説明

四輪駆動車の制御装置

【課題】四輪駆動を維持したまま、四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系の自励振動の発生防止又は抑制を図ることができる四輪駆動車の制御装置の提供。
【解決手段】エンジンの駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達系の自励振動を制御する四輪駆動車の制御装置であって、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する自励振動検知手段1と、自励振動検知手段1によって自励振動の発生又は発生の予兆が検知された場合に、ブレーキペダル操作と独立に、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる制動力制御手段2とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四輪駆動車の制御装置に係り、より詳細には、四輪駆動車の自励振動の発生を防止又は抑制する四輪駆動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四輪駆動車が凍結路面等の低摩擦係数の路面(低μ路)上で発進する際に、「ドン、ドン、ドン、・・・」という数ヘルツ程度の周期の連続衝撃音が発生することがある。かかる連続衝撃音は、主に副駆動輪への駆動力伝達系の構造に自励振動が発生し、駆動力伝達系の例えばリア・デファレンシャル・ユニットがマウントを介して車体にストップ当たりを繰り返すことによって発生する。かかる自励振動は、主駆動輪への駆動力伝達系よりも剛性が小さく、かつ伝達距離が長い副駆動輪への駆動力伝達系において、捻れ応力の蓄積、解放が繰り返される結果発生すると考えられる。
【0003】
また、下記の特許文献1には、四輪駆動車の発進時にスリップが発生した際に振動を低減させるために、トルク伝達軸の途中に設けたカップリング装置の結合力を低くする技術が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−162007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系が自励振動する場合にも、トルク伝達軸の途中に設けたカップリング装置の結合力を低くして、自励振動を防ぐことが考えられる。しかしながら、カップリング装置の結合力を低くすると、四輪駆動車が実質的に二輪駆動することとなり、走破性が悪化することが考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、四輪駆動を維持したまま、四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系の自励振動の発生防止又は抑制を図ることができる四輪駆動車の制御装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の四輪駆動車の制御装置は、エンジンの駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達系の自励振動を制御する四輪駆動車の制御装置であって、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する自励振動検知手段と、自励振動検知手段によって自励振動の発生又は発生の予兆が検知された場合に、ブレーキペダル操作と独立に、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる制動力制御手段と、を備えることを特徴としている。
【0008】
このように、本発明の四輪駆動車の制御装置によれば、自励振動の発生又は発生の予兆が検知された場合に、主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる。その結果、駆動力伝達系と共に自励振動する車輪が、ブレーキパッド等によって物理的に押さえられ、自励振動が減衰する。これにより、本発明によれば、四輪駆動を維持したまま、四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系の自励振動の発生防止又は抑制を図ることができる。
【0009】
また、本発明において好ましくは、自励振動検知手段は、四輪駆動車の主駆動輪の車輪速を検出する第1車輪速検出手段と、副駆動輪の車輪速を検出する第2車輪速検出手段と、を備え、それぞれ検出された主駆動輪の車輪速及び副駆動輪の車輪速に基づいて、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する。
【0010】
副駆動輪に駆動力を伝達する駆動力伝達系が自励振動する際には、副駆動輪及び主駆動輪も振動する。このため、主駆動輪及び副駆動輪の車輪速に着目することにより、自励振動の発生又は発生の予兆を容易に検知することができる。
【0011】
また、本発明において好ましくは、自励振動検知手段は、副駆動輪の車輪速が主駆動輪の車輪速よりも所定値以上高い場合に、自励振動の予兆と判定する予兆判定手段を備える。
このように、主駆動輪及び副駆動輪の車輪速に着目することにより、自励振動の予兆を容易に検知することができる。
【0012】
また、本発明において好ましくは、自励振動検知手段は、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速が交互に大きくなり、かつ、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速との車輪速差の絶対値が、繰り返し所定値以上となる場合に、自励振動の発生と判定する発生判定手段を備える。
このように、主駆動輪及び副駆動輪の車輪速に着目することにより、自励振動が発生したことを容易に検知することができる。
【0013】
また、本発明において好ましくは、アクセルペダル操作と独立に、エンジントルクを制御するエンジントルク制御手段を更に備え、エンジントルク制御手段は、制動力制御手段による制動力に応じてエンジントルクを所定量増加させる。
【0014】
これにより、制動力の作用により自励振動を減衰させると共に、エンジントルクの増加により、四輪駆動車の車速の維持を図ることができる。その結果、乗員に違和感を与えることを回避することができる。
【0015】
また、本発明において好ましくは、エンジントルク制御手段は、車体速が減少しないように、エンジントルクの増加量を制御する。
このように、車速に基づいてエンジントルクの増加量が制御されるので、四輪駆動車の車速の低下を防ぎ、乗員に違和感を与えることをより一層回避することができる。
【0016】
また、本発明において好ましくは、自励振動検知手段は、四輪駆動車の発進後所定時間内にのみ自励振動の発生又は発生の予兆を検知する。
自励振動は、四輪駆動車の発進時に主に発生し、通常走行時に発生することは少ない。このため、自励振動検知手段は、四輪駆動車の発進時にのみ作動すれば十分である。また、自励振動の検知を発進時に限定すれば、通常走行時に、自励振動検知手段が自励振動を誤検知して、自励振動制御手段が誤作動することを防ぐことができる。
【0017】
また、本発明において好ましくは、自励振動検知手段は、四輪駆動車の位置する路面の摩擦抵抗が所定値以下の場合にのみ自励振動の発生又は発生の予兆を検知する。
自励振動は、氷路等の低摩擦係数の路面上で主に発生し、通常の路面上で発生することは少ない。このため、自励振動検知手段は、低摩擦係数の路面上でのみ作動すれば十分である。また、自励振動の検知を低摩擦係数路面上に限定すれば、通常走行時に、自励振動検知手段が自励振動を誤検知して、自励振動制御手段が誤作動することを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0018】
このように、本発明の四輪駆動車の制御装置によれば、四輪駆動を維持したまま、四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系の自励振動の防止又は抑制を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付の図面を参照して、本発明の四輪駆動車の制御装置の実施形態を説明する。
まず、図1を参照して、四輪駆動車の駆動力伝達系の構造の一例について説明する。
図1に示す四輪駆動車のエンジン4の駆動力は、トランスミッション41、FDU(フロント・デファレンシャル・ユニット)を介して、主駆動輪としての前輪43に伝達される。さらに、駆動力は、PTO44、プロペラシャフト45、4WDカップリング46及びRDU(リア・デファレンシャル・ユニット)47を介して、副駆動輪としての後輪48に伝達される。
【0020】
なお、図1には、前輪を主駆動輪とし、後輪を副駆動輪とした例を示したが、本発明が適用される四輪駆動車はこれに限定されない。本発明は、例えば、後輪を主駆動輪とし、前輪を副駆動輪とした四輪駆動車にも適用される。また、主駆動輪は、通常、四輪駆動車の前輪及び後輪のうち、エンジンにより近い位置に配置された車輪が該当する。しかし、例えば、FRベースの四輪駆動車の場合には、エンジンが車体前部に配置されていても、後輪が主駆動輪に該当することがある。
【0021】
そして、図1に示す例では、エンジン4から副駆動輪48へ駆動力を伝達する駆動力伝達系は、エンジンから主駆動輪43へ駆動力を伝達する駆動力伝達系よりも剛性が小さく、かつ伝達距離が長い。このため、副駆動輪48への駆動力伝達系には、主駆動輪への駆動力伝達系よりも捻れ応力が蓄積しやすい傾向がある。
【0022】
ここで、図2のグラフを参照して、四輪駆動車の発進時に、駆動力伝達系に自励振動が発生する様子を説明する。
図2(a)の横軸は時間を表し、縦軸はアクセル開度を示す。図2(a)中の曲線Iは、四輪駆動車発進時のアクセル開度の時間変化を示す。アクセル開度は、エンジンへの燃料供給路上のスロットルの開口率で表される。図2(b)の横軸は時間を表し、縦軸はエンジン回転数を表す。図2(b)中の曲線IIは、四輪駆動車発進時のエンジン回転数の時間変化を表す。図2(c)の横軸は時間を表し、縦軸は車輪速を表す。図2(c)中の実線IIIは、主駆動輪の車輪速を表し、破線IVは、副駆動輪の車輪速を表す。車輪速は、車輪の回転数と車輪の外周長さとの積で与えられる。そして、図2(d)の横軸は時間を表し、縦軸は、車輪速差を表す。図2(d)中の曲線Vは、図2(c)に実線IIIで示す主駆動輪の車輪速から破線IVで示す副駆動輪の車輪速を減じた車輪速差の時間変化を示す。
【0023】
四輪駆動車の発進時には、運転者がアクセルを踏むことによって、図2(a)の曲線Iに示すように、アクセル開度が上がり、エンジン回転数が上昇し、その結果、車両が発進する。発進時には、主駆動輪が副駆動輪よりも僅かに早く回転し始めることが多い。これは、副駆動輪への駆動力伝達系が、主駆動輪のものよりも、その剛性が比較的低く、エンジンからの駆動力の伝達距離が比較的長いためである。図2(c)のグラフでは、時刻t0の直後に、実線IIIで示す主駆動輪の車輪速がまず立ち上がり、一瞬遅れて、実線IVで示す副駆動輪の車輪速が立ち上がっている。この程度の主駆動輪と副駆動輪との車輪速差は、通常は問題とならない。
【0024】
しかし、主駆動輪と副駆動輪との車輪速差により、駆動力伝達系に捻れ応力が蓄積される。その結果、四輪駆動車が凍結路面(氷路)等の低摩擦係数の路面(低μ路)上で発進する場合等、特定の条件下で、駆動力伝達系の自励振動が発生することがある。その場合、「ドン、ドン、ドン、・・・」という数ヘルツ程度の周期の連続衝撃音が発生し、乗員に不快感や不安感を与える。
【0025】
自励振動が発生しているときには、図2(c)の実線III及び破線IVに示すように、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速が交互に大きくなる。そして、図2(d)の曲線Vに示すように、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速との車輪速差が、繰り返し大きくなる。
【0026】
そこで、本発明では、以下の実施形態で説明するように、車輪速の振舞いに着目して自励振動の発生又はその予兆を検知し、更に、駆動力伝達系と共に振動する車輪を物理的に押さえて振動を減衰させることによって、自励振動の発生を防止し又は自励振動を抑制する。
【0027】
図3のブロック図を参照して、本実施形態の四輪駆動車の制御装置の構成を説明する。
図3に示すように、本実施形態の四輪駆動車の制御装置は、エンジンの駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達系の自励振動を制御する四輪駆動車の制御装置であって、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する自励振動検知手段1と、自励振動検知手段によって自励振動の発生又は発生の予兆が検知された場合に、ブレーキペダル操作と独立に、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる制動力制御手段2とを備えている。また、本実施形態では、アクセルペダル操作と独立に、エンジントルクを制御するエンジントルク制御手段3を更に備えている。エンジントルク制御手段3は、制動力制御手段2による制動力に応じてエンジントルクを所定量増加させる。
【0028】
自励振動検知手段1は、四輪駆動車の主駆動輪43の車輪速を検出する第1車輪速検出手段11と、副駆動輪48の車輪速を検出する第2車輪速検出手段12とを備え、それぞれ検出された主駆動輪43の車輪速及び副駆動輪48の車輪速に基づいて、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する。
【0029】
そのために、自励振動検知手段1は、自励振動の予兆を検知する予兆判定手段13を備える。予兆判定手段13は、副駆動輪48の車輪速が主駆動輪43の車輪速よりも所定値以上高い場合に、自励振動の予兆と判定する。予兆判定の基準となる上記所定値は、四輪駆動車の構造やエンジン性能等の種々の要素が影響し、例えば、車両の型式毎に経験的に設定するとよい。
【0030】
また、自励振動検知手段1は、自励振動の発生を検知するため、発生判定手段14を備える。発生判定手段14は、主駆動輪43の車輪速と副駆動輪48の車輪速が交互に大きくなり、かつ、主駆動輪43の車輪速と副駆動輪48の車輪速との車輪速差の絶対値が、繰り返し所定値以上となる場合に、自励振動の発生と判定する。発生判定の基準となる上記所定値も、四輪駆動車の構造やエンジン性能等の種々の要素が影響し、車両の型式毎に経験的に設定するとよい。
【0031】
なお、予兆判定手段13、発生判定手段14、制動力制御手段2及びエンジントルク制御手段3の機能は、例えば、ECU(electronic control unit:電子制御装置)によって実現される。
【0032】
そして、制動力制御手段2は、予兆判定手段13が自励振動の予兆と判定した場合、又は、発生判定手段14が自励振動の発生を判定した場合に、ブレーキペダル操作と独立に、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる。制動力の大きさは、自励振動を減衰させるのに十分な大きさであることが好ましく、例えば車両の型式ごとに、経験的に設定するとよい。
【0033】
また、エンジントルク制御手段3は、制動力制御手段2による制動力に応じてエンジントルクを所定量増加させる。その際、エンジントルク制御手段3は、車体速センサ7が測定した車体速が減少しないように、エンジントルクの増加量を制御する。これにより、制動力の作用によって自励振動が減衰すると共に、エンジントルクの増加によって四輪駆動車の減速を回避し、車速の維持を図ることができる。その結果、乗員に違和感を与えることを回避することができる。
【0034】
次に、図4のフローチャート及び図5のグラフを参照して、本実施形態の四輪駆動車の制御装置の動作例について説明する。
図5(a)のグラフの横軸は時間を表し、縦軸はアクセル開度を示す。図5(a)中の曲線Iは、四輪駆動車発進時のアクセル開度の時間変化を示す。アクセル開度は、エンジンへの燃料供給路上のスロットルの開口率で表される。図5(b)の横軸は時間を表し、縦軸はエンジン回転数を表す。図5(b)中の曲線IIは、四輪駆動車発進時のエンジン回転数の時間変化を表す。図5(c)の横軸は時間を表し、縦軸は車輪速を表す。図5(c)中の実線IIIは、主駆動輪の車輪速を表し、破線IVは、副駆動輪の車輪速を表す。一点鎖線Vは、車体速を表す。車体速は、路面に対する車体の速度を表す。図5(d)の横軸は時間を表し、縦軸は、制動力制御信号値を表す。図5(d)中の線VIは、制御信号の信号波形を表す。図5(e)の横軸は時間を表し、縦軸はエンジントルク制御信号を表す。図5(e)中の曲線VIIは、制御信号の信号波形を表す。
【0035】
図4に示すように、四輪駆動車の制御にあたり、まず、自励振動検知手段1は、四輪駆動車の発進後所定時間内か否かを判断する(ステップS1)。発進は、主駆動輪又は副駆動輪の車輪速が立ち上がった時刻t0を基準とするとよい。また、発進後の所定時間は、例えば、数秒間から10秒間程度である。この所定時間は、自励振動が発生する経過時間を経験的に求め、それらの経過時間よりも長い時間を設定するとよい。
【0036】
自励振動は四輪駆動車の発進時に主に発生し、通常走行時に発生することは少ないため、自励振動検知手段は四輪駆動車の発進時にのみ作動すれば十分である。また、自励振動の検知を発進時に限定すれば、通常走行時に、自励振動の誤検出による自励振動制御手段の誤作動を防ぐことができる。
【0037】
続いて、自励振動検知手段1は、四輪駆動車の位置する路面の摩擦抵抗が所定値以下であるか否かを判断する(ステップS2)。路面の摩擦係数μの判断にあたっては、例えば、四輪駆動車の車載装置によって測定した値を用いてもよいし、車載のナビゲーションユニットに外部から無線等により入力された道路の路面状況を利用してもよい。
【0038】
自励振動は、氷路等の低摩擦係数の路面上で主に発生し、通常の路面上で発生することは少ないため、自励振動検知手段は、低摩擦係数の路面上でのみ作動すれば十分である。また、自励振動の検知を低摩擦係数路面上に限定すれば、通常走行時に、自励振動の誤検知による自励振動制御手段の誤作動を防ぐことができる。
なお、ステップS1とステップS2の処理は、処理順序を入れ替えてもよいし、同時に行ってもよい。
【0039】
次いで、自励振動検知手段1が、自励振動の発生又は発生の予兆を検知する(ステップS3)。自励振動の発生又はその予兆の検知に当たっては、予兆判定手段13によって予兆を判定してもよいし、発生判定手段14によって発生を判定してもよい。
【0040】
ここでは、まず、予兆判定手段13により自励振動の予兆を検知する場合について説明する。
予兆判定手段13は、副駆動輪48の車輪速V2が主駆動輪43の車輪速V1よりも所定値ΔnT以上高い場合に、自励振動の予兆と判定する。図2(c)のグラフでは、発進直後の時刻t1に、破線IVで示す副駆動輪48の第2車輪速V2が、実線IIIで示す主駆動輪43の第1車輪速V1よりも所定車輪速ΔnTだけ高くなっている。すなわち、図2(d)のグラフに曲線Vで示すように、時刻t1に、(V1−V2)が(−ΔnT)を越えて下がっている。この状態を検知した場合に、予兆判定手段13は、自励振動の予兆と判定する。
なお、この所定値ΔnTは、車両の構造及びエンジン性能等の種々の要素の影響を受けるものであるため、例えば、車両の型式毎に経験的に設定するとよい。
【0041】
さらに、本実施形態では、検知精度を高めるため、予兆判定手段13は、車輪速に加えて、アクセル開度も判定条件とする。すなわち、アクセル開度が所定値TH以上であることをも予兆判定条件とする。アクセル開度を判定条件とする理由は、自励振動は、ある程度のエンジントルクが駆動力伝達系にかかっているときに発生することが経験的に知られているからである。
なお、この所定値THも経験的に設定するとよい。所定値THの具体例としては、スロットルの開口率20%が挙げられる。
【0042】
そして、図2(a)に曲線Iで示すように、時刻t1に、アクセル開度は、閾値である所定値THを越えている。したがって、予兆判定手段13は、時刻t1に、自励振動の予兆を検知する。
【0043】
次に、発生判定手段14により自励振動の発生を検知する場合について説明する。
発生判定手段14は、主駆動輪43の車輪速V1と副駆動輪48の車輪速V2が交互に大きくなり、かつ、主駆動輪43の車輪速V1と副駆動輪48の車輪速V2との車輪速差Δnの絶対値が、繰り返し所定値ΔnT以上となる場合に、自励振動の発生と判定する。図2(d)では、時刻t0以降、曲線Vが、閾値である所定値(+ΔnT)と(−ΔnT)を交互に越えている。したがって、曲線Vで示す車輪速差Δnが所定値(+ΔnT)と(−ΔnT)とを交互に、例えば、2回ずつ越えた場合に、自励振動の発生を検知するようにしてもよい。この回数は、任意好適な値とすることができる。
【0044】
次に、予兆判定手段13又は発生判定手段14によって、自励振動の発生又は、その予兆が検知された場合(ステップS3で「Yes」の場合)、制動力制御手段2は、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を自動的に作用させる(ステップS4)。制動力は、主駆動輪だけに作用させてもよいし、副駆動輪にだけ作用させてもよいし、或いは、主駆動輪と副駆動輪の両方に同時に作用させてもよい。
【0045】
制動力制御手段2は、図5(d)に線VIで示すように、時刻t1直後から、制動力制御信号を出力する。これにより、ブレーキ6が、ブレーキペダル操作に関係なく自動的に作動する。その結果、駆動力伝達系と共に自励振動する車輪が、ブレーキパッド等によって物理的に押さえられる。すなわち、図5(c)の実線III及び破線IVに示すように、時刻t1後に、図2(c)の実線III及び破線IVに比べて、主駆動輪43の第1車輪速V1及び副駆動輪48の第2車輪速V2の振動が減衰する。これにより、四輪駆動を維持したまま、四輪駆動車の副駆動輪への駆動力伝達系の自励振動の発生防止又は速やかな抑制を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態では、制動力制御手段2の作動と同時に、エンジントルク制御手段3も作動する(ステップS5)。エンジントルクを増加させるにあたっては、まず、エンジントルク制御手段3が、エンジントルクを増加させるトルク制御信号を、スロットル3のアクチュエータ(図示せず)へ出力する。図5(d)では、時刻t1の直後に、線VIIに示すように、トルク信号が出力される。
【0047】
トルク制御信号を受信したアクチュエータは、スロットル5の開口率を高くする。その結果、図5(b)の曲線IIに示すように、時刻t1直後にエンジンの回転数が上昇して、エンジントルクが増加する。
【0048】
なお、エンジントルク制御手段3は、エンジントルクの増加量が、制動力の大きさに応じた目標増加量となるように、フォワードバック制御をしてもよいし、エンジントルク制御手段3は、エンジン4の回転数をモニターしてフィードバック制御をするようにしてもよい。さらに、エンジントルク制御手段3は、車体速センサ7で車体速をモニターして、車体速が減速しないように、更なるフィードバック制御を行ってもよい。
【0049】
このような制御を行うことにより、制動力の作用によって自励振動が減衰すると共に、エンジントルクの増加によって四輪駆動車の減速を回避し、車速の維持を図ることができる。その結果、自励振動又は減速により、乗員に違和感を与えることを回避することができる。
【0050】
また、制動力制御手段2及びエンジントルク制御手段3の作動、自励振動検知後の所定期間でよい。所定期間は経験的に求めた値を設定するとよい。一例として、数秒間から10秒間程度が挙げられる。また、発生判定手段14によって、自励振動の発生が検知されなくなった場合に、制動力制御手段2及びエンジントルク制御手段3の作動を終了するようにしてもよい。
なお、制動力制御手段2及びエンジントルク制御手段3の作動を停止する場合には、乗員に違和感を与えないように、制動力及びエンジントルクの増加分を徐々に減らすとよい。
【0051】
上述した実施形態においては、本発明を所定の条件で構成した例について説明したが、本発明は種々の変更及び変形を行うことができる。例えば、上述した実施形態では、自励振動検知により、制動力制御手段2及びエンジントルク制御手段3を同時に作動させた例について説明したが、本発明では、自励振動検知により、制動力制御手段2だけを単独で作動させるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】四輪駆動車の駆動力伝達系の構造例を示す模式図である。
【図2】(a)〜(d)は、四輪駆動車の駆動力伝達系の自励振動の様子を示すグラフである。
【図3】第1実施形態の四輪駆動車の制御装置の構成を示すブロック図である。
【図4】第1実施形態の四輪駆動車の制御装置の動作を説明するフローチャートである。
【図5】(a)〜(e)は、第1実施形態の四輪駆動車の制御装置による自励振動制御の様子を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
1 自励振動検知手段
2 制動力制御手段
3 エンジントルク制御手段
4 エンジン
5 スロットル
6 ブレーキ
7 車体速センサ
11 第1車輪速センサ
12 第2車輪速センサ
13 予兆判定手段
14 発生判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの駆動力を車輪に伝達する駆動力伝達系の自励振動を制御する四輪駆動車の制御装置であって、
前記自励振動の発生又は発生の予兆を検知する自励振動検知手段と、
前記自励振動検知手段によって前記自励振動の発生又は発生の予兆が検知された場合に、ブレーキペダル操作と独立に、四輪駆動車の主駆動輪及び/又は副駆動輪に所定の制動力を作用させる制動力制御手段と、
を備えることを特徴とする四輪駆動車の制御装置。
【請求項2】
前記自励振動検知手段は、
四輪駆動車の主駆動輪の車輪速を検出する第1車輪速検出手段と、
副駆動輪の車輪速を検出する第2車輪速検出手段と、を備え、
それぞれ検出された主駆動輪の車輪速及び副駆動輪の車輪速に基づいて、前記自励振動の発生又は発生の予兆を検知する
ことを特徴とする請求項1記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項3】
前記自励振動検知手段は、副駆動輪の車輪速が主駆動輪の車輪速よりも所定値以上高い場合に、自励振動の予兆と判定する予兆判定手段を備える
ことを特徴とする請求項2記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項4】
前記自励振動検知手段は、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速が交互に大きくなり、かつ、主駆動輪の車輪速と副駆動輪の車輪速との車輪速差の絶対値が繰り返し所定値以上となる場合に、自励振動の発生と判定する発生判定手段を備える
ことを特徴とする請求項2記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項5】
アクセルペダル操作と独立に、エンジントルクを制御するエンジントルク制御手段を更に備え、
前記エンジントルク制御手段は、前記制動力制御手段による制動力に応じてエンジントルクを所定量増加させる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項6】
前記エンジントルク制御手段は、車体速が減少しないように、エンジントルクの増加量を制御する
ことを特徴とする請求項5記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項7】
前記自励振動検知手段は、四輪駆動車の発進後所定時間内にのみ自励振動の発生又は発生の予兆を検知する
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の四輪駆動車の制御装置。
【請求項8】
前記自励振動検知手段段は、四輪駆動車の位置する路面の摩擦抵抗が所定値以下の場合にのみ自励振動の発生又は発生の予兆を検知する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の四輪駆動車の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−189092(P2008−189092A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−24534(P2007−24534)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】