説明

排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法

【課題】DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)の強制再生時にDPFが高温化して、DPFに溶損やクラック等が発生することを防止でき、また、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる排気ガス浄化システム及びDPFの強制再生方法を提供する。
【解決手段】内燃機関10の排気通路11に、上流側から順に、酸化触媒12、ターボ式過給機13のタービン13a、DPF14、尿素供給装置15、選択還元触媒16を配置した内燃機関の排気ガス浄化システム1において、当該排気ガス浄化システム1の制御装置を、前記DPF14の強制再生時において、内燃機関10で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒12で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記DPF14に蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒16で窒素に還元する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時に溶損やクラック等が発生することを防止できると共に、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等から排出される排気ガス中のPM(Particulate Matter:パティキュレート・マタ―:粒子状物質)を除去するために、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)を備えた排気ガス浄化システムが用いられている。このディーゼルパティキュレートフィルタはPMを捕集し、このPMの捕集量が増加すると排圧が上昇して燃費悪化等が生じるため、PMの捕集量が限界量に達する前にディーゼルパティキュレートフィルタに堆積されたPMを処理する必要がある。
【0003】
このPMの成分の一つであるSOOT(スート、煤)は、PMの中でも特に燃焼が難しいと言われる、炭素(C)を主成分とするエンジン排出物質であり、SOOTの酸化除去方法には、酸素(O2)で600℃以上の温度において燃焼させる方法と、図7及び図8に示すように二酸化窒素(NO2)で300℃程度の温度において燃焼させる方法が知られている。
【0004】
図7は、上流側の酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)で一酸化窒素(NO)が排気ガス中の酸素(O2)で酸化されて、二酸化窒素(NO2)になり、この二酸化窒素(NO2)が下流側のディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)で、SOOT(C)を「C+2NO2→CO2+2NO」の反応で酸化して、一酸化窒素(NO) に戻ることを示している。このSOOT(C)の酸化には、理論上、重量で7.66倍の二酸化窒素(NO2) が必要となる。
【0005】
また、図8は、炭素(C)の酸化能力を温度と二酸化炭素(CO2) 濃度との関係で示したものであり、酸素(O2) の場合が、400℃〜600℃で二酸化炭素(CO2) 濃度が増加しているのに対して、二酸化窒素(NO2) の場合は、200℃〜300℃で急激に二酸化炭素(CO2) 濃度が増加していることが分かる。
【0006】
これに関連して、エンジン本体の稼働状況にかかわらず、SCR触媒の浄化効率が最大化されることを目的にして、排気経路に上流側から酸化触媒、DPF、尿素水添加手段、SCR触媒、酸化触媒を設けた排気ガス浄化装置と、NOとNO2のモル比率が1:1になるように酸化触媒の温度を調整する排気ガス浄化装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
しかしながら、強制再生でディーゼルパティキュレータフィルタ内に堆積したSOOTを、二酸化窒素で酸化除去するためには多量の二酸化窒素が必要であり、そのため、窒素酸化物(NOx)を多量に排出させようとしてシリンダ内における燃料の噴射時期を進角させると、この進角により排気温度が低下してしまうという問題が生じる。また、排気ガス中の窒素酸化物対策が強化されてきているので排気ガス中の窒素酸化物の量が低下しており、多量の二酸化窒素の発生は殆ど期待できなくなっている。
【0008】
そのため、従来技術では、ディーゼルパティキュレータフィルタの温度を600℃以上に上昇させて酸素でSOOTを燃焼させており、これにより、ディーゼルパティキュレータフィルタ内のSOOTを燃やし切って、PM計算累積値をリセットしている。
【0009】
しかしながら、この酸素によるSOOT酸化除去方法においては、600℃以上でSOOTを燃焼させるため、溜め込まれたSOOTが想定以上に多い場合には、ディーゼルパティキュレータフィルタ内の温度が600℃より高い温度になり、場合によっては溶損またはクラック等を生ずる温度に達してしまうので、これを防ぐために様々な対策を行って安全性を高める必要があるという問題がある。更に、高温度までディーゼルパティキュレータフィルタの温度を上昇させるため、排気ガス昇温のための燃料噴射量を多量に増やす制御を行うので大幅に燃費が悪化するという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−265862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタが高温化して、ディーゼルパティキュレートフィルタに溶損やクラック等が発生することを防止でき、また、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温にするための燃料が少なくて済み、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明の排気ガス浄化システムは、内燃機関の排気通路に、上流側から順に、酸化触媒、ターボ式過給機のタービン、ディーゼルパティキュレートフィルタ、尿素供給装置、選択還元触媒を配置した内燃機関の排気ガス浄化システムにおいて、当該排気ガス浄化システムの制御装置を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記ディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒で窒素に還元する制御を行うように構成される。
【0013】
このSOOTは、内燃機関、特にディーゼルエンジンから排出されるPM(粒子状物質)の成分のひとつであり、炭素(C)を主成分とするエンジン排出物質で、PMの中でも特に燃焼が難しいと言われる物質であり、スート、煤等と呼ばれている。
【0014】
この構成によれば、酸化触媒(DOC)をタービンの前方に配置することにより、排気マニホールドと酸化触媒の距離が短くなり排気ガスの温度が低下する量が少なくなるので、吸気スロットルを閉じることで、酸化触媒に流入する排気ガスの温度を酸化触媒の活性温度まで上昇させることが容易にできるようになる。
【0015】
そして、酸素(O2)よりも、二酸化窒素(NO2)でSOOTを酸化する方が、より低温で酸化して除去できるため、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタが高温化して溶損やクラック等が発生することを防止できる。また、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温にするための燃料が少なくて済み、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる。 上記の排気ガス浄化システムにおいて、前記酸化触媒と前記タービンの間に第1排気ガス温度センサを、前記タービンと前記ディーゼルパティキュレートフィルタの間に第2排気ガス温度センサをそれぞれ設け、これらの検出信号を内燃機関の運転と当該排気ガス浄化システムを制御する制御装置に入力するように構成すると共に、前記制御装置を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、EGR弁を閉じてEGRを停止し、吸気スロットルを閉じ、前記第1排気ガス温度センサで検出される第1排気ガス温度が所定の第1判定温度以上になるまで、空気過剰率を1.3以上かつ1.6以下の範囲内にする排気昇温制御を行い、前記第1排気ガス温度が前記所定の第1判定温度以上になったら、前記第2排気ガス温度センサで検出される第2排気ガス温度が所定の第2判定温度以上かつ所定の第3判定温度以下の範囲内になるように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射とメイン噴射を進角させてポスト噴射を行う排気温度維持制御を行うと共に、該排気温度維持制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、該強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて、前記尿素供給装置からの尿素の供給量を調整する尿素量調整制御を行うように構成すると、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、この二酸化窒素でディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を選択還元触媒で窒素に還元する制御を容易に行うことができるようになる。
【0016】
つまり、EGR停止によりNOxを増加でき、パイロット噴射とメイン噴射の進角により更にNOxの発生量を増加できる。また、吸気スロットルを閉じることで排気温度を上昇でき、ポスト噴射により供給された未燃燃料を酸化触媒で酸化することにより排気ガスの温度を更に上昇できる。また、第2排気ガス温度が所定の第3判定温度を越えないように、越えた場合はポスト噴射を停止するように制御しているので、ポスト噴射による排気ガスの温度の上昇し過ぎを防止できる。
【0017】
また、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを切り替えて、尿素の噴射量を、強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて制御することにより、シリンダ内の燃焼で多量のNOxを発生してSOOTを酸化除去できると共に、この多量に発生したNOxを適正な量の尿素により選択還元触媒で浄化できる。
【0018】
そして、上記の目的を達成するための本発明のディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法は、内燃機関の排気通路に、上流側から順に、酸化触媒、ターボ式過給機のタービン、ディーゼルパティキュレートフィルタ、尿素供給装置、選択還元触媒を配置した内燃機関の排気ガス浄化システムにおけるディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法において、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記ディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒で窒素に還元することを特徴とする方法である。
【0019】
この方法によれば、酸素よりも、二酸化窒素でSOOTを酸化する方が、より低温で酸化して除去できるため、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタが高温化して溶損やクラック等が発生することを防止できる。また、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温にするための燃料が少なくて済み、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる。
【0020】
上記のディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法において、EGR弁を閉じてEGRを停止し、吸気スロットルを閉じ、前記酸化触媒と前記タービンの間の第1排気ガス温度が所定の第1判定温度以上になるまで、空気過剰率を1.3以上かつ1.6以下の範囲内にする排気昇温制御を行い、前記第1排気ガス温度が前記所定の第1判定温度以上になったら、前記タービンと前記ディーゼルパティキュレートフィルタの間の第2排気ガス温度が所定の第2判定温度以上かつ所定の第3判定温度以下の範囲内になるように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射とメイン噴射を進角させてポスト噴射を行う排気温度維持制御を行うと共に、該排気温度維持制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、該強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて前記尿素供給装置からの尿素の供給量を調整する尿素量調整制御を行うと、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記ディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒で窒素に還元する制御を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法によれば、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生させた一酸化窒素を酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、この二酸化窒素でディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、この酸化で発生した窒素酸化物を選択還元触媒で窒素に還元するので、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタが高温化して溶損やクラック等が発生することを防止できる。また、ディーゼルパティキュレートフィルタを高温にするための燃料が少なくて済み、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化システムの構成を示した図である。
【図2】本発明に係る実施の形態のディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法のフローを示した図である。
【図3】第1排気ガス温度の目標温度の変化を示す模式的な図である。
【図4】第2排気ガス温度の目標温度の変化を示す模式的な図である。
【図5】パイロット噴射とメイン噴射の進角の様子を模式的に示した図である。
【図6】エンジン回転数と負荷に対する第2排気ガス温度の所定の第2判定温度と所定の第3判定温度の関係を示す図である。
【図7】酸化触媒における一酸化窒素(NO)の酸化とディーゼルパティキュレートフィルタにおけるSOOT(C)の酸化の様子を模式的に示した図である。
【図8】酸素(O2)と二酸化窒素(NO2)によるSOOT(C)の酸化と温度の関係を二酸化炭素(CO2)濃度で示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施の形態の排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法について図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明の実施の形態の排気ガス浄化システム1は、内燃機関(ディーゼルエンジン)10の排気通路11に、上流側から順に、酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)12、ターボ式過給機13のタービン13a、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)14、尿素供給装置15、選択還元触媒(SCR:Selective Catalytic Reduction)16を配置して構成される。更に、吸気通路17に、ターボ式過給機13のコンプレッサ13bと吸気スロットル18が設けられ、EGR通路19にはEGR弁20が設けられている。
【0025】
また、酸化触媒12とタービン13aの間に第1排気ガス温度センサ21を、タービン13aとディーゼルパティキュレートフィルタ14の間に第2排気ガス温度センサ22を、ディーゼルパティキュレートフィルタ14と選択還元触媒15の間に第3排気ガス温度センサ23をそれぞれ設け、これらの検出信号を内燃機関10の運転と排気ガス浄化システム1を制御する制御装置(図示しない)に入力するように構成する。
【0026】
そして、排気ガス浄化システムの制御装置は、ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生時において、内燃機関10で発生する一酸化窒素(NO)を増加させて、この一酸化窒素を酸化触媒12で二酸化窒素(NO2)に酸化し、この二酸化窒素でディーゼルパティキュレートフィルタ14に蓄積されたSOOT(C)を酸化し、このSOOTの酸化で発生した一酸化窒素を含む窒素酸化物(NOx)を選択還元触媒16で窒素(N2)に還元する制御を行うように構成される。
【0027】
より具体的には、ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生時において、次の排気昇温制御、排気温度維持制御等を含む強制再生制御を行うように構成される。
【0028】
EGR弁20を閉じてEGRを停止し、吸気スロットル18を閉じ、第1排気ガス温度センサ21で検出される第1排気ガス温度T1が所定の第1判定温度T1a以上になるまで、空気過剰率λを1.3以上かつ1.6以下の範囲内にする排気昇温制御を行う。
【0029】
そして、第1排気ガス温度T1が所定の第1判定温度T1a以上になったら、第2排気ガス温度センサ22で検出される第2排気ガス温度T2が所定の第2判定温度T2a以上かつ所定の第3判定温度T2b以下の範囲内になるように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射とメイン噴射を進角させてポスト噴射を行う排気温度維持制御を行う。
【0030】
それと共に、この排気温度維持制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、この強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて、尿素供給装置15からの尿素の供給量を調整する尿素量調整制御を行う。
【0031】
次に、本発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法について、図2のフローを参照しながら説明する。図2のフローは、内燃機関10及び排気ガス浄化システム1を制御する上位のフローにおいて、ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生が必要と判断されたときに呼ばれて実施され、この図2のフローの実施が終了したら、上位のフローに戻り、強制再生時に繰返し呼ばれるものとして示している。
【0032】
なお、この強制再生の必要なときとは、例えば、通常走行運転やアイドル運転をしているときに、ディーゼルパティキュレートフィルタ14に堆積されているPM(粒子状物質)の量を推定し、この推定量を累積したPM計算累積値が所定の累積判定量を越えるか、又は、排圧値が所定の排圧判定値を越えるかしたとき等である。
【0033】
ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生を行わない通常運転時では、上流側のディーゼルパティキュレートフィルタ14でSOOTを捕集し、下流側の選択還元型触媒16に尿素供給装置15から尿素を供給して、排気ガス中のNOxを浄化処理している。この通常運転時では、通常運転時のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて尿素供給装置15からの尿素の供給量を調整して、NOxを浄化している。
【0034】
そして、ディーゼルパティキュレートフィルタ14に溜め込まれたSOOTの量(PM計算累積値)がある規定量(排圧、計算、距離で規定量を推定)を越えると、強制再生が必要とされ、強制再生モードに入り、図2のフローが呼ばれることになる。
【0035】
強制再生が必要であると判定されて、図2のフローが呼ばれると、図2のフローがスタートし、ステップS11で、NOxを増大するためにEGR弁20を閉じてEGRを停止し、続いて排気温度を上げるために吸気スロットル18を閉じ、空気過剰率λを1.3以上かつ1.6以下の範囲内に調整する排気昇温制御を、所定の時間(ステップS12の温度チェックのインターバルに関係する時間)の間行う。
【0036】
この強制再生制御中における第1排気ガス温度T1の変化を図3に、第2排気ガス温度T2の変化を図4に、模式的に示す。図3に示すように、この第1排気ガス温度T1は、強制再生制御に入った時点Aから上昇し(実際には時間遅れがあるので温度上昇は傾斜する)、所定の第1判定温度T1a以上の温度になるように排気昇温制御がなされる。なお、この第1排気ガス温度T1は、この強制再生制御が終了する時点Cで元に戻る(実際には時間遅れがあるので温度低下は傾斜する)。また、第2排気ガス温度T2はこの時点では、図4のA〜Bに示すように、第1排気ガス温度T1の上昇に伴って上昇する(実際には時間遅れがあるので温度上昇は傾斜する)。
【0037】
次のステップS12で、第1排気ガス温度センサ21で検出される第1排気ガス温度T1が所定の第1判定温度T1a以上であるか否かを判定し、以上でない場合(NO)は、ステップS11に戻り、以上である場合(YES)は、次のステップS13に行く。これにより、ステップS11の排気昇温制御は、第1排気ガス温度T1が所定の第1判定温度T1a以上になるまで行われる。この所定の第1判定温度T1aは酸化触媒12の触媒の種類にもよるが、例えば、200℃に設定される。
【0038】
次のステップS13では、排気温度維持制御と尿素量調整制御と経過時間のカウントを、所定の時間(ステップS14の経過時間のチェックのインターバルに関係する時間)の間行う。
【0039】
この排気温度維持制御では、更にNOxを発生させるために、図5に示すように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射Fpとメイン噴射Fmを進角させる。それと共に、第2排気ガス温度センサ22で検出される第2排気ガス温度T2が所定の第2判定温度T2a以上かつ所定の第3判定温度T2b以下の範囲内になるようにポスト噴射を行う。このポスト噴射は、第2排気ガス温度T2が所定の第3判定温度T2bを越えた場合には停止され、第2排気ガス温度T2が所定の第3判定温度T2b以下になるように制御される。なお、所定の第2判定温度T2aは、例えば300℃に、所定の第3判定温度T2bは例えば400℃に設定される。
【0040】
なお、この排気温度維持制御のポスト噴射の制御では、第2排気ガス温度T2を所定の第2判定温度T2a以上かつ所定の第3判定温度T2b以下の範囲内の温度に設定した第2目標温度T2tになるようにフィードバック制御等で制御してもよい。この第2目標温度T2tは、例えば350℃に設定される。
【0041】
第2排気ガス温度T2は、図4のB〜Cに示すように、排気温度維持制御に入った時点Bからは、所定の第2判定温度T2a以上かつ所定の第3判定温度T2b以下の範囲内の温度になる(実際には時間遅れがあるので温度上昇は傾斜する)ように排気温度維持制御され、この強制再生制御が終了する時点Cで元に戻る(実際には時間遅れがあるので温度低下は傾斜する)。
【0042】
また、尿素量調整制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、この強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて、尿素供給装置15からの尿素の供給量を調整する制御を行う。また、経過時間のカウントでは、このステップS13で、第1排気ガス温度T1が所定の第1判定温度T1aを越えた時点Aからの時間を経過時間tとする。
【0043】
次のステップS14では、経過時間tが所定の判定時間ta以上であるか否かを判定し、以上ではない場合(NO)はステップS13に戻り、以上である場合(YES)は次のステップS15に行く。これにより、ステップS13の排気温度維持制御は、経過時間tが所定の判定時間ta以上になるまで行われる。この所定の判定時間taは実験等により予め設定される値であり、ディーゼルパティキュレートフィルタ14に堆積されているSOOTが酸化して除去される時間に相当する。この強制再生の終了方法により、ディーゼルパティキュレートフィルタ14に堆積されたSOOTを燃焼仕切ることができる。なお、SOOTの酸化を確実にするために、第2排気ガス温度T2が所定の第2判定温度T2aを越えた時間を累積して経過時間tとしてもよい。
【0044】
ステップS15では、強制再生制御の終了作業を行う。この強制再生制御の終了作業では、EGR弁20と吸気スロットル18の弁開度を通常運転制御の弁開度に戻したり、パイロット噴射とメイン噴射の進角を戻したり、ポスト噴射を停止したり、PM計算累積値をゼロにリセットしたりする。この強制再生制御の終了作業の後、上位のフローにリターンする。なお、この通常運転とは、通常走行運転又はアイドリング運転であり、ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生制御を行っていない運転状態で(非DPF強制再生制御時)、且つ、選択還元型触媒16の硫黄被毒に対する強制再生制御を行っていない運転状態(非SCR硫黄被毒再生制御時)である。
【0045】
上記の排気ガス浄化システム1及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法により、酸化触媒12をタービン13aの前方に配置することにより、排気マニホールドと酸化触媒12の距離が短くなり排気ガスの温度低下量が少なくなるので、吸気スロットル18を閉じることで、酸化触媒12に流入する排気ガスの温度を酸化触媒12の活性温度まで上昇させることが容易にできるようになる。
【0046】
更に、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射Fpとメイン噴射Fmの噴射時期を進角しながらポスト噴射することで、多量の一酸化窒素を発生させると共に、酸化触媒12で一酸化窒素を二酸化窒素に酸化して二酸化窒素を多量に排出させて、SOOTを所定の第2判定温度T2a以上かつ所定の第3判定温度T2b以下の範囲内、例えば、300℃〜400℃の範囲内の比較的低い温度で酸化して除去でき、ディーゼルパティキュレートフィルタ14を強制再生できるようになる。また、このSOOTの酸化等によって多量に発生する一酸化窒素を含む窒素酸化物を除去するため、通常運転時のNOxマップよりからタイミング進角させたNOマップに切り替え、それに適合した尿素噴射を行う。つまり、窒素酸化物は、尿素供給装置15から最適な供給量に調整された尿素と排気温度により選択還元型触媒16で還元除去される。
【0047】
従って、酸素よりも、二酸化窒素でSOOTを酸化するので、より低温で酸化して除去でき、ディーゼルパティキュレートフィルタ14の強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタ14が高温化して溶損やクラック等が発生することを防止できる。また、ディーゼルパティキュレートフィルタ14を高温にするための燃料が少なくて済み、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法によれば、ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時にディーゼルパティキュレートフィルタが高温化して溶損やクラック等が発生することを防止できると共に、強制再生に伴う燃費の悪化を抑制できるので、自動車搭載のディーゼルエンジン等の内燃機関の排気ガス浄化システム及びディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法として利用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 排気ガス浄化システム
10 内燃機関
11 排気通路
12 酸化触媒(DOC)
13 ターボ式過給機
13a タービン
13b コンプレッサ
14 ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)
15 尿素供給装置
16 選択還元型触媒(SCR)
17 吸気通路
18 吸気スロットル
19 EGR通路
20 EGR弁
21 第1排気ガス温度センサ
22 第2排気ガス温度センサ
T1 第1排気ガス温度
T1a 所定の第1判定温度
T2 第2排気ガス温度
T2a 所定の第2判定温度
T2b 所定の第3判定温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に、上流側から順に、酸化触媒、ターボ式過給機のタービン、ディーゼルパティキュレートフィルタ、尿素供給装置、選択還元触媒を配置した内燃機関の排気ガス浄化システムにおいて、当該排気ガス浄化システムの制御装置を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記ディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒で窒素に還元する制御を行うように構成したことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
前記酸化触媒と前記タービンの間に第1排気ガス温度センサを、前記タービンと前記ディーゼルパティキュレートフィルタの間に第2排気ガス温度センサをそれぞれ設け、これらの検出信号を内燃機関の運転と当該排気ガス浄化システムを制御する制御装置に入力するように構成すると共に、
前記制御装置を、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、EGR弁を閉じてEGRを停止し、吸気スロットルを閉じ、前記第1排気ガス温度センサで検出される第1排気ガス温度が所定の第1判定温度以上になるまで、空気過剰率を1.3以上かつ1.6以下の範囲内にする排気昇温制御を行い、前記第1排気ガス温度が前記所定の第1判定温度以上になったら、前記第2排気ガス温度センサで検出される第2排気ガス温度が所定の第2判定温度以上かつ所定の第3判定温度以下の範囲内になるように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射とメイン噴射を進角させてポスト噴射を行う排気温度維持制御を行うと共に、該排気温度維持制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、該強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて、前記尿素供給装置からの尿素の供給量を調整する尿素量調整制御を行うように構成したことを特徴とする請求項1記載の排気ガス浄化システム。
【請求項3】
内燃機関の排気通路に、上流側から順に、酸化触媒、ターボ式過給機のタービン、ディーゼルパティキュレートフィルタ、尿素供給装置、選択還元触媒を配置した内燃機関の排気ガス浄化システムにおけるディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法において、前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、内燃機関で発生する一酸化窒素を増加させて、この一酸化窒素を前記酸化触媒で二酸化窒素に酸化し、該二酸化窒素で前記ディーゼルパティキュレートフィルタに蓄積されたSOOTを酸化し、このSOOTの酸化で発生した窒素酸化物を前記選択還元触媒で窒素に還元することを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法。
【請求項4】
前記ディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生時において、EGR弁を閉じてEGRを停止し、吸気スロットルを閉じ、前記酸化触媒と前記タービンの間の第1排気ガス温度が所定の第1判定温度以上になるまで、空気過剰率を1.3以上かつ1.6以下の範囲内にする排気昇温制御を行い、前記第1排気ガス温度が前記所定の第1判定温度以上になったら、前記タービンと前記ディーゼルパティキュレートフィルタの間の第2排気ガス温度が所定の第2判定温度以上かつ所定の第3判定温度以下の範囲内になるように、シリンダ内燃料噴射のパイロット噴射とメイン噴射を進角させてポスト噴射を行う排気温度維持制御を行うと共に、該排気温度維持制御では、燃料噴射時期を算出するためのNOxマップを、通常運転時のNOxマップから、タイミングを通常運転時よりも進角させてNOx発生量を増加させる強制再生用のNOxマップに切り替えて、該強制再生用のNOxマップのデータに基づいて発生するNOx量に対応させて前記尿素供給装置からの尿素の供給量を調整する尿素量調整制御を行うことを特徴とする請求項3記載のディーゼルパティキュレートフィルタの強制再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−154237(P2012−154237A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13654(P2011−13654)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】