説明

炭素膜を有する半導体装置及びその製造方法

【課題】 汎用性が高く、低コストで省資源である方法で、任意の場所、任意の形状を持ち、導電性と透明性を両立したグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス膜が形成された半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明のグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス膜は、レーザー照射により、様々な炭素材料基板もしくは炭素材料塗布基板から、それに対面して配置される様々な基板上に形成される。レーザーはアブレーション作用と黒鉛化作用を同時に担う。また、レーザーの相対的な走査により、任意の場所、任意の形状のグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜が形成され、これら炭素膜からなる配線、電極、チャネルを備えた半導体装置が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフェン、グラファイト、アモルファス炭素などの炭素膜を有する半導体装置及びその製造方法に関する。より詳しくは、真空装置を用いず大気中でレーザーアブレーションを利用することにより、様々な種類の炭素材料を任意の基板表面に転写することで、所望の膜厚、大きさ、形状で形成可能な炭素膜からなる配線、電極、半導体チャネルを有する半導体装置、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は産業上、利用価値が高い、重要な材料である。炭素の同素体としては、古代から知られるダイヤモンド、グラファイト、アモルファス炭素がある。また、20世紀後半に発明もしくは発見された、粒径がナノメートルサイズのダイヤモンド微粒子であるナノダイヤモンド、C60やC70に代表される分子クラスターであるフラーレン、直径がナノメートルサイズの筒状グラファイトであるカーボンナノチューブがある。さらに、最近注目を集めている新規ナノ物質として、一層もしくは2層以上のグラファイトであるグラフェンがある。それぞれ産業上、様々な分野で活用されるか、もしくは利用されることが期待されている。
【0003】
ダイヤモンドはsp炭素が3次元的に連なった結晶、もしくは巨大分子である。その非常に硬いという性質を活かして、工具や機械部品の磨耗防止のコーティングなどのメカトロニクス分野、また優れた電子物性を活かして、ダイヤモンドデバイスなどのエレクトロニクス分野など、広範な産業分野で利用されている。この他、ダイヤモンドは微粒子としても利用される。概ね25nmから100μm径のダイヤモンド微粒子が研磨剤として廉価で市販されている。また、ナノメートルサイズの直径を持つダイヤモンド微粒子はナノダイヤモンドと呼ばれる。ナノダイヤモンドはそれ以外のダイヤモンド微粒子とは異なり、火薬を不活性雰囲気中で爆発させることで、不完全燃焼の炭素をダイヤモンドに結晶成長させる爆発法という方法で製造される。例えば、粒径が4.3±0.4nmと単分散に近い大きさの揃った高品位のナノダイヤモンドが国内で販売されている。直径約4nmのナノダイヤモンドは炭素数が約6000個、すなわち、C6000であり、C60フラーレンが100個分である。非特許文献3(ダイヤモンド アンド リレイテッド マテリアルズ誌、16巻、2018−2022頁、2007年)によると、ナノダイヤモンドは溶媒に分散させると、コロイド溶液になり微粒子としての性質を呈する一方で、結晶化してウイスカーになり分子としての性質も持つとされる。このようにナノダイヤモンドは分子と微粒子の両義的性質を持ち、他に類を見ない特異なナノ材料として位置付けられる。ただ、ナノダイヤモンドは産業上の利用例が殆どなく、現在、応用を研究開発中であり、今後の活用が期待されている。
【0004】
グラファイトは産業上、最も古くから利用されてきた炭素材料である。グラファイトはsp炭素原子の六員環が2次元平面上多数連なった巨大な網平面をつくり、その網平面が平行に積層した結晶構造を持つ。厳密にはグラファイトは前記の構造を持つsp炭素のみで構成される3次元的規則性のある層状物質であるが、全体としては無定形ながらグラファイト構造を一部含む炭素固体をグラファイトに広義に含める場合もある。例えば、sp炭素からなるダイヤモンドとsp炭素からなるグラファイトの中間的な性質を持ち、水素を10〜40原子%含有するダイヤモンド状炭素を慣用的にグラファイトと称する用例が見受けられる。グラファイトの材料的特長としては、第1に、グラファイトは層に垂直な方向には壁解し易いが、面内はsp炭素の共有結合で構成されているため、構造が緻密で機械的強度が非常に高いことが挙げられる。また、第2の特徴として、グラファイトが金属的特性を持ち、導電性を有することが挙げられる。例えば、コロイド状グラファイトの抵抗率は7.5×10−2Ωcm程度と中程度の導電性を呈し、天然単結晶グラファイトの抵抗率は約5×10−5Ωcmと金属並みの良導体である。
【0005】
グラファイトとその関連炭素材料は、上記のような優れた機械的・電気的特性を持つことから、産業上、多岐に渡り利用されている。例えば、グラファイト膜の緻密性や剛性を応用したものとして、特許文献1(特開平9−330661号公報)に開示される陰極管パネルの画像コントラストを高める目的の遮光膜、特許文献2(特開2008−106361号公報)に開示されるグラファイトからなる膜は工具や機械部品などの摩耗を防ぐ保護膜、特許文献3(特開2008−9447号公報)に開示されるプラスチック表面のガスバリア層が挙げられる。また、グラファイト膜の導電性を応用するものとしては特許文献4(特開平4−83874)に開示される導電性膜、特許文献5(特開平9−315808号公報)に開示される表面積の大きい電池の電極材料、特許文献6乃至8(特開平3−268477号公報、特開5−36847号公報、特開平5−175359号公報)に開示されるプリント配線や多層配線などが挙げられる。
【0006】
グラファイト膜の形成方法としては、前記特許文献1ではグラファイト溶液を全面塗布後にスプレー現象で不要部分を除去する方法、前記特許文献2では炭素固体を原料とする真空中のアーク放電法、前記特許文献3乃至4では炭化水素系ガスを原料とする真空中のプラズマCVD法(化学気相成長法)、前記特許文献5ではメタンガスを原料とする真空中のプラズマジェット法、前記特許文献6乃至8ではCVD成長ダイヤモンド膜をレーザー加熱してグラファイト膜へ相変化させる方法が開示されている。さらに、特許文献9(特開2001−254170号公報)には非晶質炭素膜の成膜装置と成膜方法が開示されている。特許文献9によれば、真空チャンバ内で、超短パルスのレーザーパルスを成膜材料に照射し、成膜材料に対面する成膜部材の表面に非晶質炭素の薄膜を成膜している。
【0007】
グラフェンはグラファイトを一層だけ取り出したものであり、安定なる2次元単層グラファイトである。通常、グラフェンはグラファイト1層を指す場合が多いが、層数が2層以上のものを含む場合もある。前者は単層グラフェン、後者は多層グラフェンと呼ばれている。非特許文献1(ネイチャー・マテリアルズ誌、6巻、183−191頁、2007年)に示されるように、グラフェンはカーボンナノチューブに匹敵もしくはそれを凌駕するナノ材料のニューフェースとして国内外を問わず注目される炭素材料である。グラフェンは巨視的サイズでは金属であるが、非特許文献2(サイエンス誌、319巻、1229−1232頁、2008年)に示されるように、幅がサブ10nm以下の短冊状グラフェンは半導体であることが知られている。半導体グラフェンの移動度は200,000cm−1−1を超えることから、ポストシリコン・化合物の超高速デバイスのチャネル材料として有望視されている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−330661号公報 (第1−3頁)
【特許文献2】特開2008−106361号公報 (第1−4頁)
【特許文献3】特開2008−94447号公報 (第1−3頁)
【特許文献4】特開平4−83874号公報 (第1頁)
【特許文献5】特開平9−315808号公報 (第1−3頁)
【特許文献6】特開平3−268477号公報 (第1頁)
【特許文献7】特開平5−36847公報 (第1−4頁)
【特許文献8】特開平5−175359号公報 (第1−4頁)
【特許文献9】特開2001−254170号公報
【非特許文献1】ネイチャー・マテリアルズ誌、6巻、183−191頁、2007年
【非特許文献2】サイエンス誌、319巻、1229−1232頁、2008年
【非特許文献3】ダイヤモンド アンド リレイテッド マテリアルズ誌、16巻、2018−2022頁、2007年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1乃至9に開示されたグラファイト膜とその製造方法にはいくつか問題点がある。第1の問題点は、特許文献1のグラファイト膜のパターン形成方法において、グラファイト溶液を全面に塗布した後、レジストのリフトオフで余分な部分を除去する際、多段階の特殊なスプレー装置を用いる必要があり、汎用性や簡便性に欠ける点である。
【0010】
第2の問題点は、特許文献2乃至5及び9のグラファイト膜形成方法において、高真空を必要とし、高電圧もしくは大電流を必要とすることから、設備が大型化する傾向があり、製造に必要なエネルギー消費も大きいことが挙げられる。また、多量の副生成物や未反応ガスが残るので、その除害にコストが掛かり、環境への悪影響も懸念される問題もある。さらに、製膜する対象物が全面グラファイト膜で覆われる傾向があり、所望の部分だけにグラファイト膜を形成したり、グラファイト膜の微小パターンを形成するには向かないという技術上の欠点もある。
【0011】
第3の問題点は、特許文献6乃至8のダイヤモンド膜の相変化によるグラファイト膜形成方法において、グラファイト膜の原料となるダイヤモンド膜の形成には真空装置や高出力電源が必要なことに起因して、第2の問題点と同じく、設備や製造エネルギーのコストがかさむことである。また、グラファイト膜の配線パターンのみを残し、黒鉛化していないダイヤモンド膜を選択的に除去するのが困難であるという問題点もある。
【0012】
第4の問題点は、特許文献1乃至8に共通して、グラファイト膜を極限まで薄くしたグラフェン膜を形成できないことである。特許文献1のグラファイト膜はグラファイト溶液を塗布するのみであり、一般にグラファイト溶液に使用するコロイド状グラファイトの粒径は100nm以上であるため、極薄であるグラフェン膜の形成は期待できない。特許文献2乃至5の製膜方法では、ダイヤモンド膜もしくはダイヤモンドとグラファイトの中間的性質を持つダイヤモンド状炭素膜しか形成できない。
【0013】
第5の問題点は、透明性と導電性を兼ね備えたグラファイト膜が得られていないことである。特許文献1のグラファイト膜はそもそも光の透過を遮るマスクとして利用されており、特許文献2では耐摩耗性と耐久性に特化したグラファイト膜である。特許文献3では一部、透明性に関する言及があるが、膜の実体はダイヤモンド状炭素であるので導電性は期待できない。特許文献4では導電性グラファイト膜が開示されているが、高温の遷移金属基板上にしか製膜できないので、そもそも、透明性を議論できない。同様に、特許文献5でもグラファイト膜を形成する基板温度が800℃であるので、通常、透明基板として用いられるガラスやプラスチック等の耐熱温度の低い材料上には製膜できない。また。特許文献6乃至8においては、透明性の無いプリント基板やシリコン基板上でのグラファイト膜形成なので、透明性を確保できない。
【0014】
第6の問題点は、特許文献1乃至8に共通して、環境負荷と材料コストの観点が欠如している点である。従来技術では、材料コストが嵩む炭素含有ガスを用いたり、炭素固体を用いる場合でも、製造過程で生じる未反応物や不要部分の排出が多く、環境負荷が大きい。
【0015】
本発明は、これらの問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、任意の場所、任意の形状のグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置及びその製造方法を提供することにある。本発明の第2の目的は、導電性と透明性が両立したグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置及びその製造方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、汎用性の高く、低コストで省資源であり、低環境負荷である方法で、グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1つの視点によれば、レーザーを利用することで、炭素材料基板から、その炭素材料基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記透明な基板ならびに前記炭素材料基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させつつ、前記炭素材料基板の炭素材料をアブレーション作用により転写することで、前記透明な基板が所定の大きさや形状に成型されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置が得られる。
【0017】
本発明のさらに他の視点によれば、レーザーを利用することで、炭素材料が塗布された炭素材料塗布基板から、その炭素材料塗布基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記炭素材料をアブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置が得られる。
【0018】
本発明のさらに他の視点によれば、レーザーを利用することで、炭素材料が塗布された炭素材料塗布基板から、その炭素材料塗布基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置が得られる。
【0019】
本発明のさらに他の視点によれば、レーザーを利用することで、使用するレーザー光に対して透明であり、炭素材料が塗布された炭素材料塗布透明基板から、その炭素材料塗布透明基板に対面する転写先基板へ、前記炭素材料をアブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置が得られる。
【0020】
本発明のさらに他の視点によれば、レーザーを利用することで、使用するレーザー光に対して透明であり、炭素材料が塗布された炭素材料塗布透明基板から、その炭素材料塗布透明基板に対面する転写先基板へ、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置が得られる。
【0021】
本発明のさらに他の視点によれば、炭素材料基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、前記透明な基板ならびに前記炭素材料基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させながら、前記炭素材料基板にレーザー光を照射して、前記炭素材料基板の表面をアブレーションすることで、前記炭素材料基板の表面を前記透明な基板に転写させ、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法が得られる。
【0022】
本発明のさらに他の視点によれば、炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、前記炭素材料のコロイド溶液を基板に塗布する塗布工程と、前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料をアブレーションすることで、前記炭素材料を前記透明な基板に転写し、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法が得られる。
【0023】
本発明のさらに他の視点によれば、炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、前記炭素材料のコロイド溶液を基板に塗布する塗布工程と、前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーションすることで、前記炭素材料を前記透明な基板に転写し、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法が得られる。
【0024】
本発明のさらに他の視点によれば、炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、前記炭素材料のコロイド溶液を、レーザー光に対して透明な基板に塗布する塗布工程と、前記炭素材料を塗布した透明な基板に、転写先基板を対面して配置する基板配置工程と、前記炭素材料を塗布した透明な基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料をアブレーションすることで、前記炭素材料を前記転写先基板に転写し、前記転写先基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法が得られる。
【0025】
本発明のさらに他の視点によれば、炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、前記炭素材料のコロイド溶液を、レーザー光に対して透明な基板に塗布する塗布工程と、前記炭素材料を塗布した透明な基板に、転写先基板を対面して配置する基板配置工程と、前記炭素材料を塗布した透明な基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーションすることで、前記炭素材料を前記転写先基板に転写し、前記転写先基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0026】
一般に、レーザーアブレーションとは、レーザー光を固体表面にある閾値で照射した場合、光エネルギーが構成分子の化学結合を直接切断し、原子、イオン、クラスターなどが爆発的に放出し、除去される現象を指す。本発明では、このレーザーアブレーションを、炭素材料そのもの、もしくは炭素材料粉末を塗布した膜の表面にレーザーを照射し、レーザー照射表面に対面した基板表面上に炭素膜を形成するのに利用する。このようにレーザー光を照射することで形成したグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を半導体装置の配線、電極、もしくは半導体チャネルとして有する半導体装置を製造することが出来る。
【0027】
また、本発明では、レーザーを照射する炭素材料がダイヤモンドなどのsp炭素で構成されている場合は、レーザーはダイヤモンド的なsp炭素をグラファイト的なsp炭素に変換する作用、すなわち、黒鉛化の作用も併せ持つ。ダイヤモンドとグラファイト(グラフェンを含む)は両者とも炭素の同素体で、温度と圧力に依存して相互に変換され得る。巨視的サイズの場合、炭素の最安定相はグラファイトであり、ダイヤモンドは準安定相である。従って、常圧では、活性化エネルギーを越える熱エネルギーを与えさえすれば、ダイヤモンドはグラファイトに自然に相変化する。すなわち、巨視的サイズでは、ダイヤモンドからグラファイトへの変換に必要な温度が低いので比較的容易である。
【0028】
しかし、粒子直径がナノメートルサイズになると、巨視的サイズとは異なる相平衡状態を呈するようになる。すなわち、ナノサイズ領域では、炭素の最安定相はダイヤモンドであり、グラファイトは準安定相である。従って、ナノサイズの場合は、ダイヤモンドからグラファイトへの変換はかなりの高温を必要とするため、通常の加熱方法では簡単には達成できない。本発明では、ダイヤモンドからグラファイトへの変換のために、局所的に短時間、エネルギーを集中可能な熱源であるレーザーで実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施形態として最初に、本発明の基本的事項について説明する。本発明の半導体装置は、導電性のある、もしくは導電性と透明性を兼ね備えたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を配線、電極、もしくは半導体チャネルとして有する。本発明の半導体装置は、基板上にレーザー光を用いてグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のうちのいずれか1つの膜を転写する。この基板上に転写された膜を半導体装置の配線、電極、もしくは半導体チャネルのうち少なくとも1つとして、利用するものである。
【0030】
これらのグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜は、あらゆる炭素材料を原料にすることが可能である。例えば、ガラス状炭素、炭素シート、炭素フィルム、天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、アモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンを用いることが出来る。特に、ナノデバイス用途にはナノダイヤモンドを使用する。
【0031】
ガラス状炭素、炭素シート、炭素フィルム、天然黒鉛、もしくは高配向性熱分解黒鉛をそのまま基板原料として用いる場合、それら基板に対面して、レーザー光に対して透明な基板を配置する。次いで、大気中、室温で、透明な基板上方からレーザー光を入射して、アブレーション現象により、上記炭素材料から透明基板に炭素材料を転写する。
【0032】
炭素膜転写の別法として、炭素材料粉末を用いることも可能である。この方法を用いると、材料の選択範囲が広がり、事実上、あらゆる構造の炭素材料を転写元として利用できる。炭素材料粉末としては、例えば、アモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンなどが挙げられる。特に、安価な一次炭素材料、炭素構造物を形成する過程で生じる切り屑、廃材の炭化物などを選択すれば、材料コストと環境負荷を低く押さえるとともに、資源の再利用にも寄与することが出来る。
【0033】
炭素材料粉末を用いる方法の手順は以下の通りである。まず、これら炭素粉末を適当な溶媒に分散させ、コロイド溶液として適当な基板上に塗布する。塗布には高価な特別の設備は不要で、大気中、室温で行われる。炭素材料を塗布する対象は、半導体、無機絶縁体、金属、プラスチック、紙等、多岐に渡る材料を使用することができるので、目的に応じて、廉価で環境コストの低い材料を選択できる。次いで、炭素材料を塗布した基板に、レーザー光が透過する基板を対面して配置する。最後に、透明な基板側からレーザー光を照射して、炭素材料を塗布した基板から透明な基板へ、アブレーション現象により炭素材料を転写する。転写の際、sp炭素から成るダイヤモンド粉末、ナノダイヤモンドはレーザー光の熱により、黒鉛化される。また、カーボンナノチューブとフラーレンはレーザー光照射により、それらの基本構造は一旦消失し、レーザー光の熱により黒鉛化する。以上により、透明な基板上に、目的のグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を形成することが出来る。
【0034】
炭素材料粉末を用いる場合の別法としては、炭素材料粉末をレーザー光に対して透明な基板に塗布する方法がある。この方法を用いると、あらゆる種類の炭素材料を利用できると同時に、任意の基板上に炭素膜を形成することが出来る。手順は以下の通りである。これら炭素材料のコロイド溶液をレーザー光が透過する基板に塗布し、その基板に対して、任意の基板を対面して配置し、炭素材料を塗布した透明な基板側からレーザー光照射することで、炭素材料を塗布した透明な基板から任意の基板へ、アブレーション現象により、炭素材料を転写する。アブレーションの際、ダイヤモンド粉末、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、フラーレンはレーザー光の熱により、黒鉛化される。
【0035】
以上のどの場合でも、導電性のある、もしくは導電性と透明性を兼ね備えたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を半導体装置の配線、電極、もしくは半導体チャネルとして有する半導体装置を製造することが出来る。更に、レーザーがスキャン可能ならば、任意の場所、任意の形状のグラファイト膜、グラフェン膜、アモルファス炭素膜が形成され、それらの膜からなる配線、電極、チャネルを備えた半導体装置が製造される。
【0036】
(工程図の説明)
次に、半導体装置及びその製造方法について、工程図を参照して説明する。図1〜4には、レーザーアブレーションによる炭素材を含む基板から透明な基板や膜への転写によるグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜(以下、3つの膜を総称して炭素膜と記載する)形成の工程図を示す。図1は、炭素材料基板から透明な基板や膜へのレーザー転写による炭素膜形成の工程図である。図2は、炭素材料塗布基板から透明な基板や膜へのレーザー転写による炭素膜形成の工程図である。図3は、炭素材料塗布透明基板から任意の基板へのレーザー転写による炭素膜形成の工程図である。図4は、転写元と転写先がともレーザー光に対して透明な基板や膜を用いるレーザー転写による炭素膜形成を表す工程図である。
【0037】
図1には、レーザーアブレーションによる炭素材料基板から透明な基板や膜へのレーザー転写による炭素膜形成の工程図を示す。まず、工程(A)に示されるように、炭素材料基板1をレーザー光に対して透明基板(又は透明膜)2に対向して、出来るだけ密着させて配置する。ここで転写先となる透明基板2の膜厚は、特に限定されない。従って透明基板の代わりに透明膜が使用可能であり、転写先の透明基板や透明膜を含めて単に透明基板と称する。転写元の基板においても基板膜厚は限定されないことから、本発明においては基板や膜を含めて単に基板と称することができる。
【0038】
次いで、工程(B)に示されるように、透明基板2の上部、すなわち、密着面とは反対の方向から、炭素材料基板1に焦点を合わせてレーザー光3を照射する。すると、レーザーが照射された炭素材料基板の一部5が、アブレーション現象により、上部の透明基板2に炭素膜4が、矢印6の方向に示すように転写される。最終的に、レーザー光をスキャンするか、もしくは基板(炭素材料基板1と透明基板2の両方の基板)をスキャンすることで、工程(C)で示されるように、透明基板上の任意の場所に、予め決められた形状の炭素膜4が形成される。この方法は、炭素材料基板をそのまま転写元基板として用いて、透明基板上に炭素膜を形成する目的で使用される。以上の工程は、すべて大気中、室温で行われる。
【0039】
図2には、レーザーアブレーションによる炭素材料塗布基板から透明な基板や膜へのレーザー転写の工程図が示される。まず、工程(A)で示されるように、任意の基板8の上に、炭素材料膜7を製膜する。次いで、工程(B)に示されるように、炭素材料塗布基板に対面して透明基板や膜2を密着配置する。更に、工程(C)で示されるように、透明基板2の上方、すなわち、密着面とは反対の方向から、レーザー光3を炭素材料膜7に焦点が合うように照射する。レーザー光3を炭素材料膜7に照射することで、矢印6に示されるように、炭素材料膜7の一部5を透明な基板や膜2に炭素膜4を転写する。転写の際、アブレーションとともに黒鉛化も同時に起こり得る。最終的に、レーザー光をスキャンするか、もしくは基板をスキャンすることで、工程(D)で示されるように、透明な基板や膜2の上の任意の場所に、予め決められた形状の炭素膜4が形成される。この方法は、任意の炭素材料粉末を転写材料として、透明基板上に炭素膜を形成する目的で用いられる。以上の工程はすべて大気中、室温で行われる。
【0040】
図3には、レーザーアブレーションによる炭素材料塗布透明基板から任意の基板へのレーザー転写の工程図が示される。まず、工程(A)に示すように、レーザー光に対して透明な基板や膜2に炭素材料膜7を形成する。次いで、工程(B)に示すように、任意の基板8を、炭素材料膜7を製膜した透明な基板や膜2に対面するように、出来るだけ密着して配置する。更に、工程(C)に示すように、透明基板2の上方、すなわち、密着面とは反対の方向から、レーザー光3を炭素材料膜7に焦点を合わせて照射する。レーザー光3を炭素材料膜7に照射することで、矢印6の方向で、炭素材料膜7の一部5を任意基板8上に転写して炭素膜4を得る。転写の際、アブレーションとともに黒鉛化も同時に起こり得る。最終的に、レーザー光をスキャンするか、もしくは基板をスキャンすることで、工程(D)で示されるように、任意の基板8上の任意の場所に、予め決められた形状の炭素膜4が形成される。この方法は、任意の炭素材料粉末を転写材料として、任意の基板上に炭素膜を形成する目的で用いられる。以上の工程はすべて大気中、室温で行われる。
【0041】
図4は、転写元と転写先がともレーザー光に対して透明な基板や膜を用いるレーザー転写を表す工程図である。図4(A)は炭素材料膜7の正面からレーザー光3が照射され、矢印6の方向で、対面する透明な基板や膜2に転写される正転写の場合である。図4(B)は炭素材料膜7の背面からレーザー光が照射され、矢印6の方向で、対面する透明な基板や膜2に転写される背面転写の場合である。塗布する炭素材料が照射するレーザー光に対し透明であるか、膜厚が十分に薄くて透過性が確保される場合は、図4(A)、(B)どちらの配置を用いてもよい。何れの場合も、レーザー転写により、対面する透明基板2表面に炭素膜4が形成される。
【0042】
上記、図2〜4の工程図に示される方法の場合、転写の後、転写元の炭素材料粉末の残渣は、剥ぎ取るか、洗浄することで回収可能で、何度でも、コロイド化して塗布材料として再利用することが出来る。また、塗布する炭素材料としては、基本的に粉末ならばどんな炭素源でも良い。例えば、炭素構造物形成時の削り屑、炭素関連物質製造時の炭素含有副生成物、化石燃料燃焼時に生じる煤などの産業廃棄物、廃木材、籾殻や藁などの農業廃棄物の炭化物、生ゴミ、紙屑、プラスチック屑などの生活廃棄物の炭化物を利用することも考え得る。これらは通常、焼却処理されるので、本発明の方法で利用すれば、現代社会の喫緊の課題である二酸化炭素削減に大きく貢献することが期待される。従って、本発明は、材料コストの削減、省資源、低環境負荷、二酸化炭素削減を同時に達成する可能性を大いに秘めている。
【0043】
最後に、上記、図1〜4の工程図に示される方法を用いると、炭素膜形成後の後工程が不要である。従来の方法、例えば、ダイヤモンド微粒子を塗布した基板を、直接、レーザーで加熱して黒鉛化する場合、未反応のダイヤモンド微粒子は洗浄などで取り除く工程を必要としていた。しかしながら、本発明によれば、この工程は削除できる。なぜなら、レーザー転写によれば、炭素膜を転写した基板に、未反応の炭素材料や余分な炭素膜が残らないからである。すなわち、炭素膜形成の工程を減らすことが出来るので、製造コストの削減に繋がるほか、後工程に耐性のない材質上にも炭素膜が形成できることになる。従って、後工程不要というのは特筆すべき長所である。
【0044】
更に付け加えると、レーザー転写によれば、炭素膜形成用の基板を幅広い材質から選択できるという重要な長所がある。この長所は、第1に、様々な炭素材料を原料としてレーザー転写に用いることが可能なことに由来する。第2には、転写先の基板に対して、原料の炭素材料塗布などの前工程が不要なことに由来する。第3には、これが最も重要であるが、炭素膜形成時、レーザー照射により転写元の基板は、局所的で短時間にではあるが高温になるのに対して、転写元と転写先の基板界面が熱伝導を防ぐため、転写先の基板は熱くならないことに由来する。従って、レーザー転写を用いれば、機械的に脆い基板や膜、非常に柔軟な基板や膜、熱に弱い材質の基板などの上にも炭素膜を形成できることになり、炭素膜形成の基板の選択肢は幅広いと言える。
【0045】
(製法の説明)
次に、実施の形態の製造方法を説明する。
【0046】
図1の工程図に示されるような炭素材料基板を直接用いる場合、炭素材料基板1としては、天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、ガラス状炭素、炭素シート、炭素フィルムなどを選ぶことが可能である。この場合、転写先の基板に密着できるように、炭素材料基板1の表面は出来るだけ平滑であることが望ましい。天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛を使用する場合は、粘着性のあるプラスチック製のテープやシートで表面のグラファイト層を取り除くことで、平滑面を得ることが出来る。ガラス状炭素を使用する場合は、表面を適当な方法で研磨すればよい。また、グラファイトやガラス状炭素などから形成される炭素フィルムや炭素シートは安価であり、そのまま転写元材料として利用可能できる。特に膜厚が200μm以下の炭素フィルム炭素シートは、柔軟性があり、転写先の基板に良く密着するので、利用価値が高い。
【0047】
次いで、炭素材料基板1に対面して、レーザー光を透過する透明な基板や膜2を配置する。透明基板(又は透明膜)2としては、使用するレーザー光が近紫外・可視光ならば、ガラス基板、透明プラスチック基板、雲母などを用いることが出来る。また、レーザー光が赤外光ならば、上記の他、シリコンなどの半導体基板などを用いることが可能である。透明基板に対して、特に前処理は必要でなく、強いて言えば、表面を清浄に保つことが挙げられる。対面する塗布基板と透明基板の間に隙があると、転写像がぼやけるので、出来るだけ両者を密着させる。密着には適当な留め具で両者を挟めばよい。
【0048】
最後に、透明な基板の上方、すなわち、密着面と反対方向から、レーザー光3を炭素材料基板1に焦点を合わせて照射する。すると、レーザーが照射された部分の炭素材料がアブレーションを起こし、対面する透明基板2に炭素膜4が転写される。転写炭素量はレーザーパワー密度の1次関数で良く記述される。レーザー光としては、発信波長が紫外・可視・赤外光領域にあるレーザーを選択することが出来る。レーザーパワー密度により、転写される炭素膜の導電性と透明性を調整することが出来る。導電性と透明性は二律背反的に決まり、レーザーパワー密度が高いと、導電性は増加するが透明性は減少し、レーザーパワー密度が低いと透明性が増加するが、導電性は減少する。レーザーアブレーションに必要なレーザーパワー密度の下限は約1×10W/cmであるので、転写炭素膜形成には最低でもこのレーザーパワー密度は必要である。
【0049】
レーザー光もしくは基板を走査する機能を備えていれば、透明基板上の任意の場所に任意の形状の炭素膜を形成することが可能である。最小の加工サイズはレーザーの波長で決まり、レーザー波長程度である。例えば、1064nmのYAGレーザーの基本波を用いれば、最低で約1μm幅の細線を描画転写することが出来る。炭素膜の膜厚はレーザーパワー密度で調整可能である。膜厚の下限はグラファイト一層分、すなわち、単層グラフェンの厚さの約1nmであり、上限はアブレーションの深度と密着させる2枚の基板間の間隙で決まり、概ね500μm程度である。
【0050】
図2の工程図に示される炭素材料粉末を塗布した基板を用いる場合は、炭素材料粉末として、例えば、アモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンなどを選択することが出来る。これら炭素材料を適当な方法で粉末にして、適当な溶媒に分散させる。分散する溶媒に特に限定は無いが、ダイヤモンド微粒子やナノダイヤモンドの場合は、親水性溶媒、例えば、純水、メタノールやエタノール等のアルコール類、ジメチルスルホキシド、N,N‘−ジメチルホルムアミド等が望ましい。
【0051】
炭素材料粉末の粒径に関しては特に限定はない。但し、粒径が小さい程、塗布した際の膜の均一性が高く、膜厚の下限が低くなる利点がある。この膜質の観点から言うと、約4nmから100μmの範囲が望ましい。分散には超音波分散装置を利用すると、分散時間が節約される。特に、高出力の投げ込み型超音波ホモジナーザーを利用すると、炭素材料を更に粉砕することが可能で、コロイド分散性が高くなる。炭素材料粉末のコロイド濃度が高いと、2次粒子発生などで塗布した時の膜質の均一性が損なわれる。そのため、コロイド溶液の濃度は20w/v%(重量/体積パーセント)以下がよく、5w/v%以下がより望ましい。
【0052】
次に、濃度調整した炭素材料粉末コロイド溶液を適当な基板上に製膜する。炭素材料を塗布する基板8は、どんな材質のものでも良い。製膜にはデップ法による塗布、滴下法による塗布、スプレー法による塗布、スピンコート法による塗布等を用いることができる。いずれの方法も大気中室温で行うことができる。デップ法、滴下法、スプレー法は平らな基板に限らず、表面に凹凸ある材料表面、3次元的な材料表面にも塗布できる特徴がある。一方、平坦な基板であれば、スピンコート法を用いる塗布は膜質の均一性を確保できること、溶媒の蒸発が速いことから、操作性に優れるという利点がある。塗布した炭素材料膜7は必要に応じて加熱等で乾燥させる。塗布膜厚に特に制限は無いが、材料コストの観点から、必要最低限を塗布すればよい。その際、コロイド溶液濃度と塗布回数で調整することが可能である。このようにして基板8上に、炭素材料膜7を塗布した炭素材料塗布膜基板が形成される。
【0053】
更に、炭素材料塗布膜基板に対面して、レーザー光を透過する透明な基板2を、出来るだけ密着させて配置する。転写の手順は、図1の工程図に示される炭素材料基板を用いる場合と基本的に同じである。但し、sp炭素から成るダイヤモンド粉末、ナノダイヤモンドなどを用いる場合、転写の際、レーザー光の加熱効果により、ダイヤモンド成分は黒鉛化する。同様に、カーボンナノチューブとフラーレンはレーザー光照射により、それらの基本構造は一旦消失し、化学結合の再配列などが起こって黒鉛化する。転写された炭素膜4の膜厚は、レーザーパワー密度と塗布された炭素材料の膜厚で調整可能である。転写された炭素膜4の膜厚下限はグラファイト一層分、すなわち、単層グラフェンの厚さの約1nmである。炭素膜4の膜厚上限は使用するレーザー光の波長における塗布炭素材料の吸収係数で決まる。例えば、塗布炭素材料がナノダイヤモンドであり、レーザー光の波長が1064nmの場合、約900μmである。
【0054】
図3の工程図に示される炭素材料粉末を塗布した透明基板を用いる場合も、炭素材料粉末として、例えば、アモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンを選ぶことが可能である。炭素材料を塗布する透明基板2としては、ガラス基板、透明プラスチック基板、雲母、シリコンなどの半導体基板を用いることが出来る。塗布の手順は、上述した図2の炭素材料粉末を塗布した基板を用意する場合と基本的に同じである。但し、粉末がダイヤモンド以外の炭素材料である場合は、膜厚は使用するレーザー光が透過する程度に薄くする。更に、適当な基板に対面して、炭素材料塗布膜を形成した透明基板を出来るだけ密着させて配置する。対面する基板の材質に制限は無く、どんな基板でも良い。転写の手順は、図2の工程図に示される炭素材料粉末基板を用いる場合と同じである。炭素膜の膜厚の調整も図2の工程図の場合と同じで、1nmから900μmの範囲である。
【0055】
次に、実施例として上述した工程図や、製造方法に基づいて製造した炭素膜について、図5〜11、表1を参照して説明する。各実施例において製造された炭素膜は半導体装置の配線、電極、もしくはチャネルとして利用され、これらの炭素膜を備えた半導体装置を提供することが出来る。図5は、炭素膜のシート抵抗と膜厚の関係を表すグラフである。図6は、炭素膜の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを表すグラフである。図7は、炭素材料基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。図8は、ナノダイヤモンド塗布基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。図9は、様々な炭素材料粉末を塗布した基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。図10は、様々な炭素材料粉末を塗布した透明基板から様々な基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。図11は、ナノダイヤモンド塗布透明基板から脆弱な基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【0056】
〔実施例1〕
図5には、黒鉛化を伴うレーザーアブレーションで、ナノダイヤモンド膜を転写して形成された炭素膜のシート抵抗(R)と膜厚(t)の関係を表すグラフを示す。使用したナノダイヤモンドは直径4.5nm±0.5の粒径で、その1w/v%エタノールコロイド溶液をガラス基板にスピンコートした。ナノダイヤモンド塗布ガラス基板に別のガラス基板を密着させ、波長が1064nm、パワー密度が1×10W/cmのレーザー光を用いて、ナノダイヤモンド塗布ガラス基板からもう一方のガラス基板に正転写した。転写元と転写先の膜厚はほぼ同じであった。図の縦軸はシート抵抗(R)の対数、横軸は膜厚(t)の対数で表示される。黒色塗りつぶしのプロットは転写された炭素膜の実験値であり、実線は転写された炭素膜の実験値に対するR=R/t (R:抵抗率)へのフィッティング曲線である。なお、比較のため、転写元の炭素膜の実験値とフィッティング曲線を、それぞれ、白抜きのプロット、破線で示す。
【0057】
転写された炭素膜のシート抵抗は、ナノメートルからマイクロメートルオーダーの膜厚範囲で、R=R/t に従う依存性を呈する。転写元と転写先の炭素膜において、シート抵抗と膜厚の関係はほぼ一致するが、同じ膜厚なら、転写先の炭素膜の方が転写炭素膜より、若干、シート抵抗が低くなる傾向が見られる。実際、フィッティングから得られる転写先と転写元の炭素膜の抵抗率は、それぞれ、1.6×10−2Ωcm、2.0×10−2Ωcmであり、転写先の炭素膜は、より良好な導電性を呈している。
【0058】
以上のように、本実施例によれば、幅広い膜厚を持ち、良好な導電性を有する炭素膜を提供することが出来る。
【0059】
〔実施例2〕
図6には、ガラス基板上のナノダイヤモンド膜を、黒鉛化を伴うレーザーアブレーションにより、別のガラス基板上に転写形成された炭素膜の紫外・可視・近赤外スペクトルを示す。縦軸は百分率で表示される透過率、横軸は波長である。図6(A)、(B)、(C)は、炭素膜の厚さが10nm、50nm、250nmの場合に対応する。実線が転写された炭素膜のスペクトルであり、比較のため、破線で転写元の炭素膜のスペクトルも示す。
【0060】
転写された炭素膜のシート抵抗は、(A)の膜厚10nmの場合で24kΩ/sq.、(B)の50nmの場合で2.9kΩ/sq.、(C)の250nmの場合で0.54kΩ/sq.である。全体的な傾向として、膜厚が小さい程、透過率が大きいが、シート抵抗は高くなる。また、グラファイト膜は紫外領域、可視、近赤外と波長が長くなるに従い、透過率が徐々に高くなる。詳細に見ると、(A)の膜厚10nmの転写された炭素膜の場合、紫外・可視・近赤外の全領域でほぼ75%以上の透過率であり、特に波長800nm以上の近赤外領域で90%以上の透過率を持つ。(B)の膜厚50nmの転写された炭素膜の場合、400nm以下の紫外領域において40%以上、400〜800nmの可視領域において50%以上、波長800nm以上の近赤外領域において70%以上の透過率を有する。(C)の膜厚250nmの転写された炭素膜の場合、紫外領域で15%以上、可視領域において20〜50%、近赤外領域で50%以上の透過率を持つ。転写先(実線)と転写元(破線)の炭素膜を比較すると、(A)〜(C)のどの膜厚の場合でも、全波長領域で、転写先の方が転写元より、透過率が若干低くなる傾向が見られるが、シート抵抗は逆に低くなる。従って、シート抵抗と透過率は二律背反の関係にあることを考慮すれば、これは問題とならない。
【0061】
以上のように、高い透過率と低いシート抵抗は二律背反ではあるものの、本実施例によれば、透明性と伝導性を兼ね備えた炭素膜を提供することが出来る。
【0062】
〔実施例3〕
表1は、様々な炭素材料を原料としてレーザーを用いてガラス基板上に転写した炭素膜のシート抵抗の比較表である。ナノダイヤモンド(粒径:4.5±0.5nm)、ダイヤモンド微粒子(粒径:1μm)、フラーレン(C60)は、それらをエタノールコロイド溶液としてガラス基板上に適量を塗布し、それぞれ、転写元の炭素材料膜として用いた。カーボンナノチューブ(単層)は、その1,2−ジクロロエタンコロイド溶液をフィルターでろ過した後、フィルター上に残るカーボンナノチューブ膜を鉄板(SUS)上に移して、転写元の炭素材料として用いた。高配向性熱分解黒鉛、炭素シートは、そのまま転写元の炭素材料として使用した。使用したレーザーのパワー密度はすべての場合で1×10W/cmと一定である。また、転写された炭素膜の膜厚は10〜100nmの範囲にある。なお、ナノダイヤモンドとダイヤモンド微粒子の場合、レーザー転写時、アブレーションと同時に黒鉛化を伴っている。
【0063】
【表1】

【0064】
カーボンナノチューブから転写された炭素膜が最も高いシート抵抗値を示し、以下、フラーレン、ガラス状炭素シート、高配向性熱分解黒鉛、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンドの順序で、転写された炭素膜のシート抵抗は低くなる。何れにせよ、どの炭素材料を用いた場合でも、転写された炭素膜は良好な導電性を持つ。
【0065】
以上のように、本実施例によれば、幅広い炭素材料を原料として、レーザー転写により、良好な導電性を有する炭素膜を提供することが出来る。
【0066】
〔実施例4〕
図7に、レーザーによる炭素材料基板から透明基板へ転写された炭素膜を表す写真を示す。それぞれの写真の左半分は転写元であり、右半分は転写先の写真を示す。写真(A)の左側は転写元の高配向性熱分解黒鉛、右側はガラス基板上に転写された炭素膜を示す。写真(B)の左側は転写元の高配向性熱分解黒鉛、右側はガラス基板上に転写された炭素電極を示す。写真(C)の左側は転写元の炭素シート、右側はガラス基板上に転写された炭素膜を示す。写真(D)の左側は転写元の炭素シート、右側はガラス基板上に転写された炭素電極を示す。高配向性熱分解黒鉛はスコッチテープで薄く剥がして使用した。また、炭素シートの厚さは100μmである。
【0067】
写真(A)と(C)では、レーザーで転写する際のレーザーパワー密度を変化させており、レーザーパワー密度が高い程、透過率は低くなるものの、シート抵抗の低い炭素膜が得られる。また、写真(B)と(D)では、試料台を走査することで、予め決められたパターンの電極構造が形成されている。何れの場合も、レーザーアブレーションにより、転写元の炭素材料が対面するガラス基板へ転写され、良好な炭素膜が形成されることが示す。
【0068】
以上のように、本実施例によれば、様々な炭素材料基板から透明基板へ炭素膜を転写できることが示される。
【0069】
〔実施例5〕
図8に、レーザーによるナノダイヤモンド塗布基板から透明基板へ転写された炭素膜を表す写真を示す。写真(A)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜(上)と櫛型電極(下)、(B)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布透明プラスチック基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(C)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布透明プラスチック基板、右側は透明プラスチック基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(D)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布SUS基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(E)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布シリコン基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜の電極である。ナノダイヤモンドは粒径4.5±0.5nmであり、エタノールに分散してコロイド溶液を得た後、転写元の基板に塗布した。
【0070】
ナノダイヤモンドを転写元の炭素材料とした場合、レーザー照射により、アブレーションと伴に黒鉛化が起こる。黒鉛化はラマンスペクトルの測定から確認されている。レーザー照射時に、試料台を走査することで、櫛型電極構造などの複雑な形状を持つ炭素膜も形成可能であることが示される。(B)と(C)のプラスチック基板のように、炭素膜を形成し難く、黒鉛化が起こる温度では融解もしくは燃焼してしまう基板でも、炭素膜が形成出来る。これは、転写元で、レーザーを集光し、そのレーザースポットを相対的に走査することで、局所的な急速加熱と急速冷却が可能となっているためという理由もある。しかし、最も大きな理由は、転写元から転写先に熱が余り伝わらないためである。これは本発明で示されるレーザー転写による炭素膜形成の方が、従来のレーザー加熱による炭素材料塗布基板上での炭素膜形成より、炭素膜形成用基板の選択幅が格段に大きくなることを意味し、レーザー転写による炭素膜形成の特筆すべき長所である。
【0071】
以上のように、本実施例によれば、炭素材料粉末の1つであるナノダイヤモンドを塗布した様々な基板から透明基板へのレーザー転写により、良好な炭素膜を形成できることが示される。
【0072】
〔実施例6〕
図9に、レーザーによる様々な炭素材料粉末を塗布した基板からガラス基板へ転写された炭素膜を表す写真を示す。(A)の左側は転写元のダイヤモンド微粒子塗布ガラス基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜、(B)の左側は転写元のグラファイト粉末塗布ガラス基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜電極、(C)の左側は転写元のカーボンナノチューブ(単層)塗布ガラス基板、右側はガラス基板上に転写された炭素膜である。ダイヤモンド微粒子は粒径が約1μmのものを使用し、エタノールコロイド溶液にしてガラス基板に塗布した。グラファイト粉末は熱膨張性グラファイトを1、2−ジクロロエタン中で超音波粉砕し、そのコロイド溶液をガラス基板に塗布した。カーボンナノチューブは単層であり、1、2−ジクロロエタン中に分散し、フィルターでろ過した後、フィルター上に残るカーボンナノチューブ膜をSUS基板上に移して転写元の基板として使用した。
【0073】
ダイヤモンド微粒子を転写元の炭素材料とした場合、レーザー照射により、アブレーションと伴に黒鉛化が起こる。また、カーボンナノチューブは、レーザーアブレーションの際、カーボンナノチューブを構成する化学結合の一部が寸断され、黒鉛化する。これらの黒鉛化はラマンスペクトルの測定から確認されている。4端子電気測定から、実施例3で示されるように、(A)〜(C)に示される転写炭素膜は何れも良導性を有する。また、レーザーパワー密度を調整することで、(C)の転写炭素膜に示すように、透明性のある炭素膜を形成することも可能であることが示される。
【0074】
以上のように、本実施例によれば、様々な炭素材料粉末を塗布した様々な基板から透明基板へのレーザー転写により、良好な炭素膜を形成できることが示される。
【0075】
〔実施例7〕
図10に、様々な炭素材料粉末を塗布した透明基板から様々な基板へ転写された炭素膜を表す写真を示す。(A)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布透明プラスチック基板、右側はシリコン基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(B)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布透明ガラス基板、右側はアルミナ(Al)基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(C)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側は透明プラスチック基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(D)の左側は転写元のフラーレン塗布ガラス基板、右側はテフロン(登録商標)基板上に転写された炭素膜の櫛型電極である。上述の通り、ナノダイヤモンドは粒径4.5±0.5nmであり、エタノールに分散してコロイド溶液を得た後、転写元の基板に塗布した。フラーレンはC60を使用し、C60が溶解しないエタノール中で超音波粉砕し、そのコロイド溶液をガラス基板に塗布した。
【0076】
実施例5で述べた通り、ナノダイヤモンドを転写元の炭素材料とした場合、レーザー照射により、アブレーションと伴に黒鉛化が起こる。一方、フラーレンは、レーザーアブレーションの際、フラーレンを構成する化学結合の一部が寸断され、黒鉛化する。これらの黒鉛化はラマンスペクトルの測定から確認されている。4端子電気測定から、ナノダイヤモンドを原料とする転写炭素膜は勿論、C60を原料とする転写炭素膜も導電性を有することが分かっている(実施例3参照)。転写先が何れの基板であっても、レーザー照射時に、試料台を走査することで、櫛型電極構造などの複雑な形状を持つ炭素膜も形成可能であることが示される。また、(C)と(D)のプラスチック基板のように、炭素膜を形成し難く、黒鉛化が起こる温度では融解もしくは燃焼してしまう基板でも、炭素膜が形成出来る。この理由は実施例5で述べた通りである。何れにせよ、上記した実施例から理解できるようにレーザー転写による炭素膜は、事実上、どんな基板や膜上にも形成可能である。このことは次の実施例8からも理解できるであろう。
【0077】
以上のように、本実施例によれば、炭素材料粉末を塗布した様々な透明基板から任意の基板へのレーザー転写により、良好な炭素膜を形成できることが示される。
【0078】
〔実施例8〕
図11に、ナノダイヤモンドを塗布した透明基板から脆弱な基板へ転写された炭素膜を表す写真を示す。(A)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側は厚紙上に転写された炭素膜の櫛型電極、(B)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布透明ガラス基板、右側は薄紙上に転写された炭素膜の櫛型電極、(C)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側はアルミナ多孔性薄膜上に転写された炭素膜の櫛型電極、(D)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側はシリカゲル粉末塗布プラスチック基板上に転写された炭素膜の櫛型電極、(E)の左側は転写元のナノダイヤモンド塗布ガラス基板、右側はテフロン(登録商標)多孔性薄膜上に転写された炭素膜の櫛型電極、(F)はガラス容器上に貼付された櫛型電極炭素膜転写のテフロン(登録商標)多孔性薄膜である。上述の通り、ナノダイヤモンドは粒径4.5±0.5nmであり、エタノールに分散してコロイド溶液を得た後、転写元の基板に塗布した。
【0079】
上述の通り、ナノダイヤモンドを転写元の炭素材料とした場合、レーザー照射により、アブレーションと伴に黒鉛化が起こり、導電性を持つ。(A)と(B)に示すように、紙のような浸潤性の基板や膜上にも炭素膜が形成可能である。また、(C)のアルミナ多孔性膜や(D)のシリカゲル膜のような非常に脆弱な基板上でも、レーザー転写を用いれば、炭素膜が形成される。更に、(E)の炭素膜転写先のテフロン(登録商標)多孔性極薄膜は膜厚が85μmと極薄で、非常に皺になり易い素材であるにも拘らず、良好な炭素膜が形成される。(F)に示すように、炭素膜を形成したテフロン(登録商標)膜は曲面に貼り付けることも可能である。このことは実装上、大きな長所となる。以上より、レーザー転写を用いれば、通常は形成が困難か不可能な基板や膜の上に、良好な炭素膜が製膜可能なことが証明される。
【0080】
以上のように、本実施例によれば、炭素材料粉末の1つであるナノダイヤモンドを塗布した様々な透明基板から脆弱な基板へのレーザー転写により、良好な炭素膜を形成できることが示される。
【0081】
本発明では、レーザーアブレーションを、炭素材料そのもの、もしくは炭素材料粉末を塗布した膜の表面にレーザーを照射し、レーザー照射表面に対面した基板表面上に炭素膜を形成するのに利用する。形成された炭素膜を半導体装置の配線、電極、もしくは半導体チャネルとして用いる。本発明によれば、このように導電性のある、もしくは導電性と透明性を兼ね備えたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を半導体装置の配線、電極、もしくは半導体チャネルとして有する半導体装置及び製造方法が得られる。更に本発明によれば、レーザーがスキャン可能ならば、任意の場所、任意の形状のグラファイト膜、グラフェン膜、アモルファス炭素膜が形成され、それらの膜からなる配線、電極、チャネルを備えた半導体装置及び製造方法が得られる。
【0082】
本発明の第1の効果は、汎用性の高い大気中・室温のプロセスを適用することで、低製造コストで低環境コストを実現したグラフェン膜、グラフェン膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置を提供することができる。第2の効果は、レーザーを利用することで、アブレーションと黒鉛化を同時に行い、任意の炭素材料を原料とするグラフェン膜、グラファイト膜、アモルファス炭素膜を有する半導体装置を提供することができる。第3の効果は、炭素材料の転写を行う際、走査可能なレーザーもしくは基板台を利用することで、任意の形状のグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置を提供することができる。第4の効果は、炭素材料の転写を利用することで、任意の基板上にグラフェン膜、グラファイト膜、アモルファス膜が形成可能な半導体装置を提供することが出来る。第5の効果は、炭素材料のアブレーション現象を利用することで、導電性と透明性を兼ね備えたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜を有する半導体装置を提供することができる。
【0083】
以上、実施形態例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で様々な変更をすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の活用例として、軽量、フレキシブル、低消費電力、低コストが特徴である電子機器、液晶や有機エレクトロルミネッセンスのディスプレイに使用される半導体装置が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】炭素材料基板から透明基板へのレーザー転写の工程図である。
【図2】炭素材料粉末塗布基板から透明基板へのレーザー転写の工程図である。
【図3】炭素材料粉末塗布透明基板から任意基板へのレーザー転写の工程図である。
【図4】転写元と転写先がどちらも透明基板である場合の転写の工程図である。
【図5】炭素膜のシート抵抗と膜厚の関係を表すグラフである。
【図6】炭素膜の紫外・可視・赤外吸収スペクトルを表すグラフである。
【図7】炭素材料基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【図8】ナノダイヤモンド塗布基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【図9】様々な炭素材料粉末を塗布した基板から透明基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【図10】様々な炭素材料粉末を塗布した透明基板から様々な基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【図11】ナノダイヤモンド塗布透明基板から脆弱な基板へレーザー転写された炭素膜を示す写真である。
【符号の説明】
【0086】
1 炭素材料基板
2 透明基板(又は透明膜)
3 レーザー光
4 転写された炭素膜
5 転写元の炭素膜
6 転写の方向
7 炭素材料膜
8 任意の基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザーを利用することで、炭素材料基板から、その炭素材料基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記透明な基板ならびに前記炭素材料基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させつつ、前記炭素材料基板の炭素材料をアブレーション作用により転写することで、前記透明な基板が所定の大きさや形状に成型されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、前記炭素材料基板は、天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、ガラス状炭素、炭素シート、もしくは炭素フィルムのいずれか1つであることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜の膜厚は、1nmから500μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
レーザーを利用することで、炭素材料が塗布された炭素材料塗布基板から、その炭素材料塗布基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記炭素材料をアブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
レーザーを利用することで、炭素材料が塗布された炭素材料塗布基板から、その炭素材料塗布基板に対面し、使用するレーザー光に対して透明な基板へ、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の半導体装置において、前記透明な基板ならびに前記炭素材料塗布基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させることで、所定の大きさや形状に成型されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つを有すること特徴とする半導体装置。
【請求項7】
レーザーを利用することで、使用するレーザー光に対して透明であり、炭素材料が塗布された炭素材料塗布透明基板から、その炭素材料塗布透明基板に対面する転写先基板へ、前記炭素材料をアブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
レーザーを利用することで、使用するレーザー光に対して透明であり、炭素材料が塗布された炭素材料塗布透明基板から、その炭素材料塗布透明基板に対面する転写先基板へ、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーション作用により転写することで形成されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の半導体装置において、前記転写先基板ならびに前記炭素材料塗布透明基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させることで、前記転写先基板が所定の大きさや形状に成型されたグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を有すること特徴とする半導体装置。
【請求項10】
請求項4乃至9のいずれかに記載の半導体装置において、前記炭素材料が、アモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンのいずれか1つであることを特徴とする半導体装置。
【請求項11】
請求項4乃至9のいずれかに記載の半導体装置において、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜の膜厚は、1nmから900μmであることを特徴とする半導体装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかに記載の半導体装置において、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜は、導電性を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれかに記載の半導体装置において、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜は、透明性を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項14】
請求項1乃至11のいずれかに記載の半導体装置において、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜は、透明性かつ伝導性を兼ね備えることを特徴とする半導体装置。
【請求項15】
炭素材料基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、
前記透明な基板ならびに前記炭素材料基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させながら、前記炭素材料基板にレーザー光を照射して、前記炭素材料基板の表面をアブレーションすることで、前記炭素材料基板の表面を前記透明な基板に転写させ、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体装置の製造方法において、前記基板配置工程では、天然黒鉛、高配向性熱分解黒鉛、ガラス状炭素、炭素シート、もしくは炭素フィルムのいずれか1つを、前記炭素材料基板として利用することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項17】
炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、
前記炭素材料のコロイド溶液を基板に塗布する塗布工程と、
前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、
前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料をアブレーションすることで、前記炭素材料を前記透明な基板に転写し、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項18】
炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、
前記炭素材料のコロイド溶液を基板に塗布する塗布工程と、
前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光に対して透明な基板を対面して配置する基板配置工程と、
前記炭素材料を塗布した基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーションすることで、前記炭素材料を前記透明な基板に転写し、前記透明な基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項19】
請求項17又は18に記載の半導体装置の製造方法において、前記レーザー転写工程では、前記透明な基板ならびに前記炭素材料を塗布した基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させることで、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を所定の大きさや形状に成型することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項20】
炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、
前記炭素材料のコロイド溶液を、レーザー光に対して透明な基板に塗布する塗布工程と、
前記炭素材料を塗布した透明な基板に、転写先基板を対面して配置する基板配置工程と、
前記炭素材料を塗布した透明な基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料をアブレーションすることで、前記炭素材料を前記転写先基板に転写し、前記転写先基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項21】
炭素材料をコロイド溶液にするコロイド溶液準備工程と、
前記炭素材料のコロイド溶液を、レーザー光に対して透明な基板に塗布する塗布工程と、
前記炭素材料を塗布した透明な基板に、転写先基板を対面して配置する基板配置工程と、
前記炭素材料を塗布した透明な基板に、レーザー光を照射して、前記炭素材料を黒鉛化しつつ、アブレーションすることで、前記炭素材料を前記転写先基板に転写し、前記転写先基板にグラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を形成するレーザー転写工程と、を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項22】
請求項20又は21に記載の半導体装置の製造方法において、前記レーザー転写工程は、前記転写先基板ならびに前記炭素材料を塗布した透明な基板の両者、もしくは前記レーザー光を走査させることで、前記グラフェン膜、グラファイト膜、もしくはアモルファス炭素膜のいずれか1つの膜を所定の大きさや形状に成型することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項23】
請求項17乃至22のいずれかに記載の半導体装置の製造方法において、前記コロイド溶液準備工程はアモルファス炭素粉末、グラファイト粉末、木炭粉末、活性炭粉末、ダイヤモンド微粒子、ナノダイヤモンド、カーボンナノチューブ、もしくはフラーレンのいずれか1つを、前記炭素材料として利用することを特徴とする半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−120819(P2010−120819A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297003(P2008−297003)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】