説明

発光ダイオード用基板及び発光ダイオード

【課題】高い光取出し効率を実現でき、かつ、製造が容易で低コストな発光ダイオード用基板及び発光ダイオードを提供する。
【解決手段】表面sに発光層7を含む半導体層3が形成される発光ダイオード用基板であって、サファイア基板からなり、表面sには、発光層7が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸が形成され、かつ、凹凸は結晶方位を反映して形成されており、凹凸の高さが1μm以上5μm以下であり、表面のX線回折ロッキングカーブ半値幅が60秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶のバックライト光源、LED照明器具、自動車のヘッドランプ、プロジェクタの光源などに好適な高出力の発光ダイオード用基板及び発光ダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体発光ダイオードの高出力化に関する技術開発が活発となっており、発光ダイオードの発光効率を2倍以上に引き上げる技術が開発されている。発光ダイオード内部で電子が光に変換される効率、すなわち内部量子効率は、従来から既に60〜90%程度が達成されているため、上述の発光効率の改善のほとんど全ては内部量子効率の改善ではなく、発光ダイオード内部で発光した光を外に取り出す効率、すなわち光取出し効率の改善によるものである。
【0003】
光取出し効率を改善する技術としては、古くは、発光ダイオード内へのブラッグ反射鏡の導入や透明基板の使用が主であったが、最近では、金属反射鏡の導入や、基板/半導体界面の凹凸化、あるいは半導体層表面の凹凸化などの新しい手法が提案されてきている。
【0004】
発光ダイオード内へのブラッグ反射鏡や金属反射鏡の導入は、発光ダイオード形成に用いる基板が光吸収性である場合に、基板での光吸収を抑制する有効な手段である。また、透明基板の使用は、そもそも光吸収が生じる基板を用いないか、あるいは、発光ダイオード形成後に光吸収性の基板を除去し透明基板と置き換える手法であり、これも発光ダイオード内部での光吸収を抑制する有効な手段である。
【0005】
しかし、これらの手法により発光ダイオード内部の最大の光吸収要素である光吸収性の基板の影響が排除されたとしても、発光ダイオード内部で発生した光の全てを発光ダイオードの外に取り出せるということにはならない。なぜなら、基板以外に、発光層自体や、半導体層内の不純物、および電極などの除去できない光吸収要素が発光ダイオードの構造には含まれるためである。
【0006】
さらに、一般的な発光ダイオードは、平坦な表面を有する基板上に、層状の半導体を積層して、平坦な表面を有する形状に形成されているが、半導体の屈折率は通常1よりも大きいため、発光ダイオードの周囲が空気(屈折率=1)である場合、発光ダイオード内部で発生した光のうち臨界角以下で半導体/空気の界面に入射した光は全反射され、発光ダイオードの外に出ることはできない。発光ダイオード内部で発生した光が一度全反射した場合、2回目、3回目の反射においても、半導体表面に入射する角度は変わらないためにその光は全反射することとなり、多数回の全反射を繰返すうちに上述のいずれかの光吸収要素に吸収され、いずれは熱に変換され、光として発光ダイオードの外に取り出すことはできない。透明基板を用いた場合にも、半導体層内および透明基板内の光に対して、同様の現象が生じる。
【0007】
平坦な半導体/基板界面と、平坦な表面を有する発光ダイオードにおける光取出し効率は、半導体の種類、発光ダイオードの構造・サイズ、電極配置、発光ダイオード周囲の屈折率など様々な要因が影響するが、最良の場合でも20%程度である。
【0008】
このような全反射により発光ダイオード内部に光が閉じ込められるという問題は、半導体表面や半導体/基板界面に凹凸を設けたり、あるいは、透明基板を使用した場合には基板の裏面に凹凸を設けることで、ある程度改善できる。
【0009】
発光ダイオード内部で発生した光の光路内にあるこれらの面に凹凸を設けることで、凹凸の斜面などに入射した光の入射角が平坦面に入射した場合と異なるようになるため、凹凸により光の進行方向が変化する効果が得られ、その結果、全反射が抑えられ、光が発光ダイオードの外部に出易くなるためである。
【0010】
凹凸の具体的な形状としては、図7あるいは図8に示すように、山形あるいは矩形の凸部73,74を1次元的あるいは2次元的に数μmピッチで周期的に繰り返す構造が提案されている(特許文献1,2)。図7の発光ダイオード70では、半導体層72と基板71との界面に、山形の凸部73を周期的に形成した場合を示しており、図8の発光ダイオード80では、半導体層72と基板71との界面に、断面視が矩形状の凸部74を形成した場合を示している。このような形状の凹凸を形成することにより、最良の場合には、光取出し効率を50%程度にまで高めることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第4055503号公報
【特許文献2】特許第3987879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図7や図8のような周期的な凹凸は、通常はフォトリソグラフィーによるマスクパターン形成とエッチングの工程を経て形成される。このため、このような周期的な凹凸を有する光取出し効率の高い発光ダイオードを作製する場合には、フォトリソグラフィーやエッチングの工程を行う分、製造に手間がかかり、従来の凹凸面を形成しない発光ダイオードよりもコスト高になってしまうという問題がある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、高い光取出し効率を実現でき、かつ、製造が容易で低コストな発光ダイオード用基板及び発光ダイオードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、表面に発光層を含む半導体層が形成される発光ダイオード用基板であって、サファイア基板からなり、前記表面には、前記発光層が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸が形成され、かつ、前記凹凸は結晶方位を反映して形成されており、前記凹凸の高さが1μm以上5μm以下であり、前記表面のX線回折ロッキングカーブ半値幅が60秒以下である発光ダイオード用基板である。
【0015】
また、本発明は、基板の表面に発光層を含む半導体層を形成した発光ダイオードにおいて、前記基板の表面には、前記発光層が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸が形成されており、当該凹凸が形成された前記基板の表面に、前記半導体層を形成した発光ダイオードである。
【0016】
前記凹凸は、機械的な加工により形成されるとよい。
【0017】
前記機械的な加工が、サンドブラスト処理であるとよい。
【0018】
前記基板は、発光波長に対して透明であるものを、サファイア、SiC、Si、GaAs、GaP、InP、Ge、ZnO、ガラス、石英、プラスチックのいずれかから選ぶとよい。
【0019】
前記基板の表面に前記機械的な加工により前記凹凸を形成した後、前記基板の表面にエッチング処理を行い、前記機械的な加工による損傷を除去するようにしてもよい。
【0020】
前記基板が単結晶基板であり、前記エッチング処理後の前記基板の表面のX線回折ロッキングカーブ半値幅が40秒以下であるとよい。
【0021】
前記半導体層は、前記基板の表面に形成され、前記凹凸の段差を埋めて前記発光層の形成面を平坦化するための下地層を有するとよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い光取出し効率を実現でき、かつ、製造が容易で低コストな発光ダイオード用基板及び発光ダイオードを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る発光ダイオード用基板を用いた発光ダイオードの積層構造図である。
【図2】本発明の実施例において、サンドブラスト処理後の基板表面を微分干渉顕微鏡で観察した写真である。
【図3】本発明の実施例において、サンドブラスト処理後の基板表面の非接触3D表面形状・粗さ測定器による測定結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、エッチング処理後の基板表面を微分干渉顕微鏡で観察した写真であり、エッチング深さによる基板表面の変化を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、エッチング深さとX線ロッキングカーブ半値幅との関係を示すグラフ図である。
【図6】本発明の実施例において、エッチング深さに対するうねり(PV値)と表面粗さ(rms値)の関係を示すグラフ図である。
【図7】従来の発光ダイオードにおいて、凹凸形状を説明する図である。
【図8】従来の発光ダイオードにおいて、他の凹凸形状を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る発光ダイオード用基板を用いた発光ダイオードの積層構造図である。
【0026】
図1に示すように、発光ダイオード1は、本発明の発光ダイオード用基板(以下、単に基板という)2の表面Sに発光層7を含む半導体層(半導体積層構造)3を形成したものである。基板2の表面S(基板2と半導体層3との界面)には、図示省略しているが、発光層7が発光する光を乱反射する凹凸が形成されている。
【0027】
本発明者は、基板2の表面Sに凹凸を形成する方法について鋭意検討を行い、その結果、基板2の表面Sに形成する凹凸は、フォトリソグラフィーにより形成された周期的な凹凸である必要はなく、サンドブラスト処理などの機械的な加工により、フォトリソグラフィーを用いずに形成したランダムな凹凸であっても、従来と同等の効果を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0028】
すなわち、本発明の発光ダイオード1は、基板2の表面Sに、発光層7が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸を形成し、当該凹凸が形成された基板2の表面Sに、半導体層3を形成したものである。
【0029】
従来の周期的な凹凸は、フォトリソグラフィーを用いなければ実現できなかったが、本発明の発光ダイオード1では、基板2の表面Sに形成する凹凸をランダムに配置しているため、機械的な加工で実現できる。ランダムに配置された凹凸は、機械的な加工により形成されることが好ましい。
【0030】
ここでは、機械的な加工として、サンドブラスト処理を用いる場合を説明する。サンドブラスト処理以外の機械的な加工として、例えば、やすりがけといった手法を用いても構わない。なお、ランダムに配置された凹凸をフォトリソグラフィーを用いて実現することも可能であるが、高コストとなるため好ましくない。
【0031】
基板2としては、サファイア、SiC、Si、GaAs、GaP、InP、Ge、ZnO、ガラス、石英、プラスチックのいずれかであるのが好ましい。また、基板2としては、発光層7が発光する光に対して透明なものが好ましい。
【0032】
さらに、基板2の表面Sは、六方晶のサファイア、SiC、ZnO基板においては、C面(SiCではSi面,C面、ZnOではZn面,O面を含む)、A面、M面、R面やこれらの中間の面であってもよく、これらの面から任意の方向に数度傾いた微傾斜面であってもよい。
【0033】
本実施の形態では、一例として、基板2として、表面SがC軸からA軸方向に0.3度傾いたサファイア基板を用い、基板2上にGaN系の半導体層3を形成して青色の発光ダイオード1を作製する場合を説明する。
【0034】
半導体層3は、基板2の表面Sに、厚さ10〜40nmの低温成長GaNバッファ層4、厚さ5μmのアンドープGaN層5、厚さ3μmのn型GaN層6、発光層7であるInGaN/GaN多重量子井戸層(厚さ1〜3nmのInGaN層と厚さ3〜20nmのGaN層を交互に3〜30ペア積層)、厚さ10〜60nmのp型AlGaN層8、厚さ0.1〜0.5μmのp型GaNコンタクト層9を、有機金属気相成長法(MOVPE法)により順次成長して形成される。
【0035】
低温成長GaNバッファ層4とアンドープGaN層5は、基板2の表面Sに形成された凹凸の段差を埋めて発光層7の形成面を平坦化するための下地層10である。
【0036】
なお、本実施の形態では、MOVPE法により半導体層3を形成したが、これに限らず、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライド気相成長法(HVPE法)、液相成長法(LPE法)などにより半導体層3を形成してもよく、またこれらの手法を組み合わせても構わない。
【0037】
また、半導体層3を形成する際には、基板2の表面Sに形成された凹凸の最上部から横方向に半導体を成長させ、凹凸の底部に成長した半導体との間に空洞を形成するようにしてもよいし、凹凸間隔あるいは形成条件を調整して空洞ができないようにしてもよい。さらに、形成条件によっては、凹凸に沿った形態で半導体を成長させるようにしてもよいし、凹凸の斜面部分からのみ半導体を成長させるようにしても構わない。この場合も、半導体の成長過程で凹凸の最上部や斜面に空洞が形成される場合があるが、本発明では空洞の有無は特に問わない。
【0038】
さらに、発光ダイオード1では、半導体層3の表面をRIE(Reactive Ion Etching)により部分的に除去してn型GaN層6の一部を露出させており、その露出したn型GaN層6上には、Ti/Al電極11が形成される。p型GaNコンタクト層9の表面には、Ni/Au半透明電極12および電極パッド13が形成される。
【0039】
次に、基板2の表面Sに凹凸を形成するに際しての条件等について説明する。
【0040】
基板2のサンドブラスト処理前の表面Sは、サンドブラスト処理後の凹凸の高さ制御の観点から、機械加工による歪が除去された鏡面研磨面であるのが好ましい。ただし、表面粗さを示すrms値(root mean square)が1μm以下であれば、研磨工程で歪が除去されていない面であってもよく、低コスト化の観点からはこちらの方が好ましい。
【0041】
基板2の表面Sに凹凸を形成する際には、まず基板2を洗浄し、その後、基板2の表面Sにブラスト剤を吹き付けてサンドブラスト処理を行う。
【0042】
サンドブラスト処理に用いるブラスト剤としては、SiC、アルミナ、石英、ドライアイス、ダイヤモンドなどの粉末を用いることが好ましい。また、ブラスト剤の粉末を構成する粒の粒径は10〜100μmであるのが好ましい。さらに、サンドブラスト処理の実施時には、ブラスト剤を圧縮空気により基板2の表面Sに吹き付けるが、その際の圧縮空気の圧力は0.1〜2MPaであることが好ましい。ブラスト剤や圧縮空気の圧力は、基板2の材質や所望する凹凸の加工形状に応じて、適宜、最適な組み合せを選択すればよい。なお、圧縮空気に代えて、その他の圧縮ガスを用いても構わない。
【0043】
基板2の表面Sにサンドブラスト処理により凹凸を形成した後には、当該基板2を再び洗浄した後、基板2の表面Sにエッチング処理を行い、サンドブラスト処理による損傷(歪)を除去することが好ましい。エッチング処理としては、塩酸、硫酸、硝酸、ふっ酸、酢酸、燐酸、アンモニア、水酸化ナトリウムなどの酸あるいはアルカリ溶液によるウェットエッチング処理が好ましい。特に、本実施の形態のように基板2としてサファイア基板を用いる際には、酢酸:燐酸が2:1〜5:1の割合の高温(200〜300℃)の溶液を用いたウェットエッチング処理を行うことが好ましい。なお、溶液を用いたウェットエッチング処理に代えて、プラズマエッチング処理を行うようにしてもよい。エッチング処理を行うことにより、結晶方位を反映した凹凸が得られる。
【0044】
エッチング処理後の凹凸の高さとしては、0.5〜5μmの間であるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましく、0.5〜1μmであるのが最も好ましい。凹凸の高さが0.5μmより小さいと、光取出し効率向上の効果が小さく、凹凸の高さが大きい場合には、下地層10の成長により表面を平坦化するのが困難になるためである。基板2の表面Sは、エッチング処理後であっても、光学的に荒れた面であることが好ましい。
【0045】
また、サンドブラスト処理された基板2の表面S上に下地層10や発光層7を成長する観点から、エッチング処理後の基板2の表面SのX線回折ロッキングカーブ半値幅(以下、XRC半値幅という)は、60秒以下であるのが好ましく、40秒以下であるのがより好ましい。ただし、基板2は単結晶基板とする。
【0046】
これは、XRC半値幅が60秒を超えた場合には、アンドープGaN層5の表面の(0004)面XRC半値幅が1000秒以上となってしまい、図1の構造の発光ダイオード1を形成した際に、従来と同等以上の特性が得られないためである。なお、XRC半値幅が60秒を超えた場合、通電による発光が得られない場合もある。
【0047】
XRC半値幅を40秒以下とすることで、アンドープGaN層5を5μm以上成長した際に、アンドープGaN層5の表面の(0004)面XRC半値幅を300秒以下にでき、図1の構造の発光ダイオード1を形成した際に、従来と同等以上の発光強度を得ることができる。
【0048】
本実施の形態の作用を説明する。
【0049】
本実施の形態では、基板2の表面Sに、発光層7が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸を形成し、当該凹凸が形成された基板2の表面Sに、半導体層3を形成している。
【0050】
これにより、基板2の表面Sに、サンドブラスト処理など機械的な加工により凹凸を形成することが可能となり、光取出し効率が高く、かつ、製造が容易で低コストな発光ダイオード1を実現できる。
【0051】
従来法で用いるフォトリソグラフィー装置は、1台数千万円する高価な装置である。また、エッチングに際してプラズマエッチング装置を用いる場合、これも1台数千万円から数億円する装置である。これに対して、本発明でサンドブラスト処理に用いるサンドブラスト装置は、100万円〜数100万円の装置であり、本発明を適用することにより、設備投資の金額を従来の10分の1以下に低減できる。
【0052】
また、フォトリソグラフィーを用いた従来法で凹凸を形成する場合、
(1)基板洗浄
(2)金属膜を蒸着
(3)レジスト塗布
(4)フォトリソグラフィー装置による露光
(5)現像
(6)金属膜をエッチング
(7)金属膜をマスクとして基板をエッチング
(8)金属膜・レジストを除去・洗浄
といった多くの工程が必要となり、複雑なプロセスを経て凹凸を形成することになる。この(1)〜(8)の工程のうち、(1),(2),(5)〜(8)の各工程では複数枚の基板をまとめて処理できるが、(3),(4)の工程では、基板を1枚ずつ処理する必要があり、全体の生産性を制限するボトルネックとなっていた。
【0053】
これに対して、本発明でサンドブラスト処理を用いて凹凸を形成する場合には、
(1)基板洗浄
(2)サンドブラスト処理
(3)洗浄
(4)エッチング処理によるダメージ除去
といった4つの工程が必要であり、従来法と比較して工程数が少ない。さらには、全ての工程で基板2の複数枚処理が可能であり、生産性を制限するボトルネックとなる工程が存在しないため、極めて生産性が高い。
【0054】
また、本実施の形態では、基板2の表面Sに機械的な加工により凹凸を形成した後、基板2の表面Sにエッチング処理を行い、機械的な加工による損傷を除去しており、エッチング処理後の基板2の表面SのXRC半値幅を60秒以下(好ましくは40秒以下)とすることで、従来と同等以上の光取出し効率を実現することができる。また、エッチング処理後の凹凸の高さを1〜5μmとすることで、光取出し効率向上の効果を十分に大きくし、かつ、下地層10の成長により表面を平坦化することが可能となる。
【0055】
さらに、本実施の形態では、下地層10により基板2の表面Sに形成される凹凸の段差を埋めて、平坦な面に平坦な発光層7を形成するようにしているため、発光層7における内部量子効率を低下させることがなく、従来と同等の発光特性を実現できる。
【0056】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【0057】
例えば、上記実施の形態では、基板2としてサファイア基板を用い、基板2上にGaN系の半導体層3を形成して青色の発光ダイオード1を作製する場合を説明したが、これに限らず、本発明は、GaAs、InP、InSn、GaN、AlN、ZnO、Si、SiC、Ge、サファイアなどからなる基板上に、InP、InGaAs、InAlAs、GaAs、AlGaAs、InGaAsP、InAlGaAsP、ZnO、ZnSe、ZnS等の材料系からなる半導体層を形成した、ピーク波長の範囲が200〜2000nmの発光ダイオードの光出力の向上にも適用可能である。
【0058】
また、本発明は、上述のような無機物半導体からなる半導体層3を積層した発光ダイオードはもとより、サファイア基板やガラス基板の上に、プラズマCVD法や蒸着により有機物半導体を積層した有機EL素子の光出力の向上にも適用できる。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0060】
(従来例)
まず、本発明の実施例を説明するに先立ち、従来例について説明する。
【0061】
従来例1では、表面がC面からA軸方向に0.3度傾いた3〜6インチ径のサファイア基板からなる基板を用い、基板の表面に、フォトリソグラフィーおよびウェットエッチングにより凹凸加工を施し、その上に、GaN系の半導体層(LED構造)を積層して、図1と同じ構造の発光ダイオードを作製した。
【0062】
具体的には、まず、成長実施前の基板表面にNiを200nm蒸着してNi膜を形成し、フォトリソグラフィーおよびウェットエッチングにより、Ni膜を部分的に除去して、基板表面に形成する凹凸に対応したNiパターンを形成する。
【0063】
その後、基板をECRプラズマエッチング装置に導入し、NiパターンをマスクとしてNi膜の無い領域の基板表面をエッチングし、基板表面にパターンを転写する。今回用いたパターンは、A軸方向を1辺とする三角格子状に3μmピッチで高さ1μmの円錐状の凹凸が繰り返し形成されるものを用いた。基板のエッチング後に、残留したNiパターンを塩酸で除去し、有機溶媒による洗浄、水洗を行い、成長装置(MOVPE装置)に導入した。
【0064】
以下、MOVPE装置内での成長手順を説明する。
【0065】
まず、100〜800Torr(13.3〜106.7kPa)の圧力下で、水素を10〜100%含む雰囲気中で、基板を1000〜1200℃の温度に加熱し、基板表面を清浄化した。その後、基板温度を400〜700℃に下げ、水素、窒素、アンモニアを流しつつ、Gaの原料としてトリメチルガリウム(TMG)を装置に導入し、基板上に厚さ10〜40nmの低温成長GaNバッファ層を成長速度0.1〜10μm/時で成長させた。
【0066】
その後、再び成長温度(基板温度)を1000〜1200℃に昇温した後、水素、窒素、アンモニア、TMGを成長装置に供給し、0.1〜40μm/時の成長速度でアンドープGaN層を5μm成長した。
【0067】
低温成長GaNバッファ層およびアンドープGaN層の成長を通じて、基板表面の凹凸は埋め込まれ、アンドープGaN層の表面は平坦になる。なお、成長条件によっては、凸部の頂上のみからGaN成長が生じ、隣り合うGaNが融合して平坦面を形成する場合や、凸部頂上と凹部の底の両方からGaNが成長し全体が融合して平坦面を形成する場合、更にはGaNが凹凸面に沿った形態で成長し、最終的に平坦面を形成する場合などがある。さらには、凹部の底や斜面上あるいは凸部の上などに空洞を形成する場合や、全く空洞が無く成長する場合などもある。
【0068】
アンドープGaN層の成長に引き続き、成長温度(基板温度)を1000〜1200℃とし、水素、窒素、アンモニア、TMG、およびシランガスを成長装置に供給して、0.1〜40μm/時の成長速度で3μmのn型GaN層を成長した。n型GaN層のキャリア濃度は、1×1017〜5×1019/cm3であり、シート抵抗は1〜200Ω□であった。
【0069】
n型GaN層の成長に引き続き、成長温度(基板温度)を600〜800℃として、窒素、アンモニアガスを流しつつ、3〜30ペアのInGaN/GaN多重量子井戸層(InGaN層の厚さ1〜3nm、GaN層の厚さ3〜20nm)を成長し発光層を形成した。
【0070】
発光層の上には、成長温度(基板温度)を900〜1200℃として、厚さ10〜60nmのp型AlGaN層(Al組成=0.05〜0.2)およびp型GaNコンタクト層(厚さ0.1〜0.5μm、キャリア濃度=5×1017〜5×1018/cm3)を成長した。
【0071】
半導体層を形成した後、基板温度を室温付近に下げ、基板をMOVPE装置より取り出した。その後、得られたウエハの表面をRIEにより部分的に除去し、n型GaN層の一部を露出させてTi/Al電極を形成した。さらに、p型GaNコンタクト層上にNi/Au半透明電極および電極パッドを形成して、青色発光ダイオードを作製した。
【0072】
作製した従来例1の発光ダイオードの発光波長は460nmの青色領域であり、20mA通電時の駆動電圧は3.25V、光出力は12.1mWであった。発光ダイオードの内部量子効率が80%であると仮定すると、従来例1の発光ダイオードの光取出し効率は、28%と見積もられた。
【0073】
また、比較のために、基板の表面に凹凸を形成せずに、上記と同様にして従来例2の発光ダイオードを作製した。
【0074】
作製した従来例2の発光ダイオードの発光波長は、従来例1と同様に460nmの青色領域であり、20mA通電時の駆動電圧は3.3V、光出力は8.0mWであった。発光ダイオードの内部量子効率が80%であると仮定すると、従来例2の発光ダイオードの光取出し効率は、18.5%と見積もられた。
【0075】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1を説明する。実施例1では、サンドブラスト処理により基板2の表面Sに凹凸を形成した。
【0076】
サンドブラスト処理に用いるブラスト剤としては、不二製作所製「フジランダムWA」を用いた。形状は破砕状である。ブラスト剤としては120番、240番、400番のものを用いた。それぞれの番手の平均粒子径は、120番が105μm、240番が57μm、400番が30μmであった。ブラスト剤は圧縮空気により基板2に吹き付けた。その際の圧縮空気の圧力としては、0.2〜2MPaとした。
【0077】
一例として、400番のブラスト剤を用い、0.3MPaの圧力でサンドブラスト処理を施したサファイアからなる基板2の表面Sを微分干渉顕微鏡により観察した写真を図2に示す。図2に示すように、従来法とは異なり、ランダムな凹凸が基板2の全面にわたって形成されている。
【0078】
また、図2と同じ試料を用い、光の干渉を利用した非接触3D表面形状・粗さ測定器による測定結果を図3に示す。図3の測定結果から、基板2の表面Sのうねり(段差の最大値、PV値(Peak to Valley))は3084nm、表面粗さのrms値は389nmと見積もられた。
【0079】
ブラスト剤の粒径と、圧縮空気の圧力の組合せにより、基板2の表面Sのうねりは3〜20μmの範囲で、rms値は200〜1000nmの範囲で制御が可能であった。また、全ての粒径において、試料表面は白濁しており、このことから、可視光領域の光が表面で乱反射していることが確認された。可視光領域の光が表面で乱反射している状態は、すなわち、光の進行方向を変えて発光層で発光した光の外部への取出し効率を向上するという機能が十分に実現されている状態であるといえる。
【0080】
しかし、このサンドブラスト処理を行った基板2上に、従来例1と同様に半導体層3を形成し通電したところ、全ての場合において発光がみられなかった。これは、成長後においても半導体層3の表面が白濁していたことから、サンドブラスト処理による基板2の表面Sの歪(損傷)の影響で、結晶成長が阻害されているのが原因と考えられる。実際に、基板2の表面Sの(0006)面XRC半値幅を測定してみると、サンドブラスト処理前には20秒程度であったのが、サンドブラスト処理後には80〜300秒程度に劣化していた。
【0081】
そこで、サンドブラスト処理後の基板2の表面Sの歪(損傷)を除去するために、250℃の硫酸:燐酸=3:1溶液によるエッチングを行った。エッチング深さを変化させ、基板2の表面Sの状態変化を微分干渉顕微鏡により観察した結果を図4に示す。図4より、エッチングが進むにつれて、細かい凹凸が減少し、結晶方位を反映した大きな三角錐状の凹凸が表れていることが分かる。
【0082】
図5に、エッチング深さとXRC半値幅との関係を示す。図5では、サンドブラスト処理に用いたブラスト剤が120番と400番であり、圧縮空気の圧力が0.3MPaの場合について示している。図5より、サンドブラスト処理により増大したXRC半値幅が、エッチングの進行と共に減少しており、6μm程度のエッチングにより、サンドブラスト処理無しの場合のXRC半値幅とほぼ同等の値(20秒程度)となっていることが分かる。
【0083】
図6に、ブラスト剤に400番を用いた場合のエッチング深さに対するうねり(PV値)と表面粗さ(rms値)の関係を示す。図6に示すように、エッチング処理の間にうねりとrms値は変化するものの、6μmエッチング後にも、まだ大きなうねりとrms値を維持しており、基板2の表面Sが光学的に荒れた面となっていることが分かる。
【0084】
このサンドブラスト処理後にエッチング処理した基板2上に、従来例1と同様にしてGaN系の半導体層3を形成した。その結果、エッチング処理後の基板2の表面SのXRC半値幅が60秒以下である場合にのみ、通電による十分な発光が見られた。また、エッチング処理後の基板2の表面SのXRC半値幅が40秒以下である場合にのみ、従来と同等以上の発光強度が得られた。XRC半値幅が40秒以下となるためのエッチング条件は、サンドブラスト処理の条件に依存し、場合により異なるが、図5を参照すると、400番のブラスト剤を用いた場合には3μm以上のエッチング深さとなるようにエッチング処理を行えばよいことが分かる。
【0085】
また、様々な条件でサンドブラスト処理した基板2を用いて試験したところ、エッチング処理後のPV値が3μm以下であれば、アンドープGaN層5の成長により表面が平坦化し、その上に成長する発光層7も平坦に成長でき、従来以上の特性が得られることが分かった。この場合の20mA通電時の駆動電圧は3.2V程度であり、光出力は14〜22mWであった。駆動電圧は従来例1,2と同等であったが、光出力については従来例1,2よりも10%以上向上しており、最良の場合には、従来例の2倍近い光出力が得られた。光出力が最大の場合、光取出し効率としては、従来例1,2を遥かに上回る50%程度が実現できたことになる。
【0086】
PV値が3μmを超えた場合には、5μm厚のアンドープGaN層5の成長では表面が平坦化せず、発光層7を成長する表面も平坦とならなかった。この場合も発光ダイオード1から強い発光は得られたが、発光の半値幅が100nmと広く、色純度の悪い発光であった。PV値の減少とともに発光ダイオードの発光の色純度は向上し、PV値が3μmの場合の発光の半値幅は40nm、PV値が1μmの場合には30nmと改善した。PV値が3μm以下の場合に得られる発光の半値幅である40nmは、従来例1,2の発光ダイオードとほぼ同等の値である。また、PV値が1μmの場合には、従来と同等以上の光出力が得られた。光出力の点からは、光取出し効率の向上を図り、PV値が2μm以上となるように表面Sを形成した基板2を用いて発光ダイオード1を作製するとよい。
【0087】
以上の結果から、サンドブラスト処理により基板2の表面Sに凹凸を形成し、表面Sの歪(損傷)をエッチング処理により除去し、XRC半値幅が40秒以下で、PV値が3μm以下の基板2の表面Sに半導体層3を形成することで、従来のフォトリソグラフィーを用いる方法で作製した発光ダイオードと同等以上の特性の発光ダイオード1を実現できることが明らかとなった。
【0088】
(実施例2)
低温成長GaNバッファ層4を、低温成長AlNバッファ層や、高温成長AlNバッファ層などとし、それ以外は実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。その結果、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。
【0089】
(実施例3)
発光波長を390〜600nmと様々に変え、それ以外は実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。その結果、実施例1と同様に、従来例1,2と同等以上の特性を得られることが確認できた。
【0090】
(実施例4)
基板2であるサファイア基板の表面をC面、A面、M面、R面やこれらの中間の面など様々に変え、また、これらの面から任意の方向に数度傾いた微傾斜面とした場合についても、実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。その結果、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【0091】
(実施例5)
基板2をサファイア基板から、SiC、ZnOからなる基板に代え、実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。その結果実施例1とほぼ同等の結果が得られた。ただし、実施例5では、異なる基板2において所望の凹凸のPV値を得るために、ブラスト剤としては、SiC、アルミナ、石英、ドライアイス、ダイヤモンドから適宜、適切なものを選択し、サンドブラスト処理実施時の圧縮空気の圧力も適宜調整した。
【0092】
(実施例6)
基板2を六方晶のサファイア基板から、立方晶のSi、GaAs、GaP、InP、Geからなる基板に代え、実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。この場合の基板2の表面Sの面方位としては、(001)面、(111)面、(111)A面、(111)B面、(311)面、(311)A面、(311)B面など様々な面と、これらの微傾斜面を用いた。いずれの場合においても、実施例1とほぼ同等の結果が得られ、従来例1,2と同等以上の特性を得られることが確認できた。実施例6においても、実施例5と同様に、異なる基板2において所望の凹凸のPV値を得るために、ブラスト剤としては、SiC、アルミナ、石英、ドライアイス、ダイヤモンドから適宜、適切なものを選択し、サンドブラスト処理実施時の圧縮空気の圧力も適宜調整した。
【0093】
(実施例7)
半導体層3の成長法をMOVPE法から、MBE法、HVPE法、あるいはLPE法に代え、実施例1と同様にして発光ダイオード1を作製し、光取出し効率等の評価を行った。その結果、実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【符号の説明】
【0094】
1 発光ダイオード
2 基板(発光ダイオード用基板)
3 半導体層
7 発光層
10 下地層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に発光層を含む半導体層が形成される発光ダイオード用基板であって、
サファイア基板からなり、
前記表面には、前記発光層が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸が形成され、かつ、前記凹凸は結晶方位を反映して形成されており、
前記凹凸の高さが1μm以上5μm以下であり、
前記表面のX線回折ロッキングカーブ半値幅が60秒以下である
ことを特徴とする発光ダイオード用基板。
【請求項2】
基板の表面に発光層を含む半導体層を形成した発光ダイオードにおいて、
前記基板の表面には、前記発光層が発光する光を乱反射するランダムに配置された凹凸が形成されており、
当該凹凸が形成された前記基板の表面に、前記半導体層を形成したことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項3】
前記凹凸は、機械的な加工により形成される請求項2記載の発光ダイオード。
【請求項4】
前記機械的な加工が、サンドブラスト処理である請求項3記載の発光ダイオード。
【請求項5】
前記基板は、発光波長に対して透明であるものを、サファイア、SiC、Si、GaAs、GaP、InP、Ge、ZnO、ガラス、石英、プラスチックのいずれかから選ぶ請求項3または4記載の発光ダイオード。
【請求項6】
前記基板の表面に前記機械的な加工により前記凹凸を形成した後、前記基板の表面にエッチング処理を行い、前記機械的な加工による損傷を除去するようにした請求項3〜5いずれかに記載の発光ダイオード。
【請求項7】
前記基板が単結晶基板であり、前記エッチング処理後の前記基板の表面のX線回折ロッキングカーブ半値幅が40秒以下である請求項6記載の発光ダイオード。
【請求項8】
前記半導体層は、前記基板の表面に形成され、前記凹凸の段差を埋めて前記発光層の形成面を平坦化するための下地層を有する請求項2〜7いずれかに記載の発光ダイオード。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−244087(P2012−244087A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115515(P2011−115515)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】