説明

多種燃料ガスエンジンの運転方法及び燃料切換装置

【課題】簡単な操作で以ってエンジンの運転中においても複数の燃料ガスの切換えを可能とするとともに、少ないガス供給系統で且つ小型、低コストの構成で多種類の燃料ガスの切換え運転を可能とした多種燃料ガスエンジンの運転方法及び燃料切換装置を提供する。
【解決手段】燃料切換手段により多種類の燃料ガスを切換えてエンジンに供給するように構成された多種燃料ガスエンジンであって、前記エンジンの出力を第1の燃料での出力よりも一定量低下させて、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換信号を前記燃料切換手段に発信し、前記エンジンの燃料噴射時期を遅延させ、前記燃料切換手段により第1の燃料から第2の燃料への燃料切換を行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料切換手段により多種類の燃料ガスを切換えてエンジンに供給するように構成された多種燃料ガスエンジンの運転方法及び燃料切換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスエンジン、特に発電用ガスエンジンにおいては、燃料ガスとして発熱量や着火性能の異なる複数種類のガスを選択使用可能としたエンジンの提供が要求されるようになってきた。
このような発熱量や着火性能の異なる多種類の燃料ガスを切換え使用可能とした多種燃料ガスエンジンに関する技術として、特許文献1(特開2006−97584号公報)、特許文献2(特開2002−202006号公報)等が提供されている。
【0003】
特許文献1(特開2006−97584号公報)の技術においては、多種類の燃料ガスつまりカセットボンベに液化状態で貯蔵された第1燃料ガス、外部に設置された外部ボンベに貯蔵された第2燃料ガスとを燃料切換コックで切換え、該燃料切換コックは、第1燃料ガスを供給する第1位置と第2燃料ガスを供給する第2位置と、燃料ガスの供給を停止する停止位置とに操作可能で、前記第1位置と第2位置との切換えは常に停止位置を経て行うように構成している。
【0004】
特許文献2(特開2002−202006号公報)の技術においては、低発熱量ガス及び都市ガスのいずれを用いても発電可能で、低発熱量ガスでの発電において所定の最小電力量を発電可能な第1発電機と、低発熱量ガス及び都市ガスのいずれを用いても発電可能な第2発電機とをそなえるとともに、制御手段を、第1低発熱量ガス供給手段及び第2低発熱量ガス供給手段が作動し、第1都市ガス供給手段及び第2都市ガス供給手段が作動していない第1の状態から、第2低発熱量ガス供給手段の作動を停止させ、第2都市ガス供給手段を作動させて、第1低発熱量ガス供給手段及び第2都市ガス供給手段が作動しており第1都市ガス供給手段及び第2低発熱量ガス供給手段が作動していない第2の状態に切り換えることにより、燃料ガスの切換時に必要最小限の電力の発電を続けることを可能としている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−97584号公報
【特許文献2】特開2002−202006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献1(特開2006−97584号公報)の技術、及び特許文献2(特開2002−202006号公報)の技術は、次のような問題がある。
特許文献1の技術にあっては、燃料切換コックにより、第1燃料ガスを供給する第1位置と第2燃料ガスを供給する第2位置と、燃料ガスの供給を停止する停止位置の3位置に操作し、第1位置と第2位置との切換えは常に停止位置を経て行うので、燃料ガスの切換時には、燃料ガスの供給を停止してエンジンを停止することを要し、エンジンの運転中に燃料ガスの切換えを行うのは不可能である。
【0007】
また、特許文献2の技術にあっては、エンジンの運転中における燃料ガスの切換は可能であるが、第1発電機及び第2発電機への、低発熱量ガスと都市ガスとの供給を切換えるために、第1低発熱量ガス供給手段と第2低発熱量ガス供給手段、及び第1都市ガス供給手段と第2都市ガス供給手段という4つのガス供給手段を制御手段によって切り換えるので、燃料ガスの切換えに多くのガス供給系統が必要となって、燃料ガスの切換操作が煩雑であり、また燃料ガスの切換装置も大掛かりでコスト高となる。
【0008】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、簡単な操作で以ってエンジンの運転中においても複数の燃料ガスの切換えを可能とするとともに、少ないガス供給系統で且つ小型、低コストの構成で多種類の燃料ガスの切換え運転を可能とした多種燃料ガスエンジンの運転方法及び燃料切換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明はかかる目的を達成するもので、燃料切換手段により複数種類の燃料ガスを切換えてエンジンに供給するように構成された多種燃料ガスエンジンの運転方法であって、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換信号を前記燃料切換手段に発信し、前記エンジンの燃料噴射時期を遅延させ、前記燃料切換手段により第1の燃料から第2の燃料への燃料切換を行うことを特徴とする。
かかる発明において、好ましくは、前記エンジンの出力を第1の燃料での出力よりも一定量低下させた後、前記第1の燃料から第2の燃料への燃料切換信号を発信する。
【0010】
前記運転方法に用いる多種燃料ガスエンジンの燃料切換装置の発明は、多種類の燃料ガスを切換えてエンジン供給する燃料切換手段と、前記多種類の燃料のそれぞれに対応する燃焼パラメータによる燃焼診断結果でエンジンを運転可能にされた燃焼制御手段とをそなえた多種燃料ガスエンジンの燃料切換装置において、前記燃料切換手段に第1の燃料から第2の燃料への切換信号を発信するとともに、該切換信号の発信に伴いエンジン出力を一定量低下せしめる燃焼制御手段をそなえ、前記燃焼制御手段は、前記燃料切換制御手段から前記切換信号が発信されたとき燃料噴射時期を前記第1の燃料での燃料噴射時期から一定量遅延せしめるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、エンジンに第1の燃料を供給する第1の燃料系統と、第2の燃料を供給する第2の燃料系統との2つの燃料系統を燃料切換手段によって切換え可能とし、燃料切換制御手段からの燃料切換信号を該燃料切換手段に発信することによって、第1の燃料系統から第2の燃料系統に切換える際には、前記燃料切換制御手段から燃料切換手段に燃料切換信号を発信し、続いてエンジンの燃料噴射時期を遅延させることにより、筒内圧力を低めに抑えて第1の燃料系統から第2の燃料系統に切換えることが可能となって、第1の燃料及び第2の燃料の発熱量の如何に拘わらず、筒内圧力の上昇を防止しつつ、安定的に燃料切換えを行うことができる。
また、エンジン出力(エンジン負荷)を第1の燃料での運転出力から一定量低下させることにより、燃料切換えの過渡状態でも筒内圧力の急上昇やノッキングの発生を伴うことなく安全運転を保持しながら燃料切換えを行うことができる。
【0012】
従って、かかる発明によれば、エンジンを停止することなく、エンジンの運転を継続しながら、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換えの過渡状態、及び燃料切換え後における第2の燃料での運転時のいずれにおいても、筒内圧力の上昇及びこれに伴うノッキングやエンジン構成部品への過大負荷の発生を防止し安定運転を保持して、第1の燃料系統から第2の燃料系統への燃料切換えを行うことができる。
【0013】
また、第1の燃料系統と第2の燃料系統との2つの燃料系統の合流部に三方切換弁等の燃料切換手段を設置し、エンジンに常備されてエンジンの出力制御や燃料噴射時期制御を司る燃焼制御手段と共働可能にされた燃料切換制御手段からの切換信号を発信して該燃料切換手段を作動させ、前記のようにエンジンの安定運転を保持しつつ、前記2つの燃料系統の燃料切換えを行うので、前記特許文献2の技術のような4つのガス供給手段を制御手段によって切り換える従来技術に比べて、エンジンの運転を継続しながらの燃料切換え操作が簡単である。
また2つの燃料系統の合流部に三方切換弁等の燃料切換手段を設置するとともに燃焼制御手段と共働可能にされて該燃料切換手段を制御する燃料切換制御手段を設けるのみで前記のような安定的な燃料切換えが可能となるので、前記特許文献2の技術のような燃料ガスの切換えに多くのガス供給系統を設置して制御手段で切換え制御するという大掛かりな構造の従来技術に比べて、少ないガス供給系統で構成部品も少なく且つ小型、低コストの装置で燃料切換装置を構成できる。
【0014】
また、かかる発明において、具体的には次のように構成するのが好ましい。
(1)前記第1の燃料を用いた運転時の第1の燃焼パラメータと第2の燃料を用いた運転時の第2の燃焼パラメータとは異なる燃焼パラメータを用い、前記燃料切換手段による第1の燃料から第2の燃料への燃料切換を確認後、前記第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換える。
かかる運転方法に用いる燃料切換装置は、燃料毎に異なる燃焼パラメータが設定され、燃料切換制御手段により前記燃料切換手段による第1の燃料から第2の燃料への燃料切換動作終了信号が入力されるに伴い第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換えるように構成された前記第1の燃料での運転時における第1の燃焼パラメータと前記第2の燃料での運転時における第2の燃焼パラメータのように、多種類での運転時における多種類の燃焼パラメータが設定され、燃料切換制御手段により前記燃料切換手段による第1の燃料から第2の燃料への燃料切換動作終了信号が入力されるに伴い第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換えるように構成される。
【0015】
このように構成すれば、燃焼パラメータを第1の燃料及び第2の燃料に対応して設定しておき、燃料切換装置によって第1の燃料から第2の燃料に切換え、かかる燃料に切換え終了後に第1の燃料での運転時における第1の燃焼パラメータから第2の燃料での運転時における第2の燃焼パラメータに切換えて、第2の燃料に適合した燃焼パラメータでエンジンを運転することにより、第2の燃料の性状が第1の燃料の性状から大きく異なっていても、これに影響されることなくエンジンを安定運転することができる。
【0016】
(2)前記エンジンの燃料噴射時期を遅延させながら、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換えを行う。
このように構成すれば、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換時に燃料噴射時期を徐々に遅延させて筒内圧力の上昇を抑えて、安定運転を保持しながら燃料切換えを行うことができる。
【0017】
(3)前記燃料切換信号の発信時から、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換の終了までの期間は、燃焼パラメータによる制御を伴うことなくエンジンの運転を行う。
このように構成することで、第1の燃焼パラメータ及び第2の燃焼パラメータいずれにも適合しない第1の燃料と第2の燃料が混合する過渡状態において、燃焼パラメータと燃料の不一致により燃焼が不安定になる状態を回避できる。
【0018】
以上の構成からなる多種燃料ガスエンジンは、該ガスエンジンで発電機を駆動する発電用ガスエンジンに最適であり、また、前記第1の燃料と第2の燃料とは発熱量が大きく異なっていてもこれに影響されることなくエンジンを安定運転することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第1の燃料系統と第2の燃料系統との2つの燃料系統の合流部に三方切換弁等の燃料切換手段を設置し、エンジンに常備されてエンジンの出力制御や燃料噴射時期制御を司る燃焼制御手段と共働可能にされた燃料切換制御手段からの切換信号を発信して該燃料切換手段を作動させて、エンジンを停止することなくエンジンの運転を継続しながら、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換えの過渡状態及び燃料切換え後における第2の燃料での運転時のいずれにおいても、筒内圧力の上昇及びこれに伴うノッキングやエンジン構成部品への過大負荷の発生を防止し、安定運転を保持して、第1の燃料系統から第2の燃料系統への燃料切換えを行うことができる。
【0020】
また、本発明によれば、前記のようにエンジンの燃焼制御手段と共働可能にされた燃料切換制御手段からの切換信号により燃料切換手段を作動させて燃料切換えを行うので、4つのガス供給手段を制御手段によって切り換えるような従来技術に比べて、エンジンの運転を継続しながらの燃料切換え操作が簡単である。
また2つの燃料系統の合流部に三方切換弁等の燃料切換手段を設置するとともに、該燃料切換手段を制御する燃料切換制御手段を設けるのみで安定的な燃料切換えが可能となるので、燃料ガスの切換えに多くのガス供給系統を設置して制御手段で切換え制御するという大掛かりな構造の従来技術に比べて、少ないガス供給系統で構成部品も少なく且つ小型、低コストの装置で燃料切換装置を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
図1は本発明の実施例に係る多種燃料ガスエンジンの運転制御装置及び燃料切換装置の全体構成を示す系統図である。
図1において、100はエンジン(多種燃料ガスエンジン)、101は該エンジン100のクランク軸104に直結駆動される発電機、103は該エンジン100のピストン、102は燃焼室、115は給気通路、105は該給気通路115を開閉する給気弁、116は排気通路、106は該排気通路116を開閉する排気弁である。
107は着火装置で、この例では図示しない燃料噴射ポンプからの高圧液体燃料を噴射するパイロット燃料噴射弁を用いている。
【0022】
6は後述する手段により燃料ガスが通流されるガス供給管、109は該ガス供給管6の管路を開閉するとともに該管路の通路面積つまり燃料ガス流量を調整するガス量調整弁、108は前記ガス供給管6からの燃料ガスと空気とを混合するガス噴射装置で、該ガス噴射装置108において燃料ガスと空気とが混合された混合ガスが、給気通路115を通り、給気弁105の開弁により燃焼室102内に供給されるようになっている。
以上の基本構成は公知のガスエンジンと同様である。本発明は、多種類の燃料ガスを選択使用する多種燃料ガスエンジンに係るものである。
【0023】
図1において、7は第1の燃料ガス、たとえば都市ガス等の高発熱量燃料ガスが収容された第1燃料タンク、8は第2の燃料ガス、たとえば炭鉱メタンガス等の低発熱量燃料ガスが収容された第2燃料タンクである。4は三方切換弁からなる(他の形式の切換弁でもよい)燃料切換弁(燃料切換手段)で、前記第1燃料タンク7からの第1燃料ガス管9と前記第2燃料タンク8からの第2燃料ガス管10との合流部に設けられて、前記第1燃料ガス管9あるいは第2燃料ガス管10と前記ガス供給管6との間の通路を切換えるものである。5はガス流量計で、前記ガス供給管6に設けられて該ガス供給管6を通流する燃料ガスの流量を検出するものである。
【0024】
1は燃焼診断装置で、負荷検出器20からの発電機101の負荷つまりエンジン負荷(エンジン出力)の検出値、エンジン回転数検出器111からエンジン回転数の検出値、クランク角検出器112からのエンジンのクランク角の検出値、及び筒内圧力検出器110からの燃焼室102内圧力(筒内圧力)の検出値がそれぞれ入力され、これらの検出値に基づきノッキング等の異常燃焼や失火の有無等のエンジンの燃焼状態を診断するものである。120は前記燃焼診断装置1での燃焼診断結果を表示する表示装置である。
【0025】
200は燃焼制御装置で、次の燃焼制御手段2及び燃料切換制御手段3により構成される。
即ち、2は燃焼制御手段で、前記燃焼診断装置1からの燃焼診断結果の信号及び後述する燃料切換制御手段3からの燃料切換え信号を受けて、パイロット燃料噴射弁からなる前記着火装置107に燃料噴射時期及びパイロット燃料噴射量の制御信号を伝送するとともに、前記ガス量調整弁109にガス供給量算出値に相当する開度信号を伝送する。
燃焼診断装置1には、前記第1の燃料ガスでの運転時に対応する第1の燃焼パラメータと、及び前記第2の燃料ガスでの運転時に対応する第2の燃焼パラメータ等の異なる多種類の燃焼パラメータが設定されており、後述する燃料切換制御手段3により前記燃料切換弁4に前記第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換信号が出され、該燃料切換弁4による燃料切換え動作終了後に、該燃焼制御手段2からの指示により前記第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換えるようになっている。
【0026】
3は燃料切換制御手段で、前記燃焼診断装置1からの燃焼診断結果、及び前記ガス流量計5からガス供給管6を通流する燃料ガスの流量検出値がそれぞれ入力され、これらの入力信号に基づき算出した第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換え信号を前記燃料切換弁4及び燃焼制御手段2に入力するものである。
そして、前記燃焼制御手段2あるいは図示しないエンジン制御装置によってエンジン出力(エンジン負荷)を一定量低下せしめ、前記燃料切換制御手段3から燃料切換え信号を発信する。
【0027】
次に、図2〜3を参照して、前記第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換え動作について説明する。
先ず、第1燃料タンク7に収容された第1の燃料ガスを用い、図3に示すエンジン出力(エンジン負荷)L1で以って、第1の燃焼パラメータにて運転中のエンジンについて、前記第1の燃料ガスから、第2燃料タンク8に収容された第2の燃料ガスへの燃料切換えを行う際には、燃料切換信号の発信に先だって、エンジン出力(エンジン負荷)を図3のL2まで一定量低下せしめ(図2のステップ(1))、続いて前記燃焼切換制御手段3によって燃料切換弁4及び燃焼制御手段2に燃料切換信号を発信する(ステップ(2))。
【0028】
次いで、燃焼制御手段2によってパイロット燃料噴射弁からなる前記着火装置107に燃料噴射時期遅延指令を出力し(ステップ(3))、一定時間後に燃料噴射時期遅延の実行をチェックする(ステップ(4))。
この場合、前記のようにして、燃焼制御手段2によって燃料噴射時期を遅延させながら、燃焼切換制御装置3の指令を受けて燃料切換弁4により第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換えを行う。
このようにすれば、第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換時に燃料噴射時期を徐々に遅延させて筒内圧力上昇を抑えることにより、安定運転を保持しながら燃料切換えを行うことができる。
【0029】
前記燃料切換信号の発信後、前記第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの切換え作業の終了までの期間は、燃焼パラメータによる制御を切り離してエンジンの運転を行う(ステップ(5))。
【0030】
このようにすることによって、第1の燃焼パラメータ及び第2の燃焼パラメータいずれにも適合しない第1の燃料と第2の燃料が混合する過渡状態において、燃焼パラメータと燃料の不一致により燃焼が不安定になる状態を回避できる。
【0031】
次いで、前記第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの切換えの終了を確認し(ステップ(6))、燃焼診断装置1の燃焼パラメータを、前記第2の燃料ガスに対応する第2の燃焼パラメータに切換え(ステップ(7))、燃焼制御手段2は遅延していた燃料噴射時期を元に戻し(ステップ(8))、燃料噴射時期の復帰を確認する(ステップ(9))。
次いで、前記燃料切換え動作中、図3のL2のように低下させていたエンジン出力を低下前の出力L1に戻す(ステップ(10))。
【0032】
かかる実施例によれば、エンジンに第1の燃料ガスを供給するための第1燃料タンク7及び第1燃料ガス管9等からなる第1の燃料系統と、第2の燃料ガスを供給するための第2燃料タンク8及び第2燃料ガス管10等からなる第2の燃料系統との2つの燃料系統を燃料切換弁(燃料切換手段)4によって切換え可能とし、燃料切換制御手段3からの燃料切換信号を該燃料切換弁4に発信することによって第1の燃料系統から第2の燃料系統に切換える際には、エンジン出力(エンジン負荷)を第1の燃料ガスでの運転出力L1からL2まで一定量低下させることにより、燃料切換えの過渡状態でもエンジン100の筒内圧力の急上昇やノッキングの発生を伴うことなく、安全運転を保持しながら燃料切換えを行うことができる。
【0033】
また、前記燃料切換制御手段3から燃料切換弁4に燃料切換信号を発信し、続いて燃焼制御手段2によってエンジン100の燃料噴射時期を遅延させることにより、筒内圧力を低めに抑えて前記第1の燃料系統から第2の燃料系統に切換えることが可能となって、第1の燃料ガス及び第2の燃料ガスの発熱量の如何に拘わらず、筒内圧力の上昇を防止しつつ安定的に燃料切換えを行うことができる。
【0034】
従って、かかる実施例によれば、エンジン100を停止することなく該エンジン100の運転を継続しながら、第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換えの過渡状態及び燃料切換え後における第2の燃料ガスでの運転時のいずれにおいても、筒内圧力の上昇及びこれに伴うノッキングやエンジン100の構成部品への過大負荷の発生を防止し、安定運転を保持して、第1の燃料系統から第2の燃料系統への燃料切換えを行うことができる。
【0035】
また、前記第1の燃料系統と第2の燃料系統との2つの燃料系統の合流部に三方切換弁からなる燃料切換弁4を設置し、エンジン100に常備されて該エンジンの出力制御や燃料噴射時期制御を司る燃焼制御手段2と共働可能にされた燃料切換制御手段3から燃料切換信号を発信して該燃料切換弁4を作動させることにより、前記のようにエンジンの安定運転を保持しつつ、前記2つの燃料系統の燃料切換えを行うので、従来技術のような4つのガス供給手段を制御手段によって切り換える手段に比べて、エンジン100の運転を継続しながらの燃料切換え操作が簡単である。
また、前記2つの燃料系統の合流部に三方切換弁からなる燃料切換弁4を設置するとともに燃焼制御手段2と共働可能にされて該燃料切換弁4を制御する燃料切換制御手段3を設けるのみで、前記のような安定的な燃料切換えが可能となるので、燃料ガスの切換えに多くのガス供給系統を設置して制御手段で燃料切換え制御するという大掛かりな従来技術に比べて、少ないガス供給系統で構成部品も少なく且つ小型、低コストの装置で燃料切換装置を構成できる。
【0036】
また、かかる実施例によれば、前記第1の燃料ガスに対応する第1の燃焼パラメータと第2の燃料ガスに対応する第2の燃焼パラメータとを用い、前記燃料切換弁4による第1の燃料ガスから第2の燃料ガスへの燃料切換を確認後、前記第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータでの運転に切換えるので、燃焼パラメータを第1の燃料ガス及び第2の燃料ガスに対応して設定しておき、燃料切換弁4によって第1の燃料ガスから第2の燃料ガスに切換え、かかる第2の燃料ガスに切換え終了後に第1の燃料ガスに対応する第1の燃焼パラメータから第2の燃料ガスに対応する第2の燃焼パラメータに切換えて、第2の燃料ガスに適合した第2の燃焼パラメータでエンジン100を運転することにより、第2の燃料ガスの性状が第1の燃料の性状から大きく異なっていてもこれに影響されることなくエンジン100を安定運転することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、簡単な操作で以ってエンジンの運転中においても複数の燃料ガスの切換えを可能とするとともに、少ないガス供給系統で且つ小型、低コストの構成で多種類の燃料ガスの切換え運転を可能とした多種燃料ガスエンジンの運転方法及び燃料切換装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施例に係る多種燃料ガスエンジンの運転制御装置及び燃料切換装置の全体構成を示す系統図である。
【図2】前記実施例における燃料切換えの制御フローチャートである。
【図3】前記実施例における燃料切換えタイミング線図である。
【符号の説明】
【0039】
1 燃焼診断装置
200 燃焼制御装置
2 燃焼制御手段
3 燃料切換制御手段
4 燃料切換弁(燃料切換手段)
6 ガス供給管
7 第1燃料タンク
8 第2燃料タンク
9 第1燃料ガス管
10 第2燃料ガス管
100 エンジン(多種燃料ガスエンジン)
101 発電機
102 燃焼室
104 クランク軸
105 給気弁
106 排気弁
107 着火装置
108 ガス噴射装置
109 ガス量調整弁
110 筒内圧力検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料切換手段により複数種類の燃料ガスを切換えてエンジンに供給するように構成された多種燃料ガスエンジンの運転方法であって、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換信号を前記燃料切換手段に発信し、前記エンジンの燃料噴射時期を遅延させ、前記燃料切換手段により第1の燃料から第2の燃料への燃料切換を行うことを特徴とする多種燃料ガスエンジンの運転方法。
【請求項2】
前記エンジンの出力を第1の燃料での出力よりも一定量低下させた後、前記第1の燃料から第2の燃料への燃料切換信号を発信することを特徴とする多種燃料ガスエンジンの運転方法。
【請求項3】
前記第1の燃料を用いた運転時の第1の燃焼パラメータと第2の燃料を用いた運転時の第2の燃焼パラメータとは異なる燃焼パラメータを用い、前記燃料切換手段による第1の燃料から第2の燃料への燃料切換を確認後、前記第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換えることを特徴とする請求項1または2記載の多種燃料ガスエンジンの運転方法。
【請求項4】
前記エンジンの燃料噴射時期を遅延させながら、第1の燃料から第2の燃料への燃料切換えを行うことを特徴とする請求項1または2記載の多種燃料ガスエンジンの運転方法。
【請求項5】
前記燃料切換信号の発信時から第1の燃料から第2の燃料への燃料切換の終了までの期間は、燃焼パラメータによる制御を伴うことなくエンジンの運転を行うことを特徴とする請求項1または2記載の多種燃料ガスエンジンの運転方法。
【請求項6】
多種類の燃料ガスを切換えてエンジン供給する燃料切換手段と、前記多種類の燃料のそれぞれに対応する燃焼パラメータによる燃焼診断結果でエンジンを運転可能にされた燃焼制御手段とをそなえた多種燃料ガスエンジンの燃料切換装置において、前記燃料切換手段に第1の燃料から第2の燃料への切換信号を発信するとともに、該切換信号の発信に伴いエンジン出力を一定量低下せしめる燃焼制御手段をそなえ、前記燃焼制御手段は、前記燃料切換制御手段から前記切換信号が発信されたとき燃料噴射時期を前記第1の燃料での燃料噴射時期から一定量遅延せしめるように構成されたことを特徴とする多種燃料ガスエンジンの燃料切換装置。
【請求項7】
前記燃焼制御手段は、燃料切換制御手段により前記燃料切換手段による第1の燃料から第2の燃料への燃料切換動作終了信号が入力されるに伴い燃料毎に異なる第1の燃焼パラメータから第2の燃焼パラメータに切換えるように構成されたことを特徴とする請求項6記載の多種燃料ガスエンジンの燃料切換装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−111386(P2008−111386A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295354(P2006−295354)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】