説明

導電性組成物、導電性塗料、導電性繊維材料、導電性繊維材料の製造方法及び面状発熱体

【課題】 温度上昇による電気抵抗値の変化率が低い面状発熱体を与えることができる、導電性組成物、導電性塗料、前記導電性組成物を有してなる適度な電気抵抗値と導電性とを有する導電性繊維材料、及びその製造方法を提供すること。また高電圧を付加する場合でも、過不足のない適度な発熱性を有する面状発熱体を提供すること。
【解決手段】 ポリウレタンと、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック及びジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラックからなるカーボンブラック混合物と、1次平均粒子径が1〜20μmのタルクと、からなる導電性組成物。更に溶媒を含有してなる導電性塗料。前記導電性組成物を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料。前記導電性繊維材料を有してなることを特徴とする面状発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性組成物、導電性塗料、導電性繊維材料、導電性繊維材料の製造方法及び面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性繊維材料は、合成繊維や天然繊維などの繊維材料を基材として導電性塗料を塗布し、この繊維材料に導電性を付与することにより一般に製造されている。
【0003】
繊維材料に塗布する導電性塗料としては、例えばウレタン樹脂、セルロース樹脂、アミノアルキド系樹脂、アミノアクリル系樹脂等の樹脂(バインダー樹脂成分)と、例えばステンレス、スズ、銅、アルミニウム等の金属粉末;酸化亜鉛等の金属酸化物;二酸化チタンコーティングマイカ、シリコン、硫化コバルト等の導電性フィラー;などの導電性材料とを混合分散したものが知られている。
【0004】
しかしながら、前記金属粉末を導電性繊維材料等の導電性発熱素子等に使用すると、電気抵抗値が過度に低くなり過ぎるという問題がある。また、該金属粉末は比重が大きいので導電性塗料の貯蔵中にバインダー樹脂成分と分離して、貯蔵用容器等の底に沈降し易く、凝集もし易い。更にまた、長期間にわたって導電性塗料を貯蔵すると金属粉末が固化し、攪拌等を行っても元の状態に再分散させることが困難となる。その結果として、導電性塗料を塗布して得られる塗膜の導電性が一様になりにくいという欠点を有する。
【0005】
また、導電性材料として金属酸化物を用いると、形成される塗膜の電気抵抗値が過度に高くなり過ぎ、導電性発熱素子等に使用すると導電性が不足するという問題がある。
【0006】
一方、導電性カーボンブラックや鱗片状グラファイトカーボン等の炭素質導電性材料も導電性を付与できることが知られている。例えば、特定割合の導電性カーボンブラックと鱗片状グラファイトカーボンとを配合してなる導電性塗料は貯蔵安定性に優れ、導電性に優れた塗膜を形成できることが提案されている(特許文献1)。しかし、そこに報告されているような導電性塗料を、導電性繊維材料の導電性発熱素子等に適用するにあたっては、発熱素子への付加電圧が制限される(電気抵抗値が上がらない)という問題がある。
【0007】
そこで、本出願人は、グラファイトカーボンと、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g未満のカーボンブラックと、を導電性物質として用いてポリウレタンとともに有機溶剤に分散(ポリウレタンは溶解)させることにより、適度な電気抵抗値と導電性とを有する導電性塗料が得られることを見いだした(特許文献2)。しかし、前記導電性塗料を使用した導電性繊維材料を面状発熱体などに用いる場合に、電源を入れた後に、温度がある程度まで上昇(加熱)すると、前記導電性繊維材料やそれを発熱素子に有する面状発熱体などの電気抵抗値が、電源を入れる前の電気抵抗値から大きく変化してしまうという問題があり、更なる改良が求められている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−064565
【特許文献2】WO2005/012428
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、温度上昇による電気抵抗値の変化率が低い面状発熱体を与えることができる、導電性組成物、導電性塗料、前記導電性組成物を有してなる適度な電気抵抗値と導電性とを有する導電性繊維材料、及びその製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、例えば200ボルトの高電圧を付加する場合でも、過不足のない適度な発熱性を有する面状発熱体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するためにバインダー樹脂の種類、炭素質導電性材料及び各充填剤等の特性や配合組成比等について鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタンに、特定のジブチルフタレート吸油量を有する2種類のカーボンブラック混合物及び特定のタルクを配合してなる導電性組成物を、繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料が、適度な電気抵抗値と導電性とを有し、また前記導電性繊維材料を面状発熱体などに用いる場合に、温度上昇による前記面状発熱体の電気抵抗値の変化率が低いことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明によれば、
1. ポリウレタン(A)100重量部と、
ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)65〜95重量%及びジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)35〜5重量%からなるカーボンブラック混合物(B)30〜60重量部と、
1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)30〜60重量部と、
からなる導電性組成物(D);
2. 前記1記載の導電性組成物(D)と、
前記導電性組成物(D)中の前記ポリウレタン(A)100重量部に対する量として500〜1500重量部の溶媒(E)と、
からなる導電性塗料(F);
3. 前記1記載の導電性組成物(D)を、繊維材料に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料(G);
4. 前記2記載の導電性塗料(F)を、繊維材料に塗布することを特徴とする、導電性繊維材料(G)の製造方法;
5. 前記3記載の導電性繊維材料(G)を有してなることを特徴とする面状発熱体(H);
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
繊維材料(g)に、それぞれ特定割合のポリウレタン(A)、カーボンブラック混合物(B)及びタルク(C)からなる本発明の導電性組成物(D)を被覆してなる導電性繊維材料(G)は、適度な電気抵抗値と導電性とを有し、また該導電性繊維材料(G)を面状発熱体(H)に用いると、該面状発熱体(H)は、温度上昇による電気抵抗値の変化率が低く、過不足のない適度な発熱性と熱安定性とを有するものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の導電性組成物(D)、導電性塗料(F)、導電性繊維材料(G)、導電性繊維材料(G)の製造方法及び面状発熱体(H)について詳細に説明する。
【0014】
本発明の導電性組成物(D)は、ポリウレタン(A)100重量部と、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)65〜95重量%及びジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)35〜5重量%からなるカーボンブラック混合物(B)30〜60重量部と、1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)30〜60重量部と、からなる。
【0015】
前記ポリウレタン(A)は特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などがあり、市販又は公知の方法で調製したものを1種類を単独で、又は2種類以上を併用して用いることができる。
【0016】
本発明においては、導電性組成物(D)に導電性を与えるものとして、前記導電性組成物(D)100重量部に対して、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)65〜95重量%及びジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)35〜5重量%からなるカーボンブラック混合物(B)を30〜60重量部用いる。
【0017】
ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)の具体例(商品例)としては、例えば#3050B、#3350B(以上、三菱化学(株)社製)、シースト116HM、シーストFM、シーストFY(以上、東海カーボン(株)社製)、デンカブラック(電気化学工業(株)社製)等を挙げることができる。これらは、単独でも、2種類以上を併用しても良い。カーボンブラック(b1)におけるジブチルフタレート吸油量の好ましい範囲は150〜200ml/100gである。
【0018】
ジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)の具体例(商品例)としては、例えばケッチェンブラックEC(ライオン(株)社製)、エンサコ350G(リバソン(株)社製)等を挙げることができる。これらは、単独でも、2種類以上を併用しても良い。カーボンブラック(b2)におけるジブチルフタレート吸油量の好ましい範囲は300ml/100g以上である。
【0019】
カーボンブラック混合物(B)におけるジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)の含有量は、65〜95重量%、好ましくは70〜90重量%である。一方、カーボンブラック混合物(B)におけるジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)の含有量は、35〜5重量%、好ましくは30〜10重量%である。ジブチルフタレート吸油量が前記の範囲にあるカーボンブラック(b1)及びカーボンブラック(b2)を、前記の範囲内の量使用することにより、導電性繊維材料(G)を面状発熱体(H)に用いると、温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率が低く、一定電圧下において通電時に過電流が流れたり導電性繊維材料(G)等の導電性発熱素子等が過度に発熱したりすることを防ぐことができる。
【0020】
カーボンブラック混合物(B)の使用量は、前記ポリウレタン(A)100重量部に対して、通常、30〜60重量部、好ましくは35〜55重量部である。カーボンブラック混合物(B)の使用量が30重量部未満では、導電性繊維材料(G)、すなわち、導電性組成物(D)の電気抵抗値が高くなり過ぎ、一定電圧下においては導電性に劣ると共に、導電性繊維材料(G)等の導電性発熱素子として使用する際に発熱量が小さくなる傾向がある。他方、その使用量が60重量部を超えると、導電性繊維材料(G)、すなわち、導電性組成物(D)の電気抵抗値が低くなり過ぎ、所定の抵抗値の導電性繊維材料(G)が得られない。
【0021】
前述したカーボンブラック(b1)、カーボンブラック(b2)及びカーボンブラック混合物(B)の粒子径については特に制限はないが、一次平均粒子径が10〜80nmの範囲のものを用いるのが好ましい。この範囲とすることにより、導電性塗料(F)の取り扱い性に優れる。
【0022】
本発明の導電性組成物(D)を構成するタルク(C)は粉末状であり、その1次平均粒子径が1〜20μmのものからなる。1次平均粒子径が1μmより小さいと、導電性塗料(F)の経時変化による導電性組成物(D)の抵抗値変化率(以下、「塗料抵抗値変化率」と呼ぶことがある。)が高くなってしまう。他方、1次平均粒子径が20μmより大きい場合は、導電性塗料(F)の経時変化による導電性組成物(D)の抵抗値変化率(塗料抵抗値変化率)が高くなってしまい、更に繊維材料(g)と導電性組成物(D)との接着性に劣るものとなってしまう。タルク(C)の1次平均粒子径は、好ましくは2〜15μmであり、より好ましくは3〜10μmである。
【0023】
1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)の好ましい具体例(商品名)としては、例えば、ミクロエース、SG−シリーズ(以上、日本タルク(株)製)、ハイトロン、ミクロライト、ハイラック(以上、竹原化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0024】
1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)の使用量は、前記ポリウレタン(A)100重量部に対して、通常、30〜60重量部、好ましくは45〜55重量部である。1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)の使用量が30重量部未満では、導電性繊維材料(G)を面状発熱体(H)に用いたときの、温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率が高くなり、また、導電性組成物(D)の表面の平滑性に劣り(動摩擦係数が高くなり)、面状発熱体(H)製造時に導電性繊維材料(G)が切れてしまうなどの不具合が懸念される。他方、60重量部を超えると、導電性塗料(F)の経時変化による導電性組成物(D)の抵抗値変化率(塗料抵抗値変化率)が高くなってしまい、更に繊維材料(g)と導電性組成物(D)との接着性に劣るものとなってしまう。
【0025】
本発明の導電性塗料(F)は、前記導電性組成物(D)と、前記導電性組成物(D)中の前記ポリウレタン(A)100重量部に対する量として500〜1500重量部の溶媒(E)と、からなる。
【0026】
本発明の導電性塗料(F)に用いる前記導電性組成物(D)については、前述した通りである。
【0027】
本発明の導電性塗料(F)に用いる溶媒(E)としては、前記ポリウレタン(A)を溶解又は分散できるものであれば特に制限はないが、好ましい例としては以下の極性有機溶媒が挙げられる。すなわち、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル系化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのジアルキルケトアミド系化合物;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジアルキルスルホキシド系化合物;アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKと略記することがある)、ジエチルケトンなどのケトン系化合物;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール系化合物;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素系化合物;などを挙げることができる。中でも環状エーテル系化合物、ケトン系化合物がより好ましく、更に好ましくはテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトンが挙げられ、特に好ましくはテトラヒドロフランが挙げられる。これらは単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0028】
前記溶媒(E)の使用量は、前記ポリウレタン(A)100重量部に対して、通常、500〜1500重量部、好ましくは700〜1300重量部、より好ましくは800〜1200重量部である。溶媒量が500重量部未満では、導電性塗料(F)の粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になり、他方、1500重量部を超えると、導電性塗料(F)の粘度が低くなり過ぎて基材である繊維材料(g)に導電性組成物(D)が被覆されにくくなる。
【0029】
導電性塗料(F)には前述したカーボンブラック〔(b1)、(b2)〕以外のその他の導電性フィラーを、本発明の効果を損なわない程度に配合することができる(前述したタルクは導電性フィラーではない)。その他の導電性フィラーとしては、通常、このような用途に使用されているものであれば特に制限されないが、無機導電性フィラーと有機導電性フィラーに大別され、下記のものが挙げられる。
【0030】
無機導電性フィラーとしては、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどの金属紛;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステンなどの金属酸化物;炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブなどの、前記鱗片状グラファイトカーボン及び前記カーボンブラック以外の炭素質フィラー;などが挙げられる。また、有機導電性フィラーとしては、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子;鉄フタロシアニン、フェロセンなどに代表される有機金属錯体;などが挙げられる。
【0031】
本発明の導電性塗料(F)には、所望により、可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、架橋反応促進剤、架橋反応抑制剤など公知の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない程度に配合することができる。
【0032】
本発明の導電性繊維材料(G)は、前記導電性組成物(D)を、繊維材料(g)に被覆してなることを特徴とする。ここで「被覆」とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、繊維材料(g)の内部に浸透することをも意味し、特に単繊維を撚ってなる糸などの場合は、その糸の中に導電性組成物(D)が含浸し、糸を構成する単繊維を1本毎に覆うこと及び/又は浸透することをも意味する。
【0033】
本発明の導電性繊維材料(G)の基材となる繊維材料(g)の形状、材質、形態などは特に限定されない。例えば、短繊維、長繊維、単繊維糸、短繊維又は長繊維の集合体である糸、糸の集合体である布帛、などを用いることができる。また、繊維材料(g)の材質は、合成繊維であっても、天然繊維であってもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン又は綿からなる糸を用いることが好ましい。ポリエステルとしてはアルキル系ポリエステル、アリール系ポリエステルなど任意のものを選択して使用することができる。ナイロンとしては、ナイロン−6、ナイロン−6,6など任意のものを使用することができる。繊維材料(g)としての糸の形態は特に限定されないが、複数本撚り合わせて500〜1500デシテックスの範囲であることが好ましい。
【0034】
前述したような導電性組成物(D)及び該導電性組成物(D)を繊維材料(g)に被覆してなる導電性繊維材料(G)においては、その単位長さあたりの電気抵抗値は3000〜9000Ω/cmの範囲にあることが好ましい。そのためには、繊維材料(g)(基材)を被覆する導電性組成物(D)の電気抵抗値は、1.0〜3.0Ω・cmの範囲にあることが好ましい。
導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値が前記の範囲にあることにより、適正な電圧での通電が可能であり、過電流による過度な発熱を生じることがなく、また導電性に劣ることもないので発熱量も適正範囲となる。
【0035】
繊維材料(g)に導電性組成物(D)を被覆する方法は特に限定されず、導電性組成物(D)を溶媒(E)に溶解又は分散させてなる導電性塗料(F)を繊維材料(g)に塗布する方法;導電性組成物(D)を熱により融解し繊維材料(g)に塗布する方法;導電性組成物(D)を先ずシート状に成形し、それを繊維材料(g)に巻きつけた後に熱処理する方法;などが挙げられる。これらの被覆方法の中でも、次に説明する本発明の導電性繊維材料(G)の製造方法によるものが好ましい。
【0036】
すなわち、本発明の導電性繊維材料(G)の製造方法は、前記導電性塗料(F)を、繊維材料(g)に塗布することを特徴とする。繊維材料(g)に導電性塗料(F)を塗布する方法は特に限定されず、従来行われている塗装方法によって塗布することができる。より具体的には、導電性塗料(F)を浸漬塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、各種の静電塗装、ロール塗装、刷毛塗り等の手段により繊維材料に塗布し、含浸させることができる。その中でも、浸漬塗装が好適に用いられる。
【0037】
本発明の製造方法において用いられる導電性塗料(F)に含まれる導電性組成物(D)は、前述のものと同様である。
【0038】
本発明の面状発熱体(H)は、前述した本発明の導電性繊維材料(G)を有してなることを特徴とする。かかる面状発熱体(H)は、例えば、導電性繊維材料(G)のうち糸状のものを、2つの電極間に延びる導電性緯糸とし、電極と略平行に延びる非導電性経糸と織布を形成させてこれを発熱層とし、発熱層及び電極の表裏面に絶縁シートからなる絶縁層を積層させることにより製造することができる。
【0039】
以下、本発明の面状発熱体(H)を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図、図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【0040】
図1及び図2に示すように、本発明に係る面状発熱体2は、面状の発熱層4と、この発熱層4の両面に積層された絶縁層6とを有する。発熱層4の両側には、長手方向に沿って細長い電極8,8が形成してある。
【0041】
発熱層4としては、本実施形態では、電極8,8間に延びる導電性緯糸と、電極8,8と略平行に延びる非導電性経糸との織布が用いられる。非導電性経糸としては、例えばポリエステル繊維を樹脂溶液に浸漬し、乾燥して得られる糸などが用いられる。
【0042】
発熱層4の両側に配置される電極8,8は、特に限定されないが、本実施形態では、発熱層4を構成する導電性緯糸に接続するように編み込まれる可撓性金属線で構成される。電極8の厚みは、発熱層4と同程度であり、0.8〜1.4mm程度である。
【0043】
絶縁層6,6は、発熱層4及び電極8,8を全て被覆するように表裏面に積層される。絶縁シートの両側端10,10は、相互に熱融着される。絶縁層6の厚みは、本実施形態では、0.2〜0.5mmであり、カレンダー法などで成形される。
【0044】
なお、本発明の面状発熱体(H)は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の形態をとることができる。
【0045】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は重量基準である。
【0046】
〔測定法1〕カーボンブラックのジブチルフタレート(以下、「DBP」と略記することがある。)吸油量
カーボンブラックのDBP吸油量は下記の試験方法で測定した値である。
カーボンブラックの乾燥試料1.00±0.01gを平滑なガラス板上に置く。粒状の場合は、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要なDBP量の約1/2をガラス板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから前記試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で練る。へらに付着した試料は、他のへらで取り除き、更にDBP約1/3〜1/4を加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。終点に近くなったら1滴ずつ加えて、更に終点近くなったら1/2滴ずつ加え、全体が一つの締まった塊状となった点を終点とする。この操作は、10〜15分で終わるようにする。操作終了後3分経過してからビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量を算出する。
OA=100×(V/W)
(OA:吸油量(ml/100g)、V:終点までに用いたDBPの使用量(ml)、W:乾燥試料の重さ(g))
【0047】
〔測定法2〕導電性組成物(D)の電気抵抗値
導電性組成物(D)の電気抵抗値は下記の試験方法で測定した値である。
(1) 試験用フィルム作成
50μm厚のポリエチレンテレフタレート製フィルム上に導電性塗料を塗布し、ベーカー式アプリケーター(理学工業(株)社製)で均一な厚みのフィルムとする。それを40℃のホットプレート上で5分間乾燥させ、その後、80℃のホットプレート上で5分間乾燥させる。
(2) 導電性組成物(D)の電気抵抗値測定
(1)で作製した試験用フィルムを、(5cm±0.5mm)×(6cm±0.5mm)に切り取り、短辺側両端5mmをそれぞれ幅5cmのステンレス製クリップで留める。両端にあるクリップにテスターを接続し、フィルム(5cm±0.5mm)×(5cm±0.5mm)の表面電気抵抗値r(Ω)を測定する。フィルムの厚みを、厚み計で測定し、以下の式により導電性組成物(D)の電気抵抗値ρ(Ω・cm)を算出する。
ρ=r×(T×5)/5=r×T
(ρ:導電性組成物(D)の電気抵抗値(Ω・cm)、T:フィルムの厚み(cm)、r:表面電気抵抗値(Ω))
【0048】
〔測定法3〕導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値
導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値は下記の試験方法で測定した値である。
(5cm±0.5mm)間隔の電極間に導電性繊維材料(G)をたるみのないように張り、この電極間に一定電圧を印加する。
同電極間に張り渡した導電性繊維材料(G)の電気抵抗値R1(Ω)をテスターにて読み取り、以下の式により、導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値R(Ω/cm)を算出する。
R=R1/L
(R:導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値(Ω/cm)、L:導電性繊維材料(G)の長さ(cm))
【0049】
〔測定法4〕通電時の温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率
(1)試験用面状発熱体サンプル作製
長さ10cm、幅15cm、厚み0.1cmのポリエステル製メッシュ状基布上に、長さ15cmの可撓性の銅製電極線が編みこまれて形成された幅1cm、厚み0.1cmの電極2本を、10cmの間隔をおいて平行に配置する。幅方向には、電極から基布の端までが左右共に1.5cm有するように配置し、長さ方向には、一方の端に2本の電極線の端と基布の端とを合わせ、もう一方の端は、基布から5cm電極が飛び出すように配置する。前記基布部分を各実施例及び各比較例にて製造された導電性塗料に含浸させ、70℃のホットプレート上で20分乾燥させ、その後90℃のホットプレート上で10分間乾燥させる。乾燥後、2枚の塩化ビニル製シート(長さ15cm、幅20cm、厚み0.45cm)で挟み、2枚の塩化ビニル製シートの四辺の端部を加熱プレスして熱融着し、その後電極2本にそれぞれ通電用の電線を接続し、試験用面状発熱体サンプルを作製した。
(2)通電時の温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率測定
通電時の温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率は下記の試験方法で測定した結果である。
前記試験用面状発熱体(H)の通電前の電気抵抗値R0(23℃)をテスターにて読み取る。次に、該試験用面状発熱体(H)の温度が80℃になるように通電し、80℃での該試験用面状発熱体(H)の電気抵抗値R1をテスターにて読み取る。
以下の式により、通電時の温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率x(%)を算出する。
x=100×(R1−R0)/R0 (%)
【0050】
〔測定法5〕導電性組成物(D)の表面の平滑性(動摩擦係数)
導電性組成物(D)の表面の平滑性を示す指標としてフィルムの動摩擦係数を用いる。測定法2にて作成した試験用フィルムを用い、JIS K 7125に準じて動摩擦係数を算出し、導電性組成物(D)の表面の平滑性とする。
【実施例1】
【0051】
ポリプロピレン製容器中でポリエステル系ポリウレタン P22SRNAT(日本ポリウレタン(株)製)100重量部をテトラヒドロフラン(以下、「THF」と略記することがある。)865重量部に溶解させた。その後、その溶液中にカーボンブラック(b1)として、デンカブラック(電気化学工業(株)社製:DBP吸油量180ml/100g)30重量部、カーボンブラック(b2)として、ケッチェンブラックEC(ライオン(株)社製:DBP吸油量360ml/100g)10重量部、及びタルクとしてL−1(1次平均粒子径4.9μm:日本タルク(株)社製)50重量部を加え、更に顔料分散及び混合用としてジルコニアビーズ1000重量部を入れ、顔料分散機((株)東洋精機製作所製)で2時間振とうさせた。その後デカンテーションでジルコニアビーズを取り除き、固形分濃度18.0%の導電性塗料(F)(1)を得た。(以下、各実施例及び各比較例においては、導電性塗料(F)の固形分濃度をおおよそ18.0%となるように溶媒(E)の量を調整した。)
繊維材料(g)としてポリエステル製のマルチフィラメントの糸(1100デシテックスのもの)を基糸として用い、その糸に、前記の方法で得た導電性塗料(F)(1)を塗布した後、乾燥し、基糸1mあたり0.04gの導電性組成物(D)(1)で被覆された糸、すなわち、導電性繊維材料(G)(1)を作製した。
また、前記〔測定法4〕にて、面状発熱体(H)(1)を作製した。
【0052】
作製した導電性組成物(D)(1)の電気抵抗値を前記〔測定法2〕で測定したところ、1.2Ω・cmであった。また作製した導電性繊維材料の単位長さあたりの電気抵抗値を前記〔測定法3〕で測定したところ、5570Ω/cmであった。また、通電時の温度上昇による面状発熱体(H)(1)の電気抵抗値の変化率を前記〔測定法4〕にて測定したところ、6.6%であった。また、導電性組成物(D)(1)の表面の平滑性(動摩擦係数)を〔測定法5〕で測定したところ、0.9であった。結果を表1に示す。
【実施例2】
【0053】
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに35重量部用い、ケッチェンブラックECを10重量部用いる代わりに5重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(2)、導電性組成物(D)(2)、導電性繊維材料(G)(2)及び面状発熱体(H)(2)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【実施例3】
【0054】
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに40重量部用い、ケッチェンブラックECを10重量部用いる代わりに5重量部用い、THFを865重量部用いる代わりに890重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(3)、導電性組成物(D)(3)、導電性繊維材料(G)(3)及び面状発熱体(H)(3)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【実施例4】
【0055】
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに35重量部用い、THFを865重量部用いる代わりに890重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(4)、導電性組成物(D)(4)、導電性繊維材料(G)(4)及び面状発熱体(H)(4)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
〔比較例1〕
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに40重量部用い、ケッチェンブラックECを用いなかった他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(5)、導電性組成物(D)(5)、導電性繊維材料(G)(5)及び面状発熱体(H)(5)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0057】
〔比較例2〕
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに39重量部用い、ケッチェンブラックECを10重量部用いる代わりに1重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(6)、導電性組成物(D)(6)、導電性繊維材料(G)(6)及び面状発熱体(H)(6)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
〔比較例3〕
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに25重量部用い、ケッチェンブラックECを10重量部用いる代わりに15重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(7)、導電性組成物(D)(7)、導電性繊維材料(G)(7)及び面状発熱体(H)(7)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
〔比較例4〕
カーボンブラックとしてデンカブラックを30重量部用いる代わりに90重量部用い、ケッチェンブラックECを用いず、タルクL−1を用いなかった他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(8)、導電性組成物(D)(8)、導電性繊維材料(G)(8)及び面状発熱体(H)(8)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
〔比較例5〕
カーボンブラックとしてデンカブラック及びケッチェンブラックECを用いず、ジブチルフタレート吸油量が45ml/100gのカーボンブラックである三菱カ−ボンブラック#45L(三菱化学(株)社製)を10重量部用い、グラファイトであるJ−CPB(日本黒鉛工業(株)社製)を90重量部用い、タルクL−1を用いず、THFを865重量部用いる代わりに910重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(9)、導電性組成物(D)(9)、導電性繊維材料(G)(9)及び面状発熱体(H)(9)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
〔比較例6〕
タルクL−1を用いず、THFを865重量部用いる代わりに635重量部用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性塗料(F)(10)、導電性組成物(D)(10)、導電性繊維材料(G)(10)及び面状発熱体(H)(10)を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
表1の結果から、ジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)を用いなかった比較例1では、通電時の温度上昇による面状発熱体(H)の電気抵抗値の変化率が高すぎるものになってしまった。
また、カーボンブラック混合物(B)中のジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)の割合が高すぎ、ジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)の割合が低すぎる比較例2では、通電時の温度上昇による面状発熱体の電気抵抗値の変化率が高すぎるものになってしまった。
また、カーボンブラック混合物(B)中のジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)の割合が低すぎ、ジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)の割合が高すぎる比較例3では、導電性組成物(D)の電気抵抗値が低すぎ、また導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値が低すぎて発熱性が悪くなってしまった。
【0064】
また、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)の使用量が多すぎ、かつジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)及びタルク(C)を使用していない比較例4では、導電性組成物(D)の電気抵抗値が低すぎ、また導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値が低すぎて発熱性が悪くなってしまった。
また、ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)、ジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)及びタルク(C)を使用せず、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g未満のカーボンブラック及びグラファイトを使用した比較例5では、通電時の温度上昇による面状発熱体の電気抵抗値の変化率が非常に高すぎるものになってしまった。
また、タルク(C)を使用していない比較例6では、導電性組成物(D)の表面平滑性が悪くなってしまった。
【0065】
それに対して、本発明である実施例1〜4では、導電性組成物(D)の電気抵抗値が適度に高く、また導電性繊維材料(G)の単位長さあたりの電気抵抗値も適度に高く、また通電時の温度上昇による面状発熱体の電気抵抗値の変化率が低く抑えられている。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の導電性組成物(D)を繊維材料(g)に被覆してなる導電性繊維材料(G)は、面状発熱体(H)用の導電性発熱素子等に使用するのに好適であり、本発明の面状発熱体(H)は、電気温布団、育苗用土壌加熱体、融雪・融氷用道路加熱体等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【符号の説明】
【0068】
2… 面状発熱体
4… 発熱層
6… 絶縁層
8… 電極
10… 側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン(A)100重量部と、
ジブチルフタレート吸油量が100〜250ml/100gのカーボンブラック(b1)65〜95重量%及びジブチルフタレート吸油量が250ml/100gを超えるカーボンブラック(b2)35〜5重量%からなるカーボンブラック混合物(B)30〜60重量部と、
1次平均粒子径が1〜20μmのタルク(C)30〜60重量部と、
からなる導電性組成物(D)。
【請求項2】
請求項1記載の導電性組成物(D)と、
前記導電性組成物(D)中の前記ポリウレタン(A)100重量部に対する量として500〜1500重量部の溶媒(E)と、
からなる導電性塗料(F)。
【請求項3】
請求項1記載の導電性組成物(D)を、繊維材料(g)に被覆してなることを特徴とする導電性繊維材料(G)。
【請求項4】
請求項2記載の導電性塗料(F)を、繊維材料(g)に塗布することを特徴とする、導電性繊維材料(G)の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の導電性繊維材料(G)を有してなることを特徴とする面状発熱体(H)。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−224207(P2007−224207A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−48677(P2006−48677)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】