説明

双方向スイッチ及びその製造方法

【課題】トレンチゲート構造で共用ドレインを有する2つのMOS型トランジスタから構成される双方向スイッチのオン抵抗の低減を図る。
【解決手段】N型ウエル層2に複数のトレンチ3を形成する。次に前記複数のトレンチ3に挟まれたN型ウエル層2に1列おきにP型ボディ層6を形成する。複数のP型ボディ層6にはN+型第1ソース層7とN+型第2ソース層9を交互に形成する。N+型第1ソース層7を挟む1対のトレンチ3のそれぞれに第1ゲート電極5a、N+型第2ソース層9を挟む1対のトレンチ3のそれぞれに第2ゲート電極5bを形成する。第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3のP型ボディ層6側と反対側の側壁と第2ゲート電極5bが形成された同様の側壁に挟まれたN型ウエル層2を電界緩和層としてのN型ドレイン層11aとする。該N型ドレイン層11aを双方向スイッチのオン電流の流れる電流経路とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレンチ型ゲート構造からなるドレインを共有する2つのMOS型トランジスタで構成される双方向スイッチ及びその製造方法に関し、特に該双方向スイッチのオン抵抗の低減に関する。
【背景技術】
【0002】
リチュームイオン電池等の二次電池では充電された電荷を電流として負荷に供給する場合、一定レベルまで放電が進んだとき過放電を防止すると共に当該リチューム電池等を再度充電する必要がある。また、充電に際しては当該電池等が過充電されないように制御する必要がある。
【0003】
従って、リチューム電池等の充放電状態を管理するため、電流の流れる方向が全く正反対になる充電電流と放電電流を制御する双方向スイッチが必要になる。双方向スイッチとして、当初はドレイン電極同士を接続した2つの単体のMOS型トランジスタを使用していた。
【0004】
この場合、一方のソース電極をリチューム電池等の陰極等に接続し、他方の端子を負荷や充電器に接続して、2つのMOS型トランジスタのゲート電極電位、ソース電極電位等を制御ICで制御し双方向スイッチ動作によりリチューム電池等の充放電電流の管理をしていた。
【0005】
しかし、携帯端末機器の普及に伴い各種部品の小型化が求められ、リチュ−ム電池等の充放電電流を制御する双方向スイッチも、よりコンパクトなものが求められ2つの単体のMOS型トランジスタを1つの半導体チップで構成する単一の双方向スイッチが開発された。該単一の双方向スイッチの例として、特許文献1にプレーナ型ゲート構造の双方向スイッチが開示されている。
【0006】
しかし、プレーナ型ゲート構造の場合、ソース−ドレイン間絶縁破壊電圧BVDS確保のため大きな面積が必要なこと、ゲート電極が半導体チップの水平方向に形成されるためセルの微細化が困難でオン抵抗の低減が難しいという問題がある。それに対して、ゲート電極を半導体チップの垂直方向に形成するトレンチ型ゲート構造を採用しパターンの微細化及びオン抵抗の低減を図る試みが特許文献2、特許文献3に開示されている。
【0007】
トレンチ型ゲートを有する双方向スイッチの断面図を図6に示す。P型半導体基板51にN型ウエル層52が形成される。N型ウエル層52にはP型ボディ層53が形成され、該P型ボディ層53の表面からN型ウエル層52内まで延在するトレンチ54が形成される。
【0008】
トレンチ54内にはその両側壁から底面にゲート絶縁膜55を介して延在する第1ゲート電極56a及び第2ゲート電極56bが形成される。トレンチ54内の第1ゲート電極56aと第2ゲート電極56bの間に挟まれた領域は絶縁膜64で埋め込まれ平坦化される。N型ウエル層52の内、P型ボディ層53の底面の下方のトレンチ54の両側壁からトレンチ54の底面までゲート絶縁膜55を介して延在するN型ウエル層52は両MOS型トランジスタの共通のN型ドレイン層65a、65bを構成する。
【0009】
N型ドレイン層65aは、トレンチ54の下方の第1ゲート電極56aと第2ゲート電極56bの先端部同士の間の部分のN型ドレイン層である。またN型ドレイン層65bは、トレンチ54の両側のP型ボディ層53の下部のトレンチ54の側壁からそれぞれトレンチ53の底面の第1ゲート電極56a、又は第2ゲート電極56bの先端部まで延在するN型ドレイン層である。
【0010】
トレンチ54の両側にはそれぞれのP型ボディ層53にN+型第1ソース層57、N+型第2ソース層58が形成される。また、N+型第1ソース層57及びN+型第2ソース層58のそれぞれに、それぞれのP型ボディ層53と接続されるP+型第1コンタクト層59、P+型第2コンタクト層60が形成される。
【0011】
N+型第1ソース層57等上に層間絶縁膜61が形成され、層間絶縁膜61に形成されたコンタクトホールを介してN+型第1ソース層57等と接続する第1ソース電極62及びN+型第2ソース層58等と接続する第2ソース電極63が形成される。ゲート電極56も層間絶縁膜61に形成された不図示のコンタクトホールを介して層間絶縁膜61上に引き出される。
【0012】
図7は双方向スイッチの等価回路図である。双方向スイッチは共有ドレイン層Dで連結された2つのMOS型トランジスタで構成される。図7(a)は双方向スイッチがオン状態のときの各電極の電位を示している。第1ソース電極S1に高電圧Vが印加され、第2ソース電極S2に低電圧Vが印加される。
【0013】
なお、図6と対応させた場合、S1は第1ソース電極62、S2は第2ソース電極63、Dは共用ドレイン層65a+65b、G1は第1ゲート電極56a、G2は第2ゲート電極56bを示すので以下には図6の記号を使用して説明を進める。
【0014】
第1ゲート電極56aにV+Vt(閾値電圧)以上の電圧を印加し、第2ゲート電極56bにV+Vt以上の電圧を印加することにより、ゲート電極56a、56bとゲート絶縁膜55を介して隣接する図6に示すそれぞれのP型ボディ層53のゲート絶縁膜55との界面に不図示のN型チャネル層が形成される。
【0015】
その結果、高電位の第1ソース電極62から第1ソース電極62側のチャネル層をとおり共有ドレイン層65a+65bにオン電流が流れる。共有ドレイン層65a+65bに流れ込んだオン電流は第2ソース電極63側のP型ボディ層53に形成されたチャネルを経由し低電位の第2ソース電極63に流れ込む。即ち、第1ソース電極62から第2ソース電極63に向かう1つの電流経路ができる。
【0016】
逆に、第2ソース電極63に高電圧VHを、第1ソース電極62に低電圧Vを印加し、各ゲート電極56a、56bに適切な電圧を印加することにより、第2ソース電極63から第1ソース電極62に向かう電流経路ができる。即ち、各電極に印加する電圧を適切に設定する事により双方向スイッチ動作が可能となる。
【0017】
図7(b)は双方向スイッチに流れている電流を遮断しオフ状態にするときの各電極への印加電圧を表示している。高電圧Vが印加されている第1ソース電極62側の第1ゲート電極に対する印加電圧をV+VtからVHに、低電圧Vが印加されている第2ソース電極側の第2ゲート電極56bの印加電圧をV+VtからVに低下させている。
【0018】
この結果、双方のチャネル層が消滅しオン電流が遮断されオフ状態になる。この場合、双方向スイッチを構成する両MOS型トランジスタにはP型ボディ層53とN型ウエル層52の間で寄生ダイオードが形成されているが低電圧Vが印加されている側の寄生ダイオードに逆バイアスが印加された状態になるため寄生ダイオードを経由する電流も遮断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平11−224950号公報
【特許文献2】特開2004−274039号公報
【特許文献3】特開2002−118258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述の双方向スイッチはトレンチ型ゲート構造を採用しているため、微細化が可能となり電流駆動能力も高くオン状態でのオン抵抗も低い。しかし、機器の小型化の更なる進展等に伴う双方向スイッチに対する一層の低オン抵抗の要求に対しては必ずしも十分なものとはいえない。双方向スイッチのオン状態での更なる低オン抵抗の実現が課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の双方向スイッチは、第2導電型の半導体基板上に形成された第1導電型の第1の半導体層と、前記第1の半導体層に形成された複数のトレンチと、前記トレンチ内にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンからなるゲート電極と、複数の前記トレンチのそれぞれに挟まれた前記第1の半導体層に一列おきに形成された複数の第2導電型のボディ層と、複数の前記ボディ層に交互に形成された第1導電型の第1ソース層及び第2ソース層と、前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁間に挟まれた前記第1の半導体層からなる共用ドレイン層と、を具備することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の双方向スイッチは、前記共用ドレイン層の幅が所望のソース−ドレイン間絶縁破壊電圧が得られる幅であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の双方向スイッチは、前記双方スイッチがオン状態のとき、オン電流が前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁面に形成されたそれぞれの電荷蓄積層の一方側から他方側に、該2つのトレンチに挟まれた前記第1の半導体層からなる前記共用ドレイン層を面状に流れることを特徴とする。
【0024】
本発明の双方向スイッチの製造方法は、第2導電型の半導体基板上に第1導電型の第1の半導体層を形成する工程と、前記第1の半導体層に複数のトレンチを形成する工程と、前記トレンチ内にゲート絶縁膜を介してポリシリコンからなるゲート電極を形成する工程と、複数の前記トレンチのそれぞれに挟まれた前記第1の半導体層に一列おきに複数の第2導電型のボディ層を形成する工程と、複数の前記ボディ層に交互に第1導電型の第1ソース層及び第2ソース層を形成する工程と、前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁間に挟まれた前記第1の半導体層で共用ドレイン層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0025】
また、本発明の双方向スイッチの製造方法は、前記共用ドレイン層の幅を所望のソース−ドレイン間絶縁破壊電圧が得られる幅に形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の双方向スイッチによれば、双方向スイッチを構成する2つのMOS型トランジスタの各ゲート電極が形成された両トレンチの側壁間をオン電流の電流経路として利用することが可能になった。従って、従来の双方向スイッチよりもオン抵抗を低減することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態における双方向スイッチ及びその製造方法を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態における双方向スイッチのオン電流の電流経路を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態における双方向スイッチのオフ状態での空乏層の拡がりを模式的に示す断面図である。
【図4】双方向スイッチの構造別に規格化されたソース−ドレイン間絶縁破壊電圧BVDSと規格化されたオン抵抗の関係を示すグラフである。
【図5】本実施形態の第1、第2ゲート電極と同じ構成で両ゲート電極間に絶縁膜を充填した双方向スイッチを示す断面図である。
【図6】従来の双方向スイッチを示す断面図である。
【図7】ドレインを共有する2つのMOS方トランジスタからなる双方向スイッチのオン状態時及びオフ状態時の各電極のバイアス状態を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の実施形態について図1に基づいて説明する。図1は本実施形態における双方向スイッチの断面図である。P型半導体基板1にN型ウエル層2が形成される。N型ウエル層2にはその表面から複数のトレンチ3が形成され、各トレンチ3間に挟まれた領域のN型ウエル層2には1列おきにP型ボディ層6が形成される。
【0029】
各P型ボディ層6には交互にN+型第1ソース層7、P+型第1コンタクト層8及びN+型第2ソース層9、P+型第2コンタクト層10が形成される。N+型第1ソース層7等を挟む左右のトレンチ3にはゲート絶縁膜4を介して第1ゲート電極5aが形成され、N+型第2ソース層9等を挟む左右のトレンチ3にはゲート絶縁膜4を介して第2ゲート電極5bが形成される。
【0030】
第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3と第2ゲート電極5bが形成されたトレンチ3の間にゲート絶縁膜4を介して挟まれたN型ウエル層2は、各トレンチ3の底面から側面にゲート絶縁膜4を介して延在するN型ウエル層2と共に電界緩和層として機能するN型ドレイン層11aを構成する。
【0031】
トレンチ3の側壁のゲート絶縁膜4とP型ボディ層6との界面には、第1ゲート電極5a、第2ゲート電極5bに適切な電圧が印加されたときN型反転層からなるチャネル層が形成される。また、トレンチ3の側壁のゲート絶縁膜4と電界緩和層たるN型ドレイン層11a,11bの界面には適切な電圧が印加されたときN型蓄積層が形成される。
【0032】
このように、2つのトレンチ3に形成されたゲート電極5a、5b間にゲート絶縁膜4を介して挟まれた間隔xのN型ウエル層2をN型ドレイン層11aの一部として構成し、双方向スイッチがオン状態のときのオン電流の電流経路に利用するのが本発明の特徴である。
【0033】
図6に示す従来の双方向スイッチでは2つのゲート電極56a、56b間に絶縁膜64しか存在しない。従って、オン電流は2つのゲート電極56a、56b間の間隔xの絶縁膜64を電流経路として利用できない。トレンチ54の底面にゲート絶縁膜55を介して延在するN型ドレイン層65a、65bのみがオン電流の経路になる。
【0034】
N+型第1ソース層7等を含む半導体基板1の表面に堆積された層間絶縁膜12に形成されたコンタクトホールを介してN+型第1ソース層7及びP+型第1コンタクト層と接続する第1ソース電極13が形成される。同様に、N+型第2ソース層7及びP+型第2コンタクト層と接続する第2ソース電極14が形成される。ゲート電極5a、5bも同様に不図示のゲート引き出し電極により層間絶縁膜12上に引き出される。
【0035】
係る構成をとる本実施形態の双方向スイッチの動作について図2、図3及び図7に基づいて詳細に説明する。図7は前述の如く双方向スイッチのオン、オフ動作時の各電極に印加されるバイアス電圧状態を示している。図7(a)がオン状態時のバイアス状態、図7(b)はオン状態の双方向スイッチをオフさせる場合のバイアス状態である。
【0036】
双方向スイッチがオン状態のときは高電圧が印加されたソース電極側のゲート電極にはそれより少なくともVt以上高い電圧が印加され、低電圧が印加されたソース電極側のゲート電極にはそれより少なくともVt以上高い電圧が印加される。
【0037】
この結果、両MOS型トランジスタのP型ボディ層6にチャネルが形成され、高電位のソース電極側から低電位のソース電極側に向かってオン電流が流れる。いずれのソース電極を高電位にするかにより双方向にオン電流を流す双方向スイッチとして動作する。
【0038】
図2は第1ソース電極13に高電圧Vを、第1ゲート電極5aにV+Vt印加し、第2ソース電極14に低電圧Vを、第2ゲート電極5bにV+Vtを印加して、双方向スイッチをオン状態にしたときの第1ソース電極13から第2ソース電極14に至るオン電流の電流経路を矢印で示している。
【0039】
第1ゲート電極5aに対して第1ソース電極13とP+型第1コンタクト8で連結されたP型ボディ層6の電位Vより高い電圧V+Vtが印加されるため、該P型ボディ層6のゲート絶縁膜4との界面領域に不図示のN型第1チャネル層が形成される。また、N型ウエル層2の一部で構成するN型ドレイン層11a、11bのゲート絶縁膜4との界面領域には、同図に示すように、高電位のゲート電極5aにより電子が吸い寄せられN型第1蓄積層15が形成される。
【0040】
第2ゲート電極5bのゲート絶縁膜4との界面のN型ドレイン層11a、11bにも同様にN型第2蓄積層16が形成され、第2ゲート電極5bのゲート絶縁膜4との界面のP型ボディ層6には不図示のN型第2チャネル層が形成される。同図ではN型第1蓄積層15、N型第2蓄積層16の幅は電流の流れが分かるように誇張して表示している。
【0041】
第1ソース電極13から第2ソース電極14に至るオン電流の電流経路は以下の如くである。先ず、第1ソース電極13からN+型ソース層7に流入したオン電流は矢印に示すように不図示のN型第1チャネル層を経由してP型ボディ層6の下方のN型ドレイン層11bのゲート絶縁膜4の界面に形成されたN型第1蓄積層15に流入する。
【0042】
N型第1蓄積層15に流入したオン電流の多くはトレンチ3の底面の下方に形成された低抵抗のN型第1蓄積層15内を流れる。一部はN型第1蓄積層15からN型ドレイン層11b、11aに流れ出て第2ゲート電極5bが形成されたトレンチ3の下方のN型ドレイン層11bに向かって流れる。
【0043】
トレンチ3の底面の下方に形成された低抵抗のN型第1蓄積層15内を流れるオン電流は、主として第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3のN型第1チャネル層が形成された側壁と対峙する側壁の外側のN型ドレイン層11aにゲート絶縁膜4を介して形成されたN型第1蓄積層15内に流れ込む。
【0044】
オン電流の一部はトレンチ3の側壁に形成されたN型第1蓄積層15を経由せず、直接第2ゲート電極5bが形成されたトレンチ3の底面のN型第2蓄積層16、またはN型ドレイン層11bに向かって、両トレンチ3間の下層領域のN型ドレイン層11aを経由して流れる。
【0045】
第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3の側壁に形成されたN型第1蓄積層15内に流れ込んだオン電流は、矢印で示すように、2つのトレンチ3に挟まれたN型ドレイン層11a内を、他方のトレンチ3の側壁にゲート絶縁膜4を介して形成されたN型第2蓄積層16に向かって流れる。即ち、オン電流は両トレンチ3の広い面積を有する側壁面の間のN型ドレイン層11aを面状になって流れる。
【0046】
それに対して、従来の双方向スイッチの場合、図6に示すトレンチ54の下方のN型ドレイン層65a、65bだけが電流経路になり得、絶縁膜64で埋め込まれたゲート電極56aとゲート電極56b間は電流経路となり得ない。このため、広い電流経路を実現した本実施形態の双方向スイッチのオン抵抗は、従来の狭い電流経路の双方向スイッチのオン抵抗に比べて低くなる。これが本実施形態の特徴である。
【0047】
第2ゲート電極5bが形成されたトレンチ3の側壁のN型第2蓄積層16に流れ込んだオン電流は該N型第2蓄積層16内をトレンチ3の底面側のN型第2蓄積層に向かって流れN型第1蓄積層、N型第2蓄積層の外側のN型ドレイン層11bを流れてきたオン電流と共に不図示のN型第2チャネル層を経由してN+型ソース層9から第2ソース電極14に流れ込む。このようにして第1ソース電極13から第2ソース電極14に至る双方向スイッチのオン電流の電流経路が形成される。
【0048】
次に、オン状態の双方向スイッチをオフ状態にした場合の双方向スイッチの絶縁破壊電圧がどこで決定されるか検討する。オン状態の双方向スイッチをオフ状態にするためには前述したように、図3で示せば、低電圧Vが印加された第2ソース電極14側の第2ゲート電極5bの電圧をオン状態のV+VtからVに落とし、高電圧Vが印加された第1ソース電極13側の第1ゲート電極5aの電圧をオン状態のV+VtからVに落とす。
【0049】
この場合、第1ソース電極13、第1ゲート電極5a及び第1ソース電極13とP+型第1コンタクト層8で連結されるP型ボディ層6の電位は高電位Vになる。また、第2ソース電極14、第2ゲート電極5b及び第2ソース電極14とP+型第2コンタクト層10で連結されるP型ボディ層6の電位は低電位Vになる。
【0050】
この結果、図3に概略で円弧状の波形で示す空乏層18が低電位側のP型ボディ層6から主に電界緩和層であるN型ドリフト層11b、11a側に向かって拡がる。両トレンチ3の側壁間に挟まれた領域のN型ドレイン層11aにもその幅一杯空乏層18が拡がっている。
【0051】
空乏層18は、第1ゲート電極5aが高電位になっているため該第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3の底面のP型ボディ層6が形成された側の反対側のコーナー部で拡がりが悪くなり、双方向スイッチの絶縁破壊電圧が決定されるとも思われる。
【0052】
しかし、両トレンチ3間の電界緩和層であるN型ドレイン層11aには両ゲート電極5a、5b間の電位差V―Vによる電界が印加される。この電界は両トレンチ3のそれぞれのゲート絶縁膜4と両ゲート絶縁膜4に挟まれた電界緩和層たるN型ドレイン層11aで負担する。ゲート絶縁膜4が薄い場合、その大部分は両ゲート絶縁膜4に挟まれた電界緩和層たるN型ドレイン層11aで負担することになる。
【0053】
N型ドレイン層11aの幅も含む前述の低電位のP型ボディ層6から高電位の第1ゲート電極5aが形成されたトレンチ3の底面までの距離に比べ、両トレンチ3間に挟まれた領域の電界緩和層たるN型ドレイン層11aの幅は小さい。従って、両トレンチ3間のN型ドレイン層11aの絶縁破壊がより早く起こる。結論として、双方向スイッチのオフ状態での絶縁破壊電圧BVDSは図1で示す両トレンチ3間に挟まれたN型ドレイン層11aの幅xで決定される。
【0054】
このことは図6に示す従来の1つのトレンチ54の両側壁にスプリット型の第1ゲート電極56a、第2ゲート電極56bを形成した場合も同じである。双方向スイッチの絶縁破壊電圧はトレンチ54の底面でのゲート電極56aと56bの間の距離で決まる。即ち、両ゲート電極56a、56bが形成されたトレンチ54底面に絶縁膜55を介して延在するN型ドレイン層65a、65bの内、同図に示す両ゲート電極56aと56bで挟まれた幅xのN型ドレイン層65aで決定される。
【0055】
従って、従来構造のスプリット型ゲート電極でその間に絶縁膜64を充填した構造でも、本実施形態の独立した2つのゲート電極の間にN型ドレイン層11aを挟んだ構造でも、双方向スイッチのオフ時の絶縁破壊電圧BVDSは、両ゲート電極間の距離xが同一である限り同様な値になる。
【0056】
それに対して、本実施形態の双方向スイッチがオン状態のときのオン抵抗は従来構造の双方向スイッチのオン抵抗に比べて改善される。図4に基づいてオン抵抗が改善される様子を説明する。図4は横軸に双方向スイッチの絶縁破壊電圧BVDSをとり縦軸に双方向スイッチのオン抵抗をとってその相関関係を示している。従来構造A、本実施形態の構造B、本実施形態と同様の独立したゲート電極であって両トレンチ間をN型ドレイン層11aの代わり絶縁膜17で充填した図5に示す構造Cで比較している。
【0057】
いずれの構造も両ゲート電極5a、5b間のN型ドレイン層11aの幅は同程度に構成している。ゲート電極の幅は従来構造に対して本実施形態では2倍程度の幅にしている。構造Bと構造Cはゲート電極の幅は同一として両ゲート電極間をN型ドレイン層11aで充填した場合と絶縁膜17で充填した場合のオン抵抗の差を示している。
【0058】
同図から全体構造は同一としたままで両ゲート電極間を充填する材料を従来の絶縁膜17にした構造CからN型ドリフト層11aに代えた構造Bにすることによるオン抵抗の低減の様子が確認できる。オン抵抗の改善割合は絶縁破壊電圧BVDSが高くなるほど大きい。
【0059】
同図にはゲート電極の幅が本実施形態の半分程度の従来構造Aのオン抵抗が示される。従来構造Aはゲート電極の幅が狭くなった分だけN型ドレイン層11bの部分の距離が短くなっている。高抵抗のN型ドレイン層11bが短くなれば従来構造のオン抵抗が低くなるのが当然であるがゲート電極5a、5bの幅が大きくN型ドレイン層11bの距離が長い本実施形態のほうがオン抵抗は低くなっている。
【0060】
両ゲート電極5a、5bの間を従来のように絶縁膜17で埋め込む方式から本実施形態で示すようにN型ドリフト層11aで埋め込むことによりオン電流の電流経路が広くなり双方向スイッチのオン抵抗が大きく改善された結果である。同図から特に絶縁破壊電圧BVDSの高い双方向スイッチにおいてその効果が大きいことがわかる。
【0061】
なお、本実施形態のゲート電極5a、5bの幅を従来の双方向スイッチのゲート電極56a、56bと同じ幅まで縮めれば、従来の双方向スイッチのオン抵抗から構造Cから構造Bへのオン抵抗の改善割合と同様の改善が可能である。
【0062】
本実施形態に係る双方向スイッチの製造方法について図1に基づき以下に簡単に説明する。先ず、P型半導体基板1を準備し、該P型半導体基板1に所定の方法でリン(P)等を熱拡散してN型ウエル層2を形成する。N型ウエル層2の代わりに所定の方法によりN型エピタキシャル層を形成しても良い。
【0063】
次にN型ウエル層2の表面から内部に延在する複数のトレンチ3を所定の異方性エッチング等により形成する。次に、所定の熱酸化法等によりトレンチ3の内壁からP型半導体基板1の表面に延在するゲート絶縁膜4を形成する。ゲート絶縁膜4はシリコン酸化膜またはシリコン酸化膜とその他の絶縁膜の多層膜としてもよい。
【0064】
次に、所定のCVD法等によりトレンチ3の内部を埋設しP型半導体基板1の表面に延在するポリシリコン膜を形成し、該ポリシリコン膜にリン(P)等を熱拡散等する。次に
該ポリシリコン膜を所定のエッチバックすることにより、トレンチ3にポリシリコンからなる複数の第1ゲート電極5a、第2ゲート電極5bを形成する。
【0065】
その後、酸化膜を形成し、2つのトレンチ3に挟まれた複数のN型ウエル層2の1つおきにレジストマスク等を使用し所定のイオン注入法等によりボロン(B)を注入しP型ボディ層6を形成する。P型ボディ層6はトレンチ3の側壁の所定の深さまで形成する。
【0066】
次に複数のP型ボディ層6に所定のレジストマスク等を使用して所定のイオン注入法により砒素(As)等を注入し、該P型ボディ層に交互にN+型第1ソース層7、N+型第2ソース層9を形成する。所定のレジストマスク等を使用して所定のイオン注入法によりボロン(B)等をイオン注入しN+型第1ソース層7にはP+型第1コンタクト層8、N+型第2ソース層9にはP+型第2コンタクト層10を形成する。
【0067】
次に、層間絶縁膜12を所定のCVD法等により形成し、該層間絶縁膜12に所定の方法で形成されたコンタクトホールを介してN+型第1ソース層7等に接続する第1ソース電極13を、N+型第2ソース層9と接続する第2ソース電極を所定のスパッタ法、フォトエッチング法により形成する。また、不図示ではあるが、ゲート電極に対して所定の方法で形成されたコンタクトホールを介して接続するゲート引き出し電を形成する。
【0068】
必要に応じ多層配線構造とし、最上層にパッシベーション膜を堆積等することにより所定の双方向スイッチが完成する。通常のMOS方トランジスタの製造方法と概略同様の方法で製造することができる。
【0069】
ここで、2つのトレンチ3の側壁に挟まれたP型ボディ層6の形成されていない領域は前述の如くN型ドレイン層11aの一部となり、この間を双方向スイッチのオン電流が広く面状になって流れる。
【符号の説明】
【0070】
1 P型半導体基板 2 N型ウエル層 3 トレンチ 4 ゲート絶縁膜
5a 第1ゲート電極 5b 第2ゲート電極 6 P型ボディ層
7 N+型第1ソース層 8 P+型第1コンタクト層 9 N+型第2ソース層
10 P+型第2コンタクト層 11a,11b N型ドレイン層
12 層間絶縁膜 13 第1ソース電極 14 第2ソース電極
15 N型第1蓄積層 16 N型第2蓄積層 17 絶縁膜
18 空乏層の拡がり 51 P型半導体基板 52 N型ウエル層
53 P型ボディ層 54 トレンチ 55 ゲート絶縁膜
56a 第1ゲート電極 56b 第2ゲート電極 57 N+型第1ソース層 58 N+型第2ソース層 59 P+型第1コンタクト層
60 P+型第2コンタクト層 61 層間絶縁膜 62 第1ソース電極
63 第2ソース電極 64 絶縁膜 65a,65b N型ドレイン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2導電型の半導体基板上に形成された第1導電型の第1の半導体層と、
前記第1の半導体層に形成された複数のトレンチと、
前記トレンチ内にゲート絶縁膜を介して形成されたポリシリコンからなるゲート電極と、
複数の前記トレンチのそれぞれに挟まれた前記第1の半導体層に一列おきに形成された複数の第2導電型のボディ層と、
複数の前記ボディ層に交互に形成された第1導電型の第1ソース層及び第2ソース層と、
前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁間に挟まれた前記第1の半導体層からなる共用ドレイン層と、を具備することを特徴とする双方向スイッチ。
【請求項2】
前記共用ドレイン層の幅が所望のソース−ドレイン間絶縁破壊電圧が得られる幅であることを特徴とする請求項1に記載の双方向スイッチ。
【請求項3】
前記双方スイッチがオン状態のとき、オン電流が前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁面に形成されたそれぞれの電荷蓄積層の一方側から他方側に、該2つのトレンチに挟まれた前記共用ドレイン層を面状に流れることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の双方向スイッチ。
【請求項4】
第2導電型の半導体基板上に第1導電型の第1の半導体層を形成する工程と、
前記第1の半導体層に複数のトレンチを形成する工程と、
前記トレンチ内にゲート絶縁膜を介してポリシリコンからなるゲート電極を形成する工程と、
複数の前記トレンチのそれぞれに挟まれた前記第1の半導体層に一列おきに複数の第2導電型のボディ層を形成する工程と、
複数の前記ボディ層に交互に第1導電型の第1ソース層及び第2ソース層を形成する工程と、
前記第1ソース層と前記第2ソース層の間の2つの前記トレンチの側壁間に挟まれた前記第1の半導体層で共用ドレイン層を形成する工程と、を有することを特徴とする双方向スイッチの製造方法。
【請求項5】
前記共用ドレイン層の幅を所望のソース−ドレイン間絶縁破壊電圧が得られる幅に形成したことを特徴とする請求項4に記載の双方向スイッチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−33552(P2012−33552A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−169462(P2010−169462)
【出願日】平成22年7月28日(2010.7.28)
【出願人】(311003743)オンセミコンダクター・トレーディング・リミテッド (166)
【Fターム(参考)】