説明

半導体基板、電子デバイスおよび半導体基板の製造方法

【課題】エピタキシャル成長により形成された結晶膜の成長面内における物性値を均一な値に近づける。
【解決手段】第1化合物半導体および第2化合物半導体を積層した積層半導体を含み、前記第1化合物半導体の所定物性値が第1面内分布を有し、前記第2化合物半導体の前記所定物性値が前記第1面内分布とは異なる第2面内分布を有し、前記積層半導体における前記所定物性値の面内分布の幅が、前記第1面内分布の幅または前記第2面内分布の幅より小さい半導体基板を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板、電子デバイスおよび半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法を利用した半導体結晶膜の製造方法が記載されている。特許文献1の製造方法においては、IIIB族原料ガスとしてガリウム(Ga)またはアルミニウム(Al)のアルキル化物を用い、VB族原料ガスとしてヒ素(As)の水素化物を用いている。IIIB族原料ガスに対するVB族原料ガスの供給モル比(V/III比)を0.3〜2.5の範囲内にすることで、表面に荒れがなく、アクセプタ不純物として炭素(C)がドープされたP型GaAlAs結晶膜が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−110829号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
III-V族化合物半導体等の結晶膜を、MOCVD法を用いてエピタキシャル成長させる場合、成長条件に応じて結晶膜の物性値が変動する。ここで成長条件として、たとえば、原料ガスの種類、原料ガスのモル比、原料ガスの圧力、原料ガスの流量、基板の温度が挙げられる。物性値として、たとえば、シート抵抗、キャリア密度、キャリア移動度が挙げられる。エピタキシャル成長させた結晶膜の成長面内において、成長条件に分布(ばらつき)が存在すると、成長条件の分布に応じた物性値の成長面内における変動が発生する。すなわち物性値の面内分布が発生する。結晶膜の物性値に面内分布が存在すると、結晶膜を用いて形成する電子素子の特性にもばらつきが生じ、好ましくない。ここで電子素子の特性として、たとえば電流増幅率が挙げられる。本発明の目的は、エピタキシャル成長により形成された結晶膜の成長面内における物性値を均一な値に近づけることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、第1化合物半導体および第2化合物半導体を積層した積層半導体を含み、前記第1化合物半導体の所定物性値が第1面内分布を有し、前記第2化合物半導体の前記所定物性値が前記第1面内分布とは異なる第2面内分布を有し、前記積層半導体における前記所定物性値の面内分布の幅が、前記第1面内分布の幅または前記第2面内分布の幅より小さい半導体基板を提供する。前記所定物性値として、シート抵抗、キャリア密度またはキャリア移動度が挙げられる。
【0006】
本発明の第2の態様においては、シート抵抗の面内分布が互いに異なる第1化合物半導体および第2化合物半導体を積層した積層半導体を含み、前記積層半導体をバイポーラトランジスタのベースに用いた場合のベースシート抵抗に対する電流増幅率の比が、0.3(Ω/□)−1以上であり、前記積層半導体のシート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下である半導体基板を提供する。
【0007】
前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体がP型半導体である場合、正孔を生成する不純物原子として、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウムおよび亜鉛から選択された1以上の原子が挙げられる。前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体がN型半導体である場合、電子を生成する不純物原子として、シリコン、セレン、硫黄およびテルルから選択された1以上の原子が挙げられる。
【0008】
前記第1化合物半導体として、Alx1Iny1Ga1−x1−y1Asz11−z1(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦x1+y1≦1、0≦z1≦1)が挙げられ、前記第2化合物半導体として、Alx2Iny2Ga1−x2−y2Asz21−z2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦x2+y2≦1、0≦z2≦1)が挙げられる。
【0009】
本発明の第3の態様においては、前記した半導体基板における前記積層半導体を活性領域として得られる電子素子を含む電子デバイスを提供する。前記電子素子がバイポーラトランジスタである場合、前記積層半導体が前記バイポーラトランジスタのベースである例が挙げられる。
【0010】
本発明の第4の態様においては、基板の上方に、第1化合物半導体を形成する段階と、前記第1化合物半導体に接して、第2化合物半導体を形成する段階と、を含み、前記第1化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスから選択された何れか一方の有機IIIB族元素ガスを用い、前記第2化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、前記一方の有機IIIB族元素ガスとは異なる他方の有機IIIB族元素ガスを用いる半導体基板の製造方法を提供する。この場合、前記第1化合物半導体を形成する段階における形成時間と、前記第2化合物半導体を形成する段階における形成時間とを調整することで、前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体を積層した積層半導体における所定物性値の面内分布の幅を、前記第1化合物半導体における前記所定物性値の面内分布の幅または前記第2化合物半導体における前記所定物性値の面内分布の幅より小さくする例が挙げられる。
【0011】
本発明の第5の態様においては、基板の上方に、化合物半導体を形成する段階を含み、前記化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスの混合ガスを用い、前記メチル基を有する有機IIIB族元素ガスと前記エチル基を有する有機IIIB族元素ガスとの混合比を調整することで前記化合物半導体の所定物性値の面内分布の幅を調整する半導体基板の製造方法を提供する。前記所定物性値がシート抵抗である場合、前記シート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下になるよう前記混合ガスの前記混合比を調整することが好ましい。
【0012】
前記メチル基を有する有機IIIB族元素ガスとしてトリメチルガリウムが挙げられ、前記エチル基を有する有機IIIB族元素ガスとしてトリエチルガリウムが挙げられる。前記IIIB族原料ガスに対するVB族原料ガスのモル供給比として0.3以上5以下の範囲が例示できる。正孔を生成する不純物原子の原料ガスとして、CH4−n(ただし、XはF、Cl、BrおよびIから選択された何れかのハロゲン元素であり、Xが複数のとき、Xは互いに同一でも異なってもよい。また、0≦n≦3である。)が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態である半導体基板100の断面例を示す。
【図2】基板中心からの距離に応じて所定物性値が変化する様子を概念的に示したグラフである。
【図3】実施例の半導体基板200の断面例を示す。
【図4】半導体基板200を用いて製造したHBT300の断面例を示す。
【図5】TMGを原料ガスとする第1ベース層210a、TEGを原料ガスとする第2ベース層210bおよび両者を合わせてなるベース層210の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置におけるシート抵抗の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。
【図6】基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した実施例のHBT300における電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。
【図7】基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例1のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。
【図8】基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例2のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。
【図9】基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例3のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。
【図10】TMGを原料ガスとする化合物半導体およびTEGを原料ガスとする化合物半導体の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置におけるP型キャリア濃度の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。
【図11】TMGを原料ガスとする化合物半導体およびTEGを原料ガスとする化合物半導体の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置における移動度の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明する。図1に本発明の一実施形態である半導体基板100の断面例を示す。半導体基板100が支持基板102、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106を有する。第1化合物半導体104および第2化合物半導体106が支持基板102の上に積層されている。積層された第1化合物半導体104および第2化合物半導体106は積層半導体の一例である。
【0015】
支持基板102は、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106を積層した積層半導体を支持する。支持基板102として半絶縁性のGaAs単結晶基板が例示できる。支持基板102はウェハ形状であってもよい。支持基板102は、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法、VB(Vertical Bridgeman)法またはVGF(Vertical Gradient Freezing)法で製造されたGaAsウェハが好ましい。支持基板102としてLEC法等により製造されたGaAsウェハを適用する場合、1つの結晶学的面方位から0.05°以上10°以下、好ましくは0.3°以上3°以下の傾きを有する基板とすることが好ましい。
【0016】
第1化合物半導体104の所定物性値は第1面内分布を有し、第2化合物半導体106の所定物性値は第1面内分布とは異なる第2面内分布を有する。所定物性値として、シート抵抗、キャリア密度またはキャリア移動度が挙げられる。面内分布とは、シート抵抗、キャリア密度、キャリア移動度等薄膜の物性値が、基板面における位置によって異なっている状態をいう。一般に、面内分布は一定の傾向をもって発生する。たとえば、基板面の中心付近で物性値が大きくまたは小さく、端部に近づくに従い値が漸減または漸増する傾向を有する。なお、面内分布は基板中心に対称である必要は無い。
【0017】
第1化合物半導体104および第2化合物半導体106を積層した積層半導体の所定物性値も、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106と同様に面内分布を有する。ただし、当該積層半導体の面内分布の幅は、第1面内分布の幅または第2面内分布の幅より小さい。つまり、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106は、それ単独では所定物性値の面内分布の幅が大きいが、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106を積層すると、各面内分布の傾向が相違するので互いに補完しあい、積層半導体における所定物性値の面内分布の幅が小さくなる。
【0018】
図2は、基板中心からの距離に応じて所定物性値が変化する様子を概念的に示したグラフである。図2において破線は第1化合物半導体104の所定物性値を示し、一点鎖線は第2化合物半導体106の所定物性値を示す。実線は、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106を積層した積層半導体の所定物性値を示す。破線で示す第1化合物半導体104の所定物性値は、基板中心からの距離が大きくなるほど小さくなっており、逆に、一点鎖線で示す第2化合物半導体106の物性値は、基板中心からの距離が大きくなるほど小さくなっている。つまり第1化合物半導体104における所定物性値の面内分布の傾向と第2化合物半導体106における所定物性値の面内分布の傾向とが逆であり、各位置における所定物性値の加算で当該位置の積層半導体の所定物性値が決定される場合には、互いの面内分布が補完しあうことで積層半導体の所定物性値の面内分布の幅が小さくなる。この結果、積層半導体の所定物性値の面内分布を均一に近づけることができる。
【0019】
なお、面内分布の幅とは、基板面の位置に応じた物性値の異なりの大きさ(変動幅)を表す代表値であり、測定および計算により得ることが可能な値である。たとえば、支持基板102をウェハとした場合、ウェハ表面における中心から半径90%までの円形範囲において、まずウェハ表面上の位置を変えて複数点の物性値を測定し、最大値、最小値、測定した複数点の物性値の平均値を得る。次に、((最大値−最小値)/平均値×100)(%)を計算して、この値を平均値に対する面内分布の幅として、定義する。物性値の測定数は多いほど好ましいものの、面内分布の傾向が把握できる程度の測定数があればよい。面内分布の傾向は、基板面における物性値の変動を波動として捉え、当該波動が再現できる程度の距離を隔てて物性値を測定することにより把握できる。標本化定理によれば、波動が正弦波である場合、波長の1/2の間隔でサンプリング(標本化)すれば波動を再現できる。よって、物性値波動の基本波長に相当する距離の半分を隔てた測定において、物性値波動を正弦波と仮定した場合の傾向が正確に把握できる。実際には、物性値波動は正弦波でなく、歪んだ波形すなわち基本波より周波数の高い高調波を含んだ波形になるので、基本波長の1/2より短い間隔で測定することが好ましい。一般に物性値波動の基本波長は支持基板の大きさに相当すると考えられるので、ウェハ中心から半径90%までの円形範囲において、2点以上、好ましくは5点以上で測定するのがよい。
【0020】
第1化合物半導体104および第2化合物半導体106がP型半導体である場合、正孔を生成する不純物原子として、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウムおよび亜鉛から選択された1以上の原子が挙げられる。第1化合物半導体104および第2化合物半導体106がN型半導体である場合、電子を生成する不純物原子として、シリコン、セレン、硫黄およびテルルから選択された1以上の原子が挙げられる。
【0021】
第1化合物半導体104としてAlx1Iny1Ga1−x1−y1Asz11−z1(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦x1+y1≦1、0≦z1≦1)が挙げられる。第2化合物半導体106としてAlx2Iny2Ga1−x2−y2Asz21−z2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦x2+y2≦1、0≦z2≦1)が挙げられる。第1化合物半導体104および第2化合物半導体106の積層半導体は、バイポーラトランジスタのベースに適用して好適である。
【0022】
第1化合物半導体104および第2化合物半導体106は、MOCVD法を用いたエピタキシャル成長により形成できる。MOCVD法のVB族原料ガスとして、アルシン(AsH)、ホスフィン(PH)が例示できる。MOCVD法のIIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガス、エチル基を有する有機IIIB族元素ガスが例示できる。メチル基を有する有機IIIB族元素ガスとして、トリメチルガリウム(TMG)が挙げられる。エチル基を有する有機IIIB族元素ガスとして、トリエチルガリウム(TEG)が挙げられる。
【0023】
ただし、第1化合物半導体104のエピタキシャル成長にメチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いた場合、第2化合物半導体106のエピタキシャル成長にはエチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いる。あるいは第1化合物半導体104のエピタキシャル成長にエチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いた場合、第2化合物半導体106のエピタキシャル成長にはメチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いる。
【0024】
メチル基を有する有機IIIB族元素ガスをIIIB族原料ガスに用いた場合の特定物性値の面内分布とエチル基を有する有機IIIB族元素ガスをIIIB族原料ガスに用いた場合の特定物性値の面内分布とが相補的な関係になる場合があり、このような場合には、互いの面内分布を補完しあわせて第1化合物半導体104および第2化合物半導体106積層半導体における特定物性値の面内分布を均一に近づけることができる。
【0025】
第1化合物半導体104および第2化合物半導体106をP型半導体として機能させるには、P型伝導する不純物をドープするが、P型不純物として前記した炭素が選択できる。P型不純物として炭素を選択する場合、IIIB族原料ガスに対するVB族原料ガスの比率(V/III比)を小さくしてMOCVDを実施することで、IIIB族原料ガス中に含まれる炭素がP型不純物としてエピタキシャル成長膜に取り込まれる。よってV/III比を調整することでP型不純物濃度を調整することが可能である。あるいは、P型不純物原子の供給源として、MOCVDの原料ガスにCH4−n(ただし、XはF、Cl、BrおよびIから選択された何れかのハロゲン元素であり、Xが複数のとき、Xは互いに同一でも異なってもよい。また、0≦n≦3である。)を混合してもよい。
【0026】
所定物性値がシート抵抗である場合、第1化合物半導体104のシート抵抗の面内分布と第2化合物半導体106のシート抵抗の面内分布を相補的な関係にして、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106からなる積層半導体のシート抵抗の面内分布を均一に近づけることができる。この場合、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106からなる積層半導体をバイポーラトランジスタのベースに用いることができ、バイポーラトランジスタのベースシート抵抗に対する電流増幅率の比が、0.3(Ω/□)−1以上であり、積層半導体のシート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下にすることができる。
【0027】
図1に示す半導体基板100は、以下のようにして製造できる。まず、支持基板102の上に、第1化合物半導体104を形成し、第1化合物半導体104に接して、第2化合物半導体106を形成する。ここで、第1化合物半導体104を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスから選択された何れか一方の有機IIIB族元素ガスを用いる。そして、第2化合物半導体106を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、一方の有機IIIB族元素ガスとは異なる他方の有機IIIB族元素ガスを用いる。メチル基を有する有機IIIB族元素ガスとしてトリメチルガリウムが挙げられる。エチル基を有する有機IIIB族元素ガスとしてトリエチルガリウムが挙げられる。たとえばトリメチルガリウムを用いて第1化合物半導体104を形成した場合にはトリエチルガリウムを用いて第2化合物半導体106を形成する。トリエチルガリウムを用いて第1化合物半導体104を形成した場合にはトリメチルガリウムを用いて第2化合物半導体106を形成する。
【0028】
第1化合物半導体104を形成する段階での形成時間と、第2化合物半導体106を形成する段階での形成時間とを調整することで、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106からなる積層半導体における所定物性値の面内分布の幅を小さくできる。ここで、面内分布の幅は、第1化合物半導体104における所定物性値の面内分布の幅または第2化合物半導体106における所定物性値の面内分布の幅より小さい。あるいは、積層半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスの混合ガスを用い、当該混合ガスの混合比を調整することで、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106からなる積層半導体の所定物性値の面内分布の幅を調整できる。所定物性値がシート抵抗である場合、シート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下になるよう混合ガスの混合比を調整する。
【0029】
ここで、IIIB族原料ガスに対するVB族原料ガスのモル供給比(V/III比)を0.3以上5以下の範囲とすることができる。当該V/III比の範囲では、表面に荒れがなく、アクセプタ不純物として炭素がドープされた第1化合物半導体104および第2化合物半導体106が形成されるが、シート抵抗等物性値がプロセス条件に敏感なため、なんら対策を施さない場合には物性値の面内分布の幅が大きくなってしまう。しかし、本実施形態においては、第1化合物半導体104および第2化合物半導体106の一方を、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いて形成し、他方を、エチル基を有する有機IIIB族元素ガスを用いて形成するので、積層半導体の物性値の面内分布の幅を小さくできる。
【実施例】
【0030】
図3は、実施例の半導体基板200の断面例を示す。ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)用の半導体基板として、半導体基板200を製造した。支持基板202としてGaAs基板を用意し、支持基板202の上に、順次以下の層をMOCVD法により形成した。
(1)バッファ層204としてi−GaAs層。
(2)サブコレクタ層206としてn−GaAs層。
(3)コレクタ層208としてn−GaAs層。
(4)ベース層210としてp−GaAs層。
(5)エミッタ層212としてn−InGaP層。
(6)サブエミッタ層214としてn−GaAs層。
(7)エミッタコンタクト層216としてn−InGaAs層。
なお、ベース層210は、第1ベース層210aおよび第2ベース層210bの積層半導体として形成した。
【0031】
支持基板202を、脱脂洗浄、エッチング、水洗、乾燥処理した後、結晶成長炉の加熱台上に載置した。結晶成長炉内における加熱台を回転した。回転方式は自公転型とした。なお、回転方式として固定型、自転型、公転型および自公転型が例示できる。公転型、自転型または自公転型が好ましい。炉内を高純度水素で置換した後、加熱を開始した。適度な温度に安定したところで炉内に砒素原料を導入した。GaAs層を成長する際には、続いてガリウム原料を導入した。InGaAs層を成長する際には、砒素原料の導入に加えて、ガリウム原料およびインジウム原料を導入した。InGaP層を成長する際には、砒素原料に替えて燐原料を導入し、加えてガリウム原料およびインジウム原料を導入した。各原料の供給量と供給時間を制御することにより、(1)から(7)の積層構造を成長させた。最後に、各原料の供給を停止して結晶成長を停止し、冷却後、半導体基板200を炉内から取り出した。結晶成長時の基板温度は、400℃から800℃とした。
【0032】
VB族原子である砒素および燐の原料として、アルシン(AsH)およびホスフィン(PH)を用いた。IIIB族原子であるガリウムおよびインジウムの原料として、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、およびトリメチルインジウムを用いた。ガリウムおよびインジウムの原料は、各金属原子に炭素数が1から3のアルキル基もしくは水素が結合したトリアルキル化物あるいは三水素化物を用いてもよい。
【0033】
第1ベース層210aの成長におけるガリウム原料として、トリメチルガリウム(TMG)を用い、V/III比を1.1とした。第2ベース層210bの成長におけるガリウム原料として、トリエチルガリウム(TEG)を用い、V/III比を2.1とした。ベース層210の成長におけるV/III比は、0.3以上5以下にすることができるが、好ましくは0.7以上3以下にするのがよい。n型ド−パント原料としてジシラン(Si)を用いた。p型ド−パントとしてBrCClを用いた。n型ド−パントとして、シリコン、ゲルマニウム、スズ、硫黄、セレン等の水素化物または炭素数が1から3のアルキル基を有するアルキル化物を用いることができる。p型ド−パントとしてはCBrあるいはBrCCl等の炭素のハロゲン化物を用いることができる。
【0034】
図4は、半導体基板200を用いて製造したHBT300の断面例を示す。サブコレクタ層206、第2ベース層210bおよびエミッタコンタクト層216が各々露出するようにエミッタメサ、ベースメサおよびコレクタメサを形成し、サブコレクタ層206、第2ベース層210bおよびエミッタコンタクト層216に各々接してコレクタ電極302、ベース電極304およびエミッタ電極306を形成する。コレクタ電極302およびエミッタ電極306には金、ゲルマニウムおよびニッケルの合金を用い、ベース電極304には金およびチタンの合金を用いた。
【0035】
図5は、TMGを原料ガスとする第1ベース層210a、TEGを原料ガスとする第2ベース層210bおよび両者を合わせてなるベース層210の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置におけるシート抵抗の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。図5の縦軸は、シート抵抗の測定値の平均値で各測定値を除したシート抵抗(規格化)を示す。シート抵抗は、TLM(Transmission Line Model)法により測定した。シート抵抗の面内分布は同心円状になった。TMGを用いた場合、シート抵抗は基板中心から端部方向に減少し、TEGを用いた場合に増加した。ガリウム原料を変更することによりシート抵抗の面内分布を互いに補完するように異ならせることができた。両者を合わせた場合のシート抵抗は基板中心から端部方向に向けて一旦減少したのち増加に転じており、TMGを用いた場合およびTEGを用いた場合の面内分布を互いに補完する形状となった。さらにシート抵抗の面内分布の幅は両者を個別に用いた場合より小さくなっており、これにより第1ベース層210aおよび第2ベース層210bからなるベース層のシート抵抗の均一性を向上できた。
【0036】
図6は、基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した実施例のHBT300における電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。図7は、基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例1のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。図8は、基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例2のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。図9は、基板中心からの距離が異なる複数の製造位置に製造した比較例3のHBTにおける電流増幅率の値を位置に対してプロットしたグラフである。図6から図9の縦軸は、電流増幅率の測定値の平均値で各測定値を除した電流増幅率(規格化)を示す。比較例1、比較例2および比較例3は、HBT300における第1ベース層210aおよび第2ベース層210bからなる積層半導体を単一のベース層に置き換えた例である。比較例1、比較例2および比較例3におけるベース層は、HBT300におけるベース層210(第1ベース層210aおよび第2ベース層210b)と同じ厚さにした。比較例1におけるIIIB族原料をTMG、V/III比を1.1とした。比較例2におけるIIIB族原料をTEG、V/III比を2.1とした。比較例3におけるIIIB族原料をTMG、V/III比を25とした。その他の成長条件は実施例の場合と同様にした。
【0037】
図6から図9に示すように、実施例および比較例1から比較例3における電流増幅率の面内分布の幅は、各々、2.4%、6.3%、11.4%、2.6%であり、ベース層シート抵抗に対する電流増幅率の比は、各々0.68、0.59、0.60、0.57であった。また、ベース層シート抵抗の面内分布の幅は、各々3.2%、4.8%、6.4%、1.4%であった。これらの結果を表1に纏めた。
【表1】

【0038】
これらの結果は、実施例における電流増幅率(β)の面内分布の幅およびベース層シート抵抗(B−Rs)の面内分布の幅が比較例1および比較例2と比べて小さく、ベース層シート抵抗に対する電流増幅率の比(β/B−Rs)が比較例1〜3と比べて大きいことを示している。また、ベース層シート抵抗の分布が小さいほど電流増幅率の分布も小さくなることが分かる。実施例、比較例1および比較例2は、何れもV/IIIが小さな条件で成長されており、温度等の成長条件に敏感に影響されてシート抵抗等の物性値が変動する。よって、比較例1および比較例2では電流増幅率の分布が大きくなっている。しかし、実施例ではV/III比が小さいにも関わらず電流増幅率の分布が小さい。V/III比を大きくすると、比較例3のように電流増幅率の面内分布は小さくなる。しかし、ベース層シート抵抗に対する電流増幅率の比(β/B−Rs)が小さい。実施例においては、電流増幅率の面内分布の幅が小さく、かつベース層シート抵抗に対する電流増幅率の比も大きい、すなわち高い電流増幅率が半導体基板の面内にわたって均一に得られることが分かる。
【0039】
図10は、TMGを原料ガスとする化合物半導体およびTEGを原料ガスとする化合物半導体の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置におけるP型キャリア濃度の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。キャリア濃度は、ホール効果測定法により測定した。図11は、TMGを原料ガスとする化合物半導体およびTEGを原料ガスとする化合物半導体の各々について、基板中心からの距離が異なる複数の測定位置における移動度の値を測定位置に対してプロットしたグラフである。移動度は、ホール効果測定法により測定した。図10および図11に示すように、P型キャリア濃度あるいは移動度の値においても、シート抵抗あるいは電流増幅率の場合と同様に、原料ガスをTMGとする場合および原料ガスをTEGとする場合で相補的な面内分布を示す。よって、物性値としてP型キャリア濃度あるいは移動度を選択する場合においても、本発明のアイデアを適用して面内分布を均一に近づけることができる。
【0040】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0041】
100 半導体基板
102 支持基板
104 第1化合物半導体
106 第2化合物半導体
200 半導体基板
202 支持基板
204 バッファ層
206 サブコレクタ層
208 コレクタ層
210 ベース層
210a 第1ベース層
210b 第2ベース層
212 エミッタ層
214 サブエミッタ層
216 エミッタコンタクト層
300 HBT
302 コレクタ電極
304 ベース電極
306 エミッタ電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1化合物半導体および第2化合物半導体を積層した積層半導体を含み、
前記第1化合物半導体の所定物性値が第1面内分布を有し、
前記第2化合物半導体の前記所定物性値が前記第1面内分布とは異なる第2面内分布を有し、
前記積層半導体における前記所定物性値の面内分布の幅が、前記第1面内分布の幅または前記第2面内分布の幅より小さい
半導体基板。
【請求項2】
前記所定物性値がシート抵抗、キャリア密度およびキャリア移動度からなる群から選択された何れか一つである
請求項1に記載の半導体基板。
【請求項3】
シート抵抗の面内分布が互いに異なる第1化合物半導体および第2化合物半導体を積層した積層半導体を含み、
前記積層半導体をバイポーラトランジスタのベースに用いた場合のベースシート抵抗に対する電流増幅率の比が、0.3(Ω/□)−1以上であり、前記積層半導体のシート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下である
半導体基板。
【請求項4】
前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体がP型半導体であり、正孔を生成する不純物原子として、ベリリウム、ボロン、炭素、マグネシウムおよび亜鉛から選択された1以上の原子を含有する
請求項1から請求項3の何れかに記載の半導体基板。
【請求項5】
前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体がN型半導体であり、電子を生成する不純物原子として、シリコン、セレン、硫黄およびテルルから選択された1以上の原子を含有する
請求項1から請求項3の何れかに記載の半導体基板。
【請求項6】
前記第1化合物半導体がAlx1Iny1Ga1−x1−y1Asz11−z1(0≦x1≦1、0≦y1≦1、0≦x1+y1≦1、0≦z1≦1)であり、
前記第2化合物半導体がAlx2Iny2Ga1−x2−y2Asz21−z2(0≦x2≦1、0≦y2≦1、0≦x2+y2≦1、0≦z2≦1)である
請求項1から請求項5の何れかに記載の半導体基板。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の半導体基板における前記積層半導体を活性領域として得られる電子素子
を含む電子デバイス。
【請求項8】
前記電子素子がバイポーラトランジスタであり、前記積層半導体が前記バイポーラトランジスタのベースである
請求項7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
基板の上方に、第1化合物半導体を形成する段階と、
前記第1化合物半導体に接して、第2化合物半導体を形成する段階と、を含み、
前記第1化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスから選択された何れか一方の有機IIIB族元素ガスを用い、
前記第2化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、前記一方の有機IIIB族元素ガスとは異なる他方の有機IIIB族元素ガスを用いる
半導体基板の製造方法。
【請求項10】
前記第1化合物半導体を形成する段階における形成時間と、前記第2化合物半導体を形成する段階における形成時間とを調整することで、前記第1化合物半導体および前記第2化合物半導体を積層した積層半導体における所定物性値の面内分布の幅を、前記第1化合物半導体における前記所定物性値の面内分布の幅または前記第2化合物半導体における前記所定物性値の面内分布の幅より小さくする
請求項9に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項11】
基板の上方に、化合物半導体を形成する段階を含み、
前記化合物半導体を形成する段階において、IIIB族原料ガスとして、メチル基を有する有機IIIB族元素ガスおよびエチル基を有する有機IIIB族元素ガスの混合ガスを用い、
前記メチル基を有する有機IIIB族元素ガスと前記エチル基を有する有機IIIB族元素ガスとの混合比を調整することで前記化合物半導体の所定物性値の面内分布の幅を調整する
半導体基板の製造方法。
【請求項12】
前記所定物性値はシート抵抗であり、
前記シート抵抗の面内分布の幅が4.0%以下になるよう前記混合ガスの前記混合比を調整する
請求項11に記載の半導体基板の製造方法。
【請求項13】
前記メチル基を有する有機IIIB族元素ガスがトリメチルガリウムであり、
前記エチル基を有する有機IIIB族元素ガスがトリエチルガリウムである
請求項9から請求項12の何れかに記載の半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記IIIB族原料ガスに対するVB族原料ガスのモル供給比を0.3以上5以下の範囲とする
請求項9から請求項13の何れかに記載の半導体基板の製造方法。
【請求項15】
正孔を生成する不純物原子の原料ガスとして、CH4−n(ただし、XはF、Cl、BrおよびIから選択された何れかのハロゲン元素であり、Xが複数のとき、Xは互いに同一でも異なってもよい。また、0≦n≦3である。)を用いる
請求項9から請求項14の何れかに記載の半導体基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−108931(P2011−108931A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−264058(P2009−264058)
【出願日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】