説明

形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法とそれに用いるスパッタリング装置

【課題】より微細で繊細な細線や細管に装着でき、より軽量で微細で繊細な能動細線、能動細管を構成させることができる形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法及び細線への薄膜の積層工程において用いるスパッタリング装置の提供を課題とする。
【解決手段】被装着体である細線(細管を含む)の表面に装着することで細線を屈曲可能な能動細線に構成させる形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1の製造方法であって、被装着体の代わりとなるダミー細線10を用い、ダミー細線の外側周面に対して拡散防止用金属薄膜20を積層する工程、拡散防止用金属薄膜の上から形状記憶合金組成薄膜30を積層する工程、形状記憶合金組成薄膜に対して形状記憶熱処理を施す工程、形状記憶合金組成薄膜に対して所定のレジストパターンPを形成する工程、形状記憶合金組成薄膜と拡散防止用金属薄膜をエッチングする工程、ダミー細線を溶解除去する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細線や細管の表面に装着することで該細線や細管を屈曲自在な能動細線や能動細管にすることが可能となる形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法に関する。また本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法に用いるスパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野においてはカテーテルを用いた治療が試みられている。例えば超音波プローブを備えたカテーテルの先端を自由に動作させることができれば、モニタリングの視野角が広がるため、血管内の情報をより多く得ることができる。また医療分野の他、工業分野やその他の産業分野においても、細線や細管の先端部等を必要に応じて自由に屈曲させることができれば、その用途は種々に広がる。
カテーテル等の細線(細管)を能動細線(能動細管)にするための形状記憶合金製のマイクロアクチュエータに関しては、従来、下記特許文献1が提供されている。
特許文献1に開示された形状記憶合金パイプ型アクチュエータ及びその作製方法は、要するに、形状記憶合金パイプを素材として用い、この素材の形状記憶合金パイプをエッチングすることで、複数のアクチュエータ部2がその両端で相互に繋がった筒状アクチュエータに一体成形するようにした方法である。
【特許文献1】特開2003−210588号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に示す従来技術においては、予め存在する形状記憶合金パイプを素材として採用し、これをエッチング加工する方式である。このため前記素材として採用される形状記憶合金パイプには寸法上の限界があり、作製されるアクチュエータの微細化、薄肉化等には限界があった。
即ち、特許文献1に示す製作方法では、より微細化、繊細化が要求される能動細線(細管)に対応できるだけの繊細なアクチュエータを作製するには不十分であった。
【0004】
そこで本発明は上記従来の形状記憶合金製アクチュエータの製造における問題を解消し、より微細で繊細な細線や細管に装着することができ、より軽量で、より微細で繊細な能動細線、能動細管を構成させることができる形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法を提供することを課題とする。
また本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法においては、素材となるダミー細線(細管)の外側周面にスパッタリングによる薄膜を積層する必要があるが、従来のスパッタリング装置では、細線の外側周面に均一に薄膜をうまく積層することができなかった。
そこで本発明のもう1つの課題は、本発明の製造方法における細線への薄膜の積層工程において用いるスパッタリング装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を達成するため、本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法は、被装着体である細線(細管を含む)の表面に装着することで該細線を屈曲可能な能動細線(能動細管含む)に構成させる形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法であって、被装着体の代わりとなるダミー細線を用い、ダミー細線の外側周面に対して拡散防止用金属薄膜を積層する工程と、前記積層された拡散防止用金属薄膜の上から形状記憶合金組成薄膜を積層する工程と、前記積層された形状記憶合金組成薄膜に対して形状記憶熱処理を施す工程と、前記形状記憶熱処理が施された形状記憶合金組成薄膜に対して所定のレジストパターンを形成する工程と、前記レジストパターンを形成した状態で、前記形状記憶合金組成薄膜と拡散防止用金属薄膜をエッチングする工程と、前記エッチングの工程後にダミー細線を溶解除去する工程と、を有することを第1の特徴としている。
また本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法は、上記第1の特徴に加えて、ダミー細線は、その外径が被装着体の外径と同径若しくは装着に必要な隙間ができる程度の大径のものを用いることを第2の特徴としている。
また本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法は、上記第1又は第2の特徴に加えて、拡散防止用金属薄膜を積層する工程と形状記憶合金組成薄膜を積層する工程では、ダミー細線を減圧下において自転させながら、該ダミー細線の外側周面にスパッタリングにより金属薄膜を積層することを第3の特徴としている。
また本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法は、上記第1〜第3の何れかに記載の特徴に加えて、ダミー細線はCu製とし、拡散防止用金属薄膜はTi薄膜とし、形状記憶合金組成薄膜はTi−Ni系合金薄膜とすることを第4の特徴としている。
また本発明のスパッタリング装置は、減圧状態にされる真空チャンバーと、該真空チャンバー内に配置される被成膜体に対してスパッタリングを行うスパッタリングガンとを少なくとも備えたスパッタリング装置であって、細線(細管を含む)とされた被成膜体を真空チャンバー内に配置するための配置手段として、配置基板と、該配置基板上に設けられる細線取付部とを備え、成膜作業中において前記細線取付部に取り付けられた細線を前記配置基板上で公転させながら自転させる構成としたことを第5の特徴としている。
また本発明のスパッタリング装置は、上記第5の特徴に加えて、細線取付部は、細線を配置基板面に対して平行な方向に取り付ける構成としたことを第6の特徴としている。
また本発明のスパッタリング装置は、上記第6の特徴に加えて、配置基板を回転させる駆動回転軸から回転を分岐して受け継ぐと共に、受け継いだ回転の軸を前記配置基板面に垂直な方向から平行な方向に変換した上で、細線取付部の自転軸に伝達する回転分岐伝達手段を備えたことを第7の特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法によれば、ダミー細線を用いて、該ダミー細線に拡散防止用金属薄膜を積層し、その上に形状記憶合金組成薄膜を積層し、その形状記憶合金組成薄膜に形状記憶熱処理を施し、更に所定のレジストパターンを施し、そのレジストパターンに従って前記形状記憶合金組成薄膜と拡散防止用金属薄膜を所定の形状にエッチングし、最後にダミー細線を溶解除去することで、形状記憶合金製マイクロアクチュエータを得ることができる。
ダミー細線を用いることで、被装着体そのものを形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造に用いる必要がない。特に、ダミー細線として被装着体に対応したものを選ぶことで、被装着体の個々の寸法に対しても、容易、確実に対応して装着できる形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造することができる。
また形状記憶合金組成薄膜をダミー細線に積層する方式で、形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造するようにしているので、微細なダミー細線を用いて、径の微細な形状記憶合金製マイクロアクチュエータを容易に製造することができる。また積層厚を薄くすることで、十分に薄くて軽量な形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造することができる。従来のような形状記憶合金製パイプを素材として最初から用いる場合には、径の微細な形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造するのには限界がある。また十分に薄くて軽量な形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造するには限界がある。
またダミー細線に先ず拡散防止用金属薄膜を積層した上で形状記憶合金組成薄膜を積層するようにしているので、形状記憶合金組成薄膜を積層する際やその後の熱処理の際に、形状記憶合金組成の成分原子がダミー細線に拡散して濃度変化するのを確実に防止することができる。
【0007】
また請求項2に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法によれば、上記請求項1に記載の構成による作用効果に加えて、ダミー細線は、その外径が被装着体の外径と同径若しくは装着に必要な隙間ができる程度の大径のものを用いることにより、被装着体の寸法に応じて、過不足なくピッタリとフィットして挿入して装着することができる形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造することができる。また拡散防止用金属薄膜の積層厚と併せて適切な隙間寸法に調整することができる。
【0008】
また請求項3に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法によれば、上記請求項1又は2に記載の構成による作用効果に加えて、ダミー細線への拡散防止用金属薄膜と形状記憶合金組成薄膜との積層は、ダミー細線を自転させながら外側周面にスパッタリングを施して行うようにしているので、自転するダミー細線の外側周面に過不足なく、均一、均質にそれら拡散防止用金属薄膜、形状記憶合金組成薄膜の積層を施すことができる。よって全域において、より均質で、均一な機能を発揮することができる形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造することができる。
【0009】
また請求項4に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法によれば、上記請求項1〜3の何れかに記載の構成による作用効果に加えて、
ダミー細線はCu製とし、拡散防止用金属薄膜はTi薄膜とし、形状記憶合金組成薄膜はTi−Ni系合金薄膜とすることで、ダミー細線に対してTi−Ni系の形状記憶合金組成薄膜を良好に積層することができ、また所定のレジストパターンによるエッチングを良好に行うことができ、更にダミー細線を良好に除去して、良好なTi−Ni系形状記憶合金製マイクロアクチュエータを製造することができる。
【0010】
また請求項5に記載のスパッタリング装置によれば、被成膜体である細線は、真空チャンバー内に配置手段によって配置され、スパッタリングガンによってスパッタリングが行われる。配置手段は、配置基板と該配置基板上に設けられた細線取付部とを備え、細線取付部に取り付けられた細線を配置基板上で公転させながら自転させる構成としたので、被成膜体が細線であっても、その外側周面に過不足なく均一、均質にスパッタリングを施すことができる。またその際、スパッタリングガンについては、これをあれこれ移動動作させる必要もない。
よって請求項5に記載のスパッタリング装置によれば、細線を対象としてスパッタリングを行うことができ、しかも細線の外側周面に均一、均質にスパッタリングを施すことができる。
【0011】
また請求項6に記載のスパッタリング装置によれば、上記請求項5に記載の構成による作用効果に加えて、細線取付部は、細線を配置基板面に対して平行な方向に取り付ける構成としたので、比較的長い細線であっても、該細線を配置基板上に平行に嵩低く配置することができる。よって配置基板上に複数の細線を嵩低く並べて配置することも可能となり、スパッタリング処理の効率化を図ることが可能となると共に、必要な真空チャンバーの空間もコンパクトにすることができ、減圧作業を速やかに効率よく行うことも可能となる。
【0012】
また請求項7に記載のスパッタリング装置によれば、上記請求項6に記載の構成による効果に加えて、配置基板を回転させる駆動回転軸から回転を分岐して受け継ぐと共に、受け継いだ回転の軸を前記配置基板面に垂直な方向から平行な方向に変換した上で、細線取付部の自転軸に伝達する回転分岐伝達手段を備えたので、
回転分岐伝達手段によって、1つの回転駆動源をもって、配置基板の駆動回転と該配置基板上に設けられた細線取付部の自転軸の回転とを、2者同期的に行うことができる。しかも配置基板の駆動回転軸から細線取付部の自転軸への回転伝達は、回転の軸を配置基板に垂直な方向から平行な方向に変換させて伝達させる構成であるので、細線取付部は配置基板上で細線を配置基板に平行に保持した状態において容易に自転させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下の添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を更に詳細に説明する。
図1は本発明の製造方法により製造した形状記憶合金製マイクロアクチュエータをカテーテル等の被装着体である細線(細管)に装着した状態を示す斜視図、図2は本発明の製造方法を説明する図、図3は実施形態に係るスパッタリング装置の一部断面全体図、図4は実施形態に係るスパッタリング装置の要部の断面図、図5は実施形態に係るスパッタリング装置の配置基板の平面図、図6は実施形態に係るスパッタリング装置の配置基板の底面図である。
【0014】
先ず図1を参照して、本発明の製造方法により製造した形状記憶合金製マイクロアクチュエータの使用例を説明する。
本発明の製造方法で製造された形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1は、被装着体Wである細線(以下、「細線」には「細管」含むものとする)の先端付近に装着されることで、能動細線を構成する。前記被装着体Wとしては、例えば医療に用いられるカテーテルや光ファイバーを対象とすることができる。
形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1は、円周方向に均等に配置される、スプリング部1a、例えば90度間隔に配置される4つのスプリング部1aと、それらの各スプリング部1aの両端を連結一体化する上下のリング帯部1bとからなる。
形状記憶熱処理が施された形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1の装着は、スプリング部1aを伸張させた状態で、全体を被装着体Wの先端付近の側周面に被着し、リング帯部1bを被装着体Wに固定することで行う。そして図示しない給電用電線を各スプリング部1aに結線することで、被装着体Wが能動細線となる。
操作は、各スプリング部1aに対して選択的に電流を流すことで行う。電流が流されたスプリング部1aがジュール熱により自己加熱され、その温度が一定以上になると、形状記憶現象により収縮する。この収縮により被装着体Wは収縮のあった方向に屈曲される。4つのスプリング部1aのうちの何れかを選択的に収縮させ、また組み合わせて収縮させることで、四方八方に自在に被装着体Wの先端部を屈曲させることができる。
前記スプリング部1aの数は必ずしも4本である必要はない。被装着体Wの先端が必要な方向に屈曲できるようにスプリング部1aの数と配置を決めることができる。
前記一対のリング帯部1bは、複数のスプリング部1aを有する形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1を筒状体として一体化する役割を果たすもので、被装着体Wに速やかに、正確に装着することができると共に、各スプリング部1aの装着バランスを正確に保持する機能を果たす。
【0015】
図2を参照して、本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1の製造方法について説明する。図2の(A)〜(E)においては、それぞれダミー細線10や形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1の側面とI−I断面を示している。
本発明の製造方法では、ダミー細線10を用いる。このダミー細線10の外側周面を研磨して、側周表面の粗さを小さくしておく。
そして先ず、前記ダミー細線10の前記研磨した外側周面に対して拡散防止用金属薄膜20を積層する工程を行う(図2の(A))。
次にダミー細線10の拡散防止用金属薄膜20の上から形状記憶合金組成薄膜30を積層する工程を行う(図2の(B))。
次に積層された形状記憶合金組成薄膜30に対して形状記憶熱処理を施す工程を行う。
その後、形状記憶熱処理を施された形状記憶合金組成薄膜30に対してレジストパターンPを形成する工程を行う。即ち、レジスト膜40を成膜し、リソグラフィによる所定のパターニングをレジスト膜40に施し、必要に応じて焼成処理を行って、マイクロアクチュエータの形状をレジストパターンP形成する(図2の(C))。
そして形状記憶合金組成薄膜30上にレジストパターンPを形成した状態で、エッチング剤を施し、形状記憶合金組成薄膜30とその下の拡散防止用金属薄膜20をエッチングする工程を行う(図2の(D)。これによりダミー細線10上に形状記憶合金組成薄膜30によるマイクロアクチュエータ形状が成形される。
最後に、ダミー細線10のみを溶解除去する工程を行う(図2の(E))。これによって形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1が形成される。
【0016】
上記において、ダミー細線10はCu製とする。Cuをダミー細線10に用いることで、拡散防止用金属薄膜20をTiとし、その上の形状記憶合金組成薄膜30をTi−Ni系合金としたときに、それらTi、Ti−Ni合金のスパッタリングによるダミー細線10上への積層が容易となる。また最終工程においてダミー細線10を溶解除去する際に、Ti薄膜やTi−Ni合金組成薄膜を残したまま、ダミー細線10だけを選択的に速やかに除去することができる。
勿論、ダミー細線10は必ずしもCu製である必要はない。拡散防止用金属薄膜20、形状記憶合金組成薄膜30を容易にスパッタリング積層することができ、レジストパターン作製の際には、耐エッチッチング性能を発揮し、また最終工程において、拡散防止用金属薄膜20、形状記憶合金組成薄膜30を残して容易に溶解除去されるような材料であれば、他の金属材料、その他の材料であっても可能である。
ダミー細線10の外径は、被装着体Wの外径と同径若しくは装着に必要な隙間が確保できる程度の大径のものを用いることができる。被装着体Wと同径のダミー細線10を用いる場合は、ダミー細線10に積層する拡散防止用金属薄膜20の積層厚を適当な厚みにすることで、被装着体Wの外側周面に装着されるマイクロアクチュエータ1の内径を、被装着体Wに対して無駄に大きな隙間なく、丁度よく外挿できる寸法とすることができる。
よって、被装着体Wの径に応じてダミー細線10を選択することで、どのような寸法の被装着体Wに対しても丁度フィットするマイクロアクチュエータ1を得ることができる。
【0017】
上記において拡散防止用金属薄膜20は、形状記憶合金組成薄膜30を積層する際に該形状記憶合金組成を構成する原子がダミー細線10側に拡散するのを防止するための薄膜である。本実施形態では、形状記憶合金組成薄膜30をTi−Ni合金とする場合には拡散防止用金属薄膜20をTi薄膜としている。
拡散防止用金属薄膜20の積層厚は、例えば数百ナノメータとすることができる。しかしながら拡散防止用金属薄膜20の役割は形状記憶合金組成薄膜30の成分原子の拡散防止であることから、拡散防止ができる最小限の厚みがあればよい。勿論、拡散防止用金属薄膜20の積層厚でもって形状記憶合金組成薄膜30の内径寸法を調整する場合には、その調整に必要な厚みを拡散防止用金属薄膜20に付与するようにすることもできる。
拡散防止用金属薄膜20はスパッタリングによりダミー細線10の外側周面に積層させる。
なお拡散防止用金属薄膜20の材質はTiである必要はない。形状記憶合金組成薄膜30の材質に応じて、その材質を構成する原子がダミー細線10側に拡散するのを防止するのに適した材質であればよい。
【0018】
形状記憶合金組成薄膜30は、本実施形態ではTi−Ni合金組成薄膜とする。Ti−Ni合金組成は、室温でマルテンサイト相若しくはR相となるよう、50〜52原子%Ti−Ni合金組成とする。
形状記憶合金組成薄膜30は、必ずしもTi−Ni合金組成である必要はない。他の種類の形状記憶合金組成による薄膜であってもよい。
形状記憶合金組成薄膜30は、スパッタリングにより積層させることができる。積層厚は、例えば数十ミクロンメータとすることができる。が、マイクロアクチュエータを構成するものとして、実際の使用に十分に耐え得る強度を有する厚みとすればよい。勿論、強度が確保された状態で、薄い方がより軽量なマイクロアクチュエータを得ることができる。
【0019】
上記形状記憶合金組成薄膜30に対する形状記憶熱処理は、Ti−Ni合金組成の場合、形状記憶合金組成薄膜30を積層したダミー細線10を減圧下、約600℃で1時間保持することで行う。
勿論、この熱処理条件である「減圧下、約600℃で1時間保持」は、これに限定されるものではない。熱処理条件としての気圧、温度、保持時間は他の適切な条件を採用することができる。
【0020】
レジストパターンPを形成する工程では、先ず形状記憶合金組成薄膜30の上にレジスト膜40を成膜する。
レジスト膜40は、例えばフォトレジスト材を用い、これを形状記憶合金組成薄膜30の上に塗布し、或いはレジスト液にダミー細線10を浸漬することで、形状記憶合金組成薄膜30の上にレジストをコートすることで行うことができる。
レジストパターンPの形成は、前記コートしたレジスト膜40に対してパターニング露光を行い、更に現像液で余分なレジストを溶解させることで行うことができる。必要に応じてポストベークを行う。
これによって、レジスト膜40によるマイクロアクチュエータ形状がパターンニングされる(図2の(C))。
【0021】
レジストパターンPを形成したダミー細線10のエッチングは、エッチング剤として、例えばフッ硝酸水溶液を用いて行う。エッチングは、フッ硝酸水溶液の濃度とエッチング時間を考慮して、レジストパターンPにより被覆されていない形状記憶合金組成薄膜30部分とその下の拡散防止用金属薄膜20部分が除去されるまで行う。
これによって、形状記憶合金組成薄膜30とその下の拡散防止用金属薄膜20によるマイクロアクチュエータ形状が現出されてくる(図2の(D))。
【0022】
ダミー細線10の溶解は、例えば硝酸を用いて行うことになる。濃度を調整することで、ダミー細線10であるCuを溶解除去する。これにより形状記憶合金組成薄膜30によるマイクロアクチュエータ形状が単体として残る(図2の(E))。なお拡散防止用金属薄膜20も残留するが、この拡散防止用金属薄膜20の厚みは、一般に形状記憶合金組成薄膜30に比べて十分に薄いので、マイクロアクチュエータの動作上において問題とはならない。
【0023】
次に図3〜図6を参照して、本発明の形状記憶合金製マイクロアクチュエータ1の製造方法に用いるスパッタリング装置の実施形態を説明する。
スパッタリング装置には真空チャンバー100が設けられ、該真空チャンバー100に対してスパッタリングガン200が臨んでいる。また真空チャンバー100に対して真空ポンプ300とガス供給器400がそれぞれ接続配置されている。
また前記真空チャンバー100に隣接して駆動室500が配置されている。駆動室500には、ステッピングモータ等のモータ510が設けられ、また前記モータ510によって図示しない減速装置、ベルト等を介して回転される駆動回転軸520が設けられている。
前記駆動回転軸520には配置基板600と第1平歯車710とが取り付けられており、それら配置基板600と第1平歯車710は駆動回転軸520と共に回転するようになされている。
【0024】
前記配置基板600は前記真空チャンバー100内の上部空間に配置され、その下面にはギアボックス610が設けられている。該ギアボックス610の中には取付フレーム620が設けられ、該取付フレーム620に細線取付部800(図6参照)が複数個、配備されている。
前記ギアボックス610は、本実施形態においては、一対が配置基板600に設けられている。よってまた前記取付フレーム620も一対の各ギアボックス610内に設けられている。
細線取付部800に対して、被成膜体である細線(細管を含む)Xが着脱自在に取り付けられ、成膜される。
符号900はシャッターで、スッパッタリングガン200による粒子の照射から前記細線取付部800に取り付けられた細線Wを遮蔽する際に用いられる。
駆動回転軸520が回転すると、配置基板600が回転し、配置基板600上に設けられたギアボックス610、取付フレーム620、細線取付部800が、配置基板600の中心の周りを公転する。
【0025】
前記駆動回転軸520に取り付けられた第1平歯車710は、第2平歯車720と噛み合い、駆動回転軸520の回転を第2平歯車720に分岐する。第2平歯車720は、本実施形態では、第1平歯車710の両側に一対で設けられている。
第2平歯車720は、それぞれ第1分岐回転軸730に取り付けられている。第1分岐回転軸730は前記ギアボックス610に軸受けされており、前記配置基板600を上面側へ貫通した先端部に前記第2平歯車720を取り付けている。
第1分岐回転軸730は前記駆動回転軸520に対して平行であり、また前記配置基板600に対して垂直である。
【0026】
第1分岐回転軸730には、前記ギアボックス610内において、第3傘歯車740が取り付けられている。この第3傘歯車740は、前記駆動回転軸520の回転に伴って第1平歯車710、第2平歯車720、第1分岐回転軸730を介して回転する。
第3傘歯車740は第4傘歯車750と噛み合う。第4傘歯車750は、第2分岐回転軸760に設けられている。
第2分岐回転軸760は、前記取付フレーム620に軸受けされて取り付けられている。この第2分岐回転軸760は前記駆動回転軸520や第1分岐回転軸730に対して垂直であり、前記配置基板600に対して平行に配されている。
第2分岐回転軸760は、前記駆動回転軸520の回転に伴って、第1平歯車710、第2平歯車720、第1分岐回転軸730、第3傘歯車740、第4傘歯車750を介して、配置基板600に平行な状態で回転することになる。
【0027】
第2分岐回転軸760には第5平歯車770が取り付けられている。この第5平歯車770は、前記細線取付部800の自転軸810に取り付けられた第6平歯車820に回転を伝達する。
以上で説明した第1平歯車710、第2平歯車720、第1分岐回転軸730、第3傘歯車740、第4傘歯車750、第2分岐回転軸760、第5平歯車770は、配置基板600を回転させる駆動回転軸520から回転を分岐して受け継ぐと共に、受け継いだ回転に軸を前記配置基板600面に垂直な方向から平行な方向に変換した上で、細線取付部800の自転軸810に伝達する回転分岐伝達手段700を構成する。勿論、回転分岐伝達手段700は、配置基板600を回転させる駆動回転軸520から回転を分岐して受け継ぐと共に、受け継いだ回転に軸を前記配置基板600面に垂直な方向から平行な方向に変換した上で、細線取付部800の自転軸810に伝達することができるものであれば、必ずしも上記の歯車や回転軸(710〜770)である必要はない。
【0028】
前記細線取付部800は、前記取付フレーム620に軸受されて取り付けられ、配置基板600に対して平行に配置されている。細線取付部800の取付フレーム620から突出する先端部は、被成膜体である細線Xの一端を受け入れて固定するための把持部830になされている。また既述したように細線取付部800の自転軸810には第6平歯車820が取り付けられている。
細線取付部800は、本実施形態では、一対のギアボックス610の各取付フレーム620にそれぞれ、複数個ずつ(図面上は各4個ずつ)が設けられ、且つそれらの細線取付部800が両側から交互にずれて対向するように配置されている。よってそれら細線取付部800に取り付けられた複数の細線Xもまた、両側から交互にずれて対向するようになされ、これによってより多数の細線Xが一度に成膜されるようになされている。
【0029】
本実施形態では、細線取付部800のうち、前記第2分岐回転軸760に隣接する細線取付部800が、その第6平歯車820で第2分岐回転軸760の第5平歯車750と噛み合うように配置している。他の細線取付部800は隣の細線取付部800と、第6平歯車820で相互に噛み合うように配置している。これによって第2分岐回転軸760の回転が、順次、細線取付部800に伝達され、結果として細線取付部800の自転軸810が配置基板600に平行な状態で自転することになる。よって各細線取付部800に取り付けられた細線Xも配置基板600に平行な状態で自転することになる。
【0030】
各細線取付部800に取り付けられた細線Xは、ギアボックス610に設けられた受け穴611を通して真空チャンバー100内に突出し、スパッタリングガン200によるスパッタリングを受けることができるようになされている。受け穴611は細線Xをその途中で支えると共に、細線Xの回転のブレを減ずる。必要に応じて、支え枠630を更に設けて、その支え穴631により、スパッタリングを行う細線Xの先端付近をより安定して支えると共に、よりブレのない状態で自転できるようにすることができる。
【0031】
以上のような構成とすることで、細線Xのスパッタリングに際しては、成膜したい本数の細線Xを各細線取付部800の把持部830に取り付け、真空チャンバー100を真空ポンプ300とガス供給器400とによって所定の希薄ガス減圧状態に調整し、スパッタリングガン200を照射準備する。そしてモータ510をオンして駆動回転軸520を回転させる。これによって、真空チャンバー100内の配置基板600が回転し、細線取付部800に取り付けられた細線Xが配置基板600の回転中心の周りに公転する。一方、駆動回転軸520の回転に伴って、それに取り付けられた第1平歯車710が回転し、この回転が一対の第2平歯車720を介して第1分岐回転軸730に分岐伝達され、更に第3傘歯車740から第4傘歯車750を介して、元の回転軸の方向と直角な方向(配置基板600と平行な方向)の第2分岐回転軸760に分岐伝達される。そしてこの第2分岐回転軸760の回転は第5平歯車770、第6平歯車820を介して、隣接する細線取付部800に伝達される。そしてこの隣接した細線取付部800からそれに平行配置された他の細線取付部800に回転が伝達される。これによって各細線取付部800に取り付けられた細線Xが配置基板600上で自転する。即ち、取り付けられた複数の細線Xは公転しながら、それぞれが自転し、スパッタリングを受けることになる。
このような複数個の細線Xを個別配置して取り付ける設備、その取り付けた複数の細線Xを公転させながらそれぞれ自転させる設備を備えることで、本発明のスパッタリング装置では被成膜体である細線の側周囲に均一で性能のよいスパッタリング成膜を複数生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の製造方法により製造した形状記憶合金製マイクロアクチュエータをカテーテル等の被装着体である細線(細管)に装着した状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の製造方法を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係るスパッタリング装置の一部断面全体図である。
【図4】本発明の実施形態に係るスパッタリング装置の要部の断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るスパッタリング装置の配置基板の平面図である。
【図6】本発明の実施形態に係るスパッタリング装置の配置基板の底面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 形状記憶合金製マイクロアクチュエータ
1a スプリング部
1b リング帯部
10 ダミー細線
20 拡散防止用金属薄膜
30 形状記憶合金組成薄膜
40 レジスト膜
100 真空チャンバー
200 スパッタリングガン
300 真空ポンプ
400 ガス供給器
500 駆動室
510 モータ
520 駆動回転軸
600 配置基板
610 ギアボックス
611 受け穴
620 取付フレーム
630 支え枠
631 支え穴
700 回転分岐伝達手段
710 第1平歯車
720 第2平歯車
730 第1分岐回転軸
740 第3傘歯車
750 第4傘歯車
760 第2分岐回転軸
770 第5平歯車
800 細線取付部
810 自転軸
820 第6平歯車
830 把持部
900 シャッター
P レジストパターン
W 被装着体
X 細線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装着体である細線(細管を含む)の表面に装着することで該細線を屈曲可能な能動細線(能動細管含む)に構成させる形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法であって、
被装着体の代わりとなるダミー細線を用い、
ダミー細線の外側周面に対して拡散防止用金属薄膜を積層する工程と、
前記積層された拡散防止用金属薄膜の上から形状記憶合金組成薄膜を積層する工程と、
前記積層された形状記憶合金組成薄膜に対して形状記憶熱処理を施す工程と、
前記形状記憶熱処理が施された形状記憶合金組成薄膜に対して所定のレジストパターンを形成する工程と、
前記レジストパターンを形成した状態で、前記形状記憶合金組成薄膜と拡散防止用金属薄膜をエッチングする工程と、
前記エッチングの工程後にダミー細線を溶解除去する工程と、
を有することを特徴とする形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法。
【請求項2】
ダミー細線は、その外径が被装着体の外径と同径若しくは装着に必要な隙間ができる程度の大径のものを用いることを特徴とする請求項1に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法。
【請求項3】
拡散防止用金属薄膜を積層する工程と形状記憶合金組成薄膜を積層する工程では、ダミー細線を減圧下において自転させながら、該ダミー細線の外側周面にスパッタリングにより金属薄膜を積層することを特徴とする請求項1又は2に記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法。
【請求項4】
ダミー細線はCu製とし、拡散防止用金属薄膜はTi薄膜とし、形状記憶合金組成薄膜はTi−Ni系合金薄膜とすることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の形状記憶合金製マイクロアクチュエータの製造方法。
【請求項5】
減圧状態にされる真空チャンバーと、該真空チャンバー内に配置される被成膜体に対してスパッタリングを行うスパッタリングガンとを少なくとも備えたスパッタリング装置であって、細線(細管を含む)とされた被成膜体を真空チャンバー内に配置するための配置手段として、配置基板と、該配置基板上に設けられる細線取付部とを備え、成膜作業中において前記細線取付部に取り付けられた細線を前記配置基板上で公転させながら自転させる構成としたことを特徴とするスパッタリング装置。
【請求項6】
細線取付部は、細線を配置基板面に対して平行な方向に取り付ける構成としたことを特徴とする請求項5に記載のスパッタリング装置。
【請求項7】
配置基板を回転させる駆動回転軸から回転を分岐して受け継ぐと共に、受け継いだ回転の軸を前記配置基板面に垂直な方向から平行な方向に変換した上で、細線取付部の自転軸に伝達する回転分岐伝達手段を備えたことを特徴とする請求項6に記載のスパッタリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−85052(P2009−85052A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253778(P2007−253778)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年(平成19年)6月6日に日本真空協会(The Vacuum Society of Japan)の「THE NINTH INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON SPUTTERING & PLASMA PROCESSES〜ISSP 2007〜」の講演要旨集にて発表
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【出願人】(594141495)株式会社神戸工業試験場 (9)
【Fターム(参考)】