化合物をカプセル化するためのナノ粒子、その調製およびその使用
本発明は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなる化合物をカプセル化するためのナノ粒子、その調製および使用に関する。前記ナノ粒子は、水溶性または脂溶性の生物活性化合物をカプセル化することができる。本発明は、食品、医薬品、および化粧品部門、ならびにナノテクノロジー部門における応用が可能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、医薬品、および化粧品部門、ならびにナノテクノロジー部門に含まれ、コーティング剤としてカゼインを用いた生物活性化合物のカプセル化物からなる。
【背景技術】
【0002】
消費者の新たな要求に応えるため、食品産業には技術的発展が必要とされている。ナノテクノロジーは、生物活性化合物[BAC]、例えば香味料、ビタミン、ミネラル、精油、酸化防止剤、プレバイオティクスなどをカプセル化可する技術を通して食品産業に大きな変革をもたらす可能性を提示し、その結果、例えば製品の品質保存期間を延長する;使用するBACの量を低減させる;その放出性を制御する;そのバイオアベイラビリティを増大させる;望ましくない香りをマスクするなど多くの利点を得ることができる。
【0003】
BACのカプセル化に適した担体の設計に際しては、コーティング剤またはマトリックスとして使用される物質を正しく選択することが非常に重要であり、そのためには、特に剤形、その毒性、製剤が組み込まれる製品(食品、化粧品、医薬品など)などの要素を考慮しなければならない。食品ナノテクノロジーの分野では、毒性が問題となり得る合成ポリマーの使用は推奨されない。天然ポリマーはこれらの弱点をもたないが、これらの使用はより複雑な粒子製造法の開発を示唆するのみではなく、ほとんどの場合、得られる粒径(多くの場合において100μmを超える)は制御が困難であることから、このようなナノ粒子は消費者にその存在が気付かれ、対象食品の官能特性を変化させことがある。
【0004】
幾つかの物質の中でも、タンパク質はBACコーティング剤として以前から用いられている。その食品への応用のために、疎水性BACをカプセル化するための担体としてのカゼインの使用が記載されている(カナダ特許第2649788号および欧州特許第2011472号)。
【0005】
葉酸塩群に含まれるB型水溶性ビタミンである葉酸(プテロイルモノグルタミン酸またはビタミンB9)は、DNA合成のような重要な生化学過程において必須である。葉酸の欠乏は、巨赤芽球性貧血、アルツハイマー病、ダウン症候群、体液障害、ある種の癌(大腸癌、子宮頸癌、白血病、膵臓癌)、胎児育成期の神経管欠損、妊娠期の合併症、および男性不妊の存在に関連する。しかしながら、葉酸は生命体では合成できないため、様々な栄養補助食品または食事を通して供給されなければならない。
【0006】
葉酸塩は、基本的にポリグルタミン酸塩の形で食品(例えば果実および野菜)中に天然に存在するが、それらのバイオアベイラビリティは、典型的には50%以下であり、不完全である。従って、葉酸で強化された食品の摂取は、葉酸塩の摂取量が推奨されるそれよりも低い場合に、このビタミンの摂取量を増すための補完的な選択肢となり得る。それにもかかわらず、食品に添加された葉酸のバイオアベイラビリティは、マトリックス効果(葉酸が食品成分と結合し得ることで、その吸収が妨げられる)のため、または、葉酸のバイオアベイラビリティを低減させる任意成分が食品中に存在するため、完全ではない。さらに、葉酸は腸内で可溶化されない場合には十分に吸収されない。カプセル剤や錠剤などの手段で投与された葉酸を含む栄養補助食品または強化食品は、葉酸が胃酸により胃で分解された後沈殿して溶けにくい形態へと変換されることによって、供給された葉酸の一部のみしか腸へ到達しないという弱点をもつ。
【0007】
加えて、葉酸塩または葉酸による食品の強化は、葉酸塩およびそれらの誘導体ならびに葉酸の両方が、特に温度、光、およびpHの変化といった因子に感受性であることから複雑な過程であり、そのためこれらの安定性は食品加工条件によって損なわれ、消費者に利用可能なビタミンの生物活性量は大きく減少し得る。従って、前記ビタミンによって食品を強化する場合には、食品の保管および調製の間に大きな減少が起こり得るとして、これらの側面を考慮することが必要となる。
【0008】
葉酸含有食品、基本的には乳製品およびシリアル製品の強化については知られている。ソーセージ肉(スペイン特許第2302571号)、乳製品(欧州特許第1941804号)、乳幼児用食品(米国特許第4753926号)、または鶏肉、豚肉、もしくは牛肉を基にした缶詰食品(ロシア特許第2223672号およびロシア特許第2213493号)のような、栄養補助食品(欧州特許第2002839号)または葉酸もしくは葉酸塩で強化された食品についても記載されている。しかしながら、記載された事例では、ビタミンと食品マトリックスとの可能な相互作用についても、またそのバイオアベイラビリティについても意図されていない。
【0009】
葉酸を含有するアルギン酸塩およびペクチンのマイクロカプセルを得る方法であって、胃の状態のような、該マイクロカプセルの分解をもたらす環境因子からそれを保護し、その腸への放出を達成する方法についても記載されている。しかしながら、得られたマイクロカプセルは過度に大きく、対象食品の官能特性に影響を及ぼす。コポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)ナノスフェア内に葉酸をカプセル化して、その持続放出を達成する方法についても記載されている。結果は肯定的であったが、このポリマーの使用は医学および薬学領域に限定されていることから、食品における応用には十分でないる。
【0010】
従って、BACカプセル化系、好ましくは水溶性、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば前述の弱点を全体的または部分的に克服する葉酸の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
今般、驚くべきことに、カゼインにより形成され、塩基性アミノ酸(例えばアルギニンまたはリジン)および食品に適した金属(例えばカルシウム)をさらに含むナノ粒子が、食品、化粧品、および薬品へのその応用において、新規なカプセル化を形成し、かつ生物活性化合物(BAC)の系を安定化させること、そしてBACは水溶性および脂溶性両方、好ましくは水溶性、さらに好ましくは酸性水溶性であることを見出した。
【0012】
従って、一つの態様によれば、本発明はカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される食品用の金属を含むナノ粒子に関する。前記ナノ粒子は技術的助剤として用いることができる;これらはさらにBAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば葉酸、パントテン酸およびアスコルビン酸のようなBもしくはC型ビタミン、またはその他の親水性の化合物をカプセル化する能力を有するが、これらは脂溶性のBACを組み込むこともできる。
【0013】
前記ナノ粒子は、製品加工(例えば食品、医薬品、または化粧品)の間および保管の間双方において安定であり、かつ外部因子、例えば光、pHの変化、酸化などによる分解からBACを保護でき、さらに、これらを食品に応用した際に、これらはBACを胃の酸性状態から保護し、胃管に沿ったBACの放出を妨げ、それによってBACの沈殿を回避し、その結果バイオアベイラビリティの低下を回避する。さらに、前記ナノ粒子は、BACの正確な吸収のために腸内でのBACの完全な放出を促進する(模擬)腸液中に溶解可能であること、さらに任意の種類の毒性問題を回避可能であることを見出した。有利なことに、前記ナノ粒子はそれらが導入される食品中では不活性であるため、BACがマトリックスの様々な成分と反応し、そのバイオアベイラビリティが減少することを回避する。
【0014】
加えて、本発明により提供されるナノ粒子の最も重要な特徴の一つは、カゼインそれ自体にBACそのものの有益な効果を補う栄養特性が示されていることから、環境状態および胃の状態の双方からBACを保護し、腸におけるその放出を促進して、そのバイオアベイラビリティを改善するための天然の担体としてカゼインを使用することにある。
【0015】
別の態様によれば、本発明は前記ナノ粒子を製造する方法に関する。前記方法は簡便で、工業的規模で応用が可能である。有利なことに、前記方法は食品添加剤として承認されていない合成または反応性ポリマーを含まず、界面活性剤または乳化剤の含有が最小限に抑えられており、そして制御可能な粒径を有するナノメートル尺度のナノ粒子を得ることが可能である。
【0016】
特定の実施形態によれば、前記方法はさらに、BACを長期間安定に保つ粉末の形態で製剤を得るために、前記ナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥する工程を含み、この型の粉末製剤は固形食品での使用に特に適している。有利なことに、前記乾燥処理はナノ粒子保護剤の存在下で実行される。このようにして得られるBACを含有するナノ粒子は、溶液中でBACを分解から保護する水性溶媒中に容易に懸濁することができる。得られた最終産物は安定であり、長期に亘る保管の間ずっとBACを保護し、さらに液体(例えば飲料など)および固体双方、様々な種類の食品に応用可能である。
【0017】
別の態様によれば、本発明は、食品、医薬品、または化粧品部門における使用のための前記ナノ粒子を含む組成物に関する。実際、前記ナノ粒子は、この分野での使用に適した安定な化粧品製剤を得るため、クリーム、ゲルおよびヒドロゲル中に組み込むことができる。前記ナノ粒子はまた、局所経路による前記ナノ粒子の投与に適した賦形剤と共に製剤化することもできる。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、本発明により提供されるカゼインナノ粒子に基づく前記組成物を含む食品材料に関する。特定の実施形態によれば、前記食品材料は液体、半固体、または固体の形態である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、葉酸を含有するカゼインナノ粒子を得るために適用される本発明の方法の特定の実施形態について、概略図を示す。
【図2】図2は、空のカゼインナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。画像の左下周縁に位置する黒棒は100nmの基準に相当する。
【図3】図3は、葉酸を含有するカゼインナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。画像の左下周縁に位置する黒棒は100nmの基準に相当する。
【図4】図4は、カプセル化された葉酸の量と、各葉酸のmgに対して製剤へ添加されたカゼインの量との比を示す。全ての製剤において、葉酸溶液添加前のリジンとタンパク質との重量比は1:12である。
【図5】図5は、製剤中に葉酸をリジンと共に含有するカゼインナノ粒子の、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。高圧処理なし(AおよびB)、100MPaで5分間処理(C)、400MPaで5分間処理(D)、および800MPaで5分間処理(E)。
【図6】図6は、400MPaで5分間処理した、製剤中に葉酸をアルギニンと共に含有するカゼインナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図7】図7は、模擬胃液(SGF)(最初の2時間:0〜2時間)、そして模擬腸液(SIF)(2ないし24時間)中で、37±1℃でインキュベーション後、高圧処理しなかった、カゼインナノ粒子からの葉酸の放出を示す。データは平均±標準偏差(n=6)を示す。
【図8】図8は、模擬胃液(SGF)(最初の2時間:0〜2時間)、そして模擬腸液(SIF)(2ないし8時間)中で、37±1℃でインキュベーション後、(A)150MPaで5分間、およびB)400MPaで5分間高圧処理した、カゼインナノ粒子からの葉酸の放出を示す。データは平均±標準偏差(n=4)を示す。
【図9】図9は、実験動物に様々なビタミン製剤を投与した後の血清葉酸濃度(ng/mL)を時間関数として示す。結果は平均±標準偏差(n=5)を示す。 A)静脈内経路、用量1mg/kg。 B)経口経路、用量1mg/kg:水に溶解したカプセル化されていない葉酸(黒塗りの丸);水に分散したカゼインナノ粒子内のカプセル化された葉酸(黒塗りの四角);水に分散した高圧処理されたカゼインナノ粒子内のカプセル化された葉酸(黒塗りの三角)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はカゼインナノ粒子、および生物活性化合物(BAC)をカプセル化する方法を提供し、その結果、BACを光、pHの変化、酸化などのような外部因子による分解から保護する。
【0021】
定義
本発明の理解を容易にすることを目的とした、本発明に関して用いられる幾つかの用語および表現の意味は以下のとおりである。
【0022】
本明細書において、「塩基性アミノ酸」は、リジン、アルギニン、およびヒスチジンを含む。
【0023】
本明細書において、「カゼイン」は、乳タンパク質全体の約80%を形成する複合タンパク質を指す。カゼインはグロブリンの定義に含まれるリン酸化タンパク質型のタンパク質であり;可溶性であり;高い保水力を有し、20℃、約4.6のpHにおいて沈殿する。カゼインは4つの基本的な画分(αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、およびκ−カゼイン)から成り、それらのアミノ酸組成、それらの電荷分布、およびそれらのカルシウム存在下で凝集する傾向によって互いに区別される。乳中で、カゼインは「カゼインミセル」と称される直径50ないし600nm(平均で約150nm)の大きなコロイド粒子を形成する。これらの粒子は疎水性相互作用によって、かつカゼイン構造内に存在するホスホセリンラジカルによるリン酸カルシウム複合によって形成される。前記ミセルは乳中で非常に安定なコロイド系を形成し、これがその色調、熱安定性、およびレンニンによる凝固の主な原因の一つである。
【0024】
本明細書において、「生物活性化合物」または「BAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有する任意の脂溶性および水溶性の化合物を指す。本発明によるBACの、これらには限定されない例には、アミノ酸、抗菌剤、着香剤、防腐剤、甘味料、ステロイド、薬物、ホルモン、脂質、ペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類、タンパク質、プロテオグリカン、香味料、ビタミンなどが含まれる。
【0025】
本明細書において、「水溶性の生物活性化合物」または「水溶性のBAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有し、かつスペイン薬局方によって定義される下記基準に従い、水溶液中で可溶性である(極めて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、または溶けにくい)化合物を指す。
【0026】
【表1】
【0027】
水溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばBまたはCファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、塩またはエステル;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、チオクト酸、それらの塩またはエステルなどが含まれる。特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸(アルファリポ酸)、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステル、または塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
本明細書において、「脂溶性の生物活性化合物」または「脂溶性のBAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有し、かつスペイン薬局方によって定義される基準に従い、脂および油中で可溶性である(極めて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、または溶けにくい)化合物を指す。脂溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばビタミンA、D、E、Kファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)など)、フィトスタノールおよびフィトステロール(シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(ケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0029】
ヒトまたは動物用の食品におけるその使用が、国または機関、例えば国連食糧農業機関(FAO)もしくは世界保健機関(WHO)の国際食品規格に従って安全である際、製品は「食品用」と称され、結果的に「食品用」製品は「食品におけるその使用に適する」無毒性の製品であることから、両表現は同義語であり、本明細書では区別なく用いられる。
【0030】
本明細書において、「二価金属」には、その原子価が2である任意の金属元素、例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛などのアルカリ土類金属、または幾つかの原子価を有する場合にはそのうちの一つが2であるもの、例えば鉄などが、医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品での使用に適するという条件下で、含まれる。
【0031】
本明細書において、「三価金属」には、その原子価が3である任意の金属元素、または幾つかの原子価を有する場合にはそのうちの一つが3であるもの、例えば鉄などが、医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品での使用に適するという条件下で、含まれる。
【0032】
本明細書において、「ナノ粒子」は、1マイクロメートル(μm)未満、好ましくは約10ないし900ナノメートル(nm)の径を有する球状または類似の形状のコロイド系を指す。
【0033】
本明細書において、「平均径」は、水性溶媒中で共に移動するナノ粒子集団の平均直径を指す。これらの系の平均径は当業者に公知の標準的方法によって測定でき、これは例えば実施例において記載される(後記参照)。本発明のナノ粒子は、1μm未満、典型的には1ないし999nm、好ましくは10ないし900nm、さらに好ましくは50ないし500nm、さらに一層好ましくは100ないし200nmに含まれる平均粒径を有することを特徴とする。特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、50ないし200nmに含まれ、好ましくは約140nmの平均粒径を有する。
【0034】
ナノ粒子
一つの態様によれば、本発明はカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子(以下「本発明のナノ粒子」という。)に関する。
【0035】
特定の実施形態によれば、前記塩基性アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【0036】
別の特定の実施形態によれば、前記金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄(それらの二価型で)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される食品用の二価金属である。
【0037】
別の特定の実施形態によれば、前記金属は、例えば三価型の鉄のような、食品用の三価金属である。
【0038】
本発明のナノ粒子は、技術的助剤、例えば脂の代替物などとして用いることができる。本発明のナノ粒子はさらに、生物活性化合物(BAC)をカプセル化する能力を有する。
【0039】
従って、別の特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、さらに生物活性化合物(BAC)を含む。前記BACは水溶性のBACまたは脂溶性のBACであってよく;この場合、本発明のナノ粒子は、本明細書中で「本発明の装填ナノ粒子」として特定されることがある。
【0040】
特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBACである。より特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは下記:
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;並びに
e)それらの組み合わせ
からなる群から選択されるものである。
【0041】
特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシンすなわちビタミンB3、パントテン酸すなわちビタミンB5、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸すなわちアルファリポ酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
特定の実施形態によれば、前記BACは葉酸、パントテン酸、アスコルビン酸などの酸性水溶性のBACである。
【0043】
何らの理論によって拘束されることを望むものではないが、二価金属(例えばカルシウム)のような金属の存在下で、αおよびβカゼインは、それらの構造内に存在するホスホセリンラジカルが陽イオン成分と結合する際、それらの親水性および表面電荷が失われることによって凝集すると考えられる。水溶性のBAC、好ましくは酸性のもの(例えば葉酸)は前記金属と静電気的に相互作用もすることから、これらの型のカゼインにより生成される疎水性マトリックス内に捕捉され得る。次に、κカゼインは金属(例えばカルシウム)とは反応しないことから、その疎水性部分によって粒子に結合し、その水溶性画分は外部の水性溶媒と接触する。前記水溶性画分は、高比率のカルボニル基(グルタミン酸またはアスパラギン酸のようなアミノ酸の酸性基)に加え、三糖および四糖に結合したセリルおよびスレオニル残基に対応する極性基を有する。従って、ナノ粒子の形成後、溶液中に存在する塩基性アミノ酸(例えばリジン)は、ナノ粒子と前記画分のカルボキシル基との静電気的な相互作用によってナノ粒子の表面に付着し得ることが考えられる[例えば、スプレー乾燥機を通した加熱後(適切な場合には)、これらは共有結合し得る]。図1に、カゼインマトリックス、リジン(塩基性アミノ酸)、およびカルシウム(二価金属)を含む、本発明の装填ナノ粒子の概略図を示す。
【0044】
別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBACであり、もっともこの場合は、好ましくは水性溶媒中でBACの均質な懸濁液を形成すること、またはさらに好ましくは、有機溶液中にBACを溶解するため、前記水性懸濁液または前記有機溶液を、カゼイン源(例えばカゼイン塩)を含有する溶液へゆっくりと加え、該混合液をインキュベートすることが必要であろう。
【0045】
捕捉の機構は水溶性のBACのそれとは異なり得るが、その理由は、脂溶性のBACおよびナノ粒子内部の疎水性分画が(二価または三価の)金属と相互作用する能力を有するか否かに関わらず、脂溶性のBACは両画分間の親和性によって、ナノ粒子内部の疎水性画分に捕捉されるからであろう。
【0046】
特定の実施形態によれば、前記BACは、ビタミン、例えばビタミンA、D、E、Kファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールおよびフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(例えばケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)およびそれらの誘導体から選択される脂溶性のBACである。
【0047】
本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は広範囲に変動してよく、これらに限定されるものではないがその例では、本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:15ないし1:35程度に含まれてよい。特定の実施形態によれば、BACは水溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(水溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:30、さらに好ましくは1:15ないし1:20程度に含まれてよい。別の特定の実施形態によれば、BACは脂溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(脂溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:20ないし1:35程度に含まれてよい。
【0048】
加えて、所望の場合は、本発明のナノ粒子は、BACを装填したものおよびしていないもの双方、温度および酸化に関して安定性を高めるという目的で、それらの製剤中に酸化防止剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)などを組み込んでもよい。特定の実施形態によれば、BACは葉酸であり、酸化防止剤は、葉酸を紫外線照射、pHの変化、熱、酸素などによる分解から保護することによって作用すると考えられ、さらにアスコルビン酸による栄養補給を提供する、アスコルビン酸である。前記酸化防止剤は、BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中に導入されてもよい。
【0049】
ナノ粒子を得る方法
別の態様によれば、本発明は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子(本発明のナノ粒子)を製造する方法(以下「本発明の方法[1]」という。)に関し、該方法は下記:
a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;および
b)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む。
【0050】
別の態様によれば、本発明は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含むナノ粒子(本発明の装填ナノ粒子)を製造する方法(以下「本発明の方法[2]」という。)にも関し、該方法は下記:
a)(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)生物活性化合物を含有する溶液と混合する工程;および
b)工程a)で得られた混合液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む。
【0051】
本発明の方法[1]の工程a)において、カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液は、当業者に公知である従来の方法、例えば前記カゼイン源および塩基性アミノ酸を水性溶媒へ添加することによって調製される。
【0052】
本発明の方法[2]の工程a)において、カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液(i)はBACを含有する溶液(ii)と混合される。BACを含有する前記溶液(ii)の性質および組成は、BACの種類および性質に依存して変動し得る。従って、特定の実施形態によれば、BACが水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は水溶液であり;別の特定の実施形態によれば、BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含む水溶液であり;そして別の特定の実施形態によれば、BACが脂溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、水性溶媒、または好ましくは有機溶液、さらに好ましくはアルコール、例えばエタノールのような水混和性溶媒の有機溶液中のBACの懸濁液である。
【0053】
両方法[本発明の方法[1]および[2]]を実施するために使用できるカゼインは、実際には、例えば乳、豆など任意のカゼイン源に由来してよい。カゼインは前記溶液中で酸カゼインまたはカゼイン塩の形態で見出され得る。特定の実施形態によれば、前記カゼイン源は、カゼイン塩、好ましくはカゼインナトリウムの形態であるカゼインを含む。カゼインカルシウムおよびホスホカルシウムを使用することもできるが、これらは実施にはあまり有利ではない。その理由は、カルシウムは、カゼイン塩を活性成分と混合した後にナノ粒子を形成するために用いられるので、カゼイン塩溶液が溶媒中に既にカルシウムを有している場合、前記方法の実施が著しく損なわれる可能性があるからである。
【0054】
本発明の方法[1]の工程a)で形成される水溶液中、および本発明の方法[2]の工程a)で用いられる水溶液(i)[カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する]中に含有されてよいカゼインの量は広範囲に変動し得るが;特定の実施形態によれば、前記水溶液中に含有されるカゼインの量は、0.1%ないし10%(w/v)、好ましくは0.5%ないし5%、さらに好ましくは1%ないし3%に含まれる。
【0055】
塩基性アミノ酸は、カゼインの溶解に寄与し、さらに適切な場合にはBAC、特に酸性水溶性のBACの溶解に寄与し、BACの装填された本発明のナノ粒子および装填されていないものの製造において、非常に重要な役割を果たす。事実、溶液のpHの上昇に伴って、塩基性アミノ酸は無機塩の使用を必要とすることなくカゼイン塩の溶解を可能にし、さらに陰イオン型のカゼインであるカッパ(κ)画分の親水性末端を維持するための塩基として作用することで、懸濁液中に負の表面電荷を有する粒子が維持され、静電気的な反発による凝集が起こらないと考えられる。
【0056】
両方法[本発明の方法[1]および[2]]を実施するために使用できる塩基性アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群、好ましくは、アルギニン、リジン、およびそれらの混合物から選択される。本発明のナノ粒子の内側または外側にあってよい塩基性アミノ酸は、ナノ粒子の形成に先立って成分の溶解を促進し、さらにナノ粒子の両側(内側および外側)にそれらを得た後に適切なpHを維持するため、基本的な技術的役割を果たす。実例によると、葉酸は水中では溶けにくいが、わずかにアルカリ性の水溶液中では溶けやすいため、塩基性アミノ酸の存在は葉酸の溶解を補助する。
【0057】
本発明の方法[2]の特定の実施形態によれば、BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含む(BACの沈殿を防止するため)水溶液である。この場合には、2つの異なる塩基性アミノ酸を使用する可能性が意図されているが、特定の実施形態によれば、カゼイン源を含有する水溶液の調製に用いられる塩基性アミノ酸(第1の塩基性アミノ酸)、およびBACを含有する水溶液の調製に用いられるもの(第2の塩基性アミノ酸)は同一であり、アルギニン、リジン、ヒスチジンおよびそれらの混合物からなる群、好ましくは、アルギニン、リジンおよびそれらの混合物から選択される。
【0058】
本発明の方法[1]の工程a)で形成される溶液中、および本発明の方法[2]の工程a)の溶液(i)中に含有されてよい塩基性アミノ酸の量は広範囲に変動してよく、一般には用いる塩基性アミノ酸に依存する。従って、塩基性アミノ酸:カゼインの重量比は大きく変動し得るが、特定の実施形態によれば、本発明の方法[1]の工程a)で形成される溶液中、または本発明の方法[2]の溶液(i)中の塩基性アミノ酸:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:40に含まれ、さらに好ましくは、用いる塩基性アミノ酸がリジンの場合には、1:12程度であり、または用いる塩基性アミノ酸がアルギニンの場合には、1:25程度である。
【0059】
BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する本発明の方法[2]の工程a)の溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含むが、これは既に言及したように前記第1の塩基性アミノ酸と同じであってもまたは異なっていてもよく、この場合本発明の方法[2]における、すなわち前記方法の工程a)の溶液(i)および(ii)を混合した後の、塩基性アミノ酸:カゼインの比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:5ないし1:20に含まれ、さらに好ましくは、用いる塩基性アミノ酸がリジンの場合には、1:6程度であり、または用いる塩基性アミノ酸がアルギニンの場合には、1:9程度である。
【0060】
本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程[工程b)]を含む。何らの理論によって拘束されることを望むものではないが、二価金属(例えばカルシウム)のような前記金属は、特にBACが水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBAC、または前記金属(例えばカルシウム)と相互作用することができる水溶性のBAC、例えば葉酸、パントテン酸、またはBもしくはC群のビタミン、またはそれらの誘導体である場合に、BACの安定化を助けるブリッジを本発明の装填ナノ粒子の内側に作り出すことが可能であると考えられ;この場合、前記金属、例えば前記二価金属(例えばカルシウム)は、カゼイン(カゼイン塩の形である)とBAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、または前記金属と相互作用することができる水溶性のBACとの間のブリッジとして作用し、本発明の装填ナノ粒子の疎水性画分中に前記BACが捕捉された状態にすると考えられる。
【0061】
特定の実施形態によれば、前記金属はカルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせから選択される二価金属、好ましくはカルシウムである。別の特定の実施形態によれば、前記金属は三価型の鉄のような三価金属である。
【0062】
前記本発明の方法[1]および[2]を実施するために、実際には任意のカルシウム水溶液、有利には食品用溶液[食品のマイクロカプセル化に用いられるカルシウム塩の比については、「Codex General Standard for Food Additives」GSFAオンラインを参照されたい。]が用いられてよいが、特定の実施形態によれば、前記カルシウム塩の水溶液は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびそれらの混合物からなる群より選択され、好ましくは塩化カルシウムである。実際、炭酸カルシウムまたはアルギン酸カルシウムは、これらが水中で不溶性であるか、または極めて溶けにくい塩であるために推奨されない。同様に、前記本発明の方法[1]および[2]を実施するために、食品用マグネシウム、亜鉛、または二価型もしくは三価型の鉄の任意の水溶液が用いられてよい。
【0063】
「金属」が二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される前記金属を指す場合の金属:カゼインの重量比は広範囲に変動し得るが、特定の実施形態によれば、金属:カゼインの重量比は1:5ないし1:15、好ましくは1:7ないし1:10、さらに好ましくは1:8.5程度に含まれる。特定の実施形態によれば、前記金属は二価金属である。
【0064】
本発明の方法[2]は本発明の装填ナノ粒子を得ることを導くが、そのために工程a)は、(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)BACを含有する溶液と混合することを含む。前記BACの特性は既に言及したとおりである。特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシンすなわちビタミンB3、パントテン酸すなわちビタミンB5、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物である。別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBAC、例えばビタミンA、D、E、Kファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(例えばカロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールまたはフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(ケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)またはそれらの誘導体である。
【0065】
本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は広範囲に変動してよく、これらに限定されない例では、本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくはおおよそ1:15ないし1:35に含まれてよい。特定の実施形態によれば、BACは水溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(水溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:30、さらに好ましくは1:15ないし1:20程度に含まれてよい。別の特定の実施形態によれば、BACは脂溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(脂溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:20ないし1:35程度に含まれてよい。
【0066】
同様に、塩基性アミノ酸:BACの重量比(本発明の方法[2]の工程a)で用いられる、酸性水溶性のBACおよび第2の塩基性アミノ酸を含有する水溶液(ii)に相当する)は広範囲に変動してよく、特定の実施形態によれば、前記溶液(ii)における塩基性アミノ酸:(酸性水溶性の)BACの重量比は1:0.1ないし1:3、好ましくは1:0.5ないし1:1に含まれ、さらに好ましくは1:0.75程度である。
【0067】
既に述べたように、本発明のナノ粒子、BACを装填しているものおよびしていないもの双方は、温度および酸化に関して安定性を高めるという目的で、それらの製剤中に酸化防止剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)などを組み込んでもよい。この場合、前記酸化防止剤は、(適切な場合には)BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中にあってもよく、そのために前記本発明の方法[1]および[2]は、例えば前記BACおよび塩基性アミノ酸を含有する水溶液に酸化防止剤を添加することによって、ナノ粒子の製剤化中に酸化防止剤を組み込むため適切に調整され得る。
【0068】
特定の実施形態によれば、BACは葉酸であり、酸化防止剤は、葉酸を紫外線照射、pH変化、熱、酸素などによる分解から保護することによって作用すると考えられ、さらにアスコルビン酸による栄養補給を提供する、アスコルビン酸である。前記酸化防止剤は、BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中に導入されてもよい。
【0069】
加えて、所望の場合は、本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、様々な処理を用いることによって、得られたナノ粒子を安定化させるために、1以上の付加工程を含んでもよい。
【0070】
特定の実施形態によれば、前記安定化処理は、BACを装填しているものおよびしていないもの双方として形成された本発明のナノ粒子を含有する懸濁液を、例えば100ないし800MPa、典型的には350ないし600MPaに含まれる圧力で、高圧処理に付すことを含む。特定の実施形態によれば、前記処理は、ナノ粒子の懸濁液を100MPaないし800MPa、典型的には350ないし600MPaの圧力で、3ないし5分間のサイクルに付すことを含み、実際には400MPaの圧力が良好な結果を提供する。
【0071】
別の特定の実施形態によれば、前記安定化処理は、BACを装填しているものおよびしていないもの双方として形成された本発明のナノ粒子を含有する懸濁液を、UHT(超高温)処理、例えば130℃ないし140℃に含まれる温度に2ないし5秒間付し、続いて急冷することを含む。
【0072】
同様に、所望の場合は、本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、粉末の形でBACを装填しているものおよびしていないもの双方の本発明のナノ粒子を得るために、形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥させるための乾燥工程を含み得る。前記ナノ粒子がこの形態で存在すると、それらの安定性に寄与し、そしてさらに、小麦粉、パン、菓子製品、シリアル、粉末乳のような固形食品、並びに化粧品および/または医薬品へのそれらの最終的応用に対し特に有用である。
【0073】
実際には、この乾燥工程を行うために、ナノ粒子を含有する懸濁液の乾燥に適した任意の従来の技術または方法を用いてよいが、特定の実施形態によれば、ナノ粒子を含有する懸濁液の乾燥は、スプレー乾燥によるか、または凍結乾燥によって行われる。この処理は一般に、糖類、例えばラクトース、トレハロース、マンニトール、スクロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトール、マルトースなど、およびそれらの混合物のような前記ナノ粒子の適切な保護剤を、ナノ粒子の懸濁液に添加することによって行われる。前記保護剤は、乾燥過程の間に、本発明のナノ粒子を熱分解および酸化から保護する。
【0074】
カゼイン:糖類の重量比は広範囲に変動し得るが、特定の実施形態によれば、カゼイン:糖類の重量比は1:1ないし1:4に含まれ、好ましくは約1:2である。
【0075】
同様に、特定の実施形態によれば、糖類を含有する溶液は、アスコルビン酸(ビタミンC)などのような酸化防止剤をさらに含有してよく、この場合、カゼイン:糖類:酸化防止剤(例えばビタミンC)の重量比は、1:0.75〜2.5:0.01〜1.5、好ましくは1:2.0:0.10であってよい。
【0076】
本発明の方法[1]によって得られた本発明のナノ粒子、すなわち、a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;およびb)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む方法によって製造される、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0077】
同様に、本発明の方法[2]によって得られた本発明の装填ナノ粒子、すなわち、a)(i)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)BACを含有する溶液と混合する工程;およびb)工程a)で得られた溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む方法によって製造される、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびにBACを含むナノ粒子は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0078】
応用
本発明のナノ粒子は、技術的助剤、例えば脂代用物などとして用いることができる。これらは、BAC、例えば水溶性のBACまたは脂溶性のBACをカプセル化する能力も有する。
【0079】
特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、BAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBACのカプセル化を可能にし、さらにその調製において、そして最終産物(ナノ粒子)中に、天然ポリマーではないもの(合成ポリマーに関連する毒性を防止する)、食品用でもないもの、その他の成分は使用せずに、医薬品、化粧品、および食品組成物との組み合わせも可能にする。前記ナノ粒子は、外部因子(光、pH変化、酸化など)による分解からBACを保護する。
【0080】
有利なことに、本発明のナノ粒子は、官能特性(舌の上の食感)の変化を防ぐため、1μm未満、好ましくは50ないし200nmに含まれ、さらに好ましくは約140nmの平均径を有する。
【0081】
同様に、本発明のナノ粒子は、胃の消化性酸性状態から前記BACを保護しながら、腸におけるBACのバイオアベイラビリティを改善し、腸におけるそれらの溶解および放出を促進する。
【0082】
本発明のナノ粒子は、溶解時にBACを分解から保護する水性溶媒に再懸濁できる。これらはさらに、BACを安定な状態に保ち、その長期間の保管を可能にする(特に、固形食品の調製におけるその組み込みに対して)、乾燥粉末の形態で存在できる。
【0083】
加えて、本発明のナノ粒子は、局所使用の化粧品および医薬組成物の調製にも適している。
【0084】
従って、別の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの本発明のナノ粒子を含む組成物(以下「本発明の組成物」という。)に関し;特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子であり;別の特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、本発明の装填ナノ粒子、すなわちカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに栄養性があり、治療的および/または美容的作用を有するBAC、さらに医薬的もしくは美容的に許容される担体または食品に適した担体を含むナノ粒子である。
【0085】
特定の実施形態によれば、前記BACは、アミノ酸、抗菌剤、着香剤、防腐剤、甘味料、ステロイド、薬物、ホルモン、脂質、ペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類、タンパク質、プロテオグリカン、香味料、ビタミン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0086】
特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBACである。水溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばBまたはCファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、塩またはエステル;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、チオクト酸、それらの塩またはエステルなどが含まれる。特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体、すなわち葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0087】
別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBACである。脂溶性のBACの、これらに限定されない例には、例えばA、D、E、Kファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールおよびフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(例えばケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0088】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、局所経路によるその投与に適した医薬組成物であり、そのために前記組成物は、局所経路による投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容される担体を、例えばゲル、軟膏、クリームなどの形態で含む。局所経路による投与を意図した医薬組成物の製剤化に適した賦形剤についての、および前記医薬組成物の製造についての情報は、C.Fauli i Trillo,10th Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Edicionesによる、書籍「Tratado de Farmacia Galenica」に見出すことができる。投与される本発明のナノ粒子の用量は広範囲に変動する可能性があり、例えば、本発明のナノ粒子の0.1%ないし30%、好ましくは0.5%ないし5%を含有する本発明の組成物の約0.5(g/cm2処置される領域)ないし約2(g/cm2処置される領域)である。
【0089】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は局所経路による投与に適した化粧品組成物であり、そのために前記組成物は、局所経路による投与に適した1つ以上の賦形剤を含む美容的に許容される担体を、例えばゲル、クリーム、シャンプー、ローションなどの形態で含む。局所経路による投与を意図した化粧品組成物の製剤化に適した賦形剤についての、および前記医薬組成物の製造についての情報は、Octavio Diez Sales,1st Edition,1998,Editorial Videocinco,S.A.による、書籍「Manual de Cosmetologia」に見出すことができる。
【0090】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、固体、液体、または半固体の食品調製物のような食品組成物である。
【0091】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は:
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;および
30重量%ないし80重量%の糖類を含み、
ここで、全ての比率は、組成物の総重量に対する重量による。
【0092】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は:
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;
20重量%ないし55重量%の糖類;および
1重量%ないし25重量%のアスコルビン酸を含み、
ここで、全ての比率は、組成物の総重量に対する重量による。
【0093】
また、本発明の組成物は食料品に組み込むことができ、それゆえ別の態様によれば、本発明は、本発明の組成物を含む食料品に関する。前記食料品は、液体、半固体、または固体の形態において見出される。有利なことに、本発明のナノ粒子の全体的または部分的な溶解を防止または最小化するために、そしてそれゆえそれらの安定性に寄与するために、前記食料品は、酸性pH、すなわち7未満、好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下を有する。本発明の組成物で補強または強化され得る食料品の例には、乳およびその誘導体(ヨーグルト、チーズ、カードなど)、ジュース、ジャム、パンおよび菓子製品、発酵肉、ソースなどが含まれる。同様に、本発明の組成物は、動物用の食品、例えば飼料中に組み込まれてもよい。
【実施例】
【0094】
以下の実施例は、それらの内部に生物活性化合物、特に葉酸を組み込むことが可能なカゼイン粒子の製造を説明する。これらは、既に述べた複数の因子が原因で食品中で起こり得る分解から、当該化合物を保護する。これら例は、葉酸を、その摂取の後、胃における状態から保護し、そして葉酸を腸液中に放出する、これらナノ粒子の能力をも示す。
【0095】
空のカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
カゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウム(ANVISA、マドリッド、スペイン)を規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーによる連続流の下に、規定量のカルシウム溶液を添加して、乳白色の懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることを含む。
【0096】
ナノ粒子の物理化学的性質の決定
ナノ粒子の物理化学的性質の完全な決定を達成するために必要な様々な試験について以下に記載する。
【0097】
ナノ粒子の径および表面電荷は物理化学的試験から決定し、後者はゼータ電位の測定を通して決定した。第1のパラメータはZetasizer nano Z−S(Malvern Instruments/Optilas、スペイン)を用いて光子相関分光法によって得て、一方、ゼータ電位はZeta Potential Analyzer(Brookhaven Instruments Corporation、ニューヨーク、米国)を用いて測定した。
【0098】
ナノ粒子を形成する方法の収率は、製剤を遠心分離(17,000×g、20分)して得た上清から回収したナノ粒子を得た後に残った遊離カゼインの定量化を通して算出した。従って、製剤中で粒子を形成するカゼインの量は、最初に添加した量と、精製工程の間に回収した上清中に定量された量との間の差異として概算した。前記定量化は、282nmにおける紫外(UV)分光法(Agilent 8453、UV−可視分光光度システム)によって行った。収率は下記のとおり概算した:
収率(%)=[(総カゼイン塩のmg−上清中のカゼイン塩のmg)/総カゼイン塩のmg]×100[方程式1]
【0099】
様々な計算を行うため、150ないし1,500μg/mLの検量曲線(R2=0.9992;LD=36μg/mL;LQ=119μg/mL)を用いた。
【0100】
加えて、総カゼイン塩と上清中に含有されるカゼイン塩との間の差異によって得られた結果を確認するために、遠心分離後に得られたペレットを定量する試験を行った。この場合、粒子の破壊のために、0.05M NaOHを用い、これは検量曲線の用意に用いた媒体と同じであった。従って、この場合に収率は、下記のとおり概算した:
収率(%)=[(ペレット中のカゼイン塩のmg)/総カゼイン塩のmg]×100[方程式2]
【0101】
前記媒体中で調製したカゼイン塩として見られた最大吸光度は300nmであった。検量線作成のために用いた濃度もまた、150ないし1,500μg/mLの範囲であった(R2=0.9996;LD=26μg/mL;LQ=85μg/mL)。
【0102】
ナノ粒子の形態は、走査型電子顕微鏡(Zeiss、DSM 940A、独国)によって観察した。そのために、凍結乾燥ナノ粒子を9nmの金分子層(Emitech K550 Team、Sputter−Coater、英国)によってコーティングし、Zeiss DMS 940A顕微鏡(米国)によって写真撮影した。
【0103】
葉酸を含有するカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
葉酸を含有するカゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウムを規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーの下に、水性溶媒中に予め調製した規定量の葉酸溶液を規定量の塩基性アミノ酸と共に添加することを含む。混合液を数分間インキュベートした後、最終工程は、カルシウム塩を添加して、乳白色−黄色がかった懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることからなる。
【0104】
場合により、形成されたナノ粒子は、それらを安定化させるため、100ないし800MPa下で1ないし5分間のサイクルで高圧静水圧処理(Stansted Fluid Power、ISOLABモデルFPG11500B110;シリーズ番号:7844)に付してよい。
【0105】
続いて、撹拌による3分間の均質化の後、撹拌を停止することなく、規定量の糖類溶液(ラクトース、トレハロース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルトデキストリン、またはマルトース)を添加する。最終的に、懸濁液は凍結乾燥するか、またはスプレー乾燥機(Buchi Mini Spray Drier B−191、Buchi Labortechnik AG、スイス)内で以下の条件においてスプレーする:
−空気注入口温度:60〜100℃
−空気排出口温度:30〜90℃
−空気圧:2〜10bars[2〜10×105Pa]
−サンプルポンプ流量:2〜9mL/分
−吸引:30〜100%
−空気流:200〜900L/h。
【0106】
場合により、製剤は糖類を添加した後、スプレー乾燥の代わりに凍結乾燥によって乾燥させることができる。
【0107】
カゼイン粒子に結合する葉酸量の決定
ナノ粒子に結合する葉酸の量を、Faye[Faye Russell,L.,Quantitative Determination of Water−Soluble Vitamins.In Food Analysis by HPLC,Nollet,L.M.L.(Ed.),Marcel Dekker,Inc.,New York,Second Edition,Chapter 10(2000)pp.444−445]によって記載された方法に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。分析は、ダイオードアレイUV検出システムと組み合わせた、モデル1100 LCシリーズクロマトグラフ(Agilent、ワルドブロン、独国)において行った。データは、Hewlett−Packardコンピュータにおいて、Chem−Station G2171ソフトウェアにより分析した。葉酸の分離のため、40℃に加熱したAlltech C18 Alltima(商標)カラム(5μm、150mm×2.1mm)を、適合するGemini(登録商標)C18 AJO−7596カラムと共に用いた。移動相は、リン酸(33mM、pH2.3)/アセトニトリル混合液から勾配(第1表)をつけて作られ、0.25mL/分の流速でポンプ注入した。検出は290nmで行った。サンプル注入量は10μLであった。葉酸の保持時間は22.6±0.5分である。
【0108】
【表2】
【0109】
サンプルの定量化の前に、溶液中のカゼインおよび/またはアミノ酸の存在が葉酸の正しい定量化を妨げ得ないことが確認され、95%超の正確かつ的確な結果が得られる、2ないし400μg/mLの濃度の異なる検量線を準備した。
【0110】
製造直後のサンプルの分析のため(それらの乾燥前)、製剤の規定量を濾過した後に得られた上清を、Vivaspin(登録商標)300,000 MWCO透析チューブ(VIVASPIN 2、Sartorius stedim Biotech、独国)を通して定量した。次に、ペレットを0.05M NaOHに溶解して粒子を破壊し、そして溶液中のカゼインおよび葉酸およびアミノ酸を維持し、そしてその結果それらの定量化を進めた。両画分(上清およびペレット)に見出された葉酸含有量の和は、最初に添加した総量と常に一致した。さらに、1mLの製剤を1mLの0.05M NaOHに溶解することによって、葉酸の総量を定量することも可能であった。この試験により、添加した葉酸の量と、記載したクロマトグラフィー法を通した定量化によって得られた葉酸の量との間の差異が、全ての試験例で10%を超えることが確認された。
【0111】
加えて、粉末サンプルの定量化のために10mgのナノ粒子を用い、これらを2mLの水に再懸濁し、遠心分離して、その後製造直後のサンプルと同様の方法によって進めた。
【0112】
模擬胃腸液中のナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態試験
ナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態は、その約10mgを、2mLの模擬胃液中に37±1℃で分散させることによって決定した(0ないし2時間)(USP XXIII)。規定時間に、ナノ粒子懸濁液を遠心分離して(17,000×g、20分)、上清中の葉酸の量を前述のHPLC法によって定量した。胃液から上清を除いた後、37±1℃で模擬腸液を加え(2ないし24時間)(USP XXIII)、その後上記の試験例と同じ方法によって進めた。
【0113】
各試験で用いた製剤中に存在するビタミンの総含有量を考慮して、全時間に放出された葉酸のパーセンテージを算出した。
【0114】
薬物動態試験。カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸のバイオアベイラビリティ
薬物動態試験は、施設内の治験倫理委員会の規則および実験動物に関する欧州の法律(86/609/EU)に従って行った。そのために、平均体重25gの雄ウィスターラット25匹を通常の明−暗(12時間−12時間)状態に付し、試験前の一週間に、要求に応じて葉酸欠乏性の飼料(Folic Acid Deficient Diet.TD.95247.Harlan、米国)および水を摂取させた。製剤投与の12時間前に、ラットを、飼料は摂取できないが水は自由に摂取できるメタボリックケージへ隔離した。
【0115】
動物を5つの処置群(1群あたり5匹のラット)に分けた。第1群には1mLのPBS(リン酸緩衝液、pH7.4)のみを経口投与した。続く3群は、以下の製剤:(i)遊離葉酸(カプセル化されていない)(Aditio、Panreac Quimica、バルセロナ、スペイン)、(ii)葉酸をカプセル化しているカゼインナノ粒子、(iii)高圧処理により、葉酸をカプセル化しているカゼインナノ粒子のいずれかに組み込まれた葉酸の1mg/kg(200μg/ラット)のみの経口用量で処置した。水中に分散した異なる製剤の各1mLを、胃−食道カニューレを通して投与した。最後に、生理食塩水血清(0.5mL)に溶解した同用量の遊離葉酸(1mg/kg)を、第5群の伏在静内へ静脈内経路により投与した。
【0116】
製剤の投与に先立ち、各ラットの基本的なビタミン濃度を調べるため、尾の伏在静脈から血液を採取した。投与後、血清分離管(SARSTEDT Microtube 1.1mL Z−Gel)を用いて、異なる時間に約500μL量の血液を採取した。全ての試験例で、ラットが疼痛を感じることを防止するため、吸入麻酔(イソフルラン:酸素)を用いて動物を眠らせた後に血液を採取し、常時これらの定数を調べた。
【0117】
続いて、血液量を、予め動物の体温に温めた500μLの生理食塩水血清を腹腔内投与することによって置換した。この間に動物の状態を試験したが(移動性、積極性、アレルギー性反応、及び体温)、有意な変化は観察されなかった。
【0118】
血清サンプルの葉酸の前処置および定量
血液を入れたチューブを遠心分離(6,000rpm、20分、20℃)した後に得られた血清サンプル中の葉酸の定量化を、酵素免疫アッセイ法によって行った。そのために、食品中の葉酸の定量のためにFDAによって承認されたElisaキット(Diagnostic automation,INC.カラバサス、カリフォルニア州、米国)を用いた。血清サンプルは、前処理なしで製造業者の説明書に従って定量した。
【0119】
該キットは食品における使用のために設計されているため、一連の予備試験を、血清サンプル中のビタミンを定量するその能力を確認するために行った。前記試験は、以下の前準備過程:1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム中に調製した50mMの四ホウ酸ナトリウム溶液中に溶解した葉酸の可変量(0〜300μL)を50μLの血清に添加する過程によって、該キットを用いて得られた結果と、前項に記載した高速液体クロマトグラフィー法によって得られた結果との徹底的な比較を行うことからなる。得られた溶液を、50mMの四ホウ酸ナトリウム溶液で最終量350μL(血清希釈1:7)とした。各混合液を30分間煮沸し、続いて2℃に冷却して、前記温度で一晩保持した。
【0120】
得られたサンプルを20,000rpmで、20分間遠心分離し、次に20μmのフィルターを通して濾過した後、既に記載した高速液体クロマトグラフィー法を用いることによってそれらの葉酸含有量を定量した。この場合、血清のビタミン濃度が低いため、定量化における誤差を最小限に抑えるため、かついかなるマトリックスによる干渉を除くため、標準添加法を用いた。
【0121】
試験を行った全ての例において、両方法による血清葉酸濃度の差異は10%未満であった。従って、分析に必要とされる血清量が少なく、そしてより簡便で迅速な方法であり、その検出限界(2ng/mL)はクロマトグラフィー技術のそれよりもかなり低いため、サンプル全体の定量のために、酵素免疫アッセイ法が選択された。
【0122】
脂溶性活性物質:ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウムを規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーの下に、水性溶媒中に規定量のアスコルビン酸溶液、そして続いて予めエタノールに溶解したケルセチンを添加することを含む。混合液を数分間インキュベートした後、最終工程は、カルシウム塩を添加し、乳白色−黄色がかった懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることからなる。
【0123】
場合により、形成されたナノ粒子は、それらを安定化させるため、100ないし800MPa下で1ないし5分間のサイクルで高圧静水圧処理(Stansted Fluid Power、ISOLABモデルFPG11500B110;シリーズ番号:7844)に付してよい。
【0124】
続いて、撹拌による3分間の均質化の後、撹拌を停止することなく、規定量の糖類溶液(ラクトース、トレハロース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルトデキストリン、またはマルトース)を添加する。最終的に、懸濁液は凍結乾燥するか、またはスプレー乾燥機(Buchi Mini Spray Drier B−191、Buchi Labortechnik AG、スイス)内で以下の条件においてスプレーする:
−空気注入口温度:60〜100℃
−空気排出口温度:30〜90℃
−空気圧:2〜10bars[2〜10×105Pa]
−サンプルポンプ流量:2〜9mL/分
−吸引:30〜100%
−空気流:200〜900L/h。
【0125】
場合により、糖類を添加した後、製剤はスプレー乾燥の代わりに凍結乾燥によって乾燥させることができる。
【0126】
カゼイン粒子に結合するケルセチン量の決定
ナノ粒子に結合するケルセチンの量を、Lacopini(Lacopini et al.,J Food Comp Anal 2008;21:589−598)によって記載された方法に幾つかの変更を加え、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。分析は、ダイオードアレイUV検出システムと組み合わせた、モデル1100 LCシリーズクロマトグラフ(Agilent、ワルドブロン、独国)において行った。データは、Hewlett−Packardコンピュータにおいて、Chem−Station G2171ソフトウェアにより分析した。葉酸の分離のため、40℃に加熱したAlltech C18 Alltima(商標)カラム(5μm、150mm×2.1mm)を、適合するGemini(登録商標)C18 AJO−7596カラムと共に用い、勾配(第2表を参照)を有する水/メタノール/氷酢酸混合液を移動相として、0.25mL/分の流速でポンプ注入した。検出は260nmで行い、サンプル注入量は10μLで、ケルセチンの保持時間は24.2±0.2分であった。
【0127】
【表3】
【0128】
サンプルの定量化の前に、95%超の正確かつ的確な結果が得られる、含水アルコール溶媒(75%エタノール)中の1ないし100μg/mLの濃度の異なる検量線を準備した。
【0129】
製造直後のサンプルの分析のため(それらの乾燥前)、濾過(17000rpm、20分)によりナノ粒子の精製過程後に得られた上清を、50%(w/v)エタノール含有量の含水アルコール溶液が得られるまで希釈した。
【0130】
最後に、ナノ粒子に結合したケルセチン量[カプセル化効率(E.E.)]を、最初に添加したケルセチン量(Q)と上清中に定量されたケルセチン量との間の差異として、以下の方程式に従って算出した。
【数1】
【0131】
実施例1
空のカゼインナノ粒子の調製および性質決定、それらを得るための方法の収率、用いるアミノ酸の型の、ナノ粒子の安定性および物理化学的特性に対する影響
1gのカゼインナトリウムを、90mgのリジンと共に75mLの水に溶解した。続いて、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この溶液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は3回行った。
【0132】
図2(AおよびB)に、透過型電子顕微鏡によって得た、この方法によって得られたカゼイン粒子の写真を示す。
【0133】
加えて、粒子の物理化学的特性に対するアミノ酸の型の影響を理解するために、同試験をアミノ酸の非存在下で、またはリジンの代わりに50mgのアルギニンを用いて行った。
【0134】
第3表に、得られたナノ粒子の主な物理化学的パラメータを要約する。
【0135】
【表4】
【0136】
実施した統計学的試験(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、製剤の物理化学的パラメータの間に差異があるということが認められる、統計学的に有意な証拠は存在しないことが示された。従って、アミノ酸の型は空のナノ粒子の前記特性に干渉しないと結論することができる。
【0137】
製剤に加えるアミノ酸の比を変化させて同じ試験を行っても、同様の結論、すなわちアミノ酸の比および型は空のナノ粒子の最終的な特性に干渉しないという結論に達した。
【0138】
製剤の安定性について理解するため、3つの型のナノ粒子の物理化学的パラメータを長時間に亘って測定した。得られた結果を第4表に収載する。
【0139】
【表5】
【0140】
それらを得た時点で、3つの型のナノ粒子は同一オーダーの径および比較的低い多分散度を有していた(PDI値が0.3未満で、粒径分布が均一であることから考えられる)。これらの径および分散値は、アミノ酸と共に製剤化したナノ粒子の例における試験の全体を通して有意な変動を示さない。しかしながら、それらを得てから2時間後、アミノ酸と共に製剤化しなかったナノ粒子は、それらの平均径およびそれらの多分散度の双方が著しく増加し(0.3を超える多分散値に対しては粒径値は表現されず、直径における不均一性が大きいという指針のみである)、試験後には非常に高い多分散値に達した。前記増加は、粒子間の凝集現象の存在を示している。3つの製剤を経時的に観察したとき、アミノ酸なしのナノ粒子の沈殿物が乳白色の層を生じるのに対し、アミノ酸と共に製剤化したナノ粒子は均質な懸濁液を形成することが確認されたため、これらの現象は巨視的規模においてさえも確認された。これらの結果に鑑みると、経時的に安定な粒子を得るためにアミノ酸の存在は必須であると考えられる。
【0141】
加えて、再び3つの型の製剤を調製し、スプレー乾燥技術により乾燥させた後、それらの物理化学的特性について試験した。該方法の条件は下記の通りであった:
−空気注入口温度:90℃
−空気排出口温度:49℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:100%
−空気流:600L/h。
【0142】
この試験は、ナノ粒子を得た時点でそれらを乾燥させたときのアミノ酸の影響を理解する目的で行ったが、その理由は、その時にいずれの製剤も凝集現象を示さなかったためである。得られた結果を第5表に収載する。
【0143】
【表6】
【0144】
粉末状に乾燥させたアミノ酸を有するナノ粒子を水性溶媒に再懸濁させることにより、径分布は単分散のままであり、それらの径は、スプレー乾燥による乾燥前のそれらの同族体の径よりもわずかに大きいことが観察された。しかしながら、アミノ酸なしで製剤化されたナノ粒子は、より大きな径と多分散値を有しており、このことは乾燥中に凝集現象を受けた可能性を示す。従って、アミノ酸の存在は、粒子をスプレー乾燥によって乾燥させるときにも必要である。
【0145】
このことに鑑みると、アミノ酸を有するナノ粒子の物理化学的特性は、アミノ酸を有さないナノ粒子のそれとは異なっており;それらは凝集傾向が少ないことから、生物活性化合物をカプセル化するために選択される製剤であると結論付けられる。
【0146】
実施例2
葉酸を含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、カプセル化効率に対するリジンおよび葉酸含有量の影響
全てが最終量7.5mLの水に100mgのカゼインナトリウムおよび可変量のリジン(0〜8.5mg)を含有する異なる溶液を調製した。
【0147】
加えて、50mLの水に、300mgの葉酸を400mgのリジンと共に溶解した。
【0148】
続いて、カゼイン塩溶液に1mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に4mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は、それぞれの型の製剤について3回に行った。
【0149】
図3に、透過型電子顕微鏡によって得た、この方法によって得られた葉酸をカプセル化したカゼイン粒子の画像を示す。
【0150】
各例において得られた物理化学的特性を第6表に収載する。
【0151】
【表7】
【0152】
実施した統計学的検定(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、表に収載されている最後の3つの製剤(リジン含有量が3.9、4.5、および8.5mgである)の物理化学的特性に差異があると考えられる、統計学的に有意な証拠は存在しないことが示された。第1の例では、葉酸溶液はリジンを含んでいるが、最初のカゼイン塩溶液中にアミノ酸が存在しないために葉酸がカルシウムと共に部分的に沈殿しやすくなり、遠心分離後のペレット中の葉酸の全てがカプセル化されたものではないことから、ビタミンの定量化における誤差の原因となることが確認された。
【0153】
さらなる試験により、ビタミン溶液がアミノ酸を含有するが、カゼイン塩溶液がアミノ酸を含有しない場合、沈殿することなく製剤中に組み込むことのできる葉酸の最大量は4mgであることが確認され、得られた結果は第6表のものと同様であった(25.5±1μgFA/mgNP、およびカプセル化効率:68.7±0.5)。従って、アミノ酸の存在はカプセル化されるビタミンの量には影響しないことが確認された。しかしながら、アミノ酸なしで製剤化されたナノ粒子の安定性は低く、さらに凝集傾向が高いため(実施例1を参照)、製剤化はこのようなアミノ酸の存在下で行った。
【0154】
粒子の物理化学的特性に対する、製剤に添加した葉酸量の影響を理解するために、全ての例において、最初のカゼイン溶液中のアミノ酸量を一定:8.5mgとし、添加する葉酸溶液の量のみを変化させることによって同様の試験を行った。
【0155】
図4に、カプセル化された葉酸量と製剤に添加したビタミン量との間の比を関数として示す。
【0156】
試験を行った製剤に見られた径は132ないし140nmの範囲であり、全ての例で多分散度は0.2未満であった。この例では、各製剤に添加した葉酸量が異なるため、カプセル化効率値は同等ではない。重量比13.5:1のカゼイン:葉酸に対する最大値は73.1±7.5であった。
【0157】
この試験の結果として、製剤中のカゼインのmg/FAのmgの比が減少するため(すなわち、製剤に最初に添加した葉酸量が増加するため)、ナノ粒子内部でカプセル化された葉酸量の増加が得られると結論することができる。しかしながら、製剤中に存在するカゼイン量(mgで)が、葉酸の各mgに対して経験値よりも少ない場合には、リジンの非存在下で起こるような沈殿および不安定な製剤が観察される。
【0158】
実施例3
スプレー乾燥によって乾燥させた、葉酸を含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、最終製剤に対する乾燥過程の影響
最終量75mLの水に、双方とも1,000mgのカゼインナトリウムおよび90mgのリジンを含有する、2つの溶液を調製した。
【0159】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0160】
続いて、各カゼイン塩溶液に7.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0161】
最後に、製剤の1つを、上清およびペレット中の葉酸の定量化のために遠心分離を行い、一方もう1つには、スプレー乾燥機を用いた乾燥の前に1,900mgのラクトースを加えた。該方法の条件は下記の通りであった:
−空気注入口温度:90℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0162】
双方の例において観察された物理化学的特性を第7表に収載する。
【0163】
【表8】
【0164】
実施した統計学的検定(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、両製剤に対して得られたカプセル化効率の間には統計学的に有意な差異(p<0.05)が存在することが示された。この差異は、既にカプセル化された葉酸の一部を放出させる、カゼインナノ粒子の部分的な分解の原因となる、意図した温度でのスプレー乾燥による製剤の乾燥過程に起因する可能性がある。
【0165】
これらの結果は、方法を粒子の架橋に応用する必要を示しており、そうすることによって粒子の安定性を改善することができ、そして製剤を遠心分離または乾燥させる過程における前述のカプセル化効率の低下を防止することができる。
【0166】
実施例4
高圧で安定化させ、スプレー乾燥技術によって乾燥させた、葉酸を含有し、リジンを有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、ナノ粒子の物理化学的特性に対する処理の影響
全てが最終量75mLの水に1,000mgのカゼインナトリウムおよび90mgのリジンを含有する、異なる溶液を調製した。
【0167】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0168】
続いて、カゼイン塩溶液に7.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラによる連続流の下に、この混合液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0169】
粒子が一旦形成されたら、製剤を密閉したプラスチックバッグへ移し、高圧静水圧処理に付した(0MPa;100MPa、5分;200MPa、5分;400MPa、5分;600MPa、5分、または800MPa、5分)。
【0170】
過程が一旦終了したら、水に溶解した1,900mgのラクトースを各製剤に加え、以下の条件下でスプレー乾燥技術を用いてそれらを乾燥させた:
−空気注入口温度:85℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0171】
第8表に、得られたナノ粒子の主な物理化学的特性を要約する。
【0172】
【表9】
【0173】
第8表に見られるように、製剤に適用される処理の型にかかわらず、ナノ粒子は同様の表面電荷を有している。しかしながら、データは、処理に適用する圧力が増加するにつれて、得られる粒径がより小さくなり、最大7%までの減少に達することを検出した。しかしながら、適用する圧力が高くなるにつれて、カプセル化されたビタミンの量(そしてその結果としてのカプセル化効率)の値はより大きくなり、処理なしの製剤に対して65%増加した(800MPaで処理したサンプルの場合)。
【0174】
加えて、図5は、高圧処理なし、ならびに100、400、および800MPaで処理した製剤の、走査型電子顕微鏡によって得られた顕微鏡写真を示す。これらは、高圧静水圧処理なしのナノ粒子が、それらが得られた後に付される様々な過程(スプレー乾燥による乾燥、遠心分離、高温に達する過程での顕微鏡観察)によってどのように部分的に変化するかを確認したことを示すが、様々な高圧処理に供されたナノ粒子の方がより安定であった。
【0175】
これらの結果は、適用した高圧静水処理はナノ粒子を架橋し、それらをより安定させ、遠心分離、乾燥、および写真撮影後にそれらが分解するのを防止することを示す。乾燥または遠心分離を行うこれらの過程の幾つかにおけるナノ粒子の部分的な分解は、葉酸の放出を伴い、その結果得られるカプセル化効率をより低下させる可能性があるため、これは全て、処理されたサンプルにおいてより高いカプセル化効率が得られることを説明している。
【0176】
実施例5
高圧を用い、スプレー乾燥によって乾燥させた、葉酸を含有し、アルギニンを有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、最終結果において用いたアミノ酸の影響
最終量210mLの、3,065mgのカゼインナトリウムおよび123mgのアルギニンの水溶液を調製した。
【0177】
加えて、100mLの水に、605mgの葉酸を800mgのアルギニンと共に溶解した。
【0178】
続いて、カゼイン塩溶液に27mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に120mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0179】
粒子が一旦形成されたら、製剤を密閉したプラスチックバッグへ移し、400MPaで5分のサイクルからなる高圧静水圧処理に付した。
【0180】
過程が一旦終了したら、水に溶解した5,880mgのマンニトールを高圧処理された300mLの製剤に加え、以下の条件下でスプレー乾燥技術を用いてその乾燥を行った:
−空気注入口温度:85℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0181】
得られた製剤の主な物理化学的特性を第9表に要約する。
【0182】
【表10】
【0183】
図6は、400MPa、5分間の処理で製剤中に葉酸をアルギニンと共に含有するカゼインナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0184】
観察されるように、得られた製剤は、アルギニンの代わりにリジンを用いて得たナノ粒子と同様の特性を有している。
【0185】
実施例6
模擬胃腸液中でのナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態試験、放出動態における高圧処理の影響
放出試験を行うために、実施例4に記載した粉末製剤(高圧処理なし、100MPaおよび400MPaで処理)を用いた。
【0186】
図7は、高圧処理なしのサンプルの例に対して得られた放出動態を示す。これにおいて、胃液中での2時間のインキュベーション後に、最大の葉酸放出値である4%に達したことが観察される。しかしながら、腸の状態では、カゼイン粒子は増大したパーセンテージのビタミンを放出して(試験24時間目で90%に達する)、溶解した。さらに、この媒体中では、インキュベーション後に遠心分離したサンプルには、それらの溶解、そしてそれゆえのビタミンの放出の証拠となるカゼインペレットがほとんど存在しなかった。従って、設計された製剤は、胃の管の至る所で葉酸をカプセル化し、胃の状態がバイオアベイラビリティを減少させるのを防止すると考えられる。さらに、ナノ粒子が腸内で溶解することで、ビタミンの放出を助け、ナノ粒子の存在によって起こり得る任意の毒性問題を排除する。
【0187】
高圧処理したサンプルの場合について、図8(AおよびB)にそれらの放出動態を示す。それらにおいては、高圧処理なしのサンプルに見出されるものと非常に類似したプロファイルが見られ、模擬腸液中での6時間後の最大放出パーセンテージ(70%)は、同今回の処理なしのサンプルに見出されるもの(80%)よりもわずかに低い。
【0188】
従って、カゼインナノ粒子の架橋のためにそれらへ高静水圧を適用することによって、それらからの成分放出のプロファイルは有意に変化しないが、放出されたビタミンの総量は6時間後に10%低下する。
【0189】
実施例7
カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸の薬物動態学的試験
第10表に、薬物動態学的試験において試験したナノ粒子の主な物理化学的特性を要約する。実施例5に記載した方法に従って、双方の型のナノ粒子(高圧処理あり及びなし)を得た。
【0190】
【表11】
【0191】
薬物動態学的試験を3段階に分けた。第1段階は、リン酸緩衝液に溶解した1mg/kgの葉酸を静脈内投与することからなり;第2段階は、5匹の雄ウィスターラット群(このラット群では、経時的な基礎ビタミン濃度について試験した)のラットに1mLのリン酸緩衝液を経口投与することからなる。最後に、第3段階は、1mg/kgの(i)水に溶解した葉酸、(ii)カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸、および(iii)高圧処理した、カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸を、5匹の動物から構成されるラット群へ経口投与することからなる。
【0192】
投与後、約500μL量の血液を異なる時間に採取して(0、1、2、3、8、および24時間)、血清分離管に回収し、続いて動物の血液量を同等の生理食塩水血清で腹腔内経路によって戻した。葉酸の投与後に得られたデータの薬物動態学的分析を、WiNNonlin 1.5薬物動態調整プログラム(Pharsight Corporation、マウンテンビュー、米国)の、ノンコンパートメント調整の方法を用いて行った。
【0193】
得られた結果(基礎濃度を差し引いた後)を図9に収載する。観察されるように、葉酸の静脈内投与(図9A)は、最初のサンプル摂取による血清薬物濃度のピークに続いて、血清薬物濃度の大幅な減少を示している。ビタミンを経口投与した際に得られるプロファイル(図9B)は、最大濃度が有意に低いために異なっており、これはより長時間現れ、よりゆっくりと減少する。しかしながら、遊離型(カプセル化されていない)またはカゼインナノ粒子内にカプセル化された(高圧処理あり又はなし)葉酸の経口投与後に見られるビタミン濃度を比較すると、濃度プロファイルは同様の時間において見られたが、最大値はカプセル化されたビタミンを投与した時の方がより大きかった。
【0194】
本試験の実験データのノンコンパートメント解析を行った後に得られた薬物動態学的なパラメータの値を第11表に収載する。
【0195】
【表12】
【0196】
観察されるように、用いた製剤の型に依存してAUC値は有意に変動する。ビタミンがカゼインナノ粒子内にカプセル化されている場合、AUC値は遊離型の葉酸を投与した後のものよりも有意に高く、これらはさらに投与後24時間までにわたって維持される。2つのナノ粒子製剤において血漿中の葉酸の平均滞留時間(MRT)は同様であり、遊離型と比較した場合にはそれよりも長いことが観察された(経口および静脈内)。
【0197】
これらの結果により、葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子の経口によるバイオアベイラビリティは双方の製剤で52%であり、経口経路による遊離葉酸の経口投与後に得られた値よりも45%高いと計算された。
【0198】
実施例8
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[1]
最終量15mLの水に、200mgのカゼインナトリウムおよび18mgのリジンを含有する溶液を調製した。
【0199】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0200】
続いて、カゼイン塩溶液に1.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に8mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0201】
最後に、製剤を17,000×gで、20分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを25mLの水に再懸濁した。
【0202】
加えて、42mLの水に、7gのグリセリンおよび0.2gのニパギンナトリウムを含有する溶液を調製した。該溶液を水浴中で50℃まで加熱し、続いて葉酸を含有するカゼインナノ粒子の水溶液を加えて、それにより化粧品製剤を調製し得る最終水溶液を得た。
【0203】
加えて、25gのNeo PCL O/Wをも、70℃で加熱してそれを完全に融解した。この脂肪層が一旦融解したら、経時的に正確で安定なO/Wエマルションが得られるまで、持続的に撹拌しながら前述の水溶液を加えた。得られたクリームの官能評価は、均質な見掛けを有し、かつ塊が見られないことから肯定できるものであった。
【0204】
この同試験を、実施例4に記載される、高圧処理(400MPa、5分)して、かつスプレー乾燥機によって乾燥させたナノ粒子の製剤を用いても行った。600mgの製剤を25mLの水に再懸濁後、既に上記した同じ方法を行った。得られたクリームもまた均質な見掛けを有し、かつ塊が見られなかった。
【0205】
実施例9
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[2]
最終量15mLの水に、200mgのカゼインナトリウムおよび18mgのリジンを含有する溶液を調製した。
【0206】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0207】
続いて、各カゼイン塩溶液に1.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に8mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0208】
最後に、製剤を17,000×gで、20分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを25mLの水に再懸濁した。
【0209】
加えて、0.5gのカーボポールUltrez 10を75mLの水に溶解した。該溶液にナノ粒子の懸濁液を加えた。混合液が一旦均質になったら、pH10になるまで十分な量のトリメチルアミンを加えた。均質かつ安定で、わずかに黄色がかったカーボポールゲルが得られるまで混合液を均質化した。
【0210】
この同じ試験を、実施例4に記載される、高圧処理(400MPa、5分)して、かつスプレー乾燥機によって乾燥させたナノ粒子の製剤を用いても行った。600mgの製剤を25mLの水に再懸濁後、既に上記した同じ方法を行った。得られたゲルもまたわずかに黄色がかった色であり、均質かつ安定な見掛けであった。
【0211】
実施例10
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[3]
3gのモノステアリン酸グリセリンを、5gのミリスチン酸イソプロピルおよび2gのセチルアルコールと混合した。この混合液を水浴中で70℃で加熱した。
【0212】
加えて、実施例8に記載した、葉酸を有するカゼインナノ粒子を含有する87gのカーボポールゲルを、3gのソルビトール液と共に水浴中で50℃まで加熱した。この溶液を前者に加え、均質なエマルションが得られるまで穏やかに撹拌した。
【0213】
実施例11
ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定
7.5mLの水に、100mgのカゼインナトリウムおよび8.5mgのリジン(または5.5mgのアルギニン)を含有する溶液を調製した。
【0214】
加えて、濃度12mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム水溶液を調製し、その0.5mLをカゼイン塩およびリジンの混合物に加えた。アスコルビン酸ナトリウムを用いる理由は、ナノ粒子を得る過程の間に、ケルセチンの酸化を防止するためであった。
【0215】
加えて、50mgのケルセチンを5mLのエタノールに溶解した。
【0216】
続いて、カゼイン塩溶液に0.15mLのケルセチン溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に4mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は、それぞれの型の製剤について3回行った。
【0217】
各例において得られた物理化学的特性を第12表に収載する。
【0218】
【表13】
【0219】
得られた結果により、本発明のナノ粒子は、脂溶性の特性を有する生物活性化合物のカプセル化にも適し、そして高いカプセル化効率パーセンテージを得られることが示された。
【0220】
加えて、この結果により、一つまたは別のアミノ酸の存在は、得られたナノ粒子の物理化学的特性に影響しないことが確認される。
【0221】
カプセル化されたケルセチンの量を増大させるため、アミノ酸としてリジンおよび可変量のケルセチン(0.05ないし0.50mLのケルセチンエタノール溶液)を用いて試験を反復した。得られた結果を第13表に収載する。
【0222】
【表14】
【0223】
得られた結果により、製剤中のケルセチン量の増加に伴って、カプセル化されたケルセチンの量も同比率で増加するが、カプセル化効率は一定のままであることが示される。
【0224】
さらに、先に記載した方法に従って試験を行ったが、カゼイン塩溶液へのケルセチン添加に先立ち、ケルセチンを(それをエタノール中に溶解する代わりに)水中に分散させた。得られた結果により、ケルセチンの一部はカゼインナノ粒子内にカプセル化されたが、カゼイン塩溶液へのケルセチン添加に先立ちケルセチンをエタノールに溶解した先の例よりもカプセル化効率は低いことが示された。
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品、医薬品、および化粧品部門、ならびにナノテクノロジー部門に含まれ、コーティング剤としてカゼインを用いた生物活性化合物のカプセル化物からなる。
【背景技術】
【0002】
消費者の新たな要求に応えるため、食品産業には技術的発展が必要とされている。ナノテクノロジーは、生物活性化合物[BAC]、例えば香味料、ビタミン、ミネラル、精油、酸化防止剤、プレバイオティクスなどをカプセル化可する技術を通して食品産業に大きな変革をもたらす可能性を提示し、その結果、例えば製品の品質保存期間を延長する;使用するBACの量を低減させる;その放出性を制御する;そのバイオアベイラビリティを増大させる;望ましくない香りをマスクするなど多くの利点を得ることができる。
【0003】
BACのカプセル化に適した担体の設計に際しては、コーティング剤またはマトリックスとして使用される物質を正しく選択することが非常に重要であり、そのためには、特に剤形、その毒性、製剤が組み込まれる製品(食品、化粧品、医薬品など)などの要素を考慮しなければならない。食品ナノテクノロジーの分野では、毒性が問題となり得る合成ポリマーの使用は推奨されない。天然ポリマーはこれらの弱点をもたないが、これらの使用はより複雑な粒子製造法の開発を示唆するのみではなく、ほとんどの場合、得られる粒径(多くの場合において100μmを超える)は制御が困難であることから、このようなナノ粒子は消費者にその存在が気付かれ、対象食品の官能特性を変化させことがある。
【0004】
幾つかの物質の中でも、タンパク質はBACコーティング剤として以前から用いられている。その食品への応用のために、疎水性BACをカプセル化するための担体としてのカゼインの使用が記載されている(カナダ特許第2649788号および欧州特許第2011472号)。
【0005】
葉酸塩群に含まれるB型水溶性ビタミンである葉酸(プテロイルモノグルタミン酸またはビタミンB9)は、DNA合成のような重要な生化学過程において必須である。葉酸の欠乏は、巨赤芽球性貧血、アルツハイマー病、ダウン症候群、体液障害、ある種の癌(大腸癌、子宮頸癌、白血病、膵臓癌)、胎児育成期の神経管欠損、妊娠期の合併症、および男性不妊の存在に関連する。しかしながら、葉酸は生命体では合成できないため、様々な栄養補助食品または食事を通して供給されなければならない。
【0006】
葉酸塩は、基本的にポリグルタミン酸塩の形で食品(例えば果実および野菜)中に天然に存在するが、それらのバイオアベイラビリティは、典型的には50%以下であり、不完全である。従って、葉酸で強化された食品の摂取は、葉酸塩の摂取量が推奨されるそれよりも低い場合に、このビタミンの摂取量を増すための補完的な選択肢となり得る。それにもかかわらず、食品に添加された葉酸のバイオアベイラビリティは、マトリックス効果(葉酸が食品成分と結合し得ることで、その吸収が妨げられる)のため、または、葉酸のバイオアベイラビリティを低減させる任意成分が食品中に存在するため、完全ではない。さらに、葉酸は腸内で可溶化されない場合には十分に吸収されない。カプセル剤や錠剤などの手段で投与された葉酸を含む栄養補助食品または強化食品は、葉酸が胃酸により胃で分解された後沈殿して溶けにくい形態へと変換されることによって、供給された葉酸の一部のみしか腸へ到達しないという弱点をもつ。
【0007】
加えて、葉酸塩または葉酸による食品の強化は、葉酸塩およびそれらの誘導体ならびに葉酸の両方が、特に温度、光、およびpHの変化といった因子に感受性であることから複雑な過程であり、そのためこれらの安定性は食品加工条件によって損なわれ、消費者に利用可能なビタミンの生物活性量は大きく減少し得る。従って、前記ビタミンによって食品を強化する場合には、食品の保管および調製の間に大きな減少が起こり得るとして、これらの側面を考慮することが必要となる。
【0008】
葉酸含有食品、基本的には乳製品およびシリアル製品の強化については知られている。ソーセージ肉(スペイン特許第2302571号)、乳製品(欧州特許第1941804号)、乳幼児用食品(米国特許第4753926号)、または鶏肉、豚肉、もしくは牛肉を基にした缶詰食品(ロシア特許第2223672号およびロシア特許第2213493号)のような、栄養補助食品(欧州特許第2002839号)または葉酸もしくは葉酸塩で強化された食品についても記載されている。しかしながら、記載された事例では、ビタミンと食品マトリックスとの可能な相互作用についても、またそのバイオアベイラビリティについても意図されていない。
【0009】
葉酸を含有するアルギン酸塩およびペクチンのマイクロカプセルを得る方法であって、胃の状態のような、該マイクロカプセルの分解をもたらす環境因子からそれを保護し、その腸への放出を達成する方法についても記載されている。しかしながら、得られたマイクロカプセルは過度に大きく、対象食品の官能特性に影響を及ぼす。コポリ(乳酸−グリコール酸)(PLGA)ナノスフェア内に葉酸をカプセル化して、その持続放出を達成する方法についても記載されている。結果は肯定的であったが、このポリマーの使用は医学および薬学領域に限定されていることから、食品における応用には十分でないる。
【0010】
従って、BACカプセル化系、好ましくは水溶性、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば前述の弱点を全体的または部分的に克服する葉酸の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
今般、驚くべきことに、カゼインにより形成され、塩基性アミノ酸(例えばアルギニンまたはリジン)および食品に適した金属(例えばカルシウム)をさらに含むナノ粒子が、食品、化粧品、および薬品へのその応用において、新規なカプセル化を形成し、かつ生物活性化合物(BAC)の系を安定化させること、そしてBACは水溶性および脂溶性両方、好ましくは水溶性、さらに好ましくは酸性水溶性であることを見出した。
【0012】
従って、一つの態様によれば、本発明はカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される食品用の金属を含むナノ粒子に関する。前記ナノ粒子は技術的助剤として用いることができる;これらはさらにBAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば葉酸、パントテン酸およびアスコルビン酸のようなBもしくはC型ビタミン、またはその他の親水性の化合物をカプセル化する能力を有するが、これらは脂溶性のBACを組み込むこともできる。
【0013】
前記ナノ粒子は、製品加工(例えば食品、医薬品、または化粧品)の間および保管の間双方において安定であり、かつ外部因子、例えば光、pHの変化、酸化などによる分解からBACを保護でき、さらに、これらを食品に応用した際に、これらはBACを胃の酸性状態から保護し、胃管に沿ったBACの放出を妨げ、それによってBACの沈殿を回避し、その結果バイオアベイラビリティの低下を回避する。さらに、前記ナノ粒子は、BACの正確な吸収のために腸内でのBACの完全な放出を促進する(模擬)腸液中に溶解可能であること、さらに任意の種類の毒性問題を回避可能であることを見出した。有利なことに、前記ナノ粒子はそれらが導入される食品中では不活性であるため、BACがマトリックスの様々な成分と反応し、そのバイオアベイラビリティが減少することを回避する。
【0014】
加えて、本発明により提供されるナノ粒子の最も重要な特徴の一つは、カゼインそれ自体にBACそのものの有益な効果を補う栄養特性が示されていることから、環境状態および胃の状態の双方からBACを保護し、腸におけるその放出を促進して、そのバイオアベイラビリティを改善するための天然の担体としてカゼインを使用することにある。
【0015】
別の態様によれば、本発明は前記ナノ粒子を製造する方法に関する。前記方法は簡便で、工業的規模で応用が可能である。有利なことに、前記方法は食品添加剤として承認されていない合成または反応性ポリマーを含まず、界面活性剤または乳化剤の含有が最小限に抑えられており、そして制御可能な粒径を有するナノメートル尺度のナノ粒子を得ることが可能である。
【0016】
特定の実施形態によれば、前記方法はさらに、BACを長期間安定に保つ粉末の形態で製剤を得るために、前記ナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥する工程を含み、この型の粉末製剤は固形食品での使用に特に適している。有利なことに、前記乾燥処理はナノ粒子保護剤の存在下で実行される。このようにして得られるBACを含有するナノ粒子は、溶液中でBACを分解から保護する水性溶媒中に容易に懸濁することができる。得られた最終産物は安定であり、長期に亘る保管の間ずっとBACを保護し、さらに液体(例えば飲料など)および固体双方、様々な種類の食品に応用可能である。
【0017】
別の態様によれば、本発明は、食品、医薬品、または化粧品部門における使用のための前記ナノ粒子を含む組成物に関する。実際、前記ナノ粒子は、この分野での使用に適した安定な化粧品製剤を得るため、クリーム、ゲルおよびヒドロゲル中に組み込むことができる。前記ナノ粒子はまた、局所経路による前記ナノ粒子の投与に適した賦形剤と共に製剤化することもできる。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、本発明により提供されるカゼインナノ粒子に基づく前記組成物を含む食品材料に関する。特定の実施形態によれば、前記食品材料は液体、半固体、または固体の形態である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、葉酸を含有するカゼインナノ粒子を得るために適用される本発明の方法の特定の実施形態について、概略図を示す。
【図2】図2は、空のカゼインナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。画像の左下周縁に位置する黒棒は100nmの基準に相当する。
【図3】図3は、葉酸を含有するカゼインナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。画像の左下周縁に位置する黒棒は100nmの基準に相当する。
【図4】図4は、カプセル化された葉酸の量と、各葉酸のmgに対して製剤へ添加されたカゼインの量との比を示す。全ての製剤において、葉酸溶液添加前のリジンとタンパク質との重量比は1:12である。
【図5】図5は、製剤中に葉酸をリジンと共に含有するカゼインナノ粒子の、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。高圧処理なし(AおよびB)、100MPaで5分間処理(C)、400MPaで5分間処理(D)、および800MPaで5分間処理(E)。
【図6】図6は、400MPaで5分間処理した、製剤中に葉酸をアルギニンと共に含有するカゼインナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【図7】図7は、模擬胃液(SGF)(最初の2時間:0〜2時間)、そして模擬腸液(SIF)(2ないし24時間)中で、37±1℃でインキュベーション後、高圧処理しなかった、カゼインナノ粒子からの葉酸の放出を示す。データは平均±標準偏差(n=6)を示す。
【図8】図8は、模擬胃液(SGF)(最初の2時間:0〜2時間)、そして模擬腸液(SIF)(2ないし8時間)中で、37±1℃でインキュベーション後、(A)150MPaで5分間、およびB)400MPaで5分間高圧処理した、カゼインナノ粒子からの葉酸の放出を示す。データは平均±標準偏差(n=4)を示す。
【図9】図9は、実験動物に様々なビタミン製剤を投与した後の血清葉酸濃度(ng/mL)を時間関数として示す。結果は平均±標準偏差(n=5)を示す。 A)静脈内経路、用量1mg/kg。 B)経口経路、用量1mg/kg:水に溶解したカプセル化されていない葉酸(黒塗りの丸);水に分散したカゼインナノ粒子内のカプセル化された葉酸(黒塗りの四角);水に分散した高圧処理されたカゼインナノ粒子内のカプセル化された葉酸(黒塗りの三角)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明はカゼインナノ粒子、および生物活性化合物(BAC)をカプセル化する方法を提供し、その結果、BACを光、pHの変化、酸化などのような外部因子による分解から保護する。
【0021】
定義
本発明の理解を容易にすることを目的とした、本発明に関して用いられる幾つかの用語および表現の意味は以下のとおりである。
【0022】
本明細書において、「塩基性アミノ酸」は、リジン、アルギニン、およびヒスチジンを含む。
【0023】
本明細書において、「カゼイン」は、乳タンパク質全体の約80%を形成する複合タンパク質を指す。カゼインはグロブリンの定義に含まれるリン酸化タンパク質型のタンパク質であり;可溶性であり;高い保水力を有し、20℃、約4.6のpHにおいて沈殿する。カゼインは4つの基本的な画分(αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、およびκ−カゼイン)から成り、それらのアミノ酸組成、それらの電荷分布、およびそれらのカルシウム存在下で凝集する傾向によって互いに区別される。乳中で、カゼインは「カゼインミセル」と称される直径50ないし600nm(平均で約150nm)の大きなコロイド粒子を形成する。これらの粒子は疎水性相互作用によって、かつカゼイン構造内に存在するホスホセリンラジカルによるリン酸カルシウム複合によって形成される。前記ミセルは乳中で非常に安定なコロイド系を形成し、これがその色調、熱安定性、およびレンニンによる凝固の主な原因の一つである。
【0024】
本明細書において、「生物活性化合物」または「BAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有する任意の脂溶性および水溶性の化合物を指す。本発明によるBACの、これらには限定されない例には、アミノ酸、抗菌剤、着香剤、防腐剤、甘味料、ステロイド、薬物、ホルモン、脂質、ペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類、タンパク質、プロテオグリカン、香味料、ビタミンなどが含まれる。
【0025】
本明細書において、「水溶性の生物活性化合物」または「水溶性のBAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有し、かつスペイン薬局方によって定義される下記基準に従い、水溶液中で可溶性である(極めて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、または溶けにくい)化合物を指す。
【0026】
【表1】
【0027】
水溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばBまたはCファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、塩またはエステル;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、チオクト酸、それらの塩またはエステルなどが含まれる。特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸(アルファリポ酸)、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステル、または塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0028】
本明細書において、「脂溶性の生物活性化合物」または「脂溶性のBAC」は、栄養、治療的、および/または美容的作用を有し、かつスペイン薬局方によって定義される基準に従い、脂および油中で可溶性である(極めて溶けやすい、溶けやすい、やや溶けやすい、やや溶けにくい、または溶けにくい)化合物を指す。脂溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばビタミンA、D、E、Kファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)など)、フィトスタノールおよびフィトステロール(シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(ケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0029】
ヒトまたは動物用の食品におけるその使用が、国または機関、例えば国連食糧農業機関(FAO)もしくは世界保健機関(WHO)の国際食品規格に従って安全である際、製品は「食品用」と称され、結果的に「食品用」製品は「食品におけるその使用に適する」無毒性の製品であることから、両表現は同義語であり、本明細書では区別なく用いられる。
【0030】
本明細書において、「二価金属」には、その原子価が2である任意の金属元素、例えばカルシウム、マグネシウム、亜鉛などのアルカリ土類金属、または幾つかの原子価を有する場合にはそのうちの一つが2であるもの、例えば鉄などが、医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品での使用に適するという条件下で、含まれる。
【0031】
本明細書において、「三価金属」には、その原子価が3である任意の金属元素、または幾つかの原子価を有する場合にはそのうちの一つが3であるもの、例えば鉄などが、医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品での使用に適するという条件下で、含まれる。
【0032】
本明細書において、「ナノ粒子」は、1マイクロメートル(μm)未満、好ましくは約10ないし900ナノメートル(nm)の径を有する球状または類似の形状のコロイド系を指す。
【0033】
本明細書において、「平均径」は、水性溶媒中で共に移動するナノ粒子集団の平均直径を指す。これらの系の平均径は当業者に公知の標準的方法によって測定でき、これは例えば実施例において記載される(後記参照)。本発明のナノ粒子は、1μm未満、典型的には1ないし999nm、好ましくは10ないし900nm、さらに好ましくは50ないし500nm、さらに一層好ましくは100ないし200nmに含まれる平均粒径を有することを特徴とする。特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、50ないし200nmに含まれ、好ましくは約140nmの平均粒径を有する。
【0034】
ナノ粒子
一つの態様によれば、本発明はカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子(以下「本発明のナノ粒子」という。)に関する。
【0035】
特定の実施形態によれば、前記塩基性アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである。
【0036】
別の特定の実施形態によれば、前記金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、亜鉛、鉄(それらの二価型で)、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される食品用の二価金属である。
【0037】
別の特定の実施形態によれば、前記金属は、例えば三価型の鉄のような、食品用の三価金属である。
【0038】
本発明のナノ粒子は、技術的助剤、例えば脂の代替物などとして用いることができる。本発明のナノ粒子はさらに、生物活性化合物(BAC)をカプセル化する能力を有する。
【0039】
従って、別の特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、さらに生物活性化合物(BAC)を含む。前記BACは水溶性のBACまたは脂溶性のBACであってよく;この場合、本発明のナノ粒子は、本明細書中で「本発明の装填ナノ粒子」として特定されることがある。
【0040】
特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBACである。より特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは下記:
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;並びに
e)それらの組み合わせ
からなる群から選択されるものである。
【0041】
特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシンすなわちビタミンB3、パントテン酸すなわちビタミンB5、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸すなわちアルファリポ酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0042】
特定の実施形態によれば、前記BACは葉酸、パントテン酸、アスコルビン酸などの酸性水溶性のBACである。
【0043】
何らの理論によって拘束されることを望むものではないが、二価金属(例えばカルシウム)のような金属の存在下で、αおよびβカゼインは、それらの構造内に存在するホスホセリンラジカルが陽イオン成分と結合する際、それらの親水性および表面電荷が失われることによって凝集すると考えられる。水溶性のBAC、好ましくは酸性のもの(例えば葉酸)は前記金属と静電気的に相互作用もすることから、これらの型のカゼインにより生成される疎水性マトリックス内に捕捉され得る。次に、κカゼインは金属(例えばカルシウム)とは反応しないことから、その疎水性部分によって粒子に結合し、その水溶性画分は外部の水性溶媒と接触する。前記水溶性画分は、高比率のカルボニル基(グルタミン酸またはアスパラギン酸のようなアミノ酸の酸性基)に加え、三糖および四糖に結合したセリルおよびスレオニル残基に対応する極性基を有する。従って、ナノ粒子の形成後、溶液中に存在する塩基性アミノ酸(例えばリジン)は、ナノ粒子と前記画分のカルボキシル基との静電気的な相互作用によってナノ粒子の表面に付着し得ることが考えられる[例えば、スプレー乾燥機を通した加熱後(適切な場合には)、これらは共有結合し得る]。図1に、カゼインマトリックス、リジン(塩基性アミノ酸)、およびカルシウム(二価金属)を含む、本発明の装填ナノ粒子の概略図を示す。
【0044】
別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBACであり、もっともこの場合は、好ましくは水性溶媒中でBACの均質な懸濁液を形成すること、またはさらに好ましくは、有機溶液中にBACを溶解するため、前記水性懸濁液または前記有機溶液を、カゼイン源(例えばカゼイン塩)を含有する溶液へゆっくりと加え、該混合液をインキュベートすることが必要であろう。
【0045】
捕捉の機構は水溶性のBACのそれとは異なり得るが、その理由は、脂溶性のBACおよびナノ粒子内部の疎水性分画が(二価または三価の)金属と相互作用する能力を有するか否かに関わらず、脂溶性のBACは両画分間の親和性によって、ナノ粒子内部の疎水性画分に捕捉されるからであろう。
【0046】
特定の実施形態によれば、前記BACは、ビタミン、例えばビタミンA、D、E、Kファミリー由来のビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールおよびフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(例えばケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)およびそれらの誘導体から選択される脂溶性のBACである。
【0047】
本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は広範囲に変動してよく、これらに限定されるものではないがその例では、本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:15ないし1:35程度に含まれてよい。特定の実施形態によれば、BACは水溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(水溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:30、さらに好ましくは1:15ないし1:20程度に含まれてよい。別の特定の実施形態によれば、BACは脂溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(脂溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:20ないし1:35程度に含まれてよい。
【0048】
加えて、所望の場合は、本発明のナノ粒子は、BACを装填したものおよびしていないもの双方、温度および酸化に関して安定性を高めるという目的で、それらの製剤中に酸化防止剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)などを組み込んでもよい。特定の実施形態によれば、BACは葉酸であり、酸化防止剤は、葉酸を紫外線照射、pHの変化、熱、酸素などによる分解から保護することによって作用すると考えられ、さらにアスコルビン酸による栄養補給を提供する、アスコルビン酸である。前記酸化防止剤は、BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中に導入されてもよい。
【0049】
ナノ粒子を得る方法
別の態様によれば、本発明は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子(本発明のナノ粒子)を製造する方法(以下「本発明の方法[1]」という。)に関し、該方法は下記:
a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;および
b)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む。
【0050】
別の態様によれば、本発明は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含むナノ粒子(本発明の装填ナノ粒子)を製造する方法(以下「本発明の方法[2]」という。)にも関し、該方法は下記:
a)(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)生物活性化合物を含有する溶液と混合する工程;および
b)工程a)で得られた混合液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む。
【0051】
本発明の方法[1]の工程a)において、カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液は、当業者に公知である従来の方法、例えば前記カゼイン源および塩基性アミノ酸を水性溶媒へ添加することによって調製される。
【0052】
本発明の方法[2]の工程a)において、カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液(i)はBACを含有する溶液(ii)と混合される。BACを含有する前記溶液(ii)の性質および組成は、BACの種類および性質に依存して変動し得る。従って、特定の実施形態によれば、BACが水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は水溶液であり;別の特定の実施形態によれば、BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含む水溶液であり;そして別の特定の実施形態によれば、BACが脂溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、水性溶媒、または好ましくは有機溶液、さらに好ましくはアルコール、例えばエタノールのような水混和性溶媒の有機溶液中のBACの懸濁液である。
【0053】
両方法[本発明の方法[1]および[2]]を実施するために使用できるカゼインは、実際には、例えば乳、豆など任意のカゼイン源に由来してよい。カゼインは前記溶液中で酸カゼインまたはカゼイン塩の形態で見出され得る。特定の実施形態によれば、前記カゼイン源は、カゼイン塩、好ましくはカゼインナトリウムの形態であるカゼインを含む。カゼインカルシウムおよびホスホカルシウムを使用することもできるが、これらは実施にはあまり有利ではない。その理由は、カルシウムは、カゼイン塩を活性成分と混合した後にナノ粒子を形成するために用いられるので、カゼイン塩溶液が溶媒中に既にカルシウムを有している場合、前記方法の実施が著しく損なわれる可能性があるからである。
【0054】
本発明の方法[1]の工程a)で形成される水溶液中、および本発明の方法[2]の工程a)で用いられる水溶液(i)[カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する]中に含有されてよいカゼインの量は広範囲に変動し得るが;特定の実施形態によれば、前記水溶液中に含有されるカゼインの量は、0.1%ないし10%(w/v)、好ましくは0.5%ないし5%、さらに好ましくは1%ないし3%に含まれる。
【0055】
塩基性アミノ酸は、カゼインの溶解に寄与し、さらに適切な場合にはBAC、特に酸性水溶性のBACの溶解に寄与し、BACの装填された本発明のナノ粒子および装填されていないものの製造において、非常に重要な役割を果たす。事実、溶液のpHの上昇に伴って、塩基性アミノ酸は無機塩の使用を必要とすることなくカゼイン塩の溶解を可能にし、さらに陰イオン型のカゼインであるカッパ(κ)画分の親水性末端を維持するための塩基として作用することで、懸濁液中に負の表面電荷を有する粒子が維持され、静電気的な反発による凝集が起こらないと考えられる。
【0056】
両方法[本発明の方法[1]および[2]]を実施するために使用できる塩基性アミノ酸は、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群、好ましくは、アルギニン、リジン、およびそれらの混合物から選択される。本発明のナノ粒子の内側または外側にあってよい塩基性アミノ酸は、ナノ粒子の形成に先立って成分の溶解を促進し、さらにナノ粒子の両側(内側および外側)にそれらを得た後に適切なpHを維持するため、基本的な技術的役割を果たす。実例によると、葉酸は水中では溶けにくいが、わずかにアルカリ性の水溶液中では溶けやすいため、塩基性アミノ酸の存在は葉酸の溶解を補助する。
【0057】
本発明の方法[2]の特定の実施形態によれば、BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含む(BACの沈殿を防止するため)水溶液である。この場合には、2つの異なる塩基性アミノ酸を使用する可能性が意図されているが、特定の実施形態によれば、カゼイン源を含有する水溶液の調製に用いられる塩基性アミノ酸(第1の塩基性アミノ酸)、およびBACを含有する水溶液の調製に用いられるもの(第2の塩基性アミノ酸)は同一であり、アルギニン、リジン、ヒスチジンおよびそれらの混合物からなる群、好ましくは、アルギニン、リジンおよびそれらの混合物から選択される。
【0058】
本発明の方法[1]の工程a)で形成される溶液中、および本発明の方法[2]の工程a)の溶液(i)中に含有されてよい塩基性アミノ酸の量は広範囲に変動してよく、一般には用いる塩基性アミノ酸に依存する。従って、塩基性アミノ酸:カゼインの重量比は大きく変動し得るが、特定の実施形態によれば、本発明の方法[1]の工程a)で形成される溶液中、または本発明の方法[2]の溶液(i)中の塩基性アミノ酸:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:40に含まれ、さらに好ましくは、用いる塩基性アミノ酸がリジンの場合には、1:12程度であり、または用いる塩基性アミノ酸がアルギニンの場合には、1:25程度である。
【0059】
BACが酸性水溶性のBACである場合、前記BACを含有する本発明の方法[2]の工程a)の溶液(ii)は、第2の塩基性アミノ酸をさらに含むが、これは既に言及したように前記第1の塩基性アミノ酸と同じであってもまたは異なっていてもよく、この場合本発明の方法[2]における、すなわち前記方法の工程a)の溶液(i)および(ii)を混合した後の、塩基性アミノ酸:カゼインの比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:5ないし1:20に含まれ、さらに好ましくは、用いる塩基性アミノ酸がリジンの場合には、1:6程度であり、または用いる塩基性アミノ酸がアルギニンの場合には、1:9程度である。
【0060】
本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程[工程b)]を含む。何らの理論によって拘束されることを望むものではないが、二価金属(例えばカルシウム)のような前記金属は、特にBACが水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBAC、または前記金属(例えばカルシウム)と相互作用することができる水溶性のBAC、例えば葉酸、パントテン酸、またはBもしくはC群のビタミン、またはそれらの誘導体である場合に、BACの安定化を助けるブリッジを本発明の装填ナノ粒子の内側に作り出すことが可能であると考えられ;この場合、前記金属、例えば前記二価金属(例えばカルシウム)は、カゼイン(カゼイン塩の形である)とBAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBAC、または前記金属と相互作用することができる水溶性のBACとの間のブリッジとして作用し、本発明の装填ナノ粒子の疎水性画分中に前記BACが捕捉された状態にすると考えられる。
【0061】
特定の実施形態によれば、前記金属はカルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせから選択される二価金属、好ましくはカルシウムである。別の特定の実施形態によれば、前記金属は三価型の鉄のような三価金属である。
【0062】
前記本発明の方法[1]および[2]を実施するために、実際には任意のカルシウム水溶液、有利には食品用溶液[食品のマイクロカプセル化に用いられるカルシウム塩の比については、「Codex General Standard for Food Additives」GSFAオンラインを参照されたい。]が用いられてよいが、特定の実施形態によれば、前記カルシウム塩の水溶液は、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびそれらの混合物からなる群より選択され、好ましくは塩化カルシウムである。実際、炭酸カルシウムまたはアルギン酸カルシウムは、これらが水中で不溶性であるか、または極めて溶けにくい塩であるために推奨されない。同様に、前記本発明の方法[1]および[2]を実施するために、食品用マグネシウム、亜鉛、または二価型もしくは三価型の鉄の任意の水溶液が用いられてよい。
【0063】
「金属」が二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される前記金属を指す場合の金属:カゼインの重量比は広範囲に変動し得るが、特定の実施形態によれば、金属:カゼインの重量比は1:5ないし1:15、好ましくは1:7ないし1:10、さらに好ましくは1:8.5程度に含まれる。特定の実施形態によれば、前記金属は二価金属である。
【0064】
本発明の方法[2]は本発明の装填ナノ粒子を得ることを導くが、そのために工程a)は、(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)BACを含有する溶液と混合することを含む。前記BACの特性は既に言及したとおりである。特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBAC、例えば葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシンすなわちビタミンB3、パントテン酸すなわちビタミンB5、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体:葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物である。別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBAC、例えばビタミンA、D、E、Kファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(例えばカロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールまたはフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(ケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)またはそれらの誘導体である。
【0065】
本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は広範囲に変動してよく、これらに限定されない例では、本発明の装填ナノ粒子におけるBAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくはおおよそ1:15ないし1:35に含まれてよい。特定の実施形態によれば、BACは水溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(水溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:50、好ましくは1:10ないし1:30、さらに好ましくは1:15ないし1:20程度に含まれてよい。別の特定の実施形態によれば、BACは脂溶性のBACであり、本発明の装填ナノ粒子における(脂溶性の)BAC:カゼインの重量比は、1:1ないし1:200、好ましくは1:10ないし1:80、さらに好ましくは1:20ないし1:35程度に含まれてよい。
【0066】
同様に、塩基性アミノ酸:BACの重量比(本発明の方法[2]の工程a)で用いられる、酸性水溶性のBACおよび第2の塩基性アミノ酸を含有する水溶液(ii)に相当する)は広範囲に変動してよく、特定の実施形態によれば、前記溶液(ii)における塩基性アミノ酸:(酸性水溶性の)BACの重量比は1:0.1ないし1:3、好ましくは1:0.5ないし1:1に含まれ、さらに好ましくは1:0.75程度である。
【0067】
既に述べたように、本発明のナノ粒子、BACを装填しているものおよびしていないもの双方は、温度および酸化に関して安定性を高めるという目的で、それらの製剤中に酸化防止剤、例えばアスコルビン酸(ビタミンC)などを組み込んでもよい。この場合、前記酸化防止剤は、(適切な場合には)BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中にあってもよく、そのために前記本発明の方法[1]および[2]は、例えば前記BACおよび塩基性アミノ酸を含有する水溶液に酸化防止剤を添加することによって、ナノ粒子の製剤化中に酸化防止剤を組み込むため適切に調整され得る。
【0068】
特定の実施形態によれば、BACは葉酸であり、酸化防止剤は、葉酸を紫外線照射、pH変化、熱、酸素などによる分解から保護することによって作用すると考えられ、さらにアスコルビン酸による栄養補給を提供する、アスコルビン酸である。前記酸化防止剤は、BACと共にカプセル化されてもよいし、または本発明のナノ粒子のコーティング中に導入されてもよい。
【0069】
加えて、所望の場合は、本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、様々な処理を用いることによって、得られたナノ粒子を安定化させるために、1以上の付加工程を含んでもよい。
【0070】
特定の実施形態によれば、前記安定化処理は、BACを装填しているものおよびしていないもの双方として形成された本発明のナノ粒子を含有する懸濁液を、例えば100ないし800MPa、典型的には350ないし600MPaに含まれる圧力で、高圧処理に付すことを含む。特定の実施形態によれば、前記処理は、ナノ粒子の懸濁液を100MPaないし800MPa、典型的には350ないし600MPaの圧力で、3ないし5分間のサイクルに付すことを含み、実際には400MPaの圧力が良好な結果を提供する。
【0071】
別の特定の実施形態によれば、前記安定化処理は、BACを装填しているものおよびしていないもの双方として形成された本発明のナノ粒子を含有する懸濁液を、UHT(超高温)処理、例えば130℃ないし140℃に含まれる温度に2ないし5秒間付し、続いて急冷することを含む。
【0072】
同様に、所望の場合は、本発明の方法[1]および本発明の方法[2]双方は、粉末の形でBACを装填しているものおよびしていないもの双方の本発明のナノ粒子を得るために、形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥させるための乾燥工程を含み得る。前記ナノ粒子がこの形態で存在すると、それらの安定性に寄与し、そしてさらに、小麦粉、パン、菓子製品、シリアル、粉末乳のような固形食品、並びに化粧品および/または医薬品へのそれらの最終的応用に対し特に有用である。
【0073】
実際には、この乾燥工程を行うために、ナノ粒子を含有する懸濁液の乾燥に適した任意の従来の技術または方法を用いてよいが、特定の実施形態によれば、ナノ粒子を含有する懸濁液の乾燥は、スプレー乾燥によるか、または凍結乾燥によって行われる。この処理は一般に、糖類、例えばラクトース、トレハロース、マンニトール、スクロース、マルトデキストリン、グルコース、ソルビトール、マルトースなど、およびそれらの混合物のような前記ナノ粒子の適切な保護剤を、ナノ粒子の懸濁液に添加することによって行われる。前記保護剤は、乾燥過程の間に、本発明のナノ粒子を熱分解および酸化から保護する。
【0074】
カゼイン:糖類の重量比は広範囲に変動し得るが、特定の実施形態によれば、カゼイン:糖類の重量比は1:1ないし1:4に含まれ、好ましくは約1:2である。
【0075】
同様に、特定の実施形態によれば、糖類を含有する溶液は、アスコルビン酸(ビタミンC)などのような酸化防止剤をさらに含有してよく、この場合、カゼイン:糖類:酸化防止剤(例えばビタミンC)の重量比は、1:0.75〜2.5:0.01〜1.5、好ましくは1:2.0:0.10であってよい。
【0076】
本発明の方法[1]によって得られた本発明のナノ粒子、すなわち、a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;およびb)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む方法によって製造される、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0077】
同様に、本発明の方法[2]によって得られた本発明の装填ナノ粒子、すなわち、a)(i)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)BACを含有する溶液と混合する工程;およびb)工程a)で得られた溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含む方法によって製造される、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびにBACを含むナノ粒子は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0078】
応用
本発明のナノ粒子は、技術的助剤、例えば脂代用物などとして用いることができる。これらは、BAC、例えば水溶性のBACまたは脂溶性のBACをカプセル化する能力も有する。
【0079】
特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、BAC、好ましくは水溶性のBAC、さらに好ましくは酸性水溶性のBACのカプセル化を可能にし、さらにその調製において、そして最終産物(ナノ粒子)中に、天然ポリマーではないもの(合成ポリマーに関連する毒性を防止する)、食品用でもないもの、その他の成分は使用せずに、医薬品、化粧品、および食品組成物との組み合わせも可能にする。前記ナノ粒子は、外部因子(光、pH変化、酸化など)による分解からBACを保護する。
【0080】
有利なことに、本発明のナノ粒子は、官能特性(舌の上の食感)の変化を防ぐため、1μm未満、好ましくは50ないし200nmに含まれ、さらに好ましくは約140nmの平均径を有する。
【0081】
同様に、本発明のナノ粒子は、胃の消化性酸性状態から前記BACを保護しながら、腸におけるBACのバイオアベイラビリティを改善し、腸におけるそれらの溶解および放出を促進する。
【0082】
本発明のナノ粒子は、溶解時にBACを分解から保護する水性溶媒に再懸濁できる。これらはさらに、BACを安定な状態に保ち、その長期間の保管を可能にする(特に、固形食品の調製におけるその組み込みに対して)、乾燥粉末の形態で存在できる。
【0083】
加えて、本発明のナノ粒子は、局所使用の化粧品および医薬組成物の調製にも適している。
【0084】
従って、別の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの本発明のナノ粒子を含む組成物(以下「本発明の組成物」という。)に関し;特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含むナノ粒子であり;別の特定の実施形態によれば、本発明のナノ粒子は、本発明の装填ナノ粒子、すなわちカゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに栄養性があり、治療的および/または美容的作用を有するBAC、さらに医薬的もしくは美容的に許容される担体または食品に適した担体を含むナノ粒子である。
【0085】
特定の実施形態によれば、前記BACは、アミノ酸、抗菌剤、着香剤、防腐剤、甘味料、ステロイド、薬物、ホルモン、脂質、ペプチド、ポリヌクレオチド、多糖類、タンパク質、プロテオグリカン、香味料、ビタミン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0086】
特定の実施形態によれば、前記BACは水溶性のBAC、好ましくは酸性水溶性のBACである。水溶性のBACの、これらに限定されない例には、ビタミン、例えばBまたはCファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、塩またはエステル;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、チオクト酸、それらの塩またはエステルなどが含まれる。特定の実施形態によれば、前記水溶性のBACは、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸(葉酸誘導体、すなわち葉酸結合型のポリグルタミン酸塩;ポリグルタミン酸結合型の葉酸塩)、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0087】
別の特定の実施形態によれば、前記BACは脂溶性のBACである。脂溶性のBACの、これらに限定されない例には、例えばA、D、E、Kファミリーのビタミンおよびそれらの誘導体、リン脂質、カロテノイド(カロチン、リコピン、ルテイン、カプサイシン、ゼアキサンチンなど)、オメガ−3脂肪酸(例えばDHA、EPAなど)、アミノ酸(例えばイソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、およびバリン)、フィトスタノールおよびフィトステロール(例えばシトステロール、カンペステロール、スチグマステロールなど)、ポリフェノール(例えばケルセチン、ルチン、レスベラトロール、ケンフェロール、ミリセチン、イソラムネチンなど)、およびそれらの誘導体が含まれる。
【0088】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、局所経路によるその投与に適した医薬組成物であり、そのために前記組成物は、局所経路による投与に適した1つ以上の賦形剤を含む医薬的に許容される担体を、例えばゲル、軟膏、クリームなどの形態で含む。局所経路による投与を意図した医薬組成物の製剤化に適した賦形剤についての、および前記医薬組成物の製造についての情報は、C.Fauli i Trillo,10th Edition,1993,Luzan 5,S.A.de Edicionesによる、書籍「Tratado de Farmacia Galenica」に見出すことができる。投与される本発明のナノ粒子の用量は広範囲に変動する可能性があり、例えば、本発明のナノ粒子の0.1%ないし30%、好ましくは0.5%ないし5%を含有する本発明の組成物の約0.5(g/cm2処置される領域)ないし約2(g/cm2処置される領域)である。
【0089】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は局所経路による投与に適した化粧品組成物であり、そのために前記組成物は、局所経路による投与に適した1つ以上の賦形剤を含む美容的に許容される担体を、例えばゲル、クリーム、シャンプー、ローションなどの形態で含む。局所経路による投与を意図した化粧品組成物の製剤化に適した賦形剤についての、および前記医薬組成物の製造についての情報は、Octavio Diez Sales,1st Edition,1998,Editorial Videocinco,S.A.による、書籍「Manual de Cosmetologia」に見出すことができる。
【0090】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、固体、液体、または半固体の食品調製物のような食品組成物である。
【0091】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は:
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;および
30重量%ないし80重量%の糖類を含み、
ここで、全ての比率は、組成物の総重量に対する重量による。
【0092】
別の特定の実施形態によれば、本発明の組成物は:
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;
20重量%ないし55重量%の糖類;および
1重量%ないし25重量%のアスコルビン酸を含み、
ここで、全ての比率は、組成物の総重量に対する重量による。
【0093】
また、本発明の組成物は食料品に組み込むことができ、それゆえ別の態様によれば、本発明は、本発明の組成物を含む食料品に関する。前記食料品は、液体、半固体、または固体の形態において見出される。有利なことに、本発明のナノ粒子の全体的または部分的な溶解を防止または最小化するために、そしてそれゆえそれらの安定性に寄与するために、前記食料品は、酸性pH、すなわち7未満、好ましくは6以下、さらに好ましくは5以下を有する。本発明の組成物で補強または強化され得る食料品の例には、乳およびその誘導体(ヨーグルト、チーズ、カードなど)、ジュース、ジャム、パンおよび菓子製品、発酵肉、ソースなどが含まれる。同様に、本発明の組成物は、動物用の食品、例えば飼料中に組み込まれてもよい。
【実施例】
【0094】
以下の実施例は、それらの内部に生物活性化合物、特に葉酸を組み込むことが可能なカゼイン粒子の製造を説明する。これらは、既に述べた複数の因子が原因で食品中で起こり得る分解から、当該化合物を保護する。これら例は、葉酸を、その摂取の後、胃における状態から保護し、そして葉酸を腸液中に放出する、これらナノ粒子の能力をも示す。
【0095】
空のカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
カゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウム(ANVISA、マドリッド、スペイン)を規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーによる連続流の下に、規定量のカルシウム溶液を添加して、乳白色の懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることを含む。
【0096】
ナノ粒子の物理化学的性質の決定
ナノ粒子の物理化学的性質の完全な決定を達成するために必要な様々な試験について以下に記載する。
【0097】
ナノ粒子の径および表面電荷は物理化学的試験から決定し、後者はゼータ電位の測定を通して決定した。第1のパラメータはZetasizer nano Z−S(Malvern Instruments/Optilas、スペイン)を用いて光子相関分光法によって得て、一方、ゼータ電位はZeta Potential Analyzer(Brookhaven Instruments Corporation、ニューヨーク、米国)を用いて測定した。
【0098】
ナノ粒子を形成する方法の収率は、製剤を遠心分離(17,000×g、20分)して得た上清から回収したナノ粒子を得た後に残った遊離カゼインの定量化を通して算出した。従って、製剤中で粒子を形成するカゼインの量は、最初に添加した量と、精製工程の間に回収した上清中に定量された量との間の差異として概算した。前記定量化は、282nmにおける紫外(UV)分光法(Agilent 8453、UV−可視分光光度システム)によって行った。収率は下記のとおり概算した:
収率(%)=[(総カゼイン塩のmg−上清中のカゼイン塩のmg)/総カゼイン塩のmg]×100[方程式1]
【0099】
様々な計算を行うため、150ないし1,500μg/mLの検量曲線(R2=0.9992;LD=36μg/mL;LQ=119μg/mL)を用いた。
【0100】
加えて、総カゼイン塩と上清中に含有されるカゼイン塩との間の差異によって得られた結果を確認するために、遠心分離後に得られたペレットを定量する試験を行った。この場合、粒子の破壊のために、0.05M NaOHを用い、これは検量曲線の用意に用いた媒体と同じであった。従って、この場合に収率は、下記のとおり概算した:
収率(%)=[(ペレット中のカゼイン塩のmg)/総カゼイン塩のmg]×100[方程式2]
【0101】
前記媒体中で調製したカゼイン塩として見られた最大吸光度は300nmであった。検量線作成のために用いた濃度もまた、150ないし1,500μg/mLの範囲であった(R2=0.9996;LD=26μg/mL;LQ=85μg/mL)。
【0102】
ナノ粒子の形態は、走査型電子顕微鏡(Zeiss、DSM 940A、独国)によって観察した。そのために、凍結乾燥ナノ粒子を9nmの金分子層(Emitech K550 Team、Sputter−Coater、英国)によってコーティングし、Zeiss DMS 940A顕微鏡(米国)によって写真撮影した。
【0103】
葉酸を含有するカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
葉酸を含有するカゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウムを規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーの下に、水性溶媒中に予め調製した規定量の葉酸溶液を規定量の塩基性アミノ酸と共に添加することを含む。混合液を数分間インキュベートした後、最終工程は、カルシウム塩を添加して、乳白色−黄色がかった懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることからなる。
【0104】
場合により、形成されたナノ粒子は、それらを安定化させるため、100ないし800MPa下で1ないし5分間のサイクルで高圧静水圧処理(Stansted Fluid Power、ISOLABモデルFPG11500B110;シリーズ番号:7844)に付してよい。
【0105】
続いて、撹拌による3分間の均質化の後、撹拌を停止することなく、規定量の糖類溶液(ラクトース、トレハロース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルトデキストリン、またはマルトース)を添加する。最終的に、懸濁液は凍結乾燥するか、またはスプレー乾燥機(Buchi Mini Spray Drier B−191、Buchi Labortechnik AG、スイス)内で以下の条件においてスプレーする:
−空気注入口温度:60〜100℃
−空気排出口温度:30〜90℃
−空気圧:2〜10bars[2〜10×105Pa]
−サンプルポンプ流量:2〜9mL/分
−吸引:30〜100%
−空気流:200〜900L/h。
【0106】
場合により、製剤は糖類を添加した後、スプレー乾燥の代わりに凍結乾燥によって乾燥させることができる。
【0107】
カゼイン粒子に結合する葉酸量の決定
ナノ粒子に結合する葉酸の量を、Faye[Faye Russell,L.,Quantitative Determination of Water−Soluble Vitamins.In Food Analysis by HPLC,Nollet,L.M.L.(Ed.),Marcel Dekker,Inc.,New York,Second Edition,Chapter 10(2000)pp.444−445]によって記載された方法に従って、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。分析は、ダイオードアレイUV検出システムと組み合わせた、モデル1100 LCシリーズクロマトグラフ(Agilent、ワルドブロン、独国)において行った。データは、Hewlett−Packardコンピュータにおいて、Chem−Station G2171ソフトウェアにより分析した。葉酸の分離のため、40℃に加熱したAlltech C18 Alltima(商標)カラム(5μm、150mm×2.1mm)を、適合するGemini(登録商標)C18 AJO−7596カラムと共に用いた。移動相は、リン酸(33mM、pH2.3)/アセトニトリル混合液から勾配(第1表)をつけて作られ、0.25mL/分の流速でポンプ注入した。検出は290nmで行った。サンプル注入量は10μLであった。葉酸の保持時間は22.6±0.5分である。
【0108】
【表2】
【0109】
サンプルの定量化の前に、溶液中のカゼインおよび/またはアミノ酸の存在が葉酸の正しい定量化を妨げ得ないことが確認され、95%超の正確かつ的確な結果が得られる、2ないし400μg/mLの濃度の異なる検量線を準備した。
【0110】
製造直後のサンプルの分析のため(それらの乾燥前)、製剤の規定量を濾過した後に得られた上清を、Vivaspin(登録商標)300,000 MWCO透析チューブ(VIVASPIN 2、Sartorius stedim Biotech、独国)を通して定量した。次に、ペレットを0.05M NaOHに溶解して粒子を破壊し、そして溶液中のカゼインおよび葉酸およびアミノ酸を維持し、そしてその結果それらの定量化を進めた。両画分(上清およびペレット)に見出された葉酸含有量の和は、最初に添加した総量と常に一致した。さらに、1mLの製剤を1mLの0.05M NaOHに溶解することによって、葉酸の総量を定量することも可能であった。この試験により、添加した葉酸の量と、記載したクロマトグラフィー法を通した定量化によって得られた葉酸の量との間の差異が、全ての試験例で10%を超えることが確認された。
【0111】
加えて、粉末サンプルの定量化のために10mgのナノ粒子を用い、これらを2mLの水に再懸濁し、遠心分離して、その後製造直後のサンプルと同様の方法によって進めた。
【0112】
模擬胃腸液中のナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態試験
ナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態は、その約10mgを、2mLの模擬胃液中に37±1℃で分散させることによって決定した(0ないし2時間)(USP XXIII)。規定時間に、ナノ粒子懸濁液を遠心分離して(17,000×g、20分)、上清中の葉酸の量を前述のHPLC法によって定量した。胃液から上清を除いた後、37±1℃で模擬腸液を加え(2ないし24時間)(USP XXIII)、その後上記の試験例と同じ方法によって進めた。
【0113】
各試験で用いた製剤中に存在するビタミンの総含有量を考慮して、全時間に放出された葉酸のパーセンテージを算出した。
【0114】
薬物動態試験。カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸のバイオアベイラビリティ
薬物動態試験は、施設内の治験倫理委員会の規則および実験動物に関する欧州の法律(86/609/EU)に従って行った。そのために、平均体重25gの雄ウィスターラット25匹を通常の明−暗(12時間−12時間)状態に付し、試験前の一週間に、要求に応じて葉酸欠乏性の飼料(Folic Acid Deficient Diet.TD.95247.Harlan、米国)および水を摂取させた。製剤投与の12時間前に、ラットを、飼料は摂取できないが水は自由に摂取できるメタボリックケージへ隔離した。
【0115】
動物を5つの処置群(1群あたり5匹のラット)に分けた。第1群には1mLのPBS(リン酸緩衝液、pH7.4)のみを経口投与した。続く3群は、以下の製剤:(i)遊離葉酸(カプセル化されていない)(Aditio、Panreac Quimica、バルセロナ、スペイン)、(ii)葉酸をカプセル化しているカゼインナノ粒子、(iii)高圧処理により、葉酸をカプセル化しているカゼインナノ粒子のいずれかに組み込まれた葉酸の1mg/kg(200μg/ラット)のみの経口用量で処置した。水中に分散した異なる製剤の各1mLを、胃−食道カニューレを通して投与した。最後に、生理食塩水血清(0.5mL)に溶解した同用量の遊離葉酸(1mg/kg)を、第5群の伏在静内へ静脈内経路により投与した。
【0116】
製剤の投与に先立ち、各ラットの基本的なビタミン濃度を調べるため、尾の伏在静脈から血液を採取した。投与後、血清分離管(SARSTEDT Microtube 1.1mL Z−Gel)を用いて、異なる時間に約500μL量の血液を採取した。全ての試験例で、ラットが疼痛を感じることを防止するため、吸入麻酔(イソフルラン:酸素)を用いて動物を眠らせた後に血液を採取し、常時これらの定数を調べた。
【0117】
続いて、血液量を、予め動物の体温に温めた500μLの生理食塩水血清を腹腔内投与することによって置換した。この間に動物の状態を試験したが(移動性、積極性、アレルギー性反応、及び体温)、有意な変化は観察されなかった。
【0118】
血清サンプルの葉酸の前処置および定量
血液を入れたチューブを遠心分離(6,000rpm、20分、20℃)した後に得られた血清サンプル中の葉酸の定量化を、酵素免疫アッセイ法によって行った。そのために、食品中の葉酸の定量のためにFDAによって承認されたElisaキット(Diagnostic automation,INC.カラバサス、カリフォルニア州、米国)を用いた。血清サンプルは、前処理なしで製造業者の説明書に従って定量した。
【0119】
該キットは食品における使用のために設計されているため、一連の予備試験を、血清サンプル中のビタミンを定量するその能力を確認するために行った。前記試験は、以下の前準備過程:1%(w/v)アスコルビン酸ナトリウム中に調製した50mMの四ホウ酸ナトリウム溶液中に溶解した葉酸の可変量(0〜300μL)を50μLの血清に添加する過程によって、該キットを用いて得られた結果と、前項に記載した高速液体クロマトグラフィー法によって得られた結果との徹底的な比較を行うことからなる。得られた溶液を、50mMの四ホウ酸ナトリウム溶液で最終量350μL(血清希釈1:7)とした。各混合液を30分間煮沸し、続いて2℃に冷却して、前記温度で一晩保持した。
【0120】
得られたサンプルを20,000rpmで、20分間遠心分離し、次に20μmのフィルターを通して濾過した後、既に記載した高速液体クロマトグラフィー法を用いることによってそれらの葉酸含有量を定量した。この場合、血清のビタミン濃度が低いため、定量化における誤差を最小限に抑えるため、かついかなるマトリックスによる干渉を除くため、標準添加法を用いた。
【0121】
試験を行った全ての例において、両方法による血清葉酸濃度の差異は10%未満であった。従って、分析に必要とされる血清量が少なく、そしてより簡便で迅速な方法であり、その検出限界(2ng/mL)はクロマトグラフィー技術のそれよりもかなり低いため、サンプル全体の定量のために、酵素免疫アッセイ法が選択された。
【0122】
脂溶性活性物質:ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子を製造するための一般的方法
ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子を製造する方法は、水性溶媒中にカゼインナトリウムを規定量の塩基性アミノ酸と共に溶解し、続いてマグネチックスターラーの下に、水性溶媒中に規定量のアスコルビン酸溶液、そして続いて予めエタノールに溶解したケルセチンを添加することを含む。混合液を数分間インキュベートした後、最終工程は、カルシウム塩を添加し、乳白色−黄色がかった懸濁液の見掛けを有するナノ粒子を形成させることからなる。
【0123】
場合により、形成されたナノ粒子は、それらを安定化させるため、100ないし800MPa下で1ないし5分間のサイクルで高圧静水圧処理(Stansted Fluid Power、ISOLABモデルFPG11500B110;シリーズ番号:7844)に付してよい。
【0124】
続いて、撹拌による3分間の均質化の後、撹拌を停止することなく、規定量の糖類溶液(ラクトース、トレハロース、マンニトール、グルコース、ソルビトール、マルトデキストリン、またはマルトース)を添加する。最終的に、懸濁液は凍結乾燥するか、またはスプレー乾燥機(Buchi Mini Spray Drier B−191、Buchi Labortechnik AG、スイス)内で以下の条件においてスプレーする:
−空気注入口温度:60〜100℃
−空気排出口温度:30〜90℃
−空気圧:2〜10bars[2〜10×105Pa]
−サンプルポンプ流量:2〜9mL/分
−吸引:30〜100%
−空気流:200〜900L/h。
【0125】
場合により、糖類を添加した後、製剤はスプレー乾燥の代わりに凍結乾燥によって乾燥させることができる。
【0126】
カゼイン粒子に結合するケルセチン量の決定
ナノ粒子に結合するケルセチンの量を、Lacopini(Lacopini et al.,J Food Comp Anal 2008;21:589−598)によって記載された方法に幾つかの変更を加え、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により定量した。分析は、ダイオードアレイUV検出システムと組み合わせた、モデル1100 LCシリーズクロマトグラフ(Agilent、ワルドブロン、独国)において行った。データは、Hewlett−Packardコンピュータにおいて、Chem−Station G2171ソフトウェアにより分析した。葉酸の分離のため、40℃に加熱したAlltech C18 Alltima(商標)カラム(5μm、150mm×2.1mm)を、適合するGemini(登録商標)C18 AJO−7596カラムと共に用い、勾配(第2表を参照)を有する水/メタノール/氷酢酸混合液を移動相として、0.25mL/分の流速でポンプ注入した。検出は260nmで行い、サンプル注入量は10μLで、ケルセチンの保持時間は24.2±0.2分であった。
【0127】
【表3】
【0128】
サンプルの定量化の前に、95%超の正確かつ的確な結果が得られる、含水アルコール溶媒(75%エタノール)中の1ないし100μg/mLの濃度の異なる検量線を準備した。
【0129】
製造直後のサンプルの分析のため(それらの乾燥前)、濾過(17000rpm、20分)によりナノ粒子の精製過程後に得られた上清を、50%(w/v)エタノール含有量の含水アルコール溶液が得られるまで希釈した。
【0130】
最後に、ナノ粒子に結合したケルセチン量[カプセル化効率(E.E.)]を、最初に添加したケルセチン量(Q)と上清中に定量されたケルセチン量との間の差異として、以下の方程式に従って算出した。
【数1】
【0131】
実施例1
空のカゼインナノ粒子の調製および性質決定、それらを得るための方法の収率、用いるアミノ酸の型の、ナノ粒子の安定性および物理化学的特性に対する影響
1gのカゼインナトリウムを、90mgのリジンと共に75mLの水に溶解した。続いて、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この溶液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は3回行った。
【0132】
図2(AおよびB)に、透過型電子顕微鏡によって得た、この方法によって得られたカゼイン粒子の写真を示す。
【0133】
加えて、粒子の物理化学的特性に対するアミノ酸の型の影響を理解するために、同試験をアミノ酸の非存在下で、またはリジンの代わりに50mgのアルギニンを用いて行った。
【0134】
第3表に、得られたナノ粒子の主な物理化学的パラメータを要約する。
【0135】
【表4】
【0136】
実施した統計学的試験(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、製剤の物理化学的パラメータの間に差異があるということが認められる、統計学的に有意な証拠は存在しないことが示された。従って、アミノ酸の型は空のナノ粒子の前記特性に干渉しないと結論することができる。
【0137】
製剤に加えるアミノ酸の比を変化させて同じ試験を行っても、同様の結論、すなわちアミノ酸の比および型は空のナノ粒子の最終的な特性に干渉しないという結論に達した。
【0138】
製剤の安定性について理解するため、3つの型のナノ粒子の物理化学的パラメータを長時間に亘って測定した。得られた結果を第4表に収載する。
【0139】
【表5】
【0140】
それらを得た時点で、3つの型のナノ粒子は同一オーダーの径および比較的低い多分散度を有していた(PDI値が0.3未満で、粒径分布が均一であることから考えられる)。これらの径および分散値は、アミノ酸と共に製剤化したナノ粒子の例における試験の全体を通して有意な変動を示さない。しかしながら、それらを得てから2時間後、アミノ酸と共に製剤化しなかったナノ粒子は、それらの平均径およびそれらの多分散度の双方が著しく増加し(0.3を超える多分散値に対しては粒径値は表現されず、直径における不均一性が大きいという指針のみである)、試験後には非常に高い多分散値に達した。前記増加は、粒子間の凝集現象の存在を示している。3つの製剤を経時的に観察したとき、アミノ酸なしのナノ粒子の沈殿物が乳白色の層を生じるのに対し、アミノ酸と共に製剤化したナノ粒子は均質な懸濁液を形成することが確認されたため、これらの現象は巨視的規模においてさえも確認された。これらの結果に鑑みると、経時的に安定な粒子を得るためにアミノ酸の存在は必須であると考えられる。
【0141】
加えて、再び3つの型の製剤を調製し、スプレー乾燥技術により乾燥させた後、それらの物理化学的特性について試験した。該方法の条件は下記の通りであった:
−空気注入口温度:90℃
−空気排出口温度:49℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:100%
−空気流:600L/h。
【0142】
この試験は、ナノ粒子を得た時点でそれらを乾燥させたときのアミノ酸の影響を理解する目的で行ったが、その理由は、その時にいずれの製剤も凝集現象を示さなかったためである。得られた結果を第5表に収載する。
【0143】
【表6】
【0144】
粉末状に乾燥させたアミノ酸を有するナノ粒子を水性溶媒に再懸濁させることにより、径分布は単分散のままであり、それらの径は、スプレー乾燥による乾燥前のそれらの同族体の径よりもわずかに大きいことが観察された。しかしながら、アミノ酸なしで製剤化されたナノ粒子は、より大きな径と多分散値を有しており、このことは乾燥中に凝集現象を受けた可能性を示す。従って、アミノ酸の存在は、粒子をスプレー乾燥によって乾燥させるときにも必要である。
【0145】
このことに鑑みると、アミノ酸を有するナノ粒子の物理化学的特性は、アミノ酸を有さないナノ粒子のそれとは異なっており;それらは凝集傾向が少ないことから、生物活性化合物をカプセル化するために選択される製剤であると結論付けられる。
【0146】
実施例2
葉酸を含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、カプセル化効率に対するリジンおよび葉酸含有量の影響
全てが最終量7.5mLの水に100mgのカゼインナトリウムおよび可変量のリジン(0〜8.5mg)を含有する異なる溶液を調製した。
【0147】
加えて、50mLの水に、300mgの葉酸を400mgのリジンと共に溶解した。
【0148】
続いて、カゼイン塩溶液に1mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に4mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は、それぞれの型の製剤について3回に行った。
【0149】
図3に、透過型電子顕微鏡によって得た、この方法によって得られた葉酸をカプセル化したカゼイン粒子の画像を示す。
【0150】
各例において得られた物理化学的特性を第6表に収載する。
【0151】
【表7】
【0152】
実施した統計学的検定(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、表に収載されている最後の3つの製剤(リジン含有量が3.9、4.5、および8.5mgである)の物理化学的特性に差異があると考えられる、統計学的に有意な証拠は存在しないことが示された。第1の例では、葉酸溶液はリジンを含んでいるが、最初のカゼイン塩溶液中にアミノ酸が存在しないために葉酸がカルシウムと共に部分的に沈殿しやすくなり、遠心分離後のペレット中の葉酸の全てがカプセル化されたものではないことから、ビタミンの定量化における誤差の原因となることが確認された。
【0153】
さらなる試験により、ビタミン溶液がアミノ酸を含有するが、カゼイン塩溶液がアミノ酸を含有しない場合、沈殿することなく製剤中に組み込むことのできる葉酸の最大量は4mgであることが確認され、得られた結果は第6表のものと同様であった(25.5±1μgFA/mgNP、およびカプセル化効率:68.7±0.5)。従って、アミノ酸の存在はカプセル化されるビタミンの量には影響しないことが確認された。しかしながら、アミノ酸なしで製剤化されたナノ粒子の安定性は低く、さらに凝集傾向が高いため(実施例1を参照)、製剤化はこのようなアミノ酸の存在下で行った。
【0154】
粒子の物理化学的特性に対する、製剤に添加した葉酸量の影響を理解するために、全ての例において、最初のカゼイン溶液中のアミノ酸量を一定:8.5mgとし、添加する葉酸溶液の量のみを変化させることによって同様の試験を行った。
【0155】
図4に、カプセル化された葉酸量と製剤に添加したビタミン量との間の比を関数として示す。
【0156】
試験を行った製剤に見られた径は132ないし140nmの範囲であり、全ての例で多分散度は0.2未満であった。この例では、各製剤に添加した葉酸量が異なるため、カプセル化効率値は同等ではない。重量比13.5:1のカゼイン:葉酸に対する最大値は73.1±7.5であった。
【0157】
この試験の結果として、製剤中のカゼインのmg/FAのmgの比が減少するため(すなわち、製剤に最初に添加した葉酸量が増加するため)、ナノ粒子内部でカプセル化された葉酸量の増加が得られると結論することができる。しかしながら、製剤中に存在するカゼイン量(mgで)が、葉酸の各mgに対して経験値よりも少ない場合には、リジンの非存在下で起こるような沈殿および不安定な製剤が観察される。
【0158】
実施例3
スプレー乾燥によって乾燥させた、葉酸を含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、最終製剤に対する乾燥過程の影響
最終量75mLの水に、双方とも1,000mgのカゼインナトリウムおよび90mgのリジンを含有する、2つの溶液を調製した。
【0159】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0160】
続いて、各カゼイン塩溶液に7.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0161】
最後に、製剤の1つを、上清およびペレット中の葉酸の定量化のために遠心分離を行い、一方もう1つには、スプレー乾燥機を用いた乾燥の前に1,900mgのラクトースを加えた。該方法の条件は下記の通りであった:
−空気注入口温度:90℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0162】
双方の例において観察された物理化学的特性を第7表に収載する。
【0163】
【表8】
【0164】
実施した統計学的検定(ノンパラメトリック独立標本検定:クラスカル・ウォリス)により、両製剤に対して得られたカプセル化効率の間には統計学的に有意な差異(p<0.05)が存在することが示された。この差異は、既にカプセル化された葉酸の一部を放出させる、カゼインナノ粒子の部分的な分解の原因となる、意図した温度でのスプレー乾燥による製剤の乾燥過程に起因する可能性がある。
【0165】
これらの結果は、方法を粒子の架橋に応用する必要を示しており、そうすることによって粒子の安定性を改善することができ、そして製剤を遠心分離または乾燥させる過程における前述のカプセル化効率の低下を防止することができる。
【0166】
実施例4
高圧で安定化させ、スプレー乾燥技術によって乾燥させた、葉酸を含有し、リジンを有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、ナノ粒子の物理化学的特性に対する処理の影響
全てが最終量75mLの水に1,000mgのカゼインナトリウムおよび90mgのリジンを含有する、異なる溶液を調製した。
【0167】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0168】
続いて、カゼイン塩溶液に7.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラによる連続流の下に、この混合液に40mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0169】
粒子が一旦形成されたら、製剤を密閉したプラスチックバッグへ移し、高圧静水圧処理に付した(0MPa;100MPa、5分;200MPa、5分;400MPa、5分;600MPa、5分、または800MPa、5分)。
【0170】
過程が一旦終了したら、水に溶解した1,900mgのラクトースを各製剤に加え、以下の条件下でスプレー乾燥技術を用いてそれらを乾燥させた:
−空気注入口温度:85℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0171】
第8表に、得られたナノ粒子の主な物理化学的特性を要約する。
【0172】
【表9】
【0173】
第8表に見られるように、製剤に適用される処理の型にかかわらず、ナノ粒子は同様の表面電荷を有している。しかしながら、データは、処理に適用する圧力が増加するにつれて、得られる粒径がより小さくなり、最大7%までの減少に達することを検出した。しかしながら、適用する圧力が高くなるにつれて、カプセル化されたビタミンの量(そしてその結果としてのカプセル化効率)の値はより大きくなり、処理なしの製剤に対して65%増加した(800MPaで処理したサンプルの場合)。
【0174】
加えて、図5は、高圧処理なし、ならびに100、400、および800MPaで処理した製剤の、走査型電子顕微鏡によって得られた顕微鏡写真を示す。これらは、高圧静水圧処理なしのナノ粒子が、それらが得られた後に付される様々な過程(スプレー乾燥による乾燥、遠心分離、高温に達する過程での顕微鏡観察)によってどのように部分的に変化するかを確認したことを示すが、様々な高圧処理に供されたナノ粒子の方がより安定であった。
【0175】
これらの結果は、適用した高圧静水処理はナノ粒子を架橋し、それらをより安定させ、遠心分離、乾燥、および写真撮影後にそれらが分解するのを防止することを示す。乾燥または遠心分離を行うこれらの過程の幾つかにおけるナノ粒子の部分的な分解は、葉酸の放出を伴い、その結果得られるカプセル化効率をより低下させる可能性があるため、これは全て、処理されたサンプルにおいてより高いカプセル化効率が得られることを説明している。
【0176】
実施例5
高圧を用い、スプレー乾燥によって乾燥させた、葉酸を含有し、アルギニンを有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定、最終結果において用いたアミノ酸の影響
最終量210mLの、3,065mgのカゼインナトリウムおよび123mgのアルギニンの水溶液を調製した。
【0177】
加えて、100mLの水に、605mgの葉酸を800mgのアルギニンと共に溶解した。
【0178】
続いて、カゼイン塩溶液に27mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に120mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0179】
粒子が一旦形成されたら、製剤を密閉したプラスチックバッグへ移し、400MPaで5分のサイクルからなる高圧静水圧処理に付した。
【0180】
過程が一旦終了したら、水に溶解した5,880mgのマンニトールを高圧処理された300mLの製剤に加え、以下の条件下でスプレー乾燥技術を用いてその乾燥を行った:
−空気注入口温度:85℃
−空気排出口温度:45℃
−空気圧:6bar[6×105Pa]
−サンプルポンプ流量:4.5mL/分
−吸引:95%
−空気流:600L/h。
【0181】
得られた製剤の主な物理化学的特性を第9表に要約する。
【0182】
【表10】
【0183】
図6は、400MPa、5分間の処理で製剤中に葉酸をアルギニンと共に含有するカゼインナノ粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
【0184】
観察されるように、得られた製剤は、アルギニンの代わりにリジンを用いて得たナノ粒子と同様の特性を有している。
【0185】
実施例6
模擬胃腸液中でのナノ粒子からの葉酸の放出に対する放出動態試験、放出動態における高圧処理の影響
放出試験を行うために、実施例4に記載した粉末製剤(高圧処理なし、100MPaおよび400MPaで処理)を用いた。
【0186】
図7は、高圧処理なしのサンプルの例に対して得られた放出動態を示す。これにおいて、胃液中での2時間のインキュベーション後に、最大の葉酸放出値である4%に達したことが観察される。しかしながら、腸の状態では、カゼイン粒子は増大したパーセンテージのビタミンを放出して(試験24時間目で90%に達する)、溶解した。さらに、この媒体中では、インキュベーション後に遠心分離したサンプルには、それらの溶解、そしてそれゆえのビタミンの放出の証拠となるカゼインペレットがほとんど存在しなかった。従って、設計された製剤は、胃の管の至る所で葉酸をカプセル化し、胃の状態がバイオアベイラビリティを減少させるのを防止すると考えられる。さらに、ナノ粒子が腸内で溶解することで、ビタミンの放出を助け、ナノ粒子の存在によって起こり得る任意の毒性問題を排除する。
【0187】
高圧処理したサンプルの場合について、図8(AおよびB)にそれらの放出動態を示す。それらにおいては、高圧処理なしのサンプルに見出されるものと非常に類似したプロファイルが見られ、模擬腸液中での6時間後の最大放出パーセンテージ(70%)は、同今回の処理なしのサンプルに見出されるもの(80%)よりもわずかに低い。
【0188】
従って、カゼインナノ粒子の架橋のためにそれらへ高静水圧を適用することによって、それらからの成分放出のプロファイルは有意に変化しないが、放出されたビタミンの総量は6時間後に10%低下する。
【0189】
実施例7
カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸の薬物動態学的試験
第10表に、薬物動態学的試験において試験したナノ粒子の主な物理化学的特性を要約する。実施例5に記載した方法に従って、双方の型のナノ粒子(高圧処理あり及びなし)を得た。
【0190】
【表11】
【0191】
薬物動態学的試験を3段階に分けた。第1段階は、リン酸緩衝液に溶解した1mg/kgの葉酸を静脈内投与することからなり;第2段階は、5匹の雄ウィスターラット群(このラット群では、経時的な基礎ビタミン濃度について試験した)のラットに1mLのリン酸緩衝液を経口投与することからなる。最後に、第3段階は、1mg/kgの(i)水に溶解した葉酸、(ii)カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸、および(iii)高圧処理した、カゼインナノ粒子内にカプセル化された葉酸を、5匹の動物から構成されるラット群へ経口投与することからなる。
【0192】
投与後、約500μL量の血液を異なる時間に採取して(0、1、2、3、8、および24時間)、血清分離管に回収し、続いて動物の血液量を同等の生理食塩水血清で腹腔内経路によって戻した。葉酸の投与後に得られたデータの薬物動態学的分析を、WiNNonlin 1.5薬物動態調整プログラム(Pharsight Corporation、マウンテンビュー、米国)の、ノンコンパートメント調整の方法を用いて行った。
【0193】
得られた結果(基礎濃度を差し引いた後)を図9に収載する。観察されるように、葉酸の静脈内投与(図9A)は、最初のサンプル摂取による血清薬物濃度のピークに続いて、血清薬物濃度の大幅な減少を示している。ビタミンを経口投与した際に得られるプロファイル(図9B)は、最大濃度が有意に低いために異なっており、これはより長時間現れ、よりゆっくりと減少する。しかしながら、遊離型(カプセル化されていない)またはカゼインナノ粒子内にカプセル化された(高圧処理あり又はなし)葉酸の経口投与後に見られるビタミン濃度を比較すると、濃度プロファイルは同様の時間において見られたが、最大値はカプセル化されたビタミンを投与した時の方がより大きかった。
【0194】
本試験の実験データのノンコンパートメント解析を行った後に得られた薬物動態学的なパラメータの値を第11表に収載する。
【0195】
【表12】
【0196】
観察されるように、用いた製剤の型に依存してAUC値は有意に変動する。ビタミンがカゼインナノ粒子内にカプセル化されている場合、AUC値は遊離型の葉酸を投与した後のものよりも有意に高く、これらはさらに投与後24時間までにわたって維持される。2つのナノ粒子製剤において血漿中の葉酸の平均滞留時間(MRT)は同様であり、遊離型と比較した場合にはそれよりも長いことが観察された(経口および静脈内)。
【0197】
これらの結果により、葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子の経口によるバイオアベイラビリティは双方の製剤で52%であり、経口経路による遊離葉酸の経口投与後に得られた値よりも45%高いと計算された。
【0198】
実施例8
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[1]
最終量15mLの水に、200mgのカゼインナトリウムおよび18mgのリジンを含有する溶液を調製した。
【0199】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0200】
続いて、カゼイン塩溶液に1.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に8mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0201】
最後に、製剤を17,000×gで、20分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを25mLの水に再懸濁した。
【0202】
加えて、42mLの水に、7gのグリセリンおよび0.2gのニパギンナトリウムを含有する溶液を調製した。該溶液を水浴中で50℃まで加熱し、続いて葉酸を含有するカゼインナノ粒子の水溶液を加えて、それにより化粧品製剤を調製し得る最終水溶液を得た。
【0203】
加えて、25gのNeo PCL O/Wをも、70℃で加熱してそれを完全に融解した。この脂肪層が一旦融解したら、経時的に正確で安定なO/Wエマルションが得られるまで、持続的に撹拌しながら前述の水溶液を加えた。得られたクリームの官能評価は、均質な見掛けを有し、かつ塊が見られないことから肯定できるものであった。
【0204】
この同試験を、実施例4に記載される、高圧処理(400MPa、5分)して、かつスプレー乾燥機によって乾燥させたナノ粒子の製剤を用いても行った。600mgの製剤を25mLの水に再懸濁後、既に上記した同じ方法を行った。得られたクリームもまた均質な見掛けを有し、かつ塊が見られなかった。
【0205】
実施例9
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[2]
最終量15mLの水に、200mgのカゼインナトリウムおよび18mgのリジンを含有する溶液を調製した。
【0206】
加えて、100mLの水に、600mgの葉酸を800mgのリジンと共に溶解した。
【0207】
続いて、各カゼイン塩溶液に1.5mLの葉酸溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に8mLの0.8%CaCl2を加えた。
【0208】
最後に、製剤を17,000×gで、20分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを25mLの水に再懸濁した。
【0209】
加えて、0.5gのカーボポールUltrez 10を75mLの水に溶解した。該溶液にナノ粒子の懸濁液を加えた。混合液が一旦均質になったら、pH10になるまで十分な量のトリメチルアミンを加えた。均質かつ安定で、わずかに黄色がかったカーボポールゲルが得られるまで混合液を均質化した。
【0210】
この同じ試験を、実施例4に記載される、高圧処理(400MPa、5分)して、かつスプレー乾燥機によって乾燥させたナノ粒子の製剤を用いても行った。600mgの製剤を25mLの水に再懸濁後、既に上記した同じ方法を行った。得られたゲルもまたわずかに黄色がかった色であり、均質かつ安定な見掛けであった。
【0211】
実施例10
葉酸をカプセル化したカゼインナノ粒子を有する化粧品製剤[3]
3gのモノステアリン酸グリセリンを、5gのミリスチン酸イソプロピルおよび2gのセチルアルコールと混合した。この混合液を水浴中で70℃で加熱した。
【0212】
加えて、実施例8に記載した、葉酸を有するカゼインナノ粒子を含有する87gのカーボポールゲルを、3gのソルビトール液と共に水浴中で50℃まで加熱した。この溶液を前者に加え、均質なエマルションが得られるまで穏やかに撹拌した。
【0213】
実施例11
ケルセチンを含有するカゼインナノ粒子の調製および性質決定
7.5mLの水に、100mgのカゼインナトリウムおよび8.5mgのリジン(または5.5mgのアルギニン)を含有する溶液を調製した。
【0214】
加えて、濃度12mg/mLのアスコルビン酸ナトリウム水溶液を調製し、その0.5mLをカゼイン塩およびリジンの混合物に加えた。アスコルビン酸ナトリウムを用いる理由は、ナノ粒子を得る過程の間に、ケルセチンの酸化を防止するためであった。
【0215】
加えて、50mgのケルセチンを5mLのエタノールに溶解した。
【0216】
続いて、カゼイン塩溶液に0.15mLのケルセチン溶液を加えた。5分間のインキュベーションの後、マグネチックスターラーによる連続流の下に、この混合液に4mLの0.8%CaCl2を加えた。この方法は、それぞれの型の製剤について3回行った。
【0217】
各例において得られた物理化学的特性を第12表に収載する。
【0218】
【表13】
【0219】
得られた結果により、本発明のナノ粒子は、脂溶性の特性を有する生物活性化合物のカプセル化にも適し、そして高いカプセル化効率パーセンテージを得られることが示された。
【0220】
加えて、この結果により、一つまたは別のアミノ酸の存在は、得られたナノ粒子の物理化学的特性に影響しないことが確認される。
【0221】
カプセル化されたケルセチンの量を増大させるため、アミノ酸としてリジンおよび可変量のケルセチン(0.05ないし0.50mLのケルセチンエタノール溶液)を用いて試験を反復した。得られた結果を第13表に収載する。
【0222】
【表14】
【0223】
得られた結果により、製剤中のケルセチン量の増加に伴って、カプセル化されたケルセチンの量も同比率で増加するが、カプセル化効率は一定のままであることが示される。
【0224】
さらに、先に記載した方法に従って試験を行ったが、カゼイン塩溶液へのケルセチン添加に先立ち、ケルセチンを(それをエタノール中に溶解する代わりに)水中に分散させた。得られた結果により、ケルセチンの一部はカゼインナノ粒子内にカプセル化されたが、カゼイン塩溶液へのケルセチン添加に先立ちケルセチンをエタノールに溶解した先の例よりもカプセル化効率は低いことが示された。
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなる、ナノ粒子。
【請求項2】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記二価金属が、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはカルシウムである、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
生物活性化合物をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記生物活性化合物が、水溶性の生物活性化合物および脂溶性の生物活性化合物から選択されるものである、請求項4に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記水溶性の生物活性化合物が下記からなる群、
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;ならびに
e)それらの組み合わせから選択されるものである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記水溶性の生物活性化合物が、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項8】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなるナノ粒子を製造する方法であって、
a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;および
b)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含んでなる、方法。
【請求項9】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含んでなるナノ粒子を製造する方法であって、
a)(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)生物活性化合物を含有する溶液と混合する工程;および
b)工程a)で得られた混合液に、二価金属、三価金属、およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含んでなる、方法。
【請求項10】
前記カゼイン源が、カゼインナトリウムを含んでなるものである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記金属が、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される二価金属、好ましくはカルシウムである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項13】
二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の前記水溶液が、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されるカルシウム塩の水溶液である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性化合物が、水溶性の生物活性化合物および脂溶性の生物活性化合物から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶性の生物活性化合物が下記からなる群:
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;ならびに
e)それらの組み合わせから選択されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶性の生物活性化合物が、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかもしくは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を、100ないし800MPaの間の圧力の静水圧に、少なくとも1サイクルの付す工程をさらに含んでなる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項18】
形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥させる工程をさらに含んでなる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項19】
前記のナノ粒子を含有する前記懸濁液を乾燥させる工程が、保護剤の存在下、さらに場合により酸化防止剤の存在下で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記保護剤が糖類である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化防止剤がビタミンCを含んでなるものである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
請求項8に記載の方法によって得られる、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなるナノ粒子。
【請求項23】
請求項9に記載の方法によって得られる、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含んでなるナノ粒子。
【請求項24】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の少なくとも一種のナノ粒子、または請求項8〜21のいずれか一項に記載の方法によって得られる少なくとも1種のナノ粒子と、食品、薬品または化粧品において許容される担体とを少なくとも含んでなる、組成物。
【請求項25】
ナノ粒子の平均径が50ないし200nmの間に含まれ、好ましくは約140nmである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;および
30重量%ないし80重量%の糖類を含み、
ここで、全ての比率が当該組成物の総重量に対する重量である、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項27】
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;
20重量%ないし50重量%の糖類;および
1重量%ないし25重量%のアスコルビン酸を含み、
ここで、全ての比率が当該組成物の総重量に対する重量である、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項28】
前記担体が、局所経路によるその投与に対して許容される、医薬的または美容的な賦形剤を含んでなる、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記ナノ粒子が乾燥粉末の形態である、請求項24〜28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
請求項24〜27のいずれか一項、または請求項29に記載の組成物を含んでなる、食料品。
【請求項31】
液体、半固体、または固体の形態である、請求項30に記載の食料品。
【請求項1】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなる、ナノ粒子。
【請求項2】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記二価金属が、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはカルシウムである、請求項1または2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
生物活性化合物をさらに含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記生物活性化合物が、水溶性の生物活性化合物および脂溶性の生物活性化合物から選択されるものである、請求項4に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記水溶性の生物活性化合物が下記からなる群、
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;ならびに
e)それらの組み合わせから選択されるものである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記水溶性の生物活性化合物が、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかあるいは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項8】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなるナノ粒子を製造する方法であって、
a)カゼイン源および塩基性アミノ酸を含有する水溶液を調製する工程;および
b)工程a)の溶液に、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含んでなる、方法。
【請求項9】
カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含んでなるナノ粒子を製造する方法であって、
a)(i)カゼイン源および第1の塩基性アミノ酸を含有する水溶液を、(ii)生物活性化合物を含有する溶液と混合する工程;および
b)工程a)で得られた混合液に、二価金属、三価金属、およびそれらの組み合わせから選択される金属の水溶液を添加する工程を含んでなる、方法。
【請求項10】
前記カゼイン源が、カゼインナトリウムを含んでなるものである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記塩基性アミノ酸が、アルギニン、リジン、ヒスチジン、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項12】
前記金属が、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、二価型の鉄、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される二価金属、好ましくはカルシウムである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項13】
二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属の前記水溶液が、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびそれらの混合物からなる群から選択されるカルシウム塩の水溶液である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項14】
前記生物活性化合物が、水溶性の生物活性化合物および脂溶性の生物活性化合物から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶性の生物活性化合物が下記からなる群:
a)BまたはCファミリー由来のビタミン;
b)a)のビタミン誘導体;
c)ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、およびチオクト酸から選択される化合物;
d)前述の化合物a)〜c)のいずれかの塩またはエステル;ならびに
e)それらの組み合わせから選択されるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶性の生物活性化合物が、葉酸、4−アミノ安息香酸、ナイアシン、パントテン酸、チアミン一リン酸、チアミンピロリン酸、チアミン三リン酸、アスコルビン酸、プテロイルポリグルタミン酸、フォリン酸、ニコチン酸、ヒアルロン酸、チオクト酸、p−クマル酸、コーヒー酸、それらの医薬的もしくは美容的に許容されるかもしくは食品用の、誘導体、エステルまたは塩、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を、100ないし800MPaの間の圧力の静水圧に、少なくとも1サイクルの付す工程をさらに含んでなる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項18】
形成されたナノ粒子を含有する懸濁液を乾燥させる工程をさらに含んでなる、請求項8または9に記載の方法。
【請求項19】
前記のナノ粒子を含有する前記懸濁液を乾燥させる工程が、保護剤の存在下、さらに場合により酸化防止剤の存在下で行われる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記保護剤が糖類である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記酸化防止剤がビタミンCを含んでなるものである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
請求項8に記載の方法によって得られる、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、ならびに二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属を含んでなるナノ粒子。
【請求項23】
請求項9に記載の方法によって得られる、カゼインマトリックス、塩基性アミノ酸、二価金属、三価金属およびそれらの組み合わせから選択される金属、ならびに生物活性化合物を含んでなるナノ粒子。
【請求項24】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の少なくとも一種のナノ粒子、または請求項8〜21のいずれか一項に記載の方法によって得られる少なくとも1種のナノ粒子と、食品、薬品または化粧品において許容される担体とを少なくとも含んでなる、組成物。
【請求項25】
ナノ粒子の平均径が50ないし200nmの間に含まれ、好ましくは約140nmである、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;および
30重量%ないし80重量%の糖類を含み、
ここで、全ての比率が当該組成物の総重量に対する重量である、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項27】
10重量%ないし50重量%のカゼイン;
0.9%重量%ないし2.5重量%の葉酸;
1重量%ないし6重量%のカルシウム;および
1重量%ないし7重量%の塩基性アミノ酸;
20重量%ないし50重量%の糖類;および
1重量%ないし25重量%のアスコルビン酸を含み、
ここで、全ての比率が当該組成物の総重量に対する重量である、請求項24または25に記載の組成物。
【請求項28】
前記担体が、局所経路によるその投与に対して許容される、医薬的または美容的な賦形剤を含んでなる、請求項24に記載の組成物。
【請求項29】
前記ナノ粒子が乾燥粉末の形態である、請求項24〜28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
請求項24〜27のいずれか一項、または請求項29に記載の組成物を含んでなる、食料品。
【請求項31】
液体、半固体、または固体の形態である、請求項30に記載の食料品。
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1】
【公表番号】特表2013−520191(P2013−520191A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554379(P2012−554379)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/ES2011/070118
【国際公開番号】WO2011/104410
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512220891)ウニベルシダ デ ナバーラ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE NAVARRA
【住所又は居所原語表記】Carretera del Sadar, sin numero, E‐31008 Pamplona,Navarra ESPANA
【出願人】(512220905)セントゥロ ナシオナル デ テクノロヒア イ セグリダ アリメンタリア、ラボラトリオ デル エブロ (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRO NACIONAL DE TECNOLOGIA Y SEGURIDAD ALIMENTARIA, LABORATORIO DEL EBRO
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際出願番号】PCT/ES2011/070118
【国際公開番号】WO2011/104410
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512220891)ウニベルシダ デ ナバーラ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE NAVARRA
【住所又は居所原語表記】Carretera del Sadar, sin numero, E‐31008 Pamplona,Navarra ESPANA
【出願人】(512220905)セントゥロ ナシオナル デ テクノロヒア イ セグリダ アリメンタリア、ラボラトリオ デル エブロ (1)
【氏名又は名称原語表記】CENTRO NACIONAL DE TECNOLOGIA Y SEGURIDAD ALIMENTARIA, LABORATORIO DEL EBRO
【Fターム(参考)】
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