説明

有機薄膜の製造方法

【課題】基板上に大面積の単結晶の有機薄膜を形成することができる有機薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】基板上に第1の有機分子からなる規則的な分子配列を有する第1の有機分子層を形成する工程と、前記第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する第2の有機分子層を形成する工程と、前記第1の有機分子層を昇華、蒸発あるいは溶解して前記第2の有機分子層から除去する工程を有する有機薄膜の製造方法。前記第1の有機分子がアントラセン、前記第2の有機分子がペンタセンであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜の製造方法に係わり、特に有機半導体デバイスにおいて優れたデバイス特性を発現するための高品質の結晶性有機薄膜の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
ドライプロセスによる有機薄膜の形成方法としては真空蒸着法あるいは有機分子線堆積法(OMBD:Organic Molecular Beam Deposition)が知られている。これらの方法は成膜する有機材料を加熱によって気化させ、有機分子線として基板に照射して該基板上に有機分子を堆積するものである。基板の種類や基板温度等の成長条件によって、有機薄膜層が結晶構造を持つ場合や非結晶(アモルファス)になる場合がある。
【0003】
有機薄膜が多結晶で、かつ配向性をもつ例は多数存在するが、1例としてはSiO等の絶縁基板上のペンタセン成長が挙げられる。この場合、下地のSiOはアモルファスであるが、その上に蒸着されたペンタセンは多結晶となり、個々の結晶におけるc*軸は基板垂直方向にほぼ揃っている。一方、面内方向における結晶方位は個々の結晶により異なり、ほぼランダムになる。
【0004】
一方、下地となる基板が結晶であり、その上に成長する有機材料の結晶構造が該基板に格子整合する場合はエピタキシャル成長が生じ得る。したがって、基板が単結晶であれば、その上に形成された有機膜もまた単結晶、あるいは単結晶に近い構造になる。
【0005】
たとえば、下地基板としてKCl等のアルカリハライド単結晶上に金属フラロシアニンがエピタキシャル成長することが知られている。また最近、表面張力による自己組織化現象を利用してアントラセンの単結晶膜をガラスあるいはSiウェハー上に形成し、これを下地としてペンタセンがエピタキシャル成長することも報告されている(非特許文献1)。
【非特許文献1】American Physical Society, March Meeting 2004, March 22−26, 2004, Palais des Congres de Montreal, Montreal, Quebec, Canada, MEETING ID: MAR04, abstract #R1.058
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、有機薄膜の有機TFT等の電子デバイス、あるいは有機EL等の光電子デバイスへの応用が検討され、一部製品化も実現されている。これら有機デバイスにおいて高い素子特性を達成するためには、該有機薄膜がアモルファスや多結晶ではなく単結晶であることが望ましい場合がある。たとえば、有機TFTでは電子移動度が高いことが望ましいが、有機膜が多結晶の場合、結晶粒界で電子が散乱されることで電子移動度が低下してしまう。実際、成長条件を最適化することにより、ペンタセン薄膜の結晶グレインサイズを大きくし、結晶粒界における電子の散乱を最小限に抑えて、高い電子移動度が達成されたことが報告されている。
【0007】
しかしながら、成長条件を調整することによって達成されるグレインサイズには限界があり、せいぜい数ミクロン程度である。研究段階においては1つのグレイン上に単一デバイスを形成すれば高い素子特性を実現することも原理的には可能であるが、サイズ制御、位置制御が困難であることから、製品としての実現性は低い。
【0008】
単結晶状の有機薄膜を形成する基本的な方法は、上述した従来例で述べたように単結晶の下地上に有機層をエピタキシャル成長する方法である。しかし、エピタキシャル成長をするためには、基板と有機層の組み合わせは限られているため、エピタキシャル成長によって所望のデバイス構造を得ることは一般には容易ではない。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、基板上に大面積の単結晶の有機薄膜を形成することができる有機薄膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する有機薄膜の製造方法は、第1の工程から第3の工程を有することを特徴とする。
第1の工程:基板上に第1の有機分子からなる規則的な分子配列を有する第1の有機分子層を形成する工程
第2の工程:前記第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する第2の有機分子層を形成する工程
第3の工程:前記第1の有機分子層を昇華、蒸発あるいは溶解して前記第2の有機分子層から除去する工程
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機薄膜の製造方法によれば、基板上に大面積の単結晶の有機薄膜を形成することができる。さらに本発明を有機薄膜デバイスの作製に適用することにより、良好なデバイス特性を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る有機薄膜の製造方法は、以下の第1の工程から第3の工程を有することを特徴とする。
第1の工程:基板上に第1の有機分子からなる規則的な分子配列を有する第1の有機分子層を形成する工程
第2の工程:前記第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する第2の有機分子層を形成する工程
第3の工程:前記第1の有機分子層を昇華、蒸発あるいは溶解して前記第2の有機分子層から除去する工程
【0013】
本発明において、第1の有機分子からなる規則的な分子配列層を有する第1の有機分子層を形成する工程(第1の工程)は、特に制限するものではないが、たとえば以下の分子配列層があてはまる。例えば、バルクの単結晶、あるいは自己組織化現象を用いて形成した有機膜、あるいはバルクの単結晶上にエピタキシャル成長した有機膜である。前記第1の有機分子の具体的な材料例としては、アントラセン、テトラセン等が挙げられる。
【0014】
次に、前記第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する第2の有機分子層を形成する工程は、真空蒸着法あるいはOMBDにより行う。前記第2の有機分子の具体例としては、ペンタセン、テトラセン等が挙げられる。
【0015】
特に、本発明の前記工程の好ましい実施態様としては、第1の有機分子として昇華温度が低く(150℃)、且つその上にペンタセンのエピ成長が可能なアントラセンを用いて第1の有機分子層を形成することである。そして、第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する単結晶のペンタセンからなる第2の有機分子層を形成するのが好ましい。すなわち、本発明に適用できる第1及び第2の有機分子層の組み合わせとしては、第1の有機分子層の上に、エピ成長し得る第2の有機分子層である必要挙がる。更に、前記第1の有機分子層の昇華等の温度が第2の有機分子層に比べて低いことを利用して、選択的に当該第1の有機分子層を除去し得る材料の組み合わせとなるようにこれらの材料を定める。
【0016】
次に、前記第1の有機分子層を昇華、蒸発あるいは溶解して前記第2の有機分子層から除去する工程を行う。本発明は第1の有機層を除去する方法は、特に制限するものではない。第1の有機層と第2の有機層が昇華性材料からなり、第1の有機層の昇華温度T1が、第2の有機層の昇華温度T2に比べて低い場合は、以下のように除去を行う。即ち、成長後、基板を温度T(T1<T<T2)に加熱して第1の有機層を除去することにより、第2の有機層を基板から剥離する。
【0017】
あるいは、第1の有機層の蒸発温度あるいは昇華温度T1が第2の有機層の融点Tm2よりも低ければ、成長後、基板を温度T(T1<T<Tm2)に加熱して第1の有機層を除去することにより、第2の有機層を基板から剥離することが出来る。
【0018】
また、第1の有機層が可溶性で、第2の有機層が不溶性ならば、溶液中で第1の有機層を溶解することにより、第2の有機層を基板から剥離することが可能である。また基板が単結晶で、第1の有機層が前記単結晶基板上にエピタキシャル成長した膜である場合、第1の有機層(分離層)を除去した後、この単結晶基板を繰り返し用いることが可能であり、製造工程のコストダウンに有効である。上述したように本発明を用いるならば、広範囲の基板材料に対して大面積の単化粧有機薄膜構造を形成することが可能になる。
【0019】
本発明は、さらに、前記工程によって露出された第2の有機分子層に、第3の有機層、または無機層を形成するか、あるいは基体を接合する工程を有することを特徴とする。第3の有機層には、ポリイミド膜等を用いることができる。無機層には、窒化シリコン(SiNx)膜等を用いることができる。基体には、シリコン等を用いることができる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明する。
実施例1
以下、本発明における実施例について説明する。図1は本実施例1の工程を表したものである。工程1はガラス基板上1に第1の有機層である、アントラセンからなる自己組織膜のアントラセン層2が形成された状態である。工程2はアントラセン層2上に、ペンタセンからなるエピタキシャル膜からなるペンタセン層3がエピタキシャル成長された状態である。工程3は前記ペンタセン層3上に表面にSiO熱酸化膜5が形成されたp型Si基板4が接合された状態である。工程4は前記アントラセン層2が除去された状態である。
【0021】
まず工程1において、酢酸エチル溶液にアントラセンの結晶粉末を飽和濃度に達するまで溶解し、これを同量の酢酸エチル溶液で希釈することにより、50%濃度のアントラセン溶液を作製する。この溶液の中に洗浄したスライドガラスを垂直に投入し、振動の無い静かな環境に放置すると、酢酸エチルの蒸発に伴い液面が徐々に下降し、スライドガラス表面が大気中に露出していく。この過程で露出したスライドガラス表面には表面張力を介した自己組織化の作用によりアントラセンの単結晶膜が広い面積(>1cm)にわたって形成される。
【0022】
次に工程2において、工程1で形成された、アントラセン/スライドガラスをペンタセン成長用の真空容器に導入し、真空蒸着によりペンタセンを上記アントラセン上にエピタキシャル成長する。
【0023】
次に工程3において、表面に熱酸化膜(SiO)が形成されたp−Si基板を真空中で100℃程度に加熱し、第2の工程で形成されたペンタセン層に上部から圧着する。
次に工程4においては、前記スライドガラスと前記p−Si基板を別々に保持した状態で、膜厚方向を軸として両者に捻り力を加えつつ、約200℃に加熱する。ペンタセンの昇華温度が250℃程度であるのに対して、アントラセンは約150℃で昇華し始めるため、アントラセン層は本工程により、昇華除去され、スライドガラス基板からペンタセン層/SiO/Siが分離される。
【0024】
実施例2
以下、本発明における実施例について説明する。図2は本実施例の工程を表したものであり、工程1乃至工程4は実施例1と同様であり、工程5は露出したペンタセン層上にAuの電極パターンを形成された状態、を各々表している。
【0025】
まず工程1において、酢酸エチル溶液にアントラセンの結晶粉末を飽和濃度に達するまで溶解し、これを同量の酢酸エチル溶液で希釈することにより、50%濃度のアントラセン溶液を作製する。この溶液の中に洗浄したスライドガラスを垂直に投入し、振動の無い静かな環境に放置すると、酢酸エチルの蒸発に伴い液面が徐々に下降し、スライドガラス表面が大気中に露出していく。この過程で露出したスライドガラス表面には表面張力を介した自己組織化の作用によりアントラセンの単結晶膜が広い面積(>1cm)にわたって形成される。
【0026】
次に工程2において、工程1で形成された、アントラセン/スライドガラスをペンタセン成長用の真空容器に導入し、真空蒸着によりペンタセンを上記アントラセン上にエピタキシャル成長する。
【0027】
次に工程3において、表面に熱酸化膜(SiO)が形成されたp−Si基板を真空中で100℃程度に加熱し、第2の工程で形成されたペンタセン層に上部から圧着する。
次に工程4においては、前記スライドガラスと前記p−Si基板を別々に保持した状態で、膜厚方向を軸として両者に捻り力を加えつつ、約200℃に加熱する。ペンタセンの昇華温度が250℃程度であるのに対して、アントラセンは約150℃で昇華し始めるため、アントラセン層は本工程により、昇華除去され、スライドガラス基板からペンタセン層/SiO/Siが分離される。
【0028】
次に工程5において、工程4で形成されたペンタセン/SiO/Siに対して、ペンタセン上にマスクパターンを介してAuを蒸着し、Au電極6からなるソース、ドレイン電極を形成する。こうすることにより、p−Si基板をゲート電極とする有機TFT構造を形成する。
【0029】
実施例3
以下、本発明における実施例について説明する。図3は本実施例の工程図を表したものである。工程1はガラス基板7上に第1の有機層であるアントラセン層8を形成した状態である。工程2はアントラセン層8上にペンタセン層9をエピタキシャル成長した状態である。工程3は上記ペンタセン層9上に表面にSiO熱酸化膜11を有するp−Si基板10を接合した状態である。工程4は上記アントラセン層8を除去する工程、工程5は露出したペンタセン層上にAuの電極パターンを形成した状態である。
【0030】
まず工程1において、酢酸エチル溶液にアントラセンの結晶粉末を飽和濃度に達するまで溶解し、これを同量の酢酸エチル溶液で希釈することにより、50%濃度のアントラセン溶液を作製する。この溶液の中に洗浄したスライドガラスを垂直に投入し、振動の無い静かな環境に放置すると、酢酸エチルの蒸発に伴い液面が徐々に下降し、スライドガラス表面が大気中に露出していく。この過程で露出したスライドガラス表面には表面張力を介した自己組織化の作用によりアントラセンの単結晶膜が広い面積(>1cm)にわたって形成される。
【0031】
つぎに工程2において、工程1で形成された、アントラセン/スライドガラスをペンタセン成長用の真空容器に導入し、真空蒸着によりペンタセンを上記アントラセン上にエピタキシャル成長する。
【0032】
第3の工程において、表面に熱酸化膜(SiO)が形成されたp−Si基板を真空中で100℃以下に加熱し、第2の工程で形成されたペンタセン層に圧着する。
つぎに第4の工程においては、第3の工程で作製された試料を大気中に取り出し、50℃の酢酸エチル溶液に浸し、スターラーで攪拌しながら放置し、アントラセン層を溶解させることにより、スライドガラス基板からペンタセン層/SiO/Siが分離される。
【0033】
実施例4
以下、本発明における実施例について説明する。図4は本実施例の工程図を表したものであり、工程1乃至工程4は実施例3と同様であり、工程5は露出したペンタセン層上にAuの電極パターンを形成した状態、を各々表している。
【0034】
まず工程1において、酢酸エチル溶液にアントラセンの結晶粉末を飽和濃度に達するまで溶解し、これを同量の酢酸エチル溶液で希釈することにより、50%濃度のアントラセン溶液を作製する。この溶液の中に洗浄したスライドガラスを垂直に投入し、振動の無い静かな環境に放置すると、酢酸エチルの蒸発に伴い液面が徐々に下降し、スライドガラス表面が大気中に露出していく。この過程で露出したスライドガラス表面には表面張力を介した自己組織化の作用によりアントラセンの単結晶膜が広い面積(>1cm)にわたって形成される。
【0035】
つぎに工程2において、工程1で形成された、アントラセン/スライドガラスをペンタセン成長用の真空容器に導入し、真空蒸着によりペンタセンを上記アントラセン上にエピタキシャル成長する。
【0036】
第3の工程において、表面に熱酸化膜(SiO)が形成されたp−Si基板を真空中で100℃以下に加熱し、第2の工程で形成されたペンタセン層に圧着する。
つぎに第4の工程においては、第3の工程で作製された試料を大気中に取り出し、50℃の酢酸エチル溶液に浸し、スターラーで攪拌しながら放置し、アントラセン層を溶解させることにより、スライドガラス基板からペンタセン層/SiO/Siが分離される。
【0037】
つぎに第5の工程において、第4の工程で形成されたペンタセン/SiO/Siを充分乾燥した後、真空容器に導入し、マスクパターンを介してAuを蒸着することによりソース、ドレイン電極を形成する。こうして、p−Si基板をゲート電極とする有機TFT構造が形成される。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の有機薄膜の製造方法は、基板上に大面積の単結晶の有機薄膜を形成することができるので、良好なデバイス特性を有す有機薄膜デバイスの製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例1の有機薄膜の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の実施例2の有機薄膜の製造方法を示す工程図である。
【図3】本発明の実施例3の有機薄膜の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の実施例4の有機薄膜の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0040】
1 スライドガラス基板
2 アントラセン層
3 ペンタセン層
4 p−Si基板
5 SiO熱酸化膜
6 Au電極
7 スライドガラス基板
8 アントラセン層
9 ペンタセン層
10 p−Si基板
11 SiO熱酸化膜
12 Au電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に第1の有機分子からなる規則的な分子配列を有する第1の有機分子層を形成する工程と、前記第1の有機分子層の上にエピタキシャル成長する第2の有機分子層を形成する工程と、前記第1の有機分子層を昇華、蒸発あるいは溶解して前記第2の有機分子層から除去する工程を有することを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記第1の有機分子がアントラセンであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記第2の有機分子がペンタセンであることを特徴とする請求項1に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項4】
さらに、前記工程によって露出された第2の有機分子層に、第3の有機層、無機層を形成するか、あるいは基体を接合する工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかの項に記載の有機薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−140969(P2009−140969A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−312791(P2007−312791)
【出願日】平成19年12月3日(2007.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】