説明

原子層成長装置および薄膜形成方法

【課題】薄膜の厚さや特性が均一になるように薄膜を形成し、さらに、薄膜の形成を効率よく行う。
【解決手段】成膜容器内に有機金属ガスを導入して、基板上に有機金属の成分を吸着させる。次に、成膜容器内に酸化ガスまたは窒化ガスを導入してプラズマを発生させ、基板に積層した有機金属の成分を酸化または窒化させる。プラズマを発生させたとき、基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出する。検出した発発光強度が所定値以下になるとき、プラズマの発生を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含む有機金属の成分を吸着した基板に酸化ガスあるいは窒化ガスを用いてプラズマを発生させて薄膜を形成する原子層成長装置および薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に原子層単位で薄膜を形成する原子層成長法(以下、省略してALD(Atomic Layer Deposition)法ともいう)は、形成しようとする膜を構成する元素を主成分とする2種類のガスを成膜対象基板上に交互に供給し、基板上に原子層単位で薄膜を形成することを複数回繰り返して所望厚さの膜を形成する薄膜形成技術である。例えば、基板上にAl23膜を形成する場合、TMA(Tri-Methyl Aluminum)からなる原料ガスとOを含む酸化ガスが用いられる。また、基板上に窒化膜を形成する場合、酸化ガスの代わりに窒化ガスが用いられる。
【0003】
ALD法では、原料ガスを供給している間に1層あるいは数層の原料ガス成分だけが基板表面に吸着され、余分な原料ガスは成長に寄与しない、成長の自己停止作用(セルフリミット機能)を利用する。
【0004】
ALD法は、一般的なCVD(Chemical Vapor Deposition)法と比較して高い段差被覆性と膜厚制御性を併せ持ち、メモリ素子のキャパシタや、「high-kゲート」と呼ばれる絶縁膜の形成への実用化が期待されている。また、300℃程度の低温で絶縁膜が形成可能であるため、液晶ディスプレイなどのように、ガラス基板を用いる表示装置の薄膜トランジスタのゲート絶縁膜の形成への適用なども期待されている。
【0005】
このALD法において、基板に吸着した原料ガスの成分を酸化するとき、酸化ガスを用いてプラズマを発生させることによって生じる酸素ラジカルを用いて、基板に吸着した原料ガスの成分を酸化する。このときプラズマの発生時間は数100m秒〜数秒に固定されて処理が行われる。
例えば、下記特許文献1には、窒化タンタル膜のプラズマALDが記載されている。当該文献1では、還元のために用いるHプラズマパルスの発生時間は、2000〜4000m秒に固定されて設定されている(当該文献[0064]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−184688号
【0007】
このようなALD法において、酸化膜もしくは窒化膜を形成するために、酸化ガスまたは窒化ガスを用いてプラズマを発生させた場合、酸化膜もしくは窒化膜等の薄膜の厚さや特性(稠密度、耐圧性、屈折率)が、プラズマの発生密度分布に対応して分布して不均一になることが多い、といった問題点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、酸化膜もしくは窒化膜等の薄膜の厚さや特性が均一になるように薄膜を形成し、かつ、この薄膜を効率よく形成することのできる原子層成長装置および薄膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、水素を含む有機金属の成分を吸着した基板に酸化ガスあるいは窒化ガスを用いてプラズマを発生させて薄膜を形成する以下の原子層成長装置により達成することができる。
すなわち、原子層成長装置は、
(A)高周波電力の供給を受けてプラズマを発生させるプラズマ発生源と、このプラズマ発生源に対向する位置に、基板が載置される基板ステージとが配設された成膜容器と、
(B)前記基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出する発光強度検出部と、
(C)前記発光強度検出部で検出した発光強度の値が所定値以下になるとき、前記プラズマ発生源の高周波電力の供給を停止する電力制御部と、を有する。
【0010】
その際、前記電力制御部は、前記プラズマ発生源に供給する高周波電力の反射電力を計測し、反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、前記発光強度の値の検出を開始することが好ましい。
また、前記発光強度検出部は、655.3〜657.3nmを透過帯域として含むバンドパスフィルタを用いて発光強度を検出することが好ましい。
さらに、前記プラズマ発生源は、アンテナ、誘導電極、または平行平板電極、すなわち、電磁波結合型、誘導結合型、または容量結合型であることが好ましい。
【0011】
さらに、上記目的は、水素を含む有機金属の成分を吸着した基板に酸化ガスあるいは窒化ガスを用いてプラズマを発生させて薄膜を形成する以下の薄膜形成方法により達成することができる。
すなわち、薄膜形成方法は、
(D)成膜容器内に有機金属ガスを導入して、基板上に有機金属の成分を吸着させるステップと、
(E)前記成膜容器内に酸化ガスまたは窒化ガスを導入してプラズマを発生し、基板に吸着した有機金属の成分を酸化または窒化させるステップと、
(F)前記プラズマを発生させたとき、前記基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出するステップと、
(G)検出した前記発光強度の値が所定値以下になるとき、プラズマの発生を停止するステップと、を有する。
【0012】
前記発光強度を検出するとき、プラズマを発生させる発生手段に高周波電力を供給するときの反射電力を計測し、この反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、前記発光強度の値の検出を開始することが好ましい。
また、前記発光強度を検出するとき、655.3〜657.3nmを透過帯域として含むバンドパスフィルタを用いて発光強度を検出することが好ましい。
また、前記プラズマの発生は、アンテナ、誘導電極、または平行平板電極、すなわち、電磁波結合型、誘導結合型、または容量結合型のプラズマ発生源を用いて行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
上述の原子層成長装置および薄膜形成方法では、基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出し、検出した発光強度の値が所定値以下になるとき、プラズマ発生源への高周波電力の供給を停止する。このように、基板は、必要な時間のみプラズマに晒されるので、プラズマの発生密度分布に対応して不均一に薄膜が形成されることはない。つまり、薄膜の厚さや特性が均一になるように、薄膜を形成し、かつこの薄膜を効率よく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の原子層成長装置の一実施例であるALD装置の構成を表す概略図である。
【図2】図1に示すALD装置におけるアンテナアレイと給電ユニットを説明する図である。
【図3】(a)は、光検出センサで検出される光強度の時間変化の一例を示すグラフであり、(b)は、反射電力の時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の原子層成長装置および薄膜形成方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の原子層成長装置の一実施例であるALD装置の構成を表す概略図である。図2は、図1に示すALD装置におけるアンテナアレイと給電ユニットを説明する図である。
【0016】
図1に示すALD装置10は、TMA(Tri-Methyl Aluminum)等の水素を有する有機金属の原料ガスとOを含む酸化ガスとが用いられて薄膜を形成する。その際、有機金属の原料ガスと酸化ガスを成膜対象の基板42上に交互に供給する。酸化ガスを供給する時、反応活性を高めるために、Oを含む酸化ガスを用いてプラズマを発生させて基板上に原子層単位で金属酸化物の薄膜を形成する。上記処理を1サイクルとして、処理を複数サイクル繰り返すことにより所望の厚さの薄膜を形成する。なお、酸化ガスの替わりに窒化ガスを用いることもできる。TMAを有機金属として用いた場合、基板上にAl23の薄膜が形成される。
【0017】
ALD装置10は、給電ユニット11と、成膜容器12と、ガス供給部14,15と、真空ポンプなどの排気部16,17と、を有して構成される。以下、基板上に酸化膜を形成する場合を例に挙げて説明するが、窒化膜の場合も同様である。
【0018】
給電ユニット11は、成膜容器12に設けられている後述するアンテナアレイの各アンテナ素子26に電力(高周波信号)を供給するユニットである。給電ユニット11は、光検出センサ11aと、制御部11bと、反射電力計測部11cと、電力供給部34と、分配器36と、を有する。
図2に示すように、分配器36は、電力供給部34で生成された高周波信号を各アンテナ素子26に供給する。分配器13から各アンテナ素子26にいたる給電線の長さは同じである。
【0019】
ガス供給部14は、供給管18を介して、成膜容器12の一方の側壁(図中左壁)に形成された供給孔20に接続されている。ガス供給部14は、供給管18および供給孔20を介して、成膜容器12内に原料ガスである有機金属のガスまたは酸化ガスを水平方向に供給する。また、ガス供給部15は、供給管19を介して、成膜容器12の上壁に形成された供給孔21に接続されている。ガス供給部15は、供給管19および供給孔21を介して、成膜容器12内に酸化ガスまたは原料ガスである有機金属ガスを基板に対して垂直方向に供給する。原料ガスの供給と酸化ガスの供給は交互に行われる。
【0020】
一方、排気部16は、排気管22を介して、成膜容器12の、右壁に形成された排気孔24に接続されている。排気部16は、排気孔24および排気管22を介して、成膜容器12内に交互に供給された原料ガスおよび酸化ガスを水平方向に排気する。また、排気部17は、排気孔25および排気管23を介して、成膜容器12内を鉛直方向に真空引きする。原料ガスの排気と酸化ガスの排気は交互に行われる。
【0021】
図示されないが、供給管18,19の途中には、ガス供給部14,15と成膜容器12との導通を制御する開閉弁(例えば、電磁弁)が設けられ、排気管22,23の途中には、それぞれ、排気部16,17と成膜容器12との導通を制御する開閉弁が設けられている。
【0022】
ガス供給部14から成膜容器12の成膜室28内に原料ガスを供給する場合には供給管18の開閉弁が開放され、成膜室28内にガスを供給する。ガス供給部15から成膜容器14の成膜室28内に酸化ガスを供給する場合には供給管19の開閉弁が開放され、ガスを供給する。供給されたガスを排気する場合には排気管22の開閉が開放される。一方、成膜容器12を真空引きする場合には排気管23の開閉弁が開放される。
【0023】
成膜容器12は、金属製の中空箱形の形状を成して、接地されている。成膜容器12の内部には、上壁側から下壁側に向かって順に、所定径の複数の孔が開孔された金属製板状のシャワーヘッド29、複数のアンテナ素子26からなるアンテナアレイ、ヒータ30を内蔵する基板ステージ32が配設されている。成膜容器12とシャワーヘッド29は接地されている。アンテナアレイは、アンテナ素子26が配列される仮想平面が基板ステージ32と平行になるように配設されている。
【0024】
シャワーヘッド29は、例えば、矩形の金属製のものである。図1に示すように、シャワーヘッド29は、成膜容器12の上壁とアンテナアレイとの間に、基板ステージ32と平行に、成膜容器12の内壁面に取り付けられている。シャワーヘッド29に形成された複数の孔は、複数のアンテナ素子26の各々の両側(図中左右)の位置に間歇的に(所定の間隔毎)設けられている。この複数の孔の形状は、複数のアンテナ素子26の各々の長手方向(図中紙面に垂直な方向)に沿った細長い形状である。
【0025】
ガス供給部15から成膜室28内に供給された酸化ガスは、成膜室28の上壁とシャワーヘッド29の上面との間の空間に拡散された後、シャワーヘッド29に形成された複数の孔を介して、成膜容器12の上側から下側に向けてシャワーヘッド29の下側の空間に導入(供給)される。
【0026】
アンテナアレイは、酸化ガスを用いてプラズマを発生させるものであり、成膜容器12の、供給孔20が形成された左壁と、排気孔24が形成された右壁との間で、かつ、シャワーヘッド29と基板ステージ32との間の空間に、基板ステージ32の面に平行に設けられ、かつ、複数のアンテナ素子26が一定の間隔で平行に配設されている。複数のアンテナ素子26のそれぞれは、酸化ガスを供給する、シャワーヘッド29の複数の孔の直下に来ないように、成膜容器12の横方向(図1中、左右方向)にずらして設けられている。
【0027】
図2に示すように、電力供給部34で発生されたVHF帯(例えば、80MHz)の高周波信号(高周波電力)が分配器36に供給され、分配器36において、高周波信号が分割される。これらの高周波信号が複数のアンテナ素子26の突出する基部に、インピーダンス整合器38を介して供給される。インピーダンス整合器38は、プラズマの発生中にアンテナ素子26の負荷の変化によって生じるインピーダンスの不整合を調整する。
【0028】
なお、アンテナ素子26は、例えば、銅、アルミニウム、白金等の導電性の棒状のモノポールアンテナ(アンテナ本体)39が、例えば、石英やセラミックなどの誘電体からなる円筒部材40に収納されて構成されている。アンテナ本体39を誘電体で覆うことにより、アンテナとしての容量とインダクタンスが調整され、アンテナ本体39の長手方向に沿って高周波信号を効率よく伝播させることができ、アンテナ素子26から周囲に電磁波を効率よく放射させることができる。
【0029】
アンテナ素子26のそれぞれは、供給孔20から基板ステージ32に向けて供給される原料ガスの流れ方向に対して直交する方向に延び、かつ、電気的に絶縁されて成膜容器12の側壁から突出するように取り付けられている。また、アンテナ素子26のそれぞれは、一定の間隔、例えば50mm間隔で平行に配設されており、隣接したアンテナ素子26間の給電位置が互いに対向する側壁になるように設けられている。
また、アンテナ素子26のそれぞれは、基板ステージ32の基板載置面と平行な方向に配置される。さらに、複数のアンテナ素子26の配列方向は基板ステージ32の基板載置面と平行な方向である。
【0030】
アンテナ素子26は、例えば直径約6mmのアンテナ本体を、直径約12mmの誘電体の円筒部材中に設けて構成されている。成膜容器12内の圧力が20Pa程度の場合、給電ユニット11から約1600Wの高周波信号を供給すると、アンテナ素子26のアンテナ長が高周波信号の波長の(2n+1)/4倍(nは0または正の整数)に等しい場合に定在波が生じて共振し、アンテナ素子26の周囲に電磁波が放射されプラズマが発生する。
基板ステージ32は、成膜容器12の内壁面よりも小さい寸法の、例えば矩形の金属板であり、図示されないパワーシリンダ等の昇降機構により上下に昇降される。基板ステージ32には、薄膜を形成する基板42が載置される。
【0031】
給電ユニット11は、光検出センサ11aと、制御部11bと、反射電力計測部11cと、電力供給部34と、分配器36と、を有する。
基板ステージ32に載置された基板42の上方の、成膜容器12の側壁には、石英等の透明部材により観測窓33が設けられている。
光検出センサ11aは、成膜容器12の外側の、観測窓33に対応する部分に設けられている。光検出センサ11aの受光面の前面には、所定の波長の光を透過するバンドパスフィルタが設けられている。これにより、光検出センサ11aは、特定の波長の光を受光して発光強度を検出するように構成されている。光検出センサ11aで出力した信号は、制御部11bに送られる。バンドパスフィルタは、656.3nmの水素ラジカルの発光を主に検出するために、655.3〜657.3nmの波長帯域を少なくとも透過帯域とする。
【0032】
このように成膜容器12に観測窓33を設けて、所定の波長の光を検出するのは、以下の理由による。
すなわち、プラズマ中で酸化ガスから解離生成した酸素ラジカルが、基板42上に吸着した水素原子を有する有機金属分子と反応し、その際に生成する水素ラジカルがプラズマ中で励起され特定の光を放出する。光検出センサ11aはこの放出した光を検出し、この検出結果がプラズマの発生の制御に用いられる。
【0033】
基板に吸着された有機金属の成分が、酸素ラジカルを用いて酸化されるとき、水素ラジカルが発生し、この水素ラジカルがプラズマ中で励起されたとき、特定の波長の光を発光する。TMA等の有機金属には水素原子が含まれているため、この有機金属の成分が吸着された基板上で酸化反応が生じると、基板表面に吸着した有機金属の水素原子は金属原子から分離され、その替わり酸素ラジカルが金属と結合して金属原子は酸化する。この分離した水素ラジカルは、プラズマ中で励起される。この水素ラジカルが安定化するとき発光する。この水素ラジカルの発光は、酸素ラジカルが有機金属の成分と反応する時に生じるので、水素ラジカルの発光を検出しこの光の強度変化を調べることにより、金属の酸化反応の進行を知ることができる。この酸化反応が終わると、酸素ラジカルを供給しても、もはや基板上で酸化は進行しない。このため、これ以降プラズマの発生を持続させる必要はない。プラズマの発生を続けると、逆にプラズマにより形成された酸化膜がダメージを受ける可能性が高くなる。したがって、水素ラジカルの発光強度を検出することで、酸化反応の進行を知ることができ、この酸化反応の進行が終了すると、プラズマの発生を終了するように制御する。
【0034】
反射電力計測部11cは、電力供給部34からの高周波信号の電圧と電流を計測することにより、アンテナ素子26で反射する反射電力を計測する。計測した反射電力は制御部11bに送られる。反射電力を計測するのは、高周波電力の給電によってプラズマの発生開始時期を知るためである。プラズマの発生は、高周波電力の給電で直ちに開始する訳ではなく、共振を起こして反射電力が低下した時点でプラズマは発生する。そのとき、共振するまでの時間は変動する。したがって、このプラズマの発生開始のタイミングを知り、反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、光検出センサ11aによる発光強度の値の検出を開始する。
【0035】
制御部11bは、このようなプラズマの発生開始時期を判定し、光検出センサ11aによる発光強度の値の検出を開始し、発光強度の検出結果に応じて高周波信号の供給を停止する制御を行う。
電力供給部34は、制御部11bの指示に応じて、例えば、80MHz等の高周波信号を生成する部分である。
【0036】
図3(a)は、光検出センサ11aで検出される発光強度の時間変化の一例を示すグラフである。0秒において、アンテナ素子26への高周波信号の供給を開始し、その後、プラズマが発生し、水素ラジカルによる発光がT1秒に開始する。すなわち、酸化反応が開始する。その後、発光強度はピーク(ピーク時の発光強度Pmax)を迎えた後、発光強度Pmaxのα倍(αは0より大きく1以下の所定値)により定めた閾値を発光強度がT2秒に横切る。このとき、図3(b)に示すように、反射電力は略T1秒で反射電力は予め設定された値以下になる。すなわち、略T1秒でプラズマの発生は開始する。
制御部11bは、このようなとき、T1秒を酸化反応の開始時期とし、T2秒を酸化反応の終了時期として、光検出センサ11aの光強度の検出および電力供給部34の電力の供給を制御する。
上記例において、プラズマ発生時間は(T2−T1)秒であり、例えばαを1/e(eは、自然対数の底)としたとき、プラズマ発生時間(T2−T1) 秒は略数10m秒である。このプラズマ発生時間は、従来のような数100m秒〜数秒に固定されたプラズマ発生時間に比べて極めて短い。
【0037】
このようにして、酸化した薄膜を原子層単位で形成することを複数回繰り返して所望厚さの薄膜を形成する。
上記実施形態では、光検出センサ11aを用いて酸化反応の進行を、水素ラジカルの発光により知ることができるので、酸化反応が終了した状態を知ることができる。また、基板に形成された薄膜は、プラズマに不必要に長時間晒されないので、薄膜の膜厚および特性が従来に比べて均一になる。さらに、不必要なプラズマ発生時間がなくなるので薄膜の形成を短時間に効率よく行うことができる。
【0038】
このようなALD装置10では、まず、成膜容器12内に水素を含む有機金属のガスをガス供給部14から導入して、基板42上に有機金属の成分を吸着させる。その後、成膜容器12内にOを含む酸化ガスをガス供給部15から導入し、それと同時に、アンテナ素子26に給電してプラズマを発生させる。これによって生成される酸素ラジカルを用いて、基板に吸着した有機金属の成分を酸化させる。
プラズマが発生し、酸化反応が発生したとき、基板上で水素ラジカルが発生する。この水素ラジカルが励起され安定化するとき発光し、この光の発光強度が、成膜容器12に設けられた観測窓33を介して光検出センサ11aで検出される。制御部11bは、検出した発光強度の値が所定値以下になるとき、プラズマの発生を停止するように、電力供給部34からの電力の供給を停止する。なお、有機金属のガスおよび酸化ガスを交互に置換して流すとき、ガスの置換時、不活性ガス等を流すことにより成膜室28内のガスを正確に入れ替えるようにするとよい。
【0039】
一方、プラズマを発生させるアンテナ素子26に高周波電力を供給するとき、反射電力を計測し、この反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、発光強度の値の検出を開始する。また、発光強度を検出するとき、655.3〜657.3nmを透過帯域として含むバンドパスフィルタを用いて発光強度を検出する。
【0040】
なお、上記実施形態は、酸化ガスを用いて金属酸化膜を形成する場合であるが、酸化ガスの替わりに窒化ガスを用いて金属を窒化させるとき、本発明を適用することもできる。
さらに、プラズマの発生は、プラズマ発生源としてアンテナを用いる電磁波結合型の替わりに、誘導結合型あるいは容量結合型の発生源を用いて行うこともできる。すなわち、プラズマを発生させる装置であれば特に制限されない。
【0041】
以上、本発明の原子層成長装置および薄膜形成方法について詳細に説明したが、本発明の原子層成長装置および薄膜形成方法は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0042】
10 ALD装置
11 給電ユニット
11a 光検出センサ
11b 制御部
11c 反射電力計測部
12 成膜容器
14,15 ガス供給部
16,17 排気部
22,23 供給管
24,25 排気孔
26 アンテナ素子
28 成膜室
29 シャワーヘッド
30 ヒータ
32 基板ステージ
38 インピーダンス整合器
39 モノポールアンテナ
42 基板
40 円筒部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素を含む有機金属の成分を吸着した基板に酸化ガスあるいは窒化ガスを用いてプラズマを発生させて薄膜を形成する原子層成長装置であって、
高周波電力の供給を受けてプラズマを発生させるプラズマ発生源と、このプラズマ発生源に対向する位置に、基板が載置される基板ステージとが配設された成膜容器と、
前記基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出する発光強度検出部と、
前記発光強度検出部で検出した発光強度の値が所定値以下になるとき、前記プラズマ発生源の高周波電力の供給を停止する電力制御部と、を有することを特徴とする原子層成長装置。
【請求項2】
前記電力制御部は、前記プラズマ発生源に供給する高周波電力の反射電力を計測し、反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、前記発光強度の値の検出を開始する、請求項1に記載の原子層成長装置。
【請求項3】
前記発光強度検出部は、655.3〜657.3nmを透過帯域として含むバンドパスフィルタを用いて発光強度を検出する、請求項1または2に記載の原子層成長装置。
【請求項4】
前記プラズマ発生源は、アンテナ、誘導電極、または平行平板電極である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の原子層成長装置。
【請求項5】
水素を含む有機金属の成分を吸着した基板に酸化ガスあるいは窒化ガスを用いてプラズマを発生させて薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
成膜容器内に有機金属ガスを導入して、基板上に有機金属の成分を吸着させるステップと、
前記成膜容器内に酸化ガスまたは窒化ガスを導入してプラズマを発生し、基板に吸着した有機金属の成分を酸化または窒化させるステップと、
前記プラズマを発生させたとき、前記基板上で発光する光の所定の波長の発光強度を、成膜容器に設けられた観測窓を介して検出するステップと、
検出した前記発光強度の値が所定値以下になるとき、プラズマの発生を停止するステップと、を有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項6】
前記発光強度を検出するとき、プラズマを発生させる発生手段に高周波電力を供給するときの反射電力を計測し、この反射電力が予め設定された値以下になった時点を基準として、前記発光強度の値の検出を開始する、請求項5に記載の薄膜形成方法。
【請求項7】
前記発光強度を検出するとき、655.3〜657.3nmを透過帯域として含むバンドパスフィルタを用いて発光強度を検出する、請求項5または6に記載の薄膜形成方法。
【請求項8】
前記プラズマの発生は、アンテナ、誘導電極、または平行平板電極のプラズマ発生源を用いて行う、請求項5〜7のいずれか1項に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−186885(P2010−186885A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30325(P2009−30325)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】