説明

熱硬化性マトリックス中のCNT浸出繊維

構造支柱は、円筒形コアと前記コア内の内層と外層とを含む。前記内層及び外層は、熱硬化性マトリックス中のCNT浸出繊維材料を含む。複合材料は、熱硬化性マトリックスと約20から約500ミクロンまでの範囲又は約0.1から約15ミクロンまでの範囲の長さのCNTを有するCNT浸出繊維材料とを含む。後者の範囲において、CNTは複合材料の約0.1重量パーセントから約5重量パーセントまで存在する。構造支柱を製造する方法は、円筒形マンドレルの周囲に第1のCNT浸出繊維を前記マンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、前記第1のCNT浸出繊維の周囲にベースライン層を前記マンドレルの軸と実質的に非平行な角度で湿式巻き付けすることと、前記ベースライン層の周囲に第2のCNT浸出繊維を前記マンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年11月23日に出願された米国特許仮出願第61/263,806号及び2010年11月22日に出願された米国特許出願第12/952,144号に対する米国特許法119条(e)の優先権を主張する。
【0002】
(連邦支援研究又は開発に関する記載)
適用無し。
【背景技術】
【0003】
本発明は、概してカーボンナノチューブ(CNT)に関し、より詳細には、複合材料に組み込まれたCNTに関する。
【0004】
過去数年に亘ってナノ複合材料の研究が行われてきた。様々なナノ粒子材料を混入することによりマトリックスの性質を改質する取り組みが行われてきた。特に、ナノスケールの補強材としてCNTが使用されてきたが、CNTの担持にともなう粘性の大幅な上昇のような、CNTをマトリックス材料に組み込むことの複雑さにより、本格的な生産の見込みは実現されてこなかった。
【0005】
これらの複合材料を利用可能にするプロセスに沿って、ナノスケール材料を活用して複合材料の性質を強化する新たな複合材料は有益である。本発明は、この必要性を満たすとともに、これに関連する優位性をもたらす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ある態様において、本明細書で開示された実施形態は、円筒形構造コアと、前記コア内に同軸に配置され、第1の熱硬化性マトリックス中の第1のCNT浸出繊維材料を含む内層と、第2の熱硬化性マトリックス中の第2のCNT浸出繊維材料を含む外層と、含む構造支柱に関する。
【0007】
ある態様において、本明細書で開示された実施形態は、熱硬化性マトリックスと、約20ミクロンから約500ミクロンまでの長さのCNTを有するCNT浸出繊維材料と、を含む複合材料に関する。
【0008】
ある態様において、本明細書で開示された実施形態は、約0.1ミクロンから約20ミクロンまでの長さのCNTを有するCNT浸出繊維材料と、熱硬化性マトリックスと、を含む複合材料に関する。CNTは、複合材料中に約0.1重量パーセントから約5重量パーセントまでの範囲で存在する。
【0009】
ある態様において、本明細書で開示される実施形態は、円筒形マンドレルの周囲に第1のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、巻き付けられた第1のCNT浸出繊維の周囲にベースライン層をマンドレルの軸に対して略非平行な角度で湿式巻き付けすることと、ベースライン層の周囲に第2のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、を含む構造支柱の製造方法に関する。それぞれの湿式巻き付けステップは、少なくとも1つの熱硬化性マトリックスと共に湿式巻き付けすることを含んで構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】連続化学蒸着(CVD)プロセスを介してAS4炭素繊維上に成長した多層CNT(MWNT)の透過型電子顕微鏡(TEM)画像を示す。
【図2】連続CVDプロセスを介してAS4炭素繊維上に成長した2層CNT(DWNT)のTEM画像を示す。
【図3】CNT形成ナノ粒子触媒が炭素繊維材料表面に機械的に浸出された部分のバリアコーティング内部から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。
【図4】炭素繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。
【図5】CNT成長に対するバリアコーティングの影響を明示するSEM画像を示す。バリアコーティングのあるところでは隙間なくよく整列したCNTが成長し、バリアコーティングがないところではCNTは成長していない。
【図6】繊維全体に亘って約10%以内でCNTの密度が均一であることを明示する炭素繊維上に成長したCNTの低倍率SEM画像を示す。
【図7】本発明の実施形態によるCNT浸出炭素繊維材料の製造プロセス示す。
【図8】目標となる熱伝導性及び電気伝導性の向上のために、連続プロセスにおいてどのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるのかを示す。
【図9】目標となる機械的性質、特にせん断強度のような界面特性の向上のために、「逆」バリアコーティングプロセスを使用する連続プロセスにおいてどのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるのかを示す。
【図10】IM7炭素繊維上に浸出されたCNTの層間破壊靱性に対する影響を示す。ベースライン材料はサイジングされていないIM7炭素繊維である一方、CNT浸出繊維材料は繊維表面上に15ミクロンの長さのCNTを浸出されたサイジングされていない炭素繊維である。
【図11】Sガラス繊維上の繊維容量パーセントに対する繊維上のCNTパーセントの影響を示す。
【図12】本発明のある実施形態による構造支柱を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、熱硬化性マトリックス材料と、熱硬化性マトリックス材料の少なくとも一部に分散されたカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料と、を含む複合材料を提供する。熱硬化性マトリックスにより製造された複合材料構造体は、CNT分散のための追加のプロセスを必要なしに製造することができる。繊維表面に対して垂直又は平行な配向を含むCNT配向の制御能力により、さらなる利益が生じる。CNTの長さはまた、全体の担持量パーセントとともに制御することができる。
【0012】
熱硬化性マトリックスを含む従来の製造技術を使用してガラス繊維又は炭素繊維から製造することができるあらゆる複合材料構造体は、追加のいかなる製造工程も必要とせずに、CNT浸出繊維により製造することができる。これらのマルチスケール複合材料は、熱伝導性及び電気伝導性の増幅に加えて、高い機械的性質を示すことができる。
【0013】
繊維状の複合材料の利用は、例えば構造的、熱的及び電気的性質に対する様々な要求とともに急速に増加している。複合材料のある部分は、繊維強化熱硬化性マトリックス複合材料である。これらの複合材料は、ガラス繊維及び炭素繊維の他に、様々な技術を使用して硬化していない熱硬化性マトリックスに一体化され熱サイクルを通じて硬化されるセラミック繊維、金属繊維及び有機繊維によっても製造することができる。直径約5〜15ミクロンのガラス繊維又は炭素繊維とともに、主にナノスケールの補強材が使用される。繊維状複合材料の機械的、熱的、及び電気的性質を強化するために、本発明の複合材料は以下でさらに説明されるCNT浸出繊維を組み込む。
【0014】
これらのCNT修飾繊維は、短繊維レイアップ(chopped fiber layup)、樹脂トランスファー成形(resin transfer molding)及び湿式巻き付け(wet winding)、真空樹脂トランスファー成形(vacuum assisted resin transfer molding, VARTM)、及びプリプレグ製造を含むがこれに制限されない様々な技術により熱硬化性マトリックスに組み込まれる。複合材料構造体としての使用のためにガラス繊維又は炭素繊維を組み込むのに使用される現在のあらゆる技術を、CNT浸出繊維の組み込みのために使用することができる。フェノール樹脂、シリコン及びポリイミド等に加えて、工業規格エポキシ及びポリエステル化合物を含むあらゆる熱硬化性マトリックスは、利用することができる。ポリエステル樹脂は、例えば、予め樹脂と混合された短繊維又は連続繊維を組み込まれたバルク成形材料(BMC)又はシート成形材料(SMC)の製造に使用することができる。CNT浸出繊維はBMC又はSMCに組み込むことができ、CNTを組み込まれていないBMC又はSMCにより製造された複合材料構造体に利用可能な様々な長さスケールの補強材を提供する。
【0015】
CNTは、最大約40重量%のCNT担持量パーセントまで繊維に浸出することができる。CNT浸出の量は正確に制御可能であり、CNT担持量を所望の性質に応じた特別注文の用途に適合させることができる。例えば、熱伝導性及び電気伝導性を向上させるために、より多くのCNTを使用することができる。CNT強化複合材料構造体は、ベース繊維による一次強化、マトリックスとしての熱硬化性ポリマー、及びベース繊維に結合したナノスケール補強材としてのCNTを含む。複合材料の繊維容量は約10%から約75%までの範囲、樹脂容量は約25から約85%、CNT容量パーセントは最大約35%までとすることができる。
【0016】
典型的な複合材料において、約60%の繊維及び約40%のマトリックスを有することが一般的であるが、第3の要素、すなわち浸出されるCNTの導入により、これらの割合を変化させることができる。例えば、最大約25容量%までCNTを追加することにより、マトリックスの範囲を約25%から約85%までに変化させるとともに、繊維部分を約10%から約75%までの範囲に変化させることができる。様々な割合は、複合材料全体の性質を変化させることができ、目標である1つ又は複数の望ましい性質に適合することができる。CNTの性質自体が、CNTにより強化された繊維に与えられる。熱硬化性複合材料内におけるこれらの強化繊維の使用は、繊維区分にしたがって変化する増加を同様に与えるが、当該技術分野で周知の熱硬化性複合材料の性質と比較して、熱硬化性複合材料の性質をさらに大きく変化させることができる。
【0017】
本明細書において、「繊維材料」という用語は、その基本的な構造要素として繊維を有する全ての材料を示す。繊維材料は、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、アラミド繊維、及び天然及び合成の他の有機繊維を含んでもよい。この用語は、繊維、フィラメント、ヤーン、トウ、テープ、織物及び不織布、パイル、マット等を包含する。
【0018】
本明細書において、「巻取り可能な寸法」とは、長さに制限されない少なくとも1つの寸法を有し、材料がスプール又はマンドレルに巻き取り可能な繊維材料に関して言及する。「巻取り可能な寸法」の繊維材料は、本明細書で記載されたCNT浸出用のバッチプロセス又は連続プロセスのいずれかの使用を示す少なくとも1つの寸法を有する。市販の巻取り可能な寸法の繊維材料の1つとして、800tex(1tex=1g/1,000m)又は620yard/lbを有する12kのAS4炭素繊維トウ(Grafil, Inc., Sacramento, CA)が挙げられる。特に、市販の炭素繊維トウは、例えば、5,10,20,50及び100lb(大きな重量を有するスプール用、通常は3k/12Kトウ)のスプールで入手できるが、より大きなスプールの特注品を求めてもよい。本発明のプロセスは、5〜20lbのスプールで容易に行われるが、より大きなスプールを使用することもできる。さらに、例えば、100lb以上の極めて大きなスプールを、2本の50lbのスプール等の扱いやすい寸法に分割する前処理を組み込んでもよい。
【0019】
本明細書において、「カーボンナノチューブ」(CNT,複数形はCNTs)という用語は、単層カーボンナノチューブ(single-walled carbon nanotube, SWNT)、2層カーボンナノチューブ(double-walled carbon nanotube, DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(multi-walled carbon nanotube, MWNT)を含むフラーレン族の円筒形状の任意の炭素同素体を示す。CNTは、フラーレン様構造により閉塞されるか、又は端部が開口する。CNTには、他の物質を封入したものが含まれる。
【0020】
本明細書において、「長さが均一」とは、反応器内で成長したCNTの長さについて言及する。「均一な長さ」とは、CNTの長さが、CNTの全長に対して±約20%以下の許容誤差を有することを意味し、CNTの長さは約1ミクロンから約500ミクロンまでの範囲で変化する。例えば1〜4ミクロンのような極めて短い長さにおいて、この誤差は、CNT全長の±約20%からCNT全長の約20%よりやや大きい±約1ミクロン以下の範囲内である。
【0021】
本明細書において、「分布が均一」とは、繊維材料上のCNTの密度の一貫性に関して言及する。「均一な分布」とは、繊維材料上のCNTの密度が、CNTにより覆われた繊維の表面領域のパーセンテージとして定義される被覆率で±約10%の許容誤差を有することを意味する。これは、直径8nmで5層のCNTにおいて±1500CNT/μmに等しい。この数値は、CNTの内部空間を充填可能(fillable)とみなしている。
【0022】
本明細書において、「浸出される」という用語は結合されることを意味し、「浸出」という用語は、結合プロセスを意味する。このような結合には、直接共有結合、イオン結合、π−π相互作用、及びファンデルワールス力媒介物理吸着が含まれる。例えば、CNTは、繊維担体に直接共有結合されてもよい。結合は、バリア保護膜(passivating barrier coating)又はCNTと繊維との間に配置された媒介遷移金属ナノ粒子を介した繊維へのCNTの浸出のように、間接的であってもよい。本明細書に開示されたCNT浸出繊維材料において、カーボンナノチューブは上記の通り、繊維材料に対して直接的又は間接的に「浸出される」。CNTが繊維材料に「浸出される」特定の方法は、「結合モチーフ(bonding motif)」と呼ばれる。CNT浸出繊維の実際の結合モチーフに関わらず、本明細書に記載の浸出プロセスは、予め形成された遊離したCNTを繊維にルーズに塗布するのに比べ、強固な結合を提供する。この点において、触媒含浸繊維基材上でのCNTの合成は、ファンデルワールス付着力よりも強い「浸出」を提供する。以下でさらに説明されるプロセスにより製造されるCNT浸出繊維は、特により高い密度で、隣り合ったCNT間の共有壁モチーフ(shared-wall motif)を示し得る、高度に絡み合い枝分かれしたカーボンナノチューブのネットワークを提供することができる。ある実施形態において、成長は、例えば電場の存在により影響されてもよく、これにより異なる成長形態を提供してもよい。また、低密度における成長形態は、枝分かれした共有壁モチーフでなくてもよいが、やはり繊維への強い浸出を提供する。
【0023】
本明細書において、「遷移金属」という用語は、周期表のdブロックの全ての元素又はその合金を示す。「遷移金属」という用語はまた、酸化物、炭化物及び窒化物等の遷移金属元素ベースの塩形態も含む。
【0024】
本明細書において、「ナノ粒子」もしくはNPという用語又はその文法的な同等物は、NPが球形である必要はないが、等価な球形における粒径が約0.1から約100ナノメートルまでの間の大きさの粒子を示す。特に、遷移金属NPは、繊維材料上でCNTを成長させる触媒としての役割を果たす。
【0025】
本明細書において、「サイジング剤(sizing agent)」、「繊維サイジング剤(fiber sizing agent)」又は単に「サイジング(sizing)」とは、炭素繊維の品質を保護し、複合材料中の炭素繊維とマトリックス材料との間の界面相互作用を強化し、炭素繊維の特定の物理的性質を変化又は強化するためのコーティングとして、繊維の製造において使用される材料を総称するものである。ある実施形態において、繊維材料に浸出されたCNTはサイジング剤としての役割を果たす。
【0026】
本明細書において、「マトリックス材料」という用語は、サイジング剤を適用したCNT浸出繊維材料を、ランダム配向を含む特定の配向性でまとめる役割を果たすことができるバルク材をいう。CNT浸出繊維材料の物理的又は化学的性質の一部がマトリックス材料に与えられることにより、前記マトリックス材料はCNT浸出繊維材料の存在からの利益を享受することができる。
【0027】
本明細書において、「材料滞留時間」という用語は、巻取り可能な寸法の繊維材料に沿った個々の点が、本明細書に記載のCNT浸出プロセスの間にCNT成長状態にさらされる時間をいう。この定義は、多層CNTの成長チャンバーを用いる場合の滞留時間を含む。
【0028】
本明細書において、「ラインスピード(linespeed)」という用語は、本明細書に記載のCNT浸出プロセスにより、巻取り可能な寸法の繊維材料が送り込まれる速度をいい、この場合、ラインスピードは、CNTの(1つの又は複数の)チャンバーの長さを材料滞留時間で除して算出される速度である。
【0029】
図12に関して、ある実施形態において、本発明は、円筒形構造コア1310と、前記コア内に同軸に配置され、第1の熱硬化性マトリックス中に第1のCNT浸出繊維材料を含む内層1320と、第2の熱硬化性マトリックス中に第2のCNT浸出繊維材料を含む外層1330と、を含む構造支柱1300を提供する。円筒形コア1310は、どのような構造材料であってもよく、繊維強化マトリックス材料を含んでもよい。構造コア1310の繊維補強材はそこに配置されたCNTを有してもよく、あるいはCNTは繊維補強材中に存在しなくてもよい。構造コアのマトリックス材料はまた、熱硬化性材料であってもよい。このような実施形態の中には、内層の第1の熱硬化性マトリックス及び外層の第2の熱硬化性マトリックスは、構造コアと同一であってもよく、これにより、マトリックス材料はそれぞれの層を通じて一連の同一の材料となり、相違点は3つの層内に異なる種類の繊維補強材が存在することのみとなるものもある。本明細書で開示される実施形態は円筒形支柱に関するものであるが、当業者は、三角形、正方形及び矩形等のような他の幾何学形状の同様な支柱要素を製造することができることを理解するだろう。
【0030】
ある実施形態において、本発明の構造支柱は、落雷保護を必要とする用途に使用することができる。このような用途のための設計要素は、CNT長さ、CNT密度、CNT配向、繊維種類、及び内層と外層の厚さから選択されるあらゆる組合せを含むことができる。これらの全ての設計要素は、CNT浸出プロセス及びCNT成長後プロセスにより制御される。ある実施形態において、構造支柱全体での同一のマトリックス材料の使用及び1回の最終硬化ステップをともなう様々な層の湿式巻き付けの利用により、迅速生産を達成することができる。
【0031】
本発明において有用な熱硬化性マトリックス材として、周知の任意のマトリックス材が含まれる(Mel M. Schwartz, Composite Materials Handbook(2d ed. 1992)参照)。マトリックス材として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸/マレイン酸型のポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール樹脂、シアン酸塩、ビスマレイミド及びナディック末端封止ポリイミド(nadic end-capped polyimide, PMR-15等)が含まれる。熱可塑性樹脂には、ポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレン酸化物、ポリ硫化物、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリレート及び液晶ポリエステルが含まれる。
【0032】
ある実施形態において、構造コアは、第3の熱硬化性マトリックス中に第3の繊維材料を含む。そのような実施形態の中には、第1の熱硬化性マトリックス、第2の熱硬化性マトリックス及び第3の熱硬化性マトリックスは同一であるものもある。内層、外層、及び構造コアの3つのマトリックス材が同一のマトリックス材料を含む場合、1回の硬化ステップを採用することができるが、各層が形成される際に部分又は全体硬化を採用することもできる。他の実施形態において、第1の熱硬化性マトリックス、第2の熱硬化性マトリックス、及び第3の熱硬化性マトリックスは、少なくとも2つの異なる熱硬化性樹脂を含む。そのような実施形態の中には、各層が形成される際に硬化は連続して行われるものもある。異なる熱硬化性樹脂の硬化温度は、ぴったりと合うように選択し、均等な硬化を提供することができる。
【0033】
ある実施形態において、第1のCNT浸出繊維及び第2のCNT浸出繊維は、それぞれ約20から約500ミクロンまでの長さのCNTを含み、前記長さは、約20,25,30,40,45,50,60,70,80,80,100,110,120,130,140,150,200,250,300,350,400,450,500ミクロン及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、CNTはまた、約20ミクロンから約50ミクロンまでの範囲であり、前記範囲は、20,25,30,35,40,45,50ミクロン並びにそれらの間の全ての値を含む。約20ミクロンから約500ミクロンまでの長さはいずれも、例えば電気伝導性又は熱伝導性の強化に有用であり得る。ある実施形態において、構造コアの第3の繊維材料は、第3のCNT浸出繊維とすることができる。そのような実施形態において、第3のCNT浸出繊維は、機械的強度の強化に有用であり得る約0.1ミクロンから約20ミクロンまでの長さのCNTを含んでもよい。これにより、0.1,0.5,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20ミクロン及びそれらの間の全ての値の長さのCNTにより構造補強を実現することができる。
【0034】
ある実施形態において、第1のCNT浸出繊維材料のCNTは、CNT浸出繊維の約10重量パーセントから約40重量パーセントまでの範囲の量だけ存在することができる。これにより、CNTは、CNT浸出繊維の約10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40重量パーセント及びそれらの間の全ての値の量だけ存在することができる。ある実施形態において、第1のCNT浸出繊維材料は、約15ミクロンから約20ミクロンまでの範囲の量だけ存在することができ、前記範囲は、15,16,17,18,19,20ミクロン及びそれらの間の全ての値を含む。同様に、本発明の支柱は、第2のCNT浸出繊維材料のCNTを、CNT浸出繊維の約10重量パーセントから約40重量パーセントまでの範囲の量だけ含むことができ、前記範囲はCNT浸出繊維の約10,11,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40重量パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、第2のCNT浸出繊維材料は、約15ミクロンから約20ミクロンまでの範囲の量だけ存在することができ、前記範囲は、15,16,17,18,19,20ミクロン及びそれらの間の全ての値を含む。
【0035】
ある実施形態において、本発明の支柱は、約20パーセントから約40パーセントまでの範囲の内層に関する第1の繊維容量を含むことができ、前記範囲は、約20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、内層に関する第1の繊維容量は、約30パーセントから約40パーセントまでの範囲であり、前記範囲は、約30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。同様に、本発明の支柱は、約20パーセントから約40パーセントまでの範囲の外層に関する第2の繊維容量を含むことができ、前記範囲は、約20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、外層に関する第2の繊維容量は、約30パーセントから約40パーセントまでの範囲であり、前記範囲は、約30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。本発明の支柱はまた、約50パーセントから約70パーセントまでの範囲のコアに関する第3の繊維容量を含むことができ、前記範囲は、約50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、コアに関する第3の繊維容量は、約60パーセントから約70パーセントまでの範囲であり、前記範囲は、約60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。
【0036】
ある実施形態において、本発明の支柱は、約1S/mから約300S/mまでの範囲の電気伝導性を有する内層を含むことができる。同様に、外層は、約1S/mから約300S/mまでの範囲の第2の電気伝導性を有することができる。これにより、内層及び外層は、それぞれやく1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,15,20,30,40,50,60,70,80,90,100,150,200,250,300S/m及びそれらの間の全ての値の電気伝導性を有することができる。ある実施形態において、内層及び外層の電気伝導性は、それぞれ約10S/mから100S/mまでの範囲とすることができ、前記範囲は、約10,20,30,40,50,60,70,80,90,100S/m及びそれらの間の全ての値を含む。これらの伝導性の値は、厚さ測定を通じて、すなわち、繊維の軸に対して垂直かつ支柱円柱軸に対して垂直に対して言及している。これが外層又は内層の厚さ方向の伝導性である。
【0037】
本発明はまた、熱硬化性マトリックスと、約20,30,40,50,60,70,80,90,100,110,120,130,140,150,200,250,300,350,400,450,500ミクロン及びそれらの間の全ての値を含む約20ミクロンから約500ミクロンまでの範囲の長さのCNTを含むカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料と、を含む複合材料を提供する。ある実施形態において、CNTはまた、約20ミクロンから約50ミクロンまでの範囲の長さを有することができ、前記範囲は、20,25,30,35,40,45,50ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む。そのような実施形態の中には、CNT浸出繊維材料は、以下でさらに説明される炭素繊維材料を含むものもある。このような複合材料構造体は、電気伝導性又は熱伝導性の強化が目標とされる用途に有用であり得る。
【0038】
ある実施形態において、本発明の複合材料は、CNT浸出繊維材料上のCNTを約10重量パーセントから約40重量パーセントまでの範囲の量だけ有することができ、前記範囲は、10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,41,32,33,34,35,36,37,38,39,40重量パーセント及びそれらの間の全ての値を含む。ある実施形態において、この範囲は約15から約20重量パーセントまでの範囲であり、約15,16,17,18,19,20パーセント及びそれらの間の全ての値が含まれる。ある実施形態において、複合材料の第1の部分におけるCNT浸出繊維材料の第1の繊維容量は、約20パーセントから約40パーセントまでの範囲とすることができ、前記範囲は、20,21,22,23,24,25,26,27,28,29,30,31,32,33,34,35,36,37,38,39,40パーセントを含む。これと同一の複合材料の第2の部分に配置される第2の繊維容量は、約50パーセントから約70パーセントまでの範囲の第2の繊維材料の第2の繊維容量を有することができ、前記範囲は、50,51,52,53,54,55,56,57,58,59,60,61,62,63,64,65,66,67,68,69,70パーセント及びこれらの間の全ての値を含む。
【0039】
ある実施形態において、本発明はまた、約0.1ミクロンから約15ミクロンまでの範囲の長さのCNTを含んで構成されるCNT浸出繊維材料と、熱硬化性マトリックスと、を含む複合材料を提供し、ここでCNTは、複合材料の約0.1重量パーセントから約5重量パーセントまでの範囲で存在する。このような複合材料は、例えばプリプレグ織物を形成することができ、構造的強化を目標とする用途に有用であり得る。そのような実施形態の中には、CNT浸出繊維材料は、ガラス繊維を含んで構成されてもよいものがあるが、他の実施形態において、CNT浸出繊維材料は、炭素繊維材料を含んでもよい。
【0040】
本発明はまた、1)円筒形マンドレルの周囲に第1のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、2)巻き付けられた第1のCNT浸出繊維の周囲にベースライン繊維層をマンドレルの軸に対して略非平行な角度で湿式巻き付けすることと、3)ベースライン層の周囲に第2のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、を含む構造支柱の製造方法を提供する。ある実施形態において、それぞれの湿式巻き付けステップは、少なくとも1つの熱硬化性マトリックスと共に湿式巻き付けすることを含む。本発明の方法は、熱硬化性マトリックス材料を硬化するステップをさらに含む。ある実施形態において、硬化ステップは全ての湿式巻き付けステップが行われた後で1回だけ行われるが、一方、他の実施形態において、硬化ステップは、それぞれの湿式巻き付けステップの間の全部又は部分硬化を含むことができる。ある実施形態において、ベースライン繊維層は、他のCNT浸出繊維層であってもよい。そのような実施形態において、CNTの長さは、機械的強度の強化のために選択することができ、例えば上記のような約0.1から約50ミクロンまでの間とすることができる。
【0041】
本発明はまた、1)円筒形マンドレルの周囲に第1のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に乾式巻き付けすることと、2)巻き付けられた第1のCNT浸出繊維の周囲にベースライン繊維層をマンドレルの軸に対して実質的に非平行な角度で乾式巻き付けすることと、3)ベースライン層の周囲に第2のCNT浸出繊維をマンドレルの軸に対して略平行に乾式巻き付けすることと、4)乾式巻き付けされた第1のCNT浸出繊維、乾式巻き付けされたベースライン繊維層、及び乾式巻き付けされた第2のCNT浸出繊維材料に、少なくとも1つの熱硬化性マトリックスを浸出することと、を含む構造支柱の製造方法を提供する。ある実施形態において、そのような浸出はそれぞれの乾式巻き付けステップの後に行うことができるのに対し、他の実施形態においては、熱硬化性マトリックスの浸出は、全ての乾式巻き付けステップが完了した後に行うことができる。
【0042】
ある実施形態において、製造方法は、プリプレグ製造、樹脂フィルム浸出(resin film infusion)、真空樹脂トランスファー成形(VARTM)、及び複合材料製造の分野で採用される他のあらゆる技術を含む。例として、引き抜き成形(pultrusion)、押し出し成形(extrusion)、樹脂トランスファー成形(RTM)、ハンドレイアップオープン成形(hand layup open molding)、圧縮成形(compression molding)、熱成形(thermoforming)、オートクレーブ成形(autoclave molding)、及びフィラメント巻き付け(filament winding)が含まれるがこれに限られない。
【0043】
CNT浸出炭素繊維及びCNT浸出ガラス繊維は、参照によりその全内容が本願に組み込まれた同時係属中の米国特許出願公開第2010/0178825号明細書及び米国特許出願第12/611070号明細書の両方に記載されている。このようなCNT浸出繊維材料は、熱硬化性マトリックス中の補強材として使用することができるものの例である。他のCNT浸出繊維タイプの材料には、金属繊維(米国特許出願公開2010/0159240号明細書)、セラミック繊維、及び以下で説明されるのと似たような手順で製造されるアラミド繊維のような有機繊維が含まれてもよい。上記の参照された出願で開示されたCNT浸出プロセスにおいて、繊維材料は、繊維上にCNT開始触媒ナノ粒子の層(一般には単分子層に過ぎない)が形成されるように改質される。それから、触媒含浸繊維は、CNTを連続してインラインで成長させるために使用されるCVDベースプロセスに暴露される。成長したCNTは、繊維材料に浸出される。得られたCNT浸出繊維材料は、それ自体が複合材料構造である。
【0044】
CNT浸出繊維は、繊維表面上の特定の種類のCNTに適合することができ、これにより様々な性質を獲得することができる。例えば、電気的性質は、繊維上に様々な種類、直径、長さ、及び密度のCNTを適用することにより変更することができる。CNT間の適切な架橋を提供することができる長さのCNTが、複合材料の伝導性を向上させるパーコレーション経路(percolation pathways)のために必要とされる。繊維の間隔は一般に繊維の直径と同等かそれよりも大きい約5から約50ミクロンであるため、効果的な電気経路を獲得するために、CNTは少なくともこの長さとすることができる。より短い長さのCNTは構造的性質を強化するために使用することができる。
【0045】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、同一の繊維材料の異なる部分に沿って様々な長さのCNTを含む。熱硬化性複合材料補強材として使用された場合、このような多機能CNT浸出繊維は、それが組み込まれた複合材料の1つ以上の性質を強化する。
【0046】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの第1の量が繊維材料に浸出される。カーボンナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、強靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、EM波吸収性/反射性、音響透過率、電気伝導性、及び熱伝導性からなるグループから選択される少なくとも1つの性質の値が、繊維材料自体の同一の性質の値と異なるように、前記量は選択される。結果として得られたCNT浸出繊維材料のこれらの性質は、いずれも最終的な複合材料に与えることができる。
【0047】
引張強度は、3つの異なる大きさを含む。1)材料の歪みが弾性変形から材料を永久に変形させる塑性変形に変化する応力を評価する降伏力、2)伸張、圧縮又はせん断にさらされたときに材料が耐えることができる最大応力を評価する極限強度、及び3)応力・歪み曲線上の破断点における応力の座標を評価する破壊強度である。複合せん断強度は、繊維方向と垂直な方向に応力が加えられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。圧縮強度は、圧縮応力が加えられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。
【0048】
特に、多層カーボンナノチューブは、これまで計測された全ての材料の中で最も高い引張強度を有し、63GPaの引張強度が達成されている。その上、理論計算は約300GPaのCNTの可能な引張強度を示している。これにより、CNT浸出繊維材料は、元の繊維材料と比較して実質的により高い極限強度が期待される。上記の通り、引張強度の向上は、使用されるCNTの正確な性質と、繊維材料上での密度及び分布とに依存する。CNT浸出繊維材料は、例えば、2倍又は3倍の引張特性の向上を示す。例としてのCNT浸出繊維材料は、元の機能化されていない繊維材料に比べて、3倍のせん断強度と2.5倍の圧縮強度を有することができる。このような強化繊維材料の強度の向上は、CNT浸出繊維が組み込まれた熱硬化性樹脂の強度の向上に転換される。
【0049】
ヤング率は、等方性弾性材料の剛性の大きさである。これは、フックの法則に従う応力の範囲における一軸歪みに対する一軸応力の割合により定義される。これは、材料のサンプルの対して行われる引張試験の間に作成される応力・歪み曲線の傾斜から実験的に決定される。
【0050】
電気伝導性又は特定の伝導性は、電流を導く材料の能力の大きさである。CNTキラリティー(chirality)に関連する捩れの度合いのような特定の構造的パラメータを備えたCNTは高い伝導性を有し、これにより、金属的な性質を示す。広く認められた命名方式(M. S. Dresselhaus, et al. Science of Fullerenes and CNTs, Academic Press, San Diego, CA pp. 756-760(1996))が正式なものとされており、CNTキラリティーに関して当業者に認められている。こうして、CNTは例えば2つの指標(n,m)により互いに区別される。n及びmは、円柱形の表面に巻きつけられ、端部が互いに閉塞されたときに筒を形成するように、六角形グラファイトの切れ目(cut)と巻きつけ(wrapping)とを説明する整数値である。2つの指標が等しい(m=n)場合、結果として得られるチューブは「アームチェアー」(又はn,n)型と呼ばれる。なぜなら、チューブをCNT軸に対して垂直に切断すると、六角形の辺だけが露出し、チューブのふちの外周のパターンが、n回繰り返されるアームチェアーのアーム及びシートに似ているためである。アームチェアーCNT、特にSWNTは、金属的であり、極めて高い電気伝導性及び熱伝導性を有する。加えて、このようなSWNTは、極めて高い引張強度を有する。
【0051】
捩れの度合いに加えて、CNTの直径もまた電気伝導性に影響する。上記の通り、CNTの直径は、大きさを制御されたCNT形成触媒ナノ粒子を使用することにより制御することができる。CNTはまた、半導体材料として形成することができる。多層CNT(MWNT)の伝導性はより複雑である。MWNTにおける内層反応(interwall reactions)は、個々のチューブの全面に電流を不均一に再分配する。それに反して、金属的な単層ナノチューブ(SWNT)の異なる部分を流れる電流は変化しない。カーボンナノチューブはまた、ダイアモンド結晶及び面内グラファイトシートと比較して、極めて高い熱伝導性を有する。
【0052】
繊維に浸出されたCNTは、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2層カーボンナノチューブ(DWNT)及び多層カーボンナノチューブ(MWNT)を含むフラーレン族のカーボンの円柱形状の多くの同素体のいずれでもあり得る。CNTは、フラーレン様構造により閉塞されているか、開口している。CNTには、他の物質を封入したものが含まれる。
【0053】
繊維材料の一部に浸出されたCNTは、一般に長さが均一である。「均一な長さ」とは、CNTの長さが、約1ミクロンから約500ミクロンまでの範囲で変化するCNTの長さの場合、CNTの全長に対して±約20%以下の許容誤差を有することを意味する。例えば1〜4ミクロンのような極めて短い長さにおいて、この誤差は、CNT全長の±約20%からCNT全長の約20%よりやや大きい±約1ミクロン以下の範囲内である。
【0054】
また、繊維材料の一部に浸出されたCNTは、一般にその分布も均一である。「均一な分布」とは、繊維材料上のCNTの密度が、CNTにより覆われた繊維の表面領域のパーセンテージとして定義される被覆率で±約10%の許容誤差を有することを意味する。これは、直径8nmで5層のCNTにおいて±1500CNT/μmに等しい。この数値は、CNTの内部空間を充填可能(fillable)とみなしている。
【0055】
本開示は、一部には、カーボンナノチューブ浸出(CNT浸出)炭素繊維材料を志向している。繊維材料へのCNTの浸出は、例えば、蒸気、酸化、摩耗及び圧縮による損傷から保護するためのサイジング剤としての機能を含む多くの機能性を提供することができる。CNTベースのサイジング剤はまた、複合材料内で、繊維材料とマトリックス材との間の接触部分としての役割も果たす。CNTはまた、繊維材料を被覆するいくつかのサイジング剤のうちの1つとしての役割を果たす。
【0056】
さらに、繊維材料に浸出されたCNTは、例えば、熱伝導性、電気伝導性、又は引張強度のような繊維材料の様々な性質を変化させることができる。CNT浸出繊維材料を作成するために使用されるプロセスは、CNTに略均一な長さ及び分布を提供し、これによって改良される繊維材料全体に、その有益な性質を均等に与える。さらに、本明細書で開示されたプロセスは、巻取り可能な寸法のCNT浸出繊維材料の製造に適している。
【0057】
本開示はまた、一部には、CNT浸出繊維材料の製造方法を志向している。典型的なサイジング溶液を繊維材料に適用する前に、もしくはそのかわりに、本明細書で開示されたプロセスを新たに製造される繊維材料の初期段階に適用することができる。あるいは、例えば、トウのような既にサイジング剤がその表面に塗布済みの商用の繊維材料を本明細書で開示されたプロセスに使用することができる。このような実施形態において、バリアコーティング又は遷移金属微粒子は、以下でさらに説明されるように間接的な浸出を提供する中間層としての役割を果たすが、サイジング剤は繊維材料と合成されたCNTとの間を直接的に接触させるために除去されてもよい。CNTの合成後、要望に応じてさらなるサイジング剤を塗布することができる。
【0058】
本明細書で開示されるプロセスは、巻取り可能な寸法のトウ、テープ、織物、及び他の3次元織物構造体に沿って、均一な長さ及び分布を有するカーボンナノチューブの連続生産を可能にする。本発明のプロセスによって様々なマット、織物、及び不織布等が機能化可能だが、トウやヤーン等の元となる材料のCNT機能化の後、これらから、より高度な秩序構造を製造することも可能である。例えば、CNT浸出織物を、CNT浸出炭素繊維トウから製造することができる。
【0059】
ある実施形態において、本発明はカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料を含んだ複合材料を提供する。CNT浸出繊維材料には、巻取り可能な寸法の繊維材料、繊維材料の周囲に等角的に配置されたバリアコーティング、及び繊維材料に浸出されたカーボンナノチューブ(CNT)が含まれる。繊維材料へのCNTの浸出には、繊維材料への個々のCNTの直接的結合又は遷移金属NP、バリアコーティング又はその両方を介した間接的結合の結合モチーフが含まれてもよい。
【0060】
理論に制限されることなく、CNT形成触媒としての役割を果たす遷移金属NPは、CNT成長核構造を形成することによりCNT成長に触媒作用をもたらす。一実施形態において、CNT形成触媒は、繊維材料の基部に留まり、バリアコーティングにより固定され、繊維材料の表面に浸出される。このような場合において、遷移金属ナノ粒子触媒によって初期に形成された核構造は、当該分野でしばしば観察されるCNT成長の先端部に沿った触媒の移動をさせることなく、継続した非触媒核CNT成長に十分である。このような場合において、NPは、繊維材料に対するCNTの付着点としての役割を果たす。バリアコーティングの存在はまた、さらなる間接的結合モチーフを提供する。例えば、CNT形成触媒は、上記の通りバリアコーティング内に固定されるが、繊維材料とは表面接触してはいない。このような場合において、CNT形成触媒と繊維材料との間に配置されたバリアコーティングの積層構造が生じる。いずれの場合も、形成されたCNTは繊維材料に浸出される。ある実施形態において、バリアコーティングの中には、CNT成長触媒がナノチューブ成長の先端に追従することをなお可能にするものがある。このような場合において、これは繊維材料への、又は付随的にバリアコーティングへのCNTの直接的な結合を生じさせる。カーボンナノチューブと繊維材料との間に形成された実際の結合モチーフの性質に関わらず、浸出されたCNTは丈夫であり、CNT浸出繊維材料がCNTの性質又は特性を示すことを可能にする。
【0061】
また、理論に制限されることなく、繊維材料上にCNTが成長する場合、高温又は反応チャンバー内に残留している酸素及び湿気は、繊維材料に損傷を与えうる。その上、繊維材料そのものが、CNT形成触媒自体との反応により損傷を受ける。すなわち、繊維材料は、CNT合成用に使用される反応温度において、触媒への炭素原料としての役割を果たす。このような過剰な炭素は、炭素原料ガスの制御された導入を妨げ、炭素を過剰供給することにより触媒を汚染することがある。本発明で使用されるバリアコーティングは、炭素繊維材料上でのCNT合成を容易にするように設計されている。理論に制限されることなく、前記コーティングは、熱分解に対する熱障壁を提供するか、又は高温環境への炭素繊維材料の暴露を防ぐ物理障壁となることが可能である。かわりに或いはさらに、前記コーティングは、CNT形成触媒と炭素繊維材料との間の表面領域接触を最小化し、又はCNT成長温度におけるCNT形成触媒への繊維材料の暴露を軽減することができる。
【0062】
CNT浸出繊維材料を有する複合材料には、略均一な長さのCNTが提供される。本明細書に記載の連続プロセスにおいて、CNT成長チャンバー内での繊維材料の滞留時間は、CNT成長を制御、最終的にはCNTの長さを制御するために調節される。これは、CNT成長の特定の性質を制御する手段を提供する。CNTの長さはまた、炭素原料並びに搬送ガスの流量及び反応温度を調節することにより制御される。CNT特性のさらなる制御は、例えばCNTを作成するために使用される触媒の大きさを制御することにより行うことができる。例えば、1nm遷移金属ナノ粒子触媒は、特にSWNTを形成するために使用することができる。より大きな触媒は、主にMWNTを作成するために使用することができる。
【0063】
さらに、使用されるCNT成長プロセスは、予め作成されたCNTを溶媒中に浮遊又は分散して、手で繊維材料に塗布するプロセス中に生じうるCNTの束化又は凝集を避けつつ、CNT浸出繊維材料に繊維材料上に均一に分布したCNTを提供するのに有用である。このように凝集したCNTは、炭素繊維材料への付着力が弱い傾向にあり、CNTの特性は、現れたとしても弱い。ある実施形態において、被覆率、すなわち被覆された繊維の表面領域のパーセントで表される最大分布密度は、直径約8nmで5層のCNTの場合約55%にもなる。この被覆率は、CNTの内部空間が「充填可能な」空間であるとして計算される。表面に分散した触媒を変化させ、ガス組成及びプロセススピードを制御することにより、様々な分布/密度の値を達成することができる。一般的に与えられるパラメータにおいて、繊維表面に亘って約10%以内の被覆率を達成することができる。より高密度でより短いCNTは、機械的性質を向上させるのに有用である一方、より低密度のより長いCNTは、熱的及び電気的性質の向上に有用であるが、やはり高密度が望ましい。より長いCNTが成長した場合、より低密度が生じることがある。これは、より高温及びより急成長の結果、より低い触媒微粒子収率(catalyst particle yield)が生じた可能性がある。
【0064】
CNT浸出繊維材料を有する本発明の複合材料には、フィラメント、繊維ヤーン、繊維トウ、テープ、繊維ブレイド(fiber-braid)、織物、不織布マット、繊維プライ、及び他の3次元織物構造等の繊維材料が含まれてもよい。フィラメントには、約1ミクロンから約100ミクロンまでの範囲の直径を有する高アスペクト比の繊維が含まれる。繊維トウは、通常は密集して結合したフィラメントの束であり、大抵はヤーンを形成するために互いに撚り合わせられる。
【0065】
ヤーンには、撚り合わせられたフィラメントの密接に結合された束が含まれる。ヤーン内でのそれぞれのフィラメントの直径は比較的均一である。ヤーンは、1000リニアメートル(linear meter)あたりのグラム重量として表される「テックス(tex)」又は10,000yardあたりのポンド重量として表される「デニール(denier)」で示される様々な重量を有し、一般的なテックスの範囲は約200texから約2000texまでの間である。
【0066】
トウには、撚り合わせられていないフィラメントの緩やかに結合された束が含まれる。ヤーンにおけるのと同様に、トウ内でのフィラメントの直径は概して均一である。トウはまた、様々な重量を有し、texの範囲は一般に約200texから2000texまでの範囲である。トウは、例えば12Kトウ、24Kトウ、48Kトウ等のように、トウ内の数千本のフィラメントの数によりしばしば特徴付けられる。
【0067】
テープは、波状にまとめられるか、又は不織布の扁平トウを表すことができる材料である。テープの幅は様々であり、一般にリボンのような両面構造(two-sided structure)である。本発明のプロセスは、テープの片面又は両面でのCNT浸出と相性がよい。CNT浸出テープは、平らな基材表面上の「カーペット」又は「森」のようである。また、本発明のプロセスは、テープのスプールを機能化するために連続モードで行うことができる。
【0068】
繊維ブレイドは、高密度な繊維のロープ様構造を示す。このような構造は、例えば、ヤーンにより形成することができる。編み上げ構造(braided structure)は、中空部分(hollow portion)を含んでもよく、あるいは他のコア材料の周りに形成されてもよい。
【0069】
ある実施形態において、多くの主要な繊維材料構造体は、織物又はシート様構造に形成される。これには、例えば、上記のテープに加えて、織物製品、不織繊維マット(non-woven fiber mat)及び繊維プライが含まれる。このような高度な秩序構造は、元の繊維に浸出されたCNTを有する元のトウ、ヤーン又はフィラメント等から形成することができる。あるいは、このような構造体は、本明細書に記載のCNT浸出プロセス用の基材としての役割を果たすことができる。
【0070】
繊維を形成するために使用される前駆体に基づき、炭素繊維はレーヨン、ポリアクリロニトリル(PAN)及びピッチ(Pitch)の3種類に分類され、本発明においては、そのいずれの繊維も使用することができる。セルロース系材料であるレーヨン前駆体の炭素繊維は、約20%と比較的低い炭素含有量を有し、繊維の強度及び剛性が低い傾向がある。ポリアクリロニトリル(PAN)前駆体は、約55%の炭素含有量の炭素繊維を提供する。一般に、PAN前駆体に基づく炭素繊維は、表面欠陥が最小であるため、他の炭素繊維前駆体に基づく炭素繊維より高い引張強度を有する。
【0071】
また、石油アスファルト、コールタール及びポリ塩化ビニルに基づくピッチ前駆体も、炭素繊維を製造するために使用できる。ピッチは、比較的低コストで炭素収率(carbon yield)が高いが、不均一性の問題が生じることがある。
【0072】
繊維材料の他の種類には、例えばSガラス繊維及びEガラス繊維のような様々なガラス材料が含まれる。本発明において有用な繊維材料の種類には、あらゆる合成繊維又は天然繊維が含まれる。他の有用な繊維材料には、ケブラー(登録商標)、玄武岩繊維、金属繊維及びセラミック繊維のようなアラミド繊維が含まれる。
【0073】
繊維材料への浸出に有用なCNTには、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ及びこれらの組み合わせが含まれる。実際に使用されるCNTは、CNT浸出繊維の用途によって決まる。CNTは、熱伝導性もしくは電気伝導性の用途に、又は絶縁体として使用することができる。ある実施形態において、浸出されるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブである。ある実施形態において、浸出されるカーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブである。ある実施形態において、浸出されるカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブと多層カーボンナノチューブとの組み合わせである。単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブの特有の性質には、いくつかの繊維の最終用途において、いずれか一方の種類のナノチューブの合成を決定づけるいくつかの相違が存在する。例えば、単層カーボンナノチューブは半導体的又は金属的であり得るが、多層カーボンナノチューブは金属的である。
【0074】
CNTは、機械的強度、低〜中程度の電気抵抗率及び高い熱伝導性等の特有の性質を、CNT浸出繊維材料に与える。例えば、ある実施形態において、カーボンナノチューブ浸出炭素繊維材料の電気抵抗率は、元の繊維材料の電気抵抗率より低い。さらに一般に、結果として得られるCNT浸出繊維が示すこれらの特性の程度は、カーボンナノチューブによる繊維の被覆率の程度及び密度の関数となる。直径8nmで5層のMWNTの場合、繊維の0〜55%の範囲の任意の繊維表面領域を被覆することができる(CNTの内部空間を充填可能とみなして計算している)。この数値は、より小さな直径のCNTの場合はより小さく、より大きな直径のCNTの場合はより大きい。表面領域の55%の被覆率は、約15,000CNT/ミクロンに相当する。さらに、CNTの性質は、上記の通りCNTの長さに依存した方法で繊維材料に与えることができる。浸出されたCNTの長さは、約1ミクロンから約500ミクロンまでの範囲で変化させることができ、1ミクロン,2ミクロン,3ミクロン,4ミクロン,5ミクロン,6ミクロン,7ミクロン,8ミクロン,9ミクロン,10ミクロン,15ミクロン,20ミクロン,25ミクロン,30ミクロン,35ミクロン,40ミクロン,45ミクロン,50ミクロン,60ミクロン,70ミクロン,80ミクロン,90ミクロン,100ミクロン,150ミクロン,200ミクロン,250ミクロン,300ミクロン,350ミクロン,400ミクロン,450ミクロン,500ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む。CNTはまた、例えば、約0.5ミクロンを含む約1ミクロンより短い長さとすることもできる。CNTはまた、例えば、510ミクロン,520ミクロン,550ミクロン,600ミクロン,700ミクロン及びこれらの間の全ての値を含む、500ミクロンより長い長さとすることもできる。
【0075】
本発明の複合材料には、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さのCNTを組み込むことができる。このようなCNTの長さは、せん断強度の強化のための塗布に有益である。機械的強度の向上に関して、一般に、強化された機械的強度を提供する限り、1ミクロンよりも短くてよい。そのような実施形態において、CNTは約0.1から約1ミクロンまでの範囲の長さとすることができる。また、CNTは、約5から約70ミクロンまでの長さであってもよい。このようなCNTの長さは、CNTが繊維方向に配列された場合、引張強度の強化のための塗布に有益である。また、CNTは、約10ミクロンから約100ミクロンまでの長さであってもよい。このようなCNTの長さは、機械的性質と同様、電気的性質/熱的性質の向上に有益である。本発明で使用されるプロセスはまた、電気的性質及び熱的性質の向上に役立つ約100ミクロンから約500ミクロンまでの長さのCNTを提供することができる。このようなCNTの長さの制御は、ラインスピード及び成長温度の変化に加えて炭素原料及び不活性ガス流量を調整することにより容易に行うことができる。
【0076】
ある実施形態において、巻取り可能な寸法のCNT浸出繊維材料を含む複合材料は、CNTの長さが異なる様々な均一な領域を有する。例えば、せん断強度を強化する均一に短いCNTを備えたCNT浸出繊維の第1部分と、電気的又は熱的性質を向上する均一に長いCNTを備えた同一の巻取り可能な材料の第2部分と、を有するのが望ましい。
【0077】
繊維材料にCNTを浸出するための本発明のプロセスは、一様なCNTの長さの制御を可能にし、連続プロセスにおいて、巻取り可能な繊維材料が高い割合でCNTにより機能化可能にする。材料滞留時間が5から300秒で長さ3フィートのシステム用の連続プロセスにおけるラインスピードは、約0.5ft/minから約36ft/minまでのいずれか、及びそれより大きい。選択されるスピードは、以下にさらに説明される様々なパラメータに応じて決まる。
【0078】
ある実施形態において、約5から約30秒までの材料滞留時間により、約1ミクロンから約10ミクロンまでの長さのCNTの製造が可能となる。ある実施形態において、約30から約180秒までの材料滞留時間により、約10ミクロンから約100ミクロンまでの長さのCNTの製造が可能となる。さらに他の実施形態において、約180から約300秒までの材料滞留時間により、約100ミクロンから約500ミクロンまでの長さのCNTの製造が可能となる。当業者は、これらの範囲が概算であり、CNTの長さはまた、反応温度並びに搬送ガス及び炭素原料の濃度及び流量によって調節することができることを理解するだろう。
【0079】
本発明のCNT浸出繊維材料にはバリアコーティングが含まれる。バリアコーティングには、例えば、アルコキシシラン(alkoxysilane)、メチルシロキサン(methylsiloxane)、アルモキサン(alumoxane)、アルミナナノ粒子、スピンオンガラス(spin on glass)及びガラスナノ粒子が含まれる。以下に記載のように、CNT形成触媒は、未硬化バリアコーティング材料に添加し、その後まとめて繊維材料に塗布することができる。他の実施形態において、CNT形成触媒を付着させる前に、バリアコーティング材料を繊維材料に追加することができる。CVD成長がその後に続くように、バリアコーティング材料をCNT形成触媒が炭素原料に暴露できるくらい十分に薄くすることができる。ある実施形態において、前記厚さは、CNT形成触媒の有効径より薄いか略等しい。ある実施形態において、バリアコーティングの厚さは、約10nmから約100nmまでの範囲にある。また、バリアコーティングを、1nm,2nm,3nm,4nm,5nm,6nm,7nm,8nm,9nm,10nm及びこれらの間のいずれの値も含む10nmより小さい値とすることができる。
【0080】
理論に制限されることなく、バリアコーティングは、繊維材料とCNTとの間の中間層の役割を果たし、CNTの繊維材料への機械的な浸出の役に立つ。このような機械的浸出は、繊維材料にCNTの特性をなおも与えながら、繊維材料がCNTを形成するための基盤(platform)として機能する強固な体制を依然として提供する。さらに、バリアコーティングを含むことの利益には、炭素繊維材料を蒸気にさらすことによる化学的損傷又はCNT成長を促進するために用いられる温度で繊維材料を加熱することによる熱的損傷から、繊維材料を直接的に保護することである。
【0081】
本明細書で開示される浸出されたCNTは、従来の繊維「サイジング」の代用品の役割を効果的に果たす。浸出されたCNTは、従来のサイジング材料よりも丈夫であり、複合材料内における繊維−マトリックス間の界面を強化し、さらに一般に、繊維−繊維間の界面を強化することができる。実際に、本明細書で開示されるCNT浸出繊維材料は、CNT浸出繊維材料の性質が繊維材料の性質と浸出されたCNTの性質との組み合わせであるという意味ではそれ自体が複合材料である。結果として、本発明の実施形態は、提供されない場合に欠如あるいは不十分となる所望の性質を付与する手段を提供する。繊維材料は、特定の用途の必要条件を満たすように適合又は設計することができる。サイジングとして機能するCNTの作用は、CNTの疎水構造による蒸気の吸収から繊維材料を保護することである。その上、以下にさらに例示されるように、疎水性のマトリックス材と疎水性のCNTとの相互作用により、繊維とマトリックス間の相互作用が向上する。
【0082】
上記の浸出されたCNTを有する繊維材料へ有益な性質が与えられているにもかかわらず、本発明の複合材料は、「従来」のサイジング剤をさらに含んでもよい。このようなサイジング剤の種類及び機能は幅広く、例えば、界面活性剤、帯電防止剤、潤滑剤、シロキサン、アルコキシシラン、アミノシラン、シラン、シラノール、ポリビニルアルコール、でんぷん、及びこれらの混合物が含まれる。このような第2のサイジング剤は、CNT自体を保護するか、又は浸出されたCNTの存在によって与えられなかったさらなる性質を繊維に与えることができる。
【0083】
図1〜6は本明細書で記載されたプロセスにより形成された繊維材料のTEM及びSEM画像を示す。これらの材料を形成するための手順は、以下及び実施例I〜IIIでさらに詳細に説明される。図1及び2は、連続プロセスにおいてAS4炭素繊維上に形成された多層及び2層カーボンナノチューブのそれぞれのTEM画像を示す。図3は、CNT形成ナノ粒子触媒が炭素繊維材料表面に機械的に浸出された後に、バリアコーティング内部から成長したCNTの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。図4は、繊維材料上で目標とする長さである約40ミクロンの20%以内まで成長したCNTの長さ分布の一貫性を明示するSEM画像を示す。図5は、CNT成長に対するバリアコーティングの影響を明示するSEM画像を示す。バリアコーティングが塗布されたところでは隙間なくきれいに整列したCNTが成長し、バリアコーティングがないところではCNTは成長していない。図6は、繊維全体に亘って約10%以内でCNTの密度が均一であることを明示する繊維上に成長したCNTの低倍率SEM画像を示す。
【0084】
ある実施形態において、本発明は、(a)巻取り可能な寸法の炭素繊維材料の表面にカーボンナノチューブ形成触媒を配置することと、(b)繊維材料上に直接カーボンナノチューブを合成し、これによりカーボンナノチューブ浸出繊維材料を形成することと、を含むCNT浸出のための連続プロセスを提供する。長さ9フィートのシステムにおいて、前記プロセスのラインスピードは、約1.5ft/分から約108ft/分の範囲とすることができる。本明細書に記載のプロセスにより達成されるラインスピードにより、短い生産時間でCNT浸出繊維材料を従来の市販の量だけ形成することが可能となる。例えば、36ft/分のラインスピードで、CNT浸出繊維(繊維に5重量%を上回るCNTが浸出されている)の量は、5つの別々のトウ(20lb/tow)を同時に処理するよう設計されたシステムでは、1日あたり生産される材料は100ポンドを越えるかそれ以上が可能である。システムは、より多くのトウを同時に生産するように、あるいは成長領域を繰り返すことにより高速で生産するように作ることができる。また、CNT製造のいくつかのステップの速度は、当該技術分野で周知のように、極めて遅く、工程の連続モードを阻むものである。例えば、当該技術分野において周知の典型的なプロセスの場合、CNT形成触媒還元ステップには1〜12時間かかることがある。CNT成長自体もまた、例えばCNT成長に数十分を要する等時間がかかり、このため本発明で実現される速いラインスピードが不可能となることがある。本明細書に記載のプロセスは、このような律速ステップを克服する。
【0085】
本発明のCNT浸出繊維材料形成プロセスは、予め形成されたカーボンナノチューブの懸濁液を繊維材料に塗布しようとするときに生じるCNTの絡み合い(entanglement)を避けることができる。すなわち、予め形成されたCNTは繊維材料に浸出されないので、CNTは束化する又は絡み合う傾向がある。結果として、繊維材料に弱く付着するCNTの極めて不均一な分布が生じる。しかしながら、本発明のプロセスは、必要な場合には、成長密度を減少させることにより、繊維材料の表面に極めて均一な絡み合ったCNTマット(mat)を提供することができる。低密度で成長したCNTは、まず繊維材料に浸出される。このような実施形態において、繊維は垂直配列を誘導するほど密には成長せず、結果として繊維材料表面の絡み合ったマットが生じる。一方、予め形成されたCNTを手作業で塗布する場合に、繊維材料上でのCNTマットの均一な分布及び密度は保証されない。
【0086】
図7は、本発明の一実施形態によるCNT浸出繊維材料製造のためのプロセス700のフローチャートを表す。
【0087】
プロセス700には少なくとも以下の工程が含まれる。
【0088】
701:繊維材料の機能化。
【0089】
702:機能化された繊維材料へのバリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布。
【0090】
704:カーボンナノチューブ合成に十分な温度までの炭素繊維材料の加熱。
【0091】
706:触媒含浸繊維へのCVD媒介CNT成長の促進。
【0092】
ステップ701において、繊維材料は機能化されて、これにより繊維の表面湿潤を促進し、バリアコーティングの付着力を向上させる。
【0093】
カーボンナノチューブを繊維材料に浸出するために、カーボンナノチューブはバリアコーティングを被覆された繊維材料に合成される。一実施形態において、これは工程702のように、まずバリアコーティングにより繊維材料を被覆し、そして次にバリアコーティングにナノチューブ形成触媒を配置することにより行われる。ある実施形態において、バリアコーティングは、触媒堆積の前に部分的に硬化させることができる。これにより、前記触媒の受容が可能であり、例えばCNT形成触媒と繊維材料との間の表面接触等の、バリアコーティングへの埋め込みが受容可能となる表面が提供される。このような実施形態において、バリアコーティングは、触媒を埋め込まれた後に完全に硬化させることができる。ある実施形態において、バリアコーティングは、CNT形成触媒の堆積と同時に、繊維材料に沿って被覆される。CNT形成触媒及びバリアコーティングが配置された時点で、バリアコーティングを完全に硬化させることができる。
【0094】
ある実施形態において、バリアコーティングは触媒が堆積する前に完全に硬化させることができる。このような実施形態において、完全に硬化されたバリアコーティングを施した繊維材料は、触媒を受け入れる表面を形成するために、プラズマ処理することができる。例えば、硬化したバリアコーティングを有するプラズマ処理された繊維材料は、CNT形成触媒が堆積することができる粗面化された表面を提供することができる。したがって、バリア表面の「粗面化」のためのプラズマ処理は、触媒堆積を促進する。表面粗さは概してナノメートルスケールである。プラズマ処理において、ナノメートルスケールの深さ及びナノメートルスケールの直径を有する孔又は窪みが形成される。このような表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、窒素及び水素など様々な異なるガスのいずれか1つ以上のプラズマを使用して行うことができる。ある実施形態において、プラズマ粗面化はまた、繊維材料自体に直接行うことができる。これは、繊維材料へのバリアコーティングの付着を促進する。
【0095】
図7に関連して以下でさらに説明されるように、触媒は、遷移金属ナノ粒子を含んで構成されるCNT形成触媒を含む溶液として作られる。上記のように、合成されたナノチューブの直径は、金属微粒子の大きさに関係する。ある実施形態において、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の市販の分散系は入手可能であり、希釈せずに使用され、他の実施形態においては、触媒の市販の分散系は希釈することができる。このような溶液を希釈するか否かは、上記のように、成長したCNTの所望の密度及び長さによって決めることができる。
【0096】
図7の図示された実施形態に関して、カーボンナノチューブ合成は、化学蒸着(chemical vapor deposition, CVD)プロセスに基づいて示され、合成は高温で生じる。具体的な温度は触媒選択によるが、一般的には約500から1000℃の範囲である。したがって、工程704は、カーボンナノチューブ合成を支援するために、バリアコーティングを施した繊維材料を上記の範囲の温度まで加熱することを含む。
【0097】
そして、工程706において、触媒含浸炭素繊維材料上でCVDにより促進されたナノチューブ成長が行われる。CVDプロセスは、例えば、アセチレン、エチレン又はエタノール等の炭素含有原料ガスにより促進することができる。CNT合成プロセスは一般に、主な搬送ガスとして不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム)を使用する。炭素原料は、混合物全体の約0%から約15%の範囲まで供給される。CVD成長用の実質的な不活性環境は、成長チャンバーから蒸気及び酸素を除去することにより準備される。
【0098】
CNT合成プロセスにおいて、CNTは、CNT形成遷移金属ナノ粒子触媒の部分で成長する。プラズマが形成する強電場を、ナノチューブ成長に作用させるために任意に使用することができる。すなわち、成長は電場の方向にしたがう傾向がある。プラズマスプレー及び電場の配置を適切に調整することにより、垂直配列CNT(すなわち、繊維材料に垂直な)を合成することができる。ある状態において、プラズマが存在せずとも、密集したナノチューブは垂直な成長方向を維持し、その結果、カーペット又は森のようなCNTの密な配置を生じさせる。バリアコーティングの存在はまた、CNT成長の方向性に影響を与えることができる。
【0099】
繊維材料に触媒を配置する工程は、溶液をスプレー又は浸漬被覆することにより、あるいは例えばプラズマ処理等を介した気相堆積により行われる。バリアコーティングを塗布する方法に合わせて技術を選択することができる。したがって、ある実施形態において、溶媒中の触媒の溶液を作った後、触媒は溶液とともにスプレーもしくは浸漬被覆によって、あるいはスプレー及び浸漬被覆の組み合わせによって、バリアコーティングされた繊維材料に塗布される。単独で又は組み合わせて使用されるいずれかの技術は、CNT形成触媒により十分均一に被覆された繊維材料が提供されるまで、1回、2回、3回、4回という具合に何回でも使用することができる。浸漬被覆が採用された場合、例えば、繊維材料を第1浸漬槽に第1滞留時間の間浸しておくことができる。第2浸漬槽が採用された場合、繊維材料を第2浸漬槽に第2滞留時間の間浸しておくことができる。例えば、繊維材料は、浸漬構成及びラインスピードに応じて、約3秒から約90秒の間、CNT形成触媒の溶液にさらすことができる。スプレー又は浸漬被覆プロセスを採用すると、繊維材料は、CNT形成触媒ナノ粒子が略単分子層の表面被覆が約5%未満から最大で約80%までの触媒の表面密度を備える。ある実施形態において、繊維材料へのCNT形成触媒の被覆プロセスは、単分子層を形成する。例えば、多量のCNT形成触媒上でのCNT成長は、繊維材料へのCNTの浸出度合いを損なうことがある。他の実施形態において、遷移金属触媒は、蒸発技術、電解析出技術、及び有機金属、金属塩又は気相輸送を促進する他の組成物の遷移金属触媒をプラズマ原料ガスへ添加する等、当業者に周知の他のプロセスを使用して繊維材料に堆積させることができる。
【0100】
本発明のプロセスは連続的に設計されているため、巻取り可能な繊維材料は、浸漬被覆槽が空間的に分離された一連の浴槽中で、浸漬被覆することができる。初期の繊維が新たに生成されている連続プロセスにおいて、CNT形成触媒の浸漬又はスプレーは、バリアコーティングを繊維材料に塗布及び硬化(又は部分的に硬化)した後の最初のステップとすることができる。バリアコーティング及びCNT形成触媒の塗布は、新たに形成された繊維材料に対して、サイジング剤の塗布のかわりに行うことができる。他の実施形態において、CNT形成触媒は、バリアコーティング後に他のサイジング剤の存在下で、新たに形成された繊維に塗布することができる。このようなCNT形成触媒と他のサイジング剤との同時塗布により、繊維材料のバリアコーティングと表面接触したCNT形成触媒が提供され、その結果CNT浸出が確かなものになる。
【0101】
使用された触媒溶液は、上記のように、dブロック遷移金属のいずれの遷移金属ナノ粒子とすることもできる。加えて、前記ナノ粒子には、元素形態又は塩形態のdブロック金属の合金及び非合金混合物並びにこれらの混合物が含まれる。このような塩形態には、限定されないが、酸化物、炭化物及び窒化物が含まれる。制限されない例示的な遷移金属NPには、Ni,Fe,Co,Mo,Cu,Pt,Au,Ag及びこれらの塩、並びにこれらの混合物が含まれる。ある実施形態において、このようなCNT形成触媒は、バリアコーティング堆積と同時に繊維材料にCNT形成触媒を直接的に塗布又は浸出することにより、炭素繊維に配置される。これらの遷移金属触媒の多くは、例えばFerrotec Corporation(Bedford, NH)を含む様々なサプライヤーから容易に入手可能である。
【0102】
繊維材料へCNT形成触媒を塗布するために使用される触媒溶液は、CNT形成触媒を均一に分散可能とするいずれの溶媒と共通してもよい。このような溶媒には、これに制限されないが、水、アセトン、ヘキサン、イソプロピルアルコール、トルエン、エタノール、メタノール、テトラヒドロフラン(THF)、シクロヘキサン又はCNT形成触媒ナノ粒子の適切な分散系を生成する制御された極性を備えた他の溶媒が含まれる。CNT形成触媒の濃度は、触媒対溶媒が、約1:1から1:10000の範囲とすることができる。このような濃度は、バリアコーティングとCNT形成触媒とが同時に塗布された場合に使用することができる。
【0103】
ある実施形態において、炭素繊維材料の加熱は、CNT形成触媒を堆積させた後にカーボンナノチューブを合成するために、約500℃から1000℃の範囲とすることができる。これらの温度での加熱は、CNT成長のための炭素原料の導入の前に、又は略同時に行うことができる。
【0104】
ある実施形態において、本発明は、繊維材料からサイジング剤を除去することと、繊維材料に合わせてバリアコーティングを塗布することと、繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、繊維材料を少なくとも500℃まで加熱することと、繊維材料上にカーボンナノチューブを合成することと、を含むプロセスを提供する。ある実施形態において、CNT浸出プロセスの工程には、繊維材料からサイジング剤を除去することと、繊維材料にバリアコーティングを塗布することと、繊維材料にCNT形成触媒を塗布することと、前記繊維をCNT合成温度まで加熱することと、触媒含浸繊維材料上でのCVD促進CNT成長させることと、が含まれる。したがって、市販の繊維材料が使用される場合、CNT浸出繊維を構成するためのプロセスには、繊維材料上のバリアコーティング及び触媒を配置する前に、繊維材料からサイジング剤を除去する個別のステップが含まれてもよい。
【0105】
カーボンナノチューブを合成するステップには、参照により本出願に組み込まれた同時継続中の米国特許出願第2004/0245088号明細書に開示された技術を含む、カーボンナノチューブを形成するための多くの技術が含まれてもよい。これに制限されないが、微小共振動、熱又はプラズマ助長CVD技術、レーザアブレーション、アーク放電及び高圧一酸化炭素(HiPCO)を含む当該技術分野で周知の技術により、本発明の繊維上に成長したCNTを得ることができる。特にCVDの間、そこに配置されたCNT形成触媒によりバリアコーティングされた繊維材料は、直接的に使用することができる。ある実施形態において、従来のサイジング剤のいずれも、CNT合成の前に除去することができる。ある実施形態において、アセチレンガスはイオン化されて、CNT合成のための低温炭素プラズマの噴流を生み出す。前記プラズマは触媒担持繊維材料に誘導される。したがって、ある実施形態において、繊維材料上でのCNTの合成には、(a)炭素プラズマを形成すること、及び(b)繊維材料上に配置された触媒に炭素プラズマを誘導することが含まれる。成長するCNTの直径は、上記のように、CNT形成触媒の大きさに左右される。ある実施形態において、サイジング繊維基材は、約550から約800℃まで加熱され、CNT合成を促進する。CNT成長を開始させるために、2つのガス(アルゴン、ヘリウム又は窒素等のプロセスガス及びアセチレン、エチレン、エタノール又はメタン等の炭素含有ガス)が反応器内に注気される。CNTは、CNT形成触媒の場所で成長する。
【0106】
ある実施形態において、CVD成長はプラズマ助長される。プラズマは、成長プロセスの間に電場を与えることによって生じることができる。これらの状況下で成長したCNTは、電場の方向へと向かう。したがって、反応器の形状を調整することにより、円筒形繊維の周囲に放射状に垂直に配列されたカーボンナノチューブを成長させることができる。ある実施形態においては、繊維周囲に放射状に成長するためにプラズマを必要としない。テープ、マット、ファブリック、プライ等の別個の面を有する炭素繊維材料の場合、触媒は片面又は両面に配置することができ、CNTは同様に、片面又は両面で成長することができる。
【0107】
上記の通り、CNT合成は、巻取り可能な炭素繊維材料を機能化するための連続プロセスを可能にするのに十分な速度で行われる。様々な装置構成により、以下に例示されるように連続合成が容易になる。
【0108】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、「全プラズマ」プロセスにより構成することができる。全プラズマ処理は、上記のプラズマによる繊維材料の粗面化をともない、これによって表面湿潤特性を向上させ、より同化したバリアコーティングを提供し、及びアルゴン中の酸素、窒素もしくは水素、又はヘリウムに基づくプラズマ等の特定の反応ガス種を使用した繊維材料の機能化による機械的インターロック及び化学的接着を介した塗膜密着性を向上させることができる。
【0109】
バリアコーティングを施した繊維材料は、多くのさらなるプラズマ媒介工程を経て、最終CNT浸出製品を形成する。ある実施形態において、全プラズマ処理には、バリアコーティングが硬化された後に第2表面改質が含まれてもよい。これは、繊維材料上のバリアコーティング表面の「粗面化」のためのプラズマ処理であり、触媒堆積を容易にする。上記のように、表面改質は、これに制限されないが、アルゴン、ヘリウム、酸素、アンモニア、水素及び窒素などの様々な異なるガスのいずれか1つ以上のプラズマを使用して行うことができる。
【0110】
表面改質の後、バリアコーティングを施した繊維材料は触媒を塗布される。これは、前記繊維上にCNT形成触媒を堆積させるためのプラズマ処理である。前記CNT形成触媒は、一般に上記の遷移金属である。遷移金属触媒は、気相輸送を促進するために、磁性流体、有機金属、金属塩又は他の組成物の形態で、前駆体としてプラズマ原料ガスに加えることができる。前記触媒は、真空も不活性雰囲気も必要とはしない、周囲環境の室温で塗布することができる。ある実施形態において、繊維材料は、触媒塗布の前に冷却される。
【0111】
全プラズマ処理を継続すると、カーボンナノチューブ合成がCNT成長反応器内で生じる。これは、プラズマ助長化学蒸着を用いることにより行うことが可能であり、この場合、炭素プラズマは、触媒含浸繊維にスプレーされる。カーボンナノチューブ成長は高温(触媒に応じて、一般的に約500から1000℃の範囲)で生じるため、触媒含浸繊維は、炭素プラズマにさらされる前に加熱することができる。浸出プロセスのために、繊維材料は、任意で軟化するまでさらに加熱されてもよい。加熱後、繊維材料は炭素プラズマを受ける用意ができる。前記炭素プラズマは、例えば、アセチレン、エチレン、エタノール等の炭素含有ガスを、イオン化可能な電場を通過させることで生み出される。この低温炭素プラズマは、スプレーノズルを介して、炭素繊維材料へ向けられる。繊維材料は、プラズマを受けるために、スプレーノズルから約1センチメートル以内等に近接させる。ある実施形態において、繊維材料の高い温度を維持するために、繊維材料上方のプラズマスプレイヤーに加熱器が設けられる。
【0112】
連続カーボンナノチューブ合成の他の構成には、カーボンナノチューブを繊維材料に直接合成及び成長させるための特別な矩形反応器が含まれる。反応器は、カーボンナノチューブ担持繊維を製造する連続インラインプロセスで使用するために設計される。ある実施形態において、CNTは、化学蒸着(CVD)を介して、マルチゾーン(multi-zone)反応器内にて、大気圧かつ約550℃から約800℃までの範囲の高温で成長する。大気圧で合成されるという事実は、繊維上にCNTを合成するために反応器を連続プロセスラインへ組み込むのが容易になる一因である。このようなゾーン反応器(zone reactor)を用いるインライン連続プロセスのもう1つの利点は、CNT成長が、当該技術分野では標準的な他のプロセス又は装置構成では数分(又はそれ以上)で生じるのに対し、数秒で生じることである。
【0113】
様々な実施形態に係るCNT合成反応器には、以下の特徴が含まれる。
【0114】
(矩形に構成された合成反応器)
当該技術分野で周知の典型的なCNT合成反応器の断面は円形である。これには、例えば、歴史的理由(研究所では大抵円筒形反応器が使用される)、利便性(円筒形反応器では流動力学のモデル化が容易であり、加熱システムは円環(クオーツ(quartz)等)に容易に対応する)、及び製造の容易さを含む多くの理由がある。円筒形の慣習から離れ、本発明は、断面が矩形のCNT合成反応器を提供する。離れる理由は以下の通りである。1.反応器により処理することができる多くの繊維材料は、平らなテープ又はシート様形態等のように比較的平面的なので、円形断面は反応器容量の使用が非効率である。この非効率が原因で、例えば、a)十分なシステムパージ(system purge)を維持すること(増加した反応器容量は、同レベルのガスパージを維持するために、さらなるガス流量を必要とする)を含む、円筒形CNT合成反応器にいくつかの欠点を生じさせる。これは、開放環境におけるCNTの大量生産による非効率なシステムを生じさせる。b)増加した炭素原料ガス流(不活性ガス流内での相対的な増加は、上記aのように、さらなる炭素原料ガス流を必要とする)。12K繊維トウの容量は、断面が矩形の合成反応器の全容量の2000分の1であると考えられたい。同等成長円筒形反応器(すなわち、矩形断面反応器と同一の平面的な炭素繊維材料に対応する幅を有する円筒形反応器)において、繊維材料の容量は、前記チャンバーの17500分の1である。一般に、CVD等のガス蒸着プロセスは、圧力又は温度にもっぱら影響されるが、容量は蒸着の効率に大きな影響力を有する。矩形反応器を用いても、それでもまだ容量は過剰である。この過剰容量は望ましくない反応を促進するが、円筒形反応器はこの約8倍の容量を有するのである。競合する反応が生じるこの大きな機会により、所望の反応は、円筒形反応器チャンバー内で事実上緩やかに生じる。CNT成長のこのような減速は、連続プロセスの進行において問題となっている。矩形反応器構成の1つの利点は、高さの低い矩形チャンバーを使用することにより、反応器容量を減少させ、これによって、容量比をより良好にし、反応をより効率的にすることである。本発明のある実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する繊維材料の全容量のわずか約3000倍に過ぎない。さらなる実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する繊維材料の全容量のわずか約4000倍に過ぎない。またさらなる実施形態において、矩形合成反応器の全容量は、合成反応器を通過する繊維材料の全容量の約10000倍未満である。さらに、円筒形反応器を使用した場合、矩形断面の反応器と同じ流率(flow percent)を提供するために、より多くの炭素原料ガスが必要となることは注目すべきである。他の実施形態において、合成反応器は、矩形ではないが、比較的それに類似しており、円形断面の反応器に対して反応器容量を同様に減少させる多角形形状で表される断面を有することは十分に評価されてよい。c)問題のある温度分布。(比較的小さな直径の反応器が使用された場合、チャンバーの中央部からその壁面までの温度勾配は最小となる。しかし、工業規模の生産に使用される等、規模が大きくなるにつれ、温度勾配は大きくなる。)このような温度勾配は、繊維基材全域での製品品質のばらつきを生じさせる(すなわち、製品の品質は、半径方向の位置の関数として変化する)。矩形断面の反応器を使用した場合、この問題は略避けることができる。特に、平面的な基材が使用された場合、反応器の高さを、基材の上向きの大きさに一定に保つことができる。反応器の頂部と底部との間の温度勾配は、基本的にごくわずかであり、結果として、熱問題及びこれにより生じる製品品質のばらつきは避けられる。2.ガス導入。当該技術分野では管状炉が通常使用されるため、一般的なCNT合成反応器は、ガスを一端から導入し、反応器を通じてそれを他端へ引き込む。本明細書に開示のある実施形態において、ガスは、反応器の側面を通るか、は頂板及び底板を通って、反応器の中央部又は目標成長領域に、対照的に導入することができる。流入する原料ガスがシステムの最も高温の(CNT成長が最も活発な)部分に連続的に補給されるため、これはCNT成長率全体を向上させる。この持続するガス補給は、矩形CNT反応器が示す高い成長率における重要な側面である。
【0115】
(領域化)
比較的低温のパージ領域を提供するチャンバーは、矩形合成反応器の両端に左右される。出願人は、高温のガスが外部環境(すなわち、反応器の外側)と接した場合、炭素繊維材料の劣化が増すことを究明している。低温のパージ領域は、内部システムと外部環境との間の緩衝材を提供する。当該技術分野で周知の一般的なCNT合成反応器構成は、基材を注意深く(そして緩やかに)冷却することが通常求められる。この矩形CNT成長反応器の出口の低温パージ領域は、連続インラインプロセスに必要とされる短時間で冷却することができる。
【0116】
(非接触、ホットウォール型(hot-walled)、金属反応器)
ある実施形態において、金属(特にステンレス鋼)製のホットウォール型反応器が使用される。金属(特にステンレス鋼)は、炭素堆積(すなわち、煤及び副生成物形成)の影響を受けやすいため、これは直感に反するように思える。したがって、ほとんどのCNT反応器構成は、炭素の堆積がより少なく、石英は清掃がより容易であり、石英は試料の観察を容易にするため、石英反応器を使用する。しかしながら、出願人は、ステンレス鋼上の煤及び炭素堆積の増大が、より着実で、より速く、より効率的で、より安定したCNT成長につながるという事実に気づいた。理論に制限されることなく、大気稼働と関連して、反応器内で生じるCVDプロセスは拡散律速であることが示されている。すなわち、触媒は、その相対的に(反応器が不完全真空下で稼働していた場合より)高い分圧により、反応器システム内で得られる多すぎる炭素を「過剰供給」される。結果として、開放システム(特にクリーン(clean)なもの)において、多すぎる炭素が触媒粒子に付着し、そのCNT合成能力を低下させる。ある実施形態において、矩形反応器は、反応器が「汚れている(dirty)」(すなわち、金属反応器壁面に煤が堆積している)場合、故意に稼働される。炭素が反応器の壁面の単分子層として堆積すると、炭素はその上に容易に堆積するはずである。このメカニズムにより、得られる炭素の一部が「回収される」ため、ラジカルの形態で残っている炭素原料は、触媒を害さない速度で触媒と反応する。既存のシステムは、「クリーンに」稼働し、もしそれが連続プロセスのために開放していれば、低い成長速度でCNTのはるかに低い収率を生じさせるだろう。
【0117】
上記のように、CNT合成を「汚い」状態で行うことは概して有益であるが、ガスマニホールド及び吸入口等の装置の一部は、煤が妨害物(blockage)を作った場合、それにも関わらず、CNT成長プロセスに悪影響を与えることがある。この問題を解決するために、CNT成長反応器チャンバーのこのような領域を、シリカ、アルミナ又はMgO等の煤抑制コーティングにより保護することができる。実際には、装置のこれらの部分を、これらの煤抑制コーティングに浸漬被覆することができる。INVAR(登録商標)は、高温でコーティングの適切な付着を確実なものとし、煤が重要な領域に大幅に蓄積するのを妨げる類似したCTE(熱膨張係数)を有するため、INVAR(登録商標)等の金属をこれらのコーティングとともに使用することができる。
【0118】
(併合された触媒還元とCNT合成)
本明細書で開示のCNT合成反応器において、触媒還元とCNT成長とはいずれも反応器内で生じる。もし別々の工程として行われた場合、連続プロセスで使用するのに十分適時に還元ステップを行うことができないため、これは重要である。当該技術分野で周知の一般的なプロセスにおいて、還元ステップを行うのに通常は1〜12時間かかる。両方の工程は、少なくとも一部には、炭素原料ガスが(円筒形反応器を使用する当該技術分野においては一般的な端部ではなく)反応器の中央部から導入されることにより、本発明の反応器内で生じる。繊維が加熱領域に入ると、還元プロセスが行われる。この時点までには、ガスは触媒と反応し(水素ラジカル相互作用を介した)、酸化還元を引き起こす前に壁面と反応し冷却されるだけの時間を得てしまっている。還元はこの遷移領域で行われる。システム内で最も高温の等温領域でCNT成長は生じ、反応器の中央部付近のガス吸入口近傍で最大成長速度となる。
【0119】
ある実施形態において、トウ等の緩やかに構成された繊維材料が使用された場合、連続プロセスには、前記トウのストランド又はフィラメントを開繊するステップを含むことができる。したがって、トウが巻き出されるにしたがい、例えば、真空ベース開繊システムを使用してトウが開繊されてもよい。比較的固いサイジング繊維が使用される場合、トウを「軟化」させて繊維の開繊を容易にするために、さらに加熱が行われてもよい。個別のフィラメントを含んで構成された開繊繊維は、フィラメントの全表面領域をさらすのに十分なように開繊され、このようにして、トウはその後のプロセスステップでより効率的に反応可能とされてもよい。このような開繊は、3kのトウに対して約4インチから約6インチの範囲に達してもよい。開繊されたトウは、上記のプラズマシステムからなる表面処理ステップを経ることができる。バリアコーティングが塗布され粗面化された後、開繊繊維は、CNT形成触媒浸漬槽を通過することができる。結果として、その表面に触媒粒子が半径方向に分布したトウの繊維が得られる。それから、前記トウの触媒含浸繊維は、上記の矩形チャンバー等の適切なCNT成長チャンバーに入るが、ここでは大気圧CVD又はPE−CVDプロセスを経た流れが、秒速数ミクロンにも及ぶ高速度でCNTを合成するために用いられる。放射状に配列されたCNTを備えたトウの繊維は、CNT成長反応器から出ていく。
【0120】
ある実施形態において、CNT浸出繊維材料は、ある実施形態においてはCNTを機能化するために使用されるプラズマ処理である、さらに他の加工プロセスを経ることができる。さらなるCNTの機能化を、特定の樹脂に対するその付着を促進させるために用いることができる。したがって、ある実施形態において、本発明は、機能化されたCNTを有するCNT浸出繊維材料を提供する。
【0121】
巻取り可能な炭素繊維材料の連続プロセスの一部として、CNT浸出繊維材料は、サイジング剤浸漬槽をさらに通過し、これにより、最終製品に有用となりえるさらなる任意のサイジング剤を塗布することができる。最終的に湿式巻き付けが所望であれば、CNT浸出繊維材料は、樹脂浴(resin bath)を通過し、マンドレル又はスプールに巻き付けられてもよい。得られた繊維材料/樹脂との組み合わせは、CNTを繊維材料に固定し、これによって取り扱い及び複合材料の形成がより容易になる。ある実施形態において、CNT浸出は、フィラメントの巻き付けを向上させるために使用される。このようにして、トウ等の繊維に形成されたCNTは、樹脂含浸CNT浸出炭素トウを製造するために、樹脂浴を通過してもよい。樹脂含浸の後、炭素トウは、送出し水頭により、回転するマンドレルの表面に設置されてもよい。そしてトウは、周知の方法により、正確な幾何学パターンでマンドレルに巻きつけられてもよい。
【0122】
上記の巻き付けプロセスは、パイプ(pipe)、チューブ(tube)又は雄型により特徴的に製造される他の構造物を提供する。しかし、本明細書で開示の巻き付けプロセスにより作られる前記構造物は、従来のフィラメント巻き付けプロセスを介して作られるものとは異なる。特に、本明細書で開示のプロセスにおいて、前記構造物はCNT浸出トウを含む複合材料から形成される。それゆえ、このような構造物は、CNT浸出トウから与えられた高い強度等からの利益を享受する。
【0123】
ある実施形態において、巻取り可能な繊維材料上でのCNTの浸出のための連続プロセスは、約0.5ft/分から約36ft/分の範囲のラインスピードを達成することができる。CNT成長チャンバーは3フィート長であり、750℃の成長温度で稼働するこの実施形態において、前記プロセスは、例えば、約1ミクロンから約10ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約6ft/分から約36ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記プロセスはまた、約10ミクロンから約100ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約1ft/分から約6ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。前記プロセスは、約100ミクロンから約200ミクロンの範囲の長さのCNTを生成するために、約0.5ft/分から約1ft/分のラインスピードで稼働されてもよい。CNTの長さはラインスピード及び成長温度のみによって制限されるわけではなく、炭素原料及び不活性搬送ガスの両方の流量もまたCNTの長さに影響し得る。例えば、高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%未満の炭素原料を含む流量は、1ミクロンから約5ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。高いラインスピード(6ft/分から36ft/分)の不活性ガス中に1%より多い炭素原料を含む流量は、5ミクロンから約10ミクロンの長さのCNTを生じさせるだろう。
【0124】
ある実施形態において、1つ又は複数の材料のプロセスを同時に実行することができる。例えば、複数のテープトウ、フィラメント、ストランド等を並列にプロセスを実行することができる。したがって、繊維材料の予め形成されたスプールはいくつでも並列にプロセスを実行し、プロセスの最後に再びスプールに巻き取ることができる。並列して実行することができる巻き取られた繊維材料の数には、1,2,3,4,5,6及びCNT成長反応チャンバーの幅が適合するだけ任意の数まで含まれる。さらに、複数の繊維材料がプロセスを実行される場合、回収スプールの数は、プロセス開始時点のスプールの数より少なくすることができる。このような実施形態において、ストランド又はトウ等は、これらの繊維材料を、織物ファブリック等のより高度な秩序構造へ組み合わせるさらなるプロセスに送ることができる。また、連続プロセスには、例えば、CNT浸出チョップド繊維構造を容易にする後プロセスチョッパーを組み込むことができる。
【0125】
ある実施形態において、本発明のプロセスは、繊維材料上にカーボンナノチューブの第1の種類の第1の量を合成可能とし、カーボンナノチューブの第1の種類は、繊維材料の少なくとも1つの第1の性質を変化させるように選択される。次に、本発明のプロセスは、繊維材料上にカーボンナノチューブの第2の種類の第2の量を合成可能とし、カーボンナノチューブの第2の種類は、繊維材料の少なくとも1つの第2の性質を変化させるように選択される。
【0126】
ある実施形態において、CNTの第1の量及び第2の量は異なる。これは、CNTの種類の変化によることもあるし、そうでないこともある。したがって、CNTの種類が変化しないままであっても、CNTの密度を変更することにより、元の繊維材料の性質を変化させることができる。CNTの種類には、例えばCNTの長さ及び層の数が含まれてもよい。ある実施形態において、第1の量及び第2の量は等しい。この場合において、巻き取り可能な材料の2つの異なる範囲に沿って性質が異なるのが望ましければ、CNTの長さのようなCNTの種類を変化させることができる。例えば、より長いCNTは電気/熱用途に有用であり得るが、より短いCNTは機械的強化用途に有用であり得る。
【0127】
繊維材料の性質の変更に関する上記の議論を考慮すると、カーボンナノチューブの第1の種類及びカーボンナノチューブの第2の種類は、ある実施形態においては同一であってもよいが、一方、他の実施形態においてはカーボンナノチューブの第1の種類及びカーボンナノチューブの第2の種類は異なってもよい。同様に、第1の性質及び第2の性質は、ある実施形態においては同一であってもよい。例えば、第1の量及び種類のCNT並びに第2の量及び種類のCNTにより対処される性質がEMI遮蔽特性であってもよいが、使用されたCNTの量又は種類の相違を反映して、この性質における変化の程度が異なってもよい。最後に、ある実施形態において、第1の性質及び第2の性質は異なってもよい。この場合も、これはCNTの種類の変化を反映してもよい。例えば、第1の性質はより短いCNTが備える機械的強化であってもよいが、一方、第2の性質はより長いCNTが備える電気的/熱的性質であってもよい。当業者は、例えば異なるCNTの密度、CNTの長さ、及び単層、2層、多層などのCNTにおける層の数を使用を通じて、炭素繊維材料の性質を調節することができることを理解するだろう。
【0128】
ある実施形態において、本発明のプロセスは、繊維材料上でのカーボンナノチューブの第1の量の合成を提供し、その結果この第1の量は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料が、繊維材料自体が示す性質の第1のグループとは異なる性質の第2のグループを示すことを可能にする。すなわち、量を選択することにより、引張強度のような繊維材料の性質の1つ又は複数を変化させることができる。性質の第1のグループ及び性質の第2のグループには少なくとも1つの同一の性質が含まれてもよく、これにより繊維材料が既に示している性質が強化されてもよい。ある実施形態において、CNT浸出は、繊維材料自体により示される性質の第1のグループに含まれない性質の第2のグループを、カーボンナノチューブ浸出繊維材料に与えることができる。
【0129】
ある実施形態において、カーボンナノチューブの第1の量は、カーボンナノチューブ浸出繊維材料の引張強度、ヤング率、せん断強度、剛性率、強靭性、圧縮強度、圧縮係数、密度、EM波吸収性/反射性、音響透過率、電気伝導性、及び熱伝導性からなるグループから選択される少なくとも1つの性質の値が、繊維材料自体の同一の性質の値と異なるように選択される。
【0130】
引張強度は、3つの異なる大きさを含む。1)材料の歪みが弾性変形から材料を永久に変形させる塑性変形に変化する応力を評価する降伏力。2)伸張、圧縮又はせん断にさらされたときに材料が耐えることができる最大応力を評価する極限強度。3)応力・歪み曲線上の破断点における応力の座標を評価する破壊強度。複合せん断強度は、繊維方向と垂直な方向に応力が加えられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。圧縮強度は、圧縮応力が加えられた場合に材料が機能しなくなる応力を評価する。
【0131】
特に、多層カーボンナノチューブは、これまで計測された全ての材料の中で最も高い引張強度を有し、63GPaの引張強度に達している。その上、理論計算はCNTの可能な引張強度が約300GPaであることを示している。これにより、CNT浸出繊維材料は、元の繊維材料と比較して実質的により高い極限強度が期待される。上記の通り、引張強度の向上は、使用されるCNTの正確な性質と、繊維材料上での密度及び分布とに依存する。CNT浸出繊維材料は、例えば、2倍又は3倍の引張特性の向上を示す。例示的なCNT浸出繊維材料は、機能化されていない元の繊維材料に比べて、3倍のせん断強度と2.5倍の圧縮強度を有することができる。
【0132】
ヤング率は、等方性弾性材料の剛性の大きさである。これは、フックの法則に従う応力の範囲における一軸歪みに対する一軸応力の割合により定義される。これは、材料のサンプルに対して行われる引張試験の間に作成される応力・歪み曲線の傾斜から実験的に決定される。
【0133】
電気伝導性又は特定の伝導性は、電流を導く材料の能力の大きさである。CNTキラリティー(chirality)に関連する捩れの度合いのような特定の構造的パラメータを備えたCNTは高い伝導性を有し、これにより、金属的な性質を示す。広く認められた命名方式(M. S. Dresselhaus, et al. Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes, Academic Press, San Diego, CA pp. 756-760(1996))が正式なものとされており、CNTキラリティーに関して当業者に認められている。こうして、CNTは例えば2つの指標(n,m)により互いに区別される。n及びmは、円柱形の表面に巻きつけられ、端部が互いに閉塞されたときに筒を形成するように、六角形グラファイトの切れ目(cut)と巻きつけ(wrapping)とを説明する整数値である。2つの指標が等しい(m=n)場合、結果として得られるチューブは「アームチェアー」(又はn,n)型と呼ばれる。なぜなら、チューブをCNT軸に対して垂直に切断すると、六角形の辺だけが露出し、チューブのふちの外周のパターンが、n回繰り返されるアームチェアーのアーム及びシートに似ているためである。アームチェアーCNT、特にSWNTは、金属的であり、極めて高い電気伝導性及び熱伝導性を有する。加えて、このようなSWNTは、極めて高い引張強度を有する。
【0134】
捩れの度合いに加えて、CNTの直径もまた電気伝導性に影響する。上記の通り、CNTの直径は、大きさを制御されたCNT形成触媒ナノ粒子を使用することにより制御することができる。CNTはまた、半導体材料として形成することができる。MWNTの伝導性はより複雑である。MWNTにおける内層反応(interwall reactions)は、個々のチューブの全面に電流を不均一に再分配する。それに反して、金属的な単層ナノチューブ(SWNT)の異なる部分において電流は変化しない。カーボンナノチューブはまた、ダイアモンド結晶及び面内グラファイトシートと比較して、極めて高い熱伝導性を有する。CNT浸出繊維材料は、上記の性質だけでなく、プロセスにおいてより軽い材料を提供する、CNTの存在による利益を享受することができる。このように、より低い密度及びより高い強度の材料は、より大きな強度重量比に変換される。
【0135】
また、本発明の様々な実施形態の活性に実質的に影響を与えない変更が、本明細書で提供される本発明の定義に含まれることは当然である。したがって、以下の実施例は、説明を意図しており、本発明を制限するものではない。
【0136】
(実施例I)
本実施例は、熱硬化性マトリックス複合材料内の電気伝導性の向上を目的として、連続プロセスにおいてどのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるかを示す。
【0137】
この実施例において、繊維上のCNTの最大担持が目的とされる。テックス値800の34−700の12K炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が、炭素繊維基材として与えられる。この炭素繊維トウのそれぞれのフィラメントの直径はおよそ7μmである。
【0138】
図8は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維製造のためシステム800を示す。システム800には、図示されたように関連する、炭素繊維材料繰り出し及び伸張手段(tensioner)工程805と、サイジング剤除去及び開繊手段(spreader)工程810と、プラズマ処理工程815と、触媒塗布工程820と、溶媒の蒸発分離工程825と、バリアコーティング塗布工程830と、CNT浸出工程840と、繊維束化手段(bundler)工程845と、炭素繊維材料取り込みボビン850とが含まれる。
【0139】
繰り出し及び伸張工程805は、繰り出しボビン806及び伸張手段807を含む。繰り出しボビンは、炭素繊維材料860をプロセスへ運び、繊維は伸張手段807により伸張される。例えば、炭素繊維は、2ft/分のラインスピードで処理される。
【0140】
繊維材料860は、サイジング剤除去加熱器865及び開繊手段870を含むサイジング剤除去及び開繊工程810へ運ばれる。この工程において、繊維860上の全てのサイジング剤は除去される。一般に、除去は繊維のサイジング剤を燃焼させることにより行われる。例えば、赤外線加熱器、マッフル炉及び他の非接触加熱プロセスを含む様々な加熱手段はいずれもこの目的で使用することができる。サイジング剤除去はまた、化学的に行うこともできる。開繊手段は、繊維の個々の要素を分離する。均一な直径のバー(bar)の上方及び下方に平坦に、不均一な直径のバーの上方及び下方に、半径方向に広がった溝とニーディングローラー(kneading roller)とを備えたバーの上方に、又は振動バー(vibratory bar)の上方に、繊維を引っ張る等の様々な技術及び装置を、開繊のために使用することができる。開繊は、より広い繊維表面領域を暴露することにより、プラズマ適用、バリアコーティング塗布及び触媒塗布等の下流工程の効率を向上させる。
【0141】
複数のサイジング剤除去加熱器865を、繊維ののり抜き(desizing)及び開繊を同時に徐々に行うことを可能にする開繊手段870の至る所に配置することができる。繰り出し及び伸張工程805並びにサイジング剤除去及び開繊手段工程810は、繊維工業においてごく普通に使用される。当業者は、これらの設計及び使用に精通しているだろう。
【0142】
サイジング剤を燃焼するために要する温度及び時間は、(1)サイジング剤及び(2)炭素繊維材料860の商業的供給源/特性の関数として変化する。炭素繊維材料上の従来のサイジング剤は、約650℃で除去することができる。この温度において、サイジング剤の完全な燃焼を確保するために15分を要することがある。温度を前記燃焼温度を越えるまで上げることで、燃焼時間を削減することができる。特定の商品のサイジングのための最低の燃焼温度を決定するために熱重量分析(thermogravimetric analysis)が使用される。
【0143】
サイジング剤除去に要する時間次第では、サイジング剤除去加熱器は必ずしも厳密な意味でのCNT浸出プロセスに含まれなくてもよく、つまり除去は別々に(例えば、並列して)行うことができる。このような方法で、サイジング剤を含まない(sizing-free)炭素繊維材料の在庫は蓄積され、繊維除去加熱器を含まないCNT浸出繊維製造ラインで使用するために巻取ることができる。そして、サイジング剤を含まない繊維は、繰り出し及び伸張工程805に巻取られる。この製造ラインは、サイジング剤除去を含む製造ラインより高速で稼働させることができる。
【0144】
サイジング剤を除去された繊維880は、プラズマ処理工程815に運ばれる。例えば、大気圧プラズマ処理は、流れに沿って、開繊炭素繊維材料から1mmの距離から使用される。ガス状原料は、100%のヘリウムから構成される。
【0145】
プラズマ助長繊維885は、触媒塗布工程820に運ばれる。本実施例において、酸化鉄ベースCNT形成触媒溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、容量比2000対1の希釈率でヘキサンに希釈された「EFH−1(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)」である。単原子層に満たない触媒被覆が、炭素繊維材料上に形成される。希釈される前の「EFH−1」は、3〜15容量%のナノ粒子を有する。酸化鉄ナノ粒子の組成は、Fe及びFeであり、およそ8nmの粒径を有する。
【0146】
触媒含浸炭素繊維材料890は、溶媒の蒸発分離工程825に運ばれる。溶媒蒸発分離工程は、開繊炭素繊維全体に気流を送る。本実施例において、触媒含浸炭素繊維材料上に残された全てのヘキサンを蒸発分離するために、室温の空気を使用することができる。
【0147】
溶媒の蒸発分離の後、触媒含浸炭素繊維890は、バリアコーティング工程830に運ばれる。本実施形態において、シロキサンベースバリアコーティング溶液が、浸漬被覆構成に用いられる。前記溶液は、容量比40対1の希釈率でイソプロピルアルコールに希釈された「T−11スピンオンガラスAccuglass(登録商標)(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)」である。結果として得られる炭素繊維材料上のバリアコーティングの厚さは、およそ40nmである。バリアコーティングは、周囲環境の室温で塗布することができる。
【0148】
溶媒の蒸発分離の後、触媒含浸繊維895は、最終的にCNT浸出工程840へと送られる。本実施例において、18インチの成長領域を有する矩形反応器が、大気圧でのCVD成長を採用するために使用される。全ガス流の92.0%は不活性ガス(窒素)であり、2.0%は炭素原料(アセチレン)であり、残りの4.0%は水素ガスである。前記成長領域は、750℃に保たれる。上記矩形反応器の場合、750℃は、最高の成長率を可能にする比較的高い成長温度である。
【0149】
CNT浸出の後、CNT浸出繊維897は、繊維束化工程845において、再び束ねられる。この工程は、繊維のストランドのそれぞれを再びまとめるものであり、工程810において行われた開繊工程とは、事実上逆方向のものである。
【0150】
束ねられたCNT浸出繊維897は、保管のために、取り込み繊維ボビン850の周りに巻かれる。CNT浸出繊維897は、およそ60μmの長さ又は15重量%のCNTを担持し、高いEMI遮蔽能力を備えた複合材料に使用する用意ができる。
【0151】
CNT浸出繊維897を使用する場合、板状マンドレル上に繊維をフィラメント巻き付け(filament winding)することにより、複合材料パネルを形成することができる。構造用パネルを形成するために、繊維は共通の軸に対して0度及び90度の角度で巻き付けられる。得られた乾式巻き付け繊維構造体は、熱硬化性マトリックス浸出のために巻き取り機から取り外される。
【0152】
乾式巻き付け繊維構造体は、真空樹脂トランスファー法(VARTM)を使用して熱硬化性樹脂であるEPON828に浸出される。この方法は、最終複合材料構造体における隙間の数を減少させるとともに、繊維への熱硬化性マトリックスの含浸を容易にするために使用される。図11に示すように、より高いCNTパーセントは、より低い繊維容量パーセントをもたらすため、VARTMプロセスは、繊維容量全体の増加を促進するためにも使用される。
【0153】
そして、樹脂浸出構造体は、樹脂製造業者の仕様に応じて、オーブンで硬化される。得られた複合材料パネルは、整えられ、試験及び評価のために用意される。このようなパネルは、100S/mより大きな電気伝導性を示し、EMI遮蔽から落雷保護までの範囲の用途に使用することができる。
【0154】
上記の工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下又は真空下で行えるものがあるということは注目に値する。例えば、炭素繊維材料のサイジング剤が燃焼している場合、繊維を環境的に分離し、これによってガス放出(off-gassing)を封じ、蒸気による損傷を防ぐことができる。便宜上、システム800において、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維の取り込みを除く、全ての工程に提供することができる。
【0155】
(実施例II)
本実施例は、機械的性質、特に破壊靱性の向上を目的として、連続プロセスにおいてどのようにCNTが炭素繊維材料に浸出されるかを示す。この場合、繊維上へのより短いCNTの担持が目標とされる。本実施例において、テックス値442のIM7の12K炭素繊維トウ(Grafil Inc., Sacramento, CA)が、炭素繊維基材として与えられる。この炭素繊維トウのそれぞれのフィラメントの直径はおよそ5μmである。
【0156】
図9は、本発明の実施形態によるCNT浸出繊維製造のためシステム900を示す。システム900には、図示されたように関連する、炭素繊維材料繰り出し及び伸張手段工程902と、開繊手段工程908と、バリアコーティング工程912と、溶媒の蒸発分離工程914と、触媒塗布工程916と、第2の溶媒の蒸発分離工程918と、CNT浸出工程928と、繊維束化手段工程930と、炭素繊維材料取り込みボビン932と、が含まれる。
【0157】
繰り出し及び伸張手段工程902は、繰り出しボビン904と伸張手段906とを含んだ。繰り出しボビンは、炭素繊維材料901をプロセスへ運び、繊維は伸張手段906を介して伸張された。本実施例では、炭素繊維は、2ft/分のラインスピードで処理された。
【0158】
繊維材料901は、開繊手段工程908に運ばれた。この繊維はサイジング剤を用いずに製造さたため、開繊手段工程908の一部としてサイジング除去プロセスは組み込まれていない。開繊手段は、開繊手段870と同様な方法で、繊維のそれぞれの要素を分離した。
【0159】
繊維を開繊した後、炭素繊維材料901は、バリアコーティング工程912に運ばれた。本実施例において、シロキサンベースバリアコーティング溶液が、浸漬被覆構成に用いられた。前記溶液は、容量比40対1の希釈率でイソプロピルアルコールに希釈された「T−11スピンオンガラスAccuglass(登録商標)(Honeywell International Inc., Morristown, NJ)」であった。結果として得られる炭素繊維材料上のバリアコーティングの厚さは、およそ40nmであった。バリアコーティングは、周囲環境の室温で塗布することができた。
【0160】
そして、バリアコーティングを施しされた炭素繊維913は、バリアコーティングの部分硬化のために溶媒蒸発分離工程914に運ばれた。溶媒蒸発分離工程は、開繊炭素繊維の全体に加熱された気流を送った。採用される温度は300℃の範囲であった。
【0161】
バリアコーティングを施された繊維913は、触媒塗布工程916に運ばれた。本実施例において、酸化鉄ベースCNT形成触媒溶液が、浸漬被覆構成に用いられた。前記溶液は、容量比60対1の希釈率でヘキサンに希釈された「EFH−1(Ferrotec Corporation, Bedford, NH)」であった。単原子層を上回る触媒被覆が、炭素繊維材料上に形成された。希釈される前の「EFH−1」は、3〜15容量%のナノ粒子を有する。酸化鉄ナノ粒子の組成は、Fe及びFeであり、およそ8nmの粒径を有する。
【0162】
触媒含浸炭素繊維材料917は、溶媒蒸発分離工程918に運ばれた。溶媒蒸発分離工程は、開繊炭素繊維の全体に気流を送った。本実施例において、触媒含浸炭素繊維材料上に残った全てのヘキサンを蒸発分離するために、室温の空気が使用された。
【0163】
溶媒の蒸発分離の後、触媒含浸炭素繊維917は、最終的にCNT浸出工程928に送られた。本実施例において、18インチの成長領域を有する矩形反応器が、大気圧でのCVD成長を採用するために使用された。全ガス流の97.53%は不活性ガス(窒素)であり、残りの2.47%は炭素原料(アセチレン)であった。前記成長領域は、650℃に保たれた。上記矩形反応器の場合、650℃は、より短いCNT成長を制御可能とする比較的低い成長温度である。
【0164】
CNT浸出の後、CNT浸出繊維929は、繊維束化工程930において、再び束ねられた。この工程は、繊維のストランドのそれぞれを再びまとめ、工程908において行われた開繊工程とは事実上逆方向のものである。
【0165】
束ねられたCNT浸出繊維931は、保管のために、取り込み繊維ボビン932の周りに巻かれた。CNT浸出繊維929は、およそ5μmの長さ又は2重量%のCNTを担持しており、そして高い機械的性質を備えた複合材料に使用可能となった。
【0166】
CNT浸出繊維931は、結果として得られる複合材料パネルの破壊靱性を明らかにするために、板状マンドレル上に湿式巻き付けされた。この湿式巻き付けプロセスにおいて、CNT浸出繊維931は、ローラーアセンブリにより引き込まれ、熱硬化性樹脂であるEPON828を含んだ樹脂浴を通過した。湿式巻き付けプロセスが使用されるため、図11に示す結果に対応する得られた複合材料パネルにおいて、比較的低い繊維容量(38%)が観察された。湿式巻き付けされた複合材料パネルは、熱硬化性樹脂製造業者の仕様に応じて加圧下で硬化された。
【0167】
得られた複合材料パネルは、整えられ、ISO15024「繊維強化プラスチック複合材料−一定方向に強化された材料のための層間破壊靱性様式Iの判定,GIC(Fibre-reinforced plastic composites - Determination of mode I interlaminar fracture toughness, GIC, for unidirectionally reinforced materials)」にしたがって試験された。図12に示された結果は、同様にして形成されたベースラインがサイジングされていないIM7パネルと比較して、破壊靱性の45%の向上を示した。
【0168】
上記の工程の中には、環境分離のために、不活性雰囲気下又は真空下で行えるものがあるということは注目に値する。便宜上、システム900において、環境分離は、製造ラインの最初に行われる炭素繊維材料繰り出し及び伸張並びに製造ラインの最後に行われる繊維の取り込みを除く、全ての工程に提供された。
【0169】
本明細書にて議論された実施形態の精神において、当然のことながら、実施例I及びIIから得られたCNT浸出繊維は、より長いCNTによる電気伝導性の向上及びより短いCNTによる破壊靱性の強化の両方を示すことができる単一の構造体にともに使用することができる。
【0170】
開示された実施形態の参照しつつ本発明が説明されたが、当業者は、これらが本発明の例に過ぎないことをただちに理解するだろう。本発明の精神から離れることなく、様々な変更を行うことが可能なのは当然である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形構造コアと、
前記コア内に同軸に配置され、第1の熱硬化性マトリックス中に第1のCNT浸出繊維材料を含む内層と、
第2の熱硬化性マトリックス中に第2のCNT浸出繊維材料を含む外層と、
を含んで構成される構造支柱。
【請求項2】
前記コアは、第3の熱硬化性マトリックス中に第3の繊維材料を含んで構成される請求項1に記載の支柱。
【請求項3】
前記第1の熱硬化性マトリックスと、前記第2の熱硬化性マトリックスと、及び前記第3の熱硬化性マトリックスとは同一である請求項2に記載の支柱。
【請求項4】
前記第1の熱硬化性マトリックスと前記第2の熱硬化性マトリックスと前記第3の熱硬化性マトリックスとは、少なくとも2つの異なる熱硬化性樹脂を含んで構成される請求項2に記載の支柱。
【請求項5】
前記第1のCNT浸出繊維と前記第2のCNT浸出繊維とは、それぞれ約20から約500ミクロンまでの長さのCNTを含んで構成される請求項1に記載の支柱。
【請求項6】
前記第3の繊維材料は、第3のCNT浸出繊維である請求項2に記載の支柱。
【請求項7】
前記第3のCNT浸出繊維は、約0.1ミクロンから約20ミクロンまでの長さのCNTを含んで構成される請求項6に記載の支柱。
【請求項8】
前記第1のCNT浸出繊維材料のCNTは、前記CNT浸出繊維の約10重量パーセントから約40重量パーセントの範囲の量が存在する請求項1に記載の支柱。
【請求項9】
前記第2のCNT浸出繊維材料のCNTは、前記CNT浸出繊維の約10重量パーセントから約40重量パーセントの範囲の量が存在する請求項1に記載の支柱。
【請求項10】
前記内層に関する第1の繊維容量は、約20パーセントから約40パーセントの範囲内である請求項1に記載の支柱。
【請求項11】
前記外層に関する第2の繊維容量は、約20パーセントから約40パーセントの範囲内である請求項1に記載の支柱。
【請求項12】
前記コアに関する第3の繊維容量は、約50パーセントから約70パーセントの範囲内である請求項2に記載の支柱。
【請求項13】
前記内層は、約1S/mから約300S/mの範囲の電気伝導性を有する請求項1に記載の支柱。
【請求項14】
前記外層は、約1S/mから約300S/mの範囲の第2の電気伝導性を有する請求項1に記載の支柱。
【請求項15】
熱硬化性マトリックスと、約20ミクロンから約500ミクロンまでの長さを有するCNTを含むカーボンナノチューブ(CNT)浸出繊維材料と、を含んで構成される複合材料。
【請求項16】
前記CNT浸出繊維材料は、炭素繊維材料を含んで構成される請求項15に記載の複合材料。
【請求項17】
前記CNT浸出繊維材料のCNTは、約10重量パーセントから約40重量パーセントの範囲の量が存在し、好ましくは15重量パーセントから20重量パーセントである請求項15に記載の複合材料。
【請求項18】
前記複合材料の第1の部分における前記CNT浸出繊維材料の第1の繊維容量は、約20パーセントから約40パーセントの範囲内であり、好ましくは30パーセントから40パーセントである請求項15に記載の複合材料。
【請求項19】
前記複合材料の第2の部分に配置された第2の繊維材料をさらに含んで構成され、
前記第2の繊維材料の第2の繊維容量は約50パーセントから約70パーセントまでであり、好ましくは60パーセントから70パーセントである請求項15に記載の複合材料。
【請求項20】
約0.1ミクロンから約20ミクロンの範囲、好ましくは5ミクロンから15ミクロンの範囲の長さを有するCNTを含むCNT浸出繊維材料と、
熱硬化性マトリックスと、
を含んで構成された複合材料であって、
前記CNTは、前記複合材料の約0.1重量パーセントから約5重量パーセントの範囲が存在する複合材料。
【請求項21】
前記複合材料は、プリプレグ織物である請求項20に記載の複合材料。
【請求項22】
前記CNT浸出繊維材料は、ガラス繊維材料を含んで構成される請求項20に記載の複合材料。
【請求項23】
前記CNT浸出繊維材料は、炭素繊維材料を含んで構成される請求項20に記載の複合材料。
【請求項24】
円筒形マンドレルの周囲に第1のCNT浸出繊維を前記マンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、
巻き付けられた前記第1のCNT浸出繊維の周囲にベースライン層を前記マンドレルの軸に対して実質的に非平行な角度で湿式巻き付けすることと、
前記ベースライン層の周囲に第2のCNT浸出繊維を前記マンドレルの軸に対して略平行に湿式巻き付けすることと、
を含んで構成され、
それぞれの湿式巻き付けステップは、少なくとも1つの熱硬化性マトリックスとの湿式巻き付けを含んで構成される構造支柱を製造する方法。
【請求項25】
少なくとも1つの前記熱硬化性マトリックス材料を硬化するステップを更に含んで構成される請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記硬化ステップは、全ての湿式巻き付けステップが行われた後に1回のステップとして行われる請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記硬化ステップは、それぞれの湿式巻き付けステップ間の全部又は部分硬化を含んで構成される請求項25に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2013−511413(P2013−511413A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540164(P2012−540164)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057919
【国際公開番号】WO2011/063423
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(511201392)アプライド ナノストラクチャード ソリューションズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】APPLIED NANOSTRUCTURED SOLUTIONS, LLC
【Fターム(参考)】