説明

発進補助装置およびこれを搭載した発進補助車両

【課題】車高が変化した場合であっても車体の傾斜状態から路面の傾斜状態を適正に推定して確実に発進補助を行う。
【解決手段】ブレーキペダル9に対する操作に応じて制動力を発生するディスクブレーキ8と、車体1の前後加速度G(傾斜状態)を検出する前後Gセンサ14と、前後Gセンサ14の検出結果に基づいて路面の傾斜度合いB’を推定する路面状態推定部45と、路面の傾斜度合いB’に基づいて路面が坂道であると判定された場合、ブレーキペダル9に対する操作の解除後にもディスクブレーキ8に制動力を保持させる発進補助装置11において、エアスプリング5のストロークSを検出するストロークセンサ18を更に備え、路面状態推定部45が、前後加速度Gに基づく路面(車体)の傾斜度合いBをストロークSを用いて補正することで路面の傾斜度合いB’を正確に推定できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作の解除後にも制動力を保持して坂道発進時の運転操作を補助する発進補助装置およびこれを搭載した発進補助車両に係り、車体の傾斜状態から路面の傾斜状態を推定して発進補助を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
坂道発進時に車両が自重によって進行方向と反対側へずり下がるのを防止するために、ブレーキ操作に応じた制動力を所定の条件に応じて保持するようにした発進補助装置(Hill Start Assist:以下、HSAと記す)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
HSAは、上り坂で前進発進する場合および下り坂で後退発進する場合、すなわち登坂発進時に作動(制動力を保持)することで発進補助を行う。そこで、前進発進か後退発進かを判断するために、車速センサの信号とシフトレバーポジションスイッチからの信号等を用いており、もう1つの作動条件である行路の勾配を判断するために、前後Gセンサなどを用いている(例えば、特許文献2参照)。そして、予め設定した勾配以上の坂道での登坂発進時に、HSAが路面勾配に応じたブレーキ圧をブレーキ操作の解除後に保持することで車両のずり下がりを防止する。
【0004】
保持した制動力を解除するタイミングは、特許文献2に記載されるように、路面の傾斜角度やドライバの操縦特性等に応じて設定される時間の経過を条件とするものや、所定のエンジン回転数に達したことを条件とするものなどがある。また、トレーラを牽引するトラクタにおいて、サスペンションの変動を監視し、サスペンションの変位が所定値を超えたことをもって制動力を解除するようにした構成や、エアサスペンションを装備した車両の場合には、サスペンションの変位の代わりに空気圧の変位を制動力解除の判定条件とした構成が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−44950号公報
【特許文献2】国際公開第2011/043078号パンフレット
【特許文献3】特開2003−81072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に開示された技術では、エンジン出力が発揮されると前軸のサスペンションが拡大(伸長)し、後軸のサスペンションが縮小(収縮)する方向に変位することを利用し、車高の変化やエアサスペンションの空気圧変化に基づいて、車両が発進できる状態にあるか否かを推定している。しかしながら、エアサスペンションを装備した車両が坂道で停車時に車高調整を行うと、特許文献3の技術では、車高の変化やエアサスペンションの空気圧変化が生じるため、車両の前後軸におけるサスペンションの関係が、エンジン出力に依存するものとは異なり、坂道発進補助と車高調整とが競合して、保持されているブレーキ圧力の解除制御に影響を与える虞がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術に含まれる課題を解消するべく案出されたものであり、その主な目的は、車高が変化した場合であっても車体の傾斜状態から路面の傾斜状態を適正に推定して確実に発進補助を行うことができる発進補助装置およびこれを搭載した発進補助車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するために、本発明の一側面によれば、ブレーキ操作部材(9)に対する操作に応じて制動力を発生する制動装置(8)と、車体(1)の傾斜状態(G)を検出する車体状態検出手段(14)と、前記車体状態検出手段の検出結果に基づいて路面の傾斜状態を推定する路面状態推定手段(45)と、前記路面状態推定手段により推定された路面の傾斜状態に基づいて車両の発進時に必要な発進駆動力(Dn)を設定する発進駆動力設定手段(47)と、前記路面の傾斜状態に基づいて前記路面が坂道であると判定された場合(ステップST18:Yes)、前記ブレーキ操作部材に対する操作の解除後、前記発進駆動力設定手段により設定された発進駆動力が発揮されるまで(ステップST22:No)前記制動装置に制動力を保持させる制動力保持手段(48)とを備えた発進補助装置(11)であって、各車輪近傍の車高を検出する車高検出手段(18)を更に備え、前記路面状態推定手段は、前記車体状態検出手段の検出結果に基づく路面の傾斜状態を前記車高検出手段の検出結果(S)を用いて補正する(ステップST17)ことを特徴とする。
【0009】
この発進補助装置によれば、例えば積載荷重の偏りにより車体が路面に対して傾斜している場合や、アクティブサスペンションなどにより積極的に車高調整が行われて車体が路面に対して傾斜している場合であっても、路面の傾斜状態を適切に推定することができ、路面傾斜に合わせて確実に坂道発進補助を行うことができる。
【0010】
また、本発明の一側面によれば、上記発進補助装置(11)を搭載し、当該発進補助装置により坂道発進時の運転操作を補助する発進補助車両(V)であって、前記車体状態検出手段の検出結果に基づいて前記車体が傾斜していると判定される場合に(ステップST4:Yes)、アクチュエータ(5)を駆動して前輪(3f)および後輪(3r)の少なくとも一方の車輪近傍の車高を調整する車高調整手段(42)を更に備え、前記路面状態推定手段は、前記車高調整手段により車高調整が行われた場合、前記車体状態検出手段の検出結果に基づく路面の傾斜状態を前記車高検出手段の検出結果を用いて補正することを特徴とする。
【0011】
この発進補助車両によれば、車高調整手段により積極的に車高調整が行われて車体が路面に対して傾斜している場合であっても、路面の傾斜状態を適切に推定することができ、路面傾斜に合わせて確実に坂道発進補助を行うことができる。
【0012】
また、本発明の一側面によれば、当該発進補助車両は前輪駆動車であり、前記車高調整手段は、前記路面状態推定手段により推定された路面状態が登坂路であると判定された場合(ステップST5:Yes)、前記路面に対して前記車体が前傾するように車高調整を行うことを特徴とする。
【0013】
車高調整を行わない場合、登坂路では後輪にかかる荷重が平坦路停車時に比べて大きくなり、前輪の荷重が平坦路停車時に比べて小さくなる。そのため、前輪駆動車の場合、前輪の接地荷重が小さくなることにより、特に雨天時や積雪時の発進時にスリップ(ホイールスピン)を起こし易くなる。そこで、このような構成とすることにより、駆動輪である前輪の接地荷重を大きくできるため、登坂路発進時に運転者がアクセルを踏み過ぎたとしても駆動輪のスリップを抑制することができる。
【0014】
また、本発明の一側面によれば、アクチュエータ(31)を駆動してアクセルペダル(10)の操作反力(F)を制御するペダル反力制御手段(49)を更に備え、前記制動力保持手段が前記制動装置に制動力を保持させる場合(ステップST32:Yes)、前記ペダル反力制御手段は、前記発進駆動力設定手段により設定された発進駆動力が発揮されるまで(θ≦θn)前記操作反力を通常時よりも低くなるように制御する(ステップST36)ことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、車両の駆動力が発進駆動力に達するまでは運転者がアクセルペダルを踏み込みやすくなるため、より俊敏な坂道発進が可能になるとともに、車両の駆動力が発進駆動力に達して制動状態が開放されたとき、或いはその後に、アクセルペダル反力が通常時の操作反力になることでアクセルペダルの操作反力に壁感が生じるため、運転者がアクセルペダルを踏み込み過ぎて急加速すること或いは駆動輪がスリップすることを抑制できる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、車高が変化した場合であっても車体の傾斜状態から路面の傾斜状態を適正に推定して確実に発進補助を行うことができる発進補助装置およびこれを搭載した発進補助車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る発進補助車両の全体構成図
【図2】実施形態に係る発進補助装置の全体構成図
【図3】実施形態に係るペダル反力制御装置の全体構成図
【図4】通常時におけるペダル踏込量と踏込反力との関係を示すグラフ
【図5】図1に示す制御ユニットのブロック図
【図6】発進発進時におけるペダル踏込量と踏込反力との関係を示すグラフ
【図7】実施形態に係る車高制御のフロー図
【図8】実施形態に係る制動力制御のフロー図
【図9】実施形態に係るペダル反力制御のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、本発明を自動車Vに適用した一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明にあたり、4本の車輪3やそれらに対して配置された部材、すなわち、タイヤ2やエアサスペンション7等については、それぞれ数字の符号に前後左右を示す添字を付して、例えば、車輪3fl(左前)、車輪3fr(右前)、車輪3rl(左後)、車輪3rr(右後)と記すとともに、総称する場合には、例えば、前輪3f、後輪3r、車輪3などと記す。
【0019】
先ず、図1を参照して、実施形態に係る自動車Vの概略構成について説明する。図示するように、自動車Vの車体1にはタイヤ2が装着された車輪3が前後左右に設置されており、これら各車輪3がサスペンションアーム4や、エアスプリング5、ダンパ6等からなるエアサスペンション7によって車体1に懸架されている。自動車Vは、エンジンEを車体1の前部に搭載し、その出力を前輪3fのみに駆動力として伝えるFF(フロントエンジン・フロントドライブ)車である。また、エアスプリング5は、空気の給排により車高を調整できる公知の構成のものでよい。
【0020】
各車輪3fl〜3rrには、ブレーキペダル9に対する踏込操作に応じて摩擦制動力を発生する制動装置として、車輪3と一体のディスクロータ8a及びホイールシリンダ8bを備えるキャリパにより構成される公知のディスクブレーキ8が設けられている。ホイールシリンダ8bに接続するブレーキ系には、ブレーキペダル9の踏込操作に関わらずにブレーキ液圧を発生させる公知のブレーキ配管からなるモジュレータ12m(図2参照)が組み込まれている。モジュレータ12mは、制御ユニット12と一体に形成され、モジュレータ12mを含む制御ユニット12およびディスクブレーキ8により各車輪3のブレーキ圧が制御されるとともに、本発明の発進補助装置11が構成される。
【0021】
自動車Vに搭載された制御ユニット12は、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース、各種ドライバ等から構成されており、ディスクブレーキ8による制動力制御の他、エンジンEの出力制御、エアスプリング5による車高制御、アクセルペダル10の踏込反力制御などを行う。なお、制御ユニット12がアクセルペダル10の踏込反力制御を行うことで構成されるアクセルペダル反力制御装置30の詳細については後述する。
【0022】
自動車Vには、車速vを検出する車速センサ13や、前後加速度Gを検出する前後Gセンサ14、ヨーレイトγを検出するヨーレイトセンサ15、変速機のギヤポジションPを検出するギヤポジションセンサ16、アクセルペダル10の踏込量θを検出するアクセルペダルセンサ17等が車体1の適所に設置されている。また、自動車Vには、対応する車輪3近傍の車高を検出すべくエアスプリング5のストロークSを検出するストロークセンサ18や、対応する車輪3の回転速度を検出する図示しない車輪速センサなどが各車輪3fl〜3frrごとに設置されている。これらセンサ13〜18は、それぞれ検出信号を制御ユニット12に入力する。なお、ここでの車輪3近傍の車高とは、車体1におけるエアスプリング5が連結された部位の車高を意味する。
【0023】
図2に示すように、自動車Vのブレーキ装置20は、ブレーキペダル9と、ブレーキペダル9の踏み込みによる圧力を増幅するマスタパワーを備えたマスタシリンダ21と、マスタシリンダ21で増幅されたブレーキ液圧により駆動され、ホイールシリンダ8bのブレーキパッドをディスクロータ8aへ圧接することで車輪3に回転抵抗を与えて制動力を発生するディスクブレーキ8と、マスタシリンダ21とディスクブレーキ8との間に組み込まれたモジュレータ12mとから構成される。なお、図1では簡略して左右の前輪3fに設けられたディスクブレーキ8fl,8frのみを示している。
【0024】
発進補助装置11を構成するモジュレータ12mは、マスタシリンダ21で増幅された油圧を検出するマスタ圧センサ22、電磁式のレギュレータバルブ23、インレットバルブ24、アウトレットバルブ25、ポンプ26等をブレーキ液配管27に備えている。制御ユニット12はこれらポンプ26やバルブ23〜25を駆動制御することによってブレーキペダル9の操作に関わらず各ディスクブレーキ8による制動力を可変制御する。例えば、制御ユニット12は、所定の発進補助条件を満たした状態でブレーキペダル9の踏み込み操作が解除されたときに、レギュレータバルブ23を閉弁駆動し、ブレーキ液配管27のうち図1中に太線で示す部分のブレーキ液圧の低下を抑制することで、ディスクブレーキ8の制動力の低下を抑制し、車両を停止状態に保持する。
【0025】
なお、モジュレータ12mは、ブレーキ時の車輪ロックを防ぐABS、加速時などの車輪空転を防ぐTCS(トラクションコントロールシステム)、旋回時のヨーモーメントを制御して横滑りを抑制する横滑り抑制制御、緊急時に所定のブレーキ圧を自動的にホイールシリンダ8bに作用させるブレーキアシスト機能、衝突回避・レーンキープなどのための自動ブレーキ機能等を備えた車両挙動安定化制御システム(例えば、VSA(Vehicle Stability Assist)システム)に供される公知のものであって良い。
【0026】
図3に示すように、アクセルペダル反力制御装置30は、自動車Vに設けられたアクセルペダル10に対して踏み力に抵抗する踏込反力Fを付加するものであり、アクセルペダル10に付加反力Frを付与する反力付与手段である反力アクチュエータ31と、反力アクチュエータ31に発生させる付加反力Frを制御する制御ユニット12とにより構成される。
【0027】
アクセルペダル10は、下端が車体1に回動自在に連結されるとともに、上部にペダルアーム32が摺接されており、図示しないリターンスプリングにより付勢されたペダルアーム32によって原位置側(起立側)へ常時付勢されている。なお、この付勢力Fsは、図4に細線で示すように、アクセルペダル10を踏み込む方向に動作させるときは大きく、戻す方向に動作させるときは小さくなるヒステリシス特性を有している。また、このヒステリシス特性は、従来のケーブル式のペダル装置の機械的構成により生じるものでもよく、ドライブ・バイ・ワイヤ式のペダル装置の付勢力発生装置が生じさせるものであってもよい。
【0028】
反力アクチュエータ31は、回転運動型の電動モータ33と、一端が電動モータ33の出力軸に連結され、他端がペダルアーム32に摺接する旋回アーム34とを備えており、電動モータ33が旋回アーム34に回転トルクを加えることにより、旋回アーム34がペダルアーム32を押圧してアクセルペダル10に付加反力を付与する。ここでは、反力アクチュエータ31がアクセルペダル10を踏み込む方向に動作させるときにのみ踏込反力Frを付加するようになっており、アクセルペダル10の踏込反力Fは、アクセルペダル10を踏み込む方向に動作させるときには、図4に太線で示すように付勢力Fsに付加反力Frを加えた大きさとなり、アクセルペダル10を戻す方向に動作させるときには付勢力Fsのみの大きさとなる。
【0029】
次に、制御ユニット12の機能について図5を参照しながら説明する。同図に示すように、制御ユニット12は、入力インタフェース41と、車高制御部42と、制動制御部44と、ペダル反力制御部49と、出力インタフェース52とを有している。
【0030】
制動制御部44の一部を構成する路面状態推定部45は、車速v、前後加速度G、ヨーレイトγおよびストロークSに基づいて路面の傾斜状態を推定する。ここでは、車速vおよびヨーレイトγがともに0であり自動車Vが停車中であると判定されたときに、路面状態推定部45が路面の傾斜状態を推定する。具体的には、まず、車体1に固定された前後Gセンサ14の出力である前後加速度Gから車体1の傾斜度合い(例えば傾斜角)を路面の傾斜度合いB(ここでは、上り勾配をプラスとする)として推定する。ここで、前後加速度Gから求めた路面の傾斜度合いBは車体1の路面に対する傾斜度合いCを含むものであるため、この傾斜度合いCを取り除くため、各車輪3fl〜3rrのストロークSfl〜Srrのうち前輪3fの平均値から後輪3rの平均値を減算した値を車体1の路面に対する傾斜度合いC(前上がり(後傾)がプラスとなる)として算出し、この傾斜度合いCを前後加速度Gから求めた路面の傾斜度合いBから減算して路面の傾斜度合いBを補正する。以下、補正後の路面の傾斜度合いについては、補正前の路面の傾斜度合いBと区別するために符号B’を用いて記す。このような補正を行うことにより、検出した前後加速度Gから正確な路面の傾斜度合いB’を求めることができる。なお、ストロークSを用いて前後Gセンサ14の検出結果を直接補正した後に路面の傾斜度合いB’を推定してもよい。
【0031】
車高制御部42は目標ストローク設定部43を有している。目標ストローク設定部43はここでは、車速vおよびヨーレイトγがともに0であり自動車Vが停車中であると判定されたときに、路面状態推定部45により推定された路面の傾斜度合いBおよびB’がともにプラス側の所定の閾値よりも大きい場合、すなわち車体1が閾値よりも大きく後傾しており且つ路面が閾値よりも大きな上り勾配の坂道である場合、車体1を前傾させるようにエアスプリング5の目標ストロークStを設定するとともに、路面の傾斜度合いBおよびB’がマイナス側の所定の閾値よりも大きい場合、すなわち車体1が閾値よりも大きく前傾しており且つ路面が閾値よりも大きな下り勾配の坂道である場合、車体1を後傾させるようにエアスプリング5の目標ストロークStを設定する。車体1を前傾または後傾にさせる目標ストロークStを設定する際には、前輪3fのエアスプリング5fおよび後輪3rのエアスプリング5rの一方についてストロークSを縮めるか伸ばすように目標値を設定してもよく、前後両方の車輪3のエアスプリング5について対称的にストロークSを変化させるように目標値を設定してもよい。設定された目標ストロークStは、出力インタフェース52を介して出力され、エアスプリング5fl〜5rrを駆動すべく図示しないコンプレッサやバルブの制御に供される。
【0032】
制動制御部44は、路面状態推定部45の他、補助制御実行判定部46と、発進駆動力設定部47と、制動力保持部48とを有している。補助制御実行判定部46は、路面状態推定部45により推定された路面の傾斜度合いB’およびギヤポジションセンサ16の検出値に基づいて坂道での発進補助制御を実行するか否かを判定する。例えば、停車中の路面の勾配の絶対値が所定値以上であり、ギヤポジションPが登坂方向(上り坂で前進ポジションまたは下り坂で後進ポジション)にある場合に発進補助制御を実行するように判定する。そして、補助制御実行判定部46は、発進補助制御を実行すると判定した場合、ペダル反力制御部49に対して発進補助の実行信号Seを出力する。発進駆動力設定部47は、補助制御実行判定部46により発進補助制御を実行すると判定された場合に、路面状態推定部45により推定された路面の傾斜度合いB’に基づいて、マップなどを参照して対応する発進時に必要な発進駆動力Dnを設定する。発進駆動力Dnは、例えば、所定の加速度にて登坂発進できる駆動力として予めマッピングされており、進行方向への上り勾配が大きいほど大きな値となる。制動力保持部48は、設定された発進駆動力DnおよびギヤポジションPに応じて、自動車Vが発進駆動力Dnを発揮するのに必要なエンジン出力(以下、発進エンジン出力Pnと称する。)を算出し、ブレーキペダル9に対する操作の解除後、算出した発進エンジン出力Pnが発揮されるまで、すなわち現在のギヤポジションPにおいて発進駆動力Dnが発揮されるまでディスクブレーキ8による制動力を保持すべくレギュレータバルブ23を閉弁させる制御信号Svを、出力インタフェース52を介して出力する。
【0033】
ペダル反力制御部49は、発進踏込量設定部50と目標付加反力設定部51とを有している。発進踏込量設定部50は、制動力保持部48が算出した発進エンジン出力Pnを発揮するのに必要なアクセルペダル10の踏込量θ、すなわち現在のギヤポジションPにおいて発進駆動力Dnを発揮するためのアクセルペダル10の踏込量θ(以下、発進踏込量θnと称する。)を設定する。目標付加反力設定部51は、登坂発進時には、検出されたアクセルペダル10の踏込量θに応じて、発進踏込量θnまでは踏込反力Fが通常時よりも低くなる登坂発進時用のマップに基づいて、反力アクチュエータ31に対する目標付加反力Frtを設定するとともに、それ以外の時には、図4に示す通常時用のマップに基づいて反力アクチュエータ31に対する目標付加反力Frtを設定する。ここでは、登坂発進時用のマップは図6に示すように、アクセルペダル10の踏込量θが0から発進踏込量θnまでの間は付加反力Frが0となり、発進踏込量θnを超えると付加反力Frtが通常時の傾斜(ペダル踏込量θの増大量に応じた踏込反力Fの増大量)をもって通常時の付加反力Frと同一の値まで増大するように設定される。
【0034】
次に、図7〜図9のフロー図を参照して、制御ユニット12による各種制御の具体的手順について説明する。
【0035】
先ず、図7を参照して車高制御の手順について説明する。エンジンEが駆動する間、車高制御部42は所定の制御間隔をもって以下の車高制御を行う。車高制御部42はまず、各種センサの検出値(車速v、ヨーレイトγ、)を読み込み(ステップST1)、自動車Vが停車中であるか否かを判定する。ステップST2で自動車Vが停車中でないと判定された場合(No)、車高制御部42は上記ステップST1〜ステップST2の手順を繰り返す。一方、ステップST2で自動車Vが停車中であると判定された場合(Yes)、車高制御部42は、路面状態推定部45が推定した路面の傾斜度合いB(車体1の傾斜度合い)およびB’を読み込み(ステップST3)、路面の傾斜度合いB(車体1の傾斜度合い)の絶対値が所定の閾値Bthよりも大きいか否かを判定し(ステップST4)、続いて路面の傾斜度合いB’の絶対値が所定の閾値Bth’よりも大きいか否かを判定する(ステップST5)。ステップST4で路面の傾斜度合いBの絶対値が所定の閾値Bth以下の場合(No)、およびステップST5で路面の傾斜度合いB’の絶対値が所定の閾値Bth’以下の場合(No)はともに、何ら処理を行わずに上記手順を繰り返す。一方、ステップST4で路面の傾斜度合いBの絶対値が所定の閾値Bthよりも大きく(Yes)、且つステップST5で路面の傾斜度合いB’の絶対値が所定の閾値Bth’よりも大きい場合(Yes)、車高制御部42は路面の傾斜度合いBおよびB’に応じて車体1が水平に近づくように各エアスプリング5の目標ストロークStを設定し(ステップST6)、上記手順を繰り返す。なお、ステップST6におけるエアスプリング5の目標ストロークStは、上記したように前輪3fおよび後輪3rの一方のみについて行ってもよく、前輪3fおよび後輪3rの両方について行ってもよい。
【0036】
次に、図8を参照して制動力制御の手順について説明する。エンジンEが駆動する間、制動制御部44は所定の制御間隔をもって以下の制動力制御を行う。制動制御部44はまず、各種センサ13〜18の検出値を読み込み(ステップST11)、センサ故障診断を行う(ステップST12)。センサ故障診断は、1のセンサの出力値が、他のセンサの出力値との関係から推定される正常な値(範囲)にあるか否かを対比判定することにより行われる。次に、制動制御部44は、全てのセンサ13〜18が正常であるか否かを判定し(ステップST13)、センサのうち1つでも故障していると判定された場合(No)、故障表示を行うなどの所定の故障処理を行い(ステップST14)、制動力保持を行わないようにレギュレータバルブ23を開弁させる制御信号Svを出力して(ステップST15)上記手順を繰り返す。
【0037】
一方、ステップST13で全てのセンサ13〜18が正常であると判定された場合(Yes)、制動制御部44は、路面状態推定部45にて前後加速度Gに基づいて路面の傾斜度合いBを推定した後(ステップST16)、エアスプリング5のストロークSに基づいて路面の傾斜度合いBを補正し(ステップST17)、補助制御実行判定部46にて発進補助の実行条件を満たすか否か、すなわち停車中の路面の傾斜度合いB’の絶対値が所定値以上であり、ギヤポジションPが登坂方向にあるか否かを判定する(ステップST18)。ステップST18で発進補助の実行条件が満たされない場合(No)、制動制御部44は、制動力保持を行わないように制動力保持部48にてレギュレータバルブ23を開弁させる制御信号Svを出力して(ステップST15)上記手順を繰り返す。
【0038】
ステップST18で発進補助の実行条件が満たされる場合(Yes)、制動制御部44は、ペダル反力制御部49に対して発進補助の実行信号Seを出力した後(ステップST19)、発進駆動力設定部47にてマップなどを参照して路面の傾斜度合いB’に対応する発進エンジン出力Pnを算出する(ステップST20)。そして、制動制御部44は、エンジンEの回転数Neなどから実エンジン出力Paを算出して(ステップST21)、実エンジン出力Paが発エンジン出力Pnよりも大きいか否かを判定し(ステップST22)、実エンジン出力Paが発エンジン出力Pn以下である場合には(No)、制動力保持を行うべく制動力保持部48にてレギュレータバルブ23を閉弁させる制御信号Svを出力して(ステップST23)上記手順を繰り返す。
【0039】
運転者がアクセルペダル10を発進踏込量θnまで踏み込み、実エンジン出力Paが発進エンジン出力Pnよりも大きくなると、ステップST22での判定がYesとなるため、制動制御部44は、制動力保持を解除すべく制動力保持部48にてレギュレータバルブ23を開弁させる制御信号Svを出力して(ステップST15)上記手順を繰り返す。
【0040】
続いて、図9を参照してペダル反力制御の手順について説明する。エンジンEが駆動する間、ペダル反力制御部49は所定の制御間隔をもって以下の車高制御を行う。ペダル反力制御部49はまず、各種センサの検出値(ギヤポジションP)を読み込むとともに(ステップST31)、発進補助の実行信号Seが出力されているか否かを判定し(ステップST32)、実行信号Seが出力されていない場合には(No)、目標付加反力Frtを図4に示す通常時の踏込反力Fに応じた値に設定に設定し(ステップST33)、上記手順を繰り返す。
【0041】
一方、ステップST32で発進補助の実行信号Seが出力されている場合(Yes)、ペダル反力制御部49は、制動力保持部48が設定した発進エンジン出力Pnを読み込み(ステップST34)、発進踏込量設定部50にて発進踏込量θnすなわち現在のギヤポジションPにより発進駆動力Dnが発揮される踏込量を設定する(ステップST35)。次いで、ペダル反力制御部49は、目標付加反力設定部51にて、発進踏込量θnまでのアクセルペダル10の踏込反力Fが通常時よりも低くなる登坂発進時用のマップに基づいて、アクセルペダル10の踏込量θに応じて目標付加反力Frtを設定し(ステップST36)、上記手順を繰り返す。なお、ステップST36における目標付加反力Frtは、上記したようにアクセルペダル10の踏込量θが0から発進踏込量θnまでの間は0となり、発進踏込量θnを超えると通常時の傾斜をもって通常時の付加反力Frと同一の値となるように設定される。
【0042】
このように、本発明の発進補助装置11によれば、路面状態推定部45が前後加速度Gに基づいて推定した路面傾斜度合いBをエアスプリング5のストロークSに基づいて補正して路面傾斜度合いB’を算出することにより、前後Gセンサ14の出力から路面の傾斜状態を適切に推定することができ、路面傾斜に合わせて確実に坂道発進補助を行うことができる。
【0043】
また、発進補助装置11を搭載した自動車Vによれば、前後加速度Gに基づいて推定した路面傾斜度合いB(車体1の傾斜度合い)の絶対値が所定の閾値Bthよりも大きい場合に(ステップST4:Yes)、車高制御部42が車高調整を行っても(ステップST6)、路面状態推定部45がエアスプリング5のストロークSを加味して路面傾斜度合いB’を算出することにより、路面の傾斜状態を適切に推定することができ、路面傾斜に合わせて確実に坂道発進補助を行うことができる。
【0044】
さらに、この自動車Vによれば、エアスプリング5のストロークSに基づいて補正した路面傾斜度合いBの絶対値が所定の閾値Bth’よりも大きい場合(ステップST5:Yes)にも、車高制御部42が車高調整を行うことで(ステップST6)、駆動輪である前輪3fの接地荷重が大きくなるため、登坂路発進時に運転者がアクセルペダル10を踏み過ぎたとしても駆動輪がスリップすることが抑制される。
【0045】
加えて、坂道発進補助を行う場合に(ステップST32:Yes)、ペダル反力制御部49が登坂発進時用のマップに基づいてアクセルペダル10の踏込量θに応じて目標付加反力Frtを設定することにより(ステップST36)、アクセルペダル10の踏み過ぎが防止されるとともに、必要な踏込量まではアクセルペダル10の踏み込みが容易になり、登坂発進が一層容易になっている。
【0046】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態では、本発明に係る発進補助装置11を、VSAを装備した前輪駆動の自動車Vに適用したが、VSAを装備しない車両や後輪駆動車、四輪駆動車にも適用可能である。また、上記実施形態では、自動車Vの駆動源としてエンジンEを用いているが、電気自動車やハイブリッドカーなどにも当然に適用できる。この他、各装置の具体的構成や制御手法など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。一方、上記実施形態に示した本発明に係る発進補助装置11および自動車Vの各構成要素は、必ずしも全てが必須ではなく、少なくとも本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 車体
3 車輪
5 エアスプリング(アクチュエータ)
8 ディスクブレーキ(制動装置)
9 ブレーキペダル(ブレーキ操作部材)
10 アクセルペダル
11 発進補助装置
12 制御ユニット
14 前後Gセンサ(車体状態検出手段)
18 ストロークセンサ(車高検出手段)
30 アクセルペダル反力制御装置
31 反力アクチュエータ
42 車高制御部(車高調整手段)
45 路面状態推定部
47 発進駆動力設定部
48 制動力保持部
49 ペダル反力制御部
V 自動車(発進補助車両)
G 前後加速度
S ストローク
Pn 発進エンジン出力
Pa 実エンジン出力
θ 踏込量
θn 発進踏込量
F 踏込反力(操作反力)
Frt 目標付加反力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作部材に対する操作に応じて制動力を発生する制動装置と、
車体の傾斜状態を検出する車体状態検出手段と、
前記車体状態検出手段の検出結果に基づいて路面の傾斜状態を推定する路面状態推定手段と、
前記路面状態推定手段により推定された路面の傾斜状態に基づいて車両の発進時に必要な発進駆動力を設定する発進駆動力設定手段と、
前記路面の傾斜状態に基づいて前記路面が坂道であると判定された場合、前記ブレーキ操作部材に対する操作の解除後、前記発進駆動力設定手段により設定された発進駆動力が発揮されるまで前記制動装置に制動力を保持させる制動力保持手段とを備えた発進補助装置であって、
各車輪近傍の車高を検出する車高検出手段を更に備え、
前記路面状態推定手段は、前記車体状態検出手段の検出結果に基づく路面の傾斜状態を前記車高検出手段の検出結果を用いて補正することを特徴とする発進補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発進補助装置を搭載し、当該発進補助装置により坂道発進時の運転操作を補助する発進補助車両であって、
前記車体状態検出手段の検出結果に基づいて前記車体が傾斜していると判定される場合に、アクチュエータを駆動して前輪および後輪の少なくとも一方の車輪近傍の車高を調整する車高調整手段を更に備え、
前記路面状態推定手段は、前記車高調整手段により車高調整が行われた場合、前記車体状態検出手段の検出結果に基づく路面の傾斜状態を前記車高検出手段の検出結果を用いて補正することを特徴とする発進補助車両。
【請求項3】
当該発進補助車両は前輪駆動車であり、
前記車高調整手段は、前記路面状態推定手段により推定された路面状態が登坂路であると判定された場合、前記路面に対して前記車体が前傾するように車高調整を行うことを特徴とする、請求項2に記載の発進補助車両。
【請求項4】
アクチュエータを駆動してアクセルペダルの操作反力を制御するペダル反力制御手段を更に備え、
前記制動力保持手段が前記制動装置に制動力を保持させる場合、前記ペダル反力制御手段は、前記発進駆動力設定手段により設定された発進駆動力が発揮されるまで前記操作反力を通常時よりも低くなるように制御することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載の発進補助車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35495(P2013−35495A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174985(P2011−174985)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】