説明

疎水性ポリマー、それを用いた導電性膜を有する積層体、導電性パターンの製造方法、該積層体を利用したプリント配線基板、薄層トランジスタ及びこれらを備えてなる装置

【課題】ガラスなどの酸化ケイ素系基板上へ無電解めっき法を用いて導電性パターンを形成するのに好適な新規疎水性ポリマー、それを用いた、基材上に密着性に優れた導電膜を有する積層体、その形成方法、該導電膜を配線として有するプリント配線基板、薄層トランジスタ及びこれらを備えた装置を提供する。
【解決手段】ラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーであって、該ラジカル重合可能な不飽和性部位と該無電解めっきの触媒を吸着する部位の構成比が、60:40〜30:70である疎水性ポリマー。このポリマーを重合開始層に結合させてグラフトポリマー層を形成し、そこに無電解めっき触媒を付与し、無電解めっきを行うことで、表面に導電性膜が形成された積層体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフトポリマーの形成に有用な疎水性ポリマー、それを用いて形成された導電性膜を有する積層体、導電性パターンの製造方法、該積層体を利用したプリント配線基板、薄層トランジスタ及びこれらを備えてなる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板などの電子配線形成において、大面積基板に電気配線を形成する要求が増大している。高精細で導電性に優れた微細配線は、真空成膜法などの気相法により形成されることが一般的であるが、この方法では、広い面積にわたって膜厚や膜質が均一な金属膜を成膜することが困難であり、信頼性の高い配線、電極などの形成が切望されていた。さらに、大面積のパネルに気相法で金属膜を製膜する場合、巨大な真空成膜装置とガス供給設備などの付帯設備が必要となり、莫大な設備投資が必要になるといった問題も発生する。また、スパッタ装置、CVD装置などの真空成膜装置は、真空ポンプを駆動する電力、基板加熱を行なう電力、プラズマを発生させる電力等多くの電力を必要とするが、当然ながら装置の巨大化に伴いこれら製造装置の消費エネルギーが増大するといった問題も発生する。
【0003】
さらに、金属配線などを形成する際、従来は、真空成膜装置を用いて基板の全面に金属膜を成膜した後、その不要部分をエッチングにより除去することで、電気配線パターンを形成していたが、この手法では、配線の解像度が限定され、金属材料の無駄が発生するといった問題もあった。近年、環境への配慮から、製造工程における消費エネルギーの低減や、材料資源の有効利用が求められ、より簡易に所望の解像度の金属膜パターンを形成しうる方法が求められている。
これに対して、例えば、無電解めっきの反応に必要な触媒層を予め基板上にパターン配置し、触媒層の存在する領域にのみ選択的に金属膜を形成する無電解めっき技術(例えば、特許文献1参照。)や、基板表面に金属酸化膜(例えばZnO)を形成した後、金属酸化膜をパターニングして、形成された金属酸化膜パターン上に選択的に金属膜パターンを形成する方法(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。これらの方法では、所望のパターンで金属配線が形成できるが、前者では、ガラス基板などの表面が平滑な基板上に無電解めっきで金属膜パターンを形成した場合、基板とめっき被膜の密着性が非常に弱く、実用上問題のあるレベルであり、さらに、めっき膜の膜厚を増加させることが困難であった。また、後者では、基板全面に形成された酸化亜鉛膜をパターン化する工程において、レジスト樹脂などの使用が必要であり、工程が煩雑で、且つ、酸化亜鉛の耐薬品性の低さに起因して、エッチングレートの微妙な調整が要求されるとともに、大面積基板上ではエッチング速度の面内均性を向上させることが困難であった。
【0004】
また、これらの改良技術として、感光膜に触媒となる材料を担持させ、紫外線露光でパターン化された触媒層を形成し、その領域のみに酸化亜鉛膜を形成し、これを基点として無電解めっきにより金属パターンを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この方法によれば、解像度の高い酸化亜鉛膜パターンが形成されるという利点を有するが、感光膜などの特殊な材料を必要とし、また、金属膜の形成までに、2つの触媒層の形成を含む5工程を要し、工程が煩雑であった。
また、無電解めっきを用いる金属膜の形成において、導電性、耐久性などの観点から十分な厚さのめっき膜を形成しようとする場合、基材として石英ガラスを含むガラス基板を使用すると、無電解めっき浴のアルカリに長時間晒される結果、基板表面が侵食されて表面平滑性が損なわれ、その結果、金属配線部の密着性に影響を与えるという懸念もあり、密着性に優れるとともに、抵抗値などの電気特性を満足する配線を形成する技術が熱望されていた。
【特許文献1】特開2000−147762公報
【特許文献2】特開2001−85358公報
【特許文献3】特開2003−213436公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の前記従来における問題点を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、アルカリによって侵食されやすいガラスなどの基板上へ無電解めっき法を用いて導電性パターンを形成するのに好適な、新規な疎水性ポリマーを提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような疎水性ポリマーを用いて形成された、ガラス基材などの酸化ケイ素系基材上に密着性と電気特性に優れた導電膜を有する積層体、及び、このような導電性パターンの形成方法を提供することにある。
本発明のさらなる目的は、前記疎水性ポリマーを用いて形成された導電膜を配線として有するプリント配線基板、薄層トランジスタ及びこれらを備えた装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、検討の結果、グラフト重合を利用した導電性膜、導電性パターンの作製において、該導電性膜の接着性向上機能を有するグラフトポリマーの構造的な疎水化を達成しうる新規な疎水性ポリマーにより上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明における特定官能基を有する疎水性ポリマーは、酸化ケイ素系基材上への無電解めっき法による導電性膜及び、導電性パターン形成において、無電解めっき浴のアルカリ性への耐性を付与しうる特徴を有するものである。
【0007】
即ち、本発明は以下の構成を有する。
<1> ラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーであって、該ラジカル重合可能な不飽和性部位と該無電解めっきの触媒を吸着する部位の構成比が、60:40〜30:70である疎水性ポリマー。
<2> 前記疎水性ポリマーが、アクリル酸シクロヘキシルエステル、若しくはメタクリル酸シクロヘキシルエステル、アクリル酸シクロヘキシルアミド、メタクリル酸シクロヘキシルアミド骨格のいずれかを部分構造として有することを特徴とする<1>に記載の疎水性ポリマー。
<3> 前記ラジカル重合可能な不飽和性基が、アクリロイルメチル基若しくはメタクリロイルメチル基であることを特徴とする<1>又は<2>に記載の疎水性ポリマー。
【0008】
<4> 酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させてなる重合開始層と、該重合開始層と分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有するポリマーとを結合させて形成したグラフトポリマー層と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に吸着した無電解めっき触媒を起点として形成された無電解めっき層からなる導電性膜とを有する積層体。
<5> 前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤が、クロロシリル基、アルコキシシリル基を有することを特徴とする<4>に記載の積層体。
<6> 前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤の分子量が、50〜1000であることを特徴とする<4>に記載の積層体。
<7> 前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤が、分子内にエポキシ基、又は、イソシアネート部位を有し、且つ、分子量が500〜50000であることを特徴とする<4>に記載の積層体。
<8> 前記酸化ケイ素を含む基材が、ソーダガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス、及び、シリコンウエハから選択される基材であることを特徴とする<4>に記載の積層体。
【0009】
<9> 酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させて重合開始層を形成する開始層形成工程と、該重合開始層に、分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有するポリマーとを接触させ、パターン状にエネルギーを付与して当該領域にグラフトポリマー層を形成するグラフトパターン形成工程と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に無電解めっき触媒を吸着させ、その後、無電解めっきを行って導電性膜を形成する導電膜形成工程と、を有する導電性パターン形成方法
ここで、グラフトポリマーを生成するためのエネルギー付与としては、可視領域、すなわち、360nm〜700nmの波長に極大吸収を有するレーザ走査露光、若しくは水銀灯などの光源によるフォトマスクを介した紫外領域を含む露光などを用いることが好ましい。
導電性膜の形成にあたっては、導電性等の電気的特性の観点からは、グラフトポリマー生成領域に無電解めっき触媒もしくはその前駆体を付与し、無電解銅めっきを行うことが好ましい態様である。
<10> <4>乃至<8>記載の積層体における導電性膜を配線として有するプリント配線基板。
<11> <4>乃至<8>記載の積層体における導電性膜を配線として有する薄層トランジスタ。
<12> <10>記載のプリント配線基板又は<11>に記載の薄層トランジスタを備えてなる装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アルカリによって侵食されやすいガラスなどの基板上へ無電解めっき法を用いて導電性パターンを形成するのに好適な、新規な疎水性ポリマーを提供することができる。
また、本発明によれば、前記本発明の疎水性ポリマーを用いて形成された、酸化ケイ素系基材上に密着性と電気特性に優れた導電膜を有する積層体、及び、このような導電性パターンの形成方法を提供することができる。従って、この方法により、無電解めっきを利用したフルアディティブ法による膜厚の高い導電性膜及び所望の領域にパターンの形成が可能となる。
さらに、本発明によれば、前記疎水性ポリマーを用いて形成された導電膜を配線として有するプリント配線基板、薄層トランジスタ及びこれらを備えた装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
(疎水性ポリマー)
本発明の疎水性ポリマーは、ラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーであって、該ラジカル重合可能な不飽和性部位と該無電解めっきの触媒を吸着する部位の構成比が、60:40〜30:70であることを特徴とする。
この疎水性ポリマーは、基板などの所望の硬質表面に結合し、種々の機能性材料を付着させることができ、且つ、疎水性で耐アルカリ性に優れたグラフトポリマー層の形成に有用である。
【0012】
本発明において疎水性ポリマーとは、無電解めっきの触媒となる金属を吸着可能な親水性部位を有しながらも疎水性部位も同時に有しており、ポリマー全体では、疎水性を呈する高分子化合物を指す。このポリマーの疎水性は、アルカリ現像液に浸漬した場合、このポリマーにより形成されたグラフトポリマー層中へのアルカリ現像液の浸透が抑制される程度のレベルであればよく、本発明における疎水性の目安としては、任意の硬質基材上に形成したポリマー塗布膜(ポリマーを適切な溶剤に溶解した塗布液を塗布、乾燥した硬化皮膜)表面の水接触角を測定した値が、30度〜100度であり、好ましくは40度〜90度であるものを疎水性ポリマーと称する。ここで水接触角の測定は、協和界面科学(株)製、CA−Zを用い、純水の滴下後、20秒後の角度を測定した値を採用している。
本発明の疎水性ポリマーは、分子内に、アクリル酸シクロヘキシルエステル、若しくはメタクリル酸シクロヘキシルエステル、アクリル酸シクロヘキシルアミド、メタクリル酸シクロヘキシルアミド骨格のいずれかを部分構造として有することが好ましい。
【0013】
また、この疎水性ポリマーは、ラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有することを特徴とするが、疎水性ポリマーが有するラジカル重合可能な不飽和性部位としては、アクリロイルメチル基、メタクリロイルメチル基が好ましい。
また、無電解めっきの触媒を吸着する部位としては、通常、極性基が適用されるが、この極性基の中でも、親水性基が好ましく、より具体的には、アンモニウム、ホスホニウムなどの正の荷電を有する官能基、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基などの負の荷電を有する官能基、その他にも、例えば、水酸基、アミド基、スルホンアミド基、アルコキシ基、シアノ基などの非イオン性基が挙げられる。本発明においては、例えば、カルボキシル基、ホスホニル基、スルホニル基、ボロン酸基などの基が好ましく挙げられ、カルボキシル基、ホスホニル基、スルホニル基であることが好ましい。
【0014】
ここで、該ラジカル重合可能な不飽和性部位と該無電解めっきの触媒を吸着する部位の構成比は、60:40〜30:70であることを要し、好ましくは、55:45〜40:60の範囲である。
以下に、本発明の疎水性ポリマーの重量平均分子量としては、3000〜50000の範囲であることが好ましく、5000〜30000の範囲であることがより好ましい。
以下に、本発明の疎水性ポリマーの好ましい具体例〔例示化合物(P1)〜(P6)〕を、その重量平均分子量とともに示すが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0015】
【化1】

【0016】
このような疎水性ポリマーは、後述する実施例に記載の方法により合成することができる。
また、これらの疎水性ポリマーについて、硬質表面上に該ポリマーからなる塗布膜を作成し、水接触角を測定したところ、結果は、全てのポリマーにおいて接触角は40度以上であり、いずれも好ましい疎水性を示すことが確認された。
【0017】
以下、本発明の前記疎水性ポリマーを用いてなる、導電性膜を有する積層体及び該疎水性ポリマーを用いた導電性膜の製造方法について順次説明する。
(導電性膜を有する積層体)
本発明の積層体は、酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させてなる重合開始層と、該重合開始層と分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーとを結合させて形成したグラフトポリマー層と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に吸着した無電解めっき触媒を起点として形成された無電解めっき層からなる導電性膜とを有することを特徴とする。
【0018】
このような積層体は、酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させて重合開始層を形成する開始層形成工程と、該重合開始層に、分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーとを接触させ、パターン状にエネルギーを付与して当該領域にグラフトポリマー層を形成するグラフトパターン形成工程と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に無電解めっき触媒を吸着させ、その後、無電解めっきを行って導電性膜を形成する導電膜形成工程と、を有する導電性パターン形成方法により得ることができる。
【0019】
まず、本発明の導電性パターン形成方法における重合開始層形成工程について説明する。
本工程では、酸化ケイ素を含む基材(以下、「酸化ケイ素系基材」或いは、単に「基材」と称することがある。)表面には当初より、例えば、Siのような官能基が存在する。ここに、基材結合部位(Q)と、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(Y)と、を有する重合開始剤(Q−Y)を付与し、基材表面に接触させる。これにより、基材表面に存在する官能基と、基材結合部位(Q)と、が結合して、基材表面に化合物(Q−Y)〔重合開始剤〕が固定化され、重合開始層が形成される〔重合開始層形成工程〕。
その後、この化合物(Q−Y)が導入された、基材表面の重合開始層形成面に、前記本発明の疎水性ポリマーを接触させて、エネルギーを付与する。エネルギーの付与は、通常、重合開始剤が分解し、ラジカルが発生しうる特定波長の露光により行われる。この露光領域にグラフトポリマーが形成されるため、通常は、導電性膜の形成領域に適合したパターン露光を行うが、基材の全面に導電性膜を形成する場合には、全面露光を行うこともできる。これにより、重合開始部位(Y)は、露光エネルギーにより光開裂して、重合開始部位(Y)を起点として疎水性のグラフトポリマーが生成する〔グラフトポリマー生成工程〕。
前記パターン露光することによりパターン化されたグラフトポリマーが生成し、また、前記全面露光することにより光照射された全面にグラフトポリマーが生成する。
【0020】
以下、前記各工程について具体的に説明する。
(重合開始層形成工程)
酸化ケイ素系基材表面に当初より存在する基としては、具体的には、例えば、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが挙げられる。これらの官能基は酸化ケイ素系基材における基材の材質に起因して基材表面にもともと存在しているものでもよく、基材表面にコロナ処理などの表面処理を施すことにより表面に存在させたものであってもよい。
【0021】
次に、光開裂によりラジカル重合を開始しうる重合開始部位(以下、単に、「重合開始部位」ともいう。)と、酸化ケイ素系基材に直接化学結合可能な部位(以下、単に「基材結合部位」ともいう。)と、を有する重合開始剤の構造について具体的に説明する。この重合開始剤について、基材結合部位(Q)と、重合開始部位(Y)と、を有する化合物(Q−Y)のモデルを用いて詳細に説明すれば、一般に、重合開始部位(Y)は、光により開裂しうる単結合を含む構造である。
この光により開裂する単結合としては、カルボニルのα開裂、β開裂反応、光フリー転位反応、フェナシルエステルの開裂反応、スルホンイミド開裂反応、スルホニルエステル開裂反応、N−ヒドロキシスルホニルエステル開裂反応、ベンジルイミド開裂反応、活性ハロゲン化合物の開裂反応などを利用して開裂が可能な単結合が挙げられる。これらの反応により、光により開裂しうる単結合が切断される。この開裂しうる単結合としては、C−C結合、C−N結合、C−O結合、C−Cl結合、N−O結合、及びS−N結合等が挙げられる。
【0022】
また、これらの光により開裂しうる単結合を含む重合開始部位(Y)は、グラフトポリマー生成工程におけるグラフト重合の起点となることから、光により開裂しうる単結合が開裂すると、その開裂反応によりラジカルを発生させる機能を有する。このように、光により開裂しうる単結合を有し、かつ、ラジカルを発生可能な重合開始部位(Y)の構造としては、芳香族ケトン基、フェナシルエステル基、スルホンイミド基、スルホニルエステル基、N−ヒドロキシスルホニルエステル基、ベンジルイミド基、トリクロロメチル基、ベンジルクロライド基などの基を含む構造が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、グラフトポリマー生成工程において、重合開始層に結合させる疎水性ポリマーが光吸収しない波長の光のみで露光することが好ましく、パターン露光又は全面露光した際に、容易に光開裂し、かつ、ラジカルを発生する点から、重合開始部位(Y)はトリクロロメチル基を含む構造であることがより好ましい。
【0024】
本発明において、「疎水性ポリマーが光吸収しない」とは、具体的には、疎水性ポリマーを、溶媒(水、アセトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール等の、該ポリマーを溶解しうる溶媒)に溶解した溶液における吸光係数が10以下であることを意味する。
疎水性ポリマーが光吸収しない波長は、ポリマーの種類によって異なるが、(メタ)アクリレート系の化合物、(メタ)アクリルアミド系の化合物、ビニル系の化合物であれば、通常、320nm以上である。
露光波長としては、320nmから700nmの範囲が好ましく、さらには、360nm〜450nmの範囲で露光することが好ましい。この波長での露光によれば、光吸収ロスがなく効率的な露光と重合開始能の発現を生起させうる点で好ましい。
前記吸光係数の具体的数値としては、アクリルアミドの水溶液における、320nmの光の吸光係数は0.005であり、アクリル酸の水溶液における、320nmの光の吸光係数は0.18である。
また、上記の吸光係数は、市販の紫外可視吸収スペクトロメーターにより測定することができる。
【0025】
このような重合開始部位(Y)は、露光により開裂してラジカルを発生するため、そのラジカル周辺に重合可能な化合物が存在する場合には、このラジカルがグラフト重合反応の起点として機能し、所望の領域にグラフトポリマーを生成することができる(グラフトポリマー生成領域)。
一方、重合開始部位(Y)が露光により開裂してラジカルが発生しても、ラジカルの周辺に重合可能な化合物が存在しない場合には、そのラジカルは使用されず失活してしまい、その結果、重合開始能自体が失活することとなる。その結果、このような領域はグラフトポリマー非生成領域となる。
【0026】
一方、基材結合部位(Q)としては、基材表面に存在する官能基(Z)と反応して結合しうる反応性基で構成され、その反応性基としては、その反応性基としては、ハロシリル基(好ましくは、トリクロロシリル基、ジクロロアルキルシリル基、クロロジアルキルシリル基、より好ましくは、トリクロロシリル基、ジクロロアルキルシリル基である。)、アルコキシシリル基(好ましくは、炭素数1〜2のアルコキシシリル基である。)、環状エーテル基(好ましくは、炭素数2〜6及び酸素数1〜2、より好ましくは炭素数2〜3及び酸素数1の環状エーテル基)又はイソシアナート基が挙げられる。
上記の中でも、クロロシリル基(好ましくは、トリクロロシリル基、ジクロロアルキルシリル基である。)、アルコキシシリル基(好ましくは、炭素数1〜2のアルコキシシリル基である。)が好ましい。
具体的には、以下に示すような基が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0027】
【化2】

【0028】
また、重合開始部位(Y)と、基材結合部位(Q)と、は直接結合していてもよいし、連結基を介して結合していてもよい。この連結基としては、炭素、窒素、酸素、及び硫黄からなる群より選択される原子を含む連結基が挙げられ、具体的には、例えば、飽和炭素基、芳香族基、エステル基、アミド基、ウレイド基、エーテル基、アミノ基、スルホンアミド基等が挙げられる。
なお、この連結基は更に置換基を有していてもよく、その導入可能な置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0029】
前記ラジカル重合開始剤がその反応性基として前記クロロシリル基、アルコキシシリル基を有するシランカップリング可能な場合、基板上への重合開始層(単分子層)形成性、溶解性、合成適性の観点から、その分子量は50〜1000であることが好ましく、200〜800であることがより好ましい。
前記ラジカル重合開始剤の分子量を50〜1000の範囲とすることにより、基板上に容易に重合開始層(単分子層)を形成することができ、好ましい。
【0030】
前記ラジカル重合開始剤がエポキシ基又はイソシアネート基を有する重合開始剤の場合、溶解性、塗布適性の観点から、その分子量は500〜50000であることが好ましく、3000〜30000であることがより好ましい。
前記ラジカル重合開始剤の分子量を500〜50000の範囲とすることにより、基板上へ形成された塗布膜の面状性が良好となる。
【0031】
基材結合部位(Q)と、重合開始部位(Y)と、を有する化合物(Q−Y)の具体例〔例示化合物T1〜例示化合物T5〕を、開裂部と共に以下に示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0032】
【化3】

【0033】
本発明における重合開始剤結合工程は、このような化合物(Q−Y)を基材に結合させる工程である。
例示された如き化合物(Q−Y)を基材表面に存在する官能基Zに結合させる方法としては、化合物(Q−Y)を、トルエン、ヘキサン、アセトンなどの適切な溶媒に溶解又は分散し、その溶液又は分散液を基材表面に塗布する方法、又は、溶液又は分散液中に基材を浸漬する方法などを適用すればよい。
このとき、溶液中又は分散液の化合物(Q−Y)の濃度としては、0.01質量%〜30質量%が好ましく、特に0.1質量%〜15質量%であることが好ましい。
【0034】
本発明において用いられる基材には、特に制限はなく、基材表面に、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などの官能基(Z)を有するガラスなどの酸化ケイ素系基材を適用できる。
前記酸化ケイ素系基材は酸化ケイ素を主成分とすることから、化学的修飾が容易である利点をも有するものである。
また、一般的には、平板状の基材が用いられるが、必ずしも平板状の基材に限定されず、円筒形などの任意の形状の基材表面にも同様にグラフトポリマーを導入することができる。
【0035】
本発明に好適な酸化ケイ素系基材としては、具体的には、基材表面に水酸基を有し、主成分に酸化ケイ素を含有する各種ガラス基材、より具体的には、ソーダガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス、或いは、シリコンウエハから選択される、酸化ケイ素を主成分として含む基材が好ましく挙げられる。本発明に係る酸化ケイ素を主成分として含む基材とは、基材表面における酸化ケイ素の含有量が60質量%以上である基材を指す。
基材の厚みは、使用目的に応じて選択され、特に限定はないが、一般的には、10μm〜10cm程度である。
【0036】
(グラフトポリマー生成工程)
このグラフトポリマー生成工程とは、前記重合開始層形成工程を経て得られた酸化ケイ素系基材上の重合開始層に、分子内にラジカル重合可能な不飽和部位と無電解めっき触媒を吸着しうる部位とを有する前記本発明の疎水性ポリマーを接触させ、好ましくは、320nm〜700nmの波長の光により露光を行う工程である。
前記疎水性ポリマーを接触させた後、露光を行い、前記重合開始部位の重合開始基を活性化させてラジカルを発生させ、そのラジカルを起点として、疎水性ポリマーとの間で、グラフト化反応を生起、進行させる。その結果、露光した領域にのみ、疎水性のグラフトポリマーが生成する。
【0037】
なお、疎水性ポリマーを基材表面に接触させる方法としては、疎水性ポリマーが溶解された溶液又は分散された分散液を集合開始層表面に塗布する方法、その溶液又は分散液に基材を浸漬する方法などがある。
ここで用いる疎水性ポリマーは、前記した本発明の疎水性ポリマーである。
また、疎水性ポリマーを接触させる際に用いられる溶媒又は分散媒としては、各種有機溶媒と、有機溶媒を20質量%以上含む蒸留水との混合溶媒などが好ましく、溶液中の固形分濃度は、0.1〜10質量%程度であることが好ましい。
【0038】
本発明の導電性パターンの形成方法においては、以上説明したポリマー層形成工程、或いは、ポリマーパターン形成工程に次いで、「触媒等付与工程」及び「めっき工程」を含む「導電性膜形成工程」が行われ、基板表面には、酸化ケイ素系基材との密着性に優れた金属膜(導電膜)或いは、金属パターン(導電性パターン)が形成される。
【0039】
以下、導電性膜形成工程について、詳細に説明する。
〔触媒付与工程〕
触媒付与工程においては、前記ポリマー層形成工程等により形成されたポリマー層或いはポリマーパターンに、より具体的には、基板に化学結合して形成された疎水性グラフトポリマー中の相互作用性基に、めっき触媒又はその前駆体が付与される。
ここで、めっき触媒又はその前駆体としては、後述するめっき工程におけるめっきの触媒や電極として機能するものが挙げられる。そのため、めっき触媒又はその前駆体は、めっき工程におけるめっきの種類により決定される。
なお、ここで、本工程において用いられるめっき触媒又はその前駆体は、無電解めっき触媒又はその前駆体であることが好ましい。
【0040】
(無電解めっき触媒)
本工程において用いられる無電解めっき触媒とは、主に0価金属であり、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられる。本発明においては、特に、Pd、Agがその取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。0価金属を相互作用性基に固定する手法としては、例えば、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層に適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用させると、相互作用性基は主に極性基である為に、ポリマー層に選択的に金属コロイド(無電解めっき触媒)を吸着させることができる。
【0041】
(無電解めっき触媒前駆体)
本工程において用いられる無電解めっき触媒前駆体とは、化学反応により無電解めっき触媒となりうるものであれば、特に制限なく使用することができる。主には上記無電解めっき触媒で用いた0価金属の金属イオンが用いられる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、還元反応により無電解めっき触媒である0価金属になる。無電解めっき触媒前駆体である金属イオンは、ポリマー層へ付与した後、無電解めっき浴への浸漬前に、別途還元反応により0価金属に変化させて無電解めっき触媒としてもよいし、無電解めっき触媒前駆体のまま無電解めっき浴に浸漬し、無電解めっき浴中の還元剤により金属(無電解めっき触媒)に変化させてもよい。
【0042】
実際には、無電解めっき前駆体である金属イオンは、金属塩の状態でポリマー層上に付与する。使用される金属塩としては、適切な溶媒に溶解して金属イオンと塩基(陰イオン)とに解離されるものであれば特に制限はなく、M(NO、MCln、M2/n(SO)、M3/n(PO)(Mは、n価の金属原子を表す)などが挙げられる。金属イオンとしては、上記の金属塩が解離したものを好適に用いることができる。具体例としては、例えば、Agイオン、Cuイオン、Alイオン、Niイオン、Coイオン、Feイオン、Pdイオンが挙げられ、Agイオン、Pdイオンが触媒能の点で好ましい。
【0043】
無電解めっき触媒である金属コロイド、或いは、無電解めっき前駆体である金属塩をポリマー層に付与する方法としては、金属コロイドを適当な分散媒に分散、或いは、金属塩を適切な溶媒で溶解し、解離した金属イオンを含む溶液を調製し、その溶液をポリマー層上に塗布するか、或いは、その溶液中にポリマー層が形成された基板を浸漬すればよい。金属イオンを含有する溶液を接触させることで、ポリマー層中の相互作用性基に、イオン−イオン相互作用、又は、双極子−イオン相互作用を利用して金属イオンを吸着させること、或いは、ポリマー層中に金属イオンを含浸させることができる。このような吸着又は含浸を充分に行なわせるという観点からは、接触させる溶液中の金属イオン濃度、或いは金属塩濃度は、0.01〜50質量%の範囲であることが好ましく、0.1〜30質量%の範囲であることが更に好ましい。また、接触時間としては、1分〜24時間程度であることが好ましく、1分〜1時間程度であることがより好ましい。
【0044】
(その他の触媒)
本発明において、後述のめっき工程において、ポリマー層に対して、無電解めっきを行わず直接電気めっきを行うために用いられる触媒としては、0価金属を使用することができる。この0価金属としては、Pd、Ag、Cu、Ni、Al、Fe、Coなどが挙げられ、特に、Pd、Ag、Cuが、その取り扱い性の良さ、触媒能の高さから好ましい。
0価金属を、ポリマー層の相互作用性基に固定する手法としては、例えば、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用するように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層に適用する手法が用いられる。一般に、金属コロイドは、荷電を持った界面活性剤又は荷電を持った保護剤が存在する溶液中において、金属イオンを還元することにより作製することができる。金属コロイドの荷電は、ここで使用される界面活性剤又は保護剤により調節することができ、このように荷電を調節した金属コロイドを、ポリマー層中の相互作用性基と相互作用させると、相互作用性基は主に極性基であるために、ポリマー層に選択的に金属コロイド(めっき触媒)を吸着させることができる。
【0045】
以上説明した触媒付与工程を経ることで、ポリマー層中の相互作用性基とめっき触媒又はその前駆体との間に相互作用を形成することができる。
【0046】
〔めっき工程〕
めっき工程では、無電解めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層或いはポリマーパターンに対し、めっきを行うことで、金属膜或いは金属パターンが形成される。本発明においては、グラフトポリマーを構成する有機材料が疎水性ポリマーであるため、長時間強アルカリ性のめっき浴に浸漬されても、グラフトポリマー層内へのめっき液の浸透が効果的に抑制されるため、アルカリに起因するガラス基材等の酸化ケイ素系基材の劣化がないため、酸化ケイ素系基材表面に形成された微細な凹凸に起因する導電性膜剥離の懸念なく、形成された導電性膜、導電性パターンは、優れた導電性、密着性を有する。
本工程において行われるめっきの種類は、無電解めっき、電気めっき等が挙げられ、前記触媒付与工程において、ポリマー層との間に相互作用を形成しためっき触媒又はその前駆体の機能によって、めっき方法を選択することができる。
つまり、本工程では、めっき触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対し、電気めっきを行ってもよいし、無電解めっきを行ってもよい。
中でも、本発明においては、ポリマー層中に発現するハイブリッド構造の形成性及び密着性向上の点から、無電解めっきを行うことが好ましい。また、所望の膜厚のめっき層を得るために、無電解めっきの後に、更に電気めっきを行うことがより好ましい態様である。
以下、本工程において好適に行われるめっきについて説明する。
【0047】
(無電解めっき)
無電解めっきとは、めっきとして析出させたい金属イオンを溶かした溶液を用いて、化学反応によって金属を析出させる操作のことをいう。
本工程における無電解めっきは、例えば、無電解めっき触媒が付与された基板を、水洗して余分な無電解めっき触媒(金属)を除去した後、無電解めっき浴に浸漬して行なう。使用される無電解めっき浴としては一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
また、無電解めっき触媒前駆体が付与された基板を、無電解めっき触媒前駆体がポリマー層に吸着又は含浸した状態で無電解めっき浴に浸漬する場合には、基板を水洗して余分な前駆体(金属塩など)を除去した後、無電解めっき浴中へ浸漬される。この場合には、無電解めっき浴中において、前駆体の還元とこれに引き続き無電解めっきが行われる。ここで使用される無電解めっき浴としても、上記同様、一般的に知られている無電解めっき浴を使用することができる。
【0048】
一般的な無電解めっき浴の組成としては、1.めっき用の金属イオン、2.還元剤、3.金属イオンの安定性を向上させる添加剤(安定剤)が主に含まれている。このめっき浴には、これらに加えて、めっき浴の安定剤など公知の添加物が含まれていてもよい。
無電解めっき浴に用いられる金属の種類としては、銅、すず、鉛、ニッケル、金、パラジウム、ロジウムが知られており、中でも、導電性の観点からは、銅、金が特に好ましい。
また、上記金属に合わせて最適な還元剤、添加物がある。例えば、銅の無電解めっきの浴は、銅塩としてCuSO、還元剤としてHCOH、添加剤として銅イオンの安定剤であるEDTAやロッシェル塩などのキレート剤、トリアルカノールアミンなどが含まれている。また、CoNiPの無電解めっきに使用されるめっき浴には、その金属塩として硫酸コバルト、硫酸ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウム、錯化剤としてマロン酸ナトリウム、りんご酸ナトリウム、こはく酸ナトリウムが含まれている。また、パラジウムの無電解めっき浴は、金属イオンとして(Pd(NH)Cl、還元剤としてNH、HNNH、安定化剤としてEDTAが含まれている。これらのめっき浴には、上記成分以外の成分が入っていてもよい。
【0049】
このようにして形成される金属膜及び金属パターンの膜厚は、めっき浴の金属塩又は金属イオン濃度、めっき浴への浸漬時間、或いは、めっき浴の温度などにより制御することができるが、導電性の観点からは、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
また、めっき浴への浸漬時間としては、1分〜6時間程度であることが好ましく、1分〜3時間程度であることがより好ましい。
【0050】
以上のようにして得られた金属膜及び金属パターンは、SEMによる断面観察により、ポリマー層中に無電解めっき触媒やめっき金属からなる微粒子がぎっしりと分散しており、更にポリマー層上にめっき金属が析出していることが確認された。基板と金属膜(めっき層)との界面は、ポリマーと微粒子とのハイブリッド状態であるため、基板(有機成分)と無機物(無電解めっき触媒又はめっき金属)との界面の凹凸差が500nm以下であっても、密着性が良好であった。この断面状況の詳細は、前述の本発明の金属膜の説明において詳述した通りである。
【0051】
(電気めっき)
本工程おいては、前記触媒付与工程において付与されためっき触媒又はその前駆体が電極としての機能を有する場合、その触媒又はその前駆体が付与されたポリマー層に対して、電気めっきを行うことができる。このようにめっき触媒を付与して、無電解めっきを行わずに電気めっきを行う場合は、導通が確保できるだけの金属を基板表面に吸着させる方法でとる必要があるため、めっき触媒としては、主に金属粒子が用いられる。
また、前述の無電解めっきの後、形成された金属膜を電極とし、更に、電気めっきを行ってもよい。これにより基板との密着性に優れた金属膜をベースとして、そこに新たに任意の厚みをもつ金属膜を容易に形成することができる。このように、無電解めっきの後に、電気めっきを行うことで、金属の厚みを目的に応じて形成しうるため、本発明の金属膜及び金属パターンを種々の応用に適用するのに好適である。
【0052】
本発明における電気めっきの方法としては、従来公知の方法を用いることができる。ここで、金属パターンに電気めっきをする場合には全てのパターンに電気が通るように電極を形成する必要がある。
なお、本工程の電気めっきに用いられる金属としては、銅、クロム、鉛、ニッケル、金、銀、すず、亜鉛などが挙げられ、導電性の観点から、銅、金、銀が好ましく、銅がより好ましい。
【0053】
また、電気めっきにより得られる金属膜の膜厚については、用途に応じて異なるものであり、めっき浴中に含まれる金属濃度、或いは、電流密度などを調整することでコントロールすることができる。なお、一般的な電気配線などに用いる場合の膜厚は、導電性の観点から、0.5μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましい。
【0054】
〔乾燥工程〕
本発明においては、前記めっき工程を行うことで、ポリマー層及びポリマーパターン上に金属製のめっき層が形成された後、乾燥工程を行うことが密着性向上の観点から好ましい。
【0055】
乾燥工程における乾燥処理は如何なる手段であってもよく、具体的には、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥、送風乾燥などの手段により行うことができる。これらの中でも、乾燥に起因するポリマー層の変質を抑制するという観点からは、常温又はその近傍の温度条件で乾燥処理を行うことが好ましい。具体的には、前記めっき工程又は前記無電解めっき工程に引き続き所望により実施される電気めっき工程終了後に、金属膜形成後の材料を、常温下に保存する自然乾燥、常温条件下での減圧乾燥、及び常温送風乾燥の各乾燥処理が好ましい。
加温を行うことなく水分を可能な限り除去するという観点からは、これらの乾燥処理を、1時間以上、更には24時間以上実施することが好ましい。乾燥処理条件は、必要とされる密着性などを考慮して適宜選択すればよいが、具体的には、金属膜形成後の材料を、例えば、25℃前後の温度雰囲気下で1〜3日程度、1〜3週間程度、或いは、1〜2ヶ月程度保存して乾燥する方法、通常の真空乾燥機による減圧下に1〜3日程度、或いは、1〜3週間程度、保存して乾燥する方法等が挙げられる。
【0056】
このような乾燥処理を行うことにより、基板と金属膜との密着性が向上する作用は明確ではないが、充分な乾燥を行うことにより、密着性を低下させる要因である水分が金属膜とポリマー層との界面に保持されるのを防ぐことで、水分に起因する密着性の低下を抑制しうるものと推定している。
また、乾燥中における銅等からなる金属膜表面の酸化防止のために、乾燥工程の前に、酸化防止剤を金属膜表面に塗布することが好ましい。酸化防止剤としては、一般的に使用されるものが適用でき、例えば、アジミドベンゼン等が使用できる。
【0057】
以上のようにして得られる金属膜或いは金属パターンは、運動性の高いグラフトポリマーに吸着された無電解めっき触媒に対して無電解めっきを行い形成されるものであり、めっき液はグラフトポリマーからなる層内部にも浸透すると考えられることから、金属膜(金属パターン)と基板との界面は、グラフトポリマーと無電解めっき触媒や析出しためっき金属とのハイブリッド状態になっているものと予想される。このような金属膜を、SEMにより断面を観察すると、グラフトポリマーからなる層中に無電解めっき触媒やめっき金属の微粒子が分散していることが確認された。
この結果に示されるように、界面がグラフトポリマーと微粒子とのハイブリッド状態で構成されているため、基板(有機成分)と無機物(無電解めっき触媒又はめっき金属)との界面の凹凸差が500nm以下、更に、好ましい態様である100nm以下であるような平坦な状態であっても、金属膜の密着性が良好であった。更に詳細に説明すると、無電解めっき触媒、無電解めっき触媒前駆体に由来する金属塩、及び/又は、無電解めっきにより析出した金属からなる微粒子が分散しているおり、微粒子の分散状態は、金属膜との界面で高密度となっていた。
また、グラフトポリマーからなる層中において、このような微粒子が高密度で存在する領域としては、金属膜との界面から基板方向へ深さ0.05μm以上の領域で存在することが好ましく、0.1μm以上の領域で存在することがより好ましく、更に0.2μm以上の領域で存在することが好ましく、特に0.3μm以上の深さまで存在することが好ましい。
本発明においては、このグラフトポリマーが疎水性ポリマーにより構成されるため、長時間無電解めっき浴に浸漬した場合でも、酸化ケイ素系基材に密着する疎水性ポリマーからなる層がアルカリ性のめっき液の層内への浸透を効果的に抑制するために、十分な膜厚の目つき膜を形成する場合においてもアルカリ液に起因する酸化ケイ素系基材の損傷が抑制され、酸化ケイ素系基材の損傷による金属膜密着性の低下をも効果的に抑制されるものである。
【0058】
このよう、本発明の金属膜形成方法により得られた金属膜、該金属膜から形成された金属パターン、或いは、金属パターン形成方法により得られた金属パターンは、平滑な基板上に形成され、且つ、基板に直接結合してなるポリマー層との間にハイブリット状態で金属膜が形成されていることから、基板と金属膜との密着性が高く、また、基板の平滑性にも優れることから、導電材料として用いた場合、高周波特性に優れるため、その応用範囲は広い。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(合成例1:グラフト前駆体ポリマーP1の合成)
500ml三口フラスコにN,N−ジメチルアセトアミド200g、ポリアクリル酸(和光純薬製 分子量:25000)30g、2−エチル−4−エチル−イミダゾール0.9g、ジターシャリーペンチルハイドロキノン 50mg、下記モノマーA 27gを入れ、窒素気流下、100℃、5時間反応させた。
その後、反応液を50gとり、氷浴中で4N NaOHを11.6mL加え、酢酸エチルで再沈を行い、濾取後に水で洗浄、乾燥し、グラフト前駆体ポリマーP1 3.5gを得た。
【0060】
【化4】

【0061】
(合成例2:グラフト前駆体ポリマーP2の合成)
ポリアクリル酸(平均分子量25,000)18gをDMAc300gに溶解し、グリコール酸メチル9.00gと炭酸水素ナトリウム22gを添加し、60℃、8時間反応させた。その後、1N塩酸を用いて中和し、続いてハイドロキノン0.41gと2−エチル−4−エチル−イミダゾール0.9g、前記モノマーA 28gを入れ、窒素気流下、100℃、5時間反応させた。その後、氷浴中で4NNaOHを12.0mL加え、この溶液を酢酸エチル―ヘキサン混合溶媒(体積分率1/1)に加えポリマーを沈殿させ、よく洗浄しグラフト前駆体ポリマーP2を得た。
【0062】
(実施例1)
(重合開始層形成工程)
ガラス基板(日本板硝子)に、UVオゾンクリーナー(UV42、日本レーザー電子社製)を用いて10分間UVオゾン処理を行った。その基板表面に、脱水エチルメチルケトン(2−ブタノン)に溶かして20質量%の溶液とした化合物T1(前記例示化合物)をスピンコートした。スピンコーターは、まず300rpmで5秒間、その後1000rpmで20秒間回転させた。化合物T1をスピンコートしたガラス基板を100℃で5分間加熱し、表面をエチルメチルケトンで洗浄してエアーガンで乾燥した。
【0063】
(グラフトポリマー生成工程)
前記合成例1で得られたグラフト前駆体ポリマーP1 0.5gを炭酸水素ナトリウム水溶液4.62g、ジメチルアセトアミド(DMAc)0.05gおよびアセトニトリル1.5gの混合溶媒に溶解させてグラフト形成層用塗布液とした。そのグラフト形成層用塗布液をA2基板表面にスピンコートした。スピンコーターは、まず300rpmで5秒間、その後750rpmで20秒間回転させた。グラフト形成層用塗布液塗布後の基板A2は、80℃で5分間乾燥した。
【0064】
(露光)
グラフト形成層用塗布液塗布後の基板A2を、露光機で所定のパターンに従って露光した。露光後、基板表面をワイパー(ベンコット、小津産業社製)で軽くこすりながら水で洗浄し、次にアセトンで洗浄した。
以上のようにして、グラフトポリマーが表面にパターン状に形成されたガラス基板Bを形成した。
【0065】
得られたパターンをAFM(ナノピクス1000,セイコーインスツルメンツ社製,DFMカンチレバー使用)で観察した。その結果、ガラス基板Bの表面に線幅10μm、空隙幅10μmが交互に存在するパターンが形成されていることが確認された。
【0066】
(無電解めっき触媒の付与)
得られた基板Bを硝酸銀(和光純薬製)1.0%水溶液に1分間浸漬し、水で洗浄してエアーガンで乾燥した。
(無電解めっき)
その後、下記組成の無電解めっき浴(pH:12.4)に30分間浸漬して無電解めっきを行った。無電解めっき後、水で洗浄してエアーガンで乾燥した。
【0067】
<無電解めっき浴の組成>
水 300g
硫酸銅(II)五水和物 3.0g
EDTA−2Na二水和物 8.9g
ポリエチレングリコール(平均分子量1000) 0.03g
2,2’−ビピリジル 0.3mg
エチレンジアミン 0.12g
水酸化ナトリウム 2.5g
ホルムアルデヒド液(36.0〜38.0%) 1.6g
【0068】
この表面を電子顕微鏡で観察したところ線幅10μm、空隙幅10μmが交互に存在する導電性パターン1が形成されていることが確認された。
【0069】
(実施例2)
(重合開始層形成工程)
ガラス基板(日本板硝子)に、UVオゾンクリーナー(UV42、日本レーザー電子社製)を用いて10分間UVオゾン処理を行った。その基板表面に、脱水エチルメチルケトン(2−ブタノン)に溶かして20質量%の溶液とした化合物T1(前記例示化合物)をスピンコートした。スピンコーターは、まず300rpmで5秒間、その後1000rpmで20秒間回転させた。化合物T1をスピンコートしたガラス基板を100℃で5分間加熱し、表面をエチルメチルケトンで洗浄してエアーガンで乾燥した。
【0070】
(グラフトポリマー生成工程)
前記合成例2で得られたグラフト前駆体ポリマーP2 0.5gを炭酸水素ナトリウム水溶液4.62g、ジメチルアセトアミド(DMAc)0.05gおよびアセトニトリル1.5gの混合溶媒に溶解させてグラフト形成層用塗布液とした。そのグラフト形成層用塗布液をA2基板表面にスピンコートした。スピンコーターは、まず300rpmで5秒間、その後750rpmで20秒間回転させた。グラフト形成層用塗布液塗布後の基板A2は、80℃で5分間乾燥した。
【0071】
(露光)
グラフト形成層用塗布液塗布後の基板A2を、露光機で所定のパターンに従って露光した。露光後、基板表面をワイパー(ベンコット、小津産業社製)で軽くこすりながら水で洗浄し、次にアセトンで洗浄した。
以上のようにして、グラフトポリマーが表面にパターン状に形成されたガラス基板Bを形成した。
【0072】
得られたパターンをAFM(ナノピクス1000,セイコーインスツルメンツ社製,DFMカンチレバー使用)で観察した。その結果、ガラス基板Bの表面に線幅10μm、空隙幅10μmが交互に存在するパターンが形成されていることが確認された。
【0073】
(無電解めっき触媒の付与)
得られた基板Bを硝酸銀(和光純薬製)1.0%水溶液に1分間浸漬し、水で洗浄してエアーガンで乾燥した。次に、ジメチルアミン―ボランを含む下記組成の浴に5分間浸漬、銀の還元を行い、表面に被膜を形成させた。
(無電解めっき)
その後、下記組成の市販無電解めっき浴ATSアドカッパーIW(pH:12.7)に90分間浸漬して無電解めっきを行った。無電解めっき後、水で洗浄してエアーガンで乾燥した。
【0074】
<無電解めっき浴の組成>
水 258g
ATSアドカッパーIW−A 15mL
ATSアドカッパーIW−M 24mL
ATSアドカッパーIW−C 3mL
【0075】
この表面を電子顕微鏡で観察したところ線幅10μm、空隙幅10μmが交互に存在する導電性パターン2が形成されていることが確認された。
【0076】
<導電性の評価>
上記により得られた導電性パターン1〜3について、導電膜が形成された部分の表面導電性をロレスタ−FP(LORESTA−FP:三菱化学(株)製)を用いて四探針法により測定した。結果は以下の通りである。
<評価結果>
(実施例1)
導電性パターン1の導電性:7μΩ・cm
導電性パターン1の膜厚:3μm
(実施例2)
導電性パターン2の導電性:7μΩ・cm
導電性パターン2の膜厚:5μm
【0077】
以上の結果より、本発明の疎水性ポリマーを用いることで、無電解めっき処理において長時間めっき浴に浸漬することが可能になり、酸化ケイ素系基材上へ形成性良く十分な厚みを有する導電性膜及び導電性パターンを形成しうることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーであって、該ラジカル重合可能な不飽和性部位と該無電解めっきの触媒を吸着する部位の構成比が、60:40〜30:70である疎水性ポリマー。
【請求項2】
前記疎水性ポリマーが、アクリル酸シクロヘキシルエステル、若しくはメタクリル酸シクロヘキシルエステル、アクリル酸シクロヘキシルアミド、メタクリル酸シクロヘキシルアミド骨格のいずれかを部分構造として有することを特徴とする請求項1に記載の疎水性ポリマー。
【請求項3】
前記ラジカル重合可能な不飽和性部位が、アクリロイルメチル基若しくはメタクリロイルメチル基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の疎水性ポリマー。
【請求項4】
酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させてなる重合開始層と、該重合開始層と分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーとを結合させて形成したグラフトポリマー層と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に吸着した無電解めっき触媒を起点として形成された無電解めっき層からなる導電性膜とを有する積層体。
【請求項5】
前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤が、クロロシリル基、アルコキシシリル基を有することを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤の分子量が、50〜1000であることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項7】
前記酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤が、分子内にエポキシ基、又は、イソシアネート部位を有し、且つ、分子量が500〜50000であることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項8】
前記酸化ケイ素を含む基材が、ソーダガラス、ノンアルカリガラス、石英ガラス、及び、シリコンウエハから選択される基材であることを特徴とする請求項4に記載の積層体。
【請求項9】
酸化ケイ素を含む基材上に、該酸化ケイ素を含む基材と直接化学結合を形成する部位を有するラジカル重合開始剤を結合させて重合開始層を形成する開始層形成工程と、該重合開始層に、分子の一部にラジカル重合可能な不飽和性部位と、無電解めっきの触媒を吸着する部位とを有する疎水性ポリマーとを接触させ、パターン状にエネルギーを付与して当該領域にグラフトポリマー層を形成するグラフトパターン形成工程と、該グラフトポリマー層の無電解めっき触媒を吸着する部位に無電解めっき触媒を吸着させ、その後、無電解めっきを行って導電性膜を形成する導電膜形成工程と、を有する導電性パターン形成方法。
【請求項10】
請求項4乃至請求項8記載の積層体における導電性膜を配線として有するプリント配線基板。
【請求項11】
請求項4乃至請求項8記載の積層体における導電性膜を配線として有する薄層トランジスタ。
【請求項12】
請求項10記載のプリント配線基板又は請求項11に記載の薄層トランジスタを備えてなる装置。

【公開番号】特開2008−88273(P2008−88273A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270035(P2006−270035)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】