説明

回生協調ブレーキ用ストロークシミュレータ

【課題】 非回生協調ブレーキ作動時と回生協調ブレーキ作動時とのブレーキペダル作動フィーリングを同一とする、小型簡素化されたストロークシミュレータを提供する。
【解決手段】 ブレーキペダルの回動支点と、遊星歯車機構と、マスタシリンダに連繋するプッシュロッドを駆動するプッシュロッドアームとを同軸に構成して、正逆転自在なモータの回動を遊星歯車機構に作用させて、回生協調ブレーキ作動時には非回生協調ブレーキ作動時のブレーキペダル入力に対応するブレーキペダルストローク線図となるよう補正制御をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、電動車両等の回生協調ブレーキシステムに好適であり、回生協調ブレーキ作動時にマスタシリンダ作動量を規制された際のブレーキペダル操作量を、非回生協調ブレーキ作動時のブレーキペダル操作量に補正する回生協調ブレーキ用ストロークシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関と電気モータを併用して走行動力とするいわゆるハイブリッド車両や、電気モータのみを走行動力とする電気自動車などでは、減速時の減速エネルギーを電気エネルギーに変換すべく、発電機または電気モータを介してバッテリやキャパシタ等の駆動力用電源に蓄電する回生ブレーキ作動をおこなっている。
【0003】
回生ブレーキ作動時には、ドライバの所望する制動力から回生ブレーキ制動力を差し引いた車輪(油圧)ブレーキ制動力となるように、圧力制御弁等を介してマスタシリンダにて発生した油圧のホイールシリンダへの伝達を一部規制するようにして回生協調ブレーキ作動をおこなっている。
【0004】
一方、例えば信号待ち停止時などの減速エネルギーの発生しない状態や、減速エネルギーが発生していても駆動力用電源の蓄電量が充分ある状態では、マスタシリンダ液圧のホイールシリンダへの伝達を規制しない非回生協調ブレーキ作動となる。また回生協調ブレーキ作動途中にて蓄電量が充分になった場合などでは、過充電防止のため回生協調ブレーキ作動から非回生協調ブレーキ作動に切り替わることになる。
【0005】
マスタシリンダからホイールシリンダへのブレーキ液吐出量を規制しない非回生協調ブレーキに対して、マスタシリンダからホイールシリンダへのブレーキ液の吐出量を規制してホイールシリンダ圧力を規制する回生協調ブレーキは、ブレーキペダルのストロークは大きく減少して板踏み感が発生し、回生協調ブレーキと非回生協調ブレーキの両モードが混在する一般運転においてはブレーキの操作フィーリングに大きな違和感を生じてしまう。
【0006】
上記違和感を緩和するため、特許文献1では回生協調ブレーキ作動中にはストロークシミュレータ内の流体を大気圧に開放する状態としてストロークシミュレータの作動を許容し、非回生協調ブレーキ作動中にはストロークシミュレータ内の流体を油密にする状態としてストロークシミュレータの作動を規制するよう切り替えることにより、ブレーキペダルの回動支点を移動させブレーキペダルのフィーリング違和感を低減する装置が提案されている。
【0007】
特許文献2では、回生協調ブレーキ制御などで調圧装置が作動するときには倍力比可変装置も連動してブレーキ操作部材のレバー比を上げるよう制御してブレーキ操作部材の操作ストロークを増やすよう制御される装置が提案されている。
【0008】
特許文献3では、ブレーキペダルとマスタシリンダとを連結するプッシュロッドを分割し、遊星歯車機構を介して一方のプッシュロッドと他方のプッシュロッドのストロークを可変できるようにしている装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4229052号公報
【特許文献2】特開2006−273218号公報
【特許文献3】特開2007−160992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1のストロークシミュレータ内の流体を大気圧に開放してストロークシミュレータの作動を許容する装置では、回生協調ブレーキ作動中に非回生ブレーキ作動に切り替わるとき、大気開放された流体は圧力を失っているため、開放された流体をストロークシミュレータの背圧として戻すことができず、すでにストロークシミュレータに吸収されたブレーキペダルのストロークを回収することができない。
【0011】
特許文献2の装置においては、ブレーキ作動時には常に揺動するブレーキ操作部材の支点と力点との中間に倍力比可変装置を設置する必要があるため、ワイヤハーネス等の耐久性の課題やブレーキ操作部材の慣性重量の増加による操作フィーリング悪化等の課題が心配される。
【0012】
特許文献3の装置では、ブレーキペダルとマスタシリンダを連結するプッシュロッドを分割して遊星歯車機構機構を介したため、車両の前後方向への寸法が拡大する課題がある。また、マスタシリンダと一体的となる筐体内に遊星歯車機構機構を設置するため、筐体は新規設計となるという課題がある。
【0013】
本発明はこれらの課題を解決すべくなされたものであり、回生協調ブレーキ作動時と非回生協調ブレーキ作動時のブレーキペダルフィーリングを同一にするとともに、制動中に回生協調ブレーキ作動から非回生協調ブレーキ作動に切り替わる際には、すでに吸収されているブレーキペダルのストロークを回復し、さらに装置の構成を簡素化して小型化を図った回生協調ブレーキ搭載車に好適なストロークシミュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のストロークシミュレータは次の構成を備える。
請求項1記載の発明は、ブレーキペダルと、車輪ブレーキに接続されるマスタシリンダと、正逆転自在なモータと、遊星歯車機構とからなり、該遊星歯車機構に前記モータの回動を作用させて前記ブレーキペダルの作動量と前記マスタシリンダに連繋するプッシュロッド作動量とを可変せしめる装置において、前記ブレーキペダルの回動支点と前記遊星歯車機構のサンギヤ回動支点と前記プッシュロッドを駆動するプッシュロッドアームの回動支点とを同軸に構成することを特徴とする。
【0015】
請求項2記載の発明は、請求項1の発明に加えて、前記遊星歯車機構は、第1のサンギヤと、該第1のサンギヤとは歯数の異なる第2のサンギヤとを同軸に備え、前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤに噛合するプラネタリギヤを担持するプラネタリキャリアからなり、前記プラネタリキャリアに前記モータを連繋し、前記第1のサンギヤまたは前記第2のサンギヤのいずれかに前記ブレーキペダルを連繋し、残る前記第1のサンギヤまたは前記第2のサンギヤのいずれかに前記プッシュロッドアームを連繋することを特徴とする。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明に加えて、前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間に負圧ブースタを介設することを特徴とする
【0017】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の発明に加えて、前記モータの作動量を制御して、前記ブレーキペダルの作動量を可変せしめる電子制御装置を含み、回生協調ブレーキ作動時には予め目標値と定める非回生協調ブレーキ作動時の前記ブレーキペダル入力に対応する該ブレーキペダルの作動量近傍になるよう制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、遊星歯車機構をブレーキペダルと同軸に設けたのでストロークシミュレータ全体を簡素化してかつ小型化できる。乗用車などの場合、エンジンルーム側のブレーキ装置にかかるスペース拡大の検討を不要とすることができる。
【0019】
請求項2記載の発明によれば、サンギヤとプラネタリギヤとリングギヤ(内歯)にて遊星歯車機構で構成(通常の2K−H型)した場合、互いの歯車に大きな減速比が設定されてしまうが、複合遊星歯車機構に2個備えるサンギヤの一方にブレーキペダル、他方のサンギヤにマスタシリンダのプッシュロッドを連繋することにより、両サンギヤの減速比を小さく抑えられるため従来のペダル比を踏襲することができ、ブレーキペダルの剛性設計等において従来データが流用できる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、予めストロークシミュレータに備えるモータ動力により作動量を制御されたプッシュロッドの推力を負圧ブースタにより更に増大した推力をマスタシリンダに伝達することができる。従ってストロークシミュレータに備えるモータは負圧ブースタ駆動前の小さなプッシュロッド推力を制御するだけの出力を持てばよく、モータの小型化およびかかる電力消費を抑制することができる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、回生協調ブレーキ作動時と非回生協調ブレーキ作動時のブレーキペダル操作感を同一フィーリングにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】車両用ブレーキ装置の全体構成を示すブレーキ液圧系統図
【図2】ストロークシミュレータの非作動初期位置での正面要部断面図(図3のA−A断面)
【図3】ストロークシミュレータの非作動初期位置での左側面要部断面図(図2のB−B断面)
【図4】ストロークシミュレータの非作動初期位置での右側面要部断面図(図2のC−C断面)
【図5】ストロークシミュレータのモータ非作動時の作動図(図2のB−B断面)
【図6】ストロークシミュレータのモータ遅角作動時の作動図(図2のB−B断面)
【図7】ストロークシミュレータ特性図
【図8】出力液圧特性図
【図9】ストロークシミュレータのモータ進角作動時の作動図(図2のB−B断面)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るストロークシミュレータの実施の形態について、図面とともに詳細に説明する。
【0024】
先ず図1において、ストロークシミュレータ30は、樹脂等で形成されてブレーキ液を蓄えるマスタリザーバ12を上部に装着するタンデム型のマスタシリンダ60と、ドライバの踏力に対してマスタシリンダ60の発生液圧を増大する倍力装置である負圧ブースタ64と組み合わされ、車体に取り付けられている。
【0025】
ストロークシミュレータ30は、ブレーキペダル11と、ブレーキペダル11の作動量に対してプッシュロッド46(図3)の作動量を可変せしめるように構成され、図示せぬ車体に吊設されている。
【0026】
ドライバのブレーキペダル11の作動量は、ストロークシミュレータ30に具備するエンコーダやポテンショメータ等で構成される入力回転角センサ32および出力回転角センサ33(図2)にて検出され、検出値は電子制御装置13に送達される。
【0027】
そして、電子制御装置13にはドライバの所望する制動力に対する回生制動力の割合等の情報が回生ブレーキ装置70から送達されるようになっている。
【0028】
さらに、電子制御装置13にはドライバのブレーキペダル11の操作入力と回生ブレーキとの協調量を正確に把握すべく、マスタシリンダ60の直後に発生する圧力を検出する第1の圧力センサS1と以下に説明するABS15の増圧弁18の直後の圧力を検出する第2の圧力センサS2の検出値が送達され、これらの検出値や回生制動力情報をもとに演算されるモータ31(図3)の回動量を制御するようになっている。
【0029】
また、電子制御装置13には、図示せぬ車輪速センサ、ヨーセンサ、Gセンサ等の検出値をもとにABS15を制御して車両の統合的な制御を可能に電気回路を配索する。そして、これらの車両用ブレーキ装置の異常時にはドライバに警報を発する警報装置14を備える。
【0030】
マスタシリンダ60の前部出力ポート16Fと後部出力ポート16Rから出力される液圧は前部液圧路17Fおよび後部液圧路17Rに導かれ、該後部液圧路17Rの発生液圧は第1の圧力センサS1にて検出可能にされている。
【0031】
前部液圧路17FはABS15を介して左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFRに接続される。また後部液圧路17Rも、ABS15を介して左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRRに接続される。
【0032】
ABS15は、前部液圧路17Fを分岐して、左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFR間に設けられる常開型電磁弁18,18と、常開型電磁弁18,18に並列に接続される一方向弁19,19と、減圧リザーバ21と、左前輪用車輪ブレーキBFLおよび右前輪用車輪ブレーキBFRと減圧リザーバ21間に設けられる常閉型電磁弁20,20と、減圧リザーバ21から前部液圧路17F側へブレーキ液を還流するべく、ABSモータ22に駆動されるABSポンプ23を備える。
【0033】
さらにABS15は、後部液圧路17Rを分岐して、左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRR間に設けられる常開型電磁弁18,18と、常開型電磁弁18,18に並列に接続される一方向弁19,19と、減圧リザーバ21と、左後輪用車輪ブレーキBRLおよび右後輪用車輪ブレーキBRRと減圧リザーバ21間に設けられる常閉型電磁弁20,20と、減圧リザーバ21から後部液圧路17R側へブレーキ液を還流するべく、ABSモータ22に駆動されるABSポンプ23を備える。
【0034】
ABS15は電子制御装置13により制御され、各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに対応した常開型電磁弁18を開くとともに常閉型電磁弁20を閉じる増圧モードと、常開型電磁弁18を閉じるとともに常閉型電磁弁20を開く減圧モードと、常開型電磁弁18および常閉型電磁弁20をともに閉じる保持モードとを切換えて制御し、これにより各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRのブレーキ液圧を状況に応じて個別で最適に制御することができる。
【0035】
回生協調ブレーキ制御は、回生ブレーキ装置70の状況に応じてABS15を制御するものであり、ブレーキ作動中に送達される入力回転角センサ32によるブレーキペダル11の作動量および第1の圧力センサS1からドライバの所望する制動力を推定して、このドライバの所望する制動力から回生ブレーキ装置70にて発生している制動力を差し引くようにABS15にて車輪ブレーキ液圧を調整する。
【0036】
車両の駆動用電源が満充電などの条件により、回生ブレーキ装置70では回生制動力が発生していない場合には、各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに対応した常開型電磁弁18を開くとともに常閉型電磁弁20を閉じる増圧モードのままに制御される非回生協調ブレーキモードをおこなう。
【0037】
回生ブレーキ装置70により回生制動力が発生している場合には、車輪ブレーキ液圧を制限するために各車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに対応した常閉型電磁弁20を閉弁してかつ、第2の圧力センサS2を参照しながら常開型電磁弁18を適宜開閉し、目標とする車輪ブレーキ液圧となるように制限する回生協調ブレーキモードをおこなう。
【0038】
回生協調ブレーキモード中に車輪ブレーキ液圧が高すぎる状態となったときには一時的に減圧リザーバ21に少量ブレーキ液を排出するか、または回生ブレーキ装置70に吸収する回生量を減少させて総合的な車両制動力を調整することになる。
【0039】
電子制御装置13は、ストロークシミュレータ30およびABS15を統合的に制御するものであり、前述した回生協調ブレーキ制御および制動時のタイヤスリップ状態を制御するアンチロックブレーキ制御、さらに後述するブレーキペダル11の操作量に応じたストロークシミュレータ30の作動制御を行うことができる。
【0040】
図2〜4を参照して、ストロークシミュレータ30は遊星歯車機構36が右ケーシング34および左ケーシング35に回動自在に挟持されている。
【0041】
遊星歯車機構36は、第1のサンギヤ37と、第1のサンギヤ37と同軸に対向的に備える第2のサンギヤ38と、第1のサンギヤ37と第2のサンギヤ38の両方に噛合する複数のプラネタリギヤ39,39,39,39を回動自在に軸支するプラネタリキャリア40とを備える。
【0042】
第1のサンギヤ37には歯数ZAが形成され、第2のサンギヤ38には歯数ZDが形成され、第1のサンギヤ37の歯数ZAに歯合する歯数ZBと第2のサンギヤ38の歯数ZDに歯合する歯数ZCとがプラネタリギヤ39,39,39,39に各々形成されている。
【0043】
プラネタリギヤ39,39,39,39はプラネタリキャリア40とカバー41に挟持され、軸受44,44,44,44,44,44,44,44を介して軸支されながら第1のサンギヤ37および第2のサンギヤ38上にて自転、公転自在にされている。
【0044】
第1のサンギヤ37は、プラネタリキャリア40右端と右ケーシング34に挟持され、軸受42、軸受43により回動自在に軸支されるものであり、軸端には右ケーシング34に固定的に設置される入力回転角センサ32の回転子32aが嵌合されて、第1のサンギヤ37の作動回転角が検出可能にされている。
【0045】
さらに、第1のサンギヤ37はダンパ11bを介しブレーキペダル11と一体的に構成されており、このダンパ11bは硬質ゴムなどの弾性部材からなり、ゴム硬度を高く設定する高剛性のものであり、遊星歯車機構にて発生する微細なバックラッシ等の衝撃を吸収するものである。
【0046】
図4において、ブレーキペダル11はブレーキペダル11に形成する係止片11cが右ケーシング34に突出形成される係止部34aに当接して後退限を規制されている。
【0047】
第2のサンギヤ38は、プラネタリキャリア40左端と左ケーシング35に挟持され、軸受42、軸受43により回動自在に軸支されるものであり、軸端には左ケーシング35に固定的に設置される出力回転角センサ33の回転子33aが嵌合されて、第2のサンギヤ38の作動回転角が検出可能にされている。
【0048】
さらに、第2のサンギヤ38は軸外周に腕部であるプッシュロッドアーム38aが一体的に形成され、プッシュロッドアーム38a先端部にはプッシュロッド46がピン45にて回動自在に軸支されている。
【0049】
プッシュロッド46はマスタシリンダボディ61と一体的に結合されている負圧ブースタ64を介して、プッシュロッド46の推力を4〜10倍程度まで増大した推力をマスタシリンダ60に伝達するよう連繋している。
【0050】
図3において、プッシュロッドアーム38aはプッシュロッドアーム38aに形成する係止片38bが左ケーシング35に突出形成される係止部35aに当接して後退限を規制されている。
【0051】
プラネタリキャリア40の外周には、ウオームホイールギヤ40whが形成されており、右ケーシング34および左ケーシング35に固定されるモータ31の回転軸に嵌着されるウオームギヤ31wに噛合している。
【0052】
このウオームギヤ31wとウオームホイールギヤ40whとの歯車対は、セルフロックされる設定とされており、ウオームホイールギヤ40whの駆動回転によりウオームギヤ31wが従動回転することを不可能としている。従って、モータ31の動力を停止しているときにあっても、ウオームホイールギヤ40whが成形されているプラネタリキャリア40は現位置での拘束が可能になり、電力消費を低減することができ、プラネタリキャリア40の回転を拘束するための電磁クラッチ等のブレーキ装置追加等もなんら必要としない。
【0053】
電子制御装置13には、入力回転角センサ32および出力回転角センサ33の検出値が送達されモータ31の回転をフィードバック制御可能にされている。
【0054】
さらに電子制御装置13には、前述した第1の圧力センサS1、第2の圧力センサS2、回生ブレーキ装置70の情報が送達され、回生協調ブレーキ作動中であれば予め目標とする非回生協調ブレーキ作動中のブレーキペダル11の入力に対応するブレーキペダル11のストロークとなるよう、モータ31を制御するものである。
【0055】
(非回生協調ブレーキ作動)
図5を参照して、非回生協調ブレーキ作動時のストロークシミュレータ30の作動を説明する。非回生協調ブレーキ作動時にはストロークシミュレータ30を構成する遊星歯車機構36のプラネタリキャリア40を回動させることはない。
【0056】
ドライバがブレーキペダル11を踏み込んだとき、車両の駆動用電源の充電状態より回生ブレーキの必要性有無を判断して、回生の必要がない場合には、回生ブレーキ装置70は電子制御装置13に回生ブレーキ量がゼロであるという情報を送達する。
【0057】
電子制御装置13は、非回生協調ブレーキ作動の制御を開始するが、ドライバの所望する車両制動力から電気回生制動力を差し引いた車輪ブレーキ制動力に車輪ブレーキ油圧を制御する必要がないため、ABS15は非回生協調ブレーキモードとなり、マスタシリンダ60に発生する油圧は車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに規制なく伝達される。
【0058】
従って、ブレーキペダル11の作動量に対するプッシュロッドアーム38aの作動量は補正する必要がなく、ストロークシミュレータ30を構成する遊星歯車機構36のプラネタリキャリア40は停止させたままに制御されるものである。
【0059】
ブレーキペダル11の回動は、ブレーキペダル11と一体的に構成される第1のサンギヤ37の回動となって伝達して、第1のサンギヤ37の回動は第1のサンギヤ37と第2のサンギヤ38とに噛合するプラネタリギヤ39,39,39,39の自転となり、該自転は第2のサンギヤ38の回動へと伝達して第2のサンギヤ38と一体的に構成されるプッシュロッドアーム38aの回動、そしてプッシュロッド46の直動へと変換される。
【0060】
ここに、
θ1:ブレーキペダル11の回転角
θ2:プラネタリキャリアの回転角
θ3:プッシュロッドアーム38aの回転角
ZA:第1のサンギヤ37の歯数
ZB:第1のサンギヤ37に歯合するプラネタリギヤ39の歯数
ZC:第2のサンギヤ38に歯合するプラネタリギヤ39の歯数
ZA:第2のサンギヤ38の歯数
としたとき、
θ3=θ1(ZA・ZC)/(ZB・ZD)+θ2{1−(ZA・ZC)/(ZB・ZD)}
となる。
【0061】
非回生協調ブレーキ作動では、θ2がゼロであるため、
θ3=θ1(ZA・ZC)
のみとなり、実施例ではZAよりもZDのほうが歯数が多い設定であるため、図5に示すようにブレーキペダル11の回転角よりもプッシュロッドアーム38aの回転角のほうがやや小さくなるよう(レバー比としては大となるよう)にされている。
【0062】
(回生協調ブレーキ作動)
図6を参照して、回生協調ブレーキ作動時のストロークシミュレータ30の作動を説明する。車両の駆動用電源に充電の余地があるときには、回生ブレーキ装置70は回生制動を行い、ABS15は、ドライバの所望する車両制動力から回生制動力を差し引いた車輪ブレーキ制動力となるよう、車輪ブレーキ油圧を規制する回生協調ブレーキモードとなる。
【0063】
ドライバがブレーキペダル11を踏み込み、ABS15が回生協調ブレーキモードになると、マスタシリンダ60が車輪ブレーキBFL,BFR,BRL,BRRに吐出するブレーキ液量が制限されるが、このときブレーキペダル11の作動量(ストローク)が減少して板踏み感が発生しないようにブレーキペダル11の作動量を増やすように制御する。
【0064】
電子制御装置13は、ドライバの所望する車両制動力のうち、回生ブレーキ装置70の回生制動力の割合を演算して、ABS15に適宜な回生協調ブレーキモードとなるよう制御するとともに、ブレーキペダル11の作動量を増加させるためストロークシミュレータ30の遊星歯車機構36のプラネタリキャリア40を図3にて反時計回り方向(遅角方向)に回動させるようモータ31を制御する。
【0065】
プラネタリキャリア40が遅角方向(前述θ2がマイナス)に回転するとブレーキペダル11の作動量に対するプッシュロッドアーム38aの作動量が減少する。換言すると、規制されたプッシュロッドアームの作動量に対するブレーキペダル11の作動量が増加する。
【0066】
このように、ABS15がおこなう回生協調ブレーキモードの状態にあわせて、適宜ブレーキペダル11の作動量を制御することで、回生協調ブレーキ作動時と非回生協調ブレーキ時とのブレーキペダル11の入力に対する作動量を同一の特性にすることができる。
【0067】
図7のブレーキペダルストローク特性線図を参照して、C0〜C1は非回生協調ブレーキ作動時のブレーキペダル11の入力に対するブレーキペダル11のストローク線図である。
【0068】
破線で示すC0〜C2は、回生協調ブレーキ作動時にストロークシミュレータ30の補正制御がおこなわれない場合の線図である。
【0069】
回生ブレーキ作動中において、電子制御装置13はABS15の回生協調ブレーキモードの実行程度を参照して、適宜目標とするC0〜C1線図にブレーキペダル11のストロークにのるようにストロークシミュレータ30を遅角制御(前述θ2がマイナス方向)して板踏み感を無くし、非回生協調ブレーキ作動時と回生協調ブレーキ作動時とのブレーキフィーリングを一定にする。
【0070】
図8の出力液圧特性を参照して、実線で示すK0〜K1〜K2〜K3は非回生協調ブレーキ作動時におけるブレーキペダル11の入力に対するマスタシリンダ60の出力液圧特性線図である。
【0071】
破線で示すK0〜K4〜K5〜K6は、回生協調ブレーキ作動時におけるブレーキペダル11の入力に対するマスタシリンダ60の出力液圧特性線図である。
【0072】
2点鎖線で示すK7〜K8は、負圧ブースタが倍力作動を停止している場合のブレーキペダル11の入力に対するマスタシリンダ60の出力液圧特性線図である。
【0073】
非回生協調ブレーキ作動時において、K0〜K1では、負圧ブースタのいわゆる液圧ジャンピングがおこなわれ車輪および駆動系の慣性力を打ち消すべく、一気に所定圧力まで車輪ブレーキ液圧を上げる。
【0074】
K1〜K2ではブレーキペダル11の入力増加に対して略比例的に出力液圧を上げて、K2ポイントでは負圧ブースタの倍力補助限界となる。
【0075】
さらにブレーキペダル11の入力を上げると、K2からK3線図となるが、この勾配は負圧ブースタの作動が停止している場合の線図K7〜K8の勾配と平行になるものである。
【0076】
回生協調ブレーキ作動では、K7〜K8の線図より上まわり、かつK0〜K1〜K3より下回るようにABS15が制御され、K0〜K4まで低めにジャンピングしたのちにK7〜K8線と略平行にオフセットさせて昇圧しK4〜K5線図となる。
【0077】
K5〜K6では、非回生協調ブレーキ作動線図K1〜K2と略平行にオフセットして昇圧させることにより、K4〜K5〜K6〜K2〜K1〜K4で囲まれる領域を回生ブレーキ装置70の回生制動力として電力の回生をおこなうことができる。
【0078】
回生協調ブレーキ作動中に車両の駆動用電源が満充電になるなど電力の回生が必要なくなった場合には、ABS15を非回生協調ブレーキに切り替えて非回生協調ブレーキ作動線図K0〜K1〜K2〜K3に垂直移動して車輪ブレーキ液圧を増強する。
【0079】
上記のように回生協調ブレーキ作動から非回生協調ブレーキ作動に切り替える際には、回生制動力の減少に同期してストロークシミュレータ30の遅角制御量を減少してブレーキペダル11のストロークを非回生ブレーキ作動時状態に戻してゆく。
【0080】
(応用的制御)
以上、ストロークシミュレータ30の回生協調ブレーキ作動時における制御について説明してきたが、ストロークシミュレータ30は他の目的に用いることもできる。
【0081】
図9を参照して、ブレーキペダル11の作動量に対して、プッシュロッドアーム38aの作動量が大きくなるようプラネタリキャリア40が図9の時計回り方向(進角方向)に回動されている。
【0082】
プラネタリキャリア40が進角方向(前述θ2がプラス方向)に回動されると、ブレーキペダル11の作動量に対してプッシュロッドアーム38aの作動量が増加する。換言するとプッシュロッドアーム38aの作動量に対してブレーキペダル11の作動量が節約できる。
【0083】
このような制御を用いることにより、従来よりもマスタシリンダ60の有効径を小さくして、出力液圧を上げながらもブレーキペダル11の作動量を小さく設定することが可能になる。
【0084】
また、ブレーキペダル11はブレーキペダル11に形成される係止片11c(図4)により後退限が規制されているので、この位置においてプラネタリキャリア40を進角方向に回動することで、係止片11cが回動反力を支承してプッシュロッドアーム38aをマスタシリンダ60の昇圧方向に回動することができる。
【0085】
この自動ブレーキ作動と、自動ブレーキ作動をおこなった上でABS15を適宜作動させスタビリティコントロール制御などもおこなうことができる。
【0086】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0087】
本実施例では、遊星歯車機構を複合遊星歯車の段付型構成で説明したが、一般的なサンギヤとプラネタリギヤとリングギヤ(内歯)で構成される2K−Hとしてもよい。
【符号の説明】
【0088】
11 ブレーキペダル
11b ダンパ
13 電子制御装置
14 警報装置
15 ABS
30 ストロークシミュレータ
31 モータ
31w ウオームギヤ
32 入力回転角センサ
33 出力回転角センサ
34 右ケーシング
35 左ケーシング
36 遊星歯車機構
37 第1のサンギヤ
38 第2のサンギヤ
39,39,39,39 プラネタリギヤ
40 プラネタリキャリア
40wh ウオームホイールギヤ
41 カバー
60 マスタシリンダ
61 マスタシリンダボディ
64 負圧ブースタ
70 回生ブレーキ装置
S1 第1の圧力センサ
S2 第2の圧力センサ
ZA 歯数(第1のサンギヤに形成)
ZB、ZB,ZB,ZB 歯数(ZAに歯合)
ZC,ZC,ZC,ZC 歯数(ZDに歯合)
ZD 歯数(第2のサンギヤに形成)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルと、車輪ブレーキに接続されるマスタシリンダと、正逆転自在なモータと、遊星歯車機構とからなり、該遊星歯車機構に前記モータの回動を作用させて前記ブレーキペダルの作動量と前記マスタシリンダに連繋するプッシュロッド作動量とを可変せしめる装置において、前記ブレーキペダルの回動支点と前記遊星歯車機構のサンギヤ回動支点と前記プッシュロッドを駆動するプッシュロッドアームの回動支点とを同軸に構成することを特徴とするストロークシミュレータ。
【請求項2】
前記遊星歯車機構は、第1のサンギヤと、該第1のサンギヤとは歯数の異なる第2のサンギヤとを同軸に備え、前記第1のサンギヤと前記第2のサンギヤに噛合するプラネタリギヤを担持するプラネタリキャリアからなり、前記プラネタリキャリアに前記モータを連繋し、前記第1のサンギヤまたは前記第2のサンギヤのいずれかに前記ブレーキペダルを連繋し、残る前記第1のサンギヤまたは前記第2のサンギヤのいずれかに前記プッシュロッドアームを連繋することを特徴とする請求項1記載のストロークシミュレータ。
【請求項3】
前記プッシュロッドと前記マスタシリンダとの間に負圧ブースタを介設することを特徴とする請求項1または2記載のストロークシミュレータ。
【請求項4】
前記モータの作動量を制御して、前記ブレーキペダルの作動量を可変せしめる電子制御装置を含み、回生協調ブレーキ作動時には予め目標値と定める非回生協調ブレーキ作動時の前記ブレーキペダル入力に対応する該ブレーキペダルの作動量近傍になるよう制御されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のストロークシミュレータ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−219064(P2011−219064A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93450(P2010−93450)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(304014394)
【Fターム(参考)】