説明

気相成長装置

【課題】基板面内で非対称な結晶特性を持っている基板に対して、エピタキシャル薄膜の面内分布を打ち消すことが可能な温度分布を得ることができる気相成長装置を提供する。
【解決手段】有機金属気相成長装置110は、(a)非対称なオフ角度分布を有する基板111の主面上にエピタキシャル薄膜を形成する気相成長装置であって、(b)基板111のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンで溝加工が表面に施されており、溝加工が施された表面を基板111の主面の裏側に対向するようにして配置される均熱板114と、(c)基板111の主面を下にした状態で周回部分に基板111が配置されて、基板111と均熱板114とを一緒に周方向に回転させるサセプタ112と、(d)均熱板114を通して基板111を加熱して、基板面内で非対称な温度分布を生み出すヒータ113とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エピタキシャル薄膜の組成面内均一性を向上させるための均熱板を有する気相成長装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体薄膜の形成方法において、基板上にエピタキシャル薄膜を形成する有機金属気相成長法(MOCVD法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)が注目されている。有機金属気相成長法では、原料ガスが、キャリアガスと共に、反応炉に導入されて、反応炉内で加熱されて、基板付近で熱分解される。これによって、半導体結晶をエピタキシャル成長させた薄膜(以下、エピタキシャル薄膜と呼称する。)が基板上に形成される。
【0003】
ここで、所望のエピタキシャル薄膜を基板上に均一に形成するにあたって、基板上の温度分布を一様化することが重要になる。これについては、加熱手段であるヒータと基板との間に、外周に向かって厚さが薄くなる均熱板を設置する方法(以下、一例目の方法と呼称する。)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
具体的には、図11に示すように、有機金属気相成長装置10では、ガス供給口16からガス排気口17へ原料ガスが流通する反応炉18の上部壁に、回転可能に構成されている板状のサセプタ12が設置されている。サセプタ12には、気相エピタキシャル成長の対象である基板11とほぼ同じ形状の開口部が形成されている。開口部には、表面を下向きにして裏面を露出させた状態で支持される基板11が収納される。
【0005】
また、有機金属気相成長装置10では、基板11を加熱するヒータ13に面して均熱板14がサセプタ12の開口部にはめ込まれている。図12(A)に示すように、均熱板14には、傾斜面14aのように、水平面に対して傾斜角θの傾斜がつけられており、サセプタ12の内周12aから外周12bに向かうに従って厚さが薄くなっている。これによって、図12(B)に示すように、基板11上の温度分布が一様になり、エピタキシャル薄膜の均一性が向上する。
【0006】
ただし、一例目の方法では、一様な特性を持つ基板上の温度分布を一様にすることによって、エピタキシャル薄膜の特性を一様化することが実現されている。このため、線対称や回転対称でない非対称な構造や特性を持つ基板上にエピタキシャル成長させる場合には、基板面内で一様な特性を得ることが一般的に困難である。
【0007】
これに対して、非対称な構造や特性を持つ基板上に一様な特性を持つエピタキシャル薄膜を成長させる方法として、公転機能を持つ成長炉のガス分布に起因するエピタキシャル薄膜の特性分布を利用して、基板の特性を打ち消そうとする方法(以下、二例目の方法と呼称する。)が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−85850号公報
【特許文献2】特開2008−244319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、二例目の方法では、ガスフローの上流下流に関連したガスの分布効果を利用している。このため、基板の設置状態を常に一定に保つことが必須である。また、複数の基板を設置でき、かつ自公転機能を有する有機金属気相成長装置では、二例目の方法のように、ガスフローの上流下流に関連したガスの分布効果が期待できず、基板面内で一様な特性を持つエピタキシャル薄膜を得ることが困難である。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みて、基板面内で非対称な結晶特性を持っている基板に対して、エピタキシャル薄膜の面内分布を打ち消すことが可能な温度分布を得ることができる気相成長装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係わる気相成長装置は、下記に示す特徴を備える。
(CL1)本発明に係わる気相成長装置は、(a)非対称なオフ角度分布を有する基板の主面上にエピタキシャル薄膜を形成する気相成長装置であって、(b)前記基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンで溝加工が表面に施されており、溝加工が施された表面を前記基板の主面の裏側に対向するようにして配置される均熱板と、(c)前記基板の主面を下にした状態で周回部分に前記基板が配置されて、前記基板と前記均熱板とを一緒に周方向に回転させるサセプタと、(d)前記均熱板を通して前記基板を加熱して、基板面内で非対称な温度分布を生み出す加熱手段とを備える。
【0012】
(CL2)上記(CL1)に記載の気相成長装置は、前記均熱板の表面が複数の領域に分かれており、領域ごとに異なる形態で凸凹が形成されている。
(CL3)上記(CL2)に記載の気相成長装置は、領域ごとに深さが異なる溝が形成されている。
【0013】
(CL4)上記(CL2)に記載の気相成長装置は、領域ごとにピッチが異なる溝が形成されている。
(CL5)上記(CL1)に記載の気相成長装置は、前記基板と前記均熱板とを保持して一緒に自転させる保持手段を備える。
【0014】
(CL6)上記(CL1)に記載の気相成長装置は、前記均熱板が前記基板と接触している。
(CL7)上記(CL1)に記載の気相成長装置は、前記均熱板が前記基板と非接触である。
【0015】
なお、本発明は、気相成長装置として実現されるだけではなく、下記に示す気相成長方法として実現されるとしてもよい。
(CL8)本発明に係わる気相成長方法は、(a)非対称なオフ角度分布を有する基板の主面上にエピタキシャル薄膜を形成する気相成長方法であって、(b)前記基板の主面を下にした状態でサセプタの周回部分に前記基板を配置して、(c)前記基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンで溝加工が表面に施された均熱板を、溝加工が施された表面を前記基板の主面の裏側に対向するようにして配置して、(d)前記サセプタで前記基板と前記均熱板とを一緒に周方向に回転させながら、加熱手段で前記均熱板を通して前記基板を加熱して、基板面内で非対称な温度分布を生み出す。
【発明の効果】
【0016】
以上、本発明では、基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンが均熱板に形成されている。これによって、窒化物半導体基板のように、面内で非対称な結晶特性を有する基板に対して、エピタキシャル薄膜の面内分布を打ち消すことが可能な基板表面の温度分布を得ることができる。これに伴い、基板面内で一様性の高いエピタキシャル薄膜を得ることができる。結果、デバイス作製における歩留りを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態1における有機金属気相成長装置を示す図である。
【図2】実施の形態1における均熱板の形状を示す図である。
【図3】(A)は、実施の形態1における均熱板と基板との位置関係を示す図であり、(B)は、基板表面の温度分布を示す図である。
【図4】従来の均熱板を使用して、基板上にInGaN量子井戸構造をエピタキシャル成長させた場合のPLピーク波長の面内分布を示す図である。
【図5】従来の均熱板と基板とを接触させた場合のPLピーク波長の面内分布を示す図である。
【図6】基板上にInGaN量子井戸構造をエピタキシャル成長させた場合のPLピーク波長の成長温度依存性を示す図である。
【図7】実施の形態1における均熱板を使用して、基板上にInGaN量子井戸構造をエピタキシャル成長させた場合のPLピーク波長の分布を示す図である。
【図8】(A)は、実施の形態2における均熱板と基板との位置関係を示す図であり、(B)は、基板表面の温度分布を示す図である。
【図9】実施の形態2における均熱板を使用して、均熱板と基板とを非接触とした場合のPLピーク波長の分布を示す図である。
【図10】(A)は、他の実施の形態における均熱板と基板との位置関係を示す図であり、(B)は、基板表面の温度分布を示す図である。
【図11】従来の有機金属気相成長装置を示す図である。
【図12】(A)は、従来の均熱板の形状を示す図であり、(B)は、基板表面の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明に係わる実施の形態1について説明する。
<構成>
ここでは、一例として、図1に示すように、有機金属気相成長装置110は、自公転機能を有するフェイスダウン型の有機金属気相成長装置である。
【0019】
具体的には、有機金属気相成長装置110では、反応炉118の内部に、自身の中心軸を回転軸として回転可能な機能(以下、公転機能と呼称する。)を有するサセプタ112が設置されている。サセプタ112の周回部分には、自身の中心軸を回転軸として回転可能な機能(以下、自転機能と呼称する。)を有する基板保持部115が周方向に沿って複数設置される。各基板保持部115には、主面を下にした状態で基板111が設置される。基板111の主面の裏側には、基板111と接触するように、円形状の均熱板114が設置される。サセプタ112の上方には、サセプタ112の周回部分に設置された複数の基板保持部115を覆うように、中央部と端部とで温度差がなく一定の温度で加熱するヒータ113が設置されている。基板111と均熱板114とは、基板保持部115によって固定される。基板保持部115は、基板111と均熱板114とを組み合わせた状態で、サセプタ112の周回部分に設置される。基板111と均熱板114とは、自転・公転しながら、ヒータ113で加熱される。このとき、基板111と均熱板114とは、基板保持部115で保持されて一緒に回転して、サセプタ112で一緒に周方向に回転する。基板111は、均熱板114を通して基板面内で非対称な温度分布が得られるように、ヒータ113で加熱される。
【0020】
なお、基板保持部115の回転軸(自転軸)は、サセプタ112の回転軸(公転軸)に平行である。基板保持部115の自転速度とサセプタ112の公転速度との比は、2:1である。
【0021】
また、有機金属気相成長装置110では、原料ガスが、キャリアガスと共に、ガス供給口116から反応炉118に導入される。サセプタ112の中央部から外周部に向かって原料ガスが流れる。原料ガスが、反応炉118内で加熱されて、基板111付近で熱分解される。エピタキシャル薄膜が基板111の主面上に形成される。
【0022】
ここで、基板111は、中心を基準として非対称なオフ角度分布を有しており、基板面内で結晶特性が異なる窒化物半導体基板である。特に、窒化物半導体基板では、混晶層のIn組成では、オフ角度分布の影響を強く受けることが知られている。このため、基板面内の温度分布を一様にしても、基板面内のオフ角度分布により、混晶層の組成で取り込まれるInの量が基板面内で一様にならないという問題がある。
【0023】
そこで、有機金属気相成長装置110では、非対称なオフ角度分布を有する基板111に一様な結晶特性を有するエピタキシャル薄膜を成長させるために、エピタキシャル薄膜の面内分布を打ち消すことが可能な温度分布を形成する。具体的には、温度分布を一定とした場合において、基板面内で特性In組成が異なってしまう基板を用いて、温度分布を基板面内で形成させて膜特性分布を一様とする。このため、基板表面内で非対称な温度分布を生み出すために、基板111のオフ角度分布に合わせて、中心を基準として非対称な溝パターンで溝加工が表面に施された均熱板114を使用する。
【0024】
ここでは、一例として、図2に示すように、均熱板114では、材質が炭化珪素(SiC)であり、直径が52.6mmであり、厚みが5.5mmであり、領域A,B,C,Dの4領域に分かれており、均熱板114のX方向の一端から他端に向かって、領域A,B,C,Dの順に配置されている。領域A,B,Cの各領域には、溝加工が施されており、溝の断面形状を矩形として、縞状の凸凹が形成されている。領域AのX方向寸法は、13.3mmであり、領域DのX方向寸法と同じである。領域BのX方向寸法は、13mmであり、領域CのX方向寸法と同じである。
【0025】
領域Aでは、Y方向に沿って、幅1mm、深さ0.1mmの溝が2mmのピッチで形成されている。領域Bでは、Y方向に沿って、幅1mm、深さ0.1mmの溝が3mmのピッチで形成されている。領域Cでは、Y方向に沿って、幅1mm、深さ0.1mmの溝が4mmのピッチで形成されている。領域Dでは、溝が形成されず、フラットな状態である。すなわち、領域A,B,Cには、領域A,B,Cの順にピッチが大きくなる溝が形成されている。領域Dには、溝が形成されていない。つまり、均熱板114のX方向の一端から他端に向かって、ピッチが大きくなるように、またはピッチが小さくなるように、溝が形成されている。
【0026】
また、図3(A)に示すように、均熱板114は、基板111の主面の裏側と接触する。基板111は、オフ角度の小さな領域から順に領域A、B、C、Dと接触する。ここで、均熱板114の溝部分は、基板111と直接接触せず、窒化物基板111と均熱板114との接触面積は、領域A,B,C,Dの順に、大きくなっている。これに伴い、図3(B)に示すように、基板111の表面温度の分布として、領域A,B,C,Dの各領域に対応する部分の順に、段階的に基板温度が上がる温度分布が得られる。これによって、基板111上のInGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布が、基板111の温度分布によって打ち消される。
【0027】
<比較>
ここで、従来の有機金属気相成長装置10と本実施の形態における有機金属気相成長装置110との比較結果について説明する。InGaN量子井戸構造の有機金属気相成長では、III族源であるGa原料にトリメチルガリウム(TMA)を用い、In原料にトリメチルインジウム(TMI)を用いる。V族源であるN原料にアンモニア(NH)を用い、キャリアガスに窒素(N)を用いている。なお、従来の有機金属気相成長装置10を使用して、窒化物半導体基板上にInGaN量子井戸構造を、基板温度800℃でエピタキシャル成長させた場合のフォトルミネセンス発光ピークの波長(以下、PLピーク波長と呼称する。)の面内分布を図4に示す。図4に示す点線部分の波長分布を図5に示す。InGaN量子井戸のIn組成の成長温度(基板表面温度)に応じて変化するPLピーク波長の分布を図6に示す。有機金属気相成長装置110を使用して、窒化物半導体基板上にInGaN量子井戸構造をエピタキシャル成長させた場合において、図4に示す点線部分に相当する波長分布を図7に示す。
【0028】
なお、図4,5,7において、窒化物半導体基板のオフ角度が小さい方の端を0mmとしている。図6は、従来の有機金属気相成長装置10を使用した場合には、基板表面温度を均一にしてエピタキシャル成長させたものである。また、本実施の形態における有機金属気相成長110を使用した場合には、均熱板114によって基板表面温度分布を持たせて基板オフ角度分布より生じるInGaN膜のPL波長分布を成長温度分布にて相殺させて一様化を図ったものである。
【0029】
まず、図11に示す従来の有機金属気相成長装置10を使用して、窒化物半導体基板上に半導体素子を作製したとする。この場合において、従来の平坦な均熱板14が使用されて、窒化物半導体基板上にエピタキシャル薄膜が形成される。窒化物半導体基板上に形成されたエピタキシャル薄膜については、図4、図5に示すように、窒化物半導体基板のオフ角度分布に応じて、PLピーク波長の分布が変化する。例えば、位置0mm−10mmのように、窒化物半導体基板のオフ角度が大きい領域では、短波のPLピーク波長が見られる。位置30mm−40mmのように、窒化物半導体基板のオフ角度が小さい領域では、長波のPLピーク波長が見られる。
【0030】
これに対して、有機金属気相成長装置110を使用して、窒化物半導体基板上に半導体素子を作製したとする。この場合において、図2に示す非対称な溝パターンが形成された均熱板114が使用されて、窒化物半導体基板上にエピタキシャル薄膜が形成される。窒化物半導体基板上に形成されたエピタキシャル薄膜については、図7に示す波長分布のように、図5に示す波長分布よりも、面内分布が一様に改善される。例えば、位置0mm−10mmのように、窒化物半導体基板のオフ角度が大きい領域では、PLピーク波長が長くなる。位置30mm−40mmのように、窒化物半導体基板のオフ角度が小さい領域では、PLピーク波長が短くなる。
【0031】
一般的に、InGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布は、図4、図5に示すように、窒化物半導体基板のオフ角度分布に応じて変化することが知られている。また、InGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布は、成長温度の影響を強く受けることが知られている。図6に示すように、成長温度が下がると、PLピーク波長が長くなり、成長温度が上がると、PLピーク波長が短くなることが窺える。すなわち、InGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布は、窒化物半導体基板のオフ角度分布と、均熱板によって生み出される温度分布との影響を強く受ける。図7に示す結果は、窒化物半導体基板のオフ角度分布により生じる面内のIn組成分布が、図2に示す非対称な溝パターンが形成された均熱板114が生み出す温度分布によって打ち消されることによって、得られたものである。
【0032】
また、InGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布に応じてPLピーク波長の分布が変化すると、デバイス作製における歩留りが低下する原因になる。
これらの点を踏まえて、有機金属気相成長装置110を使用した場合には、従来の有機金属気相成長装置10を使用した場合と比べて、窒化物半導体基板上のInGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布を小さくすることができる。これによって、デバイス作製における歩留りを向上させることができる。
【0033】
<まとめ>
以上、本実施の形態では、基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンが均熱板に形成されている。これによって、窒化物半導体基板のように、面内で非対称な結晶特性を有する基板に対して、エピタキシャル薄膜の面内分布を打ち消すことが可能な基板表面の温度分布を得ることができる。これに伴い、基板面内で一様性の高いエピタキシャル薄膜を得ることができる。結果、デバイス作製における歩留りを向上させることができる。
【0034】
(実施の形態2)
以下、本発明に係わる実施の形態2について説明する。
<構成>
図8(A)に示すように、均熱板214は、実施の形態1における均熱板114と比べて、基板111の主面の裏側と非接触である点が異なる。ここでは、一例として、均熱板214と基板111との間隔が150μmに設定されている。溝の深さが100μmに設定されている。均熱板214の溝領域と基板111との距離が、均熱板214と基板111との間隔(150μm)と溝の深さ(100μm)とを足した値(250μm)になる。このとき、図8(B)に示すように、基板111の表面温度の分布として、領域A,B,C,Dの各領域に対応する部分の順に、段階的に基板温度が上がる温度分布が得られる。これは、均熱板214の溝領域から基板111が受ける熱放射量が、均熱板214と基板111との間隔が大きくなることで、少なくなっているためである。これによって、均熱板214と基板111とを平行にした状態で、均熱板214と基板111との間に隙間を設けても、基板111が受ける熱放射量の違いによって、実施の形態1と同様な傾向の温度分布が生じる。
【0035】
なお、均熱板214は、実施の形態1における均熱板114と同様の溝加工が施されている。また、基板111のオフ角度の小さな領域から順に、均熱板214の領域A,B,C,Dが個別に対応する。
【0036】
これによって、実施の形態1と同様に、エピタキシャル成長後のInGaN量子井戸構造のIn組成は、基板111のオフ角度分布、及び均熱板214によって生み出される温度分布の足し合わせとなって現れる。このことから、図9に示すように、図5に示すPLピーク波長よりも、面内分布が一様に改善されている。なお、図9において、窒化物半導体基板のオフ角度が小さい方の端を0mmとしている。
【0037】
<まとめ>
以上、本実施の形態では、基板111と均熱板214とを非接触にしても、実施の形態1と同様に、従来の平坦な均熱板14を使用した場合に比べて、基板111上のInGaN量子井戸構造のIn組成の面内分布を小さくすることができる。結果、デバイス作製における歩留りを向上させることができる。
【0038】
<変形例>
(1)なお、実施の形態1では、均熱板114の領域を4分割としているが、基板のオフ角度分布の大きさ、及び温度分布の平滑化に応じて分割領域数を増やしてもよい。同様に、実施の形態2では、均熱板214の領域を4分割としているが、基板のオフ角度分布の大きさ、及び温度分布の平滑化に応じて分割領域数を増やしてもよい。
【0039】
(2)なお、実施の形態1では、溝の深さを0.1mmとしているが、均熱板114の厚さに応じて2mm程度まで溝の深さを変化させるとしてもよいし、領域ごとに溝の深さを変化させるとしてもよい。同様に、実施の形態2では、溝の深さを0.1mmとしているが、均熱板214の厚さに応じて2mm程度まで溝の深さを変化させるとしてもよいし、領域ごとに溝の深さを変化させるとしてもよい。
【0040】
(3)なお、実施の形態1では、溝の幅を1mmとしているが、0.4mm以上、1mm以下の範囲内で溝の幅を変化させるとしてもよいし、領域ごとに溝の幅を変化させるとしてもよい。実施の形態2では、溝の幅を1mmとしているが、0.4mm以上、1mm以下の範囲内で溝の幅を変化させるとしてもよいし、領域ごとに溝の幅を変化させるとしてもよい。
【0041】
(4)なお、実施の形態1では、溝のピッチを2mm以上としているが、溝の幅に応じて溝のピッチを変化させるとしてもよい。好ましくは、ピッチが0.8mm以上である。同様に、実施の形態2では、溝のピッチを2mm以上としているが、溝の幅に応じて溝のピッチを変化させるとしてもよい。好ましくは、ピッチが0.8mm以上である。
【0042】
(5)なお、実施の形態2では、均熱板214と基板111との間隔を150μmとしているが、10μm以上の間隔を設けていればよい。
(6)なお、実施の形態1,2では、溝の断面形状を矩形としているが、図10(A)に示すように、溝の断面形状を三角形としてもよい。溝の断面形状が三角形である場合には、溝の断面形状が矩形である場合に比べ、均熱板314から基板111が受ける単位領域辺りの熱放射量を、増加させることが可能である。さらに、均熱板314と基板111との間隔を300μm以上と大きくすることで、均熱板314の溝領域内での表面積の違いによる熱放射の影響を顕著にすることができる。このとき、各領域の表面積は、領域A,B,C,Dの順に小さくなっている。このことから、均熱板314から熱放射で得られる熱が、領域A,B,C,Dの順に小さくなっている。図10(B)に示すように、基板111の表面温度の分布として、領域A,B,C,Dの各領域に対応する部分の順に、段階的に基板温度が下がる温度部分を得ることも可能となる。これによって、均熱板314と基板111との間隔を制御することで領域A,B,C,Dの温度分布を段階的に高く設定することも低く設定することも可能となる。
【0043】
(7)なお、実施の形態1,2では、自公転機能を有する有機金属気相成長装置を使用しているが、公転機能のみを有した有機金属気相成長装置においても、基板111の表面温度の不均一性を生み出すことが可能であり、同様の効果を得ることができる。
【0044】
(8)なお、実施の形態1,2では、フェイスダウン型の有機金属気相成長装置を使用しているが、フェイスアップ型の有機金属気相成長装置を使用するとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、エピタキシャル薄膜の組成面内均一性を向上させるための均熱板を有する有機金属気相成長装置などとして、利用することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 有機金属気相成長装置
11 基板
12 サセプタ
12a 内周
12b 外周
13 ヒータ
14 均熱板
14a 傾斜面
16 ガス供給口
17 ガス排気口
18 反応炉
110 有機金属気相成長装置
111 基板
112 サセプタ
113 ヒータ
114 均熱板
115 基板保持部
116 ガス供給口
117 ガス排気口
118 反応炉
214 均熱板
314 均熱板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非対称なオフ角度分布を有する基板の主面上にエピタキシャル薄膜を形成する気相成長装置であって、
前記基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンで溝加工が表面に施されており、溝加工が施された表面を前記基板の主面の裏側に対向するようにして配置される均熱板と、
前記基板の主面を下にした状態で周回部分に前記基板が配置されて、前記基板と前記均熱板とを一緒に周方向に回転させるサセプタと、
前記均熱板を通して前記基板を加熱して、基板面内で非対称な温度分布を生み出す加熱手段とを備える
ことを特徴とする気相成長装置。
【請求項2】
前記均熱板の表面が複数の領域に分かれており、領域ごとに異なる形態で凸凹が形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項3】
領域ごとに深さが異なる溝が形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項4】
領域ごとにピッチが異なる溝が形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の気相成長装置。
【請求項5】
前記基板と前記均熱板とを保持して一緒に自転させる保持手段を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項6】
前記均熱板が前記基板と接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項7】
前記均熱板が前記基板と非接触である
ことを特徴とする請求項1に記載の気相成長装置。
【請求項8】
非対称なオフ角度分布を有する基板の主面上にエピタキシャル薄膜を形成する気相成長方法であって、
前記基板の主面を下にした状態でサセプタの周回部分に前記基板を配置して、
前記基板のオフ角度分布に合わせて非対称な溝パターンで溝加工が表面に施された均熱板を、溝加工が施された表面を前記基板の主面の裏側に対向するようにして配置して、
前記サセプタで前記基板と前記均熱板とを一緒に周方向に回転させながら、加熱手段で前記均熱板を通して前記基板を加熱して、基板面内で非対称な温度分布を生み出す
ことを特徴とする気相成長方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−18811(P2011−18811A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−163218(P2009−163218)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】