説明

液状エポキシ樹脂組成物とそれを用いた電子部品

【課題】
低粘度化による液状性と反応性を保持しつつ硬化物の低弾性率化と高靭性化をはかることができる、液状エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
常温で液状であるエポキシ樹脂組成物であって、組成成分として、
a)常温で液状であるエポキシ樹脂、
b)ポリビニルアセタール系改質材、
c)硬化剤及び硬化促進剤、
d)フィラー
を含有し、前記したポリビニルアセタール系改質材の配合割合は、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲内であり、かつ、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対して、0.5〜7質量%の範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状エポキシ樹脂組成物とそれを用いた電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気・電子分野の接着剤や封止材等においてエポキシ樹脂組成物が広く使用されている。これらエポキシ樹脂組成物においては、その硬化物の低弾性化、高靱性化を図るための工夫が様々に行われている。
【0003】
例えば、高靱性化による耐クラック性や耐衝撃性の向上のために、シリコーンパウダーを添加することや、ポリビニルアセタール樹脂を配合することが知られている。(特許文献1〜6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−150555号公報
【特許文献2】特開昭61−197624号公報
【特許文献3】特開平08−134425号公報
【特許文献4】特開2001−181475号公報
【特許文献5】特開2001−316649号公報
【特許文献6】特開2010−202862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、シリコーンパウダーの添加については、機械的強度の低下やガラス転移温度の低下により信頼性が低下しやすい点が懸念され、また、エポキシ樹脂組成物の流動性が低下しやすい点も問題である。
一方、ポリビニルアセタール樹脂の配合では、硬化物の低弾性、高靱性化とともに組成物の低粘度化、流動性の向上とのバランスが重要な課題である。
それというのも、精密な接着作業や緻密な封止成形を主用途とする常温液状のエポキシ樹脂組成物において、液状組成物の低粘度化、流動性の向上が、主要課題になっているからである。
【0006】
そこで、本発明は、液状エポキシ樹脂組成物に関して、低粘度化による所要の流動性と反応性を確保しつつ、硬化物の弾性率を抑え、かつ、硬化物の耐衝撃性、靭性を高めた液状エポキシ樹脂組成物とそれを用いた電子部品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
すなわち、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、組成成分として、
a)常温で液状であるエポキシ樹脂、
b)ポリビニルアセタール系改質材、
c)硬化剤及び硬化促進剤、
d)フィラー
を含有する常温で液状の液状エポキシ樹脂組成物であり、かつ、ポリビニルアセタール系改質材の配合割合は、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲内であり、かつ、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対して、0.5〜7質量%の範囲内であることを特徴とする。
【0008】
この液状エポキシ樹脂組成物では、常温で液状であるエポキシ樹脂は、常温での粘度が0.01〜20Pa・sであることが好ましい。液状エポキシ樹脂組成物では、硬化剤はアミン系硬化剤を含み、硬化促進剤はイミダゾール系硬化促進剤を含むことが好ましい。
さらに、液状エポキシ樹脂組成物では、ポリビニルアセタール系改質材は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコールであって、アセタール化度が65モル%以上であって、数平均分子量が1〜18万であることが好ましい。
【0009】
また、本発明の電子部品は、以上のとおりの液状エポキシ樹脂組成物の硬化物により接着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物によれば、低粘度化による所要の流動性と反応性を確保しつつ、硬化物の弾性率を抑え、かつ、硬化物の耐衝撃性、靭性を高めることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、常温で液状であるエポキシ樹脂に対して、前記のとおりポリビニルアセタール系改質材が配合される。ポリビニルアセタール系改質材の配合割合は、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲内であり、かつ、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対して、0.5〜7質量%の範囲内である。
このようなポリビニルアセタール系改質材の配合割合の範囲内において本発明の所望の効果が得られることになる。より好適には、その配合割合は、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して、1〜10質量部の範囲内であり、かつ、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対して、0.8〜5質量%の範囲内である。
【0013】
本発明に用いられるポリビニルアセタール系改質材としては、例えば、アルキルアセタール化ポリビニルアルコールであって、アセタール化度が65モル%以上のものが挙げられる。数平均分子量は1〜18万のものを用いることができる。このアセタール化度と数平均分子量の範囲内において、液状エポキシ樹脂組成物の低粘度化、流動性の向上が図られ、また、硬化物の低弾性化、高靱性化が可能となる。これらのバランスは実際的に好ましいものとなる。より好適には、アセタール化度が70〜80モル%であって、数平均分子量が2〜15万の範囲内であることが考慮される。
これらのポリビニルアセタール系改質材は、市販品を入手して利用しても良いし、合成したものを用いても良い。合成品については、たとえば、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合して得たビニルエステル系重合体をケン化してビニルアルコール系重合体とし、次いでアルデヒド類と反応させてアセタール化する方法などにより取得することが可能である。
【0014】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物に配合される常温で液状であるエポキシ樹脂としては、例えば、1分子内に2以上のエポキシ基を有するもので、常温での粘度が0.01〜20Pa・sであることが好ましい。
常温、すなわち、一般的に15℃〜25℃の温度下で液状であれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールF型エポキシ樹脂等の水添ビスフェノール型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、硬化剤として、好ましくはアミン系硬化剤が配合される。アミン系硬化剤としては、たとえば、三井化学製「エポミックQ-640」を例示することができる。
また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、硬化促進剤として、好ましくはイミダゾール系硬化促進剤が配合される。イミダゾール系硬化促進剤としては、たとえば、四国化成製「1M2PZ」を例示することができる。
【0016】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、硬化収縮や熱歪みを低減し、機械的強度を高めるためにフィラーが配合される。フィラーとしては、無機質のもの、たとえば、溶融球状シリカ等を好ましく用いることができる。フィラーの平均粒径としては、数μm〜十数μm程度のものを好ましく用いることができる。
【0017】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲内において、さらに他の成分を配合することができる。このような他の成分の具体例としては、難燃剤、密着性付与剤、着色剤、消泡剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0018】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物の粘度は、塗布時の作業性等を考慮すると、常温で液状であり、好ましくは室温(25℃)で50Pa・s以下、さらに好ましくは室温(25℃)で5Pa・s未満である。粘度を下げるため、反応性希釈剤や有機溶媒を適宜添加することもできる。
本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、常温で液状であるエポキシ樹脂を含む主剤と、硬化剤及び硬化促進剤を含む混合剤(副剤)との二液混合型として構成することもできる。両剤を混合して調合した直後のエポキシ樹脂組成物の粘度が50Pa・s以下であるものとすることもできる。
【0019】
また、本発明の液状エポキシ樹脂組成物は、定法により、エポキシ樹脂、硬化剤、および必要に応じて他の成分を配合し、必要に応じて加熱処理や冷却処理を行いながら、撹拌、溶解、混合、粉砕を行い、トランスファー成形に好適な粉体状のエポキシ樹脂組成物に調製することもできる。
【0020】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物を用いて半導体素子等の部材を封止する際には、例えば、電子部品の種類等に応じて、従来知られている方法や態様により行うことができる。例えば、ディスペンサーからの吐出によるポッティング封止、アンダーフィル封止、加圧と加熱を同時に行う圧接封止、マスクやスクリーンを用いた印刷による封止等が挙げられる。多層回路板や、銅貼り積層回路シート等では、印刷や塗工による接着や封止ができる。
【0021】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物の硬化条件は、特に限定されるものではないが、例えば、80〜160℃、0.1〜5時間で行うことができる。
【0022】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物によれば、このようにして封止した硬化物の弾性率を5GPa以下とすることができる。さらに好ましくは弾性率を1GPa以下とすることができる。
また、粘度については、100Pa・s未満、さらには50Pa・s以下に、耐衝撃試験では、10kJ/m2以上にすることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0024】
表1に示す配合量(質量部)で各成分を配合し、液状エポキシ樹脂組成物を調製した。
【0025】
表1に示す配合成分として、以下のものを用いた。
〈主剤としての常温で液状であるエポキシ樹脂〉
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジャパン・エポキシレジン(株)製、エピコー
ト828、エポキシ当量 189
〈改質材〉
・ポリビニルアセタール系樹脂、積水化学工業(株)製、KS−1
〈硬化剤〉
・アミン系硬化剤、三井化学(株)製、エポミックQ−640
〈硬化促進剤〉
・イミダゾール系硬化促進剤、四国化成(株)製、1M2PZ
〈反応性希釈剤〉
・エチルヘキシルグリシジルエーテル系反応性希釈剤、ナガセケムテックス(株) 製、EX−121
〈フィラー〉
・溶融球状シリカ、平均粒径 7μm
実施例および比較例に用いる各液状エポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む主剤と、硬化剤、硬化促進剤を含む混合剤(副剤)の二液型として調製した。使用直前に、その二液を混合して液状エポキシ樹脂組成物としたものを用いて次の評価を行った。
なお、改質剤、フィラー、反応性希釈剤、その他配合成分は、粘度や反応性に特段の不都合のない限り、主剤に配合しておいても、副剤に配合しておいても、両剤に分けて配合しておいてもよい。
【0026】
[粘度]
液状エポキシ樹脂組成物の粘度を室温(25℃)にてB型粘度計を用いて測定し、次の基準に基づき評価した。
○:粘度50Pa・s未満
△:粘度50Pa・s以上100Pa・s未満
×:粘度100Pa・s以上
[弾性率]
液状エポキシ樹脂組成物をガラス板で挟みこみ、150℃で2時間加熱して硬化させて、長さ58mm×幅14mm×厚さ7mmの試験片を形成した。この試験片に関して引張圧縮試験機を用い、一般的な3点曲げ試験により室温(25℃)で曲げ弾性率を測定し、次の基準に基づき評価した。
○:5GPa未満、
△:5GPa以上10GPa未満、
×:10GPa以上
[耐衝撃性]
液状エポキシ樹脂組成物をガラス板で挟みこみ、150℃で2時間加熱して硬化させて、長さ58mm×幅14mm×厚さ7mmの試験片を形成した。この試験片にあらかじめクラックを入れ、シャルピー耐衝撃性試験を行い、耐衝撃性試験とした。判別基準は下記の通りに定めた。
○:10kJ/m以上
△:5kJ/m以上10kJ/m未満
×:5kJ/m未満
これらの評価結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
表1より、ポリビニルアセタール系改質材を、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して1.75〜17.5質量部配合し、かつ、液状エポキシ樹脂組成物全量に対して約1〜5質量%配合した実施例1〜3の液状エポキシ樹脂組成物は、粘度50Pa・s未満で所要の液状性と反応性を確保しつつ、硬化物の弾性率を5GPa以下の低いものとし、かつ、耐衝撃性、すなわち靱性を10kJ/m以上とすることができた。
【0030】
一方、表2のシリコーンパウダーを配合した比較例1の液状エポキシ樹脂組成物は、粘度50Pa・s未満で液状性はあるものの、硬化物の弾性率は10GPa以上で可とう性に欠け、耐衝撃性、すなわち靱性は5kJ/m未満であった。比較例1の液状エポキシ樹脂組成物は、フィラーのシリカを添加していないので、かろうじて粘度50Pa・s未満の液状性はあったが、硬化収縮は大きいことが目視で確認された。
【0031】
主剤のビスフェノールA型エポキシ樹脂を全て反応性希釈剤にした比較例2の液状エポキシ樹脂組成物は、シリコーンパウダーを含んでおり、粘度50Pa・s未満で所要の液状性はあるものの反応性が反応性が低下しており、硬化物の弾性率は10GPa以上で低減せず、耐衝撃性、すなわち靱性は10kJ/m未満であった。
【0032】
シリコーンパウダーの含有量が9質量%の比較例3の液状エポキシ樹脂組成物は、粘度100Pa・s以上で液状性は無く、硬化物の弾性率は10GPa以上で可とう性に欠け、耐衝撃性、すなわち靱性は10kJ/m未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成成分として、
a)常温で液状であるエポキシ樹脂、
b)ポリビニルアセタール系改質材、
c)硬化剤及び硬化促進剤、
d)フィラー
を含有する常温で液状であるエポキシ樹脂組成物であって、
前記したポリビニルアセタール系改質材の配合割合は、常温で液状であるエポキシ樹脂100質量部に対して、0.5〜20質量部の範囲内であり、かつ、液状エポキシ樹脂組成物の全体量に対して、0.5〜7質量%の範囲内であることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
常温で液状であるエポキシ樹脂は、常温での粘度が0.01〜20Pa・sであることを特徴とする請求項1記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
硬化剤はアミン系硬化剤を含み、硬化促進剤はイミダゾール系硬化促進剤を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール系改質材は、アルキルアセタール化ポリビニルアルコールであって、アセタール化度が65モル%以上であり、数平均分子量が1〜18万であることを特徴とする、請求項1ないし3うちのいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし5のうちのいずれか一項に記載の液状エポキシ樹脂組成物の硬化物により接着されていることを特徴とする電子部品。

【公開番号】特開2012−172054(P2012−172054A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35209(P2011−35209)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】