の運転状態においては、燃焼室に流入する気体の量が少なくなる。この状態で機関吸気通路の圧力が低下すると、エアクリーナを通って供給される空気と燃料噴射弁から噴射される燃料とによって構成される新気の量に対するクランクケースから機関吸気通路に供給される戻りガスの量の割合が多くなる。このために、戻りガスに含まれる未燃ガスと空気との割合の影響が大きくなって、燃焼室に供給される混合気の空燃比が不安定になる場合がある。例えば、クランクケースの内部の気体のブローバイガスの濃度が高い場合には、燃焼室に供給する気体に含まれるブローバイガスの量が多くなる場合がある。このために、燃焼室に供給する混合気の空燃比(A/F)が不安定になる場合がある。
【0081】
第2停止時制御の時刻t3から時刻t2におけるスロットル弁の開度は、第1停止時制御の時刻t1から時刻t2におけるスロットル弁の開度よりも大きくなるように制御されている。第1停止時制御よりも吸入空気量を多くした状態にて停止時制御を行っている。また、停止要求を検出した時よりも吸入空気量を増加させて停止時制御を行っている。
【0082】
第2停止時制御においては、外気から燃焼室に供給する空気量を多くすることにより、クランクケースから機関吸気通路に供給する戻りガスに含まれる気体の影響を小さくすることができる。すなわち、燃焼室に流入する混合気において、外気を含む新気の量に対する戻りガスの量の割合を減少させて、戻りガスの影響を小さくすることができる。この結果、燃焼室に供給する混合気の空燃比を安定化させることができる。
【0083】
ところが、第2停止時制御においては、燃焼室に流入する混合気の量が多くなるために、機関回転数が急上昇する虞がある。このために、第2停止時制御においては、点火時期を遅角する制御を行う。本実施の形態の第2停止時制御においては、時刻t1において点火時期を遅角している。点火時期を遅角する制御を行なうことにより、吸入空気量が増加して機関回転数の吹け上がることを抑制できる。
【0084】
本実施の形態における点火時期の遅角量は、吸入空気量の増加量に基づいて設定している。本実施の形態の内燃機関においては、吸入空気量の増加量が多くなるほど、点火時期の遅角量を大きくする制御を行っている。この制御を行うことにより、内燃機関の出力が大きく変動することを抑制することができる。点火時期の遅角量の制御は、この形態に限られず、たとえば、予め定められた遅角量を採用することができる。
【0085】
第2停止時制御においては、クランクケースの内部の要求換気量が大きい場合においても、安定した運転状態を維持しながらクランクケースの内部の換気を促進することができる。
【0086】
さらに、本実施の形態の第2停止時制御においては、スロットル弁の開度を一時的に増大した後に、停止要求を検出した時の開度よりも小さくしている。時刻t1から予め定められた時間の経過後の時刻t3までの期間において、スロットル弁の開度を増大している。時刻t1から時刻t3までの期間では、吸気弁の閉弁時期は、時刻t1の吸気弁の閉弁時期を維持する制御を行なっている。このため、吸入空気量は、時刻t1において増大する。
【0087】
時刻t3において、スロットル弁の開度を時刻t1における開度よりも小さくする制御を行なっている。機関吸気通路内の圧力は、停止要求を検出したときの圧力よりも低くなる。また、時刻t3において、吸気弁の閉弁時期を進角する制御を行なっている。吸入空気量は、時刻t3において減少している。しかし、時刻t3から時刻t2までの期間における吸入空気量は、停止要求を検出した時の吸入空気量よりも大きくなっている。本実施の形態においては、時刻t3において吸入空気量が減少した場合に点火時期の遅角量も減少させる制御を行っている。
【0088】
このように、本実施の形態における第2停止時制御においては、内燃機関の停止要求を検出した場合に、スロットル弁の開度を一時的に増大した後に、スロットル弁の開度を停止要求の検出時の開度よりも小さくする制御を行なっている。この制御を行うことにより、吸気弁の閉弁時期を進角する前に機関吸気通路に多くの空気を供給しておくことができる。スロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角した時に、戻りガスの影響が大きくなることをより確実に抑制することができる。
【0089】
本実施の形態の第2停止時制御においては、スロットル弁の開度を増大し、その後に、吸気弁の閉弁時期を進角するとともに、スロットル弁の開度を停止要求の検出時の開度よりも小さくする制御を行なっているが、この形態に限られず、スロットル弁の開度を一時的に大きくせずに、時刻t1において、吸入空気量が増大する様にスロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角しても構わない。
【0090】
また、内燃機関の停止要求を検出した場合に、スロットル弁の開度を増大した後に、吸気弁の閉弁時期を進角すると共に、スロットル弁の開度を停止要求の検出時の開度よりも小さくする制御は、本実施の形態における第1停止時制御に適用することもできる。
【0091】
図6を参照して、ステップ108において、要求換気量が第2判定値以上である場合には、ステップ110に移行する。ステップ110においては、第3停止時制御を行う。本実施の形態の第3停止時制御においては、第2の停止時制御の期間を長くする制御を行う。更に、内燃機関の停止を遅らせることを運転者に通知する制御を行う。
【0092】
図9に、本実施の形態における第3停止時制御のタイムチャートを示す。図9には、実線にて第3停止時制御を記載している。また、破線にて本実施の形態における第2停止時制御を記載している。
【0093】
第3の停止時制御における時刻t1から時刻t2までの制御は、本実施の形態における第2停止時制御と同様である。第3停止時制御においては、時刻t2において燃料カット信号を発信せずに時刻t4まで燃料の供給を延長している。時刻t2における運転状態を時刻t4まで維持している。時刻t4において、燃料カット信号がオフの状態からオンの状態に移行している。すなわち、燃料の供給を停止する制御が行われている。
【0094】
要求換気量が多い場合は、第2停止時制御を行っても換気が不十分の場合がある。例えば、クランクケースの内部の気体に多量のブローバイガスが含まれている場合には、第1停止時制御または第2停止時制御を行なっても換気が不十分になる場合がある。このような場合には、停止時制御の運転期間を延長させる制御を行う。
【0095】
本実施の形態の第3停止時制御においては、クランクケースの内部の気体の要求換気量に基づいて、第3停止時制御の継続時間を設定している。要求換気量が大きいほど停止時制御の継続時間を長く設定することができる。設定された継続時間に基づいて燃料カット信号を発信する時刻t4を設定することができる。たとえば、要求換気量を関数にする第3停止時制御の継続時間を予め電子制御ユニットに記憶させておくことができる。ステップ102において設定された要求換気量に基づいて、第3停止時制御の継続時間を設定することができる。
【0096】
本実施の形態の第3停止時制御においては、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて停止時制御の継続時間を設定している。この制御を行うことにより、クランクケースの内部に貯留するブローバイガスの量が多い場合にも十分にクランクケース内を換気することができる。内燃機関の停止期間中に、クランクケースの内部から未然ガスや既燃ガスが流出することを、より確実に抑制することができる。
【0097】
本実施の形態の第3停止時制御においては、第2停止時制御に対して停止時制御の継続時間を定めているが、この形態に限られず、第1停止時制御に対して停止時制御の継続時間を定めても構わない。
【0098】
また、本実施の形態の第3停止時制御においては、運転者が始動スイッチをオフの状態に操作してから停止時制御のために内燃機関の運転を継続する時間が長くなる場合がある。このために、運転者は、内燃機関が停止されていないと感じる場合がある。すなわち、運転者が内燃機関の停止動作に違和感が生じる場合がある。このため、本実施の形態の第3停止時制御においては、運転者に対して内燃機関の停止を遅らせていることを通知する制御を行う。
【0099】
本実施の形態の第3停止時制御においては、時刻t2において運転者への通知を行なっている。例えば、運転席前のダッシュボードに通知灯を配置し、通知灯を点灯することにより運転者に通知することができる。
【0100】
本実施の形態の運転制御においては、クランクケースの内部の気体の状態として要求換気量を設定している。クランクケースの内部の気体の状態としては、要求換気量に限られず、ブローバイガスの量、未燃ガスの量または既燃ガスの量などのブローバイガスに関する量を採用することができる。例えば、クランクケースの内部に貯留する未然ガスの量を推定しても構わない。
【0101】
また、図6を参照して、本実施の形態においては、内燃機関の停止要求を検出したときのクランクケースの内部の気体の状態を推定しているが、この形態に限られず、停止要求を検出するまでの期間にわたってクランクケースの内部の気体の状態を積算した積算値を採用しても構わない。更に、本実施の形態においては、通常運転の期間中に継続的にステップ101およびステップ102を行なうことにより運転状態を検出しているが、この形態に限られず、停止要求を検出した後に、運転状態を検出し、検出した運転状態に基づいて要求換気量を算出しても構わない。
【0102】
本実施の形態の停止時制御においては、内燃機関の停止要求の検出前後にて機械圧縮比をほぼ一定に維持しているが、この形態に限られず、機械圧縮比は、吸気弁の閉弁時期に対応させて変更しても構わない。例えば、第1停止時制御において吸気弁の閉弁時期を進角すると共に機械圧縮比を低下させる制御を行なっても構わない。
【0103】
本実施の形態の停止時制御のフローチャートのそれぞれのステップは、機能を維持できる範囲において適宜順番を変更することができる。上記のそれぞれの実施の形態は、適宜組み合わせることができる。また、上記のそれぞれの気体の量には、予め定められた時間における気体の量を含む。すなわち、気体の量には気体の絶対量に加えて流量が含まれており、適宜選定することができる。
【0104】
上述のそれぞれの図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。なお、上記の実施の形態は例示であり発明を限定するものではない。また、実施の形態においては、特許請求の範囲に示される変更が含まれている。
【符号の説明】
【0105】
1 機関本体
2 シリンダブロック
3 ピストン
4 シリンダヘッド
5 燃焼室
6 吸気弁
10 点火プラグ
11 燃料噴射弁
15 吸気ダクト
16 エアフローメータ
18 スロットル弁
24 クランクシャフト
31 電子制御ユニット
41 負荷センサ
42 クランク角センサ
51 吸気カム
53 可変バルブタイミング装置
60 シール部材
61 覆い部
62 空気導入管
63 戻り管
65 圧力センサ
79 クランクケース
84,85 カムシャフト
86 円形カム
87 偏心軸
88 円形カム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクケースを含み、クランクシャフトを支持する支持構造物に対して、シリンダブロックが相対移動するように形成され、圧縮比を調整可能な圧縮比可変機構と、
クランクケースの内部の気体を機関吸気通路のスロットル弁よりも下流に供給する供給通路を含み、クランクケースの内部を換気する換気手段と、
機関吸気通路の圧力を低下させる圧力低下手段とを備え、
支持構造物とシリンダブロックとの間には、クランクケースの内部の気体が外部に流出することを抑制するシール部材が配置されており、
内燃機関の停止要求を検出した場合に、クランクケースの内部の気体の状態に基づいて、圧力低下手段により機関吸気通路の圧力を低下させ、クランクケースの内部の気体の換気流量を増大させる停止時制御を行うことを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
吸気弁の閉弁時期を調整可能な可変動弁機構を備え、
圧力低下手段は、停止時制御において、吸入空気量がほぼ一定に維持された状態で機関吸気通路の圧力を低下させるように、スロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角させることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
吸気弁の閉弁時期を調整可能な可変動弁機構を備え、
圧力低下手段は、停止時制御において、吸入空気量が増加すると共に機関吸気通路の圧力を低下させるように、スロットル弁の開度を小さくすると共に吸気弁の閉弁時期を進角し、更に点火時期を遅角させることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項4】
圧力低下手段は、内燃機関の停止要求を検出した場合に、スロットル弁の開度を増大した後に、吸気弁の閉弁時期を進角すると共に、スロットル弁の開度を停止要求の検出時の開度よりも小さくすることを特徴とする、請求項2または3に記載の内燃機関。
【請求項5】
クランクケースの内部の気体の状態に基づいて、停止時制御の継続時間を設定することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−32745(P2013−32745A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169612(P2011−169612)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】