説明

可変翼及び表面処理方法

【課題】軸部の耐磨耗性、潤滑性を向上させ、ガスタービン可変静翼の寿命をより向上させる方法を提供する。
【解決手段】可変静翼101の軸部103,111の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層119を一体に備え、コーティング層119は、加工槽内において成形体電極121と軸部103,111との間に微小間隙を保持した状態で、成形体電極121と軸部103,111との間にパルス状の放電を発生させて、成形体電極121の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を軸部103,111の表面に堆積させることによって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、ガスタービンにおける圧縮機に備えた可変静翼の軸や、ターボチャージャにおける可変タービンノズルの可変翼の軸の構造及びその表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のアクセサリ・ドライブ・ギヤボックス200の概略構成を示す断面図である。
【0003】
航空機用のガスタービンのタービン軸によって、発電機、油圧ポンプ等の前記ガスタービンの装備品を駆動するための従来のアクセサリ・ドライブ・ギヤボックス200は筐体202を備えている。
【0004】
また、ギヤ204と一体的に構成された回転軸部材(回転部材)206が、円筒コロ軸受け等の転がり軸受け208を介して、前記筐体202に対して回転自在に設けられている(たとえば、社団法人 日本航空技術協会 発行“新航空工学講座 第8巻 ジェット・エンジン(構造編)”、2000年5月29日 第1版 第6刷 p99 図3−73) 一方、前記アクセサリ・ドライブ・ギヤボックス200よりも回転部材の回転数が大きい減速機等では、前記転がり軸受けの代わりに流体軸受けを使用したものが知られている。
【0005】
また、ガスタービンに備えた圧縮機には可変静翼が備えられており、この可変静翼における軸に磨耗が生じて軸受部とのクリアランスが大きくなると、可変静翼の方向角の精度が低下するので、前記軸の磨耗が大きくなると、可変静翼全体を着脱交換しなければならないものである。
【0006】
そこで、前記軸に対して着脱自在の摩耗スリーブを設けて軸を保護し、前記摩耗スリーブが大きく摩耗したときには、摩耗した摩耗スリーブを新しい摩耗スリーブと交換する構成が提案されている(たとえば、特許文献1)。
【0007】
ところで、前記従来のアクセサリ・ドライブ・ギヤボックス200では、転がり軸受けを用いて軸受けを構成しているので、小さいスペースに軸受けを設置することが困難であるという問題がある。
【0008】
一方、流体軸受けでは、何らかの要因で油膜が一時的に存在しなくなると、筐体と回転部材とが互いに直接接触し、軸受けの耐久性が低くなることがあるという問題がある。
【0009】
前記問題は、アクセサリ・ドライブ・ギヤボックス以外のギヤボックス、さらには、筐体とこの筐体に対して回転自在な回転部材とを備えた機械や装置の軸受け(前記筐体と前記回転部材との間に設けられた軸受け)においても発生する問題である。
【0010】
また、前記特許公報に開示の構成は、図7に示すように、ガスタービンにおけるハウジング141に備えた穴に嵌合した筒状のブッシュ143に、摩耗スリーブ145を着脱可能に備えた可変静翼の軸部147を嵌入し、前記摩耗スリーブ145の外周面と前記ブッシュ143の内周面との間に、低摩擦材料からなる減摩層149を備えた構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−329139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記構成によれば、軸部147は摩耗スリーブ145によって保護されるので、軸部147の摩耗は防止し得るものの、摩耗スリーブ145が摩耗するので、摩耗スリーブ145を着脱交換する必要がある。
【0013】
すなわち、軸部147の摩耗が防止されるので、可変静翼全体を交換する必要はないものの、摩耗スリーブ145の着脱交換を比較的頻繁に行う必要があるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1アスペクトに基づく発明は、軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を一体に備え、前記コーティング層は、成形体電極と前記軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって形成されたことを特徴とする可変翼。
【0015】
本発明の第2アスペクトに基づく発明は、セラミックスの粉末と固体潤滑材の粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮形成した後に仮焼結するように熱処理を行ったものからなる成形体電極を用い、前記成形体電極と可変翼の軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって、前記可変翼の前記軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を形成する表面処理方法。
【0016】
本発明の第3アスペクトに基づく発明は、Tiの粉末とヘキサBNの粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮成形した後に仮焼結するように熱処理を行ったものからなる成形体電極を用い、前記成形体電極と可変翼の軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって、前記可変翼の前記軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を形成する表面処理方法。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るアクセサリ・ドライブ・ギヤボックスの概略構成を示す断面図である。
【図2】図1におけるIIA−IIB断面を示す図である。
【図3】可変翼として、ガスタービンエンジンにおける圧縮機に備えた可変静翼の軸部に、本発明を実施した説明図である。
【図4】可変翼の軸部に、耐磨耗性、潤滑性を有するコーティング層を形成する場合の説明図である。
【図5】コーティング層の構成を示す説明図である。
【図6】従来のアクセサリ・ドライブ・ギヤボックスの概略構成を示す断面図である。
【図7】従来の可変静翼の軸部の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係るアクセサリ・ドライブ・ギヤボックス1の概略構成を示す断面図であり、図2は、図1におけるIIA−IIB断面を示す図である。
【0019】
アクセサリ・ドライブ・ギヤボックス(以下「ギヤボックス」という場合がある)1は、ガスタービンのタービン軸によって駆動されるギヤボックスであり、前記ガスタービンの装備品(発電機、油圧ポンプ等)を駆動するためのものである。
【0020】
アクセサリ・ドライブ・ギヤボックス1は、筐体3を備え、この筐体3は、前記ガスタービンのエンジンケーシングの外側で前記エンジンケーシングに支持されるようになっている。なお、前記エンジンケーシングは、この内部に圧縮機やタービンを備えガス流路を形成するように筒状に形成されている。
【0021】
前記筐体3の内部には、導電性を備えた円柱状の回転部材5が前記筐体3に対して回転自在に設けられている。この回転部材5の長手方向の中間部にはギヤ7が一体的に設けられている。このギヤ7には、前記筐体3に対して回転自在に設けられた他の各回転部材(図示せず)に一体的に設けられた各ギヤ9、11が噛み合っている。なお、そして、前記各ギヤ9、7を介して、ガスタービンのタービン軸の回転力を受け取り、回転部材5が回転するようになっている。なお、回転部材5には、図示しない発電機や油圧ポンプ等の装備品が連結されており、前記回転部材5が回転することによって、前記発電機が発電し、また、前記油圧ポンプが油圧を発生するようになっている。さらに、前記ギヤ7と前記ギヤ11とによって、他の回転部材を回転させることができるようになっている。
【0022】
前記回転部材5のたとえば長手方向の一端部(図1の左側の一端部)側には、前記筐体3の被係合部(円柱側面形状の孔)13と係合した円柱側面形状の係合部15が設けられている。そして、前記係合部15で係合することにより前記筐体3の内部で前記筐体3に対して回転部材5は回転自在になっている。
【0023】
前記筐体3の被係合部13の内径D1は、前記回転部材5の係合部15の外径D3よりも僅かに大きく形成されており、前記筐体3の被係合部13の表面には、潤滑油等の潤滑液を蓄えるための複数の溝13Aが形成されている。
【0024】
各溝13Aは、前記回転部材5の長手方向に長く設けられ、また円柱側面形状の前記被係合部13の円周をほぼ等分配した位置に設けられている。なお、前記各溝13Aを前記回転部材5の係合部15に設けてもよい。
【0025】
前記溝13Aには、たとえば前記回転部材5の回転力で駆動されるポンプ(図示せず)によって、潤滑油等の潤滑液が供給されるようになっており、前記供給された潤滑液によって、前記筐体3の被係合部13と前記回転部材5の係合部15との間の空間(僅かな隙間)17に、潤滑液の薄い皮膜が形成され、流体軸受けが形成される。
【0026】
なお、前記ポンプによる溝13Aへの潤滑液の供給は、たとえば、前記筐体3に設けられた貫通孔(図示せず)であって、一端部が前記溝13Aに通じており、他端部が潤滑液供給用のパイプ(図示せず)を介して前記ポンプの吐出口に通じている貫通孔を用いて行われる。さらに、前記溝13Aに供給された潤滑液は、前記筐体内3内に戻り、前記ポンプによって再び溝13Aへ供給される。
【0027】
また、前記筐体3には、筒状のブッシュ19の外周部分19Aと係合し前記ブッシュ19を保持するための孔3Aが設けられている。そして、前記ブッシュ19を前記筐体3の孔3Aに挿入し固定することで、前記筐体3の被係合部13が、前記ブッシュ19の内周面部分19Bで形成される。
【0028】
このように構成することで、前記被係合部13への溝13Aの加工を容易に行うことができると共に、前記ブッシュ19をホワイトメタル等で構成し、前記筐体3をホワイトメタルよりも安価な材料で構成することができ、ギヤボックス1の製造コストを低減することができる。
【0029】
回転部材5には、鍔5Aが設けられており、この鍔5Aの平面状の一端面5Bが、前記ブッシュの長手方向の平面状の一端面19Cと対向している。また、前記一端面5Bと前記一端面19Cとの間は僅かに離反して、空間(僅かな隙間)21が形成されている。
【0030】
そして、前記ポンプによって溝13Aに供給された潤滑液が、前記筐体3内に戻るときに前記空間21を通るので、前記潤滑液で満たされた前記空間21が、回転部材5のスラスト方向の流体軸受けを形成する。したがって、前記被係合部13をラジアル方向の被係合部、前記係合部15をラジアル方向の係合部、前記一端面5Bをスラスト方向の係合部、前記一端面19Cをスラスト方向の被係合部ということもできる。
【0031】
また、前記回転部材5の長手方向の他端部(図1の右側の一端部)にも、左側と同様な流体軸受けが形成されている。
【0032】
次に、回転部材5の係合部15の表面に形成されている皮膜について説明する。
【0033】
前記係合部15の表面には、硬質のまたは摩擦係数の小さい皮膜が形成されている。
【0034】
前記皮膜は、成形体で形成された部材を電極として、この電極と前記回転部材5の係合部15とを互いに接近(たとえば、0.02mm程度まで接近)させて、加工液中あるいは気中において電極と前記回転部材5の係合部15との間にパルス状の微小な放電を発生させ、そのエネルギーにより、前記係合部15の表面に電極材料を僅かづつ堆積して形成される。
【0035】
前記電極として、たとえば、cBN(窒化硼素)、TiC(チタンカーバイド;炭化チタン)、WC(タングステンカーバイド;炭化タングステン)、SiC(シリコンカーバイド;炭化珪素)、Cr(炭化クロム)、Al(酸化アルミニウム;アルミナ)、Zr−Y(安定化酸化ジルコニウム;安定化ジルコニウム)、TiN(チタンナイトライド;窒化チタン)、TiB(ホウ化チタン)等の硬質のセラミックス(金属の化合物)の一種または複数種を含むセラミックス、またはそれらのセラミックスとヘキサBN(窒化硼素)、MoS(二硫化モリブデン)、Cr(酸化クロム)、WS(二硫化タングステン)、BaZrO(ジルコ酸バリウム)等の固体潤滑剤の1種または複数種を含む粉末をたとえば圧縮して成形したポーラスな成形体が使用される。または、前記成形体を、たとえば、真空炉で加熱処理することによって製造された成形体が使用される。したがって、前記皮膜は、前記電極と同じ材料または放電雰囲気で化合した化合物からなる材料で形成される。
【0036】
なお、前記電極が導電性を具備しないものであるときには、微粉末状の金属と微粉末状のセラミックスとを混合して結合し形成されたものを堆積用電極として使用する。または、表面を通電性の材料でコーティングされた微粉末状のセラミックスを圧縮成形した堆積用電極が使用される。
【0037】
また、前記電極に代えて、Si(珪素)やTi(チタン)等の金属粉末を圧縮成形し、必要に応じて、前記圧縮成形したものを加熱処理して形成された粉圧体で電極を形成してもよい。すなわち、SiやTi等の微小な金属の粉末を結合して形成された多孔質の電極を用いてもよい。この場合、前記電極と前記回転部材5の係合部15とが灯油等のアルカン炭化水素を含む加工用液中に存在している状態で放電を発生させ、前記放電エネルギーにより反応した物質(たとえば、SiCやTiCからなる物質)の皮膜が、前記回転部材5の係合部15の表面に形成される。
【0038】
さらに、前記電極を、圧縮成形する代わりに、泥漿鋳込み、MIM(Metal Injection Molding)、スプレー成形(溶射で成形)等によって成形してもよい。
【0039】
さらに、また、Siの微小な金属の粉末を結合して形成された多孔質の電極の代わりに、金属状のSi(内部に空洞を有さないSiの結晶)で形成された電極を用いてもよい。
【0040】
前記ギヤボックス1によれば、前記回転部材5と前記筐体3との間の軸受けにおいて、転がり軸受けが削除され、代わりに流体軸受けが形成され、さらに、前記回転部材5の係合部15に、硬質または摩擦係数の低い皮膜が形成されている。
【0041】
また、放電によって微小な溶接を繰り返しつつ徐々に形成された堆積層で皮膜が構成されているので、前記皮膜の厚さ方向に傾斜合金層が形成され、前記皮膜と前記回転部材5の本体部との結合力が強くなっており、前記皮膜が前記回転部材5の本体部から剥がれにくくなっている。
【0042】
したがって、前記回転部材5の係合部15と前記筐体3の被係合部13との間の潤滑液の皮膜が、何らかの要因で一時的に存在しなくなっても、換言すれば、前記回転部材5の係合部15と前記筐体3の被係合部13とが互いに直接接触しても、前記軸受けが磨耗しにくく、また、前記軸受けが焼き付等によって破損しにくくなっていると共に、従来よりも、少ないスペースに軸受けを設置することができる。
【0043】
すなわち、前記ギヤボックス1の軸受け、換言すれば、回転部材5とブッシュ19(筐体3)との間の流体軸受けによれば、耐久性が従来の流体軸受けよりも高く、従来の転がり軸受けよりも小さいスペース(回転部材5の半径方向で小さいスペース)に設置することができる。小さいスペースに設置可能であることによって、軸受けを設計する際の設計の自由度が増す。
【0044】
したがって、設置に際して省スペース化が要求される航空機用のガスタービンのギヤボックスとして、好適に採用することができる。
【0045】
また、転がり軸受けが不要になるので、組立てが容易になるとともに、製造コストを低減することができる。
【0046】
また、ポンプを用いて、前記回転部材5の係合部15と前記筐体3の被係合部13との間に、強制的に潤滑液を供給すれば、前記回転部材5の係合部15と前記筐体3の被係合部13との間の潤滑液の皮膜が切れにくくなり、軸受けの耐久性を一層向上させることができる。
【0047】
なお、ブッシュ19を用いないで、筐体3に被係合部13や溝13Aを直接形成してもよい。
【0048】
さらに、前記ポンプを削除し、たとえば、前記筐体3内に潤滑液を適量貯めておいて、前記回転部材5のギヤ7で前記潤滑液を攪拌し、前記係合部15と被係合部13との間の空間17や、空間21に、潤滑液を供給するようにしてもよい。
【0049】
さらにまた、前記回転部材5の係合部15に前記皮膜を形成する代わりに、または、前記回転部材5の係合部15に前記皮膜を形成することに加えて、前記筐体3の被係合部13に前記皮膜を形成してもよい。なお、この場合、筐体3の被係合部13に溝13Aを形成した後に皮膜を形成する。
【0050】
さらに、前記電極による皮膜を、係合部15や被係合部13の場合と同様に一端面5Bや一端面19Cに形成することが望ましい。
【0051】
また、前記皮膜を、ポーラスに形成してもよい。このように形成することによって、前記皮膜自体も潤滑液を蓄えることが可能になり、軸受けに発生するおそれのあるかじり等の弊害が発生しにくくなる。
【0052】
さらに、アクセサリ・ドライブ・ギヤボックス以外のギヤボックス、さらには、筐体とこの筐体に対して回転自在な回転部材とを備えた機械や装置の軸受け(前記筐体と前記回転部材との間に設けられた軸受け)にも、前記実施形態を適用することができる。
【0053】
ところで、ガスタービン(ガスタービンエンジン)のタービンや圧縮機等の回転機械(流体機械)の回転部材は、転がり軸受けを介して、前記ガスタービンのエンジンケーシングに対して回転自在に設けられているが、前記電極による皮膜を、ガスタービンのタービンや圧縮機等の回転機械の回転部材の部位であって、前記転がり軸受けの内輪と係合する部位の表面に施してもよい。なお、内輪が存在しない転がり軸受けの場合には、この転がり軸受けのローラー等と接触する部位の表面に、前記皮膜を形成してもよい。
【0054】
このように、転がり軸受けの内輪等と係合する部位に被覆を形成することによって、前記ガスタービンのタービンや圧縮機等の回転機械の回転部材と前記転がり軸受けを組み付けるとき等におけるかじりや前記ガスタービン稼動時における磨耗の発生等の弊害を防止することができる。
【0055】
[第2の実施形態]
以下、図面を用いて本発明の第2の実施形態について説明するに、ガスタービンに備えた圧縮機における可変静翼に本発明を実施した場合について説明する。
【0056】
ガスタービンにおける軸流圧縮機においては、入口案内翼及び初めの数段の静翼の取付け角を変えて、動翼に対する迎え角をできるだけ適正な値に調整することが行われている。
【0057】
図3を参照するに、取付け角を変えることができる可変静翼(可変翼)101は、ガスタービンにおける軸流圧縮機の環状の空気流路内であって動翼列(図示省略)の間に周方向に等間隔(図3には1個のみ図示してある)に配置してあり、可変静翼101における外端側の軸部103は、ケーシング105に備えたボス部107にブッシュ109を介して回転可能に支持されている。
【0058】
また、前記可変静翼101の内端側に備えた軸部111は、軸流圧縮機における動翼を備えた回転子(図示省略)を囲繞した環状の軸受部材113に備えたボス部115に回動可能に支持されている。
【0059】
そして、前記軸部103、111を中心として前記可変静翼101を回動するために、外端側の前記軸部103には、当該軸部103に対して直交する方向に長いアーム117が取付けてあり、このアーム117の先端側は、前記ケーシング105を囲繞したリング部材(図示省略)に備えた連結部に枢支連結してある。
【0060】
したがって、前記リング部材をケーシング105の周方向に回動すると、前記アーム117の先端側が周方向へ移動され、軸部103が軸心回りに回動されることになる。よって、前記可変静翼101は軸部103、111の軸心回りに回動されることとなり、ケーシング105に対する取付け角が変えられることとなる。
【0061】
前述のごとく、可変静翼1の角度を変更すべく軸部103、111の回動を繰り返すと、軸部103、111に摩耗が生じ、当該軸部103、111におけるクリアランスが次第に大きくなる。前記クリアランスが大きくなると、可変静翼101の調整角度に狂いを生じることになるので、可変静翼101全体の着脱交換が行われるものである。
【0062】
そこで、本実施形態においては、前記軸部103、111の摩耗を抑制するために、前記軸部103、111の外周面には耐磨耗性を有すると共に潤滑性を有するコーティング層119が備えられている。前記コーティング層119は、耐磨耗性を向上するためにcBN、TiC、WC、SiC、Cr、Al、ZrO−Y、TiN、TiB等のセラミックスを包含し、また潤滑性を向上するためにヘキサBN、MoS、Cr、WS、BaZrO等の固体潤滑材を含有した構成である。
【0063】
前記コーティング層119は次のようにして形成されるものである。すなわち、通電性確保のためにTiの粉末(約10%)、耐磨耗性を有するセラミックスの一例としてのTiCの粉末(約40%)及び潤滑性を有する潤滑材の一例としてのヘキサBNの粉末(約50%)を混合し、たとえば圧縮成形して成形体電極121(図4参照)を形成する。この成形体電極121は、圧縮成形した後に、焼結温度以下の温度で仮焼結するように、真空炉等を用いて熱処理を行うことが望ましいものである。
【0064】
上述のごとく成形体電極121を圧縮成形した後、又は圧縮して仮焼結した後に、放電加工機(図示省略)における加工槽(図示省略)内において前記成形体電極121と可変静翼101の軸部103、111との間に微小間隙を保持した状態において、前記可変静翼101の軸部103、111を回転させながら両者間にパルス状の放電を発生させると、前記成形体電極121の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物が母材である前記軸部103、111へ移動して、軸部103、111の表面に堆積してコーティング層119が形成されることになる。このコーティング層119は、TiCおよびヘキサBNを含有するものであり、耐磨耗性、潤滑性が向上するものである。
【0065】
なお、前記成形体電極121としては、Tiの粉末及びヘキサBNの粉末を混合して圧縮成形した成形体電極、又は前述したように仮焼結を行うように適宜の熱処理を行った電極とすることも可能である。この場合、成形体電極121と前記軸部103、111の間でパルス状の放電が行われると、放電加工機における加工槽内の加工液中の炭化物とTiの一部とが化合して、化合物としてTiCが生成されるものである。
【0066】
さらに、前記成形体電極121を、泥漿鋳込み、MIM(Metal Injection Molding)、スプレー成形(溶射で成形)等によって成形してもよい。
【0067】
前述のように、軸部103、111にコーティング層119が形成されるときは、母材としての軸部103、111の表面はパルス状の放電によって瞬間的に溶融し凝固されるものであるから、前記コーティング層119は、図3に示すように、電極材料のTiC及びヘキサBNが母材表面から数ミクロンの深さに拡散浸透した拡散浸透層119Aが形成され、この拡散浸透層119Aの上部に前記電極材料の微小粒子が堆積した堆積層119Bが形成されることになる。
【0068】
以上のごとき説明より理解されるように、本実施形態においては、ガスタービンエンジンにおける圧縮機に備えた可変静翼101の軸部103、111に、耐磨耗性及び潤滑性を有するコーティング層119を備えた構成であるから、可変静翼101の回動が円滑に行われ得ると共に、軸部103、111の耐磨耗性が向上し、可変静翼101の交換寿命が長寿命となり、前述したごとき従来の問題を解消し得るものである。
【0069】
すなわち、流体制御用可変翼に備えた軸部の周面に、耐磨耗性を有するセラミックスと潤滑材を含むコーティング層を一体に備えているものであるから、前記軸部の耐磨耗性、潤滑性が向上し、軸部の寿命がより向上するものである。
【0070】
また、前記流体制御用可変翼の軸構造において、前記コーティング層は、cBN、TiC、WC、SiC、Cr、Al、ZrO−Y、TiN、TiB等のセラミックスを含む、またはそれらセラミックスとヘキサBN、MoS、Cr、WS、BaZrO等の固体潤滑材を含有しているものであるから、耐磨耗性、潤滑性が向上するものである。
【0071】
また、cBN、TiC、WC、SiC、Cr、Al、ZrO−Y、TiN、TiB等のセラミックスを含む、またはそれらセラミックスとヘキサBN、MoS、Cr、WS、BaZrO等の固体潤滑材を含有した電極と流体制御用可変翼の軸部との間にパルス状の放電を発生させ、前記電極成分又は放電雰囲気で化合した化合物からなる被膜を、前記軸部に形成して耐磨耗性、潤滑性を有するコーティング層を形成するものであるから、前記軸部の耐磨耗性、潤滑性が向上し、軸部の寿命がより向上するものである。
【0072】
ところで、本発明は、前述したごとき実施形態のみに限るものではなく、例えばエンジンからの排気ガスを利用して、エンジンへ供給する空気を圧縮するターボチャージャにおいて、排気ガスの流れ方向を変えてタービンホイールの羽根に対する排気ガスの衝突角を制御するための回動自在の羽根(可変翼)の回転軸の部分に、前記コーティング層119を適用することもできる。
【0073】
ターボチャージャにおいて回動自在の羽根の回転軸の部分にコーティング層119を適用すると、羽根の回動が円滑に行われ得ると共に回転軸の耐磨耗性が向上し長寿命になるものであり、同様の効果を奏するものである。
【0074】
なお、前記説明においては、コーティング層119の成分としてTi、TiC、ヘキサBNを含有する旨説明したが、セラミックスとして、TiCに替えて、TiN、TiB等を採用することも可能である。すなわち、耐磨耗性,潤滑性及び炭素との結合による硬化度を考慮して適宜選択可能である。
【0075】
なお、日本国特許出願第2003−166992号(2003年6月11日出願)および日本国特許出願第2003−167030号(2003年6月11日出願)の全内容が、参照により、本願明細書に組み込まれている。
【0076】
また、本発明は前述の発明の実施の形態に限定されることなく、適宜な変更を行うことにより、その他の態様で実施し得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を一体に備え、前記コーティング層は、成形体電極と前記軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって形成されたことを特徴とする可変翼。
【請求項2】
請求項1に記載の可変翼において、
前記コーティング層は、前記成形体電極の電極材料が前記軸部の母材表面から拡散浸透した拡散浸透層と、この拡散浸透層に前記成形体電極の電極材料の微小粒子が堆積した堆積層とからなっていることを特徴とする可変翼。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の可変翼において、
前記セラミックスは、cBN、TiC、WC、SiC、Cr、Al、ZrO−Y、TiN、TiBの1種または複数種からなるものであって、固体潤滑材は、ヘキサBN、MoS、Cr,WS、BaZrOの1種または複数種からなるものであることを特徴とする可変翼。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の可変翼において、
前記成形体電極は、セラミックスの粉末と固体潤滑材の粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮形成した後に仮焼結するように熱処理を行ったものであることを特徴とする可変翼。
【請求項5】
請求項1から請求項3のうちのいずれかの請求項に記載の可変翼において、
前記成形体電極は、Tiの粉末とヘキサBNの粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮成形した後に仮焼結するように熱処理を行ったものであることを特徴とする可変翼。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいのいずれかの請求項に記載の可変翼において、
ガスタービンエンジンにおける圧縮機に用いられるものであることを特徴とする可変翼。
【請求項7】
請求項1から請求項5のうちのいずれかの請求項に記載の可変翼において、
ターボチャージャに用いられ、前記ターボチャージャにおけるタービンホイール過給機におけるタービンホイールに対する排気ガスの衝突角を制御するものであることを特徴とする可変翼。
【請求項8】
セラミックスの粉末と固体潤滑材の粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮形成した後に仮焼結するように熱処理を行ったものからなる成形体電極を用い、
前記成形体電極と可変翼の軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって、前記可変翼の前記軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を形成する表面処理方法。
【請求項9】
請求項8に記載の表面処理方法において、
前記セラミックスは、cBN、TiC、WC、SiC、Cr、Al、ZrO−Y、TiN、TiBの1種または複数種からなるものであって、固体潤滑材は、ヘキサBN、MoS、Cr,WS、BaZrOの1種または複数種からなるものであることを特徴とする表面処理方法。
【請求項10】
Tiの粉末とヘキサBNの粉末を混合して圧縮成形したもの、或いは圧縮成形した後に仮焼結するように熱処理を行ったものからなる成形体電極を用い、
前記成形体電極と可変翼の軸部との間に微小間隙を保持した状態で、前記成形体電極と前記軸部との間にパルス状の放電を発生させて、前記成形体電極の電極成分又は放電雰囲気において化合した化合物を前記軸部の表面に堆積させることによって、前記可変翼の前記軸部の周面にセラミックスと固体潤滑材を含むコーティング層を形成する表面処理方法。
【請求項11】
請求項8から請求項10のうちのいずれかの請求項に記載の表面処理方法において、
前記可変翼は、ガスタービンエンジンにおける圧縮機に用いられるものであることを特徴とする表面処理方法。
【請求項12】
請求項8から請求項10のうちのいずれかの請求項に記載の表面処理方法において、
前記可変翼は、ターボチャージャに用いられ、前記ターボチャージャにおけるタービンホイール過給機におけるタービンホイールに対する排気ガスの衝突角を制御するものであることを特徴とする表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−168660(P2010−168660A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30427(P2010−30427)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【分割の表示】特願2005−507202(P2005−507202)の分割
【原出願日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】