説明

成膜方法および成膜装置

【課題】所望の膜厚分布を有する薄膜を堆積可能な成膜方法を提供する。
【解決手段】少なくとも第1の原料ガスおよび第2の原料ガスを基板に対して交互に供給することにより、第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により生じる反応生成物質の薄膜を基板に堆積する成膜方法が開示される。この方法は、基板が収容される処理容器内にガスを供給することなく処理容器内を真空排気するステップと、処理容器内に不活性ガスを所定の圧力まで供給するステップと、処理容器内の真空排気を停止した状態で、不活性ガスが所定の圧力に満たされた処理容器内に第1の原料ガスを供給するステップと、第1の原料ガスの供給を停止するとともに処理容器内を真空排気するステップと、処理容器内に第2の原料ガスを供給するステップと、第2の原料ガスの供給を停止するとともに処理容器内を真空排気するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも第1の原料ガスおよび第2の原料ガスを基板に対して交互に供給することにより、第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により生じる反応生成物質の薄膜を基板に堆積する成膜方法および成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の製造プロセスにおいて、例えば絶縁膜を堆積するため、その絶縁膜を生成するための2種類の原料ガスを半導体ウエハなどの基板に対して交互に供給する原子層堆積(ALD)法が用いられる場合がある。ALD法は、原料ガスが基板に対して自己制限的に吸着する性質を利用し得るため膜厚均一性に優れ、また、交互供給のサイクル数により膜厚が決まるため膜厚制御性に優れるという利点を有している(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−6801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、薄膜を堆積する場合、優れた膜厚均一性を有していることが必ずしも好ましいとは限らない。例えば従来の減圧化学堆積(LPCVD)法により窒化シリコン膜を堆積し、次にその窒化シリコン膜をエッチングする場合には、その窒化シリコン膜は、基板の中央付近で厚く、基板周縁に向かって薄くなるような膜厚分布を有していることが好ましい場合がある。これは、パターンの微細化に伴うマイクロローディング効果を抑制するため、上記のような膜厚分布を有する薄膜を堆積し、これに合わせてエッチングプロファイルを決定しているという事情による。
【0005】
このため、例えば膜厚制御性の観点からALD法を用いて薄膜を堆積する場合にも、ALD法が膜厚均一性に優れた堆積法であるとしても、後続のプロセスに好ましい膜厚分布を有する薄膜を堆積することが求められる。
【0006】
本発明は、上記に鑑み、所望の膜厚分布を有する薄膜を堆積可能な成膜方法および成膜装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様によれば、少なくとも第1の原料ガスおよび第2の原料ガスを基板に対して交互に供給することにより、第1の原料ガスと第2の原料ガスとの反応により生じる反応生成物質の薄膜を基板に堆積する成膜方法が開示される。この方法は、基板が収容される処理容器内にガスを供給することなく処理容器内を真空排気するステップと、処理容器内に不活性ガスを所定の圧力まで供給するステップと、処理容器内の真空排気を停止した状態で、不活性ガスが所定の圧力に満たされた処理容器内に第1の原料ガスを供給するステップと、第1の原料ガスの供給を停止するとともに処理容器内を真空排気するステップと、処理容器内に第2の原料ガスを供給するステップと、第2の原料ガスの供給を停止するとともに処理容器内を真空排気するステップとを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、所望の膜厚分布を有する薄膜を堆積可能な成膜方法および成膜装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施形態による成膜装置の概略図である。
【図2】図1の成膜装置の断面図である。
【図3】本発明の実施形態による成膜方法を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態による成膜方法を図1および図2に示す成膜装置において実施する際の処理容器内の圧力変化の一例を示す圧力チャートである。
【図5】本発明の実施形態による成膜方法により堆積された窒化シリコン膜の膜厚分布を示すグラフである。
【図6】本発明の実施形態による成膜方法により堆積された窒化シリコン膜の膜厚均一性を示すグラフである。
【図7】膜厚分布が生じる理由を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の限定的でない例示の実施形態について説明する。添付の全図面中、同一または対応する部材または部品については、同一または対応する参照符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は、部材もしくは部品間の相対比を示すことを目的とせず、したがって、具体的な寸法は、以下の限定的でない実施形態に照らし、当業者により決定されるべきものである。また、図面および以下の説明において、圧力の単位としてTorrを用いる場合がある(1Torr=133.3Pa)。
図1は、本実施形態によるALD装置を模式的に示す縦断面図であり、図2は、図1のALD装置の横断面図である。
図1に示すように、ALD装置80は、下端が開口された有天井の円筒体状を有する、たとえば石英により形成される処理容器1を有している。処理容器1内の上方には、石英製の天井板2が設けられている。また、処理容器1の下端開口部には、例えばステンレススチールにより円筒体状に成形されたマニホールド3がOリング等のシール部材4を介して連結されている。
【0011】
マニホールド3は処理容器1の下端を支持する支持部材として働くとともに、側面に設けられた複数の貫通孔にそれぞれ接続される配管から所定のガスを処理容器1内へ供給する。マニホールド3の下部には、マニホールド3の下端開口部を開閉する例えばステンレススチール製の蓋部9が例えばOリングよりなるシール部材12を介して連結されている。蓋部9は中央に開口を有しており、この開口を回転シャフト10が気密に貫通している。回転シャフト10の上端部にはテーブル8が取り付けられ、テーブル8の上には石英製の保温筒7を介してウエハボート5が設けられている。ウエハボート5は3本の支柱6を有し(図2参照)、支柱6に形成された溝により多数枚のウエハWが支持される。回転シャフト10が図示しない回転機構により中心軸の周りに回転することにより、ウエハボート5もまた回転することができる。
【0012】
回転シャフト10の下端部は、図示しない昇降機構により上下動可能に支持されるアーム13に取り付けられている。アーム13の上下動により、ウエハボート5が処理容器1内へ搬入され、搬出される。なお、回転シャフト10と蓋部9の開口との間には磁性流体シール11が設けられ、これにより処理容器1が密閉される。
【0013】
また、ALD装置80は、処理容器1内へ窒素含有ガスを供給する窒素含有ガス供給機構14と、処理容器1内へSi含有ガスを供給するSi含有ガス供給機構15と、処理容器1内へ不活性ガスを供給する不活性ガス供給機構16とを有している。
【0014】
窒素含有ガス供給機構14は、窒素含有ガス供給源17と、窒素含有ガス供給源17からの窒素含有ガスを導く窒素含有ガス配管17Lと、窒素含有ガス配管17Lに接続され、マニホールド3の側壁を内側へ貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなる窒素含有ガス分散ノズル19とを有している。窒素含有ガス分散ノズル19の垂直部分には、複数のガス吐出孔19aが所定の間隔を隔てて形成されており、各ガス吐出孔19aから水平方向に処理容器1に向けてほぼ均一に窒素含有ガスを吐出することができる。
【0015】
また、窒素含有ガス配管17Lには、開閉バルブ17aと、窒素含有ガスの流量を制御する流量制御器17bとが設けられている。これらにより、窒素含有ガスの供給の開始/停止、および流量が制御される。
【0016】
Si含有ガス供給機構15は、Si含有ガス供給源20と、Si含有ガス供給源20からのSi含有ガスを導くSi含有ガス配管20Lと、Si含有ガス配管20Lに接続され、マニホールド3の側壁を内側へと貫通して上方向へ屈曲されて垂直に延びる石英管よりなるSi含有ガス分散ノズル22とを有している。図示の例では、2本のSi含有ガス分散ノズル22が設けられており(図2参照)、各Si含有ガス分散ノズル22には、その長さ方向に沿って複数のガス吐出孔22aが所定の間隔を隔てて形成されている。これにより、各ガス吐出孔22aから水平方向に処理容器1内にほぼ均一にSi含有ガスを吐出することができる。なお、Si含有ガス分散ノズル22は1本のみであってもよい。
【0017】
また、Si含有ガス配管20Lには、開閉バルブ20a、流量制御器20b、バッファータンク180、および開閉バルブ20cが設けられている。例えば開閉バルブ20cを閉じたまま開閉バルブ20aを開け、Si含有ガス源20からSi含有ガスを所定の流量で流すことにより、バッファータンク180内にSi含有ガスを一時的に溜めることができる。その後、開閉バルブ20aを閉じて開閉バルブ20cを開けば、所定の量のSi含有ガスを処理容器1内へ供給することが可能となる。
【0018】
不活性ガス供給機構16は、不活性ガス供給源41と、不活性ガス供給源41と接続され、Si含有ガス配管20Lに合流する不活性ガス配管41Lとを有している。不活性ガス配管41LがSi含有ガス配管20Lに合流しているため、不活性ガスは、Si含有ガス分散ノズル22から処理容器1内へ吐出される。また、不活性ガス配管41Lには、開閉バルブ41aと、不活性ガスの流量を制御する流量制御器41bとが設けられている。これらにより、不活性ガスの供給の開始/停止、および流量が制御される。
【0019】
処理容器1の側壁の一部には、窒素含有ガスのプラズマを形成するプラズマ生成機構30が形成されている。このプラズマ生成機構30は、処理容器1の側壁に上下に細長く形成された開口31と、開口31を外側から覆うように処理容器1の外壁に気密に溶接されたプラズマ区画壁32とを有している。プラズマ区画壁32は、断面凹部状をなし上下に細長く形成され、例えば石英で形成されている。プラズマ区画壁32により、処理容器1の側壁の一部が凹部状に外側へ窪んでおり、プラズマ区画壁32の内部空間は処理容器1の内部空間に連通する。また、開口31は、ウエハボート5に保持されている全てのウエハWを高さ方向においてカバーできるように上下方向に十分に長く形成されている。
【0020】
また、プラズマ生成機構30は、このプラズマ区画壁32の両側壁の外面に上下方向に沿って互いに対向するようにして配置された細長い一対のプラズマ電極33、33と、プラズマ電極33、33に給電ライン34を介して接続されプラズマ電極33、33へ高周波電力を供給する高周波電源35とを有している。そして、高周波電源35からプラズマ電極33、33に対し例えば13.56MHzの高周波電圧を印加することにより窒素含有ガスのプラズマを発生させることができる。なお、この高周波電圧の周波数は、13.56MHzに限定されず、他の周波数、例えば400kHz等であってもよい。
【0021】
窒素含有ガス分散ノズル19は、処理容器1内を上方向に延びる途中で処理容器1の半径方向外方へ屈曲されて、プラズマ区画壁32の直立面に沿って上方に向けて伸びている。このため、高周波電源35からプラズマ電極33、33間に高周波電圧が印加され、両電極33、33間に高周波電界が形成されると、窒素含有ガス分散ノズル19のガス吐出孔19aから吐出された窒素含有ガスがプラズマ化されて処理容器1の中心に向かって流れる。
【0022】
プラズマ区画壁32の外側には、これを覆うようにして例えば石英よりなる絶縁保護カバー36が取付けられている。また、この絶縁保護カバー36の内側には、図示しない冷媒通路が設けられており、例えば冷却された窒素ガスを流すことによりプラズマ電極33、33を冷却することができる。
【0023】
2本のSi含有ガス分散ノズル22は、処理容器1の側壁の開口31を挟む位置に起立して設けられており、Si含有ガス分散ノズル22に形成された複数のガス吐出孔22aから処理容器1の中心方向に向けてSi含有ガスを吐出することができる。
【0024】
なお、Si含有ガスとしては、ジクロロシラン(DCS)、ヘキサクロロジシラン(HCD)ガス、モノシラン(SiH)、ジシラン(Si)、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、テトラクロロシラン(TCS)、ジシリルアミン(DSA)、トリシリルアミン(TSA)、ビスターシャルブチルアミノシラン(BTBAS)等を用いることができる。また、窒素含有ガスとしては、アンモニア(NH)ガス、ヒドラジン(N)等を用いることができる。
【0025】
一方、処理容器1の開口31に対向する部分には、処理容器1内を排気するための排気口37が設けられている。この排気口37は処理容器1の側壁を上下に細長く削り取ることによって形成されている。処理容器1の外側には、図2に示すように、排気口37を覆うように断面凹部状に成形された排気口カバー部材38が溶接により取り付けられている。排気口カバー部材38は、処理容器1の側壁に沿って上方に延びており、処理容器1の上方にガス出口39を画定している。そして、ガス出口39は、処理容器1の主弁MVおよび圧力調整器PCを介して真空ポンプVPに接続され、これにより処理容器1内が排気される。真空ポンプVPは、例えばメカニカルブースタポンプとターボ分子ポンプを含んで良い。
【0026】
また、処理容器1の外周を囲むように、処理容器1およびその内部のウエハWを加熱する筐体状の加熱ユニット40が設けられている(図2においては、加熱ユニット40を省略している)。
【0027】
ALD装置80の各構成部の制御、例えば開閉バルブ17a、20a〜20c、41aの開閉による各ガスの供給/停止、流量制御器17b、20b、41bによるガス流量の制御、および高周波電源35のオン/オフ制御、加熱ユニット40の制御等は例えばマイクロプロセッサ(コンピュータ)からなるコントローラ50により行われる。コントローラ50には、工程管理者がALD装置80を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、ALD装置80の稼働状況を表示するディスプレイ等からなるユーザインターフェース51が接続されている。
【0028】
また、コントローラ50には、ALD装置80で実行される各種処理をコントローラ50の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてALD装置80の各構成部に処理を実行させるための各種のプログラム(またはレシピ)が格納された記憶部52が接続されている。プログラムには、後述する成膜方法をALD装置80に実行させる堆積プログラムが含まれる。また、各種のプログラムは記憶媒体52aに記憶され、記憶部52に格納され得る。記憶媒体52aは、ハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CD−ROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを記憶部52へ適宜伝送させるようにしてもよい。
【0029】
そして、必要に応じて、ユーザインターフェース51からの指示等にて任意のプログラムを記憶部52から呼び出してコントローラ50に実行させることで、コントローラ50の制御下で、ALD装置80での所望の処理が行われる。すなわち、堆積プログラムが実行される場合、コントローラ50は、ALD装置80の各構成部を制御して、成膜方法を実行する制御部として機能する。
【0030】
次に、これまで参照した図1および図2に加えて図3および図4を参照しながら、本発明の実施形態による成膜方法について、ALD装置80において行われる場合を例に説明する。また、以下の説明では、Si含有ガスとしてDCSガスを使用し、窒素含有ガスとしてアンモニアガスを使用することとする。
まず、ウエハボート5にウエハWを搭載し、アーム13によりウエハボート5を処理容器1内に収容する。その後、処理容器1内にいずれのガスも供給しないで(開閉バルブ17a、20c、および41aを閉じて)、処理容器1の主弁1を開き、圧力制御器PCの圧力調整弁を全開にして、真空ポンプVPにより、処理容器1内を到達真空度まで排気する(図3のステップS31)。
【0031】
処理容器1内を所定の期間排気した後、ステップS32(図3)において、主弁MVを閉じ、窒素ガス供給源41からの窒素ガスを流量制御器41bで流量制御しつつ、不活性ガス配管41L、Si含有ガス配管20L、およびSi含有ガス分散ノズル22を通して処理容器1内に供給する。これにより、処理容器1内の圧力は、窒素ガスの流量に応じて増加し、例えば0.05Torr以上とすることができる。
【0032】
また、この間、Si含有ガス供給源20と処理容器1とを繋ぐSi含有ガス配管20Lの開閉バルブ20cを閉じたまま開閉バルブ20aを開けて、Si含有ガス供給源20からのDCSガスを流量制御器20bで流量制御しつつ流し、バッファータンク180内にDCSガスを溜めておく。このとき、バッファータンク180内に溜められるDCSガスの量(DCSガス分子数)は、ウエハボート5に支持されるウエハWの表面をDCSガス分子で覆うことができるように設定され、具体的には予備実験から決定して良い。
【0033】
次に、ステップS33(図3)において、主弁MVを閉じたまま、不活性ガス配管41Lの開閉バルブ41aを閉じて窒素ガスの供給を停止すると共に、開閉バルブ20cを開けることにより、バッファータンク180内に溜められていたDCSガスを処理容器1内に供給する。これにより、図4に示すように、供給されるDCSガスの量に応じて処理容器1内の圧力が上昇するとともに、処理容器1内が窒素ガスおよびDCSガスの混合ガス雰囲気となり、ウエハWの表面にDCSガスが吸着する。
【0034】
DCSガスの供給後、開閉バルブ20cを閉じるとともに主弁MVを開き、処理容器1内を到達真空度まで排気する(図3のステップS34)。これにより、図4に示すように、処理容器1内の圧力が低下し、処理容器1内の気相中のDCSガスが排気される。
【0035】
次いで、ステップS35において、高周波電源35からプラズマ電極33、33に対し例えば13.56MHzの高周波電圧を印加するとともに、開閉バルブ17aを開いて窒素含有ガス供給源17からのNHガスを流量制御しつつ処理容器1内へ供給する。この供給により、処理容器1内の圧力は、図4に示すように、NHガスの流量に応じた圧力に維持される。また、プラズマ電極33、33間にプラズマが生成され、NHガスが活性化されてイオンやラジカルなどの活性種が生成される。活性種は、ウエハボート5に支持されるウエハWに向かって流れ、ウエハWの表面に吸着したDCSガスと反応し、ウエハWの表面に窒化シリコンが生成される。
【0036】
NHガスに由来する活性種とDCSガスとが反応するのに十分な時間が経過した後、NHガスの供給を停止するとともに、処理容器1の主弁MVを開いて、処理容器1内を到達真空度まで排気する(図3のステップS36)。
以下、上述のステップを所定の回数(所望の膜厚が得られる回数)だけ繰り返し(図3のステップS37およびステップS37:NO)、所定の回数に達した時点で(ステップS37:YES)、窒化シリコン膜の堆積が終了する。具体的には、主弁MVを開いて処理容器1内を到達真空度まで排気した後、主弁MVを閉じて処理容器1内に窒素ガスを供給し、処理容器1内の圧力を大気圧に戻す。次いで、アーム13によりウエハボート5を処理容器1から下げてウエハWを所定のローダ/アンローダにより取り出すことにより窒化シリコン膜の堆積が終了する。
【0037】
次に、上記の成膜方法により窒化シリコン膜を堆積した実験およびその結果について、図5および図6を参照しながら説明する。この実験においては、DCSガスを供給する前に、ALD装置80の主弁MVを閉じて処理容器1内に窒素ガスを供給するステップ(図3のステップS32)における処理容器1内の圧力=0.08、2.67、3.24、および3.91Torrとして、それぞれ窒化シリコン膜をウエハ上に堆積し、処理容器内の圧力に対する膜厚分布の変化を調べた。
【0038】
図5は、この実験で得られた窒化シリコン膜の膜厚分布を示すグラフであり、横軸はウエハの直径方向の位置(mm)を示し、縦軸は膜厚(nm)を示している。図示のとおり、処理容器1内の圧力が0.08Torrである場合には、窒化シリコン膜は、ウエハのほぼ中央部での膜厚が薄く、ウエハ外周部領域での膜厚が厚くなる凹状の膜厚分布を有する。一方、処理容器1内の圧力が2.67、3.24、および3.91Torrの場合には、窒化シリコン膜は、ウエハのほぼ中央部での膜厚が厚く、ウエハ外周部領域での膜厚が薄くなる凹状の膜厚分布を有する。すなわち、処理容器1内の圧力を0.08Torrから高くしていくと、凹状の膜厚分布から凸状の膜厚分布に変化することが分かる。したがって、DCSガスを供給する前の処理容器1内の圧力を調整することにより、窒化シリコン膜の膜厚分形状を制御できることが示された。
【0039】
また、図6は、この実験で得られた窒化シリコン膜の膜厚均一性を示すグラフである。図示のとおり、処理容器1内の圧力を2.67Torrから、3.24Torr、3.91Torrへと高くするに従って、膜厚均一性が悪くなるが、図5に示す結果と併せて考えると、圧力が高くなるに従って膜厚分形状がより凸状になることが分かる。また、処理容器1内の圧力を0.08Torrから高くしていくと、凹状の膜厚分布から凸状の膜厚分布へ変換するが、その変換点は約0.5Torrと考えられる。すなわち、ALD装置80において、窒化シリコン膜の膜厚分布は、約0.08Torrから約0.5Torrまでの圧力範囲において凹状となり、約0.5Torr以上の圧力範囲において凸状となることが分かった。
【0040】
上述のようにDCSガスを供給する前の処理容器1内の圧力により膜厚分布を制御できる理由としては、以下のように考えることができる。
まず、DCSガスを供給する前の処理容器1内の圧力が比較的低い場合には、処理容器1内に供給されたDCSガスは、図7(a)の上段に矢印Aで示すように、DCSガスは、Si含有ガス分散ノズル22のガス吐出孔22aから遠い位置まで到達することができる。処理容器1内の圧力が低ければ、ガス分子の平均自由行程が長くなるためである。この場合において、仮にウエハボート5を回転せずにDCSガスとNHガスとを交互に供給すると、ウエハボート5(支柱6)に支持されるウエハWの面内の膜厚は、図7(a)の中段に示すように、ガス吐出孔22aに近い端部(近端部)から遠い端部(遠端部)にかけて一様に薄くなる。このような状況において、ウエハW上の膜厚を均一化するためにウエハボート5を回転して窒化シリコン膜を堆積すれば、近端部と遠端部での膜厚が相殺されて膜厚が均一化されるが、図7(a)の下段に示すように、その膜厚分布は凹状になる。
一方、DCSガスを供給する前の処理容器1内の圧力が比較的高い場合には、処理容器1内の窒素ガス分子によりDCSガスの流れが妨げられ、図7(b)の上段に矢印Bで示すように、ウエハWの中央部程度までしか到達できない。この場合において、仮にウエハボート5を回転せずにDCSガスとNHガスとを交互に供給すると、図7(b)の中段に示すように、ウエハW上の薄膜の膜厚は、近端部から中央部までは、徐々に薄くなるものの比較的厚く、中央部から遠端部にかけてはかなり薄くなる。このような状況の下でウエハボート5を回転して窒化シリコン膜を堆積すれば、遠端部の比較的厚い膜厚が、近端部における極めて薄い膜厚により相殺されるため、ウエハW面内の外縁に近い外周部領域での膜厚が薄くなり、ウエハWのほぼ中央部での膜厚が厚くなる。この結果、図7(b)の下段に示すように、ウエハW面内の膜厚分布は凸状になる。
【0041】
以上説明したように、本発明の実施形態によれば、ALD法による窒化シリコン膜の堆積においても所望の膜厚分布を有する薄膜を実現することが可能となる。
【0042】
以上、幾つかの実施形態及び実施例を参照しながら本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態及び実施例に限定されることなく、添付の特許請求の範囲に照らし、種々に変形又は変更が可能である。
【0043】
例えば、ステップS35においてNHガスを供給する場合に、ALD装置80のプラズマ電極33、33に高周波電力を供給してNHガスをプラズマ化したが、プラズマ化することなく、NHガスを供給してウエハWの熱によりNHを分解し、ウエハW上に吸着するDCSガスを窒化することにより、窒化シリコン膜を堆積しても良い。
【0044】
ステップS32において、主弁MVを閉じた後に窒素ガスを供給したが、主弁MVを開いたまま窒素ガスを供給し、所定の圧力となった時点で、主弁MVを閉じるとともに窒素ガスの供給を停止し、ステップS33においてDCSガスを処理容器1内に供給しても良い。すなわち、主弁MVは、DCSガスを処理容器1内に供給する際に閉じていれば良い。また、主弁MVを開いたまま窒素ガスを供給する際には、圧力調整器PCにより処理容器1内の圧力を調整しても良い。
【0045】
また、ステップS32において処理容器1内に窒素ガスを供給する場合、Si含有ガスについてバッファータンク180を使用したのと同様に、バッファータンクを使用しても良い。すなわち、ステップS32の前までにバッファータンク内に窒素ガスを溜めておき、ステップS32において、バッファータンクから処理容器1内へ窒素ガスを一気に供給しても良い。これにより、短時間でガス置換が行われ、処理時間を短縮することが可能となる。
【0046】
また、ステップS33において、バッファータンク180内に溜められたDCSガスを処理容器1内へ供給したが、バッファータンク180を用いずに、窒素含有ガス供給源17からの窒素ガスを流量制御器17bで流量制御しつつ処理容器1内へ供給しても良い。
【0047】
また、ステップS32において処理容器1内に窒素ガスを供給したが、窒素ガスの代わりにヘリウム(He)ガスやアルゴン(Ar)ガスなどの希ガスを用いても良い。
【0048】
また、Si含有ガスと酸素含有ガスとを原料ガスとして用いる酸化シリコン膜を成膜する場合においても、同様な効果が得られる。酸素含有ガスとしては、例えばオゾン(O)ガスを用いることができる。また、酸素ガスを用いてプラズマにより活性化し、Si含有ガスが吸着したウエハWに供給しても良い。
【0049】
Si含有ガスを供給する前に処理容器1内に不活性ガスを供給し、処理容器1内を所定の圧力としたが、この圧力は、処理容器1のサイズや、不活性ガスの種類、使用する原料ガスなどに応じて異なる。また、後続のプロセスにおいて好ましい膜厚分布に応じて所定の圧力を決定して良い。例えば予備実験やシミュレーションを行うことにより、その圧力を決定することが好ましい。
【0050】
また、ALD装置80にパージガス供給源と、パージガス供給源からのパージガスを処理容器1内に供給するためマニホールド3を貫通して処理容器1内に至るパージガス供給管とを設け、これにより、処理容器1内にパージガス(不活性ガス)を供給しても良い。これによれば、ウエハボート5を処理容器1内に収容した際に、処理容器1内にパージガスを供給することにより、処理容器1内の空気をパージガスで容易に置換することができる。また、DCSガス(またはNHガス)の供給後、パージガスで処理容器1内をパージした後にNHガス(またはDCSガス)を供給しても良い。これにより、DCSガスとNHガスとが気相中で反応するのを抑制でき、窒化シリコン膜のALDを確実に行うことが可能となる。
【0051】
なお、図3のステップS32における(DCSガス供給前の)不活性ガスは、上述のようにSi含有ガス配管20LおよびSi含有ガス分散ノズル22を通して処理容器1内へ供給することが好ましい。このようにすれば、処理容器1内における不活性ガスの流れのパターンが後に供給されるDCSガスの流れのパターンとほぼ同様となるため、DCSガスの流れを阻害することは殆どなく、ウエハに対してDCSガスを均一に供給することが可能となる。仮に、上述のバージガス供給管から不活性ガスを供給すると、不活性ガスがDCSガスの流れを過剰に阻害することになる結果、膜厚分布が悪化するおそれがある。もっとも、バージガス供給管から不活性ガスを供給し、処理容器1内での不活性ガスの流れが落ち着いた後にDCSガスを供給すれば、DCSガスの流れが過剰に阻害されるのを抑制できる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・処理容器、2・・・天井板、3・・・マニホールド、5・・・ウエハボート、6・・・支柱、8・・・テーブル、10・・・回転シャフト、13・・・アーム、17・・・窒素含有ガス供給源、17L・・・窒素含有ガス配管、17a・・・開閉バルブ、17b・・・流量制御器、19・・・窒素含有ガス分散ノズル、19a・・・ガス吐出孔、20・・・Si含有ガス供給源20、20L・・・Si含有ガス配管20L、22・・・Si含有ガス分散ノズル22、22a・・・ガス吐出孔、20a・・・開閉バルブ、20b・・・流量制御器、20c・・・開閉バルブ、30・・・プラズマ生成機構、31・・・開口、41・・・不活性ガス供給源、41L・・・不活性ガス配管、41a・・・開閉バルブ、41b・・・流量制御器、32・・・プラズマ区画壁、33・・・プラズマ電極、35・・・高周波電源、37・・・排気口、80・・・ALD装置、180・・・バッファータンク、MV・・・主弁、PC・・・圧力調整器PC、VP・・・真空ポンプVP、W・・・ウエハ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第1の原料ガスおよび第2の原料ガスを基板に対して交互に供給することにより、前記第1の原料ガスと前記第2の原料ガスとの反応により生じる反応生成物質の薄膜を前記基板に堆積する成膜方法であって、
前記基板が収容される処理容器内にガスを供給することなく前記処理容器内を真空排気するステップと、
前記処理容器内に不活性ガスを所定の圧力まで供給するステップと、
前記処理容器内の真空排気を停止した状態で、前記不活性ガスが前記所定の圧力に満たされた前記処理容器内に前記第1の原料ガスを供給するステップと、
前記第1の原料ガスの供給を停止するとともに前記処理容器内を真空排気するステップと、
前記処理容器内に前記第2の原料ガスを供給するステップと、
前記第2の原料ガスの供給を停止するとともに前記処理容器内を真空排気するステップと
を含む成膜方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが、窒素ガスおよび希ガスのうちのいずれか一つである、請求項1に記載の成膜方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、前記処理容器内に前記第1の原料ガスを供給する配管から前記処理容器内に供給される、請求項1または2に記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1の原料ガスの供給源と前記処理容器とを繋ぐ配管に設けられたバッファータンクに前記第1の原料を溜めるステップを更に含み、
前記第1の原料ガスを供給するステップにおいて、前記バッファータンクから前記第1の原料ガスが供給される、請求項1から3のいずれか一項に記載の成膜方法。
【請求項5】
基板を収容可能な処理容器と、
前記処理容器内に第1の原料ガスを供給する第1の原料ガス供給部と、
前記処理容器内に第2の原料ガスを供給する第2の原料ガス供給部と、
前記処理容器内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給部と、
前記処理容器内を真空排気する排気部と、
前記処理容器内にガスを供給することなく前記処理容器内を真空排気し、前記処理容器内に不活性ガスを所定の圧力まで供給し、前記処理容器内の真空排気を停止した状態で、前記不活性ガスが前記所定の圧力に満たされた前記処理容器内に前記第1の原料ガスを供給し、前記第1の原料ガスの供給を停止するとともに前記処理容器内を真空排気し、前記処理容器内に前記第2の原料ガスを供給し、前記第2の原料ガスの供給を停止するとともに前記処理容器内を真空排気するよう前記第1の原料ガス供給部、前記第2の原料ガス供給部、前記不活性ガス供給部、および前記排気部を制御する制御部と
を備える成膜装置。
【請求項6】
前記不活性ガスが、窒素ガスおよび希ガスのうちのいずれか一つである、請求項5に記載の成膜装置。
【請求項7】
前記第1の原料ガス供給部は、前記処理容器内に配置されるガス供給管を含み、
当該ガス供給管が、前記処理容器内への前記不活性ガスの供給に利用される、請求項5または6に記載の成膜装置。
【請求項8】
前記第1の原料ガスの供給源と前記処理容器とを繋ぐ配管に設けられ、前記第1の原料を溜めるバッファータンクを更に備え、
前記第1の原料ガスを供給する際に、前記バッファータンクから前記第1の原料ガスが供給される、請求項5から7のいずれか一項に記載の成膜装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−175057(P2012−175057A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38509(P2011−38509)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】