説明

干渉膜厚計

【課題】 同一の測定対象物について、干渉反射光の光強度分布を繰り返し取得することにより、高精度の膜厚測定を行う干渉膜厚計を提供する。
【解決手段】 検出光を生成する光源と、検出光の参照面による反射光及び測定対象物による反射光からなる干渉反射光L3を生成する干渉光学系と、干渉反射光L3を分光する分光手段と、分光された干渉反射光L3を検出し、波長ごとの光強度分布を取得する光強度分布取得手段と、光強度分布に基づく特性曲線について、空間周波数ごとの特性強度分布を求める特性強度分布算出手段と、タイミングを異ならせて取得した2以上の光強度分布からそれぞれ求められた2以上の特性強度分布を合成する特性強度合成手段と、合成後の特性強度分布に含まれる2以上のピークの空間周波数に基づいて、測定対象物の膜厚を算出する膜厚算出手段により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉膜厚計に係り、さらに詳しくは、参照面による反射光及び測定対象物による反射光からなる干渉反射光の光強度分布に基づいて、測定対象物の膜厚を測定する干渉膜厚計の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
検出光を参照面及び測定対象物にそれぞれ照射し、これらの反射光からなる干渉反射光を分光することによって、共通の参照面から測定対象物の各測定面までの距離を求め、これらの距離に基づいて、測定対象物の膜厚を測定する干渉膜厚計が従来から知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の干渉膜厚計では、干渉反射光について、周波数ごとの光強度分布を取得し、波数ごとの光強度分布へ変換した後、その特性曲線について、空間周波数ごとの特性強度分布を求めている。測定対象物が透明膜の場合、この特性強度分布には、参照面から透明膜の表面及び裏面までの距離にそれぞれ対応する2つのピークが現れる。各ピークの空間周波数(ピーク位置)は上記距離に比例するため、これらの距離の差分として、膜厚を測定することができる。
【0004】
また、測定対象物が2以上の透明膜からなる多層膜の場合、特性強度分布には、参照面から上記透明膜の各境界面までの距離に相当する3以上のピークが現れる。このため、隣り合うピーク間において上記距離の差分をそれぞれ求めることにより、各透明膜の膜厚を測定することができる。
【0005】
このような干渉膜厚計は、測定対象物の反射面の状態が良好でなければ、膜厚を測定することができない。例えば、測定対象物の表面に、十分な反射光量が得られないような膜厚測定に適さない微少領域がある場合に、たまたま当該微少領域について測定が行われると、高精度の膜厚測定を行うことができない。そこで、同一の測定対象物について、光強度分布の取得を繰り返し行って、膜厚測定の精度を向上させることが考えられる。
【0006】
しかしながら、光強度分布の取得を繰り返し、同一の膜厚について、2以上の測定値を求めて積算した場合、不良測定で得られた誤差の大きな膜厚の測定結果によって、測定精度が大きく低下してしまうという問題があった。また、多層膜を測定する場合、特性強度分布において一部のピークが欠落することにより、各ピークの対応関係が把握できなくなり、測定精度が大きく低下するという問題があった。この様な問題を防止しようとすれば、全てのピークが揃った特性強度分布を得なければならず、不良測定が続く場合には、光強度分布の取得を繰り返しても、膜厚測定を行うことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−270939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、同一の測定対象物について、干渉反射光の光強度分布を繰り返し取得することにより、高精度の膜厚測定を行う干渉膜厚計を提供することを目的とする。特に、多層膜からなる測定対象物の各膜厚を高精度で測定することができる干渉膜厚計を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、十分な反射光量が得られない測定条件下において、干渉反射光の光強度分布を繰り返し取得することにより、膜厚測定を可能にする干渉膜厚計を提供することを目的とする。特に、望ましくない測定条件下において、多層膜からなる測定対象物の各膜厚を測定可能にする干渉膜厚計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明による干渉膜厚計は、検出光を生成する光源と、上記検出光の参照面による反射光及び測定対象物による反射光からなる干渉反射光を生成する干渉光学系と、上記干渉反射光を分光する分光手段と、分光された上記干渉反射光を検出し、波長ごとの光強度分布を取得する光強度分布取得手段と、上記光強度分布に基づく特性曲線について、空間周波数ごとの特性強度分布を求める特性強度分布算出手段と、タイミングを異ならせて取得した2以上の上記光強度分布からそれぞれ求められた2以上の上記特性強度分布を合成する特性強度合成手段と、合成後の上記特性強度分布に含まれる2以上のピークの空間周波数に基づいて、測定対象物の膜厚を算出する膜厚算出手段とを備えて構成される。
【0011】
光源からの検出光を参照面及び測定対象物により反射させ、これらの反射光からなる干渉反射光を分光することにより、干渉反射光について、波長ごとの光強度分布を取得することができる。この光強度分布に基づく特性曲線について、空間周波数ごとの特性強度分布を求めれば、当該特性強度分布に含まれる2以上のピークの空間周波数(ピーク位置)に基づいて、測定対象物の膜厚を算出することができる。このような干渉膜厚計において、タイミングを異ならせて2以上の光強度分布を取得し、これらの光強度分布からそれぞれ求められた2以上の特性強度分布を合成し、合成後の特性強度分布に基づいて、測定対象物の膜厚を算出することにより、膜厚測定の精度を向上させることができる。
【0012】
つまり、同一の測定対象物について、光強度分布の取得を繰り返す場合に、光強度分布ごとに算出された膜厚を積算処理するという構成に比べて、膜厚測定の精度を向上させることができる。例えば、測定対象物の表面状態が悪く、特性強度分布中に特性強度の小さいピークしか現れない場合であっても、2以上の特性強度分布を合成して膜厚を算出することにより、膜厚測定を高い精度で行うことができる。また、多層膜の各膜厚を測定する場合に、特性強度分布に現れる3以上のピークの一部が欠落することによって、膜厚測定の精度に顕著な影響を与えるのを抑制することができる。
【0013】
第2の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記特性強度合成手段が、2以上の上記特性強度分布の周波数軸を相対的に補正し、補正後の上記特性強度分布を合成するように構成される。
【0014】
この様な構成により、2以上の光強度分布を取得する間に、参照面による反射光の伝搬経路と測定対象物による反射光の伝搬経路との差が変化し、2以上の特性強度分布間に周波数軸のずれが生じることによって、合成後の特性強度分布におけるピークの幅が増大し、膜厚測定の精度が低下するのを抑制することができる。
【0015】
第3の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記特性強度合成手段が、上記特性強度分布に含まれるピークの空間周波数であって、距離に対する閾値を越える最小値を基準として、2以上の上記特性強度分布を合成し、上記膜厚算出手段が、上記距離に対する閾値を越えるピークの空間周波数に基づいて膜厚を算出するように構成される。
【0016】
膜厚算出手段が、特性強度分布に含まれるピークの空間周波数(ピーク位置)であって、距離に対する閾値を越える値に基づいて膜厚を算出することにより、距離に対する閾値を適切に設定すれば、測定対象物の各測定面からの反射光間の干渉に基づくピークを除外し、参照面からの反射光と、各測定面からの反射光との干渉に基づくピークに基づいて、膜厚を算出することができる。
【0017】
また、この様な干渉膜厚計において、特性強度合成手段が、特性強度分布に含まれるピークの空間周波数(ピーク位置)であって、距離に対する閾値を越える最小値を基準として、2以上の特性強度分布を合成することにより、2以上の特性強度分布を合成する際、周波数軸の相対的なずれを容易に補正することができ、また、精度良く補正することができる。
【0018】
一般に、光量が最も大きい反射光は、参照面からの反射光と、測定対象物の表面からの反射光であるため、特性強度分布において特性強度が最大となるピークは、参照面から測定対象物までの距離に相当するピークとなる。一方、距離に対する閾値を適切に設定すれば、距離に対する閾値を越える最初のピークが、参照面から測定対象物までの距離に相当するピークとなる。このため、周波数軸のずれを補正する際の基準として、各特性強度分布において距離に対する閾値を越えた最初のピークを利用することにより、基準とするピークを容易に選択することができる。また、特性強度が最大のピークを基準にすることにより、周波数軸の補正を精度良く実現することができる。
【0019】
第4の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記特性強度合成手段が、それぞれの上記特性強度分布において最大の特性強度を有するピークの空間周波数を基準として、2以上の上記特性強度分布を合成するように構成される。この様な構成により、2以上の特性強度分布を合成する際、周波数軸の相対的なずれを容易に補正することができ、また、精度良く補正することができる。
【0020】
第5の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記測定対象物に対し、上記干渉光学系を相対的に揺動させる揺動手段を備えて構成される。この様な構成により、2以上の光強度分布を取得する際、測定対象物上における測定領域を異ならせることができる。例えば、測定対象物の表面上に、測定に適さない微少領域が存在している場合に、微小領域以外の領域も測定されるので、当該微少領域を測定領域としたために膜厚測定が不能となることを抑制することができる。
【0021】
第6の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記膜厚算出手段が、上記特性強度分布に含まれる3以上のピークの空間周波数に基づいて、上記測定対象物を構成する多層膜の各膜厚を算出するように構成される。
【0022】
この様な構成により、多層膜の各膜厚を精度よく測定することができる。例えば、多層膜中に略同一の膜厚からなる2以上の膜が含まれている場合であっても、これらの層ごとに膜厚を測定することができる。また、多層膜について光強度分布を繰り返し取得する場合、周波数軸が相対的に補正された特性強度分布を合成して膜厚を求めることにより、特性強度分布における一部のピークの欠落が膜厚測定の精度に顕著な影響を与えるのを防止することができる。つまり、特性強度分布の合成は、多層膜の膜厚測定時に特に好適である。
【0023】
第7の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記光強度分布を繰り返し取得する場合に、新たに取得された上記光強度分布に対応する合成前の上記特性強度分布を逐次表示する表示手段を備え、上記表示手段が、先に取得された上記光強度分布に対応する上記特性強度分布に基づいて、周波数軸が相対的に補正された上記特性強度分布を表示するように構成される。
【0024】
この様な構成により、光強度分布を繰り返し取得する間に参照面から測定対象物までの距離が変化した場合であっても、同じ膜厚に対応するピークが、周波数軸上の同じ位置に表示されるため、ユーザは、各ピークの特性強度(ピーク高さ)の変化を容易に視認することができ、測定状況を容易に把握することができる。
【0025】
第8の本発明による干渉膜厚計は、上記構成に加えて、上記距離に対する閾値をユーザ操作により指定するための距離閾値指定手段を備えて構成される。このような構成により、自由度の高い測定を行うことができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明による干渉膜厚計では、タイミングを異ならせて取得した2以上の光強度分布からそれぞれ求められた2以上の特性強度分布を合成し、合成後の上記特性強度分布に含まれる2以上のピークの空間周波数に基づいて、測定対象物の膜厚が算出される。このため、光強度分布ごとに膜厚を求め、これらの膜厚を積算する場合に比べ、高精度の膜厚測定を行うことができる。また、十分な反射光量が得られない測定条件下であっても、膜厚測定を可能にすることができる。
【0027】
また、本発明による干渉膜厚計では、同一の測定対象物から得られた異なる特性強度分布を合成する際、特性強度分布の周波数軸を相対的に補正している。このため、光強度分布を繰り返し取得する間に、参照面から測定対象物までの距離が変化している場合であっても、高精度の膜厚測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1による干渉膜厚計1の概略構成の一例を示した図である。
【図2】図1の干渉膜厚計1におけるヘッドユニット30内の構成を模式的に示した説明図であり、干渉光学系の構成例が示されている。
【図3】図1の干渉膜厚計1におけるコントローラユニット10内の分光装置40の構成例を示した図である。
【図4】図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を模式的に示した説明図であり、検出光L0の参照面による反射光及びワークWによる反射光が示されている。
【図5】図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、干渉反射光L3の光強度分布及びそのフーリエ解析から得られた特性強度分布が示されている。
【図6】図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、搬送中のワークWに対してヘッドユニット30から検出光L1が照射される様子が示されている。
【図7】図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、タイミングを異ならせて取得した光強度分布から得られた特性強度分布が示されている。
【図8】図3の分光装置40における演算回路50の構成例を示したブロック図であり、ワークWの膜厚を算出する演算回路50内の機能構成の一例が示されている。
【図9】図1の干渉膜厚計1における計測処理の一例を示したフローチャートである。
【図10】図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、表示部60に表示されるモニター画面61の一例が示されている。
【図11】本発明の実施の形態2による干渉膜厚計1の構成例を示した図であり、揺動ユニット81がヘッドユニット30に取り付けられた干渉膜厚計1が示されている。
【図12】図11の干渉膜厚計1におけるコントローラユニット10内の揺動制御部90の構成例を示した図である。
【図13】図11の干渉膜厚計1の動作設定を行うための動作設定支援装置の動作例を示した図であり、モニター画面61のマスク設定時の設定画面100が示されている。
【図14】図11の干渉膜厚計1の動作設定を行うための動作設定支援装置の動作例を示した図であり、アラーム設定時の設定画面100が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0029】
実施の形態1.
<干渉膜厚計>
図1は、本発明の実施の形態1による干渉膜厚計1の概略構成の一例を示した図である。この干渉膜厚計1は、様々な波長を含む広帯域光からなる検出光L1を用いて、ワークWの膜厚を測定する測定装置であり、コントローラユニット10、光ファイバー20及びヘッドユニット30からなる。
【0030】
コントローラユニット10は、検出光L1を生成し、検出光L1のワークWによる反射光に基づいて、ワークWの膜厚を算出する本体ユニットである。このコントローラユニット10は、SLD駆動回路11、SLD12、コリメータレンズ13a、集光レンズ13b、フェルール14、ファイバースプリッタ15及び分光装置40により構成される。
【0031】
SLD駆動回路11は、SLD12の駆動制御を行うドライバ回路である。SLD(Super Luminescent Diode:高輝度ダイオード)12は、広帯域光からなる検出光を生成する光源装置であり、SLED(高輝度発光ダイオード)と呼ばれることもある。例えば、波長0.70〜1.0μm程度の近赤外光からなる広帯域光が検出光として生成される。具体的には、赤外光領域の波長0.83μmを中心波長として含む広帯域光がSLD12によって生成される。
【0032】
コリメータレンズ13aは、SLD12から入射した検出光を集光し、中心軸に略平行な平行光として出射する集光レンズである。集光レンズ13bは、コリメータレンズ13aから入射した平行光を集光し、フェルール14の端面に向けて出射する光学素子である。コリメータレンズ13a及び集光レンズ13bは、SLD12から出射された検出光を光ファイバーに入射させるための光ファイバー結合レンズとなっている。
【0033】
フェルール14は、検出光を伝送する光ファイバーの端部を保持するための接続部材である。SLD12、コリメータレンズ13a、集光レンズ13b及びフェルール14は、中心軸を互いに一致させて配置される。
【0034】
ファイバースプリッタ15は、光ファイバーを介して、フェルール14、分光装置40及びコネクタ21に接続され、フェルール14から伝送された検出光をそのままコネクタ21側へ伝送し、コネクタ21から伝送された光を主に分光装置40側へ伝送するファイバー形状のビームスプリッタである。具体的には、ファイバースプリッタ15の一方の端部にフェルール14及び分光装置40が接続され、他方の端部にコネクタ21が接続されている。
【0035】
光ファイバー20は、検出光をコントローラユニット10からヘッドユニット30まで伝送するための光伝送媒体である。光ファイバー20は、導光体からなる芯線と、芯線を被覆する樹脂膜によって構成され、コネクタ21を介してコントローラユニット10と着脱可能に接続される。
【0036】
ヘッドユニット30は、コントローラユニット10から伝送された検出光を検出光L1としてワークWに向けて出射する検出光出射ユニットであり、例えば、ワークWの搬送ライン付近に配置される。
【0037】
SLD12から出射された検出光は、コリメータレンズ13aに入射し、平行光として出射される。この平行光は、集光レンズ13bに入射し、フェルール14端面に向けて出射される。検出光は、このフェルール14を介して光ファイバー内に入射され、ファイバースプリッタ15を介してコネクタ21へ伝送される。そして、検出光は、このコネクタ21及び光ファイバー20を介してヘッドユニット30へ伝送され、検出光L1としてワークWに向けて出射される。
【0038】
一方、検出光L1の照射によって検出光L1の一部がワークWにより反射され、その反射光の一部は、ヘッドユニット30に入射される。検出光L1のワークWによる反射光と、ヘッドユニット30内の所定の参照面による検出光の反射光とは、光ファイバー20及びファイバースプリッタ15を介して分光装置40へ伝送される。分光装置40は、この様な反射光からなる干渉反射光を分光して、ワークWの膜厚を算出する。
【0039】
<ヘッドユニット内の干渉光学系>
図2は、図1の干渉膜厚計1におけるヘッドユニット30内の構成を模式的に示した説明図であり、干渉光学系の構成例が示されている。このヘッドユニット30は、ワークWの膜厚を測定するための干渉反射光L3を生成する干渉光学系を備え、光ファイバー20を介して伝送された検出光の一部を検出光L1として出射し、検出光L1のワークWによる反射光の一部が入射される。
【0040】
この干渉光学系は、ミロー型又はミラウ型の干渉光学系であり、集光レンズ31、ガラス板32、ハーフミラー33及びピンミラー34からなる。光ファイバー20の端面から出射される検出光を検出光L0と呼べば、検出光L0の一部が検出光L1として出射され、検出光L1のワークWによる反射光が入射される。そして、検出光L0の参照面による反射光と、検出光L1のワークWによる反射光とから干渉反射光L3が生成され、光ファイバー20の端面に入射される。
【0041】
集光レンズ31は、光ファイバー20の端面から入射した検出光L0を集光し、ハーフミラー33に向けて出射する光学レンズである。ハーフミラー33は、検出光L0の一部を集光レンズ31側へ反射させ、他の一部を透過させる円板状のビームスプリッタである。ガラス板32は、ピンミラー34を光路内に配置するための透明なガラス材からなる円形板であり、集光レンズ31及びハーフミラー33間に配置されている。
【0042】
ピンミラー34は、検出光L0のハーフミラー33による反射光をハーフミラー33側へ反射させることにより、ヘッドユニット30から離間した位置に仮想基準面Aを形成するための参照面を有する光学素子であり、円板状の小型の反射鏡からなる。光ファイバー20の端部、集光レンズ31、ガラス板32、ピンミラー34及びハーフミラー33は、中心軸を一致させて配置されている。
【0043】
仮想基準面Aは、干渉反射光L3に基づいてワークWの膜厚を算出する際の基準となる仮想的な平面であり、検出光L1の光軸に垂直である。ピンミラー34は、ワークWから仮想基準面Aまでの距離dがゼロである場合に、検出光L0の参照面による反射光と、検出光L1のワークWによる反射光とが同位相となる位置に形成される。
【0044】
集光レンズ31から出射された検出光L0は、その一部がハーフミラー33により反射され、検出光L2としてピンミラー34に入射する。ピンミラー34により反射された検出光L2は、その一部がハーフミラー33により集光レンズ31に向けて反射される。
【0045】
一方、検出光L0の他の一部は、ハーフミラー33を透過し、検出光L1としてヘッドユニット30から出射される。ワークWにより反射された検出光L1は、ハーフミラー33を集光レンズ31に向けて透過する。この検出光L1のワークWによる反射光と、検出光L2のハーフミラー33による反射光とが、干渉反射光L3として、光ファイバー20の端面に入射される。干渉反射光L3に基づいて算出されるワークWの膜厚は、仮想基準面AとワークWとの間の距離dの差分として求められる。
【0046】
<分光装置>
図3は、図1の干渉膜厚計1におけるコントローラユニット10内の分光装置40の構成例を示した図である。この分光装置40は、フェルール41、コリメータレンズ42、回折格子43、結像レンズ44、CCDイメージセンサ45、イメージセンサ駆動回路46、アンプ47、ADコンバータ48、バッファメモリ49、演算回路50及び表示部60により構成される。
【0047】
フェルール41は、干渉反射光L3を伝送する光ファイバーの端部を保持するための接続部材であり、ファイバースプリッタ15から延伸する光ファイバーの端部に設けられている。コリメータレンズ42は、フェルール41から出射された干渉反射光L3が入射し、これらの光を集光して、中心軸に略平行な平行光として出射する集光レンズである。
【0048】
回折格子43は、入射光を分光する分光素子であり、コリメータレンズ42から入射した干渉反射光L3を波長に応じた角度で出射するための多数のスリットが形成された平板からなる。結像レンズ44は、回折格子43から入射した干渉反射光を集光し、CCDイメージセンサ45上に結像させる集光レンズである。
【0049】
回折格子43によって回折された干渉反射光L3は、結像レンズ44を透過後、CCDイメージセンサ45上で波長に応じて異なる位置に結像される。その際、伝搬経路の異なる反射光間の干渉によって、その波長に応じて干渉反射光L3は強め合ったり、弱め合ったりすることとなる。
【0050】
CCD(Charge Coupled Devices:電荷結合素子)イメージセンサ45は、結像レンズ44によって集光された干渉反射光L3の結像位置を検出可能な撮像素子であり、受光量に応じた検出信号をそれぞれ出力する多数の受光素子が1次元配置されたセンサチップからなる。このCCDイメージセンサ45は、分光された干渉反射光L3を検出し、波長ごとの光強度分布を取得するための光強度分布取得手段である。イメージセンサ駆動回路46は、CCDイメージセンサ45の駆動制御を行うドライバ回路である。
【0051】
CCDイメージセンサ45から出力される検出信号は、アンプ47に入力され、電力増幅される。このアンプ47による電力増幅後の検出信号は、ADコンバータ48に入力され、アナログ信号からデジタル信号に変換されバッファメモリ49内に蓄積される。
【0052】
演算回路50は、バッファメモリ49内の検出データ、すなわち、受光素子ごとのピクセルデータに基づいて、仮想基準面AとワークWとの間の距離dやワークWの膜厚を算出し、測定結果として表示部60や外部機器へ出力する。表示部60は、測定結果などをモニター画面上に表示するディスプレイ装置である。
【0053】
<干渉反射光>
図4は、図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を模式的に示した説明図であり、検出光L0の参照面による反射光及び検出光L1のワークWによる反射光が示されている。ヘッドユニット30内において、光ファイバー20の端面から出射された検出光L0は、その一部が検出光L2として参照面(ピンミラー34)により反射される。
【0054】
一方、検出光L0の他の一部は、検出光L1としてヘッドユニット30から出射され、ワークWに入射する。そして、ワークWにより反射された検出光L1は、その一部が再度ヘッドユニット30に入射される。参照面による反射光とワークWによる反射光とは、仮想基準面A及びワークW間の距離dに応じた位相差を有しており、干渉反射光L3は、その様な伝搬経路の異なる複数の反射光からなる。
【0055】
ワークWが、複数の透明膜B1〜B3からなる多層膜により構成される場合、検出光L1は、各透明膜B1〜B3の界面により反射される。透明膜B1のヘッドユニット30側、すなわち、図中における上側の界面をS1とし、透明膜B1とB2との間の界面をS12、透明膜B2とB3との間の界面をS23、透明膜B3の下側の界面をS3とすれば、検出光L1の界面S1,S12,S23及びS3による反射光がそれぞれヘッドユニット30に入射される。
【0056】
ワークWを構成する多層膜の膜厚としては、例えば、透明膜B1〜B3の各膜厚が求められる。透明膜B1の膜厚は、仮想基準面A及び界面S12間の距離と、仮想基準面A及び界面S1間の距離との差分から求められる。また、透明膜B2の膜厚は、仮想基準面A及び界面S23間の距離と、仮想基準面A及び界面S12間の距離との差分から求められる。また、透明膜B3の膜厚は、仮想基準面A及び界面S3間の距離と、仮想基準面A及び界面S23間の距離との差分から求められる。
【0057】
<FFT波形>
図5(a)〜(c)は、図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、干渉反射光L3の光強度分布及びそのフーリエ解析から得られた特性強度分布が示されている。図5(a)には、横軸を干渉反射光L3の波長λとし、縦軸を受光量として、波長λごとの光強度分布が示されている。
【0058】
この光強度分布は、CCDイメージセンサ45により検出されたピクセルデータから得られ、その特性曲線は、波長λの増加に伴って受光量が激しく変化している。検出光の参照面による反射光と、ワークWによる反射光とでは、2dが光路差となることから、受光量は、4πd/λ=2nπ(nは整数)を満たす波長λで極大となり、4πd/λ=(2n+1)πを満たす波長λで極小となる。
【0059】
このため、特性曲線は、極大及び極小を概ね周期的に繰り返す曲線となっている。また、光強度分布の包絡線は、SLD12により生成される広帯域光の光強度分布がガウス分布であることに対応して、中央に1つのピークを有する山型の曲線となっている。
【0060】
図5(b)には、横軸を波数1/λ、縦軸を受光量として、波数1/λごとの光強度分布が示されている。この光強度分布は、図5(a)の光強度分布に対し、波長λを波数1/λに周波数軸変換することにより得られ、その特性曲線では、受光素子ごとの受光量分布が有する周期を単一周期の分布として表すことができる。
【0061】
この様な光強度分布の特性曲線をフーリエ変換することにより、特性曲線の空間周波数ごとの特性強度分布を得ることができる。特性強度分布における空間周波数は、ワークWと仮想基準面Aとの間の距離dに対応する。
【0062】
図5(c)には、横軸を距離d、縦軸を受光量として、光強度分布のフーリエ解析から得られたFFT波形が示されている。このFFT波形は、波数1/λごとの光強度分布の特性曲線をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)することにより得られる特性強度分布である。FFT波形における距離dは、検出光の参照面による反射光とワークWによる反射光との光路差が2dであることから、空間周波数の1/2倍として算出される。
【0063】
この例では、不要成分C1と、複数のピークC2〜C5とからなるFFT波形が測定されている。不要成分C1とは、検出光の参照面による反射光とワークWによる反射光との間の干渉に無関係の成分のことであり、主に、ワークWを構成する透明膜の界面による反射光同士の干渉に対応する。
【0064】
図4のワークWであれば、不要成分C1は、検出光L1の界面S1による反射光と界面S12よる反射光との間の干渉や、界面S1による反射光と界面S23よる反射光との間の干渉などに対応する。この様なワークWの界面による反射光同士の干渉に起因する不要成分C1は、距離dがそのまま透明膜の膜厚を表す。
【0065】
このため、ワークWが多層膜からなる場合、不要成分C1では、測定された膜厚がどの透明膜に対応するのか判別しづらい。特に、膜厚が同程度の複数の透明膜が存在する場合、測定結果と透明膜との対応づけが困難である。
【0066】
一方、ピークC2〜C5は、検出光の参照面による反射光とワークWによる反射光との間の干渉に対応する成分である。各ピークC2〜C5は、ワークWを構成する透明膜の各界面による反射光にそれぞれ対応し、そのピーク位置が、仮想基準面A及び界面間の距離dを表す。仮想基準面Aから遠い界面ほど、対応するピークは、長距離側に形成されている。
【0067】
また、一般に、距離dが大きくなるほど、光強度分布の特性曲線における極大値と極小値との差は小さくなる。このため、FFT波形におけるピークの受光量(特性強度)は、距離dの増加に伴って概ね減少している。
【0068】
本実施の形態による干渉膜厚計1では、透明膜の膜厚がこの様なピークC2〜C5の位置に基づいて求められる。ピーク位置は、仮想基準面Aから界面までの距離dに対応するので、異なる2つのピークを指定すれば、これらのピークに対応する界面で挟まれた透明膜の膜厚を求めることができる。
【0069】
<ワークの振れ>
図6は、図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、搬送中のワークWに対してヘッドユニット30から検出光L1が照射される様子が示されている。ワークWが、ローラを介して搬送されるシート状のフィルム材からなる場合、ローラの振れなどの影響により、ワークWがライン送り方向とは交差する方向に小刻みに振れることがある。
【0070】
この様なワークWの膜厚を測定する場合、ヘッドユニット30から見たワークWの位置は、ワークWの振れにより検出光L1の光軸方向に変動する。このため、タイミングを異ならせて取得した複数の光強度分布からそれぞれFFT波形を求める場合、ワークWの振れの影響により、対応するピークの位置に周波数軸方向のずれが生じる。
【0071】
また、ワークWを構成する透明膜の界面に荒れや汚れなどの影響により十分な反射光量が得られない微小領域がある場合、当該微小領域の影響で対応するピークの受光量が低下し、ノイズに埋もれてしまうことがある。
【0072】
本実施の形態による干渉膜厚計1では、界面の荒れなどの影響により膜厚が測定できない事態が生じることを防止するために、同一のワークWについて、光強度分布の取得を繰り返し行い、取得した複数の光強度分布からそれぞれFFT波形を求めて積算する処理が行われる。
【0073】
その際、サンプリング時刻の異なる光強度分布に対応する複数のFFT波形をそのまま積算すれば、ワークWの振れの影響によるピーク位置の周波数軸方向のずれにより、ピーク波形が鈍ってしまうので、膜厚の測定精度が低下する。そこで、この干渉膜厚計1では、各FFT波形について、周波数軸を相対的に補正し、補正後のFFT波形が積算される。
【0074】
<ピーク位置の変動>
図7(a)〜(d)は、図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、タイミングを異ならせて取得した光強度分布から得られた特性強度分布が示されている。図中の(a)〜(d)には、それぞれサンプリング時刻t〜tに取得された光強度分布から求められたFFT波形が示されている。
【0075】
サンプリング時刻tのFFT波形における各ピーク(ピーク位置d〜d)に対し、ワークWの振れの影響により、サンプリング時刻t及びtでは、各ピーク波形が長距離側に移動し、サンプリング時刻tでは、各ピーク波形が短距離側に移動している。ワークWの振れの影響により移動するピークは、界面に対応するピークであり、各界面に対応するピークは、同じ方向に同じ距離だけ移動している。なお、不要成分C1は、ワークWの振れの影響を受けることなく、周波数軸方向の位置は固定している。
【0076】
この様に各FFT波形には、ピーク波形の周波数軸方向のずれが存在するので、これらのFFT波形をそのまま合成すれば、各ピークのピーク波形は、幅の広い崩れた形となってしまう。
【0077】
また、サンプリング時刻tやtのFFT波形では、検出光L1のワークWによる反射面(界面)の不良状態の影響により、それぞれピーク位置dのピークやピーク位置dのピークの受光量が、サンプリング時刻tのFFT波形に比べて低下している。この様なFFT波形から膜厚を求めようとすれば、十分な反射光量が得られない反射面に対応するピークが正しく検出されず、他のピークが誤検出されてしまう。
【0078】
<演算回路>
図8は、図3の分光装置40における演算回路50の構成例を示したブロック図であり、ワークWの膜厚を算出する演算回路50内の機能構成の一例が示されている。この演算回路50は、周波数軸変換部51、FFT処理部52、特性強度合成部53及び膜厚算出部54により構成され、バッファメモリ49からピクセルデータを取得し、波長ごとの光強度分布の特性曲線からFFT波形を求めてワークWの膜厚を算出する。
【0079】
周波数軸変換部51は、光強度分布の周波数軸を変換する演算部であり、バッファメモリ49からピクセルデータを読み出し、波長λごとの光強度分布を波数1/λごとの光強度分布に変換する。FFT処理部52は、波数1/λごとの光強度分布の特性曲線をFFTし、空間周波数ごとの特性強度分布からなるFFT波形を算出する。
【0080】
特性強度合成部53は、ピーク検出部53a、周波数軸校正部53b及びFFT波形積算部53cからなり、タイミングを異ならせて取得した複数の光強度分布からそれぞれ求められた複数のFFT波形を合成する。
【0081】
ピーク検出部53aは、FFT処理部52により算出されたFFT波形について、ピークを検出する。このピーク検出は、ノイズを検出対象から除外するために、受光量に対応する特性強度が所定の強度閾値Th1を越える周波数成分を抽出することにより行われる。このピーク検出部53aでは、検出対象から不要成分C1を除外するために、距離dに対応する空間周波数が所定の距離閾値Th2を越える周波数成分について、ピーク検出が行われる。強度閾値Th1が、ピーク検出においてノイズ成分を除去するための強度に対する閾値であるのに対し、距離閾値Th2は、不要成分C1を除去するための距離に対する閾値である。
【0082】
周波数軸校正部53bは、ワークWの振れによるピーク波形のずれを補正するために、サンプリング時刻の異なる光強度分布から算出された複数のFFT波形について、FFT波形の周波数軸を相対的に補正する。この周波数軸の補正は、空間周波数が距離閾値Th2を越えているピークのいずれか1つを基準として行われる。例えば、空間周波数が距離閾値Th2を越えているピークのうち、空間周波数が最も小さいピークの位置が基準として採用される。
【0083】
空間周波数が距離閾値Th2を越えているピークであって、空間周波数が最小のピークは、ワークWのヘッドユニット30に最も近い界面に対応するピークであり、ここでは、最表面ピークと呼ぶ。最表面ピークは、通常、空間周波数が距離閾値Th2を越えているピークのうちで特性強度が最大のピークである。また、この様なピークの位置(空間周波数)は、ピーク波形の最大点の位置、又は、ピーク波形の重心位置として定められる。
【0084】
N個のFFT波形を膜厚算出の処理単位とする場合、周波数軸の補正は、基準とするピーク位置をこれらのN個のFFT波形について合わせ込むことにより行われる。例えば、基準のピーク位置が所定の参照位置と一致するように、各FFT波形の周波数軸が補正される。参照位置は、例えば、膜厚算出処理が繰返し行われる場合、1つ前の膜厚算出処理で使用されたN個のFFT波形について、基準のピーク位置の平均値を求め、その平均値として定められる。
【0085】
FFT波形積算部53cは、サンプリング時刻の異なる光強度分布から算出された複数のFFT波形を合成する。この合成処理は、周波数軸校正部53bによる周波数軸補正後のN個のFFT波形について、特性強度分布を積算することにより行われる。特性強度分布の積算処理としては、N個のFFT波形を加算する処理だけでなく、加算されたFFT波形をNで割って平均化する処理、或いは、N個のFFT波形をそれぞれ1/N倍してから加算する処理などを含む。つまり、合成後のFFT波形としては、N個のFFT波形を加算したものであっても良いし、平均化したものでも良い。
【0086】
膜厚算出部54は、FFT波形積算部53cによる合成後のFFT波形に含まれる複数のピークの空間周波数に基づいて、ワークWの膜厚を算出する。ワークWの膜厚は、空間周波数が距離閾値Th2を越えている3以上のピークのうち、ユーザ操作などにより予め指定された異なる2つのピークの空間周波数、すなわち、ピーク位置の差分として求められる。つまり、ワークWを構成する多層膜の任意の膜厚を算出することができる。
【0087】
ピーク位置の空間周波数は、検出光の参照面による反射光とワークWによる反射光との光路差に対応し、仮想基準面A及びワークW間の距離dは、ピーク位置の空間周波数の1/2倍として算出される。
【0088】
具体的に説明すれば、検出光Iをi=a×sin(ωt)とし、その参照面による反射光Iをi=a×sin(ωt+2πx/λ)、ワークWによる反射光Iをi=a×sin(ωt+2πx/λ)と表すと、干渉反射光L3の強度は、(i+iの時間平均=(a+a)+2×a×a×cos(4πd/λ)により表される。ただし、光路差は、x−x=2dとしている。
【0089】
上記関係式から、干渉反射光L3の強度は、4πd/λ=2nπ(nは整数)で最大値(a+aとなり、4πd/λ=(2n+1)πで最小値(a−aとなることが分かる。
【0090】
波数1/λごとの光強度分布の特性曲線の周波数、すなわち、空間周波数は、同じ距離dに対し、干渉反射光L3の強度が最大となる波長であって、整数nが1だけ異なる2つの波長をλ及びλとして、(1/λ−1/λ)の逆数に相当する。従って、上記関係式から得られる4πd×(1/λ−1/λ)=2πを用いることにより、距離dは、(空間周波数)×1/2から求めることができる。
【0091】
<計測処理>
図9のステップS101〜S110は、図1の干渉膜厚計1における計測処理の一例を示したフローチャートである。まず、周波数軸変換部51は、バッファメモリ49からピクセルデータを取得し、波長λごとの光強度分布を波数1/λごとの光強度分布に変換する(ステップS101,S102)。FFT処理部52は、波数1/λごとの光強度分布の特性曲線をFFTし、空間周波数ごとの特性強度分布からなるFFT波形を算出する(ステップS103)。
【0092】
特性強度合成部53は、FFT波形について、最表面ピークを検出し(ステップS104)、所定数のFFT波形が得られるまで、ステップS101からステップS104までの処理手順を繰り返す(ステップS105)。
【0093】
次に、特性強度合成部53は、所定数のFFT波形について、最表面ピークの位置を基準とし、ピーク位置が参照位置と一致するように周波数軸をシフトして補正し、補正後のFFT波形を積算する(ステップS106,S107)。
【0094】
次に、膜厚算出部54は、特性強度合成部53による合成後のFFT波形に含まれる複数のピークのうちの2つを選択し、選択したピークの重心位置を計算する。膜厚算出部54は、重心位置の差分からワークWの膜厚を算出する(ステップS108〜S110)。
【0095】
<モニター画面>
図10は、図1の干渉膜厚計1における計測時の動作の一例を示した図であり、表示部60に表示されるモニター画面61の一例が示されている。このモニター画面61は、膜厚の測定値を表示し、或いは、強度閾値Th1及び距離閾値Th2を設定するための入力画面であり、FFT波形の表示領域62と、測定値の表示欄63と、マスク処理のためのパラメータの入力欄64,65と、閾値の入力欄66が配置されている。
【0096】
表示領域62には、横軸を距離d、縦軸を受光量として、FFT波形が表示される。FFT波形としては、例えば、N個のFFT波形を合成し、平均化した後の波形が表示される。表示領域62内には、2つのマスクの境界と、ピーク検出のための強度閾値Th1と、ピーク位置とが、それぞれ破線71〜74により示されている。
【0097】
破線71により示されるマスクの境界は、距離閾値Th2に対応し、距離閾値Th2よりも短距離側がマスクされている。距離閾値Th2は、「マスク1」の入力欄64にパラメータを入力することにより指定することができる。破線72により示されるマスクの境界は、「マスク2」の入力欄65に入力されたパラメータにより指定される距離閾値Th3に対応し、距離閾値Th3よりも長距離側がマスクされている。
【0098】
距離閾値Th2及びTh3は、ピーク検出の範囲を絞り込むことにより、不要成分やノイズを除去するためのパラメータである。また、波形表示におけるマスク処理は、不要成分やノイズを目立たなくするための画像処理である。
【0099】
破線73による示される強度閾値Th1は、閾値の入力欄66にパラメータを入力することにより指定することができる。この例では、膜厚算出のために選択されたピークに対応付けて、測定対象であることを示すアイコン75が表示されている。表示欄63には、選択中のピークから得られた膜厚が測定値として表示されている。
【0100】
測定対象のピークは、ユーザ操作により変更することができる。また、表示領域62には、図5に示したような波長λごとの光強度分布や波数1/λごとの光強度分布を表示することもできる。また、膜厚算出に使用したN個のFFT波形を選択的に表示することもできる。或いは、新たに取得された光強度分布に対応する合成前のFFT波形を逐次表示させても良い。その際、ワークWの振れの影響により、ピーク位置にずれが生じることを防止するために、先に取得された光強度分布に対応するFFT波形に基づいて、周波数軸が相対的に補正されたFFT波形を表示することが望ましい。
【0101】
本実施の形態によれば、同一のワークWについて、光強度分布の取得を繰り返す場合に、光強度分布ごとに算出された膜厚を積算処理するという構成に比べて、膜厚測定の精度を向上させることができる。また、多層膜の各膜厚を測定する場合に、FFT波形に現れる3以上のピークの一部が欠落することによって、膜厚測定の精度に顕著な影響を与えるのを抑制することもできる。
【0102】
実施の形態2.
実施の形態1では、搬送中のワークWに対し、光強度分布の取得を繰返し行って膜厚を算出する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、動かないワークWに対し、光強度分布の取得を繰返し行って膜厚を算出する場合について説明する。
【0103】
図11は、本発明の実施の形態2による干渉膜厚計1の構成例を示した図であり、揺動ユニット81がヘッドユニット30に取り付けられた干渉膜厚計1が示されている。この干渉膜厚計1は、図1の干渉膜厚計1と比較すれば、ヘッドユニット30、揺動ユニット81及びヘッド位置検出センサ82がヘッドユニットカバー83内に収容され、コントローラユニット10が揺動制御部90を備えている点で異なる。
【0104】
揺動ユニット81は、ワークWに対して干渉光学系を相対的に揺動させることにより、測定面の状態が良くないワークWであっても、膜厚測定を可能とするために、ヘッドユニット30を揺動させる揺動装置であり、揺動コイル、磁石などによって構成される。この揺動ユニット81は、ヘッドユニットカバー83に固定され、検出光L1の光軸と交差する方向にヘッドユニット30を振動させる。
【0105】
ヘッド位置検出センサ82は、ヘッドユニット30の位置を検出するセンサであり、例えば、ホール素子からなる。揺動制御部90は、ヘッド位置検出センサ82の出力に基づいて、揺動ユニット81を制御する。
【0106】
ヘッドユニット30の揺動のさせ方としては、例えば、ヘッドユニット30を直線又は円弧などの曲線に沿って振動させることにより、検出光L1によるワークW上の測定領域を所定幅の線分からなる線形状とすることができる。つまり、複数の光強度分布を取得するタイミングをコントロールすることにより、線形状の測定領域内の任意の位置でワークWの膜厚を測定することができる。従って、あるタイミングで取得した光強度分布が膜厚測定に適さない微小領域について測定されたものであったとしても、別のタイミングで、当該微小領域以外の領域について測定された光強度分布を取得することができる。
【0107】
また、振動の振れ幅を最大限利用して、膜厚の測定位置を異ならせるためには、検出光L1が線形状の測定領域の端部、或いは、その近傍に位置するタイミングで光強度分布を取得することが望ましい。そのためには、光強度分布を取得する動作とヘッドユニット30の揺動制御とを同期させることが望ましい。具体的に説明すれば、揺動の1往復を1周期とした場合、光強度分布に対応するFFT波形の合成(積算)を半周期分又はその整数倍とすることが望ましい。
【0108】
また、揺動の振れ幅と、揺動の半周期当たりの光強度分布の取得回数(頻度)とは、ユーザが指定した値などに変更できるように構成しても良い。また、ヘッドユニット30の揺動のさせ方としては、上述した様に1次元的に行うものの他、2次元的に行うものであっても良い。例えば、円のサイズを異ならせながらヘッドユニット30を円周に沿って移動させ、或いは、ヘッドユニット30をX軸方向に振動させながら振動面をY軸方向に移動させることにより、測定領域を面形状とするような構成であっても良い。
【0109】
図12は、図11の干渉膜厚計1におけるコントローラユニット10内の揺動制御部90の構成例を示した図である。この揺動制御部90は、三角波発生回路91及びサーボアンプ92からなり、ヘッド位置検出センサ82の検出信号に基づいて、揺動ユニット81内の揺動コイルを駆動する。
【0110】
三角波発生回路91は、揺動ユニット81の揺動動作を決める制御信号を生成する。サーボアンプ92は、ヘッド位置検出信号と三角波発生回路91からの制御信号とに基づいて、揺動コイルの駆動信号を生成する。
【0111】
<設定支援装置>
図13及び図14は、図11の干渉膜厚計1の動作設定を行うための設定支援装置の動作例を示した図であり、設定画面100が示されている。図13には、モニター画面61のマスク設定時の設定画面100が示されている。この設定画面100は、干渉膜厚計1に対し、各種の動作設定を行うための入力画面であり、受信ボタン101、送信ボタン102、測定値表示ボタン103、波形表示ボタン104、全般設定タブ105及びアラーム設定タブ106が設けられている。
【0112】
受信ボタン101は、コントローラユニット10から現在の設定データを受信するためのアイコンである。送信ボタン102は、コントローラユニット10に対し、設定データを送信するためのアイコンである。測定値表示ボタン103は、測定値をコントローラユニット10から取得して表示させるためのアイコンである。波形表示ボタン104は、FFT波形などをコントローラユニット10から取得して表示させるためのアイコンである。
【0113】
この設定画面100では、全般設定タブ105が選択されており、マスク設定の選択欄111、マスク処理のパラメータの入力欄112及び113が表示されている。選択欄111は、マスク処理を有効化するか、或いは、無効化するかを選択することができる。
【0114】
「マスク1」の入力欄112にパラメータを入力することにより、距離閾値Th2を指定することができる。また、「マスク2」の入力欄113にパラメータを入力することにより、距離閾値Th3を指定することができる。
【0115】
図14には、アラーム設定時の設定画面100が示されている。この設定画面100では、アラーム設定タブ106が選択されており、アラーム処理の設定を行うことができる。アラーム処理は、FFT波形における複数のピークについて、その一部又は全部が検出されなかった場合のエラー出力である。
【0116】
アラーム設定タブ106には、処理回数の入力欄121、積算回数の選択欄122及び揺れモードの選択欄123が設けられている。入力欄121は、アラーム時に、アラーム直前の測定値をホールドさせる際のアラーム回数を指定するための入力欄である。
【0117】
選択欄122は、FFT波形を積算する際の積算回数を選択するための入力欄である。選択欄123は、揺動ユニット81によるヘッドユニット30の揺動機能を有効化するか、或いは、無効化するかを選択するための入力欄である。
【0118】
本実施の形態によれば、複数の光強度分布を取得する際、ワークW上における測定領域を異ならせることができる。例えば、ワークWの表面上に、測定に適さない微少領域が存在している場合に、微小領域以外の領域も測定されるので、当該微少領域を測定領域としたために膜厚測定が不能となることを抑制することができる。
【0119】
干渉光学系の揺動方法について
【符号の説明】
【0120】
1 干渉膜厚計
10 コントローラユニット
11 SLD駆動回路
12 SLD
13a コリメータレンズ
13b 集光レンズ
14 フェルール
15 ファイバースプリッタ
20 光ファイバー
21 コネクタ
30 ヘッドユニット
31 集光レンズ
32 ガラス板
33 ハーフミラー
34 ピンミラー
40 分光装置
41 フェルール
42 コリメータレンズ
43 回折格子
44 結像レンズ
45 CCDイメージセンサ
46 イメージセンサ駆動回路
47 アンプ
48 ADコンバータ
49 バッファメモリ
50 演算回路
51 周波数軸変換部
52 FFT処理部
53 特性強度合成部
53a ピーク検出部
53b 周波数軸校正部
53c FFT波形積算部
54 膜厚算出部
60 表示部
61 モニター画面
81 揺動ユニット
82 ヘッド位置検出センサ
83 ヘッドユニットカバー
90 揺動制御部
91 三角波発生回路
92 サーボアンプ
100 設定画面
A 仮想基準面
B1〜B3 透明膜
C1 不要成分
C2〜C5 ピーク
L0〜L2 検出光
L3 干渉反射光
S1,S12,S23,S3 界面(測定面)
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出光を生成する光源と、
上記検出光の参照面による反射光及び測定対象物による反射光からなる干渉反射光を生成する干渉光学系と、
上記干渉反射光を分光する分光手段と、
分光された上記干渉反射光を検出し、波長ごとの光強度分布を取得する光強度分布取得手段と、
上記光強度分布に基づく特性曲線について、空間周波数ごとの特性強度分布を求める特性強度分布算出手段と、
タイミングを異ならせて取得した2以上の上記光強度分布からそれぞれ求められた2以上の上記特性強度分布を合成する特性強度合成手段と、
合成後の上記特性強度分布に含まれる2以上のピークの空間周波数に基づいて、測定対象物の膜厚を算出する膜厚算出手段とを備えたことを特徴とする干渉膜厚計。
【請求項2】
上記特性強度合成手段は、2以上の上記特性強度分布の周波数軸を相対的に補正し、補正後の上記特性強度分布を合成することを特徴とする請求項1に記載の干渉膜厚計。
【請求項3】
上記特性強度合成手段は、上記特性強度分布に含まれるピークの空間周波数であって、距離に対する閾値を越える最小値を基準として、2以上の上記特性強度分布を合成し、
上記膜厚算出手段は、上記距離に対する閾値を越えるピークの空間周波数に基づいて膜厚を算出することを特徴とする請求項2に記載の干渉膜厚計。
【請求項4】
上記特性強度合成手段は、それぞれの上記特性強度分布において最大の特性強度を有するピークの空間周波数を基準として、2以上の上記特性強度分布を合成することを特徴とする請求項2に記載の干渉膜厚計。
【請求項5】
上記測定対象物に対し、上記干渉光学系を相対的に揺動させる揺動手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の干渉膜厚計。
【請求項6】
上記膜厚算出手段が、上記特性強度分布に含まれる3以上のピークの空間周波数に基づいて、上記測定対象物を構成する多層膜の各膜厚を算出することを特徴とする請求項5に記載の干渉膜厚計。
【請求項7】
上記光強度分布を繰り返し取得する場合に、新たに取得された上記光強度分布に対応する合成前の上記特性強度分布を逐次表示する表示手段を備え、
上記表示手段は、先に取得された上記光強度分布に対応する上記特性強度分布に基づいて、周波数軸が相対的に補正された上記特性強度分布を表示することを特徴とする請求項2に記載の干渉膜厚計。
【請求項8】
上記距離に対する閾値をユーザ操作により指定するための距離閾値指定手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載の干渉膜厚計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−21856(P2012−21856A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159248(P2010−159248)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000129253)株式会社キーエンス (681)
【Fターム(参考)】