説明

円形基板の光学的測定方法およびその装置

【課題】対象物の形状によらず、ライン照明とラインセンサの構成の光学的測定装置を用いて高速かつ高精度に、測定対象物のエッジ周辺部付近まで測定する方法および装置を提供する。
【解決手段】支持部材により支持された測定対象物の表面に、ライン照明光を照射し、測定対象物の表面からの散乱光あるいは反射光あるいは透過光を結像光学系を介して受光部に結像させて、測定対象物の状態を測定する場合、ライン照明光が測定対象物のエッジ周辺部にあたらないようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ライン照明とラインセンサを用いた光学的測定方法および光学的測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ライン照明とラインセンサを用いた光学測定装置は例えば図14のような構成からなり、広い測定対象領域を高速に測定できるという特徴を持つ。具体的な構成および原理は、まず、テーブル5に支持された測定対象物1に対して斜め上方からライン照明2によってライン状に形成された照射光6を照射する。測定対象物1の表面では表面散乱光7が発生する。この表面散乱光7を測定対象物1の上方に配したレンズ(結像手段)3を介してラインセンサ(受光手段)4で受光し、ライン方向(図9のY方向に相当する)の各位置の表面散乱光信号を得る。この信号を図示しないデータ処理手段を通して各種測定情報を得ることができる。テーブル5はXYステージであり、図9のようにXY方向にスキャン幅20でスキャン移動させることで、測定対象物1の全域を測定することができる。
【0003】
ところで、図15に示すようにエッジ31に照射光6が当たるとエッジ散乱30が発生する。エッジ散乱30は測定対象物1の表面からの散乱と比べて数倍から数10倍以上も強い強度を持つ。このため、このエッジ散乱30をラインセンサ4が受光すると、測定対象物1の表面散乱光とは大きく異なるラインセンサ信号を得たり、ラインセンサ信号が飽和したり、ラインセンサ信号に大きなノイズが発生してしまう(ラインセンサ4がラインCCDならば、このようなノイズはブルーミングやスミアと呼ばれる)。これらによって、エッジ31付近の情報を正しくとることができないことになり、エッジ31付近の測定を正確に実施することが困難となる。
【0004】
本発明ではエッジ31付近の測定困難な領域をエッジ周辺部40とよび、図10に示すように測定対象物のエッジ31から1〜2mm程度内側の部分を指す。
【0005】
従って、図10に示すように、測定対象物の周辺部40は測定領域からはずすのが一般的である。図10のように長方形の基板が測定対象の場合には、位置情報を基にラインセンサの測定開始位置と測定終了位置を正確に設定することで前記長方形基板はエッジ周辺部40を除いて精密に測定することが可能である。
【0006】
しかしながら、測定対象物がたとえば図11に示すような円形基板の場合、ライン照明とラインセンサを用いた光学的測定方法はほとんど実用化されていない。その理由としては次の2つの弊害があるためである。第1の理由としてライン照明とラインセンサを用いた光学的測定方法を円形基板に適用しようとして、前述のとおりエッジ周辺部を避けて有効測定エリアを設定すると、図12に示すように有効測定エリアが小さくなってしまうからである。第2の理由として図13のようにスキャン幅を小さくすることで有効測定エリアを大きくとると、エッジ周辺部付近まで測定することは可能になるが、スキャン数が増えてしまいライン照明とラインセンサを用いた光学的測定方式の最大の長所である高速測定が損なわれてしまうからである。
【0007】
ライン照明とラインセンサによる他の構成には、図示しないエリア照明とエリアセンサの構成が考えられる。この構成では、主に高倍率で小さな領域を順次移動させながら測定する方法が実用化されており、エッジ周辺部を除く領域を測定することが可能になるが、現状の技術では測定速度は遅く、広い領域の測定には不向きである。
【0008】
さらに他の構成としては、図示しない基板を回転させながら、スポット照明を走査させ、センサ(フォトマルなど)で受光する構成がある。このような方式では測定位置の分解能が照明のスポットの大きさに依存するため、位置分解能が大きくなってしまうか、あるいはスポットを小さくして位置分解能を小さくすると、測定領域全域の測定速度が非常に遅くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−249791号公報
【特許文献2】特開平10−293103号公報
【特許文献3】特開2006−30024号公報
【特許文献4】特許第4104924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、測定対象物の形状によらず、ライン照明とラインセンサの構成の光学的測定装置を用いて高速かつ高精度に、前記測定対象物のエッジ周辺部付近まで測定する方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の光学的測定方法は、支持部材により支持された測定対象物の表面に、ライン照明を照射し、前記測定対象物の表面からの散乱光あるいは反射光あるいは透過光を結像光学系を介して受光部に結像させて、前記測定対象物の状態を測定する方法に関して、前記ライン照明が前記測定対象物のエッジ周辺部にあたらないようにしたことを特徴とする光学的測定方法である。
【0012】
請求項2の光学的測定装置は、測定対象物を支持する支持部材と前記支持部材に支持された前記測定対象物の表面にライン照明を照射する照射手段と前記測定対象物の表面からの光を結像する結像光学系と結像位置に配置された受光手段とを有し、前記照射手段と前記測定対象物の間に前測定対象物のエッジ周辺部に前記ライン照明があたらないような遮蔽物を配したことを特徴とする光学的測定装置である。
【0013】
請求項3の光学的測定装置は、前記遮蔽物は測定対象物のエッジ周辺部の形状に応じて任意に追従するようライン照明の照射幅あるいは位置を任意に変更可能な可変遮蔽板であることを特徴とする請求項2の光学的測定装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の光学的測定方法であれば、支持部材により支持された測定対象物の表面に、ライン照明を照射し、前記測定対象物の表面からの表面散乱光あるいは反射光あるいは透過光を結像光学系を介して受光部に結像させて、前記測定対象物の状態を測定する方法に関して、前記ライン照明が前記測定対象物のエッジ周辺部にあたらないようにしたことを特徴とする光学的測定方法であるから前記測定対象物のエッジ周辺部による散乱光の影響を受けることなくライン照明とラインセンサ方式を用いて高速かつ高精度に測定対象物の測定ができる。
【0015】
請求項2の光学的測定装置であれば、測定対象物を支持する支持部材と前記支持部材に支持された前記測定対象物の表面に直線状のライン照明を照射する照射手段と前記測定対象物の表面からの光を結像する結像光学系と結像位置に配置された直線状の受光手段とを有し、前記照射手段と前記測定対象物の間に前測定対象物のエッジ周辺部に前記ライン照明があたらないような遮蔽物を配したことを特徴とする光学的測定装置であるから、測定対象物のエッジ周辺部が任意の形状でも、エッジ周辺部による散乱光の影響を受けることなくライン照明とラインセンサ方式を用いて高速かつ高精度に測定対象物の測定ができる。
【0016】
請求項3の光学的測定装置であれば、前記遮蔽物は測定対象物のエッジ形状に応じて追従するようライン照明の照射幅あるいは位置を変更可能な可変遮蔽板であることを特徴とする請求項2の光学的測定装置であるから、測定対象物のエッジ周辺部が任意の形状でも、エッジ周辺部による散乱光の影響を受けることなくライン照明とラインセンサ方式を用いて高速かつ高精度に測定対象物の測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図2】遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図3】遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図4】可変遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図5】可変遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図6】可変遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図7】可変遮蔽板を用いた実施例を示す図である。
【図8】可変遮蔽板を用いた実施例におけるスキャン位置と可変遮蔽板開口部の幅との関係を示す図である。
【図9】測定対象物をXY方向に移動しながらスキャンしながら測定する原理図である。
【図10】エッジおよびエッジ周辺部を示す図である。
【図11】円形基板に対するライン照明とラインセンサを用いた光学的測定装置を示す図である。
【図12】円形基板に対するライン照明とラインセンサを用いた光学的測定装置を示す図である。
【図13】円形基板に対するライン照明とラインセンサを用いた光学的測定装置を示す図である。
【図14】ライン照明とラインセンサを用いた光学的測定装置の原理図である。
【図15】照射光のエッジ散乱を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、この発明の光学的測定方法およびその装置の実施の形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0019】
図1〜3は、本発明の光学的測定装置の第1の実施例である。本実施例は測定対象物が円形基板81の場合である。
【0020】
図1に示すように、円形基板81の外形に沿った形の内空部を持ち、照射光6を遮蔽しないように4隅に配置された支持手段82でテーブル5に支えられ、遮蔽板80を用意し、図1〜3のようにライン照明の入射位置および角度を調整し、遮蔽板の縁の位置を調整してライン照明が円形基板81のエッジからの散乱を防止する。また遮蔽板80と円形基板81を搭載したテーブル5がXYステージとして連動して動くものである。
【0021】
具体的な構成を図1〜3を用いて説明する。円形基板の外形半径をRとすると、遮蔽板の内径半径r=(R-δ)とする。δは例えば0〜1mm程度とし、エッジ周辺部に照射光が当たるのを避けるためにrはRよりわずかに小さくする。遮蔽板の内径の中心位置cと円形基板の中心位置Cはライン照明の照射されてくる方向にOだけずらして配置する。遮蔽板と測定対象基板表面の高さの差をH、照射角をφとするとO=Htanφとなる。
【0022】
いま円形基板81の左から右にスキャンしながら測定するとすると、図1に示すように、左端では照射光6が遮蔽板80に遮られて、円形基板81のエッジによるエッジ散乱光の影響を受けることなく測定できる。次に図2に示すように照射光6は遮蔽板80の中空部分を透過することにより、通常に測定できる。さらに図3に示すように、右端部分では照射光6が遮蔽板80に遮られて、円形基板81のエッジによるエッジ散乱光の影響を受けることなく測定できる。また次のスキャンでは右から左に測定することになるが、前述と同じ理由により、円形基板81のエッジによるエッジ散乱光の影響を受けることなく測定できる。以上を繰り返すことにより、円形基板81のエッジによるエッジ散乱光の影響を受けることなくエッジ周囲部を除いて円形基板81の測定できる。
【0023】
本実施例では測定対象物が円形基板であるが、測定対象物の外形に沿った形で遮蔽板80の形状を変えることにより種種の形状の測定対象物に適応できる。
【実施例2】
【0024】
図4〜8は本発明の光学的測定装置の第2の実施例である。本実施例は測定対象物が円形基板の場合である。実際には3次元であるが以下簡単のため、2次元平面に投影した形で説明する。
【0025】
図4〜7に示すように、本実施例の原理を説明する。図4〜7に示すように、ライン照明2と円形基板81の間に、円形基板81とライン照明との位置関係によって任意の幅で開閉する可変遮蔽板90および91を用意する。図4〜6のようにX軸方向のスキャン位置によって可変遮蔽板90および91の幅を調整し、ライン照明2の光量を増減する。具体的には、図4のようにライン照明2が円形基板81のエッジに当たり始める位置から閉じていた可変遮蔽板90を序々に開き始めて、図5のようにスキャンを実施し、反対に図6のようにライン照明2が円形基板81の反対側(右側エッジ)に当たり始める位置から可変遮蔽板90を序々に閉じるようにする。また、図示していないが、次のスキャンでは上述の逆の動作をし、さらには円形基板81の下半分をスキャンする際には図7のように可変遮光版91の開閉を行う。
【0026】
つぎに図8を用いて開閉の様子(遮光量)を詳細に説明する。今、X方向にスキャン動作を実行するとする。スキャン幅Hs、スキャン中心位置を、今測定しているライン幅のY方向の中央位置をYsとして、(Xs、Ys)とする。また図8のように基板の中心に原点を(X0、Y0)=(0,0)とする。さらに可変遮光版aの遮光幅をHca、可変遮光板bの遮光幅をHcbとし、r=R−δ(δは0〜1mm程度)とし、円形基板81の半径Rよりわずかに小さな値とする。またcosθ=Xs/r 0≦θ≦πで定義する。実際のスキャン動作の領域は、円形基板81の内部領域である半径rの円110をベースに考える。この時、遮光幅HcaおよびHcbをスキャン中心位置(Xs、Ys)に応じて以下のように与える。
(1)スキャン中心位置(Xs,Ys)が図8の領域101〜105すべての外部になる場合、
Xs+(Ys+Hs/2)≧r かつ
Xs+(Ys−Hs/2)≧r かつ
Xs+Ys≧r のとき、
Hca、Hcbの少なくともどちらかはHs(全閉)
(好ましくは Ys>0のとき Hca=Hs、Hcb=0
Ys≦0のとき Hca=0、 Hcb=Hs )
とする。すなわち円形基板81に照射光は当たらない。
(2)スキャン中心位置(Xs,Ys)が図8で領域105に相当する場合、
Xs+(Ys+Hs/2)<r かつ
Xs+(Ys−Hs/2)<r のとき、
可変遮蔽板90、91を全開にする。
すなわちHca=Hcb=0(全開)とする。
(3)スキャン中心位置(Xs,Ys)が図8で領域101に相当する場合、
Xs+(Ys+Hs/2)≧r かつ
Xs+(Ys−Hs/2)<r のとき、
Hca=(Ys+Hs/2)−rsinθ
Hcb=0(全開)
とする。
(4)スキャン中心位置(Xs,Ys)が図8で領域102に相当する場合、
Xs+(Ys+Hs/2)<r かつ
Xs+(Ys−Hs/2)≧r のとき、
Hca=0(全開)
Hcb=−(Ys−Hs/2)−rsinθ
とする。
(5)スキャン中心位置(Xs,Ys)が図8で領域103および領域104に相当する場合、
Xs+(Ys+Hs/2)≧r かつ
Xs+(Ys−Hs/2)≧r かつ
Xs+Ys<r のとき、
Hca=(Ys+Hs/2)−rsinθ
Hcb=−(Ys−Hs/2)−rsinθ
とする。
【0027】
いま図8において、スキャン100のように円形基板81をスキャンしながら測定したとする。この場合スキャン測定位置(Xs,Ys)は、円形基板81の外部、領域101、領域105、領域101、円形基板81の外部の順に変化することになる。このとき可変遮蔽板90および91の動きは、それぞれ順に
円形基板81の外部では(1)Hca=HsかつHcb=0、
領域101では(3)Hca=(Ys+Hs/2)−rsinθかつHcb=0(全開)、
領域105では(2)Hca=Hcb=0(全開)
領域101では(3)Hca=(Ys+Hs/2)−rsinθかつHcb=0(全開)
円形基板81の外部では(1)Hca=HsかつHcb=0
となる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によると、ライン照明とラインセンサを用いた光学的測定方法および光学的測定装置において測定対象物の形状にかかわらず、エッジ周辺部を除き高速に測定することが可能である。特に半導体ウェーハ、MEMS、HHDやCCD、CMOSのカバーガラス用の円形基板の測定に有効である。また、特に前述の基板の粗さ測定、平面度測定、厚み測定、透過率測定、欠陥検査、異物検査に有効であり、そのような測定装置、検査装置に利用できる。
【符号の説明】
【0029】
1測定対象物
2ライン照明
3レンズ
4ラインセンサ
5テーブル
6照射光
7表面散乱光
20スキャン幅(ライン幅)
30エッジ散乱光
31エッジ
40エッジ周辺部
80遮蔽板
81円形基板
82支持手段
90可変遮蔽板
91可変遮蔽板
φ照射角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材により支持された測定対象物の表面に、ライン照明を照射し、前記測定対象物の表面からの散乱光あるいは反射光あるいは透過光を結像光学系を介して受光部に結像させて、前記測定対象物の状態を測定する方法に関して、前記ライン照明が前記測定対象物のエッジ周辺部にあたらないようにしたことを特徴とする光学的測定方法。
【請求項2】
測定対象物を支持する支持部材と前記支持部材に支持された前記測定対象物の表面にライン照明を照射する照射手段と前記測定対象物の表面からの光を結像する結像光学系と結像位置に配置された受光手段とを有し、前記照射手段と前記測定対象物の間に前測定対象物のエッジ周辺部に前記ライン照明があたらないような遮蔽物を配したことを特徴とする光学的測定装置。
【請求項3】
前記遮蔽物は測定対象物のエッジ周辺部の形状に応じて追従するようライン照明の照射幅あるいは位置を変更可能な可変遮蔽板であることを特徴とする請求項2の光学的測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−175410(P2010−175410A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−18879(P2009−18879)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】