説明

磁性媒体の製造法及び成膜装置

【課題】量産時、TMR素子を用いたMRAMの完成品間で、MRAMのメモリー特性にバラツキあり、不良品発生頻度が高かった。このバラツキは、量産時のTMR素子のMR比がウエハー製品間で一定値に維持されず、変動していたことが原因していたので、バラツキを抑制する製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜122を成膜し、そして磁性金属(好ましくは強磁性体)のターゲットをスパッタリングすることによって磁性金属薄膜123を成膜する工程及び該工程を実行する制御プログラムを備えた成膜スパッタリング装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク駆動装置の磁気再生ヘッド、磁気ランダムアクセスメモリの記憶素子(MRAM)及び磁気センサーに用いられる磁性媒体、好ましくは、トンネル磁気抵抗素子(さらに好ましくは、スピンバルブ型トンネル磁気抵抗素子)に代表される磁性媒体及び記憶媒体を備えた成膜スパッタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5には、結晶性酸化マグネシウム膜をトンネルバリヤ膜として用いたトンネル磁気抵抗効果(Tunneling Magneto Resistance)素子(以下、TMR素子ともいう)が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−318465号公報
【特許文献2】国際公開番号をWO2005/088745号公報
【特許文献3】特開2006−08116号公報
【特許文献4】米国公開US2006/0056115号公報
【非特許文献1】D.D.Djayaprawiraら著「Applied Physics Letters」,86,092502(2005)
【非特許文献2】C.L.Plattら著「J.Appl.Phys.」81(8),15 April 1997
【非特許文献3】W.H.Butlerら著「The American Physical Society」(Physical Review Vol.63,054416)8,January 2001
【非特許文献4】湯浅新治ら著「Japanese Journal of Applied Physics」Vol.43,No.48,pp588−590,2004年4月2日発行
【非特許文献5】S.P.Parkinら著「2004 Nature Publishing Group」Letters,pp862−887,2004年10月31日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の技術課題は、量産時、TMR素子を用いた各種製品(例えば、MARM、磁気ヘッド、磁気ディスク等)の完成品間で、これら各種製品の性能(例えば、MRAMのメモリー特性等)にバラツキあり、不良品発生頻度が高かった。この性能バラツキは、量産時のTMR素子のMR比が完成品間(一ウエハー基板毎にTMR素子を形成した一完成品毎の間)で一定値に維持されず、変動していたことが原因していた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、第一に、低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜し、そして磁性金属を有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって磁性金属薄膜を成膜する工程を有する磁性媒体の製造法であり、又、動作実行時、該工程を実行させる制御プログラムを記憶した記憶媒体を備えた成膜パッタリング装置である。
【0006】
本発明は、第二に、第一強磁性体膜を成膜する第一工程、前記第一強磁性体膜の上に、低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜する第二工程、及び第二強磁性体層を成膜する第三工程を用いて、トンネル磁気抵抗効果素子を形成する工程を有する磁性媒体の製造法であり、又、動作実行時、該工程を実行させる制御プログラムを記憶した記憶媒体を備えた成膜スパッタリング装置である。
【0007】
TMR素子を備えた磁性媒体(例えば、MRAM)の量産時に、5000KHz以下の低周波数成分を含む高周波電源を用いたマグネトロンスパッタリング装置を用いた場合には、所定のMR比(例えば、120%以上のMR比)以下の不良品磁性媒体(例えば、80%のMR比)が生産されてしまう頻度が高くなることがあった。このため、MRAM、磁気ヘッドや磁気ディスクなどの完成品量産時の製造コストが高くなっていた。
【0008】
本発明者の知見によれば、上記の現象は、高周波電源中に低周波数成分が存在していると、マグネトロンスパッタリング装置に装着したカソードマグネットの磁力線が低周波数成分の影響を受けて、安定に維持されず、不安定な磁力線軌跡を生じる、ことが原因していた。特に、マグネトロンスパッタリング装置に装着したMgOターゲットの基板側表面上で発現する磁力線が周期的に変動し、この結果、基板上に堆積するスパッタ粒子量も周期的に変動することが原因していた。
本発明者の知見によれば、上記低周波成分を高周波電源からカットすることで、上記した原因を解消することができた。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、TMR素子を用いたMRAM、ヘッドや磁気ヘッド等の完成品の量産時、完成品間での性能バラツキ(MRAMや磁気ディスク等のメモリー特性、ヘッドのセンサー感度等)を小さい変動範囲以内に抑制することができ、この結果、完成品の不良率を大幅に低減させることができ、低コストでの量産を可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のTMR素子で用いたマグネシウム酸化物の結晶層は、カラム状結晶(又は針状結晶、柱状結晶等を含む)の集合体によって形成された結晶構造を有する。また、結晶領域内に部分的なアモルファス領域を含む結晶−アモルファス混合領域の構造物も、本発明の概念に包含される。
この結晶層は、(001)結晶面が一方の臨界面から他方の臨界面に亘る膜厚方向において単結晶のカラム状単結晶集合体からなる結晶状態であるのが好ましい(カラム状単結晶とは、一単位カラムが単結晶状態である)。
【0011】
本発明で用いたマグネシウム酸化物のカラム状単結晶の平均的な直径は、10nm以下であり、好ましくは、2nm〜5nmの範囲であり、その膜厚は、10nm以下であり、好ましくは0.5nm〜5nmの範囲である。
【0012】
又、本発明は、結晶状態の酸化マグネシウム層に換えて、カラム状単結晶の酸化マグネシウムボロン層及びカラム状単結晶の酸化亜鉛マグネシウム層を用いることができる。
【0013】
本発明で用いた磁性金属薄膜(第一強磁性体層及び第二強磁性体層)は、好ましくは、Co(コバルト)Fe(鉄)B(ボロン)合金、Co(コバルト)Fe(鉄)合金、Co(コバルト)Fe(鉄)Ni(ニッケル)合金、Co(コバルト)Fe(鉄)Ni(ニッケル)B(ボロン)合金及びNiFe(ニッケル鉄)合金からなる合金群より少なくとも1種を選択することができる。
本発明で用いた磁性金属薄膜(第一強磁性体層及び第二強磁性体層)の結晶層は、カラム状結晶(又は針状結晶、柱状結晶等を含む)の集合体によって形成された結晶構造を有する。また、結晶領域内に部分的なアモルファス領域を含む結晶−アモルファス混合領域の構造物も、本発明の概念に包含される。
【0014】
本発明で用いたアモルファス状態は、ナノ結晶状態(格子間隔が1.0nm以下、好ましくは0.5nm以下であって、その格子配列が規則性を持っている状態)を含むものである。
本発明で用いた磁性金属薄膜(第一強磁性体層及び第二強磁性体層)のカラム状結晶は、各カラム毎において、膜厚方向で、(001)結晶面が優先的に配向した単結晶であることが好ましい。本発明で用いたカラム状単結晶の平均的な直径は、10nm以下であり、好ましくは、2nm〜5nmの範囲であり、その膜厚は、10nm以下であり、好ましくは0.5nm〜5nmの範囲である。
本発明で用いた磁性金属薄膜としては、Fe、Co及びNiからなる金属群より選択された少なくとも1種の金属を含有した薄膜、特に、Fe、Co及びNiからなる金属群より選択された少なくとも1種の金属及びBを含有した薄膜である。この際のB原子は、前記合金中、30atmic%以下、好ましくは、0.01atmic%〜20atmic%の範囲の含有量である。
【0015】
本発明のスパッタリング装置は、高周波電源に接続するロウパスフィルターが用いられ、このロウパスフィルターは、高周波電源の高周波電力から、低周波5000KHz以下の範囲、好ましくは、10KHz〜3000KHzの範囲の低周波数成分をカットすることができる。高周波電源の投入電力は、100ワット〜3000ワット、好ましくは200ワット〜2000ワットで、周波数は1MHz〜3GHz、好ましくは、5MHz〜2GHzである。
【0016】
以下に、本発明の好適な実施形態(実施例)を添付図面に基づいて説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る磁性媒体10の積層構造の一例を示し、トンネル磁気抵抗効果素子(TMR素子)12を用いた磁性媒体10の積層構造を示している。この磁性媒体10によれば、基板11の上にTMR素子12を用い、このTMR素子12を含め、例えば、9層の多層膜が形成されている。この9層の多層膜では、最下層の第1層「Ta(タンタル)」から最上層の第9層「Ru(ルテニウム)」に向かった多層膜構造体となっている。
【0018】
図1に図示したとおり、図中の「PtMn(15)」、「CoFe(2.5)」、非磁性「Ru(0.85)」、「CoFeB(3)」、非磁性「MgO(1.5)」、「CoFeB(3)」、非磁性「Ta(10)」及び非磁性「Ru(7)」の順序で磁性層及び非磁性層が積層されている。
11は、ウエハー基板、ガラス基板やサファイヤ基板などの基板である。12は、TMR素子で、第一強磁性体層121、トンネルバリヤ層122及び第2強磁性体層123によって構成されている。
13は、第1層(Ta:タンタル層)の下電極層(下地層)であり、14は、第2層(PtMn層)の反強磁性体層である。15は第3層(CoFe層)の強磁性体層で、16は第4層(Ru層)の交換結合用非磁性体層で、121は第5層(結晶性CoFeB)の強磁性体層で、これら第3層、第4層及び第5層とから成る層は、磁化固定層19である。
実質的な磁化固定層19は、第5層の結晶性CoFeB層から成る強磁性体層121であり、第一強磁性体層に相当する。
122は、第6層(MgO:結晶マグネシウム酸化物)のトンネルバリア層で、絶縁層である。
本発明で用いたトンネルバリア層122は、単一の結晶マグネシウム酸化物層であってもよい。
【0019】
図6は、61は、MgO(マグネシウム酸化物)のカラム状結晶62の集合体からなる結晶構造の模式斜視図である。
カラム状結晶62は、針状結晶又は柱状結晶等の概念を包含する概念である。また、多結晶領域のうちの一部に、カラム状結晶62の集合体61間の部分的なアモルファス領域を含む結晶−アモルファス混合領域の構造物であっても良い。
本発明で用いたマグネシウム酸化物のカラム状結晶は、各カラム毎において、膜厚方向で、(001)結晶面が優先的に配向した単結晶であることが好ましい。言い換えれば、カラム一単位結晶は、単結晶(カラム状単結晶)となっている。
本発明で用いたマグネシウム酸化物のカラム状単結晶の平均的な直径は、10nm以下であり、好ましくは、2nm〜5nmの範囲であり、その膜厚は、10nm以下であり、好ましくは0.5nm〜5nmの範囲である。
【0020】
123は、第7層(CoFeB)の結晶強磁性体層であり、磁化自由層であり、第二強磁性体層に相当する。
第7層123は、上記のほかに、カラム状結晶群の集合体からなる結晶NiFe(ニッケル鉄合金)を用いた結晶強磁性体層であってもよい。
結晶強磁性体層121と123とは、中間に位置するトンネルバリア層122と隣接させて設けることが好ましい。製造装置においては、これら3層は、真空を破ることなく、順次、積層される。
17は第8層(Ta:タンタル)の電極層で、18は第9層(Ru:ルテニウム)のハードマスク層である。第9層は、ハードマスクとして用いられた際には、トンネル磁気抵抗効果素子から除去されていてもよい。
【0021】
上記磁化固定層のうちの第5層である結晶強磁性体層121(CoFeB)とトンネルバリア層122である第6層の結晶MgO層と磁化自由層である第7層の結晶強磁性体層123(CoFeB)とによって、TMR素子部12が形成される。
結晶強磁性体層121(CoFeB)及び結晶強磁性体層123は、前述の図6に図示したカラム状結晶構造61と同一のものであってもよい。
【0022】
図1において、各層の括弧中の数値は、各層の厚みを示し、単位は「nm(ナノメートル)」である。当該厚みは一例であって、これに限定されるものではない。
【0023】
次に、図2を参照して、上記の積層構造を有する磁気抵抗素子10を製造する装置と製造方法を説明する。図2は時期抵抗素子10を製造する装置の概略的な平面図であり、本装置は複数の磁性層及び非磁性層を含む多層膜を作製することのできる装置であり、量産型スパッタリング成膜装置である。
【0024】
図2に示された磁性多層膜作製装置200は、クラスタ型製造装置であり、スパッタリング法に基づく3つの成膜チャンバを備えている。本装置200では、図示しないロボット搬送装置を備える搬送チャンバ202が中央位置に設置している。磁気抵抗素子製造のための製造装置200の搬送チャンバ202には、2つのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206が設けられ、それぞれにより基板(例えば、シリコン基板を用いる)11の搬入及び搬出が行われる。これらのロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206を交互に、基板の搬入搬出を実施することによって、タクトタイムを短縮させ、生産性よく磁気抵抗素子を作製できる構成となっている。
【0025】
磁気抵抗素子製造のための製造装置200では、搬送チャンバ202の周囲に、3つの成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cと、1つのエッチングチャンバ203とが設けられている。エッチングチャンバ203では、TMR素子10の所要表面をエッチング処理する。各チャンバ201A、201B、201C及び203と搬送チャンバ202との間には、開閉自在なゲートバルブ204が設けられている。なお、各チャンバ201A、201B、201C及、202には、図示しない真空排気機構、ガス導入機構、電力供給機構などが付設されている。
【0026】
磁気抵抗素子製造のための製造装置200は、成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cを備えている。これら装置201A、201B及び201Cの各々には、マグネトロンDC高周波スパッタリング法、又はマグネトロン高周波高周波スパッタリング法を用いて、基板11の上に、真空を破らずに、前述した第1層から第9層までの各膜を順次に堆積することができる。
【0027】
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cの天井部には、それぞれ、適当な円周の上に配置された4基または5基のカソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)、カソード(51、52、53及び54)が配置される。さらに当該円周と同軸上に位置する基板ホルダ上に基板11が配置される。
上記カソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)及びカソード(51、52、53及び54)には、装着したターゲットは、背後に、回転型マグネット又は揺動型マグネットを配置したマグネトロンスパッタリング装置とするのが好ましい。
また、電力投入手段207A、207Bおよび207Cから、上記カソードにラジオ周波数(RF周波数)のような高周波電力又はDC(直流)電力が印加される。
高周波電力としては、1MHz〜3GHzの範囲、好ましくは、5MHz〜2GHzの範囲の周波数及び100W(ワット)〜3000W(ワット)の範囲、好ましくは、200W(ワット)〜2000W(ワット)の範囲の電力を用いることができる。
【0028】
本発明は、TMR素子12を構成している強磁性体層121及び123の成膜に当り、マグネトロンDCスパッタリング法を適用し、トンネルバリア層の結晶マグネシウム酸化物層122の成膜に当り、マグネトロン高周波スパッタリング法を適用する。
【0029】
上記において、例えば、カソード31には、Ta(タンタル)ターゲットが装着される。カソード32には、PtMn(白金マンガン合金)ターゲットが装着される。カソード33には、CoFeB(コバルト鉄ボロン合金)ターゲットが装着される。カソード34には、CoFe(コバルト鉄合金)ターゲットが装着される。カソード35には、Ru(ルテニウム)ターゲットが装着される。
【0030】
カソード41には、MgO(マグネシウム酸化物)ターゲット、又はMg(マグネシウム金属)ターゲットが装着される。Mg(マグネシウム金属)ターゲットを用いる時は、酸化性ガスとともに、反応性スパッタリングを実施するための反応性スパッタリング用チャンバ(図示せず)を搬送チャンバ202に接続することができる。
また、Mg(マグネシウム金属)ターゲットを用いたスパッタリングにより、結晶マグネシウム層を成膜した後、酸化性ガス(例えば、酸素ガス、オゾンガス、水蒸気等)を用いた酸化チャンバ(図示せず)にて、この結晶マグネシウム合金層を結晶マグネシウム酸化物層に化学変化させることができる。
【0031】
また、別の実施例では、カソード41にMgO(マグネシウム酸化物)ターゲットを装着し、カソード42にMg(マグネシウム金属)ターゲットを装着することも出来る。
この際、カソード43〜45にはターゲットを未装着とすることができ、また、カソード43〜45にも、MgO(マグネシウム酸化物)ターゲット、又はMg(マグネシウム金属)ターゲットが装着することも出来る。
【0032】
カソード51には、CoFeB(コバルト鉄ボロン合金)ターゲットが装着される。カソード52には、Ta(タンタル)ターゲットが装着される。カソード53には、Ru(ルテニウム)ターゲットが装着される。
また、カソード54は、ターゲットを未装着とすることができる。又は、CoFeB(コバルト鉄ボロン合金)ターゲット、Ta(タンタル)ターゲット、又はRu(ルテニウム)ターゲットをリザーブ用として適宜装着することができる。
【0033】
上記カソード(31、32、33、34及び35)、カソード(41、42、43、44及び45)、並びに、カソード(51、52、53及び54)に装着した各ターゲットの各面内方向と基板の面内方向とは、互いに、非平行に配置することが、好ましい。該非平行な配置を用いることによって、基板径より小径のターゲットを回転させながら、スパッタリングすることによって、高効率で、かつ、ターゲット組成と同一組成の磁性膜及び非磁性膜を堆積させることができる。
上記非平行な配置は、例えば、ターゲット中心軸と基板中心軸との交差角を45°以下、好ましくは5°〜30°となる様に、両者を非平行に配置することができる。
また、この際の基板は、10rpm〜500rpmの回転数、好ましくは、50rpm〜200rpmの回転数を用いることができる。
【0034】
本発明の主要な素子部であるTMR素子部12の成膜条件を述べる。磁化固定層(第5層のCoFeB層)である強磁性体層121は、CoFeB組成比(atomic:原子比)60/DC20/20のターゲットを用い、Ar(アルゴンガス)圧力0.03Paで、マグネトロンDCスパッタリング( 成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A)によりスパッタレート0.64nm /secで成膜した。この時のCoFeB層(強磁性体層121)は、アモルファス構造を有していた。
【0035】
続いて、図7に図示するロウパスフィルターを用いたマグネトロン高周波RFスパッタリング装置(
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201B)を用いて、MgO組成比(atomic:原子比)50/50のターゲットを用い、スパッタガスとしてAr(アルゴンガス)を用い、好適な範囲0.01〜0.4Paの圧力範囲のうち、0.2Paの圧力を用いて、マグネトロン高周波RFスパッタリング(13.56MHz)により、第6層のMgO層であるトンネルバリア層122を成膜した。この際、MgO層(トンネルバリア層122)は、カラム状結晶の集合体よりなる結晶構造であった。
また、この際のマグネトロンRFスパッタリング(13.56MHz)の成膜レートは、0.14nm /secであった。
【0036】
さらに続けて、マグネトロンDCスパッタリング装置(
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201C)に換えて、磁化自由層(第7層のCoFeB層)である強磁性体層123を成膜した。
この際、第7層のCoFeB層(強磁性体層123)は、アモルファス構造であることを確認した。
この実施例では、MgO膜の成膜速度は0.14nm /secであったが、0.01nm〜1.0nm /secの範囲で成膜しても問題ない。
【0037】
成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201A、201B及び201Cのそれぞれでスパッタリング成膜を行って積層が完了した磁気抵抗素子10は、熱処理炉において、アニーリング処理を実施した。
このとき、アニーリング温度及び時間は、約300℃及び4時間で、8kOeの磁場中で、アニーリングを実施した。
この結果、アモルファス構造の第5層及び第7層のCoFeB層は、図6に図示したカラム状結晶62の集合体61よりなる結晶構造であったことが確認された。
このアニーリング工程により、磁性媒体子10は、TMR効果を持ったトンネル磁気抵抗効果素子として作用することができる。
また、このアニーリング工程により、第2層のPtMn層である反強磁性体層14には、所定の磁化が付与されていた。
【0038】
図7は、本発明のマグネトロン高周波スパッタリング装置の概略図である。図中、701はスパッタリングチャンバ、702は高周波電源投入部、7021はブロッキングコンデンサ、7022は周知の整合回路、7023は高周波電源、703はロウパスフィルタ、704はスパッタリング用DC(直流)電源、705はマグネットユニット、706はカソード電極、707はターゲット(結晶MgO層形成のためのMgOターゲット)、708は周知の加熱機構、709は基板ホールダ(アノード電極)、710は基板(ウエハー、ガラス基板等)、711はスパッタリングガス(Arガス、Heガス、Krガス等の不活性ガス)供給系、712はスパッタリングガス導入系、713は真空排気系(ポンプ)、714はプラズマ生成空間である。
【0039】
図3は、本発明装置のブロック図である。図中、301は図2中の搬送チャンバ202に相当する搬送チャンバ、302は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Aに相当する成膜チャンバ、303は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Bに相当する成膜チャンバ、304は成膜用マグネトロンスパッタリングチャンバ201Cに相当する成膜チャンバ、305はロードロック・アンロードロックチャンバ205及び206に相当するロードロック・アンロードロックチャンバ、306は記憶媒体312を内蔵した中央演算器(CPU)である。符号309〜311は、CPU306と各処理チャンバ301〜305とを接続するバスラインで、各処理チャンバ301〜305の動作を制御する制御信号がCPU306より各処理チャンバ301〜305に送信される。
【0040】
本発明の一実施例では、ロードロック・アンロードロックチャンバ305内の基板(図示せず)は、搬送チャンバ301に搬出される。この基板搬出工程は、CPU306が記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算し、この演算結果に基づく制御信号が、バスライン307及び311を通して、ロードロック・アンロードロックチャンバ305及び搬送チャンバ301に搭載した各種装置(例えば、図示していないゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0041】
搬送チャンバ301に搬送された基板は、成膜チャンバ302に搬出される。成膜チャンバ302に搬入された基板は、ここで、図1の第1層13、第2層14、第3層15、第4層16及び第5層121が順次積層される。この段階での第5層121のCoFeB層は、好ましくは、アモルファス構造となっている。別の実施例では、この段階での第5層121のCoFeB層は、多結晶構造であってもよい。
上記第1層から第5層までの積層プロセスは、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び308を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ302に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0042】
上記第5層までの積層膜を持った基板は、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ303に搬入される。
成膜チャンバ303内で、上記第5層121のアモルファスCoFeB層の上に、第6層122として、結晶マグネシウム酸化物の成膜を実行する。
第6層122の成膜は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び309を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ303に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0043】
上記第6層122までの積層膜を持った基板は、再度、一旦、搬送チャンバ301に戻され、その後成膜チャンバ304に搬入される。
成膜チャンバ304内で、上記第6層122の結晶マグネシウム酸化物層の上に、第7層123、第8層17及び第9層18が順次積層される。この段階での第7層123のCoFeB層は、好ましくは、アモルファス構造となっている。
【0044】
第9層18までの積層成膜工程は、CPU306内で、記憶媒体312に記憶させた制御プルグラムに基づいて演算された制御信号が、バスライン307及び310を通して、搬送チャンバ301及び成膜チャンバ304に搭載した各種装置(例えば、図示していないカソードへの電力投入機構、基板回転機構、ガス導入機構、排気機構、ゲートバルブ、ロボット機構、搬送機構、駆動系等)の実行を制御することによって実施される。
【0045】
本発明で用いる記憶媒体312としては、ハードディスク媒体、光磁気ディスク媒体、フレキシブルディスク媒体、フラッシュメモリやMRAM等の不揮発性メモリ全般を挙げることができ、プログラム格納可能な媒体を含むものである。
【0046】
また、本発明は、上記第5層121及び第7層123のアモルファスCoFeB層をアニーリングにより、結晶化を促すため及び第2層14のPtMn層の磁気付与を促すために、第1層〜第9層からなる積層膜をアニーリング炉(図示せず)に搬入することができる。
上記記憶媒体312には、アニーリング炉での工程を実施するための制御プログラムが記憶されていて、該制御プログラムに基づく、CPU306の演算により得た制御信号によって、アニーリング炉内の各種装置(図示せず、例えば、ヒータ機構、排気機構、搬送機構等)を制御し、アニーリング工程を実行することができる。
【0047】
本発明の比較例として、図7に図示したロウパスフィルター703の使用を省略したほかは、上記実施例と全く同一の方法で、100サンプルのTMR素子を製造し、100サンプルのMR比分布(平均値、最大値及び最小値)を測定した。
測定の結果、平均MR比は126%で、最大MR比は158%で、最小MR比は98%であった。又、平均MR比の±5%以内のサンプル数は32サンプル数であった。
尚、MR比は、外部磁界に応答して磁性膜または磁性多層膜の磁化方向が変化するのに伴って、膜の電気抵抗も変化する現象(磁気抵抗効果 <Magneto-Resistive
effect:MR効果>)に関するパラメータで、その電気抵抗の変化率を磁気抵抗変化率(MR比)としたものである。
【0048】
これに対し、本発明は、測定の結果、平均MR比は比較実験とほぼ同等の125%で、最大MR比は132%で、最小MR比は118%であった。又、平均MR比の±5%以内のサンプル数は91サンプル数であった。
【0049】
また、本発明では、上記第5層121及び第7層123として、上述のCoFeB合金層に換えて、CoFeTaZr(コバルト鉄タンタルジルコニウム)合金層、CoTaZr(コバルタンタルジルコニウム)合金層、CoFeNbZr(コバルト鉄ニオブジルコニウム)合金層、CoFeZr(コバルト鉄ジルコニウム)合金層、FeTaC(鉄タンタル炭素)合金層、FeTaN(鉄タンタル窒素)合金層、又はFeC(鉄炭素)合金層などの結晶強磁性体層を用いることができる。
【0050】
また、本発明では、上記第4層16のRu(ルテニウム)層に換えて、Rh(ロジウム)層又はIr(イリジウム)層を用いることができる。
また、本発明では、上記第2層14のPtMn(白金マンガン合金)層に換えて、IrMn(イリジウムマンガン合金)層、IrMnCr(イリジウムマンガンクロム合金)層、NiMn(ニッケルマンガン合金)層、PdPtMn(鉛白金マンガン合金)層、RuRhMn(ルテニウムロジウムマンガン合金)層やOsMn(オスニウムマンガン)等も好ましく用いられる。又、その膜厚は、10〜30nmが好ましい。
【0051】
本発明の別の実施例では、上記第5層121の多結晶CoFeB合金層を結晶CoFeB合金層と結晶CoFe合金層(基板側に位置させる)との二積層膜とすることができる。
基板側に位置する上記結晶CoFe合金層は、スパッタリング法により、第4層のPtMn合金層の上に、結晶状態での成膜が可能である。
本発明者らは、上記結晶CoFe合金層の成膜に続くCoFeB層は、スパッタリング成膜直後(アニーリング工程前)でアモルファス構造であることを確認した。
本発明は、さらに、上記アモルファス構造のCoFeB層をアニーリングすることにより、エピタキシャル多結晶構造に相変化させることができる。
【0052】
図4は、本発明の磁気抵抗素子をメモリ素子として用いたMRAM(Magnetoresistive
Random Access Memory:強誘電体メモリ)401の模式図である。MRAM401において、402は本発明のメモリ素子、403はワード線、404はビット線である。多数のメモリ素子402のそれぞれは、複数のワード線403と複数のビット線404の各交点位置に配置され、格子状の位置関係に配置される。多数のメモリ素子402のそれぞれが1ビットの情報を記憶することができる。
【0053】
図5は、MRAM401のワード線403とビット線404の交点位置において、1ビットの情報を記憶するTMR素子10と、スイッチ機能を有するトランジスタ501とで構成した等価回路図である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、量産可能で実用性が高く、かつ超高集積化が可能なMRAMのメモリ素子として利用される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の磁気抵抗素子の断面図である。
【図2】本発明の磁気抵抗素子のための製造装置の模式図である。
【図3】本発明装置のブロック図である。
【図4】本発明のMRAMの模式斜視図である。
【図5】本発明のMRAMの等価回路図である。
【図6】本発明で用いたカラム状結晶構造の模式斜視図である。
【図7】本発明のマグネトロン高周波スパッタリング装置
【符号の説明】
【0056】
10 磁性媒体
11 基板
12 TMR素子部
121 強磁性体層(第5層)
122 トンネルバリア層(第6層)
123 強磁性体層(第7層;磁化自由層)
13 下電極層(第1層;下地層)
14 反強磁性層(第2層)
15 強磁性体層(第3層)
16 交換結合用非磁性層(第4層)
17 上電極層(第8層)
18 ハードマスク層(第9層)
19 磁化固定層
200 磁気抵抗素子作成装置
201A成膜チャンバ
201B成膜チャンバ
201C成膜チャンバ
202 搬送チャンバ
203 エッチングチャンバ
204 ゲートバルブ
205 ロードロック・アンロードロックチャンバ
206 ロードロック・アンロードロックチャンバ
31〜35 カソード
41〜45 カソード
51〜54 カソード
207A 電力投入部
207B 電力投入部
207C 電力投入部
301 搬送チャンバ
302 303 304 成膜チャンバ
305 ロードロック・アンロードロックチャンバ
306 中央演算器(CPU)
307〜311 バスライン
312 記憶媒体
401 MRAM
402 メモリ素子
403 ワード線
404 ビット線
501 トランジスタ
61 カラム状結晶群の集合体
62 カラム状結晶
701 スパッタリングチャンバ
702 高周波電源投入部
7021 ブロッキングコンデンサ
7022 整合回路
7023 高周波電源
703 ロウパスフィルタ
704 スパッタリング用DC(直流)電源
705 マグネットユニット
706 カソード電極
707 ターゲット
708 加熱機構
709 基板ホールダ(アノード電極)
710 基板(ウエハー、ガラス基板等)
711 スパッタリングガス供給系
712 スパッタリングガス導入系
713 真空排気系
714 プラズマ生成空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜し、そして磁性金属を有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって磁性金属薄膜を成膜する工程を有することを特徴とする磁性媒体の製造法。
【請求項2】
前記低周波成分の周波数は、5000KHz以下の範囲に設定されている請求項1に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項3】
前記低周波成分の周波数は、10KHz〜3000KHzの範囲に設定されている請求項1に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項4】
前記高周波成分の周波数は、ラジオ周波数〜3GHzの範囲に設定されている請求項1に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項5】
第一強磁性体膜を成膜する第一工程、前記第一強磁性体膜の上に、低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜する第二工程、及び第二強磁性体層を成膜する第三工程を用いて、トンネル磁気抵抗効果素子を形成する工程を有する、ことを特徴とする磁性媒体の製造法。
【請求項6】
前記低周波成分の周波数は、5000KHz以下の範囲に設定されている請求項5に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項7】
前記低周波成分の周波数は、10KHz〜3000KHzの範囲に設定されている請求項5に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項8】
前記高周波成分の周波数は、ラジオ周波数〜3GHzの範囲に設定されている請求項5に記載の磁性媒体の製造法。
【請求項9】
動作実行時、低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜し、そして磁性金属を有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって磁性金属薄膜を成膜する工程を実行する制御プログラムを記憶した記憶媒体を備えた成膜装置。
【請求項10】
前記低周波成分の周波数は、5000KHz以下の範囲に設定されている請求項9に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記低周波成分の周波数は、10KHz〜3000KHzの範囲に設定されている請求項9に記載の成膜装置。
【請求項12】
前記高周波成分の周波数は、ラジオ周波数〜3GHzの範囲に設定されている請求項11に記載の成膜装置。
【請求項13】
動作実行時、第一強磁性体膜を成膜する第一工程、前記第一強磁性体膜の上に、低周波成分カットフィルターにより低周波成分をカットした高周波電力印加の下で、酸化マグネシウムを有するターゲットをマグネトロンスパッタリングすることによって酸化マグネシウムの薄膜結晶膜を成膜する第二工程、及び第二強磁性体層を成膜する第三工程を用いて、トンネル磁気抵抗効果素子を形成する工程を実行する制御プログラムを記憶した記憶媒体を備えた成膜装置。
【請求項14】
前記低周波成分の周波数は、5000KHz以下の範囲に設定されている請求項13に記載の成膜装置。
【請求項15】
前記低周波成分の周波数は、10KHz〜3000KHzの範囲に設定されている請求項13に記載の成膜装置。
【請求項16】
前記高周波成分の周波数は、ラジオ周波数〜3GHzの範囲に設定されている請求項13に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−18693(P2011−18693A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160845(P2009−160845)
【出願日】平成21年7月7日(2009.7.7)
【出願人】(000227294)キヤノンアネルバ株式会社 (564)
【Fターム(参考)】