説明

塗布装置、および薄膜トランジスタの製造方法

【課題】大きな結晶の半導体層を基板の上に形成する塗布装置、および特性の優れた薄膜トランジスタを基板の上に形成する薄膜トランジスタの製造方法を提供する。
【解決手段】半導体材料を溶解または分散した半導体溶液の液滴を吐出する複数のノズルを備えたヘッドを移動させて該液滴を滴下し、基板の上に順次半導体溶液を塗布する塗布装置において、ヘッドは、ヘッドの基板と対向する面の、ノズル位置からヘッドの移動方向と反対側に離間した位置に、ヘッドと基板との間の空間を加熱する空間加熱手段を有することを特徴とする塗布装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置、および薄膜トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、従来のシリコンを材料とした薄膜トランジスタ(以下TFTと記す)素子のデメリットを補う技術として、有機半導体材料を用いた有機TFT素子の研究開発が盛んに進められている(特許文献1、非特許文献1等参照)。
【0003】
有機TFT素子は低温プロセスで製造可能であるため、軽く、割れにくい樹脂基板を用いることができ、さらに、樹脂フィルムを支持体として用いたフレキシブルなディスプレイが実現できると言われている(非特許文献2等参照)。
【0004】
また、近年、画素駆動素子として、製造コスト削減,生産性向上を目的に、大気圧下でインクジェット法等に代表される塗布装置を用いてTFTを作製する方法が多く提案されている。例えば、表示装置に用いる液晶パネルや有機EL(Electro Luminescence)パネルのTFTを形成する工程で、塗布装置を用いて半導体材料を溶解または分散した半導体溶液の液滴を滴下し、基板の上に順次半導体溶液を塗布し半導体膜を形成する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
図10は、従来の塗布装置におけるヘッド80と基板1とを模式的に示した断面図である。表示パネルの画素を駆動するTFTは、画素の配列と同じ間隔で基板上にマトリクス状に形成する必要がある。そのため、TFTを形成する工程では、例えば図10に示すようなヘッド80を矢印B方向に移動させて順次ノズル81から基板1の上に半導体溶液50aを滴下させる。基板1の上に塗布した半導体溶液50bから溶媒は徐々に気化し、半導体溶液50bの濃度が高まるにつれて半導体材料の結晶が成長する。このようにして、TFTの半導体膜10を形成する。図10の58は気化した溶媒を示している。
【特許文献1】特開平10−190001号公報
【特許文献2】特開2007−243081号公報
【非特許文献1】Advanced Material誌 2002年 第2号 99頁(レビュー)
【非特許文献2】SID’01 Digest 57頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような塗布装置ではヘッド80と基板1とを近接させて半導体溶液50aを滴下するので、塗布した半導体溶液50bが乾燥する過程で気化した溶媒58が、ヘッド80と基板1の間の空間に滞留し高濃度になってしまう。そのため、一度気化した溶媒58が再度液化して半導体膜10に付着し、成長し始めた半導体材料の結晶の一部を溶解し、劣化させてしまうことがあった。
【0007】
このような問題を解決するため、例えば基板全体を加熱することで気化した溶媒58の液化を起こりにくくできるが、この方法では塗布した半導体溶液50bの乾燥速度まで速まってしまい、ドメインの大きな結晶膜を得ることが困難になる。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、大きな結晶の半導体層を基板の上に形成する塗布装置、および特性の優れた薄膜トランジスタを基板の上に形成する薄膜トランジスタの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1.
半導体材料を溶解または分散した半導体溶液の液滴を吐出する複数のノズルを備えたヘッドを移動させて該液滴を滴下し、基板の上に順次半導体溶液を塗布する塗布装置において、
前記ヘッドは、
前記ヘッドの前記基板と対向する面の、前記ノズル位置から前記ヘッドの移動方向と反対側に離間した位置に、前記ヘッドと前記基板との間の空間を加熱する空間加熱手段を有することを特徴とする塗布装置。
【0010】
2.
前記基板を載置する基板台と、
前記基板台を所定の温度に調節する温度調節手段と、
を有することを特徴とする1に記載の塗布装置。
【0011】
3.
前記空間加熱手段は、
電磁波を照射して前記ヘッドと前記基板との間の空間を加熱することを特徴とする1または2に記載の塗布装置。
【0012】
4.
基板の上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び半導体層を有する薄膜トランジスタの製造方法において、
1乃至3の何れか1項に記載の塗布装置を用いて前記半導体層を形成する工程を有する、ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【0013】
5.
3に記載の塗布装置を用いて半導体層を形成する工程の前に、
電磁波熱変換材料からなる電磁波熱変換膜を成膜する工程を行うことを特徴とする4に記載の薄膜トランジスタの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ヘッドと基板との間の空間を加熱する空間加熱手段を、前記ヘッドの前記基板と対向する面の、前記ノズル位置から前記ヘッドの移動方向と反対側に離間した位置に設けたので、大きな結晶の半導体層を基板の上に形成する塗布装置を提供できる。また、特性の優れた薄膜トランジスタを基板の上に形成する薄膜トランジスタの製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、実施形態により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した斜視図、図2は、本発明の第1の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した断面図である。図1、図2を用いて本発明の第1の実施形態に係る塗布装置90を説明する。
【0017】
塗布装置90は、基板1の所定の位置に半導体溶液50を塗布し、マトリクス状に半導体層10を形成する装置である。塗布装置90は、例えば、図1のように基板1を載置する基板台20、ヘッド80、ヘッド駆動部97、ノズル駆動部95、制御部93などから構成される。図1の左下に、3次元の座標系を示すX、Y、Zの座標軸を図示している。図2は、図1に示す座標系のY軸方向の断面図である。以下、図面の説明はこの座標系に基づいて行う。
【0018】
図2に示すノズル81は、半導体溶液50を貯留する図示せぬ貯留タンクに接続されており、ノズル81に半導体溶液50が供給されるように構成されている。また、ノズル81は、ヘッド80の基板1と対向する面に、X軸方向に所定の間隔で複数配置されている。各ノズル81は、公知のノズルで用いられている例えば圧電素子などを備え、制御部93が滴下量を制御できるようになっている。ノズル駆動部95は、各ノズル81の例えば圧電素子を駆動し、図2のようにヘッド駆動部97により矢印B方向(Y軸正方向)に順次移動して所定量の半導体溶液50aを滴下する。図2に示すように、基板1の上に塗布した直後は半導体溶液50bであり、半導体溶液の溶媒が気化すると半導体の結晶が成長して半導体層10になる。
【0019】
図2に示す空間加熱部82は、例えばニクロムヒータやペルチェ素子などの発熱部材から構成され、ヘッド80の基板1と対向する面のノズル81の位置よりヘッドの移動方向(B方向)と反対側に配置されている。ヘッド80から半導体溶液50aを滴下するとき、空間加熱部82は通電されており、発熱した空間加熱部82によってヘッド80と基板1との間の空間の温度は上昇し、半導体層10の表面の表面温度も上昇する。このようにして、ヘッド80と基板1との間の空間の温度を高くすることにより、塗布した半導体溶液50bから気化した溶媒58が再び液化して半導体層10に付着し、半導体層10を劣化させることを防止することができる。空間加熱部82は本発明の空間加熱手段である。
【0020】
空間加熱部82は、塗布した半導体溶液が急激に乾燥することで結晶性の悪い半導体膜を形成することがないように、ノズル81から離れた位置に配置する必要がある。また、塗布した半導体溶液50bから気化した溶媒58が再び液化しないように、少なくともヘッド80の半導体層10と対向する部分には空間加熱部82の発熱部分を配置することが望ましい。
【0021】
一方、特性の良い半導体層10を成膜するためには、基板1を所定の温度、例えば40℃に設定し、溶媒を適当なスピードで気化させて半導体の結晶を大きく成長させることが望ましい。
【0022】
図3は、基板台20を所定の温度にする制御系を説明するためのブロック図である。図3に示すように、基板台20の下面にはペルチェ素子などが組み込まれた温度調節ユニット21と、サーミスタなどの素子からなる温度検知器23とが取り付けられている。基板温度制御部22は、所定の時間毎に図中Tで示す温度情報を温度検知器23から受信し、基板台20の温度と所定の温度とを比較し、加熱、又は冷却するよう図中Cで示す制御信号を温度調節ユニット21に送信する。温度調節ユニット21は、制御信号Cを受信して基板台20を加熱、又は冷却する。このように、フィードバック制御を行って基板台20の温度を所定の温度に制御している。基板温度制御部22、温度調節ユニット21、温度検知器23は本発明の温度調節手段である。
【0023】
このようにすることにより、基板台20に載置される基板1の温度を一定の温度にして半導体の結晶を大きく成長させることができる。
【0024】
図4は、塗布装置90に用いる第1の実施形態のヘッド80の形状を説明するための図面である。図4(a)はヘッド80のY軸方向の断面図、図4(b)はZ軸負側から見た平面図である。図4(a)、(b)にはそれぞれ3次元の座標軸X、Y、Zを示している。これまでに説明した構成要素と同じ構成要素には同番号を付し、説明を省略する。
【0025】
図4(a)に示すように、空間加熱部82の基板1と対向する面は、ヘッド80の基板1と対向する面からZ軸負方向に高さh1突出している。空間加熱部82と基板1との間隔はh3である。また、ノズル81と基板1との間隔はh2である。
【0026】
図4(b)に示すように、ノズル81はヘッド80の基板1と対向する面に間隔Pで一列に配置されている。ノズル81は、図4(b)に示すようにヘッド80の端面からY軸方向にZ2離れ、X軸方向にW3離れた位置からW2の幅で配置されている。W1はヘッド80のX軸方向の幅、Z3はヘッド80のY軸方向の幅である。
【0027】
図5は、第1の実施形態の塗布装置90を用いたボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTの製造方法の一例を説明する説明図である。
【0028】
本発明の塗布装置90を用いてボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTを製造する製造方法として、次の工程S1〜S4を説明する。
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
図5を用いて、ボトムゲートボトムコンタクト型のTFTを形成する場合の製造方法について順を追って説明する。
【0029】
図5(a)〜図5(e)はTFT素子のチャネル部分の断面図である。
【0030】
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
図5(a)のように基板1の上にゲート電極2を形成した後、図5(b)のように上層にゲート絶縁層7を形成する。
【0031】
本発明において、基板1は特に材料を限定されない。例えばガラスやポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)などを用いることができる。
【0032】
ゲート電極2の形成方法としては、電極材料でできた薄膜をスパッタ法や蒸着法などで表面に形成した基板1を、フォトリソグラフィー法を用いてパターンニングする方法や、種々の印刷法や液滴塗布法を用いて所望部分のみに材料薄膜を形成する方法を用いることができる。
【0033】
電極材料としては、スパッタや蒸着で薄膜を形成する場合は、Au、Ag、Pd、Al、Cr、Pt、Cu、ITO等を用いることが出来る。液滴塗布法の場合は、Agナノ粒子、Auナノ粒子、AgPdナノ粒子などの金属ナノ粒子を溶媒に分散した金属ナノ粒子インク、ITOナノ粒子などの金属酸化物を溶媒に分散した金属酸化物ナノ粒子インク、PEDOT/PSSなどの有機材料を溶媒に分散した有機材料分散インクなどを用いることができる。
【0034】
次にゲート絶縁層7を形成する。形成方法としては、スピンコート法や、CVD法、スパッタ法などがある。ゲート絶縁層7の材料としては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン等の無機酸化物や、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等の無機窒化物を用いることができる。あるいは、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、光ラジカル重合系、光カチオン重合系の光硬化性樹脂、アクリロニトリル成分を含有する共重合体、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ノボラック樹脂、シアノエチルプルラン等の有機化合物なども用いることができる。
【0035】
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
図5(c)のように基板1の上にソース電極9、ドレイン電極8を形成する。
【0036】
ゲート絶縁層7を形成した基板を洗浄後、ゲート電極2の形成方法と同様にフォトリソグラフィー法や、種々の印刷法や液滴塗布法を用いてソース電極9、ドレイン電極8を形成する。ソース電極9、ドレイン電極8の電極材料はゲート電極2と同じ電極材料を用いることができる。
【0037】
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
塗布装置90を用いて、図5(d)のように半導体材料を溶解または分散した半導体溶液50をノズル81から滴下する。本工程を始める前に空間加熱部82に通電し、空間加熱部82を発熱させておく。また、温度調節ユニット21も通電し基板1を所定の温度にすることが望ましい。
【0038】
半導体材料は溶媒に溶解または分散させるものであれば、その材料については問わない。有機高分子材料はもちろんのこと、有機低分子材料に溶解性を上げるために可溶性の側鎖を設けたものについても同様であり、半導体材料は低分子材料でも高分子材料でもオリゴマーでも構わない。また、有機無機ハイブリッド材料でも、無機材料でも溶媒と同時に塗布し、溶媒を乾燥させることで半導体層を形成するものであれば本発明を適用することができる。また、半導体の前駆体の溶液についても同様に適用可能である。
【0039】
溶媒は特に限定されるものではなく、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、ハロゲン化炭化水素類、フェノール類などから半導体材料に適した溶媒を選択することができる。
【0040】
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
ソース電極9とドレイン電極8の間に流入した半導体溶液50を乾燥させて、図5(e)のように半導体層10を形成する。空間加熱部82により空間加熱部82と基板1との間の空間は加熱されているので半導体溶液50から気化した溶媒が再度液化し半導体層10に付着することがない。したがって、半導体の結晶が大きく成長し、性能の良いTFT素子が得られる。
【0041】
また、本工程は常温で行っても良いが、温度調節ユニット21により基板1を所定の温度にすると、より結晶が大きく成長し、性能の良いTFT素子が得られる。
【0042】
このように、基板1上のソース電極9、ドレイン電極8の間の所定の領域にノズル81から半導体溶液50を順次滴下し、半導体層10を形成する。
【0043】
第1の実施例のボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTの製造方法の説明は以上である。
【0044】
次に、空間加熱部82が電磁波を照射してヘッド80と基板1との間の空間を加熱する第2の実施形態を図6、図7、図8を用いて説明する。
【0045】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した断面図、図7は、塗布装置90に用いる第2の実施形態のヘッド80の形状を説明するための図面、図8は第2の実施形態の空間加熱部82の構成を説明するための断面図である。図7(a)はヘッド80のY軸方向の断面図、図7(b)はZ軸負側から見た平面図である。図7(c)は、空間加熱部82の図7(b)に示すA−A部分の断面図である。図6、図7の構成要素や寸法など第1の実施形態と同じものは同符号を付し説明を省略する。
【0046】
第1の実施形態との違いは、空間加熱部82が半導体レーザ84と導光板83から構成されている点である。導光板83は透明なガラスからなり、図8に示すように導光板83の基板1と対向する面には回折格子83aが形成されている。図7のh4は導光板83の厚さである。
【0047】
図8に矢印で示す半導体レーザ84から照射されたレーザ光(電磁波)は、導光板83の中を全反射を繰り返しながら進み、回折格子83aによって進行方向を曲げられて基板1と対向する面から射出する。このようにすると導光板83からレーザ光を基板1に向けて均一に照射し、ヘッド80と基板1との間の空間と半導体層10の表面を加熱することができる。本実施形態では光源に半導体レーザ84を用いた例を説明するが、光源は半導体レーザ84に限らず赤外線ランプ、タングステンランプなどを用いても良い。光波長については、塗布された液滴材料が吸収し、発熱する波長であれば、液滴材料を分解しない限り特に制限なく使用することができる。
【0048】
図9は、第2の実施形態の塗布装置90を用いたボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTの製造方法の一例を説明する説明図である。本実施形態では、TFT素子に電磁波熱変換層11を設け、第2の実施形態の空間加熱部82から照射した光によって電磁波熱変換層11を発熱させ塗布した半導体溶液50の結晶化を促進している。電磁波熱変換層11は本発明の電磁波熱変換膜である。
【0049】
第2の実施形態の塗布装置90を用いてボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTを製造する製造方法を説明する。なお、第1の実施形態と同じ工程には同じ工程番号を付し、説明を省略する。
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
S10・・・・電磁波熱変換層を形成する工程
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
図9(a)〜図9(g)はTFT素子のチャネル部分の断面図である。
【0050】
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
図9(a)のように基板1の上にゲート電極2を形成した後、図9(b)のように上層にゲート絶縁層7を形成する。
【0051】
S10・・・・電磁波熱変換層を形成する工程
図9(c)のように基板1の上に電磁波熱変換層11を形成した後、図9(d)のように上層に絶縁層12を形成する。
【0052】
電磁波熱変換層11を形成する光熱変換材料としては、公知の近赤外光吸収剤を用いることができる。例えば、シアニン系、ポリメチン系、アズレニウム系、スクワリウム系、チオピリリウム系、ナフトキノン系、アントラキノン系色素等の有機化合物、フタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系の有機金属錯体などが好適に用いられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号および同3−103476号に記載の化合物が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。又、カーボンブラック等も好ましいものの一つである。電磁波熱変換層11の作成方法としては、液滴塗布等の方法を用いることができる。
【0053】
次に、例えば酸化珪素をスパッタで成膜し、絶縁層12を形成する。なお、ゲート絶縁層7だけで十分な絶縁性が確保できる場合は、絶縁層12を形成する工程を省略することもできる。
【0054】
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
図9(e)のように基板1の上にソース電極9、ドレイン電極8を形成する。
【0055】
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
塗布装置90を用いて、図9(f)のように半導体材料を溶解または分散した半導体溶液50をノズル81から滴下する。本工程を始める前に空間加熱部82に通電しレーザ光の照射を開始する。
【0056】
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
ソース電極9とドレイン電極8の間に流入した半導体溶液50を乾燥させて、図9(g)のように半導体層10を形成する。空間加熱部82から照射されるレーザ光により、空間加熱部82と基板1との空間が加熱されるので半導体溶液50から気化した溶媒が再度液化し半導体層10に付着することがない。したがって、半導体の結晶が大きく成長し、性能の良いTFT素子が得られる。
【0057】
また、空間加熱部82から照射されるレーザ光により、電磁波熱変換層11が発熱し、半導体溶液50を加熱する。このことにより結晶が大きく成長し、性能の良いTFT素子が得られる。
【0058】
このように、基板1上のソース電極9、ドレイン電極8の間の所定の領域にノズル81から半導体溶液50を順次滴下し、半導体層10を形成する。
【0059】
なお、本実施形態ではボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTに電磁波熱変換層11を形成する例について説明したが、ボトムゲートトップコンタクト型有機TFT、トップゲート型有機TFTなどにも同様に電磁波熱変換層11を形成できる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
以下説明する各実施例と各比較例では、Cr膜を表面に125nm形成した90mm×120mmのガラス基板を基板1として用いた。各実施例では、基板1上に428×570の計243960個のボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。
[実施例1]
本実施例では、図4で説明したヘッド80を有する第1の実施形態の塗布装置90を用いて、図5で説明したS1〜S4の工程でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。本実施例で用いたヘッド80の各部の寸法は、h1=0.3mm、h2=0.5mm、h3=0.2mm、Z1=5mm、Z2=10mm、W1=90mm、W2=60mm、W3=15mm、P=140μmである。ヘッド80には428個のノズル81が配置されている。ヘッド80はヘッド駆動部97により140μmピッチで矢印B方向に駆動される。
【0062】
以降の工程は、図5と同じ工程の番号を付して順に説明し、共通する点は説明を省略する。
【0063】
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
導電性薄膜が形成された基板1上に感光性レジストを塗布後、ゲート電極2のパターンを有するフォトマスクを介して露光、現像して、ゲート電極2の形状のレジスト層を形成した。エッチング後レジスト層を除去し、ゲート電極2を形成した。
【0064】
次に、感光性アクリレート材料であるオプトマーPC403をスピンコート法を用いて塗布した後、フォトリソグラフィー法を用いてパターニングを行ってゲート絶縁層7を形成した。
【0065】
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
フォトリソグラフィー法を用いてAuを材料とした厚み50μmのソース電極9、ドレイン電極8を形成した。
【0066】
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
図4に示すヘッド80を順次140μmピッチで矢印B方向に移動させて半導体溶液50をノズル81から滴下した。本工程では空間加熱部82に通電し、空間加熱部82の温度を90℃にした状態で半導体溶液50を滴下した。半導体溶液50は、テトラヒドロナフタレンに6、13−ビストリエチルシリルエチニルペンタセンを3質量%溶解した溶液を用いた。
【0067】
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
ソース電極9とドレイン電極8との間に流入した半導体溶液50を乾燥させて、図5(e)のように半導体層10を形成した。実施例1では、温度調節ユニット21による基板1の温度制御は行わなかった。
[実施例2]
温度調節ユニット21により実施例1と同じ形状、材質の基板1を一定の温度に制御したこと以外は実施例1と全く同じ工程でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを形成した。基板1の温度は40℃になるように制御した。
[実施例3]
本実施例では、図7で説明したヘッド80を有する第2の実施形態の塗布装置90を用いて、図5で説明したS1〜S4の工程でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。本実施例で用いたヘッド80の各部の寸法は、h4=1mm、Z1=5mm、Z2=10mm、W1=90mm、W2=60mm、W3=15mm、P=140μmである。ヘッド80には428個のノズル81が配置されている。ヘッド80はヘッド駆動部97により140μmピッチで矢印B方向に駆動される。
【0068】
本実施例では、電磁波熱変換層11を形成せず実施例1で説明したS1〜S4の工程で作製したので、各工程の番号を付して順に説明し、共通する点は説明を省略する。
【0069】
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
実施例1と同じ条件でゲート電極とゲート絶縁層を形成した。
【0070】
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
フォトリソグラフィー法を用いてAuを材料とした厚み50μmのソース電極9、ドレイン電極8を形成した。
【0071】
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
図7に示すヘッド80を順次140μmピッチで矢印B方向に移動させて半導体溶液50をノズル81から滴下した。本工程では半導体レーザ84に通電し、空間加熱部82の導光板83から基板1に向けて830nmの赤外線を100mWの出力で照射した状態で半導体溶液50を滴下した。半導体溶液50は、テトラヒドロナフタレンに6、13−ビストリエチルシリルエチニルペンタセンを3質量%溶解した溶液を用いた。
【0072】
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
実施例1と同じ条件で半導体層10を形成した。
[実施例4]
本実施例では、図7で説明したヘッド80を有する第2の実施形態の塗布装置90を用いて、図9で説明したS1、S10、S2、S3、S4の工程でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。本実施例で用いたヘッド80の各部の寸法は、実施例3と同じである。
【0073】
本実施例では、実施例1で説明した工程S1の後に工程S10の電磁波熱変換層を形成する工程を行った後、工程S2、S3、S4を行っている。工程S1、S2、S3、S4は実施例1と同じ条件で行ったので説明を省略する。
【0074】
S1・・・・・ゲート電極とゲート絶縁層を形成する工程
実施例3と同じ条件でゲート電極2とゲート絶縁層7を形成した。
【0075】
S10・・・・電磁波熱変換層を形成する工程
図9(c)のように基板1の上に電磁波熱変換層11を形成した後、図9(d)のように上層に絶縁層12を形成した。
【0076】
ノボラック樹脂7:カーボンブラック3の割合でプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解度10質量%溶解した溶液を、塗布法を用いてゲート絶縁層7の上に塗布し電磁波熱変換層11を形成した。
【0077】
次に、酸化珪素膜をスパッタで200nmの厚みで成膜し、絶縁層12を形成した。
【0078】
S2・・・・・ソース電極とドレイン電極を形成する工程
フォトリソグラフィー法を用いてソース電極9、ドレイン電極8を形成した。
【0079】
S3・・・・・半導体溶液を滴下する工程
実施例3と同じ条件で半導体溶液50をノズル81から滴下した。
【0080】
S4・・・・・半導体溶液を乾燥させて半導体層を形成する工程
実施例3と同じ条件で半導体層10を形成した。
[比較例1]
本比較例は、実施例1で行った空間加熱部82による加熱の効果を確認するために行った。実施例1との違いは、工程S3の半導体溶液を滴下する工程で空間加熱部82に通電せず半導体溶液50を滴下した点である。それ以外は実施例1と同じ条件でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。
[比較例2]
本比較例は、実施例3で行った空間加熱部82による加熱の効果を確認するために行った。実施例3との違いは、工程S3の半導体溶液を滴下する工程で半導体レーザ84に通電せず半導体溶液50を滴下した点である。それ以外は実施例3と同じ条件でボトムゲートボトムコンタクト型TFTを作製した。
【0081】
〔実験結果〕
本実験では基板1上のTFT素子243960個のうち、1000個のTFT素子をランダムに選び、それぞれについて評価した。
【0082】
最初に、TFT素子の半導体層10を顕微鏡を用いて結晶状態を観察した。実施例1、2、3、4の空間加熱部82により加熱して作製したTFT素子の結晶ドメインの形状は長方形であり、縦横の長さの平均値は30.2μm×10.1μm、標準偏差はそれぞれ0.8、1.1であった。実施例2の基板1を加熱して作製したTFT素子の結晶ドメインの形状も長方形であり、縦横の長さの平均値は30.1μm×10.0μm、標準偏差はそれぞれ0.2、0.3であった。一方、比較例1、2の加熱せずに作製したTFT素子の結晶ドメインは外形が1μm以下の微小な粒状であった。
【0083】
このように実施例1、実施例2で作製したTFT素子は、比較例1、2の加熱せずに作製したTFT素子に比べて結晶ドメインが大きく、ばらつきも少なかった。また、実施例2の基板1を加熱して作製したTFT素子は、実施例1の加熱せずに作製したTFT素子に比べて結晶ドメインの大きさのばらつきが少なかった。
【0084】
次に、実施例1、2、3、4で作製したTFT素子の移動度は、比較例1、2で作製したTFT素子に通電し移動度を測定した。測定した移動度の平均値を下表に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1からわかるように実施例1、2、3、4で作製したTFT素子の移動度は、比較例1、2で作製したTFT素子より高かった。
【0087】
なお、本明細書ではボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTを作製する例について説明したが、本発明の適用はボトムゲートボトムコンタクト型有機TFT素子の製造に限定されるものではなく、ボトムゲートトップコンタクト型有機TFT、トップゲート型有機TFTなどの製造にも適用できる。
【0088】
以上このように、本発明によれば、大きな結晶の半導体層を基板の上に形成する塗布装置、および特性の優れた薄膜トランジスタを基板の上に形成する薄膜トランジスタの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した断面図である。
【図3】基板台20を所定の温度にする制御系を説明するためのブロック図である。
【図4】塗布装置90に用いる第1の実施形態のヘッド80の形状を説明するための図面である。
【図5】本発明の第1の実施形態の塗布装置90を用いたボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTの製造方法の一例を説明する説明図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る塗布装置90の要部の構成を模式的に示した断面図である。
【図7】塗布装置90に用いる第2の実施形態のヘッド80の形状を説明するための図面である。
【図8】本発明の第2の実施形態の空間加熱部82の構成を説明するための断面図である。
【図9】本発明の第2の実施形態の塗布装置90を用いたボトムゲートボトムコンタクト型有機TFTの製造方法の一例を説明する説明図である。
【図10】従来の塗布装置90の要部の構成を模式的に示した断面図である。
【符号の説明】
【0090】
1 基板
2 ゲート電極
7 ゲート絶縁層
8 ドレイン電極
9 ソース電極
10 半導体層
11 電磁波変換層
12 絶縁層
20 基板台
21 温度調節ユニット
22 基板温度制御部
23 温度検知器
50 半導体溶液
58 気化した溶媒
80 ヘッド
81 ノズル
82 空間加熱部
83 導光板
83a 回折格子
84 半導体レーザ
90 塗布装置
93 制御部
95 ノズル駆動部
97 ヘッド駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体材料を溶解または分散した半導体溶液の液滴を吐出する複数のノズルを備えたヘッドを移動させて該液滴を滴下し、基板の上に順次半導体溶液を塗布する塗布装置において、
前記ヘッドは、
前記ヘッドの前記基板と対向する面の、前記ノズルの位置から前記ヘッドの移動方向と反対側に離間した位置に、前記ヘッドと前記基板との間の空間を加熱する空間加熱手段を有することを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記基板を載置する基板台と、
前記基板台を所定の温度に調節する温度調節手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記空間加熱手段は、
電磁波を照射して前記ヘッドと前記基板との間の空間を加熱することを特徴とする請求項1または2に記載の塗布装置。
【請求項4】
基板の上に、ゲート電極、ゲート絶縁層、ソース電極、ドレイン電極及び半導体層を有する薄膜トランジスタの製造方法において、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の塗布装置を用いて前記半導体層を形成する工程を有する、ことを特徴とする薄膜トランジスタの製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載の塗布装置を用いて半導体層を形成する工程の前に、
電磁波熱変換材料からなる電磁波熱変換膜を成膜する工程を行うことを特徴とする請求項4に記載の薄膜トランジスタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−182090(P2009−182090A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18863(P2008−18863)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】